(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1中心電極と前記第1中心電極から離間するように配置された複数の第1外部電極とを有し、極端紫外光を放出するプラズマを発生させる第1同軸状電極と、レーザ光が照射されることにより前記プラズマを発生させるためのアブレーションガスを放出するプラズマ媒質と、を備えるプラズマ光源において、
前記第1中心電極とそれぞれの前記第1外部電極との間に電圧を印加する電圧印加工程と、
前記プラズマ媒質に前記レーザ光をパルスで照射することにより前記第1中心電極とそれぞれの前記第1外部電極との間に前記アブレーションガスを供給し、前記第1中心電極とそれぞれの前記第1外部電極との間に前記プラズマを発生させるプラズマ発生工程と、
前記プラズマ発生工程において、前記第1中心電極とそれぞれの前記第1外部電極との間に流れる電流を測定する測定工程と、
前記測定工程において測定された複数の電流の立ち上がり時間の差と閾値とを比較する比較工程と、
複数の前記電流の立ち上がり時間の差が前記閾値より大きい場合に、前記プラズマ媒質に対する前記レーザ光の照射条件を変更することにより、前記アブレーションガスの分布を調整する調整工程と、を含み、
前記調整工程では、前記レーザ光が照射される前記プラズマ媒質の照射面の角度を変更することにより前記アブレーションガスの分布を調整する、アブレーションの調整方法。
前記プラズマ光源は、軸線上において前記第1同軸状電極と対面するように配置され、第2中心電極と前記第2中心電極から離間するように配置された複数の第2外部電極とを有し、前記極端紫外光を放出する前記プラズマを発生させる第2同軸状電極を更に備え、
前記電圧印加工程では、前記第1中心電極とそれぞれの前記第1外部電極との間、及び、前記第2中心電極とそれぞれの前記第2外部電極との間に電圧を印加し、
前記プラズマ発生工程では、前記第1中心電極とそれぞれの前記第1外部電極との間、及び、前記第2中心電極とそれぞれの前記第2外部電極との間に前記アブレーションガスを供給し、前記第1中心電極とそれぞれの前記第1外部電極との間、及び、前記第2中心電極とそれぞれの前記第2外部電極との間に前記プラズマを発生させ、
前記測定工程では、前記第1中心電極とそれぞれの前記第1外部電極との間、及び、前記第2中心電極とそれぞれの前記第2外部電極との間に流れる電流をそれぞれ測定する、請求項1に記載のアブレーションの調整方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1を参照して、本発明の一実施形態に係るアブレーションの調整方法を実施可能なプラズマ光源1について説明する。
図1に示されたプラズマ光源1は、いわゆる対向型プラズマフォーカス方式を採用している。プラズマフォーカス方式は、第1中心電極11A(中心電極11)と、当該第1中心電極11Aから離間するように配置された複数の第1外部電極12A(外部電極12)とを有する第1同軸状電極10A、及び、第2中心電極11B(中心電極11)と、当該第2中心電極11Bから離間するように配置された第2外部電極12B(外部電極12)と、を有する第2同軸状電極10Bを備える。対向型プラズマフォーカス方式のプラズマ光源1が動作するとき、まず、第1中心電極11Aと第1外部電極12Aとの間、及び、第2中心電極11Bと第2外部電極12Bとの間に高電圧を印加する。そして、何らかのトリガを入力することにより、第1中心電極11Aと第1外部電極12Aとの間、及び、第2中心電極11Bと第2外部電極12Bとの間にそれぞれリング状の初期プラズマを生成させる。初期プラズマは、第1中心電極11A及び第2中心電極11Bの先端部で収束して高温及び高密度状態に達する。
【0016】
対向型プラズマフォーカス方式を採用するプラズマ光源1では、プラズマ源としての第1同軸状電極10Aと第2同軸状電極10Bとが互いに向かい合うように配置される。そして、それぞれの中心電極11(第1中心電極11A及び第2中心電極11B)の先端部に達したプラズマ同士を衝突させることにより、高温及び高密度状態のプラズマが形成される。この高温及び高密度状態のプラズマから極端紫外光が発生する。
【0017】
初期プラズマを発生させる方式の一つに、レーザ光によってプラズマ媒質をアブレーション(蒸発)させる方式がある。この方式では、固体又は液体のプラズマ媒質にレーザ光を照射することでプラズマ媒質を蒸発させてアブレーションガス(媒質蒸気)を発生させる。このアブレーションガスを介して、第1中心電極11Aと第1外部電極12Aとの間、及び、第2中心電極11Bと第2外部電極12Bとの間に放電を生じさせる。また、プラズマ媒質は、固体、液体、気体の何れであってもよく、発生させたい光の波長によって選択される。対向型プラズマフォーカス方式では、プラズマ媒質として、液体又は固体のリチウム、スズ、及びキセノン等を用いることがある。
【0018】
プラズマ光源1は、例えば、半導体素子を製造するための露光装置に適用される。プラズマ光源1は、例えば、波長が13.5nmの極端紫外光(EUV光)を発生可能に構成されている。プラズマ光源1は、EUV光を発生させることにより、微細なパターンを形成するフォトリソグラフィを可能にする。
【0019】
プラズマ光源1は、プラズマを発生させる一対の同軸状電極10(第1同軸状電極10A及び第2同軸状電極10B)と、同軸状電極10に電位差を生じさせる電圧印加装置20と、アブレーションガスを形成するアブレーションガス形成部30と、プラズマ媒質を供給するプラズマ媒質供給部41と、を備える。
【0020】
一対の同軸状電極10は、チャンバ2内に収容されており、軸線A上において互いに対面するように配置されている。一対の同軸状電極10は、仮想の中央面Pに関して面対称に配置されている。一対の同軸状電極10の間には、一定の間隔(空間)がもうけられている。チャンバ2には、一又は複数の排気管3が設けられており、排気管3には真空ポンプ(図示せず)が接続される。チャンバ2内は所定の真空度に維持される。チャンバ2は、接地されている。それぞれの同軸状電極10は、中心電極11と、複数の外部電極12と、中心電極11と複数の外部電極12とを絶縁する絶縁体13と、を備える。
【0021】
中心電極11は、軸線A上に沿って延びる棒状の導電体である。換言すると、
図1において一方の同軸状電極10の中心電極11は、他方の同軸状電極10に向かって延びる。中心電極11は、例えば、タングステン(W)又はモリブデン(Mo)等の高温プラズマに対して損傷され難い高融点金属から形成される。中心電極11の軸線Aは、上記した中央面Pに直交する。中央面Pに対面する中心電極11の端面は、例えば半球状である。中心電極11の側面は、例えば円錐状である。
【0022】
一方の同軸状電極10の外部電極12は、他方の同軸状電極10に向かって延びる棒状の導電体である。外部電極12は、軸線Aに対して傾斜した方向に延びていてもよい。例えば、円錐状をなす中心電極11の側面から外部電極12までの距離が常に一定になるように、外部電極12は中心電極11の側面に対して平行である方向に延びていてもよい。外部電極12は、例えば、タングステン(W)又はモリブデン(Mo)等の高温プラズマに対して損傷され難い高融点金属から形成される。中央面Pに対面する外部電極12の端面は、曲面であってもよく、平面であってもよい。他方の同軸状電極10においても、中心電極11と複数の外部電極12とは、上記した一方の同軸状電極10と同様に構成されている。
【0023】
図2に示されるように、外部電極12は、中心電極11の周囲に配置されている。外部電極12は、中心電極11に対して所定の間隔を有している。複数の外部電極12は、軸線Aの周方向において等間隔に(すなわち回転対称に)配置されている。一対の同軸状電極10は、それぞれ6本の外部電極12を有する。6本の外部電極12は、軸線Aを基準として60°毎に配置されている。なお、外部電極12の本数は6本に限定されず、中心電極11及び外部電極12の大きさや形状、これらの間隔などに応じて適宜設定され得る。中心電極11のまわりに複数の外部電極12が配置されることにより、初期放電(たとえば沿面放電)が、中心電極11と外部電極12との間に発生する。この初期放電は、面状放電6(
図4参照)に至る。
【0024】
再び
図1に示されるように、絶縁体13は、例えば円板状をなすセラミックス板である。絶縁体13は、中心電極11と外部電極12の基部を支持し、これらの間隔を規定している。絶縁体13は、中心電極11と外部電極12とを電気的に絶縁する。
【0025】
電圧印加装置20は、同軸状電極10に同極性又は逆極性の放電電圧を印加することにより、電位差を生じさせる。電圧印加装置20は、2台の高圧電源(HV Charging Device)21,22を備える。第1高圧電源21の出力側は、第1同軸状電極10Aの中心電極11に接続されている。第1高圧電源21のコモン側は、その中心電極11に対応する外部電極12に接続されている。第1高圧電源21は、その中心電極11に対応する外部電極12よりも高い正の放電電圧を印加する。なお、第1高圧電源21は、その中心電極11に対応する外部電極12よりも低い負の放電電圧を印加してもよい。第2高圧電源22の出力側は、第2同軸状電極10Bの中心電極11に接続されている。第2高圧電源22のコモン側は、その中心電極11に対応する外部電極12に接続されている。第2高圧電源22は、その中心電極11に対応する外部電極12よりも高い正の放電電圧を印加する。なお、第2高圧電源22は、その中心電極11に対応する外部電極12よりも低い負の放電電圧を印加してもよい。何れの高圧電源のコモン側も接地されていてもよい。以下の説明では、第1高圧電源21を単に電源21という。第2高圧電源22を単に電源22という。
【0026】
なお、電源21,22のコモン側には、ロゴスキーコイル等を用いて誘導結合された線路が設けられてもよい。これらの線路により、中心電極11を経由した電流(すなわち、すべての放電電流)をオシロスコープ(Oscilloscope)で観察することができる。
【0027】
プラズマ光源1は、更に、電圧印加装置20からの放電電圧を放電エネルギーとして外部電極12毎に蓄積するエネルギー蓄積回路26を備えている。エネルギー蓄積回路26は、中心電極11と外部電極12との間を個別に接続する複数のコンデンサ26aを含む。コンデンサ26aは、電源21,22の出力側及びコモン側に接続されている。放電エネルギーを蓄積するコンデンサ26aが外部電極12毎に設けられることにより、すべての外部電極12において放電が発生し得る。すなわち、放電の発生タイミングに多少のずれが生じた場合でも、最初に発生した放電によって多くの放電エネルギーが消費されることが防止される。エネルギー蓄積回路26を備えることにより、同軸状電極10において、中心電極11の全周に亘って発生する理想的な面状放電6が得られる。
【0028】
プラズマ光源1は、更に、電圧印加装置20に放電電流が帰還することを阻止する放電電流阻止回路28を備えている。放電電流阻止回路28は、外部電極12と電圧印加装置20(具体的には電源21,22のコモン側)との間を接続するインダクタ28aを含む。インダクタ28aは、放電電流に対して十分に高いインピーダンスを有するため、中心電極11及び外部電極12を経由した放電電流は、その発生源であるエネルギー蓄積回路26に戻され得る。これにより、コンデンサ26aに蓄積された放電エネルギーが当該コンデンサ26aに直結した外部電極12以外の外部電極12に供給されることを防止できる。その結果、中心電極11の周方向における放電の発生分布に偏りが生じることを防止できる。
【0029】
上述した電圧印加装置20の動作について説明する。まず、電源21,22によってコンデンサ26aに電荷を予め蓄積(充電)する。そして、中心電極11と外部電極12との間にプラズマ媒質Mの蒸気が供給されることにより、コンデンサ26aの正極側から負極側へ電流が流れる。この電流は、コンデンサ26aに蓄積された電荷量に相当する電流が電気回路の時定数に従ってパルス的に流れる。つまり、電荷は、中心電極11、面状放電6、及び外部電極12の順に流れ、最終的にコンデンサ26aの負極側に戻る。この電流が流れている間に、面状放電6は中心電極11の先端部まで移動して先端部において単一のプラズマとして収束することにより発光する。
【0030】
アブレーションガス形成部30は、レーザ光Lを出射するレーザ装置31を有し、レーザ光Lをプラズマ媒質供給部41に提供する。例えば、アブレーションガス形成部30は、ビーム径30mmのレーザ光Lを集光し、プラズマ媒質M(
図3参照)に照射する。レーザ光Lが照射されたプラズマ媒質Mの照射面Ma(
図3参照)では、アブレーションによってプラズマ媒質Mの一部が、プラズマ媒質Mの蒸気(アブレーションガス)となって放出される。アブレーションガスは、中性ガス又はイオンを含む。また、レーザ装置31は、プラズマの初期放電(即ち、面状放電6:
図7の(b)部参照)を発生させる。レーザ装置31は例えばYAGレーザであり、アブレーションを行うために基本波又は基本波の二倍波をパルスのレーザ光Lとして出力する。
【0031】
アブレーションガス形成部30は、更に、光路制御部32を有する。
図2に示されるように、光路制御部32は、レーザ光Lを分割すると共に、レーザ光Lの光路の方向を変更することにより、レーザ光Lをプラズマ媒質供給部41に提供する。本実施形態において、プラズマ媒質供給部41は中心電極11の外周面に設けられている。光路制御部32は、ビームスプリッタ34及びミラー35(光反射部)を有する。ビームスプリッタ34は、レーザ装置31から出射されたレーザ光Lの光路上に配置される。ビームスプリッタ34は、入射されるレーザ光Lの一部を透過すると共に、残りを入射方向に対応する所定の方向へ反射する。すなわち、ビームスプリッタ34は、入射されるレーザ光Lの光路方向に対して平行な光路と、入射されるレーザ光Lの光路方向に対してレーザ光Lの入射角度に対応する方向の光路とを形成する。また、ミラー35は、入射されるレーザ光Lのすべてを入射方向に対応する方向へ反射する。すなわち、ミラー35は、入射されるレーザ光Lの光路方向に対して90°だけ傾いた光路を形成する。
【0032】
なお、
図2に示されるビームスプリッタ34及びミラー35の配置は一例であり、レーザ装置31とプラズマ媒質供給部41との位置関係に応じて、必要な数のビームスプリッタ34及びミラー35を用いて、所望の光路が形成されるように配置してよい。
【0033】
光路制御部32は、ビームスプリッタ34及びミラー35に加えて、更にミラー35の姿勢を制御する姿勢制御部36を有する。具体的には、姿勢制御部36は、ミラー35を所定の軸線A1のまわりに回転させる装置であり、ミラー35へ入射されるレーザ光Lに対するミラー35の角度を制御する。
図3に示されるように、レーザ光Lの入射方向が一定である場合に、ミラー35を時計方向に微小角度だけ回転させると、ミラー35へのレーザ光Lの入射角度が変わる。そして、ミラー35において反射されるレーザ光Lの方向は、レーザ光Lの入射角度に対応して、変化する。この場合、レーザ光Lの照射位置が変化する。このように、ミラー35の角度を変更することにより、レーザ光Lの反射方向が変わる。レーザ光Lの反射方向が変わると、プラズマ媒質供給部41へのレーザ光Lの照射位置が変わる。
【0034】
レーザ光Lの照射時には、同軸状電極10の中心電極11と外部電極12に電圧印加装置20による放電電圧が既に印加されている。したがって、上述のアブレーションが発生すると、中心電極11と外部電極12との間において放電が誘発される。更に、この放電によって面状放電6(
図4参照)が形成される。
【0035】
放電の発生箇所は、レーザ光Lの照射領域及びその近傍に制限される可能性がある。したがって、レーザ光Lは軸線Aの周方向に沿って間隔を置いて、複数且つ同時に照射することが好ましく、その数は少なくとも2箇所である。これは、誘発された放電の領域が、中心電極11の軸を基点に180度以上の開き角があった実験結果に基づいている。この結果を考慮すると、照射箇所の数が少ないほど中心電極11に対して回転対称な位置にレーザ光Lを照射することが望ましい。なお、複数のレーザ光Lの同時照射は、ビームスプリッタ及びミラー等の光学素子を用いて光路長を合わせた複数の光路を形成することで容易に達成できる。
【0036】
プラズマ媒質供給部41は、プラズマ光の発生に用いられるプラズマ媒質Mを供給する。プラズマ媒質Mは、必要とされる紫外線の波長に応じて選択され得る。たとえば、13.5nmの紫外光が必要な場合は、プラズマ媒質Mは、リチウム(Li)、キセノン(Xe)、スズ(Sn)等が用いられる。また、6.7nmの紫外光が必要な場合は、プラズマ媒質Mは、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)等の少なくとも1つが用いられる。
【0037】
続いて、
図4を参照してプラズマ光源の動作について説明する。
図4の(a)部はレーザ光Lの照射時の状態、
図4の(b)部は面状放電6の発生時の状態、
図4の(c)部は面状放電6の移動中の状態、
図4の(d)部は面状放電6が電極の先端近傍に達した状態、
図4の(e)部はプラズマ7の初期の閉じ込め時の状態、
図4の(f)部は高温及び高密度化されたプラズマ7の状態を示している。
【0038】
図4(a)に示されるように、放電電圧が印加された状態で、プラズマ媒質供給部41のプラズマ媒質Mにレーザ光Lが照射されるとアブレーションガスが生成され、その直後、中心電極11及び外部電極12の間で放電が発生する。複数の外部電極12のそれぞれに対して、中心電極11との間で放電が生じる。これにより、
図4(b)に示されるように、中心電極11の全周に亘って分布する面状放電6が得られる。
【0039】
図4(c)に示されるように、面状放電6は、自己磁場によって電極から排出される方向(中央面Pに向かう方向)に移動する。このときの面状放電6の形状は、軸線Aから見て略環状である。
【0040】
ここで、プラズマ光源1はエネルギー蓄積回路26を備えているため、エネルギー蓄積回路26と複数の外部電極12との協働により、面状放電6の発生確率が高められている。間隔をあけて非連続的に配置される複数の外部電極12は、連続した管状(筒状)の外部電極が採用される場合に比して、面状放電6の形成を容易にするという観点で有利である。
【0041】
その後、
図4(d)に示されるように、面状放電6は同軸状電極10の先端に達する。面状放電6が中心電極11の先端に達したことで、その放電電流の出発点は中心電極11の側面11bから端面11aに移行する。この電流の移行によって、一対の面状放電6に伴って移動してきたリチウム(Li)を含むプラズマは収束し、高密度かつ高温になる。
【0042】
この現象は中央面Pを挟んだ同軸状電極10で進行するため、初期プラズマは、一方の同軸状電極10から他方の同軸状電極10に向かって押し出される。その結果、初期プラズマは、軸線Aに沿う両方向からの圧力を受けて同軸状電極10が対面する中間位置(すなわち中央面Pの位置)に移動し、プラズマ媒質Mを成分とする単一のプラズマ7が形成される。
【0043】
図4(e)に示されるように、プラズマ7が形成された後も、面状放電6を通じて電流が流れ続け、プラズマ7を全体的に包囲し、プラズマ7を中心電極11の中間付近に保持する。
【0044】
面状放電6が発生している間は、プラズマ7の高密度化及び高温化が進行し、リチウム(Li)を含むイオンの電離が進行する。その結果、
図4(f)に示されるように、プラズマ7からは極端紫外光を含むプラズマ光9が放射される。この状態において、面状放電6を通じて電流が流れ続けることにより、長時間に亘って、プラズマ光9が発生し得る。
【0045】
ここで、
図5を参照して本発明の一実施形態に係るアブレーションの調整方法について説明する。このアブレーションの調整方法は、プラズマ光源1の運転開始前の試運転段階において行われるものである。
図5に示されるように、このアブレーションの調整方法ではまず、プラズマ光源1の立ち上げが行われる(工程S1)。工程S1では、チャンバ2内を真空状態にする等、プラズマを発生させるための準備が行われる。次に、中心電極11とそれぞれの外部電極12との間に電圧が印加される(工程S2、電圧印加工程)。工程S2では、電圧印加装置20により、第1同軸状電極10A及び第2同軸状電極10Bのそれぞれに電圧が印加される。
【0046】
続いて、中心電極とそれぞれの外部電極との間にプラズマ(初期プラズマ)を発生させる(工程S3、プラズマ発生工程)。工程S3では、プラズマ媒質Mにレーザ光Lをパルスで照射し、プラズマ媒質Mをアブレーションさせる。これにより、中心電極11と外部電極12との間にアブレーションガスを供給され、中心電極11と外部電極12との間に一時的にプラズマ(初期プラズマ)が発生する。このようにプラズマが発生したとき、中心電極11と外部電極12との間に電流が流れる。
【0047】
次に、工程S3において、中心電極11とそれぞれの外部電極12との間に流れる電流を測定する(工程S4、測定工程)。複数の電流は、例えば、それぞれの外部電極12に対してロゴスキーコイル等を用いて誘導結合された線路を設け、オシロスコープ等によりこの線路に流れる電流を検出することにより測定することができる。
【0048】
次に、工程S4において測定された複数の電流の立ち上がり時間の差と閾値とを比較する(工程S5、比較工程)。ここで、電流の「立ち上がり時間」とは、レーザ光Lを照射してから電流が一定の値を超えるまでの時間をいう。「一定の値」は、例えば、電流のピーク値の1/10〜1/20程度に設定することができる。また、複数の電流の「立ち上がり時間の差」とは、例えば、計測された複数の電流の立ち上がり時間のうち、最も遅い立ち上がり時間と最も早い立ち上がり時間との差とすることができる。閾値は、例えば、工程S3において発生したプラズマ(初期プラズマ)が中心電極11の先端に移動するまでの時間(プラズマ到達時間)の1/10以下とすることができる。なお、プラズマが中心電極11の先端に移動するまでの時間は、電流量と中心電極11の長さに依存する。本実施形態のようにプラズマ光源1が第1同軸状電極10A及び第2同軸状電極10Bを備えた対向型プラズマフォーカス型である場合には、第1中心電極11Aと第1外部電極12Aとの間、及び、第2中心電極11Bと第2外部電極12Bとの間に流れる合計12個の電流から「立ち上がり時間の差」を求めることができる。また、第1同軸状電極10A及び第2同軸状電極10Bのそれぞれにおいて、合計6個の電流から「立ち上がり時間の差」を求めてもよい。
【0049】
工程S5において、複数の電流の立ち上がり時間の差が閾値よりも小さい場合には、レーザ光Lを連続してプラズマ媒質Mに照射し、プラズマ光源1の運転を開始する(工程S6)。反対に、工程S5において、複数の電流の立ち上がり時間の差が閾値よりも大きい場合には、アブレーションガスの分布を調整する(工程S7、調整工程)。
【0050】
この調整工程において、アブレーションガスの分布は、プラズマ媒質Mに対するレーザ光Lの照射条件を変更することにより調節される。より具体的には、姿勢制御部36によってミラー35(
図3参照)の角度を変え、プラズマ媒質Mに対するレーザ光Lの照射位置を変更する。これにより、アブレーションガスが放出される位置を変更することができる。例えば、アブレーションガスの濃度が低い部分においては電流の立ち上がり時間が遅くなると予想されるので、電流の立ち上がり時間が遅い外部電極12の近くにレーザ光Lが照射されるように調整することができる。なお、ミラー35の角度を変えず、レーザ光Lの光路上においてミラー35を移動させることによってレーザ光Lの照射位置を変更してもよい。
【0051】
このようにアブレーションガスの分布を調整することにより、複数の電流の立ち上がり時間の差を小さくすることが可能である。
図6は、調整工程(工程S7)の前に測定されたそれぞれの電流の一例を示す図である。また、
図7は調整工程(工程S7)の後に測定されたそれぞれの電流の一例を示す図である。なお、
図6及び
図7では、説明の簡単のために4つの電流のみを示している。
図6及び
図7に示されるように、工程S7においてアブレーションガスの分布を調整したことにより、4つの電流の立ち上がり時間の差を小さくすることが可能である。
【0052】
工程S7においてアブレーションガスの分布を調整した後、工程S3〜工程S5を再度実行する。このように、複数の電流の立ち上がり時間の差が閾値よりも小さくなるまで、工程S7、工程S3、工程S4、及び工程S5を繰り返し実行する。これにより、運転を開始する工程である工程S6において中心電極11とそれぞれの外部電極12との間でプラズマが発生するタイミングの均一化が図られるので、高温及び高密度なプラズマ7を生成することができる。
【0053】
以上説明したように、本発明の一実施形態に係るアブレーションの調整方法では、アブレーションガスの分布を調整する工程S7(調整工程)により、第1中心電極11Aとそれぞれの第1外部電極12Aとの間に流れる複数の電流の立ち上がり時間の差が閾値より大きい場合に、プラズマ媒質Mに対するレーザ光Lの照射条件を変更する。それぞれの電流の立ち上がり時間、すなわち、プラズマが発生するタイミングは、アブレーションガスの濃度によって変化する。したがって、アブレーションガスの分布を調整することにより、第1中心電極11Aとそれぞれの第1外部電極12Aとの間でプラズマが発生するタイミングの均一化を図ることが可能である。
【0054】
また、工程S2(電圧印加工程)では、第1中心電極11Aとそれぞれの第1外部電極12Aとの間、及び、第2中心電極11Bとそれぞれの第2外部電極12Bとの間に電圧を印加する。工程S3(プラズマ発生工程)では、第1中心電極11Aとそれぞれの第1外部電極12Aとの間、及び、第2中心電極11Bとそれぞれの第2外部電極12Bとの間にアブレーションガスを供給し、第1中心電極11Aとそれぞれの第1外部電極12Aとの間、及び、第2中心電極11Bとそれぞれの第2外部電極12Bとの間にプラズマを発生させる。工程S4(測定工程)では、第1中心電極11Aとそれぞれの第1外部電極12Aとの間、及び、第2中心電極11Bとそれぞれの第2外部電極12Bとの間に流れる電流をそれぞれ測定する。これにより、第1中心電極11Aとそれぞれの第1外部電極12Aとの間、及び、第2中心電極11Bとそれぞれの第2外部電極12Bとの間に流れる複数の電流の立ち上がり時間の差と閾値とを比較し、アブレーションガスの分布の調整が行われる。したがって、第1同軸状電極10Aと第2同軸状電極10Bとの間においても、プラズマが発生するタイミングの均一化を図ることが可能である。
【0055】
プラズマ光源1は、レーザ光Lの光路上に配置されてレーザ光Lを反射するミラー35を備え、工程S7(調整工程)では、ミラー35によってレーザ光Lの照射位置を変更することによりアブレーションガスの分布を調整する。これにより、アブレーションガスが放出される位置を変更することができるので、第1中心電極11Aとそれぞれの第1外部電極12Aとの間のアブレーションガスの分布を調整することが可能である。また、第2中心電極11Bとそれぞれの第2外部電極12Bとの間のアブレーションガスの分布を調整することが可能である。
【0056】
次に、アブレーションの調整方法の第1変形例について説明する。
図8は、第1変形例に係るアブレーションの調整方法を実施可能なプラズマ光源の一部を概略的に示す図である。プラズマ光源1では、プラズマ媒質供給部41はそれぞれの中心電極11の外周面に1つずつ設けられていたのに対し、
図8に示されるように、第1変形例に係るアブレーションの調整方法を実施可能なプラズマ光源1Bでは、1個の同軸状電極10に対して2個のプラズマ媒質供給部41を有しており、プラズマ媒質供給部41は同軸状電極10の外側に設けられている。なお、プラズマ媒質供給部41の個数は2個に限定されず、同軸状電極10の大きさや形状等に応じて適宜設定され得る。一対のプラズマ媒質供給部41は、同軸状電極10の周囲に配置されている。具体的には、一対のプラズマ媒質供給部41は、軸線Aの周りに180度の間隔をもって配置されている。換言すると、一対のプラズマ媒質供給部41は、軸線Aからの距離が互いに等しい位置に配置されている。更に、一対のプラズマ媒質供給部41は、軸線Aを中心とする仮想的な円周線上において等間隔に配置されている。また、プラズマ媒質供給部41は、軸線Aの方向においては、中心電極11の先端から絶縁体13の間に配置されている。一対のプラズマ媒質供給部41は、それぞれ軸線A41を中心として回転可能に構成されている。
【0057】
上記の構成を有するプラズマ光源1Bにおいてアブレーションガスの分布を調整する場合には、工程S7において、プラズマ媒質供給部41の角度を変更する。これにより、レーザ光Lが照射されるプラズマ媒質Mの照射面Maの角度を変更する。アブレーションガスは、プラズマ媒質の照射面に対して垂直方向を中心として放出される。この方法によれば、アブレーションガスが放出される方向を変更することができるので、中心電極11とそれぞれの外部電極12との間のアブレーションガスの分布を調整することが可能である。すなわち、本変形例における「照射条件」は、プラズマ媒質Mの照射面Maの角度である。
【0058】
次に、アブレーションの調整方法の第2変形例について説明する。
図9は、第2変形例に係るアブレーションの調整方法を実施可能なプラズマ光源の一部を概略的に示す図である。
図9に示されるように、第2変形例に係るアブレーションの調整方法を実施可能なプラズマ光源1Cのアブレーションガス形成部30は、エネルギー制御部33を有している。
【0059】
エネルギー制御部33は、プラズマ媒質Mへのレーザ光Lの照射条件の変更によって、プラズマ媒質Mへ供給されるエネルギーを調整することができる。
図9に示されるように、エネルギー制御部33は、焦点制御部37を有する。焦点制御部37は、光路制御部32とプラズマ媒質供給部41との間に配置され、プラズマ媒質Mに対してレーザ光Lの集光位置を調整することができる。焦点制御部37は、レンズ37aとレンズ駆動部37bとを有する。レンズ37aは、光路上において光路制御部32のミラー35とプラズマ媒質供給部41との間に配置され、レーザ光Lを焦点位置FPに収束させる。レンズ37aの焦点距離は、例えば300mmである。レンズ駆動部37bは、レンズ37aをレンズ37aの光軸A2の方向に沿って往復移動させる。なお、エネルギー制御部33は、レーザ光Lを出射するレーザ装置の出力を制御することによってプラズマ媒質Mへ供給されるエネルギーを調整してもよい。
【0060】
上記の構成を有するプラズマ光源1Bにおいてアブレーションガスの分布を調整する場合には、工程S7において、レーザ光Lの集光位置を変更する。これにより、レーザ光Lの強度を変更し、アブレーションガスの分布を調整する。この方法によれば、プラズマ媒質Mに照射されるレーザ光Lのエネルギー密度が変わるので、アブレーションガスが生成される量を変更することができる。より具体的には、プラズマ媒質Mの照射面Ma上にレーザ光Lの焦点位置FPがあるときは、レーザ光Lのエネルギー密度が最も大きくなるので、レーザ光Lの焦点位置FPをプラズマ媒質Mの照射面Ma上からずらすこと、すなわち、デフォーカスさせることにより、アブレーションガスの濃度を低下させることができる。したがって、中心電極11とそれぞれの外部電極12との間のアブレーションガスの分布を調整することが可能である。すなわち、本変形例における「照射条件」は、プラズマ媒質Mへ供給されるエネルギーである。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく種々の変形態様を採用可能である。例えば、上記の実施形態では一対の同軸状電極10に対して、中心電極11とそれぞれの外部電極12との間に流れる複数の電流(12個の電流)を測定し、アブレーションガスの分布を調整していたが、一方の同軸状電極10のみに対して中心電極11とそれぞれの外部電極12との間に流れる複数の電流(6個の電流)を測定し、アブレーションガスの分布を調整してもよい。
【0062】
また、上記の実施形態では、工程S7における照射条件の変更として、レーザ光Lの照射位置を変更する場合、プラズマ媒質Mの照射面Maの角度を変更する場合、レーザ光Lの強度を変更する場合についてそれぞれ説明したが、これらを組み合わせてアブレーションガスの分布を調整してもよい。例えば、プラズマ光源1がエネルギー制御部33を更に備えている場合には、工程S7において、レーザ光Lの照射位置及びレーザ光Lの強度を変更することによりアブレーションガスの分布を調整してもよい。