(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記中間気孔層と前記第一緻密層との境界部である第一境界部及び前記中間気孔層と前記第二緻密層との境界部である第二境界部では、気孔率が連続的に変化する請求項1に記載の遮熱コーティング。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、遮熱コーティングにおける緻密なセラミック層として、縦割を有するDVC(Dense Verticaly Crack)コーティングが形成される場合がある。DVCコーティングは、縦割構造を有する緻密な組織となっていることで耐エロージョン性が向上されている。しかしながら、DVCコーティングは組織が緻密であるために、気孔率が小さくなってしまい、遮熱性が低下してしまうことが知られている。つまり、遮熱コーティングにあっては、耐エロージョン性を向上させるために気孔率を低下させると、熱伝導率が上昇して遮熱性能が低下してしまう。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、耐エロージョン性の低下を抑えつつ遮熱効果を高めることが可能な遮熱コーティング形成方法、遮熱コーティング、及び高温部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
本発明の第一態様に係る遮熱コーティングは、耐熱合金基材上に形成され、セラミックを含むセラミック層を備え、前記セラミック層は、第一緻密層と、前記第一緻密層上に積層され、前記第一緻密層よりも密度が大きく多数の気孔が形成された中間気孔層と、前記中間気孔層上に積層され、前記中間気孔層よりも密度が小さい第二緻密層と、を有
し、前記第一緻密層は、厚さ方向に延びる第一縦割が面方向に分散され、前記第二緻密層は、厚さ方向に延びる第二縦割が面方向に分散され、前記第一縦割及び前記第二縦割は、前記セラミック層の表面に対して、傾斜して延びている。
【0008】
このような構成によれば、中間気孔層が第一緻密層と第二緻密層との間に形成されることで、厚さ方向へのセラミック層への入熱が中間気孔層で阻害される。その結果、セラミック層としての熱伝導率を低下させることができる。さらに、セラミック層の中で、耐熱合金基材側に第一緻密層が形成されることで、耐熱合金基材に対する密着性を確保することができる。さらに、セラミック層の中で、表面側に第二緻密層が形成されることで耐エロージョン性を確保することができる。
また、セラミック層における厚さ方向への入熱が斜めに延びる第一縦割及び第二縦割によって阻害される。したがって、第一縦割及び第二縦割によって、セラミック層における熱伝導率を低下させることができる。一方で、セラミック層を第一縦割及び第二縦割が形成されるほど緻密に形成することで、耐エロージョン性の低下を抑えることができる。
【0009】
また、本発明の第二態様に係る遮熱コーティングでは、第一態様において、前記中間気孔層と前記第一緻密層との境界部である第一境界部及び前記中間気孔層と前記第二緻密層との境界部である第二境界部では、気孔率が連続的に変化してもよい。
【0010】
また、本発明の第三態様に係る遮熱コーティングでは、第一態様又は第二態様において、前記中間気孔層の気孔率が、10%以上20%以下であってもよい。
【0011】
このような構成とすることで、面方向の広い領域にわたって、厚さ方向へのセラミック層への入熱を阻害する効果が大きくなる。その結果、中間気孔層における耐エロージョン性を大きく低下させることなく、トップコート層における熱伝導率を大きく低下させることができる。
【0012】
また、本発明の第四態様に係る遮熱コーティングでは、第一態様から第三態様の何れか一つにおいて、前記第一緻密層及び前記第二緻密層の気孔率が、10%以下5%以上であってもよい。
【0016】
また、本発明の第
五態様に係る遮熱コーティングでは、
第一態様から第三態様の何れか一つにおいて、前記第一縦割の前記セラミック層の表面に対する傾斜角度と、前記第二縦割の前記セラミック層の表面に対する傾斜角度とが異なっていてもよい。
【0023】
また、本発明の第
六態様に係る高温部材は、耐熱合金基材と、前記耐熱合金基材上に形成され
た第一態様から第五態様の何れか一つの遮熱コーティングとを備える。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、耐エロージョン性の低下を抑えつつ遮熱効果を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について
図1から
図7を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態のガスタービン1は、圧縮機2と、燃焼器3と、タービン本体4と、ロータ5と、を備えている。圧縮機2は、多量の空気を内部に取り入れて圧縮する。燃焼器3は、圧縮機2にて圧縮された圧縮空気Aに燃料を混合して燃焼させる。
【0027】
タービン本体4は、燃焼器3から導入された燃焼ガスGの熱エネルギーを回転エネルギーに変換する。このタービン本体4は、ロータ5に設けられた動翼7に燃焼ガスGを吹き付けることで燃焼ガスGの熱エネルギーを機械的な回転エネルギーに変換して動力を発生させる。タービン本体4には、ロータ5側の複数の動翼7の他に、タービン本体4のケーシング6に複数の静翼8が設けられる。タービン本体4では、これら動翼7と静翼8とが、ロータ5の軸方向に交互に配列されている。ロータ5は、タービン本体4の回転する動力の一部を圧縮機2に伝達して圧縮機2を回転させる。
【0028】
以下、この実施形態においては、タービン本体4の動翼7を、この発明の高温部材の一例として説明する。
動翼7は、
図2に示すように、動翼本体70と、遮熱コーティング100とを有している。動翼本体70は、例えば、Ni基合金等の周知の耐熱合金材料により形成されている耐熱合金基材である。本実施形態の動翼本体70は、翼本体部71と、プラットフォーム部72と、翼根部73と、シュラウド部74と、を備えている。
【0029】
翼本体部71は、断面が翼形状をなしている。翼本体部71は、タービン本体4のケーシング6内の燃焼ガスGの流路内に配されている。プラットフォーム部72は、翼本体部71の基端に設けられている。このプラットフォーム部72は、翼本体部71の基端側において燃焼ガスGの流路を画成する。翼根部73は、プラットフォーム部72から翼本体部71と反対側へ突出して形成されている。シュラウド部74は、翼本体部71の先端に設けられている。このシュラウド部74は、翼本体部71の先端側において燃焼ガスGの流路を画成する。
【0030】
図3に示すように、遮熱コーティング100は、耐熱合金基材である動翼本体70の表面上に形成される。遮熱コーティング100は、動翼本体70の表面のうち、翼本体部71の表面と、プラットフォーム部72の翼本体部71と接続されている側の表面と、シュラウド部74の翼本体部71と接続されている側の表面とをそれぞれ覆うように形成されている。本実施形態の遮熱コーティング100は、後述するサスペンションプラズマ溶射で形成されている。本実施形態の遮熱コーティング100は、ボンドコート層110と、トップコート層(セラミック層)120とを備えている。
【0031】
ボンドコート層110は、動翼本体70の表面に直接形成されている。ボンドコート層110は、動翼本体70からトップコート層120が剥離することを抑制する。このボンドコート層110は、耐食性および耐酸化性に優れた金属結合層である。ボンドコート層110は、例えば、溶射材としてMCrAlY合金の金属溶射粉を動翼本体70の表面に対して溶射して形成される。ここで、ボンドコート層110を構成するMCrAlY合金の「M」は、金属元素を示している。この金属元素「M」は、例えば、Ni、Co等の単独の金属元素、又は、これらのうち2種以上の組み合わせからなる。
【0032】
トップコート層120は、ボンドコート層110を介して動翼本体70上に形成されている。トップコート層120は、厚さ方向に延びる縦割Cが面方向に分散されたセラミックを含んだ層を有している。ここで、面方向とは、トップコート層120の表面に沿う方向である。本実施形態のトップコート層120は、0.3mm以上1.5mm以下の厚みで形成されている。トップコート層120は、第一緻密層121と、中間気孔層122と、第二緻密層123とを有している。
【0033】
第一緻密層121は、ボンドコート層110上に直接積層されている。第一緻密層121は、縦割Cとして、第一縦割C1が表面の広がる面方向に分散されている。したがって、第一緻密層121では、第一縦割C1は面方向に離れて複数形成されている。本実施形態の第一緻密層121は、例えば、第一縦割C1が面方向に分散された緻密なDVC(Dense Vertical Crack)コーティングである。第一緻密層121は、トップコート層120の中で最も耐熱合金基材側に形成されている。第一緻密層121を形成する際に用いられる溶射材は、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)や、酸化イッテルビウム(Yb
2O
3)で部分安定化させたジルコニア(ZrO
2)であるイッテルビア安定化ジルコニア(YbSZ)が用いられる。
【0034】
第一縦割C1は、トップコート層120の表面に対して、所定の傾斜角度αだけ傾斜して延びている。具体的には、第一縦割C1は、厚さ方向における耐熱合金基材の表面側である基端と、トップコート層120の表面側である先端とを結んだ仮想直線の延びる方向を延在方向としている。第一縦割C1は、この延在方向がトップコート層120の表面が広がる面方向に対して傾斜している。したがって、第一縦割C1は、基端からトップコート層120の表面に向かうにしたがって、基端に対して面方向の一方側に向かって延びている。本実施形態における傾斜角度αは、面方向に対する延在方向の角度である。本実施形態では、複数の第一縦割C1は、全て同じ方向に向かって傾斜している。つまり、複数の第一縦割C1の全ては、トップコート層120の表面に向かうにしたがって、面方向の一方側に向かって傾斜している。また、第一縦割C1は、基端側や先端側の一部だけでなく、厚さ方向の全域にわたって傾斜している。
【0035】
本実施形態における傾斜角度αは、トップコート層120の表面に対して、45°以上80°以下の角度であることが好ましい。傾斜角度αは、トップコート層120の表面に対して、50°以上70°以下の角度であることがより好ましい。傾斜角度αは、トップコート層120の表面に対して、55°以上65°以下の角度であることが特に好ましい。
【0036】
第一緻密層121では、1mm当たりの第一縦割C1の分布率が、6本/mm以上12本/mm以下であることが好ましい。第一緻密層121では、1mm当たりの第一縦割C1の分布率が、8本/mm以上10本/mm以下であることがより好ましい。
【0037】
第一緻密層121の気孔率は、10%以下5%以上の範囲に収まっていることが好ましい。なお、本実施形態における気孔率とは、単位体積当たりの気孔Pのみの占有率だけでなく、縦割C及び気孔Pを合わせた占有率である。
【0038】
中間気孔層122は、第一緻密層121上に積層されている。中間気孔層122は、第一緻密層121よりも密度が大きく、多数の気孔Pが形成されている。したがって、中間気孔層122は、第一緻密層121よりも大きな気孔率で形成されたポーラス膜であり、内部にほとんど縦割Cを有していない。本実施形態の中間気孔層122は、第一緻密層121と同じ厚みで形成されている。本実施形態の中間気孔層122は、第一緻密層121と同じ溶射材で形成されている。
【0039】
本実施形態の中間気孔層122の気孔率は、10%以上20%以下であることが好ましい。中間気孔層122の気孔率は、12%以上18%以下であることがより好ましい。中間気孔層122の気孔率は、14%以上16%以下であることが特に好ましい。
【0040】
中間気孔層122と第一緻密層121との境界部である第一境界部では、気孔率が連続的に変化している。したがって、第一緻密層121の厚さ方向の中央付近から中間気孔層122の厚さ方向の中央付近に向かって気孔率が徐々に高くなるよう形成されている。
【0041】
第二緻密層123は、中間気孔層122上に直接積層されている。第二緻密層123は、縦割Cとして、第二縦割C2が面方向に分散されている。したがって、第二緻密層123では、第二縦割C2は面方向に離れて複数形成されている。第二緻密層123は、中間気孔層122よりも密度が大きい。第二緻密層123は、トップコート層120の中で最も表面側に形成されている。したがって、第二緻密層123の表面がトップコート層120の表面である。本実施形態の第二緻密層123は、例えば、第二縦割C2が面方向に分散された緻密なDVCコーティングである。本実施形態の第二緻密層123は、第一緻密層121と同じ構造を有する膜である。したがって、第二緻密層123を形成する際に用いられる溶射材は、第一緻密層121と同じ溶射材である。
【0042】
第二縦割C2は、第一縦割C1と同様に、トップコート層120の表面に対して、傾斜角度αだけ傾斜して延びている。具体的には、第二縦割C2は、厚さ方向における耐熱合金基材の表面側で基端と、トップコート層120の表面側である先端とを結んだ仮想直線の延びる方向を延在方向としている。第二縦割C2は、この延在方向がトップコート層120の表面が広がる面方向に対して傾斜している。したがって、第二縦割C2は、第一縦割C1と同様に、基端からトップコート層120の表面に向かうにしたがって、基端に対して面方向の一方側に向かって延びている。本実施形態の第二縦割C2は、第一縦割C1と同じ方向に同じ角度をなして傾斜している。複数の第二縦割C2は、全て同じ方向に向かって傾斜している。つまり、複数の第二縦割C2の全ては、トップコート層120の表面に向かうにしたがって、面方向の一方側に向かって傾斜している。また、第二縦割C2は、基端側や先端側の一部だけでなく、厚さ方向の全域にわたって傾斜している。
【0043】
第二緻密層123では、1mm当たりの第二縦割C2の分布率が、6本/mm以上12本/mm以下であることが好ましい。第二緻密層123では、1mm当たりの第二縦割C2の分布率が、8本/mm以上10本/mm以下であることがより好ましい。第二緻密層123の気孔率は、10%以下5%以上の範囲に収まっていることが好ましい。第二緻密層123では、1mm当たりの第二縦割C2の分布率が、第一緻密層121の第一縦割C1の分布率と同じであることが好ましい。第二緻密層123の気孔率は、第一緻密層121の気孔率と同じであることが好ましい。
【0044】
中間気孔層122と第二緻密層123との境界部である第二境界部では、気孔率が連続的に変化している。したがって、中間気孔層122の厚さ方向の中央付近から第二緻密層123の厚さ方向の中央付近に向かって気孔率が徐々に低くなるよう形成されている。
【0045】
次に高温部材の製造方法S1を説明する。本実施形態の高温部材の製造方法S1は、上述した動翼7を高温部材として製造する動翼7の製造方法である。本実施形態の高温部材の製造方法S1は、
図4に示すように、動翼本体準備工程S10と、遮熱コーティング形成工程S20とを含む。
【0046】
動翼本体準備工程S10は、事前に動翼本体70として耐熱合金基材を準備する。本実施形態の動翼本体準備工程S10では、材料を目的の高温部材(例えば、本実施形態では動翼本体70)の形状となるように形成して準備する。
【0047】
遮熱コーティング形成工程S20は、動翼本体準備工程S10で準備された動翼本体70の表面に遮熱コーティング形成方法S100で遮熱コーティング100を形成する。本実施形態の遮熱コーティング形成工程S20では、動翼本体70の表面にボンドコート層110及びトップコート層120が形成される。本実施形態の遮熱コーティング形成工程S20は、以下の遮熱コーティング形成方法S100で実施される。
【0048】
遮熱コーティング形成方法S100は、動翼本体70に遮熱コーティング100を形成する。本実施形態の遮熱コーティング形成方法S100は、ボンドコート層形成工程S110と、トップコート層形成工程(セラミック層形成工程)S120と、調整工程S130とを含む。
【0049】
ボンドコート層形成工程S110は、動翼本体70の表面に対してボンドコート層110を形成する。ボンドコート層形成工程S110は、動翼本体準備工程S10の後に実施される。ボンドコート層形成工程S110は、例えば、溶射ガンでMCrAlY合金の溶射粒子が動翼本体70の表面に溶射される。ボンドコート層形成工程S110では、溶射ガンは、動翼本体70の表面に対して溶射粒子の噴射孔を垂直に向けて移動される。本実施形態のボンドコート層形成工程S110は、溶射ガンで高速フレーム溶射(HVOF:High Velocity Oxygen Fuel)や減圧プラズマ溶射(LPPS:Low Pressure Plasma Spraying)を実施することでボンドコート層110を形成する。
【0050】
トップコート層形成工程S120は、動翼本体70の表面上に、セラミックを含むトップコート層120を形成する。トップコート層形成工程S120は、ボンドコート層形成工程S110の後に実施される。トップコート層形成工程S120は、ボンドコート層形成工程S110で形成されたボンドコート層110上にトップコート層120を積層させる。トップコート層形成工程S120は、溶射法が用いられる。したがって、本実施形態のトップコート層形成工程S120は、動翼本体70に形成されたボンドコート層110の表面上に溶射粒子を溶射させてトップコート層120を形成する。トップコート層形成工程S120は、第一緻密層形成工程S121と、気孔層形成工程S122と、第二緻密層形成工程S123とを有している。
【0051】
第一緻密層形成工程S121は、ボンドコート層形成工程S110の後に実施される。第一緻密層形成工程S121は、ボンドコート層110上に第一緻密層121を形成する。第一緻密層形成工程S121は、サスペンションプラズマ溶射を実施して第一緻密層121を形成する。第一緻密層形成工程S121は、動翼本体70の表面に対して溶射ガンを所定の傾斜角度αだけ傾斜させてサスペンションプラズマ溶射を実施する。サスペンションプラズマ溶射は、微細な溶射粒子を分散させた懸濁液をプラズマジェット中に供給して被膜を形成する溶射方法である。なお、溶射ガンの噴射孔と溶射対象である動翼本体70の表面との距離は、気孔層形成工程S122より第一緻密層形成工程S121の方が短くなっている。
【0052】
微細な溶射粒子とは、粒径が0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましい。懸濁液に使用されるキャリアは、例えば、水やエタノールが挙げられる。サスペンションプラズマ溶射は、プラズマジェットに対する懸濁液の供給方式が軸流内部供給方式の溶射ガンを用いてもよく、外部供給方式の溶射ガンを用いてもよい。
【0053】
気孔層形成工程S122は、第一緻密層形成工程S121の後に実施される。気孔層形成工程S122は、第一緻密層121上に中間気孔層122を形成する。気孔層形成工程S122は、サスペンションプラズマ溶射を実施して中間気孔層122を形成する。気孔層形成工程S122は、第一緻密層形成工程S121よりも溶射ガンを動翼本体70から離して溶射粒子を溶射する。気孔層形成工程S122では、初めに、第一緻密層形成工程S121における溶射距離から徐々に遠ざけるように溶射ガンを移動させながら溶射を実施する。その後、中間気孔層122の所望の膜厚の半分程度まで、中間気孔層122が形成された時点で、溶射距離を第二緻密層形成工程S123における溶射距離に徐々に近づけていく。最終的に、所望の膜厚の中間気孔層122が形成された時点で、溶射距離が第二緻密層形成工程S123における溶射距離と一致させるように溶射ガンを移動させる。
【0054】
第二緻密層形成工程S123は、気孔層形成工程S122の後に実施される。第二緻密層形成工程S123は、中間気孔層122上に第二緻密層123を形成する。第二緻密層形成工程S123は、サスペンションプラズマ溶射を実施して第二緻密層123を形成する。第二緻密層形成工程S123は、気孔層形成工程S122よりも溶射ガンを動翼本体70に近づけて溶射粒子を溶射する。本実施形態の第二緻密層形成工程S123は、第一緻密層形成工程S121と同じ条件で実施される。したがって、第二緻密層形成工程S123は、動翼本体70の表面に対して溶射ガンを予め定めた傾斜角度αだけ傾斜させてサスペンションプラズマ溶射で溶射する。なお、溶射ガンの噴射孔と溶射対象である動翼本体70の表面との距離は、気孔層形成工程S122より第二緻密層形成工程S123の方が短くなっている。
【0055】
調整工程S130は、第二緻密層形成工程S123の後に実施される。調整工程S130は、遮熱コーティング100の表面の状態を調整する。具体的には、調整工程S130においては、トップコート層120の表面を僅かに削って遮熱コーティング100の膜厚を調整したり、表面をより滑らかにしたりする。この調整工程S130により、例えば、動翼7への熱伝導率を低下させることができる。この実施形態の調整工程S130においては、第二緻密層123の表面を数μm削ることで、トップコート層120の表面を滑らかにするとともに膜厚を調整している。
【0056】
上記のような遮熱コーティング100、遮熱コーティング形成方法S100、及び動翼7によれば、中間気孔層122が第一緻密層121と第二緻密層123との間に形成されることで、厚さ方向へのトップコート層120への入熱が中間気孔層122で阻害される。その結果、トップコート層120としての熱伝導率をより一層低下させることができる。トップコート層120の中で、動翼本体70側であるボンドコート層110に密着する側に第一緻密層121が形成されることで、ボンドコート層110に対する密着性を確保することができる。さらに、トップコート層120の中で、表面側に第二緻密層123が形成されることで耐エロージョン性を確保することができる。これらにより、遮熱コーティング100での耐エロージョン性の低下を抑えつつ遮熱効果を高めることができる。
【0057】
具体的には、中間気孔層122があることで熱伝導率を低下する点について、
図5を用いて説明する。
図5は、トップコート層120における熱伝導率と気孔率との関係をシミュレーションにより求めた図である。
図6に示すように、トップコート層120では、気孔率が大きくなるほど、トップコート層120における熱伝導率は小さくなる。より具体的には、気孔率が0%から15%まで上昇することで、熱伝導率が10%程度低下する。したがって、気孔率の高い中間気孔層122を第一緻密層121と第二緻密層123との間に形成することによって、トップコート層120における熱伝導率を低下させることができることがわかる。
【0058】
また、中間気孔層122における気孔率を10%以上20%以下とすることで、第一縦割C1及び第二縦割C2による厚さ方向への入熱を阻害する効果が大きくなる。その結果、中間気孔層122における耐エロージョン性を大きく低下させることなく、トップコート層120における熱伝導率を大きく低下させることができる。
【0059】
また、第一縦割C1や第二縦割C2のようにトップコート層120内に斜めに形成された縦割Cが形成される。そのため、第一緻密層121内における厚さ方向への入熱が斜めに延びる第一縦割C1によって阻害される。同様に、第二緻密層123内における厚さ方向への入熱が斜めに延びる第二縦割C2によって阻害される。したがって、第一縦割C1及び第二縦割C2によって、トップコート層120における熱伝導率を低下させることができる。一方で、トップコート層120における表面側に第二緻密層123が形成されている。第二緻密層123を縦割Cが形成されるほど緻密に形成することで、耐エロージョン性の低下を抑えることができる。これらにより、遮熱コーティング100の表面側の耐エロージョン性の低下を抑えつつ遮熱効果を高めることができる。
【0060】
具体的には、縦割Cを傾斜させることで熱伝導率を低下する点について、
図5を用いて説明する。
図6は、縦割Cが形成されたトップコート層120における熱伝導率と縦割Cの傾斜角度αとの関係をシミュレーションにより求めた図である。
図6に示すように、トップコート層120では、縦割Cの傾斜角度αが小さくなるほど、トップコート層120における熱伝導率は小さくなる。より具体的には、縦割Cが傾斜していない状態(傾斜角度αが90°の場合)に比べて、縦割Cの傾斜角度αを60°にした場合、熱伝導率が25%以上低下する。したがって、縦割Cを斜めにすることによって、トップコート層120における熱伝導率を低下させることができることがわかる。
【0061】
また、サスペンションプラズマ溶射によってトップコート層120が形成されることで、大気プラズマ溶射(APS:atmospheric plasma spraying)に比べてトップコート層120を形成する溶射粒子の粒径が小さくなる。その結果、第一緻密層121や第二緻密層123を非常に密な構造とすることができる。そのため、第一緻密層121のボンドコート層110に対する密着性やトップコート層120における各層間の密着性を向上させることができる。
【0062】
また、第一縦割C1及び第二縦割C2の全てが同じ方向に傾斜していることで、第一緻密層121及び第二緻密層123の面方向の広い領域にわたって、厚さ方向への入熱が阻害される。その結果、広い範囲にわたってトップコート層120における熱伝導率を低下させることができる。
【0063】
また、第一縦割C1及び第二縦割C2の傾斜角度αが45°以上80°以下とされている。傾斜角度αが小さくなることで、第一縦割C1及び第二縦割C2による厚さ方向への入熱を阻害する効果が大きくなる。その結果、トップコート層120における熱伝導率を大幅に低下させることができる。また、第一縦割C1及び第二縦割C2の傾斜角度αを45度以上とすることで、第一緻密層121及び第二緻密層123の形成時に溶射粒子が表面に付着しづらくなることを抑えられる。そのため、トップコート層120の製造効率の低下をより抑えることができる。
【0064】
(実施形態の他の変形例)
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0065】
なお、上記実施形態では、第一縦割C1及び第二縦割C2が傾斜した構造をなしているが、トップコート層120はこのような構造に限定されるものではない。例えば、
図7に示すように、面方向に対して垂直に延在する縦割C(傾斜していない縦割)を有する構造の遮熱コーティング100Aのトップコート層120Aが形成されていてもよい。したがって、第一緻密層121Aの第一縦割C1及び第二緻密層123Aの第二縦割C2がトップコート層120Aの表面に対して垂直な方向に延びている。
【0066】
また、本実施形態の遮熱コーティング形成方法S100では、ボンドコート層形成工程S110は実施されなくてもよい。例えば、別の方法でボンドコート層110を形成してもよく、ボンドコート層110自体を形成しなくてもよい。ボンドコート層110を形成しない場合、セラミック層を動翼本体70の表面に直接形成してもよい。
【0067】
また、高温部材は、動翼7に限定されるものではなく、高温の曝される部材であればよい。高温部材は、例えば、ガスタービン1の静翼8や燃焼器3を構成するノズルや筒体等の部材に本発明を適用してもよい。また、高温部材は、ガスタービン1以外において高温に曝される部材であってもよい。例えば、高温部材は、ガスエンジンにおいて、高温の環境下に曝される部材であってもよい。
【0068】
また、中間気孔層122は、完全に縦割Cが形成されておらず気孔Pのみが形成された構造に限定されるものではない。中間気孔層122は、気孔率が十分大きければ、縦割Cが多少形成されていても良い。同様に第一緻密層121や第二緻密層123は、縦割Cが形成されていれば、気孔Pが多少形成されていても良い。
【0069】
また、第一縦割C1及び第二縦割C2のような縦割の延在方向は、上述したように基端と先端とを結んだ仮想直線の延びる方向とすることに限定されるものではない。縦割の延在方向は、複雑に折れ曲がる縦割から画像解析等によって近似直線を取得し、この近似直線の延びる方向としてもよい。
【0070】
また、第一縦割C1及び第二縦割C2は、傾斜していればよく、全域にわたって同じ方向に傾斜していることに限定されるものではない。縦割Cの傾斜角度αは、セラミック層の表面側と動翼本体70側とで異なっていてもよい。即ち、縦割は、例えば、同じ方向に傾斜していれば、延在方向の途中で異なる角度で傾斜していても良い。したがって、第一縦割C1及び第二縦割C2は、例えば、トップコート層120の表面に近い側の領域における傾斜角度αが動翼本体70の表面に近い側の領域における傾斜角度αよりも小さく形成されていてもよい。
【0071】
また、本実施形態では、第一緻密層121の第一縦割C1及び第二緻密層123の第二縦割C2の傾斜角度αが一致した構造としたが、第一緻密層121及び第二緻密層123はこのような構造に限定されるものではない。したがって、第一縦割C1のトップコート層120の表面に対する傾斜角度αと第二縦割C2のトップコート層120の表面に対する傾斜角度αとが異なっていてもよい。この際、第一縦割C1の傾斜角度αが第二縦割C2の傾斜角度αよりも小さいことが好ましい。
【0072】
また、本実施形態では、第一緻密層121及び第二緻密層123の1mm当たりの縦割Cの分布率を同じとしたが、第一緻密層121及び第二緻密層123はこのような構造に限定されるものではない。例えば、第二緻密層123の1mm当たりの縦割Cの分布率を第一緻密層121の1mm当たりの縦割Cの分布率よりも大きくしたり、小さくしたりしてもよい。
【0073】
また、本実施形態では、第一緻密層121及び第二緻密層123の気孔率を同じとしたが、第一緻密層121及び第二緻密層123はこのような構造に限定されるものではない。例えば、第一緻密層121及び第二緻密層123の気孔率は、中間気孔層122の気孔率を下回っていれば、互いに異なっていてもよい。
【0074】
また、本実施形態の縦割Cは、第一縦割C1と第二縦割C2とのように一つのトップコート層120の中で厚さ方向の中間付近に中間気孔層122で間隔を設けるように形成されている。このように縦割Cは、セラミック層の動翼本体70側を向く面から表面まで連続している構造に限定されるものではない。したがって、縦割Cは、一つのセラミック層内で厚さ方向に断続的に延びていてもよい。そのため、第一縦割C1及び第二縦割C2も本実施形態のように連続して延びている構造に限定されるものではない。例えば、第一緻密層121内で第一縦割C1が厚さ方向に間隔を空けて形成されていてもよい。同様に、第二緻密層123内で第二縦割C2が厚さ方向に間隔を空けて形成されていてもよい。
【0075】
また、本実施形態の気孔層形成工程S122では、徐々に溶射距離を変化(除変)させるように溶射ガンは移動されたが、このように溶射ガンを移動させることに限定されるものではない。例えば、気孔層形成工程S122では、第一緻密層形成工程S121における溶射距離から気孔層形成工程S122における目標とする溶射距離まで急激に変化させるように溶射ガンを移動させてもよい。
【0076】
また、各工程で挙げた溶射条件は一例であって、限定されるものではない。溶射条件は、使用される装置や対象とする溶射粒子の種類等に応じて適宜設定されればよい。