【文献】
DELIC, R. et al.,Statistical regression model of standard and new laboratory markers and its use fulness in prediction of preeclampsia,Journal of Maternal-Fetal & Neonatal Medicine,2013年 7月25日,Vol.27/No.4,pp.388-392
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
試料中のsFlt−1の量、ヘムの分解生成物の量、及び任意選択でPlGFの量、及び任意選択でアルギニンの分解生成物が、イムノアッセイにより決定される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
(i)sFlt−1及び/若しくはPlGFに特異的な結合剤と、(i)ヘムの分解生成物及び/若しくはアルギニンの分解生成物に特異的な結合剤、並びに/又は(ii)ヘムの分解に特異的なアッセイキットの構成成分を含み、測定されるヘムの分解生成物が、ビリルビン、ビリベルジン、一酸化炭素、フェリチン及びカルボキシヘモグロビンから選択され、測定されるアルギニンの分解生成物が、尿素、オルニチン、シトルリン、アルギニノコハク酸又はアンモニアから選択される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法における使用のためのアッセイキット。
【背景技術】
【0002】
全世界で、妊娠高血圧腎症は、全ての妊娠のうちの4〜7%に影響を及ぼし、母体及び胎児の病的状態及び死亡の主要な誘因となる高血圧症候群である(Hogberg U.The World Health Report 2005:Scand J Public Health.、2005年;33巻(6号):409〜411ページ)。米国では、20例の妊娠中1例が、妊娠高血圧腎症に罹患し;1000人の妊娠中の女性中3人が冒されている重度の形態(<34週の妊娠)(Lisonkova,S.、Sabr,Y.、Mayer,C、Young,C、Skoll,A.及びJoseph,K.S、Obstet Gynecol、2014年;124巻:771〜781ページ)は増加しつつある(Ananth,C.V.、Keyes,K.M.及びWapner,R.、J.BMJ、2013年;347巻:f6564ページ)。妊娠高血圧腎症は、全ての未熟分娩のうち、最大3分の1を占めるまでになっている(Ghulmiyyah,L及びSibai,B.、Semin Perinatol.、2012年;36巻:56〜59ページ)。母体の高血圧及び腎臓機能不全が、妊娠高血圧腎症の顕著な特徴である(Moran P、Lindheimer MD、Davison JM、Semin Nephrol.、2004年;24巻(6号):588〜595ページ)。胎児の死亡又は重度の身体障害を引き起こすおそれがある未熟児の出産を除いて、療法がない(Ghulmiyyah,L及びSibai,B.、Semin Perinatol.、2012年;36巻(1号):56〜59ページ)。妊娠高血圧腎症は、タンパク尿性と非タンパク尿性とに分類される(Homer CS、Brown MA、Mangos G、Davis GK、J Hypertens.、2008年;26巻(2号):295〜302ページ)。タンパク尿性の妊娠高血圧腎症を有する女性は、妊娠20週以降に、古典的症状、例として、高血圧及びタンパク尿を呈するが、非タンパク尿性の妊娠高血圧腎症を有する女性は、高血圧及び肝臓疾患に罹患する可能性がより高い。これらの群の女性は、妊娠高血圧を有する女性と比較して、子宮内発育遅延(IUGR)を示す可能性がより高い(Homer CS、Brown MA、Mangos G、Davis GK、J Hypertens.、2008年;26巻(2号):295〜302ページ)。
【0003】
妊娠高血圧腎症の正確な病因は不明である。内皮のホメオスタシスの混乱(Rodgers GM、Taylor RN、Roberts JM、Am J Obstet Gynecol.、1988年;159巻(4号):908〜914ページ)は、細胞保護性の経路の調節不全[Ahmed、2000年、#4520]及び血管新生因子の不均衡(Ahmad S、Ahmed A、Placenta.、2001年;22巻(8−9):A.7;Maynard SE、Min JY、Merchan J、Lim KH、Li J、Mondal S、Libermann TA、Morgan JP、Sellke FW、Stillman IE、Epstein FH、Sukhatme VP、Karumanchi SA、J Clin Invest.、2003年;111巻(5号):649〜658ページ;Ahmad S、Ahmed A.、Circ Res.、2004年;95巻(9号):884〜891ページ)に起因し、妊娠高血圧腎症の主要な特徴であると認識される傾向が高まっている(Goulopoulou S、Davidge ST、Trends Mol Med.、2015年;21巻(2号):88〜97ページ)。母体の高血圧、腎臓傷害、及び有害な妊娠の転帰は、sFlt−1、すなわち、VEGFの天然のアンタゴニストが高いことの結果としてのVEGF活性の損失に起因し得る。
【0004】
VEGF受容体−1は、fms様チロシンキナーゼ受容体(Flt−1)としてもまた公知であり、sFlt−1は、膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを欠く、Flt−1受容体の可溶性スプライスバリアントである。内皮細胞中で、sFlt−1は、VEGFに高い親和性で結合するが、有糸分裂誘発を刺激しない。
【0005】
重要なことに、VEGFの内因性阻害剤であるsFlt−1及び形質転換増殖因子β1(TGF−β1)共受容体エンドグリンの切断生成物である可溶性エンドグリン(sEng)の循環レベルが、妊娠高血圧腎症の臨床所見の出現の数週間前に上昇する(Levine RJ、Maynard SE、Qian C、Lim KH、England LJ、Yu KF、Schisterman EF、Thadhani R、Sachs BP、Epstein FH、Sibai BM、Sukhatme VP、Karumanchi SA、N Engl J Med.、2004年;350巻(7号):672〜683ページ)、(Levine RJ、Lam C、Qian C、Yu KF,、Maynard SE、Sachs BP、Sibai BM、Epstein FH、Romero R、Thadhani R、Karumanchi SA、N Engl J Med.、2006年;355巻(10号):992〜1005ページ)。高い母体のsFlt−1が、重度の妊娠高血圧腎症及び有害な転帰を惹起する(Ranaら、2012年)。
【0006】
sFlt−1の臨界閾値未満への低下が療法として提案されてきた(Bergmann A、Ahmad S、Cudmore M、Gruber AD、Wittschen P、Lindenmaier W、Christofori G、Gross V、Gonzalves A、Grone HJ、Ahmed A、Weich HA、J Cell Mol Med.、2010年;14巻(6B号):1857〜1867ページ;Thadhani R、Kisner T、Hagmann H、Bossung V、Noack S、Schaarschmidt W、Jank A、Kribs A、Comely OA、Kreyssig C、Hemphill L、Rigby AC、Khedkar S、Lindner TH、Mallmann P、Stepan H、Karumanchi SA、Benzing T、Circulation.、2011年;124号(8巻):940〜950ページ)にもかかわらず、妊娠高血圧腎症が、高いsFlt−1を有する全て女性において発症するわけではない(Levine RJ、Maynard SE、Qian C、Lim KH、England LJ、Yu KF、Schisterman EF、Thadhani R、Sachs BP、Epstein FH、Sibai BM、Sukhatme VP、Karumanchi SA、N Engl J Med.、2004年;350巻(7号):672〜683ページ;Solomon CG、Seely EW、N Engl J Med.、2004年;350巻(7号):641〜642ページ)。
【0007】
対照的に、胎盤増殖因子(PlGF)は、上記症候群を続いて発症した、第1の三半期の妊娠中の女性において低下している。(Torry DS、Wang HS、Wang TH、Caudle MR、Torry RJ、Am J Obstet Gynecol.、1998年;179(6Pt1):1539〜1544ページ)、(Taylor RN、Grimwood J、Taylor RS、McMaster MT、Fisher SJ、North RA、Am J Obstet Gynecol.、2003年;188巻(1号):177〜182ページ)、(Levine RJ、Thadhani R、Qian C、Lam C、Lim KH、Yu KF、Blink AL、Sachs BP、Epstein FH、Sibai BM、Sukhatme VP、Karumanchi SA、Jama.、2005年;293巻(1号):77〜85ページ)、(Buhimschi CS、Norwitz ER、Funai E、Richman S、Guller S、Lockwood CJ、Buhimschi IA、Am J Obstet Gynecol.、2005年;192巻(3号):734〜741ページ)、(Savvidou MD、Noori M、Anderson JM、Hingorani AD、Nicolaides KH、Ultrasound Obstet Gynecol.、2008年;32巻(7号):871〜876ページ)、(Foidart JM、Munaut C、Chantraine F、Akolekar R、Nicolaides KH、Ultrasound Obstet Gynecol.、2010年;35巻(6号):680〜687ページ)、(Noori M、Donald AE、Angelakopoulou A、Hingorani AD、Williams DJ、Circulation.、2010年;122巻(5号):478〜487ページ)。胎盤増殖因子は、早期の診断バイオマーカーとして認識されており、妊娠高血圧腎症の診断を援助するためにsFlt−1と平行して使用されている。アッセイキットが、Roche Diagnosticsにより生産され、エレクトロシス(Electrosys)sFlt−1イムノアッセイ及びエレクトロシス(Electrosys)PlGFイムノアッセイの商標名の下で市販されている。こうしたアッセイキットが、Verlohrenら(Am.J.Onstet、Gyne(2010年)161e1)による論文で論じられており、著者らは、上記キットが診断の援助となり得ることを示唆している。遅発性PEについての感度は、58.2%に過ぎない。また、このアッセイは、米国特許7,407,659号でも論じられている。最近になって、上記症候群が臨床的に疑われる女性において、これらのキットを使用して、sFlt−1:PlGFの比を測定して、妊娠高血圧腎症の短期の不在が予測されている(Zeislerら、N engl j med、374巻;1ページ、nejm.org、2016年1月7日)。
【0008】
ヘムオキシゲナーゼ1(Hmox1)は、ヘムの分解に関与して、等モル量で、ビリベルジン(これは、ビリルビンに変換される)、遊離の鉄(これは、フェリチン、Fe−III−フェリチンの複合体を形成する)、及び抗アポトーシス特性を有する強力な血管拡張剤である一酸化炭素(CO)を生成する酵素である(Gozzelino, Jeneyら、2010年)。酸化性ストレスを引き起こす刺激、例として、亜硝酸過酸化物により、Hmox1の発現が上方制御される。(Gozzelinoら、2010年、Motterliniら、2010年)。実際に、ヒトHmox1の欠損の結果、重度且つ持続性の内皮損傷が生じ(Yachieら、1999年)、こうした内皮損傷はまた、妊娠高血圧腎症と関連がある中心的な現象でもある(Robertsら、1989年)。ヒト胎盤組織において、Hmox1の防御的な機能が記載されており(Ahmedら、2000年)、Hmox1は、sFlt−1の生成を負に調節し(Cudmoreら、2007年)、一般的な現象が、多くの研究により確認されている。例えば、いくつかの薬物が、Hmox1の上方制御を介してsFlt−1を阻害し(Ondaら、2015年、McCarthyら、2011年);シルデナフィルは、Hmox1を介して、栄養芽細胞からのsFlt−1を抑制する(Jeongら、2014年)。さらに、Hmox1の誘発が、妊娠中のラットにおける虚血誘発性の高血圧を減弱させ(Georgeら、2011年)、プロテイナーゼ活性化受容体−2媒介性のsFlt−1放出も減弱させる(Al−Aniら、2010年)。さらに、妊娠中のHmox−1
+/−マウスにおいても、拡張期血圧及び可溶性sFlt−1の血漿レベルが顕著に上昇した(Zhaoら、2009年)。実際に、Hmox1転写物が、妊娠高血圧腎症を発症する運命にある女性において減少し(Farinaら、2008年)、Hmox1プロモーター中の多型が、妊娠高血圧腎症と関連があり(Kaartokallioら、2014年)、妊娠高血圧腎症を有する女性は、健常な妊娠を有する女性と比較して、呼気中のCOの顕著に低下したレベルを示し、このことは、Hmox1活性の減少を示す(Baumら、2000年)。
【0009】
L−アルギニンがeNOS及びアルギナーゼのための基質として作用して、NO及び尿素がそれぞれ生成される。L−アルギニンの利用能が、NOの生物学的利用率の主要な決定因子であり;L−アルギニンの利用能の低下により、スーパーオキシドアニオンによるNOの捕捉を通して、亜硝酸過酸化物の形成が増加する(Goulopoulouら、2015年)。重度のPEを発症した女性において、L−アルギニン及びホモアルギニンのレベルの減少が、妊娠11〜13週時に観察された(Khalilら、2010年)。最近の研究から、早発性PEと遅発性PEとがL−アルギニン代謝のパラメータにより区別されることは示されなかったが、L−アルギニン−NOSからL−アルギニン−アルギナーゼへの経路の変更についての間接的な証拠が得られた(Tamasら、2013年)。にもかかわらず、妊娠高血圧腎症においてアルギナーゼ活性が増加した理由も仕組みも不明である。
【0010】
アルギナーゼ阻害剤又はL−アルギニンの補充を使用して、冠状動脈疾患を有する患者における虚血−再灌流傷害の予防(NCT02009527、Kovameesら、2014年)及び胃癌(Zhaoら、2013年)等の第I/II相臨床治験が行われたことがある。妊娠合併症の小規模の臨床治験において、L−アルギニンの補充が単独で使用されたことがあるが、決定的な成果は得られていない。Vadillo−Ortegaらによる研究から、L−アルギニンの補充が、抗酸化性のビタミンと共に投与する場合に、妊娠高血圧腎症のリスクを高リスクの女性において低下させることが示された(Vadillo−Ortegaら、2011年)が、その他の研究からは、上記疾患を治療するのに有益な効果はほとんど又は全く示されなかった(Staffら、2004年)。また、L−アルギニンの補充は単独でも、非対称性ジメチルアルギニン及びアルギナーゼのレベルを増加させ(Staffら、2004年)、それらの両方が、内皮NOSの直接的及び間接的な競合阻害剤であり、妊娠高血圧腎症において増加する(Sankaralingamら、2010年)。L−シトルリンの補充の使用が、L−アルギニンの血漿レベル及びNOの生成を、L−アルギニンと同程度に効率的に増加させることが示されており(Schwedhelmら、2008年)、動物モデルにおいて、L−シトルリンは、誘導性NOSの活性を制限するが、内皮細胞内では内皮NOSの生成を増加させることが示されている(Wijnandsら、2012年)。
【0011】
現時点で、妊娠高血圧腎症に利用可能な、予防及び治療に有効な戦略はない。上記疾患の根底にある機構のより良好な理解に基づく、診断及び新たな療法の開発は、重要である。関与する複雑且つ相互作用的な経路の同定及び特徴付けにより、ようやく、診断及び予後予測の新たな方法の開発、並びに効能を示す治療の同定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ヘムの分解経路を、(Ryterら、Physiol.Rev.(2006年)86巻、583〜650ページから改作して)示す図である。
【
図2】尿素サイクルの一部である、アルギニン経路を示す図である。
【
図3-1】高いsFlt−1の環境下における妊娠中のHmox1
+/−マウスにおいて、Hmox1の部分的な欠損から、重度の妊娠高血圧腎症が生じることを示す図である。(A)時宜を得て妊娠させ、Ad−sFlt−1の2つのなる用量(0.5×10
9pfuの低い用量又は1×10
9pfuの高い用量)を用いて処置したHmox1
+/−及びHmox1
+/+マウスにおいて、妊娠第18日に記録した平均動脈圧(MAP)。Ad−CMVを、対照群として用いた。(B)時宜を得て妊娠させ、Ad−sFlt−1の低い用量及び高い用量又は対照ウイルスを用いて処置したHmox1
+/−マウスから得られた代表的な糸球体。連続切片を、ヘマトキシリン及びエオシン(HE)、過ヨウ素酸−シッフ(PAS)、又はマッソントリクローム(MT)を用いて染色した。(C)時宜を得て妊娠させ、Ad−sFlt−1の低い用量及び高い用量又は対照ウイルスを用いて処置したHmox1
+/−及びHmox1
+/+マウスから得られた妊娠第18日における24時間にわたるアルブミンの尿中への排泄;尿中クレアチニンに対して正規化し、尿中のアルブミン:クレアチニンの比として表現した。(D)時宜を得て妊娠させ、Ad−sFlt−1の低い用量及び高い用量又は対照ウイルスを用いて処置したHmox1
+/−及びHmox1
+/+マウスから得られた妊娠第18日における尿中の腎臓傷害分子−1(pg/ml)(KIM−1)。
【
図3-2】高いsFlt−1の環境下における妊娠中のHmox1
+/−マウスにおいて、Hmox1の部分的な欠損から、重度の妊娠高血圧腎症が生じることを示す図である。(E)時宜を得て妊娠させ、Ad−sFlt−1の低い用量及び高い用量又は対照ウイルスを用いて処置したHmox1
+/−及びHmox1
+/+マウスから得られた妊娠第18日における尿中のsFlt−1(ng/ml)。(F)時宜を得て妊娠させ、Ad−sFlt−1の低い用量及び高い用量又は対照ウイルスを用いて処置したHmox1
+/−及びHmox1
+/+マウスから得られた妊娠第18日における血漿アラニントランスアミナーゼ(ALT)。(G)時宜を得て妊娠させ、Ad−sFlt−1の低い用量及び高い用量又は対照ウイルスを用いて処置したHmox1
+/−及びHmox1
+/+マウスから得られた妊娠第18日における血漿アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)。(H)時宜を得て妊娠させ、Ad−sFlt−1の低い用量及び高い用量又は対照ウイルスを用いて処置したHmox1
+/−及びHmox1
+/+マウスから得られた妊娠第18日における血漿可溶性エンドグリン。
【
図3-3】高いsFlt−1の環境下における妊娠中のHmox1
+/−マウスにおいて、Hmox1の部分的な欠損から、重度の妊娠高血圧腎症が生じることを示す図である。(I)時宜を得て妊娠させ、Ad−sFlt−1の低い用量及び高い用量又は対照ウイルスを用いて処置したHmox1
+/−及びHmox1
+/+マウスから得られた妊娠第18日における、仔1匹当たりのグラム数として表現した平均胎仔体重。(J)時宜を得て妊娠させ、Ad−sFlt−1の低い用量及び高い用量又は対照ウイルスを用いて処置したHmox1
+/−及びHmox1
+/+マウスから得られた妊娠第18日における、パーセントとして表現した総胎仔吸収率。(K)時宜を得て妊娠させ、高い用量のAd−sFlt−1又はAd−CMVを用いて処置したHmox1
+/+マウス及びAd−sFlt−1の高い用量を用いて処置したHmox1
+/−マウスから得られた妊娠第18日における代表的な仔及び胎盤。(L)時宜を得て妊娠させ、Ad−sFlt−1の低い用量及び高い用量又は対照ウイルスを用いて処置したHmox1
+/−及びHmox1
+/+マウスから得られた妊娠第18日における血漿ビリルビン。結果は、代表例であるか、又は平均(±SEM)として表現し、一元配置反復測定分散分析、続いて、スチューデント−ニューマン−コイルス事後検定により分析されている。
【
図4-1】Hmox
−/−マウスにおいて、可溶性Flt−1により、腎臓の重度の損傷の増悪、アルギニン代謝の調節不全、及び酸化性ストレスの促進が生じることを示す図である。(A)Ad−sFlt−1を用いて処置したHmox1
−/−マウスから得られた、重度の糸球体硬化及びメサンギウム融解を示す代表的な糸球体。連続切片を、ヘマトキシリン及びエオシン(HE)、並びに過ヨウ素酸−シッフ(PAS)を用いて染色した。(B)Ad−sFlt−1又は対照ウイルス(Ad−CMV)を用いて処置したHmox1
−/−マウスから得られた異常な糸球体について、コード化したスライドの盲検法によるスコア化を行い、連続切片1つ当たりの糸球体全体のうちのパーセントとして表現した結果。(C)Ad−sFlt−1又は対照ウイルスを用いて処置したHmox1
+/+及びHmox1
−/−マウスから得られた、24時間にわたるアルブミンの尿中への排泄;尿中クレアチニンに対して正規化し、尿中のアルブミン:クレアチニンの比(ACR)として表現した。(D)Ad−sFlt−1又は対照ウイルスを用いて処置したHmox1
+/+及びHmox1
−/−マウスにおける血漿ビリルビン。挿入図:Ad−CMV又はAd−sFlt−1を用いて処置したHmox1
+/+マウスにおける腎臓Hmox1の発現を示すウエスタンブロット。
【
図4-2】Hmox
−/−マウスにおいて、可溶性Flt−1により、腎臓の重度の損傷の増悪、アルギニン代謝の調節不全、及び酸化性ストレスの促進が生じることを示す図である。(E)Ad−sFlt−1又は対照ウイルスを用いて処置したHmox1
+/+及びHmox1
−/−マウスの腎臓溶解液中のアルギナーゼ−1の相対的なmRNA発現。(F)Ad−sFlt−1又は対照ウイルスを用いて処置したHmox1
+/+及びHmox1
−/−マウスの腎臓溶解液中の、mM/mgタンパク質として表現したアルギナーゼ−1の総活性。(G)Ad−sFlt−1又は対照ウイルス(Ad−CMV)を用いて処置したHmox1
+/+及びHmox1
−/−マウスの腎臓溶解液中のアルギニノコハク酸リアーゼ(Asl)の相対的なmRNA発現。(H)Ad−sFlt−1又は対照ウイルス(Ad−CMV)を用いて処置したHmox1
+/+及びHmox1
−/−マウスの腎臓溶解液中のアルギニノコハク酸シンターゼ−1(Ass1)の相対的なmRNA発現。
【
図4-3】Hmox
−/−マウスにおいて、可溶性Flt−1により、腎臓の重度の損傷の増悪、アルギニン代謝の調節不全、及び酸化性ストレスの促進が生じることを示す図である。(I)Ad−sFlt−1又は対照ウイルスを用いて処置したHmox1
+/+及びHmox1
−/−マウスの腎臓溶解液中の3−ニトロチロシンの発現を示すウエスタンブロット。β−アクチンを、充填対照として使用した。結果は、代表例であるか、又は平均(±SEM)として表現し、一元配置反復測定分散分析、続いて、スチューデント−ニューマン−コイルス事後検定により分析されている。
【
図5-1】高いsFlt−1の環境下における妊娠中のHmox1+/−マウスにおいて、アルギニン経路のシフト(shift)により、妊娠高血圧腎症の表現型に回復が生じたことを示す図である。(A)アルギナーゼ阻害剤(ノル−NOHA)、L−アルギニン、又はアルギナーゼ阻害剤及びL−アルギニンを用いて処置したAd−sFlt−1注射Hmox1
−/−マウスから得られた代表的な糸球体。連続切片を、ヘマトキシリン及びエオシン(HE)、並びに過ヨウ素酸−シッフ(PAS)を用いて染色した。(B)アルギナーゼ阻害剤(ノル−NOHA)、L−アルギニン、又はアルギナーゼ阻害剤及びL−アルギニンを用いて処置したAd−sFlt−1注射Hmox1
−/−マウスから得られた、24時間にわたるアルブミンの尿中への排泄;尿中クレアチニンに対して正規化し、尿中のアルブミン:クレアチニンの比として表現した。(C)アルギナーゼ阻害剤(ノル−NOHA)、L−アルギニン、又はアルギナーゼ阻害剤及びL−アルギニンを用いて処置したAd−sFlt−1注射Hmox1
−/−マウスから得られた尿中の腎臓傷害分子−1(pg/ml)(KIM−1)。(D)アルギナーゼ阻害剤及びL−アルギニンを用いて処置したAd−sFlt−1注射Hmox1
−/−マウス、又は未処置の対照から得られた腎臓切片中の3−ニトロチロシンの免疫組織化学的局在。
【
図5-2】高いsFlt−1の環境下における妊娠中のHmox1+/−マウスにおいて、アルギニン経路のシフト(shift)により、妊娠高血圧腎症の表現型に回復が生じたことを示す図である。(E)Ad−sFlt−1を注射した妊娠中のHmox1
+/−マウスから得られた、Hmox1
+/+及びHmox1
−/−の胎盤中のアルギナーゼ−1の相対的なmRNA発現。(F)時宜を得て妊娠させ、Ad−sFlt−1を注射したHmox1
+/−マウスにおいて、アルギナーゼ阻害剤、L−アルギニン、若しくはL−アルギニン及びアルギナーゼ阻害剤を用いて処置した場合、又は未処置の対照の場合に、妊娠第18日に記録した平均動脈圧(MAP)。(G)時宜を得て妊娠させ、Ad−sFlt−1を注射したHmox1
+/−マウスにおいて、アルギナーゼ阻害剤、L−アルギニン、若しくはL−アルギニン及びアルギナーゼ阻害剤を用いて処置した場合、又は未処置の対照の場合の、妊娠第18日における24時間にわたる尿中のアルブミン:クレアチニンの比。(H)時宜を得て妊娠させ、Ad−sFlt−1を注射したHmox1
+/−マウスにおいて、アルギナーゼ阻害剤、L−アルギニン、若しくはL−アルギニン及びアルギナーゼ阻害剤を用いて処置した場合、又は未処置の対照の場合の、妊娠第18日における尿中の腎臓傷害分子−1(pg/ml)(KIM−1)。
【
図5-3】高いsFlt−1の環境下における妊娠中のHmox1+/−マウスにおいて、アルギニン経路のシフト(shift)により、妊娠高血圧腎症の表現型に回復が生じたことを示す図である。(I)時宜を得て妊娠させ、Ad−sFlt−1を注射したHmox1
+/−マウスにおいて、アルギナーゼ阻害剤、L−アルギニン、若しくはL−アルギニン及びアルギナーゼ阻害剤を用いて処置した場合、又は未処置の対照の場合の、妊娠第18日におけるパーセントとして表現した総胎仔吸収率。(J)時宜を得て妊娠させ、Ad−sFlt−1を注射したHmox1
+/−マウスにおいて、アルギナーゼ阻害剤、L−アルギニン、若しくはL−アルギニン及びアルギナーゼ阻害剤を用いて処置した場合、又は未処置の対照の場合の、妊娠第18日における仔1匹当たりのグラム数として表現した平均胎仔体重。(K)時宜を得て妊娠させ、Ad−sFlt−1を注射したHmox1
+/−マウスにおいて、アルギナーゼ阻害剤及びL−アルギニンを用いて処置した場合、又は未処置の対照の場合の、妊娠第18日における代表的な仔及び胎盤。結果は、代表例であるか、又は平均(±SEM)として表現し、一元配置反復測定分散分析、続いて、スチューデント−ニューマン−コイルス事後検定により分析されている。
【
図6-1】妊娠高血圧腎症のRUPPモデルにおけるL−Argとアルギナーゼ阻害剤とを組み合わせた処置の効果を示す図である。(A)収縮期動脈圧(SBP)。(B)第18日における仔1匹当たりのグラム数として表現した平均胎仔体重。(C)時宜を得て妊娠させ、RUPP又はシャム手術を施したC57/bl6マウスにおいて、L−アルギニン及びアルギナーゼ阻害剤を用いて処置した場合又はしなかった場合から得られた、妊娠第18日におけるパーセントとして表現した総胎仔吸収率。(D)時宜を得て妊娠させ、RUPP又はシャム手術を施したマウスにおいて、L−アルギニン及びアルギナーゼ阻害剤を用いて処置した場合又はしなかった場合の、妊娠第18日における尿中のアルブミン:クレアチニンの比。
【
図6-2】妊娠高血圧腎症のRUPPモデルにおけるL−Argとアルギナーゼ阻害剤とを組み合わせた処置の効果を示す図である。(E)時宜を得て妊娠させ、RUPP又はシャム手術を施したC57/bl6マウスにおいて、L−アルギニン及びアルギナーゼ阻害剤を用いて処置した場合又はしなかった場合から得られた、妊娠第18日における尿中の腎臓傷害分子−1(pg/ml)(KIM−1)。(F)時宜を得て妊娠させ、RUPP又はシャム手術を施したC57/bl6マウスにおいて、L−アルギニン及びアルギナーゼ阻害剤を用いて処置した場合又はしなかった場合から得られた、妊娠第18日における循環型sFlt−1レベル。
【
図7-1】sFlt−1レベルの上昇を示す妊娠高血圧腎症患者は、アルギニン生合成経路の変化を有することを示す図である。(A)早発性妊娠高血圧腎症の妊娠及び妊娠期間が一致する対照群におけるsFlt−1の血漿レベル。(B)早発性妊娠高血圧腎症の妊娠及び妊娠期間が一致する対照群におけるビリルビンの血漿レベル。(C)早発性妊娠高血圧腎症の妊娠及び妊娠期間が一致する対照群における、比として表現したsFlt−1:ビリルビンのレベル。(D〜F)sFlt1の有意に上昇したレベルを示す早発性妊娠高血圧腎症の胎盤のサブセットを、妊娠期間が一致する対照群と比較した場合の、アルギナーゼ1、アルギニノコハク酸リアーゼ(Asl)及びアルギニノコハク酸シンターゼ−1(Ass1)の相対的なmRNA発現。
【
図7-2】sFlt−1レベルの上昇を示す妊娠高血圧腎症患者は、アルギニン生合成経路の変化を有することを示す図である。(D〜F)sFlt1の有意に上昇したレベルを示す早発性妊娠高血圧腎症の胎盤のサブセットを、妊娠期間が一致する対照群と比較した場合の、アルギナーゼ1、アルギニノコハク酸リアーゼ(Asl)及びアルギニノコハク酸シンターゼ−1(Ass1)の相対的なmRNA発現。(G〜K)正常妊娠及び妊娠高血圧腎症の合併症を伴う妊娠から得られた胎盤中のアルギナーゼ1、Asl及びAss1のウエスタンブロット及び濃度測定分析:β−アクチンを、充填対照として用い、濃度測定分析の結果は全て、β−アクチンに対して正規化した。
【
図7-3】sFlt−1レベルの上昇を示す妊娠高血圧腎症患者は、アルギニン生合成経路の変化を有することを示す図である。(G〜K)正常妊娠及び妊娠高血圧腎症の合併症を伴う妊娠から得られた胎盤中のアルギナーゼ1、Asl及びAss1のウエスタンブロット及び濃度測定分析:β−アクチンを、充填対照として用い、濃度測定分析の結果は全て、β−アクチンに対して正規化した。
【
図7-4】sFlt−1レベルの上昇を示す妊娠高血圧腎症患者は、アルギニン生合成経路の変化を有することを示す図である。(L)正常な女性及び妊娠高血圧腎症の女性の胎盤の溶解液中の3−ニトロチロシンの発現を示すウエスタンブロット分析。(M)sFlt−1:ビリルビンの比を使用する、有害な転帰の予測のためのROC曲線。
【
図8-1】妊娠高血圧腎症を発症する運命にある女性についての、sFlt−1とビリルビンとの間の比、又はビリルビン:尿素に対するsFlt−1:PlGFの比を示す図である。(A)早発性妊娠高血圧腎症の合併症を伴う妊娠及び遅発性妊娠高血圧腎症の合併症を伴う妊娠を、年齢が一致する正常妊娠と比較した場合の、血漿ビリルビン(μmol/dL)レベル。(B)早発性妊娠高血圧腎症の合併症を伴う妊娠及び遅発性妊娠高血圧腎症の合併症を伴う妊娠を、年齢が一致する正常妊娠と比較した場合の、血漿尿素(mmol/dL)レベル。(C)早発性妊娠高血圧腎症の合併症を伴う妊娠を、年齢が一致する正常妊娠と比較した場合の、可溶性Flt1:ビリルビンの比。(D)sFlt−1:ビリルビンの比を使用する、有害な転帰の予測のためのROC曲線。
【
図8-2】妊娠高血圧腎症を発症する運命にある女性についての、sFlt−1とビリルビンとの間の比、又はビリルビン:尿素に対するsFlt−1:PlGFの比を示す図である。(E)早発性妊娠高血圧腎症の合併症を伴う妊娠及び遅発性妊娠高血圧腎症の合併症を伴う妊娠を、年齢が一致する正常妊娠と比較した場合の、sFlt1:PlGF対ビリルビン:尿素の比。(F)sFlt−1:PlGF対ビリルビン:尿素の比を使用する、有害な転帰の予測のためのROC曲線。
【
図9】sFlt−1処置Hmox1−/−マウスにおける鉄の沈着を示す、ペルルスのプルシアンブルー染色を示す図である。
【
図10】妊娠高血圧腎症に合わせたオーダーメード治療のアプローチを説明するために提案する概略化した経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、妊娠高血圧腎症がVEGF及びHmox1活性の部分的な喪失に起因して発症するという仮説に基づく。
【0017】
低いHmox1活性下における高いsFlt−1の誘発が重度の妊娠高血圧腎症を引き起こすという着想を直接試験するために、発明者らは、sFlt−1を、妊娠中のハプロ不全Hmox1(Hmox1+/−)マウスに、sFlt−1を発現するアデノウイルス(Ad−sFlt−1)の静脈内注射により全身に送達し、これにより、母体の循環中のsFlt−1のレベルを増加させた(
図3−1、3−2、3−3)。高いsFlt−1レベルは、妊娠中のHmox1
+/−マウスにおいて、妊娠中の野生型(Hmox1
+/+)動物と比較して、より高い血圧のみならず、また、より大きな程度の腎臓及び肝臓の傷害も誘発した(
図3−1、3−2、3−3)。妊娠高血圧腎症についての診断基準のうちの1つが高血圧であることから、発明者らは、妊娠第18.5日に、これらのマウスにおいて平均動脈血圧(MAP)を測定し、より高いsFlt−1レベルでは、ハプロ不全マウスが、それらの野生型同腹仔と比較して、重度の高血圧であることを見出した(
図3−1 a)。妊娠高血圧腎症の別の主要な特徴である糸球体内皮炎は、広範な母体の内皮損傷の良好な指標であり(Stillman IE、Karumanchi SA、J Am Soc Nephrol.、2007年;18巻(8号):2281〜2284ページ)、妊娠20週以降に、不十分なろ過及び尿中のタンパク質の増加をもたらす(Moran P、Lindheimer MD、Davison JM、Semin Nephrol.、2004年;24巻(6号):588〜595ページ)。したがって、発明者らは、腎臓組織像の盲検法による分析を実施し、この分析により、重度の糸球体内皮炎に典型的な分葉及び糸球体の瘢痕化が明らかになった(
図3−1 b)。腎臓の損傷と合致して、アルブミンの尿中への排泄が、ハプロ不全動物において、野生型対照と比較して有意に増加した(
図3−1 c)。重度の腎臓傷害についてのさらなる直接的な証拠も、重度の妊娠高血圧腎症と関連がある近位尿細菅の傷害に特異的なマーカーである腎臓傷害分子−1(KIM−1)の尿中レベルの増加、(Burwick RM、Easter SR、Dawood HY、Yamamoto HS、Fichorova RN、Feinberg BB、Hypertension.、2014年;64巻(4号):833〜838ページ)(
図3−1 d)、及びsFlt−1の尿中レベルの増加(Buhimschi CS、Norwitz ER、Funai E、Richman S、Guller S、Lockwood CJ、Buhimschi IA、Am J Obstet Gynecol.、2005年;192巻(3号):734〜741ページ)(
図3−2 e)により立証された。肝臓機能の異常な試験結果は、有害な母体の転帰についてのリスクの増加と関連があることが報告されている(Kozic JR、Benton SJ、Hutcheon JA、Payne BA、Magee LA、von Dadelszen P、J Obstet Gynaecol Can.、2011;33巻(10号):995〜1004ページ)。アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)(
図3−2 f)及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)(
図3−2 g)は、肝臓機能の欠陥のマーカーであり、これらの両方が、高いsFlt−1下のHmox1不全マウスにおいて有意に増加した。興味深いことに、可溶性エンドグリン(sEng)は、sFlt−1と協働して重度の妊娠高血圧腎症を誘発することが報告されたことがあり(Venkatesha S、Toporsian M、Lam C、Hanai J、Mammoto T、Kim YM、Bdolah Y、Lim KH、Yuan HT、Libermann TA、Stillman IE、Roberts D、D’Amore PA、Epstein FH、Sellke FW、Romero R、Sukhatme VP、Letarte M、Karumanchi SA、Nat Med.、2006年;12巻(6号):642〜649ページ)、これもまた、増加した(
図3−2 h)。重度の妊娠高血圧腎症の表現型と合致して、胎仔の成長の低下(
図3−3 i)及び胎仔吸収の増加(
図3−3 j)が、Ad−sFlt−1が投与されたHmox1
+/−マウスにおいて顕著であった。
【0018】
Hmox1活性の増加がビリルビンの血漿濃度を増加させることは公知であり(Hayashi S、Takamiya R、Yamaguchi T、Matsumoto K、Tojo SJ、Tamatani T、Kitajima M、Makino N、Ishimura Y、Suematsu M、Circ Res.、1999年;85巻(8号):663〜671ページ)、したがって、発明者らは、血漿ビリルビンを、Hmox1活性のマーカーとして測定した。sFlt−1は、妊娠中の野生型マウスにおいて、血漿ビリルビンの劇的な増加を誘発した(
図3−3 l)が、Hmox1
+/−マウスにおける血漿ビリルビンの増加は鈍かった(
図3−3 l);野生型動物においては、高いsFlt−1がHmox1の活性化をストレス応答機構として誘発する可能性が高まることは、予想外の知見であった。こうした研究の間の発明者らによる、これらの発見から、発明の段階を得て、高いsFlt−1及び低いHmox1活性により、妊娠高血圧腎症の重度の形態が生じると考え、このことをここに、オーダーメード療法開発のための診断テストとして使用することができた。
【0019】
アルギナーゼ活性の上昇、アルギニノコハク酸リアーゼ(Asl)及びアルギニノコハク酸シンテターゼ(Ass)の発現の減少に起因した、高いsFlt−1レベルの環境下におけるHmox1の喪失が、妊娠高血圧腎症の重度の形態を引き起こし、この形態は、アルギニン代謝(尿素サイクル)の調節不全を引き起こして、組織のニトロソ化ストレスの増加をもたらす(
図4−1、4−2、4−3)。さらに、高いレベルのsFlt−1を有するHmox1
−/−マウスおいて、腎臓の鉄過剰の増加も観察された(
図9)。観察された尿素経路の調節不全は、異常に高いsFlt−1及び低いビリルビンを示す重度の妊娠高血圧腎症を有する女性における調節不全に酷似した(
図7−1、7−2、7−3、7−4)。この妥当性確認群の患者において、胎盤アルギナーゼが、mRNA(
図7−1 d)及びタンパク質(
図7−2 g)のレベルの両方で劇的に増加した。対照的に、Asl(
図7−2 e、7−2 g、7−3 j)及びAss1(
図7−2 f、7−2 g、7−3 k)の転写物及びタンパク質のレベルは、有意に減少した。早発性の患者において、sFlt−1とビリルビンとの間の比は、受信者動作特性(ROC)曲線下面積の0.97以上の統計学的差を示した(
図7−4 m)。さらに、20+0週の妊娠以降に妊娠高血圧腎症が疑われる徴候を示す、単生児妊娠を有する患者においても、アルギナーゼによるアルギニンの加水分解の生成物である尿素のレベルは、有意に増加し、一方、ビリルビンのレベルは減少した(
図8−1、8−2)。sFlt−1/PlGFとビリルビン/尿素との間の比が、重要な予測値をもたらし、早発性疾患では、感度が91.67%であり、特異性が96%であり、遅発性疾患では、感度が85.7%であり、特異性が96%であることが証明された(
図8−2 f)。妊娠高血圧腎症おいてアルギナーゼの増加をもたらす機構は、Hmox1の発現又は活性の喪失、及び高いsFlt−1に起因する。
【0020】
妊娠高血圧腎症の症状を矯正するために、高いsFlt−1の存在下のHmox1欠損マウスにおいて、アルギナーゼ阻害剤(Ν−ω−ヒドロキシ−L−ノルアルギニン)を、L−アルギニンと一緒に投与した。高いsFlt−1が傷害を引き起こした後に、処置の結果、腎臓の糸球体硬化、並びにメサンギウム融解(
図5−1 a〜b)、タンパク尿(
図5−1 c)及びKIM−1の尿中レベル(
図5−1 d)の低下が生じた。ニトロソ化ストレスが低下し、この場合、処置の後に、腎臓の3−ニトロチロシンの免疫染色が減少するように見えた(
図5−2 e)。L−アルギニン又はアルギナーゼ阻害剤を単独で投与した場合には、これらの改善は存在しなかった(
図5−1 a〜c)。sFlt−1への曝露の後の妊娠中のHmox1
+/−マウスにおいて、胎盤アルギナーゼの転写物が上方制御され(
図5−2 e)、妊娠中のHmox1
+/−動物において、L−アルギニンの補充と組み合わせたアルギナーゼ阻害剤により、高血圧(
図5−2 f)、タンパク尿(
図5−2 g)、尿中Kim−1レベル(
図5−2 h)、及び胎仔吸収率(
図5−3 i)を含めた、妊娠高血圧腎症様の症状が回復した。胎仔の体重が増加し(
図5−3 j)、処置後は正常に見えた(
図5−3 k)。ハプロ不全動物において、アルギナーゼ阻害剤又はL−アルギニンの補充の単独投与は、妊娠高血圧腎症のいずれの徴候も消滅させることができなかった(
図5−2 f〜5−3 j)。さらに、妊娠高血圧腎症の子宮内灌流圧低下(RUPP)モデルにおけるアルギナーゼ阻害剤とL−アルギニンとの組合せ投与もまた、有効であることが証明された(
図6−1、6−2)。本発明の妊娠高血圧腎症のための新たな治療により、妊娠高血圧腎症の症状が改善され、例として、血圧の正常化、タンパク尿及び腎臓の損傷の減少、並びに胎仔の成長の改善及び胎仔吸収の阻害がもたらされ得る。上記データは、妊娠高血圧腎症がHmox1及びアルギニン代謝の調節不全から発症する直接的な証拠を提供しており、Hmox1の上方制御及びアルギナーゼの下方制御により、妊娠高血圧腎症の臨床徴候から保護されることを示唆している。
【0021】
本発明の第1の態様は、妊娠中の対象の妊娠高血圧腎症の診断又は予後予測の方法であって、妊娠中の対象から得られる試料を用意するステップと、試料中の、(a)sFlt−1及びPlGFのうちの一方又は両方の量と、(b)ヘムの分解生成物及びアルギニンの分解生成物のうちの一方又は両方の量との間の比を測定するステップとを含む、方法を提供する。
【0022】
遅発性の妊娠高血圧腎症の診断において、sFlt−1は、特に単独で測定して、適切なマーカーとして使用されてきたが、ヘムの分解生成物、例として、ビリルビンと組み合わせて測定し、比較する場合にはとりわけ、適切なマーカーとして使用されるようになる。
【0023】
また、sFlt−1及びPlGFを併せて測定して、比を得ることもでき、この比は、ヘムの分解生成物、例として、ビリルビンと組み合わせて測定し、比較する場合にはとりわけ、遅発性の妊娠高血圧腎症を示すのに有用である。
【0024】
また、ヘムの分解生成物、例として、ビリルビン、及びアルギニンの分解生成物、例として、尿素と組み合わせて、sFlt−1及びPlGFを併せて測定して、比を得ることもでき、ヘム及びアルギニンの分解生成物もまた、併せて測定して、比を得ることもでき、これらの2つの比を、相互に比較することができる。このことは、遅発性の妊娠高血圧腎症を示すのにとりわけ有用である。
【0025】
また、sFlt−1、PlGF、ヘムの分解生成物、例として、ビリルビン、及びアルギニンの分解生成物、例として、尿素を、併せて測定して、比を得ることができ、この比は、遅発性の妊娠高血圧腎症を示すのにとりわけ有用である。
【0026】
アルギニンの分解生成物は、尿素、オルニチン、シトルリン、アルギニノコハク酸及びアンモニアを含むことができる。尿素は、アルギナーゼによるアルギニンの加水分解生成物であり(
図2を参照されたい)、尿素の血中レベルは、アルギナーゼ活性と高度に相関し(Lienerら、1950年)、したがって、妊娠高血圧腎症のリスクがある対象において正常よりも高い濃度で見出されることが予測される。
【0027】
さらに、本発明は、対象から得られる試料中のアルギニン及びアルギナーゼの発現及び活性の量を測定することもできる。
【0028】
本発明のさらなる態様は、妊娠中の対象の妊娠高血圧腎症の診断又は予後予測の方法であって、妊娠中の対象から得られる試料を用意するステップと、試料中の、sFlt−1の量と腎臓又は腎臓機能のマーカーの量との間の比を測定するステップとを含む、方法を提供する。腎臓又は腎臓の損傷のマーカーは、KIM−1(尿中の腎臓傷害分子1)であり得る。
【0029】
上記比を、所定の比と比較して、妊娠高血圧腎症の予後予測又は診断を決定することができる。典型的には、特定のレベルを上回る上記比の増加により、対象が、妊娠高血圧腎症を有すること、及び妊娠高血圧腎症の芳しくない予後予測を示すことが示される。
【0030】
また、対象から採取する試料中の上記比をモニタリングすることによって、対象の妊娠高血圧腎症をモニタリングする方法も提供する。
【0031】
ヘムの分解経路に、Hmox1が関与する。
図1は、Ryter S.W.ら(Physiol.Rev.、(2006年)86巻、583〜650ページ)による論文から改作されており、ヘムの分解生成物を要約している。
【0032】
図1に示すように、Hmox1は、ヘムを、遊離の鉄(これは、フェリチン、Fe−III−フェリチンの複合体を形成する)、一酸化炭素、ビリベルジン(これは、ビリルビンに変換される)に分解する。したがって、それらの生成物のうちの1つ又は複数、最も典型的には、ビリルビンをアッセイすることができる。
【0033】
また、上記アッセイを、胎盤増殖因子(PlGF)についてのアッセイと組み合わせて使用して、診断の精度をさらに改善することもできる。すでに論じたように、PlGFについてのアッセイは当技術分野で一般に公知である。
【0034】
典型的には、妊娠高血圧腎症を有さない健常対象において、sFlt−1の正常レベル(第1の三半期:1107pg/ml;第2の三半期:1437pg/ml;第3の三半期:2395pg/ml)、及びビリルビンの正常レベル(第1の三半期:1.7〜6.8μmol/dL;第2の三半期:1.7〜13.7μmol/dL;第3の三半期:1.7〜18.8μmol/dL)が見出される。典型的には、血中の正常な比は、239pg/μmol未満である。
【0035】
725pg/μmol超の比は、対象のPEを示唆する。
【0036】
典型的には、妊娠高血圧腎症を有さない健常対象において、正常レベルのPlGF(30〜626pg/ml)が見出される。
【0037】
第2の三半期における、PlGFの典型的には279pg/ml未満のレベルは、PEのさらなる証拠を提供する。
【0038】
典型的には、妊娠高血圧腎症を有さない健常対象において、尿素の正常レベル(2.5〜71mmol/dL)が見出される。典型的には、血中のsFlt−1:PlGFとビリルビン:尿素との間の正常な比は、10未満である。
【0039】
典型的には、血中のsFlt−1:PlGFとビリルビンとの間の正常な比は、3.3未満である。
典型的には、血中のsFlt−1:PlGFと尿素との間の正常な比は、5.2未満である。
典型的には、血中のsFlt−1:尿素の正常な比は、1020未満である。
典型的には、血中のsFlt−1とビリルビン:尿素との間の正常な比は、698.4未満である。
典型的には、血中のPlGFとビリルビン:尿素との間の正常な比は、161.4超である。
典型的には、血中のPlGFとビリルビンとの間の正常な比は、33.94超である。
典型的には、血中のPlGFと尿素との間の正常な比は、45.09超である。
【0040】
妊娠高血圧腎症は、早発性又は遅発性の疾患であり得る。
【0041】
sFlt−1、PlGF、ヘムの分解生成物又はアルギニンの分解生成物は、分析対象に特異的な結合剤、例として、抗体、又はFab、F(ab’)
2若しくはsvFvのような、その断片を使用して測定することができる。sFlt−1又はヘムの分解生成物は、イムノアッセイ、例として、ELISA又は当技術分野で一般に公知のその他のイムノアッセイにより決定することができる。
【0042】
典型的には、COレベルを、CO呼気分析装置を使用して呼気中で、又は血清若しくは血漿の試料分析から測定することができるであろう。
【0043】
ビリルビンを、血清又は血漿の試料から、例えば、ジアゾ法を使用して、高速液体クロマトグラフィーを使用して、ビリルビンオキシダーゼの変換を介して酵素的に、又は473nmにおけるビリルビンの最大吸光度を分光光学的に測定することができる。
【0044】
ビリベルジンを、血清又は血漿の試料から、例えば、赤外蛍光を使用して、分光光学的に、又はビリベルジンレダクターゼ活性アッセイの測定を通して測定することができる。
【0045】
フェリチンのレベルを、血清又は血漿の試料から、イムノアッセイ又は免疫放射線法を使用して、Abbott社のアーキテクト(Architect)又はRoche社のエクリア(ECLIA)等のアッセイプラットフォーム上で測定することができる。
【0046】
典型的には、アルギニン又は尿素を、高速液体クロマトグラフィーを使用して測定すること、或いは特異的な結合剤、例として、抗体、又はFab、F(ab’)
2若しくはsvFvのような、その断片を使用して測定することができる。レベルを、イムノアッセイ、例として、ELISA又は当技術分野で一般に公知のその他のイムノアッセイにより決定することができる。
【0047】
アルギナーゼを、特異的な結合剤、例として、抗体、又はFab、F(ab’)
2若しくはsvFvのような、その断片を使用して測定することができる。レベルを、イムノアッセイ、例として、ELISA又は当技術分野で一般に公知のその他のイムノアッセイにより決定することができる。
【0048】
アルギナーゼ活性を、血清又は血漿の試料から、分光光学的に測定することができる。生成された尿素を、基質と特異的に反応させて、存在するアルギナーゼ活性に比例する有色の生成物を得る。
【0049】
上記試料は、血液、尿、血清又は血漿の試料であり得る。試料は、妊娠中のヒト対象から得ることができる。例えば、試料を、典型的には母親がまた超音波スキャンも受ける妊娠第20週時に得ることができる。或いは、試料を妊娠の間のその他の時期に得て、例えば、既存のPEをモニターすること、又はPEの治療が有効であるかどうかを観察することもできる。上記試料を分離し、異なるアッセイで使用することができる。或いは、異なる試料を、異なる分析対象について使用することもできる。したがって、血液を1つの分析対象について使用し、尿を別の分析対象について使用することができる。
【0050】
また、本発明の方法における使用のためのアッセイキットも提供する。
【0051】
アッセイキットは、典型的には、特異的な結合剤、及びヘムの分解生成物を特異的に検出するための1つ又は複数の薬剤、例として、特異的な結合剤を含む。特異的な結合剤は、上記の定義に従う抗体又はその断片であり得る。ヘムの分解生成物は、上記の定義に従うことができる。
【0052】
上記アッセイキットは、ヘムの分解生成物の分析に特異的なアッセイキット構成成分、例えば、ビリルビンの検出ためのビリルビンオキシダーゼ、又はビリベルジンの検出のためのビリベルジンレダクターゼを含むことができる。
【0053】
上記アッセイキットは、アルギニンの加水分解生成物、例として、尿素の分析に特異的な構成成分を含むことができる。
【0054】
Hmox1の調節不全が、高いsFlt−1レベル下においては、アルギニン代謝(尿素サイクルの一部)の調節不全を引き起こして、アルギナーゼ活性、例えば、アルギナーゼI又はIIの活性の上昇、アルギニノコハク酸リアーゼ(Asl)及びアルギニノコハク酸シンテターゼ(Ass)の発現の減少をもたらすことを発明者らは見出すに至った;アルギニン代謝の調節不全は、腎臓及び胎盤において、eNOS/尿素経路の調節不全を引き起こす。尿素サイクル経路を、
図2に要約する。
【0055】
ここに、このアルギニン代謝の調節不全が矯正可能であることを、発明者らは同定するに至った。
【0056】
本発明のさらなる態様は、妊娠高血圧腎症を治療する方法であって、薬学的有効量で、L−アルギニン及び/又はシトルリン、並びにアルギナーゼの阻害剤又はアルギニノコハク酸リアーゼ(Asl)及びアルギニノコハク酸シンテターゼ(Ass)の活性化剤を投与するステップを含む、方法を提供する。
【0057】
アルギナーゼ阻害剤は、当技術分野で公知である。例えば、上記阻害剤は、ノル−NOHA(N−ヒドロキシ−ノル−アルギニン)であり得る。この阻害剤は、虚血性傷害において、内皮の機能を修復するためにすでに使用されている(Kovamees O.ら、PLOS one(2014年、9巻(7号)e103260)。上記阻害剤は、静脈内から送達された。例えば、上記阻害剤は、アルギナーゼI又はIIの阻害剤であり得る。
【0058】
L−アルギニンによる治療は、抗酸化性のビタミンの補充がある場合もない場合も、当技術分野で公知である。例えば、L−アルギニンは、妊娠高血圧腎症を有する妊娠中の女性に投与されてきた(Vadillo−Ortega F.ら、BMJ(2011年、342巻:d2901)。
【0059】
典型的には、L−アルギニンを、アルギナーゼ阻害剤と共に投与する。
【0060】
また、L−シトルリンによる治療も試験されたことがあり、L−シトルリンは、1型糖尿病マウスにおいて、腎臓の損傷から保護する(Romero MJら、Frontiers of Immunology(2013年、4:doi:10.3389/fimmu.2013.00480)。
【0061】
また、妊娠高血圧腎症を治療する方法であって、
(i)シトルリンと、ASl及びASSの活性化剤と、又は
(ii)アルギニノコハク酸と、ASSの活性化剤と
の組合せを使用する、方法も提供する。これらは、
図10に示す経路の構成成分であり、これらにより、妊娠高血圧腎症を治療することが可能になることが予測される。
【0062】
アルギナーゼ阻害剤とL−アルギニンとの組合せもまた、喘息、鎌状赤血球症及び肺高血圧を治療するためにすでに使用されている(EP2,397,128)。
【0063】
使用することができるその他のアルギナーゼ阻害剤は、N(オメガ)−ヒドロキシ−ノル−L−アルギニン(NOHA)、2(S)−アミノ−6−ボロノヘキサン酸(ABH)、S−(+)−アミノ−5−C−ヨードアセトアミドヘキサン酸、S−(+)−アミノ−5−ヨードアセトアミドペンタン酸、L−ノルバリン、及びL−HO Argを含む。典型的には、上記阻害剤は、ノル−NOHA又はNOHAである。
【0064】
また、妊娠高血圧腎症の治療における使用のための、L−アルギニン及び/又はシトルリン、並びにアルギナーゼの阻害剤も提供する。典型的には、L−アルギニンを、アルギナーゼの阻害剤と組み合わせて投与する。
【0065】
典型的には、L−アルギニン又はシトルリンは、経口投与することができるが、また、注射により、例えば、アルギナーゼの阻害剤と組み合わせて投与することもできる。
【0066】
アルギナーゼ阻害剤は、経口投与してもよいが、より典型的には、注射により投与することができる。
【0067】
注射は、静脈内、皮下、筋肉内又は腹腔内注射であり得る。
【0068】
治療すべき患者は、本発明に記載の方法を使用して同定しておく。
【0069】
本発明の治療の方法は、患者の身体、例として、血液、血清、血漿又は尿中の、ヘムの分解生成物及び/又はアルギニンからの生成物に対する、sFlt−1及び/又はPlGFの高い比を有する患者に対して、とりわけ良好に働く。したがって、上記患者は、そのような高い比を有する患者であり得る。
【0070】
また、本発明は、妊娠高血圧腎症を治療する方法であって、薬学的有効量で、L−アルギニン及び/又はシトルリン、並びにアルギナーゼの阻害剤、並びに鉄キレート化剤、例として、デフェロキサミンを投与するステップを含む、方法も提供する。高いレベルのsFlt−1を有する患者において、腎臓の鉄過剰の増加を観察する場合があり、鉄キレート化剤を使用して、この腎臓の鉄過剰の増加を是正することができる。
【0071】
また、上記の定義に従って、診断、予後予測の方法を計算し、モニタリングするための手段を含むコンピュータ及び分析用デバイスも提供する。
【0072】
コンピュータを、(i)妊娠中の対象から得られる試料中のsFlt−1及び/又はPlGFの量を示すシグナル、並びに妊娠中の対象から得られる試料中の(ii)ヘムの分解生成物及び/又はアルギニンの分解生成物の量を示すシグナル、(iii)腎臓機能又は肝臓機能のマーカーを示すシグナルを受信し、上記シグナルを比較して比を生成するための手段及び上記比を表示するためのディスプレイを有するように構成することができる。マーカー及びマーカーを検出する方法は、上記の定義に従うことができる。
【0073】
上記コンピュータは、読取り専用メモリを含む。
【0074】
上記シグナルは、例えば、上記構成成分のうちの1つについてアッセイから得られる色を示すシグナルであり得る。このシグナルを、コンピュータ中の所定の濃度曲線と比較して、分析対象の量を較正し、次いで、第2の分析対象と比較して、割当て量を生成することができる。
【0075】
癌患者に投与される抗VEGF薬はいずれも、「妊娠高血圧腎症様症候群」を誘発する可能性がある(Vigneau,C.ら、2014年)。
【0076】
発明者らは、抗VEGF療法を受けている癌患者における「妊娠高血圧腎症様の徴候」を低下させるための新たな療法を提供する;その理由は、「妊娠高血圧腎症の表現型」についての病態生理学的経路を描出するに至ったからである。本発明者により、癌の治療に、二剤療法(L−アルギニン+アルギナーゼ阻害剤)の使用が追加されることになり、この場合、VEGF中和抗体(例として、アバスチン(Avastin))、VEGF受容体アンタゴニスト(例として、ソラフェニブ、スニチニブ及びブリバニブ)、並びにVEGF捕捉剤(例として、アフリベルセプト)を用いて、癌患者は治療される又は治療されることになる。
【0077】
血管新生活性及び抗酸化酵素活性の不均衡が生じる、いずれの疾患又は療法においても、継続中の療法における症状又は副作用を低下させるために、発明者らの二剤療法(L−アルギニン+アルギナーゼ阻害剤)を提案する。
【0078】
本発明のさらなる態様は、L−アルギナーゼ及びアルギナーゼ阻害剤(例えば、上記の定義に従うアルギナーゼ阻害剤)を使用して、癌の治療における抗VEGF化合物の副作用を低下させる。
【0079】
本発明ではまた、癌を治療する方法であって、癌の治療における使用のために、治療有効量で、抗VEGF化合物、並びにL−アルギニン及びアルギナーゼ阻害剤を用いて、対象を治療するステップを含む、方法も提供する。
【0080】
VEGF(血管内皮増殖因子)は、血管形成及び血管新生を刺激する細胞が生成するシグナルタンパク質である。VEGFを発現する癌は、成長し、転移することが可能である。したがって、VEGF又はVEGFの効果の阻害は、癌を治療する方法である。
【0081】
上記抗VEGF化合物は、抗VEGF抗体又はその機能性断片であり得る。これらの抗VEGF化合物は、ベバシズマブ(VEGF−Aに対するヒト化モノクローナル抗体)、及び循環型VEGFの活性を遮断するVEGF捕捉剤(デコイ(decoy)のVEGF受容体、例えば、アフリベルセプト)を含み、一方、ソラフェニブ、スニチニブ及びブリバニブは、VEGFシグナル経路(とりわけ、VEGF受容体)の多重標的チロシンキナーゼ阻害剤(MTKI)である。
【0082】
ここに、本発明を、以下の図を参照しながら記載するが、そうした記載は、例に過ぎない。
【実施例】
【0083】
材料及び方法
患者の試料
予測研究:これは、前向き研究であり、2012年9月〜2014年12月の間に、St George’s Hospital University of Londonにて行われた。上記研究に参加することを合意する全て女性から、書面によるインフォームドコンセントを得た。上記研究は、London−Stanmore Research倫理委員会により承認された。この研究についての組入れ基準は、20+0週の妊娠以降に妊娠高血圧腎症が疑われる症状又は徴候を示す、単生児妊娠を有する女性であった。アッセイのオペレーターは、参加者の臨床情報について知らされなかった。母体の血液を、静脈穿刺により、抗凝固薬を用いずに収集した。試料を、2000×gで遠心分離し、血清を、ピペット採取し、試験するまで−80℃で保存した。Roche Diagnostics、Penzberg、ドイツ製のエレクシス(Elecsys)プラットフォーム上の市販されているアッセイにより、sFlt−1及びPlGFの濃度を、平行して決定し、次いで、測定した。母体の血清ビリルビンレベルを、比色分析アッセイキットを使用して測定した。
【0084】
妥当性確認研究:上記機関の倫理委員会が、血液及び組織の収集を承認し、書面によるインフォームドコンセントを得た。低リスク及び高リスクの診療所並びに分娩/出産ユニットにおいて動員された、単生児妊娠を有する女性から、血液試料を得た。全ての女性を、登録から出産まで前向きに追跡した。母体の血液を、静脈穿刺により、抗凝固薬を用いずに収集した。試料を、2000×gで遠心分離し、血清を、ピペット採取し、試験するまで−80℃で保存した。市販されているELISAアッセイキット(R&D system)により、sFlt−1及びPlGFの濃度を、平行して決定し、次いで、測定した。母体の血清ビリルビンレベルを、比色分析アッセイキットを使用して測定した。
【0085】
実験動物
妊娠していないマウスを用いる研究を、12週齢のHmox1
−/−マウス及びHmox1
+/+マウスにおいて実施した。1×10
9PFUのAd−sFlt−1アデノウイルス又はAd−CMV(対照)アデノウイルスを、尾静脈への注射により、動物に注射した。アデノウイルスを投与した9日後に、マウスを個々に、代謝ケージに24時間入れた。体重、食餌及び水の摂取、並びに尿体積を測定した。尿測定に続き、血液試料を第10日に採取し、動物を安楽死させ、動物の腎臓及び肝臓を収集して、さらなる分析を行った。また、アルギナーゼ阻害剤及び/又はL−アルギニンの補充を使用する、併用処置による回復研究も、妊娠していないHmox1
−/−マウス及びHmox1
+/+動物において行った。マウスに、ノル−NOHA(Bachem、Bubendorf、スイス)を1日1回腹腔内注射した。Ad−sFlt−1アデノウイルスの注射の1週間前から、研究の終了まで、L−アルギニン(Sigma−Aldrich、St.Louis、MO)を、動物に投与し、この投与は、飲料水に25g/Lを補充することによって行った。
【0086】
妊娠しているマウスを用いる研究を、10〜12週齢のHmox1
+/−マウス及びHmox1
+/+マウス又は野生型C57/Bl6マウスにおいて実施した。妊娠第1日(E0.5)を、翌朝の膣栓の存在により定義した。E10.5(第2の三半期)に、1×10
9PFUのAd−sFlt−1アデノウイルス又はAd−CMV(対照)アデノウイルスを、尾静脈への注射により、妊娠中のマウスに注射した。RUPP研究のために、妊娠第13日に、時宜を得て妊娠させたC57/Bl6マウスに、麻酔を施した。身体の正中に沿って切開し、腹部大動脈を単離した。次いで、大動脈上に配置した(およそ1mm
2の直径の)平滑針の周囲に結び付けた7.0の縫合糸を用いて、血管を拘束した。次いで、針を除去した。7.0の縫合糸を用いて、右卵巣動脈を拘束した。切開部分を閉じ、マウスを5日間回復(recover)させた。低い用量のsFlt−1の実験のために、1×10
8PFUの、sFlt−1を発現するアデノウイルスを使用した。E17.5に、マウスを個々に、代謝ケージに24時間入れ、E18.5に、以前の記載(Wangら、2013年)に従って、動脈圧を測定した。手短に述べると、ケタミン/キシラジンのカクテルを使用することによって、マウスに麻酔を施し、頚動脈を単離し、圧力トランスデューサー(ADInstruments Ltd、Oxford、英国)に接続されているミラー1−フレンチミクロ−チップ(Millar 1−French Mikro−Tip)圧力カテーテルを用いてカニューレ処置した。30分間の血圧安定化の後に、その後の10分の間にわたり、動脈圧を記録し、平均した。測定の後に、血液試料を採取し、動物を安楽死させ、動物の腎臓、肝臓及び胎盤を収集した。生存している胎仔、及び胎盤を計数し、重量を測定した。United Kingdom Animals(Scientific Procedures)Act、1986年に従って、全ての実験を実施し、上記大学の倫理審査委員会が承認する手順を使用した。
【0087】
血液及び尿の生化学的測定
尿中アルブミンを、アルブウエル(Albuwell)−Mキット(Exocell Inc、Philadelphia、PA)を使用して決定した。ヒト及びマウスのsFlt−1、KIM−1及びPlGFのための酵素結合免疫吸着アッセイキットを、R&D Systemsから得、製造元の指定に従って実施した。
【0088】
リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応
試料の調製及びリアルタイム定量的ポリメラーゼ連鎖反応を、以前の記載(Wangら、2013年)に従って実施した。
モノクローナル抗3−ニトロチロシン(1:1000の希釈度、Abcam)、抗アルギニノコハク酸シンターゼ(1:500、Abcam)、抗アルギニノコハク酸リアーゼ(1:500、Abcam)、抗アルギナーゼ−1抗体(1:500、Genetex)、及び抗ベータアクチン(1:10000、Sigma)。
【0089】
免疫組織化学的検査
ヒト及びマウスの胎盤組織を、免疫組織化学的検査のために、以前の記載に従って調製した。免疫組織化学的検査を、アルギナーゼ−1、Ass1、Asl及び3−ニトロチロシンに対する抗体を使用することによって実施した。以下の抗体を使用した:(1)抗アルギナーゼ−1抗体(1:50、Genetex);(2)抗アルギニノコハク酸シンターゼ(1:100、Abcam);(3)抗アルギニノコハク酸リアーゼ(1:100、Abcam)、及び(4)抗3−ニトロチロシン(1:100の希釈度、Abcam)。マウス腎臓、又はヒト胎盤の生検から得られた切片を再水和させ、正常血清を使用してブロックし、一次抗体と共に室温で2時間インキュベートした。ベクタステイン(Vectastain)ABCキットを使用することによって、DABを用いて、可視化を実施した。ヘマトキシリンを用いて、スライドを対比染色した。Nikon製の倒立顕微鏡及びイメージプロ−プラス(Image Pro−Plus)画像解析ソフトウエアを使用することによって、染色を分析した。
【0090】
遺伝子アレイ
RNA試料を、上記の記載に従って、マウス腎臓組織から調製し、ARK−Genomics、University of Edinburghに提出し、ARK−Genomicsで、品質の分析が行われた。
【0091】
ウエスタンブロット分析
腎臓溶解液を精査し、試料を、液体窒素中で急速凍結した。モノクローナル抗3−ニトロチロシン(1:1000の希釈度、Abcam)、抗アルギニノコハク酸シンターゼ(1:500、Abcam)、抗アルギニノコハク酸リアーゼ(1:500、Abcam)、抗アルギナーゼ−1抗体(1:500、Genetex)、及び抗ベータアクチン(1:10000、Sigma)を用いて、ウエスタンブロットを実施した。西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートさせた抗ウサギ又は抗マウスIgG二次抗体(1:1000の希釈度、Transduction Laboratories)を使用した。
【0092】
統計学的分析
結果を、平均±SEMとして示し、複数群間の比較を、分散分析を使用して行った。P<0.05の場合に、差が有意であると報告する。
【0093】
結果
我々は、重度の妊娠高血圧腎症は、VEGF及びHmox1活性の部分的な喪失に起因して発症するおそれがあるという概念を試験するため、並びにヒトのPE様状態を正確に反映するために、妊娠中の、(単一のHmox1対立遺伝子を担持する)ハプロ不全Hmox1(Hmox1
+/−)マウスに、sFlt−1をコードするアデノウイルス(Ad−sFlt−1)の静脈内注射を2回投与することによって、sFlt−1を全身に送達した。我々は、このアプローチを使用して、妊娠中のマウスの血漿中のsFlt−1の顕著な増加を再現した。妊娠高血圧腎症についての診断基準のうちの1つが高血圧であることから、平均動脈血圧(MAP)を、妊娠第18.5日に測定し(
図3−1 a)、又は収縮期血圧(SBP)を、埋め込んだ無線遠隔測定装置を連続的に使用して測定した。測定の両方のモードが、E18.5時に、Ad−sFlt−1処置Hmox1
+/−群において、それらの野生型同腹仔と比較して、より高い循環型sFlt−1レベルでは、大幅に上昇した血圧を示した。さらに、無線遠隔測定による研究から、SBPの連続的な急速な増加も示され、SBPは、sFlt−1処置Hmox1
+/−マウスにおいて、E18.5時に最大に達した。糸球体内皮炎は、重度の妊娠高血圧腎症の主要な特徴であり、広範な母体の内皮損傷の良好な指標である。これらのマウスから得られた腎臓の組織学的分析から、重度の糸球体内皮炎に典型的な分葉及び糸球体の瘢痕化が明らかになった(
図3−1 b)。腎臓の損傷と合致して、アルブミンの尿中への排泄もまた、これらのハプロ不全動物において、野生型マウスと比較して有意に増加した(
図3−1 c)。腎臓傷害分子−1(重度の妊娠高血圧腎症と関連がある近位尿細菅の傷害に特異的なマーカー)の尿中レベルの増加(
図3−1 d)、及び(重度の妊娠高血圧腎症と関連がある)sFlt−1の尿中レベルの上昇(
図3−2 e)により、重度の腎臓傷害がさらに立証された。
【0094】
肝臓機能の異常な試験結果は、有害な母体の転帰についてのリスクの増加と関連があることが報告されており、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)は、急性の肝臓傷害のマーカーであり、これらの両方が、高いsFlt−1を負荷したHmox1不全マウスにおいて有意に増加した(
図3−2 f及びg)。さらに、内皮の活性化のマーカーであり、sFlt−1と協働して重度の妊娠高血圧腎症を誘発することが報告されている可溶性エンドグリン(sEng)もまた増加した(
図3−2 h)。妊娠高血圧腎症の表現型と合致して、Hmox1
+/−マウスにおいて、胎仔体重の低下(
図3−3 i)及び胎仔吸収の増加(
図3−3 j)も見出された。sFlt−1処置Hmox1
+/−マウスから採取した仔の代表的な画像から、より小さく、不十分な血管形成を示す胚が認められた。Hmox1
+/+の胎盤、及びAd−sFlt−1処置Hmox1
+/−マウスから採取したHmox1
+/−の胎盤における胎盤Arg1レベルから、Hmox1
+/−の胎盤中の、Arg1のmRNAの顕著な上昇が示された(
図3−3 k)。血漿ビリルビンが、Hmox1活性のマーカーとして認識されているので、我々は、血漿ビリルビンを測定し、sFlt−1が、野生型の妊娠において、血漿ビリルビンの劇的な増加を誘発するが、Hmox1不全動物においては、血漿ビリルビンの増加は鈍いことを認めた(
図3−3 l)。sFlt−1処置Hmox1
+/+マウス及びsFlt−1処置Hmox1
+/−マウスにおける胎盤Hmox活性の研究の結果は、血漿ビリルビンについての結果に酷似しており、ビリルビンをHmox活性の代用マーカーとして使用することの妥当性がさらに確認された。このことにより、正常な妊娠においては、高いsFlt−1により、ストレス応答機構として、Hmox1活性が誘発されるが、Hmox1活性が制限されている場合には、この機構が損なわれる可能性が高まった。これらの研究は、高いsFlt−1及び低いHmox1活性が、妊娠高血圧腎症の表現型の重度の形態をもたらすことを示しており、Flt−1及びHmox1活性を、ここでは、実情に合わせてオーダーメード療法の開発を支援するための代理のマーカーとして使用することができるであろう。
【0095】
我々は、sFlt−1が上昇しており、Hmoxが欠損している環境が、重度の妊娠高血圧腎症を誘発することができるという概念を直接試験するために、Hmox1
−/−マウスに、sFlt−1を全身に送達した。sFlt−1をコードするアデノウイルス(Ad−sFlt−1)の静脈内注射により、腎臓の損傷を示唆する、循環中及び尿中の高いレベルのsFlt−1をもたらした。Hmox1の欠損はまた、マウスを不妊となすので、これらの実験を、妊娠していない状況においても実施し、後の腎臓の損傷に焦点を当てた。Hmox1の完全な喪失及び高い循環型sFlt−1により、糸球体の毛細血管ループの狭小化又は閉塞、糸球体硬化、メサンギウム融解、分葉及び瘢痕化、並びに一部の細胞における核崩壊を示す、種々の程度の糸球体内皮の腫大により特徴付けられる重度の限局的な糸球体病変が引き起こされた(
図4−1 a)。このことは、腎臓切片の無作為化単回盲検法によるスコア化により確認された;スコアから、sFlt−1を用いて処置したHmox1
−/−マウスにおいて、異常な糸球体のより高いレベルが有意に示された(
図4−1 b)。腎臓の重度の損傷と合致して、タンパク尿が増加した(
図4−1 c)。野生型マウスにおいては、高いsFlt−1により、Hmox1活性の代理のマーカーである血漿ビリルビン活性の上方制御が引き起こされたが、ノックアウト動物においては、sFlt−1により、Hmox1活性は増加しなかった(ビリルビンの低い血漿レベル)(
図4−1 d)。我々は、sFlt−1が誘発する腎臓傷害に関与する機構を検討するために、マウスを、高いレベルのsFlt−1に10日間曝露させた後の腎臓の遺伝子発現の変化を研究した。Affymetrix製の遺伝子チップマイクロアレイの分析から、sFlt−1を用いて処置したHmox1
−/−マウスの腎臓における、(>20倍に)上方制御されたいくつかの遺伝子が明らかになった。最も有意に上方制御された遺伝子のうちの1つが、アルギナーゼ−1(Arg1)であり、このことは、リアルタイムPCR(
図4−2 e)及びアルギナーゼ活性アッセイ(
図4−2 f)により確認された。Arg1の基質は、L−アルギニンである。また、L−アルギニンの利用能は、一酸化窒素(NO)の生物学的利用率の主要な決定因子でもあり、NOは、内皮のNOシンターゼ(NOS)の基質である。L−アルギニン合成における律速段階は、NO生成の副産物であるL−シトルリンの変換であり、L−シトルリンは、アルギニノコハク酸シンテターゼ(Ass)によりアルギニノコハク酸に変換され、アルギニノコハク酸は、アルギニノコハク酸リアーゼ(Asl)により、L−アルギニンに変換されて、再利用される。Hmox1
−/−マウスにおいては、sFlt−1の過剰発現により、Asl(
図4−2 g)及びAss1(
図4−2 h)のmRNA発現が有意に阻害され、このことは、妊娠高血圧腎症におけるHmox1活性の減少は、アルギニン経路の酵素の大きな調節不全をもたらすおそれがあることを示唆している。また、酸化性ストレスマーカーであるニトロチロシンの発現が、正常な妊娠において、妊娠高血圧腎症の胎盤中よりも高いことも公知である。sFlt−1に応答するアルギニン代謝における調節不全及びビリルビンの上昇の欠如が、これらのマウスの腎臓における、ニトロチロシンの反応性の種を検討するように我々を促した。ウエスタンブロット分析を使用して、Ad−sFlt−1を用いて処置したHmox1
−/−マウスにより、腎臓溶解液中の反応性窒素種についてのマーカーである3−ニトロチロシンのより高い存在量が明らかになった(
図4−3 i)。
【0096】
Hmox1
−/−マウスにおけるsFlt−1の過剰発現により、Arg1活性の増加が生じるので、アルギナーゼ活性の阻害を、L−アルギニンの補充と一緒に行うと、これらのマウスにおいて認められる重度の腎臓傷害を回復させることができるかどうかを、我々は直接試験した。Ν−ω−ヒドロキシ−L−ノル−アルギニン(ノル−NOHA)の1日1回の腹腔内注射により、アルギナーゼ活性を阻害し、L−アルギニンを飲料水に添加し、自由に与えた場合に、このことにより、腎臓の糸球体硬化及びメサンギウム融解が回復した(
図5−1 a)。このことによりまた、高いsFlt−1に曝露させたHmox1
−/−マウスにおいて、タンパク尿(
図5−1 b)により検出される腎臓の損傷が有意に阻害され、尿中KIM−1レベル(
図5−1 c)も顕著に低下した。また、Hmox1
−/−マウスにおいては、併用療法による処置の後に、腎臓の3−ニトロチロシンの免疫染色が減少するように見えた(
図5−1 d)。Hmox1
+/+の胎盤、及びAd−sFlt−1処置Hmox1
+/−マウスから採取したHmox1
+/−の胎盤における胎盤Arg1レベルから、Hmox1
+/−の胎盤中の、Arg1のmRNAの顕著な上昇が示された(
図5−2 e)。飲料水に補充し、自由に与えたL−アルギニンにより、Ad−sFlt−1処置Hmox1
+/−マウスにおいて、平均動脈圧(MAP)が有意に低下した(
図5−2 f)が、胎仔吸収率及び平均胎仔体重(
図5−3 j)の有意な改善は示されなかった。一方、1日1回のノル−NOHA療法により、吸収率は低下した(
図5−3 i)が、MAP(
図5−2 f)に対しても胎仔体重に対しても有意な効果は示されなかった。また、両方の療法が、タンパク尿の有意な改善も示さなかった(
図5−2 g)。しかし、アルギナーゼ活性を毎日の処置によって阻害し、一緒にL−アルギニンを補充した場合、このことにより、血圧が低下し(
図5−2 f)、胎仔体重の分布が、正常なAd−CMVの領域まで改善した(
図5−3 j)。上記併用療法により、健常に見える胎仔が生じ(
図5−3 k)、胎仔吸収率の著しく且つ有意な低下を得た(
図5−3 i)。また、併用療法は、高いsFlt−1に曝露させたHmox1
+/−マウスにおいて、タンパク尿により検出される腎臓の損傷を有意に阻害し(
図5−2 g)、尿中KIM−1レベル(
図5−2 h)も顕著に低下させた。
【0097】
子宮胎盤灌流の低下、及び結果として生じる胎盤虚血が、妊娠高血圧腎症の別の主要な顕著な特徴である。より最近になって、ラットにおいて子宮胎盤灌流低下(RUPP)モデルにより発生させた胎盤虚血により、sFlt−1及びsEngが増加し、Hmox1発現が顕著に減少することを、Gilbertらは示した。我々は、ラットRUPPモデルをマウスに適するように小型化し、改作して、我々の新規の、ノル−NOHAとL−アルギニンとの併用療法を試験した。ラットRUPPに関する以前の報告と同様に、野生型C57BL/6マウスにおけるRUPP手術により、収縮期血圧(SBP)(
図6−1 a)及びsFlt−1レベル(
図6−2 f)が、シャム対照と比較して有意に増加した。同様に、RUPP介入の後に、タンパク尿(
図6−1 d)及び吸収率(
図6−1 c)もまた増加した。しかし、ノル−NOHAとL−アルギニンとを用いる併用療法は、RUPPマウスにおいて、収縮期血圧(SBP)(
図6−1 a)、sFlt−1(
図6−2 f)、タンパク尿(
図6−1 d)及び吸収率(
図6−1 c)、並びに正規化胎仔体重(
図6−1 b)を低下させることが可能であった。
【0098】
我々は、重度の妊娠高血圧腎症は、Hmox1活性及びVEGFシグナル伝達に欠陥のある、妊娠中の女性のうちの選択された群において発症するという着想を試験するために、重度の妊娠高血圧腎症を有する女性及び対照において、血漿sFlt−1を測定した。予想通り、血漿sFlt−1が有意に増加し(
図7−1 a)、高いsFlt−1を有するこれらの個体においては、血漿ビリルビンが低いことが見出された(
図7−1 b)。さらに、PE試料においては、ビリルビンに対するsFlt−1の比も有意により高かった(
図7−1 c)。次に、我々は、正常妊娠及び妊娠高血圧腎症の合併症がある妊娠から得られた胎盤中のアルギニン代謝に関与する酵素の発現を比較して、これらの酵素が、妊娠高血圧腎症の我々のマウスモデルの高いsFlt−1及び低いHmox1の環境において観察される様式と類似の様式で変化しているかどうかを観察した。胎盤Arg1は、mRNAレベル(
図7−1 d)並びにタンパク質レベル(
図7−2 g及び
図7−3 i)の両方において、劇的に増加し、この増加は、妊娠高血圧腎症において、血漿アルギナーゼのレベルが増加することと合致した。対照的に、Asl(
図7−2 e、7−2 g、7−3 j)及びAss1(
図7−2 f、7−2 g、7−3 k)の転写物及びタンパク質のレベルは、顕著に減少した。ウエスタンブロット分析から、妊娠高血圧腎症を有する女性から得られた胎盤の溶解液中の3−ニトロチロシンの発現の増加が明らかになった(
図7−4 l)。受信者動作特性(ROC)分析から、sFlt−1/ビリルビンの比は、早期の重度妊娠高血圧腎症を発症する女性と上記障害を発症しない女性との間で、良好な弁別力を有し、ROC曲線下面積は、0.98であることが示された(
図7−4 m)
【0099】
血管新生の不均衡の調節不全を、Hmox1活性の減少及びアルギナーゼ活性の増加と組み合わせて、見込みのある診断ツールとして使用することができるかどうかを試験するために、妊娠高血圧腎症が疑われる徴候を有する女性において、妊娠中期に、sFlt−1、PlGF、ビリルビン及び尿素の血漿レベルを測定した。分析により、早発性の妊娠高血圧腎症及び遅発性の妊娠高血圧腎症を発症する患者において、妊娠中期に、血漿ビリルビンが有意に減少し、尿素が有意に増加することが示された(
図8−1 a及びb)。また、早発性の妊娠高血圧腎症及び遅発性の妊娠高血圧腎症の両方において、ビリルビンに対するsFlt−1の比が、有意に増加し(
図8−1 c)、ROC曲線下面積はそれぞれ、0.865及び0.989である(
図8−1 d)ことも示された。しかし、我々の新規の診断アルゴリズムは、4つのパラメータの組合せとして評価し、[sFlt1:PlGF]/[ビリルビン:尿素]の比として表現すると、早発性の妊娠高血圧腎症及び遅発性の妊娠高血圧腎症の群において、正常妊娠と比較する場合に、[sFlt1:PlGF]/[ビリルビン:尿素]の比の有意な増加を示した(
図8−2 e)。さらに、受信者動作特性(ROC)分析から、この比は、早期の重度妊娠高血圧腎症を発症する女性と遅発性の妊娠高血圧腎症との間で、上記障害を発症しない女性と比較する場合に、良好な弁別力を有し、ROC曲線下面積はそれぞれ、0.983及び0.985であることも示された(
図8−2 f)。