特許第6821702号(P6821702)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許68217021,1−ジカルボニル−置換1アルケンを含有するポリエステルマクロマー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6821702
(24)【登録日】2021年1月8日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】1,1−ジカルボニル−置換1アルケンを含有するポリエステルマクロマー
(51)【国際特許分類】
   C08F 283/01 20060101AFI20210114BHJP
   C08G 63/52 20060101ALI20210114BHJP
   C09D 167/06 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   C08F283/01
   C08G63/52
   C09D167/06
【請求項の数】14
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2018-557020(P2018-557020)
(86)(22)【出願日】2017年6月1日
(65)【公表番号】特表2019-522687(P2019-522687A)
(43)【公表日】2019年8月15日
(86)【国際出願番号】US2017035378
(87)【国際公開番号】WO2018031101
(87)【国際公開日】20180215
【審査請求日】2018年12月3日
(31)【優先権主張番号】15/437,164
(32)【優先日】2017年2月20日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】15/472,379
(32)【優先日】2017年3月29日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】15/234,191
(32)【優先日】2016年8月11日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/345,334
(32)【優先日】2016年6月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513099186
【氏名又は名称】シラス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パルスル,アニルッダ・エス
(72)【発明者】
【氏名】サリバン,ジェフリー・エム
(72)【発明者】
【氏名】パラブ,クシュティジ・ケイ
(72)【発明者】
【氏名】キング,エリオット
(72)【発明者】
【氏名】バレット,ウィリアム
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−517973(JP,A)
【文献】 特表2016−506072(JP,A)
【文献】 特表2015−519416(JP,A)
【文献】 特表2019−517599(JP,A)
【文献】 特公昭49−15637(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F283
C08G63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上のジオール及び1つ以上のジエステルの残基の1つ以上の鎖を含有する、ポリエステルマクロマーを含む組成物であって、そこで前記1つ以上のジオール及び前記1つ以上のジエステルの残基は前記鎖に沿って交互に入れ替わり、前記ジエステルの一部は1,1−ジエステル−1−アルケンであり、少なくとも1つの末端は前記1,1−ジエステル−1−アルケンの1つの残基を含み、そこで1つ以上の末端は1つ以上のジオールの残基を含んでよく、前記ポリエステルマクロマーが式1に対応し、
【化1】

式中、Zは出現ごとに独立して−ROHまたは−Rであり;
は出現ごとに独立して1つ以上のヘテロ原子を含有し得るヒドロカルビル基であり;
は出現ごとに独立して酸素原子への2つ以上の結合を有するヒドロカルビレン基であり、そこで前記ヒドロカルビレン基は1つ以上のへテロ原子を含有してもよく;
cは2以上の整数であり;
nは1〜3の整数である;前記組成物。
【請求項2】
cが3〜6の整数である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組成物であって、ポリエステルマクロマーが1つ以上のポリオール、1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケン及び所望により1つ以上のヒドロカルビレンジヒドロカルビルカルボキシレートの残基を含み、前記ポリオールが式
【化2】
に対応し、
前記1,1−ジエステル−1−アルケンが式
【化3】
に対応し、
ここで前記1つ以上のヒドロカルビレンジヒドロカルビルカルボキシレートが式
【化4】
に対応し、
式中、Rは出現ごとに独立して1つ以上のヘテロ原子を含有し得るヒドロカルビル基であり;
は出現ごとに独立して酸素原子への2つ以上の結合を有するヒドロカルビレン基であり、そこで前記ヒドロカルビレン基は1つ以上のへテロ原子を含有してもよく;
は出現ごとに独立して前記ジエステルの前記カルボニル基への2つの結合を有するヒドロカルビレン基であり、そこで前記ヒドロカルビレン基は1つ以上のへテロ原子を含有してもよく;
cは2以上の整数である;前記組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の組成物であって、前記1つ以上の鎖が、1つ以上のヒドロカルビレンジヒドロカルビルカルボキシレートの残基を更に含み、当該1つ以上の鎖が、以下式3〜6であって:
【化5】

ここでDは式
【化6】

に対応し、
【化7】
ここでEは式
【化8】

に対応し、
式中、Zは出現ごとに独立して−ROHまたは−Rであり;
は出現ごとに独立して1つ以上のヘテロ原子を含有し得るヒドロカルビル基であり;
は出現ごとに独立して酸素原子への2つ以上の結合を有するヒドロカルビレン基であり、そこで前記ヒドロカルビレン基は1つ以上のへテロ原子を含有してもよく;
は出現ごとに独立して、状況に応じて1つ以上の前記ジエステルの前記カルボニル基へ、またはこのようなジエステルの残基へ2つの結合を有するヒドロカルビレン基であり、そこで前記ヒドロカルビレン基は1つ以上のへテロ原子を含有してもよく;
cは2以上の整数であり;
dは0または1の整数であり;
eは0または1の整数であり;
fは整数1であり;
は1〜3の整数であり;
nは1〜3の整数であり;
pは2以上の整数であり;
qは1以上の整数であり;
そこでdとeの各対は1に等しくなければならない、前記式3〜6のうちの1つに対応する、前記組成物。
【請求項5】
i)請求項1〜4のいずれか一項に記載される複数のポリエステルマクロマーと、
ii)以下の式のモノマーであって
【化9】

式中、Rは出現ごとに独立して1つ以上のヘテロ原子を含有し得るヒドロカルビル基であり;
は出現ごとに独立して酸素原子への2つ以上の結合を有するヒドロカルビレン基であり、そこで前記ヒドロカルビレン基は1つ以上のへテロ原子を含有してもよく;cは2以上の整数であるモノマーに対応する、1つ以上の多官能性モノマーと、
iii)1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンと、を含む組成物。
【請求項6】
i)請求項1〜4のいずれか一項に記載される複数のポリエステルマクロマーの10〜80重量パーセントと、
ii)以下の式のモノマーであって
【化10】

式中、Rは出現ごとに独立して1つ以上のヘテロ原子を含有し得るヒドロカルビル基であり;
は出現ごとに独立して酸素原子への2つ以上の結合を有するヒドロカルビレン基であり、そこで前記ヒドロカルビレン基は1つ以上のへテロ原子を含有してもよく;cは2以上の整数であるモノマーに対応する、1つ以上の多官能性モノマーの5〜40重量パーセントと、
iii)1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの1〜40重量パーセントと、を含む組成物であって、前記量が前記組成物の重量を基準にする、前記組成物。
【請求項7】
a)請求項5または6に記載の組成物、
b)揮発性溶媒、
c)1つの1,1−ジエステル−1−アルケン、
d)1つ以上の湿潤剤またはレベリング剤、
e)1つ以上のUV安定剤、ならびに
f)1つ以上の消泡剤、を含む組成物。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか一項に記載のポリエステルマクロマーと、以下の式のモノマーであって
【化11】

式中、Rは出現ごとに独立して1つ以上のヘテロ原子を含有し得るヒドロカルビル基であり;
は出現ごとに独立して酸素原子への2つ以上の結合を有するヒドロカルビレン基であり、そこで前記ヒドロカルビレン基は1つ以上のへテロ原子を含有してもよく;cは2以上の整数であるモノマーに対応する、前記1つ以上の多官能性モノマーとを含む組成物であって、10〜80重量パーセントのポリエステルマクロマーを含み、及び1〜20重量パーセントの1つ以上の前記鎖の末端に1つ以上の1,1−二置換アルケンの残基を有する1つ以上のポリオールを含む、組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物を硬化して、及びフィルムまたはコーティングの形態である、硬化物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載される複数のポリエステルマクロマーを含有する組成物であって、そこで前記ポリエステルマクロマーが1,1−ジエステル−1−アルケン残基内の1,1−アルケン基によって架橋される、前記組成物。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物を含有する主剤と、前記ポリエステルマクロマーのアニオン重合を開始するのに十分な塩基性を有する1つ以上の化合物を含有する硬化剤とからなる剤であって、前記主剤と前記硬化剤とを混合するとき、前記主剤中のポリエステルマクロマーが硬化される、前記剤を含有する組成物。
【請求項12】
1つ以上の多官能性モノマーを形成するような条件下にて、エステル交換触媒の存在下で、1つ以上のポリオールと当量過剰の1つ以上の1,1−ジエステル1−アルケンを接触させることであって、ここで前記多官能性モノマーが、ヒドロキシル基のうちの2つ以上が前記1つ以上の1,1−ジエステル1−アルケンの残基により置換された前記1つ以上のポリオールを含有する、前記接触させることと;
1つ以上のジオール及び1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基の1つ以上の鎖を含有する、1つ以上のポリエステルマクロマーを調製するような条件下にて、エステル交換触媒の存在下で、前記多官能性モノマーと、前記ポリオールがジオールであるという条件で追加量の前記1つ以上のポリオール、またはジオールである1つ以上の第2のポリオールを接触させることであって、ここで前記1つ以上のジオール及び前記1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基が前記鎖に沿って交互に入れ替わり、少なくとも1つの末端は前記1,1−ジエステル−1−アルケンの1つの残基を含み、ここで1つ以上の末端は1つ以上のジオールの残基を含んでよい、前記接触させることと;を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載される組成物を調製する方法。
【請求項13】
1つ以上のジオール、1つ以上のヒドロカルビレンジヒドロカルビルカルボキシレート及び1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基の1つ以上の鎖を含有する1つ以上のポリエステルマクロマーを調製する条件下にて、エステル交換触媒の存在下で、前記1つ以上の多官能性モノマー、前記1つ以上のジオール及び前記1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンを、前記1つ以上のヒドロカルビレンジヒドロカルビルカルボキシレートに接触させることであって、そこでそれぞれの残基は無作為に前記鎖に沿って配置され、少なくとも1つの末端は前記1,1−ジエステル−1−アルケンの1つの残基を含み、そこで1つ以上の末端は前記1つ以上のジオールの残基を含んでよい、前記接触させることを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記多官能性モノマーと追加量の前記1つ以上のポリオール、または1つ以上の第2のポリオールを、前記カルボニル基のそれぞれと結合したポリオールの残基を有する1つ以上のヒドロカルビレンジヒドロカルビルカルボキシレートを含む1つ以上の化合物と接触させ、その結果、1つ以上のポリエステルマクロマーを調製して、そこで少なくともいくつかの前記ポリエステルマクロマーがその主鎖中に前記1つ以上の前記ヒドロカルビレンジヒドロカルビルカルボキシレートの残基を含有する、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1,1−ジエステル−1−アルケン化合物の残基を含有するポリエステルマクロマーを含む、新規の化合物及び組成物を開示する。前記新規の化合物及び組成物の調製方法を、更に開示する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、その特性及び合成の容易さに起因して、多くの用途で利用される。代表的な用途はコーティング、フィルム、繊維及び樹脂が挙げられる。その特性により、ポリエステルは更に他のポリマーとの混合で利用されて、他のポリマーの特定の特性限界を改善し、このようなポリマーはポリカーボネート、ポリアミド、スチレンポリマー及びポリオレフィンなどを含む。ポリエステルは通常ジエステルをジアルコールと反応させることにより調製され、一般的に直鎖構造である。その構造により、これらのポリエステルを架橋するにはいくらか困難を伴う。いくつかの架橋工程は、特別な触媒または高温を必要とする。
【0003】
1,1−ジエステル−1−アルケン(例えばメチレンマロネート)は2つのジエステル基を含有し、アルキレン基が2つのジエステル基の間に配置される。これらの化合物の合成の最近の開発により、これらの化合物の合成及び様々な用途でのそれらの使用を容易にする。MalofskyのUS8,609,885、US8,884,051及びUS9,108,914を参照のこと(それらはすべての目的についてその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。これらの化合物をエステル交換する方法も最近開発された。MalofskyらのWO2013/059473、US2014/0329980は、複数の合成方法による多官能性メチレンマロネートの調製を開示しており、それらはすべての目的についてその全体が参照により本明細書に組み込まれる。1つの開示された方法は触媒の存在下でメチレンマロネートとポリオールを反応させて化合物を調製することを含み、メチレンマロネートのエステル基の1つがエステル交換されて、ポリオールと反応し、多官能性化合物を形成する(多官能性とは、2つ以上のメチレンマロネートのコア部の存在を意味する)。酵素触媒の使用が開示される。SullivanのUS9,416,091は、特定の酸触媒を使用する1,1−二置換−1−アルケンのエステル交換を開示し、それはすべての目的についてその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0004】
求められているものは、問題となる触媒を必要とせずに簡潔に架橋でき、比較的穏やかな条件を使用する、ポリエステルの調製に有用な組成物である。強化された特性を示すこのような組成物から調製されるコーティングが必要とされており、このような強化された特性は、可撓性、基材への接着性、鉛筆硬度、耐溶媒性、耐摩耗性、耐紫外線性、耐高温酸及び塩基性などを含む。このようなコーティングのための構成成分及びコーティングを調製する方法が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第8,609,885号明細書
【特許文献2】米国特許第8,884,051号明細書
【特許文献3】米国特許第9,108,914号明細書
【特許文献4】国際公開第2013/059473号
【特許文献5】米国特許出願公開2014/0329980号明細書
【特許文献6】米国特許第9,416,091号明細書
【発明の概要】
【0006】
1つ以上のジオール及び1つ以上のジエステルの残基の1つ以上の鎖を含有する、ポリエステルマクロマーを含む組成物が開示されており、そこで1つ以上のジオール及び1つ以上のジエステルの残基は鎖に沿って交互に入れ替わり、ジエステルの一部は1,1−ジエステル−1−アルケンであり、少なくとも1つの末端は1,1−ジエステル−1アルケンの1つの残基を含み、そこで1つ以上の末端は1つ以上のジオールの残基を含んでよい。前記組成物は、1つ以上のジオール及び1つ以上のジエステルの残基の3つ以上の交互の鎖を含んでよく、そこでジエステルの少なくともいくつかは1,1−ジエステル−1−アルケンであり、そこで鎖のそれぞれは、3つ以上の酸素原子を有するポリオールの残基の酸素に一端で結合する。ポリエステルマクロマーは式1に対応してもよく、
【化1】
式中、Zは出現ごとに独立して−ROHまたは−Rであり;Rは出現ごとに独立して1つ以上のヘテロ原子を含有し得るヒドロカルビル基であり;Rは出現ごとに独立して酸素原子への2つ以上の結合を有するヒドロカルビレン基であり;そこでヒドロカルビレン基は1つ以上のへテロ原子を含有してもよく;cは1以上の整数であり;nは約1〜3の整数である。cは約3〜約6の整数でもよい。
【0007】
ポリエステルマクロマーは、1つ以上のジオール及び1つ以上のジエステルの残基の1つの鎖を含んでよく、そこでジエステルの少なくともいくつかは1,1−ジエステル−1−アルケンである。ポリエステルマクロマーは式2に対応してもよく、
【化2】
式中、Zは出現ごとに独立して−ROHまたは−Rであり;Rは出現ごとに独立して1つ以上のヘテロ原子を含有し得るヒドロカルビル基であり;Rは出現ごとに独立して酸素原子への2つの結合を有するヒドロカルビレン基であり;式2に関して、ヒドロカルビレン基は1つ以上のへテロ原子を含有してもよく;mは約1〜3の整数である。開示したポリエステルマクロマーは約600〜約3000の数平均分子量を示してもよい。
【0008】
1つ以上のジエステルは1,1−ジエステル−1−アルケンを含んでよい。1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンに加えて、1つ以上のジエステルは1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートを含んでよい。ポリエステルマクロマーは1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基を含有し、1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートの残基を含んでよい。1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートは、芳香族ジカルボキシレート、脂肪族ジカルボキシレート及び/または脂環式ジカルボキシレートのうちの1つ以上を含んでよい。1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基及び1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートの残基を含有するポリエステルマクロマーは、式3〜式6のうちの1つに対応してよく、
【化3】
ここでDは式
【化4】
に対応し、
【化5】
ここでEは式
【化6】
に対応し、
式中、Z、R及びRは上述したとおりであり;Rは出現ごとに独立して1つ以上のジエステルの残基のカルボニル基への2つの結合を有するヒドロカルビレン基であり;そこでヒドロカルビレン基は1つ以上のへテロ原子を含有してもよく;cは1以上の整数であり;dは0または1の整数であり;eは0または1の整数であり;fは整数1であり;mは1〜3の整数であり;nは約1〜3の整数であり;pは2以上の整数であり;qは1以上の整数であり;そこでdとeの各対は1に等しくなければならない。
【0009】
i)本明細書に記載されるような複数のポリエステルマクロマー、ii)1つ以上のポリオール及び1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基を含有する1つ以上の多官能性モノマーであって、ここで多官能性モノマーは1,1−ジエステル−1−アルケンにより置換されたポリオールの実質的にすべてのヒドロキシル基を有する、1つ以上の多官能性モノマー、iii)1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケン、を含む組成物が開示される。1つ以上のポリオールはジオールでもよい。1つ以上の多官能性モノマーは二官能性モノマーでもよい。
【0010】
a)i)本明細書に記載されるような複数のポリエステルマクロマー、ii)1つ以上のポリオール及び1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基を含有する1つ以上の多官能性モノマーであって、ここで多官能性モノマーは1,1−ジエステル−1−アルケンにより置換されたポリオールの実質的にすべてのヒドロキシル基を有する、1つ以上の多官能性モノマー、iii)1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケン、を含む組成物、b)揮発性溶媒、c)所望により1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの追加量、d)1つ以上の湿潤剤、e)1つ以上の紫外線安定剤、f)耐摩擦性を改善するための1つ以上の添加剤、g)表面滑り特性及び抗クレーター形成特性を改善するための1つ以上の添加剤、を含む組成物を開示する。溶媒は、アルコキシアルカノールまたはアルコキシアルキルアセテートでもよい。湿潤剤は、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンでもよい。UV安定剤は、ベンゾトリアゾール系またはヒンダードアミン系化合物でもよい。組成物は、ナノメートルにサイズ設定されたシリカ充填剤でもよい引っ掻き耐性添加剤を含有し得る。表面滑り特性を改善する添加剤は、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサンでもよい。
【0011】
1つ以上のポリエステルマクロマー、及び1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンまたは多官能性モノマーでエンドキャップした(すなわち、鎖の末端が1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケン及び/または多官能性モノマーの残基を含有する)ポリオールのうちの1つ以上を含む組成物を、開示する。組成物は溶媒を含有してよい。1つ以上のポリオールは、1つ以上のポリエーテルポリオール、ポリシロキサンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、アクリル系ポリオールまたはポリブタジエニルポリオールでもよい。1つ以上のポリオールは1つ以上のポリカーボネートポリオールでもよい。1つ以上のポリオールは二官能性または三官能性でもよい。1つ以上のポリオールは、主鎖からのヒドロキシル基側鎖を有してよい。
【0012】
本明細書にて開示したポリエステルマクロマーを含有する組成物から、フィルムまたはコーティングを作製してよい。コーティングまたはフィルムは、約0.001マイクロメートル以上または約100マイクロメートル以上の厚みを有してよい。コーティングまたはフィルムは、約160マイクロメートル以下または約140マイクロメートル以下の厚みを有してよい。本明細書にて開示した複数の1つ以上のポリエステルマクロマーを含有する組成物は、硬化され得る。本明細書にて開示した複数の1つ以上のポリエステルマクロマーを含有する組成物は、硬化後、架橋され得る。
【0013】
1つの部分に本明細書にて開示する1つ以上のポリエステルマクロマーと、第2部分にポリエステルマクロマーのアニオン重合を開始するのに十分な塩基性を有する1つ以上の化合物と、を含む組成物を開示し、2つの部分を混合するとき、ポリエステルマクロマーは硬化される。塩基性を有する1つ以上の化合物は、1つ以上のアミンまたはポリアミンを含んでよい。塩基性を有する1つ以上の化合物は、1つ以上のポリアルキレンイミンを含んでよい。
【0014】
物品の1つ以上の表面上または物品の1つ以上の表面の一部上に配置される組成物の一部として、1つ以上のポリエステルマクロマーを含有するコーティングを有する物品を開示する。物品は、ポリエステルマクロマーが堆積する下塗りを有してよい。下塗りは色素を含んでよい。下塗りは表面で塩基性pHを有してよい。色素は塩基性でもよい。ポリエステルマクロマーのコーティングは透明でもよい。
【0015】
1つ以上の多官能性モノマーを形成するような条件下にて、エステル交換触媒の存在下で、1つ以上のポリオールと当量過剰の1つ以上の1,1−ジエステル1−アルケンを接触させることであって、ここで多官能性モノマーが、ヒドロキシル基のうちの2つ以上が1つ以上の1,1−ジエステル1−アルケンの残基により置換された1つ以上のポリオールを含有する、前記接触させることと;1つ以上のジオール及び1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基の1つ以上の鎖を含有する、1つ以上のポリエステルマクロマーを調製するような条件下にて、エステル交換触媒の存在下で、多官能性モノマーと、ポリオールがジオールであるという条件で追加量の1つ以上のポリオール、またはジオールである1つ以上の第2のポリオールを接触させることであって、ここで1つ以上のジオール及び1つ以上の1,1−ジエステル−1アルケンの残基は鎖に沿って交互に入れ替わり、少なくとも1つの末端は1,1−ジエステル−1アルケンの1つの残基を含み、ここで1つ以上の末端は1つ以上のジオールの残基を含んでよい、前記接触させることと;を含む方法を開示する。あるいは第2のステップは、多官能性モノマーと、追加量の1つ以上のポリオール、または1つ以上の第2のポリオールと、カルボニル基のそれぞれと結合したポリオールの残基を有する1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートを含む1つ以上の化合物を接触させることを含んでもよく、その結果、1つ以上のポリエステルマクロマーを調製して、そこで少なくともいくつかのポリエステルマクロマーは1つ以上の鎖中に1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートの残基を含有する。
【0016】
1つ以上のジオール、1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレート及び1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基の1つ以上の鎖を含有する1つ以上のポリエステルマクロマーを調製する条件下にて、エステル交換触媒の存在下で1つ以上のジオール、1つ以上の1,1−ジエステル1−アルケン及び1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートを接触させることを含む方法を開示し、そこでそれぞれの残基は無作為に鎖に沿って配置され、少なくとも1つの末端は1,1−ジエステル−1アルケンの1つの残基を含み、そこで1つ以上の末端は1つ以上のジオールの残基を含んでよい。
【0017】
1つ以上の多官能性モノマーを形成するような条件下にて、エステル交換触媒の存在下で、1つ以上のポリオールと当量過剰の1つ以上の1,1−ジエステル1−アルケンを接触させることであって、ここで多官能性モノマーが、ヒドロキシル基のうちの少なくとも2つが1つ以上の1,1−ジエステル1−アルケンの残基により置換された1つ以上のポリオールを含有する、前記接触させることと;1つ以上のジオール、1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレート及び1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基の1つ以上の鎖を含有する1つ以上のポリエステルマクロマーを調製する条件下にて、エステル交換触媒の存在下で1つ以上の多官能性モノマーと、1つ以上のジオール、1つ以上の1,1−ジエステル1−アルケン及び1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートを接触させることであって、そこでそれぞれの残基は無作為に鎖に沿って配置され、少なくとも1つの末端は1,1−ジエステル−1アルケンの1つの残基を含み、そこで1つ以上の末端は1つ以上のジオールの残基を含んでよい、前記接触させることと;を含む方法を開示する。
【0018】
1つ以上のポリオール、1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基の1つ以上の鎖、及びカルボニル基のそれぞれと結合したポリオールの残基を有するジヒドロカルビルジカルボキシレートを含む1つ以上の化合物を含有する1つ以上のポリエステルマクロマーを調製するような条件下にて、エステル交換触媒の存在下で、ヒドロキシル基が1つ以上の1,1−ジエステル1−アルケンの残基により置換された1つ以上のポリオールを含有する1つ以上の多官能性モノマーと;カルボニル基のそれぞれと結合したポリオールの残基を有するジヒドロカルビルジカルボキシレートを含む1つ以上の化合物と;1つ以上のポリオールと;を接触させること、を含む方法を開示し、少なくとも1つの末端は1,1−ジエステル−1アルケンの1つの残基を含み、そこで1つ以上の末端は1つ以上のジオールの残基を含んでよい。多官能性モノマーは、1つ以上の多官能性モノマーを形成するような条件下にて、エステル交換触媒の存在下で、1つ以上のポリオールと当量過剰の1つ以上の1,1−ジエステル1−アルケンを接触させることにより調製してもよい。カルボニル基のそれぞれと結合したポリオールの残基を有するジヒドロカルビルジカルボキシレートを含む1つ以上の化合物は、カルボニル基のそれぞれと結合したポリオールの残基を有する1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートを調製するような条件下にて、エステル交換触媒の存在下で、1つ以上のジエステルと過剰な1つ以上のポリオールを接触させることにより調製される。
【0019】
本明細書にて開示したエステル交換処理ステップで、1つ以上のポリオールまたは第2のポリオールはジオールでもよい。1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートは、芳香族ジカルボキシレート、脂肪族ジカルボキシレート及び脂環式ジカルボキシレートのうちの1つ以上でもよい。1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートは1つ以上のマロネートでもよい。エステル交換触媒は、酸、このような酸のエステルまたはリパーゼ酵素でもよい。エステル交換触媒は、約−5〜約14の極性非プロトン性溶媒のpKaを有する1つ以上の酸または前記酸のエステルでもよい。酸または酸のエステルは、エステル交換したエステル含有化合物の1モル当量当たり、約2.0のモル当量以下の量の酸または酸のエステルで存在してよい。触媒が酸または酸のエステルであるとき、前記方法は約20℃〜約160℃の温度で実施してよい。エステル交換触媒はリパーゼ酵素触媒でもよい。触媒がリパーゼ酵素触媒のとき、エステル交換ステップは約20℃〜70℃の温度で実施してよい。開示した方法の間、揮発性副生成物が形成され得て、反応混合物から除去され得る。揮発性副生成物は、真空を適用することによって反応混合物から除去され得る。揮発性副生成物はアルコールでもよい。
【0020】
本明細書にて開示する1つ以上のポリエステルマクロマーを含有する組成物と基材表面を接触させることであって、前記表面が少なくとも弱塩基性である、前記接触させることと、1つ以上のポリエステルマクロマーを含有する組成物を含むコーティングを基材の表面上に形成することと、を含む方法を開示する。基材は、少なくとも弱塩基性である材料からなってもよい。1,1−二置換アルケンのアニオン重合を開始させる塩基性化合物を含有する組成物は、1つ以上のポリエステルマクロマーを含有する組成物を適用する前に、基材表面に適用され得る。代表的な塩基性化合物は、1つ以上のアミン、ポリアミン、塩基性顔料、ポリアルキレンアミン、ポリエチレンイミン及びカルボン酸塩を含む。コーティングを形成する方法は、基材の表面上に配置した1つ以上のポリエステルマクロマーを含有する組成物を含有するコーティングを架橋させるような条件下にて、約10分間〜約60分間、約20℃〜約150℃の温度に1つ以上のポリエステルマクロマーを含有する組成物を備えた基材を曝露することを更に含んでよい。コーティングは入熱なしで、周囲温度にて硬化してもよく、それはより長い硬化時間(例えば最高約24時間)を必要とする。
【0021】
ポリエステルマクロマーを含有する組成物は、比較的穏やかな条件を使用して硬化かつ架橋できるポリエステル組成物を調製するために使用できる。ポリエステルマクロマーにより、ポリエステル含有組成物の特性を調整することが可能になる。具体的にはポリエステルマクロマーは、改善した機械的特性及び弾力を有するポリエステル組成物の調製を可能にする。ポリエステルマクロマーを含有するポリエステル組成物から調製されるコーティング、フィルム及び繊維は、7H超の鉛筆硬度、高光沢、耐溶媒性、可撓性、下塗り、金属、プラスチック、粒子などに対する優れた接着性のうちの1つ以上を含む強化された特性を示す。開示した方法は、ポリエステルマクロマー及びこのようなマクロマーを含有する組成物を効率的に調製する能力を提供する。コーティング及びフィルムを調製する方法は、効果的な方法で上述した強化した特性を備えたコーティング及びフィルムの調製を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】複数のコーティングの光沢試験の結果を示す。
図2】複数のコーティングの耐溶媒性試験の結果を示す。
図3】複数のコーティングの鉛筆硬度試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書で示す説明及び図は、他の当業者に本発明、その原則及びその実用化を熟知させることを目的とする。記載される本発明の具体的な実施形態は、本発明を網羅するまたは制限することを意図しない。本発明の範囲は、添付の特許請求に関連して、このような特許請求の範囲が権利を受ける等価物の全範囲と共に確定されなければならない。特許出願及び公報を含む、すべての論文ならびに文献の開示は、すべての目的に関して参照により組み込まれる。以下の特許請求の範囲から抜き出される他の組み合わせもまた可能であり、これらも参照により本明細書に組み込まれる。
【0024】
特段の記載がない限り、本明細書で使用する専門用語及び科学用語はすべて当業者に一般に理解されている意味を有する。以下の参考文献は、本開示で使用する用語の多くの一般的な定義を当業者に提供する。Singleton et al.,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(2nd ed.1994);The Cambridge Dictionary of Science and Technology(Walker ed.,1988);The Glossary of Genetics,5th Ed.,R.Rieger et al.(eds.),Springer Verlag(1991);及びHale&Marham,The Harper Collins Dictionary of Biology(1991)。本明細書で使用されるとき、以下の用語は、特に指示がない限り、下記でそれらに帰する意味を有する。
【0025】
1つ以上のジオール及び1つ以上のジエステルの残基の1つ以上の鎖を含有する、ポリエステルマクロマーを含む組成物が開示されており、そこで1つ以上のジオール及び1つ以上のジエステルの残基は鎖に沿って交互に入れ替わり、ジエステルの一部は1,1−ジエステル−1−アルケンであり、少なくとも1つの末端は1,1−ジエステル−1アルケンの1つの残基を含み、そこで1つ以上の末端は1つ以上のジオールの残基を含んでよい。マクロマーはこのような鎖の2つ以上を有してよい。鎖は、残基または1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートを含んでもよい。鎖は、1つ以上のジオール及び1つ以上のジエステルの残基を含んでよく、そこでジエステルは1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケン、1つ以上のジオール及び1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基を含み、所望により1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートはランダムに鎖に沿って配置され得る。ポリエステルマクロマーはポリエステルを形成するために使用してもよく、ポリエステル及び/または他のポリマー化合物と混合して、強化した特性を提供する。ポリエステルマクロマーを調製して、それらを様々なポリエステル含有組成物に混合する方法を、開示する。ポリエステルマクロマー含有組成物から構造(例えばコーティング、フィルム、繊維及び粒子)を調製する方法を、開示する。
【0026】
本明細書中で使用する場合、ジエステルとは、エステル交換を受けることができる2つのエステル基を有する任意の化合物を意味する。1,1−ジエステル−1−アルケンは、2つのエステル基、及び1つの炭素原子と称される単一の炭素原子に結合した二重結合を含有する、化合物である。ジヒドロカルビルジカルボキシレートは、エステル基の間にヒドロカルビレン基を有するジエステルであり、そこで二重結合は、ジエステルの2つのカルボニル基に結合する炭素原子に結合していない。
【0027】
「単官能性」という用語は、コア部を1つのみ有する1,1−ジエステル−1−アルケンを指す。コア部は、2つのカルボニル基と、単一の炭素原子に結合する二重結合と、を含む。「二官能性」という用語は、2つのコア式のそれぞれの1つの酸素原子間のヒドロカルビレン結合を介して結合した、2つのコア部(それぞれ反応性アルケン官能基を含む)を有する1,1−ジエステル−1−アルケンを指す。「多官能性」という用語は、2つ以上のコア式のそれぞれの1つの酸素原子間のヒドロカルビレン結合を介して一緒に結合した、2つ以上のコア部(それぞれのコア部は反応性アルケン官能基を含む)を有する1,1−ジエステル−1−アルケンを指す。
【0028】
本明細書で使用する場合、酸触媒は、副反応を極小化するまたはそれに関与しない一方で、エステル交換反応を引き起こす酸性種である。本明細書で使用する場合、1つ以上とは、列挙した成分のうちの少なくとも1つの、またはそのうちの2つ以上が開示したように使用され得ることを意味する。官能性に関して使用されるノミナルは理論官能性を意味し、通常これは使用する成分の化学量論から計算できる。へテロ原子とは炭素または水素ではない原子(例えば窒素、酸素、硫黄及びリン)を意味し、ヘテロ原子は窒素及び酸素を含有してよい。本明細書で使用する場合、ヒドロカルビルとは、1つ以上の炭素原子主鎖及び水素原子を含む基を指し、それは所望により1つ以上のヘテロ原子を含んでもよい。ヒドロカルビル基がヘテロ原子を含む場合、ヘテロ原子は、当業者に周知の1つ以上の官能基を形成してもよい。ヒドロカルビル基は、脂環式、脂肪族、芳香族、またはこのようなセグメントの任意の組み合わせを含んでよい。脂肪族セグメントは、直鎖または分枝鎖であることができる。脂肪族及び脂環式セグメントは、1つ以上の二重結合及び/または三重結合を含んでよい。ヒドロカルビル基に含まれるのは、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、アルカリル、及びアラルキル基である。脂環式基は、環状部分と非環状部分の両方を含んでもよい。ヒドロカルビレンとは、2価以上のヒドロカルビル基または記載されるサブセットのいずれか(例えばアルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレン、シクロアルキレン、シクロアルケニレン、アルカリーレン及びアラルキレン)を意味する。重量パーセントまたは重量部とは、特に指示がない限り、前記化合物もしくは組成物の重量を指す、またはそれに基づく。特に指示がない限り、重量部は組成物の100部に基づく。
【0029】
「ケタール」という用語は、ケタール官能基を有する分子、すなわち、2つの−OR基に結合した炭素を含む分子を指し、そこでOは酸素であり、Rは任意のアルキル基または水素を表す。「揮発性物質」という用語は、標準温度と圧力で容易に気化することができる化合物を指す。「不揮発性物質」という用語は、標準温度と圧力で容易に気化することができない化合物を指す。「安定化された」という用語は(例えば「安定化された」1,1−ジエステル−1−アルケンまたはそれを含む組成物に関して)、化合物(またはその組成物)の、実質的に経時的に重合しない、実質的に経時的な硬化も、ゲル形成も、増粘もさもなければ粘度増加もしない、及び/または経時的な硬化速度の最小損失を実質的に示す(すなわち、硬化速度が維持される)性質を指す。本明細書にて開示したポリエステルマクロマーを調製するために使用する成分に関する残基とは、ポリオール(例えばジオール)、ジエステル(例えば1,1−ジエステル−1−アルケン)及び/またはジヒドロカルビルジカルボキシレートなどの成分の一部を意味し、それは本明細書で開示した方法によってもたらされる包含の後の化合物中にある。本明細書で使用する場合、実質的にすべてとは、参照パラメータ、組成物もしくは化合物の95パーセント超が所定の評価基準を満たす、参照パラメータ、組成物もしくは化合物の99パーセント超が所定の評価基準を満たす、または参照パラメータ、組成物もしくは化合物の99.5パーセント超が所定の評価基準を満たす、ことである。
【0030】
1つ以上のジオール及び1つ以上のジエステルの残基を含有する1つ以上の鎖を含む、ポリエステルマクロマーを開示し、ジエステルの一部は1,1−ジエステル−1−アルケンを含む。ジオール及びジエステルの残基は、鎖に沿って交互に入れ替わることができる、または鎖に沿ってランダムに配置されることができる。ジエステルは、ポリオールまたはジオールとエステル交換される任意のジエステル化合物も更に含み得る。ジエステル化合物にはジヒドロカルビルジカルボキシレートがある。ポリエステルマクロマーは、記載されているように3つ以上の鎖を有し得る。3つ以上の鎖を有するポリエステルマクロマーは、もともとは3つ以上のヒドロキシル基を有するポリオールの残基を含む。3つ以上の鎖は、3つ以上のヒドロキシル基のそれぞれから広がる。3つ以上の鎖を有するポリオールは、ポリエステルマクロマーの鎖のそれぞれが広がるイニシエータとして機能する。ポリオールがジオールである場合、形成されるマクロマーが線形であるので、単鎖が作製される。3つ以上のヒドロキシル基を有するポリオールがマクロマーを調製するために使用される場合、ヒドロキシル基のすべてが鎖を広げるというわけではないので、それは2つ以上の鎖を有し得る。マクロマーは1つ以上の鎖を含んでよい、2つ以上の鎖を含んでよい、または3つ以上の鎖を含んでよい。マクロマーは8つ以下の鎖、6つ以下の鎖、4つ以下の鎖または3つ以下の鎖を含有し得る。鎖は、1つ以上のポリオール、1つ以上のジオール、ならびに1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケン及び所望により1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートを含む1つ以上のジエステルの残基を含んでよい。鎖は、1つ以上のジオール、ならびに1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケン及び所望により1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートを含む1つ以上のジエステルの残基を含んでよい。ポリエステルマクロマーは、鎖の1つの末端で、少なくとも1つの1,1−ジエステル−1−アルケンの残基を含有する。ポリエステルマクロマーは、鎖のうちの1つ以上の末端で、1つ以上のジオールまたはジヒドロカルビルジカルボキシレートを更に含み得る。鎖の末端の実質的にすべては、1,1−ジエステル−置換アルケンでもよい。
【0031】
ポリエステルマクロマーは1つ以上のポリオールの残基の十分な量を含んでもよく、これに関してポリオールは、所望の数の鎖を開始するために、3つ以上のヒドロキシル基を有する。ポリエステルマクロマーのポリオールの残基は、約20モルパーセント以上、約30モルパーセント以上または約40モルパーセント以上でもよい。ポリエステルマクロマーのポリオールの残基は、約50モルパーセント以下または約40モルパーセント以下でもよい。ポリエステルマクロマーは1つ以上のジオールの残基の十分な量を含んでもよく、これに関してポリオールは、所望の鎖長及び数平均分子量を有するポリエステルマクロマーを調製するために、2つのヒドロキシル基を有する。ポリエステルマクロマーのジオールの残基は、約20モルパーセント以上、約40モルパーセント以上または約50モルパーセント以上でもよい。ポリエステルマクロマーのジオールの残基は、約50モルパーセント以下、約40モルパーセント以下または約30モルパーセント以下でもよい。ポリエステルマクロマーは、1,1−ジエステル−置換−1−アルケンの十分な量の残基を含んで、ポリエステルマクロマーを含有する組成物に所望の架橋密度を提供し得る。ポリエステルマクロマーの1,1−ジエステル−置換−1−アルケンの残基は、約20モルパーセント以上、約30モルパーセント以上または約40モルパーセント以上でもよい。ポリエステルマクロマーの1,1−ジエステル−置換−1−アルケンの残基は、約50モルパーセント以下、約40モルパーセント以下または約30モルパーセント以下でもよい。ポリエステルマクロマーは、ジヒドロカルビルジカルボキシレートの十分な量の残基を含んで、ポリエステルマクロマーを含有する組成物に架橋の間の所望の空隙を提供して、ポリエステルマクロマーを含有する構造に所望の可撓性及び/または弾性を提供し得る。ポリエステルマクロマーのジヒドロカルビルジカルボキシレートの残基は、約10モルパーセント以上、約20モルパーセント以上または約30モルパーセント以上でもよい。ポリエステルマクロマーのジヒドロカルビルジカルボキシレートの残基は、約50モルパーセント以下、約40モルパーセント以下または約30モルパーセント以下でもよい。
【0032】
ポリエステルマクロマーは式1に対応してもよく、
【化7】
式中、Zは出現ごとに独立して−ROHまたは−Rであり;Rは出現ごとに独立して1つ以上のヘテロ原子を含有し得るヒドロカルビル基であり;Rは出現ごとに独立して酸素原子への2つ以上の結合を有するヒドロカルビレン基であり;cは1以上の整数であり;nは約1〜3の整数である。Rに関して、酸素原子に対する結合は、Rの使用の状況に応じて、ポリオール、ジオールもしくはジエステル、またはその残基の酸素への結合を含み得る。
【0033】
ポリエステルマクロマーは、1つ以上のジオール及び1つ以上のジエステルの残基の1つの鎖を含んでよい。ポリエステルマクロマーは式2に対応してもよく、
【化8】
式中、Z、R及びRは上で定義したとおりであり;mは約1〜3の整数である。
【0034】
1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基及び1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートの残基を含有するポリエステルマクロマーは、式3〜式6のうちの1つに対応してよく、
【化9】
ここでDは式
【化10】
に対応し、
【化11】
ここでEは式
【化12】
に対応し、
式中、Z、R、R及びmは上で定義したとおりであり;Rは出現ごとに独立して、状況に応じて1つ以上のジエステルのカルボニル基へ、またはこのようなジエステルの残基へ2つの結合を有するヒドロカルビレン基であり、そこでヒドロカルビレン基は1つ以上のへテロ原子を含有してもよく;cは1または2以上の整数であり;dは0または1の整数であり;eは0または1の整数であり;fは整数1であり;nは約1〜3の整数であり;pは2以上の整数であり;qは1以上の整数であり;そこでdとeの各対は1に等しくなければならない。pは3以上の整数でもよい。pは8以下、6以下または3以下の整数でもよい。qは4以下または3以下の整数でもよい。
【0035】
ポリエステルマクロマーは、その主鎖に、少なくとも1つのジエステル及び1つのジオールの残基を含む繰り返し単位を含有し得る。ジエステルの大部分は、1,1−ジエステル置換−1−アルケンである。ジエステルの一部は、1,1−ジヒドロカルビルジカルボキシレートでもよい。ポリエステルマクロマーは、その主鎖に、少なくとも1つのジエステル及び1つのジオールの残基を含む十分な数の繰り返し単位を含有し、本明細書にて開示するポリエステルマクロマーの使用(例えばコーティング、フィルム、繊維、粒子などにおいて)を促進する。ポリエステルマクロマーの少なくとも1つのジエステル及び1つのジオールの残基を含む繰り返し単位の数は、2つ以上、4つ以上または6つ以上でもよい。ポリエステルマクロマーの少なくとも1つのジエステル及び1つのジオールの残基を含む繰り返し単位の数は、10つ以下、8つ以下または6つ以下でもよい。いくつかのポリエステルマクロマーのジエステルは、すべて1,1−ジエステル−1−アルケンであることができる。いくつかのポリエステルマクロマーのジエステルは、1,1−ジエステル−1−アルケン及びジヒドロカルビルジカルボキシレートであることができる。いくつかのポリエステルマクロマーの1,1−ジエステル−1−アルケン及びジヒドロカルビルジカルボキシレートのモル比は、ポリエステルマクロマーから調製される構造の所望の架橋の程度を提供するように選択される。いくつかのポリエステルマクロマーの1,1−ジエステル−1−アルケン及びジヒドロカルビルジカルボキシレートのモル比は、1:1以上、6:1以上または10:1以上でもよい。いくつかのポリエステルマクロマーの1,1−ジエステル置換−1−アルケン及びジヒドロカルビルジカルボキシレートのモル比は、15:1以下、10:1以下、6:1以下または4:1以下でもよい。ポリエステルマクロマーは、約600以上、約700以上、約900以上、約1000以上または約1200以上の数平均分子量を示してよい。ポリエステルマクロマーは、約3000以下、約2000以下または約1600以下の数平均分子量を示してよい。本明細書で使用する場合、数平均分子量は、試料のポリマー分子の総重量を、試料のポリマー分子の総数によって割ることで確定される。ポリエステルマクロマーの多分散度は、約1.05以上または約1.5以上でもよい。ポリエステルマクロマーの多分散度は、約2.5以下または約1.5以下でもよい。多分散度を計算するために、重量平均分子量は、ポリメチルメタクリレート標準を用いたゲル透過クロマトグラフィーを使用して決定される。
【0036】
開示したポリエステルマクロマーは、1,1−ジエステル−1−アルケン、ジオール、ポリオール及び/またはジヒドロカルビルジカルボキシレートから調製してよい。特定の成分の選択、成分の比率及び一連の処理ステップは、ポリエステルマクロマーの最終構造及び含量に影響を与える。2つより多いヒドロキシル基を有するポリオールの存在は、鎖を開始させるために機能し、2つ超の鎖を有するポリエステルマクロマーの形成をもたらし、すなわちマクロマーは分岐を示し、ポリマーは線状ではない。1,1−ジエステル−1−アルケンは、鎖を形成して、アニオン性及び/またはフリーラジカル重合を介して架橋できるペンダントアルケン基を導入するのに役立つ。ジオールは単鎖を開始し得て、鎖はポリエステルマクロマーを拡張させる。ジヒドロカルビルジカルボキシレートは鎖を形成して、ペンダントアルケン基を互いに離間させるように機能して、それによって架橋の間の距離及び架橋当たりの平均分子量を増加させるのに役立つ。
【0037】
1,1−ジエステル−1−アルケンは、1つの炭素原子と呼ばれる中心の炭素原子を含む。二重結合を介した2つのエステル基と別の炭素原子のカルボニル基は、1つの炭素原子に結合される。二重結合は、2つのカルボニル基に結合されているため、高反応性である。二重結合した炭素は、高反応性であるアルケニル基の一部でもよい。アルケニル基は、C2−4アルケニル基またはメチレン基(C=C)でもよい。エステルは、カルボニル基に結合した酸素に結合したヒドロカルビル基を含有し、そこでヒドロカルビル基は、官能基を含有するヘテロ原子を含む1つ以上のへテロ原子を含有してよい。ヒドロカルビル基は、本明細書にて開示した条件下でエステル交換を受けることができる、任意のヒドロカルビル基であることができる。エステルのヒドロカルビル基は、出現ごとに独立して、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アルキルヘテロシクリル、アリール、アラルキル、アルカリル、ヘテロアリールもしくはアルクヘテロアリール、もしくはポリオキシアルキレンでもよい、またはヒドロカルビル基の両方は5〜7員の環状または複素環を形成し得る。エステルのヒドロカルビル基は、出現ごとに独立して、C−C15アルキル、C−C15アルケニル、C−Cシクロアルキル、C2−20ヘテロシクリル、C3−20アルクヘテロシクリル、C6−18アリール、C7−25アルカリル、C7−25アラルキル、C5−18ヘテロアリールもしくはC6−25アルキルヘテロアリール、もしくはポリオキシアルキレンでもよく、またはヒドロカルビル基の両方は5〜7員の環状または複素環を形成し得る。列挙した基は1つ以上の置換基で置換され得て、それはエステル交換反応を妨げない。代表的な置換基は、ハロ、アルキルチオ、アルコキシ、ヒドロキシル、ニトロ、アジド、シアノ、アシルオキシ、カルボキシまたはエステルを含む。エステルのヒドロカルビル基は、出現ごとに独立して、C−C15アルキル、C−Cシクロアルキル、C4−18ヘテロシクリル、C4−18アルクヘテロシクリル、C6−18アリール、C7−25アルカリル、C7−25アラルキル、C5−18ヘテロアリールもしくはC6−25アルキルヘテロアリール、またはポリオキシアルキレンでもよい。エステルのヒドロカルビル基は、出現ごとに独立して、C1−4アルキルでもよい。エステルのヒドロカルビル基は、出現ごとに独立して、メチルまたはエチルでもよい。エステルのヒドロカルビル基は、1,1−ジエステル−1−アルケン化合物の各エステル基のものと同じでもよい。代表的な化合物は、ジメチル、ジエチル、エチルメチル、ジプロピル、ジブチル、ジフェニル及びエチル−エチルグルコネートマロネートである。化合物は、ジメチル及びジエチルメチレンマロネートでもよい。1,1−ジエステル−1−アルケンはMalofskyらのUS8,609,885、8,884,051及びUS9,108,914に開示されているようにして調製でき、すべては参照により本明細書に組み込まれる。
【0038】
1,1−ジエステル−1−アルケン化合物は式7に対応してもよく、
【化13】
は、出現ごとに独立して、本明細書で開示される方法の条件下で、置換またはエステル交換を受けることができる基である。Rは、出現ごとに独立して、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アルキルヘテロシクリル、アリール、アラルキル、アルカリル、ヘテロアリールもしくはアルクヘテロアリール、もしくはポリオキシアルキレンでもよい、またはRの両方は5〜7員の環状または複素環を形成し得る。Rは、出現ごとに独立して、C−C15アルキル、C−C15アルケニル、C−Cシクロアルキル、C2−20ヘテロシクリル、C3−20アルクヘテロシクリル、C6−18アリール、C7−25アルカリル、C7−25アラルキル、C5−18ヘテロアリールもしくはC6−25アルキルヘテロアリール、もしくはポリオキシアルキレンでもよく、またはR基の両方は5〜7員の環状または複素環を形成し得る。列挙した基は1つ以上の置換基で置換され得て、それはエステル交換反応を妨げない。代表的な置換基は、ハロ、アルキルチオ、アルコキシ、ヒドロキシル、ニトロ、アジド、シアノ、アシルオキシ、カルボキシまたはエステルを含む。Rは、出現ごとに独立して、C−C15アルキル、C−Cシクロアルキル、C4−18ヘテロシクリル、C4−18アルクヘテロシクリル、C6−18アリール、C7−25アルカリル、C7−25アラルキル、C5−18ヘテロアリールもしくはC6−25アルキルヘテロアリール、またはポリオキシアルキレンでもよい。Rは、出現ごとに独立して、C1−4アルキルでもよい。Rは、出現ごとに独立して、メチルまたはエチルでもよい。Rは、1,1−ニ置換アルケン化合物の各エステル基のものと同じでも異なってもよい。
【0039】
1,1−二置換アルケン化合物の1つの種類は、式8に対応し得るメチレンマロネートであり、
【化14】
ここでRは前に本明細書に記載されたとおりである。
【0040】
1,1−ジエステル−アルケンは、重合及び/または架橋できるポリエステルマクロマー内に含まれることができるように、十分に高純度となる方法を用いて調製され得る。1,1−ジエステル−1−アルケンの純度は十分に高くてもよく、その結果、1,1−ジエステル−1−アルケンを含むポリエステルマクロマーの70モルパーセント以上、80モルパーセント以上、90モルパーセント以上、95モルパーセント以上、または99モルパーセント以上が、重合または硬化工程中にポリマーに変換され得る。1,1−ジエステル−1−アルケンの純度は、1,1−ジエステル−1−アルケンの合計モルに基づいて約85モルパーセント以上、約90モルパーセント以上、約93モルパーセント以上、約95モルパーセント以上、約97モルパーセント以上、または約99モルパーセント以上であり得る。1,1−ジエステル−1−アルケンが類似の1,1−ジエステルアルカンを含む場合、それは約10モルパーセント以下または約1モルパーセント以下であり得る。ジオキサン基を含有する任意の不純物の濃度は、1,1−ジエステル−1−アルケンの合計モルに基づいて、約2モルパーセント以下、約1モルパーセント以下、約0.2モルパーセント以下または約0.05モルパーセント以下であり得る。類似のヒドロキシアルキル基で置換されたアルケン基を有する(例えば、アルケンと水とのマイケル付加によって)任意の不純物の合計濃度は、1,1−ジエステル−アルケンの合計モルに基づいて、約3モルパーセント以下、約1モルパーセント以下、0.1モルパーセント以下または約0.01モルパーセント以下であり得る。1,1−ジエステル−1−アルケンは、反応生成物または中間反応生成物(例えば、ホルムアルデヒド源及びマロン酸エステルの反応生成物または中間反応生成物)を蒸留することのうちの1つ以上(例えば2つ以上)のステップを含む工程によって調製され得る。
【0041】
有用なポリオールは、ヒドロカルビレン主鎖に結合した2つ以上のヒドロキシル基を備えるヒドロカルビレン主鎖を有する化合物であり、それは、本明細書にて開示したエステル交換の条件下で、エステル化合物をエステル交換することができる。本明細書で有用なポリオールは2つの群に入る。第1群は、ヒドロカルビレン主鎖に結合した2つのヒドロキシル基を有し、及びポリエステルマクロマーの鎖を開始しかつ拡張するために機能するジオールである。ヒドロカルビレン主鎖に結合した2つより多いヒドロキシル基を有するポリオールは、2つ超の鎖を開始するために機能する。ジオールは、2つ超の鎖を拡張するためにも機能し得る。ポリオールは、2〜10のヒドロキシル基、2〜4つのヒドロキシル基、または2〜3つのヒドロキシル基を有し得る。ジオールを含有するポリオールの主鎖は、アルキレン、アルケニレン、シクロアルキレン、ヘテロシクリレン、アルキルヘテロシクリレン、アリーレン、アラルキレン、アルカリーレン、ヘテロアリーレン、アルクヘテロアリーレンまたはポリオキシアルキレンでもよい。主鎖は、C−C15アルキレン、C−C15アルケニレン、C−Cシクロアルキレン、C2−20ヘテロシクリレン、C3−20アルクヘテロシクリレン、C6−18アリーレン、C7−25アルカリーレン、C7−25アラルキレン、C5−18ヘテロアリーレン、C6−25アルキルヘテロアリーレンまたはポリオキシアルキレンでもよい。アルキレン部は直鎖でも分枝鎖でもよい。列挙した基は1つ以上の置換基で置換され得て、それはエステル交換反応を妨げない。代表的な置換基は、ハロ、アルキルチオ、アルコキシ、ヒドロキシル、ニトロ、アジド、シアノ、アシルオキシ、カルボキシまたはエステルを含む。主鎖はC2−10アルキレン基でもよい。主鎖は、直鎖または分枝鎖であり得るC2−8アルキレン基(例えばエチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、2−エチルヘキシレン、ヘプチレン、2−メチル1,3プロピレンまたはオクチレン)でもよい。アルキレン鎖の2位にメチル基を有するジオールを使用してよい。代表的なジオールは、エタンジオール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、2エチルヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、2−メチル1,3プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール及び1,4−シクロヘキサノールを含む。ポリオールは式9
【化15】
に対応し得て、
ジオールは式10
【化16】
に対応し得て、
は、出現ごとに独立して、ポリオールのヒドロキシル基への2つ以上の結合を有するヒドロカルビレン基である。Rは、出現ごとに独立して、アルキレン、アルケニレン、シクロアルキレン、ヘテロシクリレン、アルキルヘテロシクリレン、アリーレン、アラルキレン、アルカリーレン、ヘテロアリーレン、アルクヘテロアリーレンまたはポリオキシアルキレンでもよい。Rは、出現ごとに独立して、C−C15アルキレン、C−C15アルケニレン、C−Cシクロアルキレン、C2−20ヘテロシクリレン、C3−20アルクヘテロシクリレン、C6−18アリーレン、C7−25アルカリーレン、C7−25アラルキレン、C5−18ヘテロアリーレン、C6−25アルキルヘテロアリーレンまたはポリオキシアルキレンでもよい。列挙した基は1つ以上の置換基で置換され得て、それはエステル交換反応を妨げない。代表的な置換基は、ハロ、アルキルチオ、アルコキシ、ヒドロキシル、ニトロ、アジド、シアノ、アシルオキシ、カルボキシまたはエステルを含む。Rは、出現ごとに独立して、C2−8アルキレン基(例えばエチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、2−エチルヘキシレン、ヘプチレン、2−メチル1,3プロピレンまたはオクチレン)でもよい。代表的なC−Cシクロアルキレンはシクロヘキシレンを含む。アルキレン基は分枝状でも直鎖でもよく、2つの炭素上にメチル基を有してもよい。アルカリーレンポリオールの中で好ましいのは、−アリール−アルキル−アリール−(例えば−フェニル−メチル−フェニル−または−フェニル−プロピル−フェニル−)などの構造を備えるポリオールである。アルキルシクロアルキレンポリ−イルの中で好ましいのは、−シクロアルキル−アルキル−シクロアルキル−(例えば−シクロヘキシル−メチル−シクロヘキシル−または−シクロヘキシル−プロピル−シクロヘキシル−)などの構造を有するものである。cは8以下、6以下、4以下または3以下の整数でもよく、cは1以上、2以上または3以上の整数でもよい。
【0042】
1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートは、エステル基の間に配置されるヒドロカルビレン基を有する2つのエステル基を備える化合物である。1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートは、芳香族ジカルボキシレート、脂肪族ジカルボキシレート及び脂環式ジカルボキシレートのうちの1つ以上を含んでよい、または1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートでもよく、そこでヒドロカルビル基のうちの1つは脂肪族、脂環式または芳香族でもよく、他は脂肪族、脂環式または芳香族の別の種類から選択され得る。1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートは、主鎖に8〜14の炭素原子を有する1つ以上の芳香族ジカルボキシレート、主鎖に1〜12の炭素原子を有する脂肪族ジカルボキシレート及び主鎖に8〜12の炭素原子を有する脂環式ジカルボキシレートを含んでよい。1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートは、1つ以上のマロネート、テレフタレート、フタレート、イソフタレート、ナフタレン−2,6−ジカルボキシレート、1,3−フェニレンジオキシジアセテート、シクロヘキサン−ジカルボキシレート、シクロヘキサンジアセテート、ジフェニル−4,4’−ジカルボキシレート、サクシネート、グルタレート、アジパート、アゼレート、セバケートまたはこれらの混合物を含んでよい。1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートは、1つ以上のマロネートを含んでもよい。1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートは、式11に対応し得て、
【化17】
式中、Rは上述したとおりであり;
は出現ごとに独立してジエステルのカルボニル基への2つの結合を有するヒドロカルビレン基であり、そこでヒドロカルビレン基は1つ以上のへテロ原子を含有してもよい。Rは出現ごとに独立してアリーレン、シクロアルキレン、アルキレンまたはアルケニレンでもよい。Rは出現ごとに独立してC8−14アリーレン、C8−12シクロアルキレン、C1−12アルキレンまたはC2−12アルケニレンでもよい。Rはメチレンでもよい。
【0043】
ポリエステルマクロマーの調製のための方法のいくつかは、中間体化合物の調製を含む。中間体化合物の1つの種類は、多官能性モノマーである。多官能性モノマーは、1,1−ジエステル−1−アルケン、及びジオールを含むポリオールから調製され得る。ポリオールが2つより多いヒドロキシル基を有する場合、多官能性モノマーの調製は鎖の拡張前が望ましい。多官能性モノマーはポリオールを含み、そこで少なくとも2つのヒドロキシル基が1,1−ジエステル−1−アルケンの残基によって置換される。ポリオールに2つより多い水酸基がある場合、すべてのヒドロキシル基が1,1−ジエステル−1−アルケンと反応するとは限らないと思われる。実質的にすべてのヒドロキシル基は1,1−ジエステル−1−アルケンと反応することが望ましい。構造に関する限り、上述したポリオール及び1,1−ジエステル−1−アルケンの代替例は、多官能性モノマーにもあてはまる。3つ以上のヒドロキシル基を有するポリオールを多官能性モノマーを調製するために使用する場合、それは式12に対応しており、
【化18】
多官能性モノマーを開始するためにジオールを使用する場合、それは式13に対応しており、
【化19】
ここでR、R及びcは上で定義されるとおりである。多官能性モノマーは、以下に開示されるように、及びMalofskyのUS2014/0329980及びUS9,416,091に開示されるように調製できる。
【0044】
ポリエステルマクロマーの調製に使用され得る別の中間体は、カルボニル基のそれぞれと結合したポリオール(例えばジオール)の残基を有する1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートを含む、1つ以上の化合物である。これらの化合物は、ポリオールキャップ化ジヒドロカルビルジカルボキシレートと呼ばれ得る。その一部は、ジオールキャップ化ジヒドロカルビルジカルボキシレートと呼ばれ得る。ジヒドロカルビルジカルボキシレートの各エステル基はエステル交換されて、ヒドロカルビル基をポリオール(例えばジオール)に置換する。得られたポリオールキャップ化ジヒドロカルビルジカルボキシレートは、末端ヒドロキシル基を有する。ポリオールキャップ化ジヒドロカルビルジカルボキシレートは、式14に対応し得て、
【化20】
ジオールキャップ化ジヒドロカルビルジカルボキシレートは、式15に対応し得て、
【化21】
ここでR、R及びcは上述のとおりである。これに関して、Rのヒドロカルビレンは、ポリオールキャップ化ジヒドロカルビルジカルボキシレートのジエステルの残基のカルボニル基に結合される。
【0045】
ポリエステルマクロマーは、ポリマー及びポリマーからの構造を調製するのに有用な組成物に使用してよい。組成物は、ポリエステルマクロマーと所望成分を混合することによって構築し得る。組成物は、ポリエステルマクロマーの調製で形成される化合物の混合物を含み得る、またはそれを含有し得る。他の成分を、ポリエステルマクロマーの調製で形成される化合物の混合物に加えて、ポリエステルマクロマーを含有するポリマー、またはポリマーもしくはポリエステルマクロマーから形成される構造の調製に使用するように設計された組成物を形成し得る。1つの組成物は、i)本明細書に開示した複数のポリエステルマクロマー、ii)1つ以上のポリオール及び1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基を含有する1つ以上の多官能性モノマーであって、ここで多官能性モノマーは1,1−ジエステル−1−アルケンにより置換されたポリオールの実質的にすべてのヒドロキシル基を有する、1つ以上の多官能性モノマー、iii)1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケン、を含む。これらの成分のそれぞれは本明細書に上述した。この組成物は、ポリエステルマクロマーが調製されるとき、形成した反応混合物からとることができる。得られた反応混合物は、分離プロセス(例えば蒸留)を経て、構成成分の所望濃度を得るために、より揮発性種(例えばアルコール、ポリオールまたは未反応のジヒドロカルビルジカルボキシレート)のうちの過剰な1つ以上を除去できる。列挙した化合物のうちの1つ以上を、所望の成分濃度を得るために添加してよい。ポリエステルマクロマーに関して複数とは、同じまたは異なるポリエステルマクロマーであり得る複数のポリエステルマクロマー部が存在することを意味する。ポリエステルマクロマーは、所望のポリマー及びポリマーからの構造を調製し、所望のレベルの架橋を導入するのに十分な量で存在する。本明細書にて開示したポリエステルマクロマーのうちの任意の1つ以上を、組成物に使用してよい。主鎖の1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートの残基を含有するポリエステルマクロマーを用いてよい。組成物で使用するポリエステルマクロマーは、1つ以上のポリオール及び1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基を含んでよい。1,1−ジエステル−1−アルケンは、反応性希釈剤として機能し、目標粘度を示す組成物の形成を容易にするために存在する。1,1−ジエステル−1−アルケンは、調製したポリマーまたは構造の迅速な反応性を提供し得る。1つ以上の多官能性モノマーは、調製したポリマー及び構造の架橋を強化するために存在する。構成成分は、その列挙した目的を達成するのに十分な量で存在する。複数のポリエステルマクロマーは、組成物の約10重量パーセント以上、約30重量パーセント以上、または約60重量パーセント以上の量で存在する。複数のポリエステルマクロマーは、組成物の約80重量パーセント以下、約70重量パーセント以下、または約40重量パーセント以下の量で存在する。多官能性モノマーは、組成物の約5重量パーセント以上、約10重量パーセント以上、約20重量パーセント以上、または約30重量パーセント以上の量で存在する。多官能性モノマーは、組成物の約40重量パーセント以下、約30重量パーセント以下、または約20重量パーセント以下の量で存在する。1,1−ジエステル−1−アルケンは、組成物の約0重量パーセント以上、約1重量パーセント以上、約5重量パーセント以上、約10重量パーセント以上、または約20重量パーセント以上の量で存在する。1,1−ジエステル−1−アルケンは、組成物の約40重量パーセント以下、約30重量パーセント以下、または約20重量パーセント以下の量で存在する。1つ以上のポリオールはジオールでもよい。多官能性モノマーは二官能性でもよい。
【0046】
i)本明細書に開示した複数のポリエステルマクロマー、ii)1つ以上のポリオール及び1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基を含有する1つ以上の多官能性モノマーであって、ここで多官能性モノマーは1,1−ジエステル−1−アルケンにより置換されたポリオールの実質的にすべてのヒドロキシル基を有する、1つ以上の多官能性モノマー、iii)1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケン、を含む組成物を、追加の組成物を調製するための主成分として使用してよい。この組成物は、所望のとおり機能するのに十分な量でこのような他の組成物で使用してよい。この組成物は、形成した組成物の約30重量パーセント以上、約60重量パーセント以上、または約80重量パーセント以上の量で存在してよい。この組成物は、組成物の約80重量パーセント以下、約60重量パーセント以下、または約30重量パーセント以下の量で存在してよい。このような組成物は、揮発性溶媒を含んでもよい。揮発性溶媒は、構成成分と反応しない、または組成物を硬化させることを妨害しない、任意の溶媒でもよい。溶媒は、約50℃以上で揮発性でもよい。溶媒は、揮発性の極性溶媒でもよい。アルコキシアルカノール、ヒドロキシル基を有しないアセテートキャップ化グリコールエーテルなどが、このような溶媒に包含される。ヒドロキシル基を有しない代表的なアセテートキャップ化グリコールエーテルには、末端のアルコキシ基及びアセテート基を有するアルキレングリコールが含まれる。アルキレングリコールは、エチレン、プロピレン及び/またはブチレングリコールをベースにしてよい。アルコキシ基は、C1−10アルコキシ基(例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ及びブトキシ基)でもよい。代表的な溶媒には、2−ブトキシエタノール及びプロピレングリコールメチルエーテルアセテートが含まれる。揮発性溶媒は、組成物の送達を容易にする溶媒である所望どおりの組成物の使用を容易にするのに、十分な量で存在する。揮発性溶媒は、組成物の約0重量パーセント以上、約5重量パーセント以上、約10重量パーセント以上、または約20重量パーセント以上の量で存在する。揮発性溶媒は、組成物の約40重量パーセント以下、約20重量パーセント以下、または約10重量パーセント以下の量で存在する。形成した組成物は、追加の量の1,1−ジエステル−1−アルケンを含んでよい。追加の1,1−ジエステル−1−アルケンは、反応希釈剤として機能し、重合を促進するために形成される組成物中に存在する。追加の1,1−ジエステル−1−アルケンは、組成物の約5重量パーセント以上、約10重量パーセント以上、または約30重量パーセント以上の量で存在してよい。追加の1,1−ジエステル−1−アルケンは、組成物の約50重量パーセント以下、約40重量パーセント以下、または約30重量パーセント以下の量で存在してよい。
【0047】
形成した組成物は、このような組成物の基材への適用を容易にする1つ以上の湿潤剤またはレベリング剤を更に含んでよい。基材への組成物の適用を強化する、任意の湿潤剤及び/またはレベリング剤を使用してもよい。湿潤剤またはレベリング剤の代表的な種類は、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、フッ素化炭化水素などを含む。湿潤剤は、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンでもよい。湿潤剤及び/またはレベリング剤は、組成物の基材への適用を容易にするのに十分な量で存在する。湿潤剤は、組成物の約0.01重量パーセント以上、約0.5重量パーセント以上、または約5重量パーセント以上の量で存在してよい。湿潤剤は、組成物の約5重量パーセント以下、約2重量パーセント以下、または約1重量パーセント以下の量で存在してよい。形成した組成物は、ポリエステルマクロマーを含有する構造の破壊を阻害する1つ以上のUV安定剤を更に含んでよい。紫外線への曝露に起因する破壊を阻害する、任意のUV安定剤を使用してもよい。紫外線安定剤の代表的な種類は、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール及びヒンダードアミン(ヒンダードアミン光安定剤(HALS)として一般に公知)を含む。代表的なUV光安定剤は、Cyasorb UV−531 2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、Tinuvin571 2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−ドデシル−4−メチルフェノール、分枝及び直鎖Tinuvin 1,2,3ビス−(1−オクチルオキシ−2,2,6,6,テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、及びTinuvin765,ビス(1,2,2,6,6,−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケートを含む。UV光安定剤は、ポリエステルマクロマーを含有する組成物の耐久性を強化するのに十分な量で存在する。UV光安定剤は、組成物の約0.01重量パーセント以上、約0.1重量パーセント以上、または約0.2重量パーセント以上の量で存在してよい。UV光安定剤は、組成物の約5重量パーセント以下、約3重量パーセント以下、約2重量パーセント以下、または約1重量パーセント以下の量で存在してよい。組成物は、消泡剤及び/または脱気剤を更に含んでよい。ポリエステルマクロマーを含有する組成物は、コーティングの表面及び外観に関して課題を生じる可能性がある処理の間、発泡し得る。発泡または泡の形成を防ぎ、組成物の特性に悪影響を及ぼさない任意の消泡剤及び/または脱気剤を使用してもよい。代表的な消泡剤は、シリコーン消泡剤、シリコーン非含有消泡剤、ポリアクリレート消泡剤、これらの混合物などである。代表的な消泡剤は、Emeraldから入手可能なFOAM BLAST(商標)20F、FOAM BLAST(商標)30シリコーン消泡化合物及びFOAM BLAST(商標)550ポリアクリレート消泡剤、Degussa製のTEGO AIREX(商標)920ポリアクリレート消泡剤及びTEGO AIREX(商標)980、Siltech Corporation製のSILMER ACR(商標)Di−10及びACR(商標)Mo−8ポリジメチルシロキサンアクリレートコポリマー、Degussaから入手可能なFOAMEX N(商標)またはTEGO AIREX(商標)900シリコーン系消泡剤、またはBYK Chemie製のBYK(商標)1790シリコーン非含有消泡剤を含む。消泡剤/脱気剤は、気泡及び/または泡状物質の形成を防ぐのに十分な量でポリエステルマクロマー組成物中に存在する。過剰に使用すると、所望の表面に対する接着性及び接着剤は悪影響を受ける可能性がある。消泡剤及び/または脱気剤は、組成物の重量を基準にして約0.05重量パーセント以上、及びより好ましくは約0.1重量パーセント以上の量で存在してよい。消泡剤/脱気剤は、組成物の重量を基準にして約2.0重量パーセント以下、または約1.0重量パーセント以下の量で存在してよい。
【0048】
これらの組成物は、引っ掻き耐性を改善するための添加剤を含有してよい。引っ掻き耐性を改善する任意の添加剤を用いてよい。代表的な引っ掻き耐性添加剤は、ケイ酸塩、アルミナ、ジルコニア、炭化物、酸化物、窒化物または高硬度を備える他の任意の充填剤を含んでよい。引っ掻き耐性添加剤の種類は、アルミナ(例えば、αアルミナ)、シリカ、ジルコニア、炭化ホウ素、炭化ケイ素、酸化セリウム、ガラス、ダイヤモンド、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化イットリウム、二ホウ化チタン、アルミノケイ酸塩(すなわち3M製「Zeeospheres」)、炭化チタン、これらの組み合わせなどを含んでよい。引っ掻き耐性添加剤の種類は、ケイ酸塩及びアルミナである。代表的な引っ掻き耐性添加剤は、ナノメートルにサイズ設定されたシリカ充填剤を含んでよい。引っ掻き耐性添加剤は、約10マイクロメートル以下または約5マイクロメートル以下の粒径を有してよい。引っ掻き耐性添加剤は、コーティングの表面硬度及び耐摩耗性を強化するのに十分な量で存在してよく、均一な分散体を調製できる量で存在してよい。引っ掻き耐性添加剤は、組成物の約0.1重量パーセント以上または約0.5重量パーセント以上の量で存在してよい。引っ掻き耐性添加剤は、組成物の約5重量パーセント以下、約2重量パーセント以下、または約1重量パーセント以下の量で存在してよい。
【0049】
これらの組成物は、表面滑り性を改善するための添加剤を含んでよい。表面滑り性を改善する任意の周知の組成物を使用してもよい。代表的な表面滑り添加剤は、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、ワックスなどでもよい。代表的なワックスは、アクリレートモノマー中のポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレンまたはポリプロピレンワックス分散体をベースとしたもの(例えばShamrock Technologies製のEVERGLIDE(商標)もしくはS−395もしくはSSTシリーズ製品)、またはポリアミド粒子(Arkema製のORGASOL(商標))、または反応性アクリレート基を備えたモンタンワックス(例えばClariant製のCERIDUST(商標)TP 5091、またはByk−Chemie製のCERAFLOUR(商標)ワックス粉末)を含む。ワックスは、組成物から調製されるコーティングの所望の厚みより小さい粒径を有する粉末形態でもよい。最大粒径は、約30マイクロメートル以下、約25マイクロメートル以下、約20マイクロメートル以下または約15マイクロメートル以下でもよい。ワックスは、高結晶質でもよい。代表的なワックスは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、またはこれらの混合物及びコポリマーを含む。ワックスは、結晶性ポリエチレンもしくはポリテトラフルオロエチレン、またはポリエチレンとポリテトラフルオロエチレンのブレンドでもよい。表面滑り添加剤は、組成物の約0.1重量パーセント以上または約0.5重量パーセント以上の量で存在してよい。表面滑り添加剤は、組成物の約5重量パーセント以下、約2重量パーセント以下、または約1重量パーセント以下の量で存在してよい。
【0050】
1つ以上のポリエステルマクロマーを含む組成物、または本明細書にて開示する1つ以上のポリエステルマクロマー及びヒドロキシル基の代わりにその末端のうちの少なくとも1つに配置される1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基を有する1つ以上のポリオールを含有する組成物を開示する。1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基は、ヒドロキシル基の代わりにその末端のうちの少なくとも2つに配置されてもよい。1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基は、ヒドロキシル基の代わりにその末端の実質的にすべてに配置されてもよい。1つ以上のポリオールは、2つ以上の鎖、及び1つ以上の鎖の末端に1つ以上の1,1−二置換アルケンの残基を有してよい。ポリオールは、本明細書で開示される方法を使用してエステル交換できる任意のポリオールでもよい。ポリオールは、ポリエステルマクロマーを含有する組成物から調製される硬化した及び/または架橋したコーティング、フィルム及び他の構造に、弾性を付与する、任意のポリオールでもよい。代表的なポリオールは、1つ以上のポリエーテルポリオール、ポリシロキサンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、またはポリブタジエニルポリオールを含む。ポリオールは、1つ以上のポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、またはポリエステルポリオールでもよい。ポリオールは1つ以上のポリカーボネートポリオールでもよい。ポリオールは二官能性または三官能性でもよい。1つ以上のポリエステルマクロマー及び1つ以上のエンドキャップ化ポリオールを含有する組成物は、硬化したコーティング、フィルムまたは他の構造を調製するために、十分な量の1つ以上のポリエステルマクロマーを含み得る。ポリエステルマクロマーは、ポリエステルマクロマー及びポリオールを含有する組成物の約10重量パーセント以上、約20重量パーセント以上、または約40重量パーセント以上の量で存在する。ポリエステルマクロマーは、ポリエステルマクロマー及びポリオールを含有する組成物の約80重量パーセント以下、約60重量パーセント以下、または約40重量パーセント以下の量で存在する。ポリオールは、組成物から調製される硬化した及び/または架橋したコーティング、フィルム、繊維、粒子または他の構造に所望の可撓性を導入するのに十分な量で存在する。ポリオールは、ポリエステルマクロマー及びポリオールを含有する組成物の約10重量パーセント以上、約20重量パーセント以上、または約30重量パーセント以上の量で存在する。ポリオールは、ポリエステルマクロマー及びポリオールを含有する組成物の約30重量パーセント以下、約20重量パーセント以下、または約10重量パーセント以下の量で存在する。ポリエステルマクロマー及びポリオールを含有する組成物は、1つ以上の溶媒を更に含んでもよい。1つ以上の溶媒は、ポリエステルマクロマー及びポリオールを含有する組成物の送達を強化するために存在する。代表的な溶媒の種類は上に開示した。1つ以上の溶媒は、ポリエステルマクロマー及びポリオールを含有する組成物の送達を強化するのに十分な量で存在する。溶媒は、ポリエステルマクロマー、ポリオール、及び溶媒を含有する組成物及び溶媒の約5重量パーセント以上、約10重量パーセント以上、または約20重量パーセント以上の量で存在してよい。溶媒は、ポリエステルマクロマー、ポリオール、及び溶媒を含有する組成物及び溶媒の約40重量パーセント以下、約30重量パーセント以下、または約20重量パーセント以下の量で存在してよい。ポリエステルマクロマー及びポリオールは、ポリエステルマクロマー含有組成物に有用であるように、本明細書にて開示した成分のいずれかを含んでよい。
【0051】
本明細書にて開示したポリエステルマクロマー組成物は、コーティング、フィルム、繊維、粒子及び他の構造を調製するために使用できる。このような構造は硬化され得る、または架橋され得る。架橋型組成物は、マクロマー鎖からのアルケン基側枝によって架橋され得る。架橋は、隣接するマクロマー鎖のアルケン基間の直接結合でもよい。マクロマー鎖は、プレポリマーまたはポリマー鎖中に含まれてよい。マクロマー鎖は、アニオン重合またはフリーラジカル重合によって重合する不飽和を有する、任意の化合物により架橋されてもよい。ポリエステルマクロマー鎖は1,1−ジエステルアルケンにより架橋されてもよく、そこで架橋は1,1−ジエステルアルケンの残基を含む。ポリエステルマクロマー鎖は多官能性モノマーにより架橋されてもよく、そこで架橋は多官能性モノマーの残基を含む。鎖間の架橋は、式16で示され得て、
【化22】
ここでFは出現ごとに独立して直接結合、アニオン重合またはフリーラジカル重合によって不飽和基と重合する化合物の残基である。Fは、出現ごとに独立して、直接結合、1,1−ジエステル−1−アルケンまたは多官能性モノマーの残基でもよい。ポリエステルマクロマーを含有する架橋型組成物の架橋密度は、組成物の所望の特性を提供する任意の密度でもよい。
【0052】
ポリエステルマクロマー及びそれを含有する組成物は、塩基性硬化開始剤に曝露されるとき、重合を受け得る。塩基性である基材表面に適用される場合、ポリエステルマクロマーはアニオン重合を介して硬化する。ポリエステルマクロマー及びポリエステルマクロマーを含有する組成物は、重合活性化剤として塩基性材料を含有する組成物と接触する場合、硬化を受けることができる。重合活性化剤及び重合活性化剤を送達する方法は、MalofskyのUS9,181,365に開示されており、その全体をすべての目的に関して参照により本明細書に組み込む。重合活性化剤は、塩基、塩基性促進剤、塩基性作成剤または塩基性前駆体のうちの少なくとも1つを含んでよい。重合活性化剤は、強塩基(pH9超)、中程度の強塩基(pH8〜9)、もしくは(弱塩基性)弱塩基(pH7〜8)またはこれらの組み合わせから選択される塩基性材料を含んでよい。重合活性化剤は、有機材料、無機材料もしくは有機金属材料、またはこれらの組み合わせから選択した塩基性材料を含んでよい。重合活性剤は、酢酸ナトリウム;酢酸カリウム;ナトリウム、カリウム、リチウム、銅及びコバルトの酸性塩;テトラブチルアンモニウムフッ化物、塩化物及び水酸化物;一級、二級または三級アミン;アミド;ポリマー結合酸の塩;安息香酸塩;2,4−ペンタンジオネート塩;ソルビン酸塩;プロピオン酸塩;二級脂肪族アミン;ピペリジン、ピペラジン、N−メチルピペラジン、ジブチルアミン、モルホリン、ジエチルアミン、ピリジン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチレンジアミン、N,N−ジメチルピペラジン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン;有機モノカルボン酸を有するアミンの塩;ピペリジン酢酸;低級モノカルボン酸の金属塩;酢酸銅(II)、酢酸第二銅一水和物、酢酸カリウム、酢酸亜鉛、クロル酢酸亜鉛、クロル酢酸マグネシウム、酢酸マグネシウム;酸含有ポリマーの塩;ポリアクリル酸コポリマーの塩、または塩基性を有する色素から選択される少なくとも1つの成分でもよい。特定の実施形態で、重合活性化剤はワックスにカプセル封止される、または化学的不活化による重合性組成物との不活性結合で提供される。
【0053】
重合性組成物と、重合性組成物から物理的に分離した重合活性化剤と、を含む重合性系を本明細書にて開示し、そこで重合性組成物は、ポリエステルマクロマーまたはポリエステルマクロマーを含有する組成物を含み、重合活性化剤は、実質的な混合をせずに重合性組成物との接触で重合を開始させることが可能である。重合活性化剤は重合性組成物から物理的に分離されてもよく、物理的分離は、塗布具内の別個の場所に活性化剤及び重合性組成物を格納することによって達成される。例示的実施形態にて、塗布具はエアロゾルスプレー装置である。物理的分離は、基材の少なくとも一部に最初に重合活性化剤を適用することによって、続いて基材の一部に重合性組成物を適用することによって達成される。物理的分離は、基材の少なくとも一部内にまたはその上に重合活性化剤を適用することによって達成され得る。重合活性化剤は重合性組成物から物理的に分離され得て、重合活性化剤は不活性状態であり、そこで重合性系は不活性状態から活性状態へ重合活性化剤を変えることが可能な転化剤を含む。塩基性重合開始剤は、開始剤を放出する工程を受けることができる組成物中にカプセル封止され得る。カプセル化開始剤粒子は開始剤基質を含む。開始剤基質は、1つ以上の1,1−二置換アルケン化合物により形成される第1の硬化組成物と、第1の硬化組成物によって実質的にカプセル化される1つ以上の重合開始剤と、を含む。例示組成物は、US9,334,430に開示されており、その全体をすべての目的に関して参照により本明細書に組み込む。
【0054】
1つの部分に本明細書にて開示する1つ以上のポリエステルマクロマーを含有する組成物と、第2部分にポリエステルマクロマーのアニオン重合を開始するのに十分な塩基性を有する1つ以上の化合物と、を含む組成物を開示し、2つの部分を混合するとき、ポリエステルマクロマーは硬化される。本明細書にて開示した塩基性材料のいずれかを使用してもよい。塩基性を有する1つ以上の化合物は、1つ以上のアミンまたはポリアミンでもよい。塩基性を有する1つ以上の化合物は、1つ以上のポリアルキレンイミン(例えばポリエチレンイミン)でもよい。
【0055】
ポリエステルマクロマー及びそれらを含有する組成物は、ポリエステル系構造(例えば基材上のコーティング、フィルム、繊維、接着剤など)の調製に使用されてよい。ポリエステルマクロマーまたはポリエステルマクロマーの残基を含有するコーティング、フィルム、繊維、粒子などを開示する。ポリエステルマクロマーまたはポリエステルマクロマーの残基を含有するコーティングは、基材の1つ以上の表面またはその一部に配置されることができる。フィルム、コーティングまたは他の構造は、硬化及び/または架橋され得る。フィルムまたはコーティングは、約0.0001マイクロメートル以上、約0.01マイクロメートル以上、約0.04マイクロメートル以上または約0.1マイクロメートル以上の厚さを有してよい。コーティングは、硬化及び/または架橋されることができる。コーティングは、約160マイクロメートル以下、約100マイクロメートル以下、約80マイクロメートル以下、または約60マイクロメートル以下、約20マイクロメートル以下、約2マイクロメートル以下、または約1マイクロメートル以下の厚さを有してよい。1つ以上の表面に適用される1つ以上のポリエステルマクロマーを含むコーティング、または1つ以上のポリエステルマクロマーを含有する組成物を備えた基材を含む物品を開示する。
【0056】
下塗り上に配置される本明細書にて開示したポリエステルマクロマーを含有するコーティングを備えた基材上の下塗りを含有する基材を含む物品が、開示される。下塗りは、ポリエステルマクロマーを硬化及び/または架橋するのに十分な塩基性を有してよい。ポリエステルマクロマーを含有するコーティングは透明でもよく、透明なコーティングとして機能してよい。
【0057】
ポリエステルマクロマーまたはそれを含有する組成物は、アルケン部を主鎖に導入するようにポリエステルを調製するために、成分を含有する任意の組成物に加えてもよい。組成物は、ポリエステルを調製するのに当業者に周知であるジオール及びジエステルを含む。ポリエステルマクロマーまたはそれを含有する組成物は、アルケン官能基を加えるために、ポリエステルを含有する混合物に加えてもよい。ポリエステルマクロマーまたはそれを含有する組成物を含有する組成物は、本明細書にて開示するように架橋され得る。
【0058】
ポリエステルマクロマーは、ポリオール、ジオール及びジエステルから調製してよい。ジエステルは1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンを含み、ジヒドロカルビルジカルボキシレートを含んでよい。ポリエステルマクロマーの最終構造を、反応物の比率、及び多官能性モノマー及び/またはジオール1,1−ジエステル−1−アルケン付加物を含む、先に開示した中間体の一連の合成で測定し得る。中間体及びポリエステルマクロマーは、エステル交換により調製され得る。2つより多いヒドロキシル基及びジオールを有するポリオールは、ポリエステルマクロマー鎖を開始させるように機能する。ジオールもジエステルと反応して、マクロマー鎖を形成するように機能する。1,1−ジエステル−1−アルケンはポリオール及びジオールと反応して、マクロマー鎖を形成し、ペンダントアルケン基をマクロマー鎖内に導入する。ジヒドロカルビルジカルボキシレートはポリオール及びジオールと反応して、マクロマー鎖を形成し、ペンダントアルケン基をマクロマー鎖内に導入する。ポリエステルマクロマーは、ポリオール、ジオール及びジエステルを接触させて、それをエステル交換条件下に置くことによって調製してよい。得られたポリエステルマクロマーは、いくらかランダムかつ制御されない構造を有してよい。中間体の使用は、最終構造の制御を可能にするため、中間体を調製し、中間体を使用して、ポリエステルマクロマーを調製することが望ましい場合がある。
【0059】
多官能性モノマーは、1つ以上の多官能性モノマーを形成するような条件下にて、エステル交換触媒の存在下で、1つ以上のポリオールと当量過剰の1つ以上の1,1−ジエステル1−アルケンを接触させることによって調製されてもよく、ここで多官能性モノマーは、ヒドロキシル基のうちの2つ以上が1つ以上の1,1−ジエステル1−アルケンの残基により置換された1つ以上のポリオールを含有する。1つ以上のポリオールに対する1つ以上の1,1−ジエステル1−アルケンの当量の比率は、約2:1以上または約4:1以上でもよい。1つ以上のポリオールに対する1つ以上の1,1−ジエステル1−アルケンの当量の比率は、約5:1以下または約3:1以下でもよい。多官能性モノマーは、ポリエステルマクロマーの鎖の数を制御するために及び/または制御された方法でポリエステルマクロマー鎖を形成するために使用してよい。カルボニル基のそれぞれと結合したポリオールの残基を有する1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートを調製するような条件下にて、ポリオールキャップ化ジヒドロカルビルジカルボキシレートは、エステル交換触媒の存在下で、1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートと過剰の1つ以上のポリオールを接触させることにより調製してもよい。1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートに対する1つ以上のジオールの当量の比率は、約2:1以上でもよい。1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートに対する1つ以上のジオールの当量の比率は、約4:1以下または約3:1以下でもよい。
【0060】
1つ以上の多官能性モノマーを形成するような条件下にて、エステル交換触媒の存在下で、1つ以上のポリオールと当量過剰の1つ以上の1,1−ジエステル1−アルケンを接触させることであって、ここで多官能性モノマーが、ヒドロキシル基のうちの2つ以上が1つ以上の1,1−ジエステル1−アルケンの残基により置換された1つ以上のポリオールを含有する、前記接触させることと;1つ以上のジオール及び1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基の1つ以上の鎖を含有する、1つ以上のポリエステルマクロマーを調製するような条件下にて、エステル交換触媒の存在下で、多官能性モノマーと、ポリオールがジオールであるという条件で追加量の1つ以上のポリオール、またはジオールである1つ以上の第2のポリオールを接触させることであって、ここで1つ以上のジオール及び1つ以上の1,1−ジエステル−1アルケンの残基は鎖に沿って交互に入れ替わり、少なくとも1つの末端は1,1−ジエステル−1アルケンの1つの残基を含み、ここで1つ以上の末端は1つ以上のジオールの残基を含んでよい、前記接触させることと;を含む方法を開示する。多官能性モノマーと追加量の1つ以上のポリオール、または1つ以上の第2のポリオールを、カルボニル基のそれぞれと結合したポリオールの残基を有する1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートを含む1つ以上の化合物と接触させ、その結果、1つ以上のポリエステルマクロマーを調製して、そこで少なくともいくつかのポリエステルマクロマーはその主鎖中に1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートの残基を含有する。カルボニル基のそれぞれと結合したポリオールの残基を有する1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートを調製するような条件下にて、カルボニル基のそれぞれと結合したポリオールの残基を有する1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートを含む1つ以上の化合物は、エステル交換触媒の存在下で、1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートと過剰の1つ以上のポリオールを接触させることにより調製される。
【0061】
1つ以上のジオール、1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレート及び1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基の1つ以上の鎖を含有する1つ以上のポリエステルマクロマーを調製する条件下にて、エステル交換触媒の存在下で1つ以上のジオール、1つ以上の1,1−ジエステル1−アルケン及び1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートを接触させることを含む方法を開示し、そこでそれぞれの残基は無作為に鎖に沿って配置され、少なくとも1つの末端は1,1−ジエステル−1アルケンの1つの残基を含み、そこで1つ以上の末端は1つ以上のジオールの残基を含んでよい。
【0062】
1つ以上の多官能性モノマーを形成するような条件下にて、エステル交換触媒の存在下で、1つ以上のポリオールと当量過剰の1つ以上の1,1−ジエステル1−アルケンを接触させることであって、ここで多官能性モノマーが、ヒドロキシル基のうちの少なくとも2つが1つ以上の1,1−ジエステル1−アルケンの残基により置換された1つ以上のポリオールを含有する、前記接触させることと;1つ以上のジオール、1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレート及び1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基の1つ以上の鎖を含有する1つ以上のポリエステルマクロマーを調製する条件下にて、エステル交換触媒の存在下で1つ以上の多官能性モノマーと、1つ以上のジオール、1つ以上の1,1−ジエステル1−アルケン及び1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートを接触させることであって、そこでそれぞれの残基は無作為に鎖に沿って配置され、少なくとも1つの末端は1,1−ジエステル−1アルケンの1つの残基を含み、そこで1つ以上の末端は1つ以上のジオールの残基を含んでよい、前記接触させることと;を含む方法を開示する。
【0063】
1つ以上のポリオール、1つ以上の1,1−ジエステル−1−アルケンの残基の1つ以上の鎖、及びカルボニル基のそれぞれと結合したポリオールの残基を有するジヒドロカルビルジカルボキシレートを含む1つ以上の化合物を含有する1つ以上のポリエステルマクロマーを調製するような条件下にて、エステル交換触媒の存在下で、ヒドロキシル基が1つ以上の1,1−ジエステル1−アルケンの残基により置換された1つ以上のポリオールを含有する1つ以上の多官能性モノマーと;カルボニル基のそれぞれと結合したポリオールの残基を有するジヒドロカルビルジカルボキシレートを含む1つ以上の化合物と;1つ以上のポリオールと;を接触させること、を含む方法を開示し、少なくとも1つの末端は1,1−ジエステル−1アルケンの1つの残基を含み、そこで1つ以上の末端は1つ以上のジオールの残基を含んでよい。
【0064】
開示した方法で、1つ以上のポリオールまたは第2のポリオールはジオールでもよい。1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートは、芳香族ジカルボキシレート、脂肪族ジカルボキシレート及び脂環式ジカルボキシレートのうちの1つ以上を含む。ジオール及びポリオールのヒドロキシル基からの酸素は、脂肪族炭素原子に結合され得る。
【0065】
エステル交換は平衡プロセスであり、交換中に形成された副生成物を除去するための条件下で通常実施され、エステル交換を経たエステルを残すヒドロカルビル部分によって形成される生成物を意味する。第1のエステル化合物のエステル基を残すヒドロカルビル部分は、エステル交換したエステル化合物より副生成物を揮発性にするように、それらを置換するヒドロカルビル部分より小さくてもよい。より小さい副生成物は通常、エステル交換したエステル化合物より揮発性であり、それはそれらの揮発性のため副生成物の除去を容易にする。開示した工程は、残りのヒドロカルビル部分から形成される副生成物を除去する任意の処理条件と共に使用することができる。残りのヒドロカルビル部分から形成される副生成物を除去するために使用し得る代表的な処理条件またはステップは、以下の蒸留、膜輸送、不活性ガスパージ、真空の適用などのうちの1つ以上を含んでよい。
【0066】
エステル交換反応は、一般的に触媒の存在下で実施する。エステル交換触媒は、酸、このような酸のエステルまたは酵素でもよい。エステル交換触媒は酵素でもよい。エステル交換触媒はリパーゼ酵素でもよい。酵素を使用するエステル交換工程は、US2014/0329980に開示されており、その全体をすべての目的に関して参照により本明細書に組み込む。
【0067】
触媒は、酸またはそのエステルでもよい。酸またはエステルを使用するエステル交換工程は、共同所有のUS9,416,091に開示されており、その全体をすべての目的に関して参照により本明細書に組み込む。副反応を最小化すると共に、トランスエステル化に触媒作用を及ぼす任意の酸またはそのエステルも使用してよい。いくつかの実施形態で、酸またはエステルを形成するために利用される酸は、以下に開示するように極性非プロトン性溶媒(例えばアセトニトリルまたはジオキサン)中にpKaを有する酸である。特にpKaは、副反応及び反応混合物中の触媒の濃度を最小化すると共に、効率的にエステル交換反応を触媒するために選択される。使用する酸は、約−5以上、約−3以上または約1.0以上のpKaを有してよい。使用する酸は、約14以下、約11以下または約9以下のpKaを有してよい。酸は、開示するようにpKaを有するブレンステッド酸であることができる。触媒は、超酸またはそのエステルでもよい。超酸は、100パーセントの硫酸の強度より大きい酸強度を有する酸を意味する。酸触媒に関して、そのエステルは化合物を意味し、そこで酸の水素はヒドロカルビル基(例えばアルキル基)で置換される。超酸は、100パーセントの硫酸の強度より大きい強度、100パーセントの硫酸より少ないpKa(すなわち8未満、約5未満または約2未満)を有する酸である。酸強度の測定は、2010年12月17日発行のKuttら“Equilibrium Acidities of Super Acids,”Journal of Organic Chemistry Vol76,391〜395ページ,2011に基づき、それは参照により本明細書に組み込まれる。代表的な超酸は、トリフルオロメタンスルホン酸(トリフル酸)、硫酸化酸化スズ、トリフレート化酸化スズ、硫酸化酸化ジルコニウム、トリフレート化酸化ジルコニウム及びトリフレート化HZSM−5を含む。代表的な超酸は、トリフル酸及びフルオロスルホン酸である。
【0068】
代表的な酸触媒は、トリフル酸、フルオロスルホン酸及び硫酸を含む。一置換(アルコール上の1つのヒドロキシ基のみがエステル交換によって置換される)を必要とする反応において、硫酸に等しいまたはそれより高いpKa値を有する弱酸が望ましい場合がある。このような酸の例は、硫酸またはメタンスルホン酸を含む。二置換(アルコール上の2つのヒドロキシ基がエステル交換によって置換される)を必要とする反応において、硫酸に等しいまたはそれより低いpKa値を有する強酸が望ましい場合がある。このような酸の例は、硫酸、フルオロスルホン酸及びトリフル酸を含む。多置換(アルコール上の2つ超のヒドロキシル基)を必要とする反応において、酸触媒の選択は二置換反応と類似することができるが、反応時間は増加を必要とし得る。触媒として有用な酸のエステルは、アルキルトリフレートを含む。
【0069】
触媒は反応物質と混合することができる、または基材(例えば膜)または不活性担体(例えば多孔質支持構造)に担持されることができる(触媒は不均一であることができる)。担持されない触媒は、一般に均一なものと称される。触媒は、エステル交換反応を触媒する任意の濃度で使用できる。反応で利用される触媒の量は、選択した触媒の種類に依存する。触媒の濃度は、エステル交換を経たエステル化合物の当量当たり約2モル当量以下、約1モル当量以下、約0.5モル当量以下、約0.05モル当量以下である。触媒の濃度は、エステル交換を経たエステル化合物の当量当たり約0.001モル当量以上または約0.0015当量以上である。列挙したものより高濃度の触媒を利用してもよい。MalofskyらのUS8,609,885及び8,884,051、ならびにMalofskyらのWO2013/059473にて開示したように、回収される1,1−二置換アルケン化合物中の酸の存在は、化合物の使用に関して課題を示すことができ、使用中の生成物の酸の低濃度が求められている。高濃度の酸が最終生成物に含まれる場合、追加の精製または除去ステップが必要とされ得る。列挙した量は、効果的な触媒作用と使用の際の生成物の低い酸濃度の必要性の間のバランスを達成する。ポリオール及び/またはジエステル化合物の選択、ならびにポリオール及びジエステルの相対的なモルは、工程の生成物に影響を及ぼす。
【0070】
反応物質が反応条件下にて液体である場合、それは希釈されない形態(すなわち、溶媒または分散剤なしで)の反応物質及び触媒と接触することが望ましい。溶媒の使用が求められる場合、反応物質または触媒と反応しない溶媒が求められている。溶媒の選択の別の検討事項は、選択される溶媒の沸点である。溶媒は、約15℃以上、約20℃以上、または反応が行われる温度より高い沸点を有してよい。非プロトン性溶媒を使用してもよく、記載されている反応温度より高い沸点を有する長鎖アルカンを使用してもよく、代表的な溶媒はデカンまたはドデカンである。
【0071】
反応物質は、エステル交換が進行する任意の温度で接触される。反応物質は、約80℃以上または約100℃以上の温度で接触されてよい。反応物質は、約160℃以下、約140℃以下または約130℃以下の温度で接触されてよい。
【0072】
反応物質は、所望のエステル交換した生成物を調製するために、十分な時間接触される。出発エステル化合物(例えば1,1−二置換アルケン化合物)がポリオールと実質的に完全に反応して所望の生成物を調製するように、処理を実施してよい。反応物質は、約1時間以上接触され得る。反応物質は、8時間以下または約4時間以下接触され得る。
【0073】
ジエステル及びポリオールの接触を強化して、ジエステルのエステル基の最初のヒドロカルビル部分の置換を可能にする条件下にて、処理を実施することが望ましい。何らかの形態の撹拌は、この接触を強化するために望ましい。撹拌の代表的方法は、撹拌器の使用、不活性ガスによるスパージングなどを含む。好ましい方法は、激しい撹拌及び/または窒素による激しいスパージングを使用することである。
【0074】
触媒は酵素でもよい。エステル交換反応条件は、室温及び大気圧、高温及び大気圧、室温及び真空下、高温及び真空下、またはこれらの任意の組み合わせを含む。エステル交換ステップは、約20℃以上、約35℃以上または約40℃以上の温度で実施してよい。エステル交換ステップは、約85℃以下、約70℃以下または約50℃以下の温度で実施してよい。
【0075】
エステル交換反応は、MalofskyらのUS8,609,885、US8,884,051、WO2013/059473に記載のとおり、フリーラジカル安定剤及びアニオン重合阻害剤の存在下で実施してよく、関連部分は参照により本明細書に組み込まれる。ポリマー生成物の産生を防ぐために、重合を阻害するが、エステル交換の触媒作用に著しく関与しない酸を含むのが望ましい。重合を阻害するために使用する酸は、100パーセントの硫酸より少ないpKaを有してよい。特定の実施形態によれば、安定剤をエステル交換した生成物を含有する組成物に含んで、有効寿命を延長かつ改善させて、自然重合を防ぐことができる。一般に、1つ以上のアニオン重合安定剤及びまたはフリーラジカル安定剤が組成物に添加され得る。アニオン重合安定剤は、一般に、組成物または成長中のポリマー鎖から電子を捕捉する求電子化合物である。アニオン重合安定剤の使用によって、更なるポリマー鎖の成長を止めることができる。代表的なアニオン重合安定剤は酸であり、代表的な酸はカルボン酸、スルホン酸、リン酸などである。代表的な安定剤としては、液相安定剤(例えば、メタンスルホン酸(「MSA」))、及び気相安定剤(例えば、トリフルオロ酢酸(「TFA」))が挙げられる。いくつかの実施形態で、重合を阻害するために、比較的弱酸を利用することが望ましい。通常、このような弱酸は−1.5未満または2未満のアセトニトリルのpKaを示す。アニオン重合を阻害するために使用する代表的な酸は、アルキル置換アリールスルホン酸(例えばドデシルベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸)などである。開示した触媒が酸である際、第2のアニオン重合阻害剤は、本明細書にて開示した方法の実施において必要とされない場合がある。本明細書にて開示した方法を実施する際、フリーラジカル安定剤または重合阻害剤を含むことが望ましい。本方法で有用な安定剤または重合阻害剤の濃度を以下に開示する。
【0076】
フリーラジカル安定剤としては、好ましくはフェノール化合物(例えば、4−メトキシフェノール、ヒドロキノンのモノメチルエーテル(「MeHQ」)、ブチル化ヒドロキシトルエン(「BHT」))が挙げられる。1,1−二置換アルケンの安定剤包装は、米国特許第8,609,885号及び同第8,884,051号に開示され、それぞれは参照により組み込まれる。追加のフリーラジカル重合阻害剤は、米国特許第6,458,956号に開示され、参照により本明細書に組み込まれる。一般に、安定剤の最小限の量のみが必要とされ、特定の実施形態で約100万分の5000部(「ppm」)以下のみを含むことができる。特定の実施形態で、複数の安定剤のブレンド(例えばアニオン性安定剤(MSA)とフリーラジカル安定剤(MeHQ)のブレンド)を含むことができる。
【0077】
1つ以上のアニオン重合安定剤は、早期重合を防ぐのに十分な量で存在する。アニオン重合安定剤は、最初のエステル化合物(1,1−二置換アルケン)の重量を基準にして約1重量ppm以上、約5重量ppm以上、または約10重量ppm以上の量で存在してよい。アニオン重合安定剤は、エステル化合物の重量を基準にして約500重量ppm以下、約250重量ppm以下または約100重量ppm以下の量で存在してよい。1つ以上のフリーラジカル安定剤は、早期重合を防ぐのに十分な量で存在してよい。フリーラジカル重合安定剤は、エステル化合物の重量を基準にして約10ppm以上、約100重量ppm以上、または約1000重量ppm以上の量で存在してよい。フリーラジカル重合安定剤は、エステル化合物の重量を基準にして約10,000重量ppm以下、約8000重量ppm以下または約5000重量ppm以下の量で存在してよい。
【0078】
1つ以上のポリエステルマクロマーを含有する組成物と基材表面を接触させることであって、前記表面が少なくとも弱塩基性である、前記接触させることと、1つ以上のポリエステルマクロマーを含有する組成物を含むコーティングを基材の表面上に形成することと、を含む方法を開示する。基材は塩基性である材料からなる。塩基性化合物を含有する組成物は、1つ以上のポリエステルマクロマーを含有する組成物を適用する前に、基材表面に適用され得る。塩基性化合物を含有する組成物は、1,1−ジエステル−1−アルケンに有用なアニオン重合阻害剤として本明細書にて開示する任意の化合物を含んでよい。代表的な塩基性化合物は、アミン、ポリアミン、塩基性顔料またはカルボン酸塩を含む。塩基性化合物を含有する組成物は、ポリアルキレンイミンを含んでよい。前記方法は、約20℃以上または約50℃以上の温度に1つ以上のポリエステルマクロマーを含有する組成物を備えた基材を曝露することを更に含んでもよい。前記方法は、約150℃以下または約120℃以下の温度に1つ以上のポリエステルマクロマーを含有する組成物を備えた基材を曝露することを更に含んでもよい。このような曝露のための時間は、約10分以上または20分以上でもよい。このような曝露のための時間は、約120分以下、約60分以下または約30分以下でもよい。基材の表面上に配置した1つ以上のポリエステルマクロマーを含有するコーティングを硬化及び/または架橋させるような条件下にて、曝露を実施する。
【0079】
ポリエステルマクロマーを含有するコーティングまたはフィルムは、一定の条件にさらされるとき、硬化及び/または架橋し得る。コーティングまたはフィルムが比較的強塩基及び/または高温に曝露されるとき、それらは同時に硬化かつ架橋する。それらが約50℃未満または約40℃未満の比較的低温で弱塩基性材料に曝露される場合、それらは完全には硬化または架橋され得ない。このようなコーティングまたはフィルムは、先に開示したように硬化するために高温への曝露によって硬化し得る。
【0080】
本発明の例示的実施形態
以下の実施例を本発明を例示するために提供するが、これらは本発明の範囲を限定することを意図していない。特に指示しない限り、すべての部及び百分率は重量による。
【0081】
通常の反応手順を以下のとおり記載する。蒸留ヘッド、温度計、減圧アダプター及び収集フラスコを備える三つ口の100mL丸底フラスコを、加熱マントル、熱電対及び磁気撹拌棒と共に高真空グレードのグリースを使用して組み立てる。反応混合物は、一般的に400〜600毎分回転数の範囲の撹拌を受ける。減圧は反応混合物からそれに続く副生成物を除去するために使用され、種々の圧力はいずれの場合でも混合時間とともに下で示される。場合によっては、窒素ガスを減圧の代わりに混合物をパージするために使用して、適用される場合、以下に示す。いずれの場合でも、モル当量は、使用するジエチルメチレンマロネート(「DEMM」)モノマーに対する。
【0082】
NMR分光法は、反応混合物を解析するために、300MHz
NMRを使用して用いる。約0ppmで現れる内部標準物質としてクロロホルム−d(CDCl)及びヘキサメチルジシロキサンを使用して、試料を調製する。対称置換基を有する1,1−二置換アルケン化合物(例えばDEMM)において、反応性アルケン官能基(すなわち、二重結合)は約6.45ppmで現れる。非対称置換基を有する1,1−二置換アルケン化合物(例えばエチルペンチルメチレンマロネートまたは「EPMM」)において、反応性アルケン官能基は約6.45ppmで二重線として現れる。ほとんどの場合、4回のNMRスキャンを、走査間で遅延時間20秒により各試料の試験片で実施する。
【0083】
所望のエステル交換した生成物(複数可)への出発材料の転換を測定し、任意の副生成物の存在を検出するために、GC−MSを使用する。約1mL/分のヘリウムガス(キャリアガス)パージは、MS検出器に達する試料中のイオン化したものを補助するために使用される。ジクロロメタン(CHCl)中の反応混合物の約2〜5%の1〜2μLの通常の試料注入量を、GC−MS器具内への注入のために使用する。GC−MSプロファイル法は、100℃にオーブンを維持して、続いて15℃/分で250℃まで上げていく。通常の実施時間は18〜23分の範囲である。1,1−二置換アルケン化合物の保持時間は上述した方法に基づき4.5〜17分の範囲であり、それは置換基及びGCチャンバの特定の分子のイオン化の容易さに強く依存している。
【0084】
本明細書で開示する実施例において、適切なエステル交換試薬(すなわち、アルコール)を用いて所望のエステル交換した1,1−二置換アルケン化合物に出発反応材料(すなわち、第1のエステルまたは1,1−二置換アルケン化合物)の転換は、特に指示がない限り以下のとおり計算される。各反応の限定試薬の出発重量をベースライン測定値として使用し、100%の理論上の最大転換を構成する。それから、理論上の最大転換によって、最終的な反応混合物のGC−MSを介して提供されたエステル交換した生成物の組成物パーセントを分けることによって、転換は得られる。
【0085】
成分及び生成物
ペンタンジオール
DEM ジエチルマロネート
DEMM ジエチルメチレンマロネート(ジエチル1−メチレン−1,1−ジカルボキシレート)
MeHQ モノメチルエーテルヒドロキノン
MSA メタンスルホン酸
触媒 CALBリパーゼ酵素
【0086】
実施例1−ペンタンジオール及びDEMMからの二官能性モノマーの調製
丸底フラスコに、DEMM(172g、1モル)、ペンタンジオール(26g、0.25モル)及びDEMMに基づき5重量%のCALBリパーゼ酵素(8.6g)(CLEAから購入)を加えた。丸底フラスコを45℃に予熱したロータリーエバポレーター上に設置して、150mmHgの圧力を加える。1時間後、反応をGCMS及びHNMRによって終了を確認する。ペンタンジオールが消費されると、反応は終了する。混合生成物は、二官能性モノマー及びDEMMの約65/35の混合物である。反応混合物を濾過して、酵素を取り除く。機械撹拌器、温度計及びコンデンサを備える三つ口丸底フラスコに、形成した反応混合物を加える。反応混合物は、65℃にて0.800mmHg未満の圧力で、2時間または二官能性モノマーの量が溶液の65重量パーセント未満になるまで蒸留される。典型的な生成組成物は、67%のDEMM−ペンタンジオール架橋剤及び33%のDEMMである。
【化23】
【0087】
実施例2−ペンタンジオールによるジエチルマロネートのエンドキャッピング
ペンタンジオール(260g、2.5モル)、DEM(159g、1モル)及びペンタンジオールに基づき7重量%のCALBリパーゼ酵素(18g)(CLEAから購入)を、丸底フラスコに加えた。丸底フラスコをロータリーエバポレーター上に設置して、45℃に予熱し、150mmHgの圧力を加える。1時間後、反応をGCMS及びHNMRによって終了を確認する。DEMが消費されると、反応は終了する。反応混合物を濾過して、酵素を取り除く。機械撹拌器、温度計及びコンデンサを備える三つ口丸底フラスコに、反応混合物を加え、100℃にて0.800mmHg未満で、2時間またはペンタンジオールの量が反応混合物の約10重量パーセントになるまで蒸留する(GCMSにより測定)。典型的な生成組成物は、約90重量パーセントまたはペンタンジオールキャップ化ジエチルマロネート及び約10重量パーセントのペンタンジオールである。
【化24】
【0088】
実施例3−ポリエステルマクロマーの調製
DEMM−ペンタンジオール二官能性モノマー(142g、0.4モル)及びペンタンジオールキャップ化ジエチルマロネート(27.6g、0.1モル)、ジエチルメチレンマロネート(70g、0.4モル)、ペンタンジオール(2.7g、0.025モル)及びDEMM−ペンタンジオール二官能性モノマーに基づき7重量パーセントのCALBリパーゼ酵素(10g)を、丸底フラスコに加えた。丸底フラスコを、45℃に予熱したロータリーエバポレーター上に150mmHgの圧力で置く。1時間後、反応混合物をGCMSによって終了(ペンタンジオール−二官能性モノマーの消失)を確認する。反応混合物を濾過して、酵素を取り除く。得られた溶液をGPCで試験する。生成組成物は概ね、60〜75重量パーセントのポリエステルマクロマー、20〜30重量パーセントのペンタンジオール−二官能性モノマー、0〜10重量パーセントのDEMMからなる。100ppmのMEHQ及び10ppmのMSAを、最終生成物に加える。MSAは、1重量パーセントのMSA:DEMM溶液から正確に測定される。この反応は式で示される。
【化25】
【0089】
実施例4−ポリエステルマクロマーの調製
DEMM−ペンタンジオール二官能性モノマー(142g、0.4モル)、ジエチルメチレンマロネート(70g、0.4モル)、ペンタンジオール(10.8g、0.10モル)及びDEMM−ペンタンジオール二官能性モノマーに基づき7重量パーセントのCALBリパーゼ酵素(10g)を、丸底フラスコに加えた。丸底フラスコを、45℃に予熱したロータリーエバポレーター上に150mmHgの圧力で置く。1時間後、反応混合物をGCMSによって終了(ペンタンジオール−二官能性モノマーの消失)を確認する。反応混合物を濾過して、酵素を取り除く。得られた溶液をGPCで試験する。生成組成物は概ね、60〜75重量パーセントのポリエステルマクロマー、20〜30重量パーセントのペンタンジオール−二官能性モノマー、0〜10重量パーセントのDEMMからなる。100ppmのMEHQ及び10ppmのMSAを、最終生成物に加える。MSAは、1重量パーセントのMSA/DEMM溶液から正確に測定される。これは以下の式で示される。
【化26】
【0090】
実施例5−メチレンマロネートエンドキャップ化ポリカーボネートポリオール
30gのDEMMを、丸底フラスコ中にPacapol F250ポリカーボネートポリオール(重量比5:1)6gと共に加えて、ポリオールがDEMMモノマー中に溶解するまたはそれに分散するまで混合する。ポリカーボネートポリオールは、反応混合物中でDEMMとの均一混合物を形成するのに一般的によく長くかかり、トルエンは、相溶性問題を回避するために反応用溶媒として使用できる。3gのCLEA B4酵素触媒(DEMMの10重量%)を反応混合物に加える。丸底フラスコを、45℃に維持したロータリーエバポレーターに取り付けて、200mmのHgで減圧下にて2時間、100毎分回転数で回転させた。反応の終了時に、少量のアリコートをNMR分析のために取り、大部分の反応混合物は100mlのシリンジに綿栓を使用して濾過して、酵素を除去する。これは、重量で75〜25のおよその比率のDEMMとエンドキャップ化ポリカーボネートポリオールの混合物に相当する。ヘキサンを、DEMMの良溶媒として、及びポリオール及びエンドキャップ化ポリオールの貧溶媒として反応混合物に加えた。これにより、エンドキャップ化ポリオールが反応混合物の過剰なDEMMから分離されるのが可能になる。反応混合物または高濃度のエンドキャップ化ポリオールの一部を、バルクのテトラメチルグアニジンTMGを使用してアルミニウムパンで硬化する。得られたポリマーはジクロロメタン(DCM)中に溶解せず、高度の架橋が確認される。
【0091】
実施例6−コーティングの調製及びコーティングの試験
Q−Panelのスチール製パネルは、ポリエステルマクロマーを含有する複数のコーティングの特性を評価するためにコーティングした。反応開始剤として機能する塩基性ポリマーイミンによって早期開始したパネル上のコーティングを引き降ろすために、マイヤーロッドRD20を使用する。適用したコーティングは、120℃にて20〜30分間、強制空気オーブン内で硬化する。コーティングは、その期間内に完全な硬化を得た。コーティングしたパネルは、複数の特性(ASTM D3363による鉛筆硬度、ASTM D523による光沢、ASTM D7835による耐溶媒性、GMW14829による可撓性及びGMW16746によるパネルへのコーティングの接着性)について試験する。試験した配合を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
結果を表2にまとめる。
【表2】
【0094】
実施例4の生成物の組成物のコーティングは、塩基性ポリマーイミンで早期開始した冷間圧延鋼板の基材に適用される。乾燥コーティング厚さは40マイクロメートルである。適用したコーティングは、120℃にて20〜30分間、オーブン内で硬化する。コーティングは、その期間内に完全な硬化を得る。コーティングしたパネルは、以下の設定、CS−10 Wearaser、1100グラム荷重、2インチのストローク長さ及び75cpmの速度を使用するTaber Abraderモデル5750に従って、耐摩耗性を試験する。コーティングは総2,500サイクルまで無傷のままで、その後基材に貫通する。同じ器具及び同じ設定上の総200サイクルの試験表記Aのアルカン架橋剤の結果と比較して、このポリエステルコーティングは耐摩耗性の著しい改善を示す。
【0095】
実施例3及び実施例4のコーティングは、ASTM D523に従って光沢を試験する。各コーティングを20度、60度及び85度で測定する。コーティングは60度で70光沢度(GU)を超え、すべてのコーティングは高光沢として分類される。コーティングは、100GUを超える光沢指数を示す。結果が図1に示される。
【0096】
実施例1及び実施例4のコーティングは、ASTM D7835に従って2−ブタノンに対する耐溶媒性を試験する。実施例1のアルカン架橋剤で行ったコーティングは、約70〜80回の1枚の拭き取りに耐えることができる。実施例4のポリエステルで行ったコーティングは、200回を超える1枚の拭き取りに耐えることができる。結果が図2に示される。
【0097】
実施例1、実施例3及び実施例4のコーティングは、ASTM D3363に従って鉛筆硬度を試験する。鉛筆硬度は、BYK鉛筆検査器を使用して実施する。硬度の目盛りは9Hを超えない。実施例1のアルカン架橋剤によってなされたコーティングは、4H〜6Hの鉛筆硬度を有する。実施例3のポリエステルによってなされたコーティングは、7H超の鉛筆硬度を有する。実施例4のポリエステルによってなされたコーティングは、8H超の鉛筆硬度を有する。結果が図3に示される。
【0098】
列挙した任意の数値には、任意の低い値と任意の高い値の間に少なくとも2単位の間隔がある場合、1単位ずつ低い値から上の値までのすべての値が含まれる。1未満の値に関しては、1単位は適宜0.0001、0.001、0.01、または0.1であると考えられる。これらは何が具体的に意図されているのかの例に過ぎず、列挙した最低値と最高値の間の数値のすべての可能性のある組み合わせが、類似の方法で本出願にて明確に記載されていると考えられる。特に指示のない限り、すべての範囲は、両端点及びこれら端点間のすべての数を含む。範囲に関連する「約」または「およそ」の使用は、範囲の両端に適用する。したがって「約20〜30」は、少なくとも指定した端点を含めて「約20〜約30」を対象とすることを意図する。組み合わせを説明するための用語「から本質的になる」は、同定した要素、原料、成分またはステップ、ならびに組み合わせの基本的かつ新規な特徴に実質的に影響しない他の要素、原料、成分またはステップを含むものとする。本明細書の要素、原料、成分またはステップの組み合わせを説明するための用語「含む(comprising)」または「含む(including)」の使用は、要素、原料、成分またはステップから本質的になる実施形態も企図する。複数の要素、原料、成分またはステップは、単一の統合された要素、原料、成分またはステップによって提供することができる。あるいは単一の統合された要素、原料、成分またはステップは、別々の複数の要素、原料、成分またはステップに分けられる場合がある。要素、原料、成分またはステップを説明するための開示「a」または「one」は、更なる要素、原料、成分またはステップを排除することを意図しない。
図1
図2
図3