【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、独立請求項に記載の特徴を有する走査ヘッド、調整装置および調整方法によって解決される。
【0007】
本発明は、集束光学系とビーム位置決めシステムとを有するレーザ材料加工用走査ヘッドを提供する。集束光学系は、レーザビームを加工位置、特に被加工物の加工面または加工位置の近傍に集束させる。ビーム位置決めシステムは、被加工物の加工面におけるレーザビームの位置を制御する。レーザビームの位置は、4つの独立した幾何学的パラメータによって決定される。幾何学的パラメータには、例えば、加工面に対するレーザビームの通過点を定義するx座標およびy座標や、第1および/または第2立体角等によって画定された空間におけるレーザビームの伝播方向が含まれる。ビーム位置決めシステムは、レーザビームの伝播方向において集束光学系の上流に配置される。さらに、ビーム位置決めシステムは、特に制御ユニットによって制御可能な少なくとも2つの可動光学素子を備える。ビーム位置決めシステムは、加工面へのレーザビームの入射角を調整可能に構成される。入射角の調整は、例えば、レーザビームを集束光学系の光軸に対して垂直方向に平行移動させることによって行われる。さらに、ビーム位置決めシステムは、レーザビームの加工位置を加工面において2次元(特にx-y平面)移動可能に構成される。レーザビームの加工位置の移動は、例えば、レーザビームを集束光学系の光軸に対して偏向(傾斜)させることによって行われる。
【0008】
本発明に係る走査ヘッドは、さらにビーム位置センサを有する。ビーム位置センサは、レーザビームの伝播方向においてビーム位置決めシステムの下流に配置される。また、ビーム位置センサは、例えばビーム位置決めシステムのオフライン調整のために、レーザビームの少なくとも4つの独立した位置パラメータ、特に、少なくとも1つの並進および/または回転位置パラメータを検出可能に構成される。また、ビーム位置センサは、間接的および/または直接的にレーザビームの実際の位置を検出できるように構成される。レーザビームの実位置は、少なくとも4つの独立した位置パラメータによって決定される。ビーム位置センサは、少なくとも4つの独立した位置パラメータ、および/または位置パラメータによって決定されるレーザビームの実位置を、走査ヘッドのハウジング内部および/またはビーム位置決めシステムの下流において検出するように構成されることが好ましい。この場合、レーザビームの実位置は、少なくとも4つの独立した位置パラメータに基づいて間接的に検出される。
【0009】
ビーム位置センサによるレーザビームの位置検出は、レーザビームの伝播方向、および/または、ビーム位置決めシステムと集束光学系の間におけるビーム経路に関して行われる。レーザビームの実位置の検出がビーム位置決めシステムの下流でのみ行われる場合、ビーム位置決めシステムにおいて、走査ヘッドの上流の構成要素によって生じる外部誤差の補正が行われることが好ましい。外部誤差を走査ヘッドによって補正可能である場合、外部の構成要素に変更を加える必要がない。また、走査ヘッドにおいて、ビーム位置決めシステムを適切に再調整することで、ビームのオフライン調整を高速、高精度かつ低コストで行うことができる。
【0010】
ビーム位置センサは、並進位置パラメータ(特に、2次元位置)および/または回転位置パラメータ(特に、2次元位置角度)を検出可能に構成されることが好ましい。並進位置パラメータは、x-y平面に対するレーザビームの理論的な通過点のx座標および/またはy座標を検出したものである。したがって、位置パラメータが検出されるx-y平面は、ビーム経路に対して斜めに、あるいは垂直に配置されることが好ましい。また、ビーム位置センサは、レーザビームのx-z平面における第1傾斜角および/またはy-z平面における第2傾斜角を検出可能であることが好ましい。そのために、ビーム位置センサは、少なくとも2つのセンサ、特に2次元センサを備えることが好ましい。例えば、2つの並進位置パラメータは、2つの平面のビーム経路内に配置された2つの2次元センサによって決定される。すなわち、各センサ平面における通過点と、センサ平面間の距離とに基づいて、レーザビームの正確な実位置を決定または検出することができる。回転位置パラメータを決定するために、例えば、入射角の関数としてのレーザビームの所定の偏向を引き起こし、および/または、位置検出センサを用いて回転位置パラメータを測定することが可能なセンサレンズをビーム位置センサの2次元センサの前に配置することができる。
【0011】
ビーム位置センサは、ビーム経路内の異なる位置における1つまたは複数の位置パラメータを決定可能に構成された複数(特に、2つ、3つまたは4つ)のセンサユニットを備えており、4つの独立した位置パラメータは、各センサユニットにおける測定結果の組み合わせにより決定される。この場合、各センサユニットは、別体として構成されてもよい。例えば、4つのスロットダイオードを用いて、ビーム経路内の複数のビーム位置に関する4つの1次元情報を検出し、これらをセンサの位置および測定されたビーム位置までの距離とオフセットしてもよい。
【0012】
さらに、ビームの位置や伝播方向などの幾何学的情報を検出可能なビーム位置センサとしては、象限ダイオード、カメラ要素、PSD(位置検出装置)または波面センサなどが挙げられる。
【0013】
ビーム位置センサは、走査ヘッドと一体的に構成することができる。また、ビーム位置センサは、走査ヘッドに取り外し可能に設置され、および/または、走査ヘッドの調整のために走査ヘッドに取り外し可能に接続されてもよい。
【0014】
レーザビームは、ビーム位置決めシステムの下流で分離された後、ビーム位置センサによって検出される。分離後のビーム位置と分離点におけるビーム位置は一定の関係にあるため、ビーム位置センサの測定結果から、分離点におけるビーム位置を検出することができる。レーザビームの分離は、レーザビームの伝播方向においてビーム位置センサの上流に配置された半透明ミラー等のビームスプリッタによって行われる。ビームスプリッタは、ビーム経路の内外に旋回可能に構成される。ビームスプリッタは、例えば、加工プロセス前の(すなわち、オフライン)調整においてはビーム経路内に旋回され、加工プロセス中の(すなわち、オンライン)調整においてはビーム経路外に旋回される。
【0015】
ビーム位置センサは、ビーム位置決めシステムと集束光学系との間の領域におけるレーザビームの実位置を検出可能に構成されることが好ましい。そのため、ビームスプリッタは、ビーム位置決めシステムと集束光学系の間のビーム経路内に配置されることが好ましい。
【0016】
加工位置に向かうビーム経路からビーム位置センサに向かうレーザビームを分離するために、ビーム位置センサとビームスプリッタは、ビームスプリッタを透過したレーザ光がビーム位置センサに導入され、ビームスプリッタで反射されたレーザ光が集束光学系に導入されるように配置されることが好ましい。
【0017】
走査ヘッドは、センサによって検出されたデータの分析を行う演算ユニットを有することが好ましい。演算ユニットは、例えば走査ヘッドのハウジング内部に配置される。また、ビーム位置センサの演算ユニットおよび/またはビーム位置決めシステムの制御ユニットは、ビーム位置センサに接続されることが好ましい。なお、これらの接続は、有線接続によって行われることが好ましい。
【0018】
走査ヘッドは、走査ヘッドの外部に設けられた外部演算ユニットをビーム位置センサおよび/または制御ユニットに接続するための外部インターフェースを有することが好ましい。外部演算ユニットが外部インターフェースを介してビーム位置センサおよび/または制御ユニットと接続可能に構成されることで、複数の走査ヘッドの間で1つの演算ユニットを流用することができるため、走査ヘッドの製造コストを低減することができる。
【0019】
走査ヘッドは、レーザビームのオフライン調整を行うための調整装置を有するか、または、上記調整装置の一部として構成されることが好ましい。この場合、調整装置は、レーザビームの実位置を検出するビーム位置センサと、補正値を算出する演算ユニットと、補正値に基づいてビーム位置決めシステムに制御信号を送信する制御ユニットと、および/または、制御信号に基づいて新たなレーザビーム位置を設定するビーム位置決めシステムとを有する。演算ユニットが走査ヘッドの内部に設けられている(内部演算ユニット)場合、調整装置は走査ヘッドと完全に一体化されている。演算ユニットが走査ヘッドの外部に設けられている(外部演算ユニット)場合、走査ヘッドは調整装置の一部を構成する。このような調整装置を用いることにより、走査ヘッドの設置時に、またはドリフト誤差(例えば、温度によって引き起こされる誤差)を除去するために、各加工プロセスの前に、または所定の時間間隔で、レーザビームのビーム経路の上流側に配置されたレーザビーム源などの外部構成要素に影響を与えることなく、ビームの調整を行うことができる。
【0020】
走査ヘッドまたは外部演算ユニットは、レーザビームの目標位置を記憶する記憶ユニットを有することが好ましい。記憶ユニットは、例えば、演算ユニットに接続され、または演算ユニットと一体化された別個の構成要素である。レーザビームの目標位置は、少なくとも4つの独立した目標位置パラメータとして間接的に記憶される。レーザビームの目標位置は、工場において、各走査ヘッドに対して個別に決定され、記憶ユニットに記憶される。
【0021】
演算ユニットは、レーザビームの実位置と目標位置を比較することによって、ビーム位置決めシステムの少なくとも1つの補正値を算出可能に構成されることが好ましい。そのために、演算ユニットは、反復近似法または確率的探索法を使用または実行することが好ましい。また、上記補正値は、多次元であることが好ましい。すなわち、補正値は、ビーム位置決めシステムの複数の調整次元における目標位置と実位置のずれを表す。したがって、補正値は、ビーム位置決めシステムの少なくとも2つの光学素子に対する再調整値を含む。また、演算ユニットは、補正値を制御ユニットに自動的に送信するように構成されることが好ましい。
【0022】
走査ヘッドは、ビーム位置センサの動作が停止している間に、材料加工プロセスを実行可能に構成されることが好ましい。これにより、ビーム位置センサを動作させることなく材料加工プロセスを行うことができる。
【0023】
演算ユニットと制御ユニットは、別個の構成要素であってもよいし、演算/制御ユニットとして一体的に構成されてもよい。
【0024】
ビーム位置決めシステムは、少なくとも4つの回転可能なミラーを備えることが好ましい。これらのミラーは、それぞれ単一の回転軸を中心に回転可能に構成される。各ミラーの回転軸は、少なくとも部分的に互いに異なっている(すなわち、空間内で互いに異なる方向を向いている)。各ミラーは、制御ユニットによって制御されることが好ましい。各ミラーが単一軸の周りを回転可能に配置されることで、ビーム位置を迅速に変更することが可能である。
【0025】
ビーム位置決めシステムは、レーザビームの少なくとも1つの入射角を設定するための平行オフセットユニットを備えることが好ましい。また、ビーム位置決めシステムは、レーザビームを2次元移動させるための偏向ユニットを備えることが好ましい。平行オフセットユニットは、ビームの伝播方向において偏向ユニットの上流に配置される。レーザビームの位置調整を迅速に行うために、平行オフセットユニットおよび/または偏向ユニットの各々が単一の回転軸を中心に回転可能な2つのミラーを備えることが好ましい。この場合、各ミラーによって位置パラメータの調整が行われる。また、設定パラメータと位置パラメータは、工場較正プロセスにおいて決定される座標変換によって、加工領域内で互いに結合される。平行オフセットユニットによって、レーザビームを集束光学系の光軸に対して垂直方向に配置された変位軸上で変位させることができる。これにより、加工面へのレーザビームの入射角を変更することができる。
【0026】
走査ヘッドは、ビーム位置センサの上流に配置された焦点設定ユニットをさらに有することが好ましい。焦点設定ユニットにより、レーザビームの焦点位置をz方向に移動させることができる。そのために、焦点設定ユニットは、光軸に沿って移動可能な少なくとも1つのレンズを備えたビーム拡大望遠鏡ユニットを有することが好ましい。
【0027】
また、レーザビームの焦点位置をz方向に移動させるために、集束光学系がその光軸方向に移動可能に構成されてもよい。なお、上述の焦点設定ユニットは、制御ユニットに接続され、制御ユニットによって制御されることが好ましい。
【0028】
また、本発明は、走査ヘッドをオフライン調整することが可能な調整装置を提供する。本発明に係る調整装置は、レーザ材料加工用の走査ヘッドを有する。走査ヘッドは、加工位置においてレーザビームを被加工物の加工面に集束させる集束光学系を備える。さらに、走査ヘッドは、レーザビームの位置を制御するビーム位置決めシステムを備える。ビーム位置決めシステムは、レーザビームの伝播方向において集束光学系の上流に配置される。また、ビーム位置決めシステムは、少なくとも2つの制御可能および/または可動の光学素子を備える。さらに、ビーム位置決めシステムは、制御ユニットによって制御可能な少なくとも2つの可動光学素子を備える。加工面へのレーザビームの入射角は、ビーム位置決めシステムによってレーザビームを集束光学系の光軸に垂直な方向に平行移動させることで変更することができる。また、ビーム位置決めシステムは、レーザビームの加工位置を加工面上で2次元移動させることができる。調整装置は、走査ヘッドに加えて、演算ユニットを有する。演算ユニットは、外部演算ユニットとして構成され、および/または、走査ヘッドの外部インターフェースを介して走査ヘッドのビーム位置センサおよび/または制御ユニットに接続される。走査ヘッドは、上述した個々の特徴またはこれらの組み合わせにより構成される。本発明に係る調整装置によれば、走査ヘッドのオフライン調整を高速かつ高精度に行うことができる。また、本発明に係る調整装置によれば、走査ヘッドの上流に設けられたレーザビーム源等の外部ユニットに対して何ら影響を与えることなく調整を行うことができる。すなわち、本発明に係る調整装置では、すべてのデータが走査ヘッド、特にビーム位置決めシステムによって決定、設定および/または調整される。したがって、本発明に係る走査ヘッドまたは調整装置は、使用者の環境条件に関わらず独立して設置および調整が可能である。
【0029】
また、本発明は、走査ヘッドおよび/または調整装置をオフライン調整ことが可能な調整方法を提供する。走査ヘッドおよび/または調整装置は、上述した個々の特徴またはこれらの組み合わせにより構成される。調整処理が行われると、レーザビームの実際の位置がオフラインで、すなわち、加工プロセスの前に検出される。レーザビームの実位置は、レーザビームの少なくとも4つの独立した位置パラメータを検出可能なビーム位置センサによって検出または決定される。また、レーザビームの実位置の検出は、レーザビームの伝播方向において走査ヘッドのビーム位置決めシステムの下流で実行される。ビーム位置センサは、外的要因によって発生したレーザビーム位置の変化に加えて、ビーム位置決めシステムによるレーザビーム位置の変更も検出することが好ましい。ビーム位置センサによってレーザビームの実位置を検出した後、演算ユニットは、記憶ユニットに記憶された目標位置に基づき、検出されたレーザビームの実位置を補正する。実位置と目標位置の間に差がある場合、演算ユニットは、ビーム位置決めシステムに対する補正値を算出する。続いて、制御ユニットが、算出された補正値に基づいてビーム位置決めシステムを調整する。上述の調整プロセスは、1回または複数回行うことができ、調整処理が複数回行われる場合は制御ループとなる。
【0030】
レーザビームの目標位置は、工場較正プロセスによって決定されることが好ましい。また、レーザビームの目標位置は、走査ヘッドの製造時に個別に決定され、記憶ユニットに記憶されることが好ましい。
【0031】
本発明では、走査ヘッドの工場較正プロセスにより、レーザビームの目標位置が決定および記憶される。したがって、走査ヘッドの始動時に、較正パラメータが決定されたビーム位置を復元することができる。そのため、工場での較正時と使用時に、走査ヘッドに同じビーム位置を入力する必要がない。加えて、始動後に高精度に調整および較正された状態を実現するために、工場の較正装置または使用者のシステムにおいて特定のビーム位置が必要とされない。
【0032】
例えば、工場較正プロセスを用いて、座標変換パラメータを決定することができ、この座標変換のパラメータを用いて、走査ヘッドの動作中に、加工領域内のビーム位置および焦点位置の座標からビーム位置決めシステムの可動光学素子の制御値および焦点調整システムの制御値が算出される。
【0033】
調整プロセスにおいて決定された補正値は、座標変換後の制御値に加算されるオフセット値であってもよい。特に、補正値は、ビーム位置決めシステムの4つの回転可能な光学素子の4つの角度制御値に加えられる4つの角度補正値であってもよい。
【0034】
ビーム位置センサと、ビーム位置の補正とを通じたビーム位置の測定に加えて、本発明に係る走査ヘッドは、適切な技術的設計に基づいて構成され、好ましくはビーム位置に加えて、レーザビームに関する追加の測定値を決定することができる1つまたは複数の適切なセンサユニットまたはビーム位置センサを介して、空間ビームプロファイルおよび/またはビーム広がり角の測定を行うことができるように構成されてもよい。レーザビームに関する追加の測定値には、例えば、レーザの強度、偏光状態またはスペクトル特性が含まれる。これらの測定値は、必要に応じ、上述の調整プロセスと併せて使用することができる。したがって、演算ユニットにおいて走査ヘッドの可動素子の設定パラメータを算出する際に、ビーム位置の補正値に加えて、ビーム位置以外の誤差を補正するための追加の情報を使用することも可能である。
【0035】
例えば、演算ユニットにおいて測定されたビームの広がり角と目標広がり角との差は、焦点設定ユニットおよびビーム位置決めユニットの設定パラメータの計算方法に基づいて補正することができる。したがって、ビームの広がり角が異なる場合であっても、ビームの迎角を所定値に維持しながら、焦点を所望の加工経路に導くことができる。ビーム位置の補正値は、例えば、演算ユニットにおいてさらなる補正プロセスに導入され、他の補正値でオフセットされてもよい。
【0036】
本発明のさらなる利点は、以下の実施形態の記載において説明する。