特許第6821874号(P6821874)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6821874
(24)【登録日】2021年1月12日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/40 20060101AFI20210114BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20210114BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20210114BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20210114BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20210114BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   B32B27/40
   B05D7/00 K
   B05D1/36 Z
   B05D7/24 301M
   B05D7/24 301P
   B05D3/00 F
   B05D1/26 Z
   B05D7/24 302T
【請求項の数】6
【全頁数】46
(21)【出願番号】特願2019-46028(P2019-46028)
(22)【出願日】2019年3月13日
(65)【公開番号】特開2020-146912(P2020-146912A)
(43)【公開日】2020年9月17日
【審査請求日】2019年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】服部 和昌
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/221674(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/175621(WO,A1)
【文献】 特開昭58−059056(JP,A)
【文献】 特開2018−122589(JP,A)
【文献】 特開2020−121528(JP,A)
【文献】 特開2020−104401(JP,A)
【文献】 特開2020−029484(JP,A)
【文献】 特開2019−104193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B05D 1/00−7/26
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材1と、前処理液層(I)と、インキ層(II)と、接着剤層(III)と、基材2とを、この順で有する積層体の製造方法であって、下記工程(1)〜(5)を含む、積層体の製造方法。
(1)透明基材1上に、前処理液(P)を付与したのち、乾燥及び/または硬化して、層の厚さが0.1〜1.6μmである前処理液層(I)を得る工程、
(2)前記前処理液層(I)上に、顔料(C)と、顔料分散樹脂(D)と、水溶性有機溶剤(E)とを含み、前記顔料分散樹脂(D)の酸価が、30〜375mgKOH/gである、水性インクジェットインキ(A)を付与したのち、乾燥して、インキ層(II)を得る工程、
(3)前記インキ層(II)上、及び/または、基材2上に、ポリイソシアネート成分(K)と,ポリオール成分(M)とを含み、前記ポリイソシアネート成分(K)が、芳香族イソシアネート化合物を含む、無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)を付与して、接着剤層の前駆体を形成する工程、
(4)前記接着剤層の前駆体を介して、インキ層(II)と基材2とを重ね合わせる工程、
(5)前記接着剤層の前駆体を硬化して、接着剤層(III)とする工程。
【請求項2】
前記前処理液層(I)の厚さと、前記インキ層(II)の厚さとの比が、3:1〜1:70である、請求項1に記載の積層体の製造方法
【請求項3】
前記顔料分散樹脂(D)が、芳香環構造を含有する単量体に由来する構造単位を含む、請求項1または2に記載の積層体の製造方法
【請求項4】
前記水溶性有機溶剤(E)が、分子構造中に水酸基を1個以上含み、かつ、1気圧下の沸点が100℃以上240℃未満である水溶性有機溶剤を含む、請求項1〜3いずれかに記載の積層体の製造方法
【請求項5】
前記ポリイソシアネート成分(K)が、ジフェニルメタンジイソシアネート、及び/または、トリレンジイソシアネートを含む、請求項1〜4いずれかに記載の積層体の製造方法
【請求項6】
前記ポリオール成分(M)が、数平均分子量500〜3,000のポリエステルポリオールを含む、請求項1〜5いずれかに記載の積層体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前処理液、水性インクジェットインキ、及び、無溶剤型ラミネート接着剤組成物を用いて製造される積層体、並びに、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品、化粧品のパッケージ等に用いられる軟包装材料は、プラスチックフィルム同士、及び/または、プラスチックフィルムと、金属蒸着フィルムや金属箔とを貼り合わせた積層体となっている。一般には、あらかじめ印刷層を形成したプラスチックフィルムに対し、別個準備した、プラスチックフィルム、金属蒸着フィルム、金属箔等の材料を貼り合わせ、軟包装材料等として利用できる積層体を得る。この加工方法は「ラミネート加工」と呼ばれている。また、積層体中に印刷層を形成するため、従来より、プラスチックフィルム(以下、単に「フィルム基材」ともいう)に対してグラビア印刷またはフレキソ印刷が行われている。グラビア印刷、フレキソ印刷共に、あらかじめ用意した版にインキを転移させる印刷方式であり、高速印刷及び大量生産に適している方法といえる。
【0003】
一方、近年、軟包装材料の市場では、消費者ニーズの変化や多様化に伴い、商品の多品種化、商品サイクルの短期化が進んでいる。また、環境問題及び労働安全に対する配慮から、インキの水性化も行われている(例えば特許文献1参照)が、上記印刷方式を採用する限り、印刷するための版が必要となるため、少量生産の場合は採算が合わないことが多い。また、版の作成にも時間を要するため、短い納期に対応するのは難しいというのが現状であった。
【0004】
上記印刷方式に対して、デジタル印刷は、版を必要としないため、コスト削減や短納期対応が実現可能であり、今後広く普及することが期待されている。デジタル印刷の一種であるインクジェット印刷は、非常に微細なノズルからインキ液滴を印刷基材に吐出し、付着させることで文字や画像を得る。インクジェット印刷には、使用する装置の騒音が小さい、操作性がよい、カラー化が容易であるなどの利点もあり、産業用途においても、利用の拡大が進んでいる。また従来、産業用途におけるインクジェット印刷で用いられるインキは、溶剤インクジェットインキやUVインクジェットインキであったが、グラビア印刷及びフレキソ印刷の場合と同様、環境問題及び労働安全に対する配慮から、インキの水性化が望まれている。
【0005】
一方で、軟包装材料を製造するためにインクジェット印刷を利用する場合、上記のようにフィルム基材に対する画像形成が必須となる。これまでに存在する、インクジェット印刷で用いる(以下、単に「インクジェット用」ともいう)水性インキは、普通紙や専用紙(例えば、写真光沢紙)のような浸透性の高い基材に対して画像形成するためのものであり、フィルム基材のような非浸透性の基材に対して印刷した場合、着弾した後のインキ液滴が、基材中に全く浸透しないため、浸透による乾燥が起きず、混色滲みや色ムラが発生し、印刷画質が損なわれる、十分な密着性が得られない、といった問題が発生する。
【0006】
特に、フィルム基材に対する密着性が不足すると、インキ膜が擦れなどにより剥がれ、目的の印刷画像が得られない、更には、ラミネート加工後の積層体を構成する層間での接着力が得られない、といった問題も生じる。
【0007】
なお、印刷画質が損なわれる課題に対しては、非浸透性の基材に対する前処理液処理が知られている。一般に、水性インクジェットインキ用の前処理液として、前記水性インクジェットインキ中の液体成分を吸収し乾燥性を向上させる層(インキ受容層)を形成するもの(特許文献2〜3参照)と、色材や樹脂など、前記水性インクジェットインキ中に含まれる固体成分を意図的に凝集させることで液滴間の滲みや色ムラを防止し印刷画質を向上させる層(インキ凝集層)を形成するもの(特許文献4〜5参照)の2種類が知られている。しかしながら、どちらの方法を採用したとしても、前処理液処理のみでは上記接着力を改善することは難しい。
【0008】
ところで、ラミネート加工にあたっては、従来、水酸基/イソシアネート硬化系による接着方法である、溶剤型ラミネート接着剤組成物を用いたドライラミネート方式が主流であった。しかしながら、ドライラミネート方式は有機溶剤を含有するため、環境汚染のリスクや、火災を抑止・防止するための特別な設備が必要である、といった問題があった。
【0009】
上記問題に加え、労働作業環境の改善、大気中へのVOCの放出規制等の要求から、近年ではラミネート接着剤組成物(以下、「ラミネート接着剤」、あるいは単に「接着剤」ともいう)の脱有機溶剤化に関する研究が盛んに行われている。例えば、特許文献6には、ポリオール成分と2種類のポリイソシアネート化合物からなるポリイソシアネート成分とを含有する無溶剤型のラミネート接着剤組成物が開示されている。また、特許文献7には、ポリオール成分と、イソホロンジイソシアネートを必須とするイソシアネート成分とを含有する無溶剤型のラミネート接着剤組成物が開示されている。しかしながら、特許文献6〜7に開示されている無溶剤型ラミネート接着剤組成物は、プラスチックフィルム同士の貼り合わせに限って検討が行われており、フィルム基材上の印刷層(インキ層)との貼り合わせに関しては評価されていない。
【0010】
また特許文献8には、水性インクジェットインキを用いた軟包装材料に関する画像形成方法が開示されているが、前記特許文献8で使用されているのは、溶剤型ラミネート接着剤組成物であり、無溶剤型ラミネート接着剤組成物に関しては具体的な記載が存在しない。
【0011】
以上のように、前処理液、水性インクジェットインキ、及び、無溶剤型ラミネート接着剤を用いて、優れた印刷画質と、軟包装材料に適した後加工機能を有する積層体を得る方法は、これまでに見出されていない状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平5−171091号公報
【特許文献2】特開2000−238422号公報
【特許文献3】特開2000−335084号公報
【特許文献4】特開2005−74655号公報
【特許文献5】特開2016−168782号公報
【特許文献6】特開平8−60131号公報
【特許文献7】特開2006−57089号公報
【特許文献8】特開2012−250416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであって、その目的は、混色滲みや色ムラがなく印刷画質が良好であり、各層間の接着力にも優れ、更にラミネート加工後であっても、良好な印刷画質や優れた接着力が維持される積層体を提供することにある。また本発明の別の目的は、上記に加え、ベタ部や高印字部において抜けが発生することのない、印刷画質に特段に優れた積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討を進めた結果、前処理液、特定の酸価を有する顔料分散樹脂によって分散された顔料を含む水性インクジェットインキ、及び、芳香族イソシアネート化合物を含む無溶剤型ラミネート接着剤組成物を用いて製造された積層体であって、前処理液層の厚さを規定した積層体によって、前記課題が好適に解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は、透明基材1と、前処理液層(I)と、インキ層(II)と、接着剤層(III)と、基材2とを、この順で有する積層体の製造方法であって、下記工程(1)〜(5)を含む、積層体の製造方法に関する。
(1)透明基材1上に、前処理液(P)を付与したのち、乾燥及び/または硬化して、層の厚さが0.1〜1.6μmである前処理液層(I)を得る工程、
(2)前記前処理液層(I)上に、顔料(C)と、顔料分散樹脂(D)と、水溶性有機溶剤(E)とを含み、前記顔料分散樹脂(D)の酸価が、30〜375mgKOH/gである、水性インクジェットインキ(A)を付与したのち、乾燥して、インキ層(II)を得る工程、
(3)前記インキ層(II)上、及び/または、基材2上に、ポリイソシアネート成分(K)と,ポリオール成分(M)とを含み、前記ポリイソシアネート成分(K)が、芳香族イソシアネート化合物を含む、無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)を付与して、接着剤層の前駆体を形成する工程、
(4)前記接着剤層の前駆体を介して、インキ層(II)と基材2とを重ね合わせる工程、
(5)前記接着剤層の前駆体を硬化して、接着剤層(III)とする工程。
【0016】
また本発明は、前記前処理液層(I)の厚さと、前記インキ層(II)の厚さとの比が、3:1〜1:70である、上記積層体の製造方法に関する。
【0017】
また本発明は、前記顔料分散樹脂(D)が、芳香環構造を含有する単量体に由来する構造単位を含む、上記積層体の製造方法に関する。
【0018】
また本発明は、前記水溶性有機溶剤(E)が、分子構造中に水酸基を1個以上含み、かつ、1気圧下の沸点が100℃以上240℃未満である水溶性有機溶剤を含む、上記積層体の製造方法に関する。
【0019】
また本発明は、前記ポリイソシアネート成分(K)が、ジフェニルメタンジイソシアネート、及び/または、トリレンジイソシアネートを含む、上記積層体の製造方法に関する。
【0020】
また本発明は、前記ポリオール成分(M)が、数平均分子量500〜3,000のポリエステルポリオールを含む、上記積層体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、混色滲みや色ムラがなく印刷画質が良好であり、各層間の接着力にも優れ、更にラミネート加工後であっても、良好な印刷画質や優れた接着力が維持される積層体を得ることができる。また上記に加え、ベタ部や高印字部において抜けが発生することのない、印刷画質に特段に優れた積層体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、色ムラ、抜け、接着力の評価に使用した、完全ベタ印刷物の断面の例を示す模式図である。
図2図2は、滲みの評価に使用した、階段状ベタ印刷物の断面の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、好ましい形態を上げて、本発明の実施形態である(以下、単に「本実施形態の」ともいう)積層体について説明する。
【0025】
本実施形態の積層体が有する接着剤層(III)は、ポリイソシアネート成分(K)と、ポリオール成分(M)とを含む無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)の硬化膜からなる層である。一般にこのような無溶剤型ラミネート接着剤組成物は、塗工時の粘度を低く設定しなければならないため、その構成成分の分子量を大きくすることが難しい。そのため、溶剤型ラミネート接着剤組成物を用いて作製した積層体と比較して、無溶剤型ラミネート接着剤組成物を用いて作製した積層体は、当該積層体を構成する各層間の接着力の弱化;ラミネート加工後での滲み・色ムラの発生といった印刷画質の劣化;前記積層体を用いて製造した軟包装材料における内容物耐性の悪化;が起こりやすい。特に、印刷画質や接着力が経時で劣化してしまうことから、無溶剤型ラミネート接着剤組成物を使用した積層体は従来、使用用途が限定されてしまっていた。
【0026】
そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、透明基材1と、前処理液層(I)と、インキ層(II)と、接着剤層(III)、基材2とを、この順で有する積層体であって、前記前処理液層(I)が、前処理液(P)を、乾燥及び/または硬化した膜からなる層であり、前記前処理液層(I)の厚さが、0.1〜1.6μmであり、前記インキ層(II)が、顔料(C)と、顔料分散樹脂(D)と、水溶性有機溶剤(E)とを含む水性インクジェットインキ(A)の乾燥膜からなる層であり、前記顔料分散樹脂(D)の酸価が、30〜375mgKOH/gであり、前記接着剤層(III)が、ポリイソシアネート成分(K)と、ポリオール成分(M)とを含む無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)の硬化膜からなる層であり、前記ポリイソシアネート成分(K)が、芳香族イソシアネート化合物を含んでいる積層体において、混色滲みや色ムラがなく印刷画質が良好であり、各層間の接着力にも優れ、更にラミネート加工後であっても、良好な印刷画質や優れた接着力が維持されることを見出した。詳細なメカニズムは定かではないが、例えば以下を考えている。
【0027】
まず、本実施形態の積層体における、前処理液層(I)の役割は、水性インクジェットインキ(A)の画像形成を補助し、長期に渡って印刷画質を向上させること、及び、透明基材1とインキ層(II)との接着力を向上させることである。また、インクジェットインキ(A)による画像形成後は、接着剤層(III)と透明基材1との接着力向上にも効果を発揮する。本実施形態では、前処理液層(I)の厚さは、0.1〜1.6μmである。前記前処理液層(I)の厚さが0.1μm以上であると、透明基材1に対する密着力が良好となり、また長期に渡って、優れた印刷画質を有する積層体を得ることができる。また前記前処理液層(I)の厚さが1.6μm以下であると、透明基材1と接着剤層(III)との間の接着力と、透明基材1に対する密着力との差が小さくなるため、前記接着剤層(III)と前記透明基材1との間の歪みが生じ難くなり、ラミネート加工後の接着力が向上する。加えて、前処理液層(I)内の凝集力が保持されることで、当該前処理液層(I)内での剥離の発生が抑制でき、結果として、積層体全体の接着力向上につながる。
【0028】
また、本実施形態の積層体における接着剤層(III)が、ポリイソシアネート成分(K)として芳香環構造を含むイソシアネート化合物を含むことで、前記接着剤層(III)が強靭な硬化膜となる。更に、前記芳香環構造が有するπ電子が、他の層と分子間相互作用を形成するため、積層体全体の接着力も向上すると考えられる。
【0029】
加えて、本実施形態の積層体におけるインキ層(II)を構成する水性インクジェットインキ(A)は、特定の酸価をもつ顔料分散樹脂(D)と水溶性有機溶剤(E)とを含むため、積層体中では、これらの材料中に存在する親水性基と、上記接着剤層(III)中に存在するポリイソシアネート成分(K)とが反応し、接着力が向上すると考えられる。また、前記水溶性有機溶剤(E)の存在によって、前記顔料分散樹脂(D)が、前記水性インクジェットインキ(A)、及びインキ層(II)中で均一に存在できるため、前記ポリイソシアネート成分(K)との反応に偏りが生じることがなくなり、結果として、積層体全体の接着力向上につながると考えられる。
【0030】
以上のように、混色滲みや色ムラがなく印刷画質が良好であり、各層間の接着力にも優れ、更にラミネート加工時及び経時後であっても、良好な印刷画質や優れた接着力が維持される積層体を得るには、本実施形態の積層体の構成が必須不可欠である。
【0031】
続いて以下に、本実施形態の積層体を構成する各成分について、詳細に説明する。
【0032】
<前処理液層(I)、前処理液(P)>
上記の通り、本実施形態の積層体では、前処理液(P)からなる前処理液層(I)の厚さは、0.1〜1.6μmである。
【0033】
上述のように、一般に水性インクジェットインキ用の前処理液としては、前記水性インクジェットインキを内部に浸透させるインキ受容層を形成するものと、前記水性インクジェットインキ中の成分を凝集及び/または増粘させるインキ凝集層を形成するものとがある。本実施形態では、前処理液(P)としてどちらを使用してもよいが、前処理液層(I)の膨潤が起こりにくく、インキ層(II)の混色滲みや色ムラを好適に抑え優れた印刷画質を有する積層体を得ることができ、また、層の厚さを上記範囲内に収めやすく、ラミネート加工時及び経時後の接着力が向上する観点から、前記前処理液(P)として、インキ凝集層を形成するものを使用することが好適である。
【0034】
上記観点より、本実施形態の積層体の形成に使用される前処理液(P)は、凝集剤を含むことが好ましい。前記凝集剤として、具体的には、金属塩、カチオン性高分子化合物、有機酸等が挙げられる。中でも金属塩は、凝集剤としての機能が特に強く、少量であっても、顔料やその他の成分の凝集及び/または増粘に有効であり、また滲みや色ムラを低減し印刷画質を特段に向上できる点から、好適に使用される。なお凝集剤は1種類のみ用いてもよく、また2種類以上の凝集剤を混合してもよい。
【0035】
金属塩は、金属イオンと当該金属イオンに結合する陰イオンから構成されるものであれば、その種類は特に限定されない。その中でも、顔料と瞬時に相互作用を起こすことで混色滲みを抑制し、また色ムラのない鮮明な画像を得ることができる点から、前記金属イオンが多価金属イオンを含有することが好ましい。更に前記多価金属イオンとして、Ca 2+ 、Mg 2+ 、Zn 2+ 、Al 3+ 、Fe 2+ 、Fe 3+ から選択される少なくとも1種を含むことが、顔料だけでなく、樹脂等のその他の成分とも相互作用を起こしやすい点から、より好ましく、Ca 2+ 、Mg 2+ 、Al 3+ から選択される少なくとも1種を含むことが特に好ましい。前処理液(P)で使用できる無機金属塩の具体例として、例えば、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオンの塩化物、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、前処理液(P)で使用できる有機金属塩の具体例として、例えば、アスコルビン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸等の有機酸のカルシウム塩、マグネシウム塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお本実施形態では、他の成分との相溶性が高く、接着力の維持・向上に有効である観点から、有機金属塩を選択することが好ましく、上記に例示した化合物の中でも、水への溶解度、及び、水性インクジェットインキ(A)中の成分との相互作用の点から、ギ酸及び/または酢酸のカルシウム塩がより好ましい。また上記金属塩は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
本実施形態の積層体の形成に使用される前処理液(P)が金属塩を含む場合、その配合量は、前記前処理液(P)全量に対し、金属イオンとして1〜12質量%であることが好ましく、2〜10質量%であることがより好ましく、3〜8質量%であることが特に好ましい。金属イオンの含有量を上記範囲内に収めることで、混色滲みや色ムラを抑制しながらも、透明基材1に対する前処理液の濡れ性を確保し、接着力を向上することができる。なお、前処理液全量に対する金属イオンの含有量は、下記式(1)によって求められる。
式(1):

(金属イオンの含有量)(質量%)=WC×MM÷MC
【0037】
式(1)中、WCは、金属塩の、前処理液全量に対する含有量を表し、MMは、金属塩を構成する金属イオンの分子量を表し、MCは、金属塩の分子量を表す。
【0038】
一方上記カチオン性高分子化合物についても、インキ中の顔料の分散機能を低下させ、かつ、好適な溶解性、及び、前処理液(P)中での拡散性を有するものであれば、任意に用いることができる。また、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお本明細書において「カチオン性高分子化合物」とは、下記に例示するカチオン基を有するが、アニオン基を有さない高分子化合物(分子量が1,000以上である化合物)を表す。
【0039】
カチオン性高分子化合物に含まれるカチオン基の例として、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、イミノ基、ヒドラジノ基、−NHCONH2基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、カチオン性高分子化合物中に上記カチオン基を導入するために使用される材料として、例えばビニルアミン、アリルアミン、メチルジアリルアミン、エチレンイミンなどのアミン化合物;アクリルアミド、ビニルホルムアミドなどのアミド化合物;ジシアンジアミドなどのシアナミド化合物;エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、メチルエピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリンなどのエピハロヒドリン化合物;ビニルピロリドン、ビニルカプロラクタム、ビニルイミダゾールなどの環状ビニル化合物;アミジン化合物;ピリジニウム塩化合物;イミダゾリウム塩化合物などを挙げることができる。
【0040】
上記の中でも、カチオン性高分子化合物が、ジアリルアミン構造単位、ジアリルアンモニウム構造単位、エピハロヒドリン構造単位から選択される1種類以上の構造単位を含む化合物であることが好ましく、少なくともジアリルアンモニウム構造単位を含むことがより好ましい。上記の樹脂はいずれも強電解質であり、前処理液(P)中における前記樹脂の溶解安定性が良好であるとともに、水性インクジェットインキ(A)中の顔料の分散低下能力に優れている。
【0041】
本実施形態の積層体の形成に使用される前処理液(P)がカチオン性高分子化合物を含む場合、その配合量は、前処理液(P)全量に対し、固形分換算で1〜20質量%であることが好ましく、3〜10質量%であることがより好ましい。カチオン性高分子化合物の配合量を上記範囲内に収めることで、前処理液の粘度を好適な範囲内に収めることができ、また、長期保存した際の保存安定性や、ラミネート加工時及び経時後の接着力に優れる積層体を得ることができる。
【0042】
本実施形態の積層体の形成に使用される前処理液(P)が、凝集剤として有機酸を含む場合、カルボキシル基を有する化合物が好適である。具体的には、マロン酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸等が挙げられる。有機酸の含有量は、前処理液全量に対し1〜12質量%であることが好ましく、2〜10質量%であることがより好ましく、3〜8質量%であることが特に好ましい。
【0043】
前処理液(P)は、透明基材1に対する密着性、及び、前処理液層(I)の強度の観点から、樹脂(ただし、上記カチオン性高分子化合物を除く)を含むことが好ましい。具体的には、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレタン(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂(多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合体)、ポリオレフィン系樹脂、スチレンブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。これらは1種類で用いてもよいし、2種類以上の樹脂を混合してもよい。また用いる樹脂の形態は、水溶性樹脂、並びに、非水溶性樹脂であるハイドロゾル、及び、エマルジョンのいずれであってもよい。なお本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリルまたはメタクリルを表す。また、本明細書において「エマルジョン」とは、乳化剤を樹脂微粒子表面に吸着させ、分散媒中に分散させた形態を指し、「ハイドロゾル」とは、樹脂中に存在する酸性及び/または塩基性の官能基を中和し、分散媒中に分散させた形態を指す。また、前記ハイドロゾル及び前記エマルジョンは、一般に「樹脂微粒子」と総称される形態であり、後述する方法によって測定される体積50%粒子径が5〜1000nmであるものを指す。
【0044】
本実施形態の積層体の形成に使用される前処理液(P)が樹脂を含む場合、その配合量は、透明基材1への塗工性、接着力の観点から、前処理液(P)全量に対し固形分換算で1〜20質量%であることが好ましく、3〜15質量%であることがより好ましい。
【0045】
また、透明基材1上に均一に塗布するため、本実施形態の積層体の形成に使用される前処理液(P)は、界面活性剤を1種、または2種以上併用して使用することができる。界面活性剤として、シロキサン系、アクリル系、フッ素系、アセチレンジオール系、グリコールエーテル系などが挙げられる。ある好ましい実施形態においては、前処理液の表面張力を制御し、透明基材1上における優れた濡れ性を付与することで、積層体における混色滲みや色ムラの抑制、及び印刷画質の向上につながるという観点から、シロキサン系界面活性剤、及び/または、アセチレンジオール系界面活性剤を使用することが好ましく、アセチレンジオール系界面活性剤を含むことが特に好ましい。
【0046】
本実施形態の積層体の形成に使用される前処理液(P)が界面活性剤を含む場合、その配合量は、透明基材1上での塗工ムラを少なくし均一な塗工を実現することで、積層体において混色滲みや色ムラが抑制し、印刷画質が向上するという観点から、前処理液(P)全量に対して0.01〜8質量%であることが好ましく、0.05〜5質量%であることがより好ましく、特に好ましくは0.1〜3質量%である。
【0047】
また、本実施形態で使用される前処理液(P)の表面張力は、上記と同様の観点から、20〜45mN/mであることが好ましく、20〜40mN/mであることがより好ましく、特に好ましくは20〜35mN/mである。従って、前記好適な表面張力値となるように、界面活性剤の種類及び配合量、更には、後述する低表面張力溶剤の種類及び配合量を調整することが好適である。なお、本実施形態における表面張力とは、25℃の環境下において、Wilhelmy法(プレート法、垂直板法)により測定された表面張力を指す。
【0048】
上記のように、本実施形態で使用される前処理液(P)では、表面張力を所望の値とするために、低表面張力溶剤を用いることもできる。具体的には、イソプロパノール(2−プロパノール)、n−ブタノール、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、3−エチル−1,2−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられる。
【0049】
また、前処理液(P)の塗工装置に使用される部材へのダメージを抑制するとともに、経時でのpH変動を抑え、上述した前記前処理液(P)の性能を長期的に維持することを目的として、前記前処理液(P)にpH調整剤を添加することができる。本実施形態では、pH調整能を有する材料を任意に選択することができ、塩基性化させる場合は、ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン;アンモニア水;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などを使用することができる。また酸性化させる場合は塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸を使用してもよいし、凝集剤とpH調整剤とを兼ねる材料として、上述した有機酸を使用してもよい。これらのpH調整剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
また、本実施形態の前処理液は、所望の物性値とするために、必要に応じて消泡剤、増粘剤、防腐剤などの添加剤を適宜に添加することができる。これらの添加剤を使用する場合、その配合量は前処理液全量に対して0.01〜8質量%とすることが好ましく、0.01〜5質量%とすることが更に好ましい。
【0051】
<インキ層(II)、水性インクジェットインキ(A)>
次に、本実施形態の積層体を構成するインキ層(II)について説明する。前記インキ層(II)は、水性インクジェットインキ(A)(以下、単に「水性インキ(A)」ともいう)の乾燥膜からなる層であり、水性インクジェットインキ(A)は、顔料(C)と、顔料分散剤(D)と、水溶性有機溶剤(E)とを含んでいる。
【0052】
<顔料(C)>
本実施形態の積層体の製造に使用される水性インキ(A)では、顔料(C)として、無機顔料、及び有機顔料のいずれも使用でき、特に限定されない。無機顔料の一例として、白色顔料として酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、アルミナホワイト等が、黒色顔料として、カーボンブラックや酸化鉄等が挙げられる。
【0053】
白色顔料としては、酸化チタンが好適に用いられる。酸化チタンは、アナターゼ型、ルチル型のいずれも使用することができるが、印刷物の隠蔽性を上げるためにもルチル型を用いることが好ましい。また、塩素法、硫酸法等いずれの方法で製造したものでもよいが、塩素法にて製造された酸化チタンを使用した方が、白色度が高いことから好ましい。
【0054】
酸化チタンは、無機化合物及び/または有機化合物により顔料表面を処理したものであることがより好ましい。無機化合物の例として、シリコン(Si)、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、アンチモン、チタンの化合物、及びこれらの水和酸化物を挙げることができる。また有機化合物の例として、多価アルコール、アルカノールアミンまたはその誘導体、高級脂肪酸またはその金属塩、有機金属化合物などを挙げることができるが、中でも多価アルコール、またはその誘導体は酸化チタン表面を高度に疎水化し、分散安定性を向上させることが可能であり、より好ましく用いられる。
【0055】
なお、白色顔料として、中空樹脂粒子を使用することも好適である。中空樹脂粒子は、酸化チタン等と比較して比重(見かけ密度)が小さく、経時における沈降を抑制しやすいため、保存安定性に優れたインキが得られる。また、保存安定性と隠蔽性とが両立したホワイトインキを得るため、顔料(C)として、中空樹脂粒子と酸化チタンとを併用してもよい。
【0056】
黒色顔料としては、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラック(C.I.Pigment Black 7)が好適に用いられる。例えば、これらのカーボンブラックであって、一次粒子径が11〜40nm、BET法による比表面積が50〜400m2/g、揮発分が0.5〜10質量%、pH値が2〜10等の特性を有するものが好適である。このような特性を有する市販品として、具体的には、No.33、40、45、52、900、2200B、2300、MA7、MA8、MCF88(以上、三菱化学社製);RAVEN1080、1255(以上、ビルラカーボン社製);REGAL330R、400R、660R、MOGUL L、ELFTEX415(以上、キャボット社製);Nipex90、150T、160IQ、170IQ、75、PrinteX85、95、90、35(以上、オリオンエンジニアドカーボンズ社製)等があり、いずれも好ましく使用することができる。
【0057】
カーボンブラックのほかにも、黒色顔料として、例えば、アニリンブラック、ルモゲンブラック、アゾメチンアゾブラック等が使用できる。また、後述するシアン顔料、マゼンタ顔料、イエロー顔料、ブラウン顔料、オレンジ顔料等の有彩色顔料を複数使用し、黒色顔料とすることもできる。
【0058】
有機顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、染料レーキ顔料、蛍光顔料等が挙げられる。
【0059】
具体的にカラーインデックスで例示すると、シアン顔料としてはC.I.Pigment Blue 1、2、3、15:1、15:3、15:4、15:6、16、22、60、64等が挙げられる。
【0060】
また、マゼンタ顔料としてはC.I.Pigment Red 5、7、12、31、48、49、52、53、57、112、120、122、146、147、149、150、168、170、184、185、188、202、209、238、242、254、255、264、269、282;C.I.Pigment Violet 19、23、29、30、37、40、50等が挙げられる。
【0061】
また、イエロー顔料としてはC.I.Pigment Yellow 10、11、12、13、14、16、17、20、24、74、83、86、93、94、95、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185、213等が挙げられる。
【0062】
また、上述以外にも、オレンジ顔料、グリーン顔料、ブラウン顔料などの特色を使用することもできる。具体的には、C.I.Pigment Orange 16、36、38、40、43、62、63、64、71、C.I.Pigment Green 7、10、36、Pigment Brown 23、25、26などを挙げることができる。
【0063】
なお、本実施形態の積層体の製造に使用される水性インキ(A)では、印刷物の色相や発色性を好適な範囲に収めるため、上記の顔料を複数混合して用いることができる。例えば、カーボンブラックを使用したブラックインキに対し、低印字率における色味を改善するため、シアン顔料、マゼンタ顔料、オレンジ顔料、ブラウン顔料から選択される1種以上の顔料を少量添加することができる。
【0064】
これらの顔料は、ホワイトインキの場合を除き、インキ全量に対して2質量%以上20質量%以下の範囲で含まれることが好ましく、2.5質量%以上15質量%以下の範囲で含まれることがより好ましく、3質量%以上10質量%以下の範囲で含まれることが特に好ましい。また、ホワイトインキの場合、顔料の含有量は、ホワイトインキ全量に対して5質量%以上40質量%以下であることが好ましく、8質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。顔料の含有率を2質量%以上(ホワイトインキの場合は5質量%以上)にすることで、1パス印刷であっても十分な発色性(ホワイトインキの場合は隠蔽性)を得ることができる。また、顔料の含有率を20質量%以下(ホワイトインキの場合は40質量%以下)とすることで、インキの粘度をインクジェット印刷に適した範囲に収めることができるとともに、インキの保存安定性も良好なまま維持でき、結果として長期の吐出安定性を確保することができる。
【0065】
<顔料分散樹脂(D)>
顔料を水性インキ中で安定的に分散保持する方法として、(1)顔料分散樹脂を顔料表面に吸着させ分散する方法、(2)水溶性及び/または水分散性の界面活性剤を顔料表面に吸着させ分散する方法、(3)顔料表面に親水性官能基を化学的・物理的に導入し、分散樹脂や界面活性剤なしでインキ中に分散する方法(自己分散顔料)、(4)水不溶性樹脂で顔料を被覆し、必要に応じて更に別の顔料分散樹脂や界面活性剤を用いてインキ中に分散させる方法などを挙げることができる。
【0066】
本実施形態の積層体の製造に用いられる水性インキ(A)では、上記のうち(1)または(4)の方法、すなわち、顔料分散樹脂を用いる方法が選択され、かつ、前記顔料分散樹脂の酸価は30〜375mgKOH/gである。酸価を上記の範囲内に収めることで、接着剤層(III)中に存在するポリイソシアネート成分(K)と反応するうえ、水及び水溶性有機溶剤(E)に対する溶解性が確保できるため、インキ層(II)中での偏りを抑制し、積層体全体の更なる接着力向上が実現できる。更には、顔料分散樹脂(D)間での相互作用が好適なものとなることで、顔料分散液の粘度を抑えることができる点からも好ましい。また、酸価が30mgKOH/g以上であれば、上記のようにポリイソシアネート成分(K)とカルボキシル基とが直接かつ十分量反応することにより、ラミネート加工後の接着力が向上する。更には、375mgKOH/g以下であれば、顔料分散液及び水性インキ(A)の保存安定性にも優れるうえ、特にインキ凝集層を形成する形態の前処理液層(I)と組み合わせた際、過度の凝集を抑制し、抜けがなく鮮明性に優れた印刷物が得られる。上記効果がより好適に発現することから、顔料分散樹脂(D)の酸価は、65〜350mgKOH/gであることがより好ましく、更に好ましくは100〜300mgKOH/gである。
【0067】
上記顔料分散樹脂の種類は特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン(メタ)アクリル系樹脂、(無水)マレイン酸系樹脂、スチレン(無水)マレイン酸系樹脂、オレフィン(無水)マレイン酸系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂などを使用することができる。中でも、材料選択性の大きさや合成の容易さの点で、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン(メタ)アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂を使用することが特に好ましい。また上記の顔料分散樹脂は、既知の方法により合成することも、市販品を使用することもできる。なお本明細書において「(無水)マレイン酸」とは、マレイン酸または無水マレイン酸を表す。
【0068】
また、顔料分散樹脂(D)は芳香環構造を含有する単量体に由来する構造単位を含むことが好ましい。これは、顔料分散樹脂(D)中に含まれる芳香環構造と、無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)に含まれるウレタン結合中の窒素原子とが形成するπ−カチオン相互作用を利用した接着力の向上、水溶性有機溶剤(E)(特に、1気圧下の沸点が240℃未満であるもの)を含む水性インキ(A)における顔料の分散安定性の確保・向上、及び、前記分散安定性の確保・向上に伴う、インキ凝集層を形成する形態の前処理液層(I)と組み合わせた際の過度の凝集抑制とベタ画像等における抜けの防止を目的としたものである。芳香環構造を含有する単量体に由来する構造単位の量は、顔料分散樹脂(D)全量に対し、10〜80質量%であることが好ましく、15〜75質量%であることがより好ましく、20〜70質量%であることが特に好ましい。芳香環構造を含有する単量体に由来する構造単位の量を上記範囲に収めることで、π−カチオン相互作用を利用した接着力の向上の効果や、水溶性有機溶剤(E)(特に、1気圧下の沸点が240℃未満であるもの)を含む水性インキ(A)における顔料の分散安定性の確保・向上の効果が好適なものとなる。
【0069】
また、顔料分散樹脂(D)は、芳香環構造に加えて炭素数10〜36のアルキル基を含むことが好ましい。アルキル基の炭素数を10〜36とすることにより、顔料分散液の低粘度化、更なる印刷画質の向上、分散安定化、粘度安定化が同時に実現できるためである。なおアルキル基の炭素数として、好ましくは炭素数12〜30であり、更に好ましくは炭素数18〜24である。またアルキル基は炭素数10〜36の範囲であれば、直鎖であっても分岐していてもいずれも使用することができるが、直鎖状のものが好ましい。
【0070】
また、一実施形態において、顔料分散樹脂(D)が、芳香環構造に加えて、アルキレンオキサイド基を含むことも好適である。アルキレンオキサイド基を導入することで、前記顔料分散樹脂(D)の親水・疎水性を任意に調整し、水性インキ(A)の分散安定性を向上できる。上記機能を好適に発現させるため、顔料分散樹脂(D)として水溶性顔料分散樹脂を用いる場合、前記アルキレンオキサイド基としてエチレンオキサイド基を選択することが好ましい。同様に、顔料分散用樹脂(D)として非水溶性樹脂を用いる場合、前記アルキレンオキサイド基としてプロピレンオキサイド基を選択することが好ましい。
【0071】
なお、顔料を水性インキ(A)中で安定的に分散保持する方法として、顔料分散樹脂(D)に水溶性顔料分散樹脂を用いる場合、インキへの溶解度を上げるため、前記顔料分散樹脂(D)中の酸基を塩基で中和することが好ましい。しかしながら過剰に塩基を投入してしまうと、前処理液層(I)中に凝集剤が含まれている場合、前記凝集剤が中和されてしまい、十分な効果を発揮することができないため、その添加量には注意を払う必要がある。塩基の添加量が過剰かどうかは、例えば顔料分散樹脂(D)の10質量%水溶液を作製し、前記水溶液のpHを測定することにより確認することができる。中でも、前処理液の機能を十分に発現させるために、前記水溶液のpHが7〜11であることが好ましく、7.5〜10.5であることがより好ましい。
【0072】
上記の顔料分散樹脂(D)を中和するための塩基としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミンなどのアルカノールアミン;アンモニア水;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などを挙げることができる。
【0073】
また、顔料分散樹脂(D)の分子量は、重量平均分子量が1,000以上200,000以下の範囲内であることが好ましく、5,000以上100,000以下の範囲であることがより好ましい。重量平均分子量が前記範囲であることにより、顔料が水中で安定的に分散し、また水性インキ(A)に適用した際の粘度調整などが行いやすい。特に、重量平均分子量が1,000以上であると、水性インキ(A)中に添加されている溶剤に対して顔料分散樹脂(D)が溶解しにくいために、顔料に対しての前記顔料分散樹脂(D)の吸着が強く、分散安定性が優れる。また、重量平均分子量が200,000以下であると、分散時の粘度が低く抑えられるとともに、インクジェットヘッドからの吐出安定性が優れ、長期にわたって安定な印刷が可能になる。
【0074】
本実施形態において、顔料分散樹脂(D)の配合量は、顔料に対して1〜50質量%であることが好ましい。顔料分散樹脂(D)の配合量を、顔料に対して1〜50質量%とすることで、顔料分散液の粘度を抑え、前記顔料分散液や水性インキ(A)の粘度安定性・分散安定性が良化するとともに、前処理液と混合した際に速やかな分散機能の低下を引き起こすことができるため好ましい。顔料に対する顔料分散樹脂(D)の配合量としてより好ましくは2〜45質量%、更に好ましくは3〜40質量%であり、最も好ましくは4〜35質量%である。
【0075】
<水溶性有機溶剤(E)>
本実施形態の積層体の製造に用いられる水性インキ(A)は、水溶性有機溶剤(E)を含む。水溶性有機溶剤を含むこととで、詳細なメカニズムは不明ながら、顔料分散樹脂(D)が、水性インキ(A)、及びインキ層(II)中で均一に存在でき、前記ポリイソシアネート成分(K)との反応において偏りの発生を防止することで、積層体全体の接着力向上につながる。また、水性インキ(A)の分散安定性を好適なものとすることができ、結果として、優れた吐出性及び保存安定性を有するインキを得ることができる。更に、印刷基材上での水性インキ(A)の濡れ性を確保し、ベタ部等において抜けのない印刷画像が得られる。
【0076】
水溶性有機溶媒(E)は、特に限定されるものでなく、既知のものを任意に用いることができるが、顔料分散樹脂(D)や、必要に応じて添加されるバインダー樹脂、界面活性剤等の材料成分との相溶性・親和性の観点から、グリコールエーテル系溶剤及び/またはアルキルポリオール系溶剤を含有することが好ましい。特に、分子構造中に水酸基を1個以上含むことが好ましい。これは、水溶性有機溶媒(E)の水酸基が、無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)のポリイソシアネート成分(K)と反応することにより、ラミネート加工後の接着力が向上するためである。更に、水溶性有機溶剤(E)の1気圧下の沸点が、100℃以上240℃未満であることが好ましい。100℃以上にすることで、水性インキ(A)の吐出性、分散安定性、保湿性が良好になるうえ、240℃未満にすることで、水性インキ(A)の乾燥性、混色滲み、印刷物の耐ブロッキング性、積層体の接着力が良好になる。
【0077】
なお、上記の1気圧下での沸点は、DSC(示差走査熱量分析)等の熱分析装置を用いることにより測定することができる。
【0078】
本実施形態の積層体の製造に用いられる水性インキ(A)における、水溶性有機溶剤(E)の総量は、水性インキ(A)全量に対し、3質量%以上40質量%以下であることが好ましい。更に、インクジェットヘッドからの吐出安定性、並びに、前処理液(P)及びラミネート接着剤組成物(J)とを組み合わせた際に十分な接着力が確保できるという観点から、5質量%以上35質量%であることがより好ましく、8質量%以上30質量%以下であることが特に好ましい。水溶性有機溶剤(E)の総量を3質量%以上にすることでインキの保湿性、吐出安定性が優れたインキとなり、ラミネート加工後の接着力が良好となる。また水溶性有機溶剤(E)の含有量の合計を40質量%以下にすることで、乾燥性及び混色滲みが良好となり、かつ、耐ブロッキング性が良好な印刷物が得られる。
【0079】
好適に用いられるアルキルポリオール系溶剤としては、例えば1,2−エタンジオール(エチレングリコール)、1,2−プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−メチルペンタン−2,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどを挙げることができる。
【0080】
好適に用いられるグリコールエーテル系溶剤として、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、などのグリコールジアルキルエーテル類などを挙げることができる。
【0081】
中でも、優れた吐出安定性、保湿性、乾燥性と、ラミネート加工後の接着性を両立することができる点で、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、及び、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルからなる群より選ばれる1種以上を選択することが好ましい。
【0082】
<バインダー樹脂>
本実施形態の水性インクジェットインキ(A)はバインダー樹脂を含むことが好ましい。一般に樹脂の形態として、水溶性樹脂、並びに、非水溶性樹脂であるハイドロゾル、及び、エマルジョンが知られており、前記バインダー樹脂としていずれの形態も使用できる。なお、本明細書において「エマルジョン」とは、乳化剤を樹脂微粒子表面に吸着させ、分散媒中に分散させた形態を指し、「ハイドロゾル」とは、樹脂中に存在する酸性及び/または塩基性の官能基を中和し、分散媒中に分散させた形態を指す。また、前記ハイドロゾル及び前記エマルジョンは、一般に「樹脂微粒子」と総称される形態であり、後述する方法によって測定される体積50%粒子径が5〜1000nmであるものを指す。
【0083】
上記のうちエマルジョンは、重量平均分子量の大きい樹脂を含むことができること、また水性インキ(A)の粘度を低くすることができ、より多量の樹脂を含有させることができることから、印刷物の耐擦過性、耐ブロッキング性、積層体の接着力を高めるのに適している。
【0084】
また、ハイドロゾル及び水溶性樹脂を用いる場合、重量平均分子量が10,000以上80,000以下の範囲内であることが好ましく、20,000以上50,000以下であることがより好ましい。重量平均分子量が10,000以上であれば、印刷物の耐擦過性を好適なものとできるため好ましい。重量平均分子量が80,000以下であれば、インクジェットヘッドからの吐出安定性を好適な状態で維持できるため好ましい。なお本明細書における重量平均分子量及び数平均分子量は、後述する実施例記載の方法により測定できる。
【0085】
バインダー樹脂として使用される樹脂の種類としては、特に限定されないが、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレタン(メタ)アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂などが挙げられる。
【0086】
上記効果を好適に発現させる観点から、バインダー樹脂の含有量は、固形分換算で、水性インキ(A)全量中の1質量%以上20質量%以下の範囲であり、より好ましくは2質量%以上15質量%以下の範囲であり、特に好ましくは3質量%以上10質量%以下の範囲である。
また、前記バインダー樹脂の酸価は0mgKOH/g以上、65mgKOH/g未満であることが好ましい。
【0087】
<界面活性剤>
本実施形態の水性インクジェットインキ(A)は、その表面張力を調整し、透明基材1及び前処理液層(I)上の濡れ性を確保し、印刷画質を向上させる目的で、界面活性剤を使用することが好ましい。一方で、表面張力が低すぎると、インクジェットヘッドのノズル面が水性インキ(A)で濡れてしまい、吐出安定性を損なうことから、界面活性剤の種類と量の選択は重要である。最適な濡れ性の確保と、インクジェットヘッドからの安定吐出の実現という観点から、シロキサン系、アセチレン系、アクリル系、フッ素系、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系等の界面活性剤を使用することが好ましく、シロキサン系及び/またはアセチレン系界面活性剤を使用することが特に好ましい。界面活性剤の添加量としては、水性インキ(A)全量に対して、0.05質量%以上5.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以上3.0質量%以下がより好ましい。0.05質量%以上とすることで界面活性剤の機能を十分に発揮することができ、また、5.0質量%以下とすることで、水性インキ(A)の保存安定性及び吐出安定性を好適なレベルに維持できる。
【0088】
<その他の成分>
また本実施形態の積層体の製造に用いられる水性インクジェットインキ(A)は、上記の成分の他に、必要に応じて、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、増粘剤などの添加剤を適宜に添加することができる。これらの添加剤の添加量の例としては、水性インキ(A)の全質量に対して、0.01質量%以上10質量%以下が好適である。
【0089】
<接着剤層(III)、無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)>
次に、本実施形態の積層体を構成する接着剤層(III)について説明する。前記接着剤層(III)は、ポリイソシアネート成分(K)と、ポリオール成分(M)とを含む無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)の硬化膜からなり、前記ポリイソシアネート成分(K)が、芳香族イソシアネート化合物を含む。本実施形態の積層体の形成に使用されるのは、無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)であるため、乾燥機が必須である溶剤型ラミネート接着剤組成物とは異なり、乾燥機設備がなくてもよい。なお、前記ポリオール成分(M)と前記ポリイソシアネート成分(K)との質量比は、5:1〜1:5の範囲であることが好ましく、より好ましくは、3:1〜1:3である。
【0090】
<芳香族イソシアネート化合物>
芳香族イソシアネート化合物の反応性は、脂肪族や脂環式のイソシアネート化合部に比べて高く、その結果として、無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)において、溶剤型ラミネート接着剤組成物と遜色ない接着力及び強靭性が得られる。また詳細は不明ながら、前記芳香族イソシアネート化合物は、本実施形態の積層体を構成するインキ層(II)に含まれる顔料分散樹脂(D)との親和力が高く、更に、前記芳香族イソシアネート化合物の芳香環構造が有するπ電子が、前記インキ層(II)と分子間相互作用を形成すると考えられるために、積層体全体の接着力も向上する。
【0091】
前記芳香族イソシアネート化合物として、好適には、イソシアネート基を複数有する化合物が使用される。前記芳香族イソシアネート化合物の具体的な例として、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、テトラヒドロナフチレン−1,5−ジイソシアネート、4,4’−ジベンジルイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
印刷画質を損なうことなく、より外観が良好で、積層体としてのより高い接着力及び密着性を得られることから、芳香族イソシアネート化合物は、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以上の化合物を総称して「ジフェニルメタンジイソシアネート」とも呼ぶ)、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート(以上の化合物を総称して「トリレンジイソシアネート」とも呼ぶ)からなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0092】
ポリイソシアネート成分(K)に含まれる芳香族イソシアネート化合物の割合は、10質量%以上70質量%以下が好ましい。芳香族イソシアネート化合物が前記範囲にあることで、積層体におけるインキ層の塗工外観が良化し、ラミネート加工後の接着力も高くなる。より好ましくは、15質量%以上60質量%以下であり、更に好ましくは20質量%以上50質量%以下である。
【0093】
<ポリイソシアネート成分(K)>
無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)に含まれるポリイソシアネート成分(K)として、前記芳香族イソシアネート化合物をそのまま使用してもよいし、前記芳香族イソシアネート化合物から得られるアダクト体、イソシアヌレート体等を使用してもよい。なお「アダクト体」とは、芳香族イソシアネート化合物とトリメチロールプロパンとの付加体であり、「イソシアヌレート体」とは、芳香族イソシアネート化合物の三量体である。
また、ポリイソシアネート成分(K)として、芳香族イソシアネート化合物とポリオールとの反応生成物であって、末端にイソシアネート基を有するポリイソシアネートが挙げられる。
【0094】
本実施形態の積層体に使用する場合、ポリイソシアネート成分(K)として、芳香族イソシアネート化合物と、ポリエーテルポリオールまたはポリエステルポリオールとの反応生成物であって、末端にイソシアネート基を有するポリイソシアネートを含むことが好ましく、芳香族イソシアネート化合物とポリエーテルポリオールの反応生成物であって、末端にイソシアネート基を有するポリイソシアネートを含むことが特に好ましい。これにより、後述するポリオール成分(M)との相溶性が良好になり、接着剤層(III)の凝集力を高めることができる。またその結果、ラミネート加工時の無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)の塗工性が良好になり、積層体としての高い接着力が得られる。
【0095】
前記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン等のオキシラン化合物を、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン等を開始剤として重合して得られる化合物等が挙げられる。また、官能基数の異なるオキシラン化合物を複数組み合わせて用いることもできる。ポリエーテルポリオールとしては、数平均分子量が100以上5,000以下であるものが好ましい。
【0096】
一方、前記ポリエステルポリオールとしては、多価カルボン酸成分とグリコール成分とを反応させて得られる化合物が挙げられる。多価カルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバチン酸等の多価カルボン酸、若しくはそれらのジアルキルエステル、またはそれらの混合物が挙げられる。またグリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のグリコール類、若しくはそれらの混合物が挙げられる。
【0097】
また、ポリイソシアネート成分(K)として、芳香族イソシアネート化合物と、低分子ジオールである、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、等との反応生成物を用いることもできる。
【0098】
本実施形態の積層体に使用する場合、前記ポリイソシアネート成分(K)全体としての数平均分子量は200〜800であることが好ましく、より好ましくは300以上700以下である。上記の通り、例えばポリイソシアネート成分(K)としてポリエーテルポリオールを使用する場合、前記ポリエーテルポリオールの数平均分子量は100以上5,000以下であることが好ましいが、この場合、前記ポリエーテルポリオールとともに、分子量の小さい芳香族イソシアネート化合物を併用することによって、全体としての数平均分子量を上記範囲に調整することが好適である。
【0099】
また、前記ポリイソシアネート成分(K)全体におけるイソシアネート基の含有率は10質量%以上18質量%未満であることが好ましい。ポリイソシアネート成分(K)中のイソシアネート基の含有率が上記範囲内にあることで、印刷画質を損なうことなく、より外観の良好な積層体を形成することができる。なおイソシアネート基の含有率(質量%)は塩酸による滴定で求められる。
【0100】
<ポリオール成分(M)>
次に、無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)に含まれるポリオール成分(M)について説明する。
【0101】
ポリオール成分(M)として、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリルポリオール等の高分子ポリオール(ただしいずれも末端に水酸基を有する)や、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等の低分子ジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン等の低分子トリオールが使用できる。中でも、印刷画質を損なわず、より外観が良好で、積層体としての接着力を高める観点から、前記ポリオール成分(M)が、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオールからなる群から選ばれる1種以上のポリオールを含むことが好ましく、少なくともポリエステルポリオールを含むことがより好ましい。
【0102】
前記ポリエステルポリオール(ただし末端に水酸基を有する)としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸等の多価カルボン酸、若しくはそれらのジアルキルエステルまたはそれらの混合物と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のグリコール類、若しくはそれらの混合物との反応生成物;あるいは、ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリ(β−メチル−γ−バレロラクトン)等のラクトン類の開環重合反応物;等が挙げられる。また、ポリエステルポリオールとして、ヒマシ油等の植物油、並びに、前記植物油由来の水酸基を有するポリエステル化合物を使用することもできる。
【0103】
更に、上記例示したポリエステルポリオール中の水酸基の一部に、無水トリメリット酸などの酸無水物を反応させたものを用いることもできる。酸無水物を付加したポリエステルポリオールを用いることにより、フィルム基材に対する密着性及び積層体全体の接着力を向上できる。なお無水トリメリット酸を付加させる場合、その使用量は、反応前のポリエステルポリオール100質量%中、0.1〜5質量%であることが好ましい。
【0104】
また、前記ポリエーテルポリオール(ただし末端に水酸基を有する)としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン等のオキシラン化合物を、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン等の低分子量ポリオールを開始剤として重合して得られる化合物が挙げられる。
【0105】
また、前記ポリエーテルエステルポリオールとしては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸等の二塩基酸若しくはそれらのジアルキルエステルまたはそれらの混合物と、ポリエーテルジオールを反応させて得られる化合物が挙げられる。
【0106】
本実施形態の積層体の形成に使用される無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)の場合、ポリオール成分(M)の数平均分子量は、300以上5,000以下であることが好ましく、より好ましくは、500以上3000以下である。
【0107】
またポリオール成分(M)としては、上記に例示したポリオールを1種のみ使用してもよいし、2種以上併用してもよい。特に、本実施形態の積層体の形成に使用される無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)の場合、前記ポリオール成分(M)として、数平均分子量が異なる2種以上のポリオールを含むことが好ましい。具体的には、数平均分子量が100以上500未満であるポリオールと、前記数平均分子量が500以上3,000未満であるポリオールと、前記数平均分子量が3,000以上10,000以下であるポリオールとを含む場合、あるいは、前記数平均分子量が100以上1,000未満であるポリオールと、前記数平均分子量が1,000以上10,000以下であるポリオールとを含む場合、等が好適である。上記のうち、数平均分子量が1,000未満であるポリオールは、インキ層(II)に対する浸透性に優れるうえ、ポリイソシアネート成分(K)との反応性も良好であるため、前記インキ層(II)や透明基材1に対する接着力の向上に寄与する。また、数平均分子量が1,000以上であるポリオールは、無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)の硬化膜の凝集力を高めるのに有効であり、結果として接着剤層(III)の強度向上に寄与する。
【0108】
本実施形態の積層体の形成に使用される無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)において、前記ポリオール成分(M)中の水酸基のモル数が100モルの場合、併用するポリイソシアネート成分(K)中のイソシアネート基のモル数は120モル以上300モル以下とすることが好ましい。前記ポリオール成分(M)中の水酸基のモル数に対する、前記ポリイソシアネート成分(K)中のイソシアネート基のモル数を上記範囲内に収めることで、ラミネート加工後の接着力が良好なまま維持される積層体を得ることができ、例えば前記ラミネート加工後に高湿度環境下でエージング処理を実施したとしても、前記接着力が低下することがない。
【0109】
<その他の成分>
本実施形態の積層体の形成に使用される無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)には、平均粒子径が1×10-4 mm以上4×10-4mm以下である粒子成分を更に含有させることができる。上記範囲内の平均粒子径を有する粒子成分を含有した無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)を使用した場合、透明基材1のガスバリア性が高く、また高速で塗工・貼り合わせを行った場合であっても、より外観及び接着力に優れた積層体を得ることができる。なお、上記「平均粒子径」とは体積基準での累積50%径であり、例えば、日機装社製ナノトラックUPA−EX150により求めることができる。
【0110】
かかる粒子成分として、無機化合物または有機化合物のいずれも用いることができ、単独で用いても二種以上を併用しても良い。
【0111】
無機化合物からなる粒子成分としては、例えば、酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、アルミナホワイト、硫酸カリウム、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、酸化チタン、シリカ、ゼオライト、活性炭、カオリン、タルク、ロウ石クレー、けい石、マイカ、グラファイト、セリサイト、モンモリロナイト、セリサイト、セピオライト、ベントナイト、パーライト、ゼオライト、ワラストナイト、蛍石、ドロマイトなどの粉体が挙げられる。これらのなかでもシリカやタルクが好ましい。
【0112】
また有機化合物からなる粒子成分として、上述の水性インクジェットインキ(A)に使用できる樹脂微粒子が好適に使用できるほか、例えば、ベンゾグアナミン系樹脂、シロキサン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ナイロン6、ナイロン12、セルロースなどの樹脂微粒子を使用してもよい。上記のなかでも、ベンゾグアナミン系樹脂微粒子が好適に使用できる。
【0113】
粒子成分の含有量は、ポリイソシアネート成分(K)とポリオール成分(M)との合計100質量部に対して、0.01〜10質量部とすることが好ましい。上記範囲とすることによって、外観及び接着力をともに向上できる。
【0114】
また、本実施形態の積層体の形成に使用される無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)には、シランカップリング剤を添加してもよい。前記シランカップリング剤としては、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、イミノ基、メルカプト基等の官能基と、メトキシ基、エトキシ基等の官能基を有するものを好適に使用することができる。例えば、ビニルトリクロルシラン等のクロロシラン、N−(ジメトキシメチルシリルプロピル)エチレンジアミン、N−(トリエトキシシリルプロピル)エチレンジアミン等のアミノシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルシラン等が挙げられる。シランカップリング剤の添加量は、無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)全量に対して0.1〜5質量%であることが好ましい。
【0115】
その他、本実施形態の積層体の形成に使用される無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)には、更に、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解防止剤、防黴剤、増粘剤、可塑剤、消泡剤、顔料、充填剤等の添加剤を必要に応じて使用することができる。また、接着性能を更に高めるために、チタネート系カップリング剤、リン酸、リン酸誘導体、酸無水物、粘着性樹脂等の助剤を使用することができる。更に、硬化反応を調節するため公知の触媒、添加剤等を使用することができる。
【0116】
本実施形態の積層体を構成する接着剤層(III)は、少なくともポリイソシアネート成分(K)を含む組成物と、少なくともポリオール成分(M)を含む組成物とを使用前に混合して、無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)を調製したのち、インキ層(II)上、及び/または、基材2上に塗工することで、接着剤層の前駆体を得た後に形成されることが好ましい。また、無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)として、上述した粒子成分を含む場合、前記粒子成分は、少なくともポリオール成分(M)を含む組成物の側にあらかじめ混合しておくことが好ましい。
【0117】
また、上記少なくともポリイソシアネート成分(K)を含む組成物と、少なくともポリオール成分(M)を含む組成物との混合は、流動性が確保できる範囲で、できるだけ低温で行うことが好ましく、具体的には25℃以上、80℃以下で行うことが好ましい。更に、前記無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)を調製した直後の60℃での粘度は、好ましくは50mPa・s以上、5000mPa・s以下、更に好ましくは50mPa・s以上、3000mPa・s以下である。なお、本発明において、「調製した直後」とは、均一になるように混合した後1分以内であることを意味し、また上記の粘度はB型粘度計により測定した値を示す。60℃における粘度が5,000mPa・s以下であれば、インキ層(II)上、及び/または、基材2上への塗工を容易に行うことができ、良好な作業性を確保できるうえ、塗装外観も良化する。また、60℃における粘度が50mPa・s以上であれば、初期凝集力が十分高いために積層体全体の接着力が向上し、更には塗工時の厚みが均一になるため外観不良を生じることもなく、また反りが発生することもない。
【0118】
続いて、本実施形態の積層体及びその製造方法について説明する。本発明の積層体は、上記の通り、透明基材1と、前処理液層(I)と、インキ層(II)と、接着剤層(III)と、基材2とを、この順で有する。
【0119】
<透明基材1>
本明細書において「透明基材」とは、当該基材が可視光を透過することを表し、具体的には、前記基材越しに、黒色の文字(8ポイントのMS明朝体からなる文字)が視認できることを表す。本実施形態の積層体を構成する透明基材1として、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(以下、PETともいう)、ポリカーボネート、ポリ乳酸などのポリエステル系樹脂;ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂などのポリスチレン系樹脂;ナイロン6、ナイロン12などのポリアミド系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの含塩素系樹脂;セロハン;もしくは、これらの複合材料からなるフィルム状またはシート状のものが利用できる。なおこれらの透明基材1に用いる基材は、ポリビニルアルコールなどによりコート処理が施されていても良く、また、コロナ処理やプラズマ処理などの表面処理が施されていても良い。
【0120】
<前処理液層(I)>
本実施形態の積層体を構成する前処理液層(I)は、上述した前処理液(P)を付与し、乾燥及び/または硬化させた膜であり、その厚さは、0.1〜1.6μmである。なお本明細書において、「乾燥」とは液体成分を揮発・除去して層を形成させることであり、「硬化」とは構成成分の少なくとも一部を三次元に架橋・硬化させて層を形成させることを意味する。
【0121】
ここで、上記前処理液層(I)の厚さとは、前処理液(P)を付与し、乾燥及び/または硬化させた後の膜の厚さを表す。前処理液(P)を透明基材1に付与後、乾燥及び/または硬化させずに、後述するインキ層(II)を形成する場合、前処理液層(I)の厚さは、透明基材1上への前処理液(P)の付与量と、前記前処理液(P)の固形分量及び/または硬化に関与する構成成分量との比率から算出できる。また、上記前処理液層(I)の厚さは0.2〜1.0μmであることがより好ましく、0.3〜0.6μmであることが特に好ましい。
【0122】
前処理液(P)を透明基材1に付与する方法は、インクジェット方式のように前記透明基材1に対して非接触で印刷する方式と、前記透明基材1に対し、前記前処理液(P)を当接させて印刷する方式のどちらを採用してもよい。なお、透明基材1に対し前処理液を当接させる印刷方式を選択する場合、装置の単純性、均一塗工性、作業効率、経済性等の観点から、ローラ形式を採用することが好ましい。「ローラ形式」とは、回転するロールにあらかじめ前処理液を付与したのち、基材に前記前処理液を転写する塗工形式を指し、例えば、グラビアコーター、ドクターコーター、バーコーター、フレキソコーター、ロールコーターなどが挙げられる。
【0123】
また、透明基材1上に付与した前処理液(P)を乾燥及び/または硬化させるために、前記前処理液(P)を加熱してもよく、その際に用いられる加熱方法に関しても特に制限はない。例えば、加熱乾燥法、熱風乾燥法、赤外線乾燥法、マイクロ波乾燥法、ドラム乾燥法などを挙げることができ、また上記の乾燥法を単独で用いてもよいし、複数を併用してもよい。中でも、透明基材1へのダメージや前処理液(P)中の液体成分の突沸を防止する観点から、上記のうち加熱乾燥法を採用する場合は乾燥温度を35〜100℃とすることが好ましく、また熱風乾燥法を採用する場合は熱風温度を50〜250℃とすることが好ましい。
【0124】
また、本実施形態の積層体及びその製造方法では、前処理液(P)を透明基材1に付与したのち、前記前処理液(P)を完全に乾燥及び/または硬化させたのち、水性インクジェットインキ(A)を付与してもよいし、完全に乾燥及び/または硬化する前に、前記水性インクジェットインキ(A)を付与してもよい。中でも、水性インクジェットインキ(A)を付与する前に、前処理液(P)が完全に乾燥/または硬化した状態であることが好ましい。前処理液が完全に乾燥した後で水性インクジェットインキ(A)を付与することで、後から付与される水性インクジェットインキ(A)が乾燥不良を起こすことなく、耐ブロッキング性に優れた印刷物が得られる。なお、「完全に乾燥及び/または硬化する」とは、未乾燥の液体成分、及び/または、未硬化の構成成分の存在を完全に否定するものではない。具体的には、乾燥及び/または硬化前の前処理液(P)中に存在する、乾燥に関与する液体成分、及び/または、硬化に関与する構成成分の総量を100質量%としたとき、水性インクジェットインキ(A)の付与直前の時点における、前記未乾燥の液体成分、及び/または、未硬化の構成成分の総量を、5質量%以下とすることを表す。ただし上記観点より、水性インクジェットインキ(A)の付与直前の時点における、前記未乾燥の液体成分、及び/または、未硬化の構成成分の総量を、3質量%以下とすることが好ましく、1.5質量%以下とすることが特に好ましい。
【0125】
なお、前処理液(P)の付与・乾燥装置は、後述するインクジェット印刷装置に対し、インラインあるいはオフラインで装備されるが、印刷時の利便性の点から、インラインで装備されることが好ましい。
【0126】
<インキ層(II)>
本実施形態の積層体を構成するインキ層(II)は、顔料(C)と、顔料分散樹脂(D)と、水溶性有機溶剤(E)とを含む水性インクジェットインキ(A)の乾燥膜からなる層である。ただしインキ層(II)は、必ずしも前処理液層(I)の全てを覆っている必要はなく、本実施形態の積層体の場合は、面積換算で前記前処理液層(I)の50%以上を覆っていればよい。
【0127】
本実施形態の積層体を構成するインキ層(II)の厚さは、0.2〜20μmであることが好ましい。塗布量を上記範囲に収めることで、混色滲みを抑えた良好な印刷画質が得られ、積層体として高い接着力が得られる。また、水性インクジェットインキ(A)の乾燥性が良好になり、印刷物を重ねた際のブロッキングを防止し、ラミネート加工等の後加工に支障をきたすことがない。なお、上記インキ層(II)の厚さは、水性インクジェットインキ(A)を乾燥させた後の膜の厚さであり、より好ましいインキ層(II)の厚さは、0.3〜15μm、特に好ましくは0.4〜10μmである。
【0128】
また、本実施形態の積層体を構成する、前処理液層(I)とインキ層(II)との厚さの比は、4:1〜1:70の範囲であることが好ましく、より好ましくは2:1〜1:55であり、特に好ましくは1:1〜1:40の範囲である。層の厚さの比を上記範囲に収めることにより、前処理液層(I)の厚さが過剰となることで起こる、透明基材1の風合いの変化や、インキ層(II)が過剰となり、前処理液層(I)の効果が不十分となることで起こる、混色滲みや色ムラを防止でき、印刷画質に優れた印刷物を得ることができる。更には、接着剤層(III)となる無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)と、水性インクジェットインキ(A)を構成する各成分との親和力が維持され、積層体として高い接着力が得られる。
【0129】
上記水性インクジェットインキ(A)は単色で使用してもよいし、用途に合わせて複数の色を組み合わせた水性インクジェットインキ(A)のセットとして使用することもできる。その組み合わせは特に限定されないが、例えばシアン、イエロー、マゼンタの3色を使用することでフルカラーの画像を得ることができる。また、ブラックインキを追加することで黒色感を向上させ、文字などの視認性を上げることができる。更にオレンジ、グリーン、バイオレット等の色を追加することで色再現性を向上させることも可能である。また、ホワイトインキの印刷を行うことで、鮮明な画像を得ることができるとともに、軟包装材料用の積層体として、内容物に対する隠蔽性を上げることができる。
【0130】
水性インクジェットインキ(A)は、インクジェット印刷方式によって、前処理液層(I)上に付与される。その際、1パス印刷インクジェット印刷方式(以下、「1パス印刷方式」ともいう)により付与されることが好適である。「1パス印刷方式」とは、停止している基材に対しインクジェットヘッドを一度だけ走査させる、または固定されたインクジェットヘッドの下部に基材を一度だけ通過させる印刷方式であり、前処理液層(I)上に付与された水性インクジェットインキ(A)の上に、再度同じインキが付与されることがない。1パス印刷方式は、インクジェットヘッドを複数回走査するインクジェット印刷(マルチパス印刷方式)に比べて走査回数が少なく、印刷速度を上げることができることから、印刷速度が要求される産業用途に好適とされる。また、600dpi以上の高い記録解像度において印刷画質の高い印刷物が得られることからも、好適である。なお「記録解像度」はdpi(DotsPerInch)の単位で表されるものであり、1インチあたりに付与される水性インクジェットインキ液滴の数を表す。また本明細書中における「記録解像度」は、基材の搬送方向における記録解像度、及び前記基材面内で搬送方向に対し垂直方向(以下、記録幅方向とする)における記録解像度の両方を指すものとする。
【0131】
水性インクジェットインキ(A)を1パス印刷方式で付与する際、前記水性インクジェットインキ(A)のドロップボリュームは、前記インクジェットヘッドの性能によるところが大きいが、インキ層(II)の厚さを制御し、印刷画質に優れ接着力に優れた印刷物を得るため、0.6〜60pLの範囲であることが好ましい。より好ましくは1〜50pLであり、特に好ましくは1.4〜40pLである。また、高品質の画像を得るために、ドロップボリュームを変化させることができる階調仕様のインクジェットヘッドを使用することが特に好ましい。
【0132】
本実施形態の積層体の製造方法では、前処理液(P)を付与した透明基材1上に水性インクジェットインキ(A)を印刷した後、前記水性インクジェットインキ(A)を乾燥させるため、前記インクジェットインキ(A)を加熱してもよい。その際、混色滲みや色ムラを防止するため、前記加熱は、インクジェットインキ(A)の付与後20秒以内に付与することが好ましく、10秒以内に付与することがより好ましい。また、好適に用いられる加熱方法は、上記前処理液(P)の場合と同様である。
【0133】
<接着剤層(III)>
本実施形態の積層体を構成する接着剤層(III)は、ポリイソシアネート成分(K)とポリオール成分(M)とを含む無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)の硬化膜からなる層であり、上記の通り、前記ポリイソシアネート成分(K)が、芳香族イソシアネート化合物を含む。前記無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)が、インキ層(II)上、及び/または、基材2上に塗工され、接着剤層の前駆体が作製されたのち、前記接着剤層の前駆体を介して、インキ層(II)と基材2とを重ね合わせ、更に前記接着剤層の前駆体を硬化させて接着剤層(III)とすることで、本実施形態の積層体となる。
【0134】
本発明の無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)の付与方法は、特に限定されるものではないが、ローラ形式で付与されることが好ましい。すなわち、25〜120℃程度に加熱したローラを用いて、無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)を対象物の表面に付与する。その際、無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)の付与量は、対象物の種類や付与条件等に応じて適宜選択されるが、通常、1.0g/m2以上、5.0g/m2以下であり、好ましくは1.5g/m2以上、4.5g/m2以下である。その後、ラミネータ等により、インキ層(II)と基材2とを重ね合わせ、1日程度静置(エージング)することで、前記無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)が硬化し、本実施形態の積層体となる。なお、本実施形態の積層体で使用される無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)であれば、例えば、付与時及びエージング時の環境湿度が高い状態であっても、充分な接着力を有する積層体が得られる。
【0135】
<基材2>
本実施形態の積層体を構成する基材2として、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリ乳酸等のポリエステル系樹脂;ナイロン6、ナイロン12等のポリアミド系樹脂;ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂などのポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの含塩素系樹脂;エチレン−ビニルアルコール共重合物系樹脂;セロハン;紙;アルミニウム、ステンレス、鉄などの金属箔;もしくは、これらの複合材料からなるフィルム状またはシート状のものが利用できる。また、積層体としての耐久性、耐熱性、耐水性、耐光性、ガスバリア性を高めるために、複合材料を用いてもよく、例えば、アルミニウム蒸着層、アルミナ蒸着層、シリカ蒸着層等を有する、ポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリアミド系樹脂フィルム等がある。その際、積層体中では、蒸着層が接着剤層(III)と接していることが好ましい。更に、基材2として、上記に例示した基材を複数重ね、積層体としたものを用いてもよい。これにより、積層体としての耐熱性、ガスバリア性等が更に高くなり、より好適な食品パッケージ用の軟包装材料を得ることができる。
【0136】
なお上記基材2に用いる基材は、ポリビニルアルコールなどによりコート処理が施されていても良く、また、コロナ処理やプラズマ処理などの表面処理が施されていても良い。
【0137】
本実施形態の積層体を構成する基材2は、25℃における酸素透過度が100cc/m2・24hrs・atm以下であることが好ましい。上記例示した基材のうち、1μmあたりの酸素透過度が高いもの(例えばポリアミド系樹脂)に関しては、使用時の基材の厚さを大きくすることにより、上記酸素透過度範囲に収めることが可能となる。また蒸着層を有する複合材料は、基材の厚さによらず酸素を透過しにくいため、本実施形態の積層体では好適に使用できる。
【0138】
なお酸素透過度は、酸素透過率測定装置(例えば、日立ハイテクエンス社製MОCОN酸素透過率測定装置)を用い、JIS K 7126の方法に従い、測定することができる。
【実施例】
【0139】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の実施形態である積層体について、更に具体的に説明する。なお、以下の記載において、「部」及び「%」とあるものは特に断らない限りそれぞれ「質量部」、「質量%」を表す。
【0140】
<前処理液P1の製造例>
下記材料を、攪拌機を備えた混合容器内に投入し、室温(25℃)にて1時間混合したのち、50℃に加温し、更に1時間混合した。その後、混合物を室温まで冷却したのち、孔径1μmのメンブランフィルターにて濾過を行い、前処理液P1を得た。
スーパークロン480T(固形分30%) 17.0部
酢酸カルシウム 5.0部
サーフィノール440 1.0部
プロキセルGXL 0.1部
2−プロパノール 5.0部
イオン交換水 71.9部
【0141】
<前処理液P2の製造例>
下記材料を用い、前処理液P1と同様の方法により、前処理液P2を得た。
スーパーフレックス500M(固形分45%) 12.0部
PAS−H−1L(固形分28%) 18.0部
サーフィノール440 1.0部
プロキセルGXL 0.1部
2−プロパノール 5.0部
イオン交換水 63.9部
【0142】
前処理液P1〜P2の製造で用いた材料の詳細は以下の通りである。
・スーパークロンE480T
日本製紙製塩素化ポリオレフィン樹脂粒子 融点:70℃
・スーパーフレックス500M
第一工業製薬製エステル系ウレタンエマルジョン ノニオン性 Tg:−39℃
・PAS−H−1L
ニットーボーメディカル社製ポリジメチルジアリルアンモニウム塩酸塩
・サーフィノール420
エアープロダクツ社製アセチレンジオール系界面活性剤 HLB:8
・プロキセルGXL
アーチケミカルズ社製防腐剤(1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン水溶液)
【0143】
<水性インクジェットインキの製造>
<顔料分散樹脂1の合成例>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、ブタノール95部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱し、重合性単量体としてスチレン35部、アクリル酸35部、ベへニルアクリレート30部、及び重合開始剤であるV−601(富士フイルム和光純薬社製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、更に110℃で3時間反応させた後、V−601を0.6部添加し、更に110℃で1時間反応を続けて、顔料分散樹脂1の溶液を得た。更に、室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノールを添加して完全に中和したのち、水を100部添加し、水性化した。その後、100℃以上に加熱し、ブタノールを水と共沸させてブタノールを留去し、固形分濃度が30%になるように調整した。これより、顔料分散樹脂1の固形分濃度30%の水性化溶液を得た。顔料分散樹脂1の重量平均分子量は28,000、酸価は、273mgKOH/gであった。
【0144】
なお、酸価は、以下に示す方法により、顔料分散樹脂を構成する単量体の構成から算出した。また、重量平均分子量、及び後述する数平均分子量は、TSKgelカラム(東ソー社製)及びRI検出器を装備したGPC(東ソー社製、HLC−8120GPC)を用い、展開溶媒にTHFを用いて測定したものであり、いずれもポリスチレン換算値である。
【0145】
顔料分散樹脂1の酸価の算出方法を具体的に示す。1gの顔料分散樹脂1中に存在する酸基(アクリル酸に由来するカルボキシル基)のモル数(MCOOHとする)は{35÷(35+35+30)}÷72.06≒0.004857(mol)であるため、1gの前記顔料分散樹脂1を中和するのに必要な水酸化カリウムの質量(単位:mg)は、MCOOH×56.11≒0.273(g)=273(mg)となり、従って顔料分散樹脂1の酸価は約273(mgKOH/g)となる。ただし上式における72.06、56.11は、それぞれアクリル酸、水酸化カリウムの分子量である。
【0146】
<顔料分散樹脂2〜5、51の合成例>
重合性単量体として表1記載の単量体を使用する以外は顔料分散樹脂1と同様の操作にて顔料分散樹脂2〜5、51の固形分濃度30%の水性化溶液を得た。
【0147】
【表1】

【0148】
表1に記載された略語は、以下の通りである。
St:スチレン AA:アクリル酸 LMA:ラウリルメタクリレート
VA:ベヘニルアクリレート
【0149】
また、顔料分散樹脂6として、ビックケミージャパン社製DISPERBYK−191(ポリエチレングリコール変性アクリル共重合体、酸価30)を用いた。更に、顔料分散樹脂52として、同DISPERBYK−2010(ポリエチレングリコール変性スチレンマレイン酸共重合体、酸価20、固形分40%)を用いた。
【0150】
<顔料分散液1C、1M、1Y、1Kの製造例>
トーヨーカラー社製Lionol Blue 7358G(C.I.Pigment Blue 15:3)を20部、顔料分散樹脂1の水性化溶液(固形分濃度30%)を15部、水65部を混合し、ディスパーで予備分散した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて本分散を行い、顔料分散液1C(シアン)を得た。また、上記C.I.Pigment Blue 15:3を、以下に示す顔料にそれぞれ置き換えた以外は顔料分散液1Cと同様にして、顔料分散液1M(マゼンタ)、1Y(イエロー)、1K(ブラック)を得た。
・Magenta:DIC社製FASTGEN SUPER MAGENTA RGT
(C.I.Pigment Red 122)
・Yellow:トーヨーカラー社製LIONOL YELLOW TT−1405G
(C.I.Pigment Yellow 14)
・Black:オリオンエンジニアドカーボンズ社製PrinteX85
(C.I.Pigment Black 7)
【0151】
<顔料分散液1Wの製造例>
石原産業社製CR−90−2(酸化チタン)を40部、顔料分散樹脂1の水性化溶液(固形分濃度30%)を30部、水30部を混合し、顔料分散液1Cと同様の方法にて分散を行い、顔料分散液1Wを得た。
【0152】
<顔料分散液2〜6、51(C、M、Y、K、W)の製造例>
顔料分散樹脂として顔料分散樹脂2〜6及び51〜52を使用した以外は、顔料分散液1M、1C、1Y、1K、1Wと同様の方法を用いることで、顔料分散液2〜6及び51〜52(それぞれC、M、Y、K、W)を得た。
【0153】
なお表2及び表3に、顔料分散液1〜6、51〜52の構成を示した。
【表2】
【表3】
【0154】
<バインダー樹脂1の合成例>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、ブタノール93.4部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱し、重合性単量体としてスチレン25部、メタクリル酸5部、メタクリル酸メチル70部及び重合開始剤であるV−601(富士フイルム和光純薬社製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、更に110℃で3時間反応させた後、V−601を0.6部添加し、更に110℃で1時間反応を続けて、分散樹脂1の溶液を得た。更に、室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノール37.1部添加し中和し、水を100部添加し、水性化した。その後、100℃以上に加熱し、ブタノールを水と共沸させてブタノールを留去し、固形分が30%になるように調整した。これより、バインダー樹脂1の固形分30%の水性化溶液を得た。顔料分散樹脂1の場合と同様に測定した、バインダー樹脂1の重量平均分子量は18,000であった。またバインダー樹脂1の酸価を算出したところ32mg/KOHであった。
【0155】
<インクジェットインキ1の製造例>
下記記載の材料をディスパーで攪拌を行いながら混合容器へ順次投入し、十分に均一になるまで攪拌した。その後、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過を行った。また顔料分散液1Cの代わりに、顔料分散液1M、1Y、1Kをそれぞれ使用することにより、C、M、Y、K、Wの5色からなる各インクジェットインキを得た。
インクジェットインキ1C
顔料分散液1C 25部
バインダー樹脂(固形分濃度30%) 25部
1,2−プロパンジオール 20部
サーフィノール 465 1部
TEGO WET 280 1部
プロキセルGXL 0.05部
イオン交換水 27.95部

インクジェットインキ1W
顔料分散液1W 40部
バインダー樹脂(固形分濃度30%) 28部
1,2−プロパンジオール 20部
サーフィノール 465 1部
TEGO WET 280 1部
プロキセルGXL 0.05部
イオン交換水 9.95部
【0156】
<インクジェットインキ2〜10、51〜53の製造例>
表4及び、表5に記載の材料を使用する以外はインクジェットインキ1と同様の方法により、C、M、Y、K、Wの5色のインクジェットインキ2〜10、及び51〜53得た。
【0157】
【表4】
【0158】
【表5】
【0159】
なお表4、5に記載した材料の略称のうち、上記に記載のない材料は以下の通りである。
・水溶性溶剤
PG :1,2−プロパンジオール
BD :1,2−ブタンジオール
HD :1,2−ヘキサンジオール
MB :3−メトキシブタノール
DEDG:ジエチレングリコールジエチルエーテル
・TegoWet280 エボニックジャパン社製シロキサン系界面活性剤
・サーフィノール465 エアープロダクツ社製アセチレンジオール系界面活性剤
【0160】
<無溶剤型ラミネート接着剤組成物の製造例>
以下の手順に従い、無溶剤型ラミネート接着剤組成物を製造した。
(1)ポリオール(ポリオール成分(M)とは異なる)とイソシアネート化合物を混合し たのち、ウレタン化反応させ、末端にイソシアネート基を有するポリイソシアネー ト成分(K)を製造
(2)ポリオール成分(M)を製造
(3)ウレタンプレポリマーを含むイソシアネート成分(K)と、ポリオール成分(M) とを混合し、無溶剤型ラミネート接着剤(J)を製造
【0161】
<ポリイソシアネート成分の合成例>
<ポリイソシアネートK−1の合成例>
下記材料を、攪拌機を備えた反応容器内に投入し、窒素ガス気流下、攪拌しながら70℃〜80℃に加温し、容器内温度を維持しながら、3時間ウレタン化反応を行い、イソシアネート基を有するポリエーテルポリイソシアネート化合物(ポリイソシアネートK−1とする)を得た。なお、前記ポリイソシアネートK−1のイソシアネート基含有率は10.2%、芳香族イソシアネートモノマー含有率は30%であった。
ポリプロピレングリコール(数平均分子量約400) 300部
ポリプロピレングリコール(数平均分子量約2,000) 400部
グリセリンにポリプロピレングリコールを付加したトリオール
(数平均分子量約400) 200部
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート 400部
2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート 600部
【0162】
<ポリイソシアネートK−2、4〜5、7、51〜52の合成例>
表6に示した原料を使用した以外は、ポリイソシアネートK−1と同様の方法を用いることで、ポリエーテルポリイソシアネート化合物である、ポリイソシアネートK−2、4〜5、7、及びK−51〜52を得た。
【0163】
なお表6に記載された略語は、以下の通りであり、以降の記載にも下記の略語を使用した。
・PPG−400:ポリプロピレングリコール(数平均分子量約400)
・PPG−2000:ポリプロピレングリコール(数平均分子量約2,000)
・PPG−400−3官能:グリセリンにポリプロピレングリコールを付加したトリオ ール(数平均分子量約400)
・4,4’−MDI:4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート
・2,4’−MDI:2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート
・TDI:2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートの 混合物
・XDI:キシレンジイソシアネート
・HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
・IPDI:イソホロンジイソシアネート
【0164】
<ポリイソシアネートK−3の合成例>
イソフタル酸80部、アジピン酸460部、1,6−ヘキサンジオール60部、ジエチレングリコール400部を反応容器に仕込み、窒素ガス気流下、攪拌しながら150℃〜240℃に加温し、容器内温度を維持しながらエステル化反応を行った。内容物の酸価が1.3(mgKOH/g)になったところで容器内温度を200℃にし、次いで反応容器内部の圧力が1.3kPa以下となるまで徐々に減圧した。そして、前記温度及び圧力を維持しながら30分間反応させ、酸価0.4mgKOH/g、水酸基価80mgKOH/g、数平均分子量約1,400で、末端に水酸基を有するポリエステルジオールL−1を得た。
【0165】
得られたポリエステルジオールL−1を160部と、PPG−400を200部と、4,4’−MDIを310部と、2,4−MDIを350部とを、上記とは別の反応容器に仕込み、窒素ガス気流下、攪拌しながら70℃〜80℃に加温し、容器内温度を維持しながら、3時間ウレタン化反応を行い、イソシアネート基含有率が16.7%、芳香族イソシアネートモノマー含有率が50%である、イソシアネート基を有するポリエーテルポリイソシアネート化合物(ポリイソシアネートK−3とする)を得た。
【0166】
<ポリイソシアネートK−6の合成例>
アジピン酸208部、ジエチレングリコール192部を反応容器に仕込み、窒素ガス気流下、攪拌しながら150℃〜240℃に加温し、容器内温度を維持しながらエステル化反応を行った。内容物の酸価が1.3(mgKOH/g)になったところで容器内温度を200℃にし、次いで反応容器内部の圧力が1.3kPa以下となるまで徐々に減圧した。そして、前記温度及び圧力を維持しながら30分間反応させ、酸価0.5mgKOH/g、水酸基価56.1mgKOH/g、数平均分子量約2,000で、末端に水酸基を有するポリエステルジオールL−2を得た。
【0167】
得られたポリエステルジオールL−2を100部と、PPG−400を340部と、TDIを270部とを、反応容器に仕込み、窒素ガス気流下、攪拌しながら80℃加温し、容器内温度を維持しながら1時間ウレタン化反応を行った。その後、更に4,4’−MDIを270部加え、窒素ガス気流下、攪拌しながら80℃で3時間ウレタン化反応を行い、イソシアネート基含有率が14.8%、芳香族イソシアネートモノマー含有率が39%である、イソシアネート基を有するポリエーテルポリイソシアネート化合物(ポリイソシアネートK−6とする)を得た。
【0168】
【表6】
【0169】
なお上表6には、ポリイソシアネートK−1〜7、51〜52に関して、各イソシアネート化合物の配合モル比率、イソシアネート基(NCO基)の含有率、イソシアネートモノマーの含有率、及び、芳香族イソシアネートモノマーの含有率についても、併せて記載した。
【0170】
<ポリオール成分の製造例>
<ポリオールM−1〜M−6の製造例>
特開2017−177800号公報に記載の、合成例201、203〜207と同様の方法にて、ポリエステルポリオール(それぞれN−1〜N−6とする)を合成した。得られたポリエステルポリオールN−1〜6の物性は表7に示した通りであった。
【0171】
【表7】
【0172】
そして、上記で得られたポリステルポリオールN−1〜6を用い、下表8記載の材料及び配合量で混合することで、ポリオールM−1〜M−6を得た。なお表8には、ポリオールM−1〜M−6の水酸基価も併せて記載した。
【0173】
【表8】
【0174】
<無溶剤型ラミネート接着剤組成物J−1の製造例>
上記で得られたポリイソシアネート成分K−1を100部と、上記で得られたポリオール成分M−1を50部とを60℃で混合し、無溶剤型ラミネート接着剤組成物J−1を得た。なお、前記無溶剤型ラミネート接着剤組成物J−1は、ポリオール成分中の水酸基100モルに対し、ポリイソシアネート成分K−1由来のイソシアネート基を129モル含有する。
【0175】
ここで、水酸基100モルに対するイソシアネート基の量は、以下式(2)のようにして求めた。
式(2):

水酸基100モルに対するイソシアネート基の量
=[イソシアネート基(eq.)/水酸基(eq.)]×100
【0176】
ただし式(2)中、
イソシアネート基(eq.)=NCO含有率(質量%)/4200
であり、
水酸基(eq.)=水酸基価/56100
である。
【0177】
また、前記無溶剤型ラミネート接着剤組成物J−1全量中に含まれる、芳香族イソシアネート化合物は、4,4'−MDI及び2,4'−MDIであり、その合計率は20%であった。ここで前記芳香族イソシアネートモノマー含有率は、GPCチャート上で観察される、4,4'−MDIモノマー由来のピーク(Mn=200〜300付近に出現)の面積と、2,4'−XDIモノマー由来のピーク(Mn=150〜250付近に出現)の面積との合計を、前記GPCチャート上で観察される全てのピークの合計面積で除したものである。
【0178】
<無溶剤型ラミネート接着剤組成物J−2〜10、51〜53の製造例>
表9に示した組成とした以外は、無溶剤型ラミネート接着剤組成物J−1と同様にして、無溶剤型ラミネート接着剤組成物J−2〜10、及びJ−51〜53を得た。なお表9には、各無溶剤型ラミネート接着剤組成物について、水酸基100モルに対するイソシアネート基の量、及び、芳香族イソシアネート化合物の含有量についても記載した。
【0179】
【表9】

【0180】
<前処理液を付与した印刷基材1の作製例1>
松尾産業社製KコントロールコーターK202、ワイヤーバーNo.0を用い、以下に示した透明基材1である各基材に上記で作製した前処理液を塗布したのち、前処理液を塗布した透明基材1を70℃のエアオーブンにて3分間乾燥させることで、透明基材1に前処理液層(I)を付与した印刷基材を作製した。
・フタムラ化学社製ポリプロピレンフィルム「FOR」
(厚さ20μm、後述する表10では「OPP」と記載)
・東洋紡社製ポリエチレンテレフタレートフィルム「E5100」
(厚さ12μm、後述する表10では「PET」と記載)
・ユニチカ社製ナイロンフィルム「エンブレムON」
(厚さ15μm、後述する表10では「NY」と記載)
【0181】
なお、前処理液の付与にあたっては、上記松尾産業社製KコントロールコーターK202の他に、小林製作所社製ワイヤーバー、及び、オーエスジーシステムプロダクツ製Dバーを使用し、所望の層の厚さとなるように適宜バーを選択した。
【0182】
<前処理液を付与した印刷基材1の作製例2>
基材を搬送できるコンベヤの上部にインクジェットヘッドKJ4B−QA(京セラ社製、解像度600dpi、最大駆動周波数30kHz)を設置し、上記で作製した前処理液を充填した。次いで、コンベヤ上に上記に示した透明基材1を固定したのち、前記コンベヤを50m/分で駆動させ、前記インクジェットヘッドの設置部を通過する際に、前処理液を吐出し、前記透明基材1上に印刷を行った。なお印刷時のドロップボリュームは、5pL〜18pLの範囲で、所望の層の厚さとなるように調整した。そして、前処理液を印刷した透明基材1を70℃のエアオーブンにて3分間乾燥させることで、透明基材1に前処理液層(I)を付与した印刷基材を作製した。
【0183】
なお、前処理液層の厚さは、前処理液の塗布前後の印刷基材20cm四方の質量を測定し、その質量変化より算出した。
【0184】
<水性インクジェットインキの印刷例>
印刷基材を搬送できるコンベヤの上部にインクジェットヘッドKJ4B−1200(京セラ社製、解像度1200dpi、最大駆動周波数64kHz)を設置し、上記で作製した水性インクジェットインキを上流側から、K(ブラック)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、W(ホワイト)の順番に充填した。次いで、前記コンベア上に、上記で作製した、前処理液を付与した透明基材1を固定したのち、前記コンベヤを50m/分で駆動させ、前記インクジェットヘッドの設置部を通過する際に、水性インクジェットインキを吐出し、以下に示した画像3種類の印刷を行った。なお印刷時のドロップボリュームは、1.5pL〜5pLの範囲で、所望の層の厚さとなるように調整した。そして、速やかに、前記印刷物を70℃のエアオーブンに投入し3分間乾燥させることで、インキ層(II)を付与した印字物を作製した。
【0185】
<評価に使用した印刷画像>
それぞれ、充填した全てのインキを使用し、印字率100%のベタ画像、及び、平仮名と漢字の混ざった4ポイント・6ポイント・8ポイントのMS明朝体からなる文字を、色ごとに互いに重ならないように配置した画像(以下、単に「文字印刷物」という)を印刷した。ただしベタ画像に関しては、各色ベタ画像が完全に重なるように印刷した画像(以下、「完全ベタ印刷物」という)と、一部重ならない部分が形成されるよう、後から印刷されるインキについてベタ画像のサイズを大きくした画像(以下、「階段状ベタ印刷物」という)の2種類を作製した。なお参考として、実施例4で作成した、完全ベタ印刷物及び階段状ベタ印刷物の断面を、それぞれ図1及び図2に例示した。ただし図1及び図2は、層構成を簡潔に図示した模式図であり、実際の層の厚さ等を表しているものではない。
【0186】
また、インキ層(II)の厚さを大きくする際は、印字を複数回繰り返した。
【0187】
<積層体の製造例>
無溶剤テストコーターを用い、上記で作製したインキ層(II)、または、以下に示した基材2の表面に、前記無溶剤型ラミネート接着剤組成物を、温度60℃、塗工速度50m/分の条件にて塗布し(塗布量:2g/m2)、接着剤層の前駆体を作製した。この接着剤層の前駆体に、表10に示す層構成になるように、基材2、または、インキ層(II)を有する透明基材1を重ね合わせたのち、25℃、80%RHの環境下にて、1日間エージングすることで、前記無溶剤型ラミネート接着剤組成物を硬化させ、積層体を作製した。
・フタムラ化学社製無延伸ポリプロピレンフィルム「FHK2」
(厚さ25μm、以下及び後述する表10では「CPP」と記載)
・東レ社製アルミ蒸着ポリプロピレンフィルム「2203」
(厚さ25μm、以下及び後述する表10では「VMCPP」と記載)
・三井化学東セロ社製直鎖状低密度ポリエチレンフィルム「TUX−FC−D」
(厚さ40μm、以下及び後述する表10では「LLDPE」と記載)
【0188】
各積層体の作製に用いた、透明基材1、前処理液、インキ、記無溶剤型ラミネート接着剤組成物、基材2の組合せは、表10に示した通りである。なお表10には、前処理液の塗工方法及び層の厚さ、インキ層の色構成及び層の厚さ、並びに、前記前処理液層の厚さに対する前記インキ層の厚さの比についても記載した。
【0189】
【表10】
【0190】
【表10】
【0191】
【表10】
【0192】
【表10】
【0193】
表10中の表記のうち、これまでの表に記載がない略称は、以下の通りである。
<前処理液の塗布方法>
B:バーコーターによる塗工
IJ:インクジェット方式での塗工
<インキ層のインキ構成>
C:シアンインキのみ使用
W:ホワイトインキのみ使用
C・W:シアンインキを付与した後、ホワイトインキを付与
C・M・W:シアンインキ、マゼンタインキ、ホワイトインキの順番に付与
C・M・Y・W:シアンインキ、マゼンタインキ、イエローインキ、ホワイトインキ の順番に付与
5色:ブラックインキ、シアンインキ、マゼンタインキ、イエローインキ、ホワイト インキの順番に付与
【0194】
[実施例1〜50、比較例1〜8]
上記で製造した各積層体について、以下に示す評価1〜6を行った。なお、その評価結果は表11に示した通りであった。
【0195】
<評価1:色ムラの評価>
印刷画像として完全ベタ印刷物を用いて作製した積層体について、色ムラの程度を、透明基材1側から目視で観察することで、色ムラの評価を行った。評価基準は以下の通りとし、○、△を実使用上可能領域とした。
○:ベタ部の色ムラが見られなかった
△:目視で僅かな色ムラが見られた
×:目視で明らかな色ムラが見られた
【0196】
<評価2:ベタ部の抜けの評価>
印刷画像として完全ベタ印刷物を用いて作製した積層体について、抜け度合を、透明基材1側からルーペ及び目視で確認することで、抜けの評価を行った。評価基準は以下の通りとし、◎、○、△を実用可能領域とした。
◎:ルーペ及び目視で抜けが見られなかった
○:ルーペでは僅かに抜けが見られたが、目視で抜けが見られなかった
△:目視で僅かに抜けが見られた
×:目視で明らかに抜けが見られた
【0197】
<評価3:滲みの評価>
印刷画像として階段状ベタ印刷物を用いて作製した積層体について、印字部と非印字部との境界のエッジ(図2中、A1、A2で示した箇所)、及び、ベタ画像の重なり方が異なる箇所の境界のエッジ(図2中、B1、B2で示した箇所)を、透明基材1側からルーペ及び目視で観察することで、滲みの評価を行った。評価結果は以下の通りとし、◎、○、△を実使用上可能領域とした。
◎:ルーペ及び目視でエッジ部の滲み・歪みが見られなかった
○:ルーペでは僅かにエッジ部の滲み・歪みが見られたが、目視では見られなかった
△:目視で僅かにエッジ部の滲み・歪みが見られた
×:目視で明らかにエッジ部の滲み・歪みが見られた
【0198】
<評価4:鮮明・視認性の評価>
印刷画像として文字印刷物を用いて作製した積層体について、透明基材1側から目視で観察することで、鮮明・視認性を評価した。評価基準は以下の通りとし、◎、○、△を実使用上可能領域とした。なお表11には、印刷を行った色のうち、最も悪かった色の結果のみを示した。
◎:4ポイント、6ポイント、8ポイントのいずれの文字も鮮明で、明瞭に判読でき た。
○:4ポイントの文字がやや鮮明性に劣るものの十分に判読でき、また6ポイント及 び8ポイントの文字は鮮明で、明瞭に判読できた。
△:4ポイントの文字は鮮明性に劣り判読できなかった。また6ポイントの文字はや や鮮明性に劣るものの、十分に判読でき、8ポイントの文字は鮮明で、明瞭に判 読できた。
×:4ポイント及び6ポイントの文字は鮮明性に劣り判読できなかった。一方8ポイ ントの文字は鮮明性に劣るものの、判読できるレベルであった。
【0199】
<評価5:接着力の評価>
印刷画像として完全ベタ印刷物を用いて作製した積層体を、長さ300mm、幅15mmに切り取り、テストピースとした。インストロン型引張試験機を使用し、25℃の環境下にて、300mm/分の剥離速度で引張り、透明基材1/基材2間のT型剥離強度(N)を測定した。この試験を5回行い、その平均値を求めることで、接着力の評価を行った。評価基準は以下の通りとし、3以上を実使用上可能領域とした。
5:接着力1.5N以上
4:接着力1.0N以上、1.5N未満
3:接着力0.6N以上、1.0N未満
2:接着力0.3N以上0.6N未満
1:接着力0.3N未満
【0200】
<評価6:経時後の評価>
印刷画像として完全ベタ印刷物を用いて作製した積層体を、40℃、80%RHの環境下に1週間静置したのち、評価4の「鮮明・視認性」の評価、及び、評価5の「接着力」の評価を行った。なお評価基準はそれぞれ評価4、5と同様とした。
【0201】
実施例及び比較例の評価結果を表11に示す。
【0202】
【表11】

【0203】
【表11】

【0204】
【表11】

【0205】
【表11】

【0206】
比較例1及び比較例2は、インキに含まれる顔料分散樹脂(D)の酸価がそれぞれ、375mgKOH/g超、または、30mgKOH/g未満であり、積層体の経時後の鮮明・視認性、接着力が悪い結果となった。また、ベタ部の抜けや滲みが発生していた。比較例3は、インキに水溶性有機溶剤(E)が含まないため、ベタ部の抜けが発生し、積層体の経時後の鮮明・視認性、接着力も悪い結果となった。比較例4〜6は、無溶剤型ラミネート接着剤組成物(J)中のポリイソシアネート成分(K)が、芳香族イソシアネート化合物を含まないため、積層体の接着力が悪く、経時での鮮明・視認性も悪い結果となった。比較例7及び8は、前処理液層(I)の厚さが、0.1〜1.6μmの範囲から外れており、色ムラが発生し、積層体の接着力も悪い結果となった。
【0207】
一方、実施例1〜50は、好適なインキ、無溶剤型ラミネート接着剤を用いた系であり、前処理液層(I)、インキ層(II)、接着剤層(III)が好適な層構成となっており、色ムラやベタ部の抜け、滲みがなく、鮮明・視認性が良好な印刷画質を有する印刷物が得られ、積層体としての接着力も優れており、経時においても良好な状態を維持し、全てが実用可能領域であった。
【符号の説明】
【0208】
1:透明基材1
2:前処理液層
3a:シアンインキ層
3b:マゼンタインキ層
3c:ホワイトインキ層
4:接着剤層
5:基材2
図1
図2