(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
<検証実験>
まず、本発明に至った仮説の1つに対する検証実験について説明する。
採卵鶏(ジュリア・ライト)の種卵を90個入手した。なお、入手時に全ての種卵の卵重(以下、初期卵重という。)を測定した。また、本実験に用いた種卵は予備加温をしていない。
【0028】
孵卵器に入卵する直前(以下、Day0という。)から48時間以降24時間毎にハロゲンランプ光源の光を種卵の側方から照射し、当該種卵からの透過光を分光器により分光して透過光の分光データを測定した。なお、測定装置を
図2に示す。
これらのデータは、孵卵器に入れてから何日目のデータかを識別する目的で、N日目のデータならDayNのデータとして参照する。
【0029】
測定環境の校正の目的で、測定前に長さ30mm、直径45mmの円筒状の合成樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)ブロックを種卵の代わりにブロックの底面が投光側に来るように測定台に置いて分光データを測定した。
【0030】
500nmから900nmの波長範囲において、1nm刻みで、種卵の分光データを合成樹脂ブロックの分光データで割って、合成樹脂ブロックをリファレンスにした相対透過率のスペクトルを各卵毎に求めた。
【0031】
相対透過率T(λ)
=種卵の波長λの分光データ/合成樹脂ブロックの波長λの分光データ
【0032】
図3に、種卵のDay0からDay8までの相対透過率スペクトルを示す。この
図3に示すように、内部で胚が成長している種卵は、相対透過率スペクトルの波形が毎日変化する。
【0033】
この変化を578nm、623nm、750nm、810nm、870nmの波長毎に分けて示したのが
図4である。この
図4に示すように、全ての波長に対して、Day4からDay5にかけての相対透過率の変化が著しいが、特に両日の578nmでの相対透過率の比で計算される減少率が他の波長に比較して著しく大きい。
【0034】
この理由は、次の通りである。
Day3から卵黄の胚盤の周りに血管の生成が見られる。この血管が日々伸びることによって、血液の成分であるヘモグロビンの量が増える。そうすると、ヘモグロビンによる光の吸収のピーク波長の付近において、光の吸収が大きくなる。ヘモグロビンの吸収のピーク波長は、可視域では578nm、540nm、410nm付近であることが知られており578nmは、その一つであるからである。
【0035】
したがって、578nmの相対透過率の時間変化は、血管の生成及び伸長に対応している。
【0036】
次に、この血管の成長にオスの胚とメスの胚とで違いがあるかを調べた。
90個の種卵の孵卵を継続して、雛を孵化させた。90個の種卵から76羽の雛が孵化した。雌雄鑑別の結果、35羽がメスで41羽がオスであった。なお、5個が未受精卵であった。残りは、胚が孵化前に死んだ発育中止卵であった。
【0037】
図5は、雛が孵化した76個の種卵において、Day7における578nmの相対透過率を雛の性別に分けて図示したものである。
図5中の白抜きのひし形のシンボルは、雛の雌雄鑑別の結果オスと鑑別された種卵を示すものであり、黒塗りの丸のシンボルはメスと鑑別された種卵を示すものである。以下、他の散布図における雌雄鑑別結果における2種のシンボルの使い分けはこれに準じている。
この
図5から、メスの578nmの相対透過率がオスのものより有意に小さいことがわかる(t検定 p値<0.002)。
この
図5において例えばDay7における578nmの相対透過率の値が、0.005より大きい種卵を抽出すれば、26個が抽出される。これは全体76個中の34%である。26個中19個がオスであり、オスの比率は、73%である。すなわち、特定時点(この場合はDay7)の578nmの相対透過率で血管や血液の生成の程度を推定し、その値が定められた閾値より大きいものを抽出すれば、オスの孵化する確率の高い卵が抽出される。
【0038】
図6は、横軸に初期卵重をとり、縦軸にDay7における578nmの相対透過率をとった散布図であり、この
図6ではオスの分布とメスの分布の分離がより顕著である。
【0039】
以上は、Day7における578nmの相対透過率のみを用いたが、578nmの相対透過率は、血管以外にも種卵の大きさなどの影響を受けている。そこで、この影響を除く目的で、Day0における578nmの相対透過率に対する比率を求めた。以下、Day0における578nmの相対透過率に対するDay7における578nmの相対透過率の比を、単にDay0に対するDay7の相対透過率の比という。
【0040】
図7は、Day0に対するDay7の相対透過率の比(減少率)を雛の性別に分けて図示したものである。この
図7から、メスの相対透過率の比がオスのものより有意に小さいことがわかる。
この
図7において例えばDay0に対するDay7の相対透過率の比が、0.022より大きい種卵を抽出すれば、29個が抽出される。これは全体76個中の38%である。29個中21個がオスであり、オスの比率は、72%である。すなわち、特定時点(この場合はDay7)の578nmの相対透過率とそれより前の時点(この場合はDay0)の578nmの相対透過率の比を用いて血管や血液の生成の程度を推定し、その値が定められた閾値より大きいものを抽出すれば、オスの孵化する確率の高い卵が抽出される。先のDay7のみの場合と比較して、オス率が変化せず、抽出率が向上している。
【0041】
図8は、横軸に初期卵重をとり、縦軸にDay0に対するDay7の相対透過率の比をとった散布図であり、この
図8ではオスの分布とメスの分布の分離がより顕著である。
【0042】
図9は、Day6における578nmの相対透過率である。また、
図10は、Day0における578nmの相対透過率に対するDay6における578nmの相対透過率の比である。これらの
図9及び
図10から生存卵と未受精卵の差異が顕著である。未受精卵であれば、例えば、
図9、
図10で示したDay6やその前後(後述する第1時点付近)では、種卵内の血管及び/又は血液の形成が受精卵と異なり成されないからである。なお、生存卵と未受精卵の差異は、最も早い段階で、かつ、差異が明確となっている時点がDay6であるが、Day7でもDay6に準じた結果が得られる。
【0043】
図8の散布図の横軸の変数X1(=初期卵重)と、縦軸の変数X2(=Day0に対するDay7の相対透過率の比)との2つの変数を説明変数とし、性別(オス=1、メス=0)を目的変数として、ロジスティック回帰分析で判別式を求めた。
【0044】
ロジスティック回帰分析におけるオスメス判別値Yの分布を
図11に示す。
ロジスティック回帰分析におけるオスメス判別値Yは、Yの値が1に近いほどオスである確率が高く、逆に0に近いほどメスである確率が高い。
したがって、Y≧0.5をオスと判定し、Y<0.5をメスとした場合、種卵は2つのグループ、M判定グループとF判定グループに2分される。すなわちM判定グループは、オスの雛が孵化する確率が高い種卵が含まれるグループであり、F判定グループは、メスの雛が孵化する確率が高い種卵が含まれるグループである。この分類を2分法と言う。
【0045】
2分法による判別結果を以下の表1に示す。
表1の羽根鑑別オス、羽根鑑別メスは、雛が孵化したのちに羽根鑑別によりオスとメスが鑑別された雛の羽数である。M判定、F判定はそれぞれ、M判定グループとF判定グループに判定された種卵の数である。抽出数は、各グループに分類された種卵の個数であり、抽出率は全体に対する各グループが占める割合である。オス率は各グループ中でのオスが孵化した割合である。
【0047】
Y≧0.6をオスと判定し、Y<0.4をメスと判定し、それ以外を不明と判定した場合、種卵は、3つのグループ、M判定グループ、G判定グループ、F判定グループに3分される。ここでM判定グループは、オスの雛が孵化する確率が高い種卵が含まれるグループであり、F判定グループは、メスの雛が孵化する確率が高い種卵が含まれるグループであり、G判定グループは、オスとメスの確率が拮抗するグループである。この分類を3分法と言う。
【0048】
3分法による判別結果を以下の表2に示す。
表2の羽根鑑別オス、羽根鑑別メスは、雛が孵化したのちに羽根鑑別によりオスとメスが鑑別された雛の羽数である。M判定、G判定、F判定はそれぞれ、M判定グループ、G判定グループ、F判定グループに判定された種卵の数である。抽出数は、各グループに分類された種卵の個数であり、抽出率は全体に対する各グループが占める割合である。オス率は各グループ中でのオスが孵化した割合である。
【0050】
以上より、Day0に対するDay7の相対透過率の比の性差、及び、これらと初期卵重との組み合わせにより、種卵から孵化する雛の性別を予測し、3分法で42%の卵をM判定グループとして抽出して、そこから約84%の卵からオスが孵化することが分かった。上述したDay0に対するDay7の相対透過率の比のみの場合と比較して、抽出率もオス率も向上している。
【0051】
以上、
図8の散布図の横軸の変数X1と縦軸の変数X2を説明変数とし、性別を目的変数とするロジスティック回帰分析による雌雄の判別結果を示した。同様に
図6の散布図の横軸の変数X1と縦軸の変数X2(Day7の578nmの相対透過率)を説明変数として、性別を目的変数とするロジスティック回帰分析により雌雄判別を行っても、
図8に基づく場合と同様の結果が得られる。
このようにDay0に対するDay7の578nmの相対透過率の比、又は、Day7の578nmの相対透過率に加えて、卵重を性別判定の変数に加えることにより、判別の性能の向上を図ることができる。
ここでは、卵重を判定に追加する変数としたが、卵重以外の卵の長径又は短径や、卵の体積など卵の大きさを示す変数であれば良い。
【0052】
<第1実施形態>
以下に、本発明に係る種卵検査システムの第1実施形態について、図面を参照して説明する。
【0053】
本実施形態の種卵検査システム100は、種卵の孵卵段階において、種卵内の血管及び/又は血液の形成の程度を推定することにより、種卵から孵化する雛の性別を非破壊で選別するものである。
【0054】
具体的に種卵検査システム100は、
図12及び
図13に示すように、セッタートレイ200に載置された複数の種卵を一挙に検査可能に構成されており、図示しない搬送機構により搬送されたセッタートレイ200の下方から種卵に向かって光を照射する光照射部2と、セッタートレイ200の上方に設けられて種卵を透過した光の強度を検出する光検出部3とを備えている。これら光照射部2及び光検出部3は、種卵の内部の胚、血管や血液の状態を示す状態情報をそれぞれ計測する計測部となる。つまり、種卵の内部の胚、血管や血液の状態を示す状態情報は、種卵を透過した光の強度又はそれを用いて求まる値(例えば透過率)である。なお、
図12は、セッタートレイ200の搬送状態を示しており、
図13は、複数の種卵の計測状態を示している。
【0055】
まず、セッタートレイ200について説明すると、このセッタートレイ200は、
図14に示すように、種卵が載置される例えば正6角形の卵座201を同一平面上に複数有するものである。なお、
図14には、計42個の卵座が6行×7列で設けられており、42個の種卵を載置可能に構成されたものを示している。
【0056】
また、各卵座201は、その底面が下方に開口するとともに、種卵を保持する1又は複数の突起部202を有している。そして各卵座201は、
図15に示すように、上下方向において突起部202のほかに光を遮るものが無いように構成されている。なお、孵卵場で用いられるセッタートレイ200には、ここに例示するもの以外に種々の形状のものが存在するが、各卵座201には卵を保持する突起部202のほかに光を遮るものは存在しないなど後述の光計測に必要な要件は、共通に満たされており、本実施形態は、このセッタートレイ200の形状に限定されるものではない。
【0057】
そして、このセッタートレイ200は、図示しない搬送機構により所定のトレイ搬送方向に沿って搬送され(
図12参照)、所定の検出位置において一旦停止されて、光照射部2により光が照射されるとともに、種卵を透過した光が光検出部3により検出される(
図13参照)。
【0058】
光照射部2は、血管や血液に吸収される波長を有する光を照射するものである。血管や血液に吸収される波長は、具体的にはヘモグロビンやミオグロビンに吸収される波長である。具体的には、検出位置にあるセッタートレイ200に載置された複数の種卵に対応して設けられた複数の発光ダイオード(LED)21である。複数のLED21は、578nm付近に発光中心波長を有するLEDであり、本実施形態では、574nmに発光中心波長を有するものである。なお、光照射部2としては、578nm付近に発光中心波長を有するレーザであっても良い。
【0059】
光検出部3は、各LED21に正対するように設けられた複数のフォトダイオード(PD)31である。各PD31は、個々に独立した黒色の遮光性と柔軟性を備えた素材でできた吸盤32内に収められ、各吸盤32とともにヘッド33に固定されている。このヘッド33は、図示しない昇降機構により吸盤32が種卵に密着する計測位置M(
図13、
図15参照)と、当該計測位置Mから上方に離間してセッタートレイ200が搬送される退避位置N(
図12参照)との間を移動する。
【0060】
本実施形態の光照射部2は574nmに発光中心波長をもつLEDであるが、この574nmであっても、上述した検証実験における578nmの相対透過率とほぼ同様の結果が得られる。その結果を
図16及び
図17に示す。なおこの場合において、セッタートレイ200上に合成樹脂製の同一形状の模擬卵を載置して、種卵の計測前にその透過光の強度を計測することにより、574nmの相対透過率を求めることができる。
【0061】
図16は、Day0に対するDay7の相対透過率の比(減少率)を雛の性別に分けて図示したものである。この
図16から、メスの相対透過率の比がオスのものより有意に小さいことがわかる。
【0062】
図17は、横軸に初期卵重をとり、縦軸にDay0に対するDay7の相対透過率の比をとった散布図であり、この
図17ではオスの分布とメスの分布の分離がより顕著である。
【0063】
そして、本実施形態の種卵検査システム100は、
図12及び
図13に示すように、計測部である光照射部2及び光検出部3により得られた複数日の状態情報を個別の種卵毎に関連づけて記録する記録部4と、記録部4に記録された複数日の状態情報の個別の種卵毎に関連づけられた記録に基づいて種卵を選別する種卵選別部5とを備えている。
【0064】
同一セッタートレイ200上の個別の種卵は、卵座201の位置によって特定される。具体的には、セッタートレイ200内の列の番号と行の番号を指定することで卵座201の位置が特定され、その上の種卵が特定される。
複数のセッタートレイ200が使用される場合は、セッタートレイ200を識別するトレイIDをバーコードなどの手段で付与することによりトレイを識別できる。
したがって、記録日などの記録の順序情報、トレイID、卵座の列番号、行番号に対応づけて状態情報を記録することで、複数日の状態情報を個別の種卵毎に関連づけて記録することができる。
また、記録の順序情報、トレイID、卵座の列番号、行番号をもとに記録を検索することで、同一の種卵に対する複数日にわたる状態情報を関連付けて参照できる。
【0065】
なお、この記録部4及び種卵選別部5は、CPU、内部メモリ、入出力インターフェース、AD変換部等の専用乃至汎用のコンピュータにより構成されている。そして、内部メモリに格納された種卵検査プログラムにしたがってCPUやその他の周辺機器が協働することによって、記録部4及び種卵選別部5としての機能が発揮される。また、記録部4及び種卵選別部5は、物理的に一体のコンピュータにより構成されたものであっても良いし、それぞれ物理的に別体をなすコンピュータにより構成されたものであっても良い。
【0066】
以下、各部4、5について説明する。
記録部4は、光検出部3のPD31により得られた電圧値、又は、PD31により得られた電圧値と事前に求めておいた合成樹脂ブロックなどの模擬卵における電圧値との比である相対透過率の値を個別の種卵毎に関連づけて記録するものである。なお、模擬卵における電圧値は、種卵と同様に、セッタートレイ200上に模擬卵を載置して取得する。
【0067】
また、記録部4は、セッタートレイ200の識別子(例えばセッタートレイ200に設けられたバーコード情報など。図示していない。)とともに当該セッタートレイ200に載置された種卵の位置情報(卵座位置)及びその種卵を透過した光の強度信号(電圧値)を記録する。
【0068】
本実施形態の記録部4には、複数日における状態情報として、以下の(1)及び(2)が記録される。なお、記録部4には、入卵前に測られた初期卵重も種卵の状態情報として併せて記録される。
(1)孵卵開始から第1設定日(本実施形態では7日目、以下、同じ)におけるPD31で検出した電圧値、又はそれにより得られた相対透過率
(2)第1設定日以前の第2設定日(本実施形態では孵卵器に入卵する直前(孵卵開始前)である0日目)におけるPD31で検出した電圧値、又はそれにより得られた相対透過率
【0069】
前記第1設定日及び第2設定日における電圧値の取得は、同じセッタートレイ200を検出位置に搬送して、複数のLED21により当該セッタートレイ200上の複数の種卵に光を照射して、それぞれの種卵を透過した光を複数のPD31で検出することにより行われる。
【0070】
前記第1設定日は、孵卵7日目に限られず、その前後(例えば孵卵5日目〜8日目のいずれか)であってもよい。性別判別に最適な第1設定日は、鶏種や入卵前の予備加温の条件で変化し、別途、本発明の検証実験と同様の方法で決定される。
また、前記第2設定日は、孵卵0日目に限られないが好ましくは、孵卵0日目よりも前あるいは直後であればよい。性別判別に最適な第2設定日は、鶏種や入卵前の予備加温の条件で変化し、別途、本発明の検証実験と同様の方法で決定される。
【0071】
種卵選別部5は、記録部4に記録された複数日の状態情報(PD31の電圧値又は相対透過率)の個別の種卵毎に関連づけられた記録に基づいて、種卵内の血管及び/又は血液の形成の程度を推定する形成程度推定部51と、形成程度の推定値から種卵から孵化する雛の性別を判別する性別判別部52とを有する。
【0072】
形成程度推定部51は、第1設定日の状態情報である電圧値と第2設定日の状態情報である電圧値との比を形成程度の推定値とする。なお、両者の比を取ることにより、測定機器の機差及びトレイの種類などの影響に加えて、種卵のサイズや色などの種卵の属性の影響を低減することができ、また、模擬卵を用いた測定の手間を省くことができる。
【0073】
性別判別部52は、形成程度推定部51により得られた推定値を取得して、当該推定値に基づいて、種卵から孵化する雛の性別を判別するものである。また、本実施形態の性別判別部52は、推定値に基づいて、未受精卵も判別できるように構成されている。言い換えれば、この種卵検査システム100は、第1設定日の種卵を透過した光の強度に基づいて、未受精卵か否かを判別する未受精判別部を備えている。
【0074】
ここで、性別判別部52は、閾値の設定により、M判定グループ及びF判定グループに選別する2分法、又は、M判定グループ、G判定グループ及びF判定グループに選別する3分法の何れかとして構成される。
【0075】
M判定グループは、オスの雛が孵化する確率が高い種卵が含まれるグループである。
F判定グループは、メスの雛が孵化する確率が高い種卵が含まれるグループである。
3分法にした場合、G判定グループは、M判定グループ、F判定グループの何れにも属さない種卵が含まれるグループである。なお、G判定グループは、M判定グループとF判定グループとの中間のグループであり、雌雄いずれの雛が孵化する確率が高いとは言えないグループである。
【0076】
つまり、性別判別部52が、M判定グループ及びF判定グループに選別する2分法の場合には、M判定グループとF判定グループとに選別するためのM/F閾値が設定される。なお、このM/F閾値は、予め性別判別部に入力されている。
【0077】
一方、性別判別部52が、M判定グループ、G判定グループ及びF判定グループに選別する3分法の場合には、
図18に示すように、M判定グループとG判定グループとに選別するためのM/G閾値、及び、G判定グループとF判定グループとに選別するためのG/F閾値が設定される。なおこれらのM/G閾値及びG/F閾値は、予め性別判別部52に入力されている。
また、性別判別部52は、上記の2分法及び3分法のいずれにおいても、未受精卵を選別するための未受精卵閾値が設定されている。この未受精卵閾値は、M/F閾値及びM/G閾値よりも大きい値としてある。
【0078】
以上により種卵選別部5において形成程度推定部51により得られた推定値を用いて性別判別部52により雌雄判別を行うことができる。
【0079】
<第1実施形態の効果>
このように構成した本実施形態の種卵検査システム100によれば、異なる複数日(Day0及びDay7。ただし、これに限られない。)における状態情報から、胚の成長速度などの時間的変化を把握することができる。この時間的変化は、種卵内の血管及び/又は血液の形成の程度を表しており、オスの胚とメスの胚とで異なることから、種卵から孵化する雛の性別を判別することができ、種卵を選別することができる。
【0080】
すなわち、早い段階で、おおよその雛の歩留まりを予測できる。具体的には、そのロット中からオスの多く含まれるグループを選別して、ワクチン卵へと転用したり、販売可能な雛の予測数量が受注数より多い場合は転売先を探したり、少ない場合は同業他社から雛を調達して不足分を補うなどの行動をとることができる。
【0081】
なお、本実施形態では、推定値に基づいて、未受精卵も判別できるように構成されているので、早い段階で、未受精卵や中止卵を除くことにより、移卵作業時点での腐敗卵の発生の可能性を減らせたり、早い段階で、雛の歩留まり予測や未受精卵率を把握して、雛の過不足が生じないような最適な種卵の調達数量の決定や、種鶏農場の親鶏群の管理に役立てたりすることができる。
【0082】
また、複数日の状態情報を記録部4に記録させているので、異なる日に計測された状態情報の管理を容易にすることができる。さらに、複数日の状態情報を記録部4に記録させているので、孵化率に影響を与えない時期まで待った後に、種卵の選別及び移し変える作業を行うことができる。
【0083】
<第2実施形態>
次に、本発明に係る種卵検査システムの第2実施形態について、図面を参照して説明する。
【0084】
本実施形態の種卵検査システム100は、記録部4の構成及び記録部4にデータを書き込む構成が前記実施形態とは異なる。
具体的に本実施形態の記録部4は、
図19に示すように、セッタートレイ200に設けられたRFID等の非接触ICタグである。
【0085】
図19に示す例では、種卵検査システム100は、光検出部3により得られた光の強度(電圧値)を非接触ICタグ4に書き込む光強度書込部6と、非接触ICタグ4に記録された光強度を読み取る光強度読取部7と、性別判別部52により得られた判別結果を非接触ICタグ4に書き込む判別結果書込部8とを備えている。なお、光強度書込部6、光強度読取部7及び判別結果書込部8は、非接触ICタグ4に対してデータの書き込み及び読み取りを行うリーダライタにより構成されている。この場合の種卵の非破壊検査の手順は以下である。
【0086】
入卵前のDay0においてセッタートレイ200を検出位置に搬送して、複数のLED21により当該セッタートレイ200上の複数の種卵に光を照射して、それぞれの種卵を透過した光を複数のPD31で検出する。種卵検査システム100は、そのPD31の電圧値を取得する。このDay0の電圧値は、種卵検査システム100の光強度書込部6により、そのセッタートレイ200に設けられた非接触ICタグ4に、種卵の位置情報(卵座位置)とともに書き込まれる。なお、この非接触ICタグ4には、初期卵重も併せて記録される。
【0087】
孵卵開始から7日目(Day7)においてセッタートレイ200を再び検出位置に搬送して、複数のLED21により当該セッタートレイ200上の複数の種卵に光を照射して、それぞれの種卵を透過した光を複数のPD31で検出する。種卵検査システム100は、そのPD31の電圧値を取得する。このDay7の電圧値は、種卵検査システム100の光強度書込部6により、そのセッタートレイ200に設けられた非接触ICタグ4に、種卵の位置情報(卵座位置)とともに書き込まれる。
【0088】
種卵検査システム100の光強度読取部7は、非接触ICタグ4からDay0の電圧値及びDay7の電圧値を取得する。そして、形成程度推定部51は、Day0の電圧値及びDay7の電圧値を用いて推定値を算出し、性別判別部52は、その推定値と所定の閾値とを比較して、各種卵毎に孵化する雛の性別を判別する。この判別結果は、種卵検査システム100の判別結果書込部8により、そのセッタートレイ200の非接触ICタグ4に、種卵の位置情報(卵座位置)とともに書き込まれる。
【0089】
その後、孵卵開始から例えば9日目(第1設定日以降の第3設定日の一例、9日目には限られない。)に、セッタートレイ200は、仕分け装置400に搬送される。この仕分け装置400に設けられた判別結果読取部(具体的にはリーダライタ)401により、非接触ICタグ4に記録された判別結果が読み取られて、仕分け装置400により複数の種卵は、少なくともM判定グループ及びF判定グループに仕分けされる。なお、
図19では、G判定グループ及び未受精卵(廃棄)にも仕分ける場合を示している。
【0090】
<第2実施形態の効果>
本実施形態の種卵検査システム100は、セッタートレイ200に設けられた非接触ICタグ4に、光検出部3により得られた光の強度及び性別判別部52により得られた判別結果を書き込むように構成されているので、セッタートレイ200毎の種卵のデータ管理が容易となる。また、セッタートレイ200に設けられた非接触ICタグ4に性別判別部52により得られた判別結果を書き込み、後日、その判別結果を用いて種卵の仕分けを行うことができるので、雌雄判別の時期が孵卵初期の場合であっても、種卵の移し変える作業は孵化率に影響を与えない時期まで待つことができる。
【0091】
なお、本発明は前記第1、第2実施形態に限られるものではない。
<種卵仕分けシステムの変形例(
図20)>
図20に種卵検査システム100を組み込んだ種卵仕分けシステムを示す。このシステムでは、光照射部2及び光検出部3と、種卵選別部5とが物理的に分離されて構成されている。この例では、種卵仕分けシステムは、光検出部3により得られた光の強度を非接触ICタグ4に書き込む光強度書込部6を備えている。また、非破壊検査装置100とは別の装置(例えば仕分け装置400)は、非接触ICタグ4に記録された光強度を読み取る光強度読取部7と、形成程度推定部51及び性別判別部52とを備えている。なお、光強度書込部6及び光強度読取部7は、同一又は別々にリーダライタにより構成されている。この場合の種卵の非破壊検査の手順は以下である。
【0092】
入卵前のDay0においてセッタートレイ200を検出位置に搬送して、複数のLED21により当該セッタートレイ200上の複数の種卵に光を照射して、それぞれの種卵を透過した光を複数のPD31で検出する。種卵検査システム100は、そのPD31の電圧値を取得する。このDay0の電圧値は、種卵検査システム100の光強度書込部6により、そのセッタートレイ200の非接触ICタグ4に、種卵の位置情報(卵座位置)とともに書き込まれる。なお、この非接触ICタグ4には、初期卵重も併せて記録される。
【0093】
孵卵開始から7日目(Day7)においてセッタートレイ200を再び検出位置に搬送して、複数のLED21により当該セッタートレイ200上の複数の種卵に光を照射して、それぞれの種卵を透過した光を複数のPD31で検出する。種卵検査システム100は、そのPD31の電圧値を取得する。このDay7の電圧値は、種卵検査システム100の光強度書込部6により、そのセッタートレイ200の非接触ICタグ4に、種卵の位置情報(卵座位置)とともに書き込まれる。
【0094】
その後、孵卵開始から例えば9日目に、セッタートレイ200は、仕分け装置400に搬送される。この仕分け装置400に設けられた光強度読取部7により、非接触ICタグ4に記録されたDay0及びDay7の電圧値が読み取られる。そして、仕分け装置400の形成程度推定部4は、Day0の電圧値及びDay7の電圧値を用いて推定値を算出し、性別判別部5は、その推定値と所定の閾値とを比較して、各種卵毎に孵化する雛の性別を判別する。この判定結果により、仕分け装置400は、複数の種卵を、少なくともM判定グループ及びF判定グループに仕分ける。なお、
図20では、G判定グループ及び未受精卵(廃棄)にも仕分ける場合を示している。
この変形例や前述した第2実施形態のように、記録部としてRFID等の非接触ICタグを用いる場合には、非接触ICタグに全ての情報を記録させるものに限らず、例えば、非接触ICタグにトレイIDや識別コードなど一部の情報のみを記憶させる一方、この非接触ICタグと別の場所に第2の記録部を設けて前記一部の情報に関連した個別情報を記録するようにしてもよい。
【0095】
<サイズ情報をさらに利用して雛の性別を予測する変形例>
種卵の透過率は種卵の卵重や長径、短径などのサイズにも依存する。このサイズの影響を考慮して、形成程度推定部51は、変数X1(=初期卵重)と、変数X2(=Day0に対するDay7の相対透過率の比)との2つの変数を説明変数とし、性別(オス=1、メス=0)の予測値Yを求めるロジスティック回帰分析を行うものであり、性別判別部52は、この予測値Yを用いて、種卵から孵化する雛の性別を判別するものであってもよい。この場合、性別判別部52は、例えばY≧0.5をオス、Y<0.5をメスとした2分法による判別を行ってもよいし、例えばY≧0.6をオス、Y<0.4をメスとした3分法による判別を行ってもよい。
【0096】
このように、形成程度推定部51は、前記第1設定日以前の第2設定日又は孵卵開始前の前記種卵のサイズ情報をさらに用いるものであってもよく、上述した変数X1は、初期卵重以外に卵の長径や短径、又は卵の体積などが考えられ、そのサイズ情報の計測時期も種々変更可能である。
【0097】
この変形例では、入卵前に測定するのが適切な種卵のサイズ情報と、Day0とDay7に測定するのが適切な他の情報とを組み合わせて用いている。これは、入卵前または入卵後の最適な日にちに測定された複数の証拠の利用により、性別やその他の判定精度の向上を図ることができ、複数日の状態情報の個別の種卵毎に関連づけられた記録に基づいて種卵を選別するという種卵検査システムを有効に活用した例と言える。同様に、
図6で示したような初期卵重とDay7(単一の測定日)における578nmの相対透過率との関係のようなものでも、この種卵検査システムの利点を活かすことができるのはもちろんである。
【0098】
なお、変数X2についても、Day0に対するDay7の相対透過率の比に限られず、Day0とDay7の相対透過率の差であってもよい。Day0やDay7は、第1設定日や第2設定日の一例であることは言うまでもない。さらに、予測値Yを求める際には、変数X1と変数X2との関係性を求めることができるものであればロジスティック回帰分析に限られず種々変更可能である。
【0099】
<複数の波長の光を利用する変形例>
前記実施形態の光照射部2は、血管や血液に吸収される波長を有する光(574nm)を射出するLEDを用いたものであったが、このLEDに加えて、孵卵後期の胚の心拍測定に適した波長を有する光(例えば870nm)を射出するLEDを備えるものであってもよい。この場合、孵卵初期においては574nmのLEDを用いて種卵の雌雄判別及び未受精卵の判別を行うとともに、孵卵後期においては870nmのLEDを用いて非生存卵(発育中止卵および未受精卵)の判別を行うことができる。このような構成であれば、
図21に示す雛の生産工程において、入卵作業時に574nmのPDの電圧値を測定し、中間検卵作業時に574nmのPDの電圧値を測定して、未受精卵を選別して取り除くことができる。また、その後の性別仕分け作業によりオスの種卵を取り除いてワクチン卵に回すことができる。メスの種卵はそのまま孵卵が継続されて、移卵時検卵作業時に870nmのPDの電圧値を測定して非生存卵を選別して取り除くことができ、移卵作業によりメスの生存卵をハッチャーに移卵して孵化させることができる。
【0100】
前記実施形態の形成程度推定部51は、前記第1設定日と第2設定日又は孵卵開始前の光の強度に基づいて、前記種卵内の血管及び/又は血液の形成の程度を推定する際に、各設定日の光の強度の比を用いていたが、各設定日間の光の強度の差を用いるようにするなど種々変更可能である。
【0101】
<胚の成長状態から雛の雌雄を予測する変形例>
前記実施形態の種卵選別部は、血管や血液の状態情報から予想される種卵から孵化する雛の性別に基づいて種卵を選別するものであったが、複数日の状態情報により求まる種卵の内部の胚の成長状態(例えば成長速度のレベル)に基づいて、種卵を選別するものであっても良い。
このとき、記録部4には、複数日における状態情報として、以下の(1)及び(2)が記録される。
(1)孵卵開始から第1設定日(例えば14日目)におけるPD31で検出した電圧値、又はそれにより得られた相対透過率
(2)第1設定日以後の第2設定日(例えば18日目)におけるPD31で検出した電圧値、又はそれにより得られた相対透過率
【0102】
前記実施形態では、孵卵開始から7日目(Day7)の相対透過率を用いて雌雄判別をするものであったが、
図12に示す検査装置において、セッタートレイ上の種卵を測定する際に個々の卵に対して得られるLED電流(測定時にLEDに流す電流値)と、PD受光電圧(PD受光電圧の時系列データの平均値)とを用いて、次式で計算される不透明度を用いて雌雄判別しても良い。なお、この場合のLEDは、血液中のヘモグロビンや水分の吸収を受けにくい近赤外光を照射するものであり、具体的には、870nmに発光中心波長を有するものである。
【0103】
不透明度=LED電流/PD受光電圧
=LED電流/(卵の透過率×LED電流×LED発光効率×PD感度)
=K×(1/卵の透過率)
ただし、K=1/(LED発光効率×PD感度)
【0104】
なお、同一卵座での異なる測定日の不透明度の比を求めることにより、係数Kを消去することができる。
【0105】
DayMに対するDayNの不透明度の比
=DayNの不透明度/DayMの不透明度
=DayMの卵の透過率/DayNの卵の透過率
【0106】
この式を用いることにより、測定に用いた卵座に依存しないので、卵固有の属性である透過率の比として、卵間で大小を論じることができる。
【0107】
以下の実施例においては、Day3から不透明度の測定を開始したので、Day3に対するDayNの不透明度の比を用いる。
【0108】
この実施例では、上述した検証実験と同様に、採卵鶏(ジュリア・ライト)の種卵を90個入手して、入手時に全ての種卵の卵重(以下、初期卵重という。)を測定した。
【0109】
Day3からDay18まで24時間毎に、発光中心波長870nmのLEDの光を種卵に照射して、当該種卵からの透過光をPDにより受光した。なお、この検査装置は、卵毎にPDの受光電圧が所定の範囲になるように、LEDに流す電流値を変化させた。
【0110】
図22は、雛が孵化した76個の種卵において、横軸に初期卵重をとり、縦軸にDay3に対するDay8の不透明度の比を取った散布図であり、
図23は、雛が孵化した76個の種卵において、Day3に対するDay8の不透明度の比を雛の性別に分けて図示したものである。この
図22及び
図23から、メスのDay3に対するDay8の不透明度の比がオスのものより有意に大きいことがわかる(t検定 p値<0.037)。
【0111】
この
図23において例えばDay3に対するDay8の不透明度の比が、2.25より小さい種卵を抽出すれば、37個が抽出される。これは全体76個中の49%である。37個中23個がオスであり、オスの比率は、62%である。このように、Day3に対するDay8の不透明度の比によっても性別判別することができる。
【0112】
図24は、横軸にDay3に対するDay8の不透明度の比をとり、縦軸にDay0に対するDay7の574nmの相対透過率の比をとった散布図である。
図24の散布図の横軸の変数X1(=Day3に対するDay8の不透明度の比)と、縦軸の変数X2(=Day0に対するDay7の相対透過率の比)との2つの変数を説明変数とし、性別(オス=1、メス=0)を目的変数として、ロジスティック回帰分析で判別式を求めた。
【0113】
ロジスティック回帰分析におけるオスメス判別値Yの分布を
図25に示す。なお、ロジスティック回帰分析におけるオスメス判別値Yは、Yの値が1に近いほどオスである確率が高く、逆に0に近いほどメスである確率が高い。
【0114】
Y≧0.55をオスと判定し、Y<0.55をメスとした場合、種卵は2つのグループ、M判定グループとF判定グループに2分される(2分法)。
【0115】
この2分法による判別結果を以下の表3に示す。
【0117】
Y≧0.62をオスと判定し、Y<0.42をメスと判定し、それ以外を不明と判定した場合、種卵は、3つのグループ、M判定グループ、G判定グループ、F判定グループに3分される(3分法)。
【0118】
この3分法による判別結果を以下の表4に示す。
【0120】
以上より、Day0に対するDay7の相対透過率の比の性差、及び、これらとDay3に対するDay8の不透明度の比の性差との組み合わせにより、種卵から孵化する雛の性別を予測し、3分法で33%の卵をM判定グループとして抽出して、そこから約80%の卵からオスが孵化することが分かった。上述したDay3に対するDay8の不透明度の比の性差のみの場合と比較して、抽出率もオス率も向上している。
【0121】
なお、ここでは、胚の成長度合いを推定するために不透明度を用いていたが、「胚の状態情報」は他に、代謝の強さ(一例として心拍の強さ)などであってもよい。
【0122】
<胚の成長状態から後期中止胚を予測し選別する変形例>
前記実施形態の種卵選別部は、種卵から孵化する雛の性別に基づいて種卵を選別するものであったが、複数日の状態情報により求まる種卵の内部の胚の成長状態(例えば成長速度のレベル)に基づいて、雄雌以外の観点から種卵を選別するものであっても良い。
以下、異なる日の不透明度の比の雌雄判別以外の応用例について説明する。
孵卵開始18日目(Day18)の移卵時の生死判別の検査において、心臓の動きや胚の活動が観測されて生存卵と判断されても、その全ての生存卵が孵化するとは限らない。
【0123】
通常、移卵後に呼吸が肺呼吸に変わると、卵内の雛は内側から卵殻を破り小さな穴を開ける。この穴を啄痕(たくこん)という。多くの場合、啄痕が出ると数時間以内に雛が孵化するが、中には孵化しない場合がある。
これらの移卵時に生存していたにも関わらず孵化しなかった卵を「死籠り卵」という。死籠りになるか否かは、Day18のデータのみでは判別しづらい。
【0124】
一方、Day14に対するDay18の不透明度の比を見ることにより、孵卵後期の胚の急成長期の成長速度の違いを見ることができる。そして、本願発明者は、Day14に対するDay18の不透明度の比が小さい場合に「死籠り卵」になる可能性が高いことを見出した。
【0125】
図26に、Day3に対するDayN(N=3〜18)の不透明度の比の変化を示す成長曲線を示す。この
図26から分かるように、Day14に対するDay18の不透明度の比が小さい場合は、「死籠り卵」になる可能性が高い。また、Day14に対するDay18の不透明度の比が小さい場合は、「後期中止卵」の可能性が高い。なお、後期中止卵は、バイタルサインの存在でも識別可能であるが、不透明度の比を用いることで、判別精度の改善を図ることができる。
【0126】
前記第1設定日及び第2設定日における電圧値の取得は、前記実施形態と同様に、同じセッタートレイ200を検出位置に搬送して、複数のLED21により当該セッタートレイ200上の複数の種卵に光を照射して、それぞれの種卵を透過した光を複数のPD31で検出することにより行われる。
【0127】
前記第1設定日は、孵卵14日目に限られず、その前後(例えば孵卵12日目〜15日目のいずれか)であってもよい。また、第2設定日は、孵卵18日目に限られず、その前後(例えば孵卵16日目〜19日目のいずれか)であってもよい。胚の成長速度の判別に最適な第1設定日及び第2設定日は、鶏種や入卵前の予備加温の条件で変化し、別途、本発明の検証実験と同様の方法で決定される。
【0128】
このように種卵選別部が成長速度のレベルに応じて種卵を選別することにより、種卵の孵化時間を予測して孵化時間ごとに種卵を仕分けたり、雛の増体性等の属性を予測して属性ごとに種卵を仕分けたりできる。また、種卵を属性ごとに仕分けることにより、種卵ごとに最適な孵卵条件を設定することもできる。
【0129】
<その他の変形例>
例えば、光照射部2として、ハロゲンランプなどの広帯域の波長の光源を用いてもよい。この場合、光検出部3としては、多波長の分光スペクトルを求める分光器を用いた構成とする。この構成の場合、光の強度とは、分光強度スペクトルを意味する。
【0130】
このとき記録部4には、複数日における状態情報として、以下の(1)及び(2)が記録される。
(1)孵卵開始から第1設定日(本実施形態では7日目、上述した実施形態に準ずる。)での分光強度スペクトルの578nmの値、又は、その近傍の値の平均値、或いは、孵卵開始から第1設定日での種卵に対する分光強度スペクトルと事前に求めておいた合成樹脂ブロックなどの模擬卵の分光強度スペクトルとの各波長の比である透過率スペクトルにおける578nmの値、又は、その近傍の値の平均値
(2)第1設定日以前の第2設定日(本実施形態では孵卵器に入卵する直前(孵卵開始前)である0日目、上述した実施形態に準ずる。)での分光強度スペクトルの578nmの値、又は、その近傍の値の平均値、或いは、孵卵開始から第1設定日での種卵に対する分光強度スペクトルと事前に求めておいた合成樹脂ブロックなどの模擬卵の分光強度スペクトルとの各波長の比である透過率スペクトルにおける578nmの値、又は、その近傍の値の平均値
【0131】
前記第1設定日及び第2設定日における分光強度スペクトルの取得は、同じセッタートレイ200を検出位置に搬送して、光照射部2により当該セッタートレイ200上の複数の種卵に光を照射して、それぞれの種卵を透過した光を光検出部3で検出することにより行われる。
【0132】
また、種卵検査システム100は、形成程度推定部51により得られた形成程度を非接触ICタグ4に書き込む形成程度推定値書込部を有しており、当該形成程度推定値書込部により非接触ICタグ4に推定値を書き込むように構成してもよい。この場合、非接触ICタグ4に書き込まれた推定値は、形成程度推定値読取部が設けられた種卵検査システム100又は仕分け装置などにより読み取られて、性別判別部52による性別判別に利用される。さらに、種卵検査システム100は、判別結果書込部及び判別結果読取部をさらに備えてもよい。
【0133】
前記各実施形態では、2つの設定日又は3つの設定日それぞれで取得した状態情報から種卵を選別するものであったが、4つ以上の設定日それぞれで取得した状態情報から種卵を選別するものであっても良い。このように4つ以上の状態情報を比較することによって、雛の性別、孵化時間、雛の増体性などの属性、胚の発育の中止、中止時期などを精度よく予測することができる。
【0134】
上述した実施形態では、セッタートレイ上に静止した状態の種卵に光を照射して検査を行うようにしていたが、これに限られず、搬送途中の種卵に光を照射して次々と検査するようにしてもよいのはもちろんである。
【0135】
また、状態情報を得るための計測部は、透過光を用いて計測するものには限られない。さらに、複数日の状態情報を得るために、複数種類の計測部を用いてもよいのはもちろんである。
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。