【実施例1】
【0015】
図1は、波長可変レーザシステムの全体構成を示すブロック図である。
図1のように、波長可変レーザシステム100は、波長を制御可能な波長可変レーザ30(チューナブル半導体レーザ)を備える。波長可変レーザ30は、レーザ領域に連結してSOA(Semiconductor Optical Amplifier)となる領域が設けられている。このSOAは、光出力制御部として機能する。SOAは光出力の強度を任意に増減させることができる。また光出力の強度を実質的にゼロに制御することもできる。さらに、波長可変レーザシステム100は、波長ロッカ部50、メモリ60、及びコントローラ70などを備える。コントローラ70は、波長可変レーザシステム100の制御を行うものであり、その内部にはRAM(Random Access Memory)を備えている。
【0016】
図2は、波長可変レーザを示す断面図である。
図2のように、波長可変レーザ30は、SG−DFB(Sampled Grating Distributed Feedback)領域Aと、CSG−DBR(Chirped Sampled Grating Distributed Bragg Reflector)領域Bと、SOA(Semiconductor Optical Amplifier)領域Cと、を備える。すなわち、波長可変レーザ30は、半導体構造内に波長選択ミラーを有する半導体レーザである。
【0017】
一例として、波長可変レーザ30において、フロント側からリア側にかけて、SOA領域C、SG−DFB領域A、CSG−DBR領域Bがこの順に配置されている。SG−DFB領域Aは、利得を有しサンプルドグレーティングを備える。CSG−DBR領域Bは、利得を有さずにサンプルドグレーティングを備える。SG−DFB領域A及びCSG−DBR領域Bが
図1のレーザ領域に相当し、SOA領域Cが
図1のSOA領域に相当する。
【0018】
SG−DFB領域Aは、基板1上に、下部クラッド層2、活性層3、上部クラッド層6、コンタクト層7、及び電極8が積層された構造を有する。CSG−DBR領域Bは、基板1上に、下部クラッド層2、光導波層4、上部クラッド層6、絶縁膜9、及び複数のヒータ10が積層された構造を有する。各ヒータ10には、電源電極11及びグランド電極12が設けられている。SOA領域Cは、基板1上に、下部クラッド層2、光増幅層19、上部クラッド層6、コンタクト層20、及び電極21が積層された構造を有する。
【0019】
SG−DFB領域A、CSG−DBR領域B、及びSOA領域Cにおいて、基板1、下部クラッド層2、及び上部クラッド層6は、一体的に形成されている。活性層3、光導波層4、及び光増幅層19は、同一面上に形成されている。SG−DFB領域AとCSG−DBR領域Bとの境界は、活性層3と光導波層4との境界に対応している。
【0020】
SOA領域C側における基板1、下部クラッド層2、光増幅層19、及び上部クラッド層6の端面には、端面膜16が形成されている。端面膜16は、例えばAR(Anti Reflection)膜である。端面膜16は、波長可変レーザ30のフロント側端面として機能する。CSG−DBR領域B側における基板1、下部クラッド層2、光導波層4、及び上部クラッド層6の端面には、端面膜17が形成されている。端面膜17は、例えばAR膜である。端面膜17は、波長可変レーザ30のリア側端面として機能する。
【0021】
基板1は、例えばn型InPからなる結晶基板である。下部クラッド層2はn型、上部クラッド層6はp型であり、それぞれ例えばInPによって構成される。下部クラッド層2及び上部クラッド層6は、活性層3、光導波層4、及び光増幅層19を上下で光閉じ込めしている。
【0022】
活性層3は、利得を有する半導体により構成されている。活性層3は、例えば量子井戸構造を有しており、例えばGa
0.32In
0.68As
0.92P
0.08(厚さ5nm)からなる井戸層と、Ga
0.22In
0.78As
0.47P
0.53(厚さ10nm)の障壁層が交互に積層された構造を有する。光導波層4は、例えばバルク半導体で構成することができ、例えばGa
0.22In
0.78As
0.47P
0.53によって構成することができる。光導波層4は、例えば活性層3よりも大きいバンドギャップを有する。
【0023】
光増幅層19は、電極21からの電流注入によって利得が与えられ、それによって光増幅をなす領域である。光増幅層19は、例えば量子井戸構造で構成することができ、例えばGa
0.35In
0.65As
0.99P
0.01(厚さ5nm)の井戸層とGa
0.15In
0.85As
0.32P
0.68(厚さ10nm)の障壁層が交互に積層された構造とすることができる。また、他の構造として、例えばGa
0.44In
0.56As
0.95P
0.05からなるバルク半導体を採用することもできる。なお、光増幅層19と活性層3とを同じ材料で構成することもできる。
【0024】
コンタクト層7、20は、例えばp型Ga
0.47In
0.53As結晶によって構成することができる。絶縁膜9は、例えば窒化シリコン膜(SiN)又は酸化シリコン膜(SiO)からなる保護膜である。ヒータ10は、チタンタングステン(TiW)で構成された薄膜抵抗体である。ヒータ10のそれぞれは、CSG−DBR領域Bの複数のセグメントにまたがって形成されていてもよい。
【0025】
電極8、21、電源電極11、及びグランド電極12は、金(Au)などの導電性材料からなる。基板1の下部には、裏面電極15が形成されている。裏面電極15は、SG−DFB領域A、CSG−DBR領域B、及びSOA領域Cにまたがって形成されている。
【0026】
端面膜16及び端面膜17は、例えば1.0%以下の反射率を有するAR膜であり、実質的にその端面が無反射となる特性を有する。AR膜は、例えばMgF
2及びTiONからなる誘電体膜で構成することができる。なお、端面膜17を有意の反射率を持つ反射膜で構成する場合もある。
図2における端面膜17に接する半導体に光吸収層を備えた構造を設けた場合、端面膜17に有意の反射率を持たせることで、端面膜17から外部に漏洩する光出力を抑制することができる。有意の反射率としては、例えば10%以上の反射率である。なお、ここで反射率とは、半導体レーザ内部に対する反射率を指す。
【0027】
回折格子(コルゲーション)18は、SG−DFB領域A及びCSG−DBR領域Bの下部クラッド層2に所定の間隔を空けて複数個所に形成されている。それにより、SG−DFB領域A及びCSG−DBR領域Bにサンプルドグレーティングが形成される。SG−DFB領域A及びCSG−DBR領域Bにおいて、下部クラッド層2に複数のセグメントが設けられている。ここでセグメントとは、回折格子18が設けられている回折格子部と回折格子18が設けられていないスペース部とが1つずつ連続する領域のことをいう。すなわち、セグメントとは、両端が回折格子部によって挟まれたスペース部と回折格子部とが連結された領域のことをいう。回折格子18は、下部クラッド層2とは異なる屈折率の材料で構成されている。下部クラッド層2がInPの場合、回折格子を構成する材料として、例えばGa
0.22In
0.78As
0.47P
0.53を用いることができる。
【0028】
回折格子18は、2光束干渉露光法を使用したパターニングにより形成することができる。回折格子18の間に位置するスペース部は、回折格子18のパターンをレジストに露光した後、スペース部に相当する位置に再度露光を施すことで実現できる。SG−DFB領域Aにおける回折格子18のピッチとCSG−DBR領域Bにおける回折格子18のピッチとは、同一でもよく、異なっていてもよい。また、各セグメントにおいて、回折格子18は同じ長さを有していてもよく、異なる長さを有していてもよい。また、SG−DFB領域Aの各回折格子18が同じ長さを有し、CSG−DBR領域Bの各回折格子18が同じ長さを有し、SG−DFB領域AとCSG−DBR領域Bとで回折格子18の長さが異なっていてもよい。
【0029】
SG−DFB領域Aにおいては、各セグメントの光学長が実質的に同一となっている。CSG−DBR領域Bにおいては、少なくとも2つのセグメントの光学長が、互いに異なって形成されている。それにより、CSG−DBR領域Bの波長特性のピーク同士の強度は、波長依存性を有するようになる。SG−DFB領域Aのセグメントの平均光学長とCSG−DBR領域Bのセグメントの平均光学長は異なっている。このように、SG−DFB領域A内のセグメント及びCSG−DBR領域B内のセグメントが波長可変レーザ30内において共振器を構成する。
【0030】
SG−DFB領域A及びCSG−DBR領域Bそれぞれの内部においては、反射した光が互いに干渉する。SG−DFB領域Aには活性層3が設けられており、キャリア注入されると、ピーク強度がほぼ揃った、所定の波長間隔を有する離散的な利得スペクトルが生成される。また、CSG−DBR領域Bにおいては、ピーク強度が異なる、所定の波長間隔を有する離散的な反射スペクトルが生成される。SG−DFB領域A及びCSG−DBR領域Bにおける波長特性のピーク波長の間隔は異なっている。これら波長特性の組み合わせによって生じるバーニア効果を利用して、発振条件を満たす波長を選択することができる。
【0031】
図1のように、波長可変レーザ30は、第1温度制御装置31上に配置されている。第1温度制御装置31は、ペルチェ素子を含み、TEC(Thermoelectric Cooler)として機能する。第1サーミスタ32は、第1温度制御装置31上に配置されている。第1サーミスタ32は、第1温度制御装置31の温度を検出する。第1サーミスタ32の検出温度に基づいて、波長可変レーザ30の温度を特定することができる。
【0032】
波長ロッカ部50は、ビームスプリッタ51、52、第1受光素子53、エタロン54、第2温度制御装置55、第2受光素子56、及び第2サーミスタ57を備える。ビームスプリッタ51は、波長可変レーザ30のフロント側からの出力光を分岐する位置に配置されている。ビームスプリッタ52は、ビームスプリッタ51によって分岐された2つの光の一方を分岐する位置に配置されている。第1受光素子53は、ビームスプリッタ52によって分岐された2つの光の一方を受光する位置に配置されている。
【0033】
エタロン54は、入射光の波長に応じて透過率が周期的に変化する特性を有する。エタロン54として、例えば固体エタロン(ソリッドエタロン)を用いることができる。なお、固体エタロンの当該周期的な波長特性は、温度が変化することによって変化する。エタロン54は、ビームスプリッタ52によって分岐された2つの光の他方を透過する位置に配置されている。また、エタロン54は、第2温度制御装置55上に配置されている。第2温度制御装置55は、ペルチェ素子を含み、TEC(Thermoelectric Cooler)として機能する。
【0034】
第2受光素子56は、エタロン54を透過した透過光を受光する位置に配置されている。第2サーミスタ57は、エタロン54の温度を特定するために設けられている。第2サーミスタ57は、例えば第2温度制御装置55上に配置されている。第2温度制御装置55の温度を第2サーミスタ57で検出することで、エタロン54の温度を特定することができる。
【0035】
メモリ60は、書換え可能な記憶装置である。書換え可能な記憶装置としては、典型的にはフラッシュメモリが挙げられる。コントローラ70は、中央演算処理装置(CPU:Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、電源などを備える。RAMは、中央演算処理装置が実行するプログラム、中央演算処理装置が処理するデータなどを一時的に記憶するメモリである。
【0036】
メモリ60は、波長可変レーザシステム100の各部の初期設定値及びフィードバック制御目標値を各波長チャネルに対応させて記憶している。波長チャネルとは、波長可変レーザ30の各発振波長に対応する番号である。例えば、各波長チャネルは、ITU−T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)の波長グリッドに対応している。以下、各波長チャネルに対応する波長を、グリッド波長と称する場合がある。
【0037】
図3は、メモリに記憶される初期設定値及びフィードバック制御目標値を示す図である。
図3のように、初期設定値は、SG−DFB領域Aの電極8に供給される初期電流値I
LD、SOA領域Cの電極21に供給される初期電流値I
SOA、波長可変レーザ30の初期温度値T
LD、及び各ヒータ10に供給される初期電力値P
Heater1〜P
Heater3を含む。これら初期設定値は波長チャネルごとに定められている。フィードバック制御目標値は、コントローラ70のフィードバック制御を行う際の目標値である。フィードバック制御目標値は、第1受光素子53が出力する光電流の目標値I
m1、及び第1受光素子53が出力する光電流I
m1に対する第2受光素子56が出力する光電流I
m2の比の目標値I
m2/I
m1を含む。制御目標値も波長チャネルごとに定められている。これらの値は、波長可変レーザシステム100の出荷前に、波長計80を用いて個体ごとに測定される。このことについては後述する。
【0038】
続いて、
図1から
図3を参照しつつ、グリッド波長のいずれかを出力するための波長可変レーザシステム100の動作について説明する。まず、コントローラ70は、外部から要求波長チャネルの情報を取得する。コントローラ70は、要求波長チャネルの情報に基づいて、メモリ60から要求波長チャネルに応じた初期設定値及びフィードバック制御目標値を取得して、内蔵されたRAMに読み出す。次に、コントローラ70は、波長可変レーザ30の電極8に、波長チャネルに対応する初期電流値I
LDに応じた電流を供給する。
【0039】
また、コントローラ70は、波長チャネルに対応する初期温度値T
LDが実現されるように、第1温度制御装置31に電力を供給する。それにより、波長可変レーザ30の温度が初期値に制御される。また、コントローラ70は、各ヒータ10に、波長チャネルに対応する初期電力値P
Heater1〜P
Heater3の電力を供給する。それにより、各ヒータ10にそれぞれ所定の温度で発熱させることができる。第1温度制御装置31による温度制御及び各ヒータ10による温度制御により、波長可変レーザ30は、要求波長チャネルに対応するグリッド波長での発振条件に設定される。また、コントローラ70は、SOA領域Cの電極21に、波長チャネルに対応する初期電流値I
SOAの電流を供給する。それにより、波長可変レーザ30のフロントから出力されるレーザ光の強度を初期値に制御することができる。このように、設定された各初期値に基づき、波長可変レーザ30はレーザ発振する。ただし、この状態では選択されたグリッド波長に一致していること、あるいは所定の出力光強度が実現されていることを保証することができない。このため、波長及び出力光強度のフィードバック制御が実施される。
【0040】
このようなフィードバック制御のために、コントローラ70は、自動出力制御(APC:Auto Power Control)及び自動波長制御(AFC:Auto Frequency Control)を行う。具体的には、コントローラ70は、自動出力制御として、第1受光素子53が出力する光電流値が波長チャネルに対応する目標値I
m1となるように、SOA領域Cの電極21に供給する電流I
SOAをフィードバック制御する。これにより、波長可変レーザ30の出力光強度が波長チャネルに対応する所望の値に制御される。また、コントローラ70は、自動波長制御として、第1受光素子53が出力する光電流I
m1に対する第2受光素子56が出力する光電流I
m2の比I
m2/I
m1が目標値I
m2/I
m1となるように、波長可変レーザ30の温度を制御する。それにより、波長可変レーザ30の出力光波長が波長チャネルに対応するグリッド波長に制御される。
【0041】
ここで、比I
m2/I
m1を用いた波長制御の原理について説明する。
図4は、エタロンの波長特性を示す図である。
図4において、横軸はエタロン54への入力波長を示し、縦軸はエタロン54の透過率を示す。
図4のように、エタロン54の透過率は、波長に対して周期的に変化する。以下、透過率の隣り合う極大値(または極小値)の波長間隔を、エタロン波長と称する。一例として、エタロン周期は100GHz程度である。
【0042】
エタロン54は、
図4に示す特性を有することから、エタロン54へ入力される光強度とエタロン54から出力される光強度の比を得ることで、エタロン54に入力される光の波長を特定することができる。エタロン54へ入力される光強度は、第1受光素子53が出力する光電流I
m1によって示される。エタロン54から出力される光強度は、第2受光素子56が出力する光電流I
m2によって示される。このため、I
m2/I
m1を波長制御のための目標値として、波長可変レーザ30のパラメータをフィードバック制御することによって、所望の波長出力が得られる。ここでは、波長パラメータとして第1温度制御装置31の温度を制御する。
【0043】
なお、比I
m2/I
m1の目標値は、エタロン54の透過率の極大値と極小値との間の斜面部分に位置していることが好ましい。透過率の極大値近傍及び極小値近傍においては、波長の変化に対する透過率の変化が小さく、比I
m2/I
m1が目標値から少しずれただけで発振波長が大きく変化してしまうからである。
【0044】
各波長チャネルのグリッド波長がITU−Tグリッド波長に設定されている場合、エタロン周期は、ITU−Tグリッド波長間隔となるように設計される。この場合、いずれのグリッド波長を実現するに際しても、エタロン54の波長特性を変化させる必要はない。したがって、いずれのグリッド波長においても、エタロン54の温度は同一に制御される。以上のように、グリッド波長を実現するには、初期目標値によるレーザ発振とその波長を所定の目標値に追い込むためのフィードバック制御目標値が必要である。
【0045】
ここで、
図3の初期設定値及びフィードバック制御目標値を設定するために、波長可変レーザシステム100の出荷前に波長可変レーザ30に対して波長計80を用いて行う方法について説明する。なお、以下において、初期設定値及びフィードバック制御目標値に設定される条件の少なくとも1つを駆動条件と称す場合がある。まず、比較例1に係る波長可変レーザの駆動条件設定方法について説明する。
図5は、比較例1に係る波長可変レーザの駆動条件設定方法を説明するための図である。
図5において、横軸は波長可変レーザ30が発振するレーザ光の周波数を示し、縦軸はレーザ光の光強度を示す。また、
図5の横軸に波長チャネルの番号をλ1〜λ96で示している。
図5のように、波長可変レーザ30が波長チャネルλ1〜λ96のグリッド波長でレーザ発振する場合を想定する。言い換えると、メモリ60に波長チャネルλ1〜λ96の初期設定値及びフィードバック制御目標値が記憶される場合を想定する。
【0046】
比較例1の駆動条件設定方法では、まず、メモリ60に記憶される波長帯域のうちの中央付近の波長チャネルλ47に対して予め定められた駆動条件で波長可変レーザ30を駆動させる。具体的には、SG−DFB領域Aの電極8に供給される電流値I
LD、SOA領域Cの電極21に供給される電流値I
SOA、波長可変レーザ30の温度値T
LD、各ヒータ10に供給される電力値P
Heater1〜P
Heater3を、波長チャネルλ47に対して予め定められた値にして波長可変レーザ30を駆動させる。そして、波長チャネルλ47のグリッド波長のレーザ発振がなされたか否かを確認する。波長チャネルλ47のグリッド波長のレーザ発振が確認できたら、波長チャネルλ47に対して予め定められた駆動条件及び第1、第2受光素子53、56が出力する光電流の値をメモリ60に記憶する。なお、
図5では、各波長チャネルでの光強度を示す矢印の上に設定順番を示している。
【0047】
次いで、波長チャネルλ46から最長波長チャネルλ1へと順に、各波長チャネルに対して予め定められた駆動条件で波長可変レーザ30を駆動させ、各波長チャネルのグリッド波長のレーザ発振がなされたか否かを確認する。レーザ発振が確認できたら、各波長チャネルに対して予め定められた駆動条件及び第1、第2受光素子53、56が出力する光電流の値をメモリ60に記憶する。次いで、波長チャネルλ48から最短波長チャネルλ96へと順に、各波長チャネルに対して予め定められた駆動条件で波長可変レーザ30を駆動させ、各波長チャネルのグリッド波長のレーザ発振がなされたか否かを確認する。レーザ発振が確認できたら、各波長チャネルに対して予め定められた駆動条件及び第1、第2受光素子53、56が出力する光電流の値をメモリ60に記憶する。
【0048】
比較例1では、メモリ60に記憶される波長帯域の中央付近から長波長端側及び短波長端側へと順に波長可変レーザ30の駆動条件の設定を行っている。このように、波長帯域の中央付近から設定を開始するのは、波長帯域の中央付近ではレーザ光がほぼ確実に出力されるためである。これは、以下に説明する理由によるためである。
【0049】
図6Aから
図7Bは、波長可変レーザから出力されるレーザ光の周波数と光強度との関係を示す図である。
図6Aから
図7Bにおいて、横軸は波長可変レーザ30が発振するレーザ光の周波数を示し、縦軸はレーザ光の光強度を示す。また、図中の実線で波長可変レーザ30のレーザ領域の利得特性を示している。
図6A及び
図6Bのように、波長可変レーザ30のSG−DFB領域Aの利得は、メモリ60に記憶される波長帯域の中央付近に対して長波長端側及び短波長端側で小さくなる傾向がある。利得が周波数全体にわたって大きい場合には、メモリ60に記憶される波長帯域の中央付近の波長チャネルλnだけでなく、長波長側の波長チャネルλ1や短波長側の波長チャネルλ96(不図示)でも、予め定められた駆動条件で波長可変レーザ30を駆動させることで、各波長チャネルのグリッド波長のレーザ発振がなされる。
【0050】
しかしながら、波長可変レーザ30の個体差などによって、利得が周波数全体で小さくなる場合がある。この場合、
図7Aのように、メモリ60に記憶される波長帯域のうちの長波長端側及び短波長端側の波長チャネル(λ1やλ96など)で利得が不足し、予め定められた駆動条件で波長可変レーザ30を駆動させても、長波長端側及び短波長端側の波長チャネルのグリッド波長のレーザ発振がなされないことが起こり得る。また、メモリ60に記憶される波長帯域が広がることでも、波長帯域の長波長端側及び短波長端側の波長チャネルで利得が不足し、予め定められた駆動条件で波長可変レーザ30を駆動させても、長波長端側及び短波長端側の波長チャネルのグリッド波長のレーザ発振がなされないことが起こり得る。
【0051】
図7Aの場合、比較例1のようにメモリ60に記憶される波長帯域の中央付近から長波長端側及び短波長端側へと波長可変レーザ30の駆動条件の設定を行うと、設定の終盤で不具合が発見され、それまでの設定が無駄になってしまう。
【0052】
また、
図7Bのように、波長可変レーザ30の個体差などによって、利得が全体的に長波長側にずれてしまう場合もある。この場合、メモリ60に記憶される波長帯域のうちの最長波長チャネルλ1に対して予め定められた駆動条件で波長可変レーザ30を駆動させることで、最長波長チャネルλ1のグリッド波長のレーザ発振がなされる。しかしながら、最短波長チャネルλ96では利得が不足し、予め定められた駆動条件で波長可変レーザ30を駆動させても、最短波長チャネルλ96のグリッド波長のレーザ発振がなされないことが起こり得る。
【0053】
図7Bの場合でも、メモリ60に記憶される波長帯域の中央付近から長波長端側及び短波長端側へと波長可変レーザ30の駆動条件の設定を行うと、設定の終盤で不具合が発見されるため、それまでの設定が無駄になってしまう。また、メモリ60に記憶される波長帯域の長波長端側から短波長端側へと設定を行う場合でも、設定の終盤で不具合が発見されるため、それまでの設定が無駄になってしまう。なお、
図7Bでは、利得が全体的に長波長側にずれた場合を例に示したが、短波長側にずれる場合もある。この場合、短波長端側から長波長端側へと設定を行う場合に、設定の終盤で不具合が発見されるため、それまでの設定が無駄になってしまう。
【0054】
そこで、駆動条件の設定が無駄になることを低減させることが可能な実施例について以下に説明する。
【0055】
図8は、実施例1に係る波長可変レーザの駆動条件設定方法の一例を示すフローチャートである。
図9A及び
図9Bは、実施例1に係る波長可変レーザの駆動条件設定方法を説明するための図である。
図9A及び
図9Bにおいて、横軸は波長可変レーザ30が発振するレーザ光の周波数を示し、縦軸はレーザ光の光強度を示す。
図9A及び
図9B中の実線は波長可変レーザ30のレーザ領域の利得を示し、横軸に波長チャネルの番号を示し、各波長チャネルでの光強度を示す矢印の上に設定順番を示す。
【0056】
図8及び
図9Aのように、まず、メモリ60に記憶される所定の波長帯域のうちの最長波長チャネルλ1及び最短波長チャネルλ96に対して予め定められた駆動条件で波長可変レーザ30を駆動させる(ステップS10)。具体的には、SG−DFB領域Aの電極8に供給される電流値I
LD、SOA領域Cの電極21に供給される電流値I
SOA、波長可変レーザ30の温度値T
LD、各ヒータ10に供給される電力値P
Heater1〜P
Heater3を、最長波長チャネルλ1及び最短波長チャネルλ96に対して予め定められた値にして波長可変レーザ30を駆動させる。
【0057】
次いで、最長波長チャネルλ1及び最短波長チャネルλ96のグリッド波長のレーザ発振がなされたかを波長計80を用いて確認する(ステップS12)。最長波長チャネルλ1及び最短波長チャネルλ96のグリッド波長のレーザ発振が確認できた場合(ステップS12:Yes)、最長波長チャネルλ1及び最短波長チャネルλ96に対して予め定められた駆動条件をメモリ60に記憶する(ステップS14)。
【0058】
次いで、長波長範囲に含まれる波長チャネルλ2〜λ4と短波長範囲に含まれる波長チャネルλ93〜λ95に対して予め定められた駆動条件で波長可変レーザ30を駆動させる(ステップS16)。この際、長波長範囲に含まれる波長チャネルλ2〜λ4と短波長範囲に含まれる波長チャネルλ93〜λ95とを外側から交互に駆動させることが好ましい。すなわち、波長チャネルλ2、波長チャネルλ95、波長チャネルλ3、波長チャネルλ94、波長チャネルλ4、波長チャネルλ93の順に、波長可変レーザ30を駆動させることが好ましい。
【0059】
次いで、長波長範囲及び短波長範囲に含まれる波長チャネルのグリッド波長のレーザ発振がなされたかを波長計80を用いて確認する(ステップS18)。長波長範囲及び短波長範囲に含まれる波長チャネルのグリッド波長のレーザ発振が確認できない場合(ステップS18:No)、波長可変レーザ30の駆動条件の設定を終了する。波長可変レーザ30の製造ばらつきや不良により、波長チャネルのグリッド波長のレーザ発振がなされないことが判明した時点で、波長可変レーザ30を不良と判断して、以降の設定に費やす無駄な手間を解消することができる。一方、長波長範囲及び短波長範囲に含まれる波長チャネルのグリッド波長のレーザ発振が確認できた場合(ステップS18:Yes)、長波長範囲及び短波長範囲に含まれる波長チャネルに対して予め定められた駆動条件をメモリ60に記憶する(ステップS20)。
【0060】
次いで、長波長範囲及び短波長範囲よりも内側の内側範囲に含まれる各波長チャネルに対して予め定められた駆動条件で波長可変レーザ30を駆動させる(ステップS22)。この際、どのような順番で波長可変レーザ30を駆動させてもよい。例えば、ステップS16と同様に、長波長側と短波長側とを外側から交互に駆動させてもよいし、長波長側(又は短波長側)から短波長側(又は長波長側)に向かって順々に駆動させてもよいし、中央付近から長波長側及び短波長側に向かって駆動させてもよい。
【0061】
次いで、内側範囲に含まれる波長チャネルのグリッド波長のレーザ発振がなされたかを波長計80を用いて確認する(ステップS24)。内側範囲に含まれる波長チャネルのグリッド波長のレーザ発振が確認できない場合(ステップS24:No)、波長可変レーザ30の駆動条件の設定を終了する。一方、内側範囲に含まれる波長チャネルのグリッド波長のレーザ発振が確認できた場合(ステップS24:Yes)、内側範囲に含まれる波長チャネルに対して予め定められた駆動条件をメモリ60に記憶する(ステップS26)。
【0062】
ステップS12において最長波長チャネルλ1及び最短波長チャネルλ96のグリッド波長のレーザ発振が確認できない場合(ステップS12:No)、
図9Bのように、メモリ60に記憶される所定の波長帯域を変更する(ステップS28)。そして、変更した所定の波長帯域のうちの最長波長チャネルλ2及び最短波長チャネルλ95に対して予め定められた駆動条件で波長可変レーザ30を駆動させる(ステップS10)。ステップS12で最長波長チャネル及び最短波長チャネルのグリッド波長のレーザ発振が確認できるまで、ステップS10、S12、S28を繰り返し行う。
【0063】
以上のように、実施例1によれば、所定の波長帯域の最長及び最短波長チャネルに対して予め定められた駆動条件で波長可変レーザ30を駆動させ、最長及び最短波長チャネルのグリッド波長のレーザ発振がなされたかを確認する。最長及び最短波長チャネルのグリッド波長のレーザ発振が確認できた場合、最長及び最短波長チャネルに対して予め定められた駆動条件をメモリ60に記憶する。その後、最長及び最短波長チャネルよりも内側の波長チャネルに対して予め定められた駆動条件で波長可変レーザを駆動させ、内側の波長チャネルのグリッド波長のレーザ発振がなされたかを確認する。内側の波長チャネルのグリッド波長のレーザ発振が確認できた場合、内側の波長チャネルに対して予め定められた駆動条件をメモリ60に記憶する。上述したように、波長可変レーザ30の利得は長波長端側及び短波長端側で小さくなる傾向がある。このため、最長波長チャネルλ1及び最短波長チャネルλ96における波長可変レーザ30の駆動条件を最初に設定することで、不具合を早期に発見することができる。このため、駆動条件の設定が無駄になることを低減できる。
【0064】
また、実施例1によれば、長波長範囲に含まれる波長チャネルと短波長範囲に含まれる波長チャネルとを波長帯域の外側から交互に、各波長チャネルに対して予め設定された駆動条件で波長可変レーザ30を駆動させる。そして、各波長チャネルのグリッド波長のレーザ発振が確認された場合に、各波長チャネルに対して予め設定された駆動条件をメモリ60に記憶する。これによれば、最長波長チャネル及び最短波長チャネルにおいて偶発的にレーザが発振された場合でも、不具合を早期に発見することが可能となり、駆動条件の設定が無駄になることを低減できる。
【0065】
また、実施例1によれば、最長及び最短波長チャネルのグリッド波長のレーザ発振が確認できない場合、所定の波長帯域を狭めたり、シフトさせたりして変更する。そして、変更した波長帯域の最長及び最短波長チャネルに対して予め定められた駆動条件で波長可変レーザ30を駆動させ、グリッド波長のレーザ発振がなされたかを確認する。グリッド波長のレーザ発振が確認できるまで波長帯域を変更する。このように、最初に定められた波長帯域の波長チャネルのグリッド波長のレーザ発振が確認できない場合でも、波長可変レーザ30の可変波長帯域を変更した場合には、良品として救済することができる場合もある。例えば、波長可変レーザ30に最初に定められた波長帯域において最長及び最短波長チャネルの何れかでグリッド波長のレーザ発振が得られない場合であっても、それよりも狭い波長帯域においてはグリッド波長のレーザ発振が確認できて正常に波長可変できる場合がある。そのような波長帯域に対応する用途が存在する場合には、狭い波長帯域で用いられる装置として救済することが可能である。したがって、最初にもっとも波長帯域の広い、あるいは実現条件が厳しい波長(最短波長)においてグリッド波長のレーザ発振がなされるかを確認し、それが実現できない場合には、変更した波長帯域の最も端の波長、あるいは実現条件が厳しい波長においてグリッド波長のレーザ発振がなされるかを確認する。
【0066】
変更した波長帯域においてグリッド波長のレーザ発振が確認できた場合には、測定装置系は、その波長帯域(グレード)を実現可能であることを示すフラグを記録することで、その波長可変レーザシステム100の管理を行う。また、波長可変レーザシステム100自体に搭載されたメモリ60には、そのグレードを示す管理情報を記録しておく。波長可変レーザシステム100の製品シリアル番号に対応させて、測定系、あるいは製品管理システムにおいて、グレードを記録して管理する方法と比較して、波長可変レーザシステム100自体にグレードを示す管理情報を記録する方が、製品のメモリ内容を確認するだけで済むため、製品管理が簡便になる。このようにして、グレードを示す管理情報を記録する場合、波長可変レーザシステム100のメモリ60には、その駆動条件を記憶するためのテーブル(動作条件テーブル)に加え、出力可能な波長帯域、すなわちグレードを示すテーブル(グレード表示テーブル)が記憶される。動作条件テーブルとグレード表示テーブルは、例えば1つのメモリ60内の異なる記憶区画(記憶番地)にそれぞれ記憶される。すなわち、メモリ60は、動作条件メモリとグレード表示メモリとして機能する。また、動作条件テーブルに記憶される駆動条件は、グレード表示テーブルに記憶される波長帯域に対応した駆動条件だけが記憶される。
図10は、メモリに記憶されるグレード表示テーブルと動作条件テーブルの一例である。なお、グレード表示テーブルと動作条件テーブルとは、別々のメモリ(記憶装置)に記憶されてもよい。
【0067】
また、実施例1では、
図2のように、SG−DFB領域AとCSG−DBR領域Bとを有する波長可変レーザ30の場合を例に示したが、これに限られる訳ではない。
図11は、波長可変レーザの他の例を示す断面図である。
図11のように、CSG−DBR領域Bの代わりに、ヒータ10が1つだけ設けられたSG−DBR領域Dを有する波長可変レーザ30aの場合でもよい。SG−DBR領域Dでは、各セグメントの光学長が実質的に同一となっている。ただし、SG−DFB領域Aにおける各セグメントの光学長とSG−DBR領域Dにおける各セグメントの光学長とは異なっている。
【0068】
波長可変レーザ30aの場合でも、メモリ60に記憶される波長帯域の中央付近に対して長波長端側及び短波長端側で利得が小さくなる傾向がある。このため、最長波長チャネルλ1及び最短波長チャネルλ96における波長可変レーザ30の駆動条件から設定を開始することが好ましい。また、SG−DFB領域AとCSG−DBR領域Bとを有する波長可変レーザ30では、メモリ60に記憶される波長帯域の長波長端側及び短波長端側の利得の低下量が大きい傾向がある。このため、SG−DFB領域AとCSG−DBR領域Bとを有する波長可変レーザ30の場合では、最長波長チャネルλ1及び最短波長チャネルλ96における波長可変レーザ30の駆動条件から設定を開始することがより好ましい。
【0069】
なお、実施例1では、波長チャネルλ2〜λ4を含む範囲を長波長範囲とし、波長チャネルλ93〜λ95を含む範囲を短波長範囲としたが、これに限られる訳ではない。1つの波長チャネルλ2だけを含む範囲を長波長範囲とし、1つの波長チャネルλ95だけを含む範囲を短波長範囲としてもよいし、2つや4つ以上の波長チャネルを含む範囲を長波長範囲及び短波長範囲としてもよい。なお、長波長範囲は最長波長チャネルλ1の次にグリッド波長が短い波長チャネルλ2を含むことが好ましく、短波長範囲は最短波長チャネルλ96の次にグリッド波長が長い波長チャネルλ95を含むことが好ましい。