【実施例1】
【0013】
図1は、ドップラーライダー装置1の構成を示す構成図である。
【0014】
レーザ光を大気中に放射(送信)する送信部3と、放射されたレーザ光が大気中に浮遊する計測対象粒子により散乱された散乱光を受光(受信)する受信部4と、散乱光のドップラーシフトに基づいて前記計測対象粒子の移動速度(気流の風速)を計測する信号処理部5と、風速の計測結果を表示する表示器6と、送信部3の後段及び受信部4の前段に設けられた光学ヘッド部7とを備えている。
【0015】
<送信部>
送信部3は、レーザ光を生成するレーザ光源2を備えている。レーザ光源2は、例えば、波長が1.5μm帯の近赤外線域レーザ光を連続的に生成する半導体レーザにより構成することができる。当該レーザ光の出力は、レーザ光源2に接続されたレーザ光出力制御部21によって制御される。
【0016】
レーザ光源2が生成したレーザ光は、小径光ファイバ30を通じて送信部3に出力される。ここで、小径光ファイバ30は、コア径の小さな、例えば、コア径が10μmの光ファイバが用いられる。
【0017】
送信部3は、前記レーザ光源2の後段に、光アイソレータ31、光分岐カプラ33、パルス生成器35、光アイソレータ36、AMP38、及びサーキュレータ39を備え、この順に直列にそれぞれ光ファイバで接続されている。用いられる光ファイバは、AMP38とサーキュレータ39とを接続するもの以外は、上述の小径光ファイバである。一方、AMP38とサーキュレータ39とを接続する光ファイバは、コア径の大きな、例えば、コア径が30μmの大径光ファイバが用いられる。
【0018】
レーザ光源2から放射されるレーザ光は、まず光アイソレータ31に入力する。
光アイソレータ31は、レーザ光の進行方向側から反射して戻ってくる光を除去する。
【0019】
光アイソレータ31は光分岐カプラ33と小径光ファイバ30aで接続されている。小径光ファイバ30aには、光分岐カプラ32aと光合成カプラ32bとが、それぞれ光アイソレータ31側と光分岐カプラ33側とに設けられている。
【0020】
光分岐カプラ32aは、光分岐出力端子を備え、モニタ(図示せず)の光入力端子に接続されている。また、光合成カプラ32bは、光合成入力端子を備え、モニタ(図示せず)の光出力端子に接続されている。
【0021】
光分岐カプラ32aは、光アイソレータ31を通過したレーザ光を分岐し、ここでは1%を光分岐出力端子からモニタに出力し、残りの99%を光ファイバ30aを通じて光合成カプラ32bに出力する。
【0022】
モニタに出力された分岐レーザ光は、モニタを通過後、光合成入力端子から光合成カプラ32bに入力される。そして、光合成カプラ32bで、モニタを通過して入力された分岐レーザ光と、小径光ファイバ30aを通過してきた残りのレーザ光とが合流する。合流後のレーザ光は、小径光ファイバ30aを通じて、光分岐カプラ33に出力される。
【0023】
モニタは、モニタを通過する分岐レーザ光をモニタすることで、小径光ファイバ30aを通過するレーザ光の状態を間接的に監視する。このように、光分岐カプラ32aと光合成カプラ32bとは、モニタ用の分岐レーザ光の出力ポート及び入力ポートとして機能している。
【0024】
光分岐カプラ33は、入力されたレーザ光を分岐する。ここでは、1%を参照光として小径光ファイバ30cを通じて受信部4の光合成カプラ44に出力し、残りの99%を小径光ファイバ30bを通じてパルス生成器35に出力する。
【0025】
パルス生成器35は、例えば、音響光学変調器(Acousto‐OpticModulator:AOM)を用いて、レーザ光の短パルスを生成する。生成する短パルスのパルス幅や時間間隔は、パルス生成器35に接続されたAOMドライバ34が制御する。
【0026】
パルス生成器35とAMP38とは、小径光ファイバ30dで接続されており、小径光ファイバ30dには、光アイソレータ36、モニタ用分岐レーザ光の出力ポート及び入力ポートとして機能する光分岐カプラ37a、及び光合成カプラ37bがこの順で設けられている。
【0027】
パルス生成器35が生成したパルスレーザ光は、小径光ファイバ30dを介して、光アイソレータ36、光分岐カプラ37a、及び光合成カプラ37bを通過後、AMP38に出力される。
【0028】
尚、光アイソレータ36は、パルスレーザ光の進行方向側から反射して戻ってくる光を除去する。また、光分岐カプラ37aの光分岐出力端子と光合成カプラ37bの光合成入力端子とは、それぞれモニタ(図示せず)の光入力端子と光出力端子とに接続されており、モニタは、通過する分岐レーザ光をモニタすることにより、小径光ファイバ30dを通過するパルスレーザ光の状態を間接的に監視する。
【0029】
AMP38は、例えば、エルビウムドープトファイバー増幅器(EDFA)等の増幅器であり、パルスレーザ光を増幅する。パルスレーザ光の出力制御は、AMP38に接続されたレーザ光出力制御部21により行われる。
【0030】
増幅されたパルスレーザ光は、AMP38から、大径光ファイバ40を通じて、送受信光の分離を行う光サーキュレータ39のポートP1に出力される。
【0031】
光サーキュレータ39のポートP2には、大径光ファイバ40aを介して、光学ヘッド部7が接続されており、また、光サーキュレータ39のポートP3には、同じく大径光ファイバ40bを介して、受信部3が接続されている。
【0032】
光サーキュレータ39にポートP1から入力されたパルスレーザ光(送信光)は、ポートP2から出力される。そして、大径光ファイバ40aを通じて光学ヘッド部7に出力される。その後、パルスレーザ光(送信光)は、光学ヘッド部7でスキャンされ大気中に放射される。
【0033】
また、このように構成された送信部3には、信号処理部5が接続されている。この信号処理部5の制御により、送信部3から送信するレーザ光の照射タイミングが制御される。
【0034】
<受信部>
受信部4は、光変換アダプタ41、光合成カプラ44、及び光検出器45を備え、光変換アダプタ41と光合成カプラ44とは、小径光ファイバ30eで接続され、光合成カプラ44と光検出器45とは、小径光ファイバ30fで接続されている。
【0035】
光変換アダプタ41は、大径光ファイバ40bを介して、光サーキュレータ39のポートP3に接続されている。
【0036】
光学ヘッド部7から大気中に放射されたパルスレーザ光は、大気中に浮遊する計測対象粒子により散乱され散乱光となる。そして、パルスレーザ光を放射後、その態勢で待機中の光学ヘッド部7に、その散乱光の一部が入射する。光学ヘッド部7に入射した散乱光は、大径光ファイバ40aを通じて、サーキュレータ39のポートP2に受信光として入力される。そして、ポートP2に入力された受信光は、ポートP3から出力され、大径光ファイバ40bを通じて光変換アダプタ41に出力される。
【0037】
光変換アダプタ41は、コア径の異なる光ファイバを接続するアダプタであり、ここでは、大径光ファイバ40bを通じて入力された受信光を、コア径の小さな小径光ファイバ30eに出力している。
【0038】
小径光ファイバ30eには、光アイソレータ42、モニタ用分岐レーザ光の出力ポート及び入力ポートとして機能する光分岐カプラ43a、及び光合成カプラ43bがこの順で設けられている。
【0039】
光変換アダプタ41で光変換された受信光は、小径光ファイバ30eを介して、光アイソレータ42、光分岐カプラ43a、及び光合成カプラ43bを通過後、光合成カプラ44に出力される。
【0040】
尚、光アイソレータ42は、受信光の進行方向側から反射して戻ってくる光を除去する。また、光分岐カプラ43aの光分岐出力端子と光合成カプラ43bの光合成入力端子とは、それぞれモニタ(図示せず)の光入力端子と光出力端子とに接続されており、モニタは、通過する分岐レーザ光をモニタすることにより、小径光ファイバ30eを通過する受信光の状態を間接的に監視する。
【0041】
光合成カプラ44は、送信部3の光分岐カプラ33から入力された参照光と受信光とを合成し、合成光を小径光ファイバ30fを通じて光検出器45に出力する。
【0042】
受信光は、大気中に浮遊する計測対象粒子の移動速度に応じてドップラー効果に基づく波長の変化が生じている。そのため、光検出器45は、光ヘテロダイン検出により、参照光と受信光とが合成された合成光からビート信号を検出する。
【0043】
<信号処理部>
信号処理部5は、光検出器45で検出されたビート信号から、ビート信号の強度、パルスレーザ光(送信光)を送信してから散乱光(受信光)を受信するまでの往復遅延時間、及びドップラー周波数シフトを抽出し、それぞれ計測対象粒子の量(濃度)、計測対象粒子までの距離、及び計測対象粒子の移動速度を算出する。尚、これらの算出は、光学ヘッド部7でスキャンされて大気中に放射されたパルスレーザ光(送信光)の放射方向(視線方向)ごとに行われる。
【0044】
信号処理部5は、さらに、これら算出した計測対象粒子の量(濃度)、計測対象粒子までの距離、及び計測対象粒子の移動速度の変化量から、計測対象粒子を運んでいる気流の変化、すなわち乱気流の詳細を算出する。
【0045】
<表示器>
表示器6は、信号処理部5から受信する表示信号に従って、乱気流の発生、及びその詳細を表示し、警報を発する。
【0046】
<光学ヘッド部>
光学ヘッド部7は、送信部3の後段で、且つ受信部4の前段に設けられている。
【0047】
光学ヘッド部7は、ビームエキスパンダ71と、反射型光位相変調器72と、これらを支持する支持体73とを備えている。そして、ビームエキスパンダ71の中心線上に反射型光位相変調器72の中央が来るように、配置されている。反射型光位相変調器72には、反射型光位相変調器72に印加する電圧を細かく制御する信号処理部5が接続されている。この信号処理部5により、送信部3から送信するレーザ光の照射タイミングと、反射型光位相変調器72による反射方向が制御され、所望の方向へレーザ光を照射してその反射光を受信部4で受信することを実現している。
【0048】
支持体73は、温度変化に伴う寸法変化(熱変形)が非常に小さい材料を使用することが好ましい。この実施例では、熱膨張係数が0±0.19ppm/K(20〜25度)で、室温付近ではほとんど変形しない「LEX−ZERO」(登録商標)を使用する。
【0049】
ビームエキスパンダ71は、大径光ファイバ40aを介して、送信部3のサーキュレータ39のポートP2に接続されており、光サーキュレータ39のポートP2から出力されたパルスレーザ光(送信光)が、大径光ファイバ40aを介して、ビームエキスパンダ71に入力されるようになっている。
【0050】
ビームエキスパンダ71は、入力されたパルスレーザ光(送信光)をコリメート光(平行光線束)のままで一定の倍率に拡大するためのレンズ系であり、ここでは、コア径が30μmの大径光ファイバ40aを介して入力されたパルスレーザ光を、ビーム径が約3cmのコリメート光に拡大している。
【0051】
そして、ビームエキスパンダ71で拡径されたコリメート光は、反射型光位相変調器72に向けて照射するようになっている。
【0052】
≪反射型光位相変調器≫
図2は、反射型光位相変調器72の説明図であり、
図2(A)は、反射型光位相変調器72の断面構造を示す断面図、
図2(B)は、反射型光位相変調器72の外観を示す正面図である。
図3は、反射型光位相変調器72の素子72a毎の配置の説明図であり、
図3(A)は、反射型光位相変調器72の素子72aの配置を説明する斜視図であり、
図3(B)は、反射型光位相変調器72の液晶分子72bの配向を説明する縦断面図である。
【0053】
反射型光位相変調器72は、全体の大きさが直径3cm程度に形成され、Silicon(シリコン)基板74a上に液晶層75aを配置した構造で、アドレス部74と光変調部75とを備えている。
【0054】
より具体的には、アドレス部74は、シリコン基板74aにCMOSによるマトリクス回路74bが形成され、その最上層には、複数の素子電極74cが平面状に等間隔で配置されている。素子電極74cの配置は、例えば、縦横に格子状に規則正しく並べたマトリクス状、あるいは正六角形を隙間なく並べたハニカム状となっている。各素子電極74c間の間隔は、レーザ光の波長より短く、レーザ光の波長の1/2以下がより好ましい。素子電極74cの材料は、レーザ光を高効率で反射するアルミ等が用いられる。
【0055】
光変調部75は、アドレス部74のシリコン基板74aの上方に配置され、上下が液晶配向膜75d、75eで挟まれ周囲がスペーサ75fを含むシール材料75gで囲まれた液晶層75aと、当該液晶層75aの上方に配置され下面に透明電極75bが形成されたガラス基板(透明基板)75cとで積層されている。液晶配向膜75d、75eは、液晶層75a内の液晶分子72b(
図3(B)参照)を基板(ガラス基板75c及びシリコン基板74a)に平行に配向させるためのものである。また、スペーサ75fは、液晶層75aの上下方向の幅を一定にするためのものである。また、この液晶層75aは、それぞれの素子電極74cに対応する領域(素子電極74cの上部領域)がそれぞれ素子72aを構成している。すなわち、液晶層75aに存在する液晶は、素子電極74cごとに素子72a単位で駆動される。
【0056】
尚、ペルチェ素子を用いたペルチェクーラ76が、シリコン基板74aの下部に設けられており、反射型光位相変調器72全体の温度制御を行っている。
【0057】
素子電極74cの電圧は当該素子電極74cに対応する各素子72aごとに独立して制御することができ、これにより、透明電極75bとの間の電圧を各素子72aごとに制御できる。ここで、素子電極74cに電圧を徐々に印加していくと、ある閾値電圧を境にして、
図3(B)に示すように液晶層75a内の素子電極74c直上の液晶分子72b(
図3(B)参照)は基板75c、74aに対して
図3(B)の右側に示す水平状態から徐々に立ち上がり始める。そして、さらに電圧を印加すると、遂には、当該液晶分子72bは
図3(B)の左側に示すように基板75c、74aに対して垂直になる。液晶分子72bが基板75c、74aに対して平行な状態と垂直な状態とでは、液晶層75aの屈折率に差が生じる。このため、液晶層75aを通過するレーザ光は、光路長が変化して位相に差が生じる。別の言い方をすれば、液晶分子72bが基板75c、74aに対して平行な状態と垂直な状態では、レーザ光が液晶分子72b中を通過する通過距離が変化して位相に差が生じる。すなわち、素子72aは、対応する素子電極74cに印加する電圧を制御することにより、入射するレーザ光の位相を変調することができる。尚、素子電極74cに印加する電圧の制御は、素子電極74cに接続されたマトリクス回路74bを介して、FPGA等による制御IC(図示せず)により行われる。また、マトリクス回路74bにはPad74dが設けられている。
【0058】
素子電極74cは、レーザ光を反射する反射部材が用いられており、レーザ光の反射層としても機能する。このため、ガラス基板75c側から入射したレーザ光は、液晶層75aを通過後、液晶層75aの背面側に配置された素子電極74cで反射され、再度液晶層75aを逆方向に通過し、その後、ガラス基板75c側から出射する。このように、素子72aに入射したレーザ光は、素子電極74cに反射され、液晶層75aを往復通過することにより、位相変調が2回(約2倍)行われる。
【0059】
図2(B)に示すように、反射型光位相変調器72は、複数の素子72aで構成され、素子電極74cに対応して素子72aが平面状に等間隔で配置されている。素子電極74c間の間隔はレーザ光の波長より短いため、素子72a間の間隔も同様にレーザ光の波長より短くなっている。
【0060】
反射型光位相変調器72に入射したコリメート光(平行光線束)は、平面状に等間隔で配置された複数の素子72aにより位相変調され反射される。より具体的には、コリメート光(平行光線束)の各平行光線は、それぞれが入射した各素子72aにより位相変調され反射される。ここで、信号処理部5(
図1参照)の制御により、隣接する素子72aの各素子電極74cに印加する電圧を素子電極74cの配置方向へ少しずつ系統的に変化させる(連続的に変化させる)と(例えば少しずつ電圧を上げる、あるいは少しずつ電圧を下げるなど)、隣接する各素子72aが反射後に出射する各平行光線の位相は少しずつ系統的に変化(連続的に変化)する。すなわち、平面状に配置された素子72aにより、各平行光線の位相は2次元的に変調される。そして、少しずつ系統的に位相の変化した反射後の各平行光線は、ホイヘンスの原理により、全体として平行光線束となり、各平行光線の通常の反射方向(鏡により反射する方向)とは異なる所定の方向に全体として放射される。すなわち、少しずつ位相の異なる平行光線が相互に干渉し、通常の直進方向よりも位相の進んでいる方(若しくは遅れている方)へ全体としての平行光線束が傾斜した方向へ放射される。また、この印加する電圧の系統的な変化量を変化させることで、通常の反射方向に対して平行光線束の方向を変化させることができる。この変化の範囲は、通常の反射方向を中心として平行光線束の角度を15°から−15°程度の範囲とし、通常の反射方向を軸心として全周方向とするなど、適宜の範囲とすることができる。
【0061】
図4(A)に示すように、例えば、反射型光位相変調器72の各素子72aの素子電極74cに印加する電圧を右から左にかけて下げると、反射型光位相変調器72に入射し反射後に放射される放射平行光線束の放射方向は左方向に向けられる。逆に、各素子電極74cに印加する電圧を左から右にかけて下げると、放射平行光線束の放射方向は右方向に向けられる(
図4(B)参照)。同様に、各素子電極74cに印加する電圧を上から下にかけて下げると、放射平行光線束の放射方向は下方向に向けられ(
図4(C)参照)、各素子電極74cに印加する電圧を下から上にかけて下げると、放射平行光線束の放射方向は上方向に向けられる(
図4(D)参照)。
【0062】
以上の構成により、素子72aの素子電極74cに印加する電圧を信号処理部5で系統的に制御でき、反射型光位相変調器72に入射し反射後に放射される放射平行光線束の放射方向の制御が可能となる。この放射平行光線束の放射方向は、連続的、且つ任意に変更することができる。また、電気的な制御により、放射平行光線束の放射方向の制御がなされるため、機械的に照射方向を変更するよりも高速で放射方向を変更すること(高速スキャン)が可能である。例えば、1秒間に1000回程度の放射方向の変更が可能である。さらに、機械的な機構がないため故障の起きる恐れが少なく、航空機に搭載したような場合でも振動により精度に狂いが生じることを防止できる。尚、放射平行光線束の放射方向の制御は、位相制御のされていない各平行光線の反射方向とのなす角が15度以内で可能である。
【0063】
また、反射型光位相変調器72は、大気中に浮遊する計測対象粒子により散乱された散乱光を受光するためにも用いられる。反射型光位相変調器72は、放射平行光線束を放射後、暫くその状態を保持し(放射方向(視線方向)を向いたまま)、散乱光が戻ってくるのを待機して待つ。その後、反射型光位相変調器72が散乱光を受光すると、受光した散乱光は、上述した光の経路を逆に辿って、ビームエキスパンダ71に送られるようになっている(
図1〜4参照)。このため、大気中に浮遊する計測対象粒子の動きを素早く検知することができる。
【0064】
光学ヘッド部7の支持体73に、温度変化に伴う寸法変化(熱変形)が非常に小さい材料を使用し、且つ反射型光位相変調器72全体の温度制御に、ペルチェ素子を用いたペルチェクーラ76を使用しているため、航空機等の温度変化の激しい環境下に光学ヘッド部7が設置されても、その性能は害されにくい。
【0065】
<航空機搭載型ドップラーライダー装置>
次に航空機搭載型ドップラーライダー装置と、これを備えた航空機について説明する。
図5(A)は、ドップラーライダー装置1を搭載した航空機10の説明図の光学ヘッド部の配置を説明する構成図であり、
図5(B)は、対気速度補正を説明する説明図である。
【0066】
≪マルチ光学ヘッド部≫
航空機に搭載されたドップラーライダー装置1(
図1参照)は、
図5(A)に示すように、ビームエキスパンダ71と、反射型光位相変調器72と、これらを支持する支持体73とを備えた光学ヘッド部7が、航空機10の先端部のレドーム11内に2セット設置される。
【0067】
これら2セットの光学ヘッド部7は、左右対称に配置され、これら光学ヘッド部7の各反射型光位相変調器72は、前方あるいは斜め前方を向いている。そして、ビームエキスパンダ71に対する反射型光位相変調器72の向く方向は、これら2セットの光学ヘッド部7で一致しないようになっている。このため、これら2セットの光学ヘッド部7が放射する放射平行光線束は、異なる方向に放射される。
【0068】
ここで、ビームエキスパンダ71から反射型光位相変調器72に入射し反射後に放射される放射平行光線束は、ビームエキスパンダ71が障害物となって、ビームエキスパンダ71の後方には放射することができない。このため、光学ヘッド部7には、ビームエキスパンダ71の後方に、乱気流の発生や詳細の観測ができない観測不可領域87が存在する。
【0069】
しかし、上述の構成にすることで、それぞれの光学ヘッド7に存在する観測不可領域87は、他方側の光学ヘッド7により観測することが可能になる。これにより、航空機10の進行方向観測範囲85に加えて、進行方向側の広い範囲86で乱気流の観測が可能になる。
【0070】
尚、これら2セットの光学ヘッド部7は、上下対称に配置してもよく、また、光学ヘッド部7を3セット以上設置してもよい。
【0071】
≪対気速度補正≫
図5(B)に示すように、航空機10は、較正対気速度を取得する対気速度取得手段(速度計)83と、演算手段(信号処理部5(
図1参照))と、計測手段(信号処理部5(
図1参照))を備えている。
航空機と大気との相対速度である対気速度は、航空機に搭載されたピトー管と静圧孔の圧力から求めることができる。ピトー管により測定される全圧をPt、静圧孔から測定される静圧をPs、空気の密度をρ、対気速度をVとすると、Vは、下記の[数1]によって求まる。
【0072】
[数1]
V=(2(Pt−Ps)/ρ)
1/2
対気速度取得手段83は、上記のVの値に対して、ピトー管の取り付け位置誤差や計測誤差の補正を行って、較正対気速度を取得する。
【0073】
演算手段として機能する信号処理部5は、航空機10の対気速度取得手段83が取得した航空機の進行方向の較正対気速度を取得する。そして、
図5(B)に示すように、反射型光位相変調器72から放射される放射平行光線束の放射方向(視線方向)81(81a〜81d)と航空機10の進行方向82とのなす角θに基づいて、較正対気速度の視線方向成分を導出する。
【0074】
計測手段として機能する信号処理部5は、上述した乱気流の詳細を算出する演算により、視線方向からの散乱光のドップラーシフトに基づいて、風に乗って移動する計測対象粒子の移動速度の視線方向成分を計測する。
【0075】
演算手段として機能する信号処理部5は、風に乗って移動する計測対象粒子の移動速度の視線方向成分から、較正対気速度の視線方向成分を差し引く補正を行って、風の視線方向の風速を導出する。
【0076】
尚、航空機に搭載されるドップラーライダー装置1に使用されるレーザ光源2(
図1参照)の出力には限界がある。このため、計測対象粒子からの散乱光を計測することが可能な観測範囲(レンジ)は一定の範囲に限定され、風の視線方向の風速もこの観測範囲(レンジ)に存在する風に関するものに限定される(
図5(B)参照)。そこで、航空機に搭載されるドップラーライダー装置1は、航空機の進行方向に沿って、観測範囲(レンジ)を更新しながら一定周期で繰り返し計測を行う。
【0077】
以上の構成により、航空機に搭載されたドップラーライダー装置1は、観測範囲(レンジ)を更新しながら、航空機の対気速度の補正がなされた風の視線方向の風速を取得することができる。
【0078】
≪乱気流警報≫
航空機に搭載されたドップラーライダー装置1は、複数の異なる視線方向の風速に基づいて乱気流の発生を検知する検知手段(信号処理部5(
図1参照))と、検知された乱気流の発生した方位、乱気流までの距離、及び乱気流の規模並びに強さを含む乱気流の詳細を算出する算出手段(信号処理部5(
図1参照))と、乱気流の詳細を航空機のコックピット内に設置された表示器6(
図1参照)に表示させるために出力する出力手段(信号処理部5(
図1参照))とを備えている。
【0079】
検知手段が乱気流の発生を検知すると、表示器6には乱気流の発生を知らせる警報が表示される。その後、算出手段が算出した乱気流の詳細が、表示器6に続けて表示される。
【0080】
図6は、表示器6に表示する画面90を示す画面構成図である。画面90には、航空機10の操縦に必要な様々な表示が行われている。そのうち、航空機の前方を表示する前方表示領域91に、乱気流が存在する領域を示す乱気流領域画像92を表示する。乱気流領域画像92は、半透明又は不透明な塗りつぶし表示とし、このままの方向へ飛行すると乱気流に突入するのか、あるいはどの程度乱気流から離れるのかを視覚的に認識できるようにしている。また、右下の警告表示領域に警告表示画像93を表示する。この警告表示画像93は、警告文に加えて、乱気流の存在する位置までの距離や角度、および乱気流の危険レベル等を表示する。このようにして、乱気流の存在と乱気流の状況を航空機10の操縦士に明確に通知する。
【0081】
以上の構成により、航空機のコックピット内の操縦士は、表示器6を通して、乱気流の発生、及びその詳細を知ることができ、回避行動に早急に着手でき、事故防止に繋がる。
【0082】
また、航空機10が着陸する際に、先に着陸した航空機10による後方乱気流(Wake)が着陸行路上に残っているか否かをリアルタイムに把握できる。従って、後方乱気流の存在を確認しつつ着陸行路へ進み、前の航空機10による後方乱気流が十分に弱まる前に後方乱気流に到達しそうであれば一旦上昇して着陸を見合わせるといったことができる。これにより、前の航空機10により生じた後方乱気流によって着陸寸前に意図しない気体の揺れが生じることを防止でき、着陸時の事故をより着実に防止することができる。
【0083】
また、このようにして前の航空機10による後方乱気流の有無を操縦士が直接確認できることにより、後方乱気流が生じて無ければすぐに着陸するといったことができるため、一般的に後方乱気流が消滅するのに十分な時間を空けてから次機の着陸を管制官から案内することで生じる着陸インターバルを短くすることができ、一滑走路での航空機10の離着陸数を増加させることができる。
【0084】
尚、この発明は本実施形態に限られず他の様々な実施形態とすることができる。