【実施例】
【0216】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0217】
<1.ブタ由来のα1鎖の切断における、塩濃度の影響>
塩化ナトリウムの濃度が0mM、200mM、1000mM、1500mMまたは2000mMである50mM クエン酸緩衝液(pH3.0)を準備した。なお、当該水溶液の溶媒としては、水を用いた。
【0218】
アクチニダインを活性化するため、10mM ジチオスレイトールを含む50mM リン酸緩衝液(pH6.5)に対し、アクチニダインを溶解し、90分間、25℃にて静置した。なお、アクチニダインとしては、周知の方法にて精製したものを利用した(例えば、非特許文献2参照)。
【0219】
次いで、塩を含む50mM クエン酸緩衝液(pH3.0)に対し、ブタ由来のI型コラーゲンを溶解した。アクチニダインを含む水溶液と、ブタ由来のI型コラーゲンを含む当該溶液と、を10日間以上、20℃にて接触させて、I型コラーゲンの分解物を作製した。なお、ブタ由来のI型コラーゲンは、周知の方法に基づいて精製した(例えば、非特許文献2参照)。
【0220】
上述した分解物をポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、I型コラーゲンの分解物を分離した。
【0221】
次いで、I型コラーゲンの分解物を、常法によりPVDF(Polyvinylidene Difluoride)膜へ転写した。そして、PVDF膜へ転写されたα1鎖の分解物のアミノ末端のアミノ酸配列を、エドマン分解法によって決定した。
【0222】
なお、実際のエドマン分析は、アプロサイエンス株式会社、または、近畿大学医学部分析機器共同研究室に依頼して、周知の方法にしたがって行った。
【0223】
表1に、塩濃度が0mM、200mM、1000mM、1500mMまたは2000mMの場合のα1鎖の分解物のアミノ末端およびその近傍のアミノ酸配列を示す。
【0224】
表1に示すように、塩濃度が異なると、α1鎖内の切断箇所が異なることが明らかになった。より具体的には、塩濃度が低いと(例えば、0mM)、トリプルヘリカルドメインの外側で切断が生じ、塩濃度が高いと(例えば、200mM以上)、トリプルヘリカルドメインの内側で切断が生じることが明らかになった。
【0225】
塩濃度が高いときの切断箇所は、本発明者が見出した新規な切断箇所であった。
【0226】
【表1】
なお、塩濃度を変化させると、分解物中に含まれる、配列番号2にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、配列番号3にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、の比率が反応時間、反応pH、反応温度などの条件で異なった。分解物を大量に調製しようとすると、塩濃度が2000mMを超えるとNaClが不溶化した。分解物を大量に調製する場合、塩濃度の上限値を500mMまたは800mMに設定することが好ましいと考えられる。
【0227】
<2.ラットおよびニワトリ由来のα1鎖の切断における、塩濃度の影響>
塩化ナトリウムの濃度が0mM、2000mMである50mM クエン酸緩衝液(pH3.0)を準備した。なお、当該水溶液の溶媒としては、水を用いた。
【0228】
アクチニダインを活性化するため、10mM ジチオスレイトールを含む50mM リン酸緩衝液(pH6.5)に対し、アクチニダインを溶解し、90分間、25℃にて静置した。
【0229】
次いで、塩を含む50mM クエン酸緩衝液(pH3.0)に対し、ラット尾部由来のI型コラーゲン、または、ニワトリ皮部由来のI型コラーゲンを溶解した。アクチニダインを含む水溶液と、ラット尾部由来のI型コラーゲン、または、ニワトリ皮部由来のI型コラーゲンと、を10日間以上、20℃にて接触させて、I型コラーゲンの分解物を作製した。なお、アクチニダインとしては、上述した<1>の実施例にて用いたものと同じものを用いた。また、ラット尾部由来のI型コラーゲン、および、ニワトリ皮部由来のI型コラーゲンは、周知の方法に基づいて精製した(例えば、非特許文献2参照)。
【0230】
上述した分解物をポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、I型コラーゲンの分解物を分離した。
【0231】
次いで、I型コラーゲンの分解物を、常法によりPVDF(Polyvinylidene Difluoride)膜へ転写した。そして、PVDF膜へ転写されたα1鎖の分解物のアミノ末端のアミノ酸配列を、エドマン分解法によって決定した。
【0232】
なお、実際のエドマン分析は、アプロサイエンス株式会社、または、近畿大学医学部分析機器共同研究室に依頼して、周知の方法にしたがって行った。
【0233】
表2に、塩濃度が0mMおよび2000mMの場合のラット由来のα1鎖の分解物のアミノ末端およびその近傍のアミノ酸配列、および、未分解であるラット由来のα1鎖の部分構造(塩濃度の欄が「−」であるデータを参照)を示す。
【0234】
表3に、塩濃度が0mMおよび2000mMの場合のニワトリ由来のα1鎖の分解物のアミノ末端およびその近傍のアミノ酸配列、および、未分解であるニワトリ由来のα1鎖の部分構造(塩濃度の欄が「−」であるデータを参照)を示す。
【0235】
表2および3に示すように、異なる種に由来するα1鎖であっても、塩濃度が低いと、(例えば、0mM)、トリプルヘリカルドメインの外側で切断が生じ、塩濃度が高いと、トリプルヘリカルドメインの内側で切断が生じやすいことが明らかになった。
【0236】
塩濃度が高いときの切断箇所は、本発明者が見出した新規な切断箇所であった。
【0237】
なお、塩濃度が2000mMの場合、分解物中に含まれる、配列番号24にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、配列番号5にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、の比率が、反応時間、反応pH、反応温度などの条件で異なった。
【0238】
【表2】
【0239】
【表3】
<3.塩の種類に関する検討>
塩が添加されていない溶液、MgCl
2の濃度が500mMである水溶液、および、KClの濃度が200mMである水溶液を準備した。なお、当該水溶液の溶媒としては、水を用いた。
【0240】
上記水溶液の各々に対し、アクチニダインと、ブタ由来のI型コラーゲンとを混合した後、10日以上、20℃にて反応させて、I型コラーゲンの分解物を作製した。なお、アクチニダインとしては、上述した<1>の実施例にて用いたものと同じものを用いた。また、ブタ由来のI型コラーゲンは、周知の方法に基づいて精製した(例えば、非特許文献2参照)。
【0241】
上述した分解物の各々をポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、α1鎖の分解物を分離した。
【0242】
次いで、I型コラーゲンの分解物を、常法によりPVDF(Polyvinylidene Difluoride)膜へ転写した。そして、PVDF膜へ転写されたα1鎖の分解物のアミノ末端のアミノ酸配列を、エドマン分解法によって決定した。
【0243】
なお、実際のエドマン分析は、アプロサイエンス株式会社、または、近畿大学医学部分析機器共同研究室に依頼して、周知の方法にしたがって行った。
【0244】
表4に、塩濃度0mMである水溶液を用いた場合、MgCl
2の濃度が500mMである水溶液を用いた場合、および、KClの濃度が200mMである水溶液を用いた場合のブタ由来のα1鎖の分解物のアミノ末端およびその近傍のアミノ酸配列、および、未分解であるブタ由来のα1鎖の部分構造(塩濃度の欄が「−」であるデータを参照)を示す。
【0245】
表4に示すように、異なる種類の塩であっても、塩濃度が低いと(例えば、0mM)、トリプルヘリカルドメインの外側で切断が生じ、塩濃度が高いと(例えば、200mM KCl、500mM MgCl
2)、トリプルヘリカルドメインの内側で切断が生じることが明らかになった。なお、200mM KClと500mM MgCl
2の場合、分解物中に含まれる、配列番号2にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、配列番号9にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、の比率が、反応時間、反応pH、反応温度などの条件で異なった。
【0246】
異なる種類の塩を用いた場合の切断箇所は、本発明者が見出した新規な切断箇所であった。
【0247】
【表4】
<4.システインプロテアーゼの種類に関する検討>
本実施例では、システインプロテアーゼの一種であるカテプシンKを用いて、高塩濃度条件下におけるα1鎖の切断箇所を検討した。以下に、試験方法および試験結果を説明する。
【0248】
塩化ナトリウムの濃度が2000mMである50mM クエン酸緩衝液(pH3.0)を準備した。なお、当該水溶液の溶媒としては、水を用いた。
【0249】
カテプシンKを活性化するため、10mM ジチオスレイトールを含む50mM リン酸緩衝液(pH6.5)に対し、カテプシンKを溶解し、45分間、25℃にて静置した。なお、カテプシンKとしては、市販のものを利用した。
【0250】
次いで、塩を含む50mM クエン酸緩衝液(pH3.0)に対し、ニワトリ由来のI型コラーゲン、または、ブタ由来のI型コラーゲンを溶解した。カテプシンKを含む水溶液と、ニワトリ由来のI型コラーゲン、または、ブタ由来のI型コラーゲンを含む当該溶液と、を10日間以上、20℃にて接触させて、I型コラーゲンの分解物を作製した。なお、ニワトリ由来のI型コラーゲン、および、ブタ由来のI型コラーゲンは、周知の方法に基づいて精製した(例えば、非特許文献2参照)。
【0251】
上述した分解物をポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、I型コラーゲンの分解物を分離した。
【0252】
次いで、I型コラーゲンの分解物を、常法によりPVDF(Polyvinylidene Difluoride)膜へ転写した。そして、PVDF膜へ転写されたα1鎖の分解物のアミノ末端のアミノ酸配列を、エドマン分解法によって決定した。
【0253】
なお、実際のエドマン分析は、アプロサイエンス株式会社、または、近畿大学医学部分析機器共同研究室に依頼して、周知の方法にしたがって行った。
【0254】
表5に、ブタ由来のα1鎖の分解物のアミノ末端およびその近傍のアミノ酸配列、および、未分解であるブタ由来のα1鎖の部分構造(塩濃度の欄が「−」であるデータを参照)を示す。
【0255】
表5に示すように、システインプロテアーゼの一種であるカテプシンKであっても、塩濃度が高いと、トリプルヘリカルドメインの内側で切断が生じることが明らかになった。
【0256】
また、表5に示すように、システインプロテアーゼの一種であるカテプシンKの場合には、複数種類の切断箇所が確認された。
【0257】
なお、ニワトリ由来のI型コラーゲンの分解物の場合、ニワトリ由来のα1鎖の分解物は、下記配列番号11および12に対応するニワトリ由来のα1鎖の分解物と、下記配列番号10におけるアミノ末端から数えて10番目の「S」と11番目の「G」との間の化学結合が切断されたものに対応するニワトリ由来のα1鎖の分解物と、が確認された。
【0258】
【表5】
<5.ブタ由来のα1鎖の切断における、透析塩濃度の影響>
透析チューブにアクチニダインを入れ、当該アクチニダインを、塩化ナトリウムの濃度が2000mMである透析外液に対して透析した。その後、透析外液を蒸留水に変えて透析を続けてアクチニダインを得た。なお、アクチニダインとしては、周知の方法にて精製したものを利用した(例えば、非特許文献2参照)。アクチニダインを活性化するため、10mM ジチオスレイトールを含む50mM リン酸緩衝液(pH6.5)に対し、アクチニダインを溶解し、90分間、25℃にて静置した。
【0259】
次いで、塩を含む50mM クエン酸緩衝液(pH3.0)に対し、ブタ由来のI型コラーゲンを溶解した。アクチニダインを含む水溶液と、ブタ由来のI型コラーゲンと、を3日間以上、20℃にて接触させて、I型コラーゲンの分解物を作製した。また、ブタ由来のI型コラーゲンは、周知の方法に基づいて精製した(例えば、非特許文献2参照)。
【0260】
上述した分解物をポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、I型コラーゲンの分解物を分離した。
【0261】
次いで、I型コラーゲンの分解物を、常法によりPVDF(Polyvinylidene Difluoride)膜へ転写した。そして、PVDF膜へ転写されたα1鎖の分解物のアミノ末端のアミノ酸配列を、エドマン分解法によって決定した。
【0262】
なお、実際のエドマン分析は、アプロサイエンス株式会社、または、近畿大学医学部分析機器共同研究室に依頼して、周知の方法にしたがって行った。
【0263】
表6に、透析塩濃度が2000mMの場合のブタ由来のα1鎖の分解物のアミノ末端およびその近傍のアミノ酸配列、および、未分解であるブタ由来のα1鎖の部分構造(塩濃度の欄が「−」であるデータを参照)を示す。
【0264】
表6に示すように、透析塩濃度が高いと、トリプルヘリカルドメインの外側あるいは内側で切断が生じることが明らかになった。なお、2000mMの場合、分解物中に含まれる、配列番号26にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、配列番号27にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、配列番号15にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、の比率が、反応時間、反応pH、反応温度などの条件で異なった。
【0265】
塩濃度が高いときの切断箇所は、本発明者が見出した新規な切断箇所が含まれていた。
【0266】
【表6】
<6.ヒト由来のα1鎖の切断における、透析塩濃度の影響>
透析チューブにアクチニダインを入れ、当該アクチニダインを、塩化ナトリウムの濃度が2000mMである透析外液に対して透析した。その後、透析外液を蒸留水に変えて透析を続けてアクチニダインを得た。なお、アクチニダインとしては、周知の方法にて精製したものを利用した(例えば、非特許文献2参照)。アクチニダインを活性化するため、10mM ジチオスレイトールを含む50mM リン酸緩衝液(pH6.5)に対し、アクチニダインを溶解し、90分間、25℃にて静置した。
【0267】
次いで、塩を含む50mM クエン酸緩衝液(pH3.5)に対し、ヒト由来のI型コラーゲンを溶解した。アクチニダインを含む水溶液と、ヒト由来のI型コラーゲンと、を10日間以上、20℃にて接触させて、I型コラーゲンの分解物を作製した。また、ヒト由来のI型コラーゲンは、周知の方法に基づいて精製した(例えば、非特許文献2参照)。
【0268】
上述した分解物をポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、I型コラーゲンの分解物を分離した。
【0269】
次いで、I型コラーゲンの分解物を、常法によりPVDF(Polyvinylidene Difluoride)膜へ転写した。そして、PVDF膜へ転写されたα1鎖の分解物のアミノ末端のアミノ酸配列を、エドマン分解法によって決定した。
【0270】
なお、実際のエドマン分析は、アプロサイエンス株式会社、または、近畿大学医学部分析機器共同研究室に依頼して、周知の方法にしたがって行った。
【0271】
表7に示すように、透析塩濃度が高いと、トリプルヘリカルドメインの外側あるいは内側で切断が生じることが明らかになった。なお、2000mMの場合、分解物中に含まれる、配列番号29にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、配列番号30にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、配列番号16にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、の比率が、反応時間、反応pH、反応温度などの条件で異なった。
【0272】
塩濃度が高いときの切断箇所は、本発明者が見出した新規な切断箇所が含まれていた。
【0273】
【表7】
<7.魚類由来のα1鎖の切断>
透析チューブにアクチニダインを入れ、当該アクチニダインを、塩化ナトリウムの濃度が2000mMである透析外液に対して透析した。その後、透析外液を蒸留水に変えて透析を続けてアクチニダインを得た。アクチニダインを活性化するため、10mM ジチオスレイトールを含む50mM リン酸緩衝液(pH6.5)に対し、アクチニダインを溶解し、90分間、25℃にて静置した。
【0274】
次いで、塩を含む50mM クエン酸緩衝液(pH3.0)に対し、魚類(具体的には、キハダマグロ)由来のI型コラーゲンを溶解した。アクチニダインを含む水溶液と、魚類由来のI型コラーゲンと、を3日間以上、20℃にて接触させて、I型コラーゲンの分解物を作製した。なお、アクチニダインとしては、上述した<1>の実施例にて用いたものと同じものを用いた。また、魚類由来のI型コラーゲンは、周知の方法に基づいて精製した(例えば、非特許文献2参照)。
【0275】
上述した分解物をポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、I型コラーゲンの分解物を分離した。
【0276】
次いで、I型コラーゲンの分解物を、常法によりPVDF(Polyvinylidene Difluoride)膜へ転写した。そして、PVDF膜へ転写されたα1鎖(魚類由来のI型コラーゲン)の分解物のアミノ末端のアミノ酸配列を、エドマン分解法によって決定した。
【0277】
なお、実際のエドマン分析は、アプロサイエンス株式会社、または、近畿大学医学部分析機器共同研究室に依頼して、周知の方法にしたがって行った。
【0278】
表8に、透析外液の塩濃度が2000mMの場合の、魚類由来のα1鎖の分解物のアミノ末端およびその近傍のアミノ酸配列を示す。なお、表8に示すように、α1鎖(魚類由来のI型コラーゲン)の分解物としては3種類検出され、これらの分解物の各々のアミノ末端のアミノ酸配列として、配列番号18、配列番号19および配列番号31に示すアミノ酸配列を同定することに成功した。
【0279】
【表8】
<8.ヒト由来のα2鎖の切断>
<4>と同様にカテプシンKを活性化するため、10mM ジチオスレイトールを含む50mM リン酸緩衝液(pH6.5)に対し、カテプシンKを溶解し、45分間、25℃にて静置した。
【0280】
次いで、塩を含む50mM リン酸緩衝液(pH6.0)に対し、ヒト由来のI型コラーゲンを溶解した。カテプシンKを含む水溶液と、ヒト由来のI型コラーゲンと、を10日間以上、20℃にて接触させて、I型コラーゲンの分解物を作製した。なお、カテプシンKとしては、上述した<1>の実施例にて用いたものと同じものを用いた。また、ヒト由来のI型コラーゲンは、周知の方法に基づいて精製した(例えば、非特許文献2参照)。
【0281】
上述した分解物をポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、I型コラーゲンの分解物を分離した。
【0282】
次いで、I型コラーゲンの分解物を、常法によりPVDF(Polyvinylidene Difluoride)膜へ転写した。そして、PVDF膜へ転写されたα2鎖(ヒト由来のI型コラーゲン)の分解物のアミノ末端のアミノ酸配列を、エドマン分解法によって決定した。
【0283】
なお、実際のエドマン分析は、アプロサイエンス株式会社、または、近畿大学医学部分析機器共同研究室に依頼して、周知の方法にしたがって行った。
【0284】
表9に、反応液の塩濃度が200mMの場合の、ヒト由来のα2鎖の分解物のアミノ末端およびその近傍のアミノ酸配列を示す。
【0285】
【表9】
<9.ニワトリ由来のα2鎖の切断>
透析チューブにアクチニダインを入れ、当該アクチニダインを、塩化ナトリウムの濃度が2000mMである透析外液に対して透析した。その後、透析外液を蒸留水に変えて透析を続けてアクチニダインを得た。アクチニダインを活性化するため、10mM ジチオスレイトールを含む50mM リン酸緩衝液(pH6.5)に対し、アクチニダインを溶解し、90分間、25℃にて静置した。
【0286】
次いで、塩を含む50mM クエン酸緩衝液(pH3.0)に対し、ニワトリ由来のI型コラーゲンを溶解した。アクチニダインを含む水溶液と、ニワトリ由来のI型コラーゲンと、を7日間以上、20℃にて接触させて、I型コラーゲンの分解物を作製した。なお、アクチニダインとしては、上述した<1>の実施例にて用いたものと同じものを用いた。また、ニワトリ由来のI型コラーゲンは、周知の方法に基づいて精製した(例えば、非特許文献2参照)。
【0287】
上述した分解物をポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、I型コラーゲンの分解物を分離した。
【0288】
次いで、I型コラーゲンの分解物を、常法によりPVDF(Polyvinylidene Difluoride)膜へ転写した。そして、PVDF膜へ転写されたα2鎖(ニワトリ由来のI型コラーゲン)の分解物のアミノ末端のアミノ酸配列を、エドマン分解法によって決定した。
【0289】
なお、実際のエドマン分析は、アプロサイエンス株式会社、または、近畿大学医学部分析機器共同研究室に依頼して、周知の方法にしたがって行った。
【0290】
表10に、透析外液の塩濃度が2000mMの場合の、ニワトリ由来のα2鎖の分解物のアミノ末端およびその近傍のアミノ酸配列を示す。
【0291】
【表10】
表に示すように、異なる種に由来するα1鎖またはα2鎖であっても、塩濃度が高いと、トリプルヘリカルドメインの内側で切断が生じることが明らかになった。塩濃度が高いときの切断箇所は、本発明者が見出した新規な切断箇所であった。
【0292】
<10.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験1>
(培養皿)
上述したコラーゲンの分解物(上述の透析塩濃度2000mMにおける、ブタ由来のコラーゲンの分解物、すなわち、配列番号26および配列番号27にて示されるアミノ酸配列((1)、(2)および(3)にて示されるアミノ酸配列に相当)を有する分解物の混合物)と接触させた、市販の培養皿を試験に用いた。具体的には、35mm培養皿に10mg/mLのコラーゲンの分解物の水溶液を60μL添加して、培養皿に十分になじませて室温で5時間静置し、コラーゲン分解物コート培養皿とした。
【0293】
また、10mg/mLのコラーゲンの分解物の水溶液を、5倍濃縮したDMEM培地(日水製薬社製)と再構成用緩衝液(50mM 水酸化ナトリウム、260mM 炭酸水素ナトリウム、200mM HEPES)とを混合し、この混合液を35mm培養皿に200μL添加して、培養皿に均一になるよう広げてコートして、37℃のインキュベーター内で30分間静置した。これを、コラーゲン分解物ゲル培養皿とした。
【0294】
また、35mm培養皿に0.1%ゼラチン溶液を1mL添加して、培養皿に十分になじませて室温で4時間静置した。4時間後にゼラチン溶液を除去して、ゼラチンコート培養皿とした。
【0295】
(マウスES細胞)
山梨大学生命環境学部生命工学科 若山照彦教授から譲渡されたマウスES細胞を使用した。このマウスES細胞は、GFP(green fluorescent protein)標識されており、GFPタンパク質をコードしている遺伝子が染色体中に挿入されているものである。
【0296】
(フィーダー細胞の調製)
マイトマイシン処理したマウス胎児由来線維芽細胞(Murine Embryonic Fibroblasts:MEF)(CMPMEFCF、DSファーマバイオメディカル製)を1×10
5個/mLに調製した。ゼラチンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿、コラーゲン分解物ゲル培養皿に、MEFをそれぞれ7×10
4個播種して、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)を用いて、37℃、5%CO
2の条件下にて1日間培養した。
【0297】
(胚様体の形成)
500U/mLの白血病抑制因子(Leukemia Inhibitory Factor:LIF、商品番号199−16051、和光純薬工業株式会社)および20%ウシ胎児血清を含むDMEM(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(+))」と称する。)を用いて、マウスES細胞2.5×10
4個/mLを調製した。あらかじめMEFを播種しておいたゼラチンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿、およびコラーゲン分解物ゲル培養皿に、マウスES細胞懸濁液2mLをそれぞれ播種して、DMEM培地(LIF(+))を用いて、37℃、5%CO
2の条件下にて培養した(培養条件:MEF(+)且つLIF(+))。ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞を本実験のコントロールとした。なお、実施例において、「MEF(+)」はMEF共存下での培養、「MEF(−)」はMEF非共存下での培養を示す。また、「LIF(+)」はLIF共存下での培養、「LIF(−)」はLIF非共存下での培養を示す。
【0298】
培養期間中は、毎日、新しいDMEM培地(LIF(+))と培地を交換した。
【0299】
培養開始3日後に、位相差顕微鏡下でES細胞の形態を観察した。各細胞の形態を、
図1に示す。
図1中、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(b)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物ゲル培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図である。
【0300】
ゼラチンコート培養皿において培養した場合、MEFはゼラチンコート培養皿の底面に接着して伸展していた。その間にES細胞がコロニーを形成していた。一般的なES細胞の培養所見と同じ形態であった(
図1の(a))。
【0301】
コラーゲン分解物コート培養皿において培養した場合、MEFはコラーゲン分解物コート培養皿の底面に接着していなかった。観察された細胞は浮遊した3次元細胞塊(胚様体)を形成しており、ゼラチンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見とはまったく異なる形態であった(
図1の(b))。
【0302】
コラーゲン分解物ゲル培養皿において培養した場合、MEFはコラーゲン分解物ゲル培養皿の底面に接着していた。観察された細胞はコラーゲン分解物ゲルに接着して3次元細胞塊(胚様体)を形成していた。ゼラチンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見とはまったく異なる形態であった。コラーゲン分解物ゲルに接着している胚様体から細胞が伸展して別の胚様体に繋がっているようであった(
図1の(c))。
【0303】
コラーゲン分解物コート培養皿またはコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞の形態は、ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞の形態とは全く異なっていた。ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞は、一般的なES細胞のコロニーを形成しただけであったが、コラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞は、LIF添加にも関わらず、浮遊した胚様体を形成した。つまり、コラーゲン分解物コート培養皿においてES細胞を培養することは、胚様体を形成させる新たな方法となりうることが示された。一方、コラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞は、これまでに観察されていないような胚様体が、LIF存在下で形成された。具体的には、胚様体は、コラーゲン分解物ゲルに接着していることが示された。
【0304】
同様の実験を、LIFを含まず且つ20%ウシ胎児血清を含むDMEM培地(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(−))」と称する。)を用いて行った。具体的には、DMEM培地(LIF(−))を用いて、マウスES細胞2.5×10
4個/mLを調製した。あらかじめMEFを播種しておいたゼラチンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿、コラーゲン分解物ゲル培養皿に、マウスES細胞懸濁液2mLをそれぞれ播種して、DMEM培地(LIF(−))を用いて、37℃、5%CO
2の条件下にて培養した(培養条件:MEF(+)且つLIF(−))。ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞を本実験のコントロールとした。
【0305】
培養期間中は、毎日、新しいDMEM培地(LIF(−))と培地を交換した。
【0306】
培養開始3日後に、位相差顕微鏡下でES細胞の形態を観察した。各細胞の形態を、
図2に示す。
図2中、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(−))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(b)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(−))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物ゲル培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(−))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図である。
【0307】
ゼラチンコート培養皿において培養した場合、MEFはゼラチンコート培養皿の底面に接着して伸展していた。その間にES細胞がコロニーを形成していた。一般的なES細胞の培養所見と同じ形態であった(
図2の(a))。
【0308】
コラーゲン分解物コート培養皿において培養した場合、MEFはコラーゲン分解物コート培養皿の底面に接着していなかった。観察された細胞は浮遊した3次元細胞塊(胚様体)を形成しており、ゼラチンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見とはまったく異なる形態であった(
図2の(b))。
【0309】
コラーゲン分解物ゲル培養皿において培養した場合、MEFはコラーゲン分解物ゲル培養皿の底面に接着していた。観察された細胞はコラーゲン分解物ゲルに接着して3次元細胞塊(胚様体)を形成していた。ゼラチンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見とはまったく異なる形態であった。コラーゲン分解物ゲルに接着している胚様体から細胞が伸展して別の胚様体に繋がっているようであった(
図2の(c))。
【0310】
DMEM培地(LIF(−))を用いてコラーゲン分解物コート培養皿またはコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞の形態は、ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞の形態とは全く異なっていた。しかし、DMEM培地(LIF(+))を用いてコラーゲン分解物コート培養皿またはコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞と比較して、形態学的な所見に明確な違いはなかった。ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞は、一般的なES細胞のコロニーを形成しただけであったが、コラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞は、LIFを添加していないにも関わらず、浮遊した胚様体を形成した。つまり、コラーゲン分解物コート培養皿においてES細胞を培養することは、胚様体を形成させる新たな方法となりうることが示された。一方、コラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞は、これまでに観察されていないような胚様体が、LIF非存在下で形成された。具体的には、胚様体は、コラーゲン分解物ゲルに接着していることが示された。
【0311】
<11.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験2>
次に、ゼラチンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿またはコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞の未分化能を調べるため、細胞内在性のアルカリ性ホスファターゼ活性を調べた。
【0312】
500U/mLのLIFおよび20%ウシ胎児血清を含むDMEM(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(+))」と称する。)を用いて、マウスES細胞2.5×10
4個/mLを調製した。あらかじめMEFを播種しておいたゼラチンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿、およびコラーゲン分解物ゲル培養皿に、マウスES細胞懸濁液2mLをそれぞれ播種して、DMEM培地(LIF(+))を用いて、37℃、5%CO
2の条件下にて培養した(培養条件:MEF(+)且つLIF(+))。ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞を本実験のコントロールとした。培養期間中は、毎日、新しいDMEM培地(LIF(+))と培地を交換した。
【0313】
2日間培養後に、細胞の培養上清を取り除き、滅菌PBSで洗浄した。引き続き、細胞を固定するために4%パラホルムアルデヒド溶液を細胞が浸るまで加え、室温で30分間静置した。その後、滅菌蒸留水を細胞が浸るまで加えて洗浄する操作を2回繰り返した。洗浄液を取り除いた後、TRACP&ALP double-stain kit(商品コードMK300、タカラバイオ社製)付属のアルカリ性ホスファターゼ染色液を培養皿に250μL加えて37℃で45分間静置した。反応を停止させるため、染色液を取り除いて滅菌蒸留水で3回洗浄した。結果を
図3に示す。
【0314】
図3は、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件において2日間培養したES細胞の細胞内在性のアルカリ性ホスファターゼ活性を調べた結果を示す図であり、
図3中、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて2日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性の有無を示す図であり、(b)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて2日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性の有無を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物ゲル培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて2日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性の有無を示す図である。
【0315】
コラーゲン分解物コート培養皿およびコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞から形成された胚様体は、ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞のコロニーと同様にアルカリ性ホスファターゼ活性陽性であることが示された(
図3の(a)〜(c))。一方、共培養しているMEFはアルカリ性ホスファターゼ活性陰性であった。これらの結果は、コラーゲン分解物コート培養皿およびコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞から形成された胚様体が未分化能を維持していることを示している。
【0316】
<12.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験3>
MEFを播種している培養皿の代わりに、MEFを播種していない培養皿を用いて、同様の実験を、LIFを含み且つ20%ウシ胎児血清を含むDMEM培地(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(+))」と称する。)を用いて行った。具体的には、DMEM培地(LIF(+))を用いて、マウスES細胞2.5×10
4個/mLを調製した。MEFを播種していないゼラチンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿、コラーゲン分解物ゲル培養皿に、マウスES細胞懸濁液2mLをそれぞれ播種して、DMEM培地(LIF(+))を用いて、37℃、5%CO
2の条件下にて培養した(培養条件:MEF(−)且つLIF(+))。ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞を本実験のコントロールとした。
【0317】
培養期間中は、毎日、新しいDMEM培地(LIF(+))と培地を交換した。
【0318】
培養開始3日後に、位相差顕微鏡下でES細胞の形態を観察した。各細胞の形態を、
図4に示す。
図4中、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、DMEM培地(LIF(+))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(b)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、DMEM培地(LIF(+))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物ゲル培養皿において、DMEM培地(LIF(+))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図である。
【0319】
ゼラチンコート培養皿において培養した場合、ES細胞が単層に広がり、コロニー形成している細胞と単一で接着している細胞とを区別して観察した。細胞突起を示す形態を示す細胞も存在していた。一般的なES細胞のMEF共存下且つLIF存在下の培養所見(
図1(a))と比べてコロニーの数が少なく大きさが小さく、それぞれの細胞が判別できる程度の細胞間接着であることが示された(
図4の(a))。
【0320】
コラーゲン分解物コート培養皿において培養した場合、観察されたES細胞は接着もしくは浮遊した3次元細胞塊(胚様体)を形成しており(
図4の(b))、ゼラチンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見(
図4の(a))とはまったく異なる形態であった。どちらかと言えば、浮遊している胚様体の割合が多かった。
【0321】
コラーゲン分解物ゲル培養皿において培養した場合、観察されたES細胞はコラーゲン分解物ゲルに接着もしくは浮遊した3次元細胞塊(胚様体)を形成していた。ゼラチンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見とはまったく異なる形態であった。コラーゲン分解物ゲルに接着している胚様体の方が、浮遊している胚様体より比較的大きかった。(
図4の(c))。
【0322】
MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いてコラーゲン分解物コート培養皿またはコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞の形態は、ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞の形態とは全く異なっていた。しかし、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いてコラーゲン分解物コート培養皿またはコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞と比較して、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いてコラーゲン分解物コート培養皿またはコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞の形態は、大きさや形に多少の違いが観察されたが、明確な違いはなかった。MEF(−)且つLIF(+)の培養条件で、ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞は、一般的なES細胞のコロニーを形成するか、あるいは単一の接着細胞であった。特筆すべきは、MEF(−)且つLIF(+)の培養条件でコラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞は、MEFを共培養していないにも関わらず、胚様体を形成した。つまり、コラーゲン分解物コート培養皿においてES細胞を培養することは、胚様体を形成させる新たな方法となりうることが示された。同様に、MEF(−)且つLIF(+)の培養条件でコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞は、これまでに観察されていないような胚様体が、MEF非存在下で形成された。具体的には、MEF(−)且つLIF(+)の培養条件でコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞から形成された胚様体は、コラーゲン分解物ゲルに接着あるいは浮遊していることが示された。
【0323】
<13.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験4>
MEFを播種している培養皿の代わりに、MEFを播種していない培養皿を用いて、同様の実験を、LIFを含まない20%ウシ胎児血清を含むDMEM培地(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(−))」と称する。)を用いて行った。具体的には、DMEM培地(LIF(−))を用いて、マウスES細胞2.5×10
4個/mLを調製した。MEFを播種していないゼラチンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿、コラーゲン分解物ゲル培養皿に、マウスES細胞懸濁液2mLをそれぞれ播種して、DMEM培地(LIF(−))を用いて、37℃、5%CO
2の条件下にて培養した(培養条件:MEF(−)且つLIF(−))。ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞を本実験のコントロールとした。
【0324】
培養期間中は、毎日、新しいDMEM培地(LIF(−))と培地を交換した。
【0325】
培養開始3日後に、位相差顕微鏡下でES細胞の形態を観察した。各細胞の形態を、
図5に示す。
図5中、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、DMEM培地(LIF(−))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(b)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、DMEM培地(LIF(−))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物ゲル培養皿において、DMEM培地(LIF(−))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図である。
【0326】
ゼラチンコート培養皿において培養した場合、ES細胞が単層に広がり、コロニー形成している細胞と単一で接着している細胞とを区別して観察した。細胞突起を示す形態を示す細胞も存在していた。一般的なES細胞のMEF共存下且つLIF存在下の培養所見(
図1(a))と比べてコロニーの数が少なく大きさが小さく、それぞれの細胞が判別できる程度の細胞間接着であることが示された(
図5の(a))。
【0327】
コラーゲン分解物コート培養皿において培養した場合、観察されたES細胞は接着もしくは浮遊した3次元細胞塊(胚様体)を形成しており(
図5の(b))、ゼラチンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見(
図5の(a))とはまったく異なる形態であった。どちらかと言えば、浮遊している胚様体の割合が多かった。
【0328】
コラーゲン分解物ゲル培養皿において培養した場合、観察されたES細胞はコラーゲン分解物ゲルに接着もしくは浮遊した3次元細胞塊(胚様体)を形成していた。ゼラチンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見とはまったく異なる形態であった。コラーゲン分解物ゲルに接着している胚様体の方が、浮遊している胚様体より比較的大きかった。(
図5の(c))。
【0329】
MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(−))を用いてコラーゲン分解物コート培養皿またはコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞の形態は、ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞の形態とは全く異なっていた。しかし、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いてコラーゲン分解物コート培養皿(
図1(b))またはコラーゲン分解物ゲル培養皿(
図1(c))において培養したES細胞と比較して、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(−))を用いてコラーゲン分解物コート培養皿またはコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞の形態は、大きさや形に多少の違いが観察されたが、明確な違いはなかった。MEF(−)且つLIF(−)の培養条件で、ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞は、一般的なES細胞のコロニーを形成するか、あるいは単一の接着細胞であった。特筆すべきは、MEF(−)且つLIF(−)の培養条件でコラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞は、MEFを共培養していないにも関わらず、胚様体を形成した。つまり、コラーゲン分解物コート培養皿においてES細胞を培養することは、胚様体を形成させる新たな方法となりうることが示された。同様に、MEF(−)且つLIF(−)の培養条件でコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞は、これまでに観察されていないような胚様体が、MEF非存在下で形成された。具体的には、MEF(−)且つLIF(−)の培養条件でコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞から形成された胚様体は、コラーゲン分解物ゲルに接着あるいは浮遊していることが示された。
【0330】
<14.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験5>
次に、得られた胚様体がES細胞のみから成るか否かをGFP発現ES細胞を培養して確認した。具体的には、500U/mLのLIFおよび20%ウシ胎児血清を含むDMEM(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(+))」と称する。)を用いて、マウスES細胞2.5×10
4個/mLを調製した。あらかじめMEFを播種しておいたゼラチンコート培養皿、またはコラーゲン分解物ゲル培養皿に、マウスES細胞懸濁液2mLをそれぞれ播種して、DMEM培地(LIF(+))を用いて、37℃、5%CO
2の条件下にて4日間培養した(培養条件:MEF(+)且つLIF(+))。ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞を本実験のコントロールとした。
【0331】
さらに、LIFを含まず20%ウシ胎児血清を含むDMEM(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(−))」と称する。)を用いて、マウスES細胞2.5×10
4個/mLを調製した。あらかじめMEFを播種しておいたコラーゲン分解物ゲル培養皿に、マウスES細胞懸濁液2mLを播種して、DMEM培地(LIF(−))を用いて、37℃、5%CO
2の条件下にて4日間培養した(培養条件:MEF(+)且つLIF(−))。
【0332】
4日間培養後に、それぞれの培養条件で培養して得られた細胞の核を、Cellstain(登録商標)-Hoechst 33342 solution(品番H342、株式会社 同仁化学研究所)を用いて染色した。
【0333】
結果を
図6〜
図8に示す。
図6は、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件において、ゼラチンコート培養皿において4日間培養したES細胞を、顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(a)は、位相差顕微鏡下で観察したES細胞の形態を示す図であり、(b)は、(a)に示したES細胞のGFPの蛍光を蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(c)は、(a)に示したES細胞をHoechst 33342染色し、蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(d)は、(a)、(b)および(c)の画像を重ね合せた結果を示す図である。また、
図7は、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件においてコラーゲン分解物ゲル培養皿においてES細胞を4日間培養した後に得られた胚様体を、顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(a)は、位相差顕微鏡下で観察した胚様体の形態を示す図であり、(b)は、(a)に示した胚様体のGFPの蛍光を蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(c)は、(a)に示した胚様体をHoechst 33342染色し、蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(d)は、(a)、(b)および(c)の画像を重ね合せた結果を示す図である。また、
図8は、MEF(+)且つLIF(−)の培養条件においてコラーゲン分解物ゲル培養皿においてES細胞を4日間培養した後に得られた胚様体を、顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(a)は、位相差顕微鏡下で観察した胚様体の形態を示す図であり、(b)は、(a)に示した胚様体のGFPの蛍光を蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(c)は、(a)に示した胚様体をHoechst 33342染色し、蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(d)は、(a)、(b)および(c)の画像を重ね合せた結果を示す図である。
【0334】
その結果、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件においてゼラチンコート培養皿においてES細胞を培養した場合、GFP陽性のES細胞が単層に広がり、コロニー形成することが確認できた(
図6の(a)〜(d))。
【0335】
また、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))またはDMEM培地(LIF(−))を用いて、ES細胞をコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養した場合、観察されたGFP陽性のES細胞は、コラーゲン分解物ゲルに接着した3次元細胞塊(胚様体)を形成していた。ゼラチンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見とはまったく異なる形態であった。胚様体以外の細胞はGFP陰性であることから、胚様体以外の細胞はMEFであると推察された(
図7の(a)〜(d)および
図8の(a)〜(d))。また、
図8の(a)中の破線で囲った箇所は、コラーゲンと、細胞からの分泌物であると推察された。
【0336】
以上の結果から、培養液中のLIFの有無に関わらず、MEF共存下においてコラーゲン分解物ゲル培養皿において形成された胚様体は、ES細胞由来であることが示された。
【0337】
<15.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験6>
(ヒトiPS細胞)
京都大学 山中伸弥教授の研究室が樹立したヒトiPS細胞(201B7株、RIKEN BRC)を使用した。該iPS細胞株は、染色体解析ですべての細胞が46XXで染色体異常は認められないものである。
【0338】
(コラーゲン分解物コート培養皿の作製)
ブタ由来のコラーゲンの分解物を10mg/mLに調製し、6−well plateに50μLコートして3時間静置した。なお、コラーゲンの分解物としては上述したコラーゲンの分解物(塩濃度0mMにおける、ブタ由来のコラーゲンの分解物のうち、配列番号2にて示されるアミノ酸配列((3)にて示されるアミノ酸配列に相当)を有する分解物)を用いた。対照群1として、Vitronectin(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)をD−PBSで100倍に希釈したものを6−well plateの1ウエルに1mLを加え、1時間以上静置した。対照群2として、iMatrix511(株式会社ニッピ)を0.5μg/cm
2になるようにコートした。
【0339】
(ヒトiPS細胞の胚様体形成)
ヒトiPS細胞はiPS細胞専用のNutriStem培地(コスモバイオ株式会社)を用いて1.0×10
5個に調整し、上記で作製した培養皿に播種した。培養は、37℃、5%CO
2の条件下にて5日間行った。培養期間中は、毎日、新しいNutriStem培地と交換した。
【0340】
培養開始1日後および5日後に、位相差顕微鏡下でiPS細胞の形態を観察した。各細胞の形態を、
図9および
図10に示す。
図9中、(a)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、1日間培養したiPS細胞の形態を示す図であり、(b)は、Vitronectinコート培養皿において、1日間培養したiPS細胞の形態を示す図であり、(c)は、iMatrix511コート培養皿において、1日間培養したiPS細胞の形態を示す図である。
図10中、(a)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、5日間培養したiPS細胞の形態を示す図であり、(b)は、Vitronectinコート培養皿において、5日間培養したiPS細胞の形態を示す図であり、(c)は、iMatrix511コート培養皿において、5日間培養したiPS細胞の形態を示す図である。
【0341】
コラーゲン分解物コート培養皿において培養した場合、1日培養後ではiPS細胞が集まっている様子が観察された。また5日培養後では胚様体を形成していた(
図9の(a)および
図10の(a))。
【0342】
Vitronectinコート培養皿において培養した場合、一般的なiPS細胞の培養所見と同じ形態であった。つまり、1日培養後ではiPS細胞は培養皿底面に個々に接着し、単層培養の細胞形態であった。5日培養後ではiPS細胞は過増殖状態となり、培養皿底面の全てに接着していることが示された(
図9の(b)および
図10の(b))。
【0343】
iMatrix511コート培養皿において培養した場合、iPS細胞は培養皿の底面に接着していた。培養1日後および培養5日後の観察像は、Vitronectinコート培養皿の一般的なiPS細胞の培養所見と同様な形態であった。
【0344】
コラーゲン分解物コート培養皿において培養したiPS細胞の形態は、Vitronectinコート培養皿またはiMatrix511コート培養皿において培養したiPS細胞の形態とは全く異なっていた。Vitronectinコート培養皿において培養したiPS細胞は、一般的なiPS細胞の増殖を示しただけであったが、コラーゲン分解物コート培養皿において培養したiPS細胞は、LIFなどを添加しないにも関わらず、胚様体を形成した。つまり、コラーゲン分解物コート培養皿においてiPS細胞を培養することは、胚様体を形成させる新たな方法となりうることが示された。
【0345】
<16.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験7>
(塩基性線維芽細胞増殖因子を含まない培地でのiPS細胞の培養)
<15>と同様の実験を、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含まない培地を用いて培養12日目まで延長して胚様体の形態を観察した。すなわち、ヒトiPS細胞およびコラーゲン分解物としては、<15>と同様のものを用いた。
【0346】
(コラーゲン分解物コート培養皿の作製)
コラーゲン分解物を10mg/mLに調製し、6−well plateに50μLコートして3時間静置した。対照群として、プラスチック表面を2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンモノマーで加工したLipdure(日油株式会社)を用いた。iPS細胞はLipdure培養皿で培養すると、浮遊した胚様体を形成することが広く知られる。
【0347】
(ヒトiPS細胞の胚様体形成)
ヒトiPS細胞はiPS細胞専用のNutriStem培地(コスモバイオ株式会社)を用いて3.0×10
5個に調整し、上記で作製した培養皿に播種した。培養は、37℃、5%CO
2の条件下にて12日間行った。培養期間中は、培養4日目まで毎日、新しいNutriStem培地と半量交換した。培養5日目以降は、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含まないiPS細胞専用培地であるhiPS mediumを用いて隔日に半量交換した。
【0348】
培養開始4日後および12日後に、位相差顕微鏡下でiPS細胞の形態を観察した。各細胞の4日後および12日後の形態を、それぞれ
図11および
図12に示す。
図11中、(a)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、4日間培養したiPS細胞の形態を示す図であり、(b)は、Lipidure培養皿において、4日間培養したiPS細胞の形態を示す図である。
図12の(a)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、12日間培養したiPS細胞の形態を示す図であり、
図12の(b)は、Lipidure培養皿において、12日間培養したiPS細胞の形態を示す図である。
【0349】
コラーゲン分解物コート培養皿において培養した場合、4日培養後ではiPS細胞が胚様体を形成する様子が観察された(
図11の(a))。さらにbFGFを含まない専用培地で12日目まで培養した結果、胚様体が維持されていることが示された(
図12の(a))。
【0350】
Lipidure培養皿において4日間培養した場合、一般的なiPS細胞の培養所見と同じく浮遊した胚様体が示された(
図11の(b))。さらにbFGFを含まない専用培地で12日目まで培養した結果、胚様体が巨大化していることが示された(
図12の(b))。
【0351】
コラーゲン分解物コート培養皿を用いたヒトiPS細胞の胚様体形成は、Lipidure培養皿のヒトiPS細胞の胚様体形成と比べて、培養皿底面に接着していることから培地交換が容易であるという利点が明らかになった。Lipidure培養皿は培地交換する際に吸引による細胞の誤損出が起こりやすい。また、Lipidure培養皿から回収した胚様体は、培地交換での遠心作業中に胚様体同士が接触して巨大化することが危惧された。一方、コラーゲン分解物コート培養皿では、そのような問題が起こりにくいことが分かった。さらに、bFGFを含まない専用培地で培養してもコラーゲン分解物コート培養皿で形成したiPS細胞の胚様体は崩壊しないことが明らかになった。
【0352】
コラーゲン分解物コート培養皿において培養したヒトiPS細胞の胚様体は、Lipidure培養皿でのヒトiPS細胞と比較して、形態学的な所見に明確な違いは明確ではなかった。つまり、コラーゲン分解物コート培養皿においてヒトiPS細胞の胚様体を培養することは、胚様体を維持させる新たな方法となりうることが示された。
【0353】
<17.コラーゲンの分解物の胚様体の分化誘導に関する試験>
次に、コラーゲンの分解物を用いて得られたマウスES細胞の胚様体を、分化誘導できることを確認した。具体的には、LIFを含まないEB専用培地(DMEM培地に20%ウシ胎児血清、1mM MEM Sodium Pyruvate Solution、1/100希釈MEM Non Essential Amino Acid Solition、10μM β−メルカプトエタノールを添加した培地)(以下、「EB培地」と称する)を用いて、マウスES細胞5.0×10
4個/wellを調製した。次に、あらかじめ上記と同じ手法で調整した12−well plateのコラーゲン分解物コート培養皿、またはLipidure培養皿を用意し、マウスES細胞懸濁液をそれぞれ播種した。EB培地を用いて、37℃、5%CO
2の条件下にて15日間培養した。培地は培養2日後以降、毎日、新しいEB培地に交換した。ゼラチンコート培養皿において培養した播種前のES細胞を本実験のコントロールとした。
【0354】
(マウスES細胞の胚様体からのRNAの抽出)
15日間培養後に、それぞれの培養条件で培養して得られたマウスES細胞の胚様体を遠心により集め、それぞれのRNAを、total RNA精製用バッファーのLysis Buffer RA1(タカラバイオ株式会社)およびβ−メルカプトエタノールと混合し、さらに70%エタノールを加えてよく混ぜた。得られた溶液をRNA精製用スピンカラムにて遠心してゲルに吸着させ、洗浄し、さらにDNase処理してカラムから溶出させることで、各培養皿の胚様体のtotal RNAを精製した。
【0355】
(マウスES細胞の胚様体からのRNAのcDNAの調製)
常法により、タカラバイオ株式会社製のPrimeScript RT Master Mix (Perfect Real Time)を用いて、total RNAを鋳型として、RT−PCR法によりcDNAを合成した。反応後のcDNA溶液は−20℃もしくは−80℃で次の実験まで保存した。
【0356】
(マウスES細胞の胚様体のRNAの解析)
分化に与えるコラーゲン分解物を用いた培養の影響を調べるため、以下の3つの分化マーカーのRNA発現量を調べた。中内胚葉、内胚葉および中胚葉への分化に関与するGATA4(GATA Binding Protein 4)、内胚葉系の肝細胞に特異的なAFP(αフェトプロテイン)、心筋前駆細胞に特異的なNKX2.5(NK−2 transcription factor related,locus 5)のプライマーを用いて、RNA発現量を定量化した。上記で得られたcDNAを鋳型として、各プライマー、SYBR Fast qPCR Mixなどの試薬と適量の超純水などとを混合し、Thermal Cycler Dice Real Time System (タカラバイオ株式会社)を用いて、常法により定量RT−PCRを行った。
【0357】
RT−PCRの結果から得られた発現量の最大値を100として、各マーカーの相対発現量をレーダーチャート化したものを
図13に示す。コラーゲン分解物コート培養皿で形成したマウスES細胞の胚様体は、NKX2.5の相対発現量が低いがGATA4とAFPの相対発現量が高いことが明らかになった(
図13の(a))。Lipidure培養皿で形成した胚様体のRNA相対発現量は、コラーゲン分解物コート培養皿の胚様体のそれと同様であった(
図13の(b))。一方、コントロールであるゼラチンコート培養皿のマウスES細胞では、逆に、NKX2.5の相対発現量がGATA4およびAFPより高いことが示された(
図13の(c))。つまり、コラーゲン分解物コート培養皿の胚様体は、Lipidure培養皿の胚様体と同様にES細胞の分化に大きく影響することが明らかになった。ゼラチンコート培養皿の細胞の結果と正反対になることは、胚様体特有の分化誘導に適していることを示している。
【0358】
ES細胞やiPS細胞の分化誘導は胚様体を経ることが必須で、胚様体形成後に適切な分化誘導条件を満たすことが重要である。よって、コラーゲン分解物コート培養皿の胚様体も十分に分化誘導する能力を有していることが証明された。従来法のLipidure培養皿の胚様体は浮遊しているので大きな凝集塊を形成しやすい。そのため、Lipidure培養皿でのES細胞およびiPS細胞の分化は、分化の質に大きく影響する。一方、コラーゲン分解物コート培養皿の胚様体は、分化の再現性および質を向上させることが可能となる。
【0359】
<18.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験8>
(培養皿)
上述したコラーゲンの分解物(ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号27)、あるいはラット腱由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号24と配列番号5との混合物)、あるいはブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号26))と接触させた、市販の培養皿を試験に用いた。具体的には、35mm培養皿にコラーゲン分解物の濃度(ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号27)は3.2mg/mLから9.6mg/mL、ラット腱由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号24と配列番号5との混合物)は2.8mg/mLから8.4mg/mL、ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号26)は3.3mg/mL)を変えて添加し、培養皿に十分になじませて室温で5時間静置し、コラーゲン分解物コート培養皿とした。
【0360】
(マウスES細胞)
山梨大学生命環境学部生命工学科 若山照彦教授から譲渡されたマウスES細胞を使用した。このマウスES細胞は、GFP(green fluorescent protein)標識されており、GFPタンパク質をコードしている遺伝子が染色体中に挿入されているものである。
【0361】
(フィーダー細胞の調製)
マイトマイシン処理したマウス胎児由来線維芽細胞(Murine Embryonic Fibroblasts:MEF)(CMPMEFCF、DSファーマバイオメディカル製)を6.1×10
4個/mLに調製した。ゼラチンコート培養皿、アテロコラーゲンコート培養皿(ブタ腱由来ペプシン可溶化I型コラーゲン、COL 1、旭テクノグラス社製)、コラーゲン分解物コート培養皿に、MEFをそれぞれ1.2×10
5個播種して、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地(DMEM、日水製薬株式会社製)を用いて、37℃、5%CO
2の条件下にて1日間培養した。
【0362】
(胚様体の形成)
500U/mLの白血病抑制因子(Leukemia Inhibitory Factor:LIF)および20%ウシ胎児血清を含むDMEM(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(+))」と称する。)を用いて、マウスES細胞2.5×10
5個/mLを調製した。あらかじめMEFを播種しておいたゼラチンコート培養皿、アテロコラーゲンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿に、マウスES細胞をそれぞれ5.0×10
4個/cm
2播種して、DMEM培地(LIF(+))を用いて、37℃、5%CO
2の条件下にて培養した(培養条件:MEF(+)且つLIF(+))。ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養したES細胞を本実験のコントロールとした。なお、実施例において、「MEF(+)」はMEF共存下での培養を示す。また、「LIF(+)」はLIF共存下での培養を示す。
【0363】
培養開始1日後に、位相差顕微鏡下でES細胞の形態を観察した。各細胞の形態を、
図14に示す。
図14中、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(b)は、アテロコラーゲンコート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号27)において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(d)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ラット腱由来、配列番号24と配列番号5との混合物)において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(e)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号26)において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図である。ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養した場合、MEFはゼラチンコート培養皿の底面に接着して伸展していた。その間にES細胞がコロニーを形成していた。一般的なES細胞の培養所見と同じ形態であった(
図14の(a)および(b))。
【0364】
コラーゲン分解物コート培養皿において培養した場合、ES細胞は3次元細胞塊(胚様体)を形成しており、ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見とはまったく異なる形態であった(
図14の(c)〜(e))。またMEFはコラーゲン分解物コート培養皿の底面に接着していたが、ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿のように底面全体に伸展せず、ES細胞の胚様体の底面で主にコラーゲンと接着していた。
【0365】
コラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞の形態は、ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養したES細胞の形態とは全く異なっていた。ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養したES細胞は、一般的なES細胞のコロニーを形成しただけであったが、コラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞は、接着した胚様体を形成した。つまり、コラーゲン分解物の動物種(例えば、ブタ、ラット)、由来部位(例えば、皮部と腱)およびN末端切断部位(例えば、配列番号26、配列番号27、配列番号24、配列番号5)に関わらず、コラーゲン分解物コート培養皿においてES細胞を培養することは、胚様体を形成させる新たな方法となりうることが示された。
【0366】
<19.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験9>
ゼラチンコート培養皿、アテロコラーゲンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞の未分化能を調べるため、細胞内在性のアルカリ性ホスファターゼ活性を調べた。
【0367】
(培養皿)
上述したコラーゲンの分解物(ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号27)、あるいはラット腱由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号24と配列番号5との混合物)、あるいはブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号26))と接触させた、市販の培養皿を試験に用いた。具体的には、35mm培養皿にコラーゲン分解物の濃度(ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号27)は3.2mg/mLから9.6mg/mL、ラット腱由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号24と配列番号5との混合物)は2.8mg/mLから8.4mg/mL、ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号26)は3.3mg/mL)を変えて添加し、培養皿に十分になじませて室温で5時間静置し、コラーゲン分解物コート培養皿とした。
【0368】
(胚様体の形成)
500U/mLのLIFおよび20%ウシ胎児血清を含むDMEM(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(+))」と称する。)を用いて、2.5×10
5個/mLを調製した。あらかじめMEFを播種しておいたゼラチンコート培養皿、アテロコラーゲンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿に、マウスES細胞をそれぞれ5.0×10
4個/cm
2播種して、DMEM培地(LIF(+))を用いて、37℃、5%CO
2の条件下にて培養した(培養条件:MEF(+)且つLIF(+))。ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養したES細胞を本実験のコントロールとした。
【0369】
1日間培養後に、細胞の培養上清を取り除き、滅菌PBSで洗浄した。引き続き、細胞を固定するために4%パラホルムアルデヒド溶液を細胞が浸るまで加え、室温で30分間静置した。その後、滅菌蒸留水を細胞が浸るまで加えて洗浄する操作を2回繰り返した。洗浄液を取り除いた後、TRACP&ALP double-stain kit(商品コードMK300、タカラバイオ社製)付属のアルカリ性ホスファターゼ染色液を培養皿に加えて37℃で45分間静置した。反応を停止させるため、染色液を取り除いて滅菌蒸留水で3回洗浄した。結果を
図15に示す。
【0370】
図15は、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件において1日間培養したES細胞の細胞内在性のアルカリ性ホスファターゼ活性を調べた結果を示す図であり、
図15中、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ染色の結果を示す図であり、(b)は、アテロコラーゲンコート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ染色の結果を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号27)において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ染色の結果を示す図であり、(d)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ラット腱由来、配列番号24と配列番号5との混合物)において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ染色の結果を示す図であり、(e)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号26)において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ染色の結果を示す図である。
【0371】
コラーゲン分解物コート培養皿おいて培養したES細胞から形成された胚様体は、ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養したES細胞のコロニーと同様にアルカリ性ホスファターゼ活性陽性であることが示された(
図15の(c)〜(e))。一方、共培養しているMEFはアルカリ性ホスファターゼ活性陰性であった。これらの結果は、コラーゲン分解物の動物種(例えば、ブタ、ラット)、由来部位(例えば、皮部と腱)およびN末端切断部位(例えば、配列番号26、配列番号27、配列番号24、配列番号5)に関わらず、コラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞から形成された胚様体が未分化能を維持していることを示している。
【0372】
<20.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験10>
次に、GFP発現ES細胞を培養して得られた胚様体がES細胞のみから成るか否かを確認した。
【0373】
(培養皿)
上述したコラーゲンの分解物(ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号27)、あるいはラット腱由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号24と配列番号5との混合物)、あるいはブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号26))と接触させた、市販の培養皿を試験に用いた。具体的には、35mm培養皿にコラーゲン分解物の濃度(ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号27)は3.2mg/mLから9.6mg/mL、ラット腱由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号24と配列番号5との混合物)は2.8mg/mLから8.4mg/mL、ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号26)は3.3mg/mL)を変えて添加し、培養皿に十分になじませて室温で5時間静置し、コラーゲン分解物コート培養皿とした。
【0374】
(胚様体の形成)
具体的には、500U/mLのLIFおよび20%ウシ胎児血清を含むDMEM(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(+))」と称する。)を用いて、2.5×10
5個/mLを調製した。あらかじめMEFを播種しておいたゼラチンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿に、マウスES細胞をそれぞれ5.0×10
4個/cm
2播種して、DMEM培地(LIF(+))を用いて、37℃、5%CO
2の条件下にて培養した(培養条件:MEF(+)且つLIF(+))。ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞を本実験のコントロールとした。
【0375】
結果を
図16〜
図19に示す。
図16は、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件において、ゼラチンコート培養皿においてGFP遺伝子を内在したES細胞を1日間培養した後に得られたコロニーを、顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(a)は、位相差顕微鏡下で観察した上記コロニーの形態を示す図であり、(b)は、(a)に示した上記コロニーのGFPの蛍光を蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(c)は、(a)および(b)の画像を重ね合せた結果を示す図である。また、
図17は、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件においてコラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号27)においてGFP遺伝子を内在したES細胞を1日間培養した後に得られた胚様体を、顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(a)は、位相差顕微鏡下で観察した上記胚様体の形態を示す図であり、(b)は、(a)に示した上記胚様体のGFPの蛍光を蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(c)は、(a)および(b)の画像を重ね合せた結果を示す図である。また、
図18は、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件においてコラーゲン分解物コート培養皿(ラット腱由来、配列番号24と配列番号5との混合物)においてGFP遺伝子を内在したES細胞を1日間培養した後に得られた胚様体を、顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(a)は、位相差顕微鏡下で観察した上記胚様体の形態を示す図であり、(b)は、(a)に示した上記胚様体のGFPの蛍光を蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(c)は、(a)および(b)の画像を重ね合せた結果を示す図である。また、
図19は、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件においてコラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号26)においてGFP遺伝子を内在したES細胞を1日間培養した後に得られた胚様体を、顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(a)は、位相差顕微鏡下で観察した上記胚様体の形態を示す図であり、(b)は、(a)に示した上記胚様体のGFPの蛍光を蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(c)は、(a)および(b)の画像を重ね合せた結果を示す図である。
【0376】
その結果、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件においてゼラチンコート培養皿においてES細胞を培養した場合、GFP陽性のES細胞が単層に広がり、コロニー形成することが確認できた(
図16の(a)〜(c))。
【0377】
また、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて、ES細胞をコラーゲン分解物コート培養皿において培養した場合、観察されたGFP陽性のES細胞は、コラーゲン分解物コートに接着した3次元細胞塊(胚様体)を形成していた。これは、ゼラチンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見とはまったく異なる形態であった。胚様体以外の細胞はGFP陰性であることから、胚様体以外の細胞はMEFであると推察された(
図17の(a)〜(c)、
図18の(a)〜(c)および
図19の(a)〜(c))。
【0378】
以上の結果から、コラーゲン分解物の動物種(例えば、ブタ、ラット)、由来部位(例えば、皮部と腱)およびN末端切断部位(例えば、配列番号26、配列番号27、配列番号24、配列番号5)に関わらず、MEF共存下においてコラーゲン分解物コート培養皿において形成された胚様体は、ES細胞由来であることが示された。
【0379】
<21.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験11>
(培養皿)
上述したコラーゲンの分解物(ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号27)、あるいはラット腱由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号24と配列番号5との混合物)、あるいはブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号26))と接触させた、市販の培養皿を試験に用いた。具体的には、35mm培養皿にコラーゲン分解物の濃度(ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号27)は3.2mg/mLから9.6mg/mL、ラット腱由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号24と配列番号5との混合物)は2.8mg/mLから8.4mg/mL、ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号26)は3.3mg/mL)を変えて添加し、培養皿に十分になじませて室温で5時間静置し、コラーゲン分解物コート培養皿とした。
【0380】
(胚様体の形成)
MEFを播種している培養皿の代わりに、MEFを播種していない培養皿を用いて、同様の実験を、LIFを含み且つ20%ウシ胎児血清を含むDMEM培地(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(+))」と称する。)を用いて行った。具体的には、DMEM培地(LIF(+))を用いて、を用いて、マウスES細胞2.5×10
5個/mLを調製した。MEFを播種していないゼラチンコート培養皿、アテロコラーゲンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿に、マウスES細胞をそれぞれ5.0×10
4個/cm
2播種して、DMEM培地(LIF(+))を用いて、37℃、5%CO
2の条件下にて培養した(培養条件:MEF(−)且つLIF(+))。ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養したES細胞を本実験のコントロールとした。なお、実施例において、「MEF(−)」はMEF非共存下での培養を示す。また、「LIF(+)」はLIF共存下での培養を示す。
【0381】
培養開始1日後に、位相差顕微鏡下でES細胞の形態を観察した。各細胞の形態を、
図20に示す。
図20中、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(b)は、アテロコラーゲンコート培養皿において、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号27)において、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(d)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ラット腱由来、配列番号24と配列番号5との混合物)において、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(e)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号26))において、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図である。
【0382】
ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養した場合、ES細胞が単層に広がり、単一で接着している細胞を観察した。細胞突起を示す形態を示す細胞も存在していた。一般的なES細胞のMEF共存下且つLIF存在下の培養所見(
図14の(a)および(b))と比べてそれぞれの細胞が判別できる程度の典型的な細胞間接着であることが示された(
図20の(a)および(b))。
【0383】
コラーゲン分解物コート培養皿において培養した場合、観察されたES細胞は接着もしくは浮遊した3次元細胞塊(胚様体)を形成しており(
図20の(c)〜(e))、ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見(
図14の(a)および(b))とはまったく異なる形態であった。
【0384】
MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いてコラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞の形態は、コラーゲン分解物の動物種(例えば、ブタ、ラット)、由来部位(例えば、皮部と腱)およびN末端切断部位(例えば、配列番号26、配列番号27、配列番号24、配列番号5)に関わらず、ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養したES細胞の形態とは全く異なっていた。しかし、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いてコラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞(
図14の(c)〜(e))と比較して、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いてコラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞(
図20の(c)〜(e))の形態は、大きさや形、接着、浮遊などに多少の違いが観察されたが、コラーゲン分解物の動物種(例えば、ブタ、ラット)、由来部位(例えば、皮部と腱)およびN末端切断部位(例えば、配列番号26、配列番号27、配列番号24、配列番号5)に関わらず、明確な違いはなかった。
【0385】
MEF(−)且つLIF(+)の培養条件で、ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養したES細胞は、単一の接着細胞であった。特筆すべきは、コラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞は、コラーゲン分解物の動物種(例えば、ブタ、ラット)、由来部位(例えば、皮部と腱)およびN末端切断部位(例えば、配列番号26、配列番号27、配列番号24、配列番号5)に関わらず、MEFを共培養していない条件下でも、胚様体を形成した。つまり、コラーゲン分解物コート培養皿においてES細胞を培養することは、コラーゲン分解物の動物種(例えば、ブタ、ラット)、由来部位(例えば、皮部と腱)およびN末端切断部位(例えば、配列番号26、配列番号27、配列番号24、配列番号5)に関わらず、胚様体を形成させる新たな方法となりうることが示された。
【0386】
<22.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験12>
次に、ゼラチンコート培養皿、アテロコラーゲンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞の未分化能を調べるため、細胞内在性のアルカリ性ホスファターゼ活性を調べた。
【0387】
(培養皿)
上述したコラーゲンの分解物(ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号27)、あるいはラット腱由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号24と配列番号5との混合物)、あるいはブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号26))と接触させた、市販の培養皿を試験に用いた。具体的には、35mm培養皿にコラーゲン分解物の濃度(ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号27)は3.2mg/mLから9.6mg/mL、ラット腱由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号24と配列番号5との混合物)は2.8mg/mLから8.4mg/mL、ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号26)は3.3mg/mL)を変えて添加し、培養皿に十分になじませて室温で5時間静置し、コラーゲン分解物コート培養皿とした。
【0388】
(胚様体の形成)
500U/mLのLIFおよび20%ウシ胎児血清を含むDMEM(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(+))」と称する。)を用いて、2.5×10
5個/mLを調製した。MEFを播種していないゼラチンコート培養皿、アテロコラーゲンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿に、マウスES細胞をそれぞれ5.0×10
4個/cm
2播種して、DMEM培地(LIF(+))を用いて、37℃、5%CO
2の条件下にて培養した。ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養したES細胞を本実験のコントロールとした。
【0389】
1日間培養後に、細胞の培養上清を取り除き、滅菌PBSで洗浄した。引き続き、細胞を固定するために4%パラホルムアルデヒド溶液を細胞が浸るまで加え、室温で30分間静置した。その後、滅菌蒸留水を細胞が浸るまで加えて洗浄する操作を2回繰り返した。洗浄液を取り除いた後、TRACP&ALP double−stain kit(商品コードMK300、タカラバイオ社製)付属のアルカリ性ホスファターゼ染色液を培養皿に加えて37℃で45分間静置した。反応を停止させるため、染色液を取り除いて滅菌蒸留水で3回洗浄した。結果を
図21に示す。
【0390】
図21は、MEF非共存下(MEF(−))且つLIF(+)の培養条件において1日間培養したES細胞の細胞内在性のアルカリ性ホスファターゼ活性を調べた結果を示す図であり、
図21中、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図であり、(b)は、アテロコラーゲンコート培養皿において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号27)において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図であり、(d)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ラット腱由来、配列番号24と配列番号5との混合物)において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図であり、(e)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号26)において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図である。
【0391】
MEF(−)且つLIF(+)の培養条件で、ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養した単一のES細胞は、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件のES細胞のコロニー(
図15の(a)と(b))と同様にアルカリ性ホスファターゼ活性陽性であることが示された(
図21の(a)と(b))。コラーゲン分解物コート培養皿おいてMEF(−)且つLIF(+)の培養条件で培養したES細胞から形成された接着および浮遊した胚様体は、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件の接着した胚様体(
図15の(c)〜(e))と同様にアルカリ性ホスファターゼ活性陽性であることが示された(
図21の(c)〜(e))。これらの結果は、MEF非共存下でコラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞から形成された胚様体もコラーゲン分解物の動物種(例えば、ブタ、ラット)、由来部位(例えば、皮部と腱)およびN末端切断部位(例えば、配列番号26、配列番号27、配列番号24、配列番号5)に関わらず、未分化能を維持していることを示している。
【0392】
以上のことから、本実施例のコラーゲンの分解物は、マウスES細胞とヒトiPS細胞の胚様体形成能を有していることと、その後に必要とされる分化誘導に活用できることが明らかになった。本発明の一実施形態の方法によって得られた胚様体を適切な分化誘導培地で長期培養することにより、内胚葉、中胚葉、外胚葉に分化させることで、さらに神経組織、骨・軟骨組織、脂肪組織、筋肉組織などの再建が期待される。