【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、積層セラミックコンデンサの電極を形成するために用いられる導電ペーストであって、カルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂を含有するポリビニルアセタール樹脂と、有機溶剤と、導電性粉末とを含有し、前記ポリビニルアセタール樹脂は、平均重合度が200〜1500であり、カルボキシル基量が0.05〜1モル%、アセチル基量が5.01〜12.0モル%、水酸基量が16〜24モル%、アセトアセタール基量が25モル%以下であり、前記カルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂は、下記式(1−1)で表されるカルボキシル基を有する構成単位及び下記式(1−2)で表されるカルボキシル基を有する構成単位のうち少なくとも何れかを有する導電ペーストである。
【0011】
【化1】
【0012】
上記式(1−1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立し、炭素数0〜10のアルキレン基、X
1及びX
2は、それぞれ独立し、水素原子、金属原子又はメチル基を表す。上記式(1−2)中、R
3、R
4及びR
5は、それぞれ独立し、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基、R
6は炭素数0〜10のアルキレン基、X
3は水素原子、金属原子又はメチル基を表す。なお、R
1、R
2又はR
6が炭素数0のアルキレン基であるとは、R
1、R
2又はR
6が単結合であることを意味する。
以下、本発明を詳述する。
【0013】
本発明者らは、鋭意検討の結果、導電ペーストのバインダー樹脂として、特定の構造を有するカルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂を含有し、平均重合度、カルボキシル基量、アセチル基量、水酸基量、アセトアセタール基量を所定範囲内としたポリビニルアセタール樹脂を用いることで、印刷性を向上させることができることを見出した。また、該ポリビニルアセタール樹脂を用いることで、高い塗膜強度を得ることができ、かつ、清掃性に優れたペーストとすることができ、塗膜の生産性を向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
本発明の導電ペーストはポリビニルアセタール樹脂を含有する。
上記ポリビニルアセタール樹脂は特定の構造を有するカルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂を含有する。
本明細書中、カルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂とは、水酸基を有する構成単位と、アセチル基を有する構成単位と、下記式(2)で表されるアセタール基を有する構成単位とに加えて、カルボキシル基を有する構成単位を有する樹脂を意味する。
【0015】
【化2】
【0016】
上記式(2)中、R
7は水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表す。
【0017】
上記カルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂は、上記式(1−1)で表される構成単位及び上記式(1−2)で表される構成単位のうち少なくとも何れかを有する。
本発明の導電ペーストは、上記構成単位を有するカルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂をバインダー樹脂として用いるため、低極性の有機溶剤に溶解し、なおかつ導電ペーストの構成材料の一つである導電性粉末とのなじみを改善することができるので、印刷性を向上させることができる。
【0018】
上記カルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂は、上記式(1−1)で表される構成単位を有することが好ましい。
上記カルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂が上記式(1−1)で表される構成単位を有する場合、構成単位中の2つのカルボキシル基が主鎖の炭素を挟む位置に存在するので、得られる導電ペーストは導電性粉末との間で適度な相互作用を持ち、貯蔵安定性をも改善することができる。
【0019】
上記式(1−1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立し、炭素数0〜10のアルキレン基を表し、X
1及びX
2は、それぞれ独立し、水素原子、金属原子又はメチル基を表す。
【0020】
上記式(1−1)中、R
1及びR
2で表されるアルキレン基の炭素数が0〜10であると、カルボキシル基の凝集を抑制して、低極性溶剤への溶解性に優れたものとすることができる。R
1及びR
2で表されるアルキレン基の炭素数の好ましい下限は0、好ましい上限は5、より好ましい下限は1、より好ましい上限は3である。
【0021】
上記R
1及びR
2は、同一のものであってもよく、異なったものであってもよいが、異なっているものが好ましい。また少なくとも何れかが単結合であることが好ましい。
【0022】
上記炭素数0〜10のアルキレン基としては、例えば、単結合、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基等の直鎖状アルキレン基、メチルメチレン基、メチルエチレン基、1−メチルペンチレン基、1,4−ジメチルブチレン基等の分岐状アルキレン基、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロヘキシレン基等の環状アルキレン基等が挙げられる。なかでも、単結合、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基等の直鎖状アルキレン基が好ましく、単結合、メチレン基、エチレン基がより好ましい。
【0023】
上記X
1及びX
2のうち少なくとも何れかが金属原子である場合、該金属原子としては、例えば、ナトリウム原子、リチウム原子、カリウム原子等が挙げられる。なかでも、ナトリウム原子が好ましい。
【0024】
上記式(1−1)で表される構成単位は、α−ジカルボキシモノマーに由来するものであることが好ましい。α−ジカルボキシモノマーとしては、例えば、メチレンマロン酸、イタコン酸、2−メチレングルタル酸、2−メチレンアジピン酸、2−メチレンセバシン酸等のラジカル重合性不飽和二重結合を有するジカルボン酸やその金属塩又はそのメチルエステルが挙げられる。なかでも、イタコン酸やその金属塩又はそのメチルエステルが好ましく用いられる。
なお、本明細書中、α−ジカルボキシモノマーとは、α位炭素に2つのカルボキシル基を有するモノマーを表す。
【0025】
上記カルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂が上記式(1−2)で表される構成単位を有する場合、溶剤溶解性をより優れたものとすることができる。
上記式(1−2)中、R
3、R
4及びR
5は、それぞれ独立し、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、R
6は、炭素数0〜10のアルキレン基を表し、X
3は、水素原子、金属原子又はメチル基を表す。
【0026】
上記式(1−2)中、R
3、R
4及びR
5で表されるアルキル基の炭素数が1〜10であると、立体障害が生じにくく、原料合成時の重合反応を充分に進行させることができる。R
3、R
4及びR
5で表されるアルキル基の炭素数の好ましい下限は1、好ましい上限は5、より好ましい上限は3である。
【0027】
R
3及びR
4は、同一のものであってもよく、異なったものであってもよいが、同一のものがより好ましい。また、R
3、R
4及びR
5は水素原子であることが好ましい。
【0028】
上記炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、2,2−ジメチルプロピル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、2−エチルヘキシル基等の分岐状アルキル基、シクロプロピル基、シクロプロピルメチル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基等が挙げられる。なかでも、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基等の直鎖状アルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0029】
上記式(1−2)中、R
6で表されるアルキレン基の炭素数が0〜10であると、カルボキシル基の凝集が生じにくく、得られる樹脂の低極性溶剤への溶解性を充分なものとすることができる。R
6で表されるアルキレン基の炭素数の好ましい下限は0、好ましい上限は5、より好ましい下限は1、より好ましい上限は3である。
【0030】
上記式(1−2)中のR
6としては、上記式(1−1)中のR
1及びR
2で例示したものと同様のものが挙げられ、なかでも、単結合、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等の直鎖状アルキレン基が好ましく、単結合、メチレン基、エチレン基がより好ましく、単結合が更に好ましい。
【0031】
上記X
3が金属原子である場合、該金属原子としては、例えば、ナトリウム原子、リチウム原子、カリウム原子等が挙げられる。なかでも、ナトリウム原子が好ましい。
【0032】
上記式(1−2)で表される構成単位はモノカルボキシモノマーに由来するものが好ましい。モノカルボキシモノマーとしては、例えば、アクリル酸、クロトン酸、メタクリル酸、オレイン酸等のラジカル重合性不飽和二重結合を有するモノカルボン酸やその金属塩又はそのメチルエステル等が挙げられる。なかでも、クロトン酸やその金属塩又はそのメチルエステルが好ましく用いられる。
【0033】
上記特定構造を有するカルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂は、単独で用いてもよく、また、異なるものを混合して用いてもよい。
【0034】
上記特定構造を有するカルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂を合成する方法は特に限定されない。例えば、上記式(1−1)で表される構成単位となるα−ジカルボキシモノマー又は上記式(1−2)で表される構成単位となるモノカルボキシモノマーと、酢酸ビニルとを共重合させることによって得られたポリ酢酸ビニルをケン化し得られたポリビニルアルコール樹脂を、従来公知の方法によりアセタール化する方法が挙げられる。また、未変性のポリビニルアルコール樹脂をメルカプトプロピオン酸等のカルボキシル基を有する化合物と反応させて後変性して得られたカルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂を、従来公知の方法によりアセタール化する方法が挙げられる。更に、未変性のポリビニルアセタール樹脂をメルカプトプロピオン酸等のカルボキシル基を有する化合物と反応させて後変性する方法が挙げられる。
なかでも、カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂を、従来公知の方法によりアセタール化する方法が好ましい。すなわち、上記カルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂は、カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂のアセタール化物であることが好ましい。
上記カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂のアセタール化物である場合、アセチル基とカルボキシル基が比較的近い位置に存在するカルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂とすることができる。このようなカルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂は、立体障害を生じるアセチル基が、導電性粉末とのなじみを改善する効果を有するカルボキシル基の周囲に適度な空間を生じさせるため、ペースト除去性に優れたものとすることができる。
一方、未変性のポリビニルアセタール樹脂に後変性によってカルボキシル基を導入したカルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂は、カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂のアセタール化物と比べて、アセチル基とカルボキシル基が離れて存在することになる。このため、アセチル基の立体障害の効果が弱まり、充分なペースト除去性が得られないことがある。
また、上記ポリ酢酸ビニルを共重合により作製する際に用いるα−ジカルボキシモノマー又はモノカルボキシモノマーがメチルエステルであると、ケン化前に酢酸ビニル由来のアセチル基を加水分解することがないので、後のケン化工程でポリビニルアルコール樹脂を作製する際により高ケン化とすることができ、好ましい。更に、ケン化工程において、添加する水酸化ナトリウム量を削減することができることから、ポリビニルアルコール樹脂、ひいてはカルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂のナトリウムイオン含有量を減少させることが可能となる。
上記α−ジカルボキシモノマー又はモノカルボキシモノマーがメチルエステルであった場合でも、後のケン化工程によって、加水分解が行われるため、得られるポリビニルアルコール樹脂はエステルを含まないカルボン酸単位をもつものとなる。
なお、上記式(1−1)で表される構成単位となるα−ジカルボキシモノマーのうち、X
1、X
2が水素原子又は金属原子であるモノマーを用いた場合、ケン化時に酢酸ビニル由来のアセチル基の加水分解に消費される水酸化ナトリウムの量が多くなる。このため、得られるカルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂は、ナトリウムイオン含有量が比較的多いものとなることがある。
【0035】
上記アセタール化反応としては特に限定されず、従来公知の方法で行うことができる。例えば、酸触媒の存在下でポリビニルアルコール樹脂の水溶液、アルコール溶液、水/アルコール混合溶液、ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液中に各種アルデヒドを添加する方法等が挙げられる。
上記アルデヒドは特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。これらのアルデヒドのなかでは、ブチルアルデヒドを単独で用いるか、またはアセトアルデヒドとブチルアルデヒドを組み合わせて用いることが好ましい。
【0036】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲内であれば、上記カルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂に加えて、例えば未変性ポリビニルアセタール樹脂等の他のポリビニルアセタール樹脂を含有してもよい。
上記ポリビニルアセタール樹脂が未変性ポリビニルアセタール樹脂等の他のポリビニルアセタール樹脂を含有する場合、上記ポリビニルアセタール樹脂中の上記カルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂の含有量は、後述するポリビニルアセタール樹脂のカルボキシル基量等を達成することができれば特に限定されないが、好ましい下限は5重量%、好ましい上限は90重量%であり、より好ましい下限は10重量%、より好ましい上限は85重量%であり、特に好ましい下限は15重量%、特に好ましい上限は80重量%である。
【0037】
上記ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度は、下限が200、上限が1500である。平均重合度が200以上であると、導電ペーストの粘度を好適な範囲として、印刷性や貯蔵安定性に優れたものとすることができる。平均重合度が1500以下であると、上記ポリビニルアセタール樹脂の有機溶剤に対する溶解性を充分なものとして、導電ペーストの糸曳き等の発生を抑制して、印刷性に優れたものとすることができる。また、ペーストや余分な塗膜を除去する清掃性を向上させて、塗膜の生産性を向上させることができる。上記ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度の好ましい下限は250、好ましい上限は1400であり、より好ましい下限は300、より好ましい上限は1350であり、更に好ましい下限は330、更に好ましい上限は1300である。
【0038】
本明細書中、ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度は、原料であるポリビニルアルコール樹脂の平均重合度から求められる。
また、本明細書中、ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度とは、ポリビニルアセタール樹脂全体の見かけの平均重合度を意味する。即ち、例えば、ポリビニルアセタール樹脂が異なる平均重合度を有する複数の樹脂を含有する場合、ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度は、各樹脂の平均重合度にその樹脂の含有比率を掛け合わせることにより得られる各値を、合計することにより求められる。
なお、上記ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度は、JIS  K6726に基づいて測定することができる。
【0039】
上記ポリビニルアセタール樹脂のカルボキシル基量は、下限が0.05モル%、上限が1モル%である。カルボキシル基量が0.05モル%以上であると、上記ポリビニルアセタール樹脂がカルボキシル基を有することによる効果を充分に発揮させることができ、導電ペーストの印刷性を向上させて表面平滑性に優れたものとすることができ、貯蔵安定性にも優れたものとすることができる。カルボキシル基量が1モル%以下であると、上記ポリビニルアセタール樹脂の有機溶剤に対する溶解性を向上させることができる。上記ポリビニルアセタール樹脂のカルボキシル基量の好ましい下限は0.07モル%、好ましい上限は0.8モル%であり、より好ましい下限は0.1モル%、より好ましい上限は0.6モル%である。
【0040】
本明細書中、ポリビニルアセタール樹脂のカルボキシル基量とは、ポリビニルアセタール樹脂の構成単位全体に占めるカルボキシル基を有する構成単位の割合を意味する。例えば、上記式(1−1)で表される構成単位にはカルボキシル基が2つ存在しているが、1つの構成単位に存在するカルボキシル基の数にかかわらず、ポリビニルアセタール樹脂の構成単位全体に占めるカルボキシル基を有する構成単位の割合を、カルボキシル基量とする。
【0041】
また、本明細書中、ポリビニルアセタール樹脂のカルボキシル基量とは、ポリビニルアセタール樹脂全体の見かけのカルボキシル基量を意味する。即ち、例えば、ポリビニルアセタール樹脂が異なるカルボキシル基量を有する複数の樹脂を含有する場合、ポリビニルアセタール樹脂のカルボキシル基量は、各樹脂のカルボキシル基量にその樹脂の含有比率を掛け合わせることにより得られる各値を、合計することにより求められる。
特に、例えば、ポリビニルアセタール樹脂が、カルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂と未変性ポリビニルアセタール樹脂とを含有する場合、ポリビニルアセタール樹脂のカルボキシル基量は、下記式(3)により算出される。
A=B×(C/D)    (3)
上記式(3)中、Aはポリビニルアセタール樹脂のカルボキシル基量(モル%)を表し、Bはカルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂のカルボキシル基量(モル%)を表し、Cはカルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂の重量を表し、Dはポリビニルアセタール樹脂全体の重量を表す。
【0042】
上記式(3)においてBで表されるカルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂のカルボキシル基量は、上述したポリビニルアセタール樹脂のカルボキシル基量等を達成することができれば特に限定されないが、好ましい下限が0.03モル%、好ましい上限が4モル%である。
なお、上記カルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂のカルボキシル基量は、原料となるカルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂のカルボキシル基量から求められる。また、上記カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂のカルボキシル基量は、例えば、FT−IRにより測定することができる。
【0043】
上記ポリビニルアセタール樹脂において、アセチル基量の下限は5.01モル%、上限は12.0モル%である。アセチル基量が5.01モル%以上であることで、得られるポリビニルアセタール樹脂は、樹脂中で適度な立体障害を得ることができ、作業中の装置、たとえば混練に使用する3本ロールや印刷用の版からの拭き取りや清掃、またペースト換え等を容易に行うことができ、塗膜の生産性を上げることができる。アセチル基量が12.0モル%以下であると、低極性溶媒への溶解性に優れたものとすることができ、また、乾燥後の塗膜には適度な柔軟性も付与することができるため、乾燥後の塗膜強度は優れたものとすることができる。
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量の好ましい下限は5.5モル%、好ましい上限は11.0モル%である。
なお、本明細書中、上記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量は、ポリビニルアセタール樹脂全体の見かけのアセチル基量を意味し、原料となるポリビニルアルコール樹脂のアセチル基量から求めることができる。また、上記ポリビニルアルコール樹脂のアセチル基量は、JIS  K6726に基づいて測定することができる。
【0044】
上記ポリビニルアセタール樹脂において、カルボキシル基量に対するアセチル基量の比(アセチル基量/カルボキシル基量)の好ましい下限は8、好ましい上限は80である。カルボキシル基量に対するアセチル基量の比が上記範囲であることで、上記ポリビニルアセタール樹脂は立体障害が効果的に発生するため、清掃時の洗浄が容易となる。カルボキシル基量に対するアセチル基量の比が8以上であると、立体障害の効果を充分に発揮させることができ、80以下であると、カルボキシル基の効果を充分に発揮させることができ、印刷性を向上させることができる。上記ポリビニルアセタール樹脂のカルボキシル基量に対するアセチル基量の比のより好ましい下限は10、より好ましい上限は60である。
【0045】
上記ポリビニルアセタール樹脂が、アセトアセタール基を含有する場合、アセトアセタール基量の上限は25モル%であることが好ましい。アセトアセタール基量が25モル%以下であると、上記ポリビニルアセタール樹脂の立体障害の効果を充分に発揮させることができ、清掃性に優れたものとすることができる。上記ポリビニルアセタール樹脂のアセトアセタール基量の好ましい上限は22モル%であり、より好ましい上限は20モル%である。
なお、アセトアセタール基とは、上記式(2)で表されるアセタール基を有する構成単位に含まれるアセタール基のうちの、R
7がメチル基である場合のアセタール基である。また、本明細書中、ポリビニルアセタール樹脂のアセトアセタール基量とは、ポリビニルアセタール樹脂全体の見かけのアセトアセタール基量を意味する。
【0046】
上記ポリビニルアセタール樹脂において、アセトアセタール基量に対するアセチル基量の比(アセチル基量/アセトアセタール基量)の好ましい下限は0.40、より好ましい下限は0.44、好ましい上限は5.0、より好ましい上限は3.0である。
【0047】
上記ポリビニルアセタール樹脂が、ブチラール基を含有する場合、ブチラール基量の好ましい下限は40モル%、好ましい上限は80モル%である。ブチラール基量が40モル%以上であると、残存水酸基量を好適な範囲として、ポリビニルアセタール樹脂の低極性溶剤への溶解性を充分なものとすることができる。80モル%以下であると、残存水酸基を充分に有するものとすることができ、得られる導電ペーストの粘度を好適なものとして、貯蔵安定性を向上させることができる。上記ポリビニルアセタール樹脂のブチラール基量のより好ましい下限は50モル%、より好ましい上限は75モル%である。
なお、ブチラール基とは、上記式(2)で表されるアセタール基を有する構成単位に含まれるアセタール基のうちの、R
7がプロピル基である場合のアセタール基である。また、本明細書中、ポリビニルアセタール樹脂のブチラール基量とは、ポリビニルアセタール樹脂全体の見かけのブチラール基量を意味する。
上記アセトアセタール基に対するブチラール基の比率の好ましい下限は2.5である。
アセトアセタール基に対するブチラール基の比率が上記であることで、上記ポリビニルアセタール樹脂は立体障害を効果的に発揮することができ、清掃性に優れたペーストとなる。
【0048】
上記ポリビニルアセタール樹脂において、ブチラール基量に対するアセチル基量の比(アセチル基量/ブチラール基量)の好ましい下限は0.07、より好ましい下限は0.08、好ましい上限は0.25、より好ましい上限は0.20である。
【0049】
上記ポリビニルアセタール樹脂において、ブチラール基量に対するアセトアセタール基量の比(アセトアセタール基量/ブチラール基量)の好ましい下限は0.02、より好ましい下限は0.05、好ましい上限は0.5、より好ましい上限は0.3である。
【0050】
上記ポリビニルアセタール樹脂の全アセタール基量は、好ましい下限が60モル%、より好ましい下限が64モル%、好ましい上限が80モル%、より好ましい上限は76モル%である。
また、上記ポリビニルアセタール樹脂において、全アセタール基中のアセトアセタール基の割合は、好ましい下限が0モル%、好ましい上限が35モル%である。
【0051】
上記ポリビニルアセタール樹脂において、水酸基量の下限は16モル%、上限は24モル%である。上記水酸基量が16モル%以上であると、導電性粉末の凝集を抑制することができ、得られた導電ペーストの分散性を向上させて、平滑な印刷塗膜とすることができ、上記水酸基量が24モル%以下であると、本発明で用いられる低極性の有機溶剤への溶解性に優れたものとすることができる。上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量の好ましい下限は17モル%、好ましい上限は23モル%である。
なお、本明細書中、上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量は、ポリビニルアセタール樹脂全体の見かけの水酸基量を意味する。また、上記ポリビニルアセタール樹脂のアセトアセタール基量、ブチラール基量及び水酸基量は、例えば、NMRにより測定することができる。
【0052】
上記ポリビニルアセタール樹脂において、上記カルボキシル基量、アセチル基量、アセタール基量、水酸基量の合計量は99.1モル%以上であることが好ましい。
上記合計量が99.1モル%以上であることで、他の構成単位の含有量が少なくなり、本発明の効果をより一層好適に発現することができる。
【0053】
本発明の導電ペーストは、本発明の効果を阻害しない範囲内であれば、上記ポリビニルアセタール樹脂に加えて、アクリル樹脂、エチルセルロース等の他の樹脂を含有してもよい。
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、カルボキシル基の効果により、通常のポリビニルアセタール樹脂に比べて、他の樹脂との相溶性にも優れる。
【0054】
本発明の導電ペーストは、導電性粉末を含有する。
上記導電性粉末は特に限定されず、例えばニッケル、アルミニウム、銀、銅およびこれらの合金等からなる粉末が挙げられる。これらの導電性粉末は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらの中では、導電性に優れていることから、ニッケルが好ましい。
【0055】
上記導電性粉末の平均粒子径は、50〜300nmであり、かつ、形状が略球状であることが好ましい。平均粒子径が50nm以上であると、導電性粉末の比表面積を好適なものとして、導電性粉末の分散性を向上させることができる。平均粒子径が300nm以下であると、印刷後の表面平滑性を向上させることができる。なお、略球状とは、真球形状のほか、球形に近い形状の粒子も含む。
【0056】
上記導電性粉末の配合量は特に限定されないが、上記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する好ましい下限は100重量部、好ましい上限は10000重量部である。上記導電性粉末の配合量が100重量部以上であると、導電ペーストにおける上記導電性粉末の密度を充分な範囲として、導電性に優れたものとすることができる。上記導電性粉末の配合量が10000重量部以下であると、導電ペーストにおける上記導電性粉末の分散性を向上させることができ、印刷性に優れたものとすることができる。上記導電性粉末の配合量は、上記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対するより好ましい下限が200重量部、より好ましい上限が5000重量部である。
【0057】
本発明の導電ペーストは、上記導電性粉末に加えて、更に、セラミック粉末を含有することが好ましい。セラミック粉末を含有することで、焼成する際の導電性粉末の収縮挙動を、セラミックグリーンシートと合わせやすくなる。
上記セラミック粉末としては特に限定されないが、グリーンシートに用いられるチタン酸バリウムが好ましい。セラミック粉末の平均粒子径としては特に限定されないが、上記導電性粉末の平均粒子径よりも小さいものであることが好ましく、具体的には30nm〜200nmであることが好ましい。
【0058】
本発明の導電ペーストは、有機溶剤を含有する。
上記有機溶剤は一般的に導電ペーストに用いられる有機溶剤を使用することができるが、特にシートアタック現象を防止するためには、セラミックグリーンシートに含まれるポリビニルブチラール樹脂を膨潤又は溶解させない、非相溶の低極性の有機溶剤であり、その溶解度パラメータは8.5〜14.0(cal/cm
3)
0.5であることが好ましい。なお、溶解度パラメータは、Fedors法によって計算したものを用いる。
上記有機溶剤としては、例えば、ジヒドロテルピネオール、ターピニルアセテート、イソボニルアセテート、ジヒドロターピニルアセテート、ジヒドロターピニルメチルエーテル、ターピニルメチルエーテル等のテルピネオール誘導体、ミネラルスピリット等の炭化水素溶剤、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテルおよびエステルが挙げられる。なかでも、ジヒドロテルピネオール及びジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが好ましい。これらの有機溶剤は単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
上記有機溶剤の配合量は特に限定されないが、上記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する好ましい下限は100重量部、好ましい上限は10000重量部である。上記有機溶剤の配合量が100重量部以上であると、導電ペーストの粘度を好適な範囲として、印刷性を向上させることができる。上記有機溶剤の配合量が10000重量部以下であると、導電ペーストにおいて上記ポリビニルアセタール樹脂の性能を充分に発揮させることができる。上記有機溶剤の配合量は、上記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対するより好ましい下限が200重量部、より好ましい上限が5000重量部である。
【0060】
本発明の導電ペーストは、本発明の効果を損なわない範囲で、可塑剤、潤滑剤、帯電防止剤、分散剤、界面活性剤等を適宜含有してもよい。
【0061】
上記可塑剤としては特に限定されないが、例えば、ビス(2−エチルヘキシル)フタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート等のフタル酸ジエステル、ジオクチルアジペート等のアジピン酸ジエステル、トリエチレングリコール2−エチルヘキシル等のアルキレングリコールジエステル等が挙げられる。
【0062】
上記分散剤としては特に限定されないが、例えば、脂肪酸、脂肪族アミン、アルカノールアミド、リン酸エステルが好適である。また、シランカップリング剤等を配合してもよい。
上記脂肪酸としては特に限定されず、例えば、ベヘニン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、カプリン酸、カプリル酸、ヤシ脂肪酸等の飽和脂肪酸;オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ソルビン酸、牛脂脂肪酸、ヒマシ硬化脂肪酸等の不飽和脂肪酸等が挙げられる。なかでも、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が好適である。
上記脂肪族アミンとしては特に限定されず、例えば、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、セチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、アルキル(ヤシ)アミン、アルキル(硬化牛脂)アミン、アルキル(牛脂)アミン、アルキル(大豆)アミン等が挙げられる。
上記アルカノールアミドとしては特に限定されず、例えば、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド、牛脂脂肪酸ジエタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等が挙げられる。
上記リン酸エステルとしては特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルリン酸エステルが挙げられる。
【0063】
上記界面活性剤としては、特に限定されないが、陰イオン系界面活性剤としては、カルボン酸系として脂肪酸のナトリウム塩等、スルホン酸系として直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムやラウリル硫酸ナトリウム、アルキルポリオキシ硫酸塩等、リン酸系としてはモノアルキルリン酸塩等が挙げられる。陽イオン系界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩やジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩等があげられ、両性界面活性剤としてはアルキルジメチルアミンオキシドやアルキルカルボキシベタイン等が挙げられる。また、非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルや脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸ジエタノールアミド、アルキルモノグリセリルエーテル等が挙げられる。
上記分散剤や界面活性剤は、ペーストまたは樹脂溶液の経時粘度上昇抑制にも効果がある。
【0064】
本発明の導電ペーストを製造する方法は特に限定されず、例えば、上記カルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂を含有するポリビニルアセタール樹脂、上記導電性粉末、上記有機溶剤及び必要に応じて添加される他の成分を、ボールミル、ブレンダーミル、3本ロール等の混合機を用いて混合する方法等が挙げられる。
【0065】
本発明の導電ペーストをセラミックグリーンシート上に印刷プロセスにより塗布し、これを複数枚積み重ね、加熱圧着して積層体を作製した後、脱脂処理を行い、焼成してセラミック焼結体とし、更にセラミック焼結体の端面に外部電極を形成することにより、積層セラミックコンデンサを得ることができる。上記印刷プロセスとしては、スクリーン印刷やダイコート、グラビアオフセット等を用いることができる。このような積層セラミックコンデンサもまた本発明の1つである。
【0066】
本発明の導電ペーストを印刷する方法としては特に限定されないが、上述したようなスクリーン印刷やダイコート、グラビア印刷等の印刷プロセスにて行うことができる。その際の最適な粘度は、各印刷プロセスによって異なるため、適宜調整すればよいが、例えばスクリーン印刷であれば、シェアレート10000s
−1の時の粘度が0.5〜1.0Pa・sであることが好ましく、例えばグラビア印刷であればシェアレート10000s
−1の時の粘度が0.05〜0.5Pa・sであることが好ましい。