(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6821878
(24)【登録日】2021年1月12日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】車両用灯具の取付け構造
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/04 20060101AFI20210114BHJP
F21S 41/00 20180101ALI20210114BHJP
F21V 21/00 20060101ALI20210114BHJP
F21W 107/10 20180101ALN20210114BHJP
F21W 102/00 20180101ALN20210114BHJP
F21Y 101/00 20160101ALN20210114BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20210114BHJP
【FI】
B60Q1/04 A
F21S41/00
F21V21/00 300
F21V21/00 140
F21W107:10
F21W102:00
F21Y101:00 300
F21Y115:10
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-232300(P2016-232300)
(22)【出願日】2016年11月30日
(65)【公開番号】特開2018-86991(P2018-86991A)
(43)【公開日】2018年6月7日
【審査請求日】2019年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100103078
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】徳永 賢
【審査官】
飯塚 向日子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−189313(JP,A)
【文献】
実開平04−039137(JP,U)
【文献】
特開平08−244522(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/064694(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/04
F21S 41/00
F21V 21/00
F21W 102/00
F21W 107/10
F21Y 101/00
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源を収容する合成樹脂製の本体部を有するランプハウジングにおいて、前記本体部から車両内方に突出し、かつ前記本体部と一体成形されたピンと、
中央に挿通孔が設けられたフランジ部と、前記挿通孔の周囲を囲み、かつ前記フランジ部から突出する弾性片と、を有するグロメットと、を備え、
車体に設けられた取付け孔に前記弾性片を車両外方から挿通させることにより前記グロメットを前記車体に嵌合させるとともに、前記挿通孔に前記ピンを挿通させることにより前記ランプハウジングが前記車体に保持される車両用灯具の取付け構造であって、
前記ピンの側面は、前記ピンの軸心を通る平面に対して一方の領域に位置する第1側面と、他方の領域に位置する第2側面と、を含み、
前記第1側面の先端には、形状が紡錘状の膨出部が前記第1側面のうち当該先端に位置する領域の全体にわたって形成され、
前記第2側面には、前記本体部から先端にかけて延出し、かつ前記ピンの外側に突出するとともに、前記ピンの軸心まわりにおいて互いに離れて位置する複数の突条部が形成され、
前記弾性片は、前記挿通孔の周方向において互いに離れて位置する複数の領域を含み、
前記挿通孔に前記ピンを挿通させた際、前記複数の領域の各々は、前記膨出部と、前記複数の突条部のいずれかと、の少なくともどちらかに接することを特徴とする、車両用灯具の取付け構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製のランプハウジングの本体部に一体成形されたピンと、車体に嵌合されたグロメットとを構成として含む車両用灯具の取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に装着されるヘッドランプなどの車両用灯具においては、合成樹脂製のランプハウジングを車体に取り付ける際、ランプハウジングの本体部に一体成形されたピンと、車体に嵌合されたグロメット(ファスナ)を用いて位置決めし、スタッドボルトやタッピングねじなどの締結部材を用いて強固に固定する方法がある。このようなランプハウジングの取付け方法によれば、たとえば灯具がヘッドランプである場合、フロントバンパを取り外さずにランプハウジングを取り外すことが可能であり、車両のメンテナンス性に有利である。
【0003】
特許文献1に、このようなピンおよびグロメットを構成として含む車両用灯具の取付け構造が開示されている。当該構造においては、ランプハウジング(灯具ボディ)の本体部に翼状をした複数のリブを立設し、当該リブの先端からピンが突出した構成となっている。このような構成をとることによって、ピンの強度を向上させ、かつピンが設けられるランプハウジングの背面に「ひけ(樹脂成形に起因した窪み)」が発生することを防止できる。
【0004】
一方、小型車を対象とした当該車両用灯具の取付け構造においては、ピンの小型化を図ることができるため、単にランプハウジングの本体部から突出させるようにピンを本体部と一体成形することで足りる。この場合、特許文献1に開示されているリブは不要となるとともに、ピンの径が比較的小さいため、先述の「ひけ」の発生が抑制される。
【0005】
ここで、当該車両用灯具の取付け構造においては、特許文献1に開示されているように、ピンの先端部の形状を、ピンの軸方向回りの全周にわたって紡錘状とすることが望ましい。ピンの先端部を当該形状とすることによって、グロメットに設けられた弾性片が当該先端部によりピンの軸方向回りの全周にわたって押し広げられ、車体にランプハウジングを強固に保持することができる。
【0006】
しかしながら、小型車を対象とした当該車両用灯具の取付け構造において、ピンをランプハウジングの本体部とともに一体成形する場合、金型構造の制約により当該形状の先端部を有するピンを成形することが困難である。当該形状は、樹脂成形にかかるアンダーカットに該当するためである。ピンの軸方向回りの全周にわたって当該形状の先端部を形成するためには、たとえば特許文献1に開示されているように、二分割されるスライドコアを内蔵した引き抜きコアによる金型を適用する必要がある。ただし、当該金型は、内蔵されたスライドコアが引き抜きシャフトに設けられたアンギュラピンにより保持されるなど、構造が比較的複雑であるため、灯具の製造コストが増加するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−244522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情に鑑み、灯具の製造コストの縮減を図りつつ、車体にランプハウジングをより強固に保持することが可能な車両用灯具の取付け構造を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によって提供される車両用灯具の取付け構造は、光源を収容する合成樹脂製の本体部を有するランプハウジングにおいて、前記本体部から車両内方に突出し、かつ前記本体部と一体成形されたピンと、中央に挿通孔が設けられたフランジ部と、前記挿通孔の周囲を囲み、かつ前記フランジ部から突出する弾性片と、を有するグロメットと、を構成として含み、車体に設けられた取付け孔に前記弾性片を車両外方から挿通させることにより前記グロメットを前記車体に嵌合させ、かつ前記グロメットの前記挿通孔に前記ピンを挿通させることにより前記ランプハウジングが前記車体に保持される車両用灯具の取付け構造であって、前記ピンの側面は、前記ピンの軸心を通る平面に対して一方の領域に位置する第1側面と、他方の領域に位置する第2側面と、を含み、前記第1側面の先端には、形状が紡錘状の膨出部が形成され、前記第2側面には、前記本体部から先端にかけて延出し、かつ前記ピンの外側に突出する突条部が形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる車両用灯具の取付け構造を構成するピンの側面は、ピンの軸心を通る平面に対して一方の領域に位置する第1側面と、他方の領域に位置する第2側面とを含む。第1側面の先端には、形状が紡錘状の膨出部が形成されている。第2側面には、ランプハウジングの本体部から先端にかけて延出し、かつピンの外側に突出する突条部が形成されている。ピンの形状をこのような構成とすることによって、車体に嵌合されたグロメットに設けられた弾性片が膨出部および突条部によりピンの軸心回りの全周にわたって押し広げられ、車体にランプハウジングをより強固に保持することができる。
【0011】
このような形状のピンは、第1側面の成形には外側スライダコアによる金型を、第2側面の成形には引き抜きコアによる金型を適用することにより成形が可能である。第1側面における膨出部は、アンダーカットのため外側スライドコアによる金型成形で対応できる。また、第2側面における突条部は、ピンの軸心に対する頂部の傾斜角を一部の区間において成形可能な範囲内で極力最小とすることによって、引き抜きコアによる金型成形で対応できる。このような構成の金型を適用することによって、ランプハウジングの成形にかかる金型構造の複雑化を回避することができる。したがって、本発明によれば、灯具の製造コストの縮減を図りつつ、車体にランプハウジングをより強固に保持することが可能となる。
【0012】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面に基づき以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態にかかる車両用灯具を構成するランプハウジングおよびピンの断面図である。
【
図5】本発明の実施形態にかかる車両用灯具の取付け構造を構成するグロメットの平面図である。
【
図7】本発明の実施形態にかかる車両用灯具の取付け構造によって、車体にランプハウジングを保持したときの断面図である。
【
図8】
図7のVIII−VIII線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態(以下「実施形態」という。)について、添付図面に基づいて説明する。
【0015】
図1〜
図8に基づき、本実施形態にかかる車両用灯具(以下「灯具A」という。)の取付け構造について説明する。
【0016】
本実施形態にかかる灯具Aの取付け構造は、ランプハウジング1の本体部11と一体成形されたピン2と、車体3に嵌合されたグロメット4とを構成として含む。ランプハウジング1は、ピン2およびグロメット4により車体3に保持され、かつ位置決めがされた後、スタッドボルトやタッピングねじなどの締結部材を用いて車体3に固定される。
【0017】
図1は、灯具Aを構成するランプハウジング1およびピン2の断面図である。
図2は、
図1の部分拡大図である。
図3は、ピン2の正面図である。
図4は、
図3のIV−IV線(
図3に示す一点鎖線)に沿う断面図である。
図5は、グロメット4の平面図である。
図6は、グロメット4の背面図である。
図7は、灯具Aの取付け構造によって、車体3にランプハウジング1を保持したときの断面図である。
図8は、
図7のVIII−VIII線に沿う断面図である。ここで、説明の便宜上、各図において示されるVIを車両内方、VOを車両外方とする。
【0018】
ランプハウジング1は、光源を収容する灯具Aの本体を構成する。光源は、たとえばハロゲンバルブやHID(High Intensity Discharge)バルブ、LED(Light Emitting Diode)バルブなどである。
図1に示すように、ランプハウジング1の本体部11には、当該光源(図示略)が収容されるとともに、本体部11に当該光源から発せられた光を拡散させるためのアウタレンズ(図示略)が取り付けられている。本体部11は、合成樹脂製であり、たとえばポリプロピレンから構成される。本体部11は、射出成形により形成される。
【0019】
ピン2は、
図1および
図2に示すように、ランプハウジング1の本体部11から車両内方に突出し、かつ本体部11と射出成形により一体成形された部材である。ピン2は、本体部11の一部であるため、灯具Aを構成する部分でもある。
図2および
図3に示すように、ピン2の側面21は、ピン2の軸心Nを通る平面Sに対して2つの部分に分割される、このうち、平面Sに対して一方の領域に位置する部分を第1側面211と呼ぶ。また、平面Sに対して他方の領域(平面Sに対して第1側面211とは反対側に位置する領域)に位置する部分を第2側面212と呼ぶ。したがって、側面21は、第1側面211および第2側面212を含む。
【0020】
図2および
図3に示すように、ピン2の第1側面211の先端には、形状が紡錘状の膨出部22が形成されている。本実施形態においては、ピン2の軸心Nまわりにおいて、膨出部22は第1側面211の全体にわたって形成されている。
【0021】
図2および
図3に示すように、ピン2の第2側面212には、ランプハウジング1の本体部11からピン2の先端にかけて延出し、かつピン2の外側に突出する突条部23が形成されている。本実施形態においては、第2側面212には、一対の突条部23が形成されている。一対の突条部23は、ピン2の軸心N回りに120°の角度をなして配置されている。なお、突条部23の数および配置は、本実施形態に限定されない。
図3および
図4に示すように、ピン2の軸心Nに沿った方向において、突条部23は、第1区間231および第2区間232に分割される。第1区間231は、軸心Nに沿った方向において膨出部22に対応する区間である。軸心Nに対する第1区間231の頂部231aの傾斜角αは、たとえば3〜5°である。また、第2区間232は、突条部23のうち第1区間231を除く区間である。軸心Nに対する第2区間232の頂部232aの傾斜角βは、たとえば1〜2°である。第1区間231の頂部231aと第2区間232の頂部232aとは、ともに軸心Nに対して同一方向に傾斜している。傾斜角βは、傾斜角αよりも小であり、かつ射出成形にかかる金型のコアの引き抜きが可能となる最小の角度として設定される。
【0022】
グロメット4は、
図5および
図6に示すように、車体3に設けられた取付け孔31に嵌合する部材である。グロメット4は、合成樹脂製である。グロメット4は、フランジ部41および弾性片42を有する。フランジ部41は、中央に円形の挿通孔411が形成された円環状の部分である。弾性片42は、挿通孔411の周囲を囲み、かつフランジ部41から突出する部分である。本実施形態おいては、3つの弾性片42を有する。弾性片42は、フランジ部41に片持ち支持され、かつ弾性変形するという構造特性を有する。
【0023】
次に、ピン2およびグロメット4による灯具Aの取付け方法について説明する。
【0024】
図7に示すように、まず、車体3に設けられた取付け孔31に、弾性片42を車両外方から挿通させることによるグロメット4を車体3に嵌合させる。次いで、グロメット4の挿通孔411にピン2を挿通させる。このとき、
図8に示すように、ピン2に形成された膨出部22および突条部23がグロメット4の弾性片42を、ピン2の軸心Nに直交する方向に押し広げる。このため、ピン2およびグロメット4が、車体3の取付け孔31から容易に抜け落ちない構成となる。以上の方法によって、ランプハウジング1が車体3に保持される。
【0025】
次に、灯具Aの取付け構造の作用効果について説明する。
【0026】
灯具Aの取付け構造を構成するピン2の側面21は、ピン2の軸心Nを通る平面Sに対して一方の領域に位置する第1側面211と、他方の領域に位置する第2側面212とを含む。第1側面211の先端には、形状が紡錘状の膨出部22が形成されている。第2側面212には、ランプハウジング1の本体部11から先端にかけて延出し、かつピン2の外側に突出する突条部23が形成されている。ピン2の形状をこのような構成とすることによって、
図8に示すように、車体3に嵌合されたグロメット4に設けられた弾性片42が、膨出部22および突条部23によりピン2の軸心N回りの全周にわたって押し広げられる。このため、車体3にランプハウジング1をより強固に保持することができる。
【0027】
このような形状のピン2は、第1側面211の成形には外側スライダコアによる金型を、第2側面212の成形には引き抜きコアによる金型を適用することにより成形が可能である。第1側面211における膨出部22は、アンダーカットのため外側スライドコアによる金型成形で対応できる。また、第2側面212における突条部23は、第1区間231および第2区間232を有する。ピン2の軸心Nに対する第2区間232の頂部232aの傾斜角βは、膨出部22に対応する第1区間231の頂部231aの傾斜角αよりも小さい角度に、かつ引き抜きコアによる成形が可能な最小の角度に設定される。このような構成をとることによって、突条部23は、アンダーカットにはならず、引き抜きコアによる金型成形で対応できる。
【0028】
上述の構成の金型を適用してピン2を成形することによって、ランプハウジング1の成形にかかる金型構造の複雑化を回避することができる。したがって、灯具Aの取付け構造によれば、灯具Aの製造コストの縮減を図りつつ、車体3にランプハウジング1をより強固に保持することが可能となる。
【0029】
本発明は、先述した実施形態に限定されるものではない。本発明の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0030】
A:灯具
1:ランプハウジング
11:本体部
2:ピン
21:側面
211:第1側面
212:第2側面
22:膨出部
23:突条部
231:第1区間
231a:頂部
232:第2区間
232a:頂部
3:車体
31:取付け孔
4:グロメット
41:フランジ部
411:挿通孔
42:弾性片
N:軸心
S:平面
α,β:傾斜角