(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6822881
(24)【登録日】2021年1月12日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】積層造形物の製造方法及び製造システム
(51)【国際特許分類】
B22F 3/16 20060101AFI20210114BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20210114BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20210114BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20210114BHJP
【FI】
B22F3/16
B22F3/105
B33Y10/00
B33Y30/00
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-61063(P2017-61063)
(22)【出願日】2017年3月27日
(65)【公開番号】特開2018-162500(P2018-162500A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2019年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸志
(72)【発明者】
【氏名】山田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】山崎 雄幹
(72)【発明者】
【氏名】沖田 圭介
【審査官】
池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】
特表2013−501627(JP,A)
【文献】
特表2014−503385(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/184495(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0205184(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/16
B22F 3/105
B33Y 10/00−99/00
B23K 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アークを用いて溶加材を溶融及び固化し、溶融ビードを複数層積層形成して造形物を作成する積層造形物の製造方法であって、
前層の前記溶融ビードを造形する工程と、
前記前層の前記溶融ビードの温度を監視する工程と、
前記前層の造形開始点における溶融ビードの温度が、造形開始時点の温度から、次層の溶融ビードを積層してもビードの扁平化又は垂れ落ちが生じないパス間温度に冷却されるまでの冷却時間を計測する工程と、
を備え、
前記前層に積層する次層の造形を、前記前層の造形開始点における溶融ビードの温度が前記パス間温度以下となった時に開始し、且つ、前記次層の造形時間を、前記冷却時間以上に設定する、
積層造形物の製造方法。
【請求項2】
前記造形時間を、前記冷却時間に設定する請求項1に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項3】
アークを用いて溶加材を溶融及び固化し、溶融ビードを複数層積層形成して造形物を作成する積層造形物の製造方法であって、
前記アークを用いて前記溶加材を溶融及び固化し、溶融ビードを複数層積層形成して前記造形物と同一積層構造の造形モデルを作成する工程と、
前記造形モデルにおける各層の前記溶融ビードの温度を監視する工程と、
前記造形モデルにおける前記各層の造形開始点の溶融ビードの温度が、造形開始時点の温度から、次層の溶融ビードを積層してもビードの扁平化又は垂れ落ちが生じないパス間温度に冷却されるまでの各冷却時間を取得する工程と、
を備え、
前記造形物の作成時に、前記造形物の各層の造形が、当該層の一つ下の層の造形開始点における溶融ビードの形成時点から、前記造形モデルの前記下の層に該当する層の前記冷却時間が経過した後の時点で開始され、且つ、前記造形物の当該層の造形時間が、前記造形モデルの前記下の層に該当する層の前記冷却時間以上に設定される、
積層造形物の製造方法。
【請求項4】
アークを用いて溶加材を溶融及び固化し、溶融ビードを複数層積層形成して造形物を作成する積層造形物の製造方法であって、
前層の前記溶融ビードを造形する工程と、
前記前層の溶融ビードの温度を監視する工程と、
前記前層の溶融ビードの任意の造形箇所での温度が、造形開始時点の温度から、次層の溶融ビードを積層してもビードの扁平化又は垂れ落ちが生じないパス間温度に冷却されるまでの冷却時間を計測する工程と、
を備え、
前記前層の溶融ビードの造形を1本の溶接トーチで行うときの1層あたりの造形時間が前記冷却時間より長いとき、前記造形時間を前記冷却時間で除した、商の整数値に相当する本数の溶接トーチを用いて次層の前記溶融ビードの造形を行う積層造形物の製造方法。
【請求項5】
前記溶融ビードを造形する工程時の入熱量を前記溶融ビードの単位長さ当たり一定として、前記工程時の電流、電圧、及び溶接速度の少なくとも一つを変更して前記造形時間を調整する請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項6】
前記溶融ビードを造形する工程時の前記溶融ビードの断面積が一定となるように、前記工程時の電流、電圧、及び溶接速度の少なくとも一つを変更して前記造形時間を調整する請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項7】
溶融ビードを複数層積層形成して造形物を作成する積層造形物の製造システムであって、
前記造形物を互いに平行な複数の層に分割した、前記各層の形状を表す層形状データに基づいて、アークを用いて溶加材を溶融及び固化し、前記溶融ビードを複数層積層形成する積層装置と、
前記溶融ビードが形成されるごとに前記溶融ビードの温度を測定する温度センサと、
次層の前記溶融ビードの造形を、前層の造形開始点における前記溶融ビードの温度が、次層の溶融ビードを積層してもビードの扁平化又は垂れ落ちが生じないパス間温度以下となったときに開始し、前記次層の造形時間を、前記前層の造形開始点における前記溶融ビードの温度が造形開始時点の温度から前記パス間温度に冷却されるまでの冷却時間以上とするように前記積層装置を制御する制御装置と、
を有する積層造形物の製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形物の製造方法及び製造システムに関し、より詳細には、アークを用いて溶加材を溶融及び固化し、積層造形を行う積層造形物の製造方法及び製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産手段としての3Dプリンタのニーズが高まっており、特に金属材料への適用については航空機業界等で実用化に向けて研究開発が行われている。金属材料を用いた3Dプリンタは、レーザやアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させて造形物を造形する。
【0003】
従来、溶融金属を積層して造形物を造形する技術としては、溶着ビードを用いて金型を製造するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、金型の形状を表現する形状データを生成する工程と、生成された形状データに基づいて、金型を等高線に沿った積層体に分割する工程と、得られた積層体の形状データに基づいて、溶加材を供給する溶接トーチの移動経路を作成する工程と、を備える金型の製造方法が記載されている。
【0004】
また、従来、溶接による配管同士の接合方法として、溶接能率を向上させるため、前層の溶接パスで形成された溶接ビードに対するパス間温度の制限を超えない最短距離の位置に、アークを停止させた溶接トーチを移動して、次層を溶接する多層溶接方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3784539号公報
【特許文献2】特開2016−22480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、アークを用いた積層造形方法は、レーザと比較して入熱量が多く、造形効率(単位時間あたりの盛量)も高いため、冷却速度が遅くなる。
図6Aに示すように、溶接トーチ101を用いてN層の溶接ビード102を積層して積層造形物100を成形する際、N層目の溶接ビード104を造形するときに、N−1層目の溶接ビード103の温度が高いままであると、N層目のビード104が扁平化したり(
図6B参照)、垂れ落ちる(
図6C参照)等の問題が発生し、造形が不安定化する。一方、造形時間を長くすると、ビード104の扁平化や、垂れ落ちの問題はなくなるが、造形生産性が低下する問題があり、生産性を向上させるためには、1層あたりの積層時間を短くする必要性がある。
【0007】
特許文献1の製造方法では、上記のような課題について考慮されていない。特許文献2は、積層造形に関する技術ではなく、また、前層の溶接パスで形成された溶接ビードに対してパス間温度の制限を超えない最短距離の位置から次層の溶接パスを行っているので、端部位置を揃えて行う積層造形には対応することができない。
【0008】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、造形精度を確保しつつ、安定した造形が可能な積層造形物の製造方法及び製造システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) アークを用いて溶加材を溶融及び固化し、溶融ビードを複数層積層形成して造形物を作成する積層造形物の製造方法であって、
前層の前記溶融ビードを造形する工程と、
前記前層の前記溶融ビードの温度を監視する工程と、
前記前層の造形開始点における溶融ビードの温度が、造形開始時点の温度から、
次層の溶融ビードを積層してもビードの扁平化又は垂れ落ちが生じないパス間温度に冷却されるまでの冷却時間を計測する工程と、
を備え、
前記前層に積層する次層の造形を、前記前層の造形開始点における溶融ビードの温度が前記
パス間温度以下となった時に開始し、且つ、前記次層の造形時間を、前記冷却時間以上に設定する、
積層造形物の製造方法。
(2) 前記造形時間を、前記冷却時間に設定する(1)に記載の積層造形物の製造方法。
(3) アークを用いて溶加材を溶融及び固化し、溶融ビードを複数層積層形成して造形物を作成する積層造形物の製造方法であって、
前記アークを用いて前記溶加材を溶融及び固化し、溶融ビードを複数層積層形成して前記造形物と同一積層構造の造形モデルを作成する工程と、
前記造形モデルにおける各層の前記溶融ビードの温度を監視する工程と、
前記造形モデルにおける前記各層の造形開始点の溶融ビードの温度が、造形開始時点の温度から、
次層の溶融ビードを積層してもビードの扁平化又は垂れ落ちが生じないパス間温度に冷却されるまでの各冷却時間を取得する工程と、
を備え、
前記造形物の作成時に、前記造形物の各層の造形が、当該層の一つ下の層の造形開始点における溶融ビードの形成時点から、前記造形モデルの前記下の層に該当する層の前記冷却時間が経過した後の時点で開始され、且つ、前記造形物の当該層の造形時間が、
前記造形モデルの前記下の層に該当する層の前記冷却時間以上に設定される、
積層造形物の製造方法。
(4) アークを用いて溶加材を溶融及び固化し、溶融ビードを複数層積層形成して造形物を作成する積層造形物の製造方法であって、
前層の前記溶融ビードを造形する工程と、
前記前層の溶融ビードの温度を監視する工程と、
前記前層の溶融ビードの任意の造形箇所での温度が、造形開始時点の温度から、
次層の溶融ビードを積層してもビードの扁平化又は垂れ落ちが生じないパス間温度に冷却されるまでの冷却時間を計測する工程と、
を備え、
前記前層の溶融ビードの造形を1本の溶接トーチで行うときの1層あたりの造形時間
が前記冷却時間より長いとき、前記造形時間を前記冷却時間で除した、商の整数値に相当する本数の溶接トーチを用いて次層の前記溶融ビードの造形を行う積層造形物の製造方法。
(5) 前記溶融ビードを造形する工程時の入熱量を前記溶融ビードの単位長さ当たり一定として、前記工程時の電流、電圧、及び溶接速度の少なくとも一つを変更して前記造形時間を調整する(1)〜(
3)のいずれかに記載の積層造形物の製造方法。
(6) 前記溶融ビードを造形する工程時の前記溶融ビードの断面積が一定となるように、前記工程時の電流、電圧、及び溶接速度の少なくとも一つを変更して前記造形時間を調整する(1)〜(
3)のいずれかに記載の積層造形物の製造方法。
(7) 溶融ビードを複数層積層形成して造形物を作成する積層造形物の製造システムであって、
前記造形物を互いに平行な複数の層に分割した、前記各層の形状を表す層形状データに基づいて、アークを用いて溶加材を溶融及び固化し、前記溶融ビードを複数層積層形成する積層装置と、
前記溶融ビードが形成されるごとに前記溶融ビードの温度を測定する温度センサと、
次層の前記溶融ビードの造形を、前層の造形開始点における前記溶融ビードの温度が、
次層の溶融ビードを積層してもビードの扁平化又は垂れ落ちが生じないパス間温度以下となったときに開始し、前記次層の造形時間を、前記前層の造形開始点における前記溶融ビードの温度が造形開始時点の温度から前記
パス間温度に冷却されるまでの冷却時間以上とするように前記積層装置を制御する制御装置と、
を有する積層造形物の製造システム。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層造形物の製造方法及び製造システムによれば、前層の溶融ビードを造形し、温度センサにより前層の溶融ビードの温度を監視する。そして、次層の溶融ビードの造形は、前層の溶融ビードの温度が、
次層の溶融ビードを積層してもビードの扁平化又は垂れ落ちが生じないパス間温度以下となった時に開始され、また、次層の造形時間は、前層の造形開始点における溶融ビードの温度が、造形開始時点の温度から、
前記パス間温度に冷却されるまでの冷却時間以上に設定される。
これにより、造形精度を確保しつつ、安定したアークによる積層造形が可能となる。また、溶融ビードを連続積層することが可能となり、生産効率が向上する。
【0011】
また、本発明の積層造形物の製造方法によれば、溶融ビードを造形し、温度センサにより溶融ビードの温度を監視し、さらに、溶融ビードの温度が、造形開始時点の温度から、許容されるパス間温度に冷却されるまでの冷却時間を計測する。そして、溶融ビードを造形する際の溶接トーチの本数を、溶融ビードの1層あたりの造形時間を冷却時間で除した、商の整数値に設定する。これにより、効率よく積層造形物を成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る積層造形物の製造システムの構成を示す模式図である。
【
図2】
図1に示す積層造形物の製造システムにより製作される円筒形の積層造形物を示す斜視図である。
【
図3】溶融ビードの積層時間間隔と、単位積層高さ及びトップ層の飽和温度との関係を示すグラフである。
【
図4】積層造形物の製造システムにより製作されるコの字形の積層造形物を示す斜視図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る積層造形物の製造システムの構成を示す模式図である。
【
図6A】複数層(N層)の溶融ビードにより積層造形物が成形される状態を示す側面図である。
【
図6B】前層の溶融ビードの温度が高い状態で溶融ビードを積層したことで溶融ビードが扁平化した場合を示す模式図である。
【
図6C】前層の溶融ビードの温度が高い状態で溶融ビードを積層したことで溶融ビードに垂れ落ちが発生した場合を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の各実施形態に係る積層造形物の製造方法及び製造システムを図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術範囲を限定するものではない。
【0014】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態の積層造形物の製造システム10は、溶接ロボット20と、温度センサ30と、制御装置50と、CAD/CAM装置51と、軌道計画手段52と、メモリー53と、を備える。即ち、本実施形態では、本発明の積層装置として、既存の溶接ロボット20が用いられている。
【0015】
図2も参照して、積層造形物の製造システム10は、溶接ロボット20により溶加材(ワイヤ)Wを溶融しながら、積層造形物11の各層L1・・・Lkの形状を表す層形状データに基づいて溶接トーチ22を移動させて、溶融ビード61を複数層L1・・・Lkに亘って積層することで積層造形物11を成形する。
なお、
図1及び
図2に示す積層造形物11は、溶融ビード61を螺旋状に連続して積層する(即ち、前層の溶融ビード61の終端部と次層の溶融ビード61の始端部とが連続する)ことで、略円筒形状に成型する一例を示しているが、積層造形物11は、任意の形状に設定可能である。
【0016】
溶接ロボット20は、多関節ロボットであり、先端アーム21の先端部に溶接トーチ22を備える。先端アーム21は、3次元的に移動可能であり、先端アーム21の姿勢及び位置を制御装置50で制御することにより、溶接トーチ22は、任意の姿勢で、任意の位置に移動することができる。
【0017】
溶接トーチ22は、シールドガスが供給される不図示の略筒状のシールドノズルと、シールドノズルの内部に配置されたコンタクトチップと、コンタクトチップに保持されて溶融電流が給電される溶加材Wと、を備える。溶接トーチ22は、溶加材Wを送給しつつ、シールドガスを流しながらアークを発生させて溶加材Wを溶融及び固化し、基台60上に溶融ビード61を積層して積層造形物11を形成する。なお、溶接トーチ22は、外部から溶加材を供給する非溶極式であってもよい。
【0018】
温度センサ30は、直前に積層された溶融ビード61の温度を測定するものであり、接触式の測定センサも使用可能ではあるが、積層された溶融ビード61は高温であることから、サーモビュアや赤外線温度センサなどの非接触式の測定センサが望ましい。
なお、本実施形態では、温度センサ30は、各層の造形の始端位置の温度を測定している。
【0019】
制御装置50は、溶接ロボット20、及び温度センサ30を制御して複数の溶融ビード61を積層し、積層造形物11を成形する。
【0020】
CAD/CAM装置51は、形成する積層造形物11の形状データを作成した後、複数の層に分割して(
図2参照)各層L1・・・Lkの形状を表す層形状データを生成する。軌道計画手段52は、層形状データに基づいて溶接トーチ22の移動軌跡を生成する。メモリー53は、生成された層形状データ、溶接トーチ22の移動軌跡、パス間温度Tpなどを記憶する。
【0021】
制御装置50は、メモリー53に記憶された層形状データ、溶接トーチ22の移動軌跡、及びパス間温度Tpや、温度センサ30で測定された直前に積層された溶融ビード61の温度などに基づいて、溶接ロボット20の動きを制御する。また、制御装置50は、各層の溶融ビード61の温度が、造形開始時点の温度から、許容されるパス間温度Tpに冷却されるまでの冷却時間tcを計測するタイマー54を内蔵している。
【0022】
次に、
図2及び
図3も参照して、本実施形態の積層造形物の製造システム10により積層造形物11を成形する手順について詳述する。なお、ここでは、溶融ビード61を垂直方向に積層して略円筒形の積層造形物11を成形する場合を例にとって説明する。
【0023】
まず、CAD/CAM装置51により積層造形物11の形状を表す形状データを作成し、入力された形状データ(CADデータ)を複数の層L1…Lkに分割して、各層L1…Lkの形状を表す層形状データを生成する。各層L1…Lkの形状を表す層形状データは、溶接トーチ22の移動軌跡、即ち、溶融ビード61の積層軌跡となる。
【0024】
積層造形物11の形状データの複数層への分割は、溶融ビード61の積層方向に対して略直交方向に分割するのが好ましい。即ち、溶融ビード61を垂直方向に積層して積層造形物11を形成する場合には水平方向に分割し、溶融ビード61を水平方向に積層して積層造形物11形成する場合は、垂直方向に分割する。
【0025】
次いで、軌道計画手段52が、層形状データに基づいて、各層L1…Lkにおける溶接トーチ22の移動軌跡や、各層L1…Lkの溶融ビード61が積層された溶融ビード61の計画高さ、などの具体的な溶融ビード61の積層計画を作成する。
【0026】
図2に示すように、溶接ロボット20が、計画された移動軌跡に沿って溶接トーチ22を移動させて、前層(例えば、1層目L1)の溶融ビード61を基台60上に造形した後、温度センサ30が、積層された溶融ビード61の温度を測定する。次いで、測定位置(例えば、造形開始点)における溶融ビード61の温度が、造形開始時点の温度から、許容されるパス間温度Tpに冷却されるまでの冷却時間tcを求める。
【0027】
そして、次層(2層目)の溶融ビード61の造形は、前層(1層目)の溶融ビード61の温度が、許容されるパス間温度Tp以下となった時に開始される。これにより、次層の溶融ビード61の扁平化や垂れ落ちなどの発生が抑制される。以後、全ての層Lkに至るまで、上記と同様に、前層の温度を監視しながら、造形を繰り返すことで、良好な積層造形物11を成形することができる。
【0028】
図3は、次層の溶融ビードを積層するまでの積層時間間隔と、溶融ビードの単位積層高さ及び積層された溶融ビードの飽和温度と、の関係の一例を示すグラフであり、積層時間間隔が短くなるに従って溶融ビードの単位積層高さが低くなっている。これは、積層時間間隔が短いと、溶融ビード61の温度が許容されるパス間温度Tpまで冷却しておらず、次層の溶融ビード61の扁平化や垂れ落ちなどが発生していることを表している。一方、溶融ビードの飽和温度は、積層時間間隔が長くなるにつれて低くなっている。
【0029】
図3に示す実施例では、図中破線で示すように、単位積層高さの変化が略飽和するときの積層時間間隔tが、冷却時間tcである。従って、1層当たりの溶融ビード61の造形時間tfを冷却時間tc以上に設定すればよいことが分かる。
【0030】
また、溶融ビード61の1層あたりの造形時間tfを、冷却時間tcに設定することで、アークを一時停止させることなく、最も短時間で溶融ビード61を連続積層することが可能となり、生産効率が向上する。
【0031】
溶融ビード61の1層あたりの造形時間tfの設定は、造形工程時の入熱量を、溶融ビード61の単位長さ当たり一定として、造形工程時の電流、電圧、及び溶接速度の少なくとも一つの溶接条件を変更することで調整してもよい。
或いは、溶融ビード61の1層あたりの造形時間tfの設定は、造形工程時の溶融ビード61の断面積が一定となるように、造形工程時の電流、電圧、及び溶接速度の少なくとも一つの溶接条件を変更することで調整してもよい。これにより、高い造形効率を維持し、造形精度を確保しつつ、安定した造形が可能となる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態の積層造形物の製造方法及び製造システムによれば、前層の溶融ビードを造形し、温度センサ30により前層の溶融ビード61の温度を監視する。そして、次層の溶融ビードの造形は、前層の溶融ビード61の温度が、許容されるパス間温度Tp以下となった時に開始される。これにより、造形精度を確保しつつ、安定したアークによる積層造形が可能となる。
【0033】
即ち、前層の溶融ビード61の温度が、造形開始時点の温度から、許容されるパス間温度に冷却されるまでの冷却時間tcを計測し、溶融ビード61の1層あたりの造形時間tfが、冷却時間tc以上に設定されればよい。
なお、製造効率向上の観点からは、1層あたりの造形時間tfが冷却時間tc以上で、且つ1層あたりの造形時間tfと冷却時間tcとの差が小さくなるように造形時間tfを設定することが望ましい。
【0034】
図4は、積層する各層の溶融ビードの始端位置P1と終端位置P2とが異なる、変形例の積層造形物11を製作する場合を示している。この場合にも、次層の溶融ビード61の造形は、前層の溶融ビード61の温度が、許容されるパス間温度Tp以下となった時に開始される。
この場合、溶融ビード61の1層あたりの造形時間tfが、冷却時間tc以上となるように設定してもよいが、溶融ビード61の1層あたりの造形時間tfと溶接トーチ22の移動時間との合計が、冷却時間tc以上となるように設定されることでより生産効率を向上できる。
【0035】
なお、本実施形態の第1変形例として、予め、積層造形物11と同一の造形モデル11A(
図2参照)を、積層造形物11と同様に形成して、この造形モデル11Aの各層の温度監視及び冷却時間取得によって、造形物11を形成してもよい。
【0036】
即ち、第1変形例の積層造形物の製造方法は、アークを用いて溶加材を溶融及び固化し、溶融ビード61を複数層積層形成して造形物11と同一の造形モデル11Aを作成する。その際、造形モデル11Aにおける各層の溶融ビード61の温度を監視する。さらに、造形モデル11Aにおける各層の溶融ビード61の温度が、造形開始時点の温度から、許容されるパス間温度に冷却されるまでの各冷却時間を計測又は計算により取得する。そして、造形物11における前層の溶融ビード61に対して次層の溶融ビード61の造形は、造形モデル11Aにおける前層の溶融ビード61の造形開始時点から前層の冷却時間以上となった時点で開始される。このような第1変形例の製造方法によっても、造形精度を確保しつつ、安定したアークによる積層造形が可能となる。
また、この造形物11における溶融ビードの1層あたりの造形時間tfも、本実施形態と同様に、冷却時間に設定されれば、製造効率を向上することができる。
【0037】
なお、造形モデル11Aを形成する際の各層の溶融ビード61の造形時間は、造形モデル11Aが不安定とならないことが確実な、造形物11を形成する際の造形時間よりも長く設定される。
【0038】
また、本実施形態の第2変形例として、各層の溶融ビードの温度が、造形開始時点の温度から、許容されるパス間温度に冷却されるまでの冷却時間は、シミュレーションによって解析することで算出されてもよい。
即ち、第2変形例の積層造形物の製造方法は、各層の溶融ビード61の温度が、造形開始時点の温度から、許容されるパス間温度に冷却されるまでの冷却時間を解析する工程を、備え、各層に対して次層の溶融ビード61の造形は、各層の溶融ビード61の造形開始時点から各層の冷却時間以上となった時点で開始される。
【0039】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る積層造形物の製造方法及び製造システムについて
図5を参照して詳細に説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等部分については、同一符号を付して説明を省略或いは簡略化する。
【0040】
本実施形態では、1本の溶接トーチ22を用いて造形する溶融ビード61の1層あたりの造形時間tfが冷却時間tcに比べて非常に長い場合に、複数台の溶接トーチ22を用いて複数の溶融ビード61を同時に積層することで、生産効率が向上するものである。
【0041】
即ち、1本の溶接トーチ22を用いて造形する溶融ビード61の1層あたりの造形時間tfを冷却時間tcで除した、商の整数値に、溶融ビード61を造形する際の溶接トーチ22の本数を設定する。例えば、
図5に示すように、1本の溶接トーチ22での溶融ビード61の1層あたりの造形時間tfを冷却時間tcで除した、商の整数値が2である場合には、2本の溶接トーチ22を用いて造形が行われている。
【0042】
なお、本実施形態では、冷却時間tcは、前層の溶融ビード61において、造形開始時点の温度から、許容されるパス間温度に冷却されるまでの冷却時間を計測して、次層の溶融ビード61を造形する際に、溶接トーチ22の本数を決定している。ただし、同一の造形物を製造する場合などでは、最初の造形物を製造する際に、すべての層の溶融ビード61において、造形開始時点の温度から、許容されるパス間温度に冷却されるまでの冷却時間を計測し、最も長いものを冷却時間tcとし、この冷却時間tcに基づいて、2つ目以降の造形物を製造する際の溶接トーチ22の本数を設定してもよい。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0043】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、温度センサ30は、各層の造形の始端位置の温度を監視するものとし、測定された溶融ビード61の温度から、許容されるパス間温度になるまでの冷却時間が予め予測可能な場合には、予測される冷却時間tcに基づいて、次層の溶融ビードの造形を開始してもよい。
【0044】
また、溶融ビード61の温度の監視は、複数箇所で行われてもよく、その場合には、各監視箇所において、次層の溶融ビードが造形される際に、許容されるパス間温度以下の温度となっていることが好ましい。
【符号の説明】
【0045】
10 積層造形物の製造システム
11 積層造形物(造形物)
11A 造形モデル
20 溶接ロボット(積層装置)
30 温度センサ
50 制御装置
61 溶融ビード
L1・・・Lk 層
tc 冷却時間
tf 溶融ビードの1層あたりの造形時間
Tp パス間温度