(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6822191
(24)【登録日】2021年1月12日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】ピストン
(51)【国際特許分類】
F02B 23/00 20060101AFI20210114BHJP
F02F 3/10 20060101ALI20210114BHJP
F02F 3/26 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
F02B23/00 G
F02B23/00 Y
F02F3/10 B
F02F3/26 D
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-24115(P2017-24115)
(22)【出願日】2017年2月13日
(65)【公開番号】特開2018-131913(P2018-131913A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2020年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 涼佑
(72)【発明者】
【氏名】岩知道 均一
【審査官】
坂口 達紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−177762(JP,A)
【文献】
特開2003−106152(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/149777(WO,A1)
【文献】
特開昭61−058915(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2016/0245224(US,A1)
【文献】
特開2008−175163(JP,A)
【文献】
特開平11−333305(JP,A)
【文献】
特公昭48−017921(JP,B1)
【文献】
中国特許出願公開第101251041(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 1/00−23/10,
F01N 3/00,3/02,3/04−3/38,
9/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン頂面に排気ガス浄化用の触媒成分を配置したピストンにおいて、
前記触媒層は、
前記ピストン頂面の一部に設けられ相対的に低温の触媒活性化温度を有する第一の触媒金属を表層に備える第一触媒部と、
前記第一触媒部よりも前記ピストン頂面の外縁寄りに設けられ相対的に高温の触媒活性化温度を有する第二の触媒金属を表層に備える第二触媒部と、
を備えるピストン。
【請求項2】
前記第二触媒部は、前記第一触媒部の周囲に環状に設けられる
請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
燃焼室内に臨む点火装置を備えたエンジンに用いられ、
前記第一触媒部は、前記ピストン頂面の前記点火装置に対向する位置に配置される
請求項1又は2に記載のピストン。
【請求項4】
前記ピストン頂面に凹状のキャビティを備え、
前記第一触媒部は前記キャビティの底面に設けられ、
前記第二触媒部は前記キャビティの外側に設けられる
請求項1〜3の何れか1項に記載のピストン。
【請求項5】
前記キャビティの周縁に前記底面から立ち上がる側壁を備え、
前記側壁は排気ガス浄化用の触媒成分を配置する範囲外に設定される
請求項4に記載のピストン。
【請求項6】
燃焼室内に通じる吸気通路及び排気通路を備えたエンジンに用いられ、
前記第二触媒部は、前記吸気通路側に位置する吸気側第二触媒部と前記排気通路側に位置する排気側第二触媒部とを備え、
前記排気側第二触媒部における前記第二の触媒金属の塗布量が、前記吸気側第二触媒部における前記第二の触媒金属の塗布量よりも多く設定される
請求項1〜5の何れか1項に記載のピストン。
【請求項7】
前記第一の触媒金属はロジウムであり、
前記第二の触媒金属はパラジウムである
請求項1〜6の何れか1項に記載のピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、排気ガスを浄化する触媒機能を有するピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの燃焼室から引き出された排気通路の途中には、排気ガス中に含まれる有害成分を浄化することを目的として、各種の排気ガス浄化装置が配置される。例えば、ガソリンエンジンでは、排気ガス浄化装置として三元触媒が広く用いられている。
【0003】
三元触媒は、排気ガス中に含まれる有害物質である炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NO
X)を、プラチナ、パラジウム、ロジウム等の貴金属含有物を用いた触媒装置によって、排気ガス中から除去する機能を有する。このとき、炭化水素は水と二酸化炭素に酸化し、一酸化炭素は二酸化炭素に酸化する。また、窒素酸化物は窒素に還元される。
【0004】
ところで、排気ガス浄化装置は、所定の触媒活性化温度以上となる条件下で、その浄化性能を充分に発揮することができる。このため、エンジンの始動直後等の排気ガスの温度が低い条件下では、浄化性能を充分に発揮できない場合がある。そこで、特許文献1では、燃焼室内に臨むピストン頂面(ピストンの上面)に触媒成分を配置した技術が開示されている。燃焼室内は、排気通路内よりも早期に温度上昇するので、ピストン頂面の触媒層は、エンジンの始動直後等における排気ガスの浄化に寄与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−89486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、近接触媒や床下触媒等の排気ガス浄化装置は、燃焼室から離れた位置にあるため、燃焼室から排気通路を通って排気ガス浄化装置に至るまでの間に、排気ガス中の温度分布あるいはガス成分の分布が、排気ガス全体で一様に近い状態となっている傾向がある。
【0007】
それに対して、エンジンの燃焼室内は、燃料が燃焼する際の火炎の起点である燃焼中心付近では比較的温度が低く、その燃焼中心から遠ざかるにつれて徐々に火炎が拡がって比較的温度が高くなる傾向がある。また、HC(炭化水素)の発生源である燃焼室の内周面付近ではHC濃度が比較的高いのに対し、燃焼室の内周面から遠い筒軸付近ではHC濃度が比較的低い傾向がある。
【0008】
上記特許文献1に記載された技術では、燃焼室内のガス中の温度分布の偏りやガス成分の分布の偏りに対する対策は、何ら開示されていない。このため、効率的にガスの浄化を行うためには、さらに改良の余地がある。
【0009】
そこで、この発明の課題は、ピストン頂面に触媒成分を配置したピストンにおいて、燃焼室内で効率的にガスの浄化を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明は、ピストン頂面に排気ガス浄化用の触媒成分を配置したピストンにおいて、前記触媒層は、前記ピストン頂面の一部に設けられ相対的に低温の触媒活性化温度を有する第一の触媒金属を表層に備える第一触媒部と、前記第一触媒部よりも前記ピストン頂面の外縁寄りに設けられ相対的に高温の触媒活性化温度を有する第二の触媒金属を表層に備える第二触媒部とを備えるピストンを採用した。
【0011】
ここで、前記第二触媒部は、前記第一触媒部の周囲に環状に設けられる構成を採用することができる。
【0012】
また、これらの各態様において、燃焼室内に臨む点火装置を備えたエンジンに用いられ、前記第一触媒部は、前記ピストン頂面の前記点火装置に対向する位置に配置される構成を採用することができる。
【0013】
さらに、これらの各態様において、前記ピストン頂面に凹状のキャビティを備え、前記第一触媒部は前記キャビティの底面に設けられ、前記第二触媒部は前記キャビティの外側に設けられる構成を採用することができる。
【0014】
このとき、前記キャビティの周縁に前記底面から立ち上がる側壁を備え、前記側壁は排気ガス浄化用の触媒成分を配置する範囲外に設定される構成を採用することができる。
【0015】
これらの各態様において、燃焼室内に通じる吸気通路及び排気通路を備えたエンジンに用いられ、前記第二触媒部は、前記吸気通路側に位置する吸気側第二触媒部と前記排気通路側に位置する排気側第二触媒部とを備え、前記排気側第二触媒部における前記第二の触媒金属の塗布量を、前記吸気側第二触媒部における前記第二の触媒金属の塗布量よりも多く設定される構成を採用することができる。
【0016】
なお、前記第一の触媒金属や前記第二の触媒金属の種別として、例えば、前記第一の触媒金属がロジウム(Rh)であり、前記第二の触媒金属がパラジウム(Pd)である構成を採用することができる。
【0017】
これらの各態様からなるピストンを用いたエンジンの構成として、ピストン頂面に排気ガス浄化用の触媒成分を配置したピストンと、燃焼室と、前記燃焼室内に臨む点火装置とを備え、前記触媒層は、前記ピストン頂面の一部に設けられ相対的に低温の触媒活性化温度を有する第一の触媒金属を表層に備える第一触媒部と、前記第一触媒部よりも前記ピストン頂面の外縁寄りに設けられ相対的に高温の触媒活性化温度を有する第二の触媒金属を表層に備える第二触媒部とを備え、前記第一触媒部は、前記ピストン頂面の前記点火装置に対向する位置に配置されるエンジンを採用することができる。
【0018】
また、これらの各態様からなるピストンを用いたエンジンの構成として、ピストン頂面に排気ガス浄化用の触媒成分を配置したピストンと、燃焼室と、前記燃焼室内に通じる吸気通路及び排気通路とを備え、前記触媒層は、前記ピストン頂面の一部に設けられ相対的に低温の触媒活性化温度を有する第一の触媒金属を表層に備える第一触媒部と、前記第一触媒部よりも前記ピストン頂面の外縁寄りに設けられ相対的に高温の触媒活性化温度を有する第二の触媒金属を表層に備える第二触媒部とを備え、前記第二触媒部は、前記第一触媒部を挟んで前記吸気通路側に位置する吸気側第二触媒部と前記排気通路側に位置する排気側第二触媒部とを備え、前記排気側第二触媒部における前記第二の触媒金属の塗布量が、前記吸気側第二触媒部における前記第二の触媒金属の塗布量よりも多く設定されるエンジンを採用することができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明は、ピストン頂面に排気ガス浄化用の触媒成分を配置したピストンにおいて、触媒層は、ピストン頂面の一部に設けられ相対的に低温の触媒活性化温度を有する第一の触媒金属を表層に備える第一触媒部と、第一触媒部よりもピストン頂面の外縁寄りに設けられ相対的に高温の触媒活性化温度を有する第二の触媒金属を表層に備える第二触媒部とを備えたので、燃焼室内で効率的にガスの浄化を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】この発明の一実施形態のピストンを備えたエンジンの燃焼室付近の模式図である。
【
図3】(a)(b)は、それぞれ他の実施形態のピストンの断面図である。
【
図4】(a)(b),(c)(d)は、それぞれ他の実施形態のピストンを示し、(a)は断面図、(b)は(a)の平面図、(c)は断面図、(d)は(c)の平面図である。
【
図5】(a)〜(c)は、それぞれ他の実施形態のピストンを示し、(a)は斜視図、(b)は断面図、(c)は斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、一実施形態のピストン10を備えたエンジンEの模式図である。
【0022】
エンジンEのシリンダ1内にピストン10が収納され、ピストン10はシリンダ1の筒軸方向に沿って進退自在となっている。ピストン10の上面であるピストン頂面11と、シリンダ1の内周面3及びシリンダ1の上面9とで、燃焼室2が構成されている。
【0023】
燃焼室2には、吸気通路4及び排気通路5が接続されている。燃焼室2への吸気通路4の開口である吸気弁孔は、吸気バルブ6によって開閉される。また、燃焼室2への排気通路5の開口である排気弁孔は、排気バルブ7によって開閉される。
【0024】
燃焼室2には、吸気通路4を通じて空気が供給される。また、燃焼室2には、吸気通路4内や燃焼室2内に臨む位置に設けられた燃料噴射装置によって、燃料が噴射されるようになっている。燃焼室2内の燃料は、燃焼室2内に臨む位置に設けられた点火装置8の火花によって点火されて燃焼する。この実施形態では、点火装置8は、シリンダ1の上面9の筒軸付近に下向きに配置されている。
【0025】
燃焼によって生じた排気ガス(燃焼ガス)は、燃焼室2から引き出された排気通路5を通って送り出され、有害物質を除去する触媒を備えた排気ガス浄化装置を通過した後に大気へ放出される。
【0026】
排気ガス浄化装置として、例えば、燃焼室2に近く比較的高温の排気ガスに晒される機会が多い環境にある近接触媒や、燃焼室2から遠く比較的高温の排気ガスに晒される機会が少ない環境にある床下触媒等が挙げられる。また、排気ガス浄化装置は、通常、排気通路5に沿って配置されたケースと、そのケース内に配置される担体、その担体の外面を覆うように配置される触媒金属等で構成される。
【0027】
一般に、ガソリンエンジンでは、排気ガス浄化装置として三元触媒を採用している。三元触媒では、排気ガス中に含まれる有害物質である炭化水素や一酸化炭素、窒素酸化物が、プラチナ、パラジウム、ロジウム等の触媒金属によって、排気ガス中から除去される。このとき、炭化水素は水と二酸化炭素に酸化し、一酸化炭素は二酸化炭素に酸化する。また、窒素酸化物は窒素に還元される。
【0028】
排気ガス浄化装置は、所定の触媒活性化温度以上となる条件下で、その浄化性能を充分に発揮することができる。このため、エンジンの始動直後等の排気ガスの温度が低い条件下では、浄化性能を充分に発揮できない場合がある。そこで、この実施形態では、燃焼室2内に臨むピストン頂面11に、排気ガス浄化用の触媒成分を配置したピストン10を用いている。燃焼室2内は、排気ガス浄化装置がある排気通路5内よりも早期に温度上昇するので、エンジンEの始動直後等の排気温度が比較的低い運転状況においても、排気ガスの浄化機能が期待できる。以下、この配置した触媒成分の層を触媒層20と称する。
【0029】
触媒層20は、
図1及び
図2に、その触媒活性化温度が互いに異なる第一触媒部21と第二触媒部22を備えている。
【0030】
第一触媒部21は、ピストン頂面11の中央に設けられている。この実施形態では、第一触媒部21は、シリンダ1の筒軸を中心とする平面視円形の範囲に設けられている。
【0031】
第一触媒部21は、相対的に低温の触媒活性化温度を有する第一の触媒金属aを主成分とする表層を備えている。この実施形態では、第一の触媒金属aとして、ロジウムを採用している。ロジウムは、一酸化炭素や窒素酸化物の浄化性能に優れており、ロジウムの一酸化炭素や窒素酸化物に対する浄化率が50%となる温度(触媒活性化温度)は約410℃で、浄化率95%に達する温度(触媒活性化温度)は約440℃である。
【0032】
第二触媒部22は、第一触媒部21よりもピストン頂面11の外縁11a寄りに設けられる。この実施形態では、第二触媒部22は、第一触媒部21の周囲に環状に設けられている。
【0033】
第二触媒部22は、相対的に高温の触媒活性化温度を有する第二の触媒金属bを主成分とする表層を備えている。この実施形態では、第二の触媒金属bとして、パラジウムを採用している。パラジウムは、炭化水素の浄化性能に優れており、パラジウムの炭化水素に対する浄化率が50%となる温度(触媒活性化温度)は約460℃で、浄化率95%に達する温度(触媒活性化温度)は約480℃である。
【0034】
図1では、第一触媒部21を、第一の触媒金属aを主成分とする表層のみで構成しているが、これを、第一の触媒金属aからなる表層の下に、1層又は複数層の別の触媒金属からなる下層を形成してもよい。例えば、
図3(a)の例では、第一の触媒金属aであるロジウムからなる表層21aの下に、パラジウムからなる下層21bを設けている。表層21aは、燃焼室2内の排気ガスに早期に接触するので、下層21bよりも排気ガスに対する高い浄化性能が期待できる。下層21bには、表層21aを通過した排気ガスが接触することとなる。
【0035】
また、同様に、
図1では、第二触媒部22を、第二の触媒金属bを主成分とする表層のみで構成しているが、これを、第二の触媒金属bからなる表層の下に、1層又は複数層の別の触媒金属からなる下層を形成してもよい。例えば、
図3(b)の例では、第二の触媒金属bであるパラジウムからなる表層22aの下に、ロジウムからなる下層22bを設けている。表層22aは、燃焼室2内の排気ガスに早期に接触するので、下層22bよりも排気ガスに対する高い浄化性能が期待できる。下層22bには、表層22aを通過した排気ガスが接触することとなる。
【0036】
触媒活性化温度の高い第二触媒部22が、触媒活性化温度の低い第一触媒部21よりも外側、すなわち、第一触媒部21よりもピストン頂面11の外縁11a寄りに設けられるので、燃料が燃焼する際の火炎の起点である燃焼中心付近の比較的温度が低い燃焼ガスに対しては第一触媒部21が、燃焼中心から遠ざかるにつれて徐々に火炎が拡がって比較的温度が高くなる外縁部の燃焼ガスに対しては第二触媒部22が、それぞれ対応する温度領域で所定の浄化機能を発揮できる。このため、燃焼室2内のガス中の温度分布の偏りに対応して、効率的にガスの浄化を行うことができる。
【0037】
この実施形態では、第一触媒部21は、ピストン頂面11の点火装置8に対向する位置に配置されているので、第一触媒部21を、燃料が燃焼する際の火炎の起点である燃焼中心付近に対して、最も近い位置とすることができる。
【0038】
また、燃焼室2内において、HCの発生源である内周面3付近ではHC濃度が比較的高いのに対し、内周面3から遠い筒軸付近ではHC濃度が比較的低い傾向があるので、HCに対する浄化性能が高い第二触媒部22を、ピストン頂面11の外縁11a寄りに配置することで、HCに対する浄化機能を高めることができる。すなわち、燃焼室2内のガス成分の分布の偏りに対応して、効率的にガスの浄化を行うことができる。
【0039】
さらに、この実施形態では、ピストン頂面11に凹状のキャビティ13を備えている。キャビティ13は、その凹状の部分に燃料が滞留し、その凹状の部分が火炎の起点である燃焼中心となることを目的に設定される。
【0040】
キャビティ13を備えたピストン10では、
図4(a)(b)に示すように、第一触媒部21は、キャビティ13のフラットな底面13aに設けられ、第二触媒部22は、キャビティ13の外側に設けられる。第二触媒部22は、キャビティ外縁13cから、ピストン頂面11とピストン周面12との稜線である外縁11aに至る範囲で環状に設けられる。
【0041】
このとき、キャビティ13の周縁には、底面13aから立ち上がる側壁13bが全周に亘って備えられている。側壁13bは、
図4(a)(b)に示すように、第一触媒部21や第二触媒部22をはじめとする排気ガス浄化用の触媒層20の範囲外、すなわち、触媒成分を配置する範囲外に設定される。キャビティ13の側壁13bは、火炎の伝播や燃焼ガスの流れをスムーズにするため、できる限り滑らかな表面であることが望ましいため、このように、側壁13bを触媒成分を配置する範囲外に設定することが望ましい。
【0042】
なお、キャビティ13の効果を求めないピストン10の仕様の場合は、キャビティ13の設置を省略したピストン10を採用する場合もある。キャビティ13の設置を省略したピストン10の場合、例えば、
図4(c)(d)に示すように、フラットなピストン頂面11の中央部に第一触媒部21を配置し、第二触媒部22は、第一触媒部21の周囲に環状に設けられる。このとき、第一触媒部21の外縁と第二触媒部22の内縁とを一致させてもよいし、図のように、第一触媒部21の外縁と第二触媒部22の内縁との間の環状のエリアを、触媒成分を配置する範囲外に設定してもよい。
【0043】
図4(b)(d)等に示す符号pは、シリンダ1の筒軸とピストン頂面11との交点であり、この交点は、点火装置8の直下に位置する。これらの実施形態では、第一触媒部21、第二触媒部22は、交点pを中心として同心円状に配置されているが、燃焼中心が交点pからいずれかの側に偏心している場合には、第一触媒部21の位置を、その偏心している側にずらしてもよい。
【0044】
さらに、
図5(a)に示すように、第二触媒部22として、第一触媒部21を挟んで吸気通路4側に位置する吸気側第二触媒部24と、排気通路5側に位置する排気側第二触媒部25とを備えるようにし、排気側第二触媒部25における第二の触媒金属bの塗布量(配置量)を、吸気側第二触媒部24における第二の触媒金属bの塗布量(配置量)よりも多くなるように設定してもよい。炭化水素の排出は、主に、燃焼行程の後半に多く発生するため、このように、炭化水素の浄化に有利な第二の触媒金属bの塗布量を排気通路5側に多く配置することが望ましい。
【0045】
吸気側第二触媒部24と排気側第二触媒部25との触媒金属の塗布量の差異は、例えば、
図5(a)に示すように、触媒金属を塗布するエリアの面積の差異や、
図5(b)に示すように、触媒金属を塗布する厚さの差異によって設定することができる。特に、触媒金属をピストン頂面11へ蒸着させる場合、このような設定方法が容易である。
【0046】
また、触媒金属の塗布は、触媒金属を含ませたスラリをピストン頂面11へ塗布することによって行うことができる。この場合、吸気側第二触媒部24と排気側第二触媒部25との触媒金属の塗布量の差異は、例えば、吸気側第二触媒部24用のスラリと排気側第二触媒部25用のスラリにおける触媒金属の含有密度の差異で設定してもよいし、あるいは、それぞれのスラリを塗布するエリアの面積や厚さの差異によって設定することもできる。
【0047】
スラリの母材は、例えば、アルミナ(Al
2O
3)、酸化ジルコニウム(ジルコニア/ZrO
2)、酸化セリウム(セリア/CeO
2)、酸化ジルコニウム−酸化セリウムを主成分とする複合酸化物(CeO
2−ZrO
2)等を採用できる。特に、スラリの母材としてアルミナを採用すれば、ピストンによる熱損失を抑制する効果が期待できる。
【0048】
蒸着やスラリの塗布等、いずれの方法による場合も、触媒金属の層厚さ(塗布厚さ)は、100μm以下とすることが望ましい。
【0049】
上記の実施形態では、第一触媒部21の周囲全周に第二触媒部22を配置したが、第一触媒部21の周囲の一部方位にのみ、第二触媒部22を配置した構成を採用することができる。このとき、第二触媒部22は、排気通路5側に配置されることが望ましい。
【0050】
さらに、上記の実施形態では、触媒金属の種別として、例えば、第一の触媒金属aがロジウム(Rh)であり、第二の触媒金属bがパラジウム(Pd)である構成を採用したが、実施形態に示す以外の他の触媒金属を採用することも可能である。例えば、第一の触媒金属aとしてプラチナ(Pt)等の他の触媒金属を採用してもよい。
【0051】
上記の実施形態では、点火装置8は、シリンダ1の上面9の筒軸付近に下向きに配置されているが、シリンダ1の内周面3から横向き、あるいは、斜め下向き等でもよい。この場合、
図5(c)に示すように、第一触媒部21を点火装置8に対向する部分、すなわち、燃料が燃焼する際の火炎の起点である燃焼中心付近に近い位置とすることができる。このとき、第二触媒部22は、その第一触媒部21よりもピストン頂面11の外縁11a寄りに設けられる。
【0052】
なお、これらの実施形態では、ガソリンエンジンにおける排気ガスの浄化について説明したが、この発明は、ガソリンエンジン以外にもディーゼルエンジン等、エンジン全般に用いることができる。
【0053】
自己着火式であるディーゼルエンジンの場合、燃料が燃焼する際の火炎の起点である燃焼中心は燃焼室2内における筒軸付近である場合が多い。このため、燃焼室2内の中央である筒軸付近では比較的温度が低く、その燃焼中心から遠ざかるにつれて徐々に火炎が拡がって比較的温度が高くなる傾向がある。したがって、上記の実施形態と同様、ピストン頂面11の一部に配置した第一触媒部21よりもピストン頂面11の外縁11a寄りに第二触媒部22を配置することが望ましい。特に、第一触媒部を、燃焼中心に近いピストン頂面11の中央に配置し、第一触媒部21よりもピストン頂面11の外縁11a寄りに第二触媒部22を配置することが望ましい。
【符号の説明】
【0054】
1 シリンダ
2 燃焼室
3 内周面
4 吸気通路
5 排気通路
6 吸気バルブ
7 排気バルブ
8 点火装置
9 上面
10 ピストン
11 ピストン頂面
11a 外縁
12 ピストン周面
13 キャビティ
13a 底面
13b 側壁
13c キャビティ外縁
20 触媒層
21 第一触媒部
22 第二触媒部
24 吸気側第二触媒部
25 排気側第二触媒部
a 第一の触媒金属
b 第二の触媒金属
E エンジン