特許第6822354号(P6822354)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6822354
(24)【登録日】2021年1月12日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】材料試験機
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/06 20060101AFI20210114BHJP
   G01N 3/08 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   G01N3/06
   G01N3/08
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-169638(P2017-169638)
(22)【出願日】2017年9月4日
(65)【公開番号】特開2019-45350(P2019-45350A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2019年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100101753
【弁理士】
【氏名又は名称】大坪 隆司
(72)【発明者】
【氏名】上坂 健
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−257196(JP,A)
【文献】 特開2005−003577(JP,A)
【文献】 特公昭49−019479(JP,B1)
【文献】 特開平03−048132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/06
G01N 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料よりなる試験片の両端を一対のつかみ具により把持し、これら一対のつかみ具を互いに離隔する方向に移動させて前記試験片に試験力を付与することにより、前記試験片の塑性ひずみ比を測定する材料試験機であって、
前記試験片に試験力を付与する前と、付与した後に、前記試験片を撮影するための撮像手段と、
前記撮像手段により撮像した前記試験片の画像から、前記試験片における一対の標点間の距離と、前記試験片における前記標点間の領域の面積とを測定する画像処理部と、
前記画像処理部で測定した前記試験片における一対の標点間の距離と前記試験片における前記標点間の領域の面積とから、前記試験片に試験力を付与する前と付与した後とにおける、前記試験片の厚さ方向の真ひずみεaと、前記試験片の幅方向の真ひずみεbと、を演算する演算部と、
を備えることを特徴とする材料試験機。
【請求項2】
請求項1に記載の材料試験機において、
前記試験片に試験力を付与する前と付与した後とにおける、前記試験片における前記標点間の領域の面積を、一対の標点を結ぶ直線に対して各標点を通過する二本の垂線と前記試験片の両端縁とで囲まれる面積である試験領域面積A0およびA1とし、
前記試験片に試験力を付与する前と付与した後とにおける、前記試験片における標点間の距離を、L0およびL1とし、
前記試験片に試験力を付与する前と付与した後とにおける、前記試験片の幅の代表値をb0およびb1とし、
前記試験片に試験力を付与する前と付与した後とにおける、前記試験片の厚さの代表値をt0およびt1とし、
前記演算部は、前記試験片に試験力を付与する前と付与した後とにおける、幅方向の真ひずみεbを下記の式(1)で演算し、厚さ方向の真ひずみεaを下記の式(2)で演算する材料試験機。
εb=ln(b1/b0)=ln[(A1×L0)/(A0×L1)] ・・・(1)
εa=ln(t1/t0)=ln(A0/A1) ・・・(2)
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の材料試験機において、
前記演算部は、前記試験片の厚さ方向の真ひずみεaと幅方向の真ひずみεbとに基づいて、前記試験片の塑性ひずみ比rを下記の式(3)で演算する材料試験機。
r=εb/εa ・・・(3)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試験片に対して引張試験力を付与することにより、この試験片の塑性ひずみ比を測定する材料試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
JIS(日本工業規格)Z2254においては、「薄板金属材料の塑性ひずみ比試験方法」が規格されている。この規格においては、塑性ひずみ比rの計算は、下記の式(3)のように、試験片の厚さ方向の真ひずみεaと幅方向の真ひずみεbとの比として求められる。塑性ひずみ比rは、r値またはランクフォード値とも呼称されるものである。
r=εb/εa ・・・(3)
【0003】
この塑性ひずみ比を測定する材料試験機においては、従来、厚さ方向のひずみを測定するより長さ方向のひずみを測定する方が容易であり、また、正確である理由から、材料試験前後の試験片の体積は一定であるという考え方を利用し、長さ方向のひずみと幅方向のひずみとを利用して厚さ方向のひずみを求めるという手法を採用している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−145216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
試験片における長さ方向のひずみは、標点間距離を測定することにより容易に求めることができる。一方、試験片における幅方向のひずみを測定するときには、例えば、一対の標点の位置と、これら標点間の中央の位置との3点でひずみを測定し、それらの平均値を試験片における幅方向のひずみとすることが多い。
【0006】
このような場合において、試験片の長さ方向の軸と引張試験力の付与方向の軸とにずれが生じる場合があり、また、引張試験力を付与された後の試験片の幅方向の痩せ具合も異なることから、幅方向のひずみの測定位置の誤差により測定されたひずみの値が異なることになり、正確な塑性ひずみ比を測定することが困難であるという問題が生ずる。
【0007】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、塑性ひずみ比を正確に測定することが可能な材料試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、金属材料よりなる試験片の両端を一対のつかみ具により把持し、これら一対のつかみ具を互いに離隔する方向に移動させて前記試験片に試験力を付与することにより、前記試験片の塑性ひずみ比を測定する材料試験機であって、前記試験片に試験力を付与する前と、付与した後に、前記試験片を撮影するための撮像手段と、前記撮像手段により撮像した前記試験片の画像から、前記試験片における一対の標点間の距離と、前記試験片における前記標点間の領域の面積とを測定する画像処理部と、前記画像処理部で測定した前記試験片における一対の標点間の距離と前記試験片における前記標点間の領域の面積とから、前記試験片に試験力を付与する前と付与した後とにおける、前記試験片の厚さ方向の真ひずみεaと、前記試験片の幅方向の真ひずみεbと、を演算する演算部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の材料試験機において、前記試験片に試験力を付与する前と付与した後とにおける、前記試験片における前記標点間の領域の面積を、一対の標点を結ぶ直線に対して各標点を通過する二本の垂線と前記試験片の両端縁とで囲まれる面積である試験領域面積A0およびA1とし、前記試験片に試験力を付与する前と付与した後とにおける、前記試験片における標点間の距離を、L0およびL1とし、前記試験片に試験力を付与する前と付与した後とにおける、前記試験片の幅の代表値をb0およびb1とし、前記試験片に試験力を付与する前と付与した後とにおける、前記試験片の厚さの代表値をt0およびt1とし、前記演算部は、前記試験片に試験力を付与する前と付与した後とにおける、幅方向の真ひずみεbを下記の式(1)で演算し、厚さ方向の真ひずみεaを下記の式(2)で演算する。
εb=ln(b1/b0)=ln[(A1×L0)/(A0×L1)] ・・・(1)
εa=ln(t1/t0)=ln(A0/A1) ・・・(2)
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の材料試験機において、前記演算部は、前記試験片の厚さ方向の真ひずみεaと幅方向の真ひずみεbとに基づいて、前記試験片の塑性ひずみ比rを下記の式(3)で演算する。
r=εb/εa ・・・(3)
【発明の効果】
【0011】
請求項1から請求項3に記載の発明によれば、試験片における一対の標点間の距離と標点間の領域の面積とに基づいて塑性ひずみ比を演算することから、塑性ひずみ比を正確かつ簡単に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】この発明に係る材料試験機の概要図である。
図2】この発明に係る材料試験機の制御系を示すブロック図である。
図3】試験片100の撮影状態を示す模式図である。
図4】試験片100の撮影状態を示す模式図である。
図5】試験片100の塑性ひずみ比を測定する状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1はこの発明に係る材料試験機の概要図である。
【0014】
この材料試験機は、試験片100に対して引張試験力を付与することにより、この試験片100の塑性ひずみ比を測定するためのものであり、駆動部16とヨーク17との間に架け渡された一対のねじ棹11と、このねじ棹11に螺合するナット部を内蔵した左クロスヘッド18および右クロスヘッド19と、左クロスヘッド18に配設された左チャック12と、右クロスヘッド19に配設された右チャック13と、を備える。試験片100は、これらの左チャック12および右チャック13にその両端部を把持される。
【0015】
各ねじ棹11は、左ネジ領域11aと右ネジ領域11bとを備える。駆動部16に内蔵されたモータにより一対のねじ棹11が同期して回転したときには、左チャック12および右チャック13が離隔し、あるいは、近接する方向に移動する。試験片100は、その両端を左チャック12および右チャック13に把持された状態で左チャック12および右チャック13が互いに離隔する方向に移動することにより、引張試験力が付与される。試験片100に付与された引張試験力は、ロードセル15により測定される。このような試験機本体で試験片100に引張試験力を加えると試験片100の中心はほとんど移動しないので、本発明のように後述するカメラ14で試験片100を撮影する場合に好都合である。
【0016】
引張試験力を付与された試験片100は、カメラ14により撮影される。試験片100におけるカメラ14と逆側の位置には、背景板29が配設されている。この背景板29は、試験片100とは色やコントラストが全く異なる材料から構成されており、カメラ14による試験片100の視認性を向上させることができる。
【0017】
図2は、この発明に係る材料試験機の制御系を示すブロック図である。
【0018】
この材料試験機は、論理演算を実行するプロセッサーとしてのCPU、装置の制御に必要な動作プログラムが格納されたROM、制御時にデータ等が一時的にストアされるRAMおよびデータを記憶するハードディスク等から構成される制御部20を備える。この制御部20は、標点間距離測定部22と面積測定部23とを備えた画像処理部21と、後述する試験片100の厚さ方向の真ひずみεaと試験片100の幅方向の真ひずみεbとを演算するとともに、これらの値から塑性ひずみ比を演算する演算部24とを備える。この制御部20は、上述した駆動部16、カメラ14およびロードセル15と接続されている。また、この制御部20は、各種の操作を実行する操作部10、および、試験条件や試験結果などを表示するとともに、カメラ14により取得される映像などを表示する表示部30と接続されている。
【0019】
図3および図4は、カメラ14による試験片100の撮影状態を示す模式図である。
【0020】
カメラ14による試験片100の撮影視野40が、試験片100に形成された一対の標点101を撮影可能な状態であれば、図1および図3に示すように、単一のカメラ14により試験片100を撮影する。試験片100に形成された一対の標点101間の距離が大きく、単一のカメラ14による撮影視野40では一対の標点101間の領域を一度に撮影不可能な場合には、図4に示すように複数のカメラを使用して一対の標点101間の領域を撮影する。なお、単一のカメラ14を使用し、試験片100の撮影領域を移動させることにより、一対の標点101間の領域を撮影するようにしてもよい。
【0021】
次に、上述した材料試験機により試験片100の塑性ひずみ比を測定する測定動作について説明する。図5は、試験片100の塑性ひずみ比を測定する状態を示す説明図である。
【0022】
試験片100の塑性ひずみ比を測定するときには、最初に、試験片100の両端部を左チャック12および右チャック13により把持する。この状態において、試験片100をカメラ14により撮影する。そして、カメラにより撮影した試験片100の画像から、試験片100における一対の標点101間の距離と、試験片100における標点101間の領域の面積とを測定する。
【0023】
より具体的には、図5に示すように、カメラ14により撮影した試験片100の画像から、図2に示す画像処理部21における標点間距離測定部22により、一対の標点101間の距離L0を測定する。また、画像処理部21における面積測定部23により、試験片100における標点101間の領域の面積を、一対の標点101を結ぶ直線に対して各標点を通過する二本の垂線102と試験片100の両端縁とで囲まれる面積(図5においてハッチングで示す領域の面積)である試験領域面積A0として測定する。なお、この距離L0と試験領域面積A0の測定は、予め校正作業を行った後の画像処理により実行される。
【0024】
この状態において駆動部16の駆動により一対のねじ棹11を回転させ、左チャック12および右チャック13を互いに離隔する方向に移動させる。これにより、左チャック12および右チャック13を介して試験片100に引張試験力が付与される。このときにもカメラ14による試験片100の撮影は継続され、一対の標点101間の伸びは標点間距離測定部22によりリアルタイムで測定される。そして、一対の標点101間の距離が設定値となり予め設定された与ひずみ量となった時点でねじ棹11の回転を停止させることにより試験片100の引張動作を停止する。
【0025】
そして、画像処理部21における標点間距離測定部22により、その時の一対の標点101間の距離L1を測定する。また、画像処理部21における面積測定部23により、試験片100における標点101間の領域の面積である試験領域面積A1を測定する。これにより、引張試験力を付与する前の幅の代表値b0と、引張試験力を付与した後の幅の代表値b1とが、下記の式(4)および式(5)で求められる。
b0=A0/L0 ・・・(4)
b1=A1/L1 ・・・(5)
【0026】
ここで、幅の代表値とは、そのときの試験片100の幅を代表する値である。試験片100における試験領域面積が矩形状であれば、面積を長さで除算することにより幅が求められる。しかしながら、試験領域面積は図5に示すように矩形状ではないことから、この明細書においては、幅の平均的な値を幅の代表値として説明する。
【0027】
上記の式(4)および式(5)より、以下の式(6)が成立する。
b1/b0=(A1×L0)/(A0×L1) ・・・(6)
【0028】
そして、引張試験力を付与する前の厚さの代表値をt0とし、引張試験力を付与した後の厚さの代表値をt1としたときに、下記の式(7)が成立する。この式は、引張試験の前後で試験片の幅や厚さが変化してもその体積は一定であるとの考えに基づいている。なお、厚さの代表値とは、そのときの試験片100の厚さを代表する値である。上述した幅の代表値と同様、この明細書においては、厚さの平均的な値を厚さの代表値として説明する。
t1/t0=A0/A1 ・・・(7)
【0029】
そして、上記の式(6)および式(7)より、厚さ方向の真ひずみεa=ln(t1/t0)と、幅方向の真ひずみεb=ln(b1/b0)とが求められ、上述した式(3)により、r値(ランクフォード値)が求められる。以上の演算は、制御部20における演算部24により実行される。式(3)再掲する。
r=εb/εa ・・・(3)
【0030】
なお、上述した実施形態においては、一対の標点101間の距離が設定値となり予め設定された与ひずみ量となった時点でねじ棹11の回転を停止させ、この状態で一対の標点101間の距離L1と試験領域面積A1とを測定しているが、引張荷重を解除した状態で標点101間の距離L1と試験領域面積A1とを測定するときには、駆動部16の駆動により一対のねじ棹11を引張試験力の付与時とは逆方向に回転させ、ロードセル15による引張加重の測定値がゼロとなった時点で、標点101間の距離L1と試験領域面積A1とを測定する。
【0031】
また、上述した実施形態においては、各ねじ棹11は左ネジ領域11aと右ネジ領域11bを備え、クロスヘッドも二つ存在して試験片100の中心が移動しないような機構を採用しているが、そのような試験機本体でなくても本発明は適用できる。例えば、ベースに一組の右ネジのねじ棹を立設し、これにクロスヘッドを横架した構造の試験機本体にカメラを備えた装置であってもよい。この場合には、カメラの視野を広くするか、試験片中心の移動に伴ってカメラを移動させる構成を採用すればよい。
【0032】
以上のように、この発明に係る材料試験機によれば、試験片100における一対の標点101間の距離と標点101間の領域の面積とに基づいて塑性ひずみ比を演算することから、塑性ひずみ比を正確かつ簡単に測定することが可能となる。
【符号の説明】
【0033】
10 操作部
11 ねじ棹
12 左チャック
13 右チャック
14 カメラ
15 ロードセル
16 駆動部
17 ヨーク
18 左クロスヘッド
19 右クロスヘッド
20 制御部
21 画像処理部
22 標点間距離測定部
23 面積測定部
24 演算部
29 背景板
30 表示部
40 撮影視野
100 試験片
101 標点
図1
図2
図3
図4
図5