(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6821247
(24)【登録日】2021年1月8日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】オープンデッキ型シリンダブロック
(51)【国際特許分類】
F02F 1/10 20060101AFI20210114BHJP
【FI】
F02F1/10 A
F02F1/10 D
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-212016(P2016-212016)
(22)【出願日】2016年10月28日
(65)【公開番号】特開2018-71429(P2018-71429A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】前田 正弘
【審査官】
小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−014098(JP,A)
【文献】
特開2004−360603(JP,A)
【文献】
特開2008−064025(JP,A)
【文献】
実開昭60−065355(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダボアと、
前記シリンダボアの周囲に設けられ、シリンダヘッドが配置されるデッキ面に開口するウォータジャケットとを備えるオープンデッキ型シリンダブロックであって、
前記シリンダボアと前記ウォータジャケットとの間の壁部は、厚肉部と、前記厚肉部よりも厚さが薄い薄肉部とを備え、
前記厚肉部は、前記シリンダボアの内面を形成するシリンダライナを有し、
前記薄肉部は、前記厚肉部よりも前記デッキ面側に位置し、前記シリンダボアの内面を形成するシリンダブロック本体部を有し、
前記シリンダボアの軸に対する前記厚肉部の壁面の角度と前記シリンダボアの軸線に対する前記薄肉部の壁面の角度とが異なり、
前記厚肉部の壁面と前記薄肉部の壁面とが接続されて構成される稜線が、前記厚肉部と前記薄肉部との境界であり、
前記境界の位置は、前記シリンダライナにおける前記デッキ面側の端部よりも前記デッキ面側である、
オープンデッキ型シリンダブロック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダボアの周囲に設けられるウォータジャケットがシリンダブロックのデッキ面に開口するオープンデッキ型シリンダブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シリンダボアとウォータジャケットとの間の隔壁(シリンダ壁部)に、シリンダボアの周方向における所定位置で肉厚が局所的に厚くなる偏肉部を備えるオープンデッキ型シリンダブロックが開示されている。この偏肉部は、シリンダヘッドが配置されるアッパデッキ(デッキ面)側に位置する部分ほど偏肉量が小さく設定されている。つまり、シリンダ壁部は、デッキ面側に厚さが薄い薄肉部を備える。
【0003】
シリンダボアの内面には、シリンダボア内に収容されるピストンの摺動を円滑にすると共に耐摩耗性や耐衝撃性を高めるために、シリンダライナが設けられることが多い。特許文献1では、シリンダボアの軸方向の略全長に亘ってシリンダライナが鋳込まれて配置されている(特許文献1の
図4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−64025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリンダ壁部のデッキ面側に薄肉部を備える場合、シリンダブロックにシリンダヘッドを組み付ける際のヘッドボルトの締め付け時に、その締付力に起因した応力が薄肉部に作用する虞がある。特許文献1に記載の技術のように、シリンダライナがシリンダボアの軸方向の略全長に亘る領域、つまり薄肉部の領域にまで設けられる場合、薄肉部に応力が作用すると、その応力によりシリンダライナがその軸方向に複雑に変形し、真円度が悪化する虞がある。
【0006】
そこで、本発明の目的の一つは、シリンダライナの真円度を確保できるオープンデッキ型シリンダブロックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るオープンデッキ型シリンダブロックは、
シリンダボアと、
前記シリンダボアの周囲に設けられ、シリンダヘッドが配置されるデッキ面に開口するウォータジャケットとを備えるオープンデッキ型シリンダブロックであって、
前記シリンダボアと前記ウォータジャケットとの間の壁部は、
前記シリンダボアの内面を形成するシリンダライナを有し、厚さが厚い厚肉部と、
前記厚肉部よりも前記デッキ面側に位置し、前記シリンダボアの内面を形成するシリンダブロック本体部を有し、前記厚肉部よりも厚さが薄い薄肉部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
上記オープンデッキ型シリンダブロックは、薄肉部に応力(ヘッドボルトの締付力に起因した応力等)が作用した場合、その応力により薄肉部が変形したとしても、シリンダライナが変形することを抑制でき、シリンダライナの真円度を確保できる。シリンダライナは、厚肉部に配置されて、厚肉部におけるシリンダボアの内面を形成しているが、薄肉部には配置されていないからである。シリンダライナは、シリンダボア内に収容されるピストンの摺動を円滑にするものであり、ピストンの外周に設けられるピストンリングとの摺動面には設けられる。シリンダボアのうち最も高精度な真円度を要するシリンダライナの真円度を確保できることで、シリンダボアとピストンリング(コンプレッションリング)との間の気密性を確保でき、ブローバイガス量(シリンダライナとピストンリングとのクリアランスを吹き抜ける燃焼ガス量)を低減できる。またシリンダボア内面に付着する潤滑油をピストンリング(オイルリング)でかき落とすことができる。
【0009】
上記オープンデッキ型シリンダブロックは、シリンダライナによりシリンダボアの内面が形成される領域が厚肉部となっていることで、シリンダライナとピストンとの摺動に伴い厚肉部自体が変形することを抑制でき、シリンダライナの真円度を確保できる。一方、デッキ面側の領域が薄肉部となっていることで、シリンダブロック及びシリンダヘッドで構成される燃焼室の周辺に位置する領域の冷却性能を確保でき、ノッキングを抑制できる。燃焼室は熱源の中心となるため、壁部の温度勾配は、デッキ面側からデッキ面と反対側に向かって低くなる。よって、デッキ面側の領域が薄肉部となっていることで、高温となる領域をウォータジャケットにより効率的に冷却できる。また、高温となる薄肉部にシリンダライナが配置されていないため、シリンダライナが熱によって変形することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態のオープンデッキ型シリンダブロックを示す概略断面図である。
【
図2】変形例のオープンデッキ型シリンダブロックを示す概略部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のオープンデッキ型シリンダブロックの実施形態を以下に
図1を参照しつつ説明する。
【0012】
オープンデッキ型シリンダブロック1(以下、単にシリンダブロック1と呼ぶことがある)は、シリンダボア12と、シリンダボア12の周囲に設けられ、シリンダヘッド(図示せず)が配置されるデッキ面10uに開口するウォータジャケット14とを備える。シリンダブロック1は、例えばアルミニウム合金を鋳造により成形したシリンダブロック本体部10で構成され、このシリンダブロック本体部10に、シリンダボア12及びウォータジャケット14を備える。シリンダボア12の内面の一部は、シリンダライナ20で構成される。本実施形態のオープンデッキ型シリンダブロック1は、シリンダボア12とウォータジャケット14との間の壁部50が、シリンダボア12の内面を形成するシリンダライナ20を有する厚肉部52と、厚肉部52よりもデッキ面10u側に位置し、シリンダボア12の内面を形成するシリンダブロック本体部10を有する薄肉部54とを備える点を特徴の一つとする。
【0013】
シリンダボア12は、往復動するピストン2を収納する空間で、シリンダブロック本体部10に円筒状に形成された部分である。このシリンダボア12の内面は、デッキ面10u側の領域がシリンダブロック本体部10により形成され、それ以外の領域がシリンダライナ20により形成されている。シリンダライナ20は、例えば鉄製の円筒状部材であり、シリンダブロック本体部10に鋳込まれることで、シリンダブロック本体部10に保持されている。
【0014】
ウォータジャケット14は、シリンダブロック本体部10において、シリンダボア12の周囲に形成され、冷却水が供給される冷却水路となっている。ウォータジャケット14は、シリンダボア12のほぼ全周を囲むように形成されている。ウォータジャケット14は、シリンダブロック本体部10のデッキ面10u側からその反対側に向かって窪んだ溝部で構成されている。
【0015】
シリンダボア12とウォータジャケット14との間の壁部50は、シリンダボア12の軸方向に沿って、デッキ面10u側に薄肉部54と、それ以外の部分に厚肉部52とを備える。シリンダブロック1及びシリンダヘッドで構成される燃焼室(図示せず)は、内燃機関の運転時に最も高温となる。そのため、壁部50は、内燃機関の運転時に、デッキ面10uからその反対側に向かって低くなる温度勾配を有することになる。よって、相対的に厚肉部52を厚くして薄肉部54を薄くすることで、厚肉部52の過度の冷却を抑制し、薄肉部54を効率よく冷却でき、壁部50をその長手方向にほぼ一様に冷却できる。そうすることで、シリンダボア12内面に付着する潤滑油の粘度を適正に保つことができる。壁部50のうち最も高温となるデッキ面10u側の領域を薄肉部54とし、それ以外の領域を厚肉部52とすることで、高温となる領域をウォータジャケット14により効率的に冷却でき、かつ壁部50の剛性を確保できる。厚肉部52及び薄肉部54の各厚さや各長さ(シリンダボア12の軸方向に沿った長さ)は、壁部50の冷却性及び剛性を考慮して適宜選択できる。
【0016】
厚肉部52は、シリンダボア12の内面を形成するシリンダライナ20と、シリンダライナ20を保持するシリンダブロック本体部10とを有する。本例では、厚肉部52は、シリンダボア12の内面のうちデッキ面10u側の若干の領域がシリンダブロック本体部10により形成されている。この場合、厚肉部52と後述する薄肉部54との境界は、シリンダライナ20のデッキ面側端部20uよりもデッキ面10u側に位置することになる。
【0017】
シリンダライナ20は、シリンダボア12内に収容されるピストン2の摺動を円滑にするものであり、少なくともピストン2の外周に配置されるピストンリング3との摺動面に設けられる。ピストンリング3は、一般的にピストン2の頂部に近い方からトップリング31、セカンドリング32、及びオイルリング33の順に配置される三つのリングから構成される。よって、シリンダライナ20のデッキ面側端部20uは、ピストン2が上死点に位置したときにおけるトップリング31の位置よりもデッキ面10u側に位置する。そのため、厚肉部52の大部分が、シリンダライナ20によりシリンダボア12の内面が形成される。
【0018】
厚肉部52のうち、シリンダライナ20によりシリンダボア12の内面が形成される領域は、シリンダボア12の軸方向に沿って切断した切断面(
図1を参照)において、シリンダボア12側にシリンダライナ20が配置され、ウォータジャケット14側にシリンダブロック本体部10が配置される二層構造となっている。シリンダライナ20が厚肉部52に配置されることで、シリンダライナ20とピストン2との摺動に伴い厚肉部52自体が変形することを抑制でき、シリンダライナ20の真円度を確保できる。
【0019】
薄肉部54は、シリンダボア12の内面を形成するシリンダブロック本体部10を有し、シリンダライナ20は有さない。つまり、薄肉部54は、シリンダブロック本体部10のみで構成されている。よって、薄肉部54は、シリンダボア12の軸方向に沿って切断した切断面(
図1を参照)において、シリンダブロック本体部10で構成される単層構造となっている。
【0020】
本例では、薄肉部54は、デッキ面10u側で厚さが一定の均一領域54aと、均一領域54aと厚肉部52とを結ぶ傾斜領域54bとを備える。傾斜領域54bは、厚肉部52側からデッキ面10u側に向かうに従って、外周側から内周側に厚みが薄くなる傾斜面で構成されている。そうすることで、燃焼室により近い領域の厚さを薄くでき、薄肉部54の冷却性能を確保し易い。
【0021】
上述した厚肉部52及び薄肉部54は、シリンダボア12の周方向に沿った少なくとも一部の領域に設けられる。複数のシリンダボア12を有する場合、隣り合うシリンダボア12間の領域を除いて形成される複数のシリンダボア12を包括する周方向に沿った領域に設けられることが挙げられる。また、この包括する周方向に沿った領域のうち、シリンダブロック1とシリンダヘッドとを組み付けるためのヘッドボルト(図示せず)がそれぞれ螺合される複数のボルト穴の隣り合うボルト穴間の領域に設けられてもよい。
【0022】
本実施形態のオープンデッキ型シリンダブロック1は、薄肉部54にはシリンダライナ20が存在しないため、薄肉部54に応力(ヘッドボルトの締付力に起因した応力等)が作用した場合、その応力により薄肉部54が変形したとしても、シリンダライナ20が変形することを抑制でき、シリンダライナ20の真円度を確保できる。シリンダボア12のうち最も高精度な真円度を要するシリンダライナ20の真円度を確保できることで、シリンダボア12とピストンリング3(トップリング31及びセカンドリング32)との間の気密性を確保でき、ブローバイガス量を低減できる。またシリンダボア12内面に付着する潤滑油をピストンリング3(オイルリング33)でかき落とすことができる。
【0023】
また、上記オープンデッキ型シリンダブロック1は、内燃機関の運転時に壁部50に生じる温度勾配に対応して、厚肉部52及び薄肉部54を設けているため、厚肉部52の過度の冷却を抑制すると共に、薄肉部54を効率的によく冷却でき、壁部50をその長手方向にほぼ一様に冷却できる。また、厚肉部52の剛性も確保できる。
【0024】
更に、上記オープンデッキ型シリンダブロック1は、厚肉部52にシリンダライナ20が配置されることで、シリンダライナ20とピストン2との摺動に伴い厚肉部52自体が変形することを抑制でき、シリンダライナ20の真円度を確保できる。
【0025】
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば、上述した実施形態において、以下の変更が可能である。
【0026】
(1)薄肉部54は、
図2に示すように、厚肉部52からデッキ面10uに向かって暫時厚さが薄くなるように構成してもよい。なお、
図2では、薄肉部54の形状が上述した実施形態と異なり、それ以外の構成については同じである。
図1及び
図2において、同一符号は同一名称物を示す。薄肉部54は厚さが薄いため、機械加工時にコバ欠けが発生し易いが、薄肉部54を上述したように厚肉部52からデッキ面10uに向かって暫時厚さが薄くなるような構成とすることで、局所的に薄くなる領域(
図1における均一領域54a)がなく、壁部50の開口の外周縁に直角の角部を有さないため、コバ欠けが発生し難い。
【0027】
(2)厚肉部52の内面の全面をシリンダライナ20により形成してもよい。つまり、厚肉部52と薄肉部54との境界を、シリンダライナ20のデッキ面側端部20uと同じ位置にしてもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 オープンデッキ型シリンダブロック
10 シリンダブロック本体部 10u デッキ面
12 シリンダボア
14 ウォータジャケット
20 シリンダライナ 20u デッキ面側端部
50 壁部
52 厚肉部
54 薄肉部
54a 均一領域 54b 傾斜領域
2 ピストン
3 ピストンリング
31 トップリング
32 セカンドリング
33 オイルリング