(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記還元工程で、還元加熱帯の最初のロールにおける鉄酸化層の還元温度を750℃以上とし、還元加熱帯入口から還元加熱帯の最初のロールまでの区間で鉄酸化層の還元温度が700℃以上である還元時間を20秒以上とする請求項1又は請求項2に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃費向上及び衝突安全性向上の両立の観点から、自動車の車体には軽量化かつ高強度化が求められている。このため、車体材料として、高強度化及び薄肉化が図られている高強度鋼板が用いられている。このような高強度鋼板としては、防錆性を付与した表面処理鋼板、中でも防錆性に優れる溶融亜鉛めっき鋼板や合金化溶融亜鉛めっき鋼板が挙げられる。さらに、鋼板の強度を高めるには、SiやMn等の添加が有効である。
【0003】
溶融亜鉛めっき鋼板は、一般にはスラブを熱間圧延及び冷間圧延した帯状の鋼板を母材鋼板として用い、この母材鋼板を焼鈍炉で還元性雰囲気のもとで再結晶焼鈍し、その後に溶融亜鉛めっき処理を行って製造される。しかし、鋼板に含まれるSiやMn等は、鉄の酸化が起こらない還元性の水素ガスを含有する還元性雰囲気においても酸化が進み、鋼板表面にSiやMnの酸化物を形成する。この酸化物によりめっき処理時に溶融亜鉛と鋼板との濡れ性が低下するため、SiやMn等が添加された母材鋼板を用いる場合、めっき密着性が低下し易い。
【0004】
SiやMn等が添加された母材鋼板のめっき密着性を改善する方法として、酸化加熱帯及び還元加熱帯を有する焼鈍炉を用いた酸化還元法による製造方法が実用化されている。この製造方法では、鋼板の表面に鉄の酸化膜を形成させ、この酸化膜を水素を含む還元性雰囲気中で還元した後にめっき処理を行う。このように鋼板の表面に予め鉄の酸化膜を形成することで、続く還元雰囲気中でSiやMnを鋼板の内部で酸化させ、鋼板の表面でのSiやMnの酸化を防ぐことができる。従って、焼鈍後においてめっき密着性が確保し易い。
【0005】
しかしながら、酸化還元法による製造方法では、酸化加熱帯で鋼板表面に形成された鉄酸化物が鋼板を送給するロールに付着し、鋼板に押し疵を生じさせる、いわゆるロールピックアップが生じ易い。このロールピックアップは、横型炉に比べ鋼板とロールの接触時間が長い竪型炉で特に発生し易い。
【0006】
この竪型炉のロールピックアップを防止する方法としては、例えば直火バーナー群を備えた3つ以上の加熱ゾーンを設けた加熱炉を用い、各加熱ゾーンの直火バーナーの空気比及び鋼板の加熱温度により燃焼条件を最適化することで、内部酸化量の制御を適切に行う製造方法が提案されている(特開2012−36437号公報参照)。この従来の製造方法では、直火バーナーを用いて還元を行う。この直火バーナーで燃焼させる際の残留酸素や燃焼により生じる水蒸気が酸化性を有するため、還元量が不十分となり易く、ロールピックアップの抑止効果が不十分となり易い。また、還元処理においても直火バーナーにより加熱を行うため、鉄の酸化膜の厚みの測定が難しく、鉄の酸化膜厚の制御が難しい。
【0007】
また、酸化及び還元を水蒸気を含む雰囲気中で行う製造方法も提案されている(特開2016−53211号公報参照)。この従来の製造方法では、還元焼鈍で水蒸気濃度に応じた温度での合金化処理を行うことによって、めっき密着性を確保している。しかしながら、この従来の製造方法を竪型炉に用いる場合、水蒸気による鋼板の温度低下が発生し、還元量が不十分となるおそれや、鋼材の幅方向の変形(バックリング)が発生するおそれがある。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜図面を参照しつつ本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法の実施形態について説明する。
【0019】
当該溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、例えば
図1に示すように熱間圧延工程S1と、冷間圧延工程S2と、焼鈍工程S3と、亜鉛めっき層形成工程S4と、合金化工程S5とを備える。
【0020】
[熱間圧延工程]
熱間圧延工程S1では、スラブを熱間圧延し、母材となる鋼板を得る。
【0021】
熱間圧延方法は、特に限定されず公知の方法を採用することができるが、例えば鋼を通常の溶製法によって溶製し、この溶鋼を冷却してスラブとした後、このスラブを用いて、例えば平均厚さが1mm以上5mm以下の帯状の母材となる鋼板を得る。
【0022】
<母材鋼板>
上記母材鋼板は、Siを含有する。Siは、鋼材の強度を発現しつつ、延性や加工性を確保できる元素である。Si含有量の下限としては、0.2質量%であり、0.5質量%がより好ましく、1.0質量%がさらに好ましい。一方、Si含有量の上限としては、3.0質量%が好ましく、2.5質量%がより好ましい。Si含有量が上記下限未満であると、強度及び加工性を両立させるために他の合金元素が必要となり、製造コストが増大するおそれがある。逆に、Si含有量が上記上限を超えると、後述する焼鈍工程S3の酸化工程S31で、鉄酸化層の形成が抑制されるため、Si酸化物によりめっき密着性が低下するおそれがある。
【0023】
また、上記母材鋼板は、Si以外には、Mn、C、Cr、Ti、Al、P、S等を含有してもよい。なお、上記母材鋼板の残部は鉄及び不可避的不純物である。
【0024】
特にMnは、鋼材の強度及び靭性の確保に有用な元素である。上記母材鋼板にMnを添加する場合、Mn含有量の下限としては、1.0質量%が好ましく、1.5質量%がより好ましい。一方、Mn含有量の上限としては、3.5質量%が好ましく、3.0質量%がより好ましい。Mn含有量を上記下限以上とすることで、鋼材の強度及び靭性を高めることができる。また、Mn含有量を上記上限以下とすることで、鋼材の延性の低下を抑止することができる。
【0025】
[冷間圧延工程]
冷間圧延工程S2では、熱間圧延工程S1後の鋼板を冷間圧延する。
【0026】
冷間圧延法は、特に限定されず公知の方法を採用することができる。例えば熱間圧延工程S1後の鋼板を、酸洗により表面のスケールを除去した後、常法により冷間圧延する。
【0027】
上記酸洗において、後述する焼鈍工程S3での鋼板の酸化促進の観点から、鋼板表面に粒界酸化層を残存させるとよい。粒界酸化層とは、Siを含有する鋼板の地鉄表層で結晶粒界に沿ってSiが酸化した層をいう。残存させる粒界酸化層の平均厚さとしては、5μm以上20μm以下が好ましい。なお、粒界酸化層の平均厚さは、酸洗条件により調整することができる。
【0028】
[焼鈍工程]
焼鈍工程S3では、鋼板をロールにより送給しながら連続焼鈍する。当該溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、焼鈍工程S3として、
図2に示すように酸化工程S31と、還元工程S32とを主に備える。
【0029】
焼鈍工程S3は、
図3に示す焼鈍炉を用いて行われる。
図3の焼鈍炉は、酸化加熱帯1及び還元加熱帯2をこの順に有する竪型焼鈍炉である。また、上記焼鈍炉は、酸化加熱帯1と還元加熱帯2とを接続する搬送路3を有する。
【0030】
酸化加熱帯1はロール11を有し、酸化加熱帯入口1aから装入される帯状の鋼板Mをロール11により進行方向を変えつつ送給し、酸化加熱帯出口1bより送出する。搬送路3は、その入口が酸化加熱帯出口1bに接続され、その出口は還元加熱帯入口2aに接続されている。搬送路3はロール31を有し、酸化加熱帯出口1bから送出された鋼板Mをロール31により進行方向を変えつつ送給し、還元加熱帯入口2aに装入する。還元加熱帯2はロール21を有し、還元加熱帯入口2aから装入される鋼板Mをロール21により進行方向を変えつつ送給し、還元加熱帯出口2bより送出する。上記焼鈍炉では、このように鋼板Mをロールにより送給しながら連続焼鈍できる。また、このようにロールで供給することにより、上記焼鈍炉は省スペースで実現できる。
【0031】
酸化加熱帯1は、直火バーナー12を有する。また、還元加熱帯2は気密に構成され、主に水素と窒素とを含む高温の混合ガスを還元加熱帯2の内部に導入することにより、還元雰囲気とすることができる。
【0032】
<酸化工程>
酸化工程S31では、酸化加熱帯1で、鋼板Mの表面を酸化する。この酸化により鋼板Mの表面に鉄酸化層を形成する。
【0033】
酸化加熱帯1の加熱手段としては、直火バーナー12を用いることができる。このように酸化加熱帯1の加熱手段として、直火バーナー12を用いることで、空気比の制御により酸素濃度の調整が可能であり、鉄酸化層の厚さを容易に制御することができる。また、鋼板Mの昇温速度を高めることができるので、酸化加熱帯1の炉長を短くして加熱炉を省スペース化したり、鋼板Mの送給速度を高めて製造効率を高めたりすることができる。
【0034】
酸化工程S31での酸化は、ロールピックアップが発生しない温度で行う。本発明者らは、まず鋼板Mの表面に生成された粉末状の酸化物のロール11表面への初期付着が生じ、その後に付着した酸化物(付着物)どうしが接触及び焼結することで成長し、この成長した付着物が鋼板Mに押し疵を生じさせると考えている。そして、酸化物が焼結する温度は、酸化物が生成される温度よりも高い。つまり、本発明者らは、酸化工程S31での鋼板Mの加熱温度として、鋼板Mの酸化は進行するが焼結は生じない温度、すなわちロールピックアップが発生しない温度が存在することを見出している。また、この焼結が生じない温度はロールの種類や状態によらないため、本発明者らは、鋼板Mの酸化温度T0のみを管理することで、酸化加熱帯1でのロールピックアップの発生を抑止できることを知得し、本発明を完成させた。
【0035】
酸化工程S31で鋼板Mの表面に生成される酸化物は、通常、その60体積%以上がFe
3O
4である。従って、Fe
3O
4が焼結しない温度で酸化を行うとよい。具体的には、鋼板Mの酸化温度T0の上限としては、740℃が好ましく、720℃がより好ましい。鋼板Mの酸化温度T0が上記上限を超えると、酸化物どうしの焼結が生じ、ロールピックアップが発生するおそれがある。一方、鋼板Mの酸化温度T0の下限は、鋼板Mの表面が酸化できる温度により決まるが、鋼板Mの酸化温度T0の下限としては、は600℃が好ましく、650℃がより好ましく、700℃がさらに好ましい。鋼板Mの酸化温度T0が上記下限未満であると、鉄酸化層の形成速度が低下するため、製造効率が低下するおそれがある。また、次工程である還元工程S32での還元開示時の鋼板Mの温度が低くなり、還元が不十分となるおそれがある。
【0036】
なお、鋼板Mの温度は、直火バーナー12での加熱により徐々に上昇していくため、通常、酸化加熱帯出口1bにおいて最も高い。このため、鋼板Mの酸化温度T0を上記上限以下とすることは、酸化加熱帯出口1bでの鋼板Mの温度を上記上限以下とすることと実質的に等しい。従って、この酸化温度T0の管理は酸化加熱帯出口1bで行うことができる。
【0037】
直火バーナー12の空気比(燃焼ガスに対する空気の体積比)の下限としては、0.9が好ましく、1.0がより好ましい。一方、直火バーナー12の空気比の上限としては、1.3が好ましく、1.2がより好ましい。直火バーナー12の空気比が上記下限未満であると、酸素が不足し、鋼板Mの表面を十分に酸化できないおそれがある。逆に、直火バーナー12の空気比が上記上限を超えると、酸化能力が飽和し、酸化に対する熱効率が低下するおそれがある。
【0038】
直火バーナー12による鋼板Mの昇温速度の下限としては、30℃/秒が好ましく、35℃/秒がより好ましい。一方、上記昇温速度の上限としては、100℃/秒が好ましく、50℃/秒がより好ましい。上記昇温速度が上記下限未満であると、鋼板Mを所望の酸化温度T0とするまでに時間を要するため、製造効率が低下するおそれがある。逆に、上記昇温速度が上記上限を超えると、鋼板Mの温度の制御性が低下するおそれや、急加熱による鋼板Mの変形を生ずるおそれがある。
【0039】
酸化工程S31での酸化時間は、酸化温度T0や製造効率の観点から適宜決定されるが、15秒以上180秒以下とできる。
【0040】
酸化工程S31で形成される鉄酸化層の平均厚さの下限としては、0.1μmが好ましく、0.3μmがより好ましい。一方、鉄酸化層の平均厚さの上限としては、1.5μmが好ましく、1.3μmがより好ましい。鉄酸化層の平均厚さが上記下限未満であると、めっき密着性の改善効果が不十分となるおそれがある。逆に、鉄酸化層の平均厚さが上記上限を超えると、鉄酸化層が不必要に厚く、次工程の還元工程S32で還元時間が長くなり、製造効率を低下させるおそれがある。
【0041】
なお、酸化加熱帯1で酸化された鋼板Mは、高温を維持したまま、還元加熱帯2へ搬送路3を経由して送給される。搬送路3で不要な酸化を避けるため、搬送路3は窒素雰囲気とすることが好ましい。
【0042】
<還元工程>
還元工程S32では、還元加熱帯2で、酸化工程S31で形成された鉄酸化層を還元する。この還元により、鉄酸化層が還元され、鋼板Mの表面に還元鉄層が形成される。一方、還元により鉄酸化層から供給される酸素は、鋼板Mの内部でSi等の元素を酸化する。このため、Si等の酸化物は鋼板Mの内部に留まり、鋼板Mの表面でのSi等の酸化物の生成が抑制される。従って、Si等の元素によるめっき密着性の低下を抑止できる。なお、還元工程S32は、鉄酸化層の還元が完了した後も継続され、鋼板Mが800℃以上の高温に曝されても鉄の酸化が起こらないように焼鈍される。
【0043】
還元加熱帯2での還元は、主に水素と窒素とを含む高温の混合ガスを用いて行われる。具体的には、還元加熱帯2内に上記混合ガスを充填し、還元雰囲気とする。還元加熱帯2の炉内雰囲気における水素濃度の下限としては、3体積%が好ましく、5体積%が好ましい。一方、上記水素濃度の上限としては、30体積%が好ましく、25体積%がより好ましい。上記水素濃度が上記下限未満であると、鉄酸化層の還元が不十分となるおそれがある。逆に、上記水素濃度が上記上限を超えると、還元能力の上昇に対し、必要な水素ガスの費用が嵩むため、費用対効果が不十分となるおそれがある。
【0044】
上記混合ガスの水素以外の残部は、窒素及び水分等の不可避的不純物である。上記混合ガスの露点の上限としては、0℃が好ましく、−10℃がより好ましい。上記混合ガスの露点が上記上限を超えると、鉄酸化層の還元が不十分となるおそれがある。一方、上記混合ガスの露点の下限としては、特に限定されないが、上記混合ガスの露点は通常−60℃以上である。なお、混合ガスの露点は、混合ガスに含まれる水分量により調整することができる。
【0045】
還元加熱帯2では、酸化工程S31で形成され鉄酸化層を還元加熱帯2の最初のロール(第1ロール21a)までに還元する。つまり、鉄酸化層の還元は、還元加熱帯2の第1ロール21aまでに完了する。なお、「鉄酸化層の還元の完了」とは、還元加熱帯入口2aでの鉄酸化層の平面視での面積の90%以上が還元されていることを意味する。
【0046】
本発明者らは、鉄酸酸化層の還元及びそれに継続する鉄の焼鈍には、鉄酸化物が焼結する温度より高い温度とすることが好ましいことを知得している。このため、鉄酸酸化層が残留する状態で鋼板Mが第1ロール21aに到達すると、この第1ロール21aでロールピックアップが生じると考えられる。そこで、本発明者らは、このロールピックアップの抑止について鋭意検討し、鉄酸化層を還元加熱帯2の第1ロール21aまでに還元することで解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0047】
そして、本発明者らは、鉄酸化層を還元加熱帯2の第1ロール21aまでに還元することができる条件として、還元加熱帯2の第1ロール21aにおける鉄酸化層の還元温度を750℃以上とし、還元加熱帯入口2aから還元加熱帯2の第1ロール21aまでの区間で鉄酸化層の還元温度が700℃以上である還元時間を20秒以上とするとよいことを見出した。つまり、還元加熱帯2の第1ロール21aにおける鉄酸化層の還元温度が750℃未満である場合、還元温度が700℃以上である還元時間が20秒未満である場合のいずれにおいても、鉄酸化層の還元が不十分となり、第1ロール21aでロールピックアップが生じるおそれがある。
【0048】
還元加熱帯入口2aにおける鉄酸化層の還元温度T1(以下、単に「還元温度T1」ともいう)は、主に酸化工程S31の鋼板Mの酸化温度T0により決まる。通常酸化工程S31の鋼板Mの酸化温度T0は、鉄酸化層の還元温度より低く設定されるため、還元温度T1は、還元加熱帯2の第1ロール21aにおける鉄酸化層の還元温度T2(以下、単に「還元温度T2」ともいう)よりも低く設定されることが好ましい。還元温度T1を還元温度T2よりも低く設定することで、熱効率が高まり、製造コストを低減できる。
【0049】
還元温度T1の下限としては、650℃が好ましく、700℃がより好ましい。一方、還元温度T1の上限としては、750℃が好ましく、740℃がより好ましい。還元温度T1が上記下限未満であると、還元温度が700℃以上である還元時間を確保するためには鋼板Mの送給速度を低くする必要があり、製造効率が低下するおそれがある。逆に、還元温度T1が上記上限を超えると、酸化加熱帯1を通過後に例えば搬送路3で加熱を行う必要が生じ、焼鈍炉の装置コストが上昇するおそれがある。
【0050】
なお、上述のように本発明者らは、還元温度が700℃以上である還元時間を20秒以上とするとよいことを見出している。このため、還元温度T1が700℃未満である場合、還元加熱帯入口2aを通過した鋼板Mを速やかに加熱することが好ましい。この加熱方法としては、特に限定されないが、誘導加熱装置等の急速加熱が可能な装置を用いることができる。
【0051】
上述のように還元温度T2は、750℃以上が好ましい。還元温度T2は、還元加熱帯入口2aから第1ロール21aまでの間にラジアントチューブ等の加熱装置を配設して調整してもよいが、還元加熱帯2内の還元雰囲気温度により調整することが好ましい。
【0052】
還元加熱帯2内の還元雰囲気温度は、鋼板Mの還元温度を所望の温度とできる限り、特に限定されないが、還元加熱帯2内の還元雰囲気温度の下限としては、800℃が好ましく、850℃がより好ましい。一方、上記還元雰囲気温度の上限としては、920℃が好ましく、900℃がより好ましい。上記還元雰囲気温度が上記下限未満であると、還元温度T2を750℃以上とできないおそれがある。逆に、上記還元雰囲気温度が上記上限を超えると、鉄酸化層の還元に継続する鉄の焼鈍において、鉄の酸化が発生するおそれがある。
【0053】
なお、還元温度T2の上限としては、850℃が好ましい。還元温度T2が上記上限を超えると、還元反応の向上効果に対して加熱に要する費用が嵩むため、費用対効果が不十分となるおそれがある。
【0054】
還元温度が700℃以上である還元時間は、鋼板Mの送給速度及び還元加熱帯入口2aから第1ロール21aまでの距離により調整することができる。
【0055】
還元加熱帯入口2aから第1ロール21aまでの鋼板Mの移動距離の下限としては、10mが好ましく、15mがより好ましい。一方、上記第1ロール21aまでの移動距離の上限としては、30mが好ましく、25mがより好ましい。上記第1ロール21aまでの移動距離が上記下限未満であると、鉄酸化層の還元時間を確保するためには鋼板Mの送給速度を低くする必要があり、製造効率が低下するおそれがある。逆に、上記第1ロール21aまでの移動距離が上記上限を超えると、焼鈍炉の高さが大きくなり過ぎ、装置コストが高くなるおそれがある。
【0056】
還元加熱帯入口2aから第1ロール21aまでの鋼板Mの移動時間の上限としては、60秒が好ましい。鋼板Mの移動時間が上記上限を超えると、鉄酸化層の還元時間が不必要に長くなり、製造効率が低下するおそれや、焼鈍炉の高さが大きくなり過ぎ、装置コストが高くなるおそれがある。また、同様の理由から還元温度が700℃以上である還元時間の上限としても、60秒が好ましい。
【0057】
なお、還元加熱帯入口2aから第1ロール21aまでの鋼板Mの移動時間の下限としては、20秒が好ましい。上記移動時間を上記下限以上とすることで、還元温度が700℃以上である還元時間を20秒以上とできる。
【0058】
還元工程S32全体での還元時間は、製造効率等の観点から適宜決定されるが、60秒以上300秒以下とできる。
【0059】
<亜鉛めっき層形成工程>
亜鉛めっき層形成工程S4では、焼鈍工程S3後に鋼板Mの表面に亜鉛めっき層を形成する。
【0060】
亜鉛めっき層を形成する方法は、特に限定されず、公知の方法を適宜用いることができる。亜鉛めっき層の形成方法としては、例えば焼鈍工程S3後の鋼板Mをめっき浴に含浸する方法が挙げられる。めっき浴に含浸する際に、例えばガスワイピング等によりめっき付着量を20g/m
2以上200g/m
2以下に抑制することが好ましい。
【0061】
めっき浴には、例えばZnを含む2元系以上の合金めっきを用いることができる。Znを含む2元系以上の合金めっきとしては、Al−Znめっき、Fe−Znめっき、Ni−Znめっき、Cr−Znめっき、Mg−Znめっき等が挙げられる。
【0062】
めっき浴は、例えば亜鉛以外の成分を例えば0.01質量%以上0.5質量%以下の濃度で含有するめっきを用い、300℃以上600℃以下の含浸温度、1秒以上30秒以下の時間で鋼板Mを含浸することで行うことができる。
【0063】
<合金化工程>
合金化工程S5では、亜鉛めっき層形成工程S4後に鋼板Mの合金化処理を行う。
【0064】
合金化処理としては、特に限定されず、亜鉛めっき層形成工程S4後の鋼板Mに、公知の方法を適宜用いて行うことができる。合金化処理としては、例えば合金化温度470℃以上600℃以下で1秒以上100秒以下再加熱することで行う方法を挙げることができる。
【0065】
[利点]
当該溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、酸化還元法を用いるので、めっき密着性に優れる。当該溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、酸化工程S31においてはロールピックアップが発生しない温度、すなわち鉄の酸化物どうしが焼結し難い温度で酸化層の形成を行うことで、ロールピックアップを抑制する。また、当該溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、還元工程S32において鉄酸化層を最初のロールまでに還元するので、還元加熱帯2の最初のロールに至るまでにロールピックアップの原因となる鉄酸化物が鋼板Mから取り除かれる。従って、当該溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を用いることで、優れためっき密着性を維持しつつ、ロールピックアップを抑制できる。
【0066】
[その他の実施形態]
なお、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0067】
上記実施形態では、酸化工程で酸化加熱帯の加熱手段として、直火バーナーを用いる場合を説明したが、鉄酸化層が得られる限り、加熱手段はこれに限定されない。例えば、加熱手段として、酸素や水分等を含む酸化性雰囲気による間接加熱を用いてもよい。
【0068】
上記実施形態では、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法として合金化処理を備える場合を説明したが、合金化処理は必須の構成要件ではなく、省略可能である。
【0069】
また、上記実施形態では、熱間圧延工程及び冷間圧延工程を経て母材鋼板を得る場合を説明したが、母材鋼板を得る方法はこれに限定されず、例えば予め製造された鋼板を用いてもよい。
【0070】
上記実施形態では、焼鈍炉が竪型炉である場合を説明したが、当該溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、横型炉に用いることもできる。
【0071】
上記実施形態では、焼鈍炉が酸化加熱帯と還元加熱帯とを接続する搬送路を有する場合を説明したが、この搬送炉は必須の構成要件ではなく、酸化加熱帯と還元加熱帯とは直結していてもよい。
【実施例】
【0072】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
[鉄酸化層の組成の確認]
酸化工程で形成される鉄酸化層の組成の確認を行った。
【0074】
<試料の作製>
鉄以外の化学成分が表1に示す鋼を溶成して得た鋳片を熱間圧延工程及び冷間圧延工程を行い、平均厚さ1.8mmの母材鋼板を得た。なお、冷間圧延工程での酸洗条件を調整し、平均厚み10μmの粒界酸化層を残存させた。
【0075】
【表1】
【0076】
上記母材鋼板に対し、
図3に示す直火バーナーを備える焼鈍炉を用いて、表2に示す酸化温度T0(酸化加熱帯出口の温度)で酸化工程を行い、No.1〜No.4の試料を得た。なお、酸化条件としては、直火バーナーの燃焼ガスはLNGとし、空気比1.1、昇温速度37℃/秒とした。なお、酸化工程終了後、さらなる酸化防止のため速やかに窒素ガスを吹き付けつつ常温まで冷却を行った。
【0077】
<評価>
得られたNo.1〜No.4の試料に対しX線回折法により鋼板表面の酸化層の相組成分析を行った。結果を表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
表2の結果から、700℃以上の高温で酸化するとFeOや(Fe,Mn)Oも生成されるが、鉄酸化層の主成分はFe
3O
4であることが分かる。
【0080】
[酸化工程でのロールピックアップ発生条件の確認]
本発明者らは、ロールピックアップ発生のメカニズムとして、鋼板の表面に生成された粉末状の酸化物のロール表面への初期付着が生じ、その後に付着した酸化物(付着物)どうしが接触及び焼結することで成長し、この成長した付着物が鋼板に押し疵を生じさせると考えている。そこで、Fe
3O
4粉末体(高純度化学研究所製の「酸化鉄(II III)」、純度98%、粒径1μm以下)を、焼鈍炉のロール(トーカロ社製の「溶射皮膜付ロール」、ZrO
2系、皮膜膜厚100〜300μm、表面粗さRa=3μm)の表面に相互接触させる試験を行った。
【0081】
試験条件としては、炉内雰囲気を窒素雰囲気(露点−40℃未満、酸素濃度10ppm未満)とし、Fe
3O
4粉末体とロールとの接触圧は5.76kg/cm
2とした。また、Fe
3O
4粉末体とロールとの接触は、2秒間接触させた後、2秒間非接触を繰り返すパターンとし、5時間継続した。上記接触圧は実際の酸化工程における接触圧の20倍に相当し、この試験は加速試験にあたる。なお、接触圧はロールピックアップの発生温度には影響しないことが分かっている。
【0082】
上記条件で、炉内温度を表3に示すA〜Hの8通りで行い、ロールピックアップ発生の有無を確認した。ロールピックアップ発生の有無は、ロールの目視で行い、鋼板に押し疵を生じさせるような付着物が認められる場合、ロールピックアップの発生有と判断した。結果を表3に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
表3の結果から、750℃で本発明者らが想定するように付着物の焼結に起因すると考えられるロールピックアップの発生が再現できた。このことから、酸化温度を740℃以下とすることで、ロールピックアップ発生を抑止できると考えられる。
【0085】
[焼鈍工程におけるロールピックアップ発生有無の確認]
焼鈍工程として、表2のNo.1の条件(酸化温度T0=600℃、ロールピックアップが発生しない温度)で酸化工程を行った後、表4に示す実施例1〜7及び比較例1〜5の条件で還元工程を、5時間継続して行った。なお、還元雰囲気としては、水素濃度を5体積%、窒素との混合ガスの露点を−20℃とした。また、還元工程は還元加熱帯の最初のロール(第1ロール)まで行い、速やかに常温まで冷却した。
【0086】
<評価>
実施例1〜7及び比較例1〜5の還元工程後の鋼板について、オージェ電子分光分析により鋼板表層の鉄(還元鉄)と、Fe
XO
Y(未還元鉄)との比率を算出した。表面のコンタミネーションを除外するためC成分が検出されない深さまでスパッターにより表層を除去した面を最表面とし、分析は深さ3nmまで行った。分析結果は、Feピークを波形分離し定量化した。得られた数値から、鋼板表層の還元鉄の比率が90%以上である場合、還元が「完了」していると判断し、上記比率が90%未満である場合、還元が「未完了」であると判断した。結果を表4の「還元完了判定」欄に示す。
【0087】
また、実施例1〜7及び比較例1〜5の還元工程後に、第1ロールでのロールピックアップ発生の有無を確認した。確認方法は、酸化工程でのロールピックアップ発生の確認方法と同様である。結果を表4の「ロールピックアップ発生有無」欄に示す。
【0088】
【表4】
【0089】
表4で、「入口温度T1」は還元加熱帯入口の鉄酸化層の還元温度を指し、「第1ロール温度T2」は還元加熱帯の第1ロールにおける鉄酸化層の還元温度を指す。「第1ロールまでの移動時間」は、還元加熱帯入口から第1ロールまでの鋼板の移動時間を指し、「還元時間(≧700℃)」は、この移動時間のうち鉄還元層の還元温度が700℃以上であった時間を指す。
【0090】
表4の結果から、還元加熱帯の最初のロール(第1ロール)までに、酸化工程で形成された鉄酸化層が還元されている実施例1〜7は、ロールピックアップが発生していないのに対し、第1ロールまでに鉄酸化層の還元が完了していない比較例1〜5は、ロールピックアップが発生していることが分かる。このことから、還元加熱帯で、鉄酸化層を還元加熱帯の最初のロールまでに還元することで、ロールピックアップの発生を抑止できるといえる。
【0091】
さらに詳細に見ると、還元加熱帯の最初のロールにおける鉄酸化層の還元温度が750℃以上、還元加熱帯入口から還元加熱帯の最初のロールまでの区間で鉄酸化層の還元温度が700℃以上である還元時間が20秒以上である実施例1〜実施例7では、ロールピックアップが発生していない。また、実施例1〜実施例7では、還元加熱帯の最初のロールまでに、確実に鉄酸化層を還元することができている。従って、鉄酸化層の還元温度を上記下限以上とし、還元時間を上記下限以上とすることで、還元加熱帯でのロールピックアップをより確実に抑制できるといえる。