(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6821695
(24)【登録日】2021年1月8日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】塗装方法および塗装フィルム
(51)【国際特許分類】
B44C 1/17 20060101AFI20210114BHJP
B32B 7/06 20190101ALI20210114BHJP
【FI】
B44C1/17 N
B32B7/06
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-551530(P2018-551530)
(86)(22)【出願日】2017年10月18日
(86)【国際出願番号】JP2017037682
(87)【国際公開番号】WO2018092497
(87)【国際公開日】20180524
【審査請求日】2019年4月25日
(31)【優先権主張番号】特願2016-223225(P2016-223225)
(32)【優先日】2016年11月16日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】野原 敏勝
(72)【発明者】
【氏名】木村 将基
【審査官】
野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−105035(JP,A)
【文献】
特開2003−305997(JP,A)
【文献】
特開平02−081687(JP,A)
【文献】
特開平03−236985(JP,A)
【文献】
米国特許第06824639(US,B1)
【文献】
特公昭52−048937(JP,B1)
【文献】
特開平03−069397(JP,A)
【文献】
特開昭57−100093(JP,A)
【文献】
特開2017−105036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B44C 1/165 − 1/175
B32B 7/06
B32B 27/00 − 27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体シート上に転写されて装飾層となる25μm以上100μm以下(但し、40μm以下は除く)の厚さの転写層を備えた塗装フィルムに、該転写層のみを貫通する複数の貫通孔を形成し、
前記複数の貫通孔を形成した後に、前記塗装フィルムを、前記転写層が対象物表面に向くよう配置し、
前記転写層が前記対象物表面に転写されるよう、前記塗装フィルムを支持体シート側から前記対象物表面に押圧し、
前記押圧後に、前記支持体シートを前記転写層から剥離し、
前記複数の貫通孔を形成する工程において、
前記転写層の面上の上下方向を定め、
前記複数の貫通孔が前記上下方向に沿って間隔をあけて並んで複数の列を成し、任意の列の貫通孔が、隣接する列の貫通孔に対して前記上下方向にずれるよう前記複数の貫通孔を形成する塗装方法。
【請求項2】
支持体シートと、
剥離可能に前記支持体シートで支持され、転写されて装飾層となる転写層と、
前記転写層のみを貫通する複数の貫通孔と、を備え、
前記複数の貫通孔が、所定の上下方向に沿って間隔をあけて並んで複数の列を成し、任意の列の貫通孔が、隣接する列の貫通孔に対して前記上下方向にずれるよう配置され、
前記転写層の厚さは、25μm以上100μm以下(但し、40μm以下は除く)である塗装フィルム。
【請求項3】
前記転写層は、塗料で構成されている請求項2に記載の塗装フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装方法および塗装フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
航空機などの基体表面を装飾する方法として、塗装フィルムを用いて絵柄を転写する技術が知られている。
【0003】
塗装フィルムは、支持体シート上に転写層を備えたものである。転写層は、塗料からなり、所望の絵柄の形状となっている。塗装フィルムの転写層を基体表面に押し付けることで、転写層が基体表面に転写される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−247912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、塗装フィルムを支持体シート側からローラやスキージなどの押圧手段で押し付けて、転写層を基体表面に転写させる。この転写の際に、塗装フィルムと基体表面との間に気泡が巻き込まれることがある。
【0006】
気泡が巻き込まれると、転写層と基体表面との密着性が低下する。転写層と基体表面との間に気泡が残存していると、装飾(絵柄)の外観品質の低下や、気圧変化による破損等の不具合が発生する懸念がある。
【0007】
特許文献1には、二重フィルムからなるSMCシート内の気泡を脱泡する方法を開示している。特許文献1では、上フィルムに空気穴をあけた二重フィルムを上下複数本のローラに通過させて気泡を脱泡している。特許文献1に記載の方法は、ローラを通過させるため、基体表面と転写層との間に巻き込まれた気泡の脱泡には適用できない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、基体表面と転写層との間に気泡が残存しないような塗装方法および塗装フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、支持体シート上に転写されて装飾層となる
25μm以上100μm以下(但し、40μm以下は除く)の厚さの転写層を備えた塗装フィルムに、該転写層のみを貫通する複数の貫通孔を形成し、前記貫通孔を形成した後に、前記塗装フィルムを、前記転写層が前記対象物表面に向くよう配置し、前記転写層が前記対象物表面に転写されるよう、前記塗装フィルムを支持体シート側から前記対象物表面に押圧し、前記押圧後に、前記支持体シートを前記転写層から剥離する塗装方法を提供する。
【0010】
複数の貫通孔は、対象物表面と転写層との間に巻き込まれた気泡を、転写層と支持体シートとの間に導く気泡抜き孔として作用する。転写層と支持体シートとの間に導かれた気泡は、支持体シートを剥離した際に大気と一体化する。これにより、対象物表面と転写層との密着性低下、外観品質の低下および気圧低下等による破損を防止できる。
【0011】
上記発
明では、前記複数の貫通孔を形成する工程において、前記転写層の面上の上下方向を定め、前記複数の貫通孔が前記上下方向に沿って間隔をあけて並んで複数の列を成し、任意の列の貫通孔が、隣接する列の貫通孔に対して前記上下方向にずれるよう前記複数の貫通孔を形成す
る。
【0012】
隣接する列の貫通孔の位置を上下方向にずらすことで、転写層における貫通孔の存在を視覚的に目立たなくさせることができる。これにより、外観品質を向上させられ得る。
【0013】
本発明は、支持体シートと、剥離可能に前記支持体シートで支持され、転写されて装飾層となる転写層と、を備え、前記転写層が、複数の貫通孔を備え、前記貫通孔が、所定の上下方向に沿って間隔をあけて並んで複数の列を成し、任意の列の貫通孔が、隣接する列の貫通孔に対して前記上下方向にずれるよう配置され、前記転写層の厚さは、25μm以上100μm以下
(但し、40μm以下は除く)である塗装フィルムを提供する。
前記転写層は、塗料で構成され得る。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、転写層に複数の貫通孔を形成してから、塗装フィルムを対象物表面に押圧することで、気泡が残存しないように転写層を対象物表面に転写できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る塗装フィルムの分解斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る塗装フィルムの断面図である。
【
図3】貫通孔の配置を例示した転写層の正面図である。
【
図4】貫通孔の別の配置を例示した転写層の正面図である。
【
図5】本実施形態に係る塗装方法の手順を説明するフロー図である。
【
図6】航空機の基体表面に転写された転写層の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る塗装方法および塗装フィルムの一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る塗装フィルムの分解斜視図である。
図2の(A)は
図1に示した塗装フィルムのA−A断面図、(B)は
図1示した塗装フィルムのB−B断面図である。
【0017】
塗装フィルム1は、支持体シート2と、支持体シート2上に支持されている転写層3とを備えている。
【0018】
支持体シート2は、転写層3を支持するものである。支持体シート2は、転写層3を透過させない液密性を有する。支持体シート2は、転写層3に対して剥離性を有する。支持体シート2は、平滑な表面を有する。「平滑な表面」は、接触する転写層表面に所望の平滑性を付与できる。支持体シート2の材料は、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、離形処理をした紙などである。支持体シート2は、対象物表面に対する接着性は有していない。
【0019】
転写層3は、所望の絵柄を有し、転写されて対象物表面を装飾するものである。転写層3は、主に塗料で構成されている。塗料は、対象物に適した材質のものが使用される。例えば、対象物が航空機の基体である場合、航空機用として販売されている塗料を用いることができる。航空機用の塗料は、外気圧変化に対応できる柔軟性を有する。塗料は、絵柄パターンの形成に必要な要素(インク、添加剤等)を含み得る。転写前の状態において、転写層3は、裏表に反転させても支持体シート2に支持される程度に支持体シートに密着している。
【0020】
転写層3は、複数の貫通孔4を備えている。複数の貫通孔4は、所定の上下方向Xに沿って間隔をあけて並んで複数の列T
1,T
2・・・T
n(nは任意の自然数)を成している。複数の貫通孔4は、左右方向に沿って間隔をあけて並んで複数の行S
1,S
2・・・S
m(mは任意の自然数)を成している。
【0021】
「上下方向」は、転写層3の絵柄、対象物の用途に応じて適宜定められる方向である。対象物表面に転写された転写層(装飾層)5には、閲覧者が主に閲覧するだろう方向(主閲覧方向)が存在する。ここで「上下」は、主閲覧方向から絵柄を正面視したときの目線上側と目線下側とを意味する。「左右方向」は、上下方向に直交する方向である。
【0022】
転写層3の面上で、近接する貫通孔4同士を繋いだ仮想線Pは網状となる。網形状は、正方形であるとよい。網6は、上下方向または左右方向に対して角度Qがついているとよい。例えば、網6の角度Qは上下方向に対して±15度以上±75度以下、好ましくは±45度である。
【0023】
貫通孔4の直径は、1.0mm以下、好ましくは0.3mm以上0.7mm以下である。隣り合う貫通孔4の間隔R(孔中心間距離)は、5.0mm以上30mm以下、例えば、10mmである。転写層3の厚さは、25μm以上100μm以下である。
【0024】
図3,4に、貫通孔4の配置を例示する。
図3,4の上下方向Xは、紙面の上下を向くものとする。
図3では、転写層3の面上で複数の貫通孔4が2方向(上下、左右)に等間隔で並んで複数の列と行とを成している。
【0025】
図4では、任意の列T
1の貫通孔4は、隣接する列T
2の貫通孔4に対して上下方向にずれるよう配置されている。複数の貫通孔4は千鳥配置されている。網6は正方形状であり、上下方向Xに対して±45度の角度がつけられている。
【0026】
次に、
図5を参照して本実施形態に係る塗装方法の手順を説明する。本実施形態に係る塗装方法は、航空機、船舶および鉄道車両等の塗装に適用できる。本実施形態では、航空機の基体表面10を対象物とした場合を説明する。
【0027】
(塗装フィルム)
支持体シート2上に、塗料を印刷して転写層3を形成する。印刷方法は、公知の技術を適用できる。印刷後、塗料の溶媒を適度に揮発させて、貫通孔4が閉鎖されない程度の粘度状態にする。市販されている塗装フィルムの転写層3は、貫通孔4が閉鎖されない程度の粘度を有するため、市販品を使用することもできる。
【0028】
次に、転写層3に複数の貫通孔4を形成する。貫通孔4を形成する際、転写層3の面上の上下方向Xを予め定めておく。複数の貫通孔4は、所定の上下方向Xに沿って間隔をあけて並んで複数の列を成すように配置する。複数の貫通孔4は、例えば
図3,4で示した配置にする。複数の貫通孔4は、
図4に示すように、任意の列の貫通孔4が、隣接する列の貫通孔4に対して上下方向Xにずれるよう形成するとよい。
【0029】
貫通孔4は、支持体シート2を貫通させずに、転写層3のみを貫通するよう穿孔部材(不図示)を用いて形成する。穿孔部材は、例えば、彫刻機、カッティングプロッター、レーザー加工機等である。彫刻機は、スピンドルのY軸の移動距離を転写層3の厚さに設定することで、支持体シート2を貫通させずに、転写層3のみに貫通孔4を形成することができる。支持体シート2を貫通させないことで、転写時に、押圧により支持体シートから転写層3の塗料が染み出るのを防止できる。
【0030】
(前処理)
塗装前に、必要に応じて基体表面10を、清潔で乾燥した状態にする。例えば、イソプロピルアルコールを使用して基体表面10を清掃する。必要に応じて、清掃前にサンディングなどの表面処理を施してもよい。
【0031】
(マスキング)
基体表面の塗装範囲をマスキング材11で囲う(
図5(A)参照)。
【0032】
(接着塗料の塗布)
基体表面10の塗装範囲に、接着塗料を塗布し、接着塗膜12を形成させる(
図5(A)参照)。接着塗膜12は、粘着性を有するが、指等で触れた際に触れたものに付着しない状態のものである。接着塗料は、例えば、ポリウレタン塗料、ラッカー塗料等である。
【0033】
(転写)
転写層3に貫通孔4を形成した塗装フィルム1を、転写層3が基体表面10に向くよう配置する。その際、転写層3の上下方向Xを、基体表面10の塗布範囲を主閲覧方向から正面視した際の目線上側と下側に揃える。
【0034】
次に、塗装フィルム1を支持体シート2側から基体表面10に押圧して転写層3を基体表面10に転写する。
図5(B)では、転写層3をマスキング材11で囲まれた範囲内に収まるよう位置決めして、塗装フィルム1の一端を基体表面10に固定する。固定した一端側で支持体シート2上に押圧部材13を押し付け、他端側に向けてスライドさせる。これにより、転写層3が基体表面10に転写されて装飾層5となる。一回のスライドで転写層3が基体表面に転写されていない場合は、押圧を繰り返す。押圧部材13は、スキージおよびローラ等である。
【0035】
(後処理)
転写層3が基体表面10に転写されたことを確認した後、支持体シート2を装飾層5から剥離する(
図5(C)参照)。次に、ローラ等の塗布部材14を用いて、転写された転写層(装飾層)5の表面に保護塗料を塗布する(
図5(D)参照)。保護塗料は、装飾層5に耐久性、外観品質を付与できる材料からなる。保護塗料は、例えば、ポリウレタン塗料、ラッカー塗料等である。
【0036】
塗布した保護塗料を乾燥させて保護膜(不図示)とした後、マスキング材11を除去する(
図5(E)参照)。
【0037】
図6に、航空機16の基体側表面に転写された転写層(装飾層)5の様子を示す。
図6において、主閲覧方向は地面に水平な方向(紙面奥行方向)、上下方向Xは重力方向に沿う方向である。
図6では、複数の貫通孔4が所定の上下方向Xに沿って間隔をあけて並んで複数の列を成し、任意の列の貫通孔4が、隣接する列の貫通孔4に対して上下方向Xにずれるよう配置されている。
【0038】
本実施形態では、塗装フィルム1を押圧して転写層3を転写する。その際、転写層3と基体表面10との間に巻き込まれた気泡は、貫通孔4を通って転写層3背側(支持体シート2側)に移動する。背側に移動した気泡は、支持体シート2を剥離することで大気に拡散させられる。これにより、転写層3と基体表面10との間に気泡が残留することを防止でき、転写層3と基体表面10と密着性を向上させることができる。
【0039】
図1から
図6では、貫通孔4の配置を明確にするために実際の縮尺とは異なる大きさで貫通孔4を表示している。直径が0.3mm以上0.7mm以下の貫通孔4は、遠目から目視で確認できるものではない。貫通孔4は、3m程度近づいた場合に、その存在を確認できるかもしれないが、
図4に示すように隣接する列の貫通孔を上下方向にずらすことで、その存在を確認しにくくできる。これにより外観品質を向上させられる。転写層3が転写される基体表面10が曲面であっても同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0040】
1 塗装フィルム
2 支持体シート
3 転写層
4 貫通孔
5 装飾層(転写層)
6 網
10 基体表面(対象物表面)
11 マスキング材
12 接着塗膜
13 押圧部材
14 塗布部材
16 航空機