特許第6822668号(P6822668)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6822668多能性幹細胞の胚様体形成方法および多能性幹細胞の胚様体形成用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6822668
(24)【登録日】2021年1月12日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】多能性幹細胞の胚様体形成方法および多能性幹細胞の胚様体形成用組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/073 20100101AFI20210114BHJP
   C07K 14/78 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   C12N5/073
   C07K14/78ZNA
【請求項の数】8
【全頁数】63
(21)【出願番号】特願2017-547909(P2017-547909)
(86)(22)【出願日】2016年10月28日
(86)【国際出願番号】JP2016082150
(87)【国際公開番号】WO2017073761
(87)【国際公開日】20170504
【審査請求日】2019年9月25日
(31)【優先権主張番号】特願2015-212309(P2015-212309)
(32)【優先日】2015年10月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】森本 康一
(72)【発明者】
【氏名】國井 沙織
【審査官】 坂井田 京
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/020470(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/026548(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0054100(US,A1)
【文献】 特表2005−514944(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/075807(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0044848(US,A1)
【文献】 Yasuhiro Matsuoka et al.,Molecular Biology of the Cell,2004年10月,Vol.15,p.4467-4475
【文献】 Yasushi Date et al.,Journal of Bioscience and Bioengineering,2013年,Vol.116, No.3,p.386-390
【文献】 國井 沙織 他,Mem. Institute of Advanced Technology,2005年,No.10,p.19-28
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/073
C07K 14/00− 14/825
C07K 4/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/WPIX/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞の胚様体を形成させる方法であって、
多能性幹細胞を、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物と共に培養する工程を包含し、
当該分解物は、上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメインの少なくとも一部分としてアミノ末端に配列番号2、24、25、26または27にて示すアミノ酸配列を含んでおり、
上記分解物はさらに、上記配列番号2、24、25、26または27にて示すアミノ酸配列のカルボキシル末端側に、100個以上の「Gly−X−Y」(XおよびYは任意のアミノ酸)が連続するアミノ酸配列を含んでいることを特徴とする、胚様体形成方法。
【請求項2】
上記分解物は、以下(A)〜(C)のコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の内の少なくとも1種類以上を含有しているものであることを特徴とする、請求項1に記載の胚様体形成方法:
(A)上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメイン内の下記(1)にて示されるアミノ酸配列の、XとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、または、XとGとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物;
(B)上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメイン内の下記(2)にて示されるアミノ酸配列の、XとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、または、X14とGとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物;
(C)上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメインのアミノ末端の下記(3)にて示されるアミノ酸配列の、YとYとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物;
(1)−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−;
(2)−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−X−X10−G−X11−X12−G−X13−X14−G−;
(3)−Y−Y−Y−G−Y−Y−G−Y−Y−G−Y−Y−G−;
(但し、Gは、グリシンであり、X〜X14およびY〜Yは、任意のアミノ酸である)。
【請求項3】
上記(1)または(2)にて示されるアミノ酸配列は、上記トリプルヘリカルドメインのアミノ末端のアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項2に記載の胚様体形成方法。
【請求項4】
上記(1)〜(3)の何れかにて示されるアミノ酸配列における切断が、上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのα1鎖内およびα2鎖内の少なくとも一方で行われていることを特徴とする、請求項2に記載の胚様体形成方法。
【請求項5】
コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物を含有している多能性幹細胞の胚様体形成用組成物であって、
当該分解物は、上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメインの少なくとも一部分としてアミノ末端に配列番号2、24、25、26または27にて示すアミノ酸配列を含んでおり、
上記分解物はさらに、上記配列番号2、24、25、26または27にて示すアミノ酸配列のカルボキシル末端側に、100個以上の「Gly−X−Y」(XおよびYは任意のアミノ酸)が連続するアミノ酸配列を含んでいることを特徴とする、胚様体形成用組成物。
【請求項6】
上記分解物は、以下(A)〜(C)のコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の内の少なくとも1種類以上を含有しているものであることを特徴とする、請求項5に記載の胚様体形成用組成物:
(A)上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメイン内の下記(1)にて示されるアミノ酸配列の、XとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、または、XとGとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物;
(B)上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメイン内の下記(2)にて示されるアミノ酸配列の、XとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、または、X14とGとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物;
(C)上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメインのアミノ末端の下記(3)にて示されるアミノ酸配列の、YとYとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物;
(1)−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−;
(2)−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−X−X10−G−X11−X12−G−X13−X14−G−;
(3)−Y−Y−Y−G−Y−Y−G−Y−Y−G−Y−Y−G−;
(但し、Gは、グリシンであり、X〜X14およびY〜Yは、任意のアミノ酸である)。
【請求項7】
上記(1)または(2)にて示されるアミノ酸配列は、上記トリプルヘリカルドメインのアミノ末端のアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項6に記載の胚様体形成用組成物。
【請求項8】
上記(1)〜(3)の何れかにて示されるアミノ酸配列における切断が、上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのα1鎖内およびα2鎖内の少なくとも一方で行われていることを特徴とする、請求項6に記載の胚様体形成用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多能性幹細胞の胚様体形成方法および多能性幹細胞の胚様体形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは、真皮、靭帯、腱、骨および軟骨などを構成するタンパク質の1つであって、多細胞生物の細胞外マトリクスの主成分である。研究が進むにつれて、コラーゲンが様々な生理機能を有していることが明らかになり、現在も、コラーゲン分子の新たな生理機能を見出すための研究や、コラーゲン分子の新たな用途を見出すための研究が進められている。
【0003】
現在までの研究によって、1つのコラーゲン分子は3つのポリペプチド鎖によって構成されており、これら3つのポリペプチド鎖が螺旋構造を形成することによって、1つのコラーゲン分子が形成されていることが明らかになっている。
【0004】
螺旋構造を形成するための各ポリペプチド鎖内の領域は、トリプルヘリカルドメインと呼ばれ、当該トリプルヘリカルドメインは、特徴的なアミノ酸配列を有している。具体的に、トリプルヘリカルドメインは、「Gly−X−Y」にて示されるアミノ酸配列が繰り返し連続して出現するという特徴的なアミノ酸配列を有している。なお、上述した3つのアミノ酸からなるアミノ酸配列において、グリシン以外のアミノ酸、つまりXおよびYは、様々なアミノ酸であり得る。
【0005】
コラーゲン分子のアミノ末端および/またはカルボキシル末端(換言すれば、コラーゲン分子を構成している各ポリペプチド鎖のアミノ末端およびカルボキシル末端)には、コラーゲンの主たる抗原部位であるテロペプチドが存在する。当該テロペプチドは、コラーゲン分子を構成する各ポリペプチド鎖内において、上述したトリプルヘリカルドメインよりもアミノ末端側および/またはカルボキシル末端側に存在している。
【0006】
プロテアーゼなどの酵素を用いて処理することによりコラーゲン分子からテロペプチドを部分的に切除すると、コラーゲン分子の抗原性を低く抑えられることが知られている。このようなテロペプチドが部分的に切除されたコラーゲン分子をアテロコラーゲンと呼ぶ。
【0007】
現在までの研究によって、コラーゲン、アテロコラーゲン、および、プロテアーゼによるこれらの分解物、が様々な生理機能を有していることが明らかになり、当該生理機能に基づいたコラーゲン、アテロコラーゲン、および、プロテアーゼによるこれらの分解物の様々な用途が開発されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0008】
特許文献1では、コラーゲンまたはアテロコラーゲンをプロテアーゼ(例えば、ペプシンおよびアクチニダインなど)で処理した分解物を、止血用の医療用材料として用いる技術が開示されている。更に具体的に、特許文献1では、まず、キハダマグロの皮部に対してペプシン処理を施して、アテロコラーゲンを含有している水溶液を取得し、更に、当該水溶液に塩化ナトリウムを加えることによって、アテロコラーゲンを沈殿および回収している。なお、アテロコラーゲンを沈殿物として回収する際に、塩化ナトリウムは、上清と共に除去されることになる。そして、特許文献1では、沈殿物として回収されたアテロコラーゲンに対してアクチニダインによる分解処理を施して分解物を得、当該分解物を、止血用の医療用材料として用いている。
【0009】
一方、特許文献2では、コラーゲンまたはアテロコラーゲンをプロテアーゼで処理した分解物を、動脈硬化症および動脈硬化症に起因する疾患の予防または治療のための組成物として用いる技術が開示されている。更に具体的に、特許文献2では、ミネラルを除去した後のコラーゲンをプロテアーゼによって分解して得られるコラーゲンの分解物を、動脈硬化症および動脈硬化症に起因する疾患の予防または治療のための組成物として用いる技術が開示されている。
【0010】
上述したように、コラーゲンおよびアテロコラーゲンをプロテアーゼによって分解する場合には、塩濃度が低い条件下にて分解することが一般的である。そして、このような塩濃度が低い条件下におけるコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物のアミノ酸配列は既に決定されており、そのアミノ酸配列は、非特許文献1などに開示されている。
【0011】
ところで、胚性幹細胞(ES細胞)をin vitroで種々の細胞に分化誘導させる方法として、ES細胞の胚様体を形成させ、当該胚様体を目的の細胞へと分化誘導させる方法が広く用いられている(例えば、特許文献3、非特許文献3、非特許文献4および非特許文献5等)。ES細胞の胚様体を得る方法としては、ハンギングドロップ法(例えば、非特許文献6)や、超親水性処理培養皿を使用した培養方法(例えば、非特許文献4)が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2004/020470号パンフレット(2004年3月11日公開)
【特許文献2】日本国公開特許公報「特開2001−31586号(2001年2月6日公開)」
【特許文献3】日本国公開特許公報「特開2012−139246号(2012年7月26日公開)」
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】S. Kunii et al., Journal of Biological Chemistry, Vol.285, No.23, pp.17465-17470, June4, 2010
【非特許文献2】K. Morimoto et al., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, Vol.68, pp.861-867, 2004
【非特許文献3】James A. Thomson, Joseph Itskovitz-Eldor, Sander S. Shapiro, Michelle A. Waknitz, Jennifer J. Swiergiel, Vivienne S. Marshall, Jeffrey M. Jones, Science 282, 1145-47 (1998)
【非特許文献4】T. Nakano, S. Ando, N. Takata, M. Kawada, K. Muguruma, K. Sekiguchi, K. Saito, S. Yonemura, M. Eiraku, Y. Sasai, Cell Stem Cell, 10, 771-785, (2012)
【非特許文献5】Joseph Itskovitz-Eldor, Maya Schuldiner, Dorit Karsenti, Amir Eden, OfraYanuka, Michal Amit, Hermona Soreq, Nissim Benvenisty, Molecular Medicine 6(2), 88-95, (2000)
【非特許文献6】Dang SM, Kyba M, Perlingeiro R, Daley GQ, Zandstra PW., Biotechnol Bioeng. 78, 442-53(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、コラーゲン、アテロコラーゲン、および、これらの分解物の生理機能に関する研究が進んでいるが、これらの生理機能の全てが解明されているわけではない。
【0015】
これらが有する新たな生理機能を見出すことは、医療分野、食品分野、化粧品分野および基礎研究分野などの様々な分野の発展に大きく寄与できるものと考えられる。
【0016】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、新規な生理機能を有するコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の構造を有するコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物を、多能性幹細胞の胚様体を形成させる場合の足場材料として使用し得ることを見出した。そして、この新規知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0018】
つまり、上記の課題を解決するために、本発明の一実施形態に係る胚様体形成方法は、多能性幹細胞の胚様体を形成させる方法であって、多能性幹細胞を、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物と共に培養する工程を包含し、当該分解物は、上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメインの少なくとも一部分を含んでいることを特徴としている。
【0019】
本発明の一実施形態に係る胚様体形成方法では、上記分解物は、以下(A)〜(C)のコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の内の少なくとも1種類以上を含有しているものであり得る:
(A)上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメイン内の下記(1)にて示されるアミノ酸配列の、XとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、または、XとGとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物;
(B)上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメイン内の下記(2)にて示されるアミノ酸配列の、XとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、または、X14とGとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物;
(C)上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメインのアミノ末端の下記(3)にて示されるアミノ酸配列の、YとYとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物;
(1)−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−;
(2)−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−X−X10−G−X11−X12−G−X13−X14−G−;
(3)−Y−Y−Y−G−Y−Y−G−Y−Y−G−Y−Y−G−;
(但し、Gは、グリシンであり、X〜X14およびY〜Yは、任意のアミノ酸である)。
【0020】
本発明の一実施形態に係る胚様体形成方法では、上記(1)または(2)にて示されるアミノ酸配列は、上記トリプルヘリカルドメインのアミノ末端のアミノ酸配列であることが好ましい。
【0021】
本発明の一実施形態に係る胚様体形成方法では、上記(1)〜(3)の何れかにて示されるアミノ酸配列における切断が、上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのα1鎖内およびα2鎖内の少なくとも一方で行われていることが好ましい。
【0022】
本発明の一実施形態に係る胚様体形成用組成物は、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物を含有している多能性幹細胞の胚様体形成用組成物であって、上記分解物は、上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメインの少なくとも一部分を含んでいることを特徴としている。
【0023】
本発明の一実施形態に係る胚様体形成用組成物では、上記分解物は、以下(A)〜(C)のコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の内の少なくとも1種類以上を含有しているものであり得る:
(A)上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメイン内の下記(1)にて示されるアミノ酸配列の、XとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、または、XとGとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物;
(B)上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメイン内の下記(2)にて示されるアミノ酸配列の、XとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、または、X14とGとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物;
(C)上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメインのアミノ末端の下記(3)にて示されるアミノ酸配列の、YとYとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物;
(1)−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−;
(2)−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−X−X10−G−X11−X12−G−X13−X14−G−;
(3)−Y−Y−Y−G−Y−Y−G−Y−Y−G−Y−Y−G−;
(但し、Gは、グリシンであり、X〜X14およびY〜Yは、任意のアミノ酸である)。
【0024】
本発明の一実施形態に係る胚様体形成用組成物では、上記(1)または(2)にて示されるアミノ酸配列は、上記トリプルヘリカルドメインのアミノ末端のアミノ酸配列であることが好ましい。
【0025】
本発明の一実施形態に係る胚様体形成用組成物では、上記(1)〜(3)の何れかにて示されるアミノ酸配列における切断が、上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのα1鎖内およびα2鎖内の少なくとも一方で行われていることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、多能性幹細胞の胚様体を容易に形成させることができるという効果を奏する。また、本発明によれば、従来の胚様体形成方法と比較して、より短期間で胚様体を形成させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】位相差顕微鏡下で観察したES細胞の形態を示す図であり、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(b)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物ゲル培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図である。なお、MEFはマウス胎児由来線維芽細胞(Murine Embryonic Fibroblasts)を、LIFは白血病抑制因子(Leukemia Inhibitory Factor)を意味する。また、(+)は共存下での培養、(−)は非共存下での培養を示す。
図2】位相差顕微鏡下で観察したES細胞の形態を示す図であり、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(−))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(b)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(−))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物ゲル培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(−))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図である。
図3】ES細胞の細胞内在性のアルカリ性ホスファターゼ活性を調べた結果を示す図であり、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて2日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図であり、(b)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて2日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物ゲル培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて2日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図である。
図4】位相差顕微鏡下で観察したES細胞の形態を示す図であり、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(b)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物ゲル培養皿において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図である。
図5】位相差顕微鏡下で観察したES細胞の形態を示す図であり、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(−))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(b)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(−))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物ゲル培養皿において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(−))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図である。
図6】MEF(+)且つLIF(+)の培養条件においてゼラチンコート培養皿において4日間培養したGFP遺伝子を内在したES細胞を、顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(a)は、位相差顕微鏡下で観察したES細胞の形態を示す図であり、(b)は、(a)に示したES細胞のGFPの蛍光を蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(c)は、(a)に示したES細胞の各細胞の核をHoechst 33342染色し、蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(d)は、(a)、(b)および(c)の画像を重ね合せた結果を示す図である。
図7】MEF(+)且つLIF(+)の培養条件においてコラーゲン分解物ゲル培養皿においてGFP遺伝子を内在したES細胞を4日間培養した後に得られた胚様体を、顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(a)は、位相差顕微鏡下で観察した胚様体の形態を示す図であり、(b)は、(a)に示した胚様体のGFPの蛍光を蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(c)は、(a)に示した胚様体の各細胞の核をHoechst 33342染色し、蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(d)は、(a)、(b)および(c)の画像を重ね合せた結果を示す図である。
図8】MEF(+)且つLIF(−)の培養条件においてコラーゲン分解物ゲル培養皿においてGFP遺伝子を内在したES細胞を4日間培養した後に得られた胚様体を、顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(a)は、位相差顕微鏡下で観察した胚様体の形態を示す図であり、(b)は、(a)に示した胚様体のGFPの蛍光を蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(c)は、(a)に示した胚様体の各細胞の核をHoechst 33342染色し、蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(d)は、(a)、(b)および(c)の画像を重ね合せた結果を示す図である。
図9】位相差顕微鏡下で観察したiPS細胞の形態を示す図であり、(a)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、1日間培養したiPS細胞の形態を示す図であり、(b)は、Vitronectinコート培養皿において、1日間培養したiPS細胞の形態を示す図であり、(c)は、iMatrix511コート培養皿において、1日間培養したiPS細胞の形態を示す図である。
図10】位相差顕微鏡下で観察したiPS細胞の形態を示す図であり、(a)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、5日間培養したiPS細胞の形態を示す図であり、(b)は、Vitronectinコート培養皿において、5日間培養したiPS細胞の形態を示す図であり、(c)は、iMatrix511コート培養皿において、5日間培養したiPS細胞の形態を示す図である。
図11】位相差顕微鏡下で観察したiPS細胞の形態を示す図であり、(a)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、4日間培養したiPS細胞の形態を示す図であり、(b)は、Lipidure培養皿において、4日間培養したiPS細胞の形態を示す図である。
図12】位相差顕微鏡下で観察したiPS細胞の形態を示す図であり、(a)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、12日間培養したiPS細胞の形態を示す図であり、(b)は、Lipidure培養皿において、12日間培養したiPS細胞の形態を示す図である。
図13】定量RT−PCRの結果から得られた発現量の最大値を100として、各マーカーの相対発現量をレーダーチャート化したものを示す図であり、(a)は、コラーゲン分解物コート培養皿で形成したマウスES細胞の胚様体における各マーカーの相対発現量を示す図であり、(b)は、Lipidure培養皿で形成したマウスES細胞の胚様体における各マーカーの相対発現量を示す図であり、(c)は、ゼラチンコート培養皿で形成したマウスES細胞の胚様体における各マーカーの相対発現量を示す図である。
図14】位相差顕微鏡下で観察したES細胞の形態を示す図であり、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(b)は、アテロコラーゲンコート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号27)において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(d)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ラット腱由来、配列番号24と配列番号5との混合物)において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(e)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号26)において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図である。
図15】ES細胞の細胞内在性のアルカリ性ホスファターゼ活性を調べた結果を示す図であり、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図であり、(b)は、アテロコラーゲンコート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号27)において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図であり、(d)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ラット腱由来、配列番号24と配列番号5との混合物)において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図であり、(e)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号26)において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図である。
図16】MEF(+)且つLIF(+)の培養条件においてゼラチンコート培養皿においてGFP遺伝子を内在したES細胞を1日間培養した後に得られたコロニーを、顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(a)は、位相差顕微鏡下で観察した上記コロニーの形態を示す図であり、(b)は、(a)に示した上記コロニーのGFPの蛍光を蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(c)は(a)および(b)の画像を重ね合せた結果を示す図である。
図17】MEF(+)且つLIF(+)の培養条件においてコラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号27)においてGFP遺伝子を内在したES細胞を1日間培養した後に得られた胚様体を、顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(a)は、位相差顕微鏡下で観察した上記胚様体の形態を示す図であり、(b)は、(a)に示した上記胚様体のGFPの蛍光を蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(c)は(a)および(b)の画像を重ね合せた結果を示す図である。
図18】MEF(+)且つLIF(+)の培養条件においてコラーゲン分解物コート培養皿(ラット腱由来、配列番号24と配列番号5との混合物)においてGFP遺伝子を内在したES細胞を1日間培養した後に得られた胚様体を、顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(a)は、位相差顕微鏡下で観察した上記胚様体の形態を示す図であり、(b)は、(a)に示した上記胚様体のGFPの蛍光を蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(c)は(a)および(b)の画像を重ね合せた結果を示す図である。
図19】MEF(+)且つLIF(+)の培養条件においてコラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号26)においてGFP遺伝子を内在したES細胞を1日間培養した後に得られた胚様体を、顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(a)は、位相差顕微鏡下で観察した上記胚様体の形態を示す図であり、(b)は、(a)に示した上記胚様体のGFPの蛍光を蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(c)は(a)および(b)の画像を重ね合せた結果を示す図である。
図20】位相差顕微鏡下で観察したES細胞の形態を示す図であり、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(b)は、アテロコラーゲンコート培養皿において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号27)において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(d)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ラット腱由来、配列番号24と配列番号5との混合物)において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(e)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号26)において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図である。
図21】ES細胞の細胞内在性のアルカリ性ホスファターゼ活性を調べた結果を示す図であり、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図であり、(b)は、アテロコラーゲンコート培養皿において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号27)において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図であり、(d)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ラット腱由来、配列番号24と配列番号5との混合物)において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図であり、(e)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号26)において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0029】
〔1.胚様体形成方法〕
本発明の一実施形態に係る胚様体形成方法(以下、「本実施形態の胚様体形成方法」ともいう。)は、多能性幹細胞の胚様体を形成させる方法であって、多能性幹細胞を、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物と共に培養する培養工程を包含する構成である。
【0030】
ここで、本明細書において、上記「多能性幹細胞」は、胎盤以外のすべての細胞に分化可能な分化多能性と、自己複製能とを有する細胞である。そのような多能性幹細胞としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹細胞(核移植ES細胞;ntES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、生体組織に由来する多能性幹細胞(Muse細胞(Multilineage-differentiating Stress Enduring cells))などを挙げることができるが、これらに限定されない。また、上記「多能性幹細胞」としては、例えば、ヒト、カニクイザルなどの霊長類、マウスなどに由来するものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
本明細書において、上記「胚様体」は、多能性幹細胞から形成された球状の細胞塊であって、適切な分化誘導条件下で種々の細胞へ分化する能力を有しているものをいう。「胚様体」は、エンブリオイド・ボディー(Embryoid Body:EB)とも称される。本明細書における「胚様体」には、多能性幹細胞から胚様体が形成される途中の細胞の凝集体である「胚様体様細胞凝集体」も包含される。本明細書において、「胚様体」は、多能性マーカー(例えば、Nanog、OCT3/4(Octamer-binding transcription factor 3/4)、TRA−1−60、SSEA−3(stage-specific embryonic antigen-3)など)を発現していてもよく、また分化マーカー(例えば、SOX1(SRY (sex determining region Y)-box 1)、SOX7(SRY (sex determining region Y)-box 7)、SOX17(SRY (sex determining region Y)-box 17)、HNF-3β(Hepatocyte Nuclear Factor 3β)/FoxA2(forkhead box protein A2)、GATA4(GATA binding protein 4)、GATA6(GATA binding protein 6)、Otx2(Orthodenticle homeobox 2)、CXCR4(Chemokine (C-X-C Motif) Receptor 4)、GSC(goosecoid)など)を発現していてもよい。「胚様体」は、三胚葉(外胚葉、内胚葉、中胚葉)全てに分化できる能力を有していることが好ましい。三胚葉全てに分化できる能力を有している胚様体は、目的の細胞への分化誘導に好適に用いることができる。
【0032】
また、「胚様体」の大きさは特に制限されないが、最長径が、50〜1000μmであることが好ましく、100〜500μmであることがより好ましい。「胚様体」の形は特に制限されないが、球形、略球形、楕円形、略楕円形等であることが好ましい。
【0033】
本実施形態の胚様体形成方法によって胚様体が形成されたことは、肉眼または顕微鏡下で球状の細胞塊の存在を確認することによって確認することができる。本実施形態の胚様体形成方法によって得られた胚様体が種々の細胞へ分化する能力を有していることは、当該胚様体を、公知の適切な分化誘導条件(例えば、公知の、血液細胞への分化誘導条件、神経細胞への分化誘導条件など)で培養し、胚様体由来の細胞が目的の細胞へと分化したことを確認することによって、確認することができる。胚様体由来の細胞が目的の細胞へと分化したことは、分化した細胞の形態、遺伝子発現などを公知の手法を用いて確認することによって、確認することができる。
【0034】
本実施形態の胚様体形成方法において、上記「コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物」は、コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメインの少なくとも一部分を含んでいる構成である。つまり、上記分解物は、コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメインの全体を含んでいてもよいし、トリプルヘリカルドメインの一部分を含んでいてもよい。「コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物」については、後段で詳細に説明する。
【0035】
以下に、本実施形態の胚様体形成方法について詳細に説明する。
【0036】
(1−1.培養工程)
培養工程は、多能性幹細胞を、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物と共に培養する工程である。「多能性幹細胞を、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物と共に培養する」とは、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物が多能性幹細胞と接触可能に存在している環境中で多能性幹細胞を培養することを意味している。例えば、一実施形態において、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物を用いて内面をコートした培養容器を用いて、多能性幹細胞を培養してもよい。また、他の実施形態において、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物を含有しているゲル組成物上で多能性幹細胞を培養してもよい。コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物は、多能性幹細胞と当該多能性幹細胞を培養するための培養容器の内面との接触を妨げるように存在していることが好ましい。これにより、多能性幹細胞の胚様体を効率よく形成することができる。多能性幹細胞を培養するための培養容器は、細胞培養に通常用いられる容器を使用することができる。培養容器は、ディッシュ型のものであってもよく、プレート型、ボトル型のものであってもよい。
【0037】
本実施形態の胚様体形成方法に使用するコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の量は特に限定されない。
【0038】
一実施形態において、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物を用いて内面をコートした培養容器を用いて、多能性幹細胞を培養する場合は、2mg/mL〜20mg/mL、好ましくは3mg/mL〜16mg/mL、より好ましくは5mg/mL〜15mg/mL、あるいは5mg/mL〜20mg/mL、好ましくは8mg/mL〜16mg/mLのコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物を含有している水溶液を調製し、当該分解物の水溶液を用いて、培養容器の内面をコートすることができる。培養容器の内面のコートは、多能性幹細胞の培養を開始する前に行えばよい。上記分解物の水溶液における上記分解物の濃度が2mg/mL以上であれば、胚様体を均一に形成することができる。また、上記分解物の水溶液における上記分解物の濃度が20mg/mL以下であれば、再現性が良好となる。これに対して、上記分解物の水溶液における上記分解物の濃度が2mg/mL未満である場合は、胚様体の形成が不均一になる場合がある。また、上記分解物の水溶液における上記分解物の濃度が20mg/mLよりも高い場合は、粘性が高くなり再現性が不良となる場合がある。
【0039】
他の実施形態において、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物を含有しているゲル組成物上で多能性幹細胞を培養する場合は、最終濃度として、2mg/mL〜15mg/mLまたは5mg/mL〜15mg/mLのコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物が、ゲル組成物中に含有されていることが好ましく、5mg/mL〜12mg/mLまたは5mg/mL〜11mg/mLのコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物が、ゲル組成物中に含有されていることがより好ましい。7mg/mL〜10mg/mLまたは8mg/mL〜10mg/mLのコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物が、ゲル組成物中に含有されていることがよりさらに好ましい。ゲル組成物中に含有されている上記分解物の濃度が、最終濃度として2mg/mL以上であれば、胚様体を均一に形成することができる。また、ゲル組成物中に含有されている上記分解物の濃度が、最終濃度として15mg/mL以下であれば、再現性が良好となる。これに対して、ゲル組成物中に含有されている上記分解物の濃度が、最終濃度として2mg/mL未満である場合は、胚様体の形成が不均一になる場合がある。また、ゲル組成物中に含有されている上記分解物の濃度が、最終濃度として15mg/mLよりも高い場合は、粘性が高くなり再現性が不良となる場合がある。
【0040】
コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物を含有しているゲル組成物は、例えば、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物を、濃縮培養液(例えば、5倍濃縮DMEMなど)と再構成用緩衝液(50mM 水酸化ナトリウム、260mM 炭酸水素ナトリウム、200mM HEPES)と混合し、この混合液を培養皿に添加して、37℃のCOインキュベーター内で30分間程度静置することによって作製することができる。
【0041】
培養工程において用いる培地は、多能性幹細胞の培地であれば特に制限されない。このような培地としては、使用する多能性幹細胞の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、多能性幹細胞の増殖維持に用いられる公知の培養培地を用いることができる。このような培養培地は、基本培地に、非必須アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、2−メルカプトエタノール、ウシ胎児血清、グルタミン、ヌクレオシド、LIFなどを添加して調製することができる。
【0042】
基本培地としては、従来公知の動物細胞用の培地を用いることができる。例えば、Ham’s F12培地、α−MEM培地、DMEM培地、RPMI−1640培地などが挙げられる。これらの基本培地は、単独で使用されても、複数を混合して使用されてもよい。
【0043】
基本培地には、血清が含有されていてもよいし、または含有されていなくてもよい。また、基本培地は、血清の代わりに人工血清代替物を含んでいてもよい。そのような人工血清代替物としては、例えば、KnockOut(登録商標)Serum Replacement(インビトロジェン製)を挙げることができる。
【0044】
また、基本培地には、白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor:LIF)が含有されていてもよいし、または含有されていなくてもよい。ここで、LIFは、通常、マウスES細胞の未分化状態を維持するために培養培地に添加される。従って、マウスES細胞から胚様体を形成する場合は、通常は、LIF非存在下において胚様体の形成が行われる。しかし、本実施形態の胚様体形成方法によれば、驚くべきことに、胚様体形成用培地としてLIFを含有している培地を用いた場合であっても、LIFを含有していない培地を用いた場合と同様に、マウスES細胞から胚様体を形成することができる。
【0045】
培養工程では、多能性幹細胞をフィーダー細胞と共培養させてもよく、フィーダー細胞が存在していなくてもよい。フィーダー細胞としては、多能性幹細胞の維持培養においてフィーダー細胞として通常用いられる細胞を使用することができる。例えば、マウス胎児由来線維芽細胞(mouse embryonic fibroblast:MEF)などを挙げることができる。フィーダー細胞を使用する場合は、多能性幹細胞の培養を開始する少なくとも1日前に、フィーダー細胞を播種しておくことが好ましい。
【0046】
多能性幹細胞の播種密度は、特に限定されないが、培地1mlあたり、1×10個〜1×10個であることが好ましく、2×10個〜5×10個であることがより好ましく、5×10個〜5×10個であることがさらに好ましい。一般に、播種数が極端に少ない場合は、細胞の生存率が低下しやすく、また胚様体を形成しにくくなる。一方、播種数が極端に多い場合は、不均一で大きな胚様体を形成しやすくなる。これらの場合、分化誘導する際に、再現性などの問題が生じやすい。播種密度は、多能性幹細胞の種類により適宜最適な密度を決めればよく、何ら限定されるものではない。
【0047】
培養工程における培養条件としては、通常の細胞培養が行われる条件であればよい。培養温度は、例えば、30℃〜40℃、好ましくは37℃である。培養は、CO含有空気の雰囲気下で行われ、CO濃度は、例えば、2%〜5%、好ましくは5%である。培養期間は、どのような品質の胚様体を形成したいかに応じて適宜設定することができる。例えば、培養期間が長くなるほど、より大きい胚様体を形成することができる。培養期間は、使用する多能性幹細胞の種類により異なるが、短くとも1日間以上であることが好ましく、3日間以上であることがより好ましく、5日間以上であることがさらに好ましい。また、長くとも20日間以下であることが好ましく、15日間以下であることがより好ましく、10日間以下であることがさらに好ましい。培養日数が短いと、胚様体のサイズが不均一で安定しにくい。一方、培養日数が長くなるに従い、胚様体の品質が低下しやすくなり、不均一な分化を起こしやすくなる。これら培養日数は、細胞の播種数により適宜最適な期間を決めればよく、何ら限定されるものではない。
【0048】
従来のES細胞の胚様体を得る方法では、例えば、マウスのES細胞を用いた場合は、胚様体を得るまでに長期間(例えば、ハンギングドロップ法では、短くとも7日程度)を要する。これに対して、本実施形態の胚様体形成方法では、例えば、マウスのES細胞を用いた場合は、後述する実施例に示したとおり、培養開始後1日目には胚様体が形成される。
【0049】
そして、従来のES細胞の胚様体を得る方法では、再現性が悪く、熟練を要していたが、本実施形態の胚様体形成方法では、一般的な細胞培養の手法によって、基本的な培養技術を有している研究者では容易に胚様体を形成することができる。
【0050】
また、本実施形態の胚様体形成方法は、単なる胚様体のみならず、外胚葉、内胚葉および/または中胚葉に分化する能力を有する胚様体を形成することができるという点でも優れている。このような利点は本発明者らによって初めて見出されたものである。後述の実施例においても、本実施形態の胚様体形成方法によれば、これまでに観察されていないような胚様体が形成されることが示されている。また、実施例では、得られた胚様体が分化マーカーを発現することも示されている。
【0051】
培養工程では、培養期間中に培地交換を行ってもよい。培地交換を行う場合は、毎日または2〜5日に一度、培地交換を行えばよい。適切な頻度で培地交換を行うことによって、良好な培養環境を保つことができる。従来のハンギングドロップ法、または超親水性処理培養皿では、通常、細胞に負担なく培地交換をすることができない。また、培地交換する間に細胞を吸引廃棄する危険性が高くなる。これに対して、本実施形態の胚様体形成方法では、細胞に負担をかけることなく培地交換をすることが可能である。また、培地交換の間に細胞を吸引廃棄する危険性が低い。
【0052】
(1−2.その他の工程)
本実施形態の胚様体形成方法は、上述した培養工程以外の工程を更に包含していてもよい。例えば、形成された胚様体の質を確認する確認工程を更に包含していてもよい。ここで、上記「胚様体の質」とは、胚様体の未分化および/または分化の程度、胚様体の分化能、胚様体の大きさ(胚様体の直径)、胚様体の形が意図される。すなわち、当該確認工程は、胚様体の質を確認するために、例えば、胚様体の未分化および/または分化の程度を確認する工程であってもよく、胚様体の分化能を確認する工程であってもよく、胚様体の大きさ(例えば、直径)を確認する工程であってもよく、胚様体の形(例えば、球形)を確認する工程であってもよい。
【0053】
胚様体の未分化および/または分化の程度は、例えば、胚様体における公知の分化マーカー、未分化マーカーなどの発現を遺伝子レベルまたはタンパク質レベルで確認することによって確認することができる。
【0054】
また、胚様体の分化能は、例えば、胚様体を公知の適切な分化誘導条件(例えば、公知の、血液細胞への分化誘導条件、神経細胞への分化誘導条件など)で培養し、胚様体由来の細胞が目的の細胞へと分化したことを確認することによって、確認することができる。
【0055】
また、胚様体の大きさと形とは、例えば、胚様体の直径と形とを位相差顕微鏡下で測定することによって確認することができる。
【0056】
上記確認工程は、上述した培養工程の途中で行ってもよく、培養工程後に行ってもよい。培養工程の途中で上記確認工程を行うことによって、培養期間を適切に調整することができる。
【0057】
また、本実施形態の胚様体形成方法は、培養工程後に、胚様体を回収する回収工程を更に包含していてもよい。
【0058】
以下に、本実施形態の胚様体形成方法において使用する「コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物」について詳細に説明する。
【0059】
<コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物>
本実施形態の胚様体形成方法において、上記「コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物」(以下、単に「分解物」ともいう場合がある。)は、コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメインの少なくとも一部分を含んでいる構成である。つまり、上記分解物は、コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメインの全体を含んでいてもよいし、トリプルヘリカルドメインの一部分を含んでいてもよい。
【0060】
更に具体的には、上記分解物は、以下(A)〜(C)のコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の内の少なくとも1種類以上を含有しているものである:
(A)上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメイン内の下記(1)にて示されるアミノ酸配列の、XとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、または、XとGとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物;
(B)上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメイン内の下記(2)にて示されるアミノ酸配列の、XとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、または、X14とGとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物;
(C)上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメインのアミノ末端の下記(3)にて示されるアミノ酸配列の、YとYとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物;
(1)−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−(配列番号1);
(2)−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−X−X10−G−X11−X12−G−X13−X14−G−(配列番号14);
(3)−Y−Y−Y−G−Y−Y−G−Y−Y−G−Y−Y−G−(配列番号13);
(但し、Gは、グリシンであり、X〜X14およびY〜Yは、任意のアミノ酸である)。
【0061】
以下に、各構成について詳細に説明する。
【0062】
分解物の材料になるコラーゲンおよびアテロコラーゲンは特に限定されず、周知のコラーゲンおよびアテロコラーゲンであればよい。
【0063】
分解物の材料になるコラーゲンとしては、哺乳類(例えば、ウシ、ブタ、ウサギ、ヒト、ラットまたはマウスなど)、鳥類(例えば、ニワトリなど)、または、魚類(例えば、サメ、コイ、ウナギ、マグロ(例えば、キハダマグロ)、ティラピア、タイ、サケなど)のコラーゲンを用いることができる。
【0064】
更に具体的には、分解物の材料になるコラーゲンとしては、上記哺乳類または鳥類の真皮、腱、骨または筋膜などに由来するコラーゲン、あるいは、上記魚類の皮膚または鱗などに由来するコラーゲンを用いることができる。
【0065】
分解物の材料になるアテロコラーゲンとしては、上記哺乳類、鳥類または魚類のコラーゲンをプロテアーゼ(例えば、ペプシンなど)によって処理して得られる、コラーゲン分子のアミノ末端および/またはカルボキシル末端からテロペプチドが部分的に除去されているアテロコラーゲンを用いることができる。
【0066】
これらのなかでは、ニワトリ、ブタ、ウシ、ヒトまたはラットのコラーゲンまたはアテロコラーゲンを分解物の材料として好ましく用いることができ、ブタ、ウシまたはヒトのコラーゲンまたはアテロコラーゲンを分解物の材料として更に好ましく用いることができる。
【0067】
また、分解物の材料として魚類のコラーゲンまたはアテロコラーゲンを用いることにより、材料を簡便に、安全に、かつ大量に入手可能であり、ヒトに対してより安全なコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物を実現することができる。
【0068】
なお、分解物の材料として魚類のコラーゲンまたはアテロコラーゲンを用いる場合には、サメ、コイ、ウナギ、マグロ(例えば、キハダマグロ)、ティラピア、タイまたはサケのコラーゲンまたはアテロコラーゲンを用いることが好ましく、マグロ、ティラピア、タイまたはサケのコラーゲンまたはアテロコラーゲンを用いることが更に好ましい。
【0069】
分解物の材料としてアテロコラーゲンを用いる場合、熱による変性温度が、好ましくは15℃以上、より好ましくは20℃以上であるアテロコラーゲンを用いることが好ましい。例えば、分解物の材料として魚類のアテロコラーゲンを用いる場合、マグロ(例えば、キハダマグロ)、ティラピアまたはコイなどのアテロコラーゲンは熱変性温度が25℃以上であるので、これらのアテロコラーゲンを用いることが好ましい。
【0070】
上記構成であれば、分解物の変性温度を、好ましくは15℃以上、より好ましくは20℃以上に調節することができる。その結果、上記構成であれば、貯蔵時の安定性、利用時の安定性に優れた分解物を実現することができる。
【0071】
分解物の材料になるコラーゲンおよびアテロコラーゲンは、周知の方法によって入手することができる。例えば、哺乳類、鳥類または魚類のコラーゲンに富んだ組織をpH2〜4程度の酸性溶液に投入することによって、コラーゲンを溶出することができる。更に、当該溶出液にペプシンなどのプロテアーゼを添加して、コラーゲン分子のアミノ末端および/またはカルボキシル末端のテロペプチドを部分的に除去する。更に、当該溶出液に塩化ナトリウムなどの塩を加えることによって、アテロコラーゲンを沈殿させることができる。
【0072】
上記「コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物」は、以下(A)〜(C)のコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の内の少なくとも1種類以上を含有しているものである:
(A)上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメイン内の下記(1)にて示されるアミノ酸配列の、XとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、または、XとGとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物;
(B)上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメイン内の下記(2)にて示されるアミノ酸配列の、XとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、または、X14とGとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物;
(C)上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメインのアミノ末端の下記(3)にて示されるアミノ酸配列の、YとYとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物;
(1)−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−;
(2)−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−X−X10−G−X11−X12−G−X13−X14−G−;
(3)−Y−Y−Y−G−Y−Y−G−Y−Y−G−Y−Y−G−;
(但し、Gは、グリシンであり、X〜X14およびY〜Yは、任意のアミノ酸である)。
【0073】
本明細書において「トリプルヘリカルドメイン」とは、「Gly−X−Y」(XおよびYは任意のアミノ酸)にて示されるアミノ酸配列が、少なくとも3個以上、より好ましくは少なくとも80個以上、より好ましくは少なくとも300個以上、連続するアミノ酸配列を含むドメインであって、螺旋構造の形成に寄与するドメインを意図する。
【0074】
本明細書において、上記「コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物」は、コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメイン内の上記(1)〜(3)の何れか1つにて示されるアミノ酸配列内の任意の1箇所が切断された分解物であってもよい。上記「コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物」は、コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメインよりもC末端側の部分の全体を含んでいるものであってもよいし、または一部分を含んでいるものであってもよい。「コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物」がコラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメインよりもC末端側の部分の一部分を含んでいる場合は、コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメインよりもC末端側の部分を、3アミノ酸以上、5アミノ酸以上、10アミノ酸以上含んでいてもよい。例えば、ニワトリI型コラーゲンのC末端配列の配列情報は、S. Kunii et al., Journal of Biological Chemistry, Vol.285, No.23, pp.17465-17470, June4, 2010に記載されている。
【0075】
一実施形態において、上記「コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物」は、上記(A)〜(C)のコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の内の少なくとも1種類以上を含有するものであればよい。すなわち、上記「コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物」は、上記(A)〜(C)のコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の内の1種類を単独で含有するものであってもよく、上記(A)〜(C)のコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の内の1種類以上を組み合せて含有するものであってもよい。
【0076】
トリプルヘリカルドメイン内で化学結合の切断が生じているポリペプチド鎖は、コラーゲンまたはアテロコラーゲンを構成する複数種類のポリペプチド鎖のうちの何れのポリペプチド鎖であってもよい。
【0077】
例えば、化学結合の切断が生じているポリペプチド鎖は、α1鎖もしくはα2鎖のうちの何れであってもよい。
【0078】
化学結合の切断が生じているポリペプチド鎖は、上述したポリペプチド鎖のなかではα1鎖またはα2鎖の少なくとも両方であることが好ましい。
【0079】
化学結合の切断が生じているポリペプチド鎖は、上述したポリペプチド鎖のなかではα1鎖であることが更に好ましい。
【0080】
コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物を酵素処理によって作製すれば、容易に特定のポリペプチド鎖のみで切断を生じさせることができる。
【0081】
コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物は、3つのポリペプチド鎖が螺旋構造を形成しているものであってもよい。あるいは、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物は、3つのポリペプチド鎖が螺旋構造を形成していないもの、または、3つのポリペプチド鎖が部分的に螺旋構造を形成していないものであってもよい。なお、3つのポリペプチド鎖が螺旋構造を形成しているか否かは、公知の方法(例えば、円偏光二色スペクトル)によって確認することができる。
【0082】
コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物は、基本的に3つのポリペプチド鎖を含んでいるが、3つのポリペプチド鎖のうちの1つのポリペプチド鎖にて化学結合の切断が生じていてもよいし、3つのポリペプチド鎖のうちの2つのポリペプチド鎖にて化学結合の切断が生じていてもよいし、3つのポリペプチド鎖の全てにて化学結合の切断が生じていてもよい。
【0083】
3つのポリペプチド鎖が螺旋構造を形成している場合には、複数の螺旋構造体によって、網目状の会合体が形成されていてもよいし、線維状の会合体が形成されていてもよい。
【0084】
本明細書において、網目状とは、水素結合または静電的相互作用、ファンデルワールス結合などによって分子が連なって立体的な網目をつくり、当該網目の間に隙間ができている構造を意図する。本明細書において、線維状とは、水素結合または静電的相互作用、ファンデルワールス結合などによって分子が連なって形成された略直線状の構造を意図する。また、本明細書において、会合体とは、同種の分子が共有結合によらないで2分子以上が相互作用して結合し、1つの構造単位となっているものを意図する。網目状または線維状の会合体が形成されているか否かは、電子顕微鏡にて観察することによって確認することができる。
【0085】
コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物は、架橋構造を有するものであってもよい。例えば、ポリペプチド鎖とポリペプチド鎖とが、螺旋構造と螺旋構造とが、または、ポリペプチド鎖と螺旋構造とが、架橋剤によって架橋されていてもよい。
【0086】
上記架橋構造は、周知の架橋方法によって形成することができる。例えば、化学架橋する方法、熱処理により架橋する方法、紫外線など放射線照射により架橋する方法などが挙げられる。
【0087】
化学架橋に用いる架橋剤としては、例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩などの水溶性カルボジイミド化合物、エピクロロヒドリン、ビスエポキシジエチレングリコールなどのジエポキシ化合物、NaBHなどが挙げられる。
【0088】
架橋剤の濃度は、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物に対して、好ましくは10−3〜10質量%である。好ましくは、5〜40℃にて、3〜48時間、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物と架橋剤とを接触させることにより、架橋構造を形成することができる。
【0089】
紫外線により架橋する場合、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物に、例えば、室温にて、紫外線ランプなどにより紫外線を3〜48時間程度照射することによって、架橋構造を形成することができる。
【0090】
熱架橋する場合は、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物を、減圧下にて、好ましくは110〜160℃程度の温度で、3〜48時間程度加熱することによって、架橋構造を形成することができる。
【0091】
架橋構造を有するコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物は、耐コラゲナーゼ性、および、強度が向上しているという利点を有している。
【0092】
コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物は、必要に応じて、所望の化学修飾を施されていてもよい。化学修飾の種類としては、例えば、アシル化、ミリスチル化、ポリエチレングリコール修飾などを挙げることができる。
【0093】
例えば、アシル化の一種であるサクシニル化を施した分解物は、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物と無水コハク酸とを、リン酸緩衝液などの中性pHの溶媒中で反応させて得ることができる。サクシニル化することにより、中性pHの溶媒に対する分解物の溶解度を向上させることができる。
【0094】
また、ポリエチレングリコール修飾を施した分解物は、塩化シアヌルで活性化したポリエチレングリコールと、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物とを反応させることにより、得ることができる。
【0095】
上述したコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物では、上述したトリプルヘリカルドメイン内の下記(1)にて示されるアミノ酸配列の、XとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、または、XとGとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物が含まれている;
(1)−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−:
(但し、Gは、グリシンであり、X〜Xは、任意のアミノ酸である)。
【0096】
また、上述したコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物では、上述したトリプルヘリカルドメイン内の下記(2)にて示されるアミノ酸配列の、XとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、または、X14とGとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物が含まれている;
(2)−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−X−X10−G−X11−X12−G−X13−X14−G−:
(但し、Gは、グリシンであり、X〜X14は、任意のアミノ酸である)。
【0097】
また、上述したコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物では、上述したトリプルヘリカルドメインのアミノ末端の下記(3)にて示されるアミノ酸配列の、YとYとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物が含まれている;
(3)−Y−Y−Y−G−Y−Y−G−Y−Y−G−Y−Y−G−(但し、Gは、グリシンであり、Y〜Yは、任意のアミノ酸である)。
【0098】
上記(1)または(2)にて示されるアミノ酸配列のトリプルヘリカルドメイン内における位置は、特に限定されない。例えば、上記(1)または(2)にて示されるアミノ酸配列は、トリプルヘリカルドメインの内部に存在していてもよいが、トリプルヘリカルドメインのアミノ末端に存在していることが好ましい(換言すれば、上記(1)または(2)にて示されるアミノ酸配列の中の最もアミノ末端側に配置されている「G」が、トリプルヘリカルドメインの中の最もアミノ末端側に配置されている「G」と一致することが好ましい)。
【0099】
上記(1)または(2)にて示されるアミノ酸配列がトリプルヘリカルドメインの内部に存在している場合、当該(1)または(2)にて示されるアミノ酸配列の具体的な位置は特に限定されない。当該(1)または(2)にて示されるアミノ酸配列のアミノ末端側に、1個以上、5個以上、10個以上、50個以上、100個以上、150個以上、200個以上、250個以上または300個以上の「Gly−X−Y」(XおよびYは任意のアミノ酸)が連続するアミノ酸配列が存在していてもよい。また、当該(1)または(2)にて示されるアミノ酸配列のカルボキシル末端側に、1個以上、5個以上、10個以上、50個以上、100個以上、150個以上、200個以上、250個以上または300個以上の「Gly−X−Y」(XおよびYは任意のアミノ酸)が連続するアミノ酸配列が存在していてもよい。
【0100】
トリプルヘリカルドメイン内の当該(1)または(2)にて示されるアミノ酸配列以外の部分(すなわち、上記(1)または(2)にて示されるアミノ酸配列がトリプルヘリカルドメインの内部に存在している場合は、当該(1)または(2)にて示されるアミノ酸配列のアミノ末端側および/またはカルボキシル末端側。上記(1)または(2)にて示されるアミノ酸配列がトリプルヘリカルドメインのアミノ末端に存在している場合は、当該(1)または(2)にて示されるアミノ酸配列のカルボキシル末端側)は切断されていなくてもよく、または1箇所以上が切断されていてもよい。
【0101】
上記X〜Xの各々は、任意のアミノ酸であり得、アミノ酸の種類は特に限定されない。また、X〜Xの各々は、少なくとも一部が同じ種類のアミノ酸であってもよいし、全てが異なる種類のアミノ酸であってもよい。
【0102】
例えば、X〜Xの各々は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、メチオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アルギニン、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリシンのうちの何れであってもよい。
【0103】
更に具体的には、X〜Xのうち、X、XおよびXが同じアミノ酸であり、その他が別のアミノ酸であってもよい。
【0104】
更に具体的には、X〜Xのうち、X、XおよびXからなる群から選択される少なくとも1つがプロリンであり、その他が任意のアミノ酸であってもよい。
【0105】
更に具体的には、Xがプロリンであり、X〜Xが任意のアミノ酸であってもよい。
【0106】
更に具体的には、XおよびXがプロリンであり、X、X〜Xが任意のアミノ酸であってもよい。
【0107】
更に具体的には、X、XおよびXがプロリンであり、X、XおよびXが任意のアミノ酸であってもよい。
【0108】
更に具体的には、X、XおよびXがプロリンであり、Xが側鎖に硫黄原子を含むアミノ酸(例えば、システインまたはメチオニン)または側鎖に水酸基を含むアミノ酸(例えば、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリシンまたはセリン)であり、XおよびXが任意のアミノ酸であってもよい。
【0109】
更に具体的には、X、XおよびXがプロリンであり、Xが側鎖に硫黄原子を含むアミノ酸(例えば、システインまたはメチオニン)であり、Xが脂肪族の側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンまたはイソロイシン)または側鎖に水酸基を含むアミノ酸(例えば、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリシンまたはセリン)であり、Xが任意のアミノ酸であってもよい。
【0110】
更に具体的には、X、XおよびXがプロリンであり、Xが側鎖に硫黄原子を含むアミノ酸(例えば、システインまたはメチオニン)であり、Xが脂肪族の側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンまたはイソロイシン)または側鎖に水酸基を含むアミノ酸(例えば、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリシンまたはセリン)であり、Xが側鎖に塩基を含むアミノ酸(例えば、アルギニン、リシンまたはヒスチジン)であってもよい。
【0111】
更に具体的には、X、XおよびXがプロリンであり、Xがメチオニンであり、Xがアラニンまたはセリンであり、Xがアルギニンであってもよい。
【0112】
上記(2)にて示されるアミノ酸配列では、X〜Xの各々は、上述したX〜Xと同じ構成であり得る。X〜X14の具体的な構成について、以下に説明する。
【0113】
上記X〜X14の各々は、任意のアミノ酸であり得、アミノ酸の種類は特に限定されない。また、X〜X14の各々は、少なくとも一部が同じ種類のアミノ酸であってもよいし、全てが異なる種類のアミノ酸であってもよい。
【0114】
例えば、X〜X14の各々は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、メチオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アルギニン、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリシンのうちの何れであってもよい。
【0115】
更に具体的には、X〜X14のうち、X、X、X10、X12およびX13が同じアミノ酸であり、その他が別のアミノ酸であってもよい。
【0116】
更に具体的には、X〜X14のうち、X、X、X10、X12およびX13からなる群から選択される少なくとも1つがプロリンまたはヒドロキシプロリンであり、その他が任意のアミノ酸であってもよい。
【0117】
更に具体的には、X〜X14のうち、Xがプロリンまたはヒドロキシプロリンであり、その他が任意のアミノ酸であってもよい。
【0118】
更に具体的には、X〜X14のうち、XおよびXがプロリンまたはヒドロキシプロリンであり、その他が任意のアミノ酸であってもよい。
【0119】
更に具体的には、X〜X14のうち、X、XおよびX10がプロリンまたはヒドロキシプロリンであり、その他が任意のアミノ酸であってもよい。
【0120】
更に具体的には、X〜X14のうち、X、X、X10およびX12がプロリンまたはヒドロキシプロリンであり、その他が任意のアミノ酸であってもよい。
【0121】
更に具体的には、X〜X14のうち、X、X、X10、X12およびX13がプロリンまたはヒドロキシプロリンであり、その他が任意のアミノ酸であってもよい。
【0122】
更に具体的には、X〜X14のうち、X、X、X10、X12およびX13がプロリンまたはヒドロキシプロリンであり、Xが脂肪族の側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンまたはイソロイシン)であり、その他が任意のアミノ酸であってもよい。
【0123】
更に具体的には、X〜X14のうち、X、X、X10、X12およびX13がプロリンまたはヒドロキシプロリンであり、XおよびX11が脂肪族の側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンまたはイソロイシン)であり、その他が任意のアミノ酸であってもよい。
【0124】
更に具体的には、X〜X14のうち、X、X、X10、X12およびX13がプロリンまたはヒドロキシプロリンであり、XおよびX11が脂肪族の側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンまたはイソロイシン)であり、X14が親水性でありかつ非解離性の側鎖を有するアミノ酸(セリン、スレオニン、アスパラギンまたはグルタミン)であってもよい。
【0125】
更に具体的には、X〜X14のうち、X、X、X10、X12およびX13がプロリンまたはヒドロキシプロリンであり、Xがロイシンであり、X11がアラニンであり、X14がグルタミンであってもよい。
【0126】
上記(3)にて示されるアミノ酸配列は、トリプルヘリカルドメインのアミノ末端に位置している。つまり、YとYとの間に位置しているGは、トリプルヘリカルドメイン内の最もアミノ末端側に位置しているグリシンを示している。そして、Y、YおよびYは、コラーゲンまたはアテロコラーゲンを構成する複数種類のポリペプチド鎖内において、トリプルヘリカルドメインよりもアミノ末端側に位置しているアミノ酸を示している。
【0127】
また、当該(3)にて示されるアミノ酸配列のカルボキシル末端側に、1個以上、5個以上、10個以上、50個以上、100個以上、150個以上、200個以上、250個以上または300個以上の「Gly−X−Y」(XおよびYは任意のアミノ酸)が連続するアミノ酸配列が存在していてもよい。
【0128】
トリプルヘリカルドメイン内の当該(3)にて示されるアミノ酸配列以外の部分(すなわち、上記(3)にて示されるアミノ酸配列のカルボキシル末端側)は切断されていなくてもよく、または1箇所以上が切断されていてもよい。
【0129】
上記Y〜Yの各々は、任意のアミノ酸であり得、アミノ酸の種類は特に限定されない。また、Y〜Yの各々は、少なくとも一部が同じ種類のアミノ酸であってもよいし、全てが異なる種類のアミノ酸であってもよい。
【0130】
例えば、Y〜Yの各々は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、メチオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アルギニン、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリシンのうちの何れであってもよい。
【0131】
更に具体的には、Yがプロリンであり、YおよびYが任意のアミノ酸であってもよい。
【0132】
更に具体的には、Yがプロリンであり、YおよびYが脂肪族の側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンまたはイソロイシン)または側鎖に水酸基を含むアミノ酸(ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリシンまたはセリン)であってもよい。
【0133】
更に具体的には、Yがプロリンであり、Yがアラニンまたはセリンであり、Yがバリンであってもよい。
【0134】
このとき、Y〜Yの具体的な構成は、特に限定されないが、YとXとが同じアミノ酸であり、YとXとが同じアミノ酸であり、YとXとが同じアミノ酸であり、YとXとが同じアミノ酸であり、YとXとが同じアミノ酸であり、YとXとが同じアミノ酸であってもよい。
【0135】
従来のコラーゲン、および、アテロコラーゲンは、ヒトの体温に近い温度では溶け難い。一方、本発明の一実施形態に用いるコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物は、ヒトの体温に近い温度でも液体状であり得る。
【0136】
また、本発明の一実施形態に用いるコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物は、従来のコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物と比較して、ゲル化し始める濃度が高い。
【0137】
本発明の一実施形態に用いるコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物には、コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメイン内の上記(1)にて示されるアミノ酸配列の、XとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、または、XとGとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物が含まれている。
【0138】
本発明の一実施形態に用いるコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物には、コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメイン内の上記(2)にて示されるアミノ酸配列の、XとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、または、X14とGとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物が含まれている。
【0139】
また、本発明の一実施形態に用いるコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物には、コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメインのアミノ末端の上記(3)にて示されるアミノ酸配列の、YとYとの間の化学結合が切断された、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物が含まれている。
【0140】
上記切断は、適宜所望の方法によって行うことができる。
【0141】
例えば、既に切断されている状態のコラーゲンまたはアテロコラーゲンを、化学合成法によって作製することが可能である。なお、化学合成法としては、一般的な周知の化学合成法を用いることが可能である。
【0142】
また、既に切断されている状態のコラーゲンまたはアテロコラーゲンをコードするDNAを周知のタンパク質発現ベクターに挿入する。そして、当該タンパク質発現ベクターを所望の宿主(例えば、大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞など)に導入した後、当該宿主内で、既に切断されている状態のコラーゲンまたはアテロコラーゲンの発現を誘導する。これによって、既に切断されている状態のコラーゲンまたはアテロコラーゲンを作製することも可能である。
【0143】
また、コラーゲンまたはアテロコラーゲンを酵素(例えば、プロテアーゼ(例えば、システインプロテアーゼ))によって分解することによって上記切断を行うことも可能である。
【0144】
上記切断を行う方法の詳細については、後述する。
【0145】
(I.コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の製造方法)
コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の製造方法は、
A)コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメイン内の下記(1)にて示されるアミノ酸配列の、XとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、または、XとGとの間の化学結合を切断する、切断工程、または、
B)コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメイン内の下記(2)にて示されるアミノ酸配列の、XとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、または、X14とGとの間の化学結合を切断する、切断工程、または、
C)コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメインのアミノ末端の下記(3)にて示されるアミノ酸配列の、YとYとの間の化学結合を切断する、切断工程、を含む製造方法である:
(1)−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−;
(2)−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−X−X10−G−X11−X12−G−X13−X14−G−;
(3)−Y−Y−Y−G−Y−Y−G−Y−Y−G−Y−Y−G−;
(但し、Gは、グリシンであり、X〜X14およびY〜Yは、任意のアミノ酸である)。
【0146】
また、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の製造方法は、以下の切断工程を含む製造方法であってもよい。つまり、
D)コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメイン内の下記(1)にて示されるアミノ酸配列の、XとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、および、XとGとの間の化学結合から選択される何れか1つの化学結合を切断する、切断工程、または、
E)コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメイン内の下記(2)にて示されるアミノ酸配列の、XとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、XとGとの間の化学結合、GとXとの間の化学結合、および、X14とGとの間の化学結合から選択される何れか1つの化学結合を切断する、切断工程、または、
F)コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメインのアミノ末端の下記(3)にて示されるアミノ酸配列の、YとYとの間の化学結合を切断する、切断工程:
(1)−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−:
(2)−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−X−X−G−X−X10−G−X11−X12−G−X13−X14−G−:
(3)−Y−Y−Y−G−Y−Y−G−Y−Y−G−Y−Y−G−:
(但し、Gは、グリシンであり、X〜X14およびY〜Yは、任意のアミノ酸である)。
【0147】
以下に、各構成について詳細に説明する。なお、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物自体については既に説明したので、ここでは、その説明を省略する。
【0148】
上記切断工程は、(1)〜(3)にて示されるアミノ酸配列の特定の箇所の化学結合を切断する工程であればよく、具体的な構成は特に限定されない。
【0149】
上記切断工程は、実際にトリプルヘリカルドメイン内の化学結合を切断して、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物を作製する工程であってもよい(例えば、酵素法)。
【0150】
また、既にトリプルヘリカルドメイン内の化学結合が切断されているコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物を作製する工程(例えば、化学合成法、組み換えタンパク質の発現)を本願における「切断工程」の概念に含めることもできる。
【0151】
以下に、上述した切断工程の詳細を説明する。
【0152】
(I−i.酵素法に基づく切断工程)
酵素法に基づく切断工程を採用する場合には、例えば、以下のように切断工程を構成することができる。
【0153】
上記切断工程は、コラーゲンまたはアテロコラーゲンを酵素(例えば、プロテアーゼ(例えば、システインプロテアーゼ))によって分解することによって行うことが可能である。
【0154】
上記酵素としては特に限定されないが、例えば、システインプロテアーゼを用いることが好ましい。
【0155】
システインプロテアーゼとしては、塩基性アミノ酸量よりも酸性アミノ酸量の方が多いシステインプロテアーゼ、酸性領域の水素イオン濃度において活性であるシステインプロテアーゼを用いることが好ましい。
【0156】
このようなシステインプロテアーゼとしては、カテプシンB[EC 3.4.22.1]、パパイン[EC 3.4.22.2]、フィシン[EC 3.4.22.3]、アクチニダイン[EC 3.4.22.14]、カテプシンL[EC 3.4.22.15]、カテプシンH[EC 3.4.22.16]、カテプシンS[EC 3.4.22.27]、ブロメライン[EC 3.4.22.32]、カテプシンK[EC 3.4.22.38]、アロライン、カルシウム依存性プロテアーゼなどを挙げることが可能である。
【0157】
これらの中では、パパイン、フィシン、アクチニダイン、カテプシンK、アロラインまたはブロメラインを用いることが好ましく、パパイン、フィシン、アクチニダイン、カテプシンKを用いることが更に好ましい。
【0158】
上述した酵素は、公知の方法によって入手することができる。例えば、化学合成による酵素の作製;細菌、真菌、各種動植物の細胞または組織からの酵素の抽出;遺伝子工学的手段による酵素の作製;などによって入手することができる。勿論、市販の酵素を用いることも可能である。
【0159】
コラーゲンまたはアテロコラーゲンを酵素(例えば、プロテアーゼ)によって分解することによって切断工程を行う場合には、例えば、以下の(i)〜(iii)の方法にしたがって切断工程を行うことができる。以下の(i)〜(iii)の方法は、あくまでも切断工程の一例であって、本発明は、これら(i)〜(iii)の方法に限定されない。
【0160】
なお、以下の(i)および(ii)の方法は、(1)または(2)にて示されるアミノ酸配列の特定の箇所の化学結合を切断するために用いられる方法の一例であり、以下の(iii)の方法は、(3)にて示されるアミノ酸配列の特定の箇所の化学結合を切断するために用いられる方法の一例である。
【0161】
(i)高濃度の塩の存在下にて、コラーゲンまたはアテロコラーゲンと、酵素とを接触させる方法。
【0162】
(ii)高濃度の塩と接触させた後の酵素と、コラーゲンまたはアテロコラーゲンとを接触させる方法。
【0163】
(iii)低濃度の塩の存在下にて、コラーゲンまたはアテロコラーゲンと、酵素とを接触させる方法。
【0164】
上述した(i)の方法の具体例としては、例えば、高濃度の塩を含む水溶液中で、コラーゲンまたはアテロコラーゲンと、酵素とを接触させる方法を挙げることができる。
【0165】
上述した(ii)の方法の具体例としては、例えば、高濃度の塩を含む水溶液と酵素とを予め接触させ、その後、当該酵素と、コラーゲンまたはアテロコラーゲンとを接触させる方法を挙げることができる。
【0166】
上述した(iii)の方法の具体例としては、例えば、低濃度の塩を含む水溶液中で、コラーゲンまたはアテロコラーゲンと、酵素とを接触させる方法を挙げることができる。
【0167】
上記水溶液の具体的な構成としては特に限定されないが、例えば、水を用いることが可能である。
【0168】
上記塩の具体的な構成としては特に限定されないが、塩化物を用いることが好ましい。塩化物としては、特に限定されないが、例えば、NaCl、KCl、LiClまたはMgClを用いることが可能である。
【0169】
上記高濃度の塩を含む水溶液における塩の濃度は特に限定されないが、高いほど好ましいといえる。例えば、当該濃度は、200mM以上であることが好ましく、500mM以上であることがより好ましく、1000mM以上であることがより好ましく、1500mM以上であることがより好ましく、2000mM以上であることが最も好ましい。
【0170】
上記高濃度の塩を含む水溶液における塩の濃度の上限値は、特に限定されないが、例えば2500mMであり得る。塩の濃度が2500mMよりも高くなると、タンパク質の多くが塩析してしまい、その結果、酵素によるコラーゲンまたはアテロコラーゲンの分解効率が低下する傾向を示す。一方、塩の濃度が2500mM以下であれば、酵素によるコラーゲンまたはアテロコラーゲンの分解効率を高くすることができる。
【0171】
したがって、上記高濃度の塩を含む水溶液における塩の濃度は、200mM以上2500mM以下であることが好ましく、500mM以上2500mM以下であることがより好ましく、1000mM以上2500mM以下であることがより好ましく、1500mM以上2500mM以下であることがより好ましく、2000mM以上2500mM以下であることが最も好ましい。
【0172】
上記高濃度の塩を含む水溶液における塩の濃度が高いほど、酵素によるコラーゲンまたはアテロコラーゲンの切断箇所の特異性を上げることができる。その結果、本発明の一実施形態に用いるコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物を、より均一で、かつ、生理活性が高いものにすることができる。
【0173】
上記低濃度の塩を含む水溶液における塩の濃度は特に限定されないが、低いほど好ましいといえる。例えば、当該濃度は、200mMよりも低いことが好ましく、150mM以下であることがより好ましく、100mM以下であることがより好ましく、50mM以下であることがより好ましく、略0mMであることが最も好ましい。
【0174】
上記水溶液(例えば、水)に溶解させるコラーゲンまたはアテロコラーゲンの量は特に限定されないが、例えば、1000重量部〜10000重量部の水溶液に対して、1重量部のコラーゲンまたはアテロコラーゲンを溶解させることが好ましい。
【0175】
上記構成であれば、水溶液に対して酵素が加えられた場合、当該酵素とコラーゲンまたはアテロコラーゲンとを効率よく接触させることができる。そして、その結果、コラーゲンまたはアテロコラーゲンを酵素(例えば、プロテアーゼ)によって効率よく分解することができる。
【0176】
上記水溶液に加える酵素の量は特に限定されないが、例えば、100重量部のコラーゲンまたはアテロコラーゲンに対して、10重量部〜20重量部の酵素を加えることが好ましい。
【0177】
上記構成であれば、水溶液中の酵素の濃度が高いので、コラーゲンまたはアテロコラーゲンを酵素(例えば、プロテアーゼ)によって効率よく分解することができる。
【0178】
水溶液中でコラーゲンまたはアテロコラーゲンと酵素とを接触させるときの他の条件(例えば、水溶液のpH、温度、接触時間など)も特に限定されず、適宜、設定することができるが以下の範囲であることが好ましい。
【0179】
1)水溶液のpHは、pH2.0〜7.0が好ましく、pH2.5〜6.5が更に好ましい。水溶液のpHを上述した範囲に保つために、水溶液に対して周知のバッファーを加えることが可能である。上記pHであれば、水溶液中にコラーゲンまたはアテロコラーゲンを均一に溶解することができ、その結果、酵素反応を効率よく進めることができる。
【0180】
2)温度は特に限定されず、用いる酵素に応じて温度を選択すればよい。例えば、当該温度は、15℃〜40℃であることが好ましく、20℃〜35℃であることがより好ましい。
【0181】
3)接触時間は特に限定されず、酵素の量、および/または、コラーゲンまたはアテロコラーゲンの量に応じて接触時間を選択すればよい。例えば、当該時間は、1時間〜60日間であることが好ましく、1日間〜7日間であることがより好ましく、3日間〜7日間であることが更に好ましい。
【0182】
なお、水溶液中でコラーゲンまたはアテロコラーゲンと酵素とを接触させた後、必要に応じて、pHを再調整する工程、酵素を失活させる工程、および、不純物を除去する工程からなる群より選択される少なくとも1つの工程を経てもよい。
【0183】
また、上記不純物を除去する工程は、物質を分離するための一般的な方法によって行うことができる。上記不純物を除去する工程は、例えば、透析、塩析、ゲル濾過クロマトグラフィー、など電点沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、または、疎水性相互作用クロマトグラフィーなどによって行うことができる。
【0184】
上述したように、切断工程は、コラーゲンまたはアテロコラーゲンを酵素によって分解することによって行うことが可能である。このとき、分解されるコラーゲンまたはアテロコラーゲンは、生体組織中に含有された状態のものであってもよい。つまり、切断工程は、生体組織と酵素とを接触させることによって行うことも可能である。
【0185】
生体組織としては、特に限定されず、その例として哺乳類または鳥類の真皮、腱、骨または筋膜、あるいは、魚類の皮膚または鱗を用いることができる。
【0186】
高い生理活性を維持し、かつ、多量にコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物を得るという観点からは、生体組織として真皮を用いることが好ましい。
【0187】
生体組織として真皮を用いる場合、酸性条件下で真皮と酵素とを接触させることが好ましい。例えば、上記酸性条件としては、好ましくはpH2.5〜6.5、更に好ましくはpH2.5〜5.0、更に好ましくはpH2.5〜4.0、最も好ましくはpH2.5〜3.5である。
【0188】
より具体的に、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の製造方法は、上記切断工程では、上記システインプロテアーゼと真皮とを接触させることによって、該真皮に含まれるコラーゲンと、上記システインプロテアーゼとを接触させることが好ましい。
【0189】
また、上記(1)または(2)にて示されるアミノ酸配列を有するコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の製造方法は、上記切断工程では、200mM以上の濃度の塩の存在下にて、真皮と、システインプロテアーゼとを接触させることが好ましい。
【0190】
また、上記(1)、(2)または(3)にて示されるアミノ酸配列を有するコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の製造方法は、上記切断工程では、200mM以上の濃度の塩と接触させた後のシステインプロテアーゼと、真皮とを接触させることが好ましい。
【0191】
また、上記(3)にて示されるアミノ酸配列を有するコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の製造方法は、上記切断工程では、200mMよりも低い濃度の塩の存在下にて、真皮と、システインプロテアーゼとを接触させることが好ましい。
【0192】
(I−ii.化学合成法)
化学合成法に基づく切断工程を採用する場合には、例えば、以下のように切断工程を構成することができる。
【0193】
まず、周知のデータベースから、コラーゲンまたはアテロコラーゲンを構成する各ポリペプチド鎖のアミノ酸配列の情報を入手する。なお、当該ポリペプチド鎖は、コラーゲンまたはアテロコラーゲンのタイプに応じて適宜選択すればよく、1種類のポリペプチド鎖であってもよく、複数の種類のポリペプチド鎖であってもよい。
【0194】
次いで、上記ポリペプチドの中から、切断されるべき化学結合を含むポリペプチド鎖および切断されるべき化学結合の位置を決定するとともに、当該化学結合が切断されたと想定したときの、所望のポリペプチド鎖のアミノ酸配列を決定する。
【0195】
最後に、決定されたアミノ酸配列にしたがって、所望のポリペプチド鎖を周知の化学合成法によって合成する。
【0196】
以上のようにして、切断工程を実施することができる。
【0197】
コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の製造方法は、上述した切断工程以外の工程を含むことも可能である。
【0198】
例えば、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の製造方法は、所望のポリペプチド鎖を周知の化学合成法によって合成した後で、合成されたポリペプチド鎖を精製する工程を含んでいてもよい。なお、当該精製は、適宜、周知のカラムを用いて行えばよい。
【0199】
コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の製造方法は、所望のポリペプチド鎖と、他のポリペプチド鎖とを混合する工程を含んでいてもよい。なお、他のポリペプチド鎖としては特に限定されず、同様に化学結合が切断されているポリペプチド鎖であってもよいし、化学結合が切断されていないポリペプチド鎖であってもよい。
【0200】
(I−iii.組み換えタンパク質の発現に基づく切断工程)
組み換えタンパク質の発現に基づく切断工程を採用する場合には、例えば、以下のように切断工程を構成することができる。
【0201】
まず、周知のデータベースから、コラーゲンまたはアテロコラーゲンを構成する各ポリペプチド鎖のアミノ酸配列の情報を入手する。なお、当該ポリペプチド鎖は、コラーゲンまたはアテロコラーゲンのタイプに応じて適宜選択すればよく、1種類のポリペプチド鎖であってもよく、複数の種類のポリペプチド鎖であってもよい。
【0202】
次いで、上記ポリペプチドの中から、切断されるべき化学結合を含むポリペプチド鎖および切断されるべき化学結合の位置を決定するとともに、当該化学結合が切断されたと想定したときの、所望のポリペプチド鎖のアミノ酸配列およびDNA配列を決定する。
【0203】
次いで、所望のポリペプチド鎖をコードするDNAを周知のタンパク質発現ベクターに挿入する。そして、当該タンパク質発現ベクターを所望の宿主(例えば、大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞など)に導入した後、当該宿主内で、化学結合が切断された後のポリペプチド鎖を発現させる。
【0204】
以上のようにして、切断工程を実施することができる。
【0205】
コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の製造方法は、上述した切断工程以外の工程を含むことも可能である。
【0206】
例えば、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の製造方法は、宿主内で、所望のポリペプチド鎖を発現させた後で、発現したポリペプチド鎖を精製する工程を含んでいてもよい。なお、当該精製は、適宜、周知のカラムを用いて行えばよい。
【0207】
コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の製造方法は、所望のポリペプチド鎖と、他のポリペプチド鎖とを混合する工程を含んでいてもよい。なお、他のポリペプチド鎖としては特に限定されず、同様に化学結合が切断されているポリペプチド鎖であってもよいし、化学結合が切断されていないポリペプチド鎖であってもよい。
【0208】
〔2.胚様体形成用組成物〕
本発明の一実施形態に係る胚様体形成用組成物(以下、「本実施形態の胚様体形成用組成物」ともいう。)は、多能性幹細胞の胚様体形成用組成物であって、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物を主成分として含み、上記分解物は、上記コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメインの少なくとも一部分を含んでいるものである。つまり、上記分解物は、コラーゲンまたはアテロコラーゲンのトリプルヘリカルドメインの全体を含んでいてもよいし、トリプルヘリカルドメインの一部分を含んでいてもよい。上記「多能性幹細胞」、上記「胚様体」、および上記「コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物」については、上記「1.胚様体形成方法」の項で説明したとおりであるので、ここでは説明は省略する。
【0209】
本実施形態の胚様体形成用組成物中には、胚様体形成活性を有する主成分として、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物が含まれている。本実施形態の胚様体形成用組成物中に含まれる、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物の量は特に限定されない。例えば、本実施形態の胚様体形成用組成物中に、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物が、0.1重量%以上含まれていてもよいが、その中でも50重量%以上含まれていることが好ましく、更に90重量%以上含まれていることがより好ましく、100重量%含まれていることが最も好ましい。
【0210】
本実施形態の胚様体形成用組成物を用いて培養容器の内面をコートする場合は、本実施形態の胚様体形成用組成物を水等で希釈し、最終濃度として、2mg/mL〜20mg/mL、好ましくは3mg/mL〜16mg/mL、より好ましくは5mg/mL〜15mg/mL、あるいは5mg/mL〜20mg/mL、好ましくは8mg/mL〜16mg/mLのコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物を含有している溶液を調製し、当該溶液を用いて、培養容器の内面をコートすることができる。上記溶液における上記分解物の濃度が2mg/mL以上であれば、胚様体を均一に形成することができる。また、上記溶液における上記分解物の濃度が20mg/mL以下であれば、再現性が良好となる。これに対して、上記溶液における上記分解物の濃度が2mg/mL未満である場合は、胚様体の形成が不均一になる場合がある。また、上記溶液における上記分解物の濃度が20mg/mLよりも高い場合は、粘性が高くなり再現性が不良となる場合がある。
【0211】
また、本実施形態の胚様体形成用組成物には、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物以外の成分が添加されていてもよい。これらの成分としては特に限定されず、適宜、所望の成分を添加することができる。例えば、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物を、濃縮培養液(例えば、5倍濃縮DMEMなど)と再構成用緩衝液(50mM 水酸化ナトリウム、260mM 炭酸水素ナトリウム、200mM HEPES)と混合して、ゲル化組成物としてもよい。この場合、コラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物は、ゲル化組成物中に最終濃度として、2〜15mg/mL含まれていてもよく、5〜15mg/mL含まれていてもよく、5〜12mg/mL含まれていることが好ましく、7〜10mg/mL含まれていることがより好ましい。ゲル組成物中に含有されている上記分解物の濃度が、最終濃度として2mg/mL以上であれば、胚様体を均一に形成することができる。また、ゲル組成物中に含有されている上記分解物の濃度が、最終濃度として15mg/mL以下であれば、再現性が良好となる。これに対して、ゲル組成物中に含有されている上記分解物の濃度が、最終濃度として2mg/mL未満である場合は、胚様体の形成が不均一になる場合がある。また、ゲル組成物中に含有されている上記分解物の濃度が、最終濃度として15mg/mLよりも高い場合は、粘性が高くなり再現性が不良となる場合がある。
【0212】
上述したとおり、本発明の一実施形態に用いるコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物は、従来のコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物と比較して、ゲル化し始める濃度が高い。それ故に、従来のコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物がゲル化する濃度と同じ濃度の本発明の一実施形態に用いるコラーゲンの分解物またはアテロコラーゲンの分解物を、常温にて安定して保存できる。それ故に、本実施形態の胚様体形成用組成物は、常温にて安定して保存できる。
【0213】
本実施形態の胚様体形成用組成物を用いれば、多能性幹細胞の胚様体を容易に形成させることができる。また、本実施形態の胚様体形成用組成物を用いれば、従来の胚様体形成方法と比較して、より短期間で胚様体を形成させることができる。
【0214】
本実施形態の胚様体形成用組成物は、由来動物、由来部位およびN末端(アミノ末端)切断部位に関わらず、上述した本実施形態の胚様体形成方法において使用することができる。
【0215】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【実施例】
【0216】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0217】
<1.ブタ由来のα1鎖の切断における、塩濃度の影響>
塩化ナトリウムの濃度が0mM、200mM、1000mM、1500mMまたは2000mMである50mM クエン酸緩衝液(pH3.0)を準備した。なお、当該水溶液の溶媒としては、水を用いた。
【0218】
アクチニダインを活性化するため、10mM ジチオスレイトールを含む50mM リン酸緩衝液(pH6.5)に対し、アクチニダインを溶解し、90分間、25℃にて静置した。なお、アクチニダインとしては、周知の方法にて精製したものを利用した(例えば、非特許文献2参照)。
【0219】
次いで、塩を含む50mM クエン酸緩衝液(pH3.0)に対し、ブタ由来のI型コラーゲンを溶解した。アクチニダインを含む水溶液と、ブタ由来のI型コラーゲンを含む当該溶液と、を10日間以上、20℃にて接触させて、I型コラーゲンの分解物を作製した。なお、ブタ由来のI型コラーゲンは、周知の方法に基づいて精製した(例えば、非特許文献2参照)。
【0220】
上述した分解物をポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、I型コラーゲンの分解物を分離した。
【0221】
次いで、I型コラーゲンの分解物を、常法によりPVDF(Polyvinylidene Difluoride)膜へ転写した。そして、PVDF膜へ転写されたα1鎖の分解物のアミノ末端のアミノ酸配列を、エドマン分解法によって決定した。
【0222】
なお、実際のエドマン分析は、アプロサイエンス株式会社、または、近畿大学医学部分析機器共同研究室に依頼して、周知の方法にしたがって行った。
【0223】
表1に、塩濃度が0mM、200mM、1000mM、1500mMまたは2000mMの場合のα1鎖の分解物のアミノ末端およびその近傍のアミノ酸配列を示す。
【0224】
表1に示すように、塩濃度が異なると、α1鎖内の切断箇所が異なることが明らかになった。より具体的には、塩濃度が低いと(例えば、0mM)、トリプルヘリカルドメインの外側で切断が生じ、塩濃度が高いと(例えば、200mM以上)、トリプルヘリカルドメインの内側で切断が生じることが明らかになった。
【0225】
塩濃度が高いときの切断箇所は、本発明者が見出した新規な切断箇所であった。
【0226】
【表1】
なお、塩濃度を変化させると、分解物中に含まれる、配列番号2にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、配列番号3にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、の比率が反応時間、反応pH、反応温度などの条件で異なった。分解物を大量に調製しようとすると、塩濃度が2000mMを超えるとNaClが不溶化した。分解物を大量に調製する場合、塩濃度の上限値を500mMまたは800mMに設定することが好ましいと考えられる。
【0227】
<2.ラットおよびニワトリ由来のα1鎖の切断における、塩濃度の影響>
塩化ナトリウムの濃度が0mM、2000mMである50mM クエン酸緩衝液(pH3.0)を準備した。なお、当該水溶液の溶媒としては、水を用いた。
【0228】
アクチニダインを活性化するため、10mM ジチオスレイトールを含む50mM リン酸緩衝液(pH6.5)に対し、アクチニダインを溶解し、90分間、25℃にて静置した。
【0229】
次いで、塩を含む50mM クエン酸緩衝液(pH3.0)に対し、ラット尾部由来のI型コラーゲン、または、ニワトリ皮部由来のI型コラーゲンを溶解した。アクチニダインを含む水溶液と、ラット尾部由来のI型コラーゲン、または、ニワトリ皮部由来のI型コラーゲンと、を10日間以上、20℃にて接触させて、I型コラーゲンの分解物を作製した。なお、アクチニダインとしては、上述した<1>の実施例にて用いたものと同じものを用いた。また、ラット尾部由来のI型コラーゲン、および、ニワトリ皮部由来のI型コラーゲンは、周知の方法に基づいて精製した(例えば、非特許文献2参照)。
【0230】
上述した分解物をポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、I型コラーゲンの分解物を分離した。
【0231】
次いで、I型コラーゲンの分解物を、常法によりPVDF(Polyvinylidene Difluoride)膜へ転写した。そして、PVDF膜へ転写されたα1鎖の分解物のアミノ末端のアミノ酸配列を、エドマン分解法によって決定した。
【0232】
なお、実際のエドマン分析は、アプロサイエンス株式会社、または、近畿大学医学部分析機器共同研究室に依頼して、周知の方法にしたがって行った。
【0233】
表2に、塩濃度が0mMおよび2000mMの場合のラット由来のα1鎖の分解物のアミノ末端およびその近傍のアミノ酸配列、および、未分解であるラット由来のα1鎖の部分構造(塩濃度の欄が「−」であるデータを参照)を示す。
【0234】
表3に、塩濃度が0mMおよび2000mMの場合のニワトリ由来のα1鎖の分解物のアミノ末端およびその近傍のアミノ酸配列、および、未分解であるニワトリ由来のα1鎖の部分構造(塩濃度の欄が「−」であるデータを参照)を示す。
【0235】
表2および3に示すように、異なる種に由来するα1鎖であっても、塩濃度が低いと、(例えば、0mM)、トリプルヘリカルドメインの外側で切断が生じ、塩濃度が高いと、トリプルヘリカルドメインの内側で切断が生じやすいことが明らかになった。
【0236】
塩濃度が高いときの切断箇所は、本発明者が見出した新規な切断箇所であった。
【0237】
なお、塩濃度が2000mMの場合、分解物中に含まれる、配列番号24にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、配列番号5にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、の比率が、反応時間、反応pH、反応温度などの条件で異なった。
【0238】
【表2】
【0239】
【表3】
<3.塩の種類に関する検討>
塩が添加されていない溶液、MgClの濃度が500mMである水溶液、および、KClの濃度が200mMである水溶液を準備した。なお、当該水溶液の溶媒としては、水を用いた。
【0240】
上記水溶液の各々に対し、アクチニダインと、ブタ由来のI型コラーゲンとを混合した後、10日以上、20℃にて反応させて、I型コラーゲンの分解物を作製した。なお、アクチニダインとしては、上述した<1>の実施例にて用いたものと同じものを用いた。また、ブタ由来のI型コラーゲンは、周知の方法に基づいて精製した(例えば、非特許文献2参照)。
【0241】
上述した分解物の各々をポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、α1鎖の分解物を分離した。
【0242】
次いで、I型コラーゲンの分解物を、常法によりPVDF(Polyvinylidene Difluoride)膜へ転写した。そして、PVDF膜へ転写されたα1鎖の分解物のアミノ末端のアミノ酸配列を、エドマン分解法によって決定した。
【0243】
なお、実際のエドマン分析は、アプロサイエンス株式会社、または、近畿大学医学部分析機器共同研究室に依頼して、周知の方法にしたがって行った。
【0244】
表4に、塩濃度0mMである水溶液を用いた場合、MgClの濃度が500mMである水溶液を用いた場合、および、KClの濃度が200mMである水溶液を用いた場合のブタ由来のα1鎖の分解物のアミノ末端およびその近傍のアミノ酸配列、および、未分解であるブタ由来のα1鎖の部分構造(塩濃度の欄が「−」であるデータを参照)を示す。
【0245】
表4に示すように、異なる種類の塩であっても、塩濃度が低いと(例えば、0mM)、トリプルヘリカルドメインの外側で切断が生じ、塩濃度が高いと(例えば、200mM KCl、500mM MgCl)、トリプルヘリカルドメインの内側で切断が生じることが明らかになった。なお、200mM KClと500mM MgClの場合、分解物中に含まれる、配列番号2にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、配列番号9にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、の比率が、反応時間、反応pH、反応温度などの条件で異なった。
【0246】
異なる種類の塩を用いた場合の切断箇所は、本発明者が見出した新規な切断箇所であった。
【0247】
【表4】
<4.システインプロテアーゼの種類に関する検討>
本実施例では、システインプロテアーゼの一種であるカテプシンKを用いて、高塩濃度条件下におけるα1鎖の切断箇所を検討した。以下に、試験方法および試験結果を説明する。
【0248】
塩化ナトリウムの濃度が2000mMである50mM クエン酸緩衝液(pH3.0)を準備した。なお、当該水溶液の溶媒としては、水を用いた。
【0249】
カテプシンKを活性化するため、10mM ジチオスレイトールを含む50mM リン酸緩衝液(pH6.5)に対し、カテプシンKを溶解し、45分間、25℃にて静置した。なお、カテプシンKとしては、市販のものを利用した。
【0250】
次いで、塩を含む50mM クエン酸緩衝液(pH3.0)に対し、ニワトリ由来のI型コラーゲン、または、ブタ由来のI型コラーゲンを溶解した。カテプシンKを含む水溶液と、ニワトリ由来のI型コラーゲン、または、ブタ由来のI型コラーゲンを含む当該溶液と、を10日間以上、20℃にて接触させて、I型コラーゲンの分解物を作製した。なお、ニワトリ由来のI型コラーゲン、および、ブタ由来のI型コラーゲンは、周知の方法に基づいて精製した(例えば、非特許文献2参照)。
【0251】
上述した分解物をポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、I型コラーゲンの分解物を分離した。
【0252】
次いで、I型コラーゲンの分解物を、常法によりPVDF(Polyvinylidene Difluoride)膜へ転写した。そして、PVDF膜へ転写されたα1鎖の分解物のアミノ末端のアミノ酸配列を、エドマン分解法によって決定した。
【0253】
なお、実際のエドマン分析は、アプロサイエンス株式会社、または、近畿大学医学部分析機器共同研究室に依頼して、周知の方法にしたがって行った。
【0254】
表5に、ブタ由来のα1鎖の分解物のアミノ末端およびその近傍のアミノ酸配列、および、未分解であるブタ由来のα1鎖の部分構造(塩濃度の欄が「−」であるデータを参照)を示す。
【0255】
表5に示すように、システインプロテアーゼの一種であるカテプシンKであっても、塩濃度が高いと、トリプルヘリカルドメインの内側で切断が生じることが明らかになった。
【0256】
また、表5に示すように、システインプロテアーゼの一種であるカテプシンKの場合には、複数種類の切断箇所が確認された。
【0257】
なお、ニワトリ由来のI型コラーゲンの分解物の場合、ニワトリ由来のα1鎖の分解物は、下記配列番号11および12に対応するニワトリ由来のα1鎖の分解物と、下記配列番号10におけるアミノ末端から数えて10番目の「S」と11番目の「G」との間の化学結合が切断されたものに対応するニワトリ由来のα1鎖の分解物と、が確認された。
【0258】
【表5】
<5.ブタ由来のα1鎖の切断における、透析塩濃度の影響>
透析チューブにアクチニダインを入れ、当該アクチニダインを、塩化ナトリウムの濃度が2000mMである透析外液に対して透析した。その後、透析外液を蒸留水に変えて透析を続けてアクチニダインを得た。なお、アクチニダインとしては、周知の方法にて精製したものを利用した(例えば、非特許文献2参照)。アクチニダインを活性化するため、10mM ジチオスレイトールを含む50mM リン酸緩衝液(pH6.5)に対し、アクチニダインを溶解し、90分間、25℃にて静置した。
【0259】
次いで、塩を含む50mM クエン酸緩衝液(pH3.0)に対し、ブタ由来のI型コラーゲンを溶解した。アクチニダインを含む水溶液と、ブタ由来のI型コラーゲンと、を3日間以上、20℃にて接触させて、I型コラーゲンの分解物を作製した。また、ブタ由来のI型コラーゲンは、周知の方法に基づいて精製した(例えば、非特許文献2参照)。
【0260】
上述した分解物をポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、I型コラーゲンの分解物を分離した。
【0261】
次いで、I型コラーゲンの分解物を、常法によりPVDF(Polyvinylidene Difluoride)膜へ転写した。そして、PVDF膜へ転写されたα1鎖の分解物のアミノ末端のアミノ酸配列を、エドマン分解法によって決定した。
【0262】
なお、実際のエドマン分析は、アプロサイエンス株式会社、または、近畿大学医学部分析機器共同研究室に依頼して、周知の方法にしたがって行った。
【0263】
表6に、透析塩濃度が2000mMの場合のブタ由来のα1鎖の分解物のアミノ末端およびその近傍のアミノ酸配列、および、未分解であるブタ由来のα1鎖の部分構造(塩濃度の欄が「−」であるデータを参照)を示す。
【0264】
表6に示すように、透析塩濃度が高いと、トリプルヘリカルドメインの外側あるいは内側で切断が生じることが明らかになった。なお、2000mMの場合、分解物中に含まれる、配列番号26にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、配列番号27にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、配列番号15にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、の比率が、反応時間、反応pH、反応温度などの条件で異なった。
【0265】
塩濃度が高いときの切断箇所は、本発明者が見出した新規な切断箇所が含まれていた。
【0266】
【表6】
<6.ヒト由来のα1鎖の切断における、透析塩濃度の影響>
透析チューブにアクチニダインを入れ、当該アクチニダインを、塩化ナトリウムの濃度が2000mMである透析外液に対して透析した。その後、透析外液を蒸留水に変えて透析を続けてアクチニダインを得た。なお、アクチニダインとしては、周知の方法にて精製したものを利用した(例えば、非特許文献2参照)。アクチニダインを活性化するため、10mM ジチオスレイトールを含む50mM リン酸緩衝液(pH6.5)に対し、アクチニダインを溶解し、90分間、25℃にて静置した。
【0267】
次いで、塩を含む50mM クエン酸緩衝液(pH3.5)に対し、ヒト由来のI型コラーゲンを溶解した。アクチニダインを含む水溶液と、ヒト由来のI型コラーゲンと、を10日間以上、20℃にて接触させて、I型コラーゲンの分解物を作製した。また、ヒト由来のI型コラーゲンは、周知の方法に基づいて精製した(例えば、非特許文献2参照)。
【0268】
上述した分解物をポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、I型コラーゲンの分解物を分離した。
【0269】
次いで、I型コラーゲンの分解物を、常法によりPVDF(Polyvinylidene Difluoride)膜へ転写した。そして、PVDF膜へ転写されたα1鎖の分解物のアミノ末端のアミノ酸配列を、エドマン分解法によって決定した。
【0270】
なお、実際のエドマン分析は、アプロサイエンス株式会社、または、近畿大学医学部分析機器共同研究室に依頼して、周知の方法にしたがって行った。
【0271】
表7に示すように、透析塩濃度が高いと、トリプルヘリカルドメインの外側あるいは内側で切断が生じることが明らかになった。なお、2000mMの場合、分解物中に含まれる、配列番号29にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、配列番号30にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、配列番号16にて示すアミノ酸配列のアミノ末端を有する分解物の量と、の比率が、反応時間、反応pH、反応温度などの条件で異なった。
【0272】
塩濃度が高いときの切断箇所は、本発明者が見出した新規な切断箇所が含まれていた。
【0273】
【表7】
<7.魚類由来のα1鎖の切断>
透析チューブにアクチニダインを入れ、当該アクチニダインを、塩化ナトリウムの濃度が2000mMである透析外液に対して透析した。その後、透析外液を蒸留水に変えて透析を続けてアクチニダインを得た。アクチニダインを活性化するため、10mM ジチオスレイトールを含む50mM リン酸緩衝液(pH6.5)に対し、アクチニダインを溶解し、90分間、25℃にて静置した。
【0274】
次いで、塩を含む50mM クエン酸緩衝液(pH3.0)に対し、魚類(具体的には、キハダマグロ)由来のI型コラーゲンを溶解した。アクチニダインを含む水溶液と、魚類由来のI型コラーゲンと、を3日間以上、20℃にて接触させて、I型コラーゲンの分解物を作製した。なお、アクチニダインとしては、上述した<1>の実施例にて用いたものと同じものを用いた。また、魚類由来のI型コラーゲンは、周知の方法に基づいて精製した(例えば、非特許文献2参照)。
【0275】
上述した分解物をポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、I型コラーゲンの分解物を分離した。
【0276】
次いで、I型コラーゲンの分解物を、常法によりPVDF(Polyvinylidene Difluoride)膜へ転写した。そして、PVDF膜へ転写されたα1鎖(魚類由来のI型コラーゲン)の分解物のアミノ末端のアミノ酸配列を、エドマン分解法によって決定した。
【0277】
なお、実際のエドマン分析は、アプロサイエンス株式会社、または、近畿大学医学部分析機器共同研究室に依頼して、周知の方法にしたがって行った。
【0278】
表8に、透析外液の塩濃度が2000mMの場合の、魚類由来のα1鎖の分解物のアミノ末端およびその近傍のアミノ酸配列を示す。なお、表8に示すように、α1鎖(魚類由来のI型コラーゲン)の分解物としては3種類検出され、これらの分解物の各々のアミノ末端のアミノ酸配列として、配列番号18、配列番号19および配列番号31に示すアミノ酸配列を同定することに成功した。
【0279】
【表8】
<8.ヒト由来のα2鎖の切断>
<4>と同様にカテプシンKを活性化するため、10mM ジチオスレイトールを含む50mM リン酸緩衝液(pH6.5)に対し、カテプシンKを溶解し、45分間、25℃にて静置した。
【0280】
次いで、塩を含む50mM リン酸緩衝液(pH6.0)に対し、ヒト由来のI型コラーゲンを溶解した。カテプシンKを含む水溶液と、ヒト由来のI型コラーゲンと、を10日間以上、20℃にて接触させて、I型コラーゲンの分解物を作製した。なお、カテプシンKとしては、上述した<1>の実施例にて用いたものと同じものを用いた。また、ヒト由来のI型コラーゲンは、周知の方法に基づいて精製した(例えば、非特許文献2参照)。
【0281】
上述した分解物をポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、I型コラーゲンの分解物を分離した。
【0282】
次いで、I型コラーゲンの分解物を、常法によりPVDF(Polyvinylidene Difluoride)膜へ転写した。そして、PVDF膜へ転写されたα2鎖(ヒト由来のI型コラーゲン)の分解物のアミノ末端のアミノ酸配列を、エドマン分解法によって決定した。
【0283】
なお、実際のエドマン分析は、アプロサイエンス株式会社、または、近畿大学医学部分析機器共同研究室に依頼して、周知の方法にしたがって行った。
【0284】
表9に、反応液の塩濃度が200mMの場合の、ヒト由来のα2鎖の分解物のアミノ末端およびその近傍のアミノ酸配列を示す。
【0285】
【表9】
<9.ニワトリ由来のα2鎖の切断>
透析チューブにアクチニダインを入れ、当該アクチニダインを、塩化ナトリウムの濃度が2000mMである透析外液に対して透析した。その後、透析外液を蒸留水に変えて透析を続けてアクチニダインを得た。アクチニダインを活性化するため、10mM ジチオスレイトールを含む50mM リン酸緩衝液(pH6.5)に対し、アクチニダインを溶解し、90分間、25℃にて静置した。
【0286】
次いで、塩を含む50mM クエン酸緩衝液(pH3.0)に対し、ニワトリ由来のI型コラーゲンを溶解した。アクチニダインを含む水溶液と、ニワトリ由来のI型コラーゲンと、を7日間以上、20℃にて接触させて、I型コラーゲンの分解物を作製した。なお、アクチニダインとしては、上述した<1>の実施例にて用いたものと同じものを用いた。また、ニワトリ由来のI型コラーゲンは、周知の方法に基づいて精製した(例えば、非特許文献2参照)。
【0287】
上述した分解物をポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、I型コラーゲンの分解物を分離した。
【0288】
次いで、I型コラーゲンの分解物を、常法によりPVDF(Polyvinylidene Difluoride)膜へ転写した。そして、PVDF膜へ転写されたα2鎖(ニワトリ由来のI型コラーゲン)の分解物のアミノ末端のアミノ酸配列を、エドマン分解法によって決定した。
【0289】
なお、実際のエドマン分析は、アプロサイエンス株式会社、または、近畿大学医学部分析機器共同研究室に依頼して、周知の方法にしたがって行った。
【0290】
表10に、透析外液の塩濃度が2000mMの場合の、ニワトリ由来のα2鎖の分解物のアミノ末端およびその近傍のアミノ酸配列を示す。
【0291】
【表10】
表に示すように、異なる種に由来するα1鎖またはα2鎖であっても、塩濃度が高いと、トリプルヘリカルドメインの内側で切断が生じることが明らかになった。塩濃度が高いときの切断箇所は、本発明者が見出した新規な切断箇所であった。
【0292】
<10.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験1>
(培養皿)
上述したコラーゲンの分解物(上述の透析塩濃度2000mMにおける、ブタ由来のコラーゲンの分解物、すなわち、配列番号26および配列番号27にて示されるアミノ酸配列((1)、(2)および(3)にて示されるアミノ酸配列に相当)を有する分解物の混合物)と接触させた、市販の培養皿を試験に用いた。具体的には、35mm培養皿に10mg/mLのコラーゲンの分解物の水溶液を60μL添加して、培養皿に十分になじませて室温で5時間静置し、コラーゲン分解物コート培養皿とした。
【0293】
また、10mg/mLのコラーゲンの分解物の水溶液を、5倍濃縮したDMEM培地(日水製薬社製)と再構成用緩衝液(50mM 水酸化ナトリウム、260mM 炭酸水素ナトリウム、200mM HEPES)とを混合し、この混合液を35mm培養皿に200μL添加して、培養皿に均一になるよう広げてコートして、37℃のインキュベーター内で30分間静置した。これを、コラーゲン分解物ゲル培養皿とした。
【0294】
また、35mm培養皿に0.1%ゼラチン溶液を1mL添加して、培養皿に十分になじませて室温で4時間静置した。4時間後にゼラチン溶液を除去して、ゼラチンコート培養皿とした。
【0295】
(マウスES細胞)
山梨大学生命環境学部生命工学科 若山照彦教授から譲渡されたマウスES細胞を使用した。このマウスES細胞は、GFP(green fluorescent protein)標識されており、GFPタンパク質をコードしている遺伝子が染色体中に挿入されているものである。
【0296】
(フィーダー細胞の調製)
マイトマイシン処理したマウス胎児由来線維芽細胞(Murine Embryonic Fibroblasts:MEF)(CMPMEFCF、DSファーマバイオメディカル製)を1×10個/mLに調製した。ゼラチンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿、コラーゲン分解物ゲル培養皿に、MEFをそれぞれ7×10個播種して、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)を用いて、37℃、5%COの条件下にて1日間培養した。
【0297】
(胚様体の形成)
500U/mLの白血病抑制因子(Leukemia Inhibitory Factor:LIF、商品番号199−16051、和光純薬工業株式会社)および20%ウシ胎児血清を含むDMEM(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(+))」と称する。)を用いて、マウスES細胞2.5×10個/mLを調製した。あらかじめMEFを播種しておいたゼラチンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿、およびコラーゲン分解物ゲル培養皿に、マウスES細胞懸濁液2mLをそれぞれ播種して、DMEM培地(LIF(+))を用いて、37℃、5%COの条件下にて培養した(培養条件:MEF(+)且つLIF(+))。ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞を本実験のコントロールとした。なお、実施例において、「MEF(+)」はMEF共存下での培養、「MEF(−)」はMEF非共存下での培養を示す。また、「LIF(+)」はLIF共存下での培養、「LIF(−)」はLIF非共存下での培養を示す。
【0298】
培養期間中は、毎日、新しいDMEM培地(LIF(+))と培地を交換した。
【0299】
培養開始3日後に、位相差顕微鏡下でES細胞の形態を観察した。各細胞の形態を、図1に示す。図1中、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(b)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物ゲル培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図である。
【0300】
ゼラチンコート培養皿において培養した場合、MEFはゼラチンコート培養皿の底面に接着して伸展していた。その間にES細胞がコロニーを形成していた。一般的なES細胞の培養所見と同じ形態であった(図1の(a))。
【0301】
コラーゲン分解物コート培養皿において培養した場合、MEFはコラーゲン分解物コート培養皿の底面に接着していなかった。観察された細胞は浮遊した3次元細胞塊(胚様体)を形成しており、ゼラチンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見とはまったく異なる形態であった(図1の(b))。
【0302】
コラーゲン分解物ゲル培養皿において培養した場合、MEFはコラーゲン分解物ゲル培養皿の底面に接着していた。観察された細胞はコラーゲン分解物ゲルに接着して3次元細胞塊(胚様体)を形成していた。ゼラチンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見とはまったく異なる形態であった。コラーゲン分解物ゲルに接着している胚様体から細胞が伸展して別の胚様体に繋がっているようであった(図1の(c))。
【0303】
コラーゲン分解物コート培養皿またはコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞の形態は、ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞の形態とは全く異なっていた。ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞は、一般的なES細胞のコロニーを形成しただけであったが、コラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞は、LIF添加にも関わらず、浮遊した胚様体を形成した。つまり、コラーゲン分解物コート培養皿においてES細胞を培養することは、胚様体を形成させる新たな方法となりうることが示された。一方、コラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞は、これまでに観察されていないような胚様体が、LIF存在下で形成された。具体的には、胚様体は、コラーゲン分解物ゲルに接着していることが示された。
【0304】
同様の実験を、LIFを含まず且つ20%ウシ胎児血清を含むDMEM培地(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(−))」と称する。)を用いて行った。具体的には、DMEM培地(LIF(−))を用いて、マウスES細胞2.5×10個/mLを調製した。あらかじめMEFを播種しておいたゼラチンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿、コラーゲン分解物ゲル培養皿に、マウスES細胞懸濁液2mLをそれぞれ播種して、DMEM培地(LIF(−))を用いて、37℃、5%COの条件下にて培養した(培養条件:MEF(+)且つLIF(−))。ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞を本実験のコントロールとした。
【0305】
培養期間中は、毎日、新しいDMEM培地(LIF(−))と培地を交換した。
【0306】
培養開始3日後に、位相差顕微鏡下でES細胞の形態を観察した。各細胞の形態を、図2に示す。図2中、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(−))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(b)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(−))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物ゲル培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(−))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図である。
【0307】
ゼラチンコート培養皿において培養した場合、MEFはゼラチンコート培養皿の底面に接着して伸展していた。その間にES細胞がコロニーを形成していた。一般的なES細胞の培養所見と同じ形態であった(図2の(a))。
【0308】
コラーゲン分解物コート培養皿において培養した場合、MEFはコラーゲン分解物コート培養皿の底面に接着していなかった。観察された細胞は浮遊した3次元細胞塊(胚様体)を形成しており、ゼラチンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見とはまったく異なる形態であった(図2の(b))。
【0309】
コラーゲン分解物ゲル培養皿において培養した場合、MEFはコラーゲン分解物ゲル培養皿の底面に接着していた。観察された細胞はコラーゲン分解物ゲルに接着して3次元細胞塊(胚様体)を形成していた。ゼラチンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見とはまったく異なる形態であった。コラーゲン分解物ゲルに接着している胚様体から細胞が伸展して別の胚様体に繋がっているようであった(図2の(c))。
【0310】
DMEM培地(LIF(−))を用いてコラーゲン分解物コート培養皿またはコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞の形態は、ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞の形態とは全く異なっていた。しかし、DMEM培地(LIF(+))を用いてコラーゲン分解物コート培養皿またはコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞と比較して、形態学的な所見に明確な違いはなかった。ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞は、一般的なES細胞のコロニーを形成しただけであったが、コラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞は、LIFを添加していないにも関わらず、浮遊した胚様体を形成した。つまり、コラーゲン分解物コート培養皿においてES細胞を培養することは、胚様体を形成させる新たな方法となりうることが示された。一方、コラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞は、これまでに観察されていないような胚様体が、LIF非存在下で形成された。具体的には、胚様体は、コラーゲン分解物ゲルに接着していることが示された。
【0311】
<11.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験2>
次に、ゼラチンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿またはコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞の未分化能を調べるため、細胞内在性のアルカリ性ホスファターゼ活性を調べた。
【0312】
500U/mLのLIFおよび20%ウシ胎児血清を含むDMEM(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(+))」と称する。)を用いて、マウスES細胞2.5×10個/mLを調製した。あらかじめMEFを播種しておいたゼラチンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿、およびコラーゲン分解物ゲル培養皿に、マウスES細胞懸濁液2mLをそれぞれ播種して、DMEM培地(LIF(+))を用いて、37℃、5%COの条件下にて培養した(培養条件:MEF(+)且つLIF(+))。ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞を本実験のコントロールとした。培養期間中は、毎日、新しいDMEM培地(LIF(+))と培地を交換した。
【0313】
2日間培養後に、細胞の培養上清を取り除き、滅菌PBSで洗浄した。引き続き、細胞を固定するために4%パラホルムアルデヒド溶液を細胞が浸るまで加え、室温で30分間静置した。その後、滅菌蒸留水を細胞が浸るまで加えて洗浄する操作を2回繰り返した。洗浄液を取り除いた後、TRACP&ALP double-stain kit(商品コードMK300、タカラバイオ社製)付属のアルカリ性ホスファターゼ染色液を培養皿に250μL加えて37℃で45分間静置した。反応を停止させるため、染色液を取り除いて滅菌蒸留水で3回洗浄した。結果を図3に示す。
【0314】
図3は、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件において2日間培養したES細胞の細胞内在性のアルカリ性ホスファターゼ活性を調べた結果を示す図であり、図3中、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて2日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性の有無を示す図であり、(b)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて2日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性の有無を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物ゲル培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて2日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性の有無を示す図である。
【0315】
コラーゲン分解物コート培養皿およびコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞から形成された胚様体は、ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞のコロニーと同様にアルカリ性ホスファターゼ活性陽性であることが示された(図3の(a)〜(c))。一方、共培養しているMEFはアルカリ性ホスファターゼ活性陰性であった。これらの結果は、コラーゲン分解物コート培養皿およびコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞から形成された胚様体が未分化能を維持していることを示している。
【0316】
<12.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験3>
MEFを播種している培養皿の代わりに、MEFを播種していない培養皿を用いて、同様の実験を、LIFを含み且つ20%ウシ胎児血清を含むDMEM培地(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(+))」と称する。)を用いて行った。具体的には、DMEM培地(LIF(+))を用いて、マウスES細胞2.5×10個/mLを調製した。MEFを播種していないゼラチンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿、コラーゲン分解物ゲル培養皿に、マウスES細胞懸濁液2mLをそれぞれ播種して、DMEM培地(LIF(+))を用いて、37℃、5%COの条件下にて培養した(培養条件:MEF(−)且つLIF(+))。ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞を本実験のコントロールとした。
【0317】
培養期間中は、毎日、新しいDMEM培地(LIF(+))と培地を交換した。
【0318】
培養開始3日後に、位相差顕微鏡下でES細胞の形態を観察した。各細胞の形態を、図4に示す。図4中、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、DMEM培地(LIF(+))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(b)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、DMEM培地(LIF(+))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物ゲル培養皿において、DMEM培地(LIF(+))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図である。
【0319】
ゼラチンコート培養皿において培養した場合、ES細胞が単層に広がり、コロニー形成している細胞と単一で接着している細胞とを区別して観察した。細胞突起を示す形態を示す細胞も存在していた。一般的なES細胞のMEF共存下且つLIF存在下の培養所見(図1(a))と比べてコロニーの数が少なく大きさが小さく、それぞれの細胞が判別できる程度の細胞間接着であることが示された(図4の(a))。
【0320】
コラーゲン分解物コート培養皿において培養した場合、観察されたES細胞は接着もしくは浮遊した3次元細胞塊(胚様体)を形成しており(図4の(b))、ゼラチンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見(図4の(a))とはまったく異なる形態であった。どちらかと言えば、浮遊している胚様体の割合が多かった。
【0321】
コラーゲン分解物ゲル培養皿において培養した場合、観察されたES細胞はコラーゲン分解物ゲルに接着もしくは浮遊した3次元細胞塊(胚様体)を形成していた。ゼラチンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見とはまったく異なる形態であった。コラーゲン分解物ゲルに接着している胚様体の方が、浮遊している胚様体より比較的大きかった。(図4の(c))。
【0322】
MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いてコラーゲン分解物コート培養皿またはコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞の形態は、ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞の形態とは全く異なっていた。しかし、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いてコラーゲン分解物コート培養皿またはコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞と比較して、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いてコラーゲン分解物コート培養皿またはコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞の形態は、大きさや形に多少の違いが観察されたが、明確な違いはなかった。MEF(−)且つLIF(+)の培養条件で、ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞は、一般的なES細胞のコロニーを形成するか、あるいは単一の接着細胞であった。特筆すべきは、MEF(−)且つLIF(+)の培養条件でコラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞は、MEFを共培養していないにも関わらず、胚様体を形成した。つまり、コラーゲン分解物コート培養皿においてES細胞を培養することは、胚様体を形成させる新たな方法となりうることが示された。同様に、MEF(−)且つLIF(+)の培養条件でコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞は、これまでに観察されていないような胚様体が、MEF非存在下で形成された。具体的には、MEF(−)且つLIF(+)の培養条件でコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞から形成された胚様体は、コラーゲン分解物ゲルに接着あるいは浮遊していることが示された。
【0323】
<13.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験4>
MEFを播種している培養皿の代わりに、MEFを播種していない培養皿を用いて、同様の実験を、LIFを含まない20%ウシ胎児血清を含むDMEM培地(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(−))」と称する。)を用いて行った。具体的には、DMEM培地(LIF(−))を用いて、マウスES細胞2.5×10個/mLを調製した。MEFを播種していないゼラチンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿、コラーゲン分解物ゲル培養皿に、マウスES細胞懸濁液2mLをそれぞれ播種して、DMEM培地(LIF(−))を用いて、37℃、5%COの条件下にて培養した(培養条件:MEF(−)且つLIF(−))。ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞を本実験のコントロールとした。
【0324】
培養期間中は、毎日、新しいDMEM培地(LIF(−))と培地を交換した。
【0325】
培養開始3日後に、位相差顕微鏡下でES細胞の形態を観察した。各細胞の形態を、図5に示す。図5中、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、DMEM培地(LIF(−))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(b)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、DMEM培地(LIF(−))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物ゲル培養皿において、DMEM培地(LIF(−))を用いて3日間培養したES細胞の形態を示す図である。
【0326】
ゼラチンコート培養皿において培養した場合、ES細胞が単層に広がり、コロニー形成している細胞と単一で接着している細胞とを区別して観察した。細胞突起を示す形態を示す細胞も存在していた。一般的なES細胞のMEF共存下且つLIF存在下の培養所見(図1(a))と比べてコロニーの数が少なく大きさが小さく、それぞれの細胞が判別できる程度の細胞間接着であることが示された(図5の(a))。
【0327】
コラーゲン分解物コート培養皿において培養した場合、観察されたES細胞は接着もしくは浮遊した3次元細胞塊(胚様体)を形成しており(図5の(b))、ゼラチンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見(図5の(a))とはまったく異なる形態であった。どちらかと言えば、浮遊している胚様体の割合が多かった。
【0328】
コラーゲン分解物ゲル培養皿において培養した場合、観察されたES細胞はコラーゲン分解物ゲルに接着もしくは浮遊した3次元細胞塊(胚様体)を形成していた。ゼラチンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見とはまったく異なる形態であった。コラーゲン分解物ゲルに接着している胚様体の方が、浮遊している胚様体より比較的大きかった。(図5の(c))。
【0329】
MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(−))を用いてコラーゲン分解物コート培養皿またはコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞の形態は、ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞の形態とは全く異なっていた。しかし、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いてコラーゲン分解物コート培養皿(図1(b))またはコラーゲン分解物ゲル培養皿(図1(c))において培養したES細胞と比較して、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(−))を用いてコラーゲン分解物コート培養皿またはコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞の形態は、大きさや形に多少の違いが観察されたが、明確な違いはなかった。MEF(−)且つLIF(−)の培養条件で、ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞は、一般的なES細胞のコロニーを形成するか、あるいは単一の接着細胞であった。特筆すべきは、MEF(−)且つLIF(−)の培養条件でコラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞は、MEFを共培養していないにも関わらず、胚様体を形成した。つまり、コラーゲン分解物コート培養皿においてES細胞を培養することは、胚様体を形成させる新たな方法となりうることが示された。同様に、MEF(−)且つLIF(−)の培養条件でコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞は、これまでに観察されていないような胚様体が、MEF非存在下で形成された。具体的には、MEF(−)且つLIF(−)の培養条件でコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養したES細胞から形成された胚様体は、コラーゲン分解物ゲルに接着あるいは浮遊していることが示された。
【0330】
<14.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験5>
次に、得られた胚様体がES細胞のみから成るか否かをGFP発現ES細胞を培養して確認した。具体的には、500U/mLのLIFおよび20%ウシ胎児血清を含むDMEM(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(+))」と称する。)を用いて、マウスES細胞2.5×10個/mLを調製した。あらかじめMEFを播種しておいたゼラチンコート培養皿、またはコラーゲン分解物ゲル培養皿に、マウスES細胞懸濁液2mLをそれぞれ播種して、DMEM培地(LIF(+))を用いて、37℃、5%COの条件下にて4日間培養した(培養条件:MEF(+)且つLIF(+))。ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞を本実験のコントロールとした。
【0331】
さらに、LIFを含まず20%ウシ胎児血清を含むDMEM(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(−))」と称する。)を用いて、マウスES細胞2.5×10個/mLを調製した。あらかじめMEFを播種しておいたコラーゲン分解物ゲル培養皿に、マウスES細胞懸濁液2mLを播種して、DMEM培地(LIF(−))を用いて、37℃、5%COの条件下にて4日間培養した(培養条件:MEF(+)且つLIF(−))。
【0332】
4日間培養後に、それぞれの培養条件で培養して得られた細胞の核を、Cellstain(登録商標)-Hoechst 33342 solution(品番H342、株式会社 同仁化学研究所)を用いて染色した。
【0333】
結果を図6図8に示す。図6は、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件において、ゼラチンコート培養皿において4日間培養したES細胞を、顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(a)は、位相差顕微鏡下で観察したES細胞の形態を示す図であり、(b)は、(a)に示したES細胞のGFPの蛍光を蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(c)は、(a)に示したES細胞をHoechst 33342染色し、蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(d)は、(a)、(b)および(c)の画像を重ね合せた結果を示す図である。また、図7は、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件においてコラーゲン分解物ゲル培養皿においてES細胞を4日間培養した後に得られた胚様体を、顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(a)は、位相差顕微鏡下で観察した胚様体の形態を示す図であり、(b)は、(a)に示した胚様体のGFPの蛍光を蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(c)は、(a)に示した胚様体をHoechst 33342染色し、蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(d)は、(a)、(b)および(c)の画像を重ね合せた結果を示す図である。また、図8は、MEF(+)且つLIF(−)の培養条件においてコラーゲン分解物ゲル培養皿においてES細胞を4日間培養した後に得られた胚様体を、顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(a)は、位相差顕微鏡下で観察した胚様体の形態を示す図であり、(b)は、(a)に示した胚様体のGFPの蛍光を蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(c)は、(a)に示した胚様体をHoechst 33342染色し、蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(d)は、(a)、(b)および(c)の画像を重ね合せた結果を示す図である。
【0334】
その結果、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件においてゼラチンコート培養皿においてES細胞を培養した場合、GFP陽性のES細胞が単層に広がり、コロニー形成することが確認できた(図6の(a)〜(d))。
【0335】
また、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))またはDMEM培地(LIF(−))を用いて、ES細胞をコラーゲン分解物ゲル培養皿において培養した場合、観察されたGFP陽性のES細胞は、コラーゲン分解物ゲルに接着した3次元細胞塊(胚様体)を形成していた。ゼラチンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見とはまったく異なる形態であった。胚様体以外の細胞はGFP陰性であることから、胚様体以外の細胞はMEFであると推察された(図7の(a)〜(d)および図8の(a)〜(d))。また、図8の(a)中の破線で囲った箇所は、コラーゲンと、細胞からの分泌物であると推察された。
【0336】
以上の結果から、培養液中のLIFの有無に関わらず、MEF共存下においてコラーゲン分解物ゲル培養皿において形成された胚様体は、ES細胞由来であることが示された。
【0337】
<15.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験6>
(ヒトiPS細胞)
京都大学 山中伸弥教授の研究室が樹立したヒトiPS細胞(201B7株、RIKEN BRC)を使用した。該iPS細胞株は、染色体解析ですべての細胞が46XXで染色体異常は認められないものである。
【0338】
(コラーゲン分解物コート培養皿の作製)
ブタ由来のコラーゲンの分解物を10mg/mLに調製し、6−well plateに50μLコートして3時間静置した。なお、コラーゲンの分解物としては上述したコラーゲンの分解物(塩濃度0mMにおける、ブタ由来のコラーゲンの分解物のうち、配列番号2にて示されるアミノ酸配列((3)にて示されるアミノ酸配列に相当)を有する分解物)を用いた。対照群1として、Vitronectin(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)をD−PBSで100倍に希釈したものを6−well plateの1ウエルに1mLを加え、1時間以上静置した。対照群2として、iMatrix511(株式会社ニッピ)を0.5μg/cmになるようにコートした。
【0339】
(ヒトiPS細胞の胚様体形成)
ヒトiPS細胞はiPS細胞専用のNutriStem培地(コスモバイオ株式会社)を用いて1.0×10個に調整し、上記で作製した培養皿に播種した。培養は、37℃、5%COの条件下にて5日間行った。培養期間中は、毎日、新しいNutriStem培地と交換した。
【0340】
培養開始1日後および5日後に、位相差顕微鏡下でiPS細胞の形態を観察した。各細胞の形態を、図9および図10に示す。図9中、(a)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、1日間培養したiPS細胞の形態を示す図であり、(b)は、Vitronectinコート培養皿において、1日間培養したiPS細胞の形態を示す図であり、(c)は、iMatrix511コート培養皿において、1日間培養したiPS細胞の形態を示す図である。図10中、(a)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、5日間培養したiPS細胞の形態を示す図であり、(b)は、Vitronectinコート培養皿において、5日間培養したiPS細胞の形態を示す図であり、(c)は、iMatrix511コート培養皿において、5日間培養したiPS細胞の形態を示す図である。
【0341】
コラーゲン分解物コート培養皿において培養した場合、1日培養後ではiPS細胞が集まっている様子が観察された。また5日培養後では胚様体を形成していた(図9の(a)および図10の(a))。
【0342】
Vitronectinコート培養皿において培養した場合、一般的なiPS細胞の培養所見と同じ形態であった。つまり、1日培養後ではiPS細胞は培養皿底面に個々に接着し、単層培養の細胞形態であった。5日培養後ではiPS細胞は過増殖状態となり、培養皿底面の全てに接着していることが示された(図9の(b)および図10の(b))。
【0343】
iMatrix511コート培養皿において培養した場合、iPS細胞は培養皿の底面に接着していた。培養1日後および培養5日後の観察像は、Vitronectinコート培養皿の一般的なiPS細胞の培養所見と同様な形態であった。
【0344】
コラーゲン分解物コート培養皿において培養したiPS細胞の形態は、Vitronectinコート培養皿またはiMatrix511コート培養皿において培養したiPS細胞の形態とは全く異なっていた。Vitronectinコート培養皿において培養したiPS細胞は、一般的なiPS細胞の増殖を示しただけであったが、コラーゲン分解物コート培養皿において培養したiPS細胞は、LIFなどを添加しないにも関わらず、胚様体を形成した。つまり、コラーゲン分解物コート培養皿においてiPS細胞を培養することは、胚様体を形成させる新たな方法となりうることが示された。
【0345】
<16.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験7>
(塩基性線維芽細胞増殖因子を含まない培地でのiPS細胞の培養)
<15>と同様の実験を、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含まない培地を用いて培養12日目まで延長して胚様体の形態を観察した。すなわち、ヒトiPS細胞およびコラーゲン分解物としては、<15>と同様のものを用いた。
【0346】
(コラーゲン分解物コート培養皿の作製)
コラーゲン分解物を10mg/mLに調製し、6−well plateに50μLコートして3時間静置した。対照群として、プラスチック表面を2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンモノマーで加工したLipdure(日油株式会社)を用いた。iPS細胞はLipdure培養皿で培養すると、浮遊した胚様体を形成することが広く知られる。
【0347】
(ヒトiPS細胞の胚様体形成)
ヒトiPS細胞はiPS細胞専用のNutriStem培地(コスモバイオ株式会社)を用いて3.0×10個に調整し、上記で作製した培養皿に播種した。培養は、37℃、5%COの条件下にて12日間行った。培養期間中は、培養4日目まで毎日、新しいNutriStem培地と半量交換した。培養5日目以降は、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含まないiPS細胞専用培地であるhiPS mediumを用いて隔日に半量交換した。
【0348】
培養開始4日後および12日後に、位相差顕微鏡下でiPS細胞の形態を観察した。各細胞の4日後および12日後の形態を、それぞれ図11および図12に示す。図11中、(a)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、4日間培養したiPS細胞の形態を示す図であり、(b)は、Lipidure培養皿において、4日間培養したiPS細胞の形態を示す図である。図12の(a)は、コラーゲン分解物コート培養皿において、12日間培養したiPS細胞の形態を示す図であり、図12の(b)は、Lipidure培養皿において、12日間培養したiPS細胞の形態を示す図である。
【0349】
コラーゲン分解物コート培養皿において培養した場合、4日培養後ではiPS細胞が胚様体を形成する様子が観察された(図11の(a))。さらにbFGFを含まない専用培地で12日目まで培養した結果、胚様体が維持されていることが示された(図12の(a))。
【0350】
Lipidure培養皿において4日間培養した場合、一般的なiPS細胞の培養所見と同じく浮遊した胚様体が示された(図11の(b))。さらにbFGFを含まない専用培地で12日目まで培養した結果、胚様体が巨大化していることが示された(図12の(b))。
【0351】
コラーゲン分解物コート培養皿を用いたヒトiPS細胞の胚様体形成は、Lipidure培養皿のヒトiPS細胞の胚様体形成と比べて、培養皿底面に接着していることから培地交換が容易であるという利点が明らかになった。Lipidure培養皿は培地交換する際に吸引による細胞の誤損出が起こりやすい。また、Lipidure培養皿から回収した胚様体は、培地交換での遠心作業中に胚様体同士が接触して巨大化することが危惧された。一方、コラーゲン分解物コート培養皿では、そのような問題が起こりにくいことが分かった。さらに、bFGFを含まない専用培地で培養してもコラーゲン分解物コート培養皿で形成したiPS細胞の胚様体は崩壊しないことが明らかになった。
【0352】
コラーゲン分解物コート培養皿において培養したヒトiPS細胞の胚様体は、Lipidure培養皿でのヒトiPS細胞と比較して、形態学的な所見に明確な違いは明確ではなかった。つまり、コラーゲン分解物コート培養皿においてヒトiPS細胞の胚様体を培養することは、胚様体を維持させる新たな方法となりうることが示された。
【0353】
<17.コラーゲンの分解物の胚様体の分化誘導に関する試験>
次に、コラーゲンの分解物を用いて得られたマウスES細胞の胚様体を、分化誘導できることを確認した。具体的には、LIFを含まないEB専用培地(DMEM培地に20%ウシ胎児血清、1mM MEM Sodium Pyruvate Solution、1/100希釈MEM Non Essential Amino Acid Solition、10μM β−メルカプトエタノールを添加した培地)(以下、「EB培地」と称する)を用いて、マウスES細胞5.0×10個/wellを調製した。次に、あらかじめ上記と同じ手法で調整した12−well plateのコラーゲン分解物コート培養皿、またはLipidure培養皿を用意し、マウスES細胞懸濁液をそれぞれ播種した。EB培地を用いて、37℃、5%COの条件下にて15日間培養した。培地は培養2日後以降、毎日、新しいEB培地に交換した。ゼラチンコート培養皿において培養した播種前のES細胞を本実験のコントロールとした。
【0354】
(マウスES細胞の胚様体からのRNAの抽出)
15日間培養後に、それぞれの培養条件で培養して得られたマウスES細胞の胚様体を遠心により集め、それぞれのRNAを、total RNA精製用バッファーのLysis Buffer RA1(タカラバイオ株式会社)およびβ−メルカプトエタノールと混合し、さらに70%エタノールを加えてよく混ぜた。得られた溶液をRNA精製用スピンカラムにて遠心してゲルに吸着させ、洗浄し、さらにDNase処理してカラムから溶出させることで、各培養皿の胚様体のtotal RNAを精製した。
【0355】
(マウスES細胞の胚様体からのRNAのcDNAの調製)
常法により、タカラバイオ株式会社製のPrimeScript RT Master Mix (Perfect Real Time)を用いて、total RNAを鋳型として、RT−PCR法によりcDNAを合成した。反応後のcDNA溶液は−20℃もしくは−80℃で次の実験まで保存した。
【0356】
(マウスES細胞の胚様体のRNAの解析)
分化に与えるコラーゲン分解物を用いた培養の影響を調べるため、以下の3つの分化マーカーのRNA発現量を調べた。中内胚葉、内胚葉および中胚葉への分化に関与するGATA4(GATA Binding Protein 4)、内胚葉系の肝細胞に特異的なAFP(αフェトプロテイン)、心筋前駆細胞に特異的なNKX2.5(NK−2 transcription factor related,locus 5)のプライマーを用いて、RNA発現量を定量化した。上記で得られたcDNAを鋳型として、各プライマー、SYBR Fast qPCR Mixなどの試薬と適量の超純水などとを混合し、Thermal Cycler Dice Real Time System (タカラバイオ株式会社)を用いて、常法により定量RT−PCRを行った。
【0357】
RT−PCRの結果から得られた発現量の最大値を100として、各マーカーの相対発現量をレーダーチャート化したものを図13に示す。コラーゲン分解物コート培養皿で形成したマウスES細胞の胚様体は、NKX2.5の相対発現量が低いがGATA4とAFPの相対発現量が高いことが明らかになった(図13の(a))。Lipidure培養皿で形成した胚様体のRNA相対発現量は、コラーゲン分解物コート培養皿の胚様体のそれと同様であった(図13の(b))。一方、コントロールであるゼラチンコート培養皿のマウスES細胞では、逆に、NKX2.5の相対発現量がGATA4およびAFPより高いことが示された(図13の(c))。つまり、コラーゲン分解物コート培養皿の胚様体は、Lipidure培養皿の胚様体と同様にES細胞の分化に大きく影響することが明らかになった。ゼラチンコート培養皿の細胞の結果と正反対になることは、胚様体特有の分化誘導に適していることを示している。
【0358】
ES細胞やiPS細胞の分化誘導は胚様体を経ることが必須で、胚様体形成後に適切な分化誘導条件を満たすことが重要である。よって、コラーゲン分解物コート培養皿の胚様体も十分に分化誘導する能力を有していることが証明された。従来法のLipidure培養皿の胚様体は浮遊しているので大きな凝集塊を形成しやすい。そのため、Lipidure培養皿でのES細胞およびiPS細胞の分化は、分化の質に大きく影響する。一方、コラーゲン分解物コート培養皿の胚様体は、分化の再現性および質を向上させることが可能となる。
【0359】
<18.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験8>
(培養皿)
上述したコラーゲンの分解物(ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号27)、あるいはラット腱由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号24と配列番号5との混合物)、あるいはブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号26))と接触させた、市販の培養皿を試験に用いた。具体的には、35mm培養皿にコラーゲン分解物の濃度(ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号27)は3.2mg/mLから9.6mg/mL、ラット腱由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号24と配列番号5との混合物)は2.8mg/mLから8.4mg/mL、ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号26)は3.3mg/mL)を変えて添加し、培養皿に十分になじませて室温で5時間静置し、コラーゲン分解物コート培養皿とした。
【0360】
(マウスES細胞)
山梨大学生命環境学部生命工学科 若山照彦教授から譲渡されたマウスES細胞を使用した。このマウスES細胞は、GFP(green fluorescent protein)標識されており、GFPタンパク質をコードしている遺伝子が染色体中に挿入されているものである。
【0361】
(フィーダー細胞の調製)
マイトマイシン処理したマウス胎児由来線維芽細胞(Murine Embryonic Fibroblasts:MEF)(CMPMEFCF、DSファーマバイオメディカル製)を6.1×10個/mLに調製した。ゼラチンコート培養皿、アテロコラーゲンコート培養皿(ブタ腱由来ペプシン可溶化I型コラーゲン、COL 1、旭テクノグラス社製)、コラーゲン分解物コート培養皿に、MEFをそれぞれ1.2×10個播種して、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地(DMEM、日水製薬株式会社製)を用いて、37℃、5%COの条件下にて1日間培養した。
【0362】
(胚様体の形成)
500U/mLの白血病抑制因子(Leukemia Inhibitory Factor:LIF)および20%ウシ胎児血清を含むDMEM(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(+))」と称する。)を用いて、マウスES細胞2.5×10個/mLを調製した。あらかじめMEFを播種しておいたゼラチンコート培養皿、アテロコラーゲンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿に、マウスES細胞をそれぞれ5.0×10個/cm播種して、DMEM培地(LIF(+))を用いて、37℃、5%COの条件下にて培養した(培養条件:MEF(+)且つLIF(+))。ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養したES細胞を本実験のコントロールとした。なお、実施例において、「MEF(+)」はMEF共存下での培養を示す。また、「LIF(+)」はLIF共存下での培養を示す。
【0363】
培養開始1日後に、位相差顕微鏡下でES細胞の形態を観察した。各細胞の形態を、図14に示す。図14中、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(b)は、アテロコラーゲンコート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号27)において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(d)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ラット腱由来、配列番号24と配列番号5との混合物)において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(e)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号26)において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図である。ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養した場合、MEFはゼラチンコート培養皿の底面に接着して伸展していた。その間にES細胞がコロニーを形成していた。一般的なES細胞の培養所見と同じ形態であった(図14の(a)および(b))。
【0364】
コラーゲン分解物コート培養皿において培養した場合、ES細胞は3次元細胞塊(胚様体)を形成しており、ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見とはまったく異なる形態であった(図14の(c)〜(e))。またMEFはコラーゲン分解物コート培養皿の底面に接着していたが、ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿のように底面全体に伸展せず、ES細胞の胚様体の底面で主にコラーゲンと接着していた。
【0365】
コラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞の形態は、ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養したES細胞の形態とは全く異なっていた。ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養したES細胞は、一般的なES細胞のコロニーを形成しただけであったが、コラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞は、接着した胚様体を形成した。つまり、コラーゲン分解物の動物種(例えば、ブタ、ラット)、由来部位(例えば、皮部と腱)およびN末端切断部位(例えば、配列番号26、配列番号27、配列番号24、配列番号5)に関わらず、コラーゲン分解物コート培養皿においてES細胞を培養することは、胚様体を形成させる新たな方法となりうることが示された。
【0366】
<19.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験9>
ゼラチンコート培養皿、アテロコラーゲンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞の未分化能を調べるため、細胞内在性のアルカリ性ホスファターゼ活性を調べた。
【0367】
(培養皿)
上述したコラーゲンの分解物(ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号27)、あるいはラット腱由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号24と配列番号5との混合物)、あるいはブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号26))と接触させた、市販の培養皿を試験に用いた。具体的には、35mm培養皿にコラーゲン分解物の濃度(ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号27)は3.2mg/mLから9.6mg/mL、ラット腱由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号24と配列番号5との混合物)は2.8mg/mLから8.4mg/mL、ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号26)は3.3mg/mL)を変えて添加し、培養皿に十分になじませて室温で5時間静置し、コラーゲン分解物コート培養皿とした。
【0368】
(胚様体の形成)
500U/mLのLIFおよび20%ウシ胎児血清を含むDMEM(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(+))」と称する。)を用いて、2.5×10個/mLを調製した。あらかじめMEFを播種しておいたゼラチンコート培養皿、アテロコラーゲンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿に、マウスES細胞をそれぞれ5.0×10個/cm播種して、DMEM培地(LIF(+))を用いて、37℃、5%COの条件下にて培養した(培養条件:MEF(+)且つLIF(+))。ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養したES細胞を本実験のコントロールとした。
【0369】
1日間培養後に、細胞の培養上清を取り除き、滅菌PBSで洗浄した。引き続き、細胞を固定するために4%パラホルムアルデヒド溶液を細胞が浸るまで加え、室温で30分間静置した。その後、滅菌蒸留水を細胞が浸るまで加えて洗浄する操作を2回繰り返した。洗浄液を取り除いた後、TRACP&ALP double-stain kit(商品コードMK300、タカラバイオ社製)付属のアルカリ性ホスファターゼ染色液を培養皿に加えて37℃で45分間静置した。反応を停止させるため、染色液を取り除いて滅菌蒸留水で3回洗浄した。結果を図15に示す。
【0370】
図15は、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件において1日間培養したES細胞の細胞内在性のアルカリ性ホスファターゼ活性を調べた結果を示す図であり、図15中、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ染色の結果を示す図であり、(b)は、アテロコラーゲンコート培養皿において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ染色の結果を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号27)において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ染色の結果を示す図であり、(d)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ラット腱由来、配列番号24と配列番号5との混合物)において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ染色の結果を示す図であり、(e)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号26)において、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ染色の結果を示す図である。
【0371】
コラーゲン分解物コート培養皿おいて培養したES細胞から形成された胚様体は、ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養したES細胞のコロニーと同様にアルカリ性ホスファターゼ活性陽性であることが示された(図15の(c)〜(e))。一方、共培養しているMEFはアルカリ性ホスファターゼ活性陰性であった。これらの結果は、コラーゲン分解物の動物種(例えば、ブタ、ラット)、由来部位(例えば、皮部と腱)およびN末端切断部位(例えば、配列番号26、配列番号27、配列番号24、配列番号5)に関わらず、コラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞から形成された胚様体が未分化能を維持していることを示している。
【0372】
<20.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験10>
次に、GFP発現ES細胞を培養して得られた胚様体がES細胞のみから成るか否かを確認した。
【0373】
(培養皿)
上述したコラーゲンの分解物(ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号27)、あるいはラット腱由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号24と配列番号5との混合物)、あるいはブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号26))と接触させた、市販の培養皿を試験に用いた。具体的には、35mm培養皿にコラーゲン分解物の濃度(ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号27)は3.2mg/mLから9.6mg/mL、ラット腱由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号24と配列番号5との混合物)は2.8mg/mLから8.4mg/mL、ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号26)は3.3mg/mL)を変えて添加し、培養皿に十分になじませて室温で5時間静置し、コラーゲン分解物コート培養皿とした。
【0374】
(胚様体の形成)
具体的には、500U/mLのLIFおよび20%ウシ胎児血清を含むDMEM(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(+))」と称する。)を用いて、2.5×10個/mLを調製した。あらかじめMEFを播種しておいたゼラチンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿に、マウスES細胞をそれぞれ5.0×10個/cm播種して、DMEM培地(LIF(+))を用いて、37℃、5%COの条件下にて培養した(培養条件:MEF(+)且つLIF(+))。ゼラチンコート培養皿において培養したES細胞を本実験のコントロールとした。
【0375】
結果を図16図19に示す。図16は、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件において、ゼラチンコート培養皿においてGFP遺伝子を内在したES細胞を1日間培養した後に得られたコロニーを、顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(a)は、位相差顕微鏡下で観察した上記コロニーの形態を示す図であり、(b)は、(a)に示した上記コロニーのGFPの蛍光を蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(c)は、(a)および(b)の画像を重ね合せた結果を示す図である。また、図17は、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件においてコラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号27)においてGFP遺伝子を内在したES細胞を1日間培養した後に得られた胚様体を、顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(a)は、位相差顕微鏡下で観察した上記胚様体の形態を示す図であり、(b)は、(a)に示した上記胚様体のGFPの蛍光を蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(c)は、(a)および(b)の画像を重ね合せた結果を示す図である。また、図18は、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件においてコラーゲン分解物コート培養皿(ラット腱由来、配列番号24と配列番号5との混合物)においてGFP遺伝子を内在したES細胞を1日間培養した後に得られた胚様体を、顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(a)は、位相差顕微鏡下で観察した上記胚様体の形態を示す図であり、(b)は、(a)に示した上記胚様体のGFPの蛍光を蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(c)は、(a)および(b)の画像を重ね合せた結果を示す図である。また、図19は、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件においてコラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号26)においてGFP遺伝子を内在したES細胞を1日間培養した後に得られた胚様体を、顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(a)は、位相差顕微鏡下で観察した上記胚様体の形態を示す図であり、(b)は、(a)に示した上記胚様体のGFPの蛍光を蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す図であり、(c)は、(a)および(b)の画像を重ね合せた結果を示す図である。
【0376】
その結果、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件においてゼラチンコート培養皿においてES細胞を培養した場合、GFP陽性のES細胞が単層に広がり、コロニー形成することが確認できた(図16の(a)〜(c))。
【0377】
また、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて、ES細胞をコラーゲン分解物コート培養皿において培養した場合、観察されたGFP陽性のES細胞は、コラーゲン分解物コートに接着した3次元細胞塊(胚様体)を形成していた。これは、ゼラチンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見とはまったく異なる形態であった。胚様体以外の細胞はGFP陰性であることから、胚様体以外の細胞はMEFであると推察された(図17の(a)〜(c)、図18の(a)〜(c)および図19の(a)〜(c))。
【0378】
以上の結果から、コラーゲン分解物の動物種(例えば、ブタ、ラット)、由来部位(例えば、皮部と腱)およびN末端切断部位(例えば、配列番号26、配列番号27、配列番号24、配列番号5)に関わらず、MEF共存下においてコラーゲン分解物コート培養皿において形成された胚様体は、ES細胞由来であることが示された。
【0379】
<21.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験11>
(培養皿)
上述したコラーゲンの分解物(ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号27)、あるいはラット腱由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号24と配列番号5との混合物)、あるいはブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号26))と接触させた、市販の培養皿を試験に用いた。具体的には、35mm培養皿にコラーゲン分解物の濃度(ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号27)は3.2mg/mLから9.6mg/mL、ラット腱由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号24と配列番号5との混合物)は2.8mg/mLから8.4mg/mL、ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号26)は3.3mg/mL)を変えて添加し、培養皿に十分になじませて室温で5時間静置し、コラーゲン分解物コート培養皿とした。
【0380】
(胚様体の形成)
MEFを播種している培養皿の代わりに、MEFを播種していない培養皿を用いて、同様の実験を、LIFを含み且つ20%ウシ胎児血清を含むDMEM培地(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(+))」と称する。)を用いて行った。具体的には、DMEM培地(LIF(+))を用いて、を用いて、マウスES細胞2.5×10個/mLを調製した。MEFを播種していないゼラチンコート培養皿、アテロコラーゲンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿に、マウスES細胞をそれぞれ5.0×10個/cm播種して、DMEM培地(LIF(+))を用いて、37℃、5%COの条件下にて培養した(培養条件:MEF(−)且つLIF(+))。ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養したES細胞を本実験のコントロールとした。なお、実施例において、「MEF(−)」はMEF非共存下での培養を示す。また、「LIF(+)」はLIF共存下での培養を示す。
【0381】
培養開始1日後に、位相差顕微鏡下でES細胞の形態を観察した。各細胞の形態を、図20に示す。図20中、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(b)は、アテロコラーゲンコート培養皿において、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号27)において、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(d)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ラット腱由来、配列番号24と配列番号5との混合物)において、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図であり、(e)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号26))において、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞の形態を示す図である。
【0382】
ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養した場合、ES細胞が単層に広がり、単一で接着している細胞を観察した。細胞突起を示す形態を示す細胞も存在していた。一般的なES細胞のMEF共存下且つLIF存在下の培養所見(図14の(a)および(b))と比べてそれぞれの細胞が判別できる程度の典型的な細胞間接着であることが示された(図20の(a)および(b))。
【0383】
コラーゲン分解物コート培養皿において培養した場合、観察されたES細胞は接着もしくは浮遊した3次元細胞塊(胚様体)を形成しており(図20の(c)〜(e))、ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿の一般的なES細胞の培養所見(図14の(a)および(b))とはまったく異なる形態であった。
【0384】
MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いてコラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞の形態は、コラーゲン分解物の動物種(例えば、ブタ、ラット)、由来部位(例えば、皮部と腱)およびN末端切断部位(例えば、配列番号26、配列番号27、配列番号24、配列番号5)に関わらず、ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養したES細胞の形態とは全く異なっていた。しかし、MEF共存下(MEF(+))で、DMEM培地(LIF(+))を用いてコラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞(図14の(c)〜(e))と比較して、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いてコラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞(図20の(c)〜(e))の形態は、大きさや形、接着、浮遊などに多少の違いが観察されたが、コラーゲン分解物の動物種(例えば、ブタ、ラット)、由来部位(例えば、皮部と腱)およびN末端切断部位(例えば、配列番号26、配列番号27、配列番号24、配列番号5)に関わらず、明確な違いはなかった。
【0385】
MEF(−)且つLIF(+)の培養条件で、ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養したES細胞は、単一の接着細胞であった。特筆すべきは、コラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞は、コラーゲン分解物の動物種(例えば、ブタ、ラット)、由来部位(例えば、皮部と腱)およびN末端切断部位(例えば、配列番号26、配列番号27、配列番号24、配列番号5)に関わらず、MEFを共培養していない条件下でも、胚様体を形成した。つまり、コラーゲン分解物コート培養皿においてES細胞を培養することは、コラーゲン分解物の動物種(例えば、ブタ、ラット)、由来部位(例えば、皮部と腱)およびN末端切断部位(例えば、配列番号26、配列番号27、配列番号24、配列番号5)に関わらず、胚様体を形成させる新たな方法となりうることが示された。
【0386】
<22.コラーゲンの分解物の胚様体形成能に関する試験12>
次に、ゼラチンコート培養皿、アテロコラーゲンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞の未分化能を調べるため、細胞内在性のアルカリ性ホスファターゼ活性を調べた。
【0387】
(培養皿)
上述したコラーゲンの分解物(ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号27)、あるいはラット腱由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号24と配列番号5との混合物)、あるいはブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号26))と接触させた、市販の培養皿を試験に用いた。具体的には、35mm培養皿にコラーゲン分解物の濃度(ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号27)は3.2mg/mLから9.6mg/mL、ラット腱由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号24と配列番号5との混合物)は2.8mg/mLから8.4mg/mL、ブタ皮部由来のI型コラーゲンの分解物(配列番号26)は3.3mg/mL)を変えて添加し、培養皿に十分になじませて室温で5時間静置し、コラーゲン分解物コート培養皿とした。
【0388】
(胚様体の形成)
500U/mLのLIFおよび20%ウシ胎児血清を含むDMEM(KnockOutDMEM、サーモフィッシャーサイエンス製)(以下、「DMEM培地(LIF(+))」と称する。)を用いて、2.5×10個/mLを調製した。MEFを播種していないゼラチンコート培養皿、アテロコラーゲンコート培養皿、コラーゲン分解物コート培養皿に、マウスES細胞をそれぞれ5.0×10個/cm播種して、DMEM培地(LIF(+))を用いて、37℃、5%COの条件下にて培養した。ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養したES細胞を本実験のコントロールとした。
【0389】
1日間培養後に、細胞の培養上清を取り除き、滅菌PBSで洗浄した。引き続き、細胞を固定するために4%パラホルムアルデヒド溶液を細胞が浸るまで加え、室温で30分間静置した。その後、滅菌蒸留水を細胞が浸るまで加えて洗浄する操作を2回繰り返した。洗浄液を取り除いた後、TRACP&ALP double−stain kit(商品コードMK300、タカラバイオ社製)付属のアルカリ性ホスファターゼ染色液を培養皿に加えて37℃で45分間静置した。反応を停止させるため、染色液を取り除いて滅菌蒸留水で3回洗浄した。結果を図21に示す。
【0390】
図21は、MEF非共存下(MEF(−))且つLIF(+)の培養条件において1日間培養したES細胞の細胞内在性のアルカリ性ホスファターゼ活性を調べた結果を示す図であり、図21中、(a)は、ゼラチンコート培養皿において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図であり、(b)は、アテロコラーゲンコート培養皿において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図であり、(c)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号27)において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図であり、(d)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ラット腱由来、配列番号24と配列番号5との混合物)において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図であり、(e)は、コラーゲン分解物コート培養皿(ブタ皮部由来、配列番号26)において、MEF非共存下(MEF(−))で、DMEM培地(LIF(+))を用いて1日間培養したES細胞のアルカリ性ホスファターゼ活性染色の結果を示す図である。
【0391】
MEF(−)且つLIF(+)の培養条件で、ゼラチンコート培養皿およびアテロコラーゲンコート培養皿において培養した単一のES細胞は、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件のES細胞のコロニー(図15の(a)と(b))と同様にアルカリ性ホスファターゼ活性陽性であることが示された(図21の(a)と(b))。コラーゲン分解物コート培養皿おいてMEF(−)且つLIF(+)の培養条件で培養したES細胞から形成された接着および浮遊した胚様体は、MEF(+)且つLIF(+)の培養条件の接着した胚様体(図15の(c)〜(e))と同様にアルカリ性ホスファターゼ活性陽性であることが示された(図21の(c)〜(e))。これらの結果は、MEF非共存下でコラーゲン分解物コート培養皿において培養したES細胞から形成された胚様体もコラーゲン分解物の動物種(例えば、ブタ、ラット)、由来部位(例えば、皮部と腱)およびN末端切断部位(例えば、配列番号26、配列番号27、配列番号24、配列番号5)に関わらず、未分化能を維持していることを示している。
【0392】
以上のことから、本実施例のコラーゲンの分解物は、マウスES細胞とヒトiPS細胞の胚様体形成能を有していることと、その後に必要とされる分化誘導に活用できることが明らかになった。本発明の一実施形態の方法によって得られた胚様体を適切な分化誘導培地で長期培養することにより、内胚葉、中胚葉、外胚葉に分化させることで、さらに神経組織、骨・軟骨組織、脂肪組織、筋肉組織などの再建が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0393】
本発明は、再生医療に関わる産業において利用可能である。
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]