【実施例】
【0093】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0094】
<炭素繊維束の表面酸素濃度(O/C)の測定方法>
炭素繊維束の表面酸素濃度(O/C)は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めることができる。まず、溶剤で炭素繊維束表面に付着している汚れ等を除去した炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10
−8Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC
1sの主ピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C
1sピーク面積は282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。O
1sピーク面積は528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。ここで、表面酸素濃度とは、上記のO
1sピーク面積とC
1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出できる。
【0095】
<サイジング付着量の測定方法>
2.0±0.5gのサイジング塗布炭素繊維束を秤量(W1)(少数第4位まで読み取り)した後、50ミリリットル/分の窒素気流中、450℃の温度に設定した電気炉(容量120cm
3)に15分間放置し、サイジング剤(B)を完全に熱分解させる。そして、20リットル/分の乾燥窒素気流中の容器に移し、15分間冷却した後の炭素繊維束を秤量(W2)(少数第4位まで読み取り)して、W1−W2によりサイジング付着量を求める。このサイジング付着量を炭素繊維束100質量部に対する質量部に換算した値(小数点第3位を四捨五入)を、付着したサイジング剤(B)の付着量(質量部)とした。測定は2回おこない、その平均値をサイジング剤の付着量とした。
【0096】
<界面せん断強度の測定方法>
炭素繊維束から単糸を抜き出し、厚み0.4mm以上になるように積層した樹脂フィルムで上下方向から挟み、熱プレス装置にて、加熱加圧した後、加圧状態を維持しながら、常温まで冷却し、炭素繊維単糸を埋め込んだ成形板を得た。この成形板からSD型レバー裁断機を用いて、ダンベル形状のIFSS測定用試験片を打ち抜いた。
【0097】
ダンベル形状の試料の両端部を挟み、繊維軸方向(長手方向)に引張力を与え、2.0mm/分の速度で歪みを12%生じさせた。その後、試験片中央部20mmを切り取り、ホットプレート上にガラス板間に挟んだ状態で熱可塑性樹脂の融点以上まで加熱した。加熱により透明化させた試料内部の断片化された繊維長を顕微鏡で観察した。さらに平均破断繊維長laから臨界繊維長lcを、lc(μm)=(4/3)×la(μm)の式により計算した。ストランド引張強度σと炭素繊維単糸の直径dを測定し、炭素繊維と樹脂界面の接着強度の指標である界面せん断強度(IFSS)を、次式で算出した。実施例では、測定数n=5の平均を試験結果とした。
IFSS(MPa)=σ(MPa)×d(μm)/(2×lc)(μm)
本発明において、IFSSの好ましい範囲は以下の通りとした。
【0098】
熱可塑性樹脂
・ポリエーテルイミド 40MPa以上
・ポリフェニレンスルフィド 24MPa以上
・ポリプロピレン 16MPa以上
水溶液保管前後のIFSSの差 2MPa以下。
【0099】
<化合物(A)の熱減量の測定方法>
熱重量分析機(パーキンエルマー社製TGA7)を用いて、下記条件にて重量減少率の測定を行った。
測定雰囲気:窒素(純度:99.99%以上)気流下
試料仕込み重量:約10±1mg
測定条件は、30℃で1分保持した後、昇温速度10℃/分で30℃から450℃まで昇温した。
【0100】
重量減少率△Wrは30℃から450℃までの昇温過程において、100℃時の試料重量W1を基準として、350℃到達時の試料重量W2から式(e)を用いて算出した。
【0101】
△Wr=(W1−W2)/W1×100≦15 ・・・(e)。
【0102】
<炭素繊維束の表面自由エネルギーの評価方法>
次の(イ)〜(ハ)の手順に従い、炭素繊維束、サイジング剤および熱可塑性樹脂の表面自由エネルギーを求めた。
【0103】
(イ)炭素繊維束の表面自由エネルギー
炭素繊維束の接触角は試料となる炭素繊維束の単繊維をホルダーに貼り付け、ウィルヘルミ法により測定した。測定は、溶媒の入ったセルを複数本の単繊維の下端に近づけ、単繊維の先端から5mmまで浸漬させた後、単繊維を引き上げた。この操作を4回以上繰り返し、水液中に浸漬している時、すなわち単繊維が前進している際に単繊維の受ける力Fを電子天秤で測定し、この値を用いて次式より接触角θの値を算出した。
cosθ=(単繊維が受ける力F(mN))/((単繊維の数)×単繊維の円周(m)×液体の表面自由エネルギー(mN/m))
接触角θの算出には、1〜4回の平均値を用いた。これを3試験実施し、3試験の平均値を接触角とした。溶媒として精製水、エチレングリコール、リン酸トリクレジルを用いた。炭素繊維の表面自由エネルギーγ
CF、表面自由エネルギーの極性成分γ
pCF、および表面自由エネルギーの極性成分γ
dCFを、上記の方法で測定された炭素繊維束の単繊維の各溶媒に対する接触角から、以下のオーエンスの近似式を用いて算出した。
【0104】
オーエンスの近似式は、各溶媒固有の表面自由エネルギーの成分、接触角を代入し、X、Yにプロットした後、最小自乗法により直線近似したときの傾きaおよび、切片bの自乗により求めた。
Y=a・X+b
X=(γ
pL)
0.5/(γ
dL)
0.5
Y=(1+cosθ)・(γ
L)/2(γ
dL)
0.5
ここで、γ
L、γ
pL、γ
dLは、それぞれ接触角を測定した溶媒の表面自由エネルギー、極性成分、および分散成分である。
γ
pCF=a
2
γ
dCF=b
2
γ
CF=a
2+b
2
なお、使用した液体の表面自由エネルギーの極性成分および分散成分は、以下の固有値を用いた。
【0105】
・精製水
表面自由エネルギー72.8mJ/m
2、極性成分51mJ/m
2、分散成分21.8mJ/m
2。
【0106】
・エチレングリコール
表面自由エネルギー48.0mJ/m
2、極性成分19.0mJ/m
2、非極性成分29.0mJ/m
2。
【0107】
・リン酸トリクレジル
表面自由エネルギー40.9mJ/m
2、極性成分1.7mJ/m
2、非極性成分39.2mJ/m
2。
【0108】
(ロ)熱可塑性樹脂の表面自由エネルギー
熱可塑性樹脂の平板上に溶媒50μlを静かに滴下した。このとき水滴の形状からθ/2法を用いて、接触角を算出した。接触角は各10点の平均値を用いた。溶媒として精製水、エチレングリコール、およびリン酸トリクレジルを用いて、オーエンスの近似式を用いて表面自由エネルギーγ
r、表面自由エネルギーの極性成分γ
pr、および表面自由エネルギーの分散成分γ
drを算出した。
【0109】
(ハ)サイジング剤の表面自由エネルギー
(ロ)にて表面自由エネルギーを求めた熱可塑性樹脂平板にサイジング剤を50μlを静かに滴下した。このとき水滴の形状からθ/2法を用いて、接触角を算出した。接触角は各10点の平均値を用いた。平板として、ポリエーテルイミド、ポリプロピレンおよびポリフェニレンスルフィドを用い、オーエンスの近似式を用いて表面自由エネルギーγ
s、表面自由エネルギーの極性成分γ
ps、および表面自由エネルギーの分散成分γ
dsを算出した。
【0110】
各実施例および各比較例で用いた材料と成分は下記の通りである。
【0111】
(A)成分:
A−1:ポリエチレンイミン
(重量平均分子量Mw=1300、アミン価18mmol/g、γ
s=61mJ/m
2)
(BASFジャパン(株)製 “Lupasol(登録商標)”G20Waterfree)
A−2:ポリエチレンイミン
(重量平均分子量Mw=800、アミン価20mmol/g、γ
s=62mJ/m
2)
(BASFジャパン(株)製 “Lupasol(登録商標)”FG)
A−3:ポリアミド
(総炭素数50以上、γ
s=42mJ/m
2)
(東レ(株)製、AQナイロンP−70)
A−4:ステアリン酸アマイド
(総炭素数18、γ
s=48mJ/m
2)
(日本化成(株)製 “アマイド(登録商標)”AP−1)
A−5:エチレンビスステアリン酸アマイド
(総炭素数38、γ
s=46mJ/m
2)
(日本化成(株)製 “スリパックス(登録商標)”E)
A−6:アミノエチル化アクリルポリマー
(アミン価1mmol/g、γ
s=36mJ/m
2)
(日本触媒(株)製“ポリメント(登録商標)”NK−350)。
【0112】
(A)以外のサイジング剤成分:
D−1:ポリグリセリン
(γ
s=47mJ/m
2)
(阪本薬品工業(株)製 ポリグリセリン#750)
D−2:ポリグリセロールポリグリシジルエーテル
(γ
s=51mJ/m
2)
(ナガセケムテックス(株)製 “デナコール(登録商標)”Ex−314)
D−3:ビスフェノールA型エポキシ
(γ
s=47mJ/m
2)
(ジャパンエポキシレジン(株)製 “jER(登録商標)”828)
D−4:ビスフェノールF型エポキシ
(γ
s=49mJ/m
2)
(ジャパンエポキシレジン(株)製 “jER(登録商標)”4004P)
D−5:オキサゾリン基含有ポリマー
(γ
s=60mJ/m
2)
(日本触媒(株)製 “エポクロス(登録商標)”WS−700)。
【0113】
(C)成分:熱可塑性樹脂
C−1:ポリエーテルイミド
(ガラス転移温度217℃)
(三菱樹脂(株)製“スペリオ(登録商標)”Eタイプ)
C−2:ポリフェニレンスルフィド
(ガラス転移温度89℃)
(ポリプラスチックス(株)製 “ジュラファイド(登録商標)”PPS W−540)
C−3:ポリプロピレン(ガラス転移温度−2℃)
(プライムポリマー(株)製 ポリプロピレン J106G)。
【0114】
(実施例1)
本実施例は、次の第1〜5の工程からなる。
【0115】
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
イタコン酸を共重合したアクリロニトリル共重合体を紡糸し、焼成し、総フィラメント数12,000本、総繊度800テックス、比重1.8、ストランド引張強度5.1GPa、ストランド引張弾性率240GPaの炭素繊維束を得た。次いで、その炭素繊維束を、濃度0.1モル/lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維束1g当たり100クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維束を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維束(CF−1)を得た。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.16であり、γ
CFは55mJ/m
2であった。
【0116】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
サイジング剤(B)として化合物(A)である(A−1)を水と混合し、サイジング剤が均一に溶解した約1質量%の水溶液を得た。このサイジング剤水溶液を用い、浸漬法によりサイジング剤(B)を表面処理された炭素繊維束に塗布した後、210℃の温度で90秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理されたサイジング剤塗布炭素繊維束全量100質量部に対して、0.5質量部となるように調整した。Wa
(1)は95mJ/m
2であった。
【0117】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
前工程で得られた炭素繊維束と、熱可塑性樹脂(C)として(C−1)を用いて、界面せん断強度の測定方法に基づき、IFSS測定用試験片を作製した。熱プレスの加熱加圧条件は350℃、2.0MPaであった。
【0118】
続いて、得られたIFSS測定用試験片を用いて、IFSSを測定した。結果を表1にまとめた。その結果、IFSSが45MPaであり、接着性が十分に高いことがわかった。
【0119】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤(B)を炭素繊維束に付着させる工程
前記第2の工程で作製したサイジング剤水溶液を80℃で10日間静置した後、このサイジング剤水溶液を用いた以外は、前記IIの工程と同様にしてサイジング剤(B)を表面処理された炭素繊維束に塗布した。
【0120】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
前工程で得られた炭素繊維束から単糸を抜き出したこと以外は、第3の工程と同様にしてIFSS測定用試験片を作製した。続いて、得られたサイジング剤塗布炭素繊維束を用いて、IFSSを測定した。その結果、IFSSが45MPaであった。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことによるIFSSの低下はなく、サイジング剤(B)を水溶液中で保管した後も接着性が維持することがわかった。
【0121】
【表1】
【0122】
(実施例2〜7)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0123】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
サイジング剤(B)の成分を表1に示す通りに用いた以外は実施例1と同様にした。サイジング剤(B)の付着量はいずれの場合もサイジング剤塗布炭素繊維束全量100質量部に対して、0.5質量部に調整した。Wa
(1)は88〜95mJ/m
2であった。
【0124】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表1にまとめた。その結果、IFSSが41〜46MPaであり、接着性が十分に高いことがわかった。
【0125】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0126】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表1にまとめた。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことにより低下したIFSSの値は0〜1MPaであり、サイジング剤(B)を水溶液中で保管した後も接着性が維持することがわかった。
【0127】
(比較例1〜3)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0128】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
サイジング剤(B)の成分を表1に示す通りに用いた以外は実施例1と同様にした。サイジング剤(B)の付着量はいずれの場合もサイジング剤塗布炭素繊維束全量100質量部に対して、0.5質量部に調整した。Wa
(1)は83〜84mJ/m
2であった。
【0129】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表1にまとめた。その結果、IFSSが37〜39MPaであり、接着性が不十分であることがわかった。
【0130】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0131】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表1にまとめた。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことによるIFSSの低下はなかったが、接着性は不十分であった。
【0132】
(比較例4〜7)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0133】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
化合物(A)を表1に示す通りに用いた以外は実施例1と同様にした。サイジング剤(B)の付着量はいずれの場合もサイジング剤塗布炭素繊維束全量100質量部に対して、0.5質量部に調整した。Wa
(1)は82〜115mJ/m
2であった。
【0134】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表1にまとめた。その結果、IFSSが40〜47MPaであり、接着性が十分に高いことがわかった。
【0135】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0136】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表1にまとめた。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことにより低下したIFSSの値は4〜5MPaであり、サイジング剤(B)を水溶液中で保管すると接着性が低下することがわかった。
【0137】
(実施例8)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
電気量を炭素繊維束1g当たり120クーロンで電解表面処理したこと以外は実施例1と同様にして炭素繊維束を(CF−2)を得た。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.20であり、γ
CFは58mJ/m
2であった。
【0138】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。Wa
(1)は102mJ/m
2であった。
【0139】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表2にまとめた。その結果、IFSSが47MPaであり、接着性が十分に高いことがわかった。
【0140】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0141】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表2にまとめた。その結果、IFSSは47MPaであった。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことによるIFSSの低下はなく、サイジング剤(B)を水溶液中で保管した後も接着性が維持することがわかった。
【0142】
【表2】
【0143】
(実施例9)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
電気量を炭素繊維束1g当たり60クーロンで電解表面処理したこと以外は実施例1と同様にして炭素繊維束(CF−3)を得た。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.14であり、γ
CFは39mJ/m
2であった。
【0144】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。Wa
(1)は92mJ/m
2であった。
【0145】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表2にまとめた。その結果、IFSSが43MPaであり、接着性が十分に高いことがわかった。
【0146】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0147】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表2にまとめた。その結果、IFSSは42MPaであった。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことにより低下したIFSSの値は1MPaであり、サイジング剤(B)を水溶液中で保管した後も接着性が維持することがわかった。
【0148】
(比較例8)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
電気量を炭素繊維束1g当たり40クーロンで電解表面処理したこと以外は実施例1と同様にして炭素繊維束を原料となる炭素繊維束(CF−4)を得た。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.12であり、γ
CFは35mJ/m
2であった。
【0149】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。Wa
(1)は85mJ/m
2であった。
【0150】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表2にまとめた。その結果、IFSSが39MPaであり、接着性が不十分であることがわかった。
【0151】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0152】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。その結果、IFSSは39MPaであった。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことによるIFSSの低下はなかったが、接着性は不十分であった。
【0153】
(実施例10)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0154】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
水溶液の濃度を調整し、サイジング剤塗布炭素繊維束の付着量を表2に示す通りに変更した以外は実施例1と同様にした。
【0155】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表2にまとめた。その結果、IFSSが43MPaであり、接着性が十分に高いことがわかった。また、実施例1と比較して、ローラーとの擦過による毛羽数の増加が確認された。
【0156】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0157】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表2にまとめた。その結果、IFSSは43MPaであった。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことによるIFSSの低下はなく、サイジング剤(B)を水溶液中で保管した後も接着性が維持することがわかった。
【0158】
(実施例11)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0159】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
水溶液の濃度を調整し、サイジング剤塗布炭素繊維束の付着量を表2に示す通りに変更した以外は実施例1と同様にした。
【0160】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表2にまとめた。その結果、IFSSが41MPaであり、接着性が十分に高いことがわかった。
【0161】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0162】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表2にまとめた。その結果、IFSSは41MPaであった。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことによるIFSSの低下はなく、サイジング剤(B)を水溶液中で保管した後も接着性が維持することがわかった。
【0163】
(比較例9)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0164】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
第2の工程を省略し、サイジングを塗布していない炭素繊維束を作製した。
【0165】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
第2の工程で得られるサイジング剤塗布炭素繊維束を第1の工程で得られたサイジングを塗布していない炭素繊維束に変更したこと以外は実施例1と同様にした。得られたIFSS測定用試験片を用いて、IFSSを測定した結果を表2にまとめた。その結果、IFSSが39MPaであり、接着性が不十分であることがわかった。また、実施例1、実施例10と比較して、ローラーとの擦過による毛羽数の増加が確認された。
【0166】
(比較例10)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0167】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
水溶液の濃度を調整し、サイジング剤塗布炭素繊維束の付着量をサイジング剤塗布炭素繊維束全量100質量部に対して、3質量部に変更した以外は実施例1と同様にした。付着量3質量部のサイジング剤塗布炭素繊維束は、固く、ボビンに巻き取ることができなかった。
【0168】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表2にまとめた。その結果、IFSSが38MPaであり、接着性が不十分であることがわかった。
【0169】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0170】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例1と同様にした。IFSSの結果を表2にまとめた。その結果、IFSSは37MPaであった。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことにより低下したIFSSの値は1MPaであったが、接着性は不十分であった。
【0171】
(実施例12)
・第1および第2の工程
実施例1と同様にした。
【0172】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
熱可塑性樹脂(C)として(C−2)を用い、熱プレスの加熱加圧条件を320℃、2.0MPaに変更した以外は実施例1と同様にした。
【0173】
続いて、得られたIFSS測定用試験片を用いて、IFSSを測定した。結果を表3にまとめた。その結果、IFSSが24MPaであり、接着性が十分に高いことがわかった。
【0174】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0175】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
前工程で得られた炭素繊維束から単糸を抜き出したこと以外は、第3の工程と同様にしてIFSS測定用試験片を作製した。続いて、得られたサイジング剤塗布炭素繊維束を用いて、IFSSを測定した。結果を表3にまとめた。その結果、IFSSが23MPaであった。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことにより低下したIFSSの値は1MPaであり、サイジング剤(B)を水溶液中で保管した後も接着性が維持することがわかった。
【0176】
(実施例13)
・第1および第2の工程
実施例1と同様にした。
【0177】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
熱可塑性樹脂(C)として(C−3)を用い、熱プレスの加熱加圧条件を220℃、1.0MPaに変更した以外は実施例1と同様にした。
【0178】
続いて、得られたIFSS測定用試験片を用いて、IFSSを測定した。結果を表3にまとめた。その結果、IFSSが16MPaであり、接着性が十分に高いことがわかった。
【0179】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0180】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
前工程で得られた炭素繊維束から単糸を抜き出したこと以外は、第3の工程と同様にしてIFSS測定用試験片を作製した。続いて、得られたサイジング剤塗布炭素繊維束を用いて、IFSSを測定した。結果を表3にまとめた。その結果、IFSSが16MPaであった。サイジング剤(B)を水溶液で保管したことによるIFSSの低下はなく、サイジング剤(B)を水溶液中で保管した後も接着性が維持することがわかった。
【0181】
【表3】
【0182】
(比較例11、12)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0183】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
サイジング剤(B)の成分を表3に示す通りに用いた以外は実施例1と同様にした。サイジング剤(B)の付着量はいずれの場合もサイジング剤塗布炭素繊維束全量100質量部に対して、0.5質量部に調整した。
【0184】
・第3の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例12と同様にした。結果を表3にまとめた。
【0185】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0186】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例12と同様にした。結果を表3にまとめた。
【0187】
(比較例13、14)
・第1の工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0188】
・第2の工程:サイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
サイジング剤(B)の成分を表3に示す通りに用いた以外は実施例1と同様にした。サイジング剤(B)の付着量はいずれの場合もサイジング剤塗布炭素繊維束全量100質量部に対して、0.5質量部に調整した。
【0189】
実施例1と同様にした。
【0190】
・第3工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例13と同様にした。結果を表3にまとめた。
【0191】
・第4の工程:水溶液保管後のサイジング剤を炭素繊維束に付着させる工程
実施例1と同様にした。
【0192】
・第5の工程:IFSS測定用試験片の作製および評価
実施例13と同様にした。結果を表3にまとめた。