(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記下タンクに設けられる前記戻し配管の一端は、放電時に生成される反応生成物の残留スペースを空けた位置に設けられることを特徴とする請求項2に記載の注液型電池システム。
前記注液型電池に前記液体を注液後、排液させる洗浄サイクルを選択的に実施する洗浄制御部を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の注液型電池システム。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係る注液型電池システムを示した図である。
この注液型電池システム1は、電池ユニット10と、タンク30と、電池ユニット10とタンク30とをつなぐ流路を形成する配管50と、コントローラー70とを備える。この注液型電池システム1は、下タンク32に予め所定量の液体(本実施形態では電解液)を貯留した後、戻し配管53を介し、上タンク31に設けられた水位センサー35の位置まで電解液を貯留し、第1配管51を介して電池ユニット10に供給することにより、電池ユニット10を放電させ、停電時のバックアップ電源として利用可能にするシステムである。なお、電解液は、タンク30の上部に設けられた不図示の注液口を介してタンク30内に注液される。
【0017】
図2は電池ユニット10を模式的に示した図である。
電池ユニット10は、複数(3個)の電槽11(外装体とも称する)を有し、各電槽11に電解液が注液されることによって発電する空気一次電池である。なお、
図2には電池ユニット10の電槽11の一部を示している。 空気電池は電解液が注液されると放電する注液型電池の一つであり、電池ユニット10は、複数の注液型電池を収容するユニット(組電池とも称する)である。各電槽11で構成される空気電池は、直列接続、或いは並列接続され、バックアップ対象の機器に十分な電力を供給可能である。なお、電池ユニット10の電力を電力変換器で所定の電力に変換して出力しても良い。電力変換器は、DC−DCコンバーター、又はDC−ACコンバーターである。
【0018】
電池ユニット10内の全ての電槽11は同じ構造である。各電槽11は、所定の支持部材7Aに支持されることによって同じ高さに配置される。これら電槽11は、側面の一部に開口部11Kを有する中空箱形状に形成され、開口部11Kは空気極13で覆われる。電槽11内には、空気極13と間隔を空けて金属極15が対向配置される。
図2中、符号21は電槽11の底面を構成する底板部であり、符号22は前面を構成する前壁部であり、この前壁部22に開口部11Kが設けられる。符号23は電槽11の後面を構成する後壁部であり、符号24は電槽11の左右側面を構成する側壁部である。また、符号25は電槽11の上面を構成する上板部である。
【0019】
空気極13は、集電体として機能する銅メッシュ(金属メッシュ)に、触媒シートを両面から圧迫(プレス)し狭持した構成であり、通気性と非透液性とを備えている。触媒シートは、カーボンとテフロン(登録商標)を混合した素材を、ローラープレス機などを用い所定厚さのシート状とした後、所定時間、所定温度で乾燥、焼成させ、銅メッシュと略同等の大きさに裁断したシートである。空気極13は正極として機能し、金属極15が負極として機能する。なお、空気極13は上記の構成に限らず、公知の様々な構成を広く適用可能である。
【0020】
金属極15にはマグネシウム合金が適用される。金属極15は、空気極13と平行であり、これら金属極15と空気極13とからなる一対の極板は鉛直方向に配置される。また、金属極15は、電槽11の上板部25に取り付けられ、電槽11の底板部21との間にスペース10Sを空けて配置されている。このスペース10Sは、放電反応によって生成される反応生成物(例えば、水酸化マグネシウム)が留まる残留スペースである。このスペース10Sを設けることによって、反応生成物が金属極15の一部を覆って電池反応を阻害してしまう事態などを回避することができる。また、放電反応によって生じたガス(例えば水素ガス)発生時の電解液の撹拌作用による電解液濃度のばらつきを低減することができる。
金属極15の支持は、電槽11内に配置される支持部材で行う方法、又は電槽11の上板部25を用いて直接支持する方法など、反応生成物が留まる残留スペースを確保できる構造であれば特に限定されるものではない。
【0021】
電解液には、水系の電解液、例えば、塩化ナトリウム水溶液が使用される。また、電槽11の内部に、電解質である塩化ナトリウムを収容した袋体を予め配置し、水道水などの水を入れるだけで発電するように構成しても良い。
なお、金属極15に、亜鉛、鉄、アルミニウムなどの金属、又はその合金を用いることが可能である。金属極15に亜鉛を用いた場合は、電解液に水酸化カリウム水溶液を用いるようにすれば良く、金属極15に鉄を用いた場合は、電解液にアルカリ系水溶液を用いるようにすれば良い。また、金属極15にアルミニウムを用いた場合は、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを含む電解液を用いるようにすれば良い。なお、
図2中、符号ULは、電解液を電槽11内に入れたときの電解液の液面、つまり、注液時の液面である。この液面ULを、空気極13よりも上方にすることにより、空気極13の利用面積を効率良く確保できる。
【0022】
タンク30は、電池ユニット10よりも上方に位置する上タンク31と、電池ユニット10よりも下方に位置する下タンク32とを備える。なお、第1実施形態では、下タンク32を上タンク31よりも反応生成物の残留スペースの分だけ大きくしたタンクを使用した。
電池ユニット10とタンク30とをつなぐ配管50は、上タンク31と電池ユニット10とをつなぐ第1配管51と、電池ユニット10と下タンク32とをつなぐ第2配管52とを備える。また、この注液型電池システム1は、下タンク32と上タンク31とをつなぐ戻し配管53を更に備える。
【0023】
上タンク31は、電池ユニット10内の電槽11に供給(注液)する電解液を貯留可能な中空の箱形状に形成される。上タンク31の内部は、水平方向に並ぶ仕切り壁33によって複数の室に仕切られ、各電槽11に供給する適正量の電解液を各室に独立して貯留可能である。なお、電槽11の内部に電解質を収容する袋体を配置した場合、上タンク31に水が貯留される。
【0024】
第1配管51は、上タンク31の底板部31Bと各電槽11の上板部25とをそれぞれつなぎ、重力を利用して上タンク31の電解液を各電槽11に供給(注液)する注液用流路として機能する。これら第1配管51には、各第1配管51を開閉する電磁弁を備えた第1開閉部61が設けられる。
第1開閉部61は、コントローラー70によって制御され、より具体的には、コントローラー70からの通電により各第1配管51を閉にし、非通電により各第1配管51を開にする。このため、常開式の電磁弁を使用することによって第1開閉部61を容易に製作可能である。なお、電磁弁に限らず、開閉弁などの他の開閉部品を使用しても良い。
【0025】
本構成では、上タンク31内を複数の室に仕切り、各室と各電槽11とを1対1で対応させるので、各電槽11に供給する電解液量を揃えやすくなる。また、各室は、上タンク31の上部空間内で互いにつながるので、上タンク31内の電解液を各室に均等に振り分け易くなる。なお、上タンク31の上面を構成する上板部31Aに、戻し配管53の一端(端部)がつながる。
各第1配管51は、上下方向に直線状に延びる直管で形成される。これにより、上下方向に対して斜めに延びる配管形状にする場合と比べて、電解液を短時間で、且つ均等に電槽11に流し易くなる。
【0026】
上タンク31には、タンク30内の電解液の水位を検出する水位センサー35が設けられる。この水位センサー35は、各電槽11に供給する適正量の電解液の有無を検出するためのセンサーである。この水位センサー35はコントローラー70に接続され、コントローラー70が、水位センサー35の出力結果に基づき上タンク31内に適正量の電解液が存在するか否かを検出する。
上タンク31及び下タンク32は、電解液への耐性、及び各電槽での放電反応によって生成される反応生成物(例えば、水酸化マグネシウム)への耐性を有する素材で形成されている。例えば、上タンク31及び下タンク32は、ステンレス、ポリプロピレン(PP)で形成されている。また、上タンク31及び下タンク32を、ステンレス又はPP以外の素材で形成し、内面に、電解液及び反応生成物への耐性を有するコーティングを施しても良い。
【0027】
下タンク32は、各電槽11から排出(排液)される電解液を貯留可能な中空の箱形状に形成される。下タンク32の内部は、仕切られておらず、この下タンク32の上板部32Aに、各電槽11の底板部21から下方に延びる第2配管52がそれぞれつながる。これによって、第2配管52は、重力を利用して各電槽11の電解液を下タンク32に供給(排液)する排液用流路として機能する。
これら第2配管52には、各第2配管52を開閉する電磁弁を備えた第2開閉部62が設けられる。第2開閉部62は、コントローラー70によって制御され、より具体的には、コントローラー70からの通電により各第2配管52を開にし、非通電により各第2配管52を閉にする。このため、常閉式の電磁弁を使用することによって第2開閉部62を容易に製作可能である。なお、電磁弁に限らず、開閉弁などの他の開閉部品を使用しても良い。
【0028】
下タンク32と上タンク31を接続する戻し配管53には、ポンプ63が設けられ、このポンプ63が駆動されることによって、下タンク32から上タンク31に電解液を移動させることができる。
下タンク32は、各電槽11に供給する適正量の電解液よりも多い電解液を貯留可能な容量に形成されている。このため、下タンク32には、各電槽11の適正量に相当する電解液を上タンク31に移動させた場合でも、
図1に示すように、下タンク32の底面を構成する底板部32Bから少なくとも離間距離LLだけ高い位置まで電解液(
図1中、符号WXで示す)が残留する。
【0029】
この離間距離LLは、各電槽11での放電反応によって生成される反応生成物を残留させる残留スペースを確保する距離に設定される。従って、下タンク32の電解液を上タンク31に戻す際に、下タンク32の底板部31Bに堆積する反応生成物が、上タンク31に移動する事態を抑制することができる。
また、各第2配管52は、第1配管51と同様に、上下方向に直線状に延びる直管で形成される。これにより、上下方向に対して斜めに延びる配管形状にする場合と比べて、電解液を短時間で電槽11から排液させることができる。また、第2配管52は、電槽11の底板部21に接続されているので、電槽11の底板部21に残留する反応生成物を効率良く排出させることができる。
【0030】
図1に示すように、下タンク32内には戻し配管53の端部(他端)が配置される。この端部には、電解液に浮くフロート部材36(浮き部材とも称する)が装着される。このため、戻し配管53の端部は、下タンク32内の電解液の水面が変動しても水面近傍に保持され、下タンク32の底板部32Bに沈んだ反応生成物を吸い込むことを抑制できる。
なお、この戻し配管53には、ゴムホースなどの可撓性を有する配管部材を適用することが好ましい。また、この戻し配管53のうち、下タンク32内に存在する領域だけをゴムホースなどの可撓性の配管部材としても良い。
【0031】
本実施形態では、上タンク31、電池ユニット10及び下タンク32が、上下に一直線上に並び、互いに近接配置される。このため、上下長及び左右長を抑えられ全体がコンパクトであり、配置自由度を高めることができる。
また、上タンク31、電池ユニット10及び下タンク32が同じ幅で形成され、全体が縦長形状のスリムな外観である。
【0032】
コントローラー70は、注液型電池システム1の各部を制御する制御部として機能し、具体的には、第1開閉部61、第2開閉部62及びポンプ63を制御する。このコントローラー70は、商用電源80からの電力(以下、商用電力)が供給され、商用電力が供給されている間、第1開閉部及び第2開閉部に通電する。この通電によって、第1開閉部61が第1配管51を閉に維持し、上タンク31内の電解液を各電槽11に注液させない。また、通電によって、第2開閉部62は、第2配管52を開に維持するので、仮に電解液が電槽11に入ったとしても、電解液は下タンク32に排出される。
【0033】
商用電力の供給が停止すると、つまり、停電すると、コントローラー70は、第1開閉部61及び第2開閉部62等に通電しなくなる。このため、第1開閉部61が第1配管51を開に維持し、第2開閉部62が第2配管52を閉に維持する。これにより、上タンク31内の電解液が各電槽11に注液され、各電槽11にて放電反応が開始される。従って、停電時に、注液型電池システム1がバックアップ電源として機能する。
【0034】
その後、商用電力の供給が開始すると、つまり、復電すると、コントローラー70は、第1開閉部61及び第2開閉部62等に通電するので、第1配管51が閉、第2配管52が開に切り替わる。これにより、各電槽11から電解液が排液され、
図3に示すように、各電槽11から電解液が排液され、電解液が下タンク32に貯留される。なお、電槽11内の電解液を下タンク32に排液するのは、電解液を電槽11に入れたままでは金属極15が自己放電により消費されるため、電解液を電槽11内から取り除き金属極15の消費を防止するためである。
従って、各電槽11での放電反応が停止し、自己放電も回避される。なお、コントローラー70は、例えば、商用電力を、第1開閉部61及び第2開閉部62等の通電に好適な電力に変換する電力変換回路を有することによって、簡易な構成で、上記制御を行うことが可能である。
【0035】
ところで、放電時に生成される反応生成物を、放電反応に関わる箇所(空気極13、金属極15)等から除去することが望まれる。
そこで、本構成では、コントローラー70が、商用電力の供給再開時、つまり、復電時に、電槽11への注液後、排液させる洗浄サイクルを実施する。具体的には、コントローラー70は、復電時に、先ず、ポンプ63の駆動を開始する。これにより、下タンク32に貯留された電解液W2(
図3)は、上タンク31に供給される。各電槽11へ注液される電解液は、水位センサー35によって上タンク31に適正量の電解液が貯留されたタイミングでポンプ63の駆動を停止する。次いで、第1開閉部61への通電を強制停止することにより第1配管51を開状態にして、上タンク31から第1配管51を通って各電槽11へ電解液を注液する。なお、復電時、第2配管52は、第2開閉部62により開状態に制御されているため、コントローラー70は第2開閉部62の制御は変更しない。その後、ポンプ63を再駆動し、下タンク32に貯留された電解液W2を上タンク31に供給する洗浄サイクルを所定回数行う。そして、所定回数洗浄サイクル終了後、第1開閉部61への通電の強制停止を解除し、上タンク31に電解液を貯留する。
【0036】
この洗浄サイクルの制御を実施する構成は、マイコン及びメモリなどの簡易的なコンピューター構成を具備し、マイコンがメモリに記憶されるプログラムに基づいて制御するソフトウェア制御、或いは、専用のハードウェアを用いた簡易な回路などで実現される。
【0037】
また、本構成のコントローラー70は商用電力で駆動する。このため、コントローラー70を含む注液型電池システム1は、商用電力以外の電源を別途設ける必要がない。但し、停電の間、プログラムデータなどの記憶保持に電力が必要な構成を採用した場合、記憶保持用の一次電池、或いは充電電池を設けるようにしても良い。
【0038】
続いて、注液型電池システム1の動作を説明する。
図4は、停電時の動作を示したフローチャートである。停電前は、各電槽11に供給する適正量の電解液(
図1に符号W1で示す)が、上タンク31に貯留されている。なお、電槽11の内部に電解質を収容した袋体を配置した場合は上タンク31に水が貯留される。
停電前の場合、コントローラー70は、商用電力に基づき第1及び第2開閉部61、62等に通電しているので、第1配管51は閉状態に保持され、第2配管52は開状態に保持される(ステップS1A)。これにより、各電槽11に電解液が注液されない状態に保持される。
【0039】
停電が発生すると(ステップS2A)、コントローラー70は、第1及び第2開閉部61、62等への通電を停止するので、第1配管51は開状態に切り替わり、第2配管52は閉状態に切り替わる(ステップS3A)。これにより、上タンク31に貯留された電解液W1が各電槽11に注液され、放電反応が開始される(ステップS4A)。従って、各電槽11にて放電反応が開始する。この場合の放電電力が所定のバックアップ対象の機器に供給され、停電時でも該機器を利用可能になる。
【0040】
図5は復電時の動作を示したフローチャートである。
復電すると(ステップS1B)、コントローラー70が商用電力に基づき第1及び第2開閉部61、62等への通電を開始するので、第1配管51は閉状態に切り替わり、第2配管52は開状態に切り替わる(ステップS2B)。これにより、各電槽11から電解液が排液され、放電反応が停止する(ステップS3B)。この場合、
図3に示すように、電解液(
図3に符号W2で示す)が下タンク32に貯留される。
【0041】
次いで、コントローラー70は、予め定めた洗浄開始条件を満たすと、洗浄サイクルを開始する(ステップS4B)。ここで、洗浄開始条件は、ユーザーなどが任意に設定可能な条件であるが、特に設定しなくて良い。設定しない場合、コントローラー70は、直ちに洗浄サイクルを開始する。
洗浄開始条件を設定する場合、例えば、洗浄開始までの待ち時間が設定される。待ち時間が設定された場合、コントローラー70は、復電からの経過時間をカウントし、設定された待ち時間が経過した後に洗浄サイクルを開始する。この待ち時間を設定することにより、頻繁に停電が生じた場合に、その都度、洗浄サイクルを実施する事態を避けることができる。
【0042】
また、洗浄開始条件として、他の条件を設定しても良い。例えば、停電回数を設定した場合、コントローラー70は、停電回数(復電回数でも良い)をカウントし、カウント値が設定した停電回数に達するまでは、洗浄サイクルを開始しない。そして、カウント値が設定した停電回数に達した際に、洗浄サイクルを開始するとともに、カウント値をリセットする。これによって、停電毎に洗浄サイクルを実施しないようすることが可能になる。
【0043】
洗浄サイクルを開始する場合、コントローラー70は、先ず、ポンプ63の駆動を開始する。これにより、下タンク32に貯留された電解液W2(
図3)は、上タンク31に供給される。各電槽11へ注液される電解液は、水位センサー35によって上タンク31に適正量の電解液が貯留されたタイミングでポンプ63の駆動を停止する。次いで、第1開閉部61への通電を強制停止する。このため、第1開閉部61により第1配管51が開状態に切り替わる。なお、第2開閉部62への通電は継続するので、第2配管52は開状態に保持される。
これにより、下タンク32に貯留された電解液W2(
図3)は、上タンク31に供給され、所定量の電解液が上タンク31に貯留された後、上タンク31から第1配管51を通って各電槽11へ注液され、各電槽11から第2配管52を通って下タンク32へ排液される、という循環サイクルが繰り返される。各電槽11には、放電反応によって生成された反応生成物が存在するので、電槽11の各部(空気極13、金属極15など)に付着した反応生成物を除去することができる。また、放電時に電槽11の底板部21に堆積した反応生成物も効果的に除去することができる。
【0044】
電槽11から排出された反応生成物は、自重で沈むので、下タンク32の底板部32Bに堆積する。上記したように、戻し配管53は、電解液W2に浮くフロート部材36によって水面近傍に保持されるので、底板部32Bに堆積した反応生成物は、戻し配管53に進入しない。従って、反応生成物が上タンク31に移動することを規制でき、この結果、電槽11への再進入を避けることができる。
【0045】
洗浄サイクルにより、放電反応に関わる箇所(空気極13、金属極15など)に付着した反応生成物を除去できるので、反応面積の減少を抑える等、放電反応への影響を抑えることができる。
なお、洗浄サイクルの制御は、上記の目的を達成できれば良く、上記の制御に限定されない。例えば、各電槽11に電解液を注液後、時間を空けて電解液を排液させても良い。具体的には、コントローラー70は、まず、第1及び第2開閉部61、62への通電を強制停止する。これにより、第1配管51が開状態、第2配管52が閉状態に切り替わる。次いで、コントローラー70は、ポンプ63を所定時間だけ駆動することにより、電解液を各電槽11に注液する。この場合、第2配管52は閉状態であるので、電解液は各電槽11に溜まったままとなる。
【0046】
各電槽11内に貯留される電解液は、空気極13及び金属極15が電解液に十分に漬かるまで(例えば、
図2中、符号UL程度に貯まるまで)、ポンプ63が駆動されることが好ましい。電解液が溜まる量は、ポンプ63の駆動時間によって設置得可能である。
続いて、コントローラー70は、第2開閉部62への通電を行うことにより、第2配管52を開状態に切り替える。これにより、各電槽11内に貯留された電解液が、第2配管52を通って下タンク32へ排液される。下タンク32から排液される電解液は、各電槽11内の電解液をまとめて排液するので、反応生成物の排出性が向上する可能性がある。電槽11への注液、排液による洗浄サイクルをどのように行うかは適宜に調整すれば良い。
【0047】
コントローラー70は、予め定めた洗浄終了条件を満たすと、洗浄サイクルを終了する(ステップS5B)。この洗浄終了条件は、ユーザーなどが任意に設定可能な条件であり、例えば、洗浄サイクルの継続時間(つまり、洗浄時間)が設定される。洗浄時間が設定された場合、コントローラー70は、洗浄時間をカウントし、設定された洗浄時間が経過すると洗浄サイクルを終了する。前記洗浄時間が特に設定されない場合は、予め規定された時間が経過すると洗浄サイクルを終了する。なお、洗浄サイクル終了後、停電に備え上タンク31に適正量の電解液を貯留しておく。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の注液型電池システム1は、注液型電池である電槽11と、電槽11に供給して放電させる液体として電解液を貯留するタンク30(上タンク31、下タンク32)と、停電時に、上タンク31の電解液を、重力を利用して下タンク32に注液させ、復電時に、電槽11内の電解液を、重力を利用して下タンク32に排液させる開閉機能付きの配管50(第1配管51、第2配管52)とを備える。この構成によれば、停電時に、自然エネルギーである重力を利用して電槽11に注液でき、電解液を送るポンプ等が不要である。従って、注液用のポンプや電源が不要であり、簡易な構成で停電時のバックアップ電源を実現できる。
【0049】
また、復電後に、下タンク32の電解液を上タンク31に移動させる戻し配管53、ポンプ63及びコントローラー70を有するので、停電が再び発生したときに、放電を再開させることができる。従って、停電が生じる毎にバックアップ電源として利用可能になる。
また、下タンク32に設けられる戻し配管53の一端は、放電時に生成される反応生成物の残留スペース(底面から離間距離LLのスペース)を空けた位置に設けられるので、反応生成物を下タンク32内に留めることができる。
【0050】
また、配管50は、上タンク31と電槽11との間に配置される第1開閉部61と、電槽11と下タンク32との間に配置される第2開閉部62とを備える。第1開閉部61は、商用電力の供給時に対応する通電時に閉、停電時に対応する非通電時に開となる常開式であり、第2開閉部62は、商用電力の供給時に対応する通電時に開、停電時に対応する非通電時に閉となる常閉式に構成される。
これにより、停電により非通電になれば、自動的に電槽11に注液し、復電時により通電になれば、自動的に電槽11から排液することができる。従って、停電時や復電時に複雑な制御を行うことなく、注液及び排液ができる。また、第1及び第2開閉部61、62を、広く普及する常開式の弁及び常閉式の弁を用いて構成することができるので、部品調達が容易であり、コストの増大も抑えやすくなる。
【0051】
さらに、本実施形態の注液型電池システム1は、コントローラー70が、電槽11に注液後、排液させる洗浄サイクルを選択的に実施する洗浄制御部として機能する。この構成によれば、電槽11の各部(例えば、空気極13や金属極15)に付着した反応生成物を洗い流すことができ、各部の状態を良好に維持し易くなる。このため、次回の注液の際に、良好に放電反応を再開することができる。
また、電槽11から排出された反応生成物は、下タンク32の底面との間の残留スペースに留まる一方で、電解液は再利用されるので、反応生成物による悪影響を回避するとともに、資源の節約を抑えることができる。また、仮に停電復帰後に直ぐに停電が生じた場合でも、放電を再開でき、停電時のバックアップ電源として好適である。
【0052】
また、本構成の注液型電池システム1は、停電時に電槽11に電解液を注液し、復電時に電槽から電解液を排液させるシステムであり、復電時にコントローラー70が洗浄サイクルを実施する。これにより、バックアップ電源として使用する停電時は放電反応を継続でき、バックアップ電源として使用しない期間を利用して洗浄することができる。
【0053】
また、電槽11は、正極及び負極として空気極13及び金属極15を有する空気電池であるので、電槽11に供給する液体に、海水や水道水を使用することができ、調達、補充及び交換などが容易である。また、空気極13及び金属極15の耐久性、耐食性を確保することで、メンテナンスが殆ど不要であり、長期の使用に好適である。
また、この注液型電池システム1は、上述したように放電開始、及び放電停止には特別な制御を行う必要がなく、放電停止後(復電後)に、コントローラー70が洗浄サイクルの実施、及び上タンク31への電解液の移動制御を行うだけである。このため、簡易な制御で実現可能である。仮に、コントローラー70及びポンプ63等に故障が生じた場合でも、上タンク31に電解液があれば停電時のバックアップ電源として機能することができる。上記故障の場合でも、復電後に、下タンク32に溜まった電解液を人手などで上タンク31に移動すれば、次の停電時にもバックアップ電源として利用可能である。
【0054】
(第2実施形態)
図6は本発明の第2実施形態に係る注液型電池システム1を示した図である。以下、第1実施形態と異なる点を詳述する。
この注液型電池システム1は、電池ユニット10が上下のタンク31、32に対し、水平方向一方側(戻し配管53及びポンプ63に対し反対側)にオフセットして配置される。この電池ユニット10と上下のタンク31、32との間に空いたスペースにコントローラー70が配置される。この配置によれば、電池ユニット10の大きさ(特に幅)が、タンク31、32間のスペースに制約されない。従って、電池ユニット10に多数の電槽11を配置し易くなる。本構成では電池ユニット10に、5個の電槽11を配置している。また、電池ユニット10と上下のタンク31、32とが離間するので、それぞれのメンテナンスをし易くなる。なお、第2実施形態では、下タンク32を上タンク31よりも反応生成物の残留スペースの分だけ大きくしたタンクを使用した。
【0055】
第1配管51は、上タンク31の底板部31Bから下方に延びた後に電池ユニット10側に屈曲して水平方向に延びた後、下方に屈曲して電池ユニット10の各電槽11の上板部25にそれぞれ連結される。第1配管51は、電槽11の数と同数設けられ、途中で互いに近接して配置される。各第1配管51が近接する箇所に、第1開閉部61が設けられる。
【0056】
第2配管52は、各電槽11の底板部32Bよりも高い位置にて各電槽11に連結され、連結箇所から下方に延びた後、下タンク32側に屈曲して水平方向に延びた後、下方に屈曲して下タンク32の上板部32Aにそれぞれ連結される。
ここで、
図7は、電池ユニット10の電槽11の一部を模式的に示した図である。なお、第1実施形態と同様の構成は同一の符号を付して示し、重複説明を省略する。
【0057】
図7に示すように、各電槽11は、所定の支持部材7Aに載置されることによって同じ高さに配置される。各電槽11には、金属極15及び空気極13の下端よりも所定の距離L1(以下、「離間距離L1」と言う)だけ下方に離間した位置に、開口部を有する配管接続部5Aが設けられる。この配管接続部5Aに第2配管52が接続される。
この配管接続部5Aの下端は、電槽11の底面から離間距離L2だけ高い位置に設けられる。これにより、電槽11内の電解液を第2配管52から排液した場合に、電解液が離間距離L2の高さまで残留し、電槽11内の反応生成物を第2配管52に入り難くすることができる。また、電解液の液面は、金属極15及び空気極13より低いため、放電反応が停止すると共に自己放電が回避される。
なお、上記距離L1、L2は上記目的を達する範囲で適宜に調整可能である。
【0058】
図6に示すように、戻し配管53は、下タンク32に対し、下タンク32の底板部32Bから少なくとも離間距離LLだけ高い位置に連結される。この戻し配管53は、ゴムホースなどの可撓性を有する配管部品、或いは、可撓性を有さない樹脂製又は金属製などの配管部品のいずれで形成しても良い。
この離間距離LLのスペースは、第1実施形態と同様に、放電反応によってできた反応生成物を残留させるスペースとして機能する。第2実施形態では、各電槽11内の底部と、下タンク32の底部とに反応生成物を残留させるスペースをそれぞれするので、反応生成物が戻し配管53に入る事態をより抑制できる。従って、反応生成物が各電槽11により再進入し難くなる。
【0059】
タンク30内の電解液の水位を検出する水位センサー45は、下タンク32に設けられている。この水位センサー45は、下タンク32における戻し配管53の連結位置(吸い込み位置)より高い位置に設けられる。
この水位センサー35によって電解液が検出される場合、コントローラー70は、各電槽11から排液された電解液が下タンク32に貯留されていると判断する。また、コントローラー70は、下タンク32内の電解液を上タンク31に移動すべく、第2配管52を閉じてポンプ63を駆動している場合、水位センサー35によって電解液が検出されなくなるとポンプ63を停止する。これにより、上タンク31に各電槽11に供給する適正量の電解液を貯めた状態で、ポンプ63を停止することができる。なお、上タンク31に電解液を貯留しておくのは、停電時にポンプ63が駆動できなくても、直ぐに放電を再開でき、停電時のバックアップ電源として使用可能とするためである。
【0060】
以上の構成によれば、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、停電時に、自然エネルギーである重力を利用して電槽11に注液でき、電解液を送るポンプ等が不要である。従って、簡易な構成で停電時のバックアップ電源を実現できる、といった第1実施形態と同様の各種の効果が得られる。
また、コントローラー70により洗浄サイクルを選択的に実施するので、電槽11の各部に付着した反応生成物を電解液で洗い流すことができ、次回の注液の際に、良好に放電反応を再開することができる、等の効果も得られる。
【0061】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形、及び変更が可能である。例えば、上述の各実施形態において、電槽11の数は適宜に変更可能であり、例えば、電槽11は一個でも良い。また、上述の各実施形態では、下タンク32を上タンク31よりも反応生成物の残留スペースの分だけ大きくする場合を説明したが、上下のタンク31、32を同じ容量にしても良い。また、下タンク32を上タンク31の数倍の容量にしても良い。
【0062】
下タンク32を上タンク31の数倍の容量にした場合、例えば、上タンク31に一回分の注液量を貯め、下タンク32に一回分以上の注液量を同時に貯めておくことが好ましい。この場合、停電毎に再利用される電解液の割合を50%未満に抑え、電解液の一部が蒸発しても適正量の電解液を注液することが可能である。従って、長期に渡って停電時のバックアップ電源として使用し易くなる。
【0063】
また、上タンク31と下タンク32とからなる2個のタンクを備える場合を説明したが、2個に限定されない。例えば、タンク数が1個の場合は上タンクの位置に設けることで、停電時に重力を利用して電槽11に注液可能である。復電時は、コントローラー70がポンプ63を駆動して、電槽11内の電解液を上タンクに移動させれば良い。また、タンク数が3個以上の場合、各タンクを上タンク31と下タンク32とのいずれかに振り分け、各タンク間を戻し配管53でつなぎ、ポンプ63を利用して電解液を、タンク間を移動可能にすれば良い。
【0064】
また、上述の各実施形態では、コントローラー70とポンプ63とを備える場合を説明したが、注液型電池システム1をより簡易な構成にする場合は、コントローラー70とポンプ63を省略しても良い。この場合、復電後に、人手により下タンク32から上タンク31に電解液を移動するか、或いは、下タンク32の電解液は廃棄し、上タンク31に新たな電解液(海水又は水など)を補充する等の対処を行うようにすれば良い。
【0065】
また、上述の各実施形態において、電池ユニット10、上タンク31及び下タンク32の形状及びレイアウトは設置スペースなどに応じて適宜に変更しても良い。また、上述の各実施形態では、注液型電池として空気電池を使用する場合を説明したが、空気電池に限定されず、注液により放電反応を開始する公知の様々な電池を使用しても良い。
【0066】
また、上述の実施形態では、復電後に自動的に洗浄サイクルを実施する場合を説明したが、これに限らず、ユーザー等の指示或いは操作に基づき洗浄サイクルを実施するようにしても良い。
また、上述の実施形態では、本発明の注液型電池システム1を、商用電力の供給停止時のバックアップ電源に使用する場合を説明したが、商用電力に限定されず、所定の電力の供給停止時のバックアップ電源に広く適用可能である。