特許第6822208号(P6822208)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6822208サイジング剤塗布炭素繊維束を含有してなる熱可塑性樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6822208
(24)【登録日】2021年1月12日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】サイジング剤塗布炭素繊維束を含有してなる熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/325 20060101AFI20210114BHJP
   C08J 5/06 20060101ALI20210114BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20210114BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20210114BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20210114BHJP
   D06M 13/402 20060101ALI20210114BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20210114BHJP
【FI】
   D06M13/325
   C08J5/06CEZ
   C08K3/04
   C08L9/00
   C08L101/00
   D06M13/402
   D06M101:40
【請求項の数】12
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-32898(P2017-32898)
(22)【出願日】2017年2月24日
(65)【公開番号】特開2018-135624(P2018-135624A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2019年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉弘 一貴
(72)【発明者】
【氏名】四方 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】市川 智子
【審査官】 堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−166923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00−15/715
C08J5/04−5/10、5/24
C08K3/04
C08L9/00、101/00
D01F9/08−9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイジング剤塗布炭素繊維束および熱可塑性樹脂(C)を含有してなる熱可塑性樹脂組成物であって、前記熱可塑性樹脂(C)が下記式(f)および(g)を満たし、前記サイジング剤塗布炭素繊維束がアミノ基またはアミド基を含む化合物(A)をサイジング剤全量100質量部に対して50質量部以上含み、かつ、エポキシ基またはオキサゾリン基を含む化合物を実質的に含まないサイジング剤(B)を炭素繊維束100質量部に対して0.1〜2質量部の割合で付着されてなるサイジング剤塗布炭素繊維束であって、下記式(a)および(b)を満たすことを特徴とするサイジング剤塗布炭素繊維束であるサイジング剤塗布炭素繊維束を含有してなる熱可塑性樹脂組成物
Wa(1)=2(γCF・γ0.5+2(γCF・γ0.5≧85mJ/m ・・・(a)
0°≦θCF/s≦60° ・・・(b)
γCF:炭素繊維束の表面自由エネルギーの極性成分
γ:化合物(A)の表面自由エネルギーの極性成分
γCF:炭素繊維束の表面自由エネルギーの分散成分
γ:化合物(A)の表面自由エネルギーの分散成分
θCF/s:炭素繊維束とサイジング剤の接触角
γ≧40mJ/m (f)
Wa(2)=2(γr・γ0.5+2(γr・γ0.5≧95mJ/m (g)
γ:熱可塑性樹脂(C)の表面自由エネルギー
γ:熱可塑性樹脂(C)の表面自由エネルギーの極性成分
γ:熱可塑性樹脂(C)の表面自由エネルギーの分散成分
【請求項2】
化合物(A)が下記式(c)を満たす、請求項1に記載のサイジング剤塗布炭素繊維束。
γ≧45mJ/m (c)
【請求項3】
前記炭素繊維束が下記式(d)を満たす、請求項1に記載のサイジング剤塗布炭素繊維束。
γCF≧40mJ/m (d)
【請求項4】
化合物(A)は重量平均分子量が10000以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のサイジング剤塗布炭素繊維束。
【請求項5】
化合物(A)のアミン価が5〜200mmol/gである、請求項1〜4のいずれかに記載のサイジング剤塗布炭素繊維束。
【請求項6】
化合物(A)を加熱した際の重量減少△Wrが下記式を満たす、請求項1〜5のいずれかに記載のサイジング剤塗布炭素繊維束。
△Wr=(W1−W2)/W1×100≦15 (e)
(ここで、△Wrは重量減少率(%)であり、常圧の非酸化性雰囲気下で100℃から450℃の温度まで昇温速度10℃/分で熱重量分析を行った際に、30℃時点の試料重量(W1)を基準とした350℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である。)
【請求項7】
化合物(A)は脂肪族アミンである、請求項1〜6のいずれかに記載のサイジング剤塗布炭素繊維束。
【請求項8】
前記脂肪族アミンはポリアルキレンアミンである、請求項7に記載のサイジング剤塗布炭素繊維束。
【請求項9】
化合物(A)は脂肪族アミドである、請求項1〜6のいずれかに記載のサイジング剤塗布炭素繊維束。
【請求項10】
前記脂肪族アミドは総炭素数が12〜50である、請求項9に記載のサイジング剤塗布炭素繊維束。
【請求項11】
熱可塑性樹脂(C)はガラス転移温度が200℃以上である、請求項1〜10のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】
熱可塑性樹脂(C)はポリアミド、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルニトリル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアリーレンスルフィドからなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂である、請求項1〜11のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液中での保管安定性に優れるサイジング剤を塗布したサイジング剤塗布炭素繊維束、そのサイジング剤塗布炭素繊維束を用いた熱可塑性樹脂組成物、およびサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法、ならびにその熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、軽量でありながら、強度および弾性率に優れるため、種々のマトリックス樹脂と組み合わせた複合材料として、航空機部材、宇宙機部材、自動車部材、船舶部材、土木建築材およびスポーツ用品等の多くの分野に用いられている。炭素繊維を用いた複合材料において、炭素繊維の優れた特性を活かすには、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を高めることが重要である。
【0003】
炭素繊維束とマトリックス樹脂との界面接着性を向上させるため、通常、炭素繊維束に気相酸化や液相酸化等の酸化処理を施し、炭素繊維表面に酸素含有官能基を導入する方法が行われている。例えば、特許文献1では炭素繊維束に電解処理を施すことにより、界面接着性の指標である層間せん断強度を向上させる方法が提案されている。
【0004】
一方、炭素繊維は脆く、集束性および耐摩擦性に乏しいため、高次加工工程において毛羽や糸切れが発生しやすい。このため、特許文献2および3では、炭素繊維束にサイジング剤を塗布する方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献4〜6には、エポキシ基を有する化合物をサイジング剤として用いることで界面接着性を向上させる手法が提案されている。しかしながら、エポキシ基を有する化合物は、水溶液中で保管した場合、経時的にエポキシ価が低下する傾向を示すため、サイジング剤塗布工程でのサイジング剤の保管条件に制約があった。
【0006】
また、特許文献7、8では、アミノ基、アミド基を有するサイジング剤を用いることでマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂との相溶性を向上させる手法が提案されている。これらの文献では、サイジング剤、および樹脂の改質によりサイジング剤とマトリックス樹脂間の相互作用を向上させる手法は開示されているものの、実施例にて表面の官能基量の指標である表面酸素濃度(O/C)が0.12以下の炭素繊維束を用いており、炭素繊維束とサイジング剤間の相互作用を高める思想は皆無であった。
【0007】
さらに、高い接着性と水溶液として保管した際の経時変化を抑制することの両立する思想は前述のいずれの文献においても皆無であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平04−361619号公報
【特許文献2】米国特許3,957,716号明細書
【特許文献3】特開昭57−171767号公報
【特許文献4】特開昭63−14114号公報
【特許文献5】特開平7−279040号公報
【特許文献6】特開平8−113876号公報
【特許文献7】特開2013−166922号公報
【特許文献8】特開2006−89734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、サイジング剤水溶液を長期間で保管した後に炭素繊維束に塗布した場合であっても、熱可塑性樹脂に対し高いレベルでの接着性を示すサイジング剤塗布炭素繊維束を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束は、アミノ基またはアミド基を含む化合物(A)をサイジング剤全量100質量部に対して50質量部以上含み、かつ、エポキシ基またはオキサゾリン基を含む化合物を実質的に含まないサイジング剤(B)を炭素繊維束100質量部に対して0.1〜2質量部の割合で付着されてなるサイジング剤塗布炭素繊維束であって、下記式(a)および(b)を満たすことを特徴とする。
Wa(1)=2(γCF・γ0.5+2(γCF・γ0.5≧85mJ/m ・・・(a)
0°≦θCF/s≦60° ・・・(b)
γCF:炭素繊維束の表面自由エネルギーの極性成分
γ:化合物(A)の表面自由エネルギーの極性成分
γCF:炭素繊維束の表面自由エネルギーの分散成分
γ:化合物(A)の表面自由エネルギーの分散成分
θCF/s:炭素繊維束とサイジング剤の接触角。
【0011】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は上記発明のサイジング剤塗布炭素繊維束および熱可塑性樹脂(C)を含有してなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法は、サイジング剤100質量部に対して50質量部以上の化合物(A)を必須成分として含み、かつ、エポキシ基、オキサゾリン基を含む化合物を実質的に含まないサイジング剤(B)を炭素繊維束に塗布して上記サイジング剤塗布炭素繊維束を得るに際し、以下の(I)および(II)の工程を順に経ることを特徴とする。
(I)サイジング剤(B)を水に溶解させる工程。
(II)(I)の工程後、10時間以上経過した後に、(I)で作製した水溶液を炭素繊維束に塗布する工程。
【0013】
また、本発明の成形品の製造方法は、以下の(III)、(IV)、および(V)の工程を順に経ることを特徴とする。
(III)上記の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得る工程。
(IV)該サイジング剤塗布炭素繊維束および熱可塑性樹脂(C)を混合する工程。
(V)(IV)で得た混合物を300℃以上に加熱して成形する成形工程。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、サイジング剤水溶液を長期間で保管した後に炭素繊維束に塗布した場合であっても、熱可塑性樹脂と優れた界面接着性を示すサイジング剤塗布炭素繊維束を得ることができる。その結果、このサイジング剤塗布炭素繊維束を含む熱可塑性樹脂組成物の力学特性も良好になる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、更に詳しく、本発明を実施するための形態について説明する。
【0016】
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束は、アミノ基またはアミド基を含む化合物(A)をサイジング剤全量100質量部に対して50質量部以上含み、かつ、エポキシ基またはオキサゾリン基を含む化合物を実質的に含まないサイジング剤(B)を炭素繊維束100質量部に対して0.1〜2質量部の割合で付着されてなるサイジング剤塗布炭素繊維束であって、下記式(a)および(b)を満たすことを特徴とする。
Wa(1)=2(γCF・γ0.5+2(γCF・γ0.5≧85mJ/m ・・・(a)
0°≦θCF/s≦60° ・・・(b)
γCF:炭素繊維束の表面自由エネルギーの極性成分
γ:化合物(A)の表面自由エネルギーの極性成分
γCF:炭素繊維束の表面自由エネルギーの分散成分
γ:化合物(A)の表面自由エネルギーの分散成分
θCF/s:炭素繊維束とサイジング剤の接触角。
【0017】
サイジング剤としてエポキシ基またはオキサゾリン基を有する化合物を塗布した炭素繊維束は、炭素繊維束との相互作用が強く、接着性が良好であることから、それを用いた熱可塑性樹脂組成物の力学特性が良好になることが確認されている。そのメカニズムは明確ではないが、高反応性であるエポキシ基は、炭素繊維表面のカルボキシル基および水酸基等の官能基と反応し、共有結合による強い相互作用を形成するためと考えられる。一方、本発明者らは、水溶液中で長期間保管したこれらの化合物を、サイジング剤として炭素繊維束に塗布した場合に、サイジング剤塗布炭素繊維束と熱可塑性樹脂との接着性が低下し、熱可塑性樹脂組成物の力学特性も低下することを確認した。
【0018】
そして、本発明者らは、特定のサイジング剤を用いることにより、サイジング剤水溶液を長期保管した後であっても、それを塗布したサイジング剤塗布炭素繊維束と熱可塑性樹脂との接着性(以下、単に接着性と称す。)が高いレベルを維持することを確認した。
【0019】
すなわち、エポキシ基またはオキサゾリン基を含む化合物を実質的に含まないサイジング剤を用いた場合においても、以下の式(a)および(b)を満たした炭素繊維束、およびサイジング剤を組み合わせることで、エポキシ化合物を主成分とするサイジング剤を用いた場合の接着性と同等の接着性を発現することが本発明の重要な特徴といえる。
【0020】
Wa(1)=2(γCF・γ0.5+2(γCF・γ0.5≧85mJ/m ・・・(a)
0°≦θCF/s≦60° ・・・(b)。
【0021】
本発明を構成するサイジング剤(B)は、アミノ基およびアミド基の少なくともいずれかを含む化合物(A)を含むことが必要である。
【0022】
アミノ基またはアミド基を含む化合物(A)を含むサイジング剤を塗布した炭素繊維束は優れた接着性を発現する。その結果、そのサイジング剤が塗布された炭素繊維束を用いた熱可塑性樹脂組成物の力学特性が向上する。そのメカニズムは明確ではないが、アミノ基やアミド基は炭素繊維束表面のカルボキシル基、水酸基等の酸素含有官能基と水素結合等の強い相互作用をすることで、優れた接着性を発現するからであると考える。
【0023】
本発明を構成するサイジング剤(B)においては、溶媒を除いたサイジング剤全量100質量部に対して、化合物(A)を50質量部以上含むことが必要である。50質量部以上含むことで接着性が向上し、それを用いた熱可塑性樹脂組成物の物性も向上する。60質量部以上含むことが好ましく、80質量部以上含むことがさらに好ましい。
【0024】
本発明を構成するサイジング剤(B)は、エポキシ基またはオキサゾリン基を含む化合物を実質的に含まない。ここで、化合物を実質的に含まないとは、そのような化合物が全く存在しないか、たとえ添加物のような形態で存在していたとしても、サイジング剤全量に対して1質量部以下であることを意味する。エポキシ基を含む化合物もオキサゾリン基を含む化合物も実質的に含まないことにより、サイジング剤を水に溶解し、長期間保管した後であっても、サイジング剤に含まれる官能基の加水分解による変化がなく、保管前と同等の接着性を示す。
【0025】
本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維束においては、下記式(a)で算出される炭素繊維束とサイジング剤(B)の接着仕事(Wa(1))が85mJ/m以上であることが必要である。
Wa(1)=2(γCF・γ0.5+2(γCF・γ0.5≧85mJ/m ・・・(a)。
【0026】
接着仕事とは、付着した2つの相を引き離すために必要なエネルギーであり、Wa(1)が85mJ/m以上である場合、炭素繊維束とサイジング剤の相互作用が強くなる。90mJ/m以上であることが好ましく、95mJ/m以上であることがさらに好ましい。
【0027】
ここで、γCF、γs、γCF、γはそれぞれ炭素繊維束の表面自由エネルギーの極性成分、化合物(A)の表面自由エネルギーの極性成分、炭素繊維束の表面自由エネルギーの分散成分、化合物(A)の表面自由エネルギーの分散成分を示す。表面自由エネルギーの極性成分とは極性官能基間に働く電気双極子に作用する相互作用の成分であり、分散成分とはファンデルワールス力に作用する相互作用の成分である。固体と液体とが接着した界面では、2つの相の同成分間に相互作用が働くと考えられる。したがって、その相互作用を強固にして、接着性を向上させるためには、表面自由エネルギーの極性成分がともに大きい炭素繊維束およびサイジング剤、または表面自由エネルギーの分散成分がともに大きい炭素繊維束およびサイジング剤を組み合わせたサイジング剤塗布炭素繊維束を用いることが接着性を高める観点から重要である。
【0028】
式(a)は、以下の方法で算出される。
【0029】
互いに接着している固体1と液体2との接触角をθ1/2とすれば式(1)に示すヤングの式が成立する。
【0030】
cosθ1/2=(γ−γ1/2γ ・・・(1)
ここで、γ1、γはそれぞれ固体1、液体2の表面自由エネルギー、γ1/2は固体1と液体2が接着した状態の界面自由エネルギーを示す。ここで、表面自由エネルギーγは極性成分γおよび分散成分γの和であらわすことができる。
【0031】
γ=γ+γ ・・・(2)
γ=γ+γ ・・・(3)
また、互いに接着している固体1と液体2との接着仕事Waは接着前のエネルギーと接着後におけるエネルギーの差で定義され、デュプレの式(4)であらわすことができる。
【0032】
Wa=γ+γ―γ1/2 ・・・(4)
式(1)、式(3)よりヤング−デュプレの式(5)が成立する。
【0033】
Wa=γ(1+cosθ1/2) ・・・(5)
このWaに対して表面自由エネルギーの各成分の幾何平均則(6)を適用すると、式(7)が成立し、固体1を炭素繊維束、液体2をサイジング剤としてそれぞれの表面自由エネルギーの分散成分、極性成分を求めることにより、本発明で規定する接着仕事Wa(1)が算出できる。
【0034】
γ1/2=γ1+γ−2(γ1・γ0.5−2(γ1・γ0.5 ・・・(6)
Wa=2(γ1・γ0.5+2(γ1・γ0.5 ・・・(7)。
【0035】
本発明において、炭素繊維束、サイジング剤、および熱可塑性樹脂の表面自由エネルギーは次の手法により得ることができる。
【0036】
炭素繊維束の表面自由エネルギーは、サイジング剤塗布前の炭素繊維束、またはアセトン溶媒で1〜10分間超音波洗浄した後、蒸留水で洗い流したサイジング剤塗布炭素繊維束を用いて評価することができる。算出方法として、ウィルヘルミ法によって測定される表面自由エネルギーの極性成分および分散成分が既知である液体と炭素繊維束の接触角をもとに、オーエンスの近似式を用いて算出することができる。
【0037】
オーエンスの近似式は、液体の表面自由エネルギーγ、表面自由エネルギーの極性成分γ、表面自由エネルギーの分散成分γL、および測定により得られる接触角θを式(8)〜式(10)に代入し、X、Yにプロットする。2種類以上の表面自由エネルギーの極性成分および分散成分が既知である液体を用いて作成したプロットの最小自乗法により直線近似した近似式の傾きaの2乗をγCF、切片bの2乗をγCFとして求めることができる。
【0038】
Y=a・X+b ・・・(8)
X=(γ0.5/(γ0.5 ・・・(9)
Y=(1+cosθ)・(γ)/2(γ0.5 ・・・(10)。
【0039】
熱可塑性樹脂の表面自由エネルギーは、熱可塑性樹脂の平板上に表面自由エネルギーの極性成分および分散成分が既知である液体を滴下し、作製した液滴の形状から測定した接触角をもとに、前述のオーエンスの近似式より傾きaの2乗をγr、切片bの2乗をγとして求めることができる。
【0040】
サイジング剤の表面自由エネルギーは、前記方法により表面自由エネルギーを算出した熱可塑性樹脂平板上にサイジング剤を滴下し、作製した液滴の形状から測定した接触角をもとに、前述の式(8)〜式(10)のγL、γをそれぞれγs、γに変更して算出することができる。
【0041】
本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維束においては、炭素繊維束とサイジング剤の接触角θCF/sが0°≦θCF/s≦60°であることが必要である。θCF/sが60°以下であると、炭素繊維束上でのサイジング剤の濡れ性が向上する。これによりサイジング剤が炭素繊維束に均一に付着するため、炭素繊維束とサイジング剤の接着性が向上する。θCF/sは上述の式(1)より算出できる。
【0042】
次に、本発明で用いるサイジング剤塗布炭素繊維束を構成する成分について説明する。
【0043】
本発明で用いられる炭素繊維束としては特に制限は無いが、力学特性の観点からは、ポリアクリロニトリル系炭素繊維が好ましく用いられる。本発明に用いられるポリアクリロニトリル系炭素繊維束は、ポリアクリロニトリル系重合体からなる炭素繊維前駆体繊維を酸化性雰囲気中で最高温度200〜300℃で耐炎化処理した後、不活性下雰囲気下中、最高温度500〜1200℃で予備炭化処理を行い、次いで不活性雰囲気中、最高温度1200〜2000℃で炭化処理することで得られる。
【0044】
本発明を構成する炭素繊維束は、γCFが40mJ/m以上であることが好ましい。前述の(a)式より、Wa(1)は炭素繊維束とサイジング剤の表面自由エネルギーの各成分の積であるため、炭素繊維束およびサイジング剤双方の表面自由エネルギーの極性成分または分散成分が大きくなることでWa(1)が高くなり、接着性が向上する。50mJ/m以上であることがより好ましく、60mJ/m以上であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明において、炭素繊維束としては、X線光電子分光法により測定されるその繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度(O/C)が、0.14〜0.30の範囲内であるものが好ましく、より好ましくは0.16〜0.25の範囲内のものであり、さらに好ましくは0.18〜0.20の範囲のものである。O/Cが0.14以上であることにより、炭素繊維表面のカルボキシル基および水酸基が増加し、γCFが増大し、サイジング剤との相互作用が強くなり接着性が向上する。また、O/Cが0.30以下であることにより、酸化による炭素繊維自体の強度の低下を抑えることができる。
【0046】
炭素繊維束のO/Cは、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めることができる。まず、溶剤で炭素繊維束表面に付着している汚れ等を除去した炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積は282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。O1sピーク面積は528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。ここで、表面酸素濃度とは、上記のO1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出できる。
【0047】
次に、化合物(A)について説明する。
【0048】
本発明を構成する化合物(A)は、γが45mJ/m以上であることが好ましく、50mJ/m以上であることがより好ましく、60mJ/m以上であることがさらに好ましい。γが45mJ/m以上であると、(a)式のγおよびγが増大するため、Wa(1)が向上する。このため、サイジング剤塗布炭素繊維束の熱可塑性樹脂との接着性が向上する。
【0049】
本発明を構成する化合物(A)は、3官能以上のアミノ基またはアミド基を有する化合物であることが好ましい。化合物(A)として3官能以上の化合物を用いた場合、炭素繊維束表面のカルボキシル基、水酸基等の酸素含有官能基との相互作用が強固になり、接着性が向上するため、好ましい。
【0050】
本発明を構成する化合物(A)は、重量平均分子量が10000以下であることが好ましい。重量平均分子量が10000以下である場合、熱可塑性樹脂へのサイジング剤の拡散性が向上し、炭素繊維束とサイジング剤の接着性が向上するため、好ましい。重量平均分子量が5000以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましい。なお、化合物(A)の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)を用いて測定しポリスチレンで換算した値を用いることができる。
【0051】
本発明を構成する化合物(A)は、アミン価が5〜200mmol/gであることが好ましい。アミン価が5meq/g以上の場合、強化繊維表面との親和性が大きくなり、十分な界面接着性が得られる。アミン価の上限は特にないが、100mmol/g以上で接着性が飽和することがある。アミン価のより好ましい範囲は、15mmol/g以上であり、さらに好ましくは、20mmol/g以上である。
【0052】
アミン価は、ASTM D2074に従って測定する1、2、3級アミンの総量を示す指標で、化合物(A)1gを中和するのに要する塩酸量に相当する水酸化カリウムのモル数を示す。
【0053】
本発明を構成する化合物(A)を加熱した際の重量減少△Wrは下記式(e)を満たすことが好ましい。
【0054】
△Wr=(W1−W2)/W1×100≦15 ・・・(e)
ここで、△Wrは重量減少率(%)であり、常圧の非酸化性雰囲気下で30℃から450℃の温度まで昇温速度10℃/分で熱重量分析を行った際に、100℃時点の試料重量(W1)を基準とした350℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である。
【0055】
本発明を構成する化合物(A)の△Wrが15%以下の場合、たとえばサイジング剤塗布炭素繊維束を熱可塑性樹脂と混合し、成形加工する際に分解物による接着性低下を抑えられるため好ましい。また、発生ガス量を低く抑えられるため、好ましい。△Wrは10%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。
【0056】
本発明を構成する化合物(A)としては、脂肪族アミン化合物、芳香族アミン化合物、脂肪族アミド化合物、芳香族アミド化合物が挙げられる。中でも、高接着性を示す観点から脂肪族アミン化合物、および脂肪族アミドが好ましい。
【0057】
脂肪族アミン化合物の具体的な例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジシアンジアミド、テトラエチレンペンタミン、ジプロプレンジアミン、ピペリジン、N,N−ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、ポリアミドアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、ステアリルアミン、ココアルキルアミン、牛脂アルキルアミン、オレイルアミン、硬化牛脂アルキルアミン、N,N−ジメチルラウリルアミン、N,N−ジメチルミリスチルアミン等の脂肪族モノアミン類;ポリエチレンイミン、ポリプロピレイミン、ポリブチレンイミン、1,1−ジメチル−2−メチルエチレンイミン、1,1−ジメチル−2−プロピルエチレンイミン、N−アセチルポリエチレンイミン、N−プロピオニルポリエチレンイミン、N−ブチリルポリエチレンイミン、N−パレリルポリエチレンイミン、N−ヘキサノイルポリエチレンイミン、N−ステアロイルポリエチレンイミン等のポリアルキレンアミン類;およびその誘導体、およびそれらの混合物等が挙げられる。この中でもポリアルキレンアミンは、γが大きいため、接着性向上の観点から好ましい。
【0058】
芳香族アミンの具体的な例としては、1,2−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、1,4−フェニレンジアミン、ベンジジン、トリアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、2,4,6−トリアミノフェノール、1,2,3−トリアミノプロパン、1,2,3−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、1,3,5−トリアミノベンゼンおよびその誘導体、およびそれらの混合物等が挙げられる。
【0059】
脂肪族アミドの具体的な例としては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘン酸アミド等のモノアミド類;メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド等のビスアミド類;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン610等の脂肪族ポリアミド類およびその誘導体、およびそれらの混合物等が挙げられる。ポリアミド系樹脂の水性化を容易にするため、分子中にポリアルキレンオキサイド鎖や3級アミン成分等の親水基を導入したものを用いることできる。これら脂肪族アミドは、単独で使用しても2種類以上を混合して使用してもよい。
【0060】
本発明を構成する化合物(A)は、総炭素数が12〜50である脂肪族アミドであることが好ましい。総炭素数が12以上であると分解温度が高くなり、成形加工する際に分解物による接着性低下を抑えられるため好ましい。総炭素数が50であると分子鎖の自由度が高くなるため、炭素繊維表面の官能基と強い相互作用を有することが可能である。中でもステアリン酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドが好ましい。
【0061】
芳香族アミドとしては、N,N−ジフェニルアセトアミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド等の芳香族系ビスアミド類;ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド等の芳香族ポリアミド等が挙げられる。
【0062】
また、本発明を構成するサイジング剤(B)は、化合物(A)以外の成分を1種類以上含んでも良い。サイジング剤塗布炭素繊維束に収束性あるいは柔軟性を付与することで取扱い性、耐擦過性および耐毛羽性を高め、熱可塑性樹脂の含浸性を向上させる目的で、収束剤、分散剤および界面活性剤等の補助成分を添加しても良い。
【0063】
本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維束はサイジング剤(B)が炭素繊維束100質量部に対して0.1〜2質量部の割合で付着されてなる。
【0064】
サイジング剤(B)の付着量が0.1質量部以上であると、サイジング剤が炭素繊維束表面に均一に付着するため、接着性が向上する。さらにサイジング剤を塗布した炭素繊維束を熱可塑性樹脂と配合する際に、通過する金属ガイド等による摩擦に耐えることができ、毛羽発生が抑えられ、炭素繊維シートの平滑性等の品位が優れる。一方、サイジング剤(B)の付着量が2質量部以下であると、熱可塑性樹脂が成形時に周囲のサイジング剤膜に阻害されることなく炭素繊維束内部に含浸されるため、機械物性が優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。さらに、サイジング剤を塗布した炭素繊維束の柔軟性が良好になるため、ボビンへの巻き取りが容易になる。0.2〜1質量部か好ましく、0.5〜1質量部がさらに好ましい。
【0065】
炭素繊維束へのサイジング剤(B)の付着量は、サイジング剤(B)が塗布された炭素繊維束を2.0±0.5g採取し、窒素雰囲気中450℃にて加熱処理を15分間行ったときの該加熱処理前後の質量の変化を測定して求められ、サイジング剤塗布炭素繊維束100質量部あたりの質量変化量をサイジング剤(B)の付着量(質量部)とする。
【0066】
次に、本発明に用いられるポリアクリロニトリル系炭素繊維束の製造方法について説明する。
【0067】
本発明において、炭素繊維束は、熱可塑性樹脂との接着性を向上させるために、通常、酸化処理が施され、酸素含有官能基が表面に導入される。酸化処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられるが、生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。
【0068】
本発明において、液相電解酸化で用いられる電解液としては、酸性電解液およびアルカリ性電解液が挙げられる。酸性電解液としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸、ホウ酸、および炭酸等の無機酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、アクリル酸、およびマレイン酸等の有機酸、または硫酸アンモニウムや硫酸水素アンモニウム等の塩が挙げられる。なかでも、強酸性を示す硫酸と硝酸が好ましく用いられる。アルカリ性電解液としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化バリウム等の水酸化物の水溶液、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムおよび炭酸アンモニウム等の炭酸塩の水溶液、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウムおよび炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩の水溶液、アンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウムおよびヒドラジンの水溶液等が挙げられる。なかでも、炭酸アンモニウムおよび炭酸水素アンモニウムの水溶液、あるいは、強アルカリ性を示す水酸化テトラアルキルアンモニウムの水溶液が好ましく用いられる。
【0069】
本発明において、液相電解酸化における電気量は、炭素繊維束の炭化度に合わせて最適化することが好ましく、高弾性率の炭素繊維束に処理を施す場合、より大きな電気量が必要である。
【0070】
次に、本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法について述べる。
【0071】
まず、本発明を構成するサイジング剤(B)の炭素繊維束への塗布(付与)手段について述べる。
【0072】
本発明において、サイジング剤は溶媒で希釈し、均一な溶液として用いることが好ましい。このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、およびジメチルアセトアミド等が挙げられるが、なかでも、取扱いが容易であり、安全性の観点から有利であることから、水が好ましく用いられる。
【0073】
本発明を構成するサイジング剤(B)の炭素繊維束への塗布手段として(I)(II)の工程を順に経ることが好ましい。
(I)サイジング剤(B)を水に溶解させる工程。
(II)(I)の工程後、10時間以上経過した後に、(I)で作製した水溶液を炭素繊維束に塗布する工程。
【0074】
本発明を構成するサイジング剤(B)は水に溶解させた後、長期間経過した後においても、それを塗布した炭素繊維束は優れた接着性を示す。10時間以上経過することで、接着性を維持する効果が顕著に現れるため好ましい。より好ましくは24時間以上であり、72時間以上がさらに好ましい。
【0075】
また、水溶液の状態で10時間以上経過したサイジング剤を使用できるため、サイジング剤溶液の調整および液交換の回数が減り、炭素繊維束の生産効率が向上するため、好ましい。さらに、10時間以上連続して、塗布することにより生産効率が向上し、運転コスト的に有利である。より好ましくは24時間以上であり、72時間以上がさらに好ましい。
【0076】
塗布手段としては、例えば、ローラーを介してサイジング剤溶液に炭素繊維束を浸漬する方法、サイジング剤溶液の付着したローラーに炭素繊維束を接する方法、サイジング剤溶液を霧状にして炭素繊維束に吹き付ける方法等があるが、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束を製造する上では、ローラーを介してサイジング剤溶液に炭素繊維束を浸漬する方法が好ましく用いられる。また、サイジング剤の付与手段は、バッチ式と連続式いずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましく用いられる。また、サイジング剤付与時に、炭素繊維束を超音波で加振させることも好ましい態様である。
【0077】
ローラーを介してサイジング剤溶液に炭素繊維束を浸漬する方法に用いるサイジング剤溶液の濃度は10質量%以下であることが、好ましい。10質量%以下であると、付着する固形分がサイジング剤塗布炭素繊維束100質量部に対して、およそ2質量部以下になり、接着性に優れるサイジング剤塗布炭素繊維束が得られるため、好ましい。
【0078】
本発明において、サイジング剤溶液を塗布した後、加熱したローラーに炭素繊維束を接触させることによりサイジング剤塗布炭素繊維束を得ることが好ましい。
【0079】
また、加熱したローラーを通過させた後、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束にさらに熱処理を加えても良い。該熱処理には、接触方式、非接触方式のいずれの加熱方式を採用してもよい。該熱処理を行うことで、サイジング剤成分と炭素繊維表面の官能基との間の相互作用をさらに高めることができる。熱処理条件としては、160〜260℃の温度範囲で30秒以上600秒以下が好ましい。160℃以上または30秒以上の場合、接着性がさらに高まる。260℃以下または600秒以下の場合、サイジング剤成分の熱劣化を抑制することができる。
【0080】
また、前記熱処理は、マイクロ波照射および/または赤外線照射で行うことも可能である。
【0081】
次に、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物について説明する。
【0082】
本発明において、熱可塑性樹脂(C)は、下記式(f)および(g)を満たすことが好ましい。
【0083】
γ≧40mJ/m・・・(f)
Wa(2)=2(γr・γ0.5+2(γr・γ0.5≧95mJ/m・・・(g)
γ:熱可塑性樹脂(C)の表面自由エネルギー
γ:熱可塑性樹脂(C)の表面自由エネルギーの極性成分
γ:熱可塑性樹脂(C)の表面自由エネルギーの分散成分。
【0084】
γが40mJ/m以上であると、サイジング剤(B)と熱可塑性樹脂の相互作用が強固になり、接着性が向上するため、好ましい。
【0085】
Wa(2)が95mJ/m以上である場合、サイジング剤(B)と熱可塑性樹脂(C)の相互作用が強くなり、接着性が向上する。100mJ/m以上であることがより好ましい。
【0086】
本発明において、熱可塑性樹脂(C)は、ガラス転移温度が200℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度が200℃以上であると成形温度が高くなり、サイジング剤(B)の熱可塑性樹脂中への拡散が均一になるため、熱可塑性樹脂組成物を用いた熱可塑性樹脂組成物の物性も向上する。
【0087】
本発明を構成する熱可塑性樹脂(C)としては、ポリアミド、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルニトリル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアリーレンスルフィドからなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂が好ましい。上述の樹脂であれば、曲げ強度、引張り強度等の樹脂の力学特性が高く、熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品の強度が高くなるため、好ましい。なお、熱可塑性樹脂としては、本発明の目的を損なわない範囲で、これらの樹脂を複数種含む熱可塑性樹脂が用いられても良い。
【0088】
次に、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品の製造工程について説明する。
【0089】
本発明の成形品の製造方法は、以下の(IV)、(V)および(VI)の工程を順に経ることが好ましい。
(IV)サイジング剤塗布炭素繊維束を得る工程。
(V)該サイジング剤塗布炭素繊維束および熱可塑性樹脂(E)を混合する工程。
(VI)(V)で得た混合物を300℃以上に加熱して成形する工程。
【0090】
成形工程で300℃以上に加熱して成形することにより、熱可塑性樹脂中へサイジング剤(B)が十分に拡散し、熱可塑性樹脂組成物の物性も向上する。
【0091】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ペレット、スタンパブルシート、UDテープおよびプリプレグ等の成形材料の形態で使用することができる。
【0092】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品の用途としては、例えば、パソコン、ディスプレイ、OA機器、携帯電話、携帯情報端末、ファクシミリ、コンパクトディスク、ポータブルMD、携帯用ラジオカセット、PDA(電子手帳等の携帯情報端末)、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、娯楽用品、玩具用品、その他家電製品等の電気、電子機器の筐体およびトレイやシャーシ等の内部部材やそのケース、機構部品、パネル等の建材用途、モーター部品、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、サスペンション部品、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係、排気系または吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、各種アーム、各種フレーム、各種ヒンジ、各種軸受、燃料ポンプ、ガソリンタンク、CNGタンク、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、ディストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、バッテリートレイ、ATブラケット、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング、ハンドル、ドアビーム、プロテクター、シャーシ、フレーム、アームレスト、ホーンターミナル、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ノイズシールド、ラジエターサポート、スペアタイヤカバー、シートシェル、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、アンダーカバー、スカッフプレート、ピラートリム、プロペラシャフト、ホイール、フェンダー、フェイシャー、バンパー、バンパービーム、ボンネット、エアロパーツ、プラットフォーム、カウルルーバー、ルーフ、インストルメントパネル、スポイラーおよび各種モジュール等の自動車、二輪車関連部品、部材および外板やランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブ等の航空機関連部品、部材および外板、風車の羽根等が挙げられる。特に、航空機部材、風車の羽根、自動車外板および電子機器の筐体およびトレイやシャーシ等に好ましく用いられる。
【実施例】
【0093】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0094】
<炭素繊維束の表面酸素濃度(O/C)の測定方法>
炭素繊維束の表面酸素濃度(O/C)は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めることができる。まず、溶剤で炭素繊維束表面に付着している汚れ等を除去した炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積は282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。O1sピーク面積は528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。ここで、表面酸素濃度とは、上記のO1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出できる。
【0095】
<サイジング付着量の測定方法>
2.0±0.5gのサイジング塗布炭素繊維束を秤量(W1)(少数第4位まで読み取り)した後、50ミリリットル/分の窒素気流中、450℃の温度に設定した電気炉(容量120cm)に15分間放置し、サイジング剤(B)を完全に熱分解させる。そして、20リットル/分の乾燥窒素気流中の容器に移し、15分間冷却した後の炭素繊維束を秤量(W2)(少数第4位まで読み取り)して、W1−W2によりサイジング付着量を求める。このサイジング付着量を炭素繊維束100質量部に対する質量部に換算した値(小数点第3位を四捨五入)を、付着したサイジング剤(B)の付着量(質量部)とした。測定は2回おこない、その平均値をサイジング剤の付着量とした。
【0096】
<界面せん断強度の測定方法>
炭素繊維束から単糸を抜き出し、厚み0.4mm以上になるように積層した樹脂フィルムで上下方向から挟み、熱プレス装置にて、加熱加圧した後、加圧状態を維持しながら、常温まで冷却し、炭素繊維単糸を埋め込んだ成形板を得た。この成形板からSD型レバー裁断機を用いて、ダンベル形状のIFSS測定用試験片を打ち抜いた。
【0097】
ダンベル形状の試料の両端部を挟み、繊維軸方向(長手方向)に引張力を与え、2.0mm/分の速度で歪みを12%生じさせた。その後、試験片中央部20mmを切り取り、ホットプレート上にガラス板間に挟んだ状態で熱可塑性樹脂の融点以上まで加熱した。加熱により透明化させた試料内部の断片化された繊維長を顕微鏡で観察した。さらに平均破断繊維長laから臨界繊維長lcを、lc(μm)=(4/3)×la(μm)の式により計算した。ストランド引張強度σと炭素繊維単糸の直径dを測定し、炭素繊維と樹脂界面の接着強度の指標である界面せん断強度(IFSS)を、次式で算出した。実施例では、測定数n=5の平均を試験結果とした。
IFSS(MPa)=σ(MPa)×d(μm)/(2×lc)(μm)
本発明において、IFSSの好ましい範囲は以下の通りとした。
【0098】
熱可塑性樹脂
・ポリエーテルイミド 40MPa以上
・ポリフェニレンスルフィド 24MPa以上
・ポリプロピレン 16MPa以上
水溶液保管前後のIFSSの差 2MPa以下。
【0099】
<化合物(A)の熱減量の測定方法>
熱重量分析機(パーキンエルマー社製TGA7)を用いて、下記条件にて重量減少率の測定を行った。
測定雰囲気:窒素(純度:99.99%以上)気流下
試料仕込み重量:約10±1mg
測定条件は、30℃で1分保持した後、昇温速度10℃/分で30℃から450℃まで昇温した。
【0100】
重量減少率△Wrは30℃から450℃までの昇温過程において、100℃時の試料重量W1を基準として、350℃到達時の試料重量W2から式(e)を用いて算出した。
【0101】
△Wr=(W1−W2)/W1×100≦15 ・・・(e)。
【0102】
<炭素繊維束の表面自由エネルギーの評価方法>
次の(イ)〜(ハ)の手順に従い、炭素繊維束、サイジング剤および熱可塑性樹脂の表面自由エネルギーを求めた。
【0103】
(イ)炭素繊維束の表面自由エネルギー
炭素繊維束の接触角は試料となる炭素繊維束の単繊維をホルダーに貼り付け、ウィルヘルミ法により測定した。測定は、溶媒の入ったセルを複数本の単繊維の下端に近づけ、単繊維の先端から5mmまで浸漬させた後、単繊維を引き上げた。この操作を4回以上繰り返し、水液中に浸漬している時、すなわち単繊維が前進している際に単繊維の受ける力Fを電子天秤で測定し、この値を用いて次式より接触角θの値を算出した。
cosθ=(単繊維が受ける力F(mN))/((単繊維の数)×単繊維の円周(m)×液体の表面自由エネルギー(mN/m))
接触角θの算出には、1〜4回の平均値を用いた。これを3試験実施し、3試験の平均値を接触角とした。溶媒として精製水、エチレングリコール、リン酸トリクレジルを用いた。炭素繊維の表面自由エネルギーγCF、表面自由エネルギーの極性成分γCF、および表面自由エネルギーの極性成分γCFを、上記の方法で測定された炭素繊維束の単繊維の各溶媒に対する接触角から、以下のオーエンスの近似式を用いて算出した。
【0104】
オーエンスの近似式は、各溶媒固有の表面自由エネルギーの成分、接触角を代入し、X、Yにプロットした後、最小自乗法により直線近似したときの傾きaおよび、切片bの自乗により求めた。
Y=a・X+b
X=(γ0.5/(γ0.5
Y=(1+cosθ)・(γ)/2(γ0.5
ここで、γL、γ、γは、それぞれ接触角を測定した溶媒の表面自由エネルギー、極性成分、および分散成分である。
γCF=a
γCF=b
γCF=a+b
なお、使用した液体の表面自由エネルギーの極性成分および分散成分は、以下の固有値を用いた。
【0105】
・精製水
表面自由エネルギー72.8mJ/m、極性成分51mJ/m、分散成分21.8mJ/m
【0106】
・エチレングリコール
表面自由エネルギー48.0mJ/m、極性成分19.0mJ/m、非極性成分29.0mJ/m
【0107】
・リン酸トリクレジル
表面自由エネルギー40.9mJ/m、極性成分1.7mJ/m、非極性成分39.2mJ/m
【0108】
(ロ)熱可塑性樹脂の表面自由エネルギー
熱可塑性樹脂の平板上に溶媒50μlを静かに滴下した。このとき水滴の形状からθ/2法を用いて、接触角を算出した。接触角は各10点の平均値を用いた。溶媒として精製水、エチレングリコール、およびリン酸トリクレジルを用いて、オーエンスの近似式を用いて表面自由エネルギーγ、表面自由エネルギーの極性成分γ、および表面自由エネルギーの分散成分γを算出した。
【0109】
(ハ)サイジング剤の表面自由エネルギー
(ロ)にて表面自由エネルギーを求めた熱可塑性樹脂平板にサイジング剤を50μlを静かに滴下した。このとき水滴の形状からθ/2法を用いて、接触角を算出した。接触角は各10点の平均値を用いた。平板として、ポリエーテルイミド、ポリプロピレンおよびポリフェニレンスルフィドを用い、オーエンスの近似式を用いて表面自由エネルギーγ、表面自由エネルギーの極性成分γp、および表面自由エネルギーの分散成分γを算出した。
【0110】
各実施例および各比較例で用いた材料と成分は下記の通りである。
【0111】
(A)成分:
A−1:ポリエチレンイミン
(重量平均分子量Mw=1300、アミン価18mmol/g、γ=61mJ/m)
(BASFジャパン(株)製 “Lupasol(登録商標)”G20Waterfree)
A−2:ポリエチレンイミン
(重量平均分子量Mw=800、アミン価20mmol/g、γ=62mJ/m)
(BASFジャパン(株)製 “Lupasol(登録商標)”FG)
A−3:ポリアミド
(総炭素数50以上、γ=42mJ/m
(東レ(株)製、AQナイロンP−70)
A−4:ステアリン酸アマイド
(総炭素数18、γ=48mJ/m
(日本化成(株)製 “アマイド(登録商標)”AP−1)
A−5:エチレンビスステアリン酸アマイド
(総炭素数38、γ=46mJ/m
(日本化成(株)製 “スリパックス(登録商標)”E)
A−6:アミノエチル化アクリルポリマー
(アミン価1mmol/g、γ=36mJ/m
(日本触媒(株)製“ポリメント(登録商標)”NK−350)。
【0112】
(A)以外のサイジング剤成分:
D−1:ポリグリセリン
(γ=47mJ/m
(阪本薬品工業(株)製 ポリグリセリン#750)
D−2:ポリグリセロールポリグリシジルエーテル
(γ=51mJ/m
(ナガセケムテックス(株)製 “デナコール(登録商標)”Ex−314)
D−3:ビスフェノールA型エポキシ
(γ=47mJ/m
(ジャパンエポキシレジン(株)製 “jER(登録商標)”828)
D−4:ビスフェノールF型エポキシ
(γ=49mJ/m
(ジャパンエポキシレジン(株)製 “jER(登録商標)”4004P)
D−5:オキサゾリン基含有ポリマー
(γ=60mJ/m
(日本触媒(株)製 “エポクロス(登録商標)”WS−700)。
【0113】
(C)成分:熱可塑性樹脂
C−1:ポリエーテルイミド
(ガラス転移温度217℃)
(三菱樹脂(株)製“スペリオ(登録商標)”Eタイプ)
C−2:ポリフェニレンスルフィド
(ガラス転移温度89℃)
(ポリプラスチックス(株)製 “ジュラファイド(登録商標)”PPS W−540)
C−3:ポリプロピレン(ガラス転移温度−2℃)
(プライムポリマー(株)製 ポリプロピレン J106G)。
【0114】
(実施例1)
本実施例は、次の第1〜5の工程からなる。
【0115】
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
イタコン酸を共重合したアクリロニトリル共重合体を紡糸し、焼成し、総フィラメント数12,000本、総繊度800テックス、比重1.8、ストランド引張強度5.1GPa、ストランド引張弾性率240GPaの炭素繊維束を得た。次いで、その炭素繊維束を、濃度0.1モル/lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維束1g当たり100クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維束を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維束(CF−1)を得た。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.16であり、γCFは55mJ/mであった。
【0116】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
サイジング剤(B)として化合物(A)である(A−1)を水と混合し、サイジング剤が均一に溶解した約1質量%の水溶液を得た。このサイジング剤水溶液を用い、浸漬法によりサイジング剤(B)を表面処理された炭素繊維束に塗布した後、210℃の温度で90秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理されたサイジング剤塗布炭素繊維束全量100質量部に対して、0.5質量部となるように調整した。Wa(1)は95mJ/mであった。
【0117】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
前工程で得られた炭素繊維束と、熱可塑性樹脂(C)として(C−1)を用いて、界面せん断強度の測定方法に基づき、IFSS測定用試験片を作製した。熱プレスの加熱加圧条件は350℃、2.0MPaであった。
【0118】
続いて、得られたIFSS測定用試験片を用いて、IFSSを測定した。結果を表1にまとめた。その結果、IFSSが45MPaであり、接着性が十分に高いことがわかった。
【0119】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤(B)を炭素繊維束に付着させる工程
前記第2の工程で作製したサイジング剤水溶液を80℃で10日間静置した後、このサイジング剤水溶液を用いた以外は、前記IIの工程と同様にしてサイジング剤(B)を表面処理された炭素繊維束に塗布した。
【0120】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
前工程で得られた炭素繊維束から単糸を抜き出したこと以外は、第3の工程と同様にしてIFSS測定用試験片を作製した。続いて、得られたサイジング剤塗布炭素繊維束を用いて、IFSSを測定した。その結果、IFSSが45MPaであった。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことによるIFSSの低下はなく、サイジング剤(B)を水溶液中で保管した後も接着性が維持することがわかった。
【0121】
【表1】
【0122】
(実施例2〜7)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0123】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
サイジング剤(B)の成分を表1に示す通りに用いた以外は実施例1と同様にした。サイジング剤(B)の付着量はいずれの場合もサイジング剤塗布炭素繊維束全量100質量部に対して、0.5質量部に調整した。Wa(1)は88〜95mJ/mであった。
【0124】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表1にまとめた。その結果、IFSSが41〜46MPaであり、接着性が十分に高いことがわかった。
【0125】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0126】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表1にまとめた。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことにより低下したIFSSの値は0〜1MPaであり、サイジング剤(B)を水溶液中で保管した後も接着性が維持することがわかった。
【0127】
(比較例1〜3)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0128】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
サイジング剤(B)の成分を表1に示す通りに用いた以外は実施例1と同様にした。サイジング剤(B)の付着量はいずれの場合もサイジング剤塗布炭素繊維束全量100質量部に対して、0.5質量部に調整した。Wa(1)は83〜84mJ/mであった。
【0129】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表1にまとめた。その結果、IFSSが37〜39MPaであり、接着性が不十分であることがわかった。
【0130】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0131】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表1にまとめた。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことによるIFSSの低下はなかったが、接着性は不十分であった。
【0132】
(比較例4〜7)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0133】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
化合物(A)を表1に示す通りに用いた以外は実施例1と同様にした。サイジング剤(B)の付着量はいずれの場合もサイジング剤塗布炭素繊維束全量100質量部に対して、0.5質量部に調整した。Wa(1)は82〜115mJ/mであった。
【0134】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表1にまとめた。その結果、IFSSが40〜47MPaであり、接着性が十分に高いことがわかった。
【0135】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0136】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表1にまとめた。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことにより低下したIFSSの値は4〜5MPaであり、サイジング剤(B)を水溶液中で保管すると接着性が低下することがわかった。
【0137】
(実施例8)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
電気量を炭素繊維束1g当たり120クーロンで電解表面処理したこと以外は実施例1と同様にして炭素繊維束を(CF−2)を得た。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.20であり、γCFは58mJ/mであった。
【0138】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。Wa(1)は102mJ/mであった。
【0139】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表2にまとめた。その結果、IFSSが47MPaであり、接着性が十分に高いことがわかった。
【0140】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0141】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表2にまとめた。その結果、IFSSは47MPaであった。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことによるIFSSの低下はなく、サイジング剤(B)を水溶液中で保管した後も接着性が維持することがわかった。
【0142】
【表2】
【0143】
(実施例9)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
電気量を炭素繊維束1g当たり60クーロンで電解表面処理したこと以外は実施例1と同様にして炭素繊維束(CF−3)を得た。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.14であり、γCFは39mJ/mであった。
【0144】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。Wa(1)は92mJ/mであった。
【0145】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表2にまとめた。その結果、IFSSが43MPaであり、接着性が十分に高いことがわかった。
【0146】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0147】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表2にまとめた。その結果、IFSSは42MPaであった。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことにより低下したIFSSの値は1MPaであり、サイジング剤(B)を水溶液中で保管した後も接着性が維持することがわかった。
【0148】
(比較例8)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
電気量を炭素繊維束1g当たり40クーロンで電解表面処理したこと以外は実施例1と同様にして炭素繊維束を原料となる炭素繊維束(CF−4)を得た。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.12であり、γCFは35mJ/mであった。
【0149】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。Wa(1)は85mJ/mであった。
【0150】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表2にまとめた。その結果、IFSSが39MPaであり、接着性が不十分であることがわかった。
【0151】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0152】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。その結果、IFSSは39MPaであった。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことによるIFSSの低下はなかったが、接着性は不十分であった。
【0153】
(実施例10)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0154】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
水溶液の濃度を調整し、サイジング剤塗布炭素繊維束の付着量を表2に示す通りに変更した以外は実施例1と同様にした。
【0155】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表2にまとめた。その結果、IFSSが43MPaであり、接着性が十分に高いことがわかった。また、実施例1と比較して、ローラーとの擦過による毛羽数の増加が確認された。
【0156】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0157】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表2にまとめた。その結果、IFSSは43MPaであった。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことによるIFSSの低下はなく、サイジング剤(B)を水溶液中で保管した後も接着性が維持することがわかった。
【0158】
(実施例11)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0159】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
水溶液の濃度を調整し、サイジング剤塗布炭素繊維束の付着量を表2に示す通りに変更した以外は実施例1と同様にした。
【0160】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表2にまとめた。その結果、IFSSが41MPaであり、接着性が十分に高いことがわかった。
【0161】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0162】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表2にまとめた。その結果、IFSSは41MPaであった。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことによるIFSSの低下はなく、サイジング剤(B)を水溶液中で保管した後も接着性が維持することがわかった。
【0163】
(比較例9)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0164】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
第2の工程を省略し、サイジングを塗布していない炭素繊維束を作製した。
【0165】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
第2の工程で得られるサイジング剤塗布炭素繊維束を第1の工程で得られたサイジングを塗布していない炭素繊維束に変更したこと以外は実施例1と同様にした。得られたIFSS測定用試験片を用いて、IFSSを測定した結果を表2にまとめた。その結果、IFSSが39MPaであり、接着性が不十分であることがわかった。また、実施例1、実施例10と比較して、ローラーとの擦過による毛羽数の増加が確認された。
【0166】
(比較例10)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0167】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
水溶液の濃度を調整し、サイジング剤塗布炭素繊維束の付着量をサイジング剤塗布炭素繊維束全量100質量部に対して、3質量部に変更した以外は実施例1と同様にした。付着量3質量部のサイジング剤塗布炭素繊維束は、固く、ボビンに巻き取ることができなかった。
【0168】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表2にまとめた。その結果、IFSSが38MPaであり、接着性が不十分であることがわかった。
【0169】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0170】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表2にまとめた。その結果、IFSSは37MPaであった。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことにより低下したIFSSの値は1MPaであったが、接着性は不十分であった。
【0171】
(実施例12)
・第1および第2の工程
実施例1と同様にした。
【0172】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
熱可塑性樹脂(C)として(C−2)を用い、熱プレスの加熱加圧条件を320℃、2.0MPaに変更した以外は実施例1と同様にした。
【0173】
続いて、得られたIFSS測定用試験片を用いて、IFSSを測定した。結果を表3にまとめた。その結果、IFSSが24MPaであり、接着性が十分に高いことがわかった。
【0174】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0175】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
前工程で得られた炭素繊維束から単糸を抜き出したこと以外は、第3の工程と同様にしてIFSS測定用試験片を作製した。続いて、得られたサイジング剤塗布炭素繊維束を用いて、IFSSを測定した。結果を表3にまとめた。その結果、IFSSが23MPaであった。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことにより低下したIFSSの値は1MPaであり、サイジング剤(B)を水溶液中で保管した後も接着性が維持することがわかった。
【0176】
(実施例13)
・第1および第2の工程
実施例1と同様にした。
【0177】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
熱可塑性樹脂(C)として(C−3)を用い、熱プレスの加熱加圧条件を220℃、1.0MPaに変更した以外は実施例1と同様にした。
【0178】
続いて、得られたIFSS測定用試験片を用いて、IFSSを測定した。結果を表3にまとめた。その結果、IFSSが16MPaであり、接着性が十分に高いことがわかった。
【0179】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0180】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
前工程で得られた炭素繊維束から単糸を抜き出したこと以外は、第3の工程と同様にしてIFSS測定用試験片を作製した。続いて、得られたサイジング剤塗布炭素繊維束を用いて、IFSSを測定した。結果を表3にまとめた。その結果、IFSSが16MPaであった。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことによるIFSSの低下はなく、サイジング剤(B)を水溶液中で保管した後も接着性が維持することがわかった。
【0181】
【表3】
【0182】
(比較例11、12)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0183】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
サイジング剤(B)の成分を表3に示す通りに用いた以外は実施例1と同様にした。サイジング剤(B)の付着量はいずれの場合もサイジング剤塗布炭素繊維束全量100質量部に対して、0.5質量部に調整した。
【0184】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例12と同様にした。結果を表3にまとめた。
【0185】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0186】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例12と同様にした。結果を表3にまとめた。
【0187】
(比較例13、14)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0188】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
サイジング剤(B)の成分を表3に示す通りに用いた以外は実施例1と同様にした。サイジング剤(B)の付着量はいずれの場合もサイジング剤塗布炭素繊維束全量100質量部に対して、0.5質量部に調整した。
【0189】
実施例1と同様にした。
【0190】
・第3工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例13と同様にした。結果を表3にまとめた。
【0191】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0192】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例13と同様にした。結果を表3にまとめた。
【産業上の利用可能性】
【0193】
本発明によれば、サイジング剤水溶液を長期間で保管した後に炭素繊維束に塗布した場合であっても、熱可塑性樹脂と優れた界面接着性を示すサイジング剤塗布炭素繊維束を得ることができる。本発明の熱可塑性樹脂組成物およびその成形品は、軽量でありながら強度に優れることから、航空機部材、宇宙機部材、自動車部材、船舶部材、土木建築材およびスポーツ用品等の多くの分野に好適に用いることができる。