【実施例】
【0052】
以下、試験例を挙げて、本発明を説明するが、本発明は、以下の試験例に何ら限定されるものではない。
【0053】
(試験例1:マウス繊維芽細胞からの膵内分泌細胞の製造−1)
<細胞の調製>
以下のようにして、体細胞の1種である2重蛍光標識されたマウス胎児繊維芽細胞(dual−labeled−mouse embryonic fibroblast、以下、「dMEF」と称することがある)を調製した。
【0054】
−膵内分泌前駆細胞をGFPで蛍光標識した遺伝子改変マウスの作製−
膵内分泌前駆細胞をGFPで蛍光標識した遺伝子改変マウス(Ngn3遺伝子のプロモーター制御下にEGFPを発現するマウス(Ngn3−eGFP))を以下のようにして作製した。
BACクローンから単離したNgn3遺伝子のプロモーター(5kb)の下流に、GFPと核移行シグナル(以下、「nls」と称することがある)との融合タンパク質遺伝子を繋げたコンストラクトを約400個の受精卵へマイクロインジェクションし、膵内分泌前駆細胞をGFPで蛍光標識した遺伝子改変マウスを作製した。
【0055】
−膵β細胞をDsRed2で蛍光標識した遺伝子改変マウスの作製−
膵β細胞をDsRed2で蛍光標識した遺伝子改変マウス(ラットインスリンプロモーター制御下にDsRed2を発現するマウス(Ins−DsR))を以下のようにして作製した。
ラットインスリン遺伝子のプロモーター(800bp)の下流に、DsRed2遺伝子を繋げたコンストラクトを約400個の受精卵へマイクロインジェクションし、膵β細胞をDsRed2で蛍光標識した遺伝子改変マウスを作製した。
【0056】
−2重蛍光標識マウス胎児繊維芽細胞の作製−
前記膵内分泌前駆細胞をGFPで蛍光標識した遺伝子改変マウスと、前記膵β細胞をDsRed2で蛍光標識した遺伝子改変マウスとを交配させた後、産仔マウス(ヘテロ)の雌と雄とを交配し、ゲノミックサザン法によってホモ化された2重蛍光標識遺伝子改変マウス(Ngn3−eGFP/Ins−DsR)を作出した。前記ホモ化された2重蛍光標識遺伝子改変マウスの雌と雄とを交配(2ペア)し、胎生期14.5日目の胎児16匹をピンセットで子宮より摘出し、クリーンベンチ内にて10mLのリン酸緩衝食塩水(カナマイシン 10mg/mL含有)入り10cmペトリ皿で血液を洗浄後、10mLのDMEM(シグマ社製、#D5796;ペニシリン、ストレプトマイシン、10%FBS含有)入り10cm細胞培養ディッシュ(TPP社製、#93150)内にて胎児をハサミで細切した。細切した胎児組織を15mLチューブへ移し、1.4krpmで4分間、室温で遠心し、上清を捨て、ペレットに0.25%トリプシン含有EDTA溶液(和光純薬工業株式会社製、#201−16945) 1mL(0.25%DNase I含有)を加えて懸濁後、37℃のウォーターバスでインキュベートした。10分間おきに手で攪拌した。5mLのDMEM(10%FBS含有)を15mLチューブへ入れ、1匹分の胎児組織断片をよく懸濁し、5mLのDMEM入り10cm細胞培養皿へ移して、37℃、5%CO
2インキュベータで培養し、翌日10mLのDMEM(10%FBS含有)を入れ替え、以降は2日間に一度培地を交換した。約4日間後から5日間後、10cm培養皿いっぱいに増えたdMEFを6mLのリン酸緩衝食塩水(以下、「PBS」と称することがある)で洗浄後、1mLの0.25%トリプシン含有EDTA溶液を入れ、37℃、5%CO
2インキュベータ内で2分間後、細胞が剥がれたことを確認した後、10mLのDMEM(10%FBS含有)を入れよく懸濁し、培養皿1枚分のdMEFを新たな10cm培養皿5枚に播種し、更に培養した。5日間から6日間後、dMEFがコンフルエントに増殖したことを確認し、6mLのPBSで洗浄後、1mLの0.25%トリプシン/EDTA溶液を入れ、37℃、5%CO
2インキュベータ内で2分間後、細胞が剥がれたことを確認した後、6mLのDMEM(10%FBS含有)を入れ、よく懸濁し、50mLチューブに入れ、1.4krpmで4分間、室温で遠心後に上清を捨て、細胞ペレットに10mLのセルバンカー(タカラバイオ株式会社製、#CB011)を加えて、懸濁後、0.5mLずつバイアルチューブへ分注し、−145℃の超低温フリーザー内にて保管した。
【0057】
<レトロウイルスの作製>
長期にわたって高力価のウイルスを産生できるウイルス構造タンパク質gag−pol及びenvをMoMuLV LTRのコントロール下で発現させているPlat−E細胞と、プラスミドDNA(pMXベクター又はpMX−puroベクター)とを用い、以下のようにしてレトロウイルスを作製した(Onishi,M.,et.al.,Exp.Hematol.24,324−329,1996)。
【0058】
−プラスミドDNAの調製−
[pMX−GFPベクター]
pMX−GFPベクターは、GFPタンパク質の全長をコードする遺伝子をpMXベクター及びpMXpuroべクター(東京大学医学研究所より入手)のマルチクローニングサイトに組み込んだものである。なお、前記GFPタンパク質の全長をコードする遺伝子の配列は、NCBIでは、アクセッション番号L29345で登録されている。
【0059】
[pMX−GLIS1ベクター]
pMX−GLIS1ベクターは、GLIS1タンパク質の全長をコードする遺伝子をpMXベクター(Addgeneより入手)のマルチクローニングサイトに組み込んだものである。なお、前記GLIS1タンパク質の全長をコードする遺伝子の配列は、NCBIでは、アクセッション番号NM_147221で登録されている。
【0060】
[pMX−Neurogenin3ベクター]
pMX−Neurogenin3ベクターは、Neurogenin3タンパク質の全長をコードする遺伝子をpMXベクター(東京大学医学研究所より入手)のマルチクローニングサイトに組み込んだものである。なお、前記Neurogenin3タンパク質の全長をコードする遺伝子の配列は、NCBIでは、アクセッション番号NM_009719で登録されている。
【0061】
[pMX−Pdx1ベクター]
pMX−Pdx1ベクターは、Pdx1タンパク質の全長をコードする遺伝子をpMXベクター(東京大学医学研究所より入手)のマルチクローニングサイトに組み込んだものである。なお、前記Pdx1タンパク質の全長をコードする遺伝子の配列は、NCBIでは、アクセッション番号NM_008814で登録されている。
【0062】
−レトロウイルスの作製−
PBSで10倍希釈したPoly−L−Lysine(シグマ社製、P8920)で、コート処理(37℃、5%CO
2で1時間)した6ウェルプレート(TPP社製、92406)に、Plat−E細胞を1ウェルあたり8×10
5細胞数播種し、一晩培養した。
翌日、前記プラスミドDNA 4μgを250μLのOPTI−MEM(登録商標)(ライフテクノロジーズ社製、11058021)が入った1.5mLチューブへ入れ、タッピングで混和して室温で5分間放置した(以下、「プラスミド/OPTI−MEM溶液」と称することがある)。一方、250μLのOPTI−MEM入りの別の1.5mLチューブへ、リポフェクタミン(登録商標) 2000(LP2000)(ライフテクノロジーズ社製、11668500)を10μL入れ、混和して室温5分間放置した(以下、「LP2000/OPTI−MEM溶液」と称することがある)。前記プラスミド/OPTI−MEM溶液と、前記LP2000/OPTI−MEM溶液とをよく混和し、室温で20分間静置した(以下、「プラスミド/LP2000/OPTI−MEM混合液」と称することがある)。
リポソームDNA複合体を形成させた前記プラスミド/LP2000/OPTI−MEM混合液を前日播種したPlat−E細胞を培養する6ウェルプレートの1ウェルへ添加(トランスフェクション)した。混和後、37℃、5%CO
2インキュベータ内で一晩培養した。24時間後、培地交換を行い、新たに1.5mLのDMEM(10%FBS含有)を添加し、さらに24時間培養した。
トランスフェクション後48時間でウイルス粒子を含む培養上清を2.5mLシリンジ(テルモ株式会社製、SS−02SZ)で回収し、0.45フィルター(ワットマン社製、プラディスクFP30(CA−S0.45μm)、10462100)でPlat−E細胞を除去し、ウイルス粒子を含む培養上清を2.0mLチューブへ移した。
以上により、pMX−GLIS1ベクター由来のウイルス溶液、pMX−Neurogenin3ベクター由来のウイルス溶液、pMX−Pdx1ベクター由来のウイルス溶液、及びpMX−GFPベクター由来のウイルス溶液を得た。
【0063】
<導入>
前記dMEFへ前記レトロウイルスを感染させることにより、遺伝子を細胞に導入した。感染は、以下のようにして行った。
前記dMEFを12ウェルプレートへ、1ウェルあたり1×10
5細胞数播種した。
翌日、前記レトロウイルスの作製に記載のようにして回収したウイルス粒子を含む培養上清に、8mg/mLポリブレン溶液(シグマ社製、107689)を最終濃度8μg/mLになるよう添加した。前記dMEFの培養上清を吸引して除去後、下記のウイルス溶液を12ウェルプレートの1ウェルあたり200μL加えた。各々のウェルのウイルス溶液が均一になるように、ポリブレン8μg/mLを含むDMEM(10%FBS含有)溶液で調整した。ウイルス溶液添加後、37℃、5%CO
2インキュベータ内で培養した。培養中は、2日間又は3日間毎に培地交換を行った。
[ウイルス溶液]
(1)pMX−GLIS1ベクター由来のウイルス溶液(以下、「G1溶液」と称することがある)
(2)pMX−Neurogenin3ベクター由来のウイルス溶液(以下、「N溶液」と称することがある)
(3)pMX−Pdx1ベクター由来のウイルス溶液(以下、「P溶液」と称することがある)
(4)pMX−Neurogenin3ベクター由来のウイルス溶液及びpMX−Pdx1ベクター由来のウイルス溶液(以下、「NP溶液」と称することがある)
(5)pMX−GLIS1ベクター由来のウイルス溶液及びpMX−Neurogenin3ベクター由来のウイルス溶液(以下、「G1N溶液」と称することがある)
(6)pMX−GLIS1ベクター由来のウイルス溶液及びpMX−Pdx1ベクター由来のウイルス溶液(以下、「G1P溶液」と称することがある)
(7)pMX−GLIS1ベクター由来のウイルス溶液、pMX−Neurogenin3ベクター由来のウイルス溶液、及びpMX−Pdx1ベクター由来のウイルス溶液(以下、「G1NP溶液」と称することがある)
(8)pMX−GFPベクター由来のウイルス溶液(コントロール、以下、「GFP CTL溶液」と称することがある)
【0064】
<dMEF由来インスリン産生細胞の観察、及び細胞数の決定>
前記導入を行い、培養数日後にDsRed2陽性インスリン産生細胞を蛍光顕微鏡(カールツアイスAxiovert200M)装置で観察、撮影を行った。
統計解析は、Hoechst33342(ライフテクノロジーズ社製、H1399)を最終濃度0.1μg/mlになるようにウェルに添加後、37℃、5%CO
2インキュベータ内で30分間以上培養した細胞培養マルチウェルプレートをハイエンド細胞イメージング装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、ArrayScan XTI)を用いて、各ウェルに対して対物レンズ10倍設定にて100視野を撮影し、100視野中の全細胞数中のDsRed2陽性インスリン産生細胞数を測定した。
【0065】
<結果−1>
前記導入の2日間後に蛍光顕微鏡(カールツアイスAxiovert200M)装置で観察を行ったところ、ウイルス溶液として、G1N溶液を用いた場合、及びG1NPを用いた場合に、DsRed2の蛍光が観察された。したがって、ウイルス溶液として、G1N溶液を用いた場合、及びG1NPを用いた場合には、2日間という短期間で、膵内分泌細胞であるβ細胞を繊維芽細胞から製造できることが示された。
【0066】
<結果−2>
前記導入の12日間後に前記統計解析を行った結果を
図1に示す。
図1中、横軸は、使用したウイルス溶液を示し、左から順に、G1溶液、N溶液、P溶液、NP溶液、G1N溶液、G1NP溶液の結果を示す。なお、縦軸は、1ウェルあたりのDsRed2陽性インスリン産生細胞数を示す。
図1の結果から、体細胞に、(I)GLIS1遺伝子、及びNgn3遺伝子を導入した場合、並びに(II)GLIS1遺伝子と、Ngn3遺伝子と、Pdx1遺伝子とを導入した場合に膵内分泌細胞であるβ細胞数が顕著に増加していた。したがって、体細胞に、(I)GLIS1遺伝子、及びNgn3遺伝子を導入するか、(II)GLIS1遺伝子と、Ngn3遺伝子と、Pdx1遺伝子とを導入することにより、体細胞から膵内分泌細胞を大量に製造できることが示された。
【0067】
<結果−3>
前記導入の17日間後に前記統計解析を行った結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1の結果から、体細胞に、(I)GLIS1遺伝子、及びNgn3遺伝子を導入した場合、並びに(II)GLIS1遺伝子と、Ngn3遺伝子と、Pdx1遺伝子とを導入した場合には、全細胞における膵内分泌細胞であるβ細胞数の割合が高くなっていた。したがって、体細胞に、(I)GLIS1遺伝子、及びNgn3遺伝子を導入するか、(II)GLIS1遺伝子と、Ngn3遺伝子と、Pdx1遺伝子とを導入することにより、体細胞から膵内分泌細胞を効率良く製造できることが示された。
【0070】
(試験例2:マウス繊維芽細胞からの膵内分泌細胞の製造−2)
<細胞の調製>
試験例1と同様にして、dMEFを調製した。
【0071】
<レトロウイルスの作製>
試験例1と同様にして、pMX−GLIS1ベクター由来のウイルス溶液、pMX−Neurogenin3ベクター由来のウイルス溶液、及びpMX−Pdx1ベクター由来のウイルス溶液を作製した。
【0072】
<導入>
ウイルス溶液としてG1NP溶液を用い、試験例1と同様にして、前記dMEFへ前記レトロウイルスを感染させることにより、遺伝子を細胞に導入した。
【0073】
<免疫染色解析>
前記導入の21日間後の細胞を用い、以下のようにして免疫染色を行い、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及びPdx1の発現を調べた。
細胞を4% パラホルムアルデヒド溶液内にて10分間室温で固定した後、0.2% Triton−X/PBS溶液に浸し室温で10分間処理し、4倍希釈したブロッキングONE溶液(ナカライテスク株式会社製)にて室温で1時間処理後、抗インスリン抗体(400倍希釈、モルモット、DAKO社製)、抗グルカゴン抗体(400倍希釈、ウサギ、DAKO社製)、抗ソマトスタチン抗体(500倍希釈、ウサギ、DAKO社製)、又は抗Pdx1抗体(1,000倍希釈、ウサギ、米国バンダービルト大学より入手)を用いて1次抗体反応を4℃で一晩行った後、PBSにて室温で5分間の洗浄を3回繰り返した。2次抗体反応は、AlexaFluor−Cy3標識抗ウサギ抗体(400倍希釈、Invitrogen社製)、又はAlexaFluor−488標識抗モルモット抗体(400倍希釈、Invitrogen社製)を用いて、室温で1時間反応させ、PBSにて5分間の洗浄を3回繰り返した後、倒立型蛍光顕微鏡(カールツアイスAxiovert200M)にて観察、写真撮影を行った。
【0074】
免疫染色解析の結果を
図2A〜
図2Cに示す。
図2Aは、インスリン及びソマトスタチンの発現を解析した結果を示し、
図2Bは、インスリン及びグルカゴンの発現を解析した結果を示し、
図2Cは、インスリン及びPdx1の発現を解析した結果を示す。
図2A〜
図2C中、実線の矢印は、インスリンの発現が確認された細胞を示す。
図2A〜
図2Cにおける点線の矢印は、
図2Aではソマトスタチン、
図2Bではグルカゴン、
図2CではPdx1の発現が確認された細胞を示す。
図2A〜
図2Cの結果から、膵内分泌細胞であるα細胞が発現するグルカゴン、β細胞が発現するインスリン、δ細胞が発現するソマトスタチンのタンパク質レベルでの発現が確認された。また、膵臓の発生に必須であるPdx1のタンパク質レベルでの発現も確認された。
したがって、本発明の製造方法により、インスリン産生細胞であるβ細胞のみならず、α細胞及びδ細胞も製造できることが示された。
【0075】
(試験例3:各種体細胞からの膵内分泌細胞の製造−1)
<細胞の調製>
以下の細胞を用意した。
(1)dMEF
試験例1と同様にして調製した。
(2)Human iPS(253G13−6)由来繊維芽細胞
理化学研究所BRCより入手した。
(3)ヒトHepG2(ヒト肝癌由来細胞株)
理化学研究所BRCより入手した。
(4)マウスNIH−3T3(マウスの胎児皮膚から分離した培養細胞)
理化学研究所BRCより入手した。
(5)ヒト胎児繊維芽細胞(FHDF)
東洋紡株式会社より入手した。
(6)ヒト新生児繊維芽細胞(NHDF)
宝酒造株式会社より入手した。
(7)ヒトHEK293(ヒト胎児腎細胞をアデノウイルスのE1遺伝子によりトランスフォーメーションして樹立された細胞株)
理化学研究所BRCより入手した。
【0076】
<レトロウイルスの作製>
−マウス細胞用レトロウイルスの作製−
試験例1と同様にして、マウス細胞用のpMX−GLIS1ベクター由来のウイルス溶液、pMX−Neurogenin3ベクター由来のウイルス溶液、及びpMX−GFPベクター由来のウイルス溶液を作製した。
【0077】
−ヒト細胞用レトロウイルスの作製−
長期にわたって高力価のウイルスを産生できるウイルス構造タンパク質gag−pol及びenvをMoMuLV LTRのコントロール下で発現させているPlat−GP細胞と、プラスミドDNA(pMXベクター又はpMX−puroベクター、VSVGベクター)とを用い、以下のようにしてレトロウイルスを作製した(Onishi,M.,et.al.,Exp.Hematol.24,324−329,1996)。
【0078】
−−プラスミドDNAの調製−−
[pMX−GFPベクター]
試験例1と同様にして、pMX−GFPベクターを調製した。
【0079】
[pMX−GLIS1ベクター]
試験例1において、アクセッション番号NM_147221で登録されているGLIS1タンパク質の全長をコードする遺伝子の配列を用いていた点を、アクセッション番号NM_147193で登録されているGLIS1タンパク質の全長をコードする遺伝子の配列に代えた以外は、試験例1と同様にして、pMX−GLIS1ベクターを調製した。
【0080】
[pMX−Neurogenin3ベクター]
試験例1において、アクセッション番号NM_009719で登録されているNeurogenin3タンパク質の全長をコードする遺伝子の配列を用いていた点を、アクセッション番号NM_020999で登録されているNeurogenin3タンパク質の全長をコードする遺伝子の配列に代えた以外は、試験例1と同様にして、pMX−Neurogenin3ベクターを調製した。
【0081】
[pMX−Pdx1ベクター]
試験例1において、アクセッション番号NM_008814で登録されているPdx1タンパク質の全長をコードする遺伝子の配列を用いていた点を、アクセッション番号NM_000209で登録されているPdx1タンパク質の全長をコードする遺伝子の配列に代えた以外は、試験例1と同様にして、pMX−Pdx1ベクターベクターを調製した。
【0082】
−−レトロウイルスの作製−−
PBSで10倍希釈したPoly−L−Lysine(シグマ社製、P8920)で、コート処理(37℃、5%CO
2で1時間)した6ウェルプレート(TPP社製、92406)に、Plat−GP細胞を1ウェルあたり8×10
5細胞数播種し、一晩培養した。
翌日、前記プラスミドDNA 4μg(pMXベクターを2μg、VSVGベクターを2μg)を250μLのOPTI−MEM(登録商標)(ライフテクノロジーズ社製、11058021)が入った1.5mLチューブへ入れ、タッピングで混和して室温で5分間放置した(以下、「プラスミド/OPTI−MEM溶液」と称することがある)。一方、250μLのOPTI−MEM入りの別の1.5mLチューブへ、リポフェクタミン(登録商標) 2000(LP2000)(ライフテクノロジーズ社製、11668500)を10μL入れ、混和して室温5分間放置した(以下、「LP2000/OPTI−MEM溶液」と称することがある)。前記プラスミド/OPTI−MEM溶液と、前記LP2000/OPTI−MEM溶液とをよく混和し、室温で20分間静置した(以下、「プラスミド/LP2000/OPTI−MEM混合液」と称することがある)。
リポソームDNA複合体を形成させた前記プラスミド/LP2000/OPTI−MEM混合液を前日播種したPlat−GP細胞を培養する6ウェルプレートの1ウェルへ添加(トランスフェクション)した。混和後、37℃、5%CO
2インキュベータ内で一晩培養した。24時間後、培地交換を行い、新たに1.5mLのDMEM(10%FBS含有)を添加し、さらに24時間培養した。
トランスフェクション後48時間でウイルス粒子を含む培養上清を2.5mLシリンジ(テルモ株式会社製、SS−02SZ)で回収し、0.45フィルター(ワットマン社製、プラディスクFP30(CA−S0.45μm)、10462100)でPlat−GP細胞を除去し、ウイルス粒子を含む培養上清を2.0mLチューブへ移した。
以上により、ヒト細胞用のpMX−GLIS1ベクター由来のウイルス溶液、pMX−Neurogenin3ベクター由来のウイルス溶液、pMX−Pdx1ベクター由来のウイルス溶液、及びpMX−GFPベクター由来のウイルス溶液を得た。
【0083】
<導入>
ウイルス溶液としてG1N溶液、又はGFP CTL溶液を用い、試験例1と同様にして、前記各細胞へ前記レトロウイルスを感染させることにより、遺伝子を細胞に導入した。
【0084】
<定量PCR解析>
前記導入の20日間後の細胞を用い、以下のようにして定量PCR解析を行い、GAPDH遺伝子に対するインスリン遺伝子の相対発現量を調べた。
前記細胞を細胞溶解液に懸濁し、SuperPrep
TM Cell Lysis & RT Kit for qPCR(東洋紡株式会社製、#SCQ−101)、又はSV 96 Total RNA Isolation System(Promega社製、#Z3505)、ReverTraAce qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(東洋紡株式会社製、#FSQ−301)にてRNA調製及びcDNA合成を行った後、GeneAce SYBR qPCR Mixα(日本ジーン株式会社製)を用いて定量PCRを行った。
なお、定量PCRに用いたプライマーは、以下のとおりである。
−マウスGAPDH遺伝子−
フォワード: 5’−tggagaaacctgccaagtatg−3’(配列番号1)
リバース: 5’−ggagacaacctggtcctcag−3’(配列番号2)
−マウスインスリン2遺伝子−
フォワード: 5’−tttgtcaagcagcacctttg−3’(配列番号3)
リバース: 5’−ggtctgaaggtcacctgctc−3’(配列番号4)
−ヒトGAPDH遺伝子−
フォワード: 5’−atgttcgtcatgggtgtgaa−3’(配列番号5)
リバース: 5’− tgtggtcatgagtccttcca−3’(配列番号6)
−ヒトインスリン遺伝子−
フォワード: 5’−gccatcaagcagatcactgt−3’(配列番号7)
リバース: 5’−caggtgttggttcacaaagg−3’(配列番号8)
【0085】
定量PCR解析の結果を
図3A〜
図3Gに示す。
図3Aは、dMEFにおける結果を示し、
図3Bは、Human iPS(253G13−6)由来繊維芽細胞における結果を示し、
図3Cは、ヒトHepG2における結果を示し、
図3Dは、マウスNIH−3T3における結果を示し、
図3Eは、ヒト胎児繊維芽細胞における結果を示し、
図3Fは、ヒト新生児繊維芽細胞における結果を示し、
図3Gは、ヒトHEK293における結果を示す。
図3A〜
図3G中、CTLは、GFP CTL溶液を用いた場合の結果を示し、G1Nは、G1N溶液を用いた場合の結果を示す。なお、縦軸は、GAPDH遺伝子に対するインスリン遺伝子の相対発現量を示す。
図3A〜
図3Gの結果から、マウス繊維芽細胞以外の細胞においても、G1N溶液を用いることにより、インスリン遺伝子の発現が確認された。
したがって、本発明の製造方法により、様々な体細胞を用いて、膵内分泌細胞を製造できることが示された。
【0086】
(試験例4:GLISファミリーの分化転換能)
<細胞の調製>
試験例1と同様にして、dMEFを調製した。
【0087】
<レトロウイルスの作製>
−プラスミドDNAの調製−
[pMX−GFPベクター]
試験例1と同様にして、pMX−GFPベクターを調製した。
【0088】
[pMX−GLIS1ベクター]
試験例1と同様にして、pMX−GLIS1ベクターを調製した。
【0089】
[pMX−GLIS3ベクター]
pMX−GLIS3ベクターは、GLIS3タンパク質の全長をコードする遺伝子をpMXベクター(東京大学医学研究所より入手)のマルチクローニングサイトに組み込んだものである。なお、前記GLIS3タンパク質の全長をコードする遺伝子の配列は、NCBIでは、アクセッション番号NM_175459で登録されている。
【0090】
[pMX−Neurogenin3ベクター]
試験例1と同様にして、pMX−Neurogenin3ベクターを調製した。
【0091】
[pMX−Pdx1ベクター]
試験例1と同様にして、pMX−Pdx1ベクターを調製した。
【0092】
−レトロウイルスの作製−
前記プラスミドDNAを用いた以外は、試験例1と同様にしてウイルス粒子を含む培養上清を調製し、ウイルス溶液とした。
【0093】
<導入>
下記ウイルス溶液を用いた以外は、試験例1と同様にして、前記dMEFへ前記レトロウイルスを感染させることにより、遺伝子を細胞に導入した。
[ウイルス溶液]
(1)pMX−GFPベクター由来のウイルス溶液(コントロール、以下、「GFP CTL溶液」と称することがある)
(2)pMX−GLIS1ベクター由来のウイルス溶液(以下、「G1溶液」と称することがある)
(3)pMX−GLIS3ベクター由来のウイルス溶液(以下、「G3溶液」と称することがある」)
(4)pMX−GLIS1ベクター由来のウイルス溶液及びpMX−Neurogenin3ベクター由来のウイルス溶液(以下、「G1N溶液」と称することがある)
(5)pMX−GLIS3ベクター由来のウイルス溶液及びpMX−Neurogenin3ベクター由来のウイルス溶液(以下、「G3N溶液」と称することがある)
(6)pMX−GLIS1ベクター由来のウイルス溶液、pMX−Neurogenin3ベクター由来のウイルス溶液、及びpMX−Pdx1ベクター由来のウイルス溶液(以下、「G1NP溶液」と称することがある)
(7)pMX−GLIS3ベクター由来のウイルス溶液、pMX−Neurogenin3ベクター由来のウイルス溶液、及びpMX−Pdx1ベクター由来のウイルス溶液(以下、「G3NP溶液」と称することがある)
【0094】
<dMEF由来インスリン産生細胞数の決定>
前記導入11日間後の細胞を用いた以外は、試験例1と同様にしてDsRed2陽性インスリン産生細胞数を数えた。
【0095】
DsRed2陽性インスリン産生細胞数を数えた結果を
図4A〜
図4Dに示す。
図4Aは、左側から順に、ウイルス溶液として、GFP CTL溶液を用いた場合(GFP)、G1溶液を用いた場合(G1)、G1N溶液を用いた場合(G1N)の結果を示し、
図4Bは、左側から順に、ウイルス溶液として、GFP CTL溶液を用いた場合(GFP)、G1溶液を用いた場合(G1)、G1NP溶液を用いた場合(G1NP)の結果を示し、
図4Cは、左から順に、ウイルス溶液として、GFP CTL溶液を用いた場合(GFP)、G3溶液を用いた場合(G3)、G3N溶液(G3N)を用いた場合の結果を示し、
図4Dは、左から順に、ウイルス溶液として、GFP CTL溶液を用いた場合(GFP)、G3溶液を用いた場合(G3)、G3NP溶液を用いた場合(G3NP)の結果を示す。なお、縦軸は、1ウェルあたりのDsRed2陽性インスリン産生細胞数を示す。
図4A〜
図4Dの結果から、GLISファミリーであるGLIS3を用いた場合でも、Neurogenin3、又はNeurogenin3及びPdx1と共に体細胞に導入することにより膵内分泌細胞を製造することができた。そのため、GLISファミリーをNeurogenin3、又はNeurogenin3及びPdx1と共に体細胞に導入することにより膵内分泌細胞を製造することができることが示唆された。また、GLIS1とGLIS3とを比較すると、GLIS1を用いた場合のほうが、分化転換効率が10倍程度優れていることが示された。
【0096】
(試験例5:各種体細胞からの膵内分泌細胞の製造−2)
<細胞の調製>
以下の細胞を用意した。
(1)ヒトT98Gグリオブラストーマ
理化学研究所BRCより入手した。
(2)ヒト間葉系幹細胞
ロンザ株式会社より入手した。
【0097】
<レトロウイルスの作製>
試験例3におけるヒト細胞用レトロウイルスの作製と同様にして、pMX−GLIS1ベクター由来のウイルス溶液、pMX−Neurogenin3ベクター由来のウイルス溶液、pMX−Pdx1ベクター、及びpMX−GFPベクター由来のウイルス溶液を作製した。
【0098】
<導入>
ウイルス溶液として、GFP CTL溶液、G1N溶液、又はG1NP溶液を用い、試験例1と同様にして、前記各細胞へ前記レトロウイルスを感染させることにより、遺伝子を細胞に導入した。
【0099】
<定量PCR解析>
試験例3と同様にして、定量PCR解析を行い、GAPDH遺伝子に対するインスリン遺伝子の相対発現量を調べた。
【0100】
定量PCR解析の結果を
図5A〜
図5Bに示す。
図5Aは、ヒトT98Gグリオブラストーマにおける結果を示し、
図5Bは、ヒト間葉系幹細胞における結果を示す。
図5A〜
図5B中、CTLは、GFP CTL溶液を用いた場合の結果を示し、G1Nは、G1N溶液を用いた場合の結果を示し、G1NPは、G1NP溶液を用いた場合の結果を示す。なお、縦軸は、GAPDH遺伝子に対するインスリン遺伝子の相対発現量を示す。
図5A〜
図5Bの結果から、ヒトT98Gグリオブラストーマ、ヒト間葉系幹細胞を用いた場合にも、G1N溶液、又はG1NP溶液を用いることにより、インスリン遺伝子の発現が観察された。
したがって、本発明の製造方法により、様々な体細胞を用いて、膵内分泌細胞を製造できることが示された。
【0101】
(試験例6:マウス膵島との比較)
<細胞の調製>
試験例1と同様にして、dMEFを調製した。
【0102】
<レトロウイルスの作製>
試験例1と同様にして、pMX−GLIS1ベクター由来のウイルス溶液、pMX−Neurogenin3ベクター由来のウイルス溶液、及びpMX−Pdx1ベクター由来のウイルス溶液を作製した。
【0103】
<導入>
ウイルス溶液としてG1NP溶液を用い、試験例1と同様にして、前記dMEFへ前記レトロウイルスを感染させることにより、遺伝子を細胞に導入した。
【0104】
<顕微鏡観察>
前記導入の16日間後の細胞の様子を顕微鏡(FLUO
TM、ライカ社製、AxioCam HRc、カールツアイス社製、×4倍)で観察した。また、マウス膵臓より単離した膵島についても顕微鏡で観察した。
【0105】
顕微鏡観察の結果を
図6A〜
図6Bに示す。
図6Aは、マウス膵臓より単離した膵島の様子を示し、
図6Bは、ウイルス溶液としてG1NP溶液を用いた結果を示す。
図6A〜
図6Bの結果から、本発明の製造方法で得られた膵内分泌細胞塊は、マウス膵臓より単離した膵島に似たものであることが確認された。
【0106】
(試験例7:グルコース応答性インスリン分泌試験−1)
<細胞の調製>
試験例1と同様にして、dMEFを調製した。
【0107】
<レトロウイルスの作製>
試験例1と同様にして、pMX−GLIS1ベクター由来のウイルス溶液、pMX−Neurogenin3ベクター由来のウイルス溶液、及びpMX−Pdx1ベクター由来のウイルス溶液を作製した。
【0108】
<導入>
ウイルス溶液としてG1NP溶液を用い、試験例1と同様にして、前記dMEFへ前記レトロウイルスを感染させることにより、遺伝子を細胞に導入した。
【0109】
<グルコース応答性インスリン分泌試験>
前記導入の27日間後に、実体顕微鏡下で、直径100μm〜300μmの均一な膵島様塊30個をピペットでピックアップし、24ウェルプレートへ移し、以下のようにしてグルコース応答性インスリン分泌試験を実施した。
【0110】
前記膵島様塊を2.8mM グルコース入りリンゲル溶液で3時間培養した後、培地を交換し、更に1時間培養し、この培養上清を基礎とした(以下、「基礎培養上清」と称することがある)。
次いで、前記膵島様塊を16.8mM グルコース入りリンゲル入り溶液で1時間培養し、その培養上清を1.5mLチューブへ移した(以下、「高グルコース培養上清」と称することがある)。
その後、ウェルに2.8mMグルコース入りリンゲル溶液を入れ、前記膵島様塊を1時間培養後、その培養上清を1.5mLチューブへ移した(以下、「低グルコース培養上清」と称することがある)。
【0111】
前記各培養上清におけるインスリン濃度を、ELISA試験(株式会社シバヤギ製、Tタイプ)により測定した。結果を
図7に示す。
図7は、2つのウェルのそれぞれの結果を示し、(1)は基礎培養上清の結果、(2)は高グルコース培養上清の結果、(3)は低グルコース培養上清の結果を示す。
図7の結果から、グルコース濃度が高くなるとインスリンの量が上昇し、グルコース濃度が低くなるとインスリンの濃度が減少することが確認された。したがって、本発明の製造方法で得られた膵内分泌細胞は、膵内分泌細胞に求められる機能を有していることが確認された。
【0112】
(試験例8:グルコース応答性インスリン分泌試験−2)
<細胞の調製>
ヒト新生児繊維芽細胞(NHDF)(宝酒造株式会社製)を用意した。
【0113】
<レトロウイルスの作製>
試験例3におけるヒト細胞用レトロウイルスの作製と同様にして、pMX−GLIS1ベクター由来のウイルス溶液、pMX−Neurogenin3ベクター由来のウイルス溶液、及びpMX−Pdx1ベクター由来のウイルス溶液を作製した。
【0114】
<導入>
ウイルス溶液としてG1NP溶液を用い、24ウェルプレートを用いた以外は、試験例1と同様にして、前記ヒト新生児繊維芽細胞(NHDF)へ前記レトロウイルスを感染させることにより、遺伝子を細胞に導入した。
【0115】
<グルコース応答性インスリン分泌試験>
前記導入の34日間後に、膵島様塊全てをピペットでピックアップし、24ウェルプレート(低接着プレート(EZ−BindShut II、イワキ社製))へ移し、以下のようにしてグルコース応答性インスリン分泌試験を実施した。
【0116】
前記膵島様塊を2.8mM グルコース入りリンゲル溶液で3時間培養した後、培地を交換し、更に1時間培養し、この培養上清を基礎とした(以下、「基礎培養上清」と称することがある)。
次いで、前記膵島様塊を25.0mM グルコース入りリンゲル入り溶液で1時間培養し、その培養上清を1.5mLチューブへ移した(以下、「高グルコース培養上清」と称することがある)。
【0117】
前記各培養上清におけるインスリン濃度を、ELISA試験(ヒトインスリンELISAキット、Mercodia社製)により測定した。結果を
図8に示す。
図8中、「低」は基礎培養上清の結果、「高」は高グルコース培養上清の結果を示す。
図8の結果から、ヒト由来細胞を用いて製造した場合でも、グルコース濃度が高くなるとインスリンの量が上昇し、グルコース濃度が低くなるとインスリンの濃度が減少し、膵内分泌細胞に求められる機能を有していることが確認された。
【0118】
(試験例9:エピゾーマルベクターを用いた膵内分泌細胞の製造)
<細胞の調製>
試験例1と同様にして、dMEFを調製した。
【0119】
<エピゾーマルベクターの調製>
[pCI−GFPベクター]
pCI−GFPベクターは、GFPタンパク質の全長をコードする遺伝子を、エピゾーマルベクターであるpCIベクター(プロメガ社製)のマルチクローニングサイトに組み込んだものである。なお、前記GFPタンパク質の全長をコードする遺伝子の配列は、NCBIでは、アクセッション番号L29345で登録されている。
【0120】
[pCI−GLIS1ベクター]
pCI−GLIS1ベクターは、GLIS1タンパク質の全長をコードする遺伝子を、エピゾーマルベクターであるpCIベクター(プロメガ社製)のマルチクローニングサイトに組み込んだものである。なお、前記GLIS1タンパク質の全長をコードする遺伝子の配列は、NCBIでは、アクセッション番号NM_147221で登録されている。
【0121】
[pCI−Neurogenin3ベクター]
pCI−Neurogenin3ベクターは、Neurogenin3タンパク質の全長をコードする遺伝子を、エピゾーマルベクターであるpCIベクター(プロメガ社製)のマルチクローニングサイトに組み込んだものである。なお、前記Neurogenin3タンパク質の全長をコードする遺伝子の配列は、NCBIでは、アクセッション番号NM_009719で登録されている。
【0122】
[pCI−Pdx1ベクター]
pCI−Pdx1ベクターは、Pdx1タンパク質の全長をコードする遺伝子を、エピゾーマルベクターであるpCIベクター(プロメガ社製)のマルチクローニングサイトに組み込んだものである。なお、前記Pdx1タンパク質の全長をコードする遺伝子の配列は、NCBIでは、アクセッション番号NM_008814で登録されている。
【0123】
<導入>
前記dMEFへ、Neon(登録商標)トランスフェクションシステム(ライフテクノロジーズ社製)を用いたエレクトロポレーション法により、下記ベクターを導入した。ベクター導入後、37℃、5%CO
2インキュベータ内で培養した。培養中は、2日間又は3日間毎に培地(DMEM(10%FBS含有))交換を行った。
[ベクター]
(1)pCI−GFPベクター(コントロール、以下、「GFP」と称することがある)
(2)pCI−GLIS1ベクター、及びpCI−Neurogenin3ベクター(以下、「G1N」と称することがある)
(3)pCI−GLIS1ベクター、pCI−Neurogenin3ベクター、及びpCI−Pdx1ベクター(以下、「G1NP」と称することがある)
【0124】
<dMEF由来インスリン産生細胞の決定>
前記導入8日間後の細胞を用いた以外は、試験例1と同様にしてDsRed2陽性インスリン産生細胞数を数えた。
【0125】
DsRed2陽性インスリン産生細胞数を数えた結果を
図9に示す。
図9中、横軸は、導入したエピゾーマルベクターを示し、左から順に、GFP、G1N、G1NPの結果を示す。なお、縦軸は、1ウェルあたりのDsRed2陽性インスリン産生細胞数を示す。
図9の結果から、エピゾーマルベクターを用いた場合でも、(I)GLIS1遺伝子、及びNgn3遺伝子を導入するか、(II)GLIS1遺伝子と、Ngn3遺伝子と、Pdx1遺伝子とを導入することにより、体細胞から膵内分泌細胞を製造できることが示された。
【0126】
本発明の体細胞に遺伝子乃至その遺伝子産物を導入する工程を含む膵内分泌細胞の製造方法は、従来のES細胞又はiPS細胞を用い、培地中に発生阻害剤等を添加するなどの培養環境を整え、膵内分泌細胞を製造する方法と比較して、簡便で、且つ再現が容易な方法であり、また、製造期間を大幅に短縮することができる。また、本発明の製造方法によれば、膵内分泌細胞を効率良く生産することができる。
また、本発明の製造方法によれば、腫瘍形成のリスクを有するiPS細胞を経ずに膵内分泌細胞を製造することができる点でも有利である。
そのため、本発明の膵内分泌細胞の製造方法は、例えば、糖尿病に対する再生医療用途の膵内分泌細胞の製造などに好適に利用可能である。
【0127】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> GLISファミリー遺伝子乃至その遺伝子産物と、Neurogenin3遺伝子乃至その遺伝子産物とを体細胞に導入する導入工程を含むことを特徴とする膵内分泌細胞の製造方法である。
<2> 導入工程が、更にPdx1遺伝子乃至その遺伝子産物を体細胞に導入する前記<1>に記載の膵内分泌細胞の製造方法である。
<3> GLISファミリー遺伝子乃至その遺伝子産物が、GLIS1遺伝子乃至その遺伝子産物である前記<1>から<2>のいずれかに記載の膵内分泌細胞の製造方法である。
<4> 体細胞が、繊維芽細胞及び間葉系幹細胞のいずれかである前記<1>から<3>のいずれかに記載の膵内分泌細胞の製造方法である。
<5> 膵内分泌細胞が、β細胞である前記<1>から<4>のいずれかに記載の膵内分泌細胞の製造方法である。
<6> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の膵内分泌細胞の製造方法により製造されたことを特徴とする膵内分泌細胞である。
<7> 膵内分泌細胞が、β細胞である前記<6>に記載の膵内分泌細胞である。
<8> 体細胞を膵内分泌細胞へ分化転換する分化転換剤であって、
GLISファミリー遺伝子乃至その遺伝子産物と、Neurogenin3遺伝子乃至その遺伝子産物とを含むことを特徴とする分化転換剤である。
<9> 更にPdx1遺伝子乃至その遺伝子産物を含む前記<8>に記載の分化転換剤である。
<10> GLISファミリー遺伝子乃至その遺伝子産物が、GLIS1遺伝子乃至その遺伝子産物である前記<8>から<9>のいずれかに記載の分化転換剤である。
<11> 体細胞が、繊維芽細胞及び間葉系幹細胞のいずれかである前記<8>から<10>のいずれかに記載の分化転換剤である。
<12> 膵内分泌細胞が、β細胞である前記<8>から<11>のいずれかに記載の分化転換剤である。