(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記無機系バインダーが、コロダルシリカ、コロイダルアルミナ及び水酸化アルミニウム微粉末からなる群から選択される少なくともいずれかである請求項1に記載のアルミニウム合金基複合材料の製造方法。
前記成型工程後に、前記中間成型体を鉄製容器に入れて容器と共に加温するか、前記中間成型体を鉄板に挟んで加温した後、加温した中間成型体を入れた鉄製容器又は加温した中間成型体を、前記高圧含浸工程で用いるアルミニウム合金の溶湯を注ぐための高圧プレス容器に入れて、前記高圧含浸工程を行う請求項1〜6のいずれか1項に記載のアルミニウム合金基複合材料の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来技術の、セラミックス粉末原料を容器に入れ、アルミニウム合金の溶湯を高圧含浸する方法では、アルミニウム合金の溶湯がセラミックス粉末に含浸する際に、溶湯の流れに伴いセラミックス粉末が容器内で移動することがあり、溶湯の流れ痕跡が生じたり、セラミックス粉末全体に亀裂が入ることが生じる場合がある。これらのことが生じると、得られたアルミニウム合金基複合材料は、アルミニウム合金の筋が入ったり、作製した複合材料の一部が不均一になり、品質が劣るものになるだけでなく、製品の歩留まりが低減し、高品質のアルミニウム合金基複合材料を経済的に得る方法としては課題がある。
【0006】
また、上記したプリフォームに金属マトリックスの自発的浸透を可能にするための従来技術は、セラミックス粉末を含む充填剤材料で形成するプリフォームの作成などが煩雑であり、この点で未だ製造技術として確立したものとはいえず、実用上の問題がある。
【0007】
本発明者らの検討によれば、上記した技術に記載されているような方法で、アルミナや炭化ケイ素などを含む材料で作成したプリフォームに、アルミニウム合金の溶湯を高圧含浸させると、プリフォームに亀裂が入ったり、均一にアルミニウム合金が含浸されなかったりすることが生じる。すなわち、未だ、アルミニウム合金の溶湯の高圧含浸に適したプリフォームの作成方法や、プリフォームに適したアルミニウム合金の溶湯の含浸方法等が確立されていないのが現状である。
【0008】
従って、本発明の目的は、アルミニウム合金の溶湯の高圧含浸に適した、セラミックス粉末を固化させたプリフォームの作成方法を確立し、さらに、得られたプリフォームに適したアルミニウム合金の溶湯の含浸方法を見出して、高品質のアルミニウム合金基複合材料を歩留まりよく得ることができるアルミニウム合金基複合材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、下記のアルミニウム合金基複合材料の製造方法を提供する。
[1]アルミニウム合金の中にセラミックス粉末が複合されたアルミニウム合金基複合材料の製造方法であって、中心粒径が3μm以上であるセラミックス粉末を主原料とし、該主原料に、平均粒径が15nm以上、200nm以下の粒子状のバインダーを混合してスラリー状にしたものを原料に用い、該混合粒子からなるスラリー状の原料を所望形状の容器内に充填し、前記混合粒子を沈降させ、液を除き、前記容器から、沈降物である固化体を取り出し、該固化体を乾燥及び/又は仮焼して、セラミックス粉末を主原料とし、前記バインダーに由来する無機成分を含有してなる中間成型体を得るための成型工程と、前記成型工程で得た中間成型体に、高圧でアルミニウム合金の溶湯を含浸させる高圧含浸工程とを有し、前記バインダーが、前記成型工程で得られる中間成型体に無機成分を含有させるための無機系バインダーを含み、前記成型工程で、該無機系バインダーを、固形分換算で、前記主原料であるセラミックス粉末100質量部に対して、前記無機成分が3質量部以上、20質量部以下の範囲で含有するようになる量で混合することを特徴とするアルミニウム合金基複合材料の製造方法。
【0010】
上記アルミニウム合金基複合材料の製造方法の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。
[2]前記無機系バインダーが、コロダルシリカ、コロイダルアルミナ及び水酸化アルミニウム微粉末からなる群から選択される少なくともいずれかである上記[1]に記載のアルミニウム合金基複合材料の製造方法。
[3]前記セラミックス粉末の中心粒径が、5μm以上、150μm以下である[1]又は[2]に記載のアルミニウム合金基複合材料の製造方法。
[4]前記成型工程で得た中間成型体は、かさ密度が容積率で40〜85%の範囲内にある[1]〜[3]のいずれかに記載のアルミニウム合金基複合材料の製造方法。
[5]前記容器が、吸水性を有する材料からなる[1]〜[4]のいずれかに記載のアルミニウム合金基複合材料の製造方法。
[6]前記スラリー状にする際に、水又はアルコールを用いる[1]〜[5]のいずれかに記載のアルミニウム合金基複合材料の製造方法。
[7]前記成型工程後に、前記中間成型体を鉄製容器に入れて容器と共に加温するか、前記中間成型体を鉄板に挟んで加温した後、加温した中間成型体を入れた鉄製容器又は加温した中間成型体を、前記高圧含浸工程で用いるアルミニウム合金の溶湯を注ぐための高圧プレス容器に入れて、前記高圧含浸工程を行う上記[1]〜[6]のいずれかに記載のアルミニウム合金基複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本願発明によれば、アルミニウム合金の溶湯の高圧含浸に適した、比較的粗い粒径のセラミックス粉末を主原料とした固化体を乾燥及び/又は仮焼させることで、強度と特性に優れた中間成型体を得ることができる作成方法が確立され、確立した手法で得られた中間成型体を用いることで、アルミニウム合金の溶湯の高圧含浸が良好にでき、その結果、セラミックスが全体に均一に含有された高品質のアルミニウム合金基複合材料を歩留まりよく得ることができるアルミニウム合金基複合材料の製造方法が提供される。また、本発明の製造方法で得られたアルミニウム合金基複合材料は、セラミックス粉末がアルミニウム合金の全体に均一に含まれており、表面は勿論、内部にもアルミニウムの流れによるアルミニウム合金の筋が入るといったことがなく、しかも、複合化させたセラミックスのもつ性能が効果的に発現したものになるので、本発明によれば、良質で、所望する性能や機能を良好な状態で示すアルミニウム合金基複合材料の提供の実現が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の好ましい形態を挙げて本発明を詳細に説明する。まず、本発明者らは、先に挙げた従来技術の課題を解決すべく検討する際に、セラミックス粉末とアルミニウム合金との複合体を均質なものにするためには、粒径の小さなセラミックス粉末を使用することが好ましいと予想した。しかしながら、本発明者らが検討した結果、粒径の小さなセラミックス粉末を用い従来の手法でプリフォームを作成し、得られたプリフォームに、アルミニウム合金の溶湯を高圧含浸して複合化させると、セラミックス粉末と、アルミニウム合金の溶湯との界面の面積が大きくなり過ぎてしまい、このことに起因して、得られた複合材料が、セラミックス本来の性能を発揮できず、複合化させたことのメリットが得られないことがわかった。例えば、セラミックス粉末にSiC粉末を用い、アルミニウム合金基複合体を作製する場合に、1〜2μm程度のSiC粉末を使用すると、界面が大きくなり過ぎて、得られる複合体において、複合化させたSiCのもつ高熱伝導性が十分に発揮されないことがわかった。
【0014】
また、別の課題として、例えば、1〜2μm程度のアルミナ粉末を使用した場合は、粒子同士が凝集してダマ状になるという問題があり、ダマ状になると、セラミックス粉末とアルミニウム合金との均一な複合体を得ることはできない。本発明者らは、上記したような種々の課題に対応するためには、アルミニウム合金の溶湯の高圧含浸に供するプリフォームの作成に使用する主原料のセラミックス粉末は、一般的なセラミックス粉体の使用例と異なり、数μm以上、数百μm以下の比較的粗い原料粉末を使用する必要があることを見出した。
【0015】
しかしながら、上記したような比較的粗いセラミックス粉末を使用したプリフォームの作成方法は、未だ確立されていない。上記した状況から、本発明者らは、セラミックス粉末を含む原料の選定や粒径の検討、プリフォームを作成するための製造プロセスについて鋭意研究を行い、アルミニウム合金の溶湯の高圧含浸に耐える強度を有し、しかも、良好な状態に溶湯が含浸するプリフォームの製造方法、及び、アルミニウム合金の溶湯を良好な状態に含浸できる方法、さらには、複合化させたセラミックスの性能が効果的に発現した複合材料を安定して提供できる方法について鋭意検討した結果、本発明に至った。
【0016】
〔セラミックス粉末を主原料としてなる中間成型体の作成方法〕
本発明者らは、上記の課題に対し鋭意検討を行った結果、数μm以上の比較的粗いセラミックス粉末を使用し、この粗いセラミックス粉末を用い、特有の方法で作成した中間成型体は、アルミニウム合金の溶湯の高圧含浸に適した強固なものとなることを見出した。具体的には、セラミックス粉末を主原料とし、該主原料に、少なくとも、作成した中間成型体が、バインダーに由来する無機成分を特定量含有するものにできる粒子状のバインダーを混合させた材料を原料に用い、これらを含む混合原料をスラリー状にし、この混合粒子からなるスラリー状の原料を所望形状の容器内に充填し、充填した前記混合粒子を沈降させ、大部分の液を除くことで、沈降物からなる固化体を得る。そして、混合粒子を沈降させて得た固化体を乾燥及び/又は仮焼して、セラミックス粉末を主原料とし、前記バインダーに由来する無機成分を含有してなる中間成型体を、次の高圧でアルミニウム合金の溶湯を含浸させる高圧含浸工程で用いることが効果的であることを見出した。すなわち、本発明を特徴づける上記特有の構成の強度を満足する中間成型体に、アルミニウム合金の溶湯を高圧含浸させることで、アルミニウム合金とセラミックスが均一に複合化されて、セラミックスの性能が効果的に発現する良好な状態で複合化してなる材料を安定して得ることができる。
【0017】
本発明者らの検討によれば、本発明を特徴づける中間成型体のより好ましい形態としては、かさ密度が、容積率で約40%〜85%程度となるように構成することで、より安定して良好なアルミニウム合金基複合材料を得ることができるようになる。中間成型体のかさ密度は、約45%〜80%となるように構成することが、より好ましい。すなわち、このように構成することで、本発明を特徴づける中間成型体は、次のアルミニウム合金の溶湯を高圧で含浸させる高圧含浸工程で、十分な強度を示し、アルミニウム合金の溶湯が、中まで良好な状態に含浸するので、表面は勿論のこと、内部の全体にわたってセラミックスが均一に複合化された高品質のアルミニウム合金基複合材料を得ることができる。上記したかさ密度を有する中間成形体は、本発明で規定する中心粒径のセラミックス粉末に、本発明で規定する特有の粒子状のバインダーを、本発明で規定する量で併用し、これらの混合粒子をスラリー状の原料として、沈降手段を用いて得た固化体を用いることで、容易に得ることができる。
【0018】
以下、本発明を特徴づけるこの特有の構成の中間成型体の作成方法、及び、該中間成型体に適したアルミニウム合金の溶湯の高圧含浸方法について説明する。
【0019】
(主原料のセラミックス粉末)
本発明で使用するセラミックス粉末は、特に種類が限定されるものでなく、その中心粒径が3μm以上のものであればよく、一般的に使用されている殆どのセラミックス粉末を用いることができる。従って、例えば、下記に挙げるようなセラミックス粉末の中から、複合化させることで複合材料に発現させることを所望する性能に応じて、適宜な原料を選択すればよい。本発明で使用するセラミックス粉末としては、例えば、ホウ酸アルミニウム(9Al
2O
3・2B
2O
3)、アルミナ、ジルコニア、シリカ等の酸化物や、炭化けい素、窒化アルミニウム、窒化けい素等の非酸化物等が挙げられる。しかし、本発明は、これらのセラミックスに限定されるものではない。
【0020】
本発明で使用するセラミックス粉末は、中心粒径が3μm以上のものであることを要するが、セラミックス粉末の種類にもよるが、沈降性の点で、中心粒径が5μm以上のセラミックス粉末であることがより好ましい。本発明者らの検討によれば、中心粒径が3μm未満の微細なセラミックス粉末を用いた場合は、水又はアルコール中で混合して混合粒子からなるスラリー状の原料とし、沈降させた際に、使用したセラミックス粉末が十分に沈降しないため、得られる中間成型体が、所望のかさ密度のものにならない。すなわち、中心粒径が3μm未満の微細なセラミックス粉末を用いて得られた中間成型体は、高圧でアルミニウム合金の溶湯を含浸させた場合に、溶湯の高圧含浸に耐えられる強度が得られないことがわかった。なお、本発明で使用するセラミックス粉末の粒径の上限値は特に限定されないが、例えば、150μm以下、好ましくは100μm以下、の粒径のものを用いるとよい。本発明における中心粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置 Partica LA−960(商品名、堀場製作所社製)で測定できる。実施にあたっては、通常、セラミックス粉体の市販品に、粒子径或いは粒径として表示されている値を用いて設計すればよい。
【0021】
(バインダー)
本発明では、本発明を特徴づける中間成型体の強度を得るため、上記したように、3μm以上の粒径のセラミックス粉末を用いることに加えて、平均粒径が15nm以上、200nm以下の粒子状のバインダーを併用する。本発明で使用するバインダーは、粒子状であることに加え、得られる中間成型体に、無機成分を含有させることができるバインダー(本発明では、このようなバインダーを無機系バインダーと呼ぶ)であることを必要とする。本発明に好適な無機系バインダーとしては、例えば、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、水酸化アルミニウム微粉末等が挙げられる。その粒子径としては、後述するような理由から、平均粒径が15nm以上であることを要するが、好ましくは20nm以上のものを使用する。以下、これらについて説明する。
【0022】
本発明を構成するバインダーは、主原料であるセラミックス粉末とスラリーにして均一に混合させるため、水又はアルコール等に懸濁したコロイド状のものやスラリー状のものを使用することが好ましい。コロイドは、nm単位の微細な粒子が均一になっているため、本発明を構成するバインダーとして好適である。広い意味でのコロイド粒子の大きさは、直径が1nm〜1μm(1000nm)であるが、中でも15nm以上、200nm以下のものを使用することで、本発明の顕著な効果が得られる。このようなものは、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナとして、粒子径毎に市販されている。これらのバインダーは、非常に細かい粒子からなるため、後述する方法で混合させることで、先に述べた主原料のセラミックス粉末に均一に混合されて、無機系バインダーとしての機能を十分発揮する。
【0023】
本発明の技術において特に重要なことは、混合粒子からなるスラリー原料を沈降させて中間成形体を得る際に用いる、主原料のセラミックス粉末の粒径と、該主原料に混合させるバインダーの粒子径である。本発明では、バインダーに、平均粒径が15nm以上、200nm以下のものを使用する。望ましくは、平均粒径が20nm以上のバインダーを使用する。本発明者らの検討によれば、15nm未満とバインダーの粒径が小さすぎると、本発明で規定する方法で固化体を得た場合、固化体の乾燥途中に、バインダーであるコロイド状の微細な粒子が外側に移動して周辺部に集まり、固化体内部のバインダーが少なくなり、結果として、均一な強度を具備する中間成型体(プリフォーム)を得ることができなくなる。すなわち、比較的に粗い粒径の主原料のセラミックス粉末と、バインダーのコロイド状の微細な粒子からなる固化体を乾燥すると、周囲から乾燥し、内部に水又はアルコールが移動して順次乾燥していくが、バインダー粒子の粒子径が小さ過ぎると、バインダーも一緒に移動していく現象が生じ、セラミックス粉末にバインダーの粒子が均一に混合した状態とならなくなる。この現象を起こさないように、本発明では、15nm以上、望ましくは20nm以上の平均粒径のバインダーを使用する。一方、粒子径が200nmを超えると安定したコロイド状ではなくなるため、セラミックス原料との混合が不十分で、均一な中間成型体を得ることができない。
【0024】
(中間成型体を得るための成型工程)
本発明の製造方法では、まず、下記のようにして固化体を得る。具体的には、本発明で規定する比較的粗い粒径のセラミックス粉末を主原料とし、該主原料に、上記した特定の範囲内の大きさの微細な粒子状のバインダーを添加混合してスラリー状にしたものを原料に用い、該混合粒子からなるスラリー状の原料を所望形状の容器内に充填し、前記混合粒子を沈降させ、スラリーに使用した水やアルコールなどの液を除き、前記容器内から、沈降物である固化体を取り出す。
【0025】
本発明で使用する、セラミックス粉末と、粒子状のバインダーとの混合粒子からなるスラリー状の原料は、一般的な混合ミル、撹拌機を用いて均一に混合することで容易に得ることができる。この際、セラミックス粉末に対する粒子状のバインダーの混合割合が、固形分換算で、セラミックス粉末100質量部に対して、無機成分が3質量部以上、20質量部以下の範囲で含有するようになる量で混合したものを使用する。望ましくは、5質量部以上、20質量部以下とするとよい。3質量部未満では、バインダーを添加した効果が十分に発揮できない。本発明者らの検討によれば、特に5質量部以上とした場合に、良好な沈降性が得られ、最終的に得られる中間成型体の強度をより十分なものにできる。一方、バインダーの使用量が20質量部を超えると、セラミックス本来の性能が十分発揮でないことと、得られる中間成型体の細孔が一部塞がれてしまうことが起こり、次の高圧でアルミニウム合金の溶湯を含浸させる高圧含浸工程で、アルミニウム含浸が阻害されて、良好な含浸を行うことができなくなる。
【0026】
本発明を構成するバインダーに好適なコロイダルシリカ及びコロイダルアルミナは、水又はアルコール中に分散した市販の製品を適宜に使用できる。例えば、質量基準で、固形分が10〜50%のものが使用できる。必要に応じて、水又はアルコールを添加してスラリーとして、セラミックス粉末に均一に混合する。水酸化アルミニウム微粉末は、粉末で市販されているため、水又はアルコールを添加し、粘度を調整してスラリー状にして、セラミックス粉末に均一に混合する。
【0027】
次に、上記のようにして得られる、均一に混合した主原料のセラミックス粉末と、微細な粒子状のバインダーとの混合物である原料スラリーを容器の中に充填し、混合粒子を沈降させる。その場合、振動機で容器全体を振動させると沈降が速く、また、沈降物は、かさ密度の高い所望の固化体になる。沈降に要する時間は、例えば、30分〜90分程度である。上記で使用する容器は特に限定されず、例えば、その後の操作を考えて、軽量で加工性に優れ、所望の形状とすることが可能な、汎用の発泡スチロール製の箱等を用いることができる。すなわち、沈降後、容器の上部の水やアルコール分(以下、液或いは水分と呼ぶ)を廃棄する必要があるが、軽量であるため廃棄操作が容易にできる。また、発泡スチロール製の容器を予め分解し易いようにしておくことも可能であり、容器を簡便に外して容器内の沈降物を乾燥させることができる。
【0028】
また、上記に限定されず、本発明では、例えば、石膏のような吸水性の材料からなる容器を準備し、該容器に、混合粒子からなる原料スラリーを充填し、水分を容器に吸収させて、該容器内から、沈降物である固化体を得ることもできる。この場合も、振動機で容器全体を振動させて、沈降を速めることができるが、沈降させながら水分を容器に吸水させることができる。その後、容器を外して容器内の沈降物を乾燥させる。
【0029】
上記したいずれの容器を使用した場合も、上記した原料スラリーを構成する混合粒子を沈降させる操作で特に重要になることは、主原料のセラミックス粉末の粒子径である。先に述べたように、セラミックス粉末の粒子径が3μm未満では、原料の沈降が不十分で、本発明で使用する固化体を得ることができない。
【0030】
上記したように、本発明の製造方法では、比較的に粒径の粗い主原料のセラミックス粉末と、本発明で規定する微細な粒子状のバインダーとをスラリー状の混合原料とし、得られた原料スラリーを容器内に入れて、必要に応じて振動機を用い、混合粒子を自重で沈降させ、水分(液)を除き、前記容器から沈降物である固化体を取り出す。次に、得られた固化体を、乾燥及び/又は仮焼して、セラミックス粉末を主原料とし、前記バインダーに由来する無機成分を特定量含有してなる中間成型体を得る。本発明を構成するバインダーは、得られる中間成型体に、バインダーに由来する特有の粒子径の無機成分を含有させるためのものであり、このように構成したことで、本発明の製造方法では、混合粒子を沈降させることで、セラミックス粉末を固化体にすることを可能にしている。そして、その後に、得られた固化体を乾燥及び/又は仮焼して得られる中間成型体を、次の高圧でアルミニウム合金の溶湯を含浸させる高圧含浸工程において、高圧に耐えられる十分な強度有するものになる。その結果、最終的に、セラミックスをアルミニウム合金に複合化させた場合に、本発明が目的としている、均一で、所望する性能が効果的に発現した、高品質のアルミニウム合金基複合材料を歩留まりよく得ることが実現できる。
【0031】
(中間成型体の作成方法)
本発明では、前記したセラミックス粉末を主原料とし、該主原料に、少なくとも上記に挙げたような無機系バインダーを添加混合させたスラリーを原料に用い、混合粒子を沈降させて、得られた沈降物である固化体を乾燥及び/又は仮焼して中間成型体を得る。
【0032】
本発明者らの検討によれば、先に述べたような本発明で規定する比較的粗い粒径のセラミックス粉末を用い、本発明で規定する量で粒子状のバインダーを配合した原料をスラリーにし、混合粒子を沈降して得た固化体は、かさ密度が、容積率で約40%〜85%の高いものになるので、良好なアルミニウム合金基複合材料の製造が可能になる。すなわち、その後に乾燥・仮焼して得られる中間成型体も、かさ密度が、容積率で約40%〜85%程度の強度の十分なものになる。このため、次の高圧で、中間成型体にアルミニウム合金の溶湯を含浸させる高圧含浸工程において、良好な含浸を行うことができる。本発明者らの検討によれば、通常、50%〜60%、あるいはそれ以上のかさ密度の中間成型体を得ることは難しいが、本発明の方法によれば、容易に得ることができる。
【0033】
本発明の製造方法では、上記のようにして沈降させることで得られる固化体を、乾燥及び/又は仮焼して、セラミックス粉末を主原料としてなる中間成型体を得る。通常、固化体の乾燥と仮焼は、同じ電気炉又は焼成炉で行う。無機系バインダーとして、コロイダルシリカ或いはコロイダルアルミナを使用した場合、これらのバインダーは、通常、数百℃以上の高温で強度を発揮するため、乾燥工程の終了だけではハンドリングできない場合がある。このため、乾燥後、引き続き、例えば、800℃以上の温度まで昇温し、数時間、この温度を保持して仮焼すれば、その後の高圧含浸工程に供するのに十分な強度の中間成型体を得ることができる。
【0034】
また、無機系バインダーとして、水酸化アルミニウムの微粉末を使用した場合は、水と架橋反応が起こり、100℃程度でバインダーの効果が得られる。しかし、アルミニウム合金の注湯温度で脱水反応が起こり、ガスが発生するので、無機系バインダーに水酸化アルミニウムの微粉末を使用した場合も、600℃以上の温度で固化体を仮焼して、本発明を構成する中間成型体を得ることが好ましい。
【0035】
本発明のより好ましい製造方法では、上記した本発明を特徴づける中間成型体を得るための成型工程後に、得られた中間成型体を、鉄製容器に入れて容器と共に加温するか、中間成型体を鉄板に挟んで加温をした後、次の高圧含浸工程に供するようにする。しかし、必ずしも加温する必要はなく、本発明において重要なことは、前記したようにして得た中間成型体を用い、この十分な強度を有する中間成型体に、高圧でアルミニウム合金の溶湯を含浸させる構成とした点にある。
【0036】
本発明の製造方法では、加温した中間成型体を入れた鉄製容器又は加温した中間成型体を、高圧含浸工程で用いるアルミニウム合金の溶湯を注ぐための高圧プレス容器に入れて、高圧含浸工程を行う。具体的には、先のようにして得た中間成型体を、簡単な鉄箱に入れるか、鉄板に挟んで、数百度℃で加温して、高圧含浸工程で使用する高圧プレス容器の中に入れ、この状態の高圧プレス容器にアルミニウム合金の溶湯を注湯し、その後に高圧プレスして、中間成型体内にアルミニウム合金の溶湯を浸透させる。このようにすることで、前記した、セラミックス粉末とアルミニウム合金の高品質の複合材料が簡便に製造される。本発明の製造方法で得られた複合材料には、従来の製法で見られたアルミニウムの流れ痕跡や、亀裂が入ったアルミニウム筋が見られない、均一なセラミックス/アルミニウムの複合材料になる。
【0037】
本発明の製造方法を構成する高圧含浸工程では、アルミニウム合金の融点よりも高い温度で溶融した溶湯に、200kg/cm
2以上、具体的には、1000〜3000kg/cm
2の圧力をかけることで、スラリー状の混合原料を用いて上記のようにして得た、かさ密度が容積率で40〜85%の中間成型体に存在する気孔に、強制的にアルミニウム合金の溶湯を圧入・含浸し、その後冷却することにより、アルミニウム合金中にセラミックス粉末が均一に分布(分散)したアルミニウム合金基複合材料を得る。
【実施例】
【0038】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
[実施例1]
(中間成型体の作製)
中心粒径25μmのホウ酸アルミニウム粉末を2.4kg、平均粒径25nmのシリカが懸濁したコロイダルシリカのSi−50(商品名、日揮触媒化成社製、シリカ分:48%)を0.5kg、水1.3kgをポットミルで1時間混合して、混合粒子からなるスラリー状にした原料を調製した。以下、これを原料スラリーと呼ぶ。
【0039】
上記で得られた原料スラリーを、発泡スチロール製の箱に充填して振動機の上で60分間沈降させた。振動後、上部の水分を除去し、箱を壊して外側の発泡スチロールを外して箱内に沈降・固化したことで形成された固化体を得た。これを200℃まで30℃/hrの速度で昇温後、200℃の温度を2時間維持して乾燥し、続いて、100℃/hrの速度で1100℃まで昇温し、1000℃の温度を4時間維持して焼成して中間成型体を得た。得られた中間成型体の大きさは200mm×300mm×60mmであり、重さと形状から求めた中間成型体のかさ密度は、容積率で約40%であった。
【0040】
(複合体の作製)
上記で得た中間成型体を300mm×300mの鉄板で挟み、焼成炉で500℃に予熱した。そして、予めガスバーナーで約300℃に予熱した高圧プレス機の容器内に、上記のように加温した中間成型体を装填した。次に、高圧プレス容器内に、650℃で溶解させたアルミニウム合金番号AC3A(鋳物用、Al−Si系、Si量:11.5%)を注湯した。その後、高圧プレス機で、約1000kg/cm
2の高圧で加圧し、20分間保持した後、取り出して高圧加圧体を得た。
【0041】
上記で得た高圧加圧体を冷却後、金属切断機のバンドソーで取り出し、フライス盤で表面を加工して、表面及び内部を観察した。その結果、アルミニウムの流れ痕や、亀裂が入ったアルミニウム筋が全く見られず、均一な複合体であった。
図1は、得られた複合体の電子顕微鏡による拡大写真の図である。
【0042】
[実施例2]
中心粒子径が60μmの炭化ケイ素(SiC)粉末を2.1kgと、中心粒径が14μmのSiC粉末0.9kgに、実施例1で使用したと同じ平均粒径25nmのコロイダルシリカ溶液のSi−50(商品名、日揮触媒化成社製、シリカ分48%)を0.25kgに、水1.2kgを加え、ポットミルで1時間混合して、混合粒子からなる原料スラリーを調製した。
【0043】
上記で得られた原料スラリーを、内寸が200mm×200mm×深さ100mmの石膏製の容器に充填し、振動しながら粒子を沈降させ、同時に水分を石膏型に吸収させた。約20分で、混合粒子を沈降固化させて固化体を得た。石膏型を壊して外して石膏型から固化体を得、実施例1で行ったと同様にして、乾燥・焼成して中間成型体を得た。得られた中間成型体のかさ密度は、容積率で約60%であった。
【0044】
上記で得た中間成型体を用い、実施例1と同じ材料及び方法で、溶解したアルミニウム合金を高圧含浸して高圧加圧体を得た。得られた高圧加圧体を冷却後、実施例1と同様の加工をして、表面及び内部を観察した。その結果、得られたものは、実施例1の場合と同様に、アルミニウム流れ痕や、アルミニウム筋が見られない均一な複合材料であることが確認できた。
【0045】
[比較例1](中間成型体を使用しない比較例)
(中間成型体を使用しない比較例)
実施例1で使用したと同じ粒径25μmのホウ酸アルミニウム粉末4kgを、内寸200mm×200mm×深さ100mmの鉄箱に入れ、振動をかけて充填した。得られた充填体を実施例1の場合と同様の温度で予熱して、鉄箱ごと高圧プレス容器内に装填した。そして、実施例1で使用したと同じアルミニウム合金を用い、溶解した合金を高圧プレス容器内に注湯後、高圧プレスして高圧含浸して加圧体を得た。鉄箱から加圧体を取り出す作業後に、実施例で行ったと同様にして、得られた加圧体の表面及び内部を観察した。その結果、アルミニウムの流れ痕と、アルミニウム筋が多数見られた。
図2は、その電子顕微鏡による拡大写真の図である。
【0046】
[比較例2](コロイダルシリカの粒径が範囲外の比較例)
実施例1と同様の、中心粒径25μmのホウ酸アルミニウム2.4kgに、平均粒子径が5nmのコロイダルシリカ溶液Si−550(商品名、日揮触媒化成社製、シリカ分20%)1.0kgと、水0.5kを、ポットミルで1時間混合して、混合粒子からなるスラリー状にした原料を調製した。そして、実施例1と同様に、調製したスラリー原料を発泡スチロール製の箱に充填して振動機の上で60分間沈降させた。その後、実施例1と同様の操作を行って中間成型体を得た。得られた中間成型体を用いて実施例1と同様にして、アルミニウムを含浸させて高圧加圧体を得た。得られた高圧加圧体の内部外部を観察したところ、外部(表面)にはアルミニウム筋がみられ、内部には、少量のアルミニウム流痕が見られた。上記したと同様な工程で得た中間成型体を割って観察したところ、中間成型体の外周部はコロイダルシリカが多く硬くなっているが、中心部はバインダーが少なく、手で触って容易にくずれる位にもろいことが確認された。
【0047】
<実施例で得られたアルミニウム合金基複合材料の特徴>
図1、2に示されているように、本発明の実施例の製造方法で得られたアルミニウム合金基複合材料(
図1参照)は、従来の製造方法で得られた材料(
図2参照)と異なり、アルミニウム合金マトリックス中に強化材であるセラミックス粉末が均一に分散、分布してなるものであることから、本発明者らは、このことによって生じる材料特性の違いについて検討を行った。その結果、まず、母材のアルミニウムの振動減衰特性は、振動がなかなか減衰しないものであり、また、従来の製造方法で得られたアルミニウム基複合材料は、減衰波形に多くのノイズが生じるものになっていたのに対し、本発明の実施例の製造方法で得たセラミックス粉末が均一に分散、分布してなるアルミニウム合金基複合材料は、振動減衰特性が、アルミニウムの振動減衰特性と比べて減衰が早くなり、加えて、減衰波形にノイズが少ない、という従来の材料では達成できていない有用な特性を有するものになることを確認した。本発明者らは、その理由を、従来の製造方法で得られたアルミニウム基複合材料は、
図2に示した通り、組織内の結合が不十分な部分があり、結合強度が全体として不均一になっており、このことが原因して減衰波形に多くのノイズが生じるものになっていたのに対し、本発明の製造方法で得た複合材料では、上記の点が改善できた結果、上記した優れた特性を有するものになったと考えている。
【0048】
本発明によって提供されるアルミニウム合金基複合材料は、上記の特性に加え、従来技術で得られていたアルミニウム合金基複合材料に比較して、軽量で、高ヤング率、高熱伝導性及び高耐摩耗性、易加工性を有するものにできることから、高い機能性が求められる、例えば、ボンディングマシンのX−Yテーブル用や、電気自動車のディスクブレーキローター、半導体製造装置のロボットアーム用などの材料として特に好適であり、工業上の極めて有用な材料になる。