(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記クラック用障害部材が、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン及びポリフェニレンエーテルからなる群から選択された一種又は二種以上からなる請求項1から4のいずれかに記載の点火コイル装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
二次コイルは、筒状のボビンの外周に、二次ワイヤを巻回すことで形成されている。ボビンをその延在方向に垂直な断面でみたとき、ボビンの外周の形状は、角が丸みを帯びた矩形状を呈する。このため、この外周に巻回された二次ワイヤも、この角の部分で湾曲している。二次コイルに高電圧が発生したとき、この二次ワイヤの湾曲した部分で、電界の集中が起こる。この電界が集中した部分から、放電が起こることがある。この放電は、隙間充填物のクラックの原因となりうる。点火コイル装置の使用を続けるうちに、このクラックがケースの開口側に成長して、隙間充填物の上面まで達することがある。隙間充填物の上面は外部に露出しているため、これは、点火コイル装置内に水分が侵入する原因となる。これまで、二次コイルからの放電に起因するクラックの成長を抑えた点火コイル装置は、報告されていない。
【0007】
本発明の目的は、隙間充填物でのクラックが抑えられた矩形型の点火コイル装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る点火コイル装置は、コイル体と、このコイル体を収容するケースと、このケース内部の隙間を埋める熱硬化性樹脂からなる隙間充填物とを備えている。上記ケースは、開口面と、この開口面の反対側に位置する底面とを備えている。上記コイル体は、一次コイルと、この一次コイルの外側に形成された二次コイルと、クラック用障害部材とを備えている。上記一次コイル、上記二次コイル及び上記クラック用障害部材は、上記隙間充填物に埋没されている。上記クラック用障害部材は、上記二次コイルにおいて電界の集中が発生する部分と、上記隙間充填物の上記開口面側の面との間に位置する。
【0009】
好ましくは、この点火コイル装置は、上記一次コイルの中央を貫通するI字鉄心と、このI字鉄心の一方の端から上記二次コイルの上記開口面側を通り上記I字鉄心の他方の端にまで至る外周鉄心と、この外周鉄心に被せられたキャップとをさらに備えている。上記クラック用障害部材は、上記キャップの両側面から、上記底面側向きでかつこのキャップの幅方向外向きに延びている。
【0010】
好ましくは、上記クラック用障害部材は、上記隙間充填物よりシャルビー衝撃値が高い樹脂からなる。
【0011】
好ましくは、上記クラック用障害部材は、上記隙間充填物より比重が小さい樹脂からなる。
【0012】
好ましくは、上記隙間充填物は、エポキシ樹脂からなる。
【0013】
好ましくは、上記クラック用障害部材は、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン及びポリフェニレンエーテルからなる群から選択された一種又は二種以上からなる。
【0014】
好ましくは、上記クラック用障害部材は、その上記開口面側の面から上記底面側の面まで貫通する孔を備えている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る点火コイル装置では、クラック用障害部材が、二次コイルの電界の集中が発生する部分と、隙間充填物の開口面側の面(上面)との間に位置している。このクラック用障害部材は、二次コイルの電界が集中が発生する部分の近傍において隙間充填物に発生したクラックが、隙間充填物の上面に向けて成長するのを抑制する。この点火コイル装置では、クラックが隙間充填物の上面にまで至ることが抑制されている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0018】
図1に、本発明の一実施形態に係る点火コイル装置2が示されている。この点火コイル装置2は、矩形型である。
図1において矢印Xはこの点火コイル装置2の前方を表す。この逆が後方である。矢印Yはこの点火コイル装置2の右方向を表す。この逆が左方向である。矢印Zはこの点火コイル装置2の上方向を表す。この逆が下方向である。
図2は、
図1の点火コイル装置2の分解斜視図である。
図3は、
図1のIII−III線に沿った断面図である。上記矢印X、Y及びZは、
図2及び3においても同じ意味を表す。上記矢印X、Y及びZは、後述する
図4及び5においても同じ意味を表す。この点火コイル装置2は、本体4、コネクタ部6、フランジ部8及び高電圧出力部10を備える。
【0019】
本体4は、点火コイル装置2の中央に位置する。本体4は、箱状を呈する。
図1−3に示されるように、本体4は、ケース12、コイル体14、イグナイタ16及び隙間充填物18を備えている。なお、
図2では、隙間充填物18は省略されている。
【0020】
図2に示されるように、ケース12は、中身が空洞の箱状を呈する。ケース12は、上面が開口している。すなわち、ケース12の上面は、開口面である。ケース12の前面からコネクタ部6が延びており、ケース12の後面からフランジ部8が延びており、ケース12の開口面と反対側の面(底面)から高電圧出力部10が延びている。この実施形態では、ケース12は、コネクタ部6、フランジ部8及び高電圧出力部10と一体として形成されている。ケース12は、樹脂からなる。ケース12の好ましい材質として、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)及びPET(ポリエチレンテレフタレート)が例示される。
【0021】
図2及び3に示されるように、イグナイタ16は、ケース12の中に収容される。
図1及び3から明らかなように、イグナイタ16は、その全体が隙間充填物18に埋没されている。イグナイタ16は、コイル体14とコネクタ部6との間に位置する。イグナイタ16は、素子内蔵部20と複数の端子22とを備えている。この実施形態では、イグナイタ16は、6本の端子22を備えている。素子内蔵部20は、箱状を呈する。それぞれの端子22は、素子内蔵部20の上面から上側に突出している。それぞれの端子22は、素子内蔵部20の開口面側の面から開口面側に突出している。
【0022】
図1−3に示されるように、コイル体14は、ケース12の中に収容される。
図3において、点線Mは、隙間充填物18の開口面側の面(上面)を表す。
図1及び3に示されるように、コイル体14は、その開口面側の一部が、隙間充填物18の上面から外部に露出している。コイル体14のその他の部分は、隙間充填物18に埋没されている。コイル体14は、一次ボビン24、一次コイル26、二次ボビン28、二次コイル30、I字鉄心32、外周鉄心34、キャップ36、クラック用障害部材37及びカバー38を備える。
【0023】
一次ボビン24は、筒状を呈する。一次ボビン24は前後方向に延びている。一次ボビン24は、樹脂よりなる。一次コイル26は、一次ボビン24の外周に一次ワイヤ40を巻回すことで形成されている。
図3には、一次ボビン24の断面及びこれに巻回された一次ワイヤ40の断面が示されている。典型的には、一次ワイヤ40の巻き数は、100回程度である。一次ワイヤ40の典型的な材質は銅(Cu)である。
【0024】
二次ボビン28は、筒状を呈する。二次ボビン28は前後方向に延びている。二次ボビン28は、一次コイル26の外側に位置している。二次ボビン28は、樹脂よりなる。
図3に示されるように、二次ボビン28は、胴部42と、この胴部42から外側に突出した複数の鍔44とを備える。
図2では、鍔44のみが見えている。
【0025】
図4は、
図2のコイル体14の正面図である。
図4で示されるように、正面視において、二次ボビン28の外周は、その四つの角が丸みを帯びた矩形状を呈する。すなわち、図示されないが、この二次ボビン28の延在方向に垂直な断面において、二次ボビン28の外周は、四つの角が丸みを帯びた矩形状を呈する。
図4では、鍔44の外周のみが見えているが、胴部42の外周も、四つの角が丸みを帯びた矩形状を呈する。
【0026】
二次コイル30は、二次ボビン28の外周に二次ワイヤ46を巻回すことで形成されている。二次ワイヤ46は、隣接する二つの鍔44の間において、胴部42の外周に巻回されている。このため、二次ワイヤ46は、胴部42の丸みを帯びた部分において、この外周に沿って湾曲している。後述するとおり、二次コイルでは、高電圧が発生する。このとき、この二次ワイヤ46が湾曲した部分で、電界の集中が発生する。本明細書では、二次コイル30においてこの電界の集中が発生する部分は、「電界集中部分」と称される。典型的には、二次ワイヤ46の巻き数は、8000回から15000回である。二次ワイヤ46の典型的な材質は銅(Cu)である。
【0027】
図3で示されるように、I字鉄心32は、一次コイル26の中央を貫通している。外周鉄心34は、I字鉄心32の一方の端から、上記二次コイル30の開口面側を通り、I字鉄心32のもう一方の端まで至っている。I字鉄心32と外周鉄心34とで、鉄心のループを形成している。典型的には、I字鉄心32及び外周鉄心34は、珪素鋼よりなる。
【0028】
図5は、
図2のコイル体14の分解斜視図である。
図5には、コイル体14が、キャップ36及びクラック用障害部材37と、それ以外の部分に分解された図が示されている。キャップ36は、外周鉄心34の上部に被せられている。キャップ36は、外周鉄心34の開口面側の部分を覆う。
図1に示されるように、キャップ36は、隙間充填物18から露出している。キャップ36は、外周鉄心34を外部から保護している。キャップ36は、耐久性に優れた樹脂からなる。キャップ36の好ましい材質として、PBT、PPS及びPETが例示される。
【0029】
クラック用障害部材37は、キャップ36の両側面から底面側向きでかつキャップ36の幅方向外向きに延びている。すなわち、キャップ36の右側面から右下方向に延びるクラック用障害部材37と、キャップ36の左側面から左下方向に延びるクラック用障害部材37とが存在する。クラック用障害部材37は、キャップ36と一体として形成されている。クラック用障害部材37は板状を呈する。
図4で示されるように、これらのクラック用障害部材37は、二次ボビン28の、丸みを帯びた四つの角の部分のうち、開口面側に位置する二つの部分の近傍まで至っている。クラック用障害部材37は、これらの丸みを帯びた部分に位置する、二次ワイヤ46の湾曲部分の近傍にまで至っている。すなわち、クラック用障害部材37は、電界集中部分の近傍まで至っている。このコイル体14がケース12に格納され、隙間充填物18がケース12内の隙間を埋めたとき、上記の電界集中部分と隙間充填物18の上面との間には、クラック用障害部材37が存在している。
【0030】
図2及び5に示されるように、クラック用障害部材37はその厚み方向に貫通する孔52を備えている。クラック用障害部材37はその開口面側の面から底面側の面まで貫通する孔52を備えている。この実施形態では、それぞれのクラック用障害部材37は、二つの孔52を備えている。
【0031】
図2、
図4及び
図5に示された実施形態では、クラック用障害部材37は、キャップ36の両側面から底面側向きでかつキャップ36の幅方向外向きに延びている。クラック用障害部材37は、この方向に延びていなくてもよい。クラック用障害部材37が、底面側に傾斜することなく、キャップ36の幅方向外向きに延びていてもよい。クラック用障害部材37が、開口面側に傾斜して延びていてもよい。クラック用障害部材37が、途中で折れ曲がりを有していてもよい。さらにクラック用障害部材37は、厚みが厚い角材状であってもよい。クラック用障害部材37は、電界集中部分と隙間充填物18の上面との間に位置していればよい。
【0032】
図2、
図4及び
図5に示された実施形態では、クラック用障害部材37は、キャップ36と一体として形成されいる。クラック用障害部材37は、キャップ36と一体として形成されていなくてもよい。
【0033】
カバー38は、外周鉄心34を覆っている。
図5で示されるように、カバー38は外周鉄心34の一方の側面を覆っている。図示されないが、カバー38は外周鉄心34の他方の側面も覆っている。
図3及び5で示されるように、カバー38は外周鉄心34の前面及び後面も覆っている。すなわち、カバー38は外周鉄心34の開口側の面(上面)に垂直な四つの面を覆っている。
図5で示されるように、カバー38は、外周鉄心34の上面の前端及び後端の部分を覆っている。さらに
図3で示されるように、カバー38は、外周鉄心34の内側の面(二次コイル30と対向する面)を覆っている。カバー38は、外周鉄心34と隙間充填物18とが直接接触しないように、外周鉄心34を覆っている。カバー38は、隙間充填物18と剥離し易い性質のエラストマーよりなる。カバー38が、隙間充填物18より脆性の低い樹脂からなっていてもよい。カバー38は、熱による外周鉄心34の膨張及び伸縮に起因する、隙間充填物18のクラックを防止する。
【0034】
隙間充填物18は、ケース12にコイル体14及びイグナイタ16を収容したとき、ケース12内部に生じる隙間を埋める。隙間充填物18は、熱硬化性樹脂からなる。
図3に示されるように、外周鉄心34の開口面側の部分、カバー38の開口面側の部分及びキャップ36の開口面側の部分は、隙間充填物18の上面より外側に突出している。クラック用障害部材37、外周鉄心34の内面、二次コイル30及びイグナイタ16は、隙間充填物18の上面より底面側に位置する。換言すれば、クラック用障害部材37、外周鉄心34の内面、二次コイル30及びイグナイタ16は、隙間充填物18に埋没されている。
図3で示されるように、隙間充填物18は、ケース12の内壁とコイル体14及びイグナイタ16との隙間を埋める。さらに隙間充填物18は、コイル体14の内部において、二次コイル30と外周鉄心34との隙間も埋める。隙間充填物18は、高電圧が発生する二次コイル30を、他の部材から絶縁する。このため、隙間充填物18の材質として、絶縁性能に優れた熱硬化性樹脂が選択される。また、ケース12内の隙間の隅々まで樹脂で埋めるために、隙間充填物18の材質として、粘度が低い熱硬化性樹脂が選択される。
【0035】
前述のとおり、この点火コイル装置2は、本体4の他に、コネクタ部6、フランジ部8及び高電圧出力部10を備える。コネクタ部6は、本体4の前方に位置する。コネクタ部6は、筒状を呈する。コネクタ部6はその前方が開口されている。
図3に示されるように、コネクタ部6は、内側にコネクタ端子54を備えている。図示されないが、複数のコネクタ端子54が、左右方向に並列されている。点火コイル装置2が車両に装着されたとき、コネクタ端子54は車の制御装置(ECU)に接続される。コネクタ端子54は、イグナイタ16の端子とも接続される。
【0036】
フランジ部8は、本体4の後方に位置する。フランジ部8には、上下に貫通する孔56が設けられている。図示されないが、ボルトをこの孔56とエンジンに設けられた孔に通すことにより、点火コイル装置2はエンジンに固定される。フランジ部8により、点火コイル装置2はエンジンに堅固に固定される。
【0037】
高電圧出力部10は、本体4の下側に位置する。図示されないが、高電圧出力部10は、その内部に高電圧端子を備える。この高電圧端子は、二次コイル30の端子と接続されている。図示されないが、点火コイル装置2が車両に装着されたとき、高電圧出力部10はプラグホールに挿入される。高電圧端子は点火プラグと接続される。
【0038】
この点火コイル装置2の動作は以下の通りである。車の制御装置からの制御信号がコネクタ端子54を介して、イグナイタ16に送られる。イグナイタ16は、一次コイル26の電流の導通及び切断を制御するスイッチである。制御信号に従って、イグナイタ16は一次コイル26の電流を導通させまたは切断する。前述のとおり、二次ワイヤ46の巻き数は一次ワイヤ40の巻き数に比べて大きい。このため、一次コイル26の電流の変化により、二次コイル30に数十kVの高電圧が発生する。二次コイル30で発生した高電圧は、高電圧出力部10を通して点火プラグに引加される。これにてガソリンが点火される。制御装置は、点火プラグを通して、ガソリンに点火するタイミングを制御している。
【0039】
この点火コイル装置2の製造では、ケース12、コイル体14及びイグナイタ16が準備される。
図2に示されるように、このケース12は、コネクタ部6、フランジ部8及び高電圧出力部10と一体として形成されている。
図2に示されるように、ケース12の内部に、コイル体14及びイグナイタ16が収容される。コイル体14及びイグナイタ16は、ケース12内部の所定の位置にセットされる。イグナイタ16の端子が、コネクタ端子54及び一次コイル26と接続される。液状の隙間充填物18が、ケース12の内部に充填される。隙間充填物18は、イグナイタ16の上側から流し込まれる。隙間充填物18の液面が、所定の高さとなるまで隙間充填物18は流し込まれる。この後、この隙間充填物18は、加熱され硬化される。これにて点火コイル装置2が得られる。
【0040】
以下、本発明の作用効果が説明される。
【0041】
本発明に係る点火コイル装置2では、クラック用障害部材37が、電界集中部分と、隙間充填物18の上面との間に位置している。このクラック用障害部材37は、電界集中部分の近傍において隙間充填物18に発生したクラックが、隙間充填物18の上面に向けて成長するのを抑制する。この点火コイル装置2では、クラックが隙間充填物18の上面にまで至ることが抑制されている。
【0042】
前述のとおり、クラック用障害部材37は、キャップ36の両側面から底面側向きでかつこのキャップ36の幅方向外向きに延びるのが好ましい。このようにすることで、このクラック用障害部材37は、二次ワイヤ46の湾曲部分の近傍まで至る。すなわち、クラック用障害部材37は、電界集中部分の近傍まで至る。これは、電界集中部分の近傍において発生したクラックの成長を、効果的に防止する。この点火コイル装置2では、クラックが隙間充填物18の上面にまで至ることが抑制されている。
【0043】
クラック用障害部材37は、隙間充填物18よりも脆性の低い樹脂からなるのが好ましい。具体的には、クラック用障害部材37は、隙間充填物18よりシャルビー衝撃値が高い樹脂からなるのが好ましい。このクラック用障害部材37は、隙間充填物18と比べてクラックが生じ難い。隙間充填物18よりシャルビー衝撃値が高い樹脂をクラック用障害部材37の材質とすることで、電界集中部分の近辺において隙間充填物18に発生したクラックが、このクラック用障害部材37を越えて成長することが効果的に防止される。この点火コイル装置2では、クラックが隙間充填物18の上面にまで至ることが抑制されている。
【0044】
なお、この発明において、シャルビー衝撃値は、「JIS K−7111−1 プラスチック−シャルビー衝撃特性の求め方」で規定された試験条件「JIS K−7111−1/1eA」に準拠し、(株)東洋精機製作所製のデジタル衝撃試験器DG−UB型にて計測される。計測は、23℃の温度下で行われる。
【0045】
クラック用障害部材37の材質となる樹脂のシャルビー衝撃値は、30kJ/m
2以上が好ましい。シャルビー衝撃値が30kJ/m
2以上の樹脂をクラック用障害部材37の材質とすることで、電界集中部分の近辺において隙間充填物18に発生したクラックが、このクラック用障害部材37を越えて成長することが効果的に防止される。この点火コイル装置2では、クラックが隙間充填物18の上面にまで至ることが抑制されている。
【0046】
クラック用障害部材37は、隙間充填物18より比重の小さい樹脂よりなるのが好ましい。上記の通り、クラック用障害部材37は隙間充填物18に埋没されている。クラック用障害部材37を設けることで、隙間充填物18の上面を所望の高さとするのに必要となる隙間充填物18の量は、このクラック用障害部材37と同じ体積の分だけ少なくなる。クラック用障害部材37を隙間充填物18より比重の小さい樹脂で構成することにより、この点火コイル装置2の質量が小さくできる。これにより、点火コイル装置2の軽量化が達成される。
【0047】
隙間充填物18の材質としてはエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂は、高い絶縁性能を有する。エポキシ樹脂は、小さな体積で二次コイル30の高電圧部分の絶縁を可能とする。これは、点火コイル装置2の小型化に貢献する。これにより、小型化と優れた絶縁性能とが実現されている。さらに、硬化前のエポキシ樹脂の粘度は低い。ケース12内の隙間の隅々まで隙間充填物18を行き渡らせることができる。隙間充填物18内にボイドが残留することが抑制される。これにより、この点火コイル装置2では、高耐圧かつ高品質な絶縁性能が実現されている。
【0048】
クラック用障害部材37の材質としては、PBT、PPS、PET、ナイロン又はポリフェニレンエーテル(PPE)からなる群から選択された一種又は二種以上からなるのが好ましい。これらの樹脂のシャルビー衝撃値は高い。これらは、エポキシ樹脂よりも高いシャルビー衝撃値を有する。これらの群から選択された一種又は二種以上をクラック用障害部材37の材質とすることで、電界集中部分の近辺において隙間充填物18に発生したクラックが、このクラック用障害部材37を越えて成長することが効果的に防止される。この点火コイル装置2では、クラックが隙間充填物18の上面にまで至るのが抑制されている。さらにこれらの樹脂の比重は小さい。これらの樹脂の比重は、エポキシ樹脂よりも小さい。これらの群から選択された一種又は二種以上をクラック用障害部材37の材質とすることで、点火コイル装置2の質量が小さくできる。これにより、点火コイル装置2の軽量化が達成される。
【0049】
前述のとおり、このクラック用障害部材37はそのその開口面側の面から底面側の面まで貫通する孔52を備えているのが好ましい。さらにこの孔52は、クラック用障害部材37の根本に位置するのが好ましい。点火コイル装置2の製造において隙間充填物18をケース12に流し込んだとき、この孔52を通してクラック用障害部材37の底面側に隙間充填物18が流れ込む。このクラック用障害部材37は、隙間充填物18が隙間に流れ込む邪魔になり難い。この点火コイル装置2では、クラック用障害部材37の底面側においても、隙間充填物18により効率的にかつ隅々まで隙間を埋めることができる。これにより、この点火コイル装置2では、高耐圧かつ高品質な絶縁性能が実現されている。
【0050】
図4において、両矢印Lは、キャップ36の幅方向に計測した、クラック用障害部材37の外側の端と、二次ボビン28の外側の端との幅方向の距離を表す。すなわち、距離Lは、右方向に計測した右側のクラック用障害部材37の右側の端と二次ボビン28の右側の端との距離、または、左方向に計測した左側のクラック用障害部材37の左側の端と二次ボビン28の左側の端との距離である。この距離Lは、クラック用障害部材37の外側の端が二次ボビン28の外側の端より内側にあるときに正の値となり、クラック用障害部材37の外側の端が二次ボビン28の外側の端より外側にあるときに負の値となる。
【0051】
距離Lは、3mm以下が好ましい。距離Lを3mm以下とすることで、このクラック用障害部材37は、電界集中部分の近辺において隙間充填物18に発生したクラックが、隙間充填物18の上面に向けて成長することを効果的に防止する。この観点から、距離Lは2mm以下がより好ましい。距離Lは、−2mm以上が好ましい。距離Lを−2mm以上とすることで、このクラック用障害部材37により、点火コイル装置2が大きくなることが防止されている。
【0052】
以上説明されたとおり、本発明によれば、隙間充填物でのクラックが抑えられた矩形型の点火コイル装置が得られる。このことから、本発明の優位性は明らかである。