特許第6822615号(P6822615)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凸版印刷株式会社の特許一覧

特許6822615蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体
<>
  • 特許6822615-蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体 図000003
  • 特許6822615-蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体 図000004
  • 特許6822615-蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体 図000005
  • 特許6822615-蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体 図000006
  • 特許6822615-蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体 図000007
  • 特許6822615-蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体 図000008
  • 特許6822615-蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体 図000009
  • 特許6822615-蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体 図000010
  • 特許6822615-蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体 図000011
  • 特許6822615-蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体 図000012
  • 特許6822615-蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体 図000013
  • 特許6822615-蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体 図000014
  • 特許6822615-蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体 図000015
  • 特許6822615-蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体 図000016
  • 特許6822615-蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体 図000017
  • 特許6822615-蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体 図000018
  • 特許6822615-蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体 図000019
  • 特許6822615-蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体 図000020
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6822615
(24)【登録日】2021年1月12日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/04 20060101AFI20210114BHJP
   H01L 27/32 20060101ALI20210114BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20210114BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   C23C14/04 A
   H01L27/32
   H05B33/10
   H05B33/14 A
【請求項の数】8
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2020-533864(P2020-533864)
(86)(22)【出願日】2020年3月13日
(86)【国際出願番号】JP2020011025
【審査請求日】2020年6月18日
(31)【優先権主張番号】特願2019-49161(P2019-49161)
(32)【優先日】2019年3月15日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2019-207310(P2019-207310)
(32)【優先日】2019年11月15日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】新納 幹大
(72)【発明者】
【氏名】寺田 玲爾
(72)【発明者】
【氏名】武田 憲太
(72)【発明者】
【氏名】小林 昭彦
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/138166(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第108914056(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H01L 27/32
H01L 51/50
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のマスク孔を含むマスク板を備えた蒸着マスクを鉄‐ニッケル系合金製の金属板から製造する蒸着マスクの製造方法であって、
25℃以上100℃以下の温度範囲において、ガラス基板の線膨張係数と、前記金属板の線膨張係数との差の絶対値が、1.3×10−6/℃以下である前記金属板および前記ガラス基板を準備すること、
樹脂層を介して前記金属板に前記ガラス基板を接合すること、
前記ガラス基板に接合された前記金属板に複数のマスク孔を形成することによって、前記金属板からマスク板を形成すること、
前記マスク板のなかで前記樹脂層に接する面とは反対側の面を、前記マスク板よりも高い剛性を有し、かつ、前記複数のマスク孔の全体を囲む形状を有するマスクフレームに接合すること、および、
前記マスクフレームに接合された前記マスク板から、前記樹脂層および前記ガラス基板を取り外すこと、を含む
蒸着マスクの製造方法。
【請求項2】
前記ガラス基板の線膨張係数と、前記金属板の線膨張係数との差の絶対値が、0.7×10−6/℃以下であり、
前記マスクフレームは、500μm以上の厚さを有する
請求項1に記載の蒸着マスクの製造方法。
【請求項3】
前記ガラス基板の線膨張係数と、前記金属板の線膨張係数との差の絶対値が、0.4×10−6/℃以下であり、
前記マスクフレームは、20μm以上の厚さを有する
請求項1に記載の蒸着マスクの製造方法。
【請求項4】
前記ガラス基板の線膨張係数は、前記金属板の線膨張係数よりも小さい
請求項1から3のいずれか一項に記載の蒸着マスクの製造方法。
【請求項5】
前記ガラス基板は、無アルカリガラス、石英ガラス、結晶化ガラス、ホウケイ酸ガラス、高ケイ酸ガラス、多孔質ガラス、および、ソーダライムガラスから構成される群から選択されるいずれか1つから形成される
請求項1から4のいずれか一項に記載の蒸着マスクの製造方法。
【請求項6】
複数のマスク板を形成することを含み、
前記マスクフレームには、複数の開口部が形成され、
前記マスク板を前記マスクフレームに接合することは、各マスク板が前記開口部を1つずつ覆うように、前記複数のマスク板を単一のマスクフレームに接合することであり、
前記マスクフレームは、前記マスクフレームの外縁に位置して蒸着対象の周囲を囲む枠状部と、前記枠状部が囲む領域内に位置する格子状を有した区画要素と、前記区画要素によって区画された前記複数の開口部とを有する
請求項1に記載の蒸着マスクの製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の蒸着マスクの製造方法によって製造された蒸着マスクを用いて蒸着対象にパターンを形成することを含む
表示装置の製造方法。
【請求項8】
複数のマスク孔を含み、第1面と、前記第1面とは反対側の面であって蒸着対象に接するための第2面とを有した鉄‐ニッケル系合金製の複数のマスク板と、
前記マスク板よりも高い剛性を有し、かつ、複数の開口を有したマスクフレームであって、マスク板が1つの前記開口を覆うように前記マスク板の前記第1面に接合された前記マスクフレームと、
マスク板における前記第2面に1つずつ接合された複数の樹脂層と、
樹脂層に1つずつ接合された複数のガラス基板と、を備え、
25℃以上100℃以下の温度範囲において、ガラス基板の線膨張係数と、当該ガラス基板に積層された前記マスク板の線膨張係数との差の絶対値が、1.3×10−6/℃以下である
蒸着マスク中間体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELデバイスが備えるEL素子は、蒸着によって形成される。EL素子を形成する際には、EL素子が備える機能層をパターニングするための蒸着マスクが用いられる。蒸着マスクは、複数のマスク板と、各マスク板が取り付けられる共通のフレームとを備えている。フレームは、蒸着対象の周囲を囲む四角枠状を有している。各マスク板は、短冊状を有した金属箔である。マスク板には、マスク板が延びる方向に沿って、複数のマスク領域が間隔を空けて並んでいる。各マスク領域には、機能層のパターンに応じて複数の貫通孔が形成されている。各マスク板において、マスク領域よりも外側の領域が周辺領域である。周辺領域は、マスク領域を取り囲む領域である。各マスク板は、フレームによって囲まれた領域内に複数のマスク領域が位置するようにフレームに固定される。複数のマスク領域が並ぶ方向が長手方向であり、各マスク板は、長手方向の両端に位置する周辺領域において、フレームに固定される(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018−127721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、蒸着マスクでは、蒸着対象に対するパターンの位置などにおける精度を高めることが求められる。そのため、蒸着マスクでは、マスク板に形成されたマスク孔において、蒸着源に対向する第1開口から蒸着対象に対向する第2開口に向けてマスク孔の通路面積を単調に小さくする技術が用いられている。通路面積は、蒸着マスクが広がる平面に平行な各平面でのマスク孔の面積である。また、近年では、パターンにおける膜厚の均一性を高めるために、第1開口と第2開口との間の距離、すなわち、マスク板の厚さを薄くすることも望まれている。
【0005】
一方で、マスク板の厚さが薄い場合には、マスク板の機械的な耐性が十分に得られ難いため、マスク板の取り扱いが著しく難しくなる。そこで、上述したマスク板には、マスク板の取扱性を向上させる技術が強く求められている。
【0006】
本発明は、マスク板の取扱性を向上可能とした蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための蒸着マスクの製造方法は、複数のマスク孔を含むマスク板を備えた蒸着マスクを鉄‐ニッケル系合金製の金属板から製造する蒸着マスクの製造方法である。25℃以上100℃以下の温度範囲において、ガラス基板の線膨張係数と、金属板の線膨張係数との差の絶対値が、1.3×10−6/℃以下である前記金属板および前記ガラス基板を準備すること、樹脂層を介して前記金属板に前記ガラス基板を接合すること、前記ガラス基板に接合された前記金属板に複数のマスク孔を形成することによって、前記金属板からマスク板を形成すること、前記マスク板のなかで前記樹脂層に接する面とは反対側の面と、前記マスク板よりも高い剛性を有し、かつ、前記マスク板が含む前記複数のマスク孔の全体を囲む形状を有したマスクフレームとを接合すること、および、前記マスクフレームに接合された前記マスク板から、前記樹脂層および前記ガラス基板を取り外すこと、を含む。
【0008】
上記課題を解決するための表示装置の製造方法は、上記蒸着マスクの製造方法によって製造された蒸着マスクを用いて蒸着対象にパターンを形成することを含む。
上記課題を解決するための蒸着マスク中間体は、複数のマスク孔を含み、第1面と前記第1面とは反対側の第2面とを有した鉄‐ニッケル系合金製のマスク板と、前記マスク板よりも高い剛性を有し、かつ、前記マスク板が含む前記複数のマスク孔の全体を囲む形状を有したマスクフレームであって、前記マスク板の前記第1面に接合された前記マスクフレームと、前記マスク板における前記第2面に接合された樹脂層と、前記樹脂層に接合されたガラス基板と、を備える。25℃以上100℃以下の温度範囲において、前記ガラス基板の線膨張係数と、前記マスク板の線膨張係数との差の絶対値が、1.3×10−6/℃以下である。
【0009】
上記各構成によれば、蒸着マスクを製造する過程では、マスク板が、樹脂層とガラス基板とに支持され、かつ、蒸着マスクにおいては、マスクフレームによって支持されている。そのため、マスク板の製造時に、マスク板を支持する部材を用いない場合、および、蒸着マスクがマスク板のみから構成される場合に比べて、マスク板の取扱性を向上することができる。
【0010】
上記蒸着マスクの製造方法において、前記ガラス基板の線膨張係数と、前記金属板の線膨張係数との差の絶対値が、0.7×10−6/℃以下であり、前記マスクフレームは、500μm以上の厚さを有してよい。
【0011】
上記構成によれば、ガラス基板の線膨張係数と金属板の線膨張係数との差の絶対値が0.7×10−6/℃以下であるため、ガラス基板およびマスク板の温度が変化することに起因してマスク板にひずみが生じることは、起こりにくくなる。そのため、マスク板からガラス基板が取り外されることによって蒸着マスクが形成された際に、マスク板に生じたひずみが解放されることが抑えられる。さらには、マスク板が高い剛性を有したマスクフレームに接合されるため、マスク板がマスクフレームに接合された後において、マスクフレームに対するマスク板の位置がずれることが抑えられる。それゆえに、蒸着対象に対する各貫通孔の位置が変わることが抑えられ、結果として、蒸着対象に形成されるパターンの位置精度が高められる。
【0012】
上記蒸着マスクの製造方法において、前記ガラス基板の線膨張係数と前記金属板の線膨張係数との差の絶対値が、0.4×10−6/℃以下であり、前記マスクフレームは、20μm以上の厚さを有してよい。
【0013】
上記構成によれば、ガラス基板の線膨張係数と金属板の線膨張係数との差の絶対値が0.4×10−6/℃以下であるため、マスク板からガラス基板が取り外されることによって蒸着マスクが形成された際に、マスク板に生じたひずみが解放されることが抑えられる。さらには、マスク板が高い剛性を有したマスクフレームに接合されるため、マスク板がマスクフレームに接合された後において、マスクフレームに対するマスク板の位置がずれることが抑えられる。これにより、蒸着対象に対する各貫通孔の位置が変わることが抑えられ、結果として、蒸着対象に形成されるパターンの位置精度が高められる。
【0014】
上記蒸着マスクの製造方法において、前記ガラス基板の線膨張係数は、前記金属板の線膨張係数よりも小さくてもよい。
【0015】
上記構成によれば、蒸着マスクの製造過程において、ガラス基板と金属板とを含む積層体が加熱された場合に、金属板はガラス基板よりも膨張し、これによって、金属板はマスク板の縁よりも内側から縁よりも外側に向かう方向に延びようとする。しかしながら、金属板は剛性の高いガラス基板を含む支持体によって支持されているため、金属板は、マスク板の縁よりも内側から縁よりも外側に向かう方向の力を内包した状態で支持体に固定される。その後、金属板から形成されたマスク板の温度が低下した状態でマスク板がフレームに接合された場合には、マスク板から支持体が取り外されたときに、マスク板が縮む方向の力がマスク板に対し作用する。この際に、マスク板はフレームに接合されているため、フレームに対するマスク板の位置が変わることがフレームによって抑えられ、かつ、マスク板の撓みが抑えられる。
【0016】
上記蒸着マスクの製造方法において、前記ガラス基板は、無アルカリガラス、石英ガラス、結晶化ガラス、ホウケイ酸ガラス、高ケイ酸ガラス、多孔質ガラス、および、ソーダライムガラスから構成される群から選択されるいずれか1つから形成されてよい。
【0017】
上記構成によれば、25℃以上100℃以下の温度範囲において、ガラス基板の線膨張係数とマスク板の線膨張係数との差の絶対値を、1.3×10−6/℃以下とすることが可能である。
【0018】
上記蒸着マスクの製造方法において、複数のマスク板を形成することを含み、前記マスクフレームには、複数の開口部が形成され、前記マスク板を前記マスクフレームに接合することは、各マスク板が前記開口部を1つずつ覆うように、前記複数のマスク板を単一のマスクフレームに接合することであり、前記マスクフレームは、前記マスクフレームの外縁に位置して蒸着対象の周囲を囲む枠状部と、前記枠状部が囲む領域内に位置する格子状を有した区画要素と、前記区画要素によって区画された前記開口部とを有してもよい。
【0019】
上記構成によれば、マスクフレームが格子状の区画要素を有するため、フレームが四角枠状を有する場合と比べて、マスクフレームそのものの剛性が高められる。そして、剛性が高められたマスクフレームの各開口部の周りにマスク板が1つずつ直接接合される。そのため、各マスク板を支持する構造体が、短冊状を有したマスク板の幅方向において、一次元方向に延びる直線状を有する場合と比べて、マスク板の撓みが抑えられる。結果として、蒸着対象に形成されるパターンの位置精度が高められる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、蒸着マスクの取扱性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】蒸着マスクの第1例における構造を示す斜視図。
図2図1が示す蒸着マスクにおける構造の一部を示す断面図。
図3図2が示す蒸着マスクが備えるマスク板の構造を拡大して示す断面図。
図4】蒸着マスクの第2例における構造を示す平面図。
図5図4が示す蒸着マスクにおける構造を示す断面図。
図6】蒸着マスクの製造方法を説明するための工程図。
図7】蒸着マスクの製造方法を説明するための工程図。
図8】蒸着マスクの製造方法を説明するための工程図。
図9】蒸着マスクの製造方法を説明するための工程図。
図10】蒸着マスクの製造方法を説明するための工程図。
図11】蒸着マスクの製造方法を説明するための工程図。
図12】蒸着マスクの製造方法を説明するための工程図。
図13】蒸着マスクの製造方法を説明するための工程図。
図14】蒸着マスクの製造方法を説明するための工程図。
図15】蒸着マスクの作用を説明するための作用図。
図16】蒸着マスクの作用を説明するための作用図。
図17】蒸着装置の構成を蒸着マスクおよび蒸着対象とともに模式的に示す装置構成図。
図18】試験例における位置精度の測定方法を説明するための平面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1から図18を参照して、蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体における一実施形態を説明する。以下では、蒸着マスク、蒸着マスクの製造方法、および、表示装置の製造方法を順に説明する。
【0023】
[蒸着マスク]
図1から図5を参照して、蒸着マスクの構成を説明する。以下ではまず、蒸着マスクの第1例における構造を説明し、次いで、蒸着マスクの第2例における構造を説明する。
【0024】
[第1例]
図1から図3を参照して、蒸着マスクの第1例を説明する。
図1が示すように、蒸着マスク10Aは、マスクフレーム11Aと、複数のマスク板12とを備えている。マスクフレーム11Aは、枠状部11Aa、区画要素11Ab、および、複数の開口部11Acを有している。枠状部11Aaは、マスクフレーム11Aの外縁に位置し、蒸着対象Sの周囲を囲むことが可能な大きさおよび形状を有している。区画要素11Abは、枠状部11Aaが囲む領域内に位置し、格子状を有している。複数の開口部11Acは、区画要素11Abによって区画されている。言い換えれば、区画要素11Abは、複数の開口部11Acを互いから孤立させている。各マスク板12は、複数の貫通孔を有している。各マスク板12が開口部11Acを1つずつ覆うように、複数のマスク板12が、マスクフレーム11Aに接合されている。
【0025】
マスクフレーム11Aが格子状の区画要素11Abを有するため、フレームが四角枠状を有する場合と比べて、マスクフレーム11Aそのものの剛性が高められる。そして、剛性が高められたマスクフレーム11Aの各開口部11Acの周りにマスク板12が1つずつ直接接合される。そのため、各マスク板12を支持する構造体が、短冊状を有したマスク板の幅方向において、一次元方向に延びる直線状を有する場合と比べて、マスク板12の撓みが抑えられる。結果として、蒸着対象Sに形成されるパターンの位置精度が高められる。
【0026】
マスクフレーム11Aが格子状の区画要素11Abを有することから、言い換えれば、各マスク板12を支持する構造体が二次元方向に広がる高い剛性を有した格子状であることから、マスクフレーム11Aそのものに撓みが生じがたい。そのため、マスクフレーム11Aに直接接合されたマスク板12にも撓みが生じがたい。これに対して、マスクフレームが四角枠状である場合には、各マスク板を支持する構造体が、短冊状を有したマスク板の幅方向において一次元方向に延びる直線状を有し、かつ、マスク板が延びる方向における両端部にのみ位置する。そのため、マスク板の延びる方向においてマスク板に撓みが生じやすい。
【0027】
枠状部11Aaの外形は、四角形状を有している。蒸着マスク10Aが蒸着対象Sに対する蒸着に用いられるときには、蒸着対象Sが広がる平面と対向する視点から見て、枠状部11Aaの一部が蒸着対象Sの縁よりも外側に位置し、かつ、枠状部11Aaの他の一部が蒸着対象Sに重なっている。マスクフレーム11Aは、表面11AFと裏面11ARとを有している。マスクフレーム11Aのなかで、裏面11ARが蒸着対象Sに対面する面である。なお、図1は、裏面11ARと対向する視点から見た蒸着マスク10Aの構造を示している。
【0028】
本実施形態では、区画要素11Abは、第1方向D1に沿って延びる部分と、第1方向D1に直交する第2方向D2に沿って延びる部分とを有している。区画要素11Abは、矩形格子状を有している。これにより、マスクフレーム11Aにおいて、第1方向D1に複数の開口部11Acが並び、かつ、第2方向D2に複数の開口部11Acが並んでいる。各方向D1,D2において、複数の開口部11Acは、等しい間隔を空けて並んでいる。各開口部11Acは、裏面11ARと対向する視点から見て長方形状を有している。
【0029】
なお、複数の開口部11Acは、第1方向D1および第2方向D2に沿って等しい間隔を空けて並んでいなくてもよい。すなわち、互いに隣り合う開口部11Acの間隔には、複数の大きさが含まれてよい。また、複数の開口部11Acは格子状に並んでいればよいため、上述したような矩形格子状に限らず、三角格子状に並んでもよいし、六角格子状に並んでもよい。また、複数の開口部11Acは、千鳥格子状に並んでもよい。開口部11Acは、長方形状を有しなくてもよい。この場合には、開口部11Acは、例えば、正方形状、円状、および、楕円状などの形状を有してもよい。複数の開口部11Acには、第1の形状を有した開口部11Acと第2の形状を有した開口部11Acとが含まれてよい。
【0030】
マスク板12は、マスクフレーム11Aの裏面11ARと対向する視点から見て、開口部11Acを覆うことが可能な形状および大きさを有している。本実施形態において、マスク板12は、長方形状を有している。マスク板12は、1つの開口部11Acに対して1つずつ取り付けられているため、蒸着マスク10Aは、開口部11Acと同数のマスク板12を備えている。
【0031】
マスクフレーム11Aおよびマスク板12は、金属製である。マスクフレーム11Aを形成する金属と、マスク板12を形成する金属とは、同一であることが好ましい。これにより、蒸着マスク10Aの使用時に蒸着マスク10Aが加熱されても、蒸着マスク10Aの線膨張係数とマスク板12の線膨張係数との差に起因してマスク板12が変形することは、抑えられる。結果として、蒸着マスク10Aを用いて形成したパターンの位置精度の低下が抑えられる。
【0032】
マスク板12を形成する材料には、鉄とニッケルとの合金である鉄‐ニッケル系合金を用いることができる。マスク板12を形成する材料は、鉄‐ニッケル系合金のなかでも、ニッケルを36質量%含む合金であるインバーであることが好ましい。マスク板12を形成する材料は、ニッケルを42質量%含む合金である42アロイでもよい。マスク板12は、鉄およびニッケルに加えて、クロム、マンガン、炭素、および、コバルトなどの添加物を含んでもよい。
【0033】
なお、蒸着対象Sを形成する材料は、ガラスであることが好ましい。蒸着対象Sがガラス製である場合には、マスク板12がインバー製であることによって、蒸着対象Sの線膨張係数とマスク板12の線膨張係数との差が大きくなることが抑えられる。なお、蒸着対象Sは、ガラス基板と樹脂層との積層体でもよい。この場合には、蒸着対象Sが備える樹脂層にパターンが形成される。また、蒸着対象Sは、樹脂フィルムでもよい。樹脂層および樹脂フィルムを形成する材料は、樹脂層および樹脂フィルムが有する線膨張係数の観点から、例えばポリイミド樹脂であることが好ましい。
【0034】
図2は、表面11AFに直交し、かつ、第1方向D1に平行な平面に沿う蒸着マスク10Aの一部断面構造を示している。
図2が示すように、各開口部11Acは、マスクフレーム11Aの表面11AFと裏面11ARとの間を貫通する貫通孔である。図2が示す例では、各開口部11Acは矩形状を有し、各開口部11Acにおいて、矩形状を有した断面形状が、第2方向D2に沿って連なっている。なお、各開口部11Acの断面形状は、例えば、台形状や逆台形状でもよい。開口部11Acの断面形状が台形状である場合には、開口部11Acは、裏面11ARにおける幅が表面11AFにおける幅よりも大きく、かつ、表面11AFから裏面11ARに向かう方向において、開口部11Acの幅が単調増加する形状を有する。
【0035】
一方で、開口部11Acの断面形状が逆台形状である場合には、開口部11Acは、裏面11ARにおける幅が表面11AFにおける幅よりも小さく、かつ、表面11AFから裏面11ARに向かう方向において、開口部11Acの幅が単調減少する形状を有する。また、開口部11Acの断面形状は、曲率中心が裏面11ARに対して表面11AF寄りに位置するような弧状であってもよい。
【0036】
マスクフレーム11Aの厚さTFは、500μm以上であることが好ましい。マスクフレーム11Aの厚さTFは、マスクフレーム11Aが広がる平面に直交する断面に沿う構造におけるマスクフレーム11Aの厚さである。これにより、マスクフレーム11Aが厚さに起因する高い剛性を有するため、マスク板12が膨張したり収縮したりすることが、マスクフレーム11Aによってより抑えられる。それゆえに、蒸着対象Sに対する各貫通孔の位置が変わることがより抑えられる。結果として、蒸着対象Sに形成されるパターンの位置精度もより高められる。マスク板12の厚さTMは、例えば、1μm以上15μm以下である。マスク板12において、複数の貫通孔が位置する領域がマスク領域12aであり、マスク領域12aを取り囲む領域が周辺領域12bである。マスク領域12aの厚さは、周辺領域12bの厚さと等しくてもよいし、周辺領域12bの厚さよりも薄くてもよい。
【0037】
蒸着マスク10Aは、マスクフレーム11Aとマスク板12とが接合された部分である接合部10Aaを備えている。マスクフレーム11Aとマスク板12との接合は、マスクフレーム11Aとマスク板12との間に配置された接着剤による接着によっても可能であるし、マスクフレーム11Aとマスク板12とに対するレーザー光線の照射によるレーザー溶接によっても可能である。マスクフレーム11Aとマスク板12とが接着剤によって接合される場合には、接合部10Aaは接着剤によって形成される。マスクフレーム11Aとマスク板12とがレーザー溶接によって接合される場合には、接合部10Aaは、レーザー光線の照射痕である。
【0038】
接合部10Aaは、裏面11ARと対向する視点から見て、マスク板12の周方向における全体に位置してもよいし、周方向において間欠的に位置してもよい。接合部10Aaがマスク板12の周方向において間欠的に位置する場合には、マスク板12の各辺における少なくとも一部がマスクフレーム11Aに接合されることが好ましい。
【0039】
図3が示すように、マスク板12は、表面12Fと、表面12Fとは反対側の面である裏面12Rとを備えている。表面12Fは第1面の一例であり、裏面12Rは第2面の一例である。表面12Fは、蒸着装置内において蒸着源と対向するための面である。表面12Fの一部が、マスクフレーム11Aに接合されている。裏面12Rは、蒸着装置内において、蒸着対象Sと接触するための面である。
【0040】
マスク板12は、単一の金属板から形成されてもよいし、複数の金属板から形成されてもよい。マスク板12が複数の金属板から形成される場合には、複数の金属板がマスク板12の厚さ方向において積み重なっている。マスク板12は貫通孔の一例であるマスク孔12Hを複数備えている。マスク孔12Hを区画する孔側面は、マスク板12の厚さ方向に沿う断面において、表面12Fから裏面12Rに向けて先細りする半円弧状を有している。
【0041】
上述したように、マスク板12の厚さは、例えば、1μm以上15μm以下である。このような薄いマスク板12であれば、マスク板12に向けて飛行する蒸着粒子から蒸着対象を見たときに、蒸着マスク10Aによって影になる部分を少なくすること、すなわち、シャドウ効果を抑えることが可能である。
【0042】
なお、マスク板12の厚さが3μm以上5μm以下であれば、マスク板12は、表面12Fと対向する平面視において互いに離間した複数のマスク孔12Hであって、かつ、解像度が700ppi以上1000ppi以下である高解像度の表示装置に対応することの可能なマスク孔12Hを有することができる。また、マスク板12の厚さが5μm以上10μm以下であれば、マスク板12は、表面12Fと対向する平面視において互いに離間した複数のマスク孔12Hであって、かつ、解像度が400ppi以上700ppi以下である中解像度の表示装置に対応することの可能なマスク孔12Hを有することができる。また、マスク板12の厚さが10μm以上15μm以下であれば、マスク板12は、表面12Fと対向する平面視において互いに離間した複数のマスク孔12Hであって、かつ、解像度が300ppi以上400ppi以下である低解像度の表示装置に対応することの可能なマスク孔12Hを有することができる。
【0043】
なお、複数のマスク孔12Hは、表面12Fと対向する平面視において、各マスク孔12Hが隣り合う他のマスク孔12Hに連なっていてもよい。この場合には、マスク板12の厚さが5μm以上10μm以下であっても、高解像度の表示装置に対応することが可能なマスク孔12Hをマスク板12が有することが可能である。また、マスク板12の厚さが10μm以上15μm以下であっても、中解像度あるいは高解像度の表示装置に対応することが可能なマスク孔12Hをマスク板12が有することが可能である。
【0044】
表面12Fは、マスク孔12Hの開口である表面開口H1を含んでいる。裏面12Rは、マスク孔12Hの開口である裏面開口H2を含んでいる。表面開口H1の大きさは、表面12Fと対向する視点から見て、裏面開口H2よりも大きい。各マスク孔12Hは、蒸着源から気化または昇華した蒸着粒子が通る通路である。蒸着源から気化または昇華した蒸着粒子は、表面開口H1から裏面開口H2に向けてマスク孔12H内を進む。マスク孔12Hにおいて、表面開口H1が裏面開口H2よりも大きいことによって、表面開口H1から入る蒸着粒子に対するシャドウ効果を抑えることが可能である。
【0045】
マスク板12の厚さが3μm以上5μm以下である場合には、マスク板12を形成するための金属板を表面からウェットエッチングするのみによって、上述した高解像度の表示装置を製造することが可能な複数のマスク孔12Hを形成することができる。マスク板12の厚さが10μm以上15μm以下である場合には、金属板を表面からウェットエッチングするのみによって、上述した低解像度の表示装置を製造することが可能な複数のマスク孔12Hを形成することができる。いずれの場合にも、金属板の裏面から金属板をウェットエッチングすることが不要である。
【0046】
これに対して、より厚い金属板を用いて、各解像度の表示装置の製造に用いられる蒸着マスクを形成するためには、金属板の表面および裏面の各々から金属板をウェットエッチングすることが必要である。金属板を表面と裏面との両方からウェットエッチングした場合には、各マスク孔は、表面開口を含む表面凹部と、裏面開口を含む裏面凹部とがマスク板の厚さ方向において繋がった形状を有する。マスク孔において、表面凹部と裏面凹部とが繋がる部分が接続部である。接続部において、表面12Fと平行な方向に沿うマスク孔12Hの面積が最も小さい。こうしたマスク孔12Hにおいて、裏面開口と接続部との間の距離がステップハイトである。ステップハイトが大きいほど、上述したシャドウ効果が大きくなる。上述したマスク板12では、ステップハイトがゼロである。そのため、マスク板12は、シャドウ効果を抑える上で好ましい構造を有する。
【0047】
なお、マスク板12は、複数のマスク孔12Hが形成されたマスク領域12aを1つのみ備えてもよいし、複数備えてもよい。マスク板12が複数のマスク領域12aを備える場合には、互いに隣り合うマスク領域12aは、マスク孔12Hを有しない周辺領域12bによって互いから区分されている。また、蒸着マスク10Aが備える複数のマスク板12の全てにおいて、各マスク板12が有するマスク領域12aの数が同じであってもよいし、複数のマスク板12には、第1の数のマスク領域12aを備えるマスク板12と、第2の数のマスク領域12aを備えるマスク板12とが含まれてもよい。
【0048】
[第2例]
図4および図5を参照して、蒸着マスクの第2例を説明する。蒸着マスクの第2例では、蒸着マスクの第1例と比べて、蒸着マスクが備えるマスクフレームの形状が異なっている。そのため以下では、第2例における第1例との相違点を詳しく説明する一方で、第2例における第1例との共通点についての詳しい説明を省略する。
【0049】
図4が示すように、蒸着マスク10Bは、マスク板12とマスクフレーム11Bとを備えている。マスクフレーム11Bは、表面11BFと対向する視点から見て、1つの方向に沿って延びる短冊状を有している。マスクフレーム11Bは、マスク板12が有する剛性よりも高い剛性を有している。
【0050】
図4が示す例では、蒸着マスク10Bは、複数のマスク板12を備え、かつ、マスクフレーム11Bが、マスク板12と同数の開口部11Bcを有している。複数のマスク板12は、マスクフレーム11Bが延びる方向に沿って一列に並んでいるため、マスクフレーム11Bは、各マスク板12を囲むことが可能なはしご状を有している。なお、蒸着マスク10Bは、マスクフレーム11Bの幅方向に沿って並ぶ2列以上のマスク板12を備えてもよい。この場合には、マスクフレーム11Bも、マスクフレーム11Bの幅方向に沿って並ぶ2列以上の開口部11Bcを有する。
【0051】
なお、蒸着マスク10Bにおいても、上述した蒸着マスク10Aと同様、マスク板12は、複数のマスク孔12Hが形成されたマスク領域12aを1つのみ備えてもよいし、複数備えてもよい。マスク板12が複数のマスク領域12aを備える場合には、互いに隣り合うマスク領域12aは、マスク孔12Hを有しない周辺領域12bによって互いから区分されている。また、蒸着マスク10Bが備える複数のマスク板12の全てにおいて、各マスク板12が有するマスク領域12aの数が同じであってもよいし、複数のマスク板12には、第1の数のマスク領域12aを備えるマスク板12と、第2の数のマスク領域12aを備えるマスク板12とが含まれてもよい。
【0052】
蒸着マスク10Bは、蒸着マスク10Bを支持する支持フレームSFとともにマスク装置MDを形成する。図4が示す例では、複数の蒸着マスク10Bが1つの支持フレームSFに取り付けられることによって、1つのマスク装置MDが形成されている。支持フレームSFは、矩形枠状を有している。各蒸着マスク10Bが備えるマスク板12は、支持フレームSFが有する支持フレーム孔SFHが区画する領域内に位置している。支持フレームSFの厚さは、マスクフレーム11Bの厚さよりも厚い。そのため、支持フレームSFは、支持フレームSFが有する厚さに起因して、マスクフレーム11Bの剛性よりも高い剛性を有する。支持フレームSFの厚さは、例えば、10mm以上30mm以下であってよい。
【0053】
図5は、表面11BFに直交し、かつ、マスクフレーム11Bが延びる方向に平行な平面に沿う蒸着マスク10Bの断面構造を示している。
図5が示すように、各開口部11Bcは、マスクフレーム11Bの表面11BFと裏面11BRとを貫通する貫通孔である。各開口部11Bcは矩形状を有し、各開口部11Bcにおいて、矩形状を有した断面形状が、マスクフレーム11Bの幅方向に沿って連なっている。なお、各開口部11Bcは、第1例のマスクフレーム11Aが有する開口部11Bcと同様、台形状、逆台形状、または、弧状を有してもよい。マスクフレーム11Bの厚さTFは、20μm以上である。マスクフレーム11Bの厚さTFは、100μm以下であってよい。
【0054】
[蒸着マスクの製造方法]
図6から図14を参照して、蒸着マスクの製造方法を説明する。
蒸着マスク10A,10Bの製造方法は、複数のマスク孔を含むマスク板を備えた蒸着マスクを鉄‐ニッケル系合金製の金属板から製造するための製造方法である。当該方法は、金属板およびガラス基板を準備すること、金属板をガラス基板に接合すること、金属板からマスク板を形成すること、マスクフレームにマスク板を接合すること、および、後述する樹脂層およびガラス基板をマスク板から剥離することを含む。
【0055】
金属板およびガラス基板を準備することでは、25℃以上100℃以下の温度範囲において、ガラス基板の線膨張係数と、金属板の線膨張係数との差の絶対値が、1.3×10−6/℃以下である金属板およびガラス基板を準備する。金属板をガラス基板に接合することでは、樹脂層を介して金属板にガラス基板を接合する。マスク板を形成することでは、ガラス基板に接合された金属板に複数のマスク孔を形成して、金属板からマスク板を形成する。マスクフレームにマスク板を接合することでは、マスク板のなかで樹脂層に接する面とは反対側の面と、マスク板よりも高い剛性を有し、かつ、マスク板が含む複数のマスク孔を囲む形状を有するマスクフレームとを接合する。その後に、マスクフレームに接合されたマスク板から、樹脂層およびガラス基板を剥離する。以下、図面を参照して、蒸着マスク10A,10Bの製造方法をより詳しく説明する。
【0056】
なお、図6から図11には、マスク板12を形成するための基材を準備する工程からマスク板12を形成するまでの工程が示されている。図12から図14には、マスク板12をマスクフレーム11Aに接合する工程から、マスク板12から支持体を剥離する工程までが示されている。なお、図12から図14では、説明の便宜上、第1例の蒸着マスク10Aが有するマスクフレーム11Aを用いた製造方法を説明するが、第2例の蒸着マスク10Bが有するマスクフレーム11Bを用いた場合でも、同様の製造方法によって蒸着マスク10Bが製造される。また、図12から図14では、図示の便宜上、マスクフレーム11Aが1つの開口部11Acのみを有し、かつ、蒸着マスク10Aが1つのマスク板12を有する構造として示されている。
【0057】
図6から図11が示すように、蒸着マスク10A,10Bの製造方法では、まず、マスク板12を形成するための基材20が準備される(図6参照)。マスク板12の基材20は、マスク板12を形成するための金属板21と、金属板21を支持するための支持体22とを備えている。支持体22は、樹脂層22aおよびガラス基板22bから形成されている。基材20において、樹脂層22aが、金属板21とガラス基板22bとに挟まれている。
【0058】
25℃以上100℃以下の温度範囲において、ガラス基板22bの線膨張係数とマスク板12を形成する金属板21の線膨張係数との差の絶対値が、1.3×10−6/℃以下である。
【0059】
なお、第1例の蒸着マスク10Aが備えるマスクフレーム11Aであって、500μm以上の厚さを有したマスクフレーム11Aを用いる場合には、ガラス基板22bの線膨張係数と金属板21の線膨張係数との差の絶対値が0.7×10−6/℃以下であることが好ましい。2つの線膨張係数における差の絶対値が0.7×10−6/℃以下であることによって、蒸着マスク10Aの製造過程において、ガラス基板22bおよびマスク板12の温度が変化することに起因して、マスク板12にひずみが生じにくくなる。そのため、マスク板12からガラス基板22bが取り外されることによって蒸着マスク10Aが形成された際に、マスク板12に生じたひずみが解放されることが抑えられる。さらには、マスク板12が高い剛性を有したマスクフレーム11Aに接合されるため、マスク板12がマスクフレーム11Aに接合された後において、マスクフレーム11Aに対するマスク板12の位置がずれることが抑えられる。それゆえに、蒸着対象Sに対する各マスク孔12Hの位置が変わることが抑えられる。結果として、蒸着対象Sに形成されるパターンの位置精度が高められる。
【0060】
また、第2例の蒸着マスク10Bが備えるマスクフレーム11Bであって、20μm以上の厚さを有したマスクフレーム11Bを用いる場合には、ガラス基板22bの線膨張係数と金属板21の線膨張係数との差の絶対値が0.4×10−6/℃以下であることが好ましい。この場合にも、マスクフレーム11Aの厚さが500μm以上であって、かつ、ガラス基板22bの線膨張係数と金属板21の線膨張係数との差の絶対値が0.7×10−6/℃以下である場合と同等の効果を得ることができる。
【0061】
さらに、金属板21とガラス基板22bとを準備する際には、25℃以上100℃以下の温度範囲において、金属板21の線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有したガラス基板22bを準備することが好ましい。
【0062】
上述したように、金属板21は、鉄‐ニッケル系合金から形成されてよい。ガラス基板22bは、無アルカリガラス、石英ガラス、結晶化ガラス、ホウケイ酸ガラス、高ケイ酸ガラス、多孔質ガラス、および、ソーダライムガラスから構成される群から選択されるいずれか1つから形成されてよい。これにより、25℃以上100℃以下の温度範囲において、ガラス基板22bの線膨張係数とマスク板12の線膨張係数との差の絶対値を、1.3×10−6/℃以下とすることが可能である。
【0063】
次いで、金属板21を表面21Fからエッチングすることによって、金属板21の厚さを薄くする。例えば、金属板21の厚さをエッチング前の金属板21の厚さの1/2以下の厚さまで減らすことが可能である(図7参照)。そして、金属板21の表面21Fにレジスト層PRが形成される(図8参照)。レジスト層PRに対する露光、および、現像が行われることによって、表面21FにレジストマスクRMが形成される(図9参照)。
【0064】
次に、レジストマスクRMを用いて金属板21が表面21Fからウェットエッチングされる。これによって、金属板21に複数のマスク孔12Hが形成される(図10参照)。金属板21のウェットエッチングでは、表面開口H1が表面21Fに形成され、その後に、表面開口H1よりも小さい裏面開口H2が裏面21Rに形成される。次いで、レジストマスクRMが表面21Fから除去されることによって、マスク板12が製造される(図11参照)。なお、金属板21の表面21Fが、マスク板12の表面12Fに対応し、金属板21の裏面21Rが、マスク板12の裏面12Rに対応する。
【0065】
基材20を準備する工程には、金属板21とガラス基板22bとの間に樹脂層22aを挟み、樹脂層22aを介して金属板21とガラス基板22bとを接合する工程が含まれる。金属板21、樹脂層22a、および、ガラス基板22bが接合されるときには、まず、金属板21およびガラス基板22bの各々が有する面のなかで、少なくとも樹脂層22aと接する面にCB(Chemical bonding)処理が行われる。金属板21およびガラス基板22bにおいてCB処理が行われる面が対象面である。CB処理では、例えば、対象面に薬液が塗布されることによって、樹脂層22aに対して反応性を有する官能基などが対象面に付与される。CB処理では、例えばSi系化合物などが対象面に付与される。
【0066】
そして、金属板21、樹脂層22a、および、ガラス基板22bを記載の順に重ねた後に、これらを熱圧着する。この際に、金属板21の対象面と、ガラス基板22bの対象面とを、樹脂層22aに接触させる。これにより、対象面に付与された官能基と、樹脂層22aの表面に位置する官能基とが反応することによって、金属板21と樹脂層22aとが接合され、かつ、ガラス基板22bと樹脂層22aとが接合される。
【0067】
樹脂層22aは、ポリイミド製であることが好ましい。この場合には、金属板21の線膨張係数、樹脂層22aの線膨張係数、および、ガラス基板22bの線膨張係数が同程度である。そのため、蒸着マスク10A,10Bを製造する過程において、金属板21、樹脂層22a、および、ガラス基板22bから形成される積層体が加熱されても、積層体を形成する層間の線膨張係数の差に起因した積層体の反りが抑えられる。
【0068】
金属板21を製造する方法には、電解または圧延が用いられる。これらの方法によって得られた金属板21の後処理として、研磨およびアニールなどが適宜用いられる。金属板21の製造に電解が用いられる場合には、電解に用いられる電極の表面に金属板21が形成される。その後、電極の表面から金属板21が離型される。これにより、金属板21が製造される。上述した接合工程では、樹脂層22aを介して10μm以上の厚さを有する金属板21をガラス基板22bに接合することが好ましい。なお、金属板21の厚さは、金属板21が圧延によって製造される場合には、15μm以上であることが好ましい。金属板21の厚さは、金属板21が電解によって製造される場合には、10μm以上であることが好ましい。
【0069】
電解に用いられる電解浴は、鉄イオン供給剤、ニッケルイオン供給剤、および、pH緩衝剤を含んでいる。また、電解浴は、応力緩和剤、Fe3+イオンマスク剤、および、錯化剤などを含んでもよい。電解浴は、電解に適したpHを有するように調整された弱酸性の溶液である。鉄イオン供給剤には、例えば、硫酸第一鉄・7水和物、塩化第一鉄、および、スルファミン酸鉄などを用いることができる。ニッケルイオン供給剤には、例えば、硫酸ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)、スルファミン酸ニッケル、および、臭化ニッケルなどを用いることができる。pH緩衝剤には、例えば、ホウ酸、および、マロン酸などを用いることができる。マロン酸は、Fe3+イオンマスク剤としても機能する。応力緩和剤には、例えばサッカリンナトリウムなどを用いることができる。錯化剤には、例えば、リンゴ酸およびクエン酸などを用いることができる。電解に用いられる電解浴は、例えば、上述した添加剤を含む水溶液である。電解浴のpHは、pH調整剤によって、例えば、2以上3以下に調整される。なお、pH調整剤には、5%硫酸および炭酸ニッケルなどを用いることができる。
【0070】
電解に用いられる条件は、金属板21の厚さ、および、金属板21の組成比などを所望の値に調節するための条件である。こうした条件には、電解浴の温度、電流密度、および、電解時間が含まれる。上述した電解浴に適用される陽極には、例えば、純鉄板およびニッケル板などを用いることができる。電解浴に適用される陰極には、例えば、SUS304などのステンレス板を用いることができる。電解浴の温度は、例えば、40℃以上60℃以下である。電流密度は、例えば、1A/dm以上4A/dm以下である。
【0071】
電解液の組成、および、電解に用いられる条件は、例えば、以下のように設定することが可能である。
・硫酸第一鉄・7水和物 :83.4g/L
・硫酸ニッケル(II)・6水和物:250.0g/L
・塩化ニッケル(II)・6水和物:40.0g/L
・ホウ酸 :30.0g/L
・サッカリンナトリウム2水和物 :2.0g/L
・マロン酸 :5.2g/L
・温度 :50℃
なお、当該組成および条件以外の組成および条件によっても、電解によって金属板21を製造することは可能である。
【0072】
金属板21の製造に圧延が用いられる場合には、金属板21を製造するための母材が圧延される。その後、圧延された母材がアニールされることによって、金属板21が得られる。なお、金属板21を形成するための圧延用の母材が形成されるときには、圧延用の母材を形成するための材料中に混入した酸素を除くために、例えば、粒状のアルミニウムおよび粒状のマグネシウムなどの脱酸剤が、母材を形成するための材料に混合される。アルミニウムおよびマグネシウムは、酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウムなどの金属酸化物として母材に含まれる。これら金属酸化物の大部分は、母材が圧延される前に、母材から取り除かれる。一方で、金属酸化物の一部分は、圧延の対象である母材に残る。この点で、電解を用いる金属板21の製造方法によれば、金属酸化物が金属板21に混ざることがない。
【0073】
金属板21にレジストマスクRMを形成する前に金属板21の厚さを減らす薄板化工程では、ウェットエッチングを用いることができる。上述したように、薄板化工程では、薄板化後の金属板21の厚さを薄板化前の金属板21の厚さの1/2以下にまで減らすことが可能である。そのため、金属板21の厚さを、マスク板12における厚さの2倍以上とすることが可能である。これにより、マスク板12に求められる厚さが上述したように15μm以下という薄さであっても、金属板21がガラス基板22bに接合される前において、蒸着マスク10A,10Bが有するマスク板12よりも剛性の高い金属板21を用いることができる。そのため、マスク板12と同じ厚さを有した金属板21をガラス基板22bに接合することに比べて、金属板21をガラス基板22bに接合することがより容易である。なお、金属板21の厚さを減らす工程は、省略することができる。
【0074】
金属板21をウェットエッチングすることによって薄板化するためのエッチング液には、酸性のエッチング液を用いることができる。金属板21がインバーから形成される場合には、エッチング液は、インバーをエッチングすることが可能なエッチング液であればよい。酸性のエッチング液は、例えば、過塩素酸第二鉄液、および、過塩素酸第二鉄液と塩化第二鉄液との混合液のいずれかに対して、過塩素酸、塩酸、硫酸、蟻酸、および、酢酸のいずれかを混合した溶液であってよい。表面21Fをエッチングする方式には、ディップ式、スプレー式、および、スピン式のいずれかを用いることができる。
【0075】
金属板21に複数のマスク孔12Hを形成するためのエッチングでは、エッチング液として酸性のエッチング液を用いることができる。金属板21がインバーから形成されるときには、エッチング液には、上述した薄板化工程で用いることが可能なエッチング液のいずれかを用いることができる。マスク孔12Hを形成するためのエッチングの方式にも、薄板化工程で用いることが可能な方式のいずれかを用いることができる。
【0076】
上述したように、金属板21の厚さが3μm以上5μm以下であれば、金属板21の表面21Fと対向する平面視において、1インチ当たりに700個以上1000個以下のマスク孔12Hが並ぶように複数のマスク孔12Hを形成することが可能である。すなわち、解像度が700ppi以上1000ppi以下である表示装置を形成するために用いることが可能なマスク板12を得ることができる。
【0077】
また、金属板21の厚さが5μm以上10μm以下であれば、金属板21の表面21Fと対向する平面視において、1インチ当たりに400個以上700個以下のマスク孔12Hが並ぶように複数のマスク孔12Hを形成することが可能である。すなわち、解像度が400ppi以上700ppi以下である表示装置を形成するために用いることが可能なマスク板12を得ることができる。
【0078】
また、金属板21の厚さが10μm以上15μm以下であれば、金属板21の表面21Fと対向する平面視において、1インチ当たりに300個以上400個以下のマスク孔12Hが並ぶように複数のマスク孔12Hを形成することが可能である。すなわち、解像度が300ppi以上400ppi以下である表示装置を形成するために用いることが可能なマスク板12を得ることができる。
【0079】
なお、基材20を準備する工程は、金属板21、樹脂層22a、および、ガラス基板22bを互いに接合する前に、金属板21における1つの面から金属板21を薄板化する工程を含むことができる。この場合には、基材20を準備する工程が含む薄板化工程が第1薄板化工程であり、基材20を準備する工程の後に行われる薄板化工程が第2薄板化工程である。
【0080】
第1薄板化工程において、金属板21は、第1面からエッチングされることによって薄板化される。これに対して、第2薄板化工程において、金属板21は、第1面とは異なる第2面からエッチングされることによって薄板化される。第1面がエッチングされた後に得られる面が、金属板21において樹脂層22aと接合される面であって、かつ、CB処理が行われる面である。
【0081】
金属板21の第1面と第2面との両方をエッチングすることによって、第1面と第2面との両方から金属板21の残留応力を調節することが可能である。これにより、一方の面のみをエッチングする場合に比べて、エッチング後における金属板21の残留応力に偏りが生じることが抑えられる。そのため、金属板21から得られたマスク板12をマスクフレーム11A,11Bに接合した場合に、マスク板12にしわが生じることが抑えられる。金属板21において、第1面のエッチングによって得られた面がマスク板の裏面12Rに対応し、第2面のエッチングによって得られた面がマスク板12の表面12Fに対応する。
【0082】
なお、金属板21を第1面からエッチングする際のエッチング量が第1エッチング量であり、第2面からエッチングする際のエッチング量が第2エッチング量である。第1エッチング量と第2エッチング量とは、等しくてもよいし、異なってもよい。第1エッチング量と第2エッチング量とが異なる場合には、第1エッチング量が第2エッチング量よりも大きくてもよいし、第2エッチング量が第1エッチング量よりも大きくてもよい。ただし、第2エッチング量が第1エッチング量よりも大きい場合には、金属板21が樹脂層22aとガラス基板22bとによって支持された状態でのエッチング量がより大きいため、金属板21の取り扱い性がよく、結果として、金属板21のエッチングが容易である。
【0083】
なお、金属板21の残留応力を低減させる上では、また、金属板21が圧延によって得られた場合に、金属板21に含まれる金属酸化物を減少させる上では、上述したように、第1面と第2面との両面をエッチングすることが好ましい。また、第1エッチング量および第2エッチング量は、例えば3μm以上であってよい。
【0084】
図12から図14が示すように、マスクフレーム11Aの一部にマスク板12の一部が接合される(図12参照)。この際に、各マスク板12が開口部11Acを1つずつ覆うように、複数のマスク板12が単一のマスクフレーム11Aに接合される。なお、図12が示す構造体が、蒸着マスク中間体の一例である。すなわち、蒸着マスク中間体は、マスク板12、マスクフレーム11A、樹脂層22a、および、ガラス基板22bを備えている。蒸着マスク中間体では、25℃以上100℃以下の温度範囲において、ガラス基板の線膨張係数と、金属板の線膨張係数との差の絶対値が、1.3×10−6/℃以下である。
【0085】
そして、樹脂層22aからガラス基板22bが剥離される(図13参照)。すなわち、樹脂層22aからガラス基板22bが取り外される。次いで、各マスク板12から樹脂層22aが剥離される(図14参照)。すなわち、各マスク板12から樹脂層22aが取り外される。これにより、上述した蒸着マスク10Aが得られる。このように、蒸着マスク10Aの製造方法は、複数のマスク板12をマスクフレーム11Aに接合させた後に、各マスク板12から支持体22を剥離することを含んでいる。
【0086】
マスクフレーム11Aの一部にマスク板12の一部を接合する工程では、マスクフレーム11Aが準備される。上述したように、第1例の蒸着マスク10Aが備えるマスクフレーム11Aは、枠状部11Aa、区画要素11Ab、および、複数の開口部11Acを有する。マスクフレーム11Aを形成する際には、金属製の板部材を準備する。板部材は、上述したようにインバー製でもよいし、インバー以外の金属から形成されてもよい。インバー以外の金属は、例えばステンレス鋼であってよい。次いで、板部材に複数の開口部11Acを形成する。開口部11Acの形成は、ウェットエッチングによって行ってもよいし、レーザー光線の照射による断裁によって行ってもよい。
【0087】
マスク板12の一部をマスクフレーム11Aの一部に接合させる工程では、マスク板12の表面12Fがマスクフレーム11Aに接合される。マスクフレーム11Aは、上述したように、鉄‐ニッケル系合金製であることが好ましく、マスクフレーム11Aの厚さは、20μm以上であってもよいし、500μm以上であってもよい。
【0088】
マスク板12をマスクフレーム11Aに接合する方法には、上述したように、レーザー溶接を用いることができる。ガラス基板22bと樹脂層22aとを通じて、マスク板12のうち、接合部10Aaが位置する部分にレーザー光線Lが照射される。そのため、ガラス基板22bおよび樹脂層22aは、レーザー光線Lに対する透過性を有する必要がある。言い換えれば、レーザー光線Lは、ガラス基板22bおよび樹脂層22aを透過することが可能な波長を有する必要がある。開口部11Acの縁に沿って間欠的にレーザー光線Lが照射されることによって、間欠的な接合部10Aaが形成される。一方で、開口部11Acの縁に沿って連続的にレーザー光線Lが照射され続けることによって、連続的な接合部10Aaが形成される。これにより、マスク板12がマスクフレーム11Aに溶着される。
【0089】
上述したように、蒸着マスク10Aの製造方法は、マスク板12から、支持体22を剥離する工程を含んでいる。複数のマスク孔12Hを含むマスク板12は、蒸着マスク10Aを製造する過程においては、支持体22に支持され、かつ、蒸着マスク10Aにおいては、マスクフレーム11Aによって支持されている。そのため、支持体22を用いることなく蒸着マスク10Aが形成される場合と比べて、また、マスク板12が上述した枠状のフレームによって支持される場合と比べて、マスク板12の厚さを薄くすることができる。それゆえに、マスク孔12Hにおける表面開口H1と裏面開口H2との距離を短くすることによって、蒸着マスク10Aを用いて形成されたパターンにおける構造上の精度を向上することができる。また、蒸着マスク10Aの製造方法によれば、ガラス基板22bが有する剛性、および、マスクフレーム11Aが有する剛性によって、マスク板12の取扱性を向上することができる。
【0090】
支持体22を剥離する工程は、第1工程と第2工程とを含んでいる。第1工程では、樹脂層22aとガラス基板22bとの界面に、ガラス基板22bによって透過され、かつ、樹脂層22aによって吸収される波長を有したレーザー光線Lを照射する。これによって、樹脂層22aからガラス基板22bを剥離する。
【0091】
第1工程では、樹脂層22aとガラス基板22bとの界面にレーザー光線Lを照射することによって、レーザー光線Lによる熱エネルギーを樹脂層22aに吸収させる。これにより、樹脂層22aが加熱されることによって、樹脂層22aとガラス基板22bとの間における化学的な結合の強度を低くする。そして、ガラス基板22bを樹脂層22aから剥離させる。第1工程では、接合部10Aaの全体にレーザー光線Lを照射することが好ましいが、接合部10Aaの全体においてガラス基板22bと樹脂層22aとの間における結合の強度を低くすることが可能であれば、接合部10Aaの一部にレーザー光線Lを照射してもよい。
【0092】
レーザー光線Lが有する波長において、ガラス基板22bの透過率が、樹脂層22aの透過率よりも高いことが好ましい。これにより、ガラス基板22bの透過率が樹脂層22aの透過率よりも低い場合と比べて、樹脂層22aのなかで、ガラス基板22bと樹脂層22aとの界面を形成する部分が加熱される効率を高めることができる。
【0093】
レーザー光線Lの有する波長が、例えば308nm以上355nm以下である場合には、この波長域において、ガラス基板22bの透過率が54%以上であり、樹脂層22aの透過率が1%以下であることが好ましい。これにより、ガラス基板22bに照射されたレーザー光線Lの光量における半分以上がガラス基板22bを透過し、かつ、ガラス基板22bを透過したレーザー光線Lのほとんどが樹脂層22aによって吸収される。そのため、樹脂層22aのなかで、ガラス基板22bと樹脂層22aとの界面を形成する部分が加熱される効率をより高めることができる。
【0094】
上述したように、樹脂層22aはポリイミド製であることが好ましい。樹脂層22aは、ポリイミドのなかでも有色のポリイミドによって形成されることが好ましい。ガラス基板22bは透明であることが好ましい。
【0095】
第2工程では、第1工程の後に、薬液LMを用いて樹脂層22aを溶解することによって、マスク板12から樹脂層22aを剥離する。薬液LMには、樹脂層22aを形成する材料を溶解することができる液体であって、かつ、マスク板12を形成する材料に対する反応性を有しない液体を用いることができる。薬液LMには、例えばアルカリ性の溶液を用いることができる。アルカリ性の溶液は、例えば水酸化ナトリウム水溶液であってよい。なお、図14では、樹脂層22aと薬液LMとを接触させる方法としてディップ法を例示しているが、樹脂層22aと薬液LMとを接触させる方法には、スプレー式およびスピン式を用いることも可能である。
【0096】
このように、マスク板12から支持体22を剥離する工程では、第1工程によって樹脂層22aからガラス基板22bを剥離し、かつ、第2工程によってマスク板12から樹脂層22aを剥離する。そのため、ガラス基板22b、樹脂層22a、および、マスク板12の積層体に加えた外力による界面破壊によってマスク板12から支持体22を剥離する場合と比べて、マスク板12に作用する外力を小さくすることができる。これによって、支持体22の剥離に起因して、マスク板12が変形すること、ひいては、マスク板12が有するマスク孔12Hが変形することが抑えられる。
【0097】
なお、金属板21、樹脂層22a、および、ガラス基板22bの線膨張係数が同程度であるとはいえ、上述したように、これらの線膨張係数の間には少なからず差が存在する。この場合において、ガラス基板22bの線膨張係数が金属板21の線膨張係数よりも小さいことが好ましい。これにより、図15および図16を参照して以下に説明する効果を得ることができる。
【0098】
図15および図16を参照して、金属板21の線膨張係数と、ガラス基板22bの線膨張係数との差について説明する。なお、図15および図16では、図示の便宜上、樹脂層22aの図示が省略されている。また、以下に説明する金属板21およびマスク板12のひずみにおいて、基材20に含まれる樹脂層22aの厚さはガラス基板22bの厚さに対して非常に薄いため、当該ひずみに対する樹脂層22aの線膨張係数の影響を無視することができる。
【0099】
図15が示すように、金属板21の線膨張係数がガラス基板22bの線膨張係数よりも大きい場合には、言い換えれば、ガラス基板22bが、金属板21の線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有する場合には、ガラス基板22bに対して金属板21が延びようとする。しかしながら、金属板21は、金属板21よりも剛性が高いガラス基板22bに樹脂層22aによって固定されるため、金属板21の変形はガラス基板22bによって抑えられる。この状態において積層体が冷却されると、金属板21がガラス基板22bに対して縮もうとする。しかしながら、加熱時と同様に、金属板21の変形はガラス基板22bによって抑えられる。そのため、金属板21には、金属板21を縮ませる方向のひずみが内在している。
【0100】
図16が示すように、マスク板12からガラス基板22bが取り外されると、マスク板12がガラス基板22bから解放されるため、マスク板12の変形が可能になる。上述したように、金属板21には、金属板21を縮ませる方向のひずみが内在していることから、金属板21のエッチングによって形成されたマスク板12にも、マスク板12を縮ませる方向のひずみが内在している。これによって、マスク板12は、金属板21の線膨張係数とガラス基板22bの線膨張係数の差の分だけ、マスク板12が縮む方向に変形する。
【0101】
マスクフレーム11Aの厚さが500μm以上であり、かつ、線膨張係数の差が0.7×10−6/℃以下であれば、マスク板12の変形は、マスクフレーム11Aに接合されたマスク板12の撓みを抑えつつ、マスク孔12Hの位置精度が維持される程度に抑えられる。また、マスクフレーム11Bの厚さが20μm以上であり、かつ、線膨張係数の差が0.4×10−6/℃以下であれば、マスク板12の変形は、マスクフレーム11Bに接合されたマスク板12の撓みを抑えつつ、マスク孔12Hの位置精度が維持される程度に抑えられる。
【0102】
なお、金属板21の線膨張係数がガラス基板22bの線膨張係数よりも小さい場合には、積層体が加熱された場合に、ガラス基板22bに対して金属板21が縮もうとする応力が金属板21の内部に蓄積される。この状態において積層体が冷却されると、ガラス基板22bの収縮量が金属板21の収縮量よりも大きいため、金属板21には、金属板21を延ばす方向のひずみが内在する。こうした金属板21から形成されたマスク板12がマスクフレーム11A,11Bに接合された後に、マスク板12からガラス基板22bが剥離されると、マスク板12のひずみが解放されることによって、マスク板12が延びる方向に変形する。
【0103】
この場合であっても、マスクフレーム11Aの厚さが500μm以上であり、かつ、線膨張係数の差が上述した0.7×10−6/℃以下であれば、マスク板12の変形は、マスクフレーム11Aに接合されたマスク板12の撓みを抑えつつ、マスク孔12Hの位置精度が維持される程度に抑えられる。また、マスクフレーム11Bの厚さが20μm以上であり、線膨張係数の差が0.4×10−6/℃以下であれば、マスク板12の変形は、マスクフレーム11Bに接合されたマスク板12の撓みを抑えつつ、マスク孔12Hの位置精度が維持される程度に抑えられる。
【0104】
[表示装置の製造方法]
図17を参照して、表示装置の製造方法を説明する。
表示装置の製造方法は、蒸着マスク10A,10Bの製造方法によって製造された蒸着マスク10A,10Bを用いて蒸着対象Sにパターンを形成することを含んでいる。以下、図面を参照して、蒸着装置の一例とともに、パターンを形成する工程を説明する。
【0105】
図17が示すように、蒸着装置30は、蒸着マスク10A,10Bと、蒸着対象Sとを収容する収容槽31を備えている。収容槽31は、蒸着対象Sと蒸着マスク10A,10Bとを収容槽31内における所定の位置に保持するように構成されている。収容槽31内には、蒸着材料Mvdを保持する保持部32と、蒸着材料Mvdを加熱する加熱部33とが位置している。保持部32に保持される蒸着材料Mvdは、例えば有機発光材料である。収容槽31は、蒸着対象Sと保持部32との間に蒸着マスク10A,10Bが位置し、かつ、蒸着マスク10A,10Bと保持部32とが対向するように、蒸着対象Sと蒸着マスク10A,10Bとを収容槽31内に位置させる。蒸着マスク10A,10Bは、マスク板12の裏面12Rが蒸着対象Sに密着した状態で、収容槽31内に配置される。
【0106】
パターンを形成する工程では、蒸着材料Mvdが加熱部33によって加熱されることにより、蒸着材料Mvdが気化または昇華する。気化または昇華した蒸着材料Mvdは、蒸着マスク10A,10Bのマスク板12が備えるマスク孔12Hを通過して蒸着対象Sに付着する。これにより、蒸着マスク10A,10Bが有するマスク孔12Hの形状および位置に対応した形状を有する有機層が、蒸着対象Sに形成される。なお、蒸着材料Mvdは、表示層の画素回路が備える画素電極を形成するための金属材料などであってもよい。
【0107】
[試験例]
図18を参照して試験例を説明する。
[試験例1]
40μmの厚さを有し、一辺の長さが152.4mmである正方形状を有し、25℃以上100℃以下の温度範囲における線膨張係数が1.2×10−6/℃であるインバー製の金属板を準備した。また、1.9mmの厚さを有し、一辺の長さが152.4mmである正方形状を有し、25℃以上100℃以下の温度範囲における線膨張係数が0.8×10−6/℃である高ケイ酸ガラス製のガラス基板(コーニング社製、VYCOR7913)を準備した。まず、酸性エッチング液を用いて金属板における一方の面の全体をエッチングした。これにより、金属板の厚さを17.5μmだけ薄くした。そして、金属板におけるエッチング後の面である対象面、および、ガラス基板の対象面のそれぞれに、CB処理を施すことによって、各対象面にSi系化合物を付加した。また、7.5μmの厚さを有し、一辺の長さが152.4mmである正方形状を有したポリイミド層(東レ・デュポン(株)製、カプトン30EN(カプトンは登録商標))を準備した。
【0108】
ポリイミド層に対してCB処理を施した対象面が接するように、金属板とガラス基板とによってポリイミド層を挟んだ。次いで、金属板、ポリイミド層、および、ガラス基板を積層した状態でこれらを熱圧着した。熱圧着時には、加圧力を4MPaに設定し、温度を250℃に設定し、加圧時間を10分に設定した。
【0109】
そして、酸性エッチング液を用いて、金属板におけるポリイミド層に接着された面とは反対側の面をエッチングした。これにより、金属板の厚さを17.5μmだけ薄くすることによって、金属板の厚さを5μmまで薄くした。次いで、金属板の表面にレジストマスクを形成した後に、酸性エッチング液を用いて金属板に複数のマスク孔を形成した。これにより、金属板の表面と対向する視点から見て、一辺が20μmであり、正方形状を有したマスク孔を、40μmのピッチで形成した。なお、金属板のなかで、幅が80mmであり、長さが130mmであるマスク領域に複数のマスク孔を形成する一方で、マスク領域を取り囲む周辺領域には、マスク孔を形成しなかった。以下では、幅方向をX方向とも称し、長さ方向をY方向とも称する。X方向における各端部に位置するマスク孔の中心間の距離を80mmに設定し、Y方向における各端部に位置するマスク孔の中心間の距離を130mmに設定した。また、金属板の中心とマスク領域の中心とが一致し、かつ、金属板の各辺とマスク領域における1つの辺とが平行であるように、金属板にマスク領域を設定した。
【0110】
また、フレームに対する金属板の位置決めを行うためのアライメントマークとして貫通孔を形成した。この際に、X方向における長さが90mmであり、かつ、Y方向における長さが140mmである長方形の基準領域を設定した。なお、基準領域の中心が、マスク領域の中心に一致するように基準領域を設定した。そして、基準領域よりも外側に50μmの直径を有する貫通孔を4つ形成した。各貫通孔を、基準領域の四隅に対して、X方向において50μm外側、かつ、Y方向において50μmm外側である位置に、それぞれ形成した。
【0111】
一方で、20μmの厚さを有し、幅が100mmであり、長さが180mmである長方形状を有したインバー製の金属板をフレーム用の金属板として準備した。次いで、金属板をウェットエッチングすることによって、幅が90mmであり、長さが140mmである開口部を金属板に形成した。これにより、20μmの厚さを有したフレームを得た。なお、金属板に開口部を形成する際に、30μmの直径を有するアライメントマークをハーフエッチングによって4つ形成した。各アライメントマークを、開口部の四隅に対して、X方向において50μm外側、かつ、Y方向において50μm外側である位置にそれぞれ形成した。
【0112】
次いで、金属板が有するアライメントマークと、フレームが有するアライメントマークとを位置合わせした。これにより、金属板の基準領域がフレームの開口部と重なるように、フレームに対して金属板を位置合わせした。そして、レーザー溶接を用いて、マスク板をフレームに接合した。この際に、マスク板の周方向における全体を0.5mmのピッチで間欠的にフレームに接合した。また、レーザー溶接では、1070nm以上1100nm以下の波長を有する光線を射出するファイバーレーザーを用いた。その後、355nmの波長を有したレーザー光線を、ガラス基板と樹脂層とに照射した。この際に、ガラス基板の厚さ方向から見て、ガラス基板の縁の全体にレーザー光線を照射した。その後、ガラス基板をポリイミド層から剥離した。そして、フレームとマスク板との接合体を水酸化ナトリウム溶液に漬けることによって、マスク板から樹脂層を取り除いた。これにより、試験例1の蒸着マスクを得た。
【0113】
[試験例2]
試験例1において、ガラス基板を、2.3mmの厚さを有し、一辺の長さが152.4mmである正方形状を有し、25℃以上100℃以下の温度範囲における線膨張係数が0.5×10−6/℃である石英ガラス製のガラス基板(信越化学工業(株)製、合成石英SMS6009E5)に変更した。また、試験例1において、フレームの厚さを100μmに変更した。これら以外は、試験例1と同様の方法によって、試験例2の蒸着マスクを得た。
【0114】
[試験例3]
試験例2において、ガラス基板を、1.1mmの厚さを有し、一辺の長さが152.4mmである正方形状を有し、25℃以上100℃以下の温度範囲における線膨張係数が−0.1×10−6/℃である結晶化ガラス製のガラス基板(日本電気硝子(株)製、ネオセラムN−0)(ネオセラムは登録商標)に変更した。これ以外は、試験例2と同様の方法によって、試験例3の蒸着マスクを得た。
【0115】
[試験例4]
試験例3において、ガラス基板を25℃以上100℃以下の温度範囲における線膨張係数が3.5×10−6/℃である無アルカリガラス製のガラス基板(日本電気硝子(株)製、OA−10G)に変更した以外は、試験例3と同様の方法によって、試験例4の蒸着マスクを得た。
【0116】
[試験例5]
試験例3において、ガラス基板を25℃以上100℃以下の温度範囲における線膨張係数が−0.1×10−6/℃である結晶化ガラス製のガラス基板(日本電気硝子(株)製、ネオセラムN−0)に変更した。また、試験例3において、金属板を25℃以上100℃以下の温度範囲における線膨張係数が4.3×10−6/℃であり、42質量%のニッケルを含む鉄ニッケル合金である42アロイ製の基材に変更した。これら以外は、試験例3と同様の方法によって、試験例5の蒸着マスクを得た。
【0117】
[試験例6]
試験例1において、フレームの厚さを100μmに変更した以外は、試験例1と同様の方法によって、試験例6の蒸着マスクを得た。
【0118】
[試験例7]
試験例2において、フレームの厚さを500μmに変更した以外は、試験例2と同様の方法によって、試験例7の蒸着マスクを得た。
【0119】
[試験例8]
試験例1において、フレームの厚さを500μmに変更した以外は、試験例1と同様の方法によって、試験例8の蒸着マスクを得た。
【0120】
[試験例9]
試験例2において、フレームの厚さを1500μmに変更した以外は、試験例2と同様の方法によって、試験例9の蒸着マスクを得た。
【0121】
[試験例10]
試験例3において、フレームの厚さを1500μmに変更した以外は、試験例3と同様の方法によって、試験例10の蒸着マスクを得た。
【0122】
[試験例11]
試験例4において、フレームの厚さを1500μmに変更した以外は、試験例4と同様の方法によって、試験例11の蒸着マスクを得た。
【0123】
[試験例12]
試験例5において、フレームの厚さを1500μmに変更した以外は、試験例5と同様の方法によって、試験例12の蒸着マスクを得た。
【0124】
[試験例13]
試験例1において、フレームの厚さを1500μmに変更した以外は、試験例1と同様の方法によって、試験例13の蒸着マスクを得た。
【0125】
[評価方法]
各試験例の蒸着マスクを目視により観察した。各蒸着マスクが備えるマスク板に撓みが生じていない場合を「○」に設定し、撓みが生じている場合を「×」に設定した。
【0126】
図18が示すように、測定装置((株)ニコン製、CNC画像測定システム VMR‐6555)を用いて、各マスク領域における第1短辺の第1幅X1、第2短辺の第2幅X2、第1長辺の第1長さY1、および、第2長辺の第2長さY2を測定した。なお、第1幅X1および第2幅X2の各々を、第1短辺および第2短辺の各々が延びる方向において、各端部に位置するマスク孔の中心間の距離に設定した。また、第1長さY1および第2長さY2の各々を、第1長辺および第2長辺の各々が延びる方向において、各端部に位置するマスク孔の中心間の距離に設定した。さらに、第1短辺の中心と第2短辺の中心との間の距離Yc、および、第1長辺の中心と第2長辺の中心との間の距離Xcを測定した。
【0127】
そして、以下の式を用いて、X方向での設計値に対するずれ量ΔX、Y方向での設計値に対するずれ量ΔY、X方向の中央での設計値に対するずれ量ΔXc、および、Y方向の中央での設計値に対するずれ量ΔYcを算出した。4つの値の全てにおいて絶対値が5μm以下である場合を「○」に設定し、少なくとも1つの値の絶対値が5μmよりも大きい場合を「×」に設定した。
【0128】
ΔX={(X1−80000)+(X2−80000)}/2
(単位:μm)
ΔY={(Y1−80000)+(Y2−80000)}/2
(単位:μm)
ΔXc=Xc−80000 (単位:μm)
ΔYc=Yc−130000 (単位:μm)
【0129】
各値を算出した結果は、以下の表1に示す通りであった。なお、各ずれ量ΔX,ΔY,ΔXc,ΔYcにおいて、負の値は、測定値が設計値よりも小さいことを示し、正の値は、測定値が設計値よりも大きいことを示している。
【0130】
【表1】
【0131】
表1が示すように、試験例1では、目視においてマスク板に撓みが生じていないことが認められた。また、試験例1では、各ずれ量ΔX,ΔY,ΔXc,ΔYcにおける絶対値の全てが5μm以下であることが認められた。
【0132】
試験例2から試験例5では、ガラス基板の線膨張係数と金属板の線膨張係数との差に関わらず、目視においてマスク板に撓みが生じていることが認められた。また、試験例2から試験例5では、各ずれ量ΔX,ΔY,ΔXc,ΔYcの絶対値における少なくとも1つが5μmよりも大きいことが認められた。試験例2から試験例5における測定結果から明らかなように、ガラス基板の線膨張係数と金属板の線膨張係数との差が大きい程、各ずれ量ΔX,ΔY,ΔXc,ΔYcも大きくなる。これに対して、試験例6では、目視においてマスク板に撓みが生じていないことが認められた。また、試験例6では、各ずれ量ΔX,ΔY,ΔXc,ΔYcにおける絶対値の全てが5μm以下であることが認められた。
【0133】
また、試験例7および試験例8では、目視においてマスク板に撓みが生じていないことが認められた。また、試験例7および試験例8では、各ずれ量ΔX,ΔY,ΔXc,ΔYcにおける絶対値の全てが5μm以下であることが認められた。
【0134】
試験例9、試験例10、および、試験例13では、目視においてマスク板に撓みが生じていないことが認められた。また、試験例9、試験例10、および、試験例13では、各ずれ量ΔX,ΔY,ΔXc,ΔYcにおける絶対値の全てが5μm以下であることが認められた。これに対して、試験例11および試験例12では、目視においてマスク板に撓みが生じていることが認められた。また、試験例11および試験例12では、各ずれ量ΔX,ΔY,ΔXc,ΔYcの絶対値の全てが5μmよりも大きいことが認められた。
【0135】
こうした結果から、フレームの厚さが20μmである場合には、ガラス基板の線膨張係数と金属板の線膨張係数との差の絶対値が、0.4×10−6/℃以下であることによって、マスク板の撓み、および、マスク孔の位置ずれが抑えられることが認められた。また、フレームの厚さが500μmである場合には、ガラス基板の線膨張係数と金属板の線膨張係数との差の絶対値が0.7×10−6/℃以下であることによって、マスク板の撓み、および、マスク孔の位置ずれが抑えられることが認められた。また、フレームの厚さが1500μmである場合には、ガラス基板の線膨張係数と金属板の線膨張係数との差の絶対値が1.3×10−6/℃以下であることによって、マスク板の撓み、および、マスク孔の位置ずれが抑えられることが認められた。
【0136】
なお、四角枠状のフレームを備える蒸着マスクでは、フレームの厚さ、および、ガラス基板の線膨張係数と金属板の線膨張係数との差が本試験例の蒸着マスクと同一である場合に、各試験例における評価結果を下回る傾向を有することが認められている。
【0137】
以上説明したように、蒸着マスクの製造方法、表示装置の製造方法、および、蒸着マスク中間体の一実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)マスク板12が、蒸着マスク10A,10Bの製造時にはガラス基板22bに支持され、蒸着マスク10A,10Bにおいてはマスクフレーム11A,11Bによって支持されるため、マスク板12の取扱性を向上することができる。
【0138】
(2)マスクフレーム11Aが格子状の区画要素11Abを有するため、フレームが四角枠状を有する場合と比べて、マスクフレーム11Aそのものの剛性が高められる。そして、剛性が高められたマスクフレーム11Aの各開口部11Acの周りにマスク板12が1つずつ直接接合されるため、各マスク板12を支持する構造体が、短冊状を有したマスク板の幅方向において、一次元方向に延びる直線状を有する場合と比べて、マスク板12の撓みが抑えられる。結果として、蒸着対象Sに形成されるパターンの位置精度が高められる。
【0139】
(3)マスクフレーム11Aが500μm以上の厚さを有する場合には、ガラス基板22bの線膨張係数と金属板21の線膨張係数との差の絶対値が0.7×10−6/℃以下であることによって、蒸着対象Sに対するパターンの位置精度が高められる。
【0140】
(4)マスクフレーム11Bが20μm以上の厚さを有する場合には、ガラス基板22bの線膨張係数と金属板21の線膨張係数との差の絶対値が0.4×10−6/℃以下であることによって、蒸着対象Sに形成されるパターンの位置精度が高められる。
【0141】
(5)ガラス基板22bの線膨張係数が金属板21の線膨張係数よりも小さいことによって、マスクフレーム11A,11Bに対するマスク板12の位置が変わることがマスクフレーム11A,11Bによって抑えられ、かつ、マスク板12の撓みが抑えられる。
【0142】
なお、上述した実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
[蒸着マスクの第1例]
・蒸着マスク10Aの第1例において、蒸着マスク10Aは、蒸着マスク10Aを支持する支持フレームに取り付けられてもよい。この場合には、蒸着マスク10Aは、支持フレームに取り付けられた状態で、蒸着装置に搭載される。
【0143】
[蒸着マスクの製造方法]
・蒸着マスク10Aが備えるマスクフレーム11Aの厚さは、500μmよりも薄くてもよい。この場合であっても、マスクフレーム11Aが、枠状部11Aaが囲む領域内に格子状の区画要素11Abを備える構造であれば、上述した(2)に準じた効果を得ることはできる。また、マスクフレーム11Aの厚さが20μm以上であり、かつ、ガラス基板22bの線膨張係数と金属板21の線膨張係数の差の絶対値が0.4×10−6/℃以下であれば、上述した(4)に準じた効果を得ることはできる。
【0144】
・蒸着マスク10Bが備えるマスクフレーム11Bの厚さは、マスク板12の剛性よりも高い剛性を有していれば、20μmよりも薄くてもよい。また、マスクフレーム11Bの厚さは、500μm以上であってもよく、この場合には、ガラス基板22bの線膨張係数と金属板21の線膨張係数の差の絶対値が0.7×10−6/℃以下であることによって、上述した(3)に準じた効果を得ることはできる。
【符号の説明】
【0145】
10A,10B…蒸着マスク
10Aa…接合部
11A,11B…マスクフレーム
11Aa…枠状部
11Ab…区画要素
11Ac,11Bc…開口部
11AF,11BF,12F,21F…表面
11AR,11BR,12R,21R…裏面
12…マスク板
12a…マスク領域
12b…周辺領域
12H…マスク孔
20…基材
21…金属板
22…支持体
22a…樹脂層
22b…ガラス基板
H1…表面開口
H2…裏面開口
S…蒸着対象
【要約】
25℃以上100℃以下の温度範囲において、ガラス基板の線膨張係数と、金属板の線膨張係数との差の絶対値が、1.3×10−6/℃以下である金属板およびガラス基板を準備すること、樹脂層を介して金属板にガラス基板を接合すること、ガラス基板に接合された金属板に複数のマスク孔を形成することによって、金属板からマスク板を形成すること、マスク板のなかで樹脂層に接する面とは反対側の面を、マスク板よりも高い剛性を有し、かつ、複数のマスク孔の全体を囲む形状を有するマスクフレームに接合すること、および、マスクフレームに接合されたマスク板から、樹脂層およびガラス基板を取り外すことを含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18