【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のハクサイエキスを特定の条件で加熱することにより、高濃度のジメチルトリスルフィドを含む組成物が得られることを見出し、さらに研究を重ねることによって本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の通りである。
[1]Brix10以上70以下のハクサイエキスを、40℃以上180℃以下の温度で、20分以上15時間以下加熱することを特徴とするジメチルトリスルフィドを10ppm以上含有する組成物の製造方法。
[2]pHが4以上8以下の条件で加熱する、[1]に記載の製造方法。
[3]前記組成物がフレーバー組成物である[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]前記組成物がジメチルトリスルフィドを10〜300ppm含有する、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の製造方法。
[5]前記組成物のガスクロマトグラムにおける全成分のピークエリアの総和に対するジメチルトリスルフィドのピークエリアの割合が、20〜60%である、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の製造方法。
[6][1]〜[5]のいずれか1項に記載の製造方法によって得られる組成物を喫食時に1ppb以上20重量%以下になるように食品に添加する工程を含む食品の製造方法。
[7]ジメチルトリスルフィドを10ppm以上含有し、ガスクロマトグラムにおける全成分のピークエリアの総和に対するジメチルトリスルフィドのピークエリアの割合が20〜60%である、フレーバー組成物。
[8]ジメチルトリスルフィドを10〜300ppm含有する、[7]に記載の組成物。
[9]前記フレーバー組成物のBrixが10以上70以下である、[7]又は[8]記載の組成物。
[10]前記フレーバー組成物の440nmにおける吸光度が30〜600である、[7]〜[9]のいずれか1項に記載の組成物。
[11]前記フレーバー組成物が、ハクサイエキス由来である、[7]〜[10]のいずれか1項に記載の組成物。
[12]喫食時の濃度が1ppb以上20重量%以下となるように食品に配合するための[7]〜[11]のいずれか1項に記載の組成物。
[13][7]〜[11]のいずれか1項に記載の組成物を喫食時に1ppb以上20重量%以下となるように含有する食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、天然素材であるハクサイエキスから簡便に高濃度のジメチルトリスルフィドを含む、フレーバー用の安全な組成物を提供することができる。
【0010】
本発明における組成物の製造方法は、特定のBrixのハクサイエキスを、特定の条件で加熱することを特徴とする。
【0011】
本発明において、「ハクサイエキス」とは、1種又は2種以上のハクサイをジューサーなどで搾汁し固形分を除いたハクサイジュースを意味する。ハクサイエキスは、液状、又は使用前に水等で液体に調製することのできる粉状もしくは顆粒状のものであってよい。ハクサイの種類は特に限定されない。
【0012】
(ハクサイエキスの製造方法)
本発明におけるハクサイエキスの製造方法を説明するが、これに限定されるものではない。またハクサイエキスは市販のものを使用してもよい。
【0013】
ハクサイエキスは、(1)破砕、(2)搾汁、(3)篩分及び(4)濃縮の工程を経て製造される。
【0014】
(1)破砕
破砕の工程の前には、ハクサイを洗浄処理し、土砂等を除去後、カッターやスライサーなどを用いて切断等の前処理を施してもよい。切断されたハクサイ又は切断されていないそのままのハクサイを破砕する方法は、特に限定されず、常法により行うことができる。具体的には、ハンマーミルやグレーダーを用いて破砕する。
【0015】
(2)搾汁
破砕されたハクサイを搾汁して搾汁液を得る。ハクサイの搾汁方法は、特に限定されず、常法により行うことができる。具体的には、二軸回転型エクストルーダー等の搾汁機を用いての搾汁、デカンターやスクリュープレスなどによる搾汁などでハクサイ搾汁液を得ることが挙げられる。
【0016】
(3)篩分
さらに篩分を行うことにより、ハクサイの繊維質等を除去する。ハクサイの篩分方法は、特に限定されず、常法により行うことができる。具体的には、破砕後のハクサイや搾汁後のハクサイをろ過してもよいし、シフターを使用してもよい。篩のサイズは、20〜150メッシュの間で適宜選択することが可能である。また、用途に応じ、遠心分離機を用いてもよい。
【0017】
(4)濃縮
篩分後得られたハクサイジュースを濃縮する。この場合の濃縮方法としては、例えば、通常の加熱による濃縮、減圧濃縮、低温濃縮、真空濃縮、凍結濃縮、及び逆浸透濃縮等が挙げられる。濃縮物の味や風味が損なわれず、過度な着色が抑えられるという観点から減圧濃縮、低温濃縮、真空濃縮が好ましい。
【0018】
(5)その他
上記工程に殺菌等のために加温又は加熱の工程を適宜加えることができるが、短時間の加温が望ましい。
【0019】
上記の方法で得られたハクサイエキス又は市販のハクサイエキスは、DMTSを、通常0〜4ppm、好ましくは1〜3ppm含む。また、上記の方法で得られたハクサイエキス又は市販のハクサイエキスは、通常Brixが5〜80である。本発明におけるハクサイエキスは、通常Brix60のときに、440nmにおける吸光度は、1〜29.9であり、10〜15が好ましい。
【0020】
本発明の製造方法において使用するハクサイエキスのBrixは、DMTSの生成量を高めるという観点から、通常10以上、好ましくは15以上、より好ましくは25以上、特に好ましくは30以上である。また焦げ香などの好ましくない風味の生成を抑制するという観点から、Brixは、通常70以下、好ましくは60以下、より好ましくは55以下、特に好ましくは50以下である。または通常10以上、好ましくは15以上、より好ましくは20以上、さらに好ましくは25以上、特に好ましくは30以上、最も好ましくは40以上である。また焦げ香などの好ましくない風味の生成を抑制するという観点から、Brixは、通常70以下、好ましくは65以下、より好ましくは60以下、さらに好ましくは55以下、特に好ましくは50以下である。例えば、本発明の製造方法において使用するハクサイエキスのBrixは、通常10〜70であり、好ましくは20〜60、より好ましくは30〜60、さらに好ましくは30〜50、特に好ましくは40〜50である。
【0021】
本明細書において、Brix(値)とは、溶液100g中に含まれる可溶性固形分(糖類など)のグラム量を計測する単位(%)である。Brix値は、市販の屈折率計を用いて測定することができ、例えばポケット糖度計PAL−J(ATAGO製)などが挙げられる。
【0022】
(本発明の組成物の製造方法)
本発明の組成物の製造方法は、上記特定のBrixのハクサイエキスを加熱することを特徴とする。加熱温度としては、DMTSの生成量を高めるという観点から、通常40℃以上であり、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、特に好ましくは90℃以上、最も好ましくは95℃以上である。また焦げ香などの好ましくない風味の生成を抑制するという観点から通常180℃以下であり、120℃以下が好ましく、110℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。例えば、加熱温度としては、通常40℃〜180℃、好ましくは50℃〜120℃、より好ましくは60℃〜110℃、特に好ましくは90℃〜110℃、最も好ましくは95℃〜110℃である。
【0023】
本発明の製造方法において、ハクサイエキスを加熱する時間は、加熱温度によって適宜変更されるが、DMTSの生成量を高めるという観点から、通常20分以上であり、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上である。また焦げ香などの好ましくない風味の生成を抑制するという観点から、加熱時間は、通常15時間以下、好ましくは10時間以下、より好ましくは8時間以下、特に好ましくは5時間以下、最も好ましくは4時間以下である。例えば、加熱時間としては、通常20分〜15時間、好ましくは30分〜10時間、より好ましくは1時間〜8時間、特に好ましくは1時間〜5時間、最も好ましくは1時間〜4時間である。
【0024】
本発明の製造方法において、ハクサイエキスを加熱する際のpHは、通常pH4以上であり、好ましくはpH5以上である。また通常pH8以下であり、pH7以下が好ましい。例えば、通常pH4〜8、好ましくはpH5〜7である。この範囲のpHであればDMTSの生成量が増加する。
pHの調整法は、特に限定されず、慣用のpH調整剤を用いて調整することができる。pH調整剤は、食品で用いられる調整剤であれば特に限定は無いが、流通性の点から塩酸、燐酸、クエン酸、蟻酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等が好ましい。
【0025】
本発明の製造方法において、ハクサイエキスを加熱する際には、他の成分を添加することもできる。例えば、各種塩類、アミノ酸類、核酸類、糖類、有機酸類、畜肉エキス、魚介エキス、ハクサイ以外の野菜エキス等を加えることは食品製造上の観点から好ましい。
【0026】
一例としては、本発明の組成物は、Brix10〜70のハクサイエキスをpHが4〜8、40℃〜180℃で30分〜15時間加熱して製造するのが好ましい。
同様に、Brix30〜65のハクサイエキスを、pHが5〜7、60℃〜95℃で30分〜4時間加熱して製造するのがより好ましい。
また、Brix30〜60のハクサイエキスを、pHが5〜7、60℃〜95℃で30分〜4時間加熱して製造するのがさらに好ましい。
さらに、Brix30〜50のハクサイエキスを、pHが5〜7、95℃〜110℃で1時間〜4時間加熱して製造するのが特に好ましい。
【0027】
(本発明の組成物)
本発明において、組成物は、フレーバーを付与する組成物(以下フレーバー組成物ともいう)として使用することができる。当該フレーバー組成物は、特定のBrixのハクサイエキスを特定の温度や時間で加熱させてできたもの全体を意味する。
本発明においてフレーバーとは香気、風味、呈味のすべてを指し、例えば畜肉エキス、魚介エキス、野菜エキスなどの香りが挙げられる。
【0028】
本発明のフレーバー組成物は、DMTSを通常10ppm以上、好ましくは10〜300ppm、より好ましくは30〜200ppm、特に好ましくは60〜150ppm含有することを特徴とする。
【0029】
本発明のフレーバー組成物は、組成物原液の440nmにおける吸光度が、通常30〜600であり、好ましくは100〜250であり、より好ましくは150〜250である。吸光度は分光光度計を用いて測定することができる。具体的には、検体の吸光度が0.1〜1.0の値になるように希釈した後、分光光度計を用いて440nmにおける吸光度を測定する。分光光度計は市販の測定機器を用いればよく、そのような機器としては、例えばUltrospec 6300pro型(GEヘルスケアジャパン製)が挙げられる。
このようにして得られた測定値に希釈倍率をかけて原液の値を算出する。
なお組成物原液とは、希釈前の組成物そのものを意味する。
【0030】
本発明のフレーバー組成物は、含まれる全揮発性成分に対するDMTSの割合が大きいことが特徴である。例えばガスクロマトグラムにおける全ピークエリア値に対するDMTSのピークエリア値の割合を示すDMTS比率(%)(ピークエリア比)は、通常20〜60%であり、好ましくは30〜60%であり、より好ましくは30〜50%である。DMTS比率(%)は、DMTSのピークエリア値を全ピークエリア値の合計で割って算出する。全ピークエリア値は、フレーバー組成物の揮発性成分を固層マイクロ抽出(solid phase micro extraction:SPME)法により捕集後、GC/MS分析(カラム:DB−WAX 10m×0.18mm内径、膜厚0.3μm)により得られるトータルイオンクロマトグラム(TIC)から測定される値である。測定条件の詳細は、後掲の実施例の通りである。
【0031】
本発明のフレーバー組成物のBrixは、原料として用いるハクサイエキスのBrixにより変動するが、DMTSの含有量が高いという観点から、通常10以上、好ましくは15以上、より好ましくは20以上、さらに好ましくは25以上、特に好ましくは30以上、最も好ましくは40以上である。また焦げ香などの好ましくない風味の生成を抑制するという観点から、Brixは、通常70以下、好ましくは65以下、より好ましくは60以下、さらに好ましくは55以下、特に好ましくは50以下である。例えば、本発明のフレーバー組成物のBrixは、通常10〜70であり、好ましくは20〜60、より好ましくは30〜60、さらに好ましくは30〜50、特に好ましくは40〜50である。
【0032】
本発明のフレーバー組成物は、DMTSを10ppm以上含有し、DMTS比率(%)が20〜60%であり、Brixが10〜70であり、組成物原液の440nmにおける吸光度が30〜600である。本発明のフレーバー組成物は、好ましくは、DMTSを10〜300ppm含有し、DMTS比率(%)が30〜60%であり、Brixが30〜60であり、組成物原液の440nmにおける吸光度が100〜250である。本発明のフレーバー組成物は、より好ましくは、DMTSを60〜150ppm含有し、DMTS比率(%)が30〜50%であり、Brixが40〜50であり、組成物原液の440nmにおける吸光度が150〜250である。
本発明のフレーバー組成物は、ハクサイエキス由来の組成物が好ましい。
すなわち本発明のフレーバー組成物は、DMTSを10ppm以上含有し、DMTS比率(%)が20〜60%である、ハクサイエキス由来のフレーバー組成物であり、好ましくはDMTSを10〜300ppm含有する当該フレーバー組成物である。
【0033】
本発明において用いられるフレーバー組成物を食品へ使用する際は、直接添加、水や溶媒等を用いた希釈、酵母エキスや畜肉エキスや魚介エキスやタンパク加水分解物などの形態での調味料組成物への混合、肉等の煮込み時等、利用形態に特に制限はない。
【0034】
また本発明のフレーバー組成物の形態に特に限定はなく、例えば乾燥粉末、ペースト、溶液などの形態で利用することが出来る。
【0035】
本発明は、本発明の製造方法によって得られたフレーバー組成物を喫食時の濃度が1ppb以上20重量%以下になるように食品に添加することを特徴とする食品の製造方法及びかかる製造方法によって得られる食品を提供する。
喫食時の濃度とは、喫食時点での濃度を指すが、フレーバー組成物の喫食濃度が上記範囲内であれば、フレーバーを飲食品等に付与することができる。また加工食品など、喫食前に製品説明書に従って調理される食品にあっては、調理後の濃度を指すことを意図している。
【0036】
本発明のフレーバー組成物の食品への添加濃度は、喫食時に1ppb以上20重量%以下まで様々な濃度で使用することができる。好ましくは10ppb以上5重量%以下、更に好ましくは100ppb以上1重量%以下、特に好ましくは1ppm以上1000ppm以下である。濃度が低すぎると効果が得られず、濃度が高すぎると食品として自然でなく人工的な風味が付与されてしまうため好ましくない。
【0037】
また本発明においてフレーバー組成物を添加する食品に特に限定はないが、畜肉エキス、魚介エキス、特にチキンエキス、ビーフエキス、ポークエキス、鰹エキスを用いた飲食物でより顕著な効果があり、具体的には、コンソメスープ、カレー、ビーフシチュー、ホワイトシチュー、ハム、ハンバーグ、ステーキなどの洋風料理、中華系料理、味噌汁、お吸い物などの和風系の料理、ウスターソース、デミグラスソース、ケチャップ、各種タレや風味調味料類などの各種調味料、肉じゃが、筑前煮、豚バラ大根などの和風煮物料理、から揚げやトンカツなどの揚げ物、おにぎりやピラフなどの米飯類が好ましい。
【0038】
本発明のフレーバー組成物が添加された食品は、本発明のフレーバー組成物を喫食時において、通常1ppb以上20重量%以下、好ましくは10ppb以上5重量%以下、更に好ましくは100ppb以上1重量%以下、特に好ましくは1ppm以上1000ppm以下含む。濃度が低すぎると効果が得られず、濃度が高すぎると食品として自然でなく人工的な風味が付与されてしまうため好ましくない。
【0039】
本発明のフレーバー組成物は、そのままでも、あるいは他の成分をさらに含有してもよい。他の成分としては、例えば、食品香料として通常使用されるアルコール類、フェノール類、アルデヒド類、ケトン類、エーテル類、酸類、ラクトン類、エステル類、含窒素、含硫黄化合物類等が挙げられる。
【0040】
本発明のフレーバー組成物には、香料分野において通常使用される基剤をさらに含有させることもできる。組成物が液状の場合には、基剤としては、例えば、水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、各種動植物油類等が挙げられる。
また粉末状や顆粒状の固形の場合の基剤としては、例えば、澱粉、デキストリン、シクロデキストリン、スクロースやグルコースなどの各種糖類、蛋白質、ペプチド、アミノ酸、食塩、固形脂、二酸化ケイ素、及びそれらの混合物、また酵母菌体や各種の粉末エキス類等が挙げられる。
【0041】
本発明の製造方法により製造されるフレーバー組成物はそのままで又は上記の他の成分を含んでなる調味料であってもよい。当該調味料は、フレーバーが付与された調味料が好ましい。
【0042】
本発明における調味料としては、特に限定されず、具体的には天然系調味料と風味調味料とが例示される。天然系調味料としては、例えば、鶏肉エキス、牛肉エキス、豚肉エキス、羊肉エキスなどの各種畜肉エキス類;鶏がらエキス、牛骨エキス、豚骨エキスなどの各種がらエキス類;鰹エキス、鯖エキス、ぐちエキス、帆立エキス、蟹エキス、蝦エキス、煮干エキス、干し貝柱エキスなどの各種魚介エキス類;鰹節エキス、鯖節エキス、宗田節エキスなどの各種節エキス類;オニオンエキス、白菜エキス、セロリエキスなどの各種野菜エキス類;昆布エキスなどの各種海藻エキス類;ガーリックエキス、唐辛子エキス、胡椒エキス、カカオエキスなどの各種香辛料エキス類;酵母エキス類;各種タンパク加水分解物;醤油、魚醤、蝦醤、味噌などの各種発酵調味料等が挙げられる。また、風味調味料としては、例えば、鶏風味調味料、牛風味調味料、豚風味調味料などの各種畜肉風味調味料;鰹風味調味料、煮干風味調味料、干し貝柱風味調味料、甲殻類風味調味料などの各種魚介風味調味料;各種香辛野菜風味調味料;昆布風味調味料等が挙げられる。また、基礎調味料である、塩、うま味調味料等が挙げられる。