特許第6821944号(P6821944)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6821944内燃機関の制御装置、及び内燃機関システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6821944
(24)【登録日】2021年1月12日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置、及び内燃機関システム
(51)【国際特許分類】
   F02D 13/02 20060101AFI20210114BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20210114BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   F02D13/02 J
   F02D13/02 H
   F02D43/00 301J
   F02D43/00 301Z
   F01N3/20 H
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-88668(P2016-88668)
(22)【出願日】2016年4月27日
(65)【公開番号】特開2017-198129(P2017-198129A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2019年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100163061
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 和成
【審査官】 坂口 達紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−215318(JP,A)
【文献】 特開2009−062940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00−29/06,41/00−45/00
F01N 3/00,3/02,3/04−3/38
9/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射時期が筒内の温度が予め設定した筒内温度以上になる時期に設定された噴射用基準値が設定された内燃機関の暖機運転時において、前記内燃機関の吸気バルブの開弁時期及び閉弁時期を、予め設定された基準値から変えずに前記内燃機関の排気バルブの開弁時期及び閉弁時期を予め設定された基準値よりも進角させる制御を実行した後に、前記内燃機関の燃料噴射時期を予め設定された前記噴射用基準値よりも遅角させ制御処理を実行する制御部を備える内燃機関の制御装置。
【請求項2】
内燃機関と、
前記内燃機関の制御装置と、を備え、
前記制御装置は、燃料噴射時期が筒内の温度が予め設定した筒内温度以上になる時期に設定された噴射用基準値が設定された前記内燃機関の暖機運転時において、前記内燃機関の吸気バルブの開弁時期及び閉弁時期を、予め設定された基準値から変えずに前記内燃機関の排気バルブの開弁時期及び閉弁時期を予め設定された基準値よりも進角させる制御を実行した後に、前記内燃機関の燃料噴射時期を予め設定された前記噴射用基準値よりも遅角させ制御処理を実行する制御部を有する内燃機関システム。
【請求項3】
前記内燃機関の排気通路に排気後処理装置を備える請求項2に記載の内燃機関システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置、及び内燃機関システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排気中のNOxを処理する排気後処理装置を備える内燃機関システムが知られている(例えば特許文献1参照)。具体的には特許文献1には、ディーゼル機関の排気通路に、排気後処理装置としての尿素SCR装置を備える内燃機関システムが開示されている。このような内燃機関システムにおいて、例えば内燃機関の始動直後のように内燃機関が低温の場合には、内燃機関の性能を十分に発揮させることが困難である。また、このように内燃機関が低温の場合には排気温度も低温であるため、排気後処理装置の性能を十分に発揮させることも困難である。そこで、一般に、内燃機関が低温の場合には、内燃機関を暖機運転させることで内燃機関の昇温を図るとともに排気温度の昇温も図っている。
【0003】
なお、本発明に関連する他の文献として特許文献2が挙げられる。この特許文献2には、可変動弁機構を用いて排気バルブの開閉時期を変更する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−217351号公報
【特許文献2】特開2007−309147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、内燃機関の暖機運転時間を短縮させることができれば、燃費を向上させたり、排気後処理装置の性能を早期に向上させたりすることが可能である。しかしながら、従来技術では、内燃機関の暖機運転時間を短縮させることは困難である。
【0006】
本発明は、上記のことを鑑みてなされたものであり、その目的は、内燃機関の暖機運転時間の短縮を図ることができる内燃機関の制御装置及び内燃機関システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本発明に係る内燃機関の制御装置は、燃料噴射時期が筒内の温度が予め設定した筒内温度以上になる時期に設定された噴射用基準値が設定された内燃機関の暖機運転時において、前記内燃機関の吸気バルブの開弁時期及び閉弁時期を、予め設定された基準値から変えずに前記内燃機関の排気バルブの開弁時期及び閉弁時期を予め設定された基準値よりも進角させる制御を実行した後に、前記内燃機関の燃料噴射時期を予め設定された前記噴射用基準値よりも遅角させ制御処理を実行する制御部を備えている。
【0008】
本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、内燃機関の暖機運転時において、排気バルブの開弁時期及び閉弁時期が進角するので、内燃機関の筒内に排気を多く残留させることができる(すなわち、残留ガスを増加させることができる)。これにより、この増加した残留ガスを排気行程で一度圧縮して高温・高圧状態にして、残留ガスの内部エネルギを増加させることができる。そして、次の吸気行程における吸気バルブの開弁初期において、この内部エネルギの増加した残留ガスを一旦、吸気側に放出させることができ、この吸気行程における吸気バルブの開弁継続中に、この内部エネルギの増加した残留ガスと、新気とを筒内に導入させることができる。これにより、圧縮行程における筒内温度を上昇させることができるので、燃焼・膨張行程における燃焼温度を上昇させることができる。この結果、筒内のガスから内燃機関に伝達する熱量が増加するので、内燃機関の暖機を促進さ
せることができる。
【0009】
また本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、筒内温度が上昇することにより、燃料噴射時期を遅角させても失火が生じ難くなるので、失火の発生を抑制しつつ燃料噴射時期をより遅角させることもできる。
【0010】
さらに本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、内燃機関の暖機運転時において、内燃機関の燃料噴射時期が遅角するので、排気温度を効果的に上昇させることができる。これにより、残留ガスの内部エネルギを効果的に上昇させることができるので、この内部エネルギの増加した残留ガスが吸気行程で新気とともに筒内に導入されることで、筒内温度を効果的に上昇させて、暖機を効果的に促進させることができる。
【0011】
以上のように、本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、内燃機関の暖機を効果的に促進させることができるので、内燃機関の暖機運転時間の短縮を図ることができる。
【0012】
また、上記の目的を達成するための本発明に係る内燃機関システムは、内燃機関と、前記内燃機関の制御装置と、を備え、前記制御装置は、燃料噴射時期が筒内の温度が予め設定した筒内温度以上になる時期に設定された噴射用基準値が設定された前記内燃機関の暖機運転時において、前記内燃機関の吸気バルブの開弁時期及び閉弁時期を、予め設定された基準値から変えずに前記内燃機関の排気バルブの開弁時期及び閉弁時期を予め設定された基準値よりも進角させる制御を実行した後に、前記内燃機関の燃料噴射時期を予め設定された前記噴射用基準値よりも遅角させ制御処理を実行する制御部を有している。
【0013】
本発明に係る内燃機関システムによれば、内燃機関の暖機運転時において、排気バルブの開弁時期及び閉弁時期が進角し、且つ内燃機関の燃料噴射時期が遅角するので、上述したのと同様の理由により、内燃機関の暖機を効果的に促進させて、内燃機関の暖機運転時間の短縮を図ることができる。
【0014】
上記構成は、前記内燃機関の排気通路に排気後処理装置を備える構成とすることもできる。この構成によれば、上述した排気バルブの開弁時期及び閉弁時期の進角と燃料噴射時期の遅角とによって内燃機関の暖機運転時間の短縮が図られているので、排気の温度を早期に高温にすることができ、これにより、排気後処理装置の性能を早期に向上させて、NOxを早期に処理することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る内燃機関の制御装置及び内燃機関システムによれば、内燃機関の暖機運転時間の短縮を図ることができる。また本発明によれば、このように内燃機関の暖機運転時間の短縮を図ることができるので、内燃機関の燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1(a)は実施形態に係る内燃機関システムの全体構成を模式的に示す概略図である。図1(b)は内燃機関の構成を説明するための概略図である。
図2】内燃機関の暖機運転時において制御装置が実行するフローチャートの一例である。
図3】通常時及び排気バルブ進角制御の実行後における吸気バルブ及び排気バルブのバルブ開口面積の変化を示す模式図である。
図4図4(a)は実施形態に係る排気バルブ進角制御が実行された場合における圧縮端近傍の筒内温度の変化を説明するための模式図である。図4(b)は実施形態に係る排気バルブ進角制御及び燃料噴射遅角制御が実行された場合の筒内温度の変化を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係る内燃機関10の制御装置80及び、この制御装置80を備える内燃機関システム1について図面を参照しつつ説明する。なお、図面に関しては、構成が分かり易いように実際の製品から寸法を変化させており、各部材、各部品の板厚や幅や長さなどの比率も必ずしも実際の製品の比率と一致しているとは限らない。
【0018】
図1(a)は、本実施形態に係る内燃機関システム1の全体構成を模式的に示す概略図である。この内燃機関システム1が搭載されている車両の具体的な種類は特に限定されるものではないが、本実施形態においてはバスやトラック等の大型車両を用いる。
【0019】
内燃機関システム1は、内燃機関10、吸気通路(吸気マニホールド20、吸気マニホールド20の上流側端部に接続した吸気管21)、排気通路(排気マニホールド30、排気マニホールド30の下流側端部に接続した排気管31)、EGRシステム(EGR通路40、EGRバルブ41及びEGRクーラ42)、排気浄化装置50、排気後処理装置60、可変動弁機構70、及び制御装置80を備えている。
【0020】
図1(b)は内燃機関10の構成を説明するための概略図である。内燃機関10は、シリンダブロック11と、シリンダブロック11の上部に配置されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11に形成された気筒13に配置されたピストン14とを備えている。シリンダヘッド12には、吸気が通過する吸気ポート15と、排気が通過する排気ポート16とが設けられている。また内燃機関10は、吸気ポート15を開閉する吸気バルブ17と、排気ポート16を開閉する排気バルブ18とを備えるとともに、気筒13に燃料を直接噴射する燃料噴射弁19を備えている。
【0021】
なお、内燃機関10には、内燃機関10を冷却するための冷却水が通過する冷却通路(図示せず)が設けられている。この冷却通路の具体的構成は特に限定されるものではないが、本実施形態に係る冷却通路は、シリンダブロック11の各気筒13の周辺部と、シリンダヘッド12の吸気ポート15及び排気ポート16の周辺部とに設けられている。冷却水は、ウォーターポンプによって圧送されて、この冷却通路を流動しながら内燃機関10を冷却する。
【0022】
なお、内燃機関10の種類は特に限定されるものではないが、本実施形態では一例としてディーゼル機関を用いている。
【0023】
図1(a)に示すように、EGR通路40は、排気マニホールド30と吸気マニホールド20とを連通しており、排気通路の排気の一部を吸気通路へ導くための通路である。EGR通路40を通過する排気をEGRガスと称する。EGRバルブ41及びEGRクーラ42はEGR通路40の途中に接続されている。EGRバルブ41は制御装置80の指示を受けて開閉作動することで、EGRガスの流量を調整する。EGRクーラ42は制御装置80の指示を受けて作動することで、EGRガスを冷却する。
【0024】
排気浄化装置50は、排気管31に配置されている。本実施形態に係る排気浄化装置50は、ディーゼル酸化触媒51と、排気に含まれる煤等のPMを捕集可能なフィルター52とを備えている。フィルター52はディーゼル酸化触媒51よりも下流側に配置されている。本実施形態では、フィルター52の一例として、ディーゼルパティキュレートフィルターを用いている。ディーゼル酸化触媒51は、排気が通過可能なフィルターに、白金(Pt)、パラジウム(Pd)等の貴金属触媒が担持された構成を有している。このディーゼル酸化触媒51は、その貴金属触媒の酸化触媒作用によって、排気中の一酸化窒素(NO)を二酸化窒素(NO)に変化させる酸化反応を促進させる。排気温度が所定温度以上になった場合、このディーゼル酸化触媒51において生成された二酸化窒素によって、フィルター52のPMを燃焼させて、二酸化炭素(CO)として排出させることがで
きる。
【0025】
排気後処理装置60は排気通路に配置されている。具体的には排気後処理装置60は、排気浄化装置50よりも下流側の排気管31部分に配置されている。本実施形態においては、排気後処理装置60の一例として、尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)装置を用いている。この尿素SCR装置は、尿素水供給部61、尿素SCR触媒62、及びアンモニアスリップ触媒63を備えている。尿素水供給部61は、尿素SCR触媒62よりも上流側、且つフィルター52よりも下流側の排気管31に配置されており、制御装置80の指示を受けて排気中に尿素水を供給する尿素水噴射弁を備えている。
【0026】
尿素SCR触媒62は、アンモニア(NH)を用いて排気中のNOxを選択的に還元させる触媒である。尿素SCR触媒62の具体的な種類は特に限定されるものではなく、例えば、バナジウム、モリブデン、タングステン等の卑金属酸化物や、ゼオライト等の貴金属等、公知のNOx選択還元触媒を用いることができる。アンモニアスリップ触媒63は、尿素SCR触媒62よりも下流側に配置されている。このアンモニアスリップ触媒63は、尿素SCR触媒62を通過したアンモニアを酸化させる酸化触媒である。
【0027】
尿素水供給部61から尿素水が排気中に供給された場合、尿素水中の尿素は加水分解され、その結果、アンモニアが生成される。このアンモニアは、尿素SCR触媒62の触媒作用の下で、NOxを還元させる。この結果、窒素及び水が生成される。このようにして、排気後処理装置60としての尿素SCR装置は、排気中のNOxの低減を図っている。また本実施形態によれば、アンモニアスリップ触媒63を備えているので、アンモニアが内燃機関システム1の外部に排出されることが効果的に抑制されている。
【0028】
図1(a)及び図1(b)に示すように、可変動弁機構70は、制御装置80によって制御されて、各々の気筒13に対応した排気バルブ18の開弁時期及び閉弁時期を変更可能な機構である。この可変動弁機構70の構成自体は、公知の可変動弁機構を用いることができるので、詳細な説明は省略する。
【0029】
制御装置80は、内燃機関10の燃料噴射弁19、EGRバルブ41、EGRクーラ42、尿素水供給部61、及び可変動弁機構70を制御することで、内燃機関システム1の動作を総合的に制御する。このような制御装置80は、各種の制御処理を実行する制御部としての機能を有するCPU81と、CPU81の動作に必要な各種情報やプログラム等を記憶する記憶部としての機能を有するROM82、RAM83等と、を有するマイクロコンピュータを備えている。
【0030】
続いて、内燃機関10の暖機運転時における制御装置80の制御処理について説明する。図2は、内燃機関10の暖機運転時において制御装置80が実行するフローチャートの一例である。制御装置80は、図2のフローチャートを内燃機関10の始動後において所定周期で繰り返し実行する。なお、図2の各ステップは制御装置80の具体的にはCPU81が実行する。
【0031】
ステップS10において、制御装置80は、内燃機関10が暖機運転時の状態であるか否かを判定する。ここで、本実施形態に係る制御装置80は、内燃機関10の始動開始(クランキング開始)から内燃機関10の温度が所定温度以上になるまでの間、内燃機関10の暖機運転を実行する。そして、この内燃機関10の暖機運転において、制御装置80は、内燃機関10の回転数(クランクシャフトの回転数)がアイドル回転数よりも若干高い所定回転数になるように、内燃機関10の特に燃料噴射弁19を制御する。そして、ステップS10において制御装置80は、内燃機関10の運転状態が暖機運転の実行中の状
態であるか否かを判定し、暖機運転の実行中の状態であると判定した場合にYESと判定する。なお、制御装置80は、ステップS10をYESと判定されるまで繰り返し実行する。
【0032】
なお、本実施形態においては、上述した内燃機関10の温度の一例として、内燃機関10の冷却水の温度を用いる。具体的には、本実施形態に係る内燃機関システム1は、内燃機関10の冷却水の温度を検出する温度センサ(図示せず)を備えており、制御装置80は、この温度センサの検出結果を取得することで、内燃機関10の冷却水の温度を取得している。但し、内燃機関10の温度は、このような冷却水の温度に限定されるものではなく、例えば内燃機関10のシリンダブロック11の温度やシリンダヘッド12の温度等を内燃機関10の温度の代表例として用いてもよい。
【0033】
ステップS10でYESと判定された場合(すなわち、内燃機関10が暖機運転時の場合)、制御装置80は排気バルブ18の開弁時期及び閉弁時期を進角させる排気バルブ進角制御を実行する(ステップS20)。具体的には制御装置80は、可変動弁機構70を制御することで、排気バルブ18の開弁時期及び閉弁時期をそれぞれ予め設定された基準値よりも所定の進角量だけ進角させる。なお、本実施形態では、この基準値の一例として、内燃機関10の通常時における排気バルブ18の開弁時期及び閉弁時期を用いる。
【0034】
このステップS20に係る排気バルブ進角制御について、図を用いて説明すると次のようになる。図3は、通常時及び排気バルブ進角制御の実行後における吸気バルブ17及び排気バルブ18のバルブ開口面積の変化を示す模式図である。図3の縦軸は吸気バルブ17又は排気バルブ18の開口面積を示し、横軸はクランク角を示している。なお、図3の縦軸において、上方に向かうほど吸気バルブ17又は排気バルブ18のバルブリフト量が増大して、バルブ開口面積は大きくなる。曲線100は、通常時の場合における排気バルブ18のバルブ開口面積の変化を示している。曲線101は、通常時及び排気バルブ進角制御の実行後における吸気バルブ17のバルブ開口面積の変化を示している。曲線102は、排気バルブ進角制御の実行後における排気バルブ18のバルブ開口面積の変化を示している。
【0035】
可変動弁機構70は、ステップS20に係る排気バルブ進角制御において、曲線100に示す排気バルブ18の開弁時期及び閉弁時期を同じ角度(所定の進角量)だけ早める。この結果、排気バルブ進角制御の実行後における排気バルブ18の開口面積は曲線100から曲線102に変化する。なお、この排気バルブ進角制御が実行されても、曲線101に示すように、吸気バルブ17の開弁時期及び閉弁時期は変化しない。
【0036】
再び図2を参照して、ステップS20の後において制御装置80は、内燃機関10の燃料噴射時期を遅角させる燃料噴射遅角制御を実行する(ステップS30)。具体的には制御装置80は、内燃機関10の燃料噴射弁19を制御して、燃料噴射時期を予め設定された基準値よりも所定の遅角量だけ遅角させる。なお、本実施形態では、この基準値の一例として、内燃機関10の通常時における燃料噴射時期を用いる。
【0037】
また本実施形態に係る制御装置80は、ステップS30において、燃料噴射量は通常時の燃料噴射量から変化させず、燃料噴射の開始時期及び終了時期を遅角させている。
【0038】
但し、ステップS30の実行内容は上記内容に限定されるものではない。他の例を挙げると、例えば制御装置80は、ステップS30において、燃料噴射量を通常時よりも所定噴射量、増加させつつ、燃料噴射時期を通常時よりも遅角させる構成とすることもできる。このように燃料噴射量を増加させることにより、より筒内温度を上昇させることができる。
【0039】
なお、制御装置80が排気バルブ18の開閉時期を通常時の値に戻すタイミングや、燃料噴射時期を通常時の値に戻すタイミングは特に限定されるものではないが、本実施形態に係る制御装置80は、内燃機関10の暖機運転の終了時に、これらを通常時に戻している。具体的には制御装置80は、ステップS20及びステップS30の実行後に内燃機関10の温度が所定温度以上になったか否かを判定し、この内燃機関10の温度が所定温度以上になったと判定した場合に、内燃機関10の暖機運転を終了させるとともに、排気バルブ18の開弁時期及び閉弁時期を通常時の値に戻し、燃料噴射時期を通常時の値に戻している。
【0040】
なお、本実施形態では、ステップS30をステップS20の実行後に実行しているが、ステップS20及びステップS30の実行順序はこれに限定されるものではない。例えばステップS20に係る排気バルブ進角制御とステップS30に係る燃料噴射遅角制御とを同時に実行してもよく、ステップS20に係る排気バルブ進角制御をステップS30に係る燃料噴射遅角制御の後に実行してもよい。
【0041】
しかしながら、これは後述するが、ステップS20に係る排気バルブ進角制御の実行によって、失火の発生を抑制しつつ燃料噴射時期をより遅角させることが可能である。したがって、本実施形態のように、ステップS30をステップS20の実行後に実行した方が、失火の発生を抑制しつつステップS30の燃料噴射時期の遅角量をより大きくできる点で好ましい。
【0042】
なお、本実施形態において、ステップS20及びステップS30を実行する制御装置80のCPU81は、内燃機関10の暖機運転時において、排気バルブ18の開弁時期及び閉弁時期を基準値よりも進角させ、且つ燃料噴射時期を基準値よりも遅角させる制御処理を実行する制御部としての機能を有する部材に相当する。
【0043】
続いて、本実施形態の作用効果について説明する。図4(a)は、本実施形態に係る排気バルブ進角制御が実行された場合における圧縮端近傍の筒内温度の変化を説明するための模式図である。具体的には図4(a)の縦軸は筒内温度(K)を示し、横軸はクランク角(°ATDC)を示している。縦軸において、温度Tbは、筒内(気筒13内)で燃料が燃焼することのできる温度である。すなわち、筒内温度が温度Tbより低い場合、燃料が筒内で燃焼することは困難であり、筒内温度が温度Tb以上になった場合に燃料は筒内で燃焼することができる。曲線110は、排気バルブ進角制御が実行されない場合(すなわち通常時)における筒内温度の変化を示し、曲線111は排気バルブ進角制御が実行された場合における筒内温度の変化を示している。
【0044】
曲線111を曲線110と比較した場合、曲線111は全体的に曲線110よりも上方に位置している。このように、排気バルブ進角制御が実行されることで、筒内温度を全体的に上昇させることができる。これは以下の理由によるものである。
【0045】
具体的には、内燃機関10の暖機運転時に排気バルブ18の開弁時期及び閉弁時期が進角されることで、内燃機関10の筒内に排気を多く残留させることができる(すなわち、残留ガスを増加させることができる)。これにより、この増加した残留ガスを排気行程で一度圧縮して高温・高圧状態にして、残留ガスの内部エネルギを増加させることができる。そして、次の吸気行程における吸気バルブ17の開弁初期において、この内部エネルギの増加した残留ガスを一旦、吸気側に放出させることができる。そして、この吸気行程における吸気バルブ17の開弁継続中に、この内部エネルギの増加した残留ガスと、新気とを筒内に導入させることができる。これにより、曲線111に示すように、圧縮行程における筒内温度を上昇させることができるのである。
【0046】
このように圧縮行程における筒内温度が上昇することで、燃焼・膨張行程における燃焼温度を上昇させることができる。これにより、筒内のガスから内燃機関10に伝達する熱量(具体的には、筒内のガスから内燃機関10の冷却水に伝達する熱量)を増加させることができるので、内燃機関10の暖機を促進させることができる。
【0047】
また、本実施形態によれば、曲線110では、燃料が燃料可能な筒内温度Tbに対応するクランク角がA1であったものが、曲線111では、筒内温度Tbに対応するクランク角が遅角してA2になっている。このように、排気バルブ進角制御の実行によって筒内温度が上昇することにより、失火が生じない時期(クランク角)をより遅くすることができる。したがって、本実施形態によれば、排気バルブ進角制御の実行によって、失火の発生を抑制しつつ燃料噴射時期をより遅角させることもできる。
【0048】
さらに本実施形態によれば、内燃機関10の暖機運転時において、ステップS20に係る排気バルブ進角制御のみならず、ステップS30に係る燃料噴射遅角制御も実行されている。本実施形態によれば、この燃料噴射遅角制御によって、内燃機関10の燃料噴射時期が遅角されることで、内燃機関10から排出される排気温度を効果的に上昇させることができる。この結果、残留ガスの内部エネルギを効果的に上昇させることができるので、この内部エネルギの増加した残留ガスが吸気行程で新気とともに筒内に導入されることで、筒内温度を効果的に上昇させることができる。これにより、暖機を効果的に促進させることができるので、内燃機関10の暖機運転時間の短縮を図ることができる。
【0049】
なお、上述した本実施形態に係る排気バルブ進角制御及び燃料噴射遅角制御が実行された場合の筒内温度の変化について、図を用いて説明すると次のようになる。図4(b)は、本実施形態に係る排気バルブ進角制御及び燃料噴射遅角制御が実行された場合の筒内温度の変化を説明するための模式図である。具体的には図4(b)の縦軸は筒内温度を示し、横軸はクランク角を示している。曲線120は、排気バルブ進角制御及び燃料噴射遅角制御のいずれも実行されない場合の筒内温度のシミュレーション結果を示している。曲線121は、排気バルブ進角制御のみが実行された場合の筒内温度のシミュレーション結果を示している。曲線122は、排気バルブ進角制御及び燃料噴射遅角制御の両方が実行された場合の筒内温度のシミュレーション結果を示している。なお、曲線122は、曲線120に比較して、燃料噴射時期を4(°ATDC)遅角させた場合のシミュレーション結果となっている。
【0050】
図4(b)のクランク角A3において、曲線120〜曲線122を比較すると分かるように、曲線120では筒内温度T1となっているのが、曲線121では筒内温度T2(>T1)となり、曲線122では筒内温度T3(>T2)となっている。すなわち、この図4(b)からも、曲線121に示すように排気バルブ進角制御が実行されることで筒内温度を上昇でき、さらに、曲線122に示すように排気バルブ進角制御と燃料噴射遅角制御の両方が実行されることで筒内温度をさらに上昇できることが分かる。
【0051】
以上のように、本実施形態によれば、排気バルブ進角制御に加えて燃料噴射遅角制御を実行することで、筒内温度を効果的に上昇させて、暖機を効果的に促進させることができ、これにより、内燃機関10の暖機運転時間の短縮を図ることができる。
【0052】
また、本実施形態によれば、このように暖機運転時間の短縮を図ることができるので、内燃機関10の燃費を向上させることができる。また、暖機運転時間が短縮される結果、排気温度が早期に高温になるので、排気後処理装置60の性能を早期に向上させて、排気後処理装置60によってNOxを早期に処理できるようになる。
【0053】
以上本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 内燃機関システム
10 内燃機関
17 吸気バルブ
18 排気バルブ
19 燃料噴射弁
40 EGR通路
50 排気浄化装置
60 排気後処理装置
70 可変動弁機構
80 制御装置
81 CPU(制御部)
図1
図2
図3
図4