(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
トレッド部にタイヤ周方向に延びる複数本の主溝を有し、該主溝により区画されるリブにタイヤ幅方向に延びるサイプを備えると共に、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤにおいて、
前記サイプは踏み込み側のエッジと蹴り出し側のエッジを有し、これら踏み込み側のエッジと蹴り出し側のエッジのそれぞれに前記サイプのサイプ長さよりも短い面取り部が形成されており、前記サイプにおける各面取り部に対向する部位には他の面取り部が存在しない非面取り領域があり、前記主溝以外の溝に形成された面取り部であって少なくとも前記サイプの面取り部を含む全ての面取り部において、車両装着内側に位置する面取り部の総体積SINと車両装着外側に位置する面取り部の総体積SOUTとがSIN>SOUTの関係を満たすことを特徴とする空気入りタイヤ。
前記サイプの最大深さx(mm)と前記面取り部の最大深さy(mm)が下記式(1)の関係を満たし、前記面取り部のタイヤ径方向内側に位置する端部から前記サイプの溝底までの範囲において前記サイプのサイプ幅が一定であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
x×0.1≦y≦x×0.3+1.0 (1)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、
図1,
図2において、CLはタイヤ中心線である。
【0015】
図1に示すように、本発明の実施形態からなる空気入りタイヤは、車両に対する装着方向が指定されており、INはタイヤを車両に装着したときに車両に対してタイヤ中心線CLよりも内側(以下、車両装着内側という)を示し、OUTはタイヤを車両に装着したときに車両に対してタイヤ中心線CLよりも外側(以下、車両装着外側という)を示している。
図1に示す空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0016】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0017】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。ベルト層7の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層8が配置されている。ベルトカバー層8の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0018】
なお、上述したタイヤ内部構造は空気入りタイヤにおける代表的な例を示すものであるが、これに限定されるものではない。
【0019】
図2は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤのトレッド部の一例を示すものである。トレッド部1には、タイヤ周方向に延びる4本の主溝9が形成されている。主溝9は、タイヤ中心線CLの両側に位置する一対の内側主溝9A,9Aと、タイヤ幅方向最外側に位置する一対の外側主溝9B,9Bとを含んでいる。これら4本の主溝9により、トレッド部1には、リブ10が区画されている。リブ10は、タイヤ中心線CL上に位置するセンターリブ100Aと、センターリブ100Aのタイヤ幅方向外側に位置する一対の中間リブ100B,100Cと、各中間リブ100B,100Cのタイヤ幅方向外側に位置する一対のショルダーリブ100D,100Eとを含んでいる。
【0020】
センターリブ100Aと中間リブ100B,100Cには、それぞれ一対の面取り部12を有するサイプ11が形成されている。サイプ11は、センターリブ100Aに配置されたサイプ110Aと、中間リブ100B,100Cのそれぞれに配置されたサイプ110B,110Cとを含んでいる。面取り部12は、サイプ110Aに形成された面取り部120Aと、サイプ110Bに形成された面取り部120Bと、サイプ110Cに形成された面取り部120Cとを含んでいる。
【0021】
センターリブ100Aには、タイヤ幅方向に対して同一方向に傾斜する複数本のサイプ110Aがタイヤ周方向に間隔をおいて形成されている。これらサイプ110Aは一端が内側主溝9Aに対して連通する一方で他端がセンターリブ100A内で終端している。即ち、サイプ110Aはセミクローズドサイプである。
【0022】
中間リブ100Bには、タイヤ幅方向に対して同一方向に傾斜する複数本のサイプ110Bがタイヤ周方向に間隔をおいて形成されている。これらサイプ110Bは一端が内側主溝9Aに対して連通する一方で他端が外側主溝9Bに対して連通している。即ち、サイプ110Bはオープンサイプである。中間リブ100Cには、タイヤ幅方向に対して同一方向に傾斜する複数本のサイプ110Cがタイヤ周方向に間隔をおいて形成されている。これらサイプ110Cは一端が中間リブ100C内で終端している一方で他端が外側主溝9Bに対して連通している。即ち、サイプ110Cはセミクローズドサイプである。
【0023】
ショルダーリブ100D,100Eには、タイヤ幅方向に延在し、タイヤ幅方向に対して同一方向に傾斜し、外側主溝9Bに対して非連通となる複数本のラグ溝200がタイヤ周方向に間隔をおいて形成されている。ラグ溝200は、ショルダーリブ100Dに形成されたラグ溝200Aと、ショルダーリブ100Eに形成されたラグ溝200Bとを含んでいる。
【0024】
図3〜
図6は本発明に係る空気入りタイヤのトレッド部の一部を示すものである。
図3〜
図5において、Tcはタイヤ周方向、Twはタイヤ幅方向を示している。
図3に示すように、リブ10はタイヤ幅方向に延びる複数本のサイプ11と、複数本のサイプ11により区画されたブロック101とを含んでいる。複数のブロック101はタイヤ周方向に並ぶように配置されている。サイプ11とは溝幅が1.5mm以下の細溝である。
【0025】
図4に示すように、サイプ11は全体の形状が湾曲状を有し、リブ10内においてタイヤ周方向に間隔をおいて形成されている。また、サイプ11は、回転方向Rに対して踏み込み側となるエッジ11Aと、回転方向Rに対して蹴り出し側となるエッジ11Bとを有している。踏み込み側のエッジ11Aと蹴り出し側のエッジ11Bのそれぞれに面取り部12が形成されている。
【0026】
面取り部12は、回転方向Rに対して踏み込み側となる面取り部12Aと、回転方向Rに対して蹴り出し側となる面取り部12Bとを有している。これら面取り部12に対向する部位には他の面取り部が存在しない非面取り領域13が存在している。即ち、面取り部12Aに対向する部位に回転方向Rに対して蹴り出し側となる非面取り領域13Bがあり、面取り部12Bに対向する部位に回転方向Rに対して踏み込み側となる非面取り領域13Aがある。このようにサイプ11の踏み込み側のエッジ11Aと蹴り出し側のエッジ11Bのそれぞれに面取り部12と他の面取り部が存在しない非面取り領域13が隣接するように配置されている。
【0027】
図5に示すように、サイプ11及び面取り部12A,12Bにおいて、タイヤ幅方向の長さをそれぞれサイプ長さL、面取り長さL
A,L
Bとする。これらサイプ長さL、面取り長さL
A,L
Bは、サイプ11又は面取り部12A,12Bのそれぞれの一方の端部から他方の端部までのタイヤ幅方向の長さである。面取り部12A,12Bの面取り長さL
A,L
Bはいずれもサイプ11のサイプ長さLよりも短く形成されている。
【0028】
図6はサイプの延在方向に対して直交しかつトレッド部1を鉛直方向に切り欠いたものである。
図6に示すように、サイプ11の最大深さをx(mm)、面取り部12の最大深さをy(mm)とするとき、最大深さx(mm)より最大深さy(mm)が浅くなるようにサイプ11と面取り部12は形成されている。サイプ11の最大深さxは3mm〜8mmが好ましい。面取り部12のタイヤ径方向内側に位置する端部121からサイプ11の溝底までの範囲においてサイプ11のサイプ幅Wが実質的に一定である。このサイプ幅Wは、例えば、サイプ11の溝壁に突条が存在する場合にはその突条の高さをサイプ幅に含めないものとし、或いはサイプ11のサイプ幅が溝底に向かうにしたがって徐々に狭くなっている場合には狭くなっている部分はサイプ幅に含めないものとして、実質的に測定されるサイプ11の幅とする。
【0029】
上記空気入りタイヤにおいて、主溝9以外の溝に形成された面取り部であって少なくともサイプ11の面取り部12を含む全ての面取り部において、車両装着内側に位置する全ての面取り部の総体積S
INと車両装着外側に位置する全ての面取り部の総体積S
OUTとがS
IN>S
OUTの関係を満たす。
図2の態様では、サイプ11のみに面取り部が設けられているため、主溝9以外の溝(サイプ11及びラグ溝200)に形成された全ての面取り部は面取り部12で構成されており、車両装着内側に位置する全ての面取り部120A,120Bの総体積S
INが車両装着外側に位置する全ての面取り部120Cの総体積S
OUTより大きくなるように構成されている。
【0030】
このように車両装着内側に位置する全ての面取り部の総体積S
INを車両装着外側に位置する全ての面取り部の総体積S
OUTより大きくする方法として、車両装着内側に位置するサイプ11の総本数を車両装着外側に位置するサイプ11の総本数より多くすることや、サイプ11の他に車両装着内側に位置する溝(例えば、サイプ、ラグ溝)に面取り部を設けること等を挙げることができる。また、車両装着内側と車両装着外側に位置するサイプ11の面取り部12のそれぞれの断面形状を異ならせて、
図7(a),(b)に示すように車両装着内側に位置するサイプ11の面取り部12の体積を相対的に大きくする一方で
図8(a),(b)に示すように車両装着外側に位置するサイプ11の面取り部12の体積を相対的に小さくし、S
IN>S
OUTの関係を満たすように構成することもできる。
【0031】
図7(a),(b)及び
図8(a),(b)は本発明に係る空気入りタイヤのトレッド部に形成されたサイプ及びその面取り部の変形例を示すものである。
図7(a),(b)に示すように、サイプ11の長手方向に垂直な断面視において、面取り部12の端部121,122を結ぶ線分を面取り基準線RLとする。そして、面取り部12A,12Bの少なくとも一方がこの面取り基準線RLよりもタイヤ径方向内側に向かって凸となる輪郭線OLを有している。この輪郭線OLとサイプ11とトレッド部1の踏面とに囲まれた領域を面取り領域Raとし、面取り基準線RLとサイプ11と踏面とに囲まれた領域を基準領域Rbとする。即ち、
図7(a),(b)に示す2本の点線と輪郭線OLとに囲まれた扇形の領域が面取り領域Raであり、
図7(a),(b)に示す2本の点線と面取り基準線RLとに囲まれた三角形の領域が基準領域Rbである。このとき、面取り領域Raの断面積aは基準領域Rbの断面積bと同等又は基準領域Rbの断面積bよりも大きくなっている。特に、面取り領域Raの断面積aは基準領域Rbの断面積bよりも大きいことが好ましい。
【0032】
図8(a),(b)に示すように、サイプ11の長手方向に垂直な断面視において、面取り部12の端部121,122を結ぶ線分を面取り基準線RLとする。そして、面取り部12A,12Bの少なくとも一方がこの面取り基準線RLよりもタイヤ径方向外側に向かって凸となる輪郭線OLを有している。この輪郭線OLとサイプ11とトレッド部1の踏面とに囲まれた領域を面取り領域Raとし、面取り基準線RLとサイプ11と踏面とに囲まれた領域を基準領域Rbとする。即ち、
図8(a),(b)に示す2本の点線と輪郭線OLとに囲まれた領域が面取り領域Raであり、
図8(a),(b)に示す2本の点線と面取り基準線RLとに囲まれた三角形の領域が基準領域Rbである。このとき、面取り領域Raの断面積aは基準領域Rbの断面積bよりも小さくなっている。
【0033】
上記空気入りタイヤでは、サイプ11の踏み込み側のエッジ11Aと蹴り出し側のエッジ11Bのそれぞれにサイプ11のサイプ長さLよりも短い面取り部12を設け、サイプ11における各面取り部12に対向する部位には他の面取り部が存在しない非面取り領域13があることで、面取り部12に基づいて排水効果を改善すると同時に、面取り部12を設けていない非面取り領域13ではエッジ効果により水膜を効果的に除去することができる。そのため、ウエット路面での操縦安定性能を大幅に向上させることが可能となる。しかも、踏み込み側のエッジ11Aと蹴り出し側のエッジ11Bのそれぞれに面取り部12と面取り部が存在しない非面取り領域13が混在しているため、上述のようなウエット性能の改善効果を制動時及び駆動時において最大限に享受することができる。更に、主溝9以外の溝に形成された面取り部であって少なくともサイプ11の面取り部12を含む全ての面取り部において、車両装着内側に位置する面取り部の総体積S
INを相対的に大きくすることによりウエット路面での操縦安定性能(特に、ハイドロプレーニング防止性能)を向上させることができると共に、車両装着外側に位置する面取り部の総体積S
OUTを相対的に小さくすることによりドライ路面での操縦安定性能を向上させることができる。その結果、ドライ路面での操縦安定性能とウエット路面での操縦安定性能とをバランス良く改善することが可能となる。
【0034】
上記空気入りタイヤにおいて、最大深さx(mm)と最大深さy(mm)が下記式(1)の関係を満たすように構成すると良い。下記式(1)の関係を満たすようにサイプ11と面取り部12を設けることで、従来の面取りを施したサイプと比較して、面取りを施す面積を最小限とすることができるため、ドライ路面での操縦安定性能を向上させることが可能となる。その結果、ドライ路面での操縦安定性能の向上とウエット路面での操縦安定性能の向上を両立させることが可能となる。ここで、y<x×0.1であると面取り部12に基づく排水効果が不十分になり、逆にy>x×0.3+1.0であるとリブ10の剛性低下によりドライ路面での操縦安定性能が低下することになる。特に、y≦x×0.3+0.5の関係を満足すると良い。
x×0.1≦y≦x×0.3+1.0 (1)
【0035】
また、主溝9により区画される複数列のリブ10のうち2列以上のリブ10にサイプ11が配置されていることが好ましい。このように2列以上のリブ10にサイプ11を配置することで、ドライ路面での操縦安定性能とウエット路面での操縦安定性能とをバランス良く改善することが可能となる。
【0036】
更に、上記全ての面取り部において車両装着内側に位置する面取り部の総体積S
INが車両装着外側に位置する面取り部の総体積S
OUTに対して1.5〜5.0倍であることが好ましく、2.0〜4.0倍であることがより好ましい。このように車両装着内側に位置する面取り部の総体積S
INを車両装着外側に位置する面取り部の総体積S
OUTに対して適度に設定することで、ドライ路面での操縦安定性能とウエット路面での操縦安定性能とをバランス良く改善することが可能となる。
【0037】
図9は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤのトレッド部の他の変形例を示すものである。
図9に示すように、トレッド部1は、タイヤ周方向に延びる4本の主溝9により区画され、タイヤ中心線CL上に位置するセンターリブ100Aと、そのタイヤ幅方向外側に位置する一対の中間リブ100B,100Cと、各中間リブ100B,100Cのタイヤ幅方向外側に位置する一対のショルダーリブ100D,100Eからなる。センターリブ100Aには溝は形成されておらず、中間リブ100B,100Cには一対の面取り部120B,120Cを有するサイプ110B,110Cがそれぞれ形成され、ショルダーリブ100D,100Eにはラグ溝200A,200Bがそれぞれ形成されている。また、主溝9以外の溝(サイプ11及びラグ溝200)に形成された全ての面取り部は面取り部120B,120Cから構成されると共に、車両装着内側に位置する全ての面取り部120Bの総投影面積A
INと、車両装着外側に位置する全ての面取り部120Cの総投影面積A
OUTとは同等となるように構成されている。更に、車両装着内側に位置する面取り部120Bは
図7(a),(b)に示す断面形状を有する一方で、車両装着外側に位置する面取り部120Cは
図8(a),(b)に示す断面形状を有している。即ち、車両装着内側に位置する全ての面取り部120Bの総体積S
INと車両装着外側に位置する全ての面取り部120Cの総体積S
OUTとがS
IN>S
OUTの関係を満たしている。
【0038】
上記空気入りタイヤでは、主溝9以外の溝に形成された面取り部であって少なくともサイプ11の面取り部12を含む全ての面取り部において、車両装着内側に位置する面取り部の総投影面積A
INと車両装着外側に位置する面取り部の総投影面積A
OUTとがA
IN≦A
OUTの関係を満たす。このような関係を満たすように総投影面積A
INと総投影面積A
OUTとを設定することで、面取り部の潰れの抑制効果とエッジ効果とをトレッド部全体で均一に得ることができるため、ドライ路面での操縦安定性能を向上させることが可能となる。
【0039】
図10は本発明に係る空気入りタイヤのトレッド部に形成されたサイプ及びその面取り部の他の変形例を示すものである。
図10に示すサイプ11は、タイヤ周方向に対して傾斜角度θを有するように形成されている。この傾斜角度θは、サイプ11の両端部を結ぶ仮想線(
図10で示す点線)とブロック101の側面がなす角度をいい、傾斜角度θには鋭角側の傾斜角度と鈍角側の傾斜角度が存在し、
図10においては鋭角側の傾斜角度θを示している。また、傾斜角度θは、リブ10内の中間ピッチにおけるサイプ11の傾斜角度を対象とする。このとき、鋭角側の傾斜角度θは、40°〜80°であることが好ましく、より好ましくは50°〜70°であると良い。このようにサイプ11をタイヤ周方向に対して傾斜させることで、パターン剛性を向上させることができ、ドライ路面での操縦安定性能をより一層向上させることが可能となる。ここで、傾斜角度θが40°より小さいと耐偏摩耗性能が悪化し、80°を超えるとパターン剛性を十分に向上させることができない。
【0040】
本発明では、サイプ11の鋭角側の傾斜角度θを有する側を鋭角側とし、サイプ11の鈍角側の傾斜角度θを有する側を鈍角側とする。サイプ11のエッジ11A,11Bにそれぞれ形成された面取り部12A,12Bはサイプ11の鋭角側に形成されている。このようにサイプ11の鋭角側に面取りが施されていることで、耐偏摩耗性能をより一層改善することが可能となる。或いは、面取り部12A,12Bがサイプ11の鈍角側に形成されていても良い。このように面取り部12がサイプ11の鈍角側に形成されていることで、エッジ効果が大きくなり、ウエット路面での操縦安定性能をより一層向上させることが可能となる。
【0041】
本発明では、上述するサイプ11の全体の形状が湾曲状であることによって、ウエット路面での操縦安定性能を向上させることが可能となるが、更に、サイプ11の一部が平面視において湾曲或いは屈曲する形状を有していても良い。このようにサイプ11が形成されていることで、各サイプ11におけるエッジ11A,11Bの総量が増大し、ウエット路面での操縦安定性能を向上させることが可能となる。
【0042】
面取り部12は、
図10に示すように、サイプ11の踏み込み側のエッジ11Aと蹴り出し側のエッジ11Bにそれぞれ1箇所ずつ配置されている。このように面取り部12が配置されていることで、耐偏摩耗性能を向上させることが可能となる。ここで、面取り部12が、サイプ11の踏み込み側のエッジ11Aと蹴り出し側のエッジ11Bにそれぞれ2箇所以上形成されると節が多くなり、耐偏摩耗性能を悪化させてしまう傾向がある。
【0043】
また、サイプ11に直交する方向に沿って測定される面取り部12の幅の最大値を幅W1とする。このとき、面取り部12の最大幅W1がサイプ11のサイプ幅Wの0.8〜5.0倍とすることが好ましく、より好ましくは1.2倍〜3.0倍であると良い。このように面取り部12の最大幅W1をサイプ幅Wに対して適度に設定することで、ドライ路面での操縦安定性能の向上とウエット路面での操縦安定性能の向上を両立させることが可能となる。ここで、面取り部12の最大幅W1が、サイプ11のサイプ幅Wの0.8倍より小さいとウエット路面での操縦安定性能の向上が不十分となり、5.0倍より大きいとドライ路面での操縦安定性能の向上が不十分となる。
【0044】
更に、面取り部12の長手方向の外縁部はサイプ11の延在方向と平行に形成されている。このように面取り部12がサイプ11と平行に延在することで、耐偏摩耗性能を向上させるができると共に、ドライ路面での操縦安定性能の向上とウエット路面での操縦安定性能の向上を両立させることが可能となる。
【0045】
面取り部12A,12Bの主溝9寄りに位置する端部は、
図10に示すように、リブ10の両側に位置する主溝9にそれぞれ連通している。このように面取り部12A,12Bが形成されていることで、ウエット路面での操縦安定性能をより一層向上させることが可能となる。或いは、面取り部12A,12Bの主溝9寄りに位置する端部が、主溝9に連通せずにリブ10内で終端していてもよい。このように面取り部12A,12Bが形成されていることで、ドライ路面での操縦安定性能をより一層向上させることが可能となる。
【0046】
図11(a),(b)は本発明に係る空気入りタイヤのトレッド部に形成されたサイプ及びその面取り部の他の変形例を示すものである。面取り部12Aと面取り部12Bは、
図11(a)に示すように、サイプ11の中央部において面取り部12A,12Bの双方の一部が重なり合うように形成されている。ここで、面取り部12Aと面取り部12Bが重なり合った部分であるオーバーラップ部のタイヤ幅方向の長さをオーバーラップ長さL1とする。一方、
図11(b)に示すように、面取り部12Aと面取り部12Bの双方の一部が重ならず、一定の間隔をあけて離間している場合、オーバーラップ長さL1のサイプ長さLに対する割合はマイナス値で表す。オーバーラップ部のオーバーラップ長さL1は、サイプ長さLの−30%〜30%であることが好ましく、より好ましくは−15%〜15%であると良い。このように面取り部12におけるオーバーラップ長さL1をサイプ長さLに対して適度に設定することで、ドライ路面での操縦安定性能の向上とウエット路面での操縦安定性能の向上を両立させることが可能となる。ここで、オーバーラップ長さL1が30%より大きいとドライ路面での操縦安定性能の向上が不十分となり、−30%より小さいとウエット路面での操縦安定性能の向上が不十分となる。
【0047】
図12はサイプの延在方向に沿って切り欠いたものである。
図12に示すように、サイプ11はその長さ方向の一部に底上げ部14を有している。底上げ部14としては、サイプ11の中央部に位置する底上げ部14Aと、サイプ11の両端部に位置する底上げ部14Bが存在する。このようにサイプ11に底上げ部14を設けることで、ドライ路面での操縦安定性能の向上とウエット路面での操縦安定性能の向上を両立させることが可能となる。サイプ11の底上げ部14はサイプ11の端部及び/又は端部以外に形成しても良い。
【0048】
サイプ11に形成された底上げ部14においてタイヤ径方向の高さを高さH
14とする。サイプ11の端部以外に形成された底上げ部14Aにおいて、サイプ11の溝底から底上げ部14Aの上面までの高さの最大値を高さH
14Aとする。この高さH
14Aは、サイプ11の最大深さxの0.2〜0.5倍であることが好ましく、より好ましくは0.3〜0.4倍が良い。このようにサイプ11の端部以外に配置された底上げ部14Aの高さH
14Aが適度な高さに設定されることで、ブロック101の剛性を向上させることができると共に、排水効果を維持することができるため、ウエット路面での操縦安定性能を向上させることが可能となる。ここで、高さH
14Aが、サイプ11の最大深さxの0.2倍より小さいとブロック101の剛性を十分に向上させることができず、0.5倍より大きいとウエット路面での操縦安定性能を十分に向上させることができない。
【0049】
サイプ11の両端部に形成された底上げ部14Bにおいて、サイプ11の溝底から底上げ部14Bの上面までの高さの最大値を高さH
14Bとする。この高さH
14Bは、サイプ11の最大深さxの0.6〜0.9倍であることが好ましく、より好ましくは0.7〜0.8倍が良い。このようにサイプ11の端部に形成された底上げ部14Bの高さH
14Bが適度な高さに設定されることで、ブロック101の剛性を向上させることができ、ドライ路面での操縦安定性能を向上させることが可能となる。ここで、高さH
14Bが、サイプ11の最大深さxの0.6倍より小さいとブロック101の剛性を十分に向上させることができず、0.9倍より大きいとウエット路面での操縦安定性能を十分に向上させることができない。
【0050】
また、サイプ11の底上げ部14においてタイヤ幅方向の長さを底上げ長さL
14とする。底上げ部14A,14Bの底上げ長さL
14A,L
14Bは、サイプ長さLに対して0.3〜0.7倍であることが好ましく、より好ましくは0.4〜0.6倍が良い。このように底上げ部14A,14Bの底上げ長さL
14A,L
14Bを適度に設定することで、ドライ路面での操縦安定性能を向上とウエット路面での操縦安定性能の向上を両立させることが可能となる。
【実施例】
【0051】
タイヤサイズ245/40R19で、トレッド部にタイヤ周方向に延びる複数本の主溝を有し、主溝により区画されるリブにタイヤ幅方向に延びるサイプを備えると共に、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤにおいて、面取りの配置、サイプの構造、サイプ長さLと面取り長さL
A,L
Bの長短、面取り部に対向する部位の面取りの有無、車両装着内側の全ての面取り部の総体積S
INと車両装着外側の全ての面取り部の総体積S
OUTとの大小、サイプの最大深さx(mm)、面取り部の最大深さy(mm)、面取り部を有するサイプを備えたリブの列数、車両装着内側の全ての面取り部の総投影面積A
INと車両装着外側の全ての面取り部の総投影面積A
OUTとの大小、車両装着内側の全ての面取り部の総体積S
INの車両装着外側の全ての面取り部の総体積S
OUTに対する比(S
IN/S
OUT)を表1のように設定した比較例及び実施例1〜5のタイヤを製作した。
【0052】
なお、これら試験タイヤの全てにおいて、リブに形成されたサイプは、リブを貫通するオープンサイプであると共に、踏み込み側と蹴り出し側の両側のエッジにサイプ長さよりも短い面取り部が存在する一方で各面取り部に対向する部位には他の面取り部が存在しない構造を有する。
【0053】
これら試験タイヤについて、テストドライバーによるドライ路面での操縦安定性能及びウエット路面での操縦安定性能に関する官能評価並びにハイドロプレーニング防止性能に関する評価を実施し、その結果を表1に併せて示した。
【0054】
ドライ路面での操縦安定性能及びウエット路面での操縦安定性能に関する官能評価は、各試験タイヤをリムサイズ19×8.5Jホイールに組み付けて車両に装着し、空気圧260kPaの条件にて行った。評価結果は、比較例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどドライ路面での操縦安定性能及びウエット路面での操縦安定性能が優れていることを意味する。
【0055】
ハイドロプレーニング防止性能に関する評価は、各試験タイヤをリムサイズ19×8.5Jのホイールに組み付けて、空気圧を260kPaとして車両に装着し、直進路上で水深10mmのプールに進入するようにした走行試験を実施し、プールへの進入速度を徐々に増加させ、ハイドロプレーニング現象が発生する限界速度を測定した。評価結果は、比較例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどハイドロプレーニング防止性能が優れていることを意味する。
【0056】
【表1】
【0057】
これら表1から判るように、サイプに形成された面取り部の形状を工夫することで、実施例1〜5のタイヤは、ドライ路面での操縦安定性能とウエット路面での操縦安定性能が同時に改善され、ハイドロプレーニング防止性能も改善されていた。