(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一層に接するように配置された着色層である第六層と、前記第二層に接するように配置された電磁波吸収層である第七層と、をさらに有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の偽造防止用光学素子。
前記レリーフ構造の少なくとも一部が周期構造を有しており、前記周期構造とモアレを生じ得る第八層を有することを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の偽造防止用光学素子。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の第1実施形態から第14実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0020】
また、以下に示す本実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0021】
[第1実施形態]
図1は、本発明の偽造防止用光学素子の第1実施形態を説明するための模式図である。本実施形態の偽造防止用光学素子1は、
図1に示すように、斜面2a、2bを含むレリーフ構造Rが形成された第一層2と、このレリーフ構造Rに接するように配置された第二層3と、第二層3の第一層とは反対側に設置された第三層6により構成される。第一層2と第二層3とは屈折率が異なる材料から構成される。また、偽造防止用光学素子1は、レリーフ構造Rが有する斜面2a、2bの傾斜角が異なる第1領域4と第2領域5を有する。
【0022】
また、第1実施形態では、レリーフ構造Rの凹部と第三層6とによって形成された閉空間内に大気が満たされている。第三層6は、第一層2とレリーフ構造Rの凹部が形成されていない個所で部分的に溶着または接合されている。
第1領域4の斜面2aの傾斜角度は全て一定になっている。また、第5領域における斜面2bの傾斜角度は全て一定となっている。なお、第一層2と第二層3の層間には金属反射層や高屈折蒸着膜は存在しない。
【0023】
第一層2の屈折率は第二層3の屈折率と比べて高く、第一層2の側から入射した光は、斜面2a、2bの垂線に対して臨界角以上の角度で入射した場合には全反射し、傾斜面の垂線に対して臨界角未満の角度で入射した場合には界面を透過して第二層3へ進入する。
図2は、偽造防止用光学素子1の第1領域4に入射した光の光路を説明するための模式図である。なお、上記の通り、第1実施形態で生じる主たる光学現象は、第一層2と第二層3における臨界角に関連する全反射である。このため、第1実施形態では、以下の図面において簡略化のため第三層6を図示ししていない。
【0024】
図2においては、
図1に示した第1領域4に対して第一層2の側から入射した光の光路について説明する。
図2に示した入射角度範囲A7は、第一層2と第二層3の屈折率から計算される臨界角未満の角度範囲を示している。入射角度範囲A7で入射した光である入射光Pi1は、第一層2と第二層3との界面を通過し、第一層2と第二層3との間の屈折率比に応じて屈折し、透過光Pt1となる。一方、入射角度範囲A7以外の角度で入射した光である入射光Pi2は、第一層2と第二層3との間の屈折率比から計算される臨界角以上の角度で入射する入射光であるために、第一層2と第二層3との界面で前反射して反射光Pr2となる。
【0025】
なお、全反射は、高屈折率から低屈折率の媒質に電磁波が進行する際にのみ生じる現象である。このため、第二層3側から入射する光では全反射の現象は生じない。
例えば、第一層2を観察者側にして偽造防止用光学素子1を印刷物の上に置いた場合、特定の角度範囲では偽造防止用光学素子1が透明となり偽造防止用光学素子1の下にある印刷物が確認可能である。ただし、特定の角度範囲以外の角度範囲臨界角以上の角度範囲では、偽造防止用光学素子1が不透明である。このため、観察者は、偽造防止用光学素子1の下にある印刷物を確認することができない。
【0026】
一方、第二層3を観察者側にして偽造防止用光学素子1を印刷物の上においた場合、偽造防止用光学素子1は、どの角度範囲でも透明である。このため、観察者は、偽造防止用光学素子1の下にある印刷物をどの角度でも確認可能である。
上記のとおり、第1実施形態は、臨界角による全反射の特性を利用して観察角度によって偽造防止用光学素子1の透明性を変化させることが可能である。また、第1実施形態は、同様の特性によって偽造防止用光学素子1の表裏で異なる光学効果を得ることが可能となる。
【0027】
図3は、偽造防止用光学素子1の第2領域5に対して第一層2の側から入射した光の光路を説明するための模式図である。図中に示した入射角度範囲A9は、第一層2と第二層3の屈折率比から計算される臨界角未満の角度範囲を示している。ここで、第二層3の材質は第1領域4、第2領域5で共通であることから、
図2に示した入射角度範囲A7と
図3に示した入射角度範囲A9は同じ角度である。しかし、斜面2a、2bの傾斜角度が第1領域4と第2領域5とで異なることから、偽造防止用光学素子1に対して第一層2の側から入射する光は、その入射角度によって下記の(1)から(3)の3つの現象を生じる。
【0028】
(1)特定の入射角において、第1領域4では光を透過するが、第2領域5では全反射する。
(2)特定の入射角において、第1領域4と第2領域5の両方で全反射する。
(3)特定の入射角において、第1領域4と第2領域5の両方で透過する。
本実施形態では、上記の現象を生じる特定の入射角度を各領域の設計で調節する。
【0029】
例えば「斜面の傾斜角度」、「第一層の屈折率」、「第二層の屈折率」を変化させることによって、上記(1)から(3)の現象を生じる入射角度を調節することが可能であり、様々な絵柄や光学効果を作ることが可能となる。
図4は、臨界角を説明するための模式図である。
図4に示した媒質iと媒質tは水平界面を有しており、媒質iの屈折率はn
i、媒質tの屈折率はn
tである。臨界角θ
cはスネルの法則と屈折率の定義から、下記の式(1)で求められる。
【0030】
sinθ
c=n
t/n
i …式(1)
臨界角θ
cで媒質tに入射する入射光Pi5は、屈折角θ
t=90°の方向で媒質iと媒質tの界面方向に向かう屈折光Pf5となる。臨界角θ
cよりも大きい角度で入射した入射光Pi6は、全反射して反射光Pr6となる。また、図示しないが、臨界角θ
cよりも小さい角度で入射した光は、スネルの法則に従った屈折角で屈折して媒質iと媒質tとの界面を透過する。
【0031】
実際の反射光の強度は、入射角によって徐々に変化する。入射角が増大して臨界角θ
cに近づくと、媒質tを透過する屈折波の成分は水面に近づくと同時にだんだん弱くなっていく。そして反射波の強度は次第に強くなり、入射角が臨界角を越えたときには全ての入射が全反射となる。
全反射した光は、実際にはさらにレリーフ構造Rや層の表面によって反射、透過、屈折を繰り返して徐々に弱くなる。第1実施形態では、単純に全反射と記載するが、その意味はレリーフ構造Rの界面での全反射、その後の反射、透過、屈折、散乱の少なくとも1つによって光が弱くなることを意味する。ここで、多重の反射、透過、屈折は複数方向への光の散乱と捉えることができ、これを目的にレリーフ構造Rを設計してもよい。
【0032】
前記した式(1)から明白であるが、臨界角以上の入射角が全反射するためには、n
t<n
iが必要条件となる。つまり、屈折率の異なる二つの媒質iと媒質tとの界面では、屈折率の高い側から入射した光は臨界角以上で入射したときに全反射する。屈折率の低い側から入射する光は臨界角による全反射をすることがない。
第1実施形態では、この現象を応用して、光の入射角度で決まる透過領域と不透過領域によるパターンを得ることや、偽造防止用光学素子の表裏で異なる光学現象を得ることを可能とした。
【0033】
より具体的には、
図5に示す光路を想定する。観察点Vp1から観察した場合、入射角θaで偽造防止用光学素子1に入射する入射光Piaは、空気と第一層2との界面において屈折角θbで屈折して屈折光Pfbとなる。屈折光Pfbは、その後、斜面2aに対して入射角θfで入射する。入射角θfが臨界角未満であれば屈折光Pf1となり透過し、入射角θfが臨界角であれば屈折光Pf2となる。また、入射角θfが臨界角よりも大きい場合、全反射光Pr2となる。なお、前述のとおり臨界角は界面を挟む2つの層の屈折率の比によって決定する。
【0034】
第1実施形態では、任意の観察点Vp1において入射角θfで入射した光が全反射する第1領域と、屈折、透過する第2領域との2つの領域を設けることによって、文字及び図形の少なくとも一方を表す図形を形成することができる。即ち、第1実施形態は、予め決められている文字及び図形の少なくとも一方を含むパターンに合わせて第1領域4と第2領域5の範囲や配置を決定する。そして、特定の角度で入射光が第1領域4及び第2領域5に入射したとき、偽造防止用光学素子1上にパターンが表示される。第1実施形態では、第1領域4及び第2領域5をパターンに合わせて形成することにより、所望のパターンを偽造防止用光学素子1にパターニングすることが可能である。さらに、第1実施形態は、観察点が徐々に変化することによって入射角θaが徐々に変化することによってパターンを徐々に変化させることも可能である。
【0035】
また、第1実施形態は、第1領域4の斜面2aへの入射角と、第一層2と第二層3の屈折率比、及び第一層2と第二層3の屈折率比から得られる臨界角を用いて、第1領域4、第2領域5の必要条件が表せる。
具体的には、傾斜角θ
1の斜面2aにおいて全反射する第1領域の入射角θ
f1と、傾斜角θ
2の斜面2bにおいて屈折し、透過する第2領域5への入射角θ
f2は、下記の式(2)で表される。
【0036】
θ
f1≧arcsinN
2/N
1>θ
f2 …式(2)
ここで、第一層の屈折率:N
1、第二層の屈折率:N
2である。
また、第1領域4と第2領域5とで、第一層2と第二層3の屈折率が異なる場合、第1領域の入射角θ
f1と、第2領域5への入射角θ
f2は、下記の式(3−1)、式(3−2)で表される。
【0037】
θ
f1≧arcsinN
2/N
1 …式(3−1)
arcsinN
4/N
3>θ
f2 …式(3−2)
ここで、第1領域4における、第一層の屈折率:N
1、第二層の屈折率:N
2
第2領域における、第一層の屈折率:N
3、第二層の屈折率:N
4である。
図6は、例えば立体的な視差画像が生じる場合の光路を想定した図である。観察者が観察点VpLにおいて例えば左目で観察した場合、入射角θ
4で入射する入射光PiLaは、空気と第一層2との界面において屈折角θ
5で屈折し、屈折光PfLbとなる。その後、屈折光PfLbは、斜面2aに対して入射角θ
6で入射する。入射角θ
6が臨界角未満であれば透過し、入射角θ
6が臨界角より大きければ全反射する。
【0038】
また、観察点VpRにおいて観察者が例えば右目で観察した場合、入射光PiRaは、入
射角θ
4で第一層2に入射する。入射光PiRaは、空気と第一層2との界面において屈折角θ
5で屈折し、屈折光PfRbとなる。その後、屈折光PfRbは、斜面2aに対して入射角θ
7で入射する。屈折光PfRbは、入射角θ
7が臨界角未満であれば透過し、入射角θ
7が臨界角より大きければ全反射する。なお、角度θ
8は輻輳角である。
【0039】
以上説明したように、第1実施形態は、少なくとも、入射角θ
6で入射する光、入射角θ
7で入射する光のどちらか一方が全反射し、他方が透過する領域をつくることで、視差画像を得ることが可能である。
上記した視差を生じる領域の必要条件は、偽造防止用光学素子1の第一層2の表面(以下、「素子平面」と記す)に対する
図1に示したレリーフ構造Rの斜面2aの傾斜角θ、輻輳角で入射した光の屈折角θ
5、第一層2の屈折率N
1、第二層3の屈折率N
2で表せる。具体的には、必要条件は、第一層2に対して輻輳角θ
8で入射した光の屈折角θ
5の値と、素子平面に対する斜面2aの傾斜角θの値との大小によって3つに場合分けされ、下記の式(4)から式(6)で表される。
【0040】
θ>θ
5 において、
θ+θ
5≧arcsinN
2/N
1>θ−θ
5 …式(4)
θ=θ
5において、
2×θ
5≧arcsinN
2/N
1 …式(5)
θ<θ
5において、
θ+θ
5≧arcsinN
2/N
1>θ
5−θ …式(6)
上記式(4)から式(6)において、第一層の屈折率:N
1、第二層の屈折率:N
2
素子平面に対するレリーフ構造Rの斜面2aの傾斜角:θ
輻輳角で入射した光の屈折角:θ
5である。
【0041】
また、屈折角θ
5は、下記の式(7)で表される。
θ
5=arcsin〔sinθ
8/2/N
1〕
=arcsin〔sinθ
4/N
1〕 …式(7)
ここで、輻輳角:θ
8、第一層の屈折率:N
1である。
上記の式(4)から式(7)を全て満たすことで、第1実施形態は、左右視差を生じる領域が得られ、これを利用することによって、視差画像による立体表現が可能である。
【0042】
第1実施形態で得られる立体像は、透過領域、又は全反射領域によって構成される。特に、透過領域で立体像を作成した場合には、透明で立体的な像を作成することが可能である。また、第1実施形態は、下地に着色層を設けることによって、立体像を着色することが可能であるために意匠性に優れ、既存の体積ホログラム、計算ホログラム等と比べ優位である。
【0043】
また、第1実施形態は、下地に機械検知可能なセキュリティーインク、例えば蛍光や蓄光、コレステリック液晶や磁性インク等の層を設けることで、機械検知可能な立体像を作成することも可能である。このような応用により、第1実施形態は、更に偽造防止効果が高い偽造防止用光学素子を提供することができる。
さらに、第1実施形態は、透過領域で立体像を作成し、立体像を挟んでモアレを生じる2層を設けると、透過性の立体像でのみモアレが生じ、あたかも立体像に対してモアレの柄を立体的に貼り付けたような効果が得られる。モアレを生じる2層は光学素子をスペーサーとして干渉するため、観察角度によって異なる柄が生じ、このような効果により更に立体感が増す。
【0044】
[第2実施形態]
図7(a)、
図7(b)は、第2実施形態の偽造防止用光学素子を説明するための模式図である。
図7(a)は第2実施形態の偽造防止用光学素子10の正面図、
図7(b)は
図7(a)に示した線分B1−B1に沿う偽造防止用光学素子10の断面図である。
図7(a)、
図7(b)に示した偽造防止用光学素子10は、第1実施形態の偽造防止用光学素子1よりも複雑に領域が分割された例である。偽造防止用光学素子10では、第1領域のレリーフ構造Rの斜面の傾斜角が一つの軸に対して変化している。
【0045】
図8(a)から
図8(f)は、
図7(a)、
図7(b)に示した各領域における臨界角を説明するための模式図である。
図8は、界面S1から界面S5における臨界角を、
図8(b)から
図8(f)に示す。角度範囲A3は臨界角未満の角度領域を示し、この角度で入射した光は、角度範囲A4の範囲で屈折して第二層3側へ透過する。偽造防止用光学素子10に対して垂直で入射した光は、界面S1と界面S5において全反射し、界面S2、S3、S4においては透過する。光が透過する界面は、入射光の入射角度の変化に応じて変化する。
【0046】
図9(a)から
図9(f)は、
図7に示した偽造防止用光学素子による効果を説明するための模式図である。
図9(a)から
図9(c)は、観察者が偽造防止用光学素子10を観察する角度を示した図であり、
図19(d)から
図19(f)は、そのときの偽造防止用光学素子10の見え方を示している。第2実施形態の偽造防止用光学素子は、第一層2の側から観察点を固定して観察した場合、偽造防止用光学素子10を
図9(a)から順に
図9(c)まで傾けて観察すると、
図9(d)から
図9(f)のように透明な棒が上下に動いているように見える。
【0047】
ここで、
図9(d)から
図9(f)に図示されているのは、透過パターン16と全反射パターン17である。透過パターン16は、所定の入射角で入射した入射光が透過されるようにレリーフ構造Rの斜面の傾斜角が設定された領域である。全反射パターン17は、透過パターン16を透過する入射角で入射した入射光が全反射されるようにレリーフ構造Rの斜面の傾斜角が設定された領域である。実際の偽造防止用光学素子10では、傾斜角が異なる多数の領域があるために、偽造防止用光学素子10を傾けるにつれて滑らかにパターンが動くように見えるという効果が得られる。
また、前述した、光の入射角度が臨界角付近に近くなるほど反射率が徐々に高くなる現象から、透過パターン16は端部ほど反射率が高くなり、
図9(d)から
図9(f)の様にややグラデーションがかかったパターンとなる。透過率のグラデーションによって、透過パターン16で描かれた「透明な棒」は立体感がある様に観察される。
【0048】
[第3実施形態]
図10(a)、
図10(b)は、第3実施形態の偽造防止用光学素子20を説明するための模式図である。
図10(a)は偽造防止用光学素子20の正面図、
図10(b)は、
図10(a)中に示した線分B2−B2に沿う断面図である。偽造防止用光学素子20は、
図10(a)に示すように、第1実施形態の偽造防止用光学素子1や第2実施形態の偽造防止用光学素子10よりもさらに複雑に領域が分割された構成である。即ち、偽造防止用光学素子20は、レリーフ構造Rの傾斜角が同心円状に変化している構成をとっている。
【0049】
なお、
図10(a)では、偽造防止用光学素子20がフレネルレンズの様に描かれているが、第3実施形態は臨界角を利用するために焦点を有するレンズ形状等の構造は必須としない。
図11(a)、
図11(b)は、
図10に示した偽造防止用光学素子20による効果を説明するための模式図である。
図11(a)は偽造防止用光学素子20に対する観察角度を示しており、
図11(b)は
図11(a)に対応する観察像である。
図11(b)に示した観察像は、偽造防止用光学素子10と同様に透過パターン16と全反射パターン17によって構成されている。
【0050】
前述した、光の入射角度が臨界角付近に近くなるほど反射率が徐々に高くなる現象から、
図11(a)に示すように、透過パターン16は端部ほど反射率が高くなり、円状に形成される透過パターン16の端部は、ややグラデーションがかかったパターンとなる。この透過率のグラデーションによって、透明な円は立体感のある球体の様に観察される。加えて、この球体は観察角度によって動いて見える。
ここで、偽造防止用光学素子20に対して垂直な観察角度Vpeに対し、観察角度Vpa、Vpb、Vpc、Vpdでは、観察者には透過領域による球体の位置が変化するように見える。第3実施形態は、このように観察角度を変化させることによってあたかも立体感のある球が動いているかのように見え、更なる立体効果を生じることができる。
【0051】
[第4実施形態]
図12(a)から
図12(c)は、第4実施形態の偽造防止用光学素子25を説明するための模式図である。第4実施形態の偽造防止用光学素子25は、
図12に示すように、45°に傾斜した斜面2aを有する鋸刃状のレリーフ構造Rを挟んで、屈折率が1.50である第一層23と、屈折率が1.70である第一層24と屈折率が1.00の空気である第二層22が配置されている。第一層23と第二層22が接する界面S6と、第一層24と第二層22が接する界面S7における臨界角は、前記した式(1)によって算出することができる。
【0052】
第4実施形態では、界面S6の臨界角は41.8°であり、
図12(b)のとおりである。また。界面S7の臨界角は36.0°であり
図12(c)のとおりである。このように、同じレリーフ構造Rであっても第一層の屈折率と第二層の屈折率との比率によって、臨界角を変化させることができる。
図13(a)から
図13(j)は、
図12に示した偽造防止用光学素子25によるフラッシュ効果を説明するための模式図である。
図13(a)から
図13(e)は、観察者が偽造防止用光学素子25を観察する角度を示した図であり、
図13(f)から
図13(j)は、そのときの偽造防止用光学素子25の見え方を示している。第4実施形態の偽造防止用光学素子25は、
図13(i)のように透過パターン26と全反射パターン27とによってパターンが形成されている。
図12(b)、
図12(c)を比較してわかるとおり、界面S6では透過し、界面S7では全反射する入射角度が5.8°のみ存在する。これ以外の入射角では、偽造防止用光学素子25の全面において光が透過するか、全面において光が全反射する。
【0053】
観察者は、
図13(a)に示す状態から
図13(e)に示す状態まで偽造防止用光学素子25を傾斜させながら観察する。このとき、偽造防止用光学素子25の角度に対応して
図13(f)から
図13(j)に示すパターンが観察される。つまり、第4実施形態では、
図13(d)に示す状態のときだけ15°の入射角領域だけで太陽を示す全反射パターン27が出現することになる。このような偽造防止用光学素子25では、わずかな観察角度でのみ確認可能な隠しパターンをフラッシュの様に出現させることが可能となる。隠しパターンをフラッシュの様に出現させる光学効果は、偽造防止効果が高いものといえる。
【0054】
[第5実施形態]
図14(a)、
図14(b)は、第5実施形態の偽造防止用光学素子30を説明するための模式図である。
図14(a)は偽造防止用光学素子30の正面図、
図14(b)は、
図14(a)中に示した線分B3−B3に沿う断面図である。
偽造防止用光学素子30は、
図14(a)に示したように、第一層33、第一層34、及び第一層35を同心円状に配置して構成されている。
【0055】
また、偽造防止用光学素子30は、
図14(b)に示したように、断面が45°の鋸刃形状のレリーフ構造Rで形成された、屈折率1.69の第一層33、屈折率1.5の第一層34、屈折率1.4の第一層35で形成されている。なお、偽造防止用光学素子30における第二層は、屈折率1.0の媒質である空気である。
図14(b)では、第三層の図示を省略している。
【0056】
第5実施形態では、第一層33、第一層34及び第一層35に対応する偽造防止用光学素子30の各領域が個別の領域を構成する。
図15(a)から
図15(c)は、
図14(b)に示した第一層33、第一層34及び第一層35に対応する各領域における臨界角を説明するための模式図である。
図15(b)中に示した第一層33と空気の界面である界面S9の臨界角は36.3°である。また、
図15(c)中に示した第一層33と空気の界面である界面S10の臨界角は41.8°、
図15(d)中に示した第一層33と空気の界面である界面S11の臨界角は45.6°である。各臨界角は、前記した式(1)によって求められる。
【0057】
図15(b)から
図15(d)を比較すると、偽造防止用光学素子30に対して垂直に入射した光は偽造防止用光学素子30を透過する。また、透過光は入射角が大きくなるにつれて大きくなり、界面S11、界面S10及び界面S9の透過光がこの順で大きくなっている。
図16(a)から
図16(f)は、
図14に示した偽造防止用光学素子30のムービング効果を説明するための模式図である。
図16(a)から
図16(c)は、観察者が偽造防止用光学素子30を観察する角度を示した図であり、
図16(d)から
図19(f)は、そのときの偽造防止用光学素子30の見え方を示している。偽造防止用光学素子30には、透過パターン16と全反射パターン17によってパターンが形成されている。
図16(a)から
図16(c)に示すように、偽造防止用光学素子30に対する観察角度を変化させることにより、第5実施形態では、
図16(d)から
図16(f)に示したように、透過パターン16が観察角度の変化に応じて徐々に大きくなり、動画のようなムービング効果を生じる。
【0058】
[第6実施形態]
図17(a)、
図17(b)は、第6実施形態の偽造防止用光学素子40を説明するための模式図である。
図17(a)は偽造防止用光学素子40の正面図、
図17(b)は、
図17(a)中に示した線分B4−B4に沿う断面図である。第6実施形態の偽造防止用光学素子40は、
図17(b)のように、中心からレリーフ構造Rの鋸刃が対象に形成されている。
【0059】
図18(a)から
図18(f)は、
図17に示した偽造防止用光学素子40の各領域における効果を説明するための模式図である。
図18(a)から
図18(c)は、観察者が偽造防止用光学素子40を観察する角度を示した図であり、
図18(d)から
図19(f)は、そのときの偽造防止用光学素子40の見え方を示している。
図18(a)から
図18(c)に示すように、偽造防止用光学素子40に対する観察角度を変化させることにより、第6実施形態では、レリーフ構造Rの傾斜角の向きが中心を境に反転しているため、
図18(d)から
図18(f)に示したように、透過パターン16が半分しか見えない観察角が生じる。つまり、第6実施形態では、偽造防止用光学素子40を垂直方向から観察すると透過パターン16と全反射パターン17による円が観察される。しかし、偽造防止用光学素子40を斜めから観察すると、透過パターン16の円が大きくなり、同時にパターンの中心を境に半分が全反射パターン17となる。
【0060】
図19(a)から
図19(j)は、
図17に示した偽造防止用光学素子40によるムービング効果を示す模式図である。
図19(a)から
図19(e)は、観察者が偽造防止用光学素子40を観察する角度を示した図であり、
図19(f)から
図19(j)は、そのときの偽造防止用光学素子40の見え方を示している。第6実施形態では、観察者が偽造防止用光学素子40を
図19(c)に示した角度で観察すると、
図19(h)のように、透過パターン16が全反射パターン17中に円形形状として観察される。第6実施形態では、
図19(a)の状態から
図19(e)の状態まで偽造防止用光学素子40の傾斜を変化させながら観察すると、対応して
図19(f)から
図19(j)に示すようにパターンの変化が観察される。
【0061】
「第7実施形態」
図20は、本発明の第7実施形態に係る偽造防止用光学素子45を説明するための模式図である。第7実施形態の偽造防止用光学素子45は、
図20に示すように、
図1に示した偽造防止用光学素子1の第二層3の第一層2とは反対側に、印字層または着色層からなる背景層41を設けたものである。
【0062】
第一層2と第二層3における入射角度と全反射及び透過の関係は、レリーフ構造Rの傾斜角の異なる第1領域4と第2領域5とで異なっている。このため、偽造防止用光学素子45を特定の角度で傾けた場合、第1領域4でのみ背景層41が視認可能となる。ここでの背景層とは、後述の印字層、着色層である。印字層は紙やプラスチック等の基材に印刷されたものでもよく、印刷方法はインクジェット法、転写法、レーザーエングレーブ法等の公知の方法でよい。
【0063】
[第8実施形態]
図21は、第8実施形態の偽造防止用光学素子50を説明するための模式図である。偽造防止用光学素子50は、
図21に示したように、第一層2の側に構造色層51を備え、第二層3側に電磁波吸収層52を備えている。
第一層2と第二層3における入射角度による全反射及び透過の関係は、レリーフ構造Rの斜面の傾斜角の異なる第1領域4と第2領域5とでは異なっている。このため、偽造防止用光学素子50を特定の角度で傾けた場合、第1領域4でのみ光が透過する。このような場合、構造色層51を透過した特定の波長領域の光が電磁波吸収層52によって吸収される。第8実施形態の構造色層51は、例えば多層干渉膜や干渉パールインクの塗膜、コレステリック液晶等のほか、サブ波長深さの矩形構造による干渉構造でもよい。
【0064】
上記の構造色層51の構造は、回折、干渉及び散乱等によって特定波長領域の可視光を散乱して構造色を生じる。構造色層51には、入射角と観察角度の組み合わせによって色調が変化するものや、広い観察角度で特定色を生じるものがある。構造色層51は、散乱する波長領域以外の波長領域のほとんどの光を透過させるため、透過した光を電磁波吸収層52が吸収することによって、構造色の光と透過光とが混合して構造色の色が白くなることを防止できる。
【0065】
つまり、第8実施形態において、構造色層51による鮮やかな色変化や固定色を得るためには、電磁波吸収層52が必要となる。電磁波吸収層52は、顔料や染料等の色材を用いるものでもよく、典型的なものとしては黒色顔料であるカーボンが使用される。しかし電磁波吸収層52としては、色材以外でも電磁波を吸収する特性を有するものであれば使用することができる。たとえば反射防止構造等で利用されるモスアイ構造は、そのレリーフ構造に反射層を設けることによって電磁波吸収の効果を生じることが知られている。このような構造を電磁波吸収層52として利用してもよい。
【0066】
[第9実施形態]
図22は、第9実施形態の偽造防止用光学素子60を説明するための模式図である。偽造防止用光学素子60は、
図22に示すように、第二層3側に構造色層61及び電磁波吸収層62を備えている。第一層2及び第二層3における入射角度と全反射及び透過の関係は、レリーフ構造Rの傾斜角が異なる第1領域4と第2領域5とで異っている。このため、偽造防止用光学素子60を特定の角度に傾けた場合、第1領域4でのみ構造色層61と電磁波吸収層62の積層による、鮮やかな色変化や固定色が視認可能となる。
【0067】
[第10実施形態]
図23は、第10実施形態の偽造防止用光学素子70を説明するための模式図である。偽造防止用光学素子70は、
図23に示すように、偽造防止用光学素子71と偽造防止用光学素子72を積層した構成となっている。偽造防止用光学素子71、偽造防止用光学素子72は、いずれも第一層2と第二層3により構成されている。また、
図23に示した構成では、偽造防止用光学素子71のレリーフ構造R1の斜面と偽造防止用光学素子72のレリーフ構造R2の斜面の傾斜角度が異なっている。
【0068】
偽造防止用光学素子71に入射され、透過した透過光は、偽造防止用光学素子72においては入射角に依存して一部の領域において全反射され、他の領域において透過される。
図23に示した偽造防止用光学素子を積層する構成は、より複雑で精細な光学効果が実現できるために高い偽造防止効果を得ることができる。
なお、第10実施形態では、偽造防止用光学素子71と偽造防止用光学素子72とが積層される部分は一部であってもよい。
また、第10実施形態にあっても、
図20から
図22に示したように、印字層や着色層、構造色層及び電磁波吸収層を設けて偽造防止用光学素子70を修飾してよい。
【0069】
[第11実施形態]
図24は、第11実施形態の偽造防止用光学素子80を説明するための模式図である。偽造防止用光学素子80は、
図24に示すように、偽造防止用光学素子81と偽造防止用光学素子82を積層した構成となっている。偽造防止用光学素子81、偽造防止用光学素子82は、いずれも第一層2と第二層3により構成されている。
【0070】
偽造防止用光学素子81のレリーフ構造R3と偽造防止用光学素子82のレリーフ構造R4は、ともに周期構造を有するレリーフ構造になっており、その周期が異なるためにモアレを生じる。モアレを生じるためには周期の差が3%〜20%程度あればよい。
第11実施形態では、偽造防止用光学素子81及び偽造防止用光学素子82の両方を光が透過した領域でのみモアレを生じることになる。このため、第11実施形態は、観察者にモアレの任意パターンが動いているという感覚を与えることが可能であり、このような点は偽造防止用光学素子のパターンに立体感を付与することに有効である。
なお、第11実施形態でも、偽造防止用光学素子81、82が積層される部分は一部であってもよい。また、第11実施形態においても、
図20から
図22のように、印字層や着色層、構造色層及び電磁波吸収層を設けて偽造防止用光学素子80を修飾してよい。
【0071】
[第12実施形態]
図25は、第12実施形態の偽造防止用光学素子90を説明するための模式図である。偽造防止用光学素子90は、
図25に示すように、第一層2と第二層3とにより構成される偽造防止用光学素子91と周期構造92とを積層した構成を有している。偽造防止用光学素子91と周期構造92は、ともに周期構造を有する構造であり、その周期が異なるためにモアレを生じる。モアレを生じるためには、偽造防止用光学素子91と周期構造92との周期の差が5%〜15%程度あればよい。
【0072】
第12実施形態では、光が偽造防止用光学素子91を透過した領域でのみモアレを生じることになる。このため、第12実施形態は、観察者に対してモアレの任意パターンが動くような印象を与えることが可能であり、このような効果は偽造防止用光学素子のパターンに立体感を付与することに有効である。周期構造92は、印刷によるパターンの他、金属をエッチングして形成されるパターンや、回折や干渉、吸収の効果を有する構造色層をパターニングしてもよい。
【0073】
第12実施形態では、
図25に示した周期構造92を、周期性印刷パターン93と、印刷基材94で構成した。なお、第12実施形態にあっても、偽造防止用光学素子91と周期構造92とが積層される部分は一部であってよい。また、第12実施形態においても、
図20から
図22のように、印字層や着色層、構造色層及び電磁波吸収層を設け、偽造防止用光学素子90を修飾してよい。
【0074】
[第13実施形態]
図26は、第13実施形態の偽造防止用光学素子100を説明するための模式図である。偽造防止用光学素子100は、
図26に示すように、第3領域104と第4領域105とにおいて、第一層2と第二層3との上下の関係が逆になっている。
このような第13実施形態では、第3領域104、第4領域105のいずれにおいても第一層2側からの観察によって、入射角に依存した全反射と透過によって生じるパターンを確認することができ、かつ、第二層3側からの観察によっては全反射が観察されないようになる。
【0075】
つまり、第13実施形態は、偽造防止用光学素子100を一方の面(表面)から見たとき、第3領域104、第4領域105のどちらかで入射角に依存した全反射と透過によるパターンを確認することができる。一方、偽造防止用光学素子100を裏面から見た場合には、表面から見た場合にパターンを確認した領域と異なる領域で入射角に依存した全反射と透過によるパターンを確認することができる。
なお、偽造防止用光学素子100には、前述の印字層や着色層、構造色層及び電磁波吸収層を設けるほか、前述した偽造防止用光学素子と積層することや、モアレを生じる層を積層することができる。
【0076】
[第14実施形態]
図27は、第14実施形態の偽造防止用光学素子110を説明するための模式図である。偽造防止用光学素子110は、
図27に示すように、第5領域114と第6領域116とにおいて第一層2と第二層3の上下の関係が逆になっている。さらに、偽造防止用光学素子110は、第一層2によってレリーフ構造Rが解消されている第7領域115、第二層3によってレリーフ構造Rが解消されている第8領域117を有している。
【0077】
図27に示した構成では、偽造防止用光学素子110を表面から見たとき、第5領域114及び第6領域116のどちらかで入射角に依存した全反射と透過によるパターンを確認することができる。また、偽造防止用光学素子110を裏面から見た場合には、偽造防止用光学素子110を表面から見た場合にパターンを確認した領域と異なる領域で入射角に依存した全反射と透過によるパターンを確認することができる。
【0078】
さらに、第14実施形態によれば、レリーフ構造Rが解消された第7領域115、第8領域117に、全反射や屈折の無い透過領域を設けることができる。
なお、第14実施形態においても、偽造防止用光学素子110に印字層や着色層、構造色層及び電磁波吸収層を設ける他、他の偽造防止用光学素子と積層することや、第8領域117にモアレを生じる層を積層することもできる。
次に、以上説明した本実施形態(以下、単に「本実施形態」と記す)の偽造防止用光学素子に採用可能な、レリーフ構造の製法、各層の材質について詳細に説明する。
【0079】
[レリーフ構造]
レリーフ構造Rを連続的に大量複製するための代表的な手法としては、熱エンボス法、キャスト法、フォトポリマー法等がある。このような手法のうち、特にフォトポリマー法の2P法や感光性樹脂法では、放射線硬化性樹脂をレリーフ型微細凹凸パターンの複製用型と平担な基材プラスチックフィルム等との間に流し込み、放射線で硬化させた後、この硬化膜を基板ごと複製用型から剥離する。このような方法によれば、高精細な微細凹凸パターンを有するレリーフ構造Rを得ることが出来る。また、このような方法によって得られたレリーフ構造Rは、熱可塑性樹脂を使用するプレス法やキャスト法に比べて凹凸パターンの成形精度が高く、耐熱性や耐薬品性に優れる。また、更に新しいレリーフ構造Rの製造方法としては、常温で固体状若しくは高粘度状の光硬化性樹脂を使用して成形を行う方法や、離型材料を添加する方法もある。
【0080】
本実施形態では、第一層の材料でレリーフ構造Rを作成した後、レリーフ構造Rを埋めるように第二層3材料をレリーフ構造Rに塗布してもよい。また、例えば空気のような気体層や液体層でレリーフ構造Rを構成する場合には、レリーフ構造Rを作製した後、レリーフ構造Rの凹部を埋めないように第三層6の材料で気体層をラミネートする。さらに、本実施形態では、このような方法の他、レリーフ構造Rの界面を介して気体層や液体層を内包できる方法であれば、どのような方法によってレリーフ構造Rを製造してもよい。
【0081】
また、本実施形態では、第一層2をフィルムや紙の支持体上に塗布して一時的に設けた後に、レリーフ構造Rを成型してもよい。さらには、第一層2を構成する樹脂材料を押し出しエンボス機を用い、レリーフ構造Rの金型の上に溶融樹脂を押し出した後にフィルム状に成型し、レリーフ構造Rを有するフィルム状の第一層2を作製してもよい。
【0082】
[第一層]
微細な凹凸が形成される第一層2に使用される材料としては、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂、ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の熱可塑性樹脂や、反応性水酸基を有するアクリルポリオールやポリエステルポリオール等にポリイソシアネートを架橋剤として添加、架橋したウレタン樹脂や、メラミン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール系樹脂等の熱硬化性樹脂を単独もしくはこれらを複合して使用できる。また、上記以外のものであっても、微細な凹凸を形成可能な材料であれば適宜使用することができる
【0083】
第一層2にレリーフ構造Rを付与する方法には、フォトポリマー法が利用できる。この場合の第一層2の材料としては、エチレン性不飽和結合、またはエチレン製不飽和基をもつモノマー、オリゴマー、ポリマー等を使用することができる。モノマーとしては、例えば、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。オリゴマーとしては、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート等が挙げられる。ポリマーとしては、ウレタン変性アクリル樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂が挙げられる。ただし、本実施形態は、第一層2の材料をこのような部材に限定するものではない。
【0084】
また、第一層2の製造に光カチオン重合を利用する場合には、第一層2の材料に、エポキシ基を有するモノマー、オリゴマー、ポリマー、オキセタン骨格含有化合物、ビニルエーテル類を使用することができる。また、上記の電離放射線硬化性樹脂を紫外線等の光によって硬化させる場合には、光重合開始剤を添加することができる。光重合開始剤としては、樹脂に応じて、光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤、その併用型ハイブリッド型の添加剤を選定することができる。
【0085】
さらに、第一層2の材料としては、エチレン性不飽和結合、またはエチレン製不飽和基をもつモノマー、オリゴマー、ポリマー等を混合して使用することができる。さらに、本実施形態では、これらに予め反応基を設けておき、イソシアネート化合物、シランカップリング剤、有機チタネート架橋材、有機ジルコニウム架橋剤、有機アルミネート等で互いに架橋することや、これらに予め反応基を設けておき、イソシアネート化合物、シランカップリング剤、有機チタネート架橋材、有機ジルコニウム架橋剤、有機アルミネート等で、その他の樹脂骨格と架橋することも可能である。この様な方法であれば、エチレン性不飽和結合、またはエチレン製不飽和基をもつポリマーであって、常温で固形で存在し、タックが少ない為に、成形性がよく原版汚れの少ないポリマーを得ることも可能である。
【0086】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾイン系化合物、アントラキノン、メチルアントラキノン等のアントラキノン系化合物、アセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ベンゾフェノン、ヒドロキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、α−アミノアセトフェノン、2−メチル−1−4−メチルチオフェニル−2−モルホリノプロパン−1−オン等のフェニルケトン系化合物、ベンジルジメチルケタール、チオキサントン、アシルホスフィンオキサイド、ミヒラーズケトン等を挙げることができる。
【0087】
光カチオン重合可能な化合物を使用する場合の光カチオン重合開始剤としては、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ホスホニウム塩、混合配位子金属塩等を使用することができる。光ラジカル重合と光カチオン重合を併用する、いわゆるハイブリッド型材料の場合、それぞれの重合開始剤を混合して使用することができ、また、一種の開始剤で双方の重合を開始させる機能をもつ芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩等を使用することができる。
【0088】
放射線硬化性樹脂に対する光重合開始剤の配合は、材料によって適宜処方すればよいが、一般に光重合開始剤は、放射線硬化性樹脂の0.1質量%から15質量%程度配合される。樹脂組成物には、さらに、放射線硬化性樹脂には、光重合開始剤と組み合わせて増感色素を添加してもよい。また、必要に応じて、放射線硬化性樹脂に、染料、顔料、各種添加剤重合禁止剤、レベリング剤、消泡剤、タレ止め剤、付着向上剤、塗面改質剤、可塑剤、含窒素化合物等、架橋剤として例えばエポキシ樹脂等を添加してもよく、また、成形性向上のために非反応性の樹脂に前述の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を添加してもよい。
【0089】
また、第一層2の材料は、第一層2の成型が可能であり、ある程度の流動性を有すること、及び成型後の塗膜が、所望する耐熱性や耐薬品性が得られることを考慮して選択される。
本実施形態では、第一層2の屈折率及び第二層3の屈折率が重要となる。第一層2は無機材料、有機材料、有機無機複合材料、これら材料の層の積層構造であってもよい。また、第一層2が有機材料であって屈折率を調節する際には、有機材料に無機微粒子、有機微粒子、有機無機複合微粒子、中空粒子を添加してもよい。このとき、本実施形態は、微粒子表面に官能基を設けて分散性や膜強度を改善することが可能である。また、微粒子の分散性を改善するための分散剤や界面活性剤を添加することや、膜強度を改善するために架橋剤を添加してもよい。
【0090】
[第二層の材料]
第二層3に使用される材料としては、液体や空気等の気体が挙げられる。しかし、本実施形態の第二層3の材料は、この限りでなく、第一層2よりも屈折率が小さい常温気体物質であれば構わない。ここでの常温とは、実使用環境である0℃から50℃を意味する。
【0091】
[レリーフ構造]
本実施形態のレリーフ構造Rは、第一層2と第二層3の界面に存在し、少なくとも一部が傾斜した平面を含んでいる。このため、レリーフ構造Rの断面は、少なくとも一部の界面で素子平面に対して任意の角度を有する斜面を含んでいる。斜面は、角度が位置に応じて相違するものであってもよい。例えば、曲面断面が曲線であるレリーフ構造は、本実施形態のレリーフ構造Rに該当する。
【0092】
また、本実施形態では、斜面に凹凸があってもよい。斜面に光散乱効果を有するランダムな凹凸構造を設けた場合、レリーフ構造Rに反射及び透過光を拡散する効果が生じる。この点を利用して、本実施形態は、第1領域4と第5領域との境界にグラデーションをかけることも可能である。なお、本実施形態は、第二層3が気体であるため、レリーフ構造Rの一部にピラー等を設けて構造強度を強化してもよい。
【0093】
また、レリーフ構造Rにおいて、複数の領域が集光作用を有していてもよい。このようなレリーフ構造を応用することによって、臨界角による全反射領域では光が散乱して集光効果が得られず、臨界角未満の光が透過する領域でのみ集光効果を得ることができる。このような特殊な現象は第1実施形態から第4実施形態の偽造防止用光学素子によってのみ達成可能である。
【0094】
また、本実施形態の基礎概念は、第一層2の側から臨界角以上で入射した光が第一層2と第二層3との界面で全反射し、臨界角未満で入射した光が第一層2から第二層3の側に透過することである。このため、この概念に沿って、第一層2と第二層3の界面におけるレリーフ構造Rに追従した別の層を追加設置してもよい。この場合、追加した層の屈折率は、第一層2または第二層3に対して、±0.2以内、好ましくは±0.1以内の屈折率差とするとよい。
上記範囲の屈折率差であれば、第一層2と第三層6との界面、または第二層3と第三層6との界面における光の反射を低減することができる。このような第三層6は、層間密着や耐性向上や、レリーフ構造Rの補正に有効である。第三層6は、ドライコーティングやウェットコーティングといった公知の方法で塗布、形成することができる
【0095】
[着色層]
着色層は、色材の他、光の干渉構造であってよい。高屈折膜と低屈折膜を交互に重ね合わせた干渉膜の原理は、例えば、特願2007−505509号公報に記載されている。本実施形態は、着色層に、このような公知の多層干渉膜を利用してよい。また、本実施形態の着色膜は、コレステリック液晶を利用した干渉構造であってもよい。また、レリーフ構造も光を干渉させることが可能であり、このような干渉構造体を着色層に利用してもよい。
【0096】
さらに、本実施形態の着色層は構造色であってもよい。構造色層とは、構造によって光学効果を生じる層である。構造色層によれば、例えば任意の波長領域の可視光を構造に応じて吸収、散乱、干渉、回折等することができる。このような構造色層としては、例えば、多層干渉膜、レリーフ型干渉構造、レリーフ型回折格子、体積型回折格子、レンズ、レリーフ型散乱構造、体積型散乱構造及びコレステリック液晶等の構造を含む層が例として挙げられる。
【0097】
[印字層]
本実施形態の基礎概念は、第一層2の側から臨界角以上で入射した光が第一層2と第二層3の界面で全反射し、臨界角未満で入射した光が第一層2から第二層3の側に透過することである。印字層は、第二層側に接するように設けられることによって、第一層2の側から臨界角未満で観察することによってのみ、第一層2と第二層3越しに確認することが可能である。
【0098】
印字層は、文字、画像、二次元コード等の情報が描かれている層である。印字層は紙、プラスチック、金属、ガラス等の基材に対して、顔料や染料を印刷したものでもよい。
また、印字層は、レーザー等の照射によって基材を変質させて印刷するものであってもよい。例えば、ポリカーボネートのシートはレーザーの照射によって変質し、黒色印字が可能である。本実施形態は、このように印字された層を印字層に使用してもよい。さらに、本実施形態の印字層は、ホログラムや回折格子等によって印字されたものであってもよい。印字層に適用される印字方式及び材料は、公知の方式や材料から適宜選択することができる。
【0099】
[モアレを生じる構造]
モアレは、干渉縞ともいい、規則正しい繰り返し模様を複数重ね合わせた場合、それらの周期のずれにより視覚的に発生する縞模様のことである。
本実施形態のモアレを生じる構造としては、周期性レリーフ構造、または周期性印刷層が例として挙げられる。周期性がわずかに異なる2つの層は、一定の距離をおいて設置された場合に観察角度によって異なるモアレを生じる。観察角度を変化させた場合のモアレの連続的変化は、動画のような視覚的効果を生じる。
【0100】
例えば、
図1に記載の偽造防止用光学素子1の上下に、周期性レリーフ構造、または周期性印刷層を設けることが考えられる。このような構成において、上下に設けた周期性レリーフ構造等の周期を僅かに変化させた場合、偽造防止用光学素子が全反射を生じない観察角度でのみ上下の周期性レリーフ構造によるモアレが生じることになる。モアレを生じるためには、上下の周期性レリーフ構造の周期の差は3%から20%程度が好適である。ただし、本実施形態では、モアレを生じる目的で偽造防止用光学素子の上下に設けられた構成の周期の差は、この数値に限定されるものではない。
【0101】
[電磁波吸収層]
電磁波吸収層は、構造色層を透過した電磁波を吸収する効果を有する層である。例えば、構造色層が多層干渉膜やコレステリック液晶等の干渉構造体の場合、構造色層は特定の波長を反射し、それ以外の波長領域を透過させる。この透過光が何れかの界面で反射した場合、構造による反射光と透過光が混和し、加法混色により本来の反射光の色濃度が薄くなるという不具合が生じる。本実施形態は、このような構造色に起因する色濃度低下を防止するため、構造色層の下に電磁波吸収層を設けている。電磁波吸収層は、特定の波長領域の電磁波を吸収する顔料(例えばカーボンブラック)、染料等の色材、モスアイ構造に類似した電磁波吸収構造体であってもよい。
【0102】
本実施形態の偽造防止用光学素子は、各層の表面で光の反射や散乱を抑えるために反射防止構造を設けること、意匠向上のために各層を着色すること、印字層の代わりに公知の偽造防止用光学素子を組み合わせること、またはレリーフ構造に既存の偽造防止用光学素子を組み込むことによって、意匠性や偽造防止耐性を向上することができる。
また、本実施形態の偽造防止用光学素子が不透明基材印字層や絵柄層に付して使用される場合、観察角度によって反射と透過のパターンが異なる偽造防止用光学素子となる。このとき、本実施形態は、金属や高屈折膜による反射層が不要であり、任意の入射角度では透過し、異なる任意の角度で反射する、透明な偽造防止用光学素子を実現することができる。
【0103】
また、一般に気体、例えば空気は、プラスチック樹脂等の有機化合物や無機化合物と比べて屈折率が低いことから、第一層2と第二層3との屈折率差を生じ易く、本発明の原理である臨界角より大きい角度で入射した電磁波の全反射を、より浅いレリーフ構造を実現することができる。このため、本実施形態は、偽造防止用光学素子の厚みを薄くすることが可能であり、コストの低下や生産性の向上に有利である。
さらに、部分的に空気や液体を内包する構造は、引き剥がそうとした際に壊れる「脆性効果」を有しており、偽造防止用途の光学素子として好適である。
【0104】
[その他の実施形態]
図28は、本発明の情報媒体の実施形態を説明するための模式図であって、
図28(a)は、本実施形態に係る情報媒体の斜視図を示し、
図28(b)は、本実施形態に係る情報媒体の断面図を示している。本実施形態の情報媒体200は、上述の各実施形態に係る偽造防止用光学素子を備えた情報媒体である。より詳しくは、本実施形態の情報媒体200は、
図28に示すように、偽造防止用光学素子203aが形成された第一基材201aと、ホログラム203bが形成された第二基材201bと、第一基材201aと第二基材201bとを接着する接着層202と、第一基材201aの接着層202側とは反対側の面に形成された第一外側印刷層204aと、第二基材201bの接着層202側とは反対側の面に形成された第二外側印刷層204bと、を備えている。尚、各印刷層を、すべて備えている必要はなく、一部または全部の印刷層を省くこともできる。すなわち、偽造防止用光学素子203aが形成された第一基材201aと、ホログラム203bが形成された第二基材201bと、第一基材201aと第二基材201bとを接着する接着層202を備えた実施形態とすることができる。ここで、本実施形態の偽造防止用光学素子203aは、例えば、上述した各実施形態に係る偽造防止用光学素子である。以下、上記構成をより詳しく説明する。なお、ホログラム203bは、第二基材201bに設けられた光を回折するレリーフ構造を用いることができる。レリーフ構造上には、金属、無機化合物の反射層を設けても良い。ホログラム203bは、光を回折する構造の他に、光を吸収、散乱する機能を有していても良い。また、ホログラム203bと同様に、第二基材201bに光を吸収する構造や散乱構造を形成することもできる。また、ホログラム203bは、接着層202に形成されても良く、接着層202の反対側の面に形成されても良い。
【0105】
第一基材201aの一方の面には、偽造防止用光学素子203aが形成されている。また、その面には、例えば、文字や記号等を表示する第一内側印刷層205aが形成されている。
第二基材201bの一方の面には、ホログラム203bが形成されている。また、その面には、例えば、文字や記号等を表示する第二内側印刷層205bが形成されている。
そして、第一基材201aの偽造防止用光学素子203aが形成された面と、第二基材201bのホログラム203bが形成された面とは、接着層202を介して対向して配置されている。
【0106】
第一基材201aの偽造防止用光学素子203aが形成された面とは反対側の面(第一基材201aの他方の面)には、第一外側印刷層204aが形成されている。ここで、第一基材201aの他方の面のうち、偽造防止用光学素子203a及び第一内側印刷層205aと平面視で重なる領域には、第一外側印刷層204aは形成されていない。換言すると、第一外側印刷層204aは、偽造防止用光学素子203a及び第一内側印刷層205aを視認可能に形成されている。以下、この第一外側印刷層204aは形成されていない領域を、第一透明窓206aと表記する。
【0107】
第二基材201bのホログラム203bが形成された面とは反対側の面(第二基材201bの他方の面)には、第二外側印刷層204bが形成されている。ここで、第二基材201bの他方の面のうち、ホログラム203b及び第二内側印刷層205bと平面視で重なる領域には、第二外側印刷層204bは形成されていない。換言すると、第二外側印刷層204bは、ホログラム203b及び第二内側印刷層205bを視認可能に形成されている。以下、この第二外側印刷層204bは形成されていない領域を、第二透明窓206bと表記する。ここで、ホログラム203bは、偽造防止用光学素子203aと平面視で重ならないように配置されている。
【0108】
また、ホログラム203bは、偽造防止用光学素子203aの周囲に配置されてもよい。ホログラム203bを、偽造防止用光学素子203aの周囲に配置する際には、部分的に偽造防止用光学素子203aの周囲に配置されているものであっても良い。ホログラム203bは、造防止用光学素子203aと一体のデザインとして、造防止用光学素子203aの周囲に配置することができる。ホログラムのデザインとしては、幾何学形状や、細線柄、文字、記号等を用いることができる。
【0109】
なお、第一基材201aの他方の面のうち、第一透明窓206a内には、例えば、文字や記号等が印刷されていてもよい。
図28では、これらの文字や記号等には、符号207aが付されて示されている。
また、第二基材201bの他方の面のうち、第二透明窓206b内には、例えば、文字や記号等が印刷されていてもよい。
図28では、これらの文字や記号等には、符号207bが付されて示されている。
また、第一基材201aと第一外側印刷層204aとの間には、例えば、隠蔽層(図示せず)が形成されていてもよい。また、第二基材201bと第二外側印刷層204bとの間には、例えば、隠蔽層(図示せず)が形成されていてもよい。
また、第一外側印刷層204a上には、例えば、文字や図形等がさらに印刷されていてもよい。
また、第一基材201a及び第二基材201bは、それぞれ複数の層からなる積層体であってもよい。
また、第一基材201a及び第二基材201bは、それぞれフィルムであってもよい。
【0110】
このような構成であれば、第一透明窓206aからホログラム203bにより生じた画像及び第二内側印刷層205bで表示される文字等を視認することができる。また、第二透明窓206bから偽造防止用光学素子203aにより生じた画像及び第一内側印刷層205aで表示される文字等を視認することができる。
また、このような構成であれば、例えばポリマー紙幣等のフィルムからなる第一基材201a自体にレンズ状の偽造防止用光学素子203aを形成し、その後、その偽造防止用光学素子203aを例えばフィルムからなる第二基材201bで挟むことで、その内部にエアギャップを有する構造体の形成が実現する。
【0111】
このように、2枚のフィルムの中に偽造防止用光学素子203aを封止することで、(1)偽造防止用光学素子203aの立体像とホログラム203bとを併せて意匠性及び偽造防止耐性を向上させることができ、(2)ホログラム203bを偽造防止用光学素子203aの周囲に配置することで、偽造防止用光学素子203aの立体像とホログラム203bが一体としたデザインとすることができる。一体としたデザインとすることで、偽造防止用光学素子203aとホログラム203bの貼り合せのズレを視認しやすくなり、偽造品の貼り合せズレにより、真贋を判定しやすくなる。
【実施例1】
【0112】
本発明の発明者は、以上説明した本実施形態の効果を検証するための実験を行って実施例とした。また、本発明の発明者は、実施例の結果と比較するための実験を行って比較例とした。以下に、実施例及び比較例について説明する。
[第1実施例]
本発明の発明者は、実施例として、偽造防止用光学素子の製造過程における「鋸刃状凹凸構造の第一層」を形成した。鋸刃状凹凸構造の第一層を形成するための第一層インキ組成物には、ハイパーテック(商標登録)UR−108Nを使用した。第一層インキ組成物を塗布した後に、鋸刃状の凹凸構造を、ロールフォトポリマー法を利用して形成した。
【0113】
より具体的には、厚み23μmの透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの支持体上に、第一層インキ組成物を膜厚10μmとなる様にグラビア印刷法によって塗工した。次に、塗工面に対して鋸刃状凹凸構造を有する円筒状の原版を、プレス圧力を2kgf/cm
2、プレス温度を80℃、プレススピードを10m/minにて押し当てて成形加工を実施した。
【0114】
また、第1実施例では、成形と同時に、PETフィルム越しに高圧水銀灯で300mJ/cm
2の紫外線露光を行い、原版の凹凸形状が第一層に形状転写されたと同時に硬化させた。成形後の第一層における鋸刃状凹凸構造は、深さ5μm、周期5μmの第1領域と、深さ5μm、周期10μmの第2領域とを有する、垂直面と斜面から成る鋸刃状凹凸構造となった。なお、鋸刃状凹凸構造が成型された第一層の屈折率は1.76であった。
【0115】
次に、本発明の発明者らは、第一層の凹凸表面上に第二層である空気を内包するため、第三層として接着剤を塗布したPETフィルムを作成した。次に、厚さが12μmのPETフィルムのコロナ処理面に対してウレタン系ドライラミ接着剤AD−900/CAT−RT85(東洋インキ製)を0.5μmの乾燥厚みで塗布乾燥して第三層を作成した。
次に、本発明の発明者は、第一層の凹凸形成面と、PETフィルムの接着剤面とを貼り合せ、第1実施例1の偽造防止用光学素子を得た。得られた偽造防止用光学素子は、第1領域、第2領域において部分的に空気が内包されており、各領域では臨界角が異なるため、異なる入射角の範囲で全反射する表示体となった。
【0116】
[第2実施例]
第2実施例は、成形後の第一層における鋸刃状凹凸構造が深さ5μm、周期10μmの第1領域と、深さ5μm、周期20μmの第2領域とを有している。この他の第一層の作製条件は、第1比較例と同様である。
[第1比較例]
第1比較例では、第1実施例と同様の条件で第一層を作製した後、第一層に高屈折率の透明反射層として硫化亜鉛を1400Å蒸着した。さらに、第1比較例では、硫化亜鉛が蒸着された凹凸構造上に、実施例1と同様の方法で第二層である空気層を設け、比較例1の偽造防止用光学素子を得た。
【0117】
[第2比較例]
第2比較例では、第1実施例と同様の方法によって第一層を作製した。その後、第2比較例では、第一層上に金属反射層としてアルミニウムを400Å蒸着した後、アルミニウムが蒸着された凹凸構造上に、実施例1と同様の方法で第二層である空気層を設け、比較例2の偽造防止用光学素子を得た。
[第3比較例]
第3比較例では、第二層インキ組成物として、ハイパーテック(商標登録)UR−108Nを使用した以外は実施例1と同様の方法で第3比較例の偽造防止用光学素子を得た。
【0118】
[偽造防止用光学素子の評価]
<光学効果>
本発明の発明者は、第1実施例及び第1比較例から第3比較例の偽造防止用光学素子を表裏から観察し、表裏で明確に異なる光学効果が確認できた場合を「OK」と評価した。また、発明者は、表裏の光学効果がほぼ同一である場合を「NG」と評価した。
【0119】
<透明性>
本発明の発明者は、インクジェットプリンターを使用し、上質印刷紙上にサイズ16のMS明朝フォントで「TP」の文字を黒字で全面印刷して印字層を作成した。そして、第1実施例、第2実施例及び第1比較例から第3比較例の偽造防止用光学素子の下に印字層を敷き、表示体越しに印字層の視認性について評価した。
【0120】
視認性の評価では、特定角度領域からの観察で印字が明確に読み取れ、且つそれ以外の特定角度領域からの観察において印字が明確に読み取れない場合を「OK」とし、どの角度からも印字が鮮明に確認出来なかった場合、どの角度からも印字が鮮明に確認できる場合は「NG」とした。
上記評価方法を第1実施例、第2実施例及び第1比較例から第3比較例の偽造防止用光学素子に対して行い、その結果を表1にまとめた。
【0121】
【表1】
【0122】
表1の通り、第1実施例及び第2実施例においては光学効果と透明性が両立しているが、第1比較例から第3比較例では光学効果、透明性共に不十分であった。
第1実施例は、第一層の側から素子平面に対して垂直に観察した場合、第1、第2領域共に高い透明性が得られることが分かった。一方、光学素子を垂線に対して20°の角度から観察した場合には、第1領域では透明性が無く、第1領域と第2領域での濃度コントラストを生じた。第二層の側からの観察ではいずれの領域のどの観察角でも透明性が高かった。
【0123】
第2実施例では、第一層の側から素子平面に対して垂直に観察した場合、第1領域、第2領域共に高い透明性が得られることが分かった。また、光学素子を垂線に対して15°の角度から観察した場合、第1領域では透明性が無く、第1領域と第2領域での濃度コントラストを生じた。また、第二層の側からの観察ではいずれの領域のどの観察角でも透明性が高かった。
第1比較例では、レリーフ構造に沿って設けられた透明高屈折膜によって、第一層の側からの観察、及び第二層の側からの観察の両方で、レリーフの光学効果を観察することが可能である。このため、第1比較例では、偽造防止用光学素子の表裏で明確に異なる光学効果を得ることは出来なかった。
【0124】
第2比較例では、レリーフに沿って設けられた透明高屈折膜によって、第一層側からの観察、および第二層側からの観察の両方で、レリーフの光学効果を観察することが可能であり、表裏で明確に異なる光学効果を得ることは出来なかった。
第3比較例では、第一層、第二層が同一屈折率の樹脂であるためにレリーフ構造との界面が無く、第一層側からの観察、及び第二層側からの観察の両方で光学効果は得られなかった。