(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記判定部は、複数の前記平坦区間を検出し、且つ検出した前記平坦区間が前記最軽負荷区間を含まない場合、前記最軽負荷区間に最も近い前記平坦区間における前記モータの角加速度をもとに前記モータの駆動電圧を補正することを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明にかかるモータ制御装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。以下の実施形態で示すモータ制御装置は、空気調和機などに用いられるシングルロータリ圧縮機において、ロータ極数が6極のブラシレス直流モータを駆動するモータ制御装置として説明するが、これに限られず、モータ一般に広く適用できる。以下に示す実施形態および変形例は、矛盾しない範囲で適宜組合せて実施できる。
【0013】
[実施形態]
(実施形態にかかるモータ制御装置)
図1は、実施形態にかかるモータ制御装置を概略的に示す図である。
図2は、制御部の構成を概略的に示すブロック図である。実施形態にかかるモータ制御装置1は、空気調和機などに用いられる圧縮機のモータ19を駆動する。
【0014】
図1に示すように、モータ制御装置1は、交流電源Eを直流電源へ変換する整流回路12、平滑コンデンサ14、直流電力を三相の交流電力へ変換してモータへ供給するインバータ15、制御部17、モータ19のロータの回転位置を検出する位置検出回路18を有する。モータ制御装置1は、圧縮機(図示せず)に組み込まれたモータ19の回転を制御する。
【0015】
整流回路12は、交流電源Eの交流電圧を整流して、整流回路12の正極端子Pおよび負極端子Nに接続されている平滑コンデンサ14で平滑されることにより直流電圧Vdcに変換してインバータ15に供給する。
【0016】
インバータ15は、半導体スイッチング素子(例えば、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、以下、単にトランジスタという)15a〜15fが3相(U相、V相、W相)ブリッジ接続されており、かつ、各々のトランジスタ15a〜15fのコレクタ側にカソード端子を、エミッタ側にアノード端子をそれぞれ接続したダイオード15g〜15lで構成する。このダイオード15g〜15lは、モータ19のステータ巻線の通電相を切り替えた際に発生する還流電流を流すためのフリーホイール(還流)ダイオードである。インバータ15は、整流回路12からの直流電力を三相の交流電力に変換してモータ19へ供給する。
【0017】
位置検出回路18は、モータ19のロータ(図示せず)の回転位置を検出するもので、U相、V相およびW相で発生する誘起電圧と基準電圧(Vdc/2)とを比較して誘起電圧のゼロクロスを検出して、モータ19のロータの位置を検出(以下、位置検出という)したときに位置検出信号を出力する。位置検出したタイミングから次の位置検出をするまでを1区間とする。モータ19が三相モータの場合、そのロータが1回転する間の区間数は、スロット数を3、ロータの極数をnとすると、3×nで求められる。例えばロータの極数が6極の場合は3×6で18区間となり、この位置検出信号のタイミングに基づいてモータ19のステータ巻線の通電相を切り替える。ある区間でモータ19のロータが一定の回転速度で回転すれば各々の区間時間は一定であり、モータ19の回転速度が低下すると区間時間が1区間前の時間より長くなり、回転速度が上昇すると区間時間が1区間前の時間より短くなる。
【0018】
制御部17は、
図1に示すように、位置検出回路18からの位置検出信号に基づいてインバータ制御信号(U、V、W、X、Y、Z)を生成してインバータ15へ出力する。インバータ15のトランジスタ15a、15c、15eをそれぞれU相上アーム、V相上アーム、W相上アームといい、トランジスタ15b、15d、15fをそれぞれU相下アーム、V相下アーム、W相下アームといい、インバータ制御信号U、V、W、X、Y、Zによってアームの切り替え制御とPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御を行いモータ19の回転速度が制御される。
【0019】
制御部17は、
図2に示すように、区間時間算出部23、実回転数算出部24、基準デューティー比算出部25、トルク制御部2、インバータ制御信号生成部34を有する。トルク制御部2は、区間角速度算出部26、区間角加速度算出部27、判定部3、補正部4を有し、モータの負荷トルク変動に対応するためのトルク制御を行う。
【0020】
区間時間算出部23は、位置検出回路18から入力される位置検出信号を用いて前述した1区間の時間間隔(区間時間)を算出する。実回転数算出部24は、区間時間算出部23で算出された区間ごとの区間時間に基づいてモータ19の回転数を算出する。この回転数は、モータ19の実回転数に相当する。
【0021】
基準デューティー比算出部25は、モータを制御する際の目標とする回転数である目標回転数に対応した基準デューティー比が記憶されていて、目標回転数に応じて基準デューティー比が読み出されて、後述のトルク補正部4を介してインバータ制御信号生成部34に出力され、インバータ制御信号生成部34で生成されたインバータ制御信号に基づいてモータ19が回転する。この目標回転数と実回転数算出部24で算出されたモータ19の実回転数を比較し、実回転数が目標回転数よりも小さければ基準デューティー比算出部25は現在の基準デューティー比からデューティー比を増加させて出力し、実回転数が目標回転数よりも大きい場合は、基準デューティー比を減少させて出力し実回転数を目標回転数に近づけるようになっている。この基準デューティー比は、目標回転数とデューティー比との関係を試験等で求めて設定されている。
【0022】
トルク制御部2の区間角速度算出部26は、区間時間算出部23で算出された区間時間に基づいて区間ごとのロータの回転速度すなわち角速度ωを算出する。3スロット6極の三相モータの場合、ロータの1回転で18区間となり、1区間の回転角度θ(機械角)は360度/18=20度(π/9[rad])となる。この場合の1区間の角速度ωは、ω=π/9[rad]/t(tは対象となる区間時間を表す)である。
【0023】
トルク制御部2の区間角加速度算出部27は、区間角速度算出部26で算出された各区間の角速度ωに基づいて、各区間内での角加速度αを算出する。ここでは、対象となる区間の角加速度αは、対象となる区間の角速度ω1と対象となる区間の1区間前の角速度ω0との差分と対象となる区間時間t1に基づいて算出する。具体的には、角加速度αは、α=(ω1−ω0)/t1である。
【0024】
判定部3は、角加速度偏差算出部28、最小角加速度偏差検出部29、最大角加速度検出部30、基準角加速度検出部31を有し、区間角加速度算出部27で算出された区間ごとの角加速度からモータ19のロータの機械角1回転においての負荷トルクが最も小さい最軽負荷区間の検出と、角加速度の偏差が所定の範囲内となる連続する複数の区間である平坦区間の検出と、平坦区間を検出した場合にはその平坦区間が最軽負荷区間を含むか否かを判定して、後述の基準角加速度α_stを決定する。
【0025】
判定部3の角加速度偏差算出部28は、区間角加速度算出部27で算出された各区間の角加速度αに基づいて、隣り合う区間ごとの角加速度偏差Δαを算出する。ここでは、対象となる区間の角加速度偏差Δαは、対象となる区間の角加速度α1と1区間前の角加速度α0との差分として算出される。具体的には、角加速度偏差Δαは、Δα=α1−α0である。
【0026】
判定部3の最小角加速度偏差検出部29は、モータ19のロータ1回転内で、角加速度偏差算出部28で算出された角加速度偏差Δαの最小値と最小となる区間を検出し、その区間を最小角加速度偏差区間とする。
【0027】
判定部3の最大角加速度検出部30は、モータ19のロータ1回転内で、区間角加速度算出部27で算出された角加速度が最大となる区間を検出し、この検出された区間がモータ19の負荷トルクが最も小さい最軽負荷区間となる。
【0028】
判定部3の基準角加速度検出部31は、最小角加速度偏差検出部29で検出された最小角加速度偏差区間での角加速度偏差Δαが、ゼロ、もしくは予め設定された所定の範囲内(例えば±2%)となる連続する複数の区間(後述の平坦区間)があるか否かを判定する。この角加速度偏差がゼロの場合とは、モータ19の負荷トルクと駆動トルクとが釣り合っている状態であり、
図5に示す角加速度カーブでのH部の区間でありこの区間を平坦区間とする。
【0029】
また、
図8に示す平坦区間H1、H2のように連続しない平坦区間が複数存在する場合、最大角加速度検出部30で検出された最大角加速度区間(区間7)に最も近い平坦区間H1を最小角加速度偏差区間とする。
【0030】
そして、基準角加速度検出部31は、平坦区間を検出した場合、検出した平坦区間が最大角加速度検出部30で検出した最軽負荷区間を含むか否かを判定する。検出した平坦区間が最軽負荷区間を含まない場合、その平坦区間を最小角加速度偏差区間としてこの区間の角加速度を基準角加速度α_stとする。一方、基準角加速度検出部31は、平坦区間を検出できない、または、平坦区間を検出し、検出した平坦区間が最軽負荷区間を含む場合には、最大角加速度区間の角加速度を基準角加速度α_stとする。そして、基準角加速度検出部31は、決定した基準角加速度α_stを補正デューティー比出力部32へ出力する。
【0031】
補正部4は、補正デューティー比出力部32、加算部33と、を有し、負荷トルクの変動によって発生する区間ごとの回転速度の変動を補正するための補正デューティー比を算出して、算出した補正デューティー比を基準デューティー比に加算して出力する。
【0032】
補正部4の補正デューティー比出力部32は、負荷トルクの変動による回転速度の変動を補正するための補正デューティー比VcorをVcor=g×(α_st−α_now)により算出する。なお、gはゲイン、α_stは基準角加速度検出部31で確定された基準角加速度、α_nowは現在の区間における角加速度である。ゲインgは、基準角加速度α_stから、現在の区間における角加速度α_nowを減算した角加速度の差分を、電圧値へ変換する定数である。補正デューティー比出力部32は、算出した補正デューティー比Vcorを加算部33へ出力する。前述の基準デューティー比は、実回転数算出部24で算出されたモータ19の実回転数を目標回転数に近づけるように目標回転数と実回転数との差に応じて調整されるが、圧縮機のモータ19のロータ1回転あたりの負荷トルクの変動の補正に対しては対応していない。この負荷トルクの変動によって発生する区間ごとの回転速度の変動分について、補正デューティー比で補うようにしている。
【0033】
補正部4の加算部33は、基準デューティー比算出部25で算出された現在の基準デューティー比Vnowに、補正デューティー比出力部32で算出された補正デューティー比Vcorを加算して、インバータ制御信号生成部34に出力する。インバータ制御信号生成部34は、加算部33から出力されるPWM信号と、位置検出信号に基づいて、インバータ15のスイッチングを制御するインバータ制御信号を生成し、インバータ15によってモータ19を駆動する駆動電圧Vdrを制御することで、モータ19の負荷トルクに対応してモータ19が駆動される。
【0034】
(実施形態にかかるトルク制御処理)
図3は、実施形態にかかるモータ制御装置によるトルク制御処理を示すフローチャートである。実施形態にかかるモータ制御装置1によるトルク制御処理は、モータ制御装置1の制御部17によって、モータの負荷が変化し目標回転数を変更するタイミングで、繰り返し実行される。
【0035】
先ず、制御部17は、圧縮機が運転中であるか否かを判定する(ステップS11)。制御部17は、圧縮機が運転中である場合に(ステップS11:Yes)、ステップS12へ処理を移し、圧縮機が停止中である場合に(ステップS11:No)、ステップS11を繰り返す。
【0036】
ステップS12では、制御部17のトルク制御部2(
図2参照)は、基準角加速度特定処理を行う。基準角加速度特定処理の詳細は、
図4を参照して後述する。次に、トルク制御部2は、基準角加速度α_stが確定しているか否かを判定する(ステップS13)。トルク制御部2は、基準角加速度α_stが確定している場合に(ステップS13:Yes)、ステップS14へ処理を移し、基準角加速度α_stが確定していない場合に(ステップS13:No)、ステップS11へ処理を戻す。すなわち、ステップS13では、トルク制御部2は、ステップS12で何らかの理由により基準角加速度α_stが確定していない場合には、ステップS11から再度処理を実行し、基準角加速度α_stを確定させる。
【0037】
ステップS14では、トルク制御部2は、補正デューティー比出力部32で算出されるモータ19の補正デューティー比Vcorは、Vcor=g×(α_st−α_now)により算出される。なお、gはゲイン、α_stは基準角加速度検出部31で確定した基準角加速度、α_nowは現在の区間における角加速度である。なお、補正デューティー比Vcorは、モータ19の駆動電圧補正量に相当するものである。
【0038】
次に、補正部4の加算部33は、基準デューティー比算出部25で算出された基準デューティー比Vnowに、補正デューティー比出力部32で算出された補正デューティー比Vcorを加算して、モータ19の駆動電圧Vdrの補正処理を行う(ステップS15)。次に、制御部17は、圧縮機が停止中であるか否かを判定する(ステップS16)。制御部17は、圧縮機が停止中である場合に(ステップS16:Yes)、ステップS11へ処理を移し、圧縮機が停止中でなく運転中である場合に(ステップS16:No)、ステップS15へ処理を移す。
【0039】
なお、
図3のステップS15は、ステップS12で特定した最新(直近)の基準角加速度に基づいて駆動電圧Vdrの補正処理を行うことになる。
【0040】
(実施形態にかかる基準角加速度特定処理)
図4は、実施形態にかかる基準角加速度特定処理を示すフローチャートである。
図4に示す基準角加速度特定処理のフローチャートは、
図3に示すステップS12のサブルーチンである。
【0041】
先ず、制御部17のトルク制御部2の区間角速度算出部26は、区間時間算出部23で算出された区間ごとの区間時間を所定のメモリ領域(図示なし)に記憶し、モータ19のロータ1回転分の区間時間の記憶が完了したか否かを判定する(ステップS12−1)。区間角速度算出部26は、制御部17内にあるメモリ(図示なし)にロータ1回転分の区間時間の記憶が完了した場合(ステップS12−1:Yes)、ステップS12−2へ処理を移し、所定のメモリ領域にロータ1回転分の区間時間の記憶が完了していない場合(ステップS12−1:No)、ステップS12−1を繰り返す。
【0042】
次に、ステップS12−2では、区間角速度算出部26は、ステップS12−1で記憶したモータ19のロータ1回転分の区間ごとの区間時間に基づいて、区間ごとのロータの回転速度(角速度)を算出する(ステップS12−2)。次に、トルク制御部2の区間角加速度算出部27は、ステップS12−2の区間角速度算出部26で算出された区間ごとのロータの角速度から区間ごとのロータの角加速度αを算出する(ステップS12−3)。
【0043】
トルク制御部2の最大角加速度検出部30は、ステップS12−3の区間角加速度算出部27で算出された区間ごとの角加速度αの中で角加速度が最大となる最大角加速度区間を特定する(ステップS12−4)。この特定された最大角加速度区間は、モータ19の負荷トルクが最も小さい最軽負荷区間にもなる。
【0044】
次に、トルク制御部2の区間角加速度偏差算出部28は、ステップS12−3の区間角加速度算出部27で算出された区間ごとの角加速度αにより、ロータ1回転分の区間ごとの角加速度偏差Δαを算出する(ステップS12−5)。
【0045】
次に、トルク制御部2の最小角加速度偏差検出部29は、ステップS12−5で算出された角加速度偏差Δαが最小となる最小角加速度偏差区間を特定する(ステップS12−6)。
【0046】
次に、トルク制御部2の基準角加速度検出部31は、ステップS12−6で特定した最小角加速度偏差が平坦区間であるか否か判定する。その判定方法は、最小角加速度偏差が前述した予め設定された所定の範囲内(例えば±2%)であれば平坦区間とし、予め設定された所定値の範囲内になければ平坦区間でないとする。(ステップS12−7)。平坦区間がある場合(ステップS12−7:Yes)、ステップS12−8へ移行し、平坦区間がない場合(ステップS12−7:No)、ステップS12−9へ移行する。
【0047】
ステップS12−8では、基準角加速度検出部31はステップS12−7で検出された平坦区間が、ステップS12−4で特定された最大角加速度区間となる最軽負荷区間を含むか否か判定し、検出された平坦区間が最軽負荷区間を含まない場合(ステップS12−8:No)、ステップS12−10へ移行し、平坦区間が最軽負荷区間を含む場合(ステップS12−8:Yes)、ステップS12−9へ移行する。
【0048】
ステップS12−10では、基準角加速度検出部31は、ステップS12−6で特定された最小角加速度偏差区間の角加速度を基準角加速度α_stとする。一方、ステップS12−9では、基準角加速度検出部31は、ステップS12−4で特定された最大角加速度区間の角加速度を基準角加速度α_stとする。
【0049】
(実施形態のトルク制御の原理)
以下、
図5〜
図8を参照して、実施形態のトルク制御の原理を説明する。
【0050】
図5は、負荷状態に応じた角加速度の変化(モータ19のトルクカーブ)を概略的に示すグラフである。
図5では、(a)、(b)、(c)の各図の順序で、モータ19の負荷トルクが大きい状態を表し、負荷状態に応じて、モータ19のトルクカーブの振幅および形状が変化することが分かる。
【0051】
図5の(a)では、モータ19の1回転中のタイミングt1〜t2およびt4〜t5の区間は、基準Iの角加速度であって、駆動トルクと負荷トルクとが釣り合って角加速度が変化しない平坦区間(H)となっている。また、
図5の(a)のタイミングt2〜t4の区間は、モータ19の1回転において、タイミングt3で角加速度が最大となり、このタイミングt3を含む区間が最小の負荷トルクとなる最軽負荷区間(区間7)である。
図5の(a)において、最軽負荷区間では、駆動トルクが負荷トルクに対して大きくなり、タイミングt3をピークとして、角加速度が急激に変化して基準Iの角加速度を超過することを表している。
【0052】
図5の(b)は、
図5の(a)と比較して、モータ19の負荷トルクが大きい状態であり、モータ19の1回転中のタイミングt1’〜t2’およびタイミングt4’〜t5’の区間は、基準IIの角加速度であって、駆動トルクと負荷トルクとが釣り合って各加速度が変化しない平坦区間(H)となっている。また、
図5の(b)のタイミングt2’〜t4’の区間は、モータ19の1回転において、タイミングt3で角加速度が最大となり、このタイミングt3を含む区間が最小の負荷トルクとなる最軽負荷区間(区間7)である。
図5の(b)においては、最軽負荷区間では、駆動トルクが負荷トルクに対して大きくなり、タイミングt3をピークとして、角加速度が急激に変化して基準IIの角加速度を超過する。なお、
図5の(b)は、
図5の(a)と比較してモータ19の負荷トルクが大きい状態であるために、駆動トルクと負荷トルクとが釣り合うための角加速度が、
図5の(a)より大きくなり、角加速度の基準I<基準IIとなる。
【0053】
他方、
図5の(c)は、
図5の(b)と比較して、モータ19の負荷トルクが大きい状態であり、モータ19の1回転中において駆動トルクと負荷トルクとが釣り合う平坦区間が出現しない。すなわち、
図5の(c)では、モータ19の1回転中において、常に負荷トルクが駆動トルクに対して大きいために平坦区間が生じない。
図5の(C)のように角加速度が最大角加速度である基準IIIに到達するピークとなるモータ19の1回転中のタイミングt3においても、角加速度が急激に変化するものではない。なお、角加速度の基準II<基準IIIである。
【0054】
すなわち、低負荷状態で出現する角加速度の変化がない平坦区間は、モータ19にかかる負荷が高くなるにつれてその範囲が狭くなり、さらに負荷が高くなると平坦区間が出現しなくなる。低負荷状態において平坦区間が出現しているときは、駆動トルクと負荷トルクとが釣り合っていて、最軽負荷区間では駆動トルクが負荷トルクより大きくなることにより、平坦区間から急激に角加速度が上昇し、角加速度偏差が大きくなる。
【0055】
具体的には、
図5の(a)および(b)から、モータ19の負荷トルクが低負荷の場合、駆動トルクと負荷トルクとが釣り合う平坦区間が出現するが、平坦区間において駆動トルクが一時的に負荷トルクより大きくなると、
図5の(a)および(b)の最軽負荷区間(区間7)内のタイミングt3近傍のように急激な角加速度の変化(角加速度偏差)が生じ、モータ19の回転ムラの原因となる。一方、
図5の(c)から分かるとおり、モータ19の負荷トルクが常に駆動トルクより大きいと、駆動トルクと負荷トルクとが釣り合う平坦区間が出現しなくなり、急激な角加速度の変化(角加速度偏差)が発生することもなく、モータ19の回転ムラは発生しない。
【0056】
そこで、実施形態では、従来の最軽負荷区間を基準としたトルク補正による最軽負荷区間でのトルク補正が過多となって無駄に電力を消費と、回転ムラが生じるのを防止するために、負荷トルクに応じたトルク補正を行うために、角加速度の変化(角加速度偏差)を監視し、前述の平坦区間が存在すると判定した場合には、平坦区間の角加速度を基準角加速度α_stとし、前述の平坦区間が存在しないと判定した場合には、角加速度が最大となる最軽負荷区間の角加速度を基準角加速度α_stとする。例えば、負荷トルクが低負荷で平坦区間が存在する
図5の(a)の場合、基準角加速度α_stは基準Iとして、トルク補正が行われる。この角加速度の値が小さい基準Iを基準角加速度α_stにすることで、トルク補正量が小さくなり、角加速度が基準Iより高い区間(
図5の(a)のタイミングt2〜t4)でのモータの駆動電圧が過多となることを抑えることになる。また、平坦区間が存在しない場合には、従来のように最軽負荷区間の角加速度を基準角加速度α_stとする。
【0057】
図6は、モータの回転角度に対するステータ巻線の通電相と負荷トルク特性との関係を示す図である。
図7は、モータが高負荷時の角加速度の変化を示す図である。
図8は、モータが低負荷時の角加速度の変化を示す図である。
【0058】
図6に示すように、シングルロータリ圧縮機では、モータ19のU相、V相、W相の各相の通電に対し、高負荷時において、圧縮機が1回転(18区間)する間に負荷トルクの低い回転角度(区間7の130度付近)と負荷トルクの高い回転角度(区間14の270度付近)とがある負荷トルク特性を有している。そして、通電に関しては、例えば区間1の場合、
図1のインバータ15のU−Y間の通電を表している。
図6で示す負荷トルクが最小になる区間7での角加速度は、
図7に示すように、モータ19のロータ1回転あたりの最大値となる。また、
図6で示す負荷トルクが最大になる区間14での角加速度は、
図7に示すように、モータ19のロータ1回転あたりの最小値となる。そして、区間7が、モータ19のロータ1回転中において負荷トルクが最も小さい最軽負荷区間であり、区間14の負荷トルクが最も大きい最重負荷区間であると特定することができる。なお、区間7は
図5に示すタイミングt3を含み、区間14は
図5に示すタイミングt6を含む。
【0059】
しかし、例えば低負荷時において、
図8に示すように、モータ19の負荷トルクと駆動トルクとが均衡する、角加速度の変化(角加速度偏差)がない平坦区間が出現する(
図8の一点鎖線Aと概ね一致する区間4〜区間6参照)。その平坦区間における角加速度を基準角加速度α_stとし、現在の角加速度α_nowが基準角加速度α_stよりも上回っているときには、駆動トルクが過剰であるとして、駆動電圧を下げる補正を行う(
図8の下向き矢印B参照)。一方、現在の角加速度α_nowが基準角加速度α_stよりも下回っているときには、駆動トルクが不足しているとして、駆動電圧を上げる補正を行う(
図8の上向き矢印C参照)。
【0060】
このようにして、負荷トルクに応じて駆動トルクを加減することにより、角加速度が一定になるようにするため、回転ムラを低減してモータ19の回転を安定させ、電力消費の抑制を図ることができる。
【0061】
なお、
図8において、一点鎖線Aで角加速度の大きさを示す平坦区間は、最軽負荷区間である区間7の付近の区間4〜区間6にのみ1つだけ出現しているが、複数出現する場合がある。この場合には、最軽負荷区間に最も近い平坦区間の角加速度を基準角加速度α_stと決定する。
【0062】
上述の実施形態によれば、モータ制御装置1は、低負荷時(例えば、圧縮機の起動時など)において、モータ19の1回転ごとに、モータ19のロータの角加速度偏差を監視し、最小角加速度偏差が負荷トルクと駆動トルクとが釣り合って角加速度の変化がない(もしくは、変化率が所定の範囲内)区間を平坦区間とし、平坦区間が存在する場合には、平坦区間(最小区間)の角加速度を基準角加速度α_stとしてモータ19の駆動電圧を補正する駆動電圧補正量Vcorを算出し、この駆動電圧補正量でモータ19の駆動電圧を補正する。また、平坦区間が存在しないと判定し、最大区間の角加速度を基準角加速度α_stとしてモータ19の駆動電圧を補正する駆動電圧補正量Vcorを算出し、この駆動電圧補正量Vcorでモータ19の駆動電圧を補正する。よって、低負荷時において、トルク補正の過多による、モータ19の回転ムラを改善するとともに、消費電力を削減することができる。
【0063】
上述の実施形態および図示の具体的名称、処理、制御、各種のデータやパラメータを含む情報については、一例を示すに過ぎず、特記する場合を除いて適宜変更することができる。また、上述の実施形態における各部もしくは各装置の構成は、処理負荷や実装効率等から適宜分散または統合されてもよい。また、上述の実施形態における各処理は、処理負荷や実装効率等から、処理順序を適宜入れ替えて実行されてもよい。
【0064】
上述の実施形態のより広範な態様は、上述のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。