(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の質量をEとし、前記樹脂複合体を23℃、相対湿度50%条件下で24時間静置した後の質量をFとした場合、(E−F)/F×100で表される吸水率が500%以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂複合体。
前記樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の面積をGとし、前記樹脂複合体を23℃、相対湿度50%条件下で24時間静置した後の面積をHとした場合、G/H×100で表される伸縮率が130%以下である請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂複合体。
前記樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の引張強度をAとし、前記樹脂複合体を23℃、相対湿度50%条件下で24時間静置した後の引張強度をBとした場合、A/B×100で表される引張強度残存率が9%以上である請求項1〜9のいずれか1項に記載の樹脂複合体。
前記樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の引張弾性率をCとし、前記樹脂複合体を23℃、相対湿度50%条件下で24時間静置した後の引張弾性率をDとした場合、C/D×100で表される引張弾性率残存率が3%以上である請求項1〜11のいずれか1項に記載の樹脂複合体。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0013】
(樹脂複合体)
本発明は、樹脂と、イオン性官能基を有する繊維と、多価イオンと、を含む樹脂複合体に関する。本発明においては、樹脂とイオン性官能基を有する繊維に加えて、さらに多価イオンを配合することにより、耐水性に優れた樹脂複合体を得ることができる。
【0014】
本発明の樹脂複合体においては、繊維が有するイオン性官能基の電荷と、多価イオンが有する電荷の相互作用により、水に難溶性または不溶性の構造が形成され、このような構造が樹脂複合体の親水性を低下させることにより耐水性が付与されるものと考えられる。また、本発明の樹脂複合体は、上記構造を有するため、湿潤条件下においても十分な強度を発揮することができる。
【0015】
本発明の樹脂複合体の形態は特に限定されるものではないが、例えば、シート、繊維、発泡体、塊状の成形体等とすることができる。中でも本発明の樹脂複合体は、シートもしくは繊維であることが好ましく、シートであることがより好ましい。
【0016】
本発明の樹脂複合体は、湿潤条件下においても十分な強度を発揮することができる。樹脂複合体の湿潤条件下における引張強度は、5MPa以上であることが好ましく、8MPa以上であることがより好ましく、10MPa以上であることがさらに好ましく、20MPa以上であることがよりさらに好ましく、25MPa以上であることが特に好ましい。また、樹脂複合体の湿潤条件下における引張強度の上限値は、特に限定されないが、たとえば500MPa以下とすることができる。なお、湿潤条件における引張強度は、樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬し、表面に残る余分な水をふき取ったものの引張強度である。樹脂複合体の湿潤条件における引張強度は、樹脂複合体がシートである場合、JIS P 8135に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて測定をした値である。
ここで、湿潤条件における引張強度は、樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬後に、一辺の両端を挟持して引き上げて、その後に測定をするものであるから、イオン交換水に浸漬後に樹脂複合体を引き上げ可能なものである。イオン交換水に浸漬後に樹脂複合体を引き上げることができず、破断してしまうものは引張強度の測定ができず、引張強度は0MPaに近いものであると想定される。
【0017】
本発明の樹脂複合体は、調湿(乾燥)条件下における引張強度は、50MPa以上であることが好ましく、70MPa以上であることがより好ましく、100MPa以上であることがさらに好ましい。また、樹脂複合体の調湿(乾燥)条件下における引張強度の上限値は、特に限定されないが、たとえば1000MPa以下とすることができる。なお、調湿条件における引張強度は、樹脂複合体を23℃、相対湿度50%の条件下に置いたものの引張強度である。樹脂複合体の調湿条件における引張強度は、樹脂複合体がシートである場合、JIS P 8113に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて測定をした値である。
【0018】
本発明においては、湿潤条件下における樹脂複合体の引張強度と調湿(乾燥)条件下における樹脂複合体の引張強度の差は小さいものであることが好ましい。湿潤条件とは、樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した条件であり、乾燥条件(調湿条件)とは、樹脂複合体を23℃、相対湿度50%条件下で24時間静置した条件である。本発明では、樹脂複合体がシートである場合であって、樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の引張強度をAとし、樹脂複合体を23℃、相対湿度50%条件下で24時間静置した後の引張強度をBとした場合、引張強度残存率(%)は、A/B×100の値となる。引張強度残存率(%)は9%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましく、35%以上であることが特に好ましい。また、引張強度残存率(%)の上限値は、特に限定されないが、たとえば95%以下とすることができる。引張強度残存率(%)が上記範囲内であることは、湿潤条件下においても良好な力学物性を保持し得ることをいう。
【0019】
本発明の樹脂複合体の湿潤条件下における引張弾性率は、0.2GPa以上であることが好ましく、0.5GPa以上であることがより好ましく、1GPa以上であることがさらに好ましく、2GPa以上であることがさらに好ましい。また、樹脂複合体の湿潤条件下における引張弾性率の上限値は、特に限定されないが、たとえば50GPa以下とすることができる。樹脂複合体の湿潤条件下における引張弾性率は、樹脂複合体がシートである場合、JIS P 8135に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて測定をした値である。
なお、イオン交換水に浸漬後に樹脂複合体を引き上げることができず、破断してしまうものは引張弾性率の測定ができず、引張弾性率は0GPaに近いものであると想定される。
【0020】
本発明の樹脂複合体の調湿(乾燥)条件下における引張弾性率は、3GPa以上であることが好ましく、5GPa以上であることがより好ましく、7GPa以上であることがさらに好ましく、9GPa以上であることがさらに好ましい。また、樹脂複合体の調湿(乾燥)条件下における引張強度の上限値は、特に限定されないが、たとえば100GPa以下とすることができる。樹脂複合体の調湿条件下における引張弾性率は、樹脂複合体がシートである場合、JIS P 8113に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて測定をした値である。
【0021】
本発明においては、湿潤条件下における樹脂複合体の引張弾性率と、乾燥条件(調湿条件)下における樹脂複合体の引張弾性率の差は小さいものであることが好ましい。本発明では、樹脂複合体がシートである場合であって、樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の引張弾性率をCとし、樹脂複合体を23℃、相対湿度50%条件下で24時間静置した後の引張弾性率をDとした場合、引張弾性率残存率(%)は、C/D×100の値となる。引張弾性率残存率(%)は3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましく、20%以上であることがよりさらに好ましく、30%以上であることが特に好ましい。また、引張弾性率残存率(%)の上限値は、特に限定されないが、たとえば95%以下とすることができる。引張弾性率残存率(%)が上記範囲内であることは、湿潤条件下においても良好な力学物性を保持し得ることをいう。
【0022】
本発明の樹脂複合体は、吸水率が小さい。本発明において樹脂複合体の吸水率が小さいことは、耐水性に優れていることを意味する。本発明では、樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の質量をEとし、樹脂複合体を23℃、相対湿度50%条件下で24時間静置した後の質量をFとした場合、吸水率(%)は、(E−F)/F×100で表される値となる。吸水率は、1000%以下であることが好ましく、500%以下であることがより好ましく、400%以下であることがさらに好ましく、300%以下であることがよりさらに好ましく、200%以下であることが特に好ましい。なお、樹脂複合体の吸水率は0%であってもよい。
【0023】
本発明の樹脂複合体は、伸縮率が抑えられている点にも特徴がある。本発明において樹脂複合体の伸縮率が小さいことは、湿潤条件においた際の樹脂複合体の膨潤が抑えられていること意味する。本発明では、樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の樹脂複合体の面積をGとし、樹脂複合体を23℃、相対湿度50%条件下で24時間静置した後の樹脂複合体の面積をHとした場合、伸縮率(%)は、G/H×100で表される値となる。伸縮率は、140%以下であることが好ましく、130%以下であることがより好ましく、120%以下であることがさらに好ましい。なお、樹脂複合体の伸縮率は100%であってもよく、伸縮率が100%の場合、樹脂複合体の膨潤がないことを意味する。
【0024】
本発明の樹脂複合体が、シート以外の形状である場合、例えば繊維である場合はJIS L 1013に、ポリエチレン発泡体である場合はJIS K 6767などに準拠した方法、またはそれに準ずる方法にて強度等を測定する。
【0025】
(イオン性官能基を有する繊維)
本発明の樹脂複合体は、イオン性官能基を有する繊維を有する。イオン性官能基を有する繊維としては、セルロース繊維、キチン繊維、キトサン繊維、表面親水化カーボンナノファイバーなどが挙げられる。
【0026】
イオン性官能基を有する繊維は、セルロース繊維であることが好ましく、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース(以下、微細繊維状セルロースともいう)であることがより好ましい。
【0027】
イオン性官能基を有する繊維の含有量は、樹脂複合体の全質量に対して、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。また、イオン性官能基を有する繊維の含有量は、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明の樹脂複合体においては、イオン性官能基を有する繊維は、好ましくは樹脂複合体中に分散しており、より好ましくは均一に分散している。すなわち、イオン性官能基を有する繊維は、樹脂複合体において補強繊維の働きをするものである。ここで、イオン性官能基を有する繊維が樹脂複合体中に均一に分散している状態とは、下記領域(a)〜(c)に含まれるイオン性官能基を有する繊維の濃度を測定した場合に、2領域間の繊維濃度比が2未満である状態をいう。すなわち、どの2領域の濃度を比較しても2倍以上の差がでない状態をいう。
(a)樹脂複合体の一方の面から樹脂複合体の全体の厚みの10%までの領域
(b)樹脂複合体の他方の面から樹脂複合体の全体の厚みの10%までの領域
(c)樹脂複合体の厚み方向の中心面から全体の厚みの±5%(合計10%)の領域
本発明においては、イオン性官能基を有する繊維が樹脂複合体中に均一に分散しているため、湿潤条件下における樹脂複合体の引張強度が高く、かつ、上述した引張強度残存率(%)も高く維持される。さらに、イオン性官能基を有する繊維が樹脂複合体中に均一に分散しているため、湿潤条件下における樹脂複合体の引張弾性率が高く、かつ、上述した引張弾性率残存率(%)も高く維持される。
【0029】
イオン性官能基を有する繊維は微細繊維状セルロースであることが好ましく、微細繊維状セルロースは、実質的にリグノフェノール及びリグノフェノール誘導体を含まないことが好ましい。すなわち、本発明の樹脂複合体は、実質的にリグノフェノール及びリグノフェノール誘導体を含まないことが好ましい。樹脂複合体中にリグノフェノール及びリグノフェノール誘導体が残存していると、その疎水的性質ゆえに、耐水性が高くなると予想されるが、セルロース繊維同士の間に、イオン性官能基を導入させるための化合物が染込みにくくなり、その結果、セルロース繊維の微細化が不十分になる。本発明の一実施形態においては、イオン性官能基を有する繊維は十分に微細化されていることが好ましく、セルロース繊維の微細化と耐水性の向上が両立され得る。
なお、本明細書において、樹脂複合体が、実質的にリグノフェノール及びリグノフェノール誘導体を含まない状態とは、樹脂複合体の全質量に対して、リグノフェノール及びリグノフェノール誘導体の含有量が1%以下であることをいう。
【0030】
<微細繊維状セルロース>
微細繊維状セルロースを得るための繊維状セルロース原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ、等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細繊維状セルロースの収率が高く、またパルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる点で好ましい。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択される。軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを含有する樹脂複合体は高強度が得られる傾向がある。
【0031】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、1000nm以下である。平均繊維幅は、好ましくは2nm以上1000nm以下、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、より好ましくは2nm以上50nm以下であり、さらに好ましくは2nm以上10nm以下であるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維状セルロースとしての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しにくくなる傾向がある。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば繊維幅が1000nm以下である単繊維状のセルロースである。
【0032】
微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
【0033】
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0034】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細繊維状セルロースの平均繊維幅(単に、「繊維幅」ということもある。)はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
【0035】
微細繊維状セルロースの繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上1000μm以下が好ましく、0.1μm以上800μm以下がさらに好ましく、0.1μm以上600μm以下が特に好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制でき、また微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることができる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0036】
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。
【0037】
微細繊維状セルロースが含有する結晶部分の比率は、本発明においては特に限定されないが、X線回折法によって求められる結晶化度が60%以上であるセルロースを使用することが好ましい。結晶化度は、好ましくは65%以上であり、より好ましくは70%以上であり、この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0038】
本発明において微細繊維状セルロースは、イオン性官能基を有する繊維であり、イオン性官能基は、アニオン性官能基(以下、アニオン基ともいう)であることが好ましい。アニオン基としては、例えば、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基(単にリン酸基ということもある)、カルボキシル基又はカルボキシル基に由来する置換基(単にカルボキシル基ということもある)、及び、スルホン基又はスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基で及びカルボキシル基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることが特に好ましい。
【0039】
微細繊維状セルロースは、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有するものであることが好ましい。リン酸基はリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には−PO
3H
2で表される基である。リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮重合した基、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれ、イオン性置換基であっても、非イオン性置換基であってもよい。
【0040】
本発明では、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、下記式(1)で表される置換基であってもよい。
【化1】
【0041】
式(1)中、a、b、m及びnはそれぞれ独立に整数を表す(ただし、a=b×mである);α
n(n=1〜nの整数)及びα’はそれぞれ独立にR又はORを表す。Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である;βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
【0042】
<リン酸基導入工程>
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「リン酸化試薬」又は「化合物A」という)を反応させることにより行うことができる。このようなリン酸化試薬は、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に粉末や水溶液の状態で混合してもよい。また別の例としては、繊維原料のスラリーにリン酸化試薬の粉末や水溶液を添加してもよい。
【0043】
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(リン酸化試薬又は化合物A)を反応させることにより行うことができる。なお、この反応は、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」という)の存在下で行ってもよい。
【0044】
化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。繊維原料の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
【0045】
本実施態様で使用する化合物Aは、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種である。
リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0046】
これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。リン酸二水素ナトリウム、またはリン酸水素二ナトリウムがより好ましい。
【0047】
また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。化合物Aの水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基の導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3以上pH7以下がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
【0048】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は特に限定されないが、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量は0.5質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。繊維原料に対するリン原子の添加量が100質量%を超えると、収率向上の効果は頭打ちとなり、使用する化合物Aのコストが上昇する。一方、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記下限値以上とすることにより、収率を高めることができる。
【0049】
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、ビウレット、1−フェニル尿素、1−ベンジル尿素、1−メチル尿素、1−エチル尿素などが挙げられる。
【0050】
化合物Bは化合物A同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましく、150質量%以上300質量%以下であることが特に好ましい。
【0051】
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0052】
リン酸基導入工程においては加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度は、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。具体的には50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱には減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いてもよい。
【0053】
加熱処理の際、化合物Aを添加した繊維原料スラリーに水が含まれている間において、繊維原料を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aが繊維原料表面に移動する。そのため、繊維原料中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、繊維表面へのリン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥による繊維原料中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状の繊維原料を用いるか、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は攪拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。
【0054】
加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及びリン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもでき、軸比の高い微細繊維を得ることができる。
【0055】
加熱処理の時間は、加熱温度にも影響されるが繊維原料スラリーから実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本発明では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0056】
リン酸基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1mmol/g以上3.65mmol/g以下であることが好ましく、0.14mmol/g以上3.5mmol/g以下がより好ましく、0.2mmol/g以上3.2mmol/g以下がさらに好ましく、0.4mmol/g以上3.0mmol/g以下が特に好ましく、最も好ましくは0.6mmol/g以上2.5mmol/g以下である。リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細化が容易でありながらも、微細繊維状セルロース同士の水素結合も残すことが可能で、良好な強度発現が期待できる。
【0057】
リン酸基の繊維原料への導入量は、伝導度滴定法により測定することができる。具体的には、解繊処理工程により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定することができる。
【0058】
伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、
図1に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。なお、第2領域と第3領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致することから、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)、または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。すなわち、
図1に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とする。
【0059】
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。この場合、より多くのリン酸基が導入されるので好ましい。
【0060】
<カルボキシル基の導入>
本発明においては、微細繊維状セルロースがカルボキシル基を有するものである場合、たとえばTEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物、その誘導体、またはその酸無水物もしくはその誘導体によって処理することで、カルボキシル基を導入することができる。
【0061】
カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等トリカルボン酸化合物が挙げられる。
【0062】
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。
【0063】
カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
【0064】
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されない。例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。
【0065】
<カルボキシル基の導入量>
カルボキシル基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1mmol/g以上であることが好ましく、0.2mmol/g以上であることがより好ましく、0.3mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.5mmol/g以上であることが特に好ましい。また、カルボキシル基の導入量は3.5mmol/g以下であることが好ましく、3.0mmol/g以下であることがより好ましく、2.5mmol/g以下であることがさらに好ましく、2.0mmol/g以下であることが特に好ましい。カルボキシル基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にすることができ、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。
【0066】
<カチオン性置換基導入>
本実施形態においては、イオン性置換基としてカチオン性置換基が微細繊維状セルロースに導入されていてもよい。例えば繊維原料にカチオン化剤及びアルカリ化合物を添加して反応させることにより、繊維原料にカチオン性置換基を導入することができる。
カチオン化剤としては、4級アンモニウム基を有し、かつセルロースのヒドロキシル基と反応する基を有するものを用いることができる。セルロースのヒドロキシル基と反応する基としては、エポキシ基、ハロヒドリンの構造を有する官能基、ビニル基、ハロゲン基等が挙げられる。カチオン化剤の具体例としては、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドなどのグリシジルトリアルキルアンモニウムハライド或いはそのハロヒドリン型の化合物が挙げられる。
アルカリ化合物は、カチオン化反応の促進に寄与するものである。アルカリ化合物は、アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩またはアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属のリン酸塩またはアルカリ土類金属のリン酸塩などの無機アルカリ化合物であってもよいし、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂肪族アンモニウム、芳香族アンモニウム、複素環式化合物及びその水酸化物、炭酸塩、リン酸塩等の有機アルカリ化合物であってもよい。カチオン性置換基の導入量の測定は、たとえば元素分析等を用いて行うことができる。
【0067】
<アルカリ処理>
微細繊維状セルロースを製造する場合、リン酸基導入工程と、後述する解繊処理工程の間にアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、リン酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。
また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましい。
【0068】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、リン酸基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0069】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、リン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄しても構わない。アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、解繊処理工程の前に、アルカリ処理済みリン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0070】
<解繊処理>
リン酸基導入繊維は、解繊処理工程で解繊処理される。解繊処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維状セルロース含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。
解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。
【0071】
解繊処理の際には、繊維原料を水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。分散媒としては、水の他に、極性有機溶剤を使用することができる。好ましい極性有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、またはt−ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。分散媒は1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、分散媒中に繊維原料以外の固形分、例えば水素結合性のある尿素などを含んでも構わない。
【0072】
本発明の微細繊維状セルロース含有スラリーは、解繊処理により得られた微細繊維状セルロース含有スラリーを、一度濃縮及び/又は乾燥させた後に、再度解繊処理を行って得てもよい。この場合、濃縮、乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、微細繊維状セルロースを含有するスラリーに濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる脱水機、プレス、乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876、WO2012/107642、及びWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。また、微細繊維状セルロース含有スラリーをシート化することで濃縮、乾燥し、該シートに解繊処理を行い、再度微細繊維状セルロース含有スラリーを得ることもできる。
【0073】
微細繊維状セルローススラリーを濃縮及び/又は乾燥させた後に、再度解繊(粉砕)処理をする際に用いる装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできるが特に限定されない。
【0074】
上述した方法で得られたリン酸基を有する微細繊維状セルロース含有物は、微細繊維状セルロース含有スラリーであり、所望の濃度となるように、水で希釈して用いてもよい。
【0075】
(多価イオン)
本発明の樹脂複合体は多価イオンを含む。多価イオンは、価数が2以上の陽イオン又は価数が2以上の陰イオンである。イオン性官能基を有する繊維がアニオン性官能基を有する場合は、多価イオンは価数が2以上の陽イオンであることが好ましく、イオン性官能基を有する繊維がカチオン性官能基を有する場合は、多価イオンは価数が2以上の陰イオンであることが好ましい。
【0076】
多価イオンは金属イオンであることが好ましい。金属イオンは、多価イオンとしては緻密構造を有するものであり、樹脂複合体において難溶性または不溶性の構造を形成し易いため好ましい。金属イオンとしては、例えば、マグネシウムイオン(Mg
2+)、アルミニウムイオン(Al
3+)、カルシウムイオン(Ca
2+)、亜鉛イオン(Zn
2+)、鉄イオン(Fe
2+、Fe
3+)ストロンチウムイオン(Sr
2+)、バリウムイオン(Ba
2+)、カドミウムイオン(Cd
2+)、ニッケルイオン(Ni
2+)、銅イオン(Cu
2+)、コバルトイオン(Co
2+)、スズイオン(Sn
2+)等を挙げることができる。中でも、金属イオンは、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及び鉄イオンから選択される少なくとも1種であることが好ましく、アルミニウムイオン又はマグネシウムイオンであることがより好ましい。多価イオンとしては、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0077】
多価イオンの金属イオンは、錯イオンであってもよい。錯イオンとしては、例えば、テトラアンミン亜鉛(II)イオン([Zn(NH
3)
4]
2+)、テトラアンミン銅(II)イオン[Cu(NH
3)
4]
2+等を挙げることができる。
【0078】
また、多価イオンは、金属イオン以外の多価イオンであってもよい。このような多価イオンとしては、例えば、硫酸イオン(SO
42-)、チオ硫酸イオン(S
2O
32-)、硫化物イオン(S
2-)、炭酸イオン(CO
32-)、リン酸イオン(PO
43-)等を挙げることができる。また、多価イオンはカチオン性及び/又はアニオン性を有する有機物であってもよく、カチオン性及び/又はアニオン性を有する有機物としては、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、ポリアクリルアミド、キトサン、カチオン化でんぷん、クエン酸、ポリアクリル酸、リン酸変性でんぷん等を挙げることができる。
【0079】
多価イオンの含有量は、樹脂複合体に含まれるイオン性官能基を有する繊維の全質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。また、多価イオンの含有量は、樹脂複合体に含まれるイオン性官能基のイオン価数と等量のイオン価数となるように調整することが好ましい。
【0080】
樹脂複合体中に含まれる多価イオンの含有量は、例えば蛍光X線分析法を用いて測定することができる。蛍光X線分析法を用いて定量を行う場合は、まず、検量線作成用として、測定対象と組成及び形態が類似しており、かつ分析元素の含有量(mmol)が既知である試料(例えば、樹脂複合体がシート状である場合は、ろ紙等)を調製し、蛍光X線分析により当該試料のX線強度を測定する。ここでは、二価以上の金属が分析元素となる。次いで、これにより得られたX線強度と、分析元素の既知の含有量に基づき、検量線を作成する。
そして、蛍光X線分析により、測定対象のX線強度を測定する。次いで、これにより得られたX線強度と上記検量線から、測定対象中の分析元素の含有量(mmol)を求める。得られた測定対象中の分析元素の含有量を、測定対象の質量(g)で割ることにより、測定対象への二価以上の金属の導入量(mmol/g)を算出する。ここで、測定対象の質量Zは、下記式で算出される。
Z(g)=W(cm
2)×X(g/cm
3)×Y(cm)
(W:蛍光X線分析に使用したシートの面積(cm
2)、X:シートの密度(g/cm
3)、Y:シートの厚み(cm))
【0081】
その他、多価イオンの定量方法については、適切な前処理と組合せたICP発光分析、ICP質量分析、原子吸光法、イオンクロマトグラフィーなどを挙げることができる。また、多価イオンに含まれる特定の元素に注目した分析方法を用いることもできる。例えば、ポリアクリルアミドのN原子を微量窒素分析装置で定量することができる。
【0082】
(樹脂)
本発明の樹脂複合体は、樹脂を含む。樹脂としては、天然樹脂や合成樹脂を挙げることができる。また、樹脂は熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であってもよい。
【0083】
天然樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジンエステル等のロジン系樹脂を挙げることができる。
【0084】
合成樹脂としては、例えば、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリポリスチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、フッ素系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバリレート、ポリエチレンアジペート、ポリカプロラクトン、ポリプロピルラクトン等のポリエステル、ポリエチレングリコール等のポリエーテル、ポリグルタミン酸、ポリリジン等のポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。
また、合成樹脂としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、酢酸セルロースなどのセルロース系樹脂を用いることも好ましい。
【0085】
本発明で用いる樹脂は、親水性樹脂であることが好ましい。また、樹脂は水溶性樹脂であることがより好ましい。本明細書において、親水性樹脂は、SP値が9.0以上の樹脂をいう。また、本明細書において、親水性樹脂は、100mlのイオン交換水に1g以上溶解するものをいう。なお、水溶性樹脂は親水性樹脂よりもSP値が高く、イオン交換水に対する溶解度も高いものをいう。親水性樹脂は、イオン性官能基を有する繊維との親和性が高いため、好ましく用いられる。
【0086】
親水性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸セルロース、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。中でも、親水性樹脂は、ポリビニルアルコールであることが好ましい。ポリビニルアルコールは、イオン性官能基を有する繊維との親和性がよく、繊維間の隙間を充填し、樹脂複合体の強度と柔軟性を高めることができる。
【0087】
ポリビニルアルコール(PVA)は、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られるものである。ポリビニルアルコールのけん化度は、特に限定されないが、50mol%以上であることが好ましく、60mol%以上であることがより好ましく、70mol%以上であることがさらに好ましい。ポリビニルアルコールのけん化度は、95mol%以下であることが好ましく、90mol%以下であることがより好ましく、85mol%以下であることがさらに好ましい。ポリビニルアルコールのけん化度を上記範囲内とすることにより、樹脂複合体の耐水性をより効果的に高めることができ、さらに、湿潤条件下においても十分な強度を発揮することができる。
【0088】
ポリビニルアルコールの平均重合度は特に限定されないが、500以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましく、1500以上であることがさらに好ましい。また、ポリビニルアルコールの平均重合度は20000以下であることが好ましく、10000以下であることがより好ましく、5000以下であることがさらに好ましい。ポリビニルアルコールの平均重合度を上記範囲内とすることにより、樹脂複合体の耐水性をより効果的に高めることができ、さらに、湿潤条件下においても十分な強度を発揮することができる。
【0089】
本発明で用いる樹脂はマトリックス樹脂と呼ぶこともできる。ここで、マトリックス樹脂とは、イオン性官能基を有する繊維の交点に結着し得る樹脂をいい、樹脂複合体全域において広がりをもった状態で存在する樹脂をいう。すなわち、本発明の樹脂複合体においては、マトリックス樹脂中にイオン性官能基を有する繊維と、多価イオンが混合されてなるものであることが好ましい。
【0090】
樹脂の含有量は、樹脂複合体の全質量に対して、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。また、イオン性官能基を有する繊維の含有量は、95質量%以下であることが好ましい。
【0091】
また、樹脂複合体中に含まれる、樹脂(A)とイオン性官能基を有する繊維(B)との質量比((A)/(B))は、5/95〜95/5の範囲内であることが好ましく、30/70〜95/5の範囲内であることがより好ましく、50/50〜90/10の範囲内であることがさらに好ましい。樹脂とイオン性官能基を有する繊維の質量比を上記範囲内とすることにより、樹脂複合体の強度を高めることができ、かつ耐水性を高めることができる。
【0092】
(任意成分)
樹脂複合体には、上述した成分以外の任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、たとえば、消泡剤、潤滑剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、安定剤、界面活性剤等を挙げることができる。これら任意成分としてイオン性官能基を有する化合物を選択することができ、これによりイオン性官能基を有する繊維と任意成分の間にイオン結合を作ることもできる。この場合、任意成分とイオン性官能基を有する繊維は、同種のイオン性(陽イオン−陽イオン、陰イオン−陰イオン)を持っても良いし、異なるイオン性(陽イオン−陰イオン)を持っても良い。
【0093】
(樹脂複合体の製造方法)
本発明は、樹脂と、イオン性官能基を有する繊維と、多価イオンと、を含有する樹脂複合体を形成する工程を含む樹脂複合体の製造方法に関するものでもある。本発明の樹脂複合体の製造方法においては、以下に挙げる製造方法を採用することができる。
(1)樹脂と、イオン性官能基を有する繊維と、多価イオンを全て混合した樹脂組成物から、樹脂複合体を形成する工程を含む製造方法。
(2)樹脂と、イオン性官能基を有する繊維を混合し、複合体を形成する工程と、複合体を形成する工程の後に、多価イオン含有溶液を付与する工程を含む製造方法。
(3)イオン性官能基を有する繊維から基材を形成する工程と、基材を形成する工程の後に、基材に多価イオン含有溶液を付与する工程と、樹脂を含浸させる工程を含む製造方法。
【0094】
中でも、樹脂複合体の製造方法においては、(2)の製造方法を採用することが好ましい。すなわち、本発明の樹脂複合体の製造工程は、樹脂と、イオン性官能基を有する繊維を混合し、複合体を形成する工程と、複合体を形成する工程の後に、多価イオン含有溶液を付与する工程と、を含むことが好ましい。本発明の樹脂複合体の製造方法においては、複合体を形成する工程の後に、多価イオン含有溶液を付与する工程を設けることにより、イオン性官能基を有する繊維の凝集を抑制することができ、繊維の均一分散性を高めることができる。樹脂複合体において、繊維が均一分散していることは繊維の補強効果を発揮させる観点からも重要である。樹脂複合体において、繊維が均一分散している場合、湿潤条件下における樹脂複合体の引張強度が高くなり、かつ引張強度残存率(%)も高く維持される。さらに、樹脂複合体において、繊維が均一分散している場合、湿潤条件下における樹脂複合体の引張弾性率が高くなり、かつ引張弾性率残存率(%)も高く維持される。
【0095】
なお、樹脂複合体の製造方法に用いる、樹脂、イオン性官能基を有する繊維、及び多価イオンとしては、上述したものを挙げることができ、好ましい範囲も同様である。
【0096】
樹脂複合体の製造方法においては、(2)の製造方法を採用する場合は、樹脂と、イオン性官能基を有する繊維を混合し、複合体を形成する工程においては、樹脂組成物を基材上に塗工することで複合体を形成してもよいし、樹脂組成物を抄紙することにより、複合体を形成してもよい。樹脂組成物を抄紙する場合は、樹脂及びイオン性官能基を有する繊維が歩留る適切なろ材を選択する。また、樹脂としてラテックスや、粉状、繊維状のものを選択することが好ましい。
なお、本発明の製造方法においては、樹脂組成物を基材上に塗工することで複合体を形成することが好ましい。
【0097】
<塗工工程>
塗工工程は、樹脂とイオン性官能基を有する繊維を含む樹脂組成物を基材上に塗工し、これを乾燥して形成されたシートを基材から剥離することにより、複合体(以下、繊維樹脂複合シートもしくはシートと呼ぶこともある)を得る工程である。塗工装置と長尺の基材を用いることで、繊維樹脂複合シートを連続的に生産することができる。塗工工程において、樹脂とイオン性官能基を有する繊維を含む樹脂組成物を用いる場合は、樹脂と、イオン性官能基を有する繊維を所望の質量比となるように混合した樹脂組成物を用いることが好ましい。なお、樹脂組成物を得る際には、樹脂としては0.1質量%以上10質量%以下の濃度に調整された樹脂溶液を用いることが好ましく、樹脂溶液の溶媒としては、水溶液もしくは水を用いることが好ましい。
【0098】
塗工工程で用いる基材の質は、特に限定されないが、樹脂組成物に対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板が好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛版、銅版、鉄板等の金属板及び、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を用いることができる。
【0099】
塗工工程において、樹脂組成物の粘度が低く、基材上で展開してしまう場合、所定の厚み、坪量のシートを得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠の質は特に限定されないが、乾燥後に付着するシートの端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板を成形したものが好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛版、銅版、鉄板等の金属板及び、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したもの用いることができる。
【0100】
樹脂組成物を塗工する塗工機としては、例えば、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが好ましい。
【0101】
塗工温度は特に限定されないが、20℃以上45℃以下であることが好ましく、25℃以上40℃以下であることがより好ましく、27℃以上35℃以下であることがさらに好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、樹脂組成物を容易に塗工でき、上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
【0102】
塗工工程においては、シートの仕上がり坪量が10g/m
2以上100g/m
2以下、好ましくは20g/m
2以上50g/m
2以下になるように樹脂組成物を塗工することが好ましい。坪量が上記範囲内となるように塗工することで、強度に優れたシートが得られる。
【0103】
複合体を形成する工程は、基材上に塗工した樹脂組成物を乾燥させる工程を含むことが好ましい。乾燥方法としては、特に限定されないが、非接触の乾燥方法でも、シートを拘束しながら乾燥する方法の何れでもよく、これらを組み合わせてもよい。
【0104】
非接触の乾燥方法としては、特に限定されないが、熱風、赤外線、遠赤外線または近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができるが、特に限定されない。加熱乾燥法における加熱温度は特に限定されないが、20℃以上150℃以下とすることが好ましく、25℃以上105℃以下とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができ、上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制及び微細繊維状セルロースが熱によって変色することを抑制できる。
【0105】
<抄紙工程>
樹脂と、イオン性官能基を有する繊維を混合し、複合体を形成する工程は、樹脂組成物を抄紙する工程を含んでもよい。抄紙工程で抄紙機としては、長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、これらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等公知の抄紙を行ってもよい。
【0106】
抄紙工程では、樹脂組成物をワイヤー上で濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、プレス、乾燥することでシートを得る。樹脂組成物を濾過、脱水する場合、濾過時の濾布としては特に限定されないが、微細繊維状セルロースや樹脂は通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないことが重要である。このような濾布としては特に限定されないが、有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしては特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。具体的には孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリテトラフルオロエチレンの多孔膜、孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられるが、特に限定されない。
【0107】
樹脂組成物からシートを製造する方法としては、特に限定されないが、例えばWO2011/013567に記載の製造装置を用いる方法等が挙げられる。この製造装置は、微細繊維状セルロースを含む樹脂組成物を無端ベルトの上面に吐出し、吐出された樹脂組成物から分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させて繊維シートを生成する乾燥セクションとを備えている。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
【0108】
採用できる脱水方法としては特に限定されないが、紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられ、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、ロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、乾燥方法としては特に限定されないが、紙の製造で用いられている方法が挙げられ、例えば、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどの方法が好ましい。
【0109】
<多価イオン含有溶液を付与する工程>
本発明の樹脂複合体の製造方法においては、複合体を形成する工程の後に、多価イオン含有溶液を付与する工程を含むことが好ましい。多価イオン含有溶液を付与する工程においては、多価イオン含有溶液を、樹脂とイオン性官能基を有する繊維を含む複合体に噴霧等により付与してもよいが、複合体を多価イオン含有溶液に含浸させることが好ましい。
【0110】
多価イオン含有溶液を付与する工程で用いる多価イオン含有溶液は、上述した多価イオンを含む溶液であればよいが、上述した金属種を含む無機金属塩の水溶液であることが好ましい。多価イオン含有溶液に含まれる無機金属塩の濃度は、特に限定されないが、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。また、多価イオン含有溶液を付与する工程が浸漬工程である場合、浸漬時間は特に限定されないが、1分以上120分以下であることが好ましい。
【0111】
多価イオン含有溶液を付与する工程の後には、洗浄工程を設けてもよく、さらに乾燥工程を設けることが好ましい。乾燥工程としては、複合体を得る工程における乾燥条件と同様の条件を例示することができる。
【0112】
樹脂複合体はシート形状に限らず、繊維形状や発泡体形状としてもよい。たとえば、樹脂組成物を紡糸ノズルから適切な凝固液(たとえばメタノール等の貧溶媒)中に押し出し、回収、洗浄等することにより、繊維状の樹脂複合体を製造することができる。また、樹脂組成物から発泡体を製造する方法としては、特に限定されないが、例えばWO2013/146847に記載の製造方法等が挙げられる。
【0113】
(積層体)
本発明は、樹脂複合体にさらに他の層を積層した構造を有する積層体に関するものであってもよい。このような他の層は、樹脂複合体の両表面上に設けられていてもよいが、樹脂複合体の一方の面上にのみ設けられていてもよい。樹脂複合体の少なくとも一方の面上に積層される他の層としては、例えば、樹脂層や無機層を挙げることができる。
【0114】
<樹脂層>
樹脂層は、天然樹脂や合成樹脂を主成分とする層である。ここで、主成分とは、樹脂層の全質量に対して、50質量%以上含まれている成分を指す。樹脂の含有量は、樹脂層の全質量に対して、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。なお、樹脂の含有量は、100質量%とすることもでき、95質量%以下であってもよい。
【0115】
天然樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジンエステル等のロジン系樹脂を挙げることができる。
【0116】
合成樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、合成樹脂はポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリカーボネート樹脂であることがより好ましい。なお、アクリル樹脂は、ポリアクリロニトリル及びポリ(メタ)アクリレートから選択される少なくともいずれか1種であることが好ましい。
【0117】
樹脂層を構成するポリカーボネート樹脂としては、例えば、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート系樹脂が挙げられる。これらの具体的なポリカーボネート系樹脂は公知であり、例えば特開2010−023275号公報に記載されたポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
【0118】
樹脂層を構成する樹脂は1種を単独で用いてもよく、複数の樹脂成分が共重合または、グラフト重合してなる共重合体を用いてもよい。また、複数の樹脂成分を物理的なプロセスで混合したブレンド材料として用いてもよい。
【0119】
樹脂複合体と樹脂層の間には、接着層が設けられていてもよく、また接着層が設けられておらず、樹脂複合体と樹脂層が直接密着をしていてもよい。樹脂複合体と樹脂層の間に接着層が設けられる場合は、接着層を構成する接着剤として、例えば、アクリル系樹脂を挙げることができる。また、アクリル系樹脂以外の接着剤としては、例えば、塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレン/アクリル酸エステル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル/(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体樹脂や、SBR、NBR等のゴム系エマルジョンなどが挙げられる。
【0120】
樹脂複合体と樹脂層の間に接着層が設けられていない場合は、樹脂層が密着助剤を有してもよく、また、樹脂層の表面に親水化処理等の表面処理を行ってもよい。
密着助剤としては、例えば、イソシアネート基、カルボジイミド基、エポキシ基、オキサゾリン基、アミノ基及びシラノール基から選択される少なくとも1種を含む化合物や、有機ケイ素化合物が挙げられる。中でも、密着助剤はイソシアネート基を含む化合物(イソシアネート化合物)及び有機ケイ素化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。有機ケイ素化合物としては、例えば、シランカップリング剤縮合物や、シランカップリング剤を挙げることができる。
表面処理の方法としては、コロナ処理、プラズマ放電処理、UV照射処理、電子線照射処理、火炎処理等を挙げることができる。
【0121】
<無機層>
無機層を構成する物質としては、特に限定されないが、例えばアルミニウム、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン、白金、金、銀;これらの酸化物、炭化物、窒化物、酸化炭化物、酸化窒化物、もしくは酸化炭化窒化物;またはこれらの混合物が挙げられる。高い防湿性が安定に維持できるとの観点からは、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化炭化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、酸化インジウムスズ(ITO)またはこれらの混合物が好ましい。
【0122】
無機層の形成方法は、特に限定されない。一般に、薄膜を形成する方法は大別して、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition、CVD)と物理成膜法(Physical Vapor Deposition、PVD)とがあるが、いずれの方法を採用してもよい。CVD法としては、具体的には、プラズマを利用したプラズマCVD、加熱触媒体を用いて材料ガスを接触熱分解する触媒化学気相成長法(Cat−CVD)等が挙げられる。PVD法としては、具体的には、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等が挙げられる。
【0123】
また、無機層の形成方法としては、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition、ALD)を採用することもできる。ALD法は、形成しようとする膜を構成する各元素の原料ガスを、層を形成する面に交互に供給することにより、原子層単位で薄膜を形成する方法である。成膜速度が遅いという欠点はあるが、プラズマCVD法以上に、複雑な形状の面でもきれいに覆うことができ、欠陥の少ない薄膜を成膜することが可能であるという利点がある。また、ALD法には、膜厚をナノオーダーで制御することができ、広い面を覆うことが比較的容易である等の利点がある。さらにALD法は、プラズマを用いることにより、反応速度の向上、低温プロセス化、未反応ガスの減少が期待できる。
【0124】
(用途)
本発明の樹脂複合体は、透明で耐水性が高く、湿潤条件においても優れた引張物性を発揮するものである。上記の特性を活かす観点から、各種のディスプレイ装置、各種の太陽電池、等の光透過性基板の用途に適している。また、電子機器の基板、家電の部材、各種の乗り物や建物の窓材、内装材、外装材、包装用資材等の用途にも適している。さらに、糸、フィルタ、織物、緩衝材、スポンジ、研磨材などの他、樹脂複合体そのものを補強材として使う用途にも適している。
【実施例】
【0125】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0126】
〔実施例1〕
<リン酸基導入セルロース繊維の作製>
針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93%、坪量208g/m
2シート状 離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)を使用した。上記針葉樹クラフトパルプ(絶乾質量)100質量部に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を含浸し、リン酸二水素アンモニウム49質量部、尿素130質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを105℃の乾燥機で乾燥し、水分を蒸発させてプレ乾燥させた。その後、140℃に設定した送風乾燥機で、10分間加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
【0127】
得られたリン酸化パルプに、イオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の薬液を十分に洗い流した。次いで、セルロース繊維濃度が2質量%となるようイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1N水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加して、pHが11以上13以下のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の水酸化ナトリウムを十分に洗い流して、リン酸変性セルロース繊維を得た。得られたリン酸変性セルロース繊維は、リン酸基の導入量が1.50mmol/gであった。
【0128】
なお、リン酸基の導入量は、セルロースをイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈した後、イオン交換樹脂による処理、アルカリを用いた滴定によって測定した。イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバージェット1024:コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測した。すなわち、
図1に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とした。
【0129】
<機械処理>
洗浄脱水後に得られたパルプにイオン交換水を添加して、固形分濃度が2.0質量%のパルプ懸濁液にした。このパルプ懸濁液を、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)を用いて処理し、微細繊維状セルロース分散液を得た。湿式微粒化装置を用いた処理においては、200MPaの圧力にて処理チャンバーを5回通過させた。微細繊維状セルロース分散液に含まれる微細繊維状セルロースの平均繊維幅は3〜4nmであった。
【0130】
<繊維樹脂複合シートの作製>
機械処理工程で得られた微細繊維状セルロース分散液と、3.0質量%のポリビニルアルコール(関東化学製:平均重合度2000、ケン化度78〜82mol%)水溶液を、それぞれの絶乾質量が50質量部:50質量部になるように混ぜ合わせ、樹脂複合懸濁液を得た。シートの仕上がり坪量が45g/m
2になるように懸濁液を計量して、市販のアクリル板に塗工し35℃、相対湿度15%のチャンバーにて乾燥した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の板を配置した。以上の手順により、繊維樹脂複合シートが得られ、その厚みは30μmであった。
【0131】
<繊維樹脂複合シートの浸漬処理>
繊維樹脂複合シートを、硫酸アルミニウム14〜18水和物(関東化学製)を含む、硫酸アルミニウム純分が5質量%の水溶液に30分浸漬し、アルミニウムによる架橋処理を行った。このシートをイオン交換水に15分浸漬し、洗浄を行った。この洗浄を2回繰り返した後、アクリル板に貼り付け、35℃、相対湿度90%のチャンバーにて乾燥した。以上のようにして実施例1の樹脂複合体(シート)を得た。樹脂複合体(シート)には多価イオンとしてアルミニウムイオンが含まれていた。
【0132】
〔実施例2〕
浸漬処理時の水溶液を、塩化マグネシウム六水和物(関東化学製)を含む、塩化マグネシウム純分が10質量%の水溶液とした以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体(シート)を得た。樹脂複合体(シート)には多価イオンとしてマグネシウムイオンが含まれていた。
【0133】
〔実施例3〕
浸漬処理時の水溶液を、硫酸鉄(II)七水和物(関東化学製)を含む、硫酸鉄(II)純分が2質量%の水溶液とした以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体(シート)を得た。樹脂複合体(シート)には多価イオンとして鉄イオンが含まれていた。
【0134】
〔実施例4〕
機械処理工程で得られた微細繊維状セルロース分散液と1.8質量%のポリエチレングリコール(和光純薬社製、重量平均分子量400万)を、それぞれの絶乾質量が83質量部:17質量部になるように混ぜ合わせ、樹脂複合懸濁液を得た以外は実施例1と同様にして樹脂複合体(シート)を得た。樹脂複合体(シート)には多価イオンとしてアルミニウムイオンが含まれていた。
【0135】
〔実施例5〕
機械処理工程で得られた微細繊維状セルロース分散液と3.0質量%のポリビニルアルコール(関東化学製:平均重合度2000、ケン化度78〜82mol%)水溶液を、それぞれの絶乾質量が30質量部:70質量部になるように混ぜ合わせ、樹脂複合懸濁液を得た以外は実施例1と同様にして樹脂複合体(シート)を得た。樹脂複合体(シート)には多価イオンとしてアルミニウムイオンが含まれていた。
【0136】
〔実施例6〕
機械処理工程で得られた微細繊維状セルロース分散液と3.0質量%のポリビニルアルコール(関東化学製:平均重合度2000、ケン化度78〜82mol%)水溶液を、それぞれの絶乾質量が10質量部:90質量部になるように混ぜ合わせ、樹脂複合懸濁液を得た以外は実施例1と同様にして樹脂複合体(シート)を得た。樹脂複合体(シート)には多価イオンとしてアルミニウムイオンが含まれていた。
【0137】
〔比較例1〕
硫酸アルミニウム水溶液による浸漬処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体(シート)を得た。
【0138】
〔比較例2〕
硫酸アルミニウム水溶液による浸漬処理を行わなかった以外は、実施例5と同様にして樹脂複合体(シート)を得た。
【0139】
〔比較例3〕
硫酸アルミニウム水溶液による浸漬処理を行わなかった以外は、実施例6と同様にして樹脂複合体(シート)を得た。
【0140】
〔評価〕
<方法>
実施例及び比較例で作製した樹脂複合体(シート)について、以下の評価方法に従って評価を実施した。
【0141】
(1)シートの吸水率
50mm角の樹脂複合体(シート)をイオン交換水に24時間浸漬し、表面に残る余分な水をふき取り、湿潤質量を測定した。また、別のシートを23℃、相対湿度50%の条件で24時間調湿したものの調湿質量を測定した。シートの吸水率(%)は以下の式により算出した。
吸水率(%)=(湿潤質量−調湿質量)/調湿質量×100
【0142】
(2)シートの伸縮率
50mm角の樹脂複合体(シート)をイオン交換水に24時間浸漬し、表面に残る余分な水をふき取り、湿潤シート面積を測定した。また、別のシートを23℃、相対湿度50%の条件下で24時間調湿したものの調湿シート面積を測定した。シートの伸縮率(%)は以下の式により算出した。
伸縮率(%)=湿潤シート面積/調湿シート面積×100
【0143】
(3)シートの引張物性(調湿条件及び湿潤条件)
JIS P 8113及びJIS P 8135に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて引張強度及び引張弾性率を測定した。調湿条件の測定においては、23℃、相対湿度50%で24時間調湿したものを試験片とした。湿潤条件の測定においては、シートをイオン交換水に24時間浸漬し、表面に残る余分な水をふき取ったものを試験片とした。
なお、表中の「測定不可(膨潤・破断)」とは、上記条件でイオン交換水に浸漬した後のシートが著しく膨潤することで、引張物性の測定準備段階で破断し、事実上測定が不可能である状態を指す。
【0144】
(4)シートの引張強度残存率、引張弾性率残存率(調湿条件及び湿潤条件)
シートの引張強度残存率は、調湿条件の引張強度に対する湿潤条件の引張強度により算出した。シートの引張弾性率残存率は、調湿条件の引張弾性率に対する湿潤条件の引張弾性率により算出した。
【0145】
【表1】
【0146】
表1から明らかなように、実施例では、吸水率と伸縮率が抑制されており、実施例で得られた樹脂複合体(シート)は耐水性に優れていることがわかる。また、実施例で得られた樹脂複合体(シート)は湿潤条件においても優れた引張物性を発現することわかる。一方、比較例においては、耐水性や、湿潤条件における引張物性に劣る結果が得られた。
なお、実施例で得られた樹脂複合体(シート)においては、繊維が均一に分散されていることが確認された。具体的には、実施例で得られた樹脂複合体(シート)において、下記領域(a)〜(c)に含まれるイオン性官能基を有する繊維の濃度を測定した場合、2領域間の繊維濃度比が2未満であった。
(a)樹脂複合体の一方の面から樹脂複合体の全体の厚みの10%までの領域
(b)樹脂複合体の他方の面から樹脂複合体の全体の厚みの10%までの領域
(c)樹脂複合体の厚み方向の中心面から全体の厚みの±5%(合計10%)の領域