特許第6822466号(P6822466)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凸版印刷株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6822466
(24)【登録日】2021年1月12日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】レーザー走査装置及びその駆動方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/29 20060101AFI20210114BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20210114BHJP
   G01S 7/481 20060101ALI20210114BHJP
   G01S 17/93 20200101ALI20210114BHJP
【FI】
   G02F1/29
   G02F1/13 505
   G01S7/481 A
   G01S17/93
【請求項の数】10
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2018-504517(P2018-504517)
(86)(22)【出願日】2017年3月7日
(86)【国際出願番号】JP2017009017
(87)【国際公開番号】WO2017154910
(87)【国際公開日】20170914
【審査請求日】2020年2月21日
(31)【優先権主張番号】特願2016-47566(P2016-47566)
(32)【優先日】2016年3月10日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-47570(P2016-47570)
(32)【優先日】2016年3月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 健
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(72)【発明者】
【氏名】吉田 八寿彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠
【審査官】 右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−261203(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/034483(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/073148(WO,A1)
【文献】 特開2009−015329(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0018954(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/29
G02F 1/13
G01S 7/481
G01S 17/93
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー源からのレーザー光を透過し、前記レーザー光の出射角を変化させるレーザー走査装置であって、
対向配置された第1及び第2基板と、
前記第1及び第2基板間に挟持された液晶層と、
前記第1基板に設けられ、第1方向と前記第1方向に交差する第2方向とに沿ってマトリクス状に配置された複数のセル電極を各々が有する複数の単位電極と、
前記第2基板に設けられた共通電極と、
前記複数のセル電極に複数の電圧を印加し、電圧の勾配を生じさせる駆動回路と
を具備するレーザー走査装置。
【請求項2】
前記駆動回路は、前記勾配の大きさを変化させることにより、前記出射角を変化させる
請求項1に記載のレーザー走査装置。
【請求項3】
前記単位電極を構成するセル電極の数を変化させることにより、前記勾配の大きさを変化させる制御回路をさらに具備する
請求項2に記載のレーザー走査装置。
【請求項4】
前記駆動回路は、前記単位電極内で前記勾配を生じさせる
請求項1に記載のレーザー走査装置。
【請求項5】
前記駆動回路は、前記勾配の大きさを変化させることにより、前記出射角を変化させる
請求項4に記載のレーザー走査装置。
【請求項6】
前記単位電極を構成するセル電極の数を変化させることにより、前記勾配の大きさを変化させる制御回路をさらに具備する
請求項4に記載のレーザー走査装置。
【請求項7】
レーザー源からのレーザー光を透過し、前記レーザー光の出射角を変化させるレーザー走査装置であって、
対向配置された第1及び第2基板と、
前記第1及び第2基板間に挟持された液晶層と、
前記第1基板に設けられ、少なくとも1つの第1セル電極を各々が含む複数の第1単位電極と、
前記第1基板に設けられ、第1方向に沿って前記複数の第1単位電極と交互に配置され、少なくとも1つの第2セル電極を各々が含む複数の第2単位電極と、
前記第2基板に設けられた共通電極と、
前記第1及び第2基板を挟むように設けられた第1及び第2偏光板と、
前記第1単位電極を含む第1領域を透過状態にし、前記第2単位電極を含む第2領域を遮断状態にする制御回路と
を具備するレーザー走査装置。
【請求項8】
前記制御回路は、前記第1単位電極に含まれる第1セル電極の数を変化させ、前記第2単位電極に含まれる第2セル電極の数を変化させる
請求項に記載のレーザー走査装置。
【請求項9】
前記第1単位電極は、前記第1方向と前記第1方向に交差する第2方向とに沿ってマトリクス状に配置された複数の第1セル電極を含み、
前記第2単位電極は、前記第1方向と前記第2方向とに沿ってマトリクス状に配置された複数の第2セル電極を含む
請求項に記載のレーザー走査装置。
【請求項10】
レーザー源からのレーザー光を透過し、前記レーザー光の出射角を変化させるレーザー走査装置の駆動方法であって、
前記レーザー走査装置は、
対向配置された第1及び第2基板と、
前記第1及び第2基板間に挟持された液晶層と、
前記第1基板に設けられ、第1方向と前記第1方向に交差する第2方向とに沿ってマトリクス状に配置された複数のセル電極を各々が有する複数の単位電極と、
前記第2基板に設けられた共通電極とを具備し、
前記駆動方法は、
前記複数のセル電極に複数の電圧を印加し、電圧の勾配を生じさせる工程を具備する
レーザー走査装置の駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるレーザー走査装置及びその駆動方法に係り、特に、赤外線レーザーを用いたレーザー走査装置及びその駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の自動運転、又は車両の走行支援を行う機器が盛んに開発されている。車両の自動運転化には、(1)交通事故低減、(2)交通渋滞の緩和、(3)環境負荷の低減、(4)高齢者等の移動支援、(5)運転の快適性向上などの効果が期待される。
【0003】
例えば、車両前方にレーザー光や電波を照射して、車両前方の対象物までの距離を検出し、先行車両との車間距離を制御する車間距離制御装置が知られている。この際、レーザー光を対象物に向けて走査する必要がある。このようなレーザー走査装置には、ポリゴンミラーを回転させてレーザー光を反射する方式や、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)でミラーを動かしてレーザーを反射する方式などがある。しかし、これらの方式では、レーザー走査装置が大型化する傾向にあり、レーザー走査装置の小型化が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第8,982,313号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、小型化が可能なレーザー走査装置及びその駆動方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るレーザー走査装置は、レーザー源からのレーザー光を透過し、前記レーザー光の出射角を変化させるレーザー走査装置であって、対向配置された第1及び第2基板と、前記第1及び第2基板間に挟持された液晶層と、前記第1基板に設けられ、第1方向に沿って並んだ複数のセル電極を各々が有する複数の単位電極と、前記第2基板に設けられた共通電極と、前記複数のセル電極にそれぞれ異なる電圧を印加し、電圧の勾配を生じさせる駆動回路とを具備する。
【0007】
本発明の一態様に係るレーザー走査装置は、レーザー源からのレーザー光を透過し、前記レーザー光の出射角を変化させるレーザー走査装置であって、対向配置された第1及び第2基板と、前記第1及び第2基板間に挟持された液晶層と、前記第1及び第2基板を挟むように設けられた第1及び第2偏光板と、前記第1基板に設けられ、少なくとも1つの第1セル電極を各々が含む複数の第1単位電極と、前記第1基板に設けられ、第1方向に沿って前記複数の第1単位電極と交互に配置され、少なくとも1つの第2セル電極を各々が含む複数の第2単位電極と、前記第2基板に設けられた共通電極と、前記第1単位電極を含む第1領域を透過状態にし、前記第2単位電極を含む第2領域を遮断状態にする制御回路とを具備する。
【0008】
本発明の一態様に係るレーザー走査装置の駆動方法は、レーザー源からのレーザー光を透過し、前記レーザー光の出射角を変化させる。前記レーザー走査装置は、対向配置された第1及び第2基板と、前記第1及び第2基板間に挟持された液晶層と、前記第1基板に設けられ、第1方向に沿って並んだ複数のセル電極を各々が有する複数の単位電極と、前記第2基板に設けられた共通電極とを具備する。前記駆動方法は、前記複数のセル電極にそれぞれ異なる電圧を印加し、電圧の勾配を生じさせる工程を具備する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、小型化が可能なレーザー走査装置及びその駆動方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係るレーザー走査装置の使用態様を説明する概略図。
図2】レーザー走査装置の走査動作を説明する模式図。
図3】レーザー走査装置のブロック図。
図4】第1実施形態に係る液晶パネルの断面図。
図5】複数の単位電極の平面図。
図6】駆動回路の回路図。
図7】反転駆動における電圧波形の一例を説明する図。
図8】オフ状態における液晶パネルの動作を説明する図。
図9】オン状態における液晶パネルの動作を説明する図。
図10】駆動回路が出力する電圧の波高値を説明する図。
図11】液晶分子の屈折率を説明する概念図。
図12】単位電極の長さと出射角との関係を示すグラフ。
図13】単位電極のサイズを変化させる様子を説明する図。
図14】単位電極のサイズを変化させる様子を説明する図。
図15】二次元における単位電極の屈折率の勾配を説明する図。
図16】第2実施形態に係る液晶パネルの断面図。
図17】複数の単位電極の平面図。
図18】駆動回路の回路図。
図19】オン状態における液晶パネルの動作を説明する図。
図20】駆動回路が出力する電圧の波高値を説明する図。
図21】液晶パネルの屈折率と赤外線レーザーの位相との関係を説明する模式図。
図22】出射角と格子間隔との関係を示す図。
図23】出射角と格子間隔との関係を示すグラフ。
図24】単位電極のサイズを変化させる様子を説明する図。
図25】単位電極のサイズを変化させる様子を説明する図。
図26】二次元における単位電極の屈折率の勾配を説明する図。
図27】第3実施形態に係る液晶パネルの断面図。
図28】液晶パネルの遮断領域の動作を説明する図。
図29】液晶パネルの透過領域の動作を説明する図。
図30】二次元における液晶パネルの動作を説明する平面図。
図31】単位電極のサイズを変化させる様子を説明する図。
図32】第4実施形態に係るレーザー走査装置の主要部を示す断面図。
図33】第4実施形態に係るレーザー走査装置の走査範囲を説明する模式図。
図34】第4実施形態に係る出射角と走査範囲との関係を示すグラフ。
図35】第5実施形態に係るレーザー走査装置の主要部を示す断面図。
図36】第5実施形態に係るレーザー走査装置の走査範囲を説明する模式図。
図37】第5実施形態に係る出射角と走査範囲との関係を示すグラフ。
【実施形態】
【0011】
以下、実施形態について図面を参照して説明する。ただし、図面は模式的または概念的なものであり、各図面の寸法および比率等は必ずしも現実のものと同一とは限らないことに留意すべきである。また、図面の相互間で同じ部分を表す場合においても、互いの寸法の関係や比率が異なって表される場合もある。特に、以下に示す幾つかの実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための装置および方法を例示したものであって、構成部品の形状、構造、配置等によって、本発明の技術思想が特定されるものではない。なお、以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0012】
[1] 第1実施形態
[1−1] レーザー走査装置の構成
図1は、第1実施形態に係るレーザー走査装置1の使用態様を説明する概略図である。
【0013】
レーザー走査装置1は、車両の前側(例えば、フロントバンパー、又はフロントグリル)に配置される。前側に加えて又は前側に代えて、車両の後ろ側(例えば、リアバンパー、又はリアグリル)、又は側方(例えば、フロントバンパーの側方)に配置してもよい。さらに、ルーフやボンネット等、車両の上方に備えられていてもよい。
【0014】
車両の前方を走査する場合、レーザー走査装置1は、車両の前方へ向けて、想定する検知範囲よりも広い角度範囲(走査範囲)を走査するように赤外線レーザーを出射する。そして、レーザー走査装置1は、発光と受光との時間差や受光強度などから、先行車両や歩行者等を含む前方対象物を検知し、さらに、対象物との間の距離や相対速度を検出する。なお、レーザー走査装置1が出射するレーザーは、赤外線レーザーに限定されず、赤外線以上の波長を有するレーザーを用いてもよい。例えば、車両から検知対象である対象物までの距離は、100m程度を想定している。しかし、これに限定されるものではなく、この距離は任意に設計可能である。
【0015】
レーザー走査装置1は、LIDAR(Light Detection and Ranging)とも呼ばれる。LIDARとは、照射光が対象物で反射してセンサーに戻るまでの光の往復時間(TOF:Time of Flight)に基づく距離計測装置である。
【0016】
図2は、レーザー走査装置1の走査動作を説明する模式図である。レーザー走査装置1は、レーザー源10、及び液晶パネル11を備える。レーザー源10は、赤外線レーザー(赤外線レーザー光と同意)を出射する。液晶パネル11は、レーザー源10からの赤外線レーザーを受け、時分割で液晶を駆動し、赤外線レーザーを走査する。これにより、対象物に対して複数点の赤外線レーザーを照射することができる。
【0017】
図3は、レーザー走査装置1のブロック図である。レーザー走査装置1は、前述したレーザー源10、及び液晶パネル11に加えて、駆動回路(ドライバ)12、検知回路13、電源回路14、及び制御回路15を備える。
【0018】
駆動回路12は、液晶パネル11を駆動する。この際、駆動回路12は、液晶パネル11が所望の動作を実現できるように、各種電圧を液晶パネル11に供給する。電源回路14は、外部から電源を受け、この外部電源を用いてレーザー走査装置1内の各回路に各種電圧を供給する。
【0019】
検知回路13は、対象物によって反射された赤外線レーザーを検知する。検知回路13は、例えば赤外線センサーから構成される。その他、検知回路13として赤外線カメラを用いてもよい。
【0020】
制御回路15は、レーザー走査装置1の全体動作を制御する。特に、制御回路15は、駆動回路12の電圧生成動作を制御する。また、制御回路15は、検知回路13からの検知信号に基づいて、対象物までの距離を算出する。
【0021】
[1−1−1] 液晶パネル11の構成
次に、液晶パネル11の構成について説明する。図4は、液晶パネル11の断面図である。液晶パネル11は、透過型の液晶パネルである。
【0022】
液晶パネル11は、対向配置された基板21、22と、基板21、22間に挟持された液晶層23とを備える。基板21、22の各々は、透明基板から構成され、例えば、ガラス基板から構成される。基板21は、レーザー源10に対向配置され、レーザー源10からの赤外線レーザーは、基板21側から液晶層23に入射する。なお、レーザー源10側に基板22を配置してもよい。
【0023】
液晶層23は、基板21、22間を貼り合わせるシール材24によって封入された液晶材料により構成される。シール材24は、例えば、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、又は紫外線・熱併用型硬化樹脂等からなり、製造プロセスにおいて基板21又は基板22に塗布された後、紫外線照射、又は加熱等により硬化させられる。
【0024】
液晶材料は、基板21、22間に印加された電界に応じて液晶分子の配向が操作されて光学特性が変化する。液晶モードとしては、例えば、ポジ型(P型)のネマティック液晶を用いたホモジニアスモードが用いられる。すなわち、ホモジニアスモードでは、電界を印加しない時には基板面に対して概略水平方向に液晶分子を配向させる。液晶の配向は、液晶層23を挟むように設けられた配向膜(図示せず)によって制御される。ホモジニアスモードの液晶分子配列は、電界を印加しない時に液晶分子の長軸(ダイレクタ)が概略水平方向に配向し、電界を印加した時に液晶分子のダイレクタが垂直方向に向かって傾く。本実施形態では、ホモジニアスモードを用いた場合について説明する。
【0025】
なお、液晶モードとして、ネガ型(N型)のネマティック液晶を用いた垂直配向(VA:Vertical Alignment)モードを用いてもよい。すなわち、VAモードでは、電界を印加しない時には基板面に対して概略垂直方向に液晶分子を配向させる。VAモードの液晶分子配列は、電界を印加しない時に液晶分子の長軸(ダイレクタ)が概略垂直方向に配向し、電界を印加した時に液晶分子のダイレクタが水平方向に向かって傾く。
【0026】
基板21の液晶層23側には、マトリクス状に配置された複数のセル電極25Aを備える。任意の数のセル電極群を単位電極25と呼称する。単位電極25のサイズは、これを構成するセル電極25Aの数を変更することで変えることができる。図4には、1つの単位電極25に含まれる複数のセル電極25Aの様子を、破線の四角で抽出して示している。セル電極25Aは、透明電極から構成され、例えばITO(インジウム錫酸化物)が用いられる。
【0027】
複数の単位電極25は、互いに電気的に分離されており、また、複数のセル電極25Aは、互いに電気的に分離されている。すなわち、各セル電極25Aに対して個別に電圧制御が可能であり、また、各単位電極25に対して個別に電圧制御が可能である。単位電極25は、液晶パネル11の駆動単位である。単位電極25のX方向の長さをW(Y方向の長さも同様にW)と表記する。
【0028】
図5は、複数の単位電極25の平面図である。図5に示すように、複数の単位電極25は、X方向及びこれに直交するY方向にマトリクス状に配置される。図5の破線は、赤外線レーザーの照射領域を示している。
【0029】
基板22の液晶層23側には、1つの共通電極26が設けられる。共通電極26は、液晶パネル11の液晶層23が設けられる領域全体に平面状に形成される。共通電極26は、透明電極から構成され、例えばITOが用いられる。
【0030】
なお、液晶パネル11として、LCOS(Liquid Crystal on Silicon)方式を用いた透過型液晶パネル(透過型LCOS)を用いてもよい。透過型LCOSを用いることで、電極を微細加工することが可能となり、より小型の液晶パネル11を実現できる。透過型LCOSでは、シリコン基板(又は透明基板上に形成されたシリコン層)が用いられる。シリコン基板は、バンドギャップとの関係で、特定の波長以上の波長を有する光(赤外線を含む)を透過するため、LCOSを透過型液晶パネルとして使用することができる。LCOSを使用することにより、セル電極がより小さい液晶パネルとすることができるため、さらに小型化することが可能となる。また、液晶分子の移動度が高いため、レーザーを高速で走査することが可能となる。
【0031】
[1−1−2] 駆動回路12の構成
次に、駆動回路12の構成について説明する。図6は、駆動回路12の回路図である。駆動回路12は、スイッチ素子12A、12Bと、複数のセル電極25Aに対応して設けられた複数の可変抵抗素子12Cとを備える。図6では、一例として4つの可変抵抗素子12C−1〜12C−4を示している。
【0032】
スイッチ素子12Aの一端は、電源回路14に接続される。スイッチ素子12Aの他端は、複数の可変抵抗素子12Cの一端に接続される。複数の可変抵抗素子12Cの他端はそれぞれ、単位電極25に含まれる複数のセル電極25Aに接続される。スイッチ素子12Bの一端は、電源回路14に接続され、その他端は、共通電極26に接続される。
【0033】
スイッチ素子12A、12Bのオン/オフ動作は、制御回路15によって制御される。また、複数の可変抵抗素子12Cの抵抗値は、制御回路15によって個別に制御される。
【0034】
なお、図6に示した駆動回路12の構成は一例であり、セル電極25Aを個別に電圧制御できる回路であれば他の構成でもよい。
【0035】
[1−2] 動作
次に、上記のように構成されたレーザー走査装置1の動作について説明する。
【0036】
本実施形態では、例えば、液晶層23を挟む単位電極25及び共通電極26間の電界の極性を所定周期で反転させる反転駆動(交流駆動)が行われる。反転駆動を行うことで、液晶の劣化などを防止することができる。反転駆動の周期は任意に設定可能である。図7は、反転駆動における電圧波形の一例を説明する図である。
【0037】
図7に示すように、電源回路14は、所定の正電圧V1と、これと極性反転された負電圧−V1との一方を単位電極25(具体的には可変抵抗素子12C)に供給し、他方を共通電極26に供給する。電圧V1は、液晶層に電圧振幅“V1×2”を印加した場合に、液晶分子が基板に概略垂直に配向するように設定される。さらに、電源回路14は、単位電極25及び共通電極26に交流電圧を供給する。
【0038】
まず、オフ状態における液晶パネル11の動作を説明する。図8は、オフ状態における液晶パネル11の動作を説明する図である。オフ状態において、制御回路15は、スイッチ素子12A、12Bをオフさせる。これにより、液晶層23に電界が印加されず、液晶層23の全領域において、液晶分子は、基板に対して水平方向に配向している。この場合、液晶層23に屈折率の勾配は生じていない。よって、レーザー源10からの赤外線レーザーは、液晶パネル11に垂直に入射し、そのまま屈折せずに液晶パネル11から出射する。
【0039】
次に、液晶パネル11のオン状態における動作を説明する。以下では、X方向に沿って1次元に走査する動作を例に挙げて説明する。図9は、オン状態における液晶パネル11の動作を説明する図である。オン状態において、制御回路15は、スイッチ素子12A、12Bをオンさせる。これにより、電源回路14から駆動回路12及び共通電極26に所定の電圧が印加される。また、制御回路15は、単位電極25を単位として、駆動回路12に含まれる複数の可変抵抗素子12Cの抵抗値をX方向に沿って順に大きくする。
【0040】
駆動回路12は、複数の可変抵抗素子12Cの抵抗値に応じて決まる電圧を、それぞれ複数のセル電極25Aに印加する。図9の例では、駆動回路12は、X方向に沿って順に電圧が順に低くなるように、複数のセル電極25Aにそれぞれ複数の電圧を印加する。
【0041】
図10は、駆動回路12が出力する電圧の波高値を説明する図である。図10の縦軸が電圧の波高値(電圧振幅のうち正側の電圧)、図10の横軸が可変抵抗素子12Cの番号を表している。なお、図10では、図6に一例として示した4つの可変抵抗素子12C−1〜12C−4に対応する電圧を図示しているが、電圧の数は、単位電極25に含まれるセル電極25Aの数に応じて変更される。
【0042】
図10に示すように、駆動回路12は、可変抵抗素子12C−1〜12C−4を用いて、勾配を有する複数の電圧を生成することができる。図10の勾配を有する複数の電圧がそれぞれ対応するセル電極25Aに印加される。
【0043】
オン状態では、図9に示すように、液晶層23では、印加電圧が高い(電界が高い)領域では、液晶分子が概略垂直方向に配向し、印加電圧が低い(電界が低い)領域では、液晶分子が概略水平方向に配向し、これらの中間の領域では、印加電圧の大きさに応じて水平方向に対して斜め方向に配向する。
【0044】
これにより、長さW内で赤外線レーザーの進行方向に対し垂直の方向の屈折率に勾配が生じる。また、隣り合う単位電極25には同じ勾配となるように電圧が印加される。レーザー源10からの赤外線レーザーが液晶パネル11に対して概略垂直方向に入射すると、屈折が起こり、出射角θoutで液晶パネル11から赤外線レーザーが出射する。図9の距離Δは、単位電極25(すなわち、長さW)内で発生する最大光路差である。赤外線レーザーの入射角θin=0°とすると、赤外線レーザーの出射角θoutでは、以下の式(1)で表される。

tanθout={(n−n)/n}(D/W) ・・・(1)
【0045】
液晶層23の厚さD、単位電極25の長さW、液晶分子の長軸に沿った屈折率(異常光の屈折率)n、液晶分子の短軸に沿った屈折率(常光の屈折率)nである。図11は、液晶分子の屈折率を説明する概念図である。屈折率の関係は、“n>n”である。図11において、大きい楕円は、液晶分子が水平方向に配向している場合の上面図であり、小さい楕円は、液晶分子が垂直方向に立っている場合の上面図である。進行方向が液晶分子の短軸と平行な光(振動方向が液晶分子の長軸に平行な光)は、相対的に遅く進み、一方、進行方向が液晶分子の長軸と平行な光(振動方向が液晶分子の短軸に平行な光)は、相対的に速く進む。このように、本実施形態では、液晶層23の複屈折性を利用して、赤外線レーザーを屈折させることができる。
【0046】
例えば、n=1.3、n=1.1、D=10μm、W=20μmとすると、θout=3.4°となる。図12は、単位電極25の長さWと出射角θoutとの関係を示すグラフである。図12の縦軸が出射角θout(度)、図12の横軸が単位電極25の長さW(μm)である。
【0047】
図12から理解できるように、長さWを変えることで、出射角θoutを任意に設定することができる。すなわち、レーザー走査装置1は、赤外線レーザーを所定範囲で走査することができる。長さWを変えるには、単位電極25のサイズを変えればよく、単位電極25を構成するセル電極25Aの数を変えればよい。
【0048】
換言すると、単位電極25に印加される電圧の勾配を変化させることで、単位電極25を含む液晶領域で屈折率の勾配を変化させることができる。すなわち、単位電極25に印加される電圧の勾配を変化させることで、出射角θoutを変化させることができる。1つの単位電極に印加されかつ勾配を有する複数の電圧のうち、最大電圧(=V1)と最小電圧(=0V)は常に同じである。そして、駆動回路12は、単位電極25の長さWを変えることで、最大電圧から最小電圧までの勾配を変化させる。
【0049】
図13及び図14は、単位電極25のサイズを変化させる様子を説明する図である。図14は、図13に比べて、単位電極25のサイズが大きい。すなわち、図14の単位電極25に含まれるセル電極25Aの数は、図13の単位電極25に含まれるセル電極25Aの数より多い。これに応じて、図14の長さWは、図13の長さWよりも大きくなっている。図12から理解できるように、図14の出射角は、図13の出射角よりも小さい。
【0050】
なお、X方向に沿った一次元で走査する場合は、図5に示す1つの単位電極25においてY方向に並んだセル電極列には、同じ電圧が印加される。一方、二次元で走査する場合は、1つの単位電極25においてY方向に並んだセル電極列には、複数の異なる電圧を印加し、単位電極内で電圧の勾配を生じさせる。他の単位電極25についても同じである。
【0051】
図15は、二次元における単位電極25の屈折率の勾配を説明する図である。二次元で走査する場合は、X方向及びY方向において、複数の異なる電圧を印加し、単位電極内で電圧の勾配を生じさせる。このように、単位電極25の電圧を制御することで、二次元的に赤外線レーザーを走査させることができる。
【0052】
[1−3] 第1実施形態の効果
以上詳述したように第1実施形態では、レーザー走査装置1は、赤外線レーザーを出射するレーザー源10と、レーザー源10からの赤外線レーザーを透過するとともに、赤外線レーザーの出射角を変化させる液晶パネル11と、液晶パネル11に電圧を印加する駆動回路12とを備える。液晶パネル11は、対向配置された基板21、22と、基板21、22に挟持された液晶層23と、基板21に設けられた複数の単位電極25と、基板22に設けられた共通電極26とを備える。複数の単位電極25の各々は、X方向に並んだ複数のセル電極25Aを備える。そして、駆動回路12は、複数のセル電極25Aにそれぞれ複数の異なる電圧を印加し、電圧の勾配を生じさせる。さらに、駆動回路12は、電圧の勾配の大きさを変化させることで、赤外線レーザーの出射角を変化させるようにしている。
【0053】
従って第1実施形態によれば、液晶層23の複屈折性を利用することで、1つの単位電極25に対応する液晶領域において、屈折率の勾配を形成することができる。これにより、屈折原理を用いて、液晶パネル11に入射した赤外線レーザーを所望の出射角で屈折させることができる。
【0054】
また、単位電極25に含まれるセル電極25Aの数を変えることで、単位電極25の一方向の長さWを変化させることができる。これにより、赤外線レーザーによって所望の範囲を走査可能なレーザー走査装置1を実現できる。
【0055】
また、本実施形態に係るレーザー走査装置1は、小型化、高速走査、及び低コスト化が可能となる。
【0056】
また、本実施形態に係るレーザー走査装置1は、機械的な構成部品がなく、かつ機械的な可動部がないため、信頼性を向上できる。
【0057】
[2] 第2実施形態
第2実施形態は、回折原理を利用して、赤外線レーザーの出射角を変化させるようにしている。
【0058】
[2−1] 液晶パネル11の構成
液晶パネル11の構成について説明する。液晶パネル11は、第1実施形態と同じものを用いることができる。図16は、第2実施形態に係る液晶パネル11の断面図である。液晶パネル11は、透過型の液晶パネルである。
【0059】
液晶パネル11は、対向配置された基板21、22と、基板21、22間に挟持された液晶層23とを備える。基板21、22の各々は、透明基板から構成され、例えば、ガラス基板から構成される。基板21は、レーザー源10に対向配置され、レーザー源10からの赤外線レーザーは、基板21側から液晶層23に入射する。なお、レーザー源10側に基板22を配置してもよい。
【0060】
液晶層23は、基板21、22間を貼り合わせるシール材24によって封入された液晶材料により構成される。
【0061】
液晶材料は、基板21、22間に印加された電界に応じて液晶分子の配向が操作されて光学特性が変化する。液晶モードとしては、例えば、ポジ型(P型)のネマティック液晶を用いたホモジニアスモードが用いられる。なお、液晶モードとして、ネガ型(N型)のネマティック液晶を用いた垂直配向(VA)モードを用いてもよい。
【0062】
基板21の液晶層23側には、マトリクス状に配置された複数のセル電極25Aを備える。任意の数のセル電極群を単位電極25と呼称する。単位電極25のサイズは、これを構成するセル電極25Aの数を変更することで変えることができる。単位電極25は、1つ又はマトリクス状に配置された複数のセル電極25Aを備える。図16には、1つの単位電極25に含まれる複数のセル電極25Aの様子を、破線の丸で抽出して示している。セル電極25Aは、透明電極から構成され、例えばITO(インジウム錫酸化物)が用いられる。
【0063】
複数の単位電極25は、互いに電気的に分離されており、また、複数のセル電極25Aは、互いに電気的に分離されている。すなわち、各セル電極25Aに対して個別に電圧制御が可能であり、また、各単位電極25に対して個別に電圧制御が可能である。
【0064】
図17は、複数の単位電極25の平面図である。図17に示すように、複数の単位電極25は、X方向及びこれに直交するY方向にマトリクス状に配置される。図17の破線は、赤外線レーザーの照射領域を示している。
【0065】
本実施形態では、回折格子の原理を用いて赤外線レーザーの出射角を変化させる。単位電極25のX方向の長さは、回折格子における格子間隔Λに対応する。より正確には、格子間隔Λは、着目する単位電極とこれのX方向両側にそれぞれ隣接する2つの単位電極との隙間の2つの中間点間の距離に対応する。X方向と同様に、Y方向においても格子間隔Λが定義される。
【0066】
基板22の液晶層23側には、1つの共通電極26が設けられる。共通電極26は、液晶パネル11の液晶層23が設けられる領域全体に平面状に形成される。共通電極26は、透明電極から構成され、例えばITOが用いられる。
【0067】
[2−2] 駆動回路12の構成
次に、駆動回路12の構成について説明する。図18は、駆動回路12の回路図である。駆動回路12は、スイッチ素子12A、12Bと、複数のセル電極25Aに対応して設けられた複数の可変抵抗素子12Cとを備える。図18では、一例として11個の可変抵抗素子12C−1〜12C−11を示している。
【0068】
スイッチ素子12Aの一端は、電源回路14に接続される。スイッチ素子12Aの他端は、複数の可変抵抗素子12Cの一端に接続される。複数の可変抵抗素子12Cの他端はそれぞれ、単位電極25に含まれる複数のセル電極25Aに接続される。スイッチ素子12Bの一端は、電源回路14に接続され、その他端は、共通電極26に接続される。
【0069】
スイッチ素子12A、12Bのオン/オフ動作は、制御回路15によって制御される。また、複数の可変抵抗素子12Cの抵抗値は、制御回路15によって個別に制御される。
【0070】
なお、図18に示した駆動回路12の構成は一例であり、セル電極25Aを個別に電圧制御できる回路であれば他の構成でもよい。
【0071】
[2−3] 動作
次に、上記のように構成されたレーザー走査装置1の動作について説明する。
【0072】
前述した図18は、オフ状態における液晶パネル11の動作を表している。図19は、オン状態における液晶パネル11の動作を説明する図である。
【0073】
第2実施形態においても、液晶層23を挟む単位電極25及び共通電極26間の電界の極性を所定周期で反転させる反転駆動(交流駆動)が行われる。第1実施形態で説明した図7と同様に、電源回路14は、所定の正電圧V1と、これと極性反転された負電圧−V1との一方を単位電極25(具体的には可変抵抗素子12C)に供給し、他方を共通電極26に供給する。電圧V1は、液晶層に電圧振幅“V1×2”を印加した場合に、液晶分子が基板に概略垂直に配向するように設定される。さらに、電源回路14は、単位電極25及び共通電極26に交流電圧を供給する。
【0074】
まず、オフ状態における液晶パネル11の動作を説明する。図18に示すように、オフ状態において、制御回路15は、スイッチ素子12A、12Bをオフさせる。これにより、液晶層23に電界が印加されず、液晶層23の全領域において、液晶分子は、基板に対して水平方向に配向している。この場合、液晶層23に屈折率の勾配は生じていない。
【0075】
次に、オン状態における液晶パネル11の動作を説明する。以下では、X方向に沿って1次元に走査する動作を例に挙げて説明する。図19に示すように、オン状態において、制御回路15は、スイッチ素子12A、12Bをオンさせる。これにより、電源回路14から駆動回路12及び共通電極26に所定の電圧が印加される。また、制御回路15は、単位電極25を単位として、駆動回路12に含まれる複数の可変抵抗素子12Cの抵抗値をX方向に沿って順に大きくする。
【0076】
駆動回路12は、複数の可変抵抗素子12Cの抵抗値に応じて決まる電圧を、それぞれ複数のセル電極25Aに印加する。図19の例では、駆動回路12は、X方向に沿って電圧が順に低くなるように、複数のセル電極25Aにそれぞれ複数の電圧を印加する。
【0077】
図20は、駆動回路12が出力する電圧の波高値を説明する図である。図20の縦軸が電圧の波高値(電圧振幅のうち正側の電圧)、図20の横軸が可変抵抗素子12Cの番号を表している。なお、図20では、図18に一例として示した可変抵抗素子12C−1〜12C−11に対応する電圧を図示しているが、電圧の数は、単位電極25に含まれるセル電極25Aの数に応じて変更される。
【0078】
図20に示すように、駆動回路12は、可変抵抗素子12C−1〜12C−11を用いて、勾配を有する複数の電圧を生成することができる。図20の勾配を有する複数の電圧がそれぞれ対応するセル電極25Aに印加される。
【0079】
これにより、図19に示すように、液晶層23では、印加電圧が高い(電界が高い)領域では、液晶分子が概略垂直方向に配向し、印加電圧が低い(電界が低い)領域では、液晶分子が概略水平方向に配向し、これらの中間の領域では、印加電圧の大きさに応じて水平方向に対して斜め方向に配向する。
【0080】
図21は、液晶パネル11の屈折率とレーザー光の位相との関係を説明する模式図である。液晶パネル11の単位電極25に勾配を有する複数の電圧を印加すると、液晶層23に屈折率の勾配が生じる。この時、液晶パネル11は、等価的にブレーズド(blazed)回折格子として機能する。よって、1つの単位電極25を含む液晶領域において、屈折率の勾配に応じて赤外線レーザーの位相が変化する。これにより、レーザー源10からの赤外線レーザーが液晶パネル11に対して概略垂直方向に入射すると、出射角が変化し、出射角θoutで液晶パネル11から赤外線レーザーが出射する。赤外線レーザーの入射角θin=0°とすると、赤外線レーザーの出射角θoutでは、以下の式(2)で表される。

sinθout=λ/Λ ・・・(2)
【0081】
λは赤外線レーザーの波長である。Λは格子間隔である。例えば、λ=1550nm、Λ=29.6μmである場合、θout=3°となる。
【0082】
なお、X方向に沿った一次元で走査する場合は、図17に示す1つの単位電極25においてY方向に並んだセル電極列には、同じ電圧が印加される。一方、二次元で走査する場合は、1つの単位電極25においてY方向に並んだセル電極列には、複数の異なる電圧を印加し、単位電極内で電圧の勾配を生じさせる。他の単位電極25についても同じである。
【0083】
さらに、格子間隔Λを変えることで、出射角θoutを任意に設定することができる。格子間隔Λを変えるには、単位電極25のサイズを変えればよく、単位電極25を構成するセル電極25Aの数を変えればよい。図22は、出射角θoutと格子間隔Λとの関係を示す図である。図23は、出射角θoutと格子間隔Λとの関係を示すグラフである。図23の縦軸が出射角θout(度)、図23の横軸が格子間隔Λ(μm)である。図22及び図23も同様に、赤外線レーザーの波長λ=1550nmである。
【0084】
図22及び図23から理解できるように、赤外線レーザーの出射角θoutを任意に変えることができる。すなわち、レーザー走査装置1は、赤外線レーザーを所定範囲で走査することができる。
【0085】
図24及び図25は、単位電極25のサイズを変化させる様子を説明する図である。図25は、図24に比べて、単位電極25のサイズが大きい。すなわち、図25の単位電極25に含まれるセル電極25Aの数は、図24の単位電極25に含まれるセル電極25Aの数より多い。これに応じて、図25の格子間隔Λは、図24の格子間隔Λよりも大きくなっている。図22及び図23から理解できるように、図25の出射角は、図24の出射角よりも小さい。
【0086】
図26は、二次元における単位電極25の屈折率の勾配を説明する図である。二次元で走査する場合は、X方向及びY方向において、複数の異なる電圧を印加し、単位電極内で電圧の勾配を生じさせるこのように、単位電極25の電圧を制御することで、二次元的に赤外線レーザーを走査させることができる。
【0087】
なお、走査方向は、1方向のみであってもよい。この場合は、1方向(X方向又はY方向)のみに屈折率の勾配を形成すればよい。
【0088】
[2−4] 第2実施形態の効果
以上詳述したように第2実施形態では、レーザー走査装置1は、赤外線レーザーを出射するレーザー源10と、レーザー源10からの赤外線レーザーを透過するとともに、赤外線レーザーの出射角を変化させる液晶パネル11と、液晶パネル11に電圧を印加する駆動回路12とを備える。液晶パネル11は、対向配置された基板21、22と、基板21、22に挟持された液晶層23と、基板21に設けられた複数の単位電極25と、基板22に設けられた共通電極26とを備える。複数の単位電極25の各々は、X方向に並んだ複数のセル電極25Aを備える。そして、駆動回路12は、複数のセル電極25Aにそれぞれ複数の異なる電圧を印加し、電圧の勾配を生じさせるようにしている。
【0089】
従って第2実施形態によれば、1つの単位電極25に対応する液晶領域において、屈折率の勾配を形成することができる。よって、液晶パネル11をブレーズド回折格子として機能させることができる。これにより、液晶パネル11に入射した赤外線レーザーを所望の出射角で出射させることができる。
【0090】
また、単位電極25を構成するセル電極25Aの数を変えることで、格子間隔Λを変化させることができる。これにより、赤外線レーザーによって所望の範囲を走査可能なレーザー走査装置1を実現できる。その他の効果は、第1実施形態と同じである。
【0091】
[3] 第3実施形態
第3実施形態は、第2実施形態と異なる回折原理を用いて、赤外線レーザーを走査するようにしている。
【0092】
[3−1] 液晶パネル11の構成
図27は、第3実施形態に係る液晶パネル11の断面図である。第3実施形態に係る液晶モードは、例えば、TN(Twisted Nematic)モードである。
【0093】
液晶層23は、基板21、22に挟持される。液晶層23は、ポジ型(P型)のネマティック液晶を用いたTN液晶から構成される。すなわち、液晶層23に含まれる液晶分子は、初期状態(無電界時)において、液晶層23の上下で60度〜120度の範囲(概略90度)でねじれている。液晶の配向は、液晶層23を挟むように設けられた配向膜(図示せず)によって制御される。なお、液晶モードとして、ホモジニアスモード、VAモード、又はIPS(In Plane Switching)モードなどを用いてもよい。
【0094】
基板21の液晶層23側には、複数のセル電極25Aがマトリクス状に配置される。複数のセル電極25Aは、互いに電気的に分離されている。すなわち、各セル電極25Aに対して個別に電圧制御が可能である。セル電極25Aは、透明電極から構成され、例えばITOが用いられる。
【0095】
基板22の液晶層23側には、1つの共通電極26が設けられる。共通電極26は、液晶パネル11の液晶層23が設けられる領域全体に平面状に形成される。共通電極26は、透明電極から構成され、例えばITOが用いられる。
【0096】
基板21の液晶層23と反対面には、偏光板30が設けられる。基板22の液晶層23と反対面には、偏光板31が設けられる。偏光板30、31は、ランダムな方向の振動面を有する光から、透過軸と平行な一方向の振動面を有する光、すなわち直線偏光の偏光状態を有する光を取り出すものである。偏光板30、31は、面内において吸収軸及び透過軸がそれぞれ平行になるように配置される。
【0097】
無電界時の液晶層23では、偏光板30側の液晶分子は、偏光板30の透過軸と平行に配列され、偏光板31側の液晶分子は、偏光板31の透過軸と直交するように配列される。なお、本実施形態では、ノーマリーブラック方式の液晶パネル11を例示しているが、勿論、ノーマリーホワイト方式を用いることも可能である。
【0098】
本実施形態では、格子間隔Λは、2つの単位電極によって規定され、例えばX方向に隣接する2つのセル電極25Aで規定される領域の長さに対応する。図27に示すように、1つの格子間隔Λに含まれる2つの領域のうち一方を領域AR1、他方を領域AR2と表記する。図27において示したAR1、AR2はそれぞれ同じ構造を有する。領域AR1、AR2は、X方向及びY方向に交互に配置される。
【0099】
[3−2] 動作
上記のように構成されたレーザー走査装置1の動作について説明する。
【0100】
オフ状態における液晶パネル11では、全てのセル電極25A及び共通電極26に電圧が印加されない。これにより、液晶パネル11は、全領域において光を遮断する。
【0101】
以下に、オン状態における液晶パネル11の動作を説明する。オン状態では、光を遮断する領域AR1と、光を透過する領域AR2とを用いて、液晶パネル11に回折格子を形成する。
【0102】
図28は、液晶パネル11の遮断領域である領域AR1の動作を説明する図である。駆動回路12は、複数のスイッチ素子12Aと、1つのスイッチ素子12Bとを備える。複数のスイッチ素子12Aは、セル電極25Aごとに設けられる。
【0103】
領域AR1を遮断状態にする場合、制御回路15は、対応するスイッチ素子12Aをオフさせる。なお、スイッチ素子12Bはオンしている。これはオフ状態の動作と同じであり、領域AR1に入射した赤外線レーザーは、偏光板30、31によって遮断される。
【0104】
図29は、液晶パネル11の透過領域である領域AR2の動作を説明する図である。領域AR2を透過状態にする場合、制御回路15は、対応するスイッチ素子12Aをオンさせる。
【0105】
この場合、領域AR2では、液晶分子が基板に概略垂直方向に配向する。よって、液晶パネル11に入射した赤外線レーザーは、領域AR2を透過する。なお、領域AR1は、遮断状態のままである。
【0106】
図30は、二次元における液晶パネル11の動作を説明する平面図である。オン状態における液晶パネル11は、遮断領域(領域AR1)と透過領域(領域AR2)とが市松模様を構成する。市松模様とは、X方向及びY方向の各々において、透過領域と遮断領域とを交互に配置した模様である。
【0107】
このように、液晶パネル11に回折格子を形成することができる。これにより、レーザー源10からの赤外線レーザーが液晶パネル11に概略垂直に入射すると、出射角が変化し、出射角θoutで液晶パネル11から赤外線レーザーが出射する。
【0108】
さらに、格子間隔Λを変えることで、出射角θoutを任意に設定することができる。格子間隔Λを変えるには、第2実施形態と同様に、単位電極25を構成するセル電極25Aの数を変えればよく、換言すると、単位電極25のサイズを変えればよい。
【0109】
図31は、単位電極25のサイズを変化させる様子を説明する図である。図30の単位電極25のサイズを図31の単位電極25のサイズに変化させる。図31に示すように、単位電極25は、複数のセル電極25Aを備える。説明を簡略化するために、図30の単位電極25が1つのセル電極25Aを備えた構成とすると、図31の単位電極25は、4個のセル電極25Aを備える。1つの単位電極25に含まれる複数のセル電極25Aは同じ動作(遮断状態及び透過状態の一方)を行う。
【0110】
このように、単位電極25のサイズを変えることで、格子間隔Λが変化する。これにより、液晶パネル11は、赤外線レーザーを走査することができる。出射角θoutと格子間隔Λとの関係は、第2実施形態で示した図22及び図23と同じである。
【0111】
[3−3] 第3実施形態の効果
第3実施形態によれば、通常の回折格子の原理を用いて、赤外線レーザーの出射角を制御することができる。その他の効果は、第2実施形態と同じである。
【0112】
[4] 第4実施形態
レンズを用いることで、走査範囲を広くすることができる。第4実施形態は、単位電極25の長さによって規定された走査範囲をさらに広くするための構成例である。
【0113】
図32は、第4実施形態に係るレーザー走査装置1の主要部を示す断面図である。液晶パネル11の構成は、第1乃至第3実施形態のいずれかと同じである。
【0114】
レーザー走査装置1は、平凸レンズ40をさらに備える。平凸レンズ40としては、例えば半球レンズ、又は球面平凸レンズが用いられる。本実施形態では、半球レンズ40を例に挙げて説明する。
【0115】
液晶パネル11の光出射面は、半球レンズ40の平面に対向配置される。液晶パネル11の光出射面の中心は、半球レンズ40の中心Cを通りかつ半球レンズ40の平面に垂直な中心線C上に配置される。半球レンズ40の固定方法は任意に設計可能である。
【0116】
図33は、レーザー走査装置1の走査範囲を説明する模式図である。
検知対象物42における中心線Cから上側の走査範囲をyとする。液晶パネル11と半球レンズ40との距離d、半球レンズ40の半径R、半球レンズ40と対象物42との距離Lである。θは、液晶パネル11から出射される赤外線レーザーの出射角であり、前述したθoutに対応する。半球レンズ40の屈折率n、空気の屈折率=1とする。角度φは、半球レンズ40の中心と光出射点とを通る直線と、中心線Cとの成す角である。θ、θは、屈折角である。
【0117】
走査範囲yは、以下の式(3)で表される。

y=d・tanθ+R・sinφ+{R(1−cosφ)+L}tan(φ−θ) ・・・(3)
sinθ=n・sinθ
n・sin(φ−θ)=sinθ
【数1】
【0118】
図34は、第4実施形態に係る出射角θと走査範囲yとの関係を示すグラフである。図34の縦軸が走査範囲y(mm)を表し、図34の横軸が出射角θ(度)を表している。液晶パネル11と半球レンズ40との距離d=5mm、半球レンズ40の半径R=20mm、半球レンズ40と対象物42との距離L=100m、半球レンズ40の屈折率n=1.6とする。図34から理解できるように、出射角θに応じて、走査範囲yを変化させることができる。
【0119】
以上詳述したように第4実施形態によれば、液晶パネル11から出射された赤外線レーザーを半球レンズ40に通すことで、液晶パネル11単体で赤外線レーザーを出射する場合に比べて、走査範囲を広くすることができる。
【0120】
[5] 第5実施形態
反射鏡を用いることで、走査範囲を広くすることができる。第5実施形態は、単位電極25の長さによって規定された走査範囲をさらに広くするための他の構成例である。
【0121】
図35は、第5実施形態に係るレーザー走査装置1の主要部を示す断面図である。液晶パネル11の構成は、第1乃至3実施形態のいずれかと同じである。
【0122】
レーザー走査装置1は、凸面鏡41をさらに備える。凸面鏡41としては、例えば球面鏡、又は半球面鏡が用いられる。本実施形態では、半球面鏡41を例に挙げて説明する。
【0123】
液晶パネル11の光出射面は、半球面鏡41の鏡面に対向して配置される。液晶パネル11の光出射面の中心は、半球面鏡41の中心を通る中心線C上に配置される。半球面鏡41の固定方法は任意に設計可能である。
【0124】
レーザー源10からの赤外線レーザーは、液晶パネル11を透過した後に、半球面鏡41によって反射される。半球面鏡41によって反射された赤外線レーザーは、対象物に照射される。すなわち、レーザー走査装置1から最終的に出射される赤外線レーザーは、液晶パネル11の裏面(光出射面と反対面)に向けて出射される。
【0125】
図36は、レーザー走査装置1の走査範囲を説明する模式図である。
検知対象物42における中心線Cから上側の走査範囲をyとする。液晶パネル11の光出射面と半球面鏡41との距離d、半球面鏡41の半径R、液晶パネル11の光出射面と対象物42との距離Lである。θは、液晶パネル11から出射される赤外線レーザーの出射角であり、前述したθoutに対応する。角度φは、半球面鏡41の中心と光入射点とを通る直線と、中心線Cとの成す角である。“y”は、半球面鏡41の光入射点と中心線Cとの距離である。
【0126】
走査範囲yは、以下の式(4)で表される。

y=y+(L+y・cotθ)tan(θ+2φ) ・・・(4)

【数2】
【数3】
【0127】
図37は、第5実施形態に係る出射角θと走査範囲yとの関係を示すグラフである。図37の縦軸が走査範囲y(mm)を表し、図37の横軸が出射角θ(度)を表している。液晶パネル11と半球面鏡41との距離d=5mm、半球面鏡41の半径R=20mm、液晶パネル11と対象物42との距離L=100mとする。図37から理解できるように、出射角θに応じて、走査範囲yを変化させることができる。
【0128】
以上詳述したように第5実施形態によれば、液晶パネル11から出射された赤外線レーザーを半球面鏡41によって反射させることで、液晶パネル11単体で赤外線レーザーを出射する場合に比べて、走査範囲を広くすることができる。
【0129】
なお、上記各実施形態で説明した液晶層の配向制御が実施可能であれば、基板21、22にそれぞれ形成される電極の構造は、他の構造を用いてもよい。例えば、単純マトリクス方式(パッシブマトリクス方式)を用いることが可能である。具体的には、基板21には、それぞれがY方向に延在する複数の下側電極が形成され、基板22は、それぞれがX方向に延在する複数の上側電極が形成される。パッシブマトリクス方式は、ドットマトリクスのパターンを有する。液晶パネルは、1つの下側電極と1つの上側電極とが交差する1つのドット毎に、液晶配向を制御できる。
【0130】
上記各実施形態では、レーザー走査装置1が扱うレーザー光として赤外線レーザー光を用いている。しかし、これに限定されず、本実施形態は、赤外線以外の光にも適用可能である。
【0131】
上記各実施形態では、車両に搭載されるレーザー走査装置1について説明している。しかし、これに限定されず、レーザー光を走査する機能を有する様々な電子機器に適用できる。
【0132】
本明細書において、「平行」とは、完全に平行であることが好ましいが、必ずしも厳密に平行である必要はなく、本発明の効果に鑑みて実質的に平行と同視できるものを含み、また、製造プロセス上発生しうる誤差を含んでいても良い。また、「垂直」とは、必ずしも厳密に垂直である必要はなく、本発明の効果に鑑みて実質的に垂直と同視できるものを含み、また、製造プロセス上発生しうる誤差を含んでいても良い。
【0133】
本明細書において、板、フィルムなどは、その部材を例示した表現であり、その構成に限定されるものではない。例えば、偏光板は、板状の部材に限定されるものではなく、明細書で記載した機能を有するフィルムやその他の部材であっても良い。
【0134】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で、構成要素を変形して具体化することが可能である。さらに、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、1つの実施形態に開示される複数の構成要素の適宜な組み合わせ、若しくは異なる実施形態に開示される構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を構成することができる。例えば、実施形態に開示される全構成要素から幾つかの構成要素が削除されても、発明が解決しようとする課題が解決でき、発明の効果が得られる場合には、これらの構成要素が削除された実施形態が発明として抽出されうる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37