特許第6822018号(P6822018)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6822018-タイヤトレッド用ゴム組成物 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6822018
(24)【登録日】2021年1月12日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】タイヤトレッド用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20210114BHJP
   C08L 23/28 20060101ALI20210114BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20210114BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20210114BHJP
   C08L 25/16 20060101ALI20210114BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   C08L9/00
   C08L23/28
   C08K3/04
   C08K3/36
   C08L25/16
   B60C1/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-174251(P2016-174251)
(22)【出願日】2016年9月7日
(65)【公開番号】特開2018-39899(P2018-39899A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 慶介
(72)【発明者】
【氏名】土方 健介
【審査官】 櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−002584(JP,A)
【文献】 特開2014−009250(JP,A)
【文献】 特開2010−270259(JP,A)
【文献】 特開2018−012818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化ブチルゴムを10質量%以上50質量%未満含むジエン系ゴム100質量部に、カーボンブラックおよび/またはシリカを45〜150質量部、C9系樹脂を1〜30質量部配合してなり、前記C9系樹脂がスチレンおよびα−メチルスチレンからなり、前記C9系樹脂100%のうち、α−メチルスチレンを40%以上含むことを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記カーボンブラックおよびシリカの配合量の合計が50〜150質量部である、請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物からなるトレッド部を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェットグリップ性能および低温環境での耐クラック性を改良するようにしたタイヤトレッド用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤには、グリップ性能、低転がり抵抗性、耐久性に優れることが求められる。また空気入りタイヤは、暑熱地域から寒冷地域まで全世界で使用されるため、極めて広い温度領域において、上述した特性に優れることが要求される。例えばウェットグリップ性能を改良するため、トレッド用ゴム組成物にガラス転移温度が高いポリマーやシリカを配合することが知られている。しかし、ガラス転移温度を高くすると脆化温度が高くなり、低温環境での耐クラック性が低くなることが懸念される。
【0003】
特許文献1は、ハロゲン化ブチルゴムに(メタ)アクリルシラン化合物を配合したゴム組成物が、ウェットグリップ性能および低転がり抵抗性を改良することを記載する。しかし、このゴム組成物はウェットグリップ性能を改良するが、低温環境での耐クラック性を改良するという課題を解決するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−6515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ウェットグリップ性能および低温環境での耐クラック性を従来レベル以上に向上させるようにしたタイヤトレッド用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、ハロゲン化ブチルゴムを10質量%以上50質量%未満含むジエン系ゴム100質量部に、カーボンブラックおよび/またはシリカを45〜150質量部、C9系樹脂を1〜30質量部配合してなり、前記C9系樹脂がスチレンおよびα−メチルスチレンからなり、前記C9系樹脂100%のうち、α−メチルスチレンを40%以上含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、上述した構成により、ウェットグリップ性能および低温環境での耐クラック性を従来レベル以上に向上させることができる。
【0008】
タイヤトレッド用ゴム組成物は、前記カーボンブラックおよびシリカの配合量の合計が50〜150質量部であるとよい。本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物からなるトレッド部を有する空気入りタイヤは、ウェットグリップ性能および耐クラック性能のバランスをより優れたものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物からなる空気入りタイヤの実施形態の一例を示す子午線方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1において、タイヤトレッド用ゴム組成物は、トレッド部1、サイド部2及びビード部3を有し、左右のビード部3,3間にカーカス層4が装架され、その両端部がビードコア5の周りにタイヤ内側から外側に折り返されている。トレッド部1におけるカーカス層4のタイヤ径方向外側にはベルト層6が配置され、そのベルト層6の外側にトレッドゴム9が配置される。またカーカス層4のタイヤ径方向内側にはタイゴム7が配置され、更にその内側にインナーライナー8が配置される。トレッドゴム9は、本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物により好適に形成される。
【0011】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物のゴム成分はジエン系ゴムであり、ハロゲン化ブチルゴムを含む。ハロゲン化ブチルゴムの含有量は、ジエン系ゴム100質量%中10質量%以上50質量%未満、好ましくは14〜46質量%、より好ましくは18〜42質量%である。ハロゲン化ブチルゴムを10質量%以上含有することにより、低温脆化性を確保しウェットグリップ性能を高いレベルで維持することができる。またハロゲン化ブチルゴムを50質量%未満含有することにより、ウェットグリップ性能を確保し低温脆化性を高いレベルで維持することができる。ハロゲン化ブチルゴムとして、臭素化ブチルゴム、塩素化ブチルゴム等を例示することができる。
【0012】
ジエン系ゴムは、ハロゲン化ブチルゴム以外の他のジエン系ゴムを含有することができる。他のジエン系ゴムとして、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等が挙げられ、単独又は複数のブレンドとして使用することができる。なかでも天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴムが好ましく、ハロゲン化ブチルゴムおよび天然ゴム、或はハロゲン化ブチルゴムおよびスチレン−ブタジエンゴムにより、ジエン系ゴム100質量%にすることができる。
【0013】
タイヤトレッド用ゴム組成物は、カーボンブラックおよび/またはシリカを配合することにより、ゴム硬度および耐クラック性を高くする。カーボンブラックおよびシリカの配合量の合計は、ジエン系ゴム100質量部に対し45〜150質量部、好ましくは50〜140質量部、より好ましくは55〜130質量部である。カーボンブラックおよびシリカの配合量の合計が45質量部未満であると、ゴム組成物のゴム硬度が十分に得られず、操縦安定性が低下する。またカーボンブラックおよびシリカの配合量の合計が150質量部を超えると、低温脆化性が悪化し耐クラック性が低下する。カーボンブラックおよびシリカは、いずれか1つを配合することもできるし、両方を配合することもできる。
【0014】
本発明で使用するカーボンブラックは、窒素吸着比表面積N2SAが好ましくは70〜170m2/g、より好ましくは80〜160m2/gであるとよい。N2SAが70m2/g未満であると、ゴム組成物のゴム硬度が十分に得られず、操縦安定性が低下する。N2SAが170m2/gを超えると、カーボンブラックの分散性が悪化し、操縦安定性が低下する。カーボンブラックのN2SAは、JIS K6217−2に準拠して、測定するものとする。
【0015】
本発明で使用するシリカのCTAB吸着比表面積は、特に限定されるものではないが好ましくは130〜250m2/g、より好ましくは150〜210m2/gであるとよい。シリカのCTAB吸着比表面積が130m2/g未満であると、十分なウェットグリップ性能が得られない。シリカのCTAB吸着比表面積が250m2/gを超えると、シリカの分散性が悪化し、操縦安定性が低下する。シリカのCTAB吸着比表面積は、ISO 5794−1に準拠して、測定するものとする。
【0016】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、α−メチルスチレンを40%以上含むC9系樹脂を含む。このC9系樹脂を配合することにより、ウェットグリップ性能および低温脆化性を改良することができる。C9系樹脂の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し1〜30質量部、好ましくは2〜20質量部である。C9系樹脂の配合量が1質量部未満であると、ウェットグリップ性能および低温脆化性を改良することができない。またC9系樹脂の配合量が30質量部を超えると、低温脆化性が却って悪化すると共に、転がり抵抗が大きくなる。本発明において、C9系樹脂は、C5系樹脂、C5/C9系樹脂、C10系樹脂(例えばテルペン系樹脂)など他の樹脂と共に配合することができる。そのときのC9系樹脂の配合量は、上述した範囲内であるとよい。
【0017】
本発明において、C9系樹脂100%のうち、α−メチルスチレンを40%以上含む。α−メチルスチレンを40%以上含むことにより、ウェットグリップ性能および低温脆化性を優れたものにすることができる。C9系樹脂100%中、α−メチルスチレンの含量は、好ましくは50〜95%であるとよい。本明細書において、α−メチルスチレンの含量は、C9系樹脂をGC−MS(ガスクロマトグラフ-質量分析計)を使用して分解温度570℃の条件で測定することができる。α−メチルスチレンを40%以上含むC9系樹脂は、原油の留分を更に精製しα−メチルスチレン含量が多い成分を(共)重合することにより得ることができる。
【0018】
C9系樹脂は、原油を蒸留、分解、改質などの処理をして得られた成分を重合して製造される芳香族系炭化水素樹脂であり、炭素数が9であるC9成分を主原料にした重合体および共重合体をいう。「C9成分を主原料」にするとは、芳香族系炭化水素樹脂を構成するモノマーのうち、C9成分が50%以上、好ましくは56%以上であることをいう。またC9成分として、例えばα−メチルスチレン、インデン、o−ビニルトルエン、m−ビニルトルエン、p−ビニルトルエンなどの留分を挙げることができる。なおC9系樹脂は、C9成分以外に、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、1,2−ペンタジエン、イソプロペニルトルエン等の留分を少量成分として含む共重合体でもよい。ここで少量成分とは、C9系樹脂中、好ましくは49%以下、より好ましくは45%以下であるものとする。
【0019】
本発明において、タイヤトレッド用ゴム組成物は、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤、液状ポリマー、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などのタイヤトレッド用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲内で配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0020】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、トレッド部を構成するゴム組成物として好適である。またこのタイヤトレッド用ゴム組成物からなるトレッド部を有する空気入りタイヤは、ウェットグリップ性能および低温環境下での耐クラック性とのバランスを従来レベル以上に優れたものにすることができる。
【0021】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
タイヤトレッド用ゴム組成物
表2に示す配合を共通処方とする、表1に示す配合からなる9種類のタイヤトレッド用ゴム組成物(実施例1〜3、標準例、比較例1〜5)を、硫黄、加硫促進剤を除く成分を1.8Lの密閉型ミキサーで5分間混練し放出しマスターバッチとした。得られたマスターバッチに、硫黄、加硫促進剤を加えてオープンロールで混合することにより、9種類のタイヤトレッド用ゴム組成物を調製した。なお表2に示す配合は、表1に記載したジエン系ゴム100質量部に対する配合量(質量部)を意味する。
【0023】
得られた9種類のタイヤトレッド用ゴム組成物を使用して所定形状の金型中で、170℃、10分間加硫して加硫試験片を作製し、下記に示す方法によりウェットグリップ性能(0℃のtanδ)および低温脆化特性(脆化温度)の評価を行った。
【0024】
ウェットグリップ性能
得られたゴム組成物の加硫試験片を使用し、JIS K6394:2007に準拠して、粘弾性スペクトロメーター(岩本製作所社製)を用いて、伸張変形歪率10%±2%、振動数20Hz、温度0℃の条件でtanδを測定した。標準例の値を100とする指数として、表1の「ウェットグリップ性能」の欄に示した。この指数が大きいほど0℃のtanδが大きく、タイヤにしたときウェットグリップ性能が優れることを意味する。
【0025】
脆化温度
得られたゴム組成物の加硫試験片を用いて、JIS K6261「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム‐低温特性の求め方」の低温衝撃ぜい化試験に準拠し、脆化温度を測定した。得られた結果は、標準例の値を100とする指数として、表1の「低温脆化特性」の欄に記載した。この指数が大きいほど脆化温度が低く、低温下での耐クラック性に優れることを意味する。
【0026】
【表1】
【0027】
なお、表1において使用した原材料の種類を下記に示す。
・ハロゲン化ブチルゴム:臭素化イソブチレンイソプレンラバー、EXXON CHEMICAL社製
・SBR:スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol NS116R
・カーボンブラック:キャボットジャパン社製ショウブラックN339、N2SAが88m2/g
・シリカ:ローディア社製ZEOSIL 1165MP、CTAB吸着比表面積が159m2/g
・C5系樹脂:トーネックス社製、エスコレッツ1102石油樹脂
・C9系樹脂−1:東ソー社製ペトコール、GC−MSの組成分析は、スチレンが33%、α−メチルスチレンが15%、ビニルトルエンが20%、インデンが30%
・C9系樹脂−2:ARIZONA CHEMICAL製SYLVARES SA140、GC−MSの組成分析は、スチレンが44%、α−メチルスチレンが56%
・C9系樹脂−3:三井化学社製FTR 2140、GC−MSの組成分析は、スチレンが31%、α−メチルスチレンが69%
・テルペン系樹脂:ヤスハラケミカル社製YSレジンTO−125
・アロマオイル:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S
【0028】
【表2】
【0029】
なお、表2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
・ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸
・老化防止剤−1:Solutia Europe社製SANTOFLEX 6PPD
・老化防止剤−2:NOCIL LIMITED社製PILNOX TDQ
・シランカップリング剤:Evonik Degussa社製Si69
・硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粉硫黄(硫黄の含有量95.24質量%)
・加硫促進剤−1:大内新興化学工業社製ノクセラーCZ−G
・加硫促進剤−2:住友化学株式会社製ソクシノールD-G
【0030】
表1から明らかなように実施例1〜3のタイヤトレッド用ゴム組成物は、ウェットグリップ性能および低温脆化特性を従来レベル以上に向上することが確認された。
【0031】
比較例1のタイヤトレッド用ゴム組成物は、ハロゲン化ブチルゴムが50質量%以上であるので、ウェットグリップ性能が低下する。
比較例2のタイヤトレッド用ゴム組成物は、ハロゲン化ブチルゴムが10質量%未満であるので、低温脆化特性が低下する。
比較例3のタイヤトレッド用ゴム組成物は、C9系樹脂が30質量部を超えるので、低温脆化特性が低下する。
比較例4のタイヤトレッド用ゴム組成物は、α−メチルスチレンが40%未満のC9系樹脂およびC5系樹脂を配合したので、ウェットグリップ性能が低下する。
比較例5のタイヤトレッド用ゴム組成物は、C9系樹脂を配合せず、代わりにテルペン系樹脂を配合したので、低温脆化特性が低下する。
【符号の説明】
【0032】
1 トレッド部
2 サイド部
3 ビード部
9 トレッドゴム
図1