(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
[1.構成]
以下、本実施形態の固体電解コンデンサについて、
図1および2を参照して詳細に説明する。
図1に示す通り、固体電解コンデンサは、陽極箔1と陰極箔2と、をセパレータ3を介して巻回したコンデンサ素子10を有する。固体電解コンデンサは、コンデンサ素子10を電解液とともに、図示しない有底筒状の外装ケースに収納し、封止することにより作製される。
【0013】
陽極箔1は、
図2に示す通り、表面に誘電体皮膜1aを有する弁金属箔からなる。弁金属箔としてはアルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン等を用いることができる。弁金属箔の表面は、塩化物水溶液中で電気化学的なエッチング処理を行い粗面化することで、表面積が拡大されていても良い。また、誘電体皮膜1aは、例えば酸化アンモニウムやホウ酸アンモニウム等を用いて化成処理を行うことで形成することができる。陰極箔2は、陽極箔1と同様の弁金属箔からなる。陰極箔2も、エッチング処理により表面が粗面化されていても良い。また、陰極箔2に、必要に応じて化成処理により薄い誘電体皮膜(1〜10V程度)を形成しても良く、さらに金属窒化物、金属炭化物、金属炭窒化物からなる層を蒸着法により形成したもの、あるいは表面に炭素を含有したものを用いても良い。以下、陽極箔1と陰極箔2をまとめて電極箔と表現する場合がある。電極箔の寸法は、製造する固体電解コンデンサの仕様に応じて任意に設定することができる。
【0014】
陽極箔1と陰極箔2には、
図1に示す通り、それぞれの電極を外部に接続するためのリード線4,5が、例えばステッチや超音波溶接等により接続されている。リード線4,5は、アルミニウム等を用いて形成されている。リード線4,5は、陽極箔1と陰極箔2において外部との電気的な接続を行う電極引き出し手段であり、巻回したコンデンサ素子の端面から導出される。
【0015】
セパレータ3としては、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン等のセルロース系セパレータおよびこれらの混抄紙を好適に用いることができる。他には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂等があげられ、これらの樹脂を単独で又は混合して用いることができる。セパレータ3は、陽極箔1および陰極箔2の寸法に応じて、これよりやや大きい幅寸法のものを用いればよい。
【0016】
以上のようにして形成したコンデンサ素子10は、修復化成が行われていても良い。コンデンサ素子の巻回において電極箔に機械的ストレスがかかり、誘電体皮膜に亀裂等の損傷が生じることがある。修復化成において、コンデンサ素子10を化成液中に浸漬して化成することによって、亀裂が発生した部分に誘電体皮膜が形成され、損傷を修復することができる。化成液としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等のリン酸系の化成液、ホウ酸アンモニウム等のホウ酸系の化成液、アジピン酸アンモニウム等のアジピン酸系の化成液を用いることができる。
【0017】
図2に示す通り、コンデンサ素子10には、ポリスチレンスルホン酸6が付着されている。具体的には、ポリスチレンスルホン酸6は、セパレータ3内には点在するように付着している。また、電極箔には、誘電体皮膜1a上に、薄い層を形成するように付着していると考えられる。ポリスチレンスルホン酸6は、ポリスチレンスルホン酸(以下PSSと言う場合もある)溶液に浸漬したコンデンサ素子10を乾燥することにより、セパレータ3や電極箔に付着させることができる。PSS溶液の濃度は、0.1〜0.3wt%とすることが好ましい。0.1wt%未満であると、低ESR化の効果を得ることができず、0.3wt%超では内部抵抗が増加する恐れがある。また、ポリスチレンスルホン酸溶液の溶媒は、ポリスチレンスルホン酸を溶解する溶媒であれば特に限定されず、例えば水やアルコール類等が挙げられる。
【0018】
また、コンデンサ素子10には、固体電解質層7が形成されている。具体的には、固体電解質層7は、セパレータ3と電極箔に形成されている。固体電解質層7は、上記のようにポリスチレンスルホン酸6が付着したコンデンサ素子10を、導電性高分子分散体に浸漬後、乾燥させることにより形成することができる。導電性高分子分散体は、導電性高分子の粒子が溶媒に分散した溶液である。導電性高分子としては、例えばポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(以下、PEDOTと言う)を用いても良い。溶媒は、例えばエチレングリコールを含む水溶液とすることができる。また、溶媒に、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸の固形分が含まれていると、セパレータ中に点在するPSSや電極箔に形成されたPSS層と導電性高分子分散体との親和性が高くなると考えられるため好ましい。この場合、形成された固体電解質層は、ポリスチレンスルホン酸を含む。さらに、導電性高分子分散体への浸漬・乾燥工程を複数回繰り返し行ってもよい。
【0019】
また、導電性高分子の濃度は、水溶液に対して1〜10wt%とすることができる。なお、導電性高分子分散体の溶媒は、導電性高分子化合物が溶解するものであれば水以外でも良い。導電性高分子の粒子には、導電性高分子の一次粒子や、導電性高分子化合物及びドーパントが凝集した凝集物(二次粒子)やそれらの粉末も含まれる。
【0020】
具体的には、導電性高分子としては、チオフェンまたはその誘導体の粒子と高分子スルホン酸からなるドーパントの固形分を混合したものを用いることが好ましい。導電性高分子分散体は、重合性モノマーであるチオフェンまたはその誘導体をドーパントとなる高分子スルホン酸の存在下で水中または水性液中で酸化重合することによって得られる。導電性高分子であるチオフェンまたはその誘導体におけるチオフェンの誘導体としては、例えば、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3−アルキルチオフェン、3−アルコキシチオフェン、3−アルキル−4−アルコキシチオフェン、3,4−アルキルチオフェン、3,4−アルコキシチオフェンなどが挙げられる。そのアルキル基やアルコキシ基の炭素数は1〜16が適しているが、特に3,4−エチレンジオキシチオフェンが好ましい。また、チオフェンに限らず、ピロールやその誘導体を用いても良い。これらの重合性モノマーから得られた導電性高分子として特に好ましいものは、ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリピロールが挙げられる。
【0021】
ポリスチレンスルホン酸6と固体電解質層7が形成されたコンデンサ素子10は、電解液に浸漬され、コンデンサ素子10内の空隙部に電解液が充填される。電解液をコンデンサ素子10に充填する場合、その充填量は、コンデンサ素子10内の空隙部に電解液を充填できれば任意であるが、コンデンサ素子10内の空隙部の3〜100%が好ましい。電解液に使用できる溶媒としては、γ−ブチロラクトン、エチレングリコール、スルホラン、ジメチルホルムアミド、水及びそれらの混合溶媒等が挙げられる。特に、エチレングリコールやγ−ブチロラクトンを用いると、初期のESR特性が良好となる。
【0022】
なお、さらなる導電性高分子分散体の含浸性の向上や、電導度の向上のため、導電性高分子分散体に各種添加剤(例えばシランカップリング剤やポリビニルアルコールなど)を添加したり、カチオン添加による中和を行っても良い。
【0023】
電解液としては、上記の溶媒と、有機酸、無機酸ならびに有機酸と無機酸との複合化合物の少なくとも1種のアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩等の溶質とからなる溶液を挙げることができる。上記有機酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、1,6−デカンジカルボン酸、1,7−オクタンジカルボン酸、アゼライン酸等のカルボン酸、フェノール類が挙げられる。また、無機酸としては、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、リン酸エステル、炭酸、ケイ酸等が挙げられる。有機酸と無機酸の複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸等が挙げられる。
【0024】
また、上記有機酸、無機酸、ならびに有機酸と無機酸の複合化合物の少なくとも1種の塩として、アンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩等が挙げられる。四級アンモニウム塩の四級アンモニウムイオンとしてはテトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。四級化アミジニウムとしては、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウムなどが挙げられる。アミン塩のアミンとしては、一級アミン、二級アミン、三級アミンが挙げられる。一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンなど、二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、ジブチルアミンなど、三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチルジメチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等が挙げられる。
【0025】
[2.固体電解コンデンサの製造方法]
上記のような本実施形態の固体電解コンデンサの製造方法は、以下の工程を含む。
(1)コンデンサ素子を形成する工程
(2)コンデンサ素子に、ポリスチレンスルホン酸を付着させる工程
(3)コンデンサ素子に、固体電解質層を形成する工程
(4)コンデンサ素子内の空隙部に、電解液を充填させる工程
(5)固体電解コンデンサを形成する工程
【0026】
以下、各工程について、詳細に説明する。
(1)コンデンサ素子を形成する工程
コンデンサ素子10を形成する工程では、陽極箔1と陰極箔2と、をセパレータ3を介して巻回したコンデンサ素子10を形成する。陽極箔は、例えば、アルミニウムなどの平板状の弁作用金属箔をエッチング処理し、さらに化成処理により誘電体皮膜を形成したエッチング箔により形成する。陰極箔2は、例えば陽極箔1と同様に平板状の金属箔をエッチング処理したエッチング箔により形成する。陽極箔1と陰極箔2には、それぞれリード線4,5が接続される。コンデンサ素子10は、以上のような陽極箔1と陰極箔2とを、セパレータ3を間に挟むようにして巻き取ることで形成されている。なお、形成されたコンデンサ素子10に、修復化成を行っても良い。
【0027】
(2)コンデンサ素子に、ポリスチレンスルホン酸を付着させる工程
コンデンサ素子10を、ポリスチレンスルホン酸溶液に浸漬後、乾燥させ、セパレータ3内にポリスチレンスルホン酸6を付着させる。コンデンサ素子10をPSS溶液に浸漬する時間は、コンデンサ素子10の大きさによって決まるが、PSS溶液に10〜60秒浸漬されることが好ましい。また、PSS溶液のpHは2〜3が好ましい。コンデンサ素子10をPSS溶液に浸漬した後、所定温度でコンデンサ素子10を乾燥する。乾燥温度は100〜170℃、乾燥時間は10〜60分とすることが好ましい。この工程を経ることで、コンデンサ素子10のセパレータ3中にはPSSが点在し、電極箔にはPSSが薄い層を形成するように存在している。
【0028】
(3)コンデンサ素子に、固体電解質層を形成する工程
ポリスチレンスルホン酸6が付着されたコンデンサ素子10を、導電性高分子分散体に浸漬後、乾燥させ、固体電解質層7を形成する。コンデンサ素子10を導電性高分子分散体に浸漬する時間は、コンデンサ素子10の大きさによって決まるが、直径5mm×高さ3mm程度のコンデンサ素子では5秒以上、直径9mm×高さ5mm程度のコンデンサ素子では10秒以上が望ましく、最低でも5秒間は浸漬することが必要である。なお、長時間浸漬しても特性上の弊害はない。また、このように浸漬した後、減圧状態で保持すると好適である。その理由は、揮発性溶媒の残留量が少なくなるためであると考えられる。
【0029】
本実施形態のコンデンサ素子10には、ポリスチレンスルホン酸6が付着されている。浸漬工程において、コンデンサ素子10中のポリスチレンスルホン酸6により、導電性高分子分散体がセパレータ3に均一に浸透する。そして、セパレータ3に浸透した導電性高分子分散体が、電極箔に浸透する。特に、導電性高分子分散体に、ドーパントとしてのポリスチレンスルホン酸が含まれている場合、導電性高分子分散体の浸透量が増加し、より均一に浸透すると考えられる。コンデンサ素子10に付着されているポリスチレンスルホン酸6と、導電性高分子分散体に含まれているポリスチレンスルホン酸との親和性が、導電性高分子分散体の浸透を促進させていると考えられる。
【0030】
コンデンサ素子10に導電性高分子分散体を浸漬した後、所定温度でコンデンサ素子10を乾燥する。乾燥温度は100〜160℃、乾燥時間は0.5〜3時間が好ましい。この乾燥工程を経ることで、導電性高分子を含む固体電解質層7がコンデンサ素子10中、特にエッチング箔のエッチングピット内の誘電体皮膜1aの上に形成される。
【0031】
(4)コンデンサ素子内の空隙部に、電解液を充填させる工程
固体電解質層7が形成されたコンデンサ素子10を電解液に浸漬し、コンデンサ素子10内の空隙部に電解液を充填させる。この浸漬工程において、セパレータ3に点在または電極箔に層を形成しているポリスチレンスルホン酸6は、電解液に溶解すると考えられる。ポリスチレンスルホン酸6が溶解した後に生じるセパレータ3内や電極箔上の空隙には、電解液が浸透する。これにより、さらなる低ESR化を実現することが可能となる。
【0032】
(5)固体電解コンデンサを形成する工程
コンデンサ素子10は、電解液とともに外装ケースに挿入され、開口端部に封口ゴムを装着して、加締め加工によって封止する。その後、エージングを行い、固体電解コンデンサを作製する。また外装ケース以外にも、コンデンサ素子10をエポキシ樹脂などの絶縁性樹脂により外装を被覆し、エージングを行い固体電解コンデンサを作製することもできる。
【0033】
[3.作用効果]
(1)本実施形態の固体電解コンデンサは、陽極箔1と陰極箔2と、がセパレータ3を介して巻回されたコンデンサ素子10を有し、コンデンサ素子10は、コンデンサ素子10に付着されたポリスチレンスルホン酸と、固体電解質層7と、を有し、コンデンサ素子10内の空隙部に、電解液が充填されている。
【0034】
また、本実施形態の固体電解コンデンサの製造方法は、陽極箔1と陰極箔2と、をセパレータ3を介して巻回したコンデンサ素子10を形成する工程と、コンデンサ素子10を、ポリスチレンスルホン酸溶液に浸漬後、乾燥させ、コンデンサ素子10にポリスチレンスルホン酸6を付着させる工程と、ポリスチレンスルホン酸6が付着したコンデンサ素子10を、導電性高分子の粒子が溶媒に分散した導電性高分子分散体に浸漬後、乾燥させ、コンデンサ素子10に固体電解質層7を形成する工程と、固体電解質層7が形成されたコンデンサ素子10を電解液に浸漬し、コンデンサ素子10内の空隙部に電解液を充填させる。
【0035】
以上の通り、コンデンサ素子10は、ポリスチレンスルホン酸6が付着された状態で、導電性高分子分散体に浸漬される。従って、ポリスチレンスルホン酸6が導電性高分子分散体のバインダーとしての役割を果たし、導電性高分子分散体が巻回されたコンデンサ素子10の内部に至るまで浸透する。従来の固体電解コンデンサでは、特にコンデンサ素子の内周側において固体電解質層の形成が不均一となり、被覆率が低下していた。しかし、本実施形態では、内周側のセパレータ3および電極箔についても、ポリスチレンスルホン酸6が付着されているため、導電性高分子分散体はコンデンサ素子10の内周に至るまで浸透することとなる。導電性高分子分散体の浸透が促進されることにより、セパレータや電極箔に対する固体電解質の付着量が増加する。そのため、コンデンサ素子10の外周側から内周側にわたり、より均一な固体電解質層7が形成され、固体電解コンデンサの低ESR化を達成することが可能となる。
【0036】
さらに、固体電解質層7が形成されたコンデンサ素子10を、電解液に浸漬することで、コンデンサ素子10に付着されたポリスチレンスルホン酸6は、電解液に溶解する。ポリスチレンスルホン酸6は、絶縁体であるため、セパレータ3や電極箔に付着したまま存在すると、抵抗が増大する恐れがある。しかし、本実施形態ではポリスチレンスルホン酸6は電解液に溶解し、ポリスチレンスルホン酸6が溶解してできた空隙には、電解液が浸透すると考えられる。従って、絶縁体であるポリスチレンスルホン酸6によるESRの増加が防止される。また、ポリスチレンスルホン酸6を除去する工程が不要となるため、作業工程の負荷が低減する。さらに、コンデンサ素子10にポリスチレンスルホン酸が付着していることにより、ポリスチレンスルホン酸と電解液との間に相溶性が生じ、電解液が浸透しやすくなると考えられる。そのため、電解液含浸量が増加する。
【0037】
(2)固体電解質層には、ポリスチレンスルホン酸が含まれている。また、導電性高分子分散体には、ポリスチレンスルホン酸が含まれている。
導電性高分子分散体にポリスチレンスルホン酸が含まれていると、ポリスチレンスルホン酸6が付着されたコンデンサ素子10との親和性が高まると考えられる。従って、導電性高分子分散体の均一な浸透がより促進され、均一な固体電解質層が形成される。導電性高分子分散体にポリスチレンスルホン酸を含有した場合であっても、コンデンサ素子10を電解液に浸漬することにより、ポリスチレンスルホン酸は電解液に溶解する。従って、セパレータ3や電極箔にポリスチレンスルホン酸が残存する可能性は低く、ESRの増加を防止することが可能となる。
【0038】
(3)ポリスチレンスルホン酸溶液におけるポリスチレンスルホン酸の濃度は、0.1〜0.3wt%である。
PSS溶液の濃度を0.1wt%以上とすることで、低ESR化の効果を充分に得ることができる。また、PSS水溶液の濃度が0.3wt%を超える場合、ポリスチレンスルホン酸がセパレータ3や電極箔に残存するおそれがあり、内部抵抗が増加することが考えられる。そのため、PSS溶液の濃度を0.3wt%以下とすることで、内部抵抗が増加する恐れを回避することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0040】
<実施例1の固体電解コンデンサの作製>
エッチング処理を行ったアルミニウム箔の表面に誘電体皮膜が形成された陽極箔と、エッチング処理のみを行った陰極箔と、に電極引き出し手段であるリード線を接続し、両電極箔をマニラ系セパレータを介して巻回し、素子形状が直径9mm×長さ6.3mmのコンデンサ素子を形成した。そして、このコンデンサ素子をリン酸二水素アンモニウム水溶液に40分間浸漬して、修復化成を行った。
【0041】
その後、濃度0.2wt%のPSS水溶液に60秒間浸漬し、コンデンサ素子を引き上げて60分間、170℃で乾燥した。次に、PEDOTの粒子と、ポリスチレンスルホン酸と、がエチレングリコールを5wt%含む水溶液に分散した導電性高分子の分散体を作製した。コンデンサ素子を導電性高分子分散体に浸漬し、コンデンサ素子を引き上げて150℃で30分間乾燥した。
【0042】
次に、γ−ブチロラクトン49wt%、エチレングリコール30wt%、スルホラン20wt%およびボロジサリチル酸トリメチルアミン1wt%を混合し、電解液とした。コンデンサ素子を作製した電解液に浸漬した後、有底筒状の外装ケースに挿入し、開口端部に封口ゴムを装着して、加締め加工によって封止した。その後、電圧印加によってエージングを行い、固体電解コンデンサを形成した。なお、この固体電解コンデンサの定格電圧は80WV、定格容量は39μFである。
【0043】
<実施例2の固体電解コンデンサの作製>
PSS水溶液の濃度を0.1wt%としたこと以外は、実施例1と同様に作製した。
【0044】
<実施例3の固体電解コンデンサの作製>
PSS水溶液の濃度を0.3wt%としたこと以外は、実施例1と同様に作製した。
【0045】
<実施例4の固体電解コンデンサの作製>
PSS水溶液の濃度を0.5wt%としたこと以外は、実施例1と同様に作製した。
【0046】
<実施例5の固体電解コンデンサの作製>
導電性高分子分散体への浸漬工程および乾燥工程を行った後、浸漬工程および乾燥工程を繰り返し行ったこと以外は実施例1と同様に作製した。
【0047】
<比較例1の固体電解コンデンサの作製>
修復化成後にPSS水溶液に浸漬せず、乾燥しなかったこと以外は、実施例1と同様に作製した。
【0048】
(1)固体電解質層の被覆率
以上のようにして作製した、固体電解コンデンサを分解し、巻回したセパレータを広げて撮影した写真を
図3に示す。
図3の左側がコンデンサ素子の外周側に、右側が内周側に位置していたセパレータである。また、実線から左側は、素子止めテープを巻いていた部分である。
図3において、白色箇所は固体電解質が付着していない部分であり、黒色になるにつれ固体電解質が多く付着していることを示す。なお、素子止めテープが巻かれていた部分については、比較例1および実施例1ともに、導電性高分子分散体が含浸されていない部分があると考えられる。
【0049】
比較例1のセパレータは、色ムラが多く存在することからも明らかな通り、固体電解質層が不均一に形成されている。特に、コンデンサ素子の内周側に至っては、固体電解質の付着量が少なく、固体電解質層の被覆率が小さいことが分かる。一方、実施例1のセパレータは、内周側から外周側に至るまで均一な色を呈していることからも明らかな通り、固体電解質層が均一に形成されている。このような実施例1のセパレータでは、固体電解質層の付着量が多いため、固体電解質層の被覆率が高いことは明らかである。
【0050】
(2)初期特性および固体電解質層の固形分量の測定
実施例1および比較例1の固体電解コンデンサについて、初期ESR特性を測定した。なお、ESR特性は100kHz(20℃)における値を示す。また、実施例1および比較例1の固体電解コンデンサを分解し、素子中に形成されていた固体電解質層の固形分量を測定した。初期ESRと固体電解質の固形分量の測定結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0051】
表1からも明らかな通り、初期のESR特性は比較例1に比べ、実施例1の固体電解コンデンサでは、初期ESRが低下している。比較例1は、PSS水溶液に浸漬していないことから、セパレータに導電性高分子の分散体が浸透しにくい。その結果、セパレータの抵抗成分が低減されず、ESRが増大したと考えられる。また、比較例1において、導電性高分子の分散体が充分に浸透していないことは、固体電解質層の固形分量が少ないことからも判断できる。一方、実施例1の固体電解コンデンサは、固体電解質層の固形分量が比較例1と比較して多いことからも、ポリスチレンスルホン酸により導電性高分子の分散体の浸透が促進されていることが分かる。よって、実施例1では、均一かつ被覆率が高い固体電解質層により、初期ESRの低下を達成していると考えられる。
【0052】
(3)PSS水溶液の濃度による初期特性の変化
PSS水溶液の濃度による初期特性の変化を検討するために、さらに実施例2〜5の固体電解コンデンサについても、初期ESR特性を測定した。なお、ESR特性は100kHz(20℃)における値を示す。初期ESRの測定結果を以下の表2に示す。
【表2】
【0053】
表2からも明らかな通り、PSS水溶液の濃度が0.1wt%以上になると、PSS水溶液による処理を行っていない比較例1より、初期ESRが低下することが分かった。また、導電性高分子分散体への浸漬・乾燥工程を一度のみ行った実施例1〜4のうち、PSS水溶液の濃度が0.2wt%の実施例1は、初期特性が最小となることが分かった。PSS水溶液の濃度が0.5wt%となると初期のESRが増加することが分かった。PSS水溶液の濃度が高いと、コンデンサ素子内部にPSSが残存し、抵抗となることが原因と考えられる。従って、PSS水溶液の濃度は、0.1〜0.3wt%とすることが好ましい。
【0054】
実施例1および実施例5の結果より、導電性高分子分散体への浸漬・乾燥工程を繰り返し行うことにより、初期ESRが低減できることがわかった。これはコンデンサ素子への固体電解質の付着量が増加したためだと考えられる。
【0055】
(4)PSS水溶液の濃度による耐熱性の変化
PSS水溶液の濃度による耐熱性の変化を検討するために、実施例1〜4および比較例1の固体電解コンデンサについて、135℃において80Vを3000時間印加する高温負荷試験を行った。また、135℃において電圧を印加しないで3000時間放置する高温無負荷試験を併せて行った。なお、ESR特性は100kHz(20℃)における値を示す。ESRの測定結果を以下の表3に示す。
【表3】
【0056】
表3からも明らかな通り、負荷試験および無負荷試験の双方において、PSS水溶液の濃度が0.1wt%以上になると、PSS水溶液による処理を行っていない比較例1より、ESRが低下することが分かった。また、PSS水溶液の濃度が0.2wt%の実施例1は、ESRが最小となることが分かった。また、PSS水溶液の濃度が0.5wt%となるとESRが増加することが分かった。上記の測定結果からも、PSS水溶液の濃度は、0.1〜0.3wt%とすることが好ましいことが分かった。
【0057】
さらに、実施例1および実施例5を比較すると、導電性高分子分散体への浸漬・乾燥工程を繰り返し行った実施例5のほうがESRの上昇を抑制できることがわかった。これはコンデンサ素子への固体電解質の付着量が増加したためだと考えられる。
【0058】
(5)電解液の浸透性
ポリスチレンスルホン酸による電解液の浸透性を検討するために、素子形状が直径9mm×長さ8mmのコンデンサ素子を用いた以外は、比較例1および実施例1〜4と同様に比較例2および実施例6〜9の固体電解コンデンサを作製し、電解液含浸量の増加率を測定した。測定方法としては、まず、固体電解質層を形成したコンデンサ素子の重量を測定した後、電解液に浸漬し、外装ケースに挿入して封口ゴムで封止した。作製した固体電解コンデンサの重量を測定し、電解液の含浸量を算出した。なお、本試験においては、各固体電解コンデンサの条件を揃えるために、比較例2においても、コンデンサ素子を濃度0wt%のPSS水溶液、すなわち水に浸漬し、乾燥を行った。各固体電解コンデンサについて、PSS水溶液浸漬後の乾燥温度は105℃であった。
【0059】
コンデンサ素子を濃度0wt%のPSS水溶液に浸漬した比較例2の電解液量を0とした場合の、各固体電解コンデンサの電解液含浸量の増加率を以下に示す。
【表4】
【0060】
表4からも明らかな通り、PSS水溶液の濃度が0.1wt%以上になると、PSS水溶液による処理を行っていない比較例2より、電解液の含浸量が増加することが分かった。特に、PSS水溶液の濃度が0.2wt%以上の実施例7〜9では、電解液含浸量の増加率が高くなる。PSS処理により電解液の浸透性が向上する理由としては、コンデンサ素子にバインダーとなるポリスチレンスルホン酸が付着していることで、ポリスチレンスルホン酸と電解液との間に相溶性が生じ、電解液が浸透しやすくなると考えられる。固体電解コンデンサの電解液含浸量が増加することにより、長寿命の効果が得られると考えられる。