(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様は、フッ素化環状カーボネート、及び、水への溶解度が0.01g/100mL以上であるジルコニウム塩又はカルシウム塩を含有する非水電解質であるである。
【0012】
当該非水電解質によれば、充放電サイクルに伴う非水電解質蓄電素子の膨張を抑制することができる。この理由は定かでは無いが、以下のことが推察される。
フッ素化環状カーボネートを含有する非水電解質を用いた蓄電素子では、充放電サイクルに伴って、非水電解質中に炭酸ガス等が多く含まれるようになるために、蓄電素子が膨張するものと考えている。
塩基性化合物であるジルコニウム塩又はカルシウム塩は、酸性ガスである炭酸ガスを捕捉しやすいという性質を持つ。一方、非水電解質蓄電素子に使用される非水電解質は水分の含有量が極めて少ない。そこで、水への溶解度が0.01g/100mL以上となる比較的溶けやすいジルコニウム塩又はカルシウム塩を用いることで、電解液に含まれる微量の水分を介して非水電解質中に溶解した炭酸ガス等を捕捉できるために、非水電解質蓄電素子の膨張を抑制できると考えられる。
【0013】
なお、「水への溶解度」は、EPA OPPTS 830.7840 (Water Solubility)に準拠して測定された値とする。
【0014】
上記ジルコニウム塩が水酸化ジルコニウムであり、水酸化ジルコニウムの含有量が非水電解質に対して2質量%未満であることが好ましい。ジルコニウム塩の含有量を2質量%未満とすることにより、ジルコニウム塩やその分解物が正極や負極表面の被膜に及ぼす影響が小さくなると考えられるため、充放電サイクルに伴う非水電解質蓄電素子の膨張をさらに抑制することができる。
【0015】
上記カルシウム塩が水酸化カルシウムであり、水酸化カルシウムの含有量が非水電解質に対して2質量%未満であることが好ましい。水酸化カルシウムの含有量を2質量%未満とすることで、カルシウム塩やその分解物が正極や負極表面の被膜に及ぼす影響が小さくなると考えられるため、非水電解質蓄電素子の膨張をさらに抑制することができる。
【0016】
本発明の一態様は、フッ素化環状カーボネート、及び、 水への溶解度が0.01mg/100mL以上であるジルコニウム塩又はカルシウム塩を含有する非水電解質の製造方法である。当該製造方法によれば、充放電サイクルに伴う非水電解質蓄電素子の膨張を抑制することができる非水電解質を得ることができる。
【0017】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、正極、負極及び非水電解質を有する。以下、蓄電素子の一例として、二次電池について説明する。上記正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回された電極体を形成する。この電極体はケースに収納され、このケース内に上記非水電解質が充填される。上記非水電解質は、正極と負極との間に介在する。また、上記ケースとしては、二次電池のケースとして通常用いられる公知のアルミニウムケース等を用いることができる。
【0018】
(正極)
上記正極は、導電性の基材と、この基材に積層された正極合材層とを有する。
【0019】
(正極基材)
正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS−H−4000(2014年)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0020】
上記基材の平均厚さとしては特に限定されないが、下限としては、10μmが好ましく、12μmがより好ましく、15μmがさらに好ましい。一方、上限としては、例えば30μmが好ましく、20μmがより好ましい。基材の平均厚さを上記範囲とすることで、薄膜化を図りつつ、十分な強度や良好な電子伝導性を確保することなどができる。
【0021】
(正極合材層)
上記正極合材層は、正極活物質を含むいわゆる正極合材から形成される。また、正極合材層を形成する正極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含むことができる。
【0022】
正極活物質としては、例えばLi
xMO
y(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物(層状のα―NaFeO
2型結晶構造を有するLi
xCoO
2,Li
xNiO
2,Li
xMnO
3,Li
xNi
αCo
(1−α)O
2,Li
xNi
αMn
βCo
(1−α−β)O
2,Li
1+wNi
αMn
βCo
(1−α−β−w)O
2等、スピネル型結晶構造を有するLi
xMn
2O
4,Li
xNi
αMn
(2−α)O
4等)、Li
wMe
x(AO
y)
z(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Aは例えばP、Si、B、V等を表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO
4,LiMnPO
4,LiNiPO
4,LiCoPO
4,Li
3V
2(PO
4)
3,Li
2MnSiO
4,Li
2CoPO
4F等)が挙げられる。これらの化合物中の元素又はポリアニオンは、他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。電極合材層においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
これらの中でも、上記Li
xNi
αMn
βCo
(1−α−β)O
2(xは、0.8以上1.3以下の数である。α及びβは、それぞれ独立して、0超1未満の整数である。)のリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。
リチウム遷移金属複合酸化物に含まれるニッケルのモル数の割合は遷移金属のモル数に対して30%を超えることが好ましく、33%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましく、60%以上であることが特に好ましい。一方、リチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属のモル数に対するニッケルのモル数の割合が80%を超えるとリチウム遷移金属複合酸化物の初期クーロン効率が低下する傾向がある。これらの観点から、リチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属のモル数に対するニッケルのモル数の割合は80%以下とすることが好ましい。
また、上記の様なニッケルのモル数の割合を有するリチウム遷移金属複合酸化物は、非水電解質の溶媒に対するニッケルの活性が大きく、正極での副反応が大きくなりやすい傾向が有るので、本発明の非水電解質を適用することで非水電解質蓄電素子の充放電サイクルに伴う膨張を抑制することができるので好ましい。
【0024】
正極活物質粒子の粒径の上限としては、例えば50μmが好ましく、20μmがより好ましい。一方、正極活物質粒子の粒径の下限としては、1μmが好ましく、2μmがより好ましい。
【0025】
上記導電剤としては、蓄電素子性能に悪影響を与えない導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、天然又は人造の黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。
【0026】
上記バインダー(結着剤)としては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0027】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0028】
上記フィラーとしては、蓄電素子性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が挙げられる。
【0029】
また、上記正極合材層の多孔度の上限としては、35体積%が好ましく、28体積%がより好ましく、26体積%がさらに好ましい。このように、正極合材層の多孔度を比較的低くすることで、正極における非水電解質との副反応量が低下し、非水電解質蓄電素子の充放電サイクル性能を向上させることができる。一方、この下限としては、例えば20体積%であってよく、24体積%であってよい。
【0030】
上記正極合材層の片面当たりの塗布質量の上限としては、25mg/cm
2が好ましく、20mg/cm
2がより好ましく、17mg/cm
2がさらに好ましい。一方、上記正極合材層の塗布質量の下限としては、5mg/cm
2が好ましく、10mg/cm
2がより好ましく、12mg/cm
2がさらに好ましい。この様な正極合剤層の塗布質量とすることで、非水電解質蓄電素子のエネルギー密度を保ちながら充放電サイクル性能を向上させることができる。
【0031】
上記正極の密度としては特に限定されず、下限としては、2g/cm
3であってもよいが、3g/cm
3が好ましく、3.2g/cm
3がより好ましい。このように、正極の密度を比較的高くすることで、非水電解質蓄電素子の充放電サイクル性能への影響を小さくしつつ、エネルギー密度を高めることができる。一方、この上限としては、4g/cm
3が好ましく、3.4g/cm
3がより好ましい。
【0032】
上記正極の平均厚さとしては、例えば10μm以上200μm以下とすることができる。
【0033】
(負極)
上記負極は、負極基材、及びこの負極基材に積層される負極合材層を有する。
【0034】
上記負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0035】
上記負極合材層は、負極活物質を含むいわゆる負極合材から形成される。また、負極合材層を形成する負極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極合材層と同様のものを用いることができる。
【0036】
上記負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材質が用いられる。具体的な負極活物質としては、例えばSi、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;ポリリン酸化合物;黒鉛(グラファイト)、非晶質炭素(易黒鉛化性炭素または難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。
【0037】
さらに、負極合材層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を含有してもよい。
【0038】
(セパレータ)
上記セパレータは、正極と負極とを隔離し、かつ非水電解質を保持する役割を担う。セパレータの材質としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも多孔質樹脂フィルムが好ましい。多孔質樹脂フィルムの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましい。また、これらの樹脂とアラミドやポリイミド等の樹脂とを複合した多孔質樹脂フィルムを用いてもよい。
【0039】
(非水電解質)
上記非水電解質は、非水溶媒と電解質塩の他に、フッ素化環状カーボネート、及び、水への溶解度が0.01g/100mL以上であるジルコニウム塩又はカルシウム塩を含む。さらに、上記非水電解質には、非水電解質蓄電素子の性能を高めるために、本発明の効果を完全に打ち消さない範囲で添加剤が含有されていてもよい。
【0040】
上記フッ素化環状カーボネートとしては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、フルオロビニレンカーボネート、フルオロプロピレンカーボネート(FPC)、トリフルオロエチレンカーボネート(TFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)などを用いることができる。
これらの中でも、フルオロエチレンカーボネート(FEC)が好ましい。フルオロエチレンカーボネート(FEC)を用いることで、正極での非水溶媒の酸化分解が抑制され、非水電解質蓄電素子の充放電サイクル特性を向上させることができる。
【0041】
上記ジルコニウム塩としては、水への溶解度が0.01g/100mL以上であるものを用いる。この様なジルコニウム塩としては、水酸化ジルコニウム(溶解度0.02g/100mL)、テトラキス(2,4−ペンタンジオナト)ジルコニウム(IV)(溶解度1.4g/100mL)、硫酸ジルコニウム(IV)(溶解度52.5g/100mL)、フッ化ジルコニウム(溶解度1.32g/100mL)、塩化ジルコニウム(溶解度0.2g/100mL)などを用いることができる。
これらの中でも、水酸化ジルコニウムを用いることが好ましい。
【0042】
水酸化ジルコニウムの含有量の上限は、ジルコニウム塩やその分解物が正極や負極表面の被膜に及ぼす影響が小さくするために、非水電解質に対して2質量%未満であることが好ましい。より好ましくは1.5質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。また、下限は、非水電解質中の炭酸ガス等を効率よく吸収するために、非水電解質に対して0.01質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、特に好ましくは0.5質量%超である。中でも、0.5質量%超1質量%以下とすることで、非水電解質蓄電素子の膨張を抑制する効果が特に高くなるので好ましい。なお、0.5質量%以上1質量%以下では、非水電解質蓄電素子の充放電サイクル性能も向上するため、好ましい。
【0043】
上記カルシウム塩としては、水への溶解度が0.01g/100mL以上であるものを用いる。この様なカルシウム塩としては、水酸化カルシウム(溶解度0.17g/100mL)、硫酸カルシウム(溶解度0.21g/100mL)などを用いることができる。
これらの中でも、水酸化カルシウムを用いることが好ましい。
【0044】
水酸化カルシウムの含有量の上限は、カルシウム塩やその分解物が正極や負極表面の被膜に及ぼす影響が小さくするために、非水電解質に対して2質量%未満であることが好ましい。より好ましくは1.5質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。また、下限は、非水電解質中の炭酸ガス等を効率よく吸収するために、非水電解質に対して0.01質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、特に好ましくは0.5質量%超である。
中でも、0.5質量%超1質量%以下とすることで、非水電解質蓄電素子の膨張を抑制する効果が特に高くなるので好ましい。
【0045】
上記非水溶媒としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の非水溶媒として通常用いられる公知の非水溶媒を用いることができる。上記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、エステル、エーテル、アミド、スルホン、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。これらの中でも、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを少なくとも用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。
【0046】
上記環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1−フェニルビニレンカーボネート、1,2−ジフェニルビニレンカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもECが好ましい。
【0047】
上記鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもEMCが好ましい。
【0048】
上記電解質塩としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の電解質塩として通常用いられる公知の電解質塩を用いることができる。上記電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。
【0049】
上記リチウム塩としては、LiPF
6、LiPO
2F
2、LiBF
4、LiClO
4、LiN(SO
2F)
2等の無機リチウム塩、LiSO
3CF
3、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiN(SO
2CF
3)(SO
2C
4F
9)、LiC(SO
2CF
3)
3、LiC(SO
2C
2F
5)
3等のフッ化炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましい。
【0050】
上記非水電解質における上記電解質塩の含有量の下限としては、0.1Mが好ましく、0.3Mがより好ましく、0.5Mがさらに好ましく、0.7Mが特に好ましい。一方、この上限としては、特に限定されないが、2.5Mが好ましく、2Mがより好ましく、1.5Mがさらに好ましい。
【0051】
上記添加剤としては、プロペンスルトン、ジグリコールサルフェート、ペンチルグリコールサルフェート、硫酸プロピレン等の硫黄含有化合物、スクシノニトリル等のニトリル系化合物、ジフルオロリン酸リチウム、リチウムテトラフルオロオキサレートホスフェート等のリン含有化合物、リチウムビスオキサレートボラート等のホウ素含有化合物などを挙げることができる。これらの中でも、非水電解質蓄電素子の充放電サイクル性能の点から、硫黄含有化合物が好ましく、プロペンスルトンがさらに好ましい。
【0052】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
本発明の一実施形態に係る上記非水電解質蓄電素子の製造方法は、
(1)非水溶媒とフッ素化環状カーボネートを混合した溶液に電解質塩を溶解させること
(2)上記溶液に所定含有量となるようにジルコニウム塩又はカルシウム塩を加えること
(3)(2)で得られた非水電解質を後述する非水電解質蓄電素子の容器内に注入すること
を有する。
【0053】
また、本発明の一実施形態に係る上記非水電解質蓄電素子の製造方法は、
(1)非水溶媒とフッ素化環状カーボネートを混合した溶液にジルコニウム塩又はカルシウム塩を加えること
(2)上記溶液に電解質塩を溶解させること
(3)(2)で得られた非水電解質を、後述する非水電解質蓄電素子の容器内に注入すること
としても良い。ここで、上記ジルコニウム塩又はカルシウム塩は、水への溶解度が0.01g/100mL以上である。また、ジルコニウム塩とカルシウム塩を両方加えても良い。
【0054】
上記(1)及び(2)の工程以外は、公知の方法によって、当該非水電解質を得ることができる。
【0055】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。上記実施の形態においては、蓄電素子が二次電池である形態を中心に説明したが、その他の蓄電素子であってもよい。その他の蓄電素子としては、例えばキャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。
【0056】
図1に、本発明に係る蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質二次電池1(二次電池1)の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。
図1に示す二次電池1は、電極体2が電池容器3に収納されている。電極体2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。また、電池容器3内に、本発明の非水電解質が注入されている。なお、正極等の各要素の具体的構成等は、上述したとおりである。
【0057】
本発明に係る蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を
図2に示す。
図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の二次電池1を備えている。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【0058】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0059】
[実施例1]
(正極)
正極活物質として、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2を用いた。この正極活物質と、導電剤であるアセチレンブラック(AB)と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)、及び非水系溶媒であるN−メチルピロリドン(NMP)を用いて正極合材ペーストを作製した。正極活物質、結着剤及び導電剤の質量比率は93:3:4(固形分換算)とした。この正極合材ペーストを正極基材としてのアルミニウム箔(厚さ15μm)の両面に、正極合材層非形成部を残して間欠塗工し、乾燥させることで正極合材層を作製した。その後、正極合材層表面をロールプレスし、正極を得た。正極の片面当たりの塗布質量は17.7mg/cm
2であった。
【0060】
(負極)
負極活物質である黒鉛、結着剤であるスチレン−ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、及び溶媒である水を用いて負極合材ペーストを作製した。黒鉛とSBRとCMCの質量比率は96.7:2.1:1.2とした。負極合材ペーストは、水の量を調整することにより、固形分(質量%)を調整し、マルチブレンダーミルを用いた混練工程を経て作製した。この負極ペーストを銅箔(厚さ10μm)の両面に、負極合材層非形成部を残して間欠塗布し、乾燥することにより負極合材層を作製した。その後、ロールプレスを行い、負極を作製した。正極の片面当たりの塗布質量は11.0mg/cm
2であった。
【0061】
(非水電解質)
フルオロエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを、それぞれ10体積%、90体積%となるように混合した溶媒に、塩濃度が1.0mol/Lとなるように六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を溶解させた。この溶液に、プロペンスルトンを非水電解質に対して2質量%、水酸化カルシウムを非水電解質に対して0.5質量%となるように加えることで非水電解質を調製した。非水電解質中の水分量は50ppm未満とした。
【0062】
(セパレータ)
セパレータには、厚み21μmのポリエチレン製微多孔膜を用いた。
【0063】
(電池の組み立て)
上記正極と、負極と、セパレータとを積層して巻回した。その後、正極の正極合材層非形成部及び負極の負極合材層非形成部を正極リード及び負極リードにそれぞれ溶接してアルミ製角形容器に封入し、容器と蓋板とを溶接後、非水電解質を注入して封口した。この様にして、実施例1の電池を作製した。
【0064】
[実施例2]
フルオロエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを、それぞれ10体積%、90体積%となるように混合した溶媒に、塩濃度が1.0mol/Lとなるように六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を溶解させた。この溶液に、プロペンスルトンを非水電解質に対して2質量%、水酸化ジルコニウムを非水電解質に対して0.5質量%となるように加えることで非水電解質を調製した。この非水電解質を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の電池を得た。
【0065】
[比較例1]
フルオロエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを、それぞれ10体積%、90体積%となるように混合した溶媒に、塩濃度が1.0mol/Lとなるように六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を溶解させた。この溶液に、プロペンスルトンを非水電解質に対して2質量%となるように加えることで非水電解質を調製した。この非水電解質を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の電池を得た。
【0066】
[比較例2]
フルオロエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを、それぞれ10体積%、90体積%となるように混合した溶媒に、塩濃度が1.0mol/Lとなるように六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を溶解させた。この溶液に、プロペンスルトンを非水電解質に対して2質量%、水酸化アルミニウムを非水電解質に対して0.5質量%となるように加えることで非水電解質を調製した。この非水電解質を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の電池を得た。
【0067】
[評価]
(容量測定)
上記のようにして作製された実施例1、2及び比較例1、2の各電池について、25℃に設定した恒温槽中で、以下の容量測定を実施し、電池の公称容量と同等の電気量の充放電が可能であることを確認した。容量測定の充電条件は、電流値1CA、電圧4.35Vの定電流定電圧充電とした。充電時間は通電開始から3時間とした。放電条件は、電流1CA、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。充電と放電の間には、10分間の休止時間を設けた。なお、上記電流値である1CAとは、電池に1時間の定電流通電を行った時に、電池の公称容量と同じ電気量となる電流値である。
【0068】
(サイクル試験前電池厚さ測定)
容量測定後の各電池について、電池厚さの測定を行った。
電池の長側面の中心部を当該長側面に対して略垂直な方向から(短側面の面方向に略水平な方向に)ノギスで挟み、電池厚さを測定した。この値を「サイクル前電池厚さ−1(mm)」として記録した。
【0069】
(充放電サイクル試験−1)
電池厚み測定後の各電池について、45℃に設定した恒温槽中で、充放電サイクル試験を行った。
充電電流1CmA、充電電圧4.35Vの定電流定電圧充電、及び放電電流1CmA、放電終止電圧2.75Vの定電流放電を繰り返す充放電を100サイクル行った。
【0070】
(サイクル試験後電池厚さ測定)
充放電サイクル試験後の各電池について、サイクル試験前と同じ様に電池厚さの測定を行った。
この値を「サイクル後電池厚さ−1(mm)」として記録した。
「サイクル前電池厚さ−1(mm)」に対する「サイクル後電池厚さ−1(mm)」の比(サイクル後電池厚さ−1/サイクル前電池厚さ−1)を「電池厚さ増加率−1(%)」とした。表1に「電池厚さ増加率−1(%)」の値を示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示されるように、フッ素化環状カーボネートを含有する非水電解質において、水への溶解度が0.01g/100mL以上であるジルコニウム塩又はカルシウム塩を含む非水電解質を用いた電池(実施例1及び実施例2)は、上記ジルコニウム塩又はカルシウム塩を含まない非水電解質を用いた電池(比較例1)と比較して、45℃サイクル試験後の電池厚さ増加率が小さくなっていることが判る。
また、実施例1及び実施例2の電池は、上記ジルコニウム塩又はカルシウム塩ではない、アルミニウム塩を含む非水電解質を用いた電池(比較例2)と比較しても、45℃サイクル試験後の電池厚さ増加率が小さくなっていることが判る。
これらの結果から、フッ素化環状カーボネートを含有する非水電解質において、水への溶解度が0.01g/100mL以上であるジルコニウム塩又はカルシウム塩を含む非水電解質を用いることで、サイクル試験に伴う電池膨れを抑制することできる。
【0073】
[実施例3]
フルオロエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを、それぞれ10体積%、90体積%となるように混合した溶媒に、塩濃度が1.0mol/Lとなるように六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を溶解させた。この溶液に、プロペンスルトンを非水電解質に対して2質量%、水酸化ジルコニウムを非水電解質に対して1質量%となるように加えることで非水電解質を調製した。この非水電解質を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の電池を得た。
【0074】
[評価]
(容量測定)
上記のようにして作製された実施例2、3及び比較例1の各電池について、25℃に設定した恒温槽中で、以下の容量測定を実施し、電池の公称容量と同等の電気量の充放電が可能であることを確認した。容量測定の充電条件は、電流値1CA、電圧4.35Vの定電流定電圧充電とした。充電時間は通電開始から3時間とした。放電条件は、電流1CA、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。充電と放電の間には、10分間の休止時間を設けた。なお、上記電流値である1CAとは、電池に1時間の定電流通電を行った時に、電池の公称容量と同じ電気量となる電流値である。
【0075】
(サイクル試験前電池厚さ測定)
容量測定後の各電池について、電池厚さの測定を行った。
電池の長側面の中心部を当該長側面に対して略垂直な方向から(短側面の面方向に略水平な方向に)ノギスで挟み、電池厚さを測定した。この値を「サイクル前電池厚さ−2(mm)」として記録した。
【0076】
(充放電サイクル試験−2)
電池厚み測定後の各電池について、45℃に設定した恒温槽中で、充放電サイクル試験を行った。
充電電流1CmA、充電電圧4.35Vの定電流定電圧充電、及び放電電流1CmA、放電終止電圧2.75Vの定電流放電を繰り返す充放電を500サイクル行った。
サイクル試験の1サイクル目の放電容量(mAh)に対する500サイクル目の放電容量(mAh)の割合を、「容量維持率(%)」として表2に示す。
【0077】
(サイクル試験後電池厚さ測定)
充放電サイクル試験後の各電池について、サイクル試験前と同じ様に電池厚さの測定を行った。
この値を「サイクル後電池厚さ−2(mm)」として記録した。
「サイクル前電池厚さ−2(mm)」に対する「サイクル後電池厚さ−2(mm)」の比(サイクル後電池厚さ−2/サイクル前電池厚さ−2)を「電池厚さ増加率−2(%)」とした。表2に「電池厚さ増加率−2(%)」の値を示す。
【0078】
【表2】
【0079】
表2に示されるように、フッ素化環状カーボネートを含有する非水電解質において、水酸化ジルコニウムを0.5質量%、1質量%含む非水電解質を用いた電池(実施例2及び実施例3)は、上記ジルコニウム塩を含まない非水電解質を用いた電池(比較例1)と比較して、45℃サイクル試験後の電池厚さ増加率が小さくなっていることが判る。
また、水酸化ジルコニウムを1質量%含む非水電解質を用いた電池(実施例3)は、水酸化ジルコニウムを0.5質量%含む非水電解質を用いた電池(実施例2)よりも45℃サイクル試験後の電池厚さ増加率が小さくなっていることが判る。
さらに、水酸化ジルコニウムを0.5質量%、1質量%含む非水電解質を用いた電池(実施例2及び実施例3)は、上記ジルコニウム塩を含まない非水電解質を用いた電池(比較例1)と比較して、45℃サイクル試験において、容量維持率が大きくなっており、充放電サイクル性能に優れていることが判る。