【実施例】
【0028】
水中超音波を用いて目標物の水中位置を測位する方法として、SBL(Short Base Line)方式やLBL(Long Base Line)方式が知られている。また、目標物の水中位置を測位する際に用いる水中超音波の音源としては、トランスポンダーやレスポンダーが知られている。
【0029】
SBL方式は、例えば、船舶の船底等に設けられた受信器と、目標物に設置されたトランスポンダーとの間で超音波を往復させて、超音波の伝播時間及び伝播速度の測定値からトランスポンダーの水中位置を測位するものである。
【0030】
しかしながら、SBL方式では、船舶の揺れが測定値に悪影響を及ぼすため、船舶の傾斜を考慮して測定値を補正する必要があるが、海上で常に揺れる船舶に傾斜計を設置して傾斜計をキャリブレーションすることは事実上困難であり、高精度な測位には不向きであった。また、受信器とトランスポンダーの設置水深が異なるため、水温や塩分濃度が水深方向に変化することにより音波の伝播速度の誤差が大きく、その補正には限度がある。
【0031】
一方、LBL方式は、親局と複数の子局との各距離を測定することにより、親局の位置を求めるものである。親局は、海上の船舶、水中を遊泳するビークル、又は海底を歩行するロボット等に取り付けられる。
【0032】
子局にトランスポンダーを適用してLBL方式で測位を行う場合には、親局から送信された呼出信号に応じて、子局が超音波を親局に向けて発し、超音波が子局と親局との間で往復した際の伝播時間及び伝播速度から親局の位置を測位する。しかしながら、タイムタグが生じ易く、また測定間隔を例えば1秒等の短い値に設定するのが困難であった。
【0033】
また、子局にレスポンダーを適用してLBL方式で測位を行う場合には、子局から親局に向けて超音波を発信して、超音波が子局から親局まで伝播した際の伝播時間及び伝播速度から親局の水中位置を測位するため、トランスポンダーを用いた場合と比べて、タイムタグを軽減でき、且つ短い測定間隔を設定できる。しかしながら、レスポンダーは親局からの信号を受信するためにケーブルで接続されなければならず、水中及び水底を移動する水中作業機の移動範囲に制限があった。
【0034】
本発明に係る水中音響測位システムは、上述した各種の問題点を解消して目標物の水中位置を高精度で測位するのに好適である。
【0035】
以下、本発明の一実施例に係る水中音響測位システム1について、図面に基づいて説明する。なお、以下の各実施例において、構成要素の数、数値、量、範囲等に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも構わない。
【0036】
また、構成要素等の形状、位置関係に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含む。
【0037】
また、図面は、特徴を分かり易くするために特徴的な部分を拡大する等して誇張する場合があり、構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。
【0038】
図1は、水中音響測位システム1の構成を示す模式図である。水中音響測位システム1は、GNSS(Global Navigation Satellite System)を用いて、海底に降ろされたバックホウ2の水中位置(3次元位置)を測位するものである。バックホウ2の水中位置の測位に用いられるGNSSとしては、GPS(Global Positioning System)の他、例えばGLONASS(GLObal NAvigation Satellite System)による測位とGPSによる測位とを動的に切替えるものや、GPSとGLONASSを組合せて測位するもの等が考えられる。
【0039】
バックホウ2は、搭乗するオペレータによって操作され、海底を移動しながら掘削等の作業を行う。バックホウ2の動力は、支援台船3から図示しない動力ラインで供給されている。
【0040】
水中音響測位システム1は、2つの発信器10と、受信器20と、を備えている。
【0041】
発信器10は、受信器20に向けて一定周期で自律的に超音波を発信するピンガーである。発信器10は、海底に固定された丁張11に取り付けられている。発信器10の位置は、予め測位されており、且つバックホウ2の作業中であっても移動せず一定である。以下、2つの発信器10を区別する場合には、符号の末尾にA又はBを付すこととする。
【0042】
受信器20は、バックホウ2に搭載されている。受信器20は、バックホウ2に搭載された第1の中継器21及び支援台船3に搭載された第2の中継器22を介して制御装置30に接続されている。具体的には、受信器20、第1の中継器21、第2の中継器22及び制御装置30は、電源・信号ライン31によって有線で接続されている。
【0043】
発信器10には、送信側GNSSアンテナ40が接続されている。送信側GNSSアンテナ40は、防波堤4上に設置されているが海面上に設置されても構わない。発信器10と送信側GNSSアンテナ40とは、信号ライン41によって有線で接続されている。以下、2つの送信側GNSSアンテナを区別する場合には、発信器10Aに接続された送信側GNSSアンテナに符号40Aを付し、発信器10Bに接続された送信側GNSSアンテナに符号40Bを付すこととする。
【0044】
送信側GNSSアンテナ40は、GNSS衛星50から所定間隔毎(例えば、1秒毎)にGNSS信号を受信し、GNSS衛星50からGNSS信号を受信するとパルス信号を信号ライン42を介して発信器10に送信する。GNSS信号には、GNSS衛星50に搭載された高精度な原子時計の時間情報が含まれている。したがって、送信側GNSSアンテナ40Aから発信器10Aへのパルス信号の送信及び送信側GNSSアンテナ40Bから発信器10Bへのパルス信号の送信はほぼ同時に行われる。
【0045】
受信器20には、受信側GNSSアンテナ60が接続されている。受信側GNSSアンテナ60は、支援台船3に設置されている。受信器20と受信側GNSSアンテナ60とは、電源・信号ライン61を介して有線で接続されている。受信側GNSSアンテナ60は、GNSS衛星50から所定間隔毎に時間情報を受信する。
【0046】
発信器10の近傍には、第1の水圧計12が設けられるのが好ましい。第1の水圧計12は、図示しない無線器を介して測定値を制御装置30に送信する。これにより、発信器10近傍の水深を計測することができる。
【0047】
受信器20の近傍には、第2の水圧計23が設けられるのが好ましい。第2の水圧計23は、第1の中継器21及び第2の中継器22を介して測定値を制御装置30に送信する。これにより、受信器20近傍の水深を計測することができる。なお、
図1中の符号24は、バックホウ2の向きを検知して、検知結果を第1の中継器21及び第2の中継器22を介して制御装置30に送信する方位計である。
【0048】
バックホウ2には、ダミー音波発信器70が設けられている。ダミー音波発信器70は、受信器20に向けて音波を発信する。ダミー音波発信器70は、受信器20と既知の距離だけ離間して配置されている。
【0049】
水中音響測システム1は、制御装置30によって動作制御されている。制御装置30は、例えば支援台船3に搭載されたパーソナルコンピュータである。制御装置30は、図示しない入力部及び出力部を備えており、支援台船30に乗船したオペレータが制御装置30を操作したりバックホウ2の水中位置を確認することができる。
【0050】
次に、水中音響測位システム1でバックホウ2の水中位置を測位する手順について、
図1に基づいて説明する。なお、後述する工程の順番は一例に過ぎず、各工程の先後は適宜変更可能である。
【0051】
[発信器設置]
発信器10を所定の位置に設置する。海底に固定された丁張11に発信器10を取り付けて、発信器10の設置位置を測位して、制御装置30に記憶する。
【0052】
また、発信器10は、信号ライン31を介して送信側GNSSアンテナ30に予め接続された状態で丁張11に設置される。なお、送信側GNSSアンテナ30は、水面でのGNSS信号の乱反射を軽減するために防波堤4に設置されているが、例えば水面に浮かぶブイの先端等に設けられても構わない。なお、発信器10は、水中の所定位置に設けられた後に、送信側GNSSアンテナ30に接続されても構わない。
【0053】
[受信器設置]
次に、受信器20を所定の位置に設置する。受信器20は、例えば発信器10との間に遮蔽物が存在しない位置等の音波を受信しやすい位置に配置される。また、受信器20は、支援台船3に搭載された受信側GNSSアンテナ40に電源・信号ライン41を介して接続されている。
【0054】
なお、発信器10と受信器20とは、バックホウ2が海底に降ろされた状態でほぼ同じ水深に位置するように設置されるのが好ましい。これにより、発信器10から発せられた音波が、略一定の水温で水中を伝播するため音波の伝播速度が安定する。
【0055】
[時刻合わせ]
発信器10の時間情報は、送信側GNSSアンテナ40がGNSS衛星50から受信するGNSS信号に含まれる時間情報に基づいて、適宜補正される。これは、発信器10と送信側GNSSアンテナ40とが信号ライン41で有線接続されているためで、通信の遅れを伴うことなく発信器10の時間調整を行うことができる。これにより、海中に設置された発信器10まで潜水士が潜ることなく、発信器10の時間調整を適宜行うことができる。
【0056】
また、受信器20の時間情報は、受信側GNSSアンテナ60がGNSS衛星50から受信するGNSS信号に含まれる時間情報に基づいて、適宜補正される。これは、受信器20と受信側GNSSアンテナ60とは、電源・信号ライン61で有線接続されているためで、通信の遅れを伴うことなく受信器20の時間調整を行うことができる。このようにして、バックホウ2の測位に先行して、発信器10及び受信器20の時刻を予め一致させておく。
【0057】
[音波発信]
次に、発信器10A、10Bが音波をそれぞれ発信する。発信器10による音波発信は、発信側GNSSアンテナ40からのパルス信号に基づいて行う。
【0058】
具体的には、発信側GNSSアンテナ40は、GNSS衛星50から時間情報を含むGNSS信号を受信し、所定時間毎(例えば、1秒毎)にパルス信号を発信器10に送信する。そして、発信器10は、発信側GNSSアンテナ40のパルス信号を受信すると音波を発信する。発信器10と送信側GNSSアンテナ40とは、信号ライン41を介して有線接続されており、パルス信号は遅れることなく伝達され、発信器10は音波を発信する。すなわち、発信器10A、10Bが音波を発するタイミングは、発信側GNSSアンテナ40がパルス信号を発するタイミングに連動する。これにより、2つの発信器10A、10Bからそれぞれ発せられた音波は同期する。
【0059】
ここで、「同期」とは、発信器10A、10Bから音波が発せられるタイミングが略一致している状態を意味するものであり、例えば発信器10及び送信側GNSSアンテナ40間の信号処理に伴う遅れ等を含む。
【0060】
[水中位置の測位]
受信器20は、発信器10から発信された音波を受信し、発信器10Aから伝播した音波の伝播時間及び発信器10Bから伝播した音波の伝播時間を制御装置30に送る。受信器20と制御装置30とは、電源・信号ライン61を介して有線接続されており、通信の遅れを伴うことなく受信器20の受信データを制御装置30に送信することができる。
【0061】
制御装置30は、発信器10A、10Bの設置位置、音波の伝播時間及び予め記憶された音波の伝播速度に基づいて、受信器20の水中位置をリアルタイムで測位することができる。
【0062】
なお、発信器10と受信器20との間を伝播する音波の伝播速度は、水温の変化に伴って変動する。そこで、発信器10と受信器20との間を伝播する音波の伝播速度を実測するのが好ましい。
【0063】
具体的には、ダミー音波発信器70が受信器20に向けてダミー音波を発信し、受信器20とダミー音波発信器60との間の既知距離をダミー音波が伝播した時間を制御装置30に送る。そして、制御装置30は、受信器20とダミー音波発信器70との既知距離を受信器20とダミー音波発信器70との間を伝播した音波の伝播時間で除することにより、受信器20近傍の水温における音波の伝播速度が得られる。これにより、受信器20の水中位置を精度良く測位することができる。
【0064】
このようにして、本実施例に係る水中音響測位システム1は、既知座標に設置された発信器10A、10Bが受信器20に向けて音波を発することにより、音波の発信位置が固定されるため、バックホウ2の水中位置の測位に際して発信器10A、10Bの複雑な位置補正が必要なく、バックホウ2の水中位置をスムーズに測位することができる。また、GNSS信号に含まれる時間情報に基づいて発信器10A、10Bからそれぞれ発せられる音波が同期するため、バックホウ2の水中位置を精度良く測位することができる。
【0065】
次に、水中音響測位システム1の変形例について、
図2に基づいて説明する。本変形例は、上述した実施例と水中位置を測位する対象(目標物)が異なるのみであり、一部構成を省略しているものの水中音響測位システム1の基本的構成は共通するため、対応する構成は共通の符号を付して説明を省略する。
【0066】
本変形例に係る水中音響測位システム1は、クレーン5を備えた起重機船6に適用される。起重機船6は、海底を締固めするタンパ7をクレーン5で吊り下げている。
【0067】
受信器20は、タンパ7の上端に設置されている。受信器20は、省略した電源・信号ラインを介して制御装置30及び第2の受信側GNSSアンテナ60に接続されている。
【0068】
このようにして、本変形例に係る水中音響測位システム1は、既知座標に設置された発信器10A、10Bが受信器20に向けて音波を発することにより、音波の発信位置が固定されるため、タンパ7の水中位置の測位に際して発信器10A、10Bの複雑な位置補正が必要なく、タンパ7の水中位置をスムーズに測位することができる。
【0069】
なお、本発明は、上記した変形例の構造以外にも本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。