(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
6−エチル−3−{3−メトキシ−4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]アニリノ}−5−[(オキサン−4−イル)アミノ]ピラジン−2−カルボキサミド又はその製薬学的に許容される塩、スクラロース、並びに2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類を含有する医薬組成物であって、前記2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類のうちの1種がマンニトールであり、前記2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類のうちの1種がイソマル水和物、マルチトール、ソルビトール、スクロース、及びトレハロースからなる群より選択される、医薬組成物。
6−エチル−3−{3−メトキシ−4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]アニリノ}−5−[(オキサン−4−イル)アミノ]ピラジン−2−カルボキサミド又はその製薬学的に許容される塩、並びに2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類を含有する医薬組成物の製造方法であって、
(1)少なくとも1種のイソマル水和物、マルチトール、ソルビトール、スクロース、及びトレハロースからなる群より選択される糖類及び/又は糖アルコール類を溶媒に分散又は溶解させることで結合液を製造する工程、
(2)6−エチル−3−{3−メトキシ−4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]アニリノ}−5−[(オキサン−4−イル)アミノ]ピラジン−2−カルボキサミド又はその製薬学的に許容される塩、スクラロース、及びマンニトールを混合し、混合物を得る工程、並びに
(3)工程(1)で得られた結合液を、工程(2)で得られた混合物に噴霧又は添加して造粒する工程からなる、製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩及び苦みを低減させる甘味剤及び結合能を付与するための添加剤を含有し、溶出安定性に優れた医薬組成物を提供することにある。詳細には、本発明の課題は、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩、苦みを低減させる甘味剤、及び結合能を付与するための添加剤を含有し、経時的な熱及び/又は湿度等のストレスによる、ギルテリチニブの溶出安定性の低下を抑制する、溶出安定性に優れた医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物を少量の水で懸濁させた際に認められる苦みを低減させるべく、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩の苦みを低減させる医薬品添加物について鋭意検討を行った結果、特定の苦みを低減させる甘味剤を知見した。加えて、本発明者はギルテリチニブの溶出安定性に着目して鋭意検討を行った結果、特定の結合能を付与するための添加剤を用いることで、溶出安定性に優れたギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物を提供することができること等を知見して、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
[1] 6−エチル−3−{3−メトキシ−4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]アニリノ}−5−[(オキサン−4−イル)アミノ]ピラジン−2−カルボキサミド又はその製薬学的に許容される塩、甘味剤、並びに2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類を含有する、医薬組成物、
[2] 甘味剤がサッカリン、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、及びスクラロース、並びにそれらの混合物からなる群より選択される1種又は2種以上である、[1]の医薬組成物、
[3] 甘味剤がスクラロースである、[1]又は[2]の医薬組成物、
[4]糖類が二糖類であり、糖アルコール類が6又は12個の炭素原子を有する、[1]〜[3]のいずれかの医薬組成物、
[5] 2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類がマンニトール、イソマル水和物、マルチトール、ソルビトール、乳糖、スクロース、及びトレハロース、並びにそれらの混合物からなる群より選択される、[1]〜[4]のいずれかの医薬組成物、
[6] 2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類のうちの1種がマンニトールである、[1]〜[5]のいずれかの医薬組成物、
[7] 2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類のうちの1種がイソマル水和物、マルチトール、ソルビトール、スクロース、及びトレハロースからなる群より選択される、[1]〜[5]のいずれかの医薬組成物、
[8] 2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類のうちの1種がイソマル水和物である、[1]〜[5]のいずれかの医薬組成物、
[9] [7]又は[8]のイソマル水和物、マルチトール、ソルビトール、スクロース、又はトレハロースの配合量が医薬組成物の重量に対して、1〜20重量%である、[7]又は[8]の医薬組成物、
[10] [7]又は[8]のイソマル水和物、マルチトール、ソルビトール、スクロース、又はトレハロースが結合剤として使用される、[7]又は[8]の医薬組成物、
[11] その製薬学的に許容される塩がヘミフマル酸塩である、[1]〜[10]のいずれかの医薬組成物、
[12] 医薬組成物が固形状である、[1]〜[11]のいずれかの医薬組成物、
[13] さらに崩壊剤を含有する、[1]〜[12]のいずれかの医薬組成物、
[14] 医薬組成物が錠剤である、[12]又は[13]の医薬組成物、
[15] [1]〜[14]のいずれかの医薬組成物を40℃相対湿度75%で1箇月間保管後、第十七改正日本薬局方溶出試験法0.1mol/L塩酸900mLのパドル法で、溶出試験開始から15分後に6−エチル−3−{3−メトキシ−4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]アニリノ}−5−[(オキサン−4−イル)アミノ]ピラジン−2−カルボキサミドが85%以上溶出する、又は[1]〜[14]のいずれかの医薬組成物を40℃相対湿度75%で2箇月間及び/又は3箇月間保管後、第十七改正日本薬局方溶出試験法0.1mol/L塩酸900mLのパドル法で、溶出試験開始から15分後に6−エチル−3−{3−メトキシ−4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]アニリノ}−5−[(オキサン−4−イル)アミノ]ピラジン−2−カルボキサミドが80%以上溶出する、[1]〜[14]のいずれかの医薬組成物、
[16] 医薬組成物が適切な溶媒に溶解又は分散され、溶液、懸濁液、ペースト状、又はゲル状である、[1]〜[15]のいずれかの医薬組成物、
[17] 6−エチル−3−{3−メトキシ−4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]アニリノ}−5−[(オキサン−4−イル)アミノ]ピラジン−2−カルボキサミドヘミフマル酸塩、マンニトール、スクラロース、及びイソマル水和物を含有する、医薬組成物、
[18] (1)少なくとも1種の糖類及び/又は糖アルコール類を溶媒に分散又は溶解させることで結合液を製造する工程、
(2)6−エチル−3−{3−メトキシ−4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]アニリノ}−5−[(オキサン−4−イル)アミノ]ピラジン−2−カルボキサミド又はその製薬学的に許容される塩、甘味剤、並びに少なくとも1種の糖類及び/又は糖アルコール類を混合し、混合物を得る工程、並びに
(3)工程(1)で得られた結合液を、工程(2)で得られた混合物に噴霧又は添加して造粒する工程からなる製造方法によって製した、[1]〜[17]のいずれかの医薬組成物、
[19] 6−エチル−3−{3−メトキシ−4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]アニリノ}−5−[(オキサン−4−イル)アミノ]ピラジン−2−カルボキサミド又はその製薬学的に許容される塩、並びに2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類を含有する医薬組成物の製造方法であって、
(1)少なくとも1種の糖類及び/又は糖アルコール類を溶媒に分散又は溶解させることで結合液を製造する工程、
(2)6−エチル−3−{3−メトキシ−4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]アニリノ}−5−[(オキサン−4−イル)アミノ]ピラジン−2−カルボキサミド又はその製薬学的に許容される塩、甘味剤、並びに少なくとも1種の糖類及び/又は糖アルコール類を混合し、混合物を得る工程、並びに
(3)工程(1)で得られた結合液を、工程(2)で得られた混合物に噴霧又は添加して造粒する工程からなる、製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩、苦みを低減させる甘味剤、並びに2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類を含有する溶出安定性に優れた医薬組成物、詳細には、熱及び/又は湿度等のストレスによる、ギルテリチニブの溶出性の低下を抑制する、溶出安定性に優れた医薬組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩、苦みを低減させる甘味剤、並びに2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類を含有する医薬組成物を適切な溶媒に溶解又は分散させ、溶液、懸濁液、ペースト状、又はゲル状の液体の医薬組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、少なくとも1種の糖類及び/又は糖アルコール類を溶媒に分散又は溶解させることで結合液を製造する工程、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩、苦みを低減させる甘味剤、並びに少なくとも1種の糖類及び/又は糖アルコール類を混合し、混合物を得る工程、並びに前工程で得られた結合液を、前工程で得られた混合物に噴霧又は添加して造粒する工程からなる製造方法により、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩、苦みを低減させる甘味剤、並びに2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類を含有する医薬組成物、詳細には、熱及び/又は湿度等のストレスによる、ギルテリチニブの溶出性の低下を抑制する、溶出安定性に優れた医薬組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩、マンニトール、スクラロース、並びにイソマル水和物を含有する、医薬組成物、詳細には、熱及び/又は湿度等のストレスによる、ギルテリチニブの溶出性の低下を抑制する、溶出安定性に優れた医薬組成物を提供することができる。
さらに、本発明によれば、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩、甘味剤、並びに2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類を含有する医薬組成物の製造方法、詳細には、少なくとも1種の糖類及び/又は糖アルコール類を溶媒に分散又は溶解させることで結合液を製造する工程、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩、苦みを低減させる甘味剤、並びに少なくとも1種の糖類及び/又は糖アルコール類を混合し、混合物を得る工程、並びに前工程で得られた結合液を、前工程で得られた混合物に噴霧又は添加して造粒する工程からなる製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩、甘味剤、並びに2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類を含有する、医薬組成物に関する。また、本発明は、ギルテリチニブヘミフマル酸塩、マンニトール、スクラロース、及びイソマル水和物を含有する、医薬組成物に関する。
【0014】
本発明において、「甘味剤」とは、医薬組成物に甘みをつけるための添加剤である。また、甘味剤としては、例えば、サッカリン若しくはサッカリンナトリウム、グリチルリチン酸、アスパルテーム、ステビア、ソーマチン、アセスルファムカリウム、シクラミン酸ナトリウム、アドバンテーム、ステビオール配糖体、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン、ネオテーム、タウマチンその他の甘いタンパク質、オスラジン若しくはギシルリジン等のサポニン、及びスクラロース又はそれらの混合物等を挙げることができる。また、本明細書において、「苦みを低減させる」とは、本来強い苦みを持つ物質であるギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩を服用できる程度に苦みを抑えることを意味する。ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩を少量の水等で懸濁等させた際に認められる苦みを低減させるために好ましい甘味剤は、サッカリン、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、スクラロース又はそれらの混合物であり、より好ましくはアスパルテーム又はスクラロースであり、更に好ましくはスクラロースである。
【0015】
本発明において、「サッカリン」とは、別名o−スルホベンズイミド−o−安息香酸スルフィミド−2−スルホ安息香酸イミドであり、通常は水溶性のナトリウム塩(サッカリン酸ナトリウム)として用いられる甘味剤である。
また、本発明において、「アセスルファムカリウム」とは、人工の甘味料である。
また、本発明において、「アスパルテーム」とは、L−フェニルアラニンとメタノールとが脱水縮合してエステルを形成したフェニルアラニンメチルエステルのアミノ基と、L−アスパラギン酸のカルボキシ基とが脱水縮合してペプチド結合を形成した構造をしている甘味剤である。
また、本発明において、「スクラロース」とは、4,1’,6’−トリクロロガラクトスクロースの登録商標名であり、化学名は1,6−dichloro−1,6−dideoxy−β−D−fructofuranosyl−4−chloro−4−deoxy−α−D−garactopyranosideであり、ショ糖の3つの水酸基を選択的に塩素原子に置換して得られた甘味剤である。
【0016】
ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩を少量の水等の溶媒で懸濁等させた際に認められる苦みを低減させるために必要な甘味剤の割合は、例えば、一般的に味覚センサーと呼ばれる機器を用いるin vitroな方法、又は試験パネルを用いた官能試験等のin vivoの方法で決定することができる。官能試験の評価方法としては、例えば、化合物Aを10mg/mLの濃度で溶解した液若しくは化合物A又はその製薬学的に許容される塩に類似する苦みを有する物質に、適量の甘味剤を含有した試験液を口に含んだ後すぐに吐き出し、吐き出した直後〜30分後の苦みをスコアリングする方法を挙げることができるがこれに制限されない。甘味剤の種類により、適切な甘味剤の配合割合は異なるが、医薬組成物の重量に対し、典型的には0.001〜70.0重量%、好ましくは0.01〜60.0重量%、より好ましくは0.1〜50.0重量%、更に好ましくは1.0〜40.0重量%、更に好ましくは5.0〜35.0重量%、更に好ましくは5.5〜33.3重量%、更に好ましくは10.0〜30.0重量%、更に好ましくは15.0〜30.0重量%、更に好ましくは20.0〜25.0重量%である。なお、前記の上限と下限は、所望により、0.001〜40.0重量%等、任意に組み合わせることができる。
【0017】
本発明の医薬組成物は2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類を含有する。従って、医薬組成物は、少なくとも2種の糖類、少なくとも1種の糖類及び少なくとも1種の糖アルコール類、又は少なくとも2種の糖アルコール類を含有しうる。
「糖類」には、例えば、グルコース、ガラクトース等の単糖、及びスクロース、乳糖、トレハロース、マルトース等の二糖が含まれるがこれに制限されない。好ましくは2糖類である。
また、「糖アルコール」は、アルドースやケトースのカルボニル基が還元されて生成する糖の一種である。糖の水素化によって生成され、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、イノシトール、マルチトール、ラクチトール等の一般式HOCH
2(CHOH)
nCH
2OHを持つ化合物の混合物である。なお、nが4又は10、即ち6又は12個の炭素原子を有するものは、例えば、マンニトール、イソマル水和物、マルチトール、及びソルビトール糖を挙げることができるがこれに制限されない。
【0018】
本発明に用いられる「糖類及び/又は糖アルコール類」において、糖類としては、好ましくは乳糖、スクロース、トレハロース、マルトース、ラクトース、グルコース、フルクトース、より好ましくは乳糖、スクロース又はトレハロースから選択されうる。糖アルコール類としては、好ましくはマンニトール、イソマル水和物、マルチトール、ソルビトール、キシリトール、ラクチトール、エリスリトール、より好ましくはマンニトール、イソマル水和物、マルチトール、又はソルビトール、更に好ましくはマンニトール又はイソマル水和物から選択されうる。糖類及び/又は糖アルコール類としては、好ましくは乳糖、マンニトール、イソマル水和物、マルチトール、ソルビトール、スクロース、又はトレハロース、より好ましくはマンニトール、イソマル水和物、マルチトール又はソルビトール、更に好ましくはマンニトール、イソマル水和物又はソルビトール、更に好ましくはマンニトール又はイソマル水和物から選択されうる。
より好ましい態様として、本発明の医薬組成物に含有する2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類のうち1種はマンニトールであり、例えば、賦形剤として用いられる。本発明の医薬組成物に含有する2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類のうち1種がマンニトールである医薬組成物において、その他少なくとも1種の糖類及び/又は糖アルコール類のうち1種の糖類及び/又は糖アルコール類は、例えば、結合能を付与するための添加剤として用いられる。好ましくはイソマル水和物、マルチトール、ソルビトール、スクロース、又はトレハロース、より好ましくはイソマル水和物、マルチトール又はソルビトール、更に好ましくはイソマル水和物又はソルビトールから選択されうる。
さらに好ましい態様として、本発明の医薬組成物に含有する2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類はマンニトール及びイソマル水和物である。
なお、イソマル水和物とは6−0−α−D−グルコピラノシル−D−ソルビトール及び1−0−α−D−グルコピラノシル−D−マンニトールの混合物のことであるが、水和形態に限定されない。
【0019】
本発明の医薬組成物に含有する2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類の配合割合としては、医薬組成物の重量に対して、典型的には1〜90重量%であり、好ましくは5〜70重量%であり、より好ましくは10〜60重量%であり、更に好ましくは15〜50重量%であり、更に好ましくは25〜45重量%であり、更に好ましくは30〜45重量%であり、更に好ましくは35〜42重量%であり、更に好ましくは36〜42重量%である。
本発明の医薬組成物に含有する2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類のうち1種がマンニトールである医薬組成物において、その他少なくとも1種の糖類及び/又は糖アルコール類のうち1種の糖類及び/又は糖アルコール類の配合割合としては、医薬組成物の重量に対して、典型的には1〜20重量%であり、好ましくは3〜15重量%であり、より好ましくは5〜15重量%であり、更に好ましくは7〜12%であり、更に好ましくは9〜11重量%である。なお、マンニトールを含有する本発明による医薬組成物において、マンニトールの配合割合としては、医薬組成物の重量に対して、典型的には1〜40重量%であり、好ましくは10〜40重量%であり、より好ましくは20〜40重量%であり、更に好ましくは25〜35重量%であり、更に好ましくは27〜33重量%である。
なお、前記の上限と下限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0020】
本明細書において「溶出安定性」とは、熱及び/又は湿度に一定期間の曝露後の、ギルテリチニブの溶出性を意味する。また、本明細書において「溶出安定性に優れた」又は「経時的な溶出安定性の低下を抑制」とは、典型的には、医薬組成物(例えば、剤形として錠剤)を70℃で9日間、好ましくは40℃相対湿度75%(以下、相対湿度X%をX%RHと略記することもある)で1箇月間、2箇月間、3箇月間、又は6箇月間保存後、前記医薬組成物を第十七改正日本薬局方溶出試験法のパドル法において、0.1mol/L塩酸900mLを用いてパドル回転数50回転/分の条件で溶出試験を実施したときの試験開始15分後又は30分後のギルテリチニブの溶出率が高いことである。該溶出試験を実施したときの試験開始15分後のギルテリチニブの溶出率が高いとは、典型的には80%以上、好ましくは85%以上である。別の態様としては、該溶出試験を実施したときの試験開始30分後のギルテリチニブの溶出率は、典型的には90%以上であることを意味する。別の態様としては、医薬組成物を40℃相対湿度75%で1箇月間保管後、第十七改正日本薬局方溶出試験法0.1mol/L塩酸900mLのパドル法で、溶出試験開始から15分後にギルテリチニブが85%以上溶出する、又は、医薬組成物を40℃相対湿度75%で2箇月間及び/又は3箇月間保管後、第十七改正日本薬局方溶出試験法0.1mol/L塩酸900mLのパドル法で、溶出試験開始から15分後にギルテリチニブが80%以上溶出することを意味する。
【0021】
本発明に用いられるギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩は、例えば、特許文献1(国際公開第2010/128659号)に記載の方法により、又はそれに準じて製造することにより容易に入手可能である。
【0022】
ギルテリチニブは塩を形成しないフリー体の態様以外に、酸と製薬学的に許容しうる塩を形成しうる。かかる塩としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸との酸付加塩、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、ヘミフマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、炭酸、ピクリン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、グルタミン酸等との有機酸との酸付加塩を挙げることができる。これらの塩は常法により製造できる。好ましくはヘミフマル酸を挙げることができる。
【0023】
本発明に用いられるギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩の結晶の割合は、保存中に安定である範囲であれば特に制限されない。医薬組成物が固体である場合において、結晶の割合は、例えば、示差走査熱量計分析(DSC分析)法、粉末X線回折法、固体NMR法、近赤外分光(NIR)法等によって算出することができる。例えば、ギルテリチニブヘミフマル酸塩中における、ギルテリチニブヘミフマル酸塩の結晶の割合を算出する方法としては、例えば、近赤外分光法測定として、フーリエ変換近赤外分光器(MPA、ブルカー・オプティクス)によりスペクトルを測定し(測定範囲;12500cm
−1〜5800cm
−1、分解能;8cm
−1、スキャン回数;32回)、得られたスペクトルを2次微分し(Savitzky−Golay convolution method)、近赤外スペクトル解析ソフトウェア(例えば、OPUS、ブルカー・オプティクス社)を用いて解析できる。医薬組成物は乳鉢と乳棒を用いて粉末状とし、スペクトルを測定する。医薬組成物のスペクトル測定前にギルテリチニブヘミフマル酸塩の結晶体を種々の割合で混合した調製品のスペクトルを部分最小二乗法により回帰分析して検量線を作成し、医薬組成物から得られたスペクトルをこの検量線に内挿してギルテリチニブヘミフマル酸塩の結晶の割合を算出することができる。
【0024】
結晶の割合として、例えば、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩の全量に対して、典型的には60%以上、好ましくは60〜100%、より好ましくは70〜100%、更に好ましくは80〜100%、更に好ましくは90〜100%である。また、結晶の割合として、例えば、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩の全量に対して、好ましくは60〜100%未満、より好ましくは70〜100%未満、更に好ましくは80〜100%未満、更に好ましくは90〜100%未満である。なお、用いられる数値は、一般的に実験誤差内(例えば、平均に対する95%信頼区間内)又は表示値の±10%内のいずれか大きい方の変数の値及び変数の全ての値として解釈される。
【0025】
ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩の投与量は、患者の状態、年齢、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定されるが、1日あたりの投与量は、例えば、成人にはギルテリチニブとして、典型的には5〜300mg、好ましくは10〜200mg、より好ましくは20〜180mg、更に好ましくは40〜160mg、更に好ましくは80〜140mg、更に好ましくは110〜130mgであることができる。これを1回で、或いは2〜4回に分けて投与することができる。なお、前記の上限と下限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0026】
ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩の配合割合は、例えば、医薬組成物の重量に対して1〜90重量%、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%、更に好ましくは25〜35重量%である。ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩の含有量としては、製剤全体に5〜300mg、好ましくは10〜200mg、より好ましくは10〜50mg、更に好ましくは10〜40mgである。なお、前記の上限と下限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0027】
本発明の医薬組成物は各種製剤とすることができる。例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、ドライシロップ剤等を挙げることができるが、これに制限されない。錠剤にはフィルムコーティングされていない錠剤である素錠、フィルムコーティングされた錠剤であるフィルムコーティング錠、口腔内崩壊錠、溶解錠剤、及びミニタブレットが含まれるが、これに制限されない。好ましくは錠剤又はカプセル剤、より好ましくは錠剤である。
【0028】
本発明による液体製剤には、溶液、懸濁液、シロップ等が含まれるが、これに制限されない。本発明による液体製剤は、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩、甘味剤、並びに2種以上の糖類/糖アルコール類を含有する医薬組成物を溶媒に溶解、分散、懸濁等することによって調製することができる。なお、溶媒としては、例えば、水、ジュース、牛乳等を挙げることができるがこれに制限されない。
【0029】
本発明の医薬組成物の重量は、患者が服用可能であれば特に制限されない。医薬組成物の重量は、典型的には5〜600mg、好ましくは270〜600mg、より好ましくは10〜500mg、更に好ましくは15〜300mg、更に好ましくは30〜270mg、更に好ましくは35〜180mg、更に好ましくは100〜140mg、更に好ましくは30〜50mgである。なお、前記の上限と下限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0030】
本発明の医薬組成物には、本発明の効果を達成できる範囲で所望により、各種の医薬品添加物、例えば、結合剤、矯味剤、発泡剤、香料、緩衝剤、抗酸化剤、界面活性剤、懸濁剤、フィルムコーティング剤、崩壊剤、滑沢剤等が適宜使用される。本発明においては、医薬品添加物は、1種又は2種以上組み合わせて適宜適量添加することができる。
【0031】
本発明に用いられる「結合剤」とは、粒子間に働いてそれらを集合体として維持するのに用いられるものを意味する。結合剤としては、例えば、糖類、糖アルコール類、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)等のセルロース誘導体、可溶性ポリマーが含まれるがこれに制限されない。好ましくは、本発明による医薬組成物中に含有する糖類及び/又は糖アルコール類は、結合剤として機能し得る。なお、本発明の効果を達成できる範囲で所望により追加の結合剤を添加することができるが、本発明による医薬組成物はHPCを実質的に含有しない。
【0032】
矯味剤としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等を挙げることができるがこれに制限されない。
【0033】
発泡剤としては、例えば、重曹等を挙げることができるがこれに制限されない。
【0034】
香料としては、例えば、レモン、オレンジ、チェリー、ラズベリー、メントール等を挙げることができるがこれに制限されない。
【0035】
緩衝剤としては、例えば、クエン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、若しくはアスコルビン酸又はそれらの塩類、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、アスパラギン酸、アラニン、若しくはアルギニン又はそれらの塩類、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、リン酸、若しくはホウ酸又はそれらの塩類等を挙げることができるがこれに制限されない。
【0036】
抗酸化剤としては、例えば、クエン酸、亜硝酸ナトリウム、アスコルビン酸、エデト酸ナトリウム、大豆レシチン、天然ビタミンE、ピロ亜硫酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン等を挙げることができるがこれに制限されない。
【0037】
界面活性剤としては、例えば、ポリソルベート80、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等を挙げることができるがこれに制限されない。
【0038】
懸濁剤としては、例えば、結晶セルロース、カルメロースナトリウム、キサンタンガム、カンテン等を挙げることができるがこれに制限されない。
【0039】
本発明の医薬組成物は、さらに、フィルムコーティング剤を含有することができる。フィルムコーティング剤は溶出安定性に優れた医薬組成物を提供できるものであれば特に制限されない。例えば、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース(EC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー等の製薬学的に許容されるポリマー、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、グリセロール、トリアセチン(グリセリン三酢酸)、クエン酸トリエチル(TEC)等の製薬学的に許容される可塑剤、鉱油、植物油等の油、タルク、ワックス、カルナウバロウ等の製薬学的に許容される滑剤又は光沢剤、酸化チタン、三二酸化鉄等の製薬学的に許容される着色剤、甘味剤、ミント、ベリー、バニラ等の香料、ポリデキストロース、スターチ、アカシア、キサンタンガム等の粘度調節剤等を挙げることができるがこれに制限されない。好ましくは、PVA、HPMC、又はポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマーをポリマー、PEGを可塑剤、タルクを滑沢剤、三二酸化鉄を着色剤として含有する、OPADRY(登録商標)(日本カラコン製)等の市販の速放性のコーティング剤、より好ましくは、HPMCをポリマー、PEGを可塑剤、タルクを滑沢剤、三二酸化鉄を着色剤として含有する、速放性を提供するOPADRY(登録商標)(日本カラコン製)等の市販の速放性のコーティング剤である。
【0040】
本発明の医薬組成物は、さらに、崩壊剤を含有することができる。崩壊剤は溶出安定性に優れた医薬組成物を提供できるものであれば特に制限されない。例えば、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コメデンプン、部分アルファー化デンプン、アルファー化デンプン、クロスポビドンが挙げられるが、これに制限されない。好ましくは低置換度ヒドロキシプロピルセルロースである。崩壊剤は、崩壊剤−賦形剤混合物、例えば、マンニトール/デンプンが8:2(Roquetteにより製造されたPEARLITOL FLASH)の一部であり得る。本発明に用いられる医薬組成物中の崩壊剤は、1種又は2種以上組み合わせて添加することができる。
【0041】
本発明に用いられる崩壊剤の配合量としては、医薬組成物の重量に対して、典型的には1〜20重量%、好ましくは2〜15重量%、より好ましくは3〜10重量%、更に好ましくは4〜6重量%である。なお、前記の上限と下限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0042】
本発明の医薬組成物は、さらに、滑沢剤を含有することができる。滑沢剤は製剤化工程中(特に成形工程)に、例えば臼や杵等への医薬組成物の付着、打錠装置における臼から錠剤を取り出すための力(以後、突上げ圧と称することもある)の過度な上昇等を抑制でき、溶出安定性に優れた医薬組成物を提供できるものであれば特に制限されない。例えば、ステアリン酸マグネシウム(以下、Mg−Stとも称することもある)、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルクが挙げられるが、これに制限されない。好ましくはステアリン酸マグネシウムである。本発明に用いられる医薬組成物中の滑沢剤は、1種又は2種以上組み合わせて添加することができる。
【0043】
本発明に用いられる滑沢剤の配合量としては、医薬組成物の重量に対して、典型的には0.5〜5重量%、好ましくは1〜3重量%、より好ましくは1.5〜2重量%である。なお、前記の上限と下限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0044】
本発明は、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩、並びに糖類及び/又は糖アルコール類を含有する医薬組成物の製造方法であって、(1)少なくとも1種の糖類及び/又は糖アルコール類を溶媒に分散又は溶解させることで結合液を製造する工程、(2)ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩、甘味剤、並びに少なくとも1種の糖類及び/又は糖アルコール類を混合し、混合物を得る工程、並びに(3)工程(1)で得られた結合液を、工程(2)で得られた混合物に噴霧又は添加して造粒する工程を含む、製造方法にも関する。
【0045】
本発明に用いられる「結合剤」とは、粒子間に働いてそれらを集合体として維持するのに用いられるものを意味する。また、本発明に用いられる「結合液」とは、結合剤を溶媒に分散又は溶解させることで得た液体のことである。溶媒としては、例えば、水、アセトン、メタノール、エタノールを挙げることができるがこれに制限されない。
【0046】
本発明の製造方法で用いられる「甘味剤」、「糖類及び/又は糖アルコール類」等については、本発明の医薬組成物における当該説明をそのまま適用することができる。
本発明の製造方法における各成分の配合量、配合方法等については、本発明の医薬組成物における当該説明をそのまま適用することができる。
【0047】
本発明の医薬組成物の製造方法について、以下に説明するが、例えば、粉砕、混合、造粒、乾燥、篩過、整粒、成形(打錠)、フィルムコーティング、結晶化等の工程を含む公知の方法も含まれる。
【0048】
粉砕、混合工程
粉砕工程では、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩及び適当な医薬品添加物を通常製薬学的に粉砕できる方法であれば、装置、手段とも特に制限されない。粉砕装置としては、例えばハンマーミル、ボールミル、ジェットミル、コロイドミル等を挙げることができるがこれに制限されない。粉砕条件は適宜選択されれば特に制限されない。
粉砕工程に連続した各成分の混合工程では、通常製薬学的に各成分を均一に混合できる方法であれば、装置、手段とも特に制限されない。
【0049】
造粒工程
造粒工程では、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩及び適当な医薬品添加物を通常製薬学的に造粒できる方法であれば、装置、手段とも特に制限されない。水等の溶媒又は適量の結合剤を水等に分散又は溶解させた結合液を用いて造粒する湿式造粒に用いられる造粒方法・装置としては、例えば、高速撹拌造粒法、解砕(粉砕)造粒法、流動層造粒法、押出造粒法、転動造粒法、噴霧造粒法あるいはそれらの方法により用いられる装置等を挙げることができるがこれに制限されない。造粒方法としては、例えば、イソマル水和物を水等の溶媒に分散又は溶解させることで得た結合液を、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩、及び甘味剤を含む混合物に、噴霧又は添加することにより造粒され、造粒物を得ることができる。造粒中に水を用いない方法として、非水溶媒を用いた湿式造粒法や、溶媒を用いない乾式造粒法も選択することができる。
【0050】
乾燥工程
乾燥工程では、通常製薬学的に乾燥できる方法であれば、装置、手段とも特に制限されない。装置としては、例えば、通風乾燥機、減圧乾燥機、真空乾燥機、流動層造粒乾燥機等を挙げることができるがこれに制限されない。
【0051】
篩過、整粒工程
篩過、整粒工程では、通常製薬学的に篩過又は整粒できる方法であれば、装置、手段とも特に制限されない。装置としては、例えば、篩、コーミル、パワーミル等を挙げることができるがこれに制限されない。
【0052】
成形(打錠)工程
成形工程では、本発明の医薬組成物を成形する方法であれば、装置、手段とも特に制限されない。例えば、造粒・乾燥工程を行わず、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩及び適当な医薬品添加物を混合後に直接圧縮成形し医薬組成物を製する方法、造粒し乾燥した後に圧縮成形し医薬組成物を製する方法、造粒し更に滑沢剤を混合した後に圧縮成形し医薬組成物(例えば、素錠)を製する方法等を挙げることができるがこれに制限されない。
【0053】
打錠装置としては、例えばロータリー式打錠機、オイルプレス等を挙げることができるがこれに制限されない。打錠圧等の打錠条件としては、圧縮成形できる打錠圧であれば特に制限されない。例えば、ロータリー式打錠機(EX−10、畑鐵工所製)で圧縮成形したときの打圧(本圧)が0.5〜20.0kN、好ましくは1.0〜10.0kN、より好ましくは1.5〜4.5kNを挙げることができる。なお、前記の上限と下限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0054】
素錠の硬度は、製造工程から流通過程において破損しない程度の硬度であれば特に制限されない。例えば、ロータリー式打錠機(HT−CVX−TYPEIII20、畑鐵工所製)で打錠品の硬度を測定したときの硬度が30N以上、好ましくは42N以上、より好ましくは64N以上、更に好ましくは80N以上を挙げることができる。なお、硬度の上限は400N以下である。打錠装置として、例えば、ロータリー式打錠機、オイルプレス等を用いた場合、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩は金属付着性の強い性質を有することから、連続打錠すると、杵へのスティッキングや、圧縮成形された錠剤が臼から取り出しにくくなるか、又は突上げ圧が上昇する。スティッキングの発生や突上げ圧が上昇すると、錠剤の外観に影響を与えるだけでなく、臼杵や打錠装置にも負担がかかることから、改善すべきである。改善方法としては、例えば、臼杵を硬質クロム処理あるいは窒化クロム処理すること等を挙げることができるがこれに制限されない。
【0055】
フィルムコーティング工程
打錠後に医薬組成物(例えば、素錠)表面にフィルムコーティングを施してもよい。フィルムコーティング工程では、通常製薬学的にコーティングする方法であれば特に制限されない。例えば、パンコーティング、フローコーティング、ディップコーティング等を挙げることができるがこれに制限されない。
【0056】
結晶化工程
ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩の結晶の割合が低下した場合、結晶化を促進する工程を採用することができる。例えば、マイクロ波照射処理、超音波照射処理、低周波照射処理、熱電子照射処理等を挙げることができるがこれに制限されない。
【0057】
マイクロ波照射処理としては、例えば、10MHz〜25GHzの波長を照射することを挙げることができるがこれに制限されない。処理時間は、初期の結晶の割合の程度や医薬品添加物の成分にも依存するが、例えば、10秒〜60分間行うことを挙げることができる。照射自体は連続又は断続して行ってもよく、またどのようなタイミングで行ってもよい。
【0058】
超音波照射処理としては、例えば、10kHz〜600kHzの振動数の音波の照射を挙げることができるがこれに制限されない。処理時間は、結晶の割合の程度や医薬品添加物の成分にも依存するが、例えば、10秒〜24時間行うことを挙げることができる。照射自体は連続又は断続して行ってもよく、またどのようなタイミングで行ってもよい。
【実施例】
【0059】
本実施例等に記載されるギルテリチニブのヘミフマル酸塩は特許文献1(国際公開第2010/128659号)に記載の方法又はそれに準じる方法により製造された物を使用した。
【0060】
本実施例等に記載されるマンニトールはPEARLITOL(登録商標)50C(ROQUETTE製)、スクラロースはスクラロース(登録商標)(P)(三栄源エフ・エフ・アイ製)、アスパルテームは味の素KKアスパルテーム(味の素製)、ヒドロキシプロピルセルロースはHPC L(日本曹達製)(以後、HPCと称することもある)、イソマル水和物はgalenIQ 721(BENEO−PALATINIT製)、マルチトールはSweet Peral(登録商標)P200(ROQUETTE製)、ソルビトールはNEOSORB(登録商標)XTAB 290(ROQUETTE製)、スクロースは精製白糖(UE−E)(関東化学製)、トレハロースはトレハロース(P)(旭化成製)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースはL−HPC(登録商標)LH−21(信越化学工業製)、Mg−StはParteck(登録商標)LUB MST(Merck KGaA製)、フィルムコート剤はOpadry(登録商標)(日本カラコン製)又はOpadry(登録商標)QX(日本カラコン製)をそれぞれ用いた。
【0061】
《試験例》
ギルテリチニブヘミフマル酸塩を11.05mg/mLの濃度で水に溶解した液に、数種類の甘味剤を添加し、試験液を調製した。調製した試験液の官能試験を実施したところ、特にスクラロースがギルテリチニブヘミフマル酸塩の苦みを低減させることが明らかとなった。
【0062】
《参考例、比較例1、実施例1、及び実施例2の処方》
2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類を含有しない処方である参考例、参考例のマンニトールの一部を甘味剤であるスクラロースに置き換えた処方である比較例1、比較例1のHPCをイソマル水和物に置き換えた実施例1、及び実施例1と若干組成比の異なる実施例2の処方を表1に示す。なお、本明細書において参考例とは実質的に甘味剤を含有していない例を意味し、実施例とは甘味剤を含有し、かつ、溶出安定性の優れた例を意味し、比較例とは甘味剤を含有し、かつ、溶出安定性の悪い例を意味する。
【0063】
【表1】
【0064】
《参考例の錠剤の製造》
表1に記載の処方に従い、ギルテリチニブヘミフマル酸塩2223.0g及びマンニトール4112.0gを、流動層造粒機(GPCG−PRO−5、パウレック製)を用いて混合後、HPC水溶液3008g(固形分:7重量%)を結合液として噴霧し、造粒を行った後、乾燥して造粒品を得た。団粒を除くために篩過した後、得られた造粒品6111.9gに、L−HPC326.8g及びMg−St98.05gを加え、混合機(コンテナミキサーPM200(60L容器)、広島メタル&マシナリー製)を用いて混合し、混合品を得た。得られた混合品を、ロータリー式打錠機(HT−CVX−TYPEIII20、畑鐵工所製)を用いて打錠し、素錠を得た。得られた素錠5158.8gを、フィルムコーティング機(PRC−20/60(20L容器)、パウレック製)に入れ、Opadry(登録商標)を精製水で分散又は溶解させた液でフィルムコーティングし、参考例のフィルムコーティング錠を得た。
【0065】
《比較例1の錠剤の製造》
表1に記載の処方に従い、ギルテリチニブヘミフマル酸塩165.8g、マンニトール189.4g、及びスクラロース120.0gを、流動層造粒機(FLO−1、フロイント産業製)を用いて混合後、HPC水溶液225g(固形分:7重量%)を結合液として噴霧し、造粒を行った後、乾燥して造粒品を得た。団粒を除くために篩過した後、得られた造粒品473.4gから196.3gを秤取り、L−HPC10.5g及びMg−St3.15gを加え、ポリエチレン袋を用いて手混合し、混合品を得た。得られた混合品を、ロータリー式打錠機(EX−10、畑鐵工所製)を用いて打錠し、素錠を得た。得られた素錠35.0gを、フィルムコーティング機(フローコーターミニ、フロイント産業製)に入れ、Opadry(登録商標)を精製水で分散又は溶解させた液でフィルムコーティングし、比較例1のフィルムコーティング錠を得た。
【0066】
《実施例1の錠剤の製造》
表1に記載の処方に従い、ギルテリチニブヘミフマル酸塩2.21kg、マンニトール2122.0g、及びスクラロース1680.0gを、流動層造粒機(GPCG−PRO−5、パウレック製)を用いて混合後、イソマル水和物水溶液3602g(固形分:20重量%)を結合液として噴霧し、造粒を行った後、乾燥して造粒品を得た。団粒を除くために篩過した後、得られた造粒品6377.5gから5385.6gを秤取り、L−HPC288.0g及びMg−St115.2gを加え、混合機(コンテナミキサーPM200(60L容器)、広島メタル&マシナリー製)を用いて混合し、混合品を得た。得られた混合品を、ロータリー式打錠機(HT−CVX−TYPEIII20、畑鐵工所製)を用いて打錠し、素錠を得た。得られた素錠900.6gを、フィルムコーティング機(HCT−30、フロイント産業製)に入れ、Opadry(登録商標)QXを精製水で分散又は溶解させた液でフィルムコーティングし、実施例1のフィルムコーティング錠を得た。
【0067】
《実施例2の錠剤の製造》
表1に記載の処方に従い、ギルテリチニブヘミフマル酸塩165.75g、マンニトール186.15g、及びスクラロース126.0gを、流動層造粒機(GPCG−1、パウレック製)(以下、GPCG−1と称する)を用いて混合後、イソマル水和物水溶液475g(固形分:10重量%)を結合液として噴霧し、造粒を行った後、乾燥して造粒品を得た。団粒を除くために篩過した後、得られた造粒品401.9gから212.08gを秤取り、L−HPC10.84g及びMg−St3.23gを加え、ポリエチレン袋を用いて手混合し、混合品を得た。得られた混合品を、ロータリー式打錠機(EX−10、畑鐵工所製)を用いて打錠し、素錠を得た。得られた素錠37.69gを、フィルムコーティング機(MINI COATER/DRIER−2、CALEVA製)に入れ、Opadry(登録商標)QXを精製水で分散又は溶解させた液でフィルムコーティングし、実施例2のフィルムコーティング錠を得た。
【0068】
《試験例2》
参考例、比較例1、実施例1、及び実施例2で製造した各フィルムコーティング錠を、それぞれ高密度ポリエチレン製のボトルに充填し、40℃75%RHで1箇月間、2箇月間、若しくは3箇月間又は70℃で9日間保管することにより各保管サンプルを得た。なお、密封条件はボトル口部をインダクションシールで密封し、蓋を締めたもの、開放条件は、ボトルの蓋をしないものである。各保管サンプルは、溶出試験器(NTR−6100シリーズ、NTR−6200シリーズ、又はNTR−6400シリーズ、富山産業製)を用いて、第十七改正日本薬局方溶出試験法のパドル法、溶出試験液として0.1mol/L塩酸900mL、パドル回転数50回転/分の条件で溶出試験を実施した。試験開始15分後及び30分後に、紫外可視分光光度法(UV法)又は高速液体クロマ卜グラフ法(HPLC法)を用いて溶出試験液のギルテリチニブのピーク面積を測定し、得られたピーク面積からギルテリチニブの濃度を算出することにより溶出率を算出した。UV法では紫外可視分光光度計(UV−1800、島津製作所製)を用いて測定を行った(波長:313nm)。HPLC法ではAlliance HPLC(登録商標)システム(日本ウォーターズ製)を用いて測定を行った(波長:314nm)。HPLC法で用いたカラムはCAPCELLPAK C18 AQ、内径4.6mm、長さ150mm、粒径3μm(OSAKASODA製)又はその同等品であり、40℃に維持して使用し、移動相は、過塩素酸溶液(pH2.2)/アセトニトリル混液=65/35を用いた。保管なし及び各保管サンプルにおけるギルテリチニブの溶出率を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
参考例の錠剤を40℃75%RH密封条件1箇月間及び3箇月間保管したサンプルは、試験開始15分後のギルテリチニブの溶出率が85%以上であった。一方で、比較例1の錠剤を40℃75%RH密封条件3箇月間及び70℃密封条件9日間保管したサンプルは試験開始15分後のギルテリチニブの溶出率が75%以下であった。しかし、イソマル水和物を結合剤とした実施例1及び実施例2はいずれの保管条件であっても、試験開始15分後のギルテリチニブの溶出率は85%以上であった。
【0071】
《比較例2〜3及び実施例3〜7の処方》
比較例1のフィルムコーティング剤の種類を変更した処方である比較例2及びフィルムコーティングを行っていない処方である比較例3を表3に示す。また、実施例1の甘味剤をアスパルテームに置き換えた処方を実施例3、実施例1のイソマル水和物を、マルチトール、ソルビトール、スクロース又はトレハロースに置き換えた処方である実施例3〜7の処方を表3に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
《比較例2及び比較例3の錠剤の製造》
表3に記載の処方に従い、ギルテリチニブヘミフマル酸塩165.76g、マンニトール189.26g、及びスクラロース119.98gを、GPCG−1を用いて混合後、HPC水溶液225.0g(固形分:7重量%)を結合液として噴霧し、造粒を行った後、乾燥して造粒品を得た。団粒を除くために篩過した後、得られた造粒品296.83gから196.35gを秤取り、L−HPC10.51g及びMg−St3.15gを加え、実施例2と同じ方法で混合・打錠し、比較例3の素錠を得た。得られた素錠10.5152gを、実施例2と同じ方法でフィルムコーティングし、比較例2のフィルムコーティング錠を得た。
【0074】
《実施例3の錠剤の製造》
表3に記載の処方に従い、ギルテリチニブヘミフマル酸塩165.77g、マンニトール156.47g、及びアスパルテーム126.02gを、GPCG−1を用いて混合後、イソマル水和物水溶液270.0g(固形分:20重量%)を結合液として噴霧し、造粒を行った後、乾燥して造粒品を得た。団粒を除くために篩過した後、得られた造粒品442.52gから267.85gを秤取り、L−HPC14.43g及びMg−St5.76gを加え、実施例2と同じ方法で混合・打錠し、素錠を得た。得られた素錠10.8147gを、実施例2と同じ方法でフィルムコーティングし、実施例3のフィルムコーティング錠を得た。
【0075】
《実施例4の錠剤の製造》
表3に記載の処方に従い、ギルテリチニブヘミフマル酸塩165.76g、マンニトール156.45g、及びスクラロース126.02gを、GPCG−1を用いて混合後、マルチトール水溶液270.0g(固形分:20重量%)を結合液として噴霧し、造粒を行った後、乾燥して造粒品を得た。団粒を除くために篩過した後、得られた造粒品459.84gから267.85gを秤取り、L−HPC14.40g及びMg−St5.76gを加え、実施例2と同様の方法で混合・打錠し、素錠を得た。得られた素錠10.7941gを、実施例2と同じ方法でフィルムコーティングし、実施例4のフィルムコーティング錠を得た。
【0076】
《実施例5の錠剤の製造》
表3に記載の処方に従い、ギルテリチニブヘミフマル酸塩165.75g、マンニトール156.44g、及びスクラロース126.02gを、GPCG−1を用いて混合後、ソルビトール水溶液270.0g(固形分:20重量%)を結合液として噴霧し、造粒を行った後、乾燥して造粒品を得た。団粒を除くために篩過した後、得られた造粒品425.03gから267.84gを秤取り、L−HPC14.41g及びMg−St5.76gを加え、実施例2と同様の方法で混合し、得られた混合品を、手動式卓上錠剤成形機(HANDTAB−200、市橋精機製)を用いて打錠し、素錠を得た。得られた素錠870.8mgを、実施例2と同じ方法でフィルムコーティングし、実施例5のフィルムコーティング錠を得た。
【0077】
《実施例6の錠剤の製造》
表3に記載の処方に従い、ギルテリチニブヘミフマル酸塩165.74g、マンニトール156.45g、及びスクラロース126.00gを、GPCG−1を用いて混合後、スクロース水溶液270.2g(固形分:20重量%)を結合液として噴霧し、造粒を行った後、乾燥して造粒品を得た。団粒を除くために篩過した後、得られた造粒品458.3gから267.84gを秤取り、L−HPC14.41g及びMg−St5.76gを加え、実施例2と同じ方法で混合・打錠し、素錠を得た。得られた素錠10.8116gを、実施例2と同じ方法でフィルムコーティングし、実施例6のフィルムコーティング錠を得た。
【0078】
《実施例7の錠剤の製造》
表3に記載の処方に従い、ギルテリチニブヘミフマル酸塩165.76g、マンニトール156.45g、及びスクラロース126.03gを、GPCG−1を用いて混合後、トレハロース水溶液270.0g(固形分:20重量%)を結合液として噴霧し、造粒を行った後、乾燥して造粒品を得た。団粒を除くために篩過した後、得られた造粒品469.39gから267.84gを秤取り、L−HPC14.42g及びMg−St5.76gを加え、実施例2と同じ方法で混合・打錠し、素錠を得た。得られた素錠10.8207gを、実施例2と同じ方法でフィルムコーティングし、実施例7のフィルムコーティング錠を得た。
【0079】
《試験例3》
比較例2〜3及び実施例3〜7で製造したフィルムコーティング錠又は素錠を、それぞれ高密度ポリエチレン製のボトルに充填し、40℃75%RHで1箇月間、2箇月間、若しくは3箇月間又は70℃で9日間保管することにより各保管サンプルを得た。各保管サンプルは、試験例2と同じ試験条件で溶出試験を実施し、溶出率を算出した。保管なし及び各保管サンプルにおけるギルテリチニブの溶出率を表4に示す。
【0080】
【表4】
【0081】
比較例2〜3の錠剤を40℃75%RH密封条件又は開放条件2箇月間及び3箇月間保管したサンプルは、試験開始15分後のギルテリチニブの溶出率が80%以下であった。しかし,糖類及び/又は糖アルコールを結合剤とした実施例4〜7はいずれの保管条件であっても、試験開始15分後のギルテリチニブの溶出率は80%以上であった。また、糖類及び/又は糖アルコールを結合剤とした実施例3の錠剤を40℃75%RH密封条件又は開放条件2箇月間及び3箇月間保管したサンプルは、試験開始15分後のギルテリチニブの溶出率は80%以上であった。
【0082】
以上の結果より、2種以上の糖類及び/又は糖アルコール類を含有することにより、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩及び苦みを低減させる甘味剤を含有する、溶出安定性に優れた医薬組成物を提供することが可能である。
6−エチル−3−{3−メトキシ−4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]アニリノ}−5−[(オキサン−4−イル)アミノ]ピラジン−2−カルボキサミド(ギルテリチニブ)又はその製薬学的に許容される塩及びギルテリチニブの苦みを低減させる甘味剤を含有し、例えば、経時的な熱及び/又は湿度等のストレスによる、ギルテリチニブの溶出安定性の低下を抑制する、溶出安定性に優れた医薬組成物を提供する。前記医薬組成物は、ギルテリチニブ又はその製薬学的に許容される塩、甘味剤、並びに糖類及び/又は糖アルコール類を含有する。