特許第6822243号(P6822243)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6822243-ガスクロマトグラフ 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6822243
(24)【登録日】2021年1月12日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】ガスクロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/54 20060101AFI20210114BHJP
【FI】
   G01N30/54 H
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-52017(P2017-52017)
(22)【出願日】2017年3月17日
(65)【公開番号】特開2018-155568(P2018-155568A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2019年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】岡田 昌之
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 龍太
【審査官】 高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−225017(JP,A)
【文献】 実開昭53−138891(JP,U)
【文献】 米国特許第04181613(US,A)
【文献】 国際公開第2014/064804(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/96
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離カラムと、
前記分離カラムを内部に収容し、ヒータ及び温度センサを用いて前記内部の温度を調節することにより前記分離カラムの温度を調節するように構成されたカラムオーブンと、
前記カラムオーブンの外面を囲う断熱材と、
前記断熱材のさらに外側を囲う板金と、
前記分離カラムが接続された流路部分及び前記流路部分を介して前記分離カラムと接続された検出部を備えた検出器であって、前記検出部が前記板金の上方に位置し、前記流路部分が前記板金、前記断熱材及び前記カラムオーブンの上面を貫通した状態で前記カラムオーブンの上面に取り付けられている検出器と、
前記カラムオーブンの少なくとも前記上面側における前記板金と前記断熱材との間に介在し、前記板金よりも内側に存在する流体が前記板金よりも外側へ移動することを遮断する外側シール部材と、を備えたガスクロマトグラフ。
【請求項2】
前記カラムオーブンの筐体と前記断熱材との間に介在して前記筐体の内側から外側への流体の移動を遮断する内側シール部材をさらに備えている請求項1に記載のガスクロマトグラフ。
【請求項3】
前記外側シール部材は薄膜状の部材である請求項1又は2に記載のガスクロマトグラフ。
【請求項4】
前記外側シール部材はアルミニウムシート又はステンレスシートである請求項3に記載のガスクロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を気化した後で分離カラムに導いて成分ごとに分離し、分離された各試料成分を検出器により検出するガスクロマトグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフは、分離カラムの一端に試料気化部、他端に検出器が接続されて構成されている。試料気化部は、注入された試料を気化させて得られた試料ガスをキャリアガスによって分離カラムへ導入するものである。分離カラムに導入された試料ガスは成分ごとに時間的に分離され、各試料成分が検出器によって検出される。
【0003】
分離カラムはカラムオーブン内に収容されて温度制御がなされる。試料気化部や検出器は、カラムオーブンの上面などに取り付けられてカラムオーブンと一体化されている。カラムオーブンは断熱材で覆われており、カラムオーブンの内側と外側とが熱的に遮断されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、検出器の検出感度も温度依存性が高く、検出器温度が変動すると検出感度が乱れて分析結果の再現性を悪化させる。そのため、試料成分の検出を行なう検出器の検出部はカラムオーブンの外側に配置され、カラムオーブンから独立して温度制御がなされるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平7−18850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、ガスクロマトグラフでは、カラムオーブン内の熱による影響が検出器に及ばないように、カラムオーブンを断熱材で覆ってカラムオーブンの内側と外側を熱的に遮断し、検出器の検出部を断熱材の外側に配置している。この構造によって、これまでの測定レンジでは特段の問題が生じていなかったのであるが、検出器の感度をさらに向上させようとしたときに、検出器の検出信号がカラムオーブン内の熱の影響を受けてドリフトするという問題が発生することがわかった。
【0007】
カラムオーブンは断熱材で覆われており、さらにその断熱材の周囲は板金によって囲われているが、断熱材を囲っている板金は完全な気密性をもっているわけではない。例えば板金の継ぎ目など、板金には内部の気体が外部へ漏れ出るような隙間が存在する。さらに、カラムオーブンに追加部品を取り付けるための穴を増設した場合には、内部の気体が外部へ漏れ出るような隙間がさらに増えることになる。
【0008】
断熱材の周囲を囲う板金にそのような隙間が存在していたとしても、カラムオーブンの周囲が断熱材で覆われているため、カラムオーブンからの熱が断熱材の外側に配置された検出器の検出部にまで到達して検出感度に影響を与えることはないはずである。しかし、実際には、検出器の検出感度がカラムオーブンからの熱の影響を受け、検出信号のドリフトが起こるということがわかった。
【0009】
そこで、本発明は、カラムオーブンの熱が検出器に及ぼす影響を低減することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の問題は、カラムオーブンの内外を熱的に遮断する断熱材の素材は通気性を有するウール状のものであるため、カラムオーブンから漏れ出した気体やカラムオーブンからの熱を受けた気体が断熱材の内部を通り、断熱材の外側の板金の隙間から外部へ漏れ出すことによって起こるという知見を得た。本発明はこのような知見に基づいてなされたものである。
【0011】
本発明に係るガスクロマトグラフは、分離カラムと、前記分離カラムを内部に収容してその分離カラムの温度を調節するように構成されたカラムオーブンと、前記カラムオーブンの外面を覆う断熱材と、前記断熱材の外側を覆う板金と、検出部が前記板金の外側に配置され、前記検出部に通じる流路部分が前記板金、前記断熱材及び前記カラムオーブンの上面を貫通して前記分離カラムに接続された検出器と、前記カラムオーブンの少なくとも前記上面側における前記板金と前記断熱材との間に介在し、前記板金の内側から外側への流体の移動を遮断する外側シール部材と、を備えている。外側シール部材の存在により、カラムオーブンからの熱が断熱材の外側を囲っている板金の上面側から漏れ出ることが抑制される。
【0012】
本発明の好ましい実施形態は、前記カラムオーブンと前記断熱材との間に介在して前記筐体の内側から外側への流体の移動を遮断する内側シール部材をさらに備えているものである。内側シール部材を設けることで、カラムオーブンから高温の気体が漏れ出ることが抑制されるので、カラムオーブンの熱が検出器の検出部へさらに到達しにくくなり、検出器に対するカラムオーブン内の熱の影響がさらに小さくなる。さらに、カラムオーブンからの熱の流出が抑制されるため、カラムオーブンの温度制御の精度も向上する。
【0013】
前記外側シール部材は薄膜状の部材であることが好ましい。薄膜状の部材は加工が容易であるため取り扱いやすく、外側シール部材を安価に実現することができる。
【0014】
そのような薄膜状の部材として、アルミニウムシートやステンレスシートが挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るガスクロマトグラフでは、カラムオーブンの少なくとも上面側における板金と断熱材との間に、板金の内側から外側への流体の移動を遮断する外側シール部材が設けられているので、カラムオーブンからの熱を受けた高温気体が、カラムオーブンの上面側に設けられた検出器の検出部まで到達することが抑制され、カラムオーブンの熱が検出器へ及ぼす影響が小さくなる。これにより、検出器の感度を向上させても、カラムオーブン内の熱の影響による検出信号のドリフトの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ガスクロマトグラフの一実施例を示す概略断面構成図である。
図2】ガスクロマトグラフの他の実施例を示す概略断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ガスクロマトグラフの一実施例について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
ガスクロマトグラフは、分離カラム4がカラムオーブン2の内部に収容されており、分離カラム4の一端に試料気化部6が接続され、分離カラム4の他端に検出器8が接続されている。図示は省略されているが、カラムオーブン2はヒータや温度センサを備えており、内部の温度を設定された温度に調節するように構成されている。
【0019】
カラムオーブン2の周囲には、例えばグラスウール、セラミックウール、ロックウール、石膏ボードからなる断熱材10が設けられている。すなわち、カラムオーブン2の外周面は断熱材10によって囲われており、カラムオーブン2の内側と外側とが熱的に遮断されている。
【0020】
カラムオーブン2の周囲を囲っている断熱材10の外周面は例えばスチール、ステンレス、アルミニウムなどからなる板金12によって覆われている。試料気化部6と検出器8はカラムオーブン2の上面側において板金12に取り付けられている。試料気化部6と検出器8はそれぞれ、板金12、断熱材10及びカラムオーブン2の天板を貫通し、カラムオーブン2の内部において分離カラム4と接続されている。
【0021】
ガスクロマトグラフでは、試料気化部6に注入された試料が試料気化部6内において気化されて試料ガスとなり、試料気化部6に供給されるキャリアガスによって分離カラム4へ搬送される。試料ガスは分離カラム4において成分ごとに時間的に分離され、検出器8の検出部8aへ導かれて検出される。
【0022】
検出器8の検出感度は温度依存性を有するため、検出器8の検出部8aの温度がカラムオーブン2からの熱の影響を受けて変動しないように、検出部8aは板金12の外側に配置されてカラムオーブン2から独立して温度調節がなされるようになっている。検出器8のうち板金12の内側へ挿入されているのは、検出部8aへ通じる流路を内部に有する流路部8bである。
【0023】
カラムオーブン2の上面側における断熱材10と板金12との間に薄膜状のシール部材14(外側シール部材)が設けられている。シール部材14はカラムオーブン2の上面側に設けられた板金12に存在する隙間を封止して、板金12の内側の気体が板金12の上面側、すなわち検出器8の検出部8a側へ漏れ出ることを防止する。シール部材14としては、例えばアルミニウムシートやステンレスシートなどを用いることができる。
【0024】
板金12に存在する「隙間」とは、試料気化部6や検出器8を貫通させるために板金12に設けられた穴の隙間や、板金12を構成している板材の接合部分の隙間などである。また、追加部品を取り付けるための穴が板金12に設けられている場合には、そのような穴も「隙間」に該当する。このような「隙間」が存在すると、カラムオーブン2から漏れ出た高温の気体やカラムオーブン2からの熱を受けた気体が検出器8の検出部8a側へ漏れ出てしまうことになる。この実施例では、そのような「隙間」をシール部材14によって封止しているので、カラムオーブン2の熱が検出器8の検出部8aへ到達しにくくなっている。
【0025】
この実施例では、カラムオーブン2の上面と断熱材10との間にもシール部材16(内側シール部材)が設けられている。シール部材16はカラムオーブン2の筐体の隙間を封止して、カラムオーブン2の内部から外側への気体の移動を遮断する。シール部材16としても、シール部材14と同様に、アルミニウムシートやステンレスシートを用いることができる。
【0026】
シール部材16が設けられていない場合、カラムオーブン2から漏れ出た高温の気体が断熱材10を通って検出器8の流路部分8bに到達し得る。カラムオーブン2の上面側における断熱材10と板金12との間にシール部材14が設けられているため、カラムオーブン2から高温の気体が流出しても、シール部材14の存在によって、検出器8の検出部8aが設けられている板金12の上面側へ漏れ出ることはない。しかし、高温の気体は断熱材10の内部を流れて板金12の内側に挿入されている検出器8の流路部8bに接し、カラムオーブン2の熱が流路部8bを介して検出部8aに伝わり、検出感度に影響を与えることになる。
【0027】
この実施例では、検出器8の検出部8aが設けられているカラムオーブン2の上面側において、カラムオーブン2の内部から高温の気体が漏れ出さないように、シール部材16が設けられている。これにより、カラムオーブン2内の高温の気体が検出器8の流路部8bへも到達しにくくなり、検出器8に対するカラムオーブン2内の熱の影響がさらに小さくなる。
【0028】
なお、上記の実施例ではシール部材14及び16をカラムオーブン2の上面側にのみ設けているが、本発明はこれに限定されるものではなく、図2に示されているように、カラムオーブン2の周囲を囲うようにシール部材14及び16を設けてもよい。また、シール部材14と16のいずれか一方のシール部材をカラムオーブン2の上面側にのみ設け、他方のシール部材を図2のようにカラムオーブン2の周囲を囲うように設けてもよい。特に、カラムオーブン2と断熱材10との間のシール部材16をカラムオーブン2の周囲を取り囲むように設けることで、カラムオーブン2からの熱漏れを大幅に低減することができるので、検出器8に対するカラムオーブン2の熱の影響をさらに小さくすることができる。カラムオーブン2からの熱漏れが低減されるので、カラムオーブン2内の温度制御の精度も向上する。
【符号の説明】
【0029】
2 カラムオーブン
4 分離カラム
6 試料気化部
8 検出器
8a 検出部
8b 流路部
10 断熱材
12 板金
14 シール部材(外側シール部材)
16 シール部材(内側シール部材
図1
図2