特許第6822969号(P6822969)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6822969-酢酸の製造方法及び製造装置 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6822969
(24)【登録日】2021年1月12日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】酢酸の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/12 20060101AFI20210114BHJP
   C07C 51/44 20060101ALI20210114BHJP
   C07C 51/48 20060101ALI20210114BHJP
   C07C 53/08 20060101ALI20210114BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20210114BHJP
【FI】
   C07C51/12
   C07C51/44
   C07C51/48
   C07C53/08
   !C07B61/00 300
【請求項の数】16
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-543190(P2017-543190)
(86)(22)【出願日】2016年9月21日
(86)【国際出願番号】JP2016077874
(87)【国際公開番号】WO2017057142
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2019年8月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-194762(P2015-194762)
(32)【優先日】2015年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(72)【発明者】
【氏名】三浦 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】水谷 能久
【審査官】 阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/097867(WO,A1)
【文献】 特開平9−29001(JP,A)
【文献】 特開2007−222846(JP,A)
【文献】 特開2011−256157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/12
C07C 51/44
C07C 51/48
C07C 53/08
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属触媒、イオン性ヨウ化金属、及びヨウ化メチルを含む触媒系、並びに酢酸、酢酸メチル、水の存在下、メタノールと一酸化炭素とを反応させるためのカルボニル化反応工程と;反応混合物を揮発相と低揮発相とに分離するためのフラッシュ工程と;前記揮発相を蒸留して、ヨウ化メチル及びアセトアルデヒドから選択された少なくとも一種の低沸成分に富む第1のオーバーヘッドと、酢酸に富む粗酢酸流とに分離するための第1の蒸留工程と;前記第1のオーバーヘッドから少なくともアセトアルデヒドを分離するための分離工程とを含む酢酸の製造方法であって、前記分離工程が、
前記第1のオーバーヘッドを凝縮して凝縮液を上相と下相との二相に分液する工程と、
少なくとも1つの蒸留塔を備え、窒素ガスを導入して、蒸留塔内の圧力を制御しつつ、前記凝縮液を蒸留し、アセトアルデヒド及びヨウ化メチルに富む第2のオーバーヘッドと、底部又は下部流とに分離するための第2の蒸留工程と、
第2のオーバーヘッドからアセトアルデヒドを抽出し、アセトアルデヒドに富む抽出液と、ヨウ化メチルに富むラフィネートとに分離する抽出工程とを含
前記凝縮液のうち、少なくとも前記下相の少なくとも一部及び/又は前記ラフィネートの少なくとも一部を前記第2の蒸留工程の前記蒸留塔に仕込み、この仕込み流量に対して、窒素ガスを0.0001〜1%の流量(単位:kg/H)の割合で前記蒸留塔に流しつつ蒸留し、前記蒸留塔からの第2のオーバーヘッドを凝縮するための凝縮器の冷却水の温度及び/又は流量を調整し、前記蒸留塔からの非凝縮性ガスの排出量を調整して圧力制御する、酢酸の製造方法。
【請求項2】
第2の蒸留工程で蒸留塔内の圧力を0.1〜0.7MPaに制御しつつ、第1のオーバーヘッドを蒸留する請求項1記載の方法。
【請求項3】
蒸留塔内の圧力を圧力センサで検出し、この検出値と基準値とに基づいて、蒸留塔の塔頂に配置された圧力制御ユニットからの制御信号により圧力コントロールバルブを開閉して、第1のオーバーヘッドの流出量を調整することにより、蒸留塔内の圧力を制御する請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
第2の蒸留工程が複数の蒸留工程を含み、少なくとも下流側の蒸留工程で蒸留塔の圧力を制御しつつ第1のオーバーヘッドを蒸留する請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
第2のオーバーヘッドを凝縮して、凝縮液とオフガスとに分離する工程を含み、凝縮液を抽出工程に供し、オフガスの有用成分を直接的又は間接的に反応工程及び/又は蒸留工程にリサイクルする工程を含む請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
オフガスをさらに凝縮し、凝縮液を反応工程及び/又は蒸留工程にリサイクルする工程を含む請求項記載の方法。
【請求項7】
プロセスから生成するオフガスを反応工程及び/又は蒸留工程にリサイクルする請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
オフガスを加圧下で吸収溶媒に吸収させ、ヨウ化メチル、酢酸メチル、ジメチルエーテル、水及び一酸化炭素から選択された少なくとも一種の成分を吸収溶媒から放散して反応工程及び/又は蒸留工程にリサイクルする請求項5〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ラフィネートの少なくとも一部を少なくとも反応工程にリサイクルする請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
第2のオーバーヘッドを間欠的若しくは段階的又は連続的に複数の理論段で水抽出する請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
さらに、抽出液を蒸留して、アルデヒドを含む第4のオーバーヘッドと、底部又は下部水性流とに分離するための第4の蒸留工程を含み、水性流を抽出工程での抽出に利用する請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
反応工程における反応器内の反応媒体中のアセトアルデヒド濃度を400重量ppm以下に維持し、
さらに、粗酢酸流を蒸留して、精製酢酸と、低沸点成分及び高沸点成分から選択される少なくとも一方の成分とに分離する工程を含み、下記(i)〜(iii)の少なくとも1つを満たす請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
(i)精製酢酸中の過マンガン酸カリウム試験値を120分以上に維持すること、
(ii)精製酢酸中のプロピオン酸濃度を200重量ppm以下に維持すること、
(iii)精製酢酸中のヨウ化物濃度を100重量ppb以下に維持すること
【請求項13】
メタノールのカルボニル化反応混合物をフラッシュ蒸発して揮発相を生成させ、この揮発相を蒸留して第1のオーバーヘッドを生成させ、この第1のオーバーヘッドを凝縮して分液させ、混合物としての上相及び/又は下相を生成させ、
水、酢酸、ヨウ化メチル、酢酸メチル、ジメチルエーテル、メタノール、少なくとも一つのヨウ化C2−12アルキル及び少なくとも一つの過マンガン酸還元性化合物(PRC)を含有する前記混合物から少なくとも一つの過マンガン酸還元性化合物(PRC)を分離する方法であって、
少なくとも1つの蒸留塔を備えた第2の蒸留工程において、窒素ガスを導入して、蒸留塔内の圧力を制御しつつ、前記混合物を蒸留して、PRCとしてのアセトアルデヒド及びヨウ化メチルに富む第2のオーバーヘッドを生成させ;
この第2のオーバーヘッドを水で抽出して、抽出液とラフィネートとに分離し;
前記混合物のうち少なくとも前記下相の少なくとも一部及び/又は前記ラフィネートの少なくとも一部を前記蒸留塔に仕込み、この仕込み流量に対して、窒素ガスを0.0001〜1%の流量(単位:kg/H)の割合で前記蒸留塔に流しつつ蒸留し、前記蒸留塔からの第2のオーバーヘッドを凝縮するための凝縮器の冷却水の温度及び/又は流量を調整し、前記蒸留塔からの非凝縮性ガスの排出量を調整して圧力制御する、方法。
【請求項14】
第2のオーバーヘッドを凝縮して、凝縮液とオフガスとに分離し、凝縮液を抽出工程に供し、オフガスから分離し、かつヨウ化メチル、酢酸メチル、ジメチルエーテル、水及び一酸化炭素から選択された少なくとも一種の成分を直接的又は間接的に反応工程及び/又は蒸留工程にリサイクルする請求項13記載の方法。
【請求項15】
ラフィネートの少なくとも一部を反応工程にリサイクルする請求項13又は14記載の方法。
【請求項16】
金属触媒、イオン性ヨウ化金属、及びヨウ化メチルを含む触媒系、並びに酢酸、酢酸メチル、水の存在下、メタノールと一酸化炭素とを反応させるためのカルボニル化反応器と;反応混合物を揮発相と低揮発相とに分離するためのフラッシャと;前記揮発相を蒸留して、ヨウ化メチル及びアセトアルデヒドから選択された少なくとも一種の低沸成分に富む第1のオーバーヘッドと、酢酸に富む粗酢酸流とに分離するための第1の蒸留塔と;前記第1のオーバーヘッドから少なくともアセトアルデヒドを分離するための分離ユニットとを含む酢酸の製造装置であって、前記分離ユニットが、
前記第1のオーバーヘッドを凝縮して凝縮液を上相と下相との二相に分液するユニットと、
圧力制御ユニットを備え、窒素ガスを導入して、塔内の圧力を制御しつつ、前記凝縮液を蒸留し、アセトアルデヒド及びヨウ化メチルに富む第2のオーバーヘッドと、底部又は下部流とに分離するための少なくとも1つの第2の蒸留塔と、
第2のオーバーヘッドからアセトアルデヒドを抽出し、アセトアルデヒドに富む抽出液と、ヨウ化メチルに富むラフィネートとに分離する抽出ユニットとを含
前記凝縮液のうち、少なくとも前記下相の少なくとも一部及び/又は前記ラフィネートの少なくとも一部を前記第2の蒸留塔に仕込み、この仕込み流量に対して、窒素ガスを0.0001〜1%の流量(単位:kg/H)の割合で前記第2の蒸留塔に流しつつ蒸留し、前記第2の蒸留塔からの第2のオーバーヘッドを凝縮するための凝縮器の冷却水の温度及び/又は流量を調整し、前記第2の蒸留塔からの非凝縮性ガスの排出量を調整して圧力制御する、酢酸の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノールのカルボニル化により、アセトアルデヒドを除去しつつ酢酸を製造するのに有効な方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水の存在下、ロジウム触媒、ヨウ化金属およびヨウ化メチルを用いて、メタノールのカルボニル化により酢酸が工業的に製造されている。このようなメタノールのカルボニル化プロセスでは、一酸化炭素雰囲気下でメタノールをカルボニル化する反応槽、反応槽からの反応混合物を揮発相と非揮発相とに分離する蒸発槽、揮発相を蒸留し、第1のオーバーヘッドとサイドカット酢酸流とに分離するためのスプリッターカラム、前記第1のオーバーヘッドを凝縮して重質相と軽質相とに分液するためのデカンタ、デカンタからの凝縮液を蒸留し、第2のオーバーヘッドと底部流とに分離するための蒸留塔、第2のオーバーヘッドを凝縮して水抽出し、ラフィネートと水抽出液とに分離する抽出器などのプロセスユニットを経てアセトアルデヒドが分離除去される。
【0003】
アセトアルデヒドの分離について、特許第3244385号公報(特許文献1)には、反応器に循環するプロセス液からアセトアルデヒドを除去し、反応液中のアセトアルデヒド濃度を400ppm以下に維持してメタノールと一酸化炭素とを反応させる酢酸の製造方法が記載され、プロセス液からのアセトアルデヒドの除去について、第2のオーバーヘッドを理論段二段で水抽出し、ラフィネートを反応器へリサイクルすることが記載されている。
【0004】
この方法では、プロセス流からアセトアルデヒドを除去して反応器へリサイクルするため、反応液中のアセトアルデヒド濃度を低減でき、副生物の生成を抑制できる。
【0005】
特表2007−526305号公報(特許文献2)には、過マンガン酸還元性化合物(PRC)に富む第2のオーバーヘッドを水抽出して水性ストリームを分離し、アルデヒドの除去効率を改善するため、抽出されたラフィネートの第一の部分を蒸留塔にリサイクルするとともに、ラフィネートの第二の部分を反応器へリサイクルすることが記載されている。
【0006】
特表2007−526310号公報(特許文献3)には、過マンガン酸還元性化合物(PRC)に富む第2のオーバーヘッドを2回水抽出することが記載されている。さらに、ラフィネートを反応器にリサイクルすることも記載され、ラフィネートの一部を蒸留塔にリサイクルすることも図示されている。
【0007】
これらの特許文献2及び3の方法では、上記のようにラフィネートとともにジメチルエーテルDMEを反応器にリサイクルさせることにより、反応器でDMEを酢酸の原料として消費させるだけでなく、蒸留塔からのプロセス液に含まれるDME、蒸留塔内で生成するDMEが蒸留塔の圧力(塔頂圧力)が長時間にわたって著しく上昇して、プロセスの運転操業が不能になるのを回避している。しかし、これらの方法では、せっかく濃縮した高濃度のアセトアルデヒドを反応器に戻すため、アセトアルデヒドの除去量が減少し、アセトアルデヒドの除去効率が低下するだけでなく、反応液中のアセトアルデヒド濃度が上昇し、アセトアルデヒド由来の不純物(例えば、プロピオン酸、ヨウ化ヘキシル、クロトンアルデヒドなど)の生成量が増加する。そのため、酢酸の品質を高めるためには、プロピオン酸、過マンガン酸還元性化合物(PRC)、ヨウ化物などを低減又は除去するための設備を増強する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3244385号公報(請求項2,実施例)
【特許文献2】特表2007−526305号公報(請求項1,[0045][0046],図2
【特許文献3】特表2007−526310号公報(請求項1,5,[0044],図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、蒸留塔内の圧力上昇を生じさせることなく、安定かつ安全に運転可能な酢酸の製造方法及び製造装置を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、アセトアルデヒドの除去効率を向上できる酢酸の製造方法及び製造装置を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、塔頂からのオフガス中に含まれるDMEを有効に利用できる酢酸の製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、(i)蒸気圧の高いDMEなどを含むプロセス流を蒸留しても、塔頂に圧力制御ユニットを設置すると、蒸留塔内の圧力上昇(塔頂圧力の上昇)を生じさせることなく、安定かつ安全に運転できること、(ii)アセトアルデヒドが濃縮されたプロセス流を反応器へリサイクルする必要がなく、アセトアルデヒドの除去効率を向上できること、さらには、(iii)蒸留塔の塔頂からのオフガスを処理して有用成分を回収し、反応器及び/又は蒸留塔にリサイクルすることにより、有用成分を有効に利用できることを見いだし、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の方法は、メタノールのカルボニル化により精製酢酸を製造する方法に関し、(1)金属触媒、イオン性ヨウ化金属、及びヨウ化メチルを含む触媒系、並びに酢酸、酢酸メチル、水の存在下、メタノールと一酸化炭素とを反応させるためのカルボニル化反応工程と;(2)反応混合物を揮発相と低揮発相とに分離するためのフラッシュ工程と;(3)前記揮発相を蒸留して、ヨウ化メチル及びアセトアルデヒドから選択された少なくとも一種の低沸成分に富む第1のオーバーヘッドと、酢酸に富む粗酢酸流とに分離するための第1の蒸留工程と;(4)前記第1のオーバーヘッドから少なくともアセトアルデヒドを分離するための分離工程とを含む。この分離工程(4)は、(6)蒸留塔内の圧力を制御しつつ、第1のオーバーヘッドを蒸留し、アセトアルデヒド及びヨウ化メチルに富む第2のオーバーヘッドと、底部又は下部流とに分離するための第2の蒸留工程と、(7)第2のオーバーヘッドからアセトアルデヒドを抽出し、アセトアルデヒドに富む抽出液と、ヨウ化メチルに富むラフィネートとに分離する抽出工程とを含む。このような方法では、第2の蒸留工程で塔内圧力(特に、塔頂圧力)が上昇しても、第1のオーバーヘッドの蒸留塔に圧力制御ユニットを配置することにより蒸留塔の圧力を制御でき、安定して安全に操業できる。
【0014】
なお、前記分離工程(4)は、(5)第1のオーバーヘッドを凝縮して凝縮液を生成させる工程(又は凝縮液を上相の水相と下相の有機相との二相に分液する工程)(混合物としての凝縮液、上相と下相との二相に分液する工程)を含み、(6)この凝縮液(上相及び/又は下相)を第2の蒸留工程で蒸留してもよい。例えば、(5)凝縮又は分液工程で、第1のオーバーヘッドを凝縮して凝縮液を二相に分液し、(6)分液した上相及び/又は下相の少なくとも一部を、蒸留塔内の圧力を制御して第2の蒸留工程で蒸留してもよい。また、(6)少なくとも下相を、第2の蒸留工程で蒸留塔内の圧力を制御しながら蒸留してもよい。(6)第2の蒸留工程で蒸留塔内の圧力は、例えば、絶対圧力で0.1〜0.7MPa程度であってもよい。
【0015】
さらに、第2の蒸留工程(6)は、複数の蒸留工程(複数の蒸留塔で連続的に蒸留するための工程)を含んでいてもよく、少なくとも下流側の蒸留工程で蒸留塔の圧力を制御しつつ第1のオーバーヘッドを蒸留してもよい。
【0016】
また、第2の蒸留工程又は第2の蒸留塔(6)からの第2のオーバーヘッドを凝縮して、凝縮液とオフガスとに分離する工程を含み、凝縮液は抽出工程(7)に供してもよい。第2のオーバーヘッドからのオフガスは系外に排出してもよく、(10)オフガスの有用成分を直接的又は間接的に反応工程及び/又は蒸留工程(第1の蒸留工程(3)及び/又は第2の蒸留塔(6))にリサイクルしてもよい。例えば、オフガスをさらに凝縮し、凝縮液を反応工程及び/又は蒸留工程にリサイクルしてもよい。より具体的には、第1のオーバーヘッドを、下流方向にいくにつれて順次に凝縮温度が低下した複数のコンデンサで冷却して凝縮するプロセスにおいて、少なくとも第2のオーバーヘッドからのオフガスを複数のコンデンサの上流又は複数のコンデンサの間に供給し、凝縮成分(凝縮液)を反応工程及び/又は蒸留工程(第1の蒸留工程(3)及び/又は第2の蒸留塔(6))にリサイクルしてもよい。また、スクラビング設備を利用してオフガスから有価物(有用成分)を回収し、反応工程及び/又は蒸留工程(第1の蒸留工程(3)及び/又は第2の蒸留塔(6))にリサイクルしてもよい。より具体的には、オフガスを加圧下で吸収溶媒に吸収させ、ヨウ化メチル、酢酸メチル、ジメチルエーテル、水及び一酸化炭素から選択された少なくとも一種の成分を吸収溶媒から放散して反応工程及び/又は蒸留工程(第1の蒸留工程(3)及び/又は第2の蒸留塔(6))にリサイクルしてもよい。また、ゼオライト膜などに代表されるセラミクス膜、ポリイミド、ポリアミドなどに代表される高分子膜などによる膜分離設備を利用して、オフガスから有価物(有用成分)を回収し、反応器(1)及び/又は蒸留塔(第1の蒸留塔(3)及び/又は第2の蒸留塔(6))にリサイクルしてもよい。なお、オフガス又はその有用成分は、第1のオーバーヘッドを冷却して凝縮するための少なくとも1つのコンデンサ(1又は複数のコンデンサ)を経て直接的又は間接的に(例えば、デカンタを経て間接的に)第2の蒸留工程(6)に供給してもよい。
【0017】
なお、アセトアルデヒドADの濃度は、(6)第2の蒸留塔の塔頂からの第2のオーバーヘッドの凝縮液に比べてオフガス中の方が低いため、オフガスを系外に排出しても、アセトアルデヒド除去効率(脱AD効率)は殆ど低下させることがない。一方、スクラビング設備及び/又は膜分離設備などを利用して、オフガスから有価物(DMEなどの有用成分)を回収し、反応系にリサイクルすることにより、有用成分を反応系で有効に利用でき(例えば、DMEなどの成分は、酢酸原料として活用でき)、有用成分のロスがない。
【0018】
前記抽出工程(7)で生成したラフィネートの少なくとも一部は、少なくとも反応器にリサイクルしてもよく、ラフィネートの一部を蒸留工程(第1の蒸留工程(3)及び/又は第2の蒸留工程(6))の蒸留塔にリサイクルしてもよい。抽出工程(7)では、第2のオーバーヘッドを段階的(又はバッチ(回分操作)式)又は連続的に複数の理論段で水抽出してもよい。さらに、(8)抽出液を蒸留して、アルデヒドを含む第4のオーバーヘッドと、底部又は下部水性流とに分離するための第4の蒸留工程を含んでいてもよく、水性流を抽出工程(7)での抽出に利用してもよい。
【0019】
さらに、前記分離工程で生成したアセトアルデヒドの濃度が低減したプロセス流(アセトアルデヒドを揮発相及び/又は後続するプロセス流から除去したプロセス流)を反応器にリサイクルすることができる。このようなリサイクル工程により、反応器内の反応媒体中のアセトアルデヒド濃度を400重量ppm以下に維持することができる。さらに、粗酢酸流を蒸留して、精製酢酸と、低沸点成分及び/又は高沸点成分とに分離することにより、下記(i)〜(iii)の少なくとも1つを満たすことができる:(i)精製酢酸中の過マンガン酸カリウム試験値を120分以上に維持すること、(ii)精製酢酸中のプロピオン酸濃度を200重量ppm以下に維持すること、及び(iii)精製酢酸中のヨウ化物濃度を100ppb以下に維持すること。
【0020】
本発明は、水、酢酸、ヨウ化メチル、酢酸メチル、ジメチルエーテル、メタノール、少なくとも一つのヨウ化C2−12アルキル及び少なくとも一つの過マンガン酸還元性化合物(PRC)を含有する混合物から少なくとも一つのPRCを分離する方法も包含する。この方法では、(6)前記混合物(第1のオーバーヘッド又はその凝縮液)を、蒸留塔内の圧力を制御しつつ蒸留して、PRCとしてのアセトアルデヒド及びヨウ化メチルに富む第2のオーバーヘッドを生成させ;(7)この第2のオーバーヘッドを水で抽出して、抽出液とラフィネートとに分離する。
【0021】
この分離法では、ラフィネートの少なくとも一部を反応工程及び/又は第2の蒸留工程にリサイクルしてもよく、リサイクルされたラフィネートを前記混合物と共に蒸留してもよい。
【0022】
また、第2のオーバーヘッドを凝縮して、凝縮液とオフガスとに分離し、凝縮液を抽出工程(7)に供してもよく、(10)オフガスから、ヨウ化メチル、酢酸メチル、ジメチルエーテル、水及び一酸化炭素から選択された少なくとも一種の成分を回収して直接的又は間接的に反応工程及び/又は蒸留工程(第1の蒸留工程(3)及び/又は第2の蒸留工程(6))にリサイクルしてもよい。
【0023】
前記混合物は、第1のオーバーヘッドを凝縮した凝縮液(又は分液した上相及び/又は下相)であってもよい。例えば、メタノールのカルボニル化反応混合物(1)をフラッシュ蒸発して揮発相を生成させ(2)、この揮発相を蒸留して第1のオーバーヘッドを生成させ(3)、この第1のオーバーヘッドを凝縮した凝縮液であってもよく、凝縮液が分液した上相及び/又は下相を混合物として利用してもよい。
【0024】
本発明は、前記酢酸の製造方法に対応する製造装置も開示する。
【0025】
なお、本明細書中、プロセスユニットとは、反応、蒸発、蒸留、冷却及び/又は凝縮、分液、貯留、吸収、抽出、吸着及び/又はイオン交換などのプロセス単位操作を行うための装置又はユニットを意味する。また、アセトアルデヒド、およびアセトアルデヒドに由来する副生物のうち過マンガン酸カリウム試験(過マンガン酸タイム)において過マンガン酸タイムを短くする成分(アルデヒド類、炭素数2以上のヨウ化アルキルなど)を単にPRC類と記載する場合がある。また、特に断りがなければ、分液により生成したアセトアルデヒドを含む水相は、軽質相又は上相と同義に用い、ヨウ化メチルを含む有機相は、重質相、ヨウ化メチル相又は下相と同義に用いる。抽出により生成する水相を抽出液(エクストラクト)、有機相をラフィネートと同義に用いる。
【発明の効果】
【0026】
本発明では、蒸留塔の圧力を制御でき、蒸留塔の圧力上昇を生じさせることなく、酢酸の製造プロセスを安定かつ安全に運転できる。また、アセトアルデヒドが濃縮したプロセス流を反応器へリサイクルする必要がなく、アセトアルデヒドの除去効率を向上できる。さらに、塔頂からのオフガス中に含まれる有用成分(DMEなど)を反応器にリサイクルすることにより、酢酸の原料として活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は本発明の酢酸の製造方法を説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、必要により添付図面を参照しつつ、本発明をより詳細に説明する。なお、各工程と、各工程での主要な装置又はユニットには共通の符号を付す場合がある。
【0029】
図に示す酢酸の連続製造プロセス(又は製造装置)は、(1)メタノールのカルボニル化反応工程(反応系又は反応器)と;(2)反応混合物を揮発相と低揮発相とに分離するためのフラッシュ工程(フラッシュ蒸発工程又はフラッシャ)と;(3)前記揮発相を蒸留して、ヨウ化メチル及びアセトアルデヒドから選択された少なくとも一種の低沸成分に富む第1のオーバーヘッドと、酢酸に富む粗酢酸流とに分離するための第1の蒸留工程(第1の蒸留塔又はスプリッターカラム)と;(4)前記第1のオーバーヘッドから少なくともアセトアルデヒドを分離するための分離工程とを含み、この分離工程(4)は、(5)第1のオーバーヘッドを凝縮して凝縮液を生成させる工程(又は二相に分液する工程)と、(6)凝縮液の少なくとも一部を、蒸留塔内の圧力を制御して蒸留する第2の蒸留工程と、(7)第2のオーバーヘッドからアセトアルデヒドを抽出し、アセトアルデヒドに富む抽出液と、ヨウ化メチルに富むラフィネートとに分離する抽出工程と、(10)オフガスから有用成分を回収して直接的又は間接的に反応器にリサイクルする工程(図示せず)とを含んでいる。
【0030】
なお、本発明では、これらの工程のうち、少なくとも工程(1)〜(3)、分離工程(4)としての第2の蒸留工程(6)及び抽出工程(7)を有していればよい。以下に、各工程について詳細に説明する。
【0031】
(1)反応工程(反応器)
反応工程(1)では、カルボニル化触媒系と水とを含む反応媒体中、メタノールと一酸化炭素とを連続的に反応器に供給してメタノールをカルボニル化し、酢酸を生成する。反応器(1)内では、反応成分と金属触媒成分とを含む液相反応系と、一酸化炭素及び反応により生成した水素、メタン、二酸化炭素、並びに気化した低沸成分(ヨウ化メチル、生成した酢酸、酢酸メチルなど)などで構成された気相系とが平衡状態を形成しており、メタノールのカルボニル化反応が進行する。この反応器(1)から反応混合物を連続的に1又は複数のフラッシャ(触媒分離塔又はフラッシュ蒸発槽)(2)に導入又は供給し、蒸気成分(気相)をライン12を通じて抜き出し、熱交換器(コンデンサ)C1で冷却して凝縮し、ライン13を通じて凝縮液を反応器(1)に戻し、ライン14を通じて非凝縮ガスを、吸収処理ユニットを有するスクラバーユニット(図示せず)に供給している。凝縮液を反応器(1)に戻すことにより反応熱の一部を除熱できる。なお、非凝縮ガスを反応器(1)に戻すことにより反応熱の一部を除熱してもよく、非凝縮ガスからスクラバーユニットで回収された有用成分(一酸化炭素及び/又は水素、ヨウ化メチル、酢酸メチルなど)は反応器(1)へリサイクルしてもよい。
【0032】
カルボニル化触媒系は、通常、金属触媒(コバルト触媒、ロジウム触媒、イリジウム触媒など)と、触媒安定化剤又は反応促進剤と、助触媒とを含んでいる。金属触媒は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい金属触媒は、ロジウム触媒及びイリジウム触媒(特に、ロジウム触媒)である。
【0033】
金属触媒は、金属単体、金属酸化物(複合酸化物を含む)、水酸化物、ヨウ化物、カルボン酸塩(酢酸塩など)、無機酸塩(硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩など)、錯体などの形態でも使用できる。金属触媒は液相(反応液)中で可溶な形態(錯体などの形態)で使用するのが好ましい。ロジウム触媒としては、ロジウムヨウ素錯体(例えば、RhI、RhI(CO)、[Rh(CO)など)、ロジウムカルボニル錯体などが好ましい。金属触媒の濃度は、例えば、反応器内の液相全体に対して100〜5000ppm(重量基準、以下同じ)、好ましくは200〜3000ppm、さらに好ましくは300〜2000ppm、特に500〜1500ppm程度である。
【0034】
触媒安定化剤又は反応促進剤としては、反応液中でヨウ素イオンを発生可能な金属ヨウ化物、例えば、ヨウ化アルカリ金属(ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムなど)が挙げられ、中でもヨウ化リチウムが好ましい。これらの助触媒又は促進剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。触媒安定化剤又は反応促進剤の濃度は、反応器内の液相全体に対して、例えば、1〜25重量%、好ましくは2〜22重量%、さらに好ましくは3〜20重量%程度である。さらに、反応系でのヨウ化物イオンの濃度は、例えば、0.05〜2.5モル/L、好ましくは0.25〜1.5モル/Lであってもよい。
【0035】
前記助触媒としては、ヨウ化メチルが利用される。ヨウ化メチルの濃度は、反応器内の液相全体に対して、例えば、1〜30重量%、好ましくは5〜25重量%、さらに好ましくは6〜20重量%(例えば、8〜18重量%)程度である。
【0036】
好ましいカルボニル化触媒系は、ロジウム触媒と、触媒安定剤としてのヨウ化金属(ヨウ化リチウム)及びヨウ化メチル助触媒とで構成できる。なお、前記反応器には、カルボニル化触媒系を含む触媒混合物(触媒液)及び水を供給してもよい。
【0037】
反応媒体(又は液相)は、通常、生成した酢酸、生成した酢酸と原料メタノールとの反応により生成した酢酸メチル、及び水を含んでいる。酢酸は溶媒としても機能する。また、反応媒体(又は液相)は、通常、未反応の原料メタノールも含んでいる。酢酸メチルの含有割合は、反応液全体の0.1〜30重量%、好ましくは0.3〜20重量%、さらに好ましくは0.5〜10重量%(例えば、0.5〜6重量%)程度の割合であってもよい。反応媒体中の水濃度は、低濃度であってもよく、反応液全体に対して、例えば、0.1〜15重量%、好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは0.8〜5重量%(例えば、1〜3重量%)程度であり、1〜10重量%(例えば、2〜5重量%)程度であってもよい。酢酸の濃度は、液相全体に対して、例えば、30〜90重量%(例えば、35〜85重量%)、好ましくは45〜80重量%程度であってもよい。
【0038】
反応器中の一酸化炭素分圧は、絶対圧力で、例えば、0.2〜3MPa、好ましくは0.4〜1.5MPa程度であってもよい。前記カルボニル化反応では、一酸化炭素と水との反応により、水素が発生する。この水素は触媒活性を高める。そのため、前記反応器には、必要により水素を供給してもよい。反応系の水素分圧は、絶対圧力で、例えば、0.0005〜0.25MPa(例えば、0.001〜0.2MPa)、好ましくは0.005〜0.15MPa、さらに好ましくは0.01〜0.12MPa程度であってもよい。なお、反応工程に後続する工程で生成するオフガスから気体成分(水素、一酸化炭素などを含む)を回収し、一酸化炭素及び/又は水素を反応系にリサイクルしてもよく、オフガスから有用な凝縮成分を回収して反応系にリサイクルしてもよい。
【0039】
カルボニル化反応温度は、例えば、150〜250℃、好ましくは160〜230℃、さらに好ましくは170〜220℃程度であってもよい。反応圧力(全反応器圧)は、副生成物の分圧を含めて、ゲージ圧力で、例えば、1.5〜4MPa程度であってもよい。
【0040】
反応系での目的酢酸の空時収量は、例えば、5〜50mol/Lh、好ましくは8〜40mol/Lh、さらに好ましくは10〜30mol/Lh程度であってもよい。
【0041】
反応混合物(反応粗液)中には、酢酸、酢酸よりも沸点の低い低沸成分又は低沸不純物(助触媒としてのヨウ化メチル、酢酸メチル、水、副反応生成物であるアセトアルデヒドなど)、及び酢酸よりも沸点の高い高沸成分又は高沸不純物[金属触媒成分(ロジウム触媒など)、触媒安定剤としてのヨウ化リチウム、プロピオン酸などのC3−12アルカンカルボン酸など]などが含まれる。さらに、アセトアルデヒドに由来の副生成物(アセトアルデヒドからの誘導体)、例えば、ブチルアルデヒド、クロトンアルデヒド、2−エチルクロトンアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒドなどのアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;これらのアルドール縮合生成物;ヨウ化エチル、ヨウ化プロピル、ヨウ化ブチル、ヨウ化ペンチル、ヨウ化ヘキシルなどのヨウ化C2−12アルキルなども生成する。また、3−ヒドロキシアルカナール(3−ヒドロキシブタナールなど);蟻酸や、プロピオン酸、ブタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸などのC3−12アルカンカルボン酸;ブチルアルコール、2−エチルブチルアルコールなどのC3−12アルキルアルコールなど);メタノール又は上記アルキルアルコールと酢酸又は前記カルボン酸とのエステル;メタノール及び/又は前記アルキルアルコールのエーテル類(ジメチルエーテルなどのジアルキルエーテル類):メタン及び炭素数2以上の炭化水素類(例えば、C2−12アルカン)なども生成する。
【0042】
これらの副生成物は、アセトアルデヒド濃度の2〜3乗に比例して副生する場合が多い。
【0043】
また、アセトアルデヒド及びアセトアルデヒド由来の副生物(例えば、アルデヒド類、ケトン類、アルドール縮合生成物など)は、過マンガン酸還元性物質(PRC類)を形成する。そのため、反応混合物から副生物の主たる成分であるアセトアルデヒド及びPRC類を分離して除去し、有用な成分(例えば、ヨウ化メチルなど)は、プロセス流から回収して有効に利用するのが好ましい。なお、ヨウ化メチルを含め、ヨウ化C2−12アルキルなどもPRC類に属するが、本明細書及び特許請求の範囲では、ヨウ化メチルはPRC類には含めない。
【0044】
本発明では、アセトアルデヒドを効率よく分離除去できるため、連続反応であっても、アセトアルデヒド濃度が低減した又はアセトアルデヒドが除去されたプロセス流を反応器へリサイクルすることにより、反応器のアセトアルデヒドの濃度を低減でき、アセトアルデヒド濃度の低減又は除去と相まって、アセトアルデヒド由来の副生成物の生成も著しく抑制できる。例えば、反応器の液相中のアセトアルデヒド濃度は、400ppm以下(例えば、0又は検出限界〜300ppm)、好ましくは10〜250ppm(例えば、20〜200ppm程度)であってもよい。ヨウ化ヘキシルなどの炭素数2以上のヨウ化アルキルの濃度は、例えば、0.1ppb〜1ppm(例えば0.5〜500ppb)、好ましくは1〜100ppb程度であってもよい。ジメチルエーテル(DME)の濃度は、例えば、0.1〜1000ppm、好ましくは1〜500ppm(例えば、2〜300ppm)、さらに好ましくは3〜200ppm(例えば、5〜100ppm)程度であってもよい。
【0045】
なお、前記反応系は、発熱を伴う発熱反応系であり、除熱ユニット又は冷却ユニット(ジャケットなど)などにより反応温度をコントロールしてもよい。
【0046】
(2)フラッシュ蒸発工程
フラッシュ蒸発工程(2)では、ライン11を通じて反応器(1)から連続的に供給される反応混合物をフラッシャ(フラッシュ蒸発槽)でフラッシュ蒸発させ、生成酢酸、ヨウ化メチル、アセトアルデヒド、酢酸メチル、水などを含む揮発相(2A)と、ロジウム触媒及びヨウ化リチウムを含む低揮発相(2B)とに分離される。低揮発相(2B)は、冷却器C3で冷却し、リサイクルライン21を通じて、反応工程(1)の反応器にリサイクルされ、反応熱の一部を除熱している。少なくとも一部の揮発相(2A)は、ライン22を通じて、第1の蒸留工程(3)の蒸留塔に供給される。この例では、一部の揮発相(2A)は、ライン23のコンデンサC2で冷却して凝縮し、凝縮液はライン24を通じてホールドタンク25で貯留し、ライン26を通じて凝縮液は反応工程(反応器)(1)にリサイクルし、非凝縮ガスはライン27を通じて、吸収処理ユニットを有するスクラバーユニット(図示せず)に供給している。
【0047】
なお、一部の揮発相(2A)は、コンデンサC2で冷却して凝縮し、コンデンサC2からの冷却物(凝縮液及び/又は非凝縮成分)は、分液工程(5)に供給し、デカンタ(5)内で、第1の蒸留工程(スプリッターカラム)(3)からのオーバーヘッド(3A)とともに二相に分液してもよい。一部の揮発相(2A)は、凝縮することなく、直接的に又は分液工程(5)を介して間接的に第2の蒸留工程(6)に供給してもよく、1又は複数のコンデンサC2で冷却して凝縮させて二相に分液し、分液した水相又は有機相(少なくとも水相)を、直接的又は分液工程(5)を介して間接的に、第2の蒸留工程(6)に供してもよい。例えば、一部の揮発相(2A)は、必要により凝縮して(さらには必要であれば分液し)、分液工程(5)での凝縮液と合流させて、第2の蒸留工程(6)に供してもよい。
【0048】
また、必要であれば、低揮発相(2B)から、単一又は複数の工程で触媒成分(金属触媒成分)を分離し、反応工程(1)にリサイクルして再利用してもよい。
【0049】
フラッシュ蒸発は、反応混合物を加熱して減圧する恒温フラッシュ、反応混合物を加熱することなく減圧する断熱フラッシュ、若しくはこれらのフラッシュ条件を組み合わせたフラッシュなどにより、反応混合物から蒸気成分と液体成分とに分離してもよい。フラッシュ蒸発は、例えば、温度80〜250℃、好ましくは120〜180℃程度、圧力(ゲージ圧力)0.01〜1MPa、好ましくは0.05〜0.5MPa、さらに好ましくは0.1〜0.2MPa程度であってもよい。
【0050】
(3)第1の蒸留工程(スプリッターカラム又は蒸留塔)
第1の蒸留工程(スプリッターカラム)(3)では、前記揮発相(2A)を、塔頂又は塔の上段部から留出ライン33を通じて留出する第1のオーバーヘッド(塔頂ガス、低沸点流分又は低沸点成分)(3A)と、ライン36を通じてサイドカットされ、主に酢酸を含む酢酸流(3B)と、塔底又は塔の下段部から缶出ライン31を通じて流出する缶出液体流(高沸点流分又は高沸点成分)(3C)とに分離している。
【0051】
第1のオーバーヘッド(3A)は、混合物(3A)に対応し、少なくとも過マンガン酸還元性物質(PRC類)及びヨウ化メチルを含んでおり、PRC類は、少なくとも副生したアセトアルデヒドを含んでいる。さらに、第1のオーバーヘッド(3A)は、通常、酢酸メチルを含んでおり、さらに、酢酸、水、ジメチルエーテル、アセトアルデヒド由来の副生成物(クロトンアルデヒド、ブチルアルデヒドなどのアルデヒド類、ヨウ化C2−12アルキル、C3−12アルカンカルボン酸などのアセトアルデヒドからの誘導体、C2−12アルカン)などを含んでいる場合が多く、メタノールを含んでいる場合も多い。
【0052】
酢酸流又はサイドカット流(3B)は、脱水及び/又は高沸点成分などを除去するため、さらに、蒸留塔(図示せず)などによる精製工程に供給され、精製された高純度酢酸が生成する。この精製工程は、蒸留塔の下流側にヨウ素成分(ヨウ化水素、ヨウ化アルキルなど)を除去するため、イオン交換処理ユニットを含んでいてもよい。液体流(3C)は、通常、少なくとも水及び酢酸を含んでおり、さらにメタノール、ヨウ化メチル、酢酸メチル、プロピオン酸などを含んでいる場合が多い。なお、液体流(3C)には、飛沫同伴により金属触媒成分が混入している場合がある。そのため、液体流(3C)の一部はライン32を通じてフラッシャ(フラッシュ蒸発槽)(2)にリサイクルしてもよく、液体流(3C)の一部又は全部は、ライン31及びライン100を通じて反応工程(反応器)(1)にリサイクルしてもよい。なお、液体流(3C)の一部又は全部は、ライン31を通じて排出してもよい。
【0053】
蒸留塔(スプリッターカラム)(3)としては、棚段塔、充填塔などが利用できる。蒸留塔(スプリッターカラム)の塔内温度は、圧力に依存し、常圧(1気圧=約0.1MPa)において、塔頂温度は、例えば、50〜180℃、好ましくは80〜160℃程度であってもよく、塔底温度は、例えば、60〜200℃、好ましくは100〜160℃程度であってもよく、圧力(ゲージ圧)は、例えば、約0.05〜0.5MPa、好ましくは0.08〜0.4MPa、さらに好ましくは0.1〜0.3MPa程度であってもよい。
【0054】
蒸留塔の理論段は、例えば、2〜100段、好ましくは8〜30段程度であってもよい。蒸留塔での還流比は、全還流(全還流は、蒸留塔塔頂の凝縮液を全て蒸留塔の塔頂にリサイクルすることを意味する)、もしくは、例えば、1〜1000、好ましくは10〜100程度であってもよい。
【0055】
なお、第1の蒸留工程(3)では、前記揮発相(2A)を蒸留して、ヨウ化メチル及びアセトアルデヒドから選択された少なくとも一種の低沸成分に富む第1のオーバーヘッド(3A)と、サイドカットからの酢酸に富む粗酢酸流(3B)とに分離すればよく、缶出液体流(3C)は必ずしも分離する必要はない。
【0056】
液体流(3C)は排出してもよく、液体流(3C)の一部又は全部は、スプリッターカラム(2)に戻してもよく、反応工程(1)の反応器にリサイクルしてもよい。
【0057】
第1のオーバーヘッド(3A)は、凝縮及び分液工程(5)を経ることなく、混合物(3A)としてガス状の形態で第2の蒸留工程(6)に供してもよく、凝縮した凝縮液を、分液することなく第2の蒸留工程(6)に供してもよい。好ましい態様では、PRC類を有効に抽出するため、後述する分離工程(4)の分液工程(5)により、ヨウ化メチル、特にヨウ化メチル及びPRC類の双方が濃縮された混合物(3A)を生成させている。すなわち、混合物(3A)は、第1のオーバーヘッド(3A)、この第1のオーバーヘッド(3A)の凝縮液、この凝縮液が分液した上相及び/又は下相のいずれであってもよい。混合物(3A)は、水、酢酸、ヨウ化メチル、酢酸メチル、ジメチルエーテル、少なくとも一つのヨウ化C2−12アルキル及び少なくとも一つの過マンガン酸還元性化合物(PRC)を含有する場合が多く、メタノールを含有する場合も多い。好ましい混合物(3A)は、凝縮液、特に分液した上相及び/又は下相(又は上相と下相との混合液)である。特に、上相(水相)にはアセトアルデヒドが濃縮され、下相(有機相)にはアセトアルデヒドも含有され、蒸気圧が高く、水やヨウ化メチルなどとの親和性又は混和性の高いジメチルエーテルも濃縮される。そのため、混合物(3A)としての上相、下相又は上相と下相との混合液を第2の蒸留工程(2)で蒸留しても、本発明では塔内の圧力が過度に大きくなるのを抑制できる。
【0058】
(4)分離工程
前記のように、第1のオーバーヘッド(3A)は、PRC類、ヨウ化メチル、酢酸メチル、ジメチルエーテル、メタノールなどの不純物及び有用成分を含んでいる。そのため、分離工程(4)では、第1のオーバーヘッド(3A)から少なくともアセトアルデヒドが分離される。特に、第1のオーバーヘッド(3A)は、アセトアルデヒドに富むストリームと、有用なヨウ化メチルに富むストリームとに分離される。
【0059】
分離工程(4)は、(5)第1のオーバーヘッド(3A)を凝縮して凝縮液を生成させる凝縮工程及び凝縮液を上相の水相と下相の有機相との二相に分液する分液工程(混合物としての凝縮液、上相及び/又は下相を生成する工程)(分液工程)、(6)この凝縮液(分液した上相及び/又は下相)の少なくとも一部を蒸留塔内の圧力を制御して蒸留して、アセトアルデヒド及びヨウ化メチルに富む第2のオーバーヘッドと、底部又は下部流とに分離するための第2の蒸留工程(アルデヒド分離工程)、(7)この工程(6)からの第2のオーバーヘッドからアセトアルデヒドを抽出し、アセトアルデヒドに富む抽出液と、ヨウ化メチルに富むラフィネートとに分離する工程(抽出工程)を含んでおり、(8)前記抽出液を蒸留して、アルデヒドを含む第4のオーバーヘッドと、底部又は下部水性流とに分離するための第4の蒸留工程(アルデヒド分離工程、図示せず)とを含んでいてもよい。
【0060】
(5)分液工程
分液工程(5)は、ライン33からの第1のオーバーヘッド(3A)を熱交換器(コンデンサ)C4で冷却し凝縮して、ヨウ化メチルに富み、水、酢酸メチルなどを含む凝縮液を生成させる凝縮工程(11a)と、この凝縮液を、分液工程(デカンタ)(5)で、アセトアルデヒドに富む上相(水相)と、ヨウ化メチルに富む下相(有機相)との二相に分液する工程(11b)とを含んでおり、分液した上相(水相)及び/又は下相(有機相)を第2の蒸留工程(6)に供している。水相はアセトアルデヒドに富み、酢酸メチル、酢酸、ヨウ化メチルなどを含む上相又は軽質相を形成し、下相はヨウ化メチルに富み、酢酸メチル、酢酸、水などを含む有機相又は重質相を形成する。なお、熱交換器(コンデンサ)C4の凝縮工程で凝縮しなかった非凝縮ガスは、ヨウ化メチルに富み、酢酸メチル、一酸化炭素などを含んでいる。そのため、非凝縮ガスを、ライン35を通じて、吸収処理ユニットを有するスクラバーユニット(図示せず)に供給してもよい。
【0061】
この例では、一部の凝縮液(デカンタ(5)内の上相)は還流ライン42で第1の蒸留塔(スプリッターカラム)(3)に還流するとともに、下相(ヨウ化メチルに富む有機相又は重質相)の一部を、ライン41,100を通じて、反応器(1)にリサイクルしている。なお、デカンタ(5)内で分液した上相(アセトアルデヒドに富む水相又は軽質相)の一部も反応器(1)にリサイクルしてもよい。
【0062】
なお、第1のオーバーヘッド(3A)を、複数のコンデンサ(冷却温度が順次低下した複数のコンデンサ)で順次に冷却して、温度が順次に低下した凝縮液を生成させると、第1段目のコンデンサで凝縮したプロセス液(凝縮液)よりも、後段のコンデンサによる凝縮液中には、アセトアルデヒドが高濃度に存在する。そのため、アセトアルデヒドが高濃度に濃縮された濃縮液を第2の蒸留工程(6)に供し、アセトアルデヒドを分離してもよい。
【0063】
さらに、複数のコンデンサを利用すると、オフガスの有用成分を有効に利用できる。具体的には、ライン33に、下流方向にいくにつれて冷却温度が順次に低下した複数のコンデンサC4を設け、複数のコンデンサC4の上流側又は複数のコンデンサC4の間にオフガスを導入して冷却すると、オフガスをスクラバーユニットなどで分離することなく、凝縮液と非凝縮ガスとに分離でき、非凝縮ガスをスクラビング設備(スクラバーユニット)に供給して処理し、凝縮液の一部を反応工程(1)にリサイクルし、凝縮液の一部を第2の蒸留工程(6)にリサイクルすることにより、オフガス中の有用成分を反応に有効に利用でき、アルデヒドを有効に分離できる。
【0064】
なお、オフガスは、酢酸製造プロセスから生成するオフガスであれば特に制限されず、例えば、反応器(1)からのオフガス14、フラッシャー(2)からのオフガス27、後述の第2の蒸留工程(6)からのオフガス60,71、分液工程(5)からのオフガス、抽出工程(7)からのオフガス(例えば、抽出蒸留工程からのオフガス)、第4の蒸留工程からのオフガスなどであってもよい。オフガスとしては、少なくとも第2の蒸留工程(6)からのオフガスを利用する場合が多い。また、凝縮液は、反応器(1)及び蒸留工程の蒸留塔(第1の蒸留塔(3)及び/又は第2の蒸留塔(6))のうち少なくとも一方のユニットにリサイクルすればよく、通常、反応器(1)及び第2の蒸留塔(6)の双方にリサイクルする場合が多い。
【0065】
また、凝縮液を二相に分液するための分液工程(デカンタ(5))に加えて、必要であれば、デカンタ(5)の凝縮液(分液した下相又は上相)を一時的に貯蔵する(又は滞留させる)ためのバッファタンク又はホールドタンクを利用し、プロセス流の流量変動などを抑制してもよい。
【0066】
デカンタ(5)内で分液したアセトアルデヒドに富む上相(水相又は軽質相)、及びヨウ化メチルに富む下相(有機相又は重質相)のうち少なくとも一方の相は、第2の蒸留工程(アルデヒド分離工程)(6)及び/又は反応工程(1)に供給してもよい。例えば、第2の蒸留工程(アルデヒド分離工程)(6)には、下相(有機相又は重質相)に代えて上相(水相又は軽質相)を供給してもよい。また、反応工程(1)には、上相(水相又は軽質相)に代えて、下相(有機相又は重質相)をリサイクルしてもよく、上相、下相両方をリサイクルしてもよい。
【0067】
(6)第2の蒸留工程(アルデヒド分離工程)
分液工程(5)で凝縮した凝縮液は、第2の蒸留工程又は蒸留塔(6)に供給され、第2の蒸留塔(6)では、凝縮液を蒸留して、ヨウ化メチル及びPRCとしてのアセトアルデヒドに富む第2のオーバーヘッド(5A)(6A)と、ヨウ化メチルに富み、酢酸メチルなどを含む底部流(5B)(6B)とに分離している。
【0068】
この例では、分液工程(5)で凝縮した凝縮液のうち、水相又は軽質相(アセトアルデヒドに富む)の少なくとも一部及び/又は有機相又は重質相(ヨウ化メチルに富み、酢酸メチルなどを含む)の少なくとも一部は、第2の蒸留工程又は蒸留塔(6)に供給している。より具体的には、分液工程(5)で凝縮した凝縮液のうち、アセトアルデヒドに富む水相又は軽質相の一部は、ライン43を経て第2の蒸留工程又は蒸留塔(6)に供給し、水相の一部は、ライン44を経て反応器(1)へリサイクルしている。また、ヨウ化メチルに富み、酢酸メチルなどを含む有機相又は重質相の少なくとも一部は、ライン45を経て第2の蒸留工程又は蒸留塔(6)に供給している。なお、第2の蒸留工程(6)では、水相及び有機相のうち少なくとも一方の相の少なくとも一部を蒸留すればよく、水相の少なくとも一部、又は有機相の少なくとも一部を蒸留してもよく、水相及び有機相の双方の相の少なくとも一部を蒸留してもよい。
【0069】
なお、第2の蒸留工程(6)は少なくとも1つの蒸留塔を備えていればよく、この例では、第2の蒸留工程(6)は複数の蒸留塔(この例では2つの蒸留塔(6a)(6b))を備えている。すなわち、ライン43,45を通じて第2の蒸留塔(6a)に供給された凝縮液(この例では、水相及び有機相の少なくとも一方の相の少なくとも一部)は、蒸留により、塔頂留出ライン55からのオーバーヘッド(5A)と、ヨウ化メチルに富み、酢酸メチル、酢酸、水などを含む塔底ライン51からの底部流(5B)とに分離され、オーバーヘッド(5A)は、ヨウ化メチル及びアセトアルデヒドに富んでおり、ライン55のコンデンサC5で冷却して凝縮され、ヨウ化メチル及びアセトアルデヒドに富む凝縮液はライン56を通じてホールドタンク57に貯留され、凝縮液の一部は還流ライン58を通じて第2の蒸留塔(6a)に還流し、凝縮液の一部は第3の蒸留塔(6b)に供給されている。コンデンサC5で凝縮しなかった非凝縮ガス(ヨウ化メチルなどを含む)は、ライン60を通じて、吸収処理ユニットを有するスクラバーユニット(図示せず)に供給している。
【0070】
また、第3の蒸留塔(6b)では、凝縮液が蒸留され、ライン62からのオーバーヘッド(6A)と、ヨウ化メチルに富み、酢酸メチルなどを含むライン61からの底部流(6B)とに分離され、オーバーヘッド(6A)は、ライン62のコンデンサC6で冷却して凝縮され、凝縮液はライン64を通じてホールドタンク65に貯留され、凝縮液の一部は還流ライン66を通じて第3の蒸留塔(6b)に還流し、ヨウ化メチル及びアセトアルデヒドに富む凝縮液の一部は抽出工程(7)に供給されている。また、前記コンデンサC6で凝縮しなかった非凝縮ガスは、ライン69,71を通じて、吸収処理ユニットを有するスクラバーユニット及び/又は膜分離設備(膜分離ユニット)など(図示せず)に供給してもよい。さらに、スクラバーユニット及び/又は膜分離ユニットに代えて、又はスクラバーユニット及び/又は膜分離ユニットとともに、前記のように、順次冷却した複数のコンデンサC4を設け、非凝縮ガス71をそのまま複数のコンデンサの上流側又は複数のコンデンサの間に導入して、有用成分を回収し、反応工程及び/又は蒸留工程にリサイクルし、反応などに有効に利用してもよい。なお、非凝縮ガス71は、少なくとも1つのコンデンサC4及びリサイクルラインを含むラインを経由して反応工程(1)及び/又は蒸留工程にリサイクルしてもよく、蒸留工程は、第1の蒸留工程(3)及び第2の蒸留工程(6)のうち少なくとも1つの蒸留工程であってもよい。例えば、非凝縮ガス71を、第1の蒸留工程(3)のコンデンサC4及びリサイクルラインを含むラインを経由して、直接的に第2の蒸留工程(6)にリサイクルしてもよく、デカンタ(5)を経て間接的に第2の蒸留工程(6)にリサイクルしてもよい。また、第2の蒸留工程(6)において、第2の蒸留塔(6a)及び/又は第3の蒸留塔(6b)にリサイクルしてもよい。
【0071】
前記第2の蒸留塔(6a)からの底部流(5B)の一部はライン52,100を通じて反応器(1)にリサイクルしてもよく、底部流(5B)の一部は、ライン51から分岐するライン53を通じて、デカンタ(5)に与えてもよい。さらに、底部流(5B)の一部は、ライン51から分岐するライン54及び還流ライン66を通じて、第3の蒸留塔(6b)に還流してもよい。また、第3の蒸留塔(6b)からの底部流(6B)はライン61,100を通じて反応器(1)にリサイクルしてもよい。
【0072】
なお、第2の蒸留工程(6)(複数の蒸留塔(6a)(6b))では、ジメチルエーテルなどの蒸気圧の高い低沸点成分が副生する場合がある。そのため、第3の蒸留塔(6b)の塔頂では、蒸留に伴って蒸気圧の高い低沸点成分(ヨウ化メチル、アセトアルデヒド、ジメチルエーテルなど)が次第に濃縮され(蒸気圧の高い低沸点成分の濃度が高くなり)、圧力上昇をもたらす場合がある。
【0073】
本発明では、圧力上昇をもたらす可能性のある成分を蒸留しても、圧力上昇することがなく、円滑かつ安全に運転できる。すなわち、第3の蒸留塔(6b)の塔頂には圧力制御ユニットPC(68)が配置されており、第3の蒸留塔(6b)の塔内の圧力(この例では、オーバーヘッド(6A)のライン62の圧力)を圧力センサで検出し、この検出値が基準値(所定の閾値を有していてもよい基準値)より大きくなると、圧力制御ユニットPC(68)から、点線で結ばれた圧力コントロールバルブ70(ライン71のバルブ70)に制御量の制御信号が与えられ、バルブを開いてライン71から非凝縮ガスを流出させ、所定の圧力を維持する。一方、検出値が前記基準値より小さくなると、圧力制御ユニットPC(68)が制御信号を圧力コントロールバルブ70に与え、バルブを閉じている。すなわち、非凝縮ガス(オーバーヘッド)の流出量を調整し、第3の蒸留塔(6b)の塔内の圧力を制御している。また、検出値が前記基準値よりも過度に小さくなると、ライン72を通じて窒素ガスNが導入され、所定の圧力を維持する。なお、ライン72から少量の窒素ガスを常に流して、制御に適切な開度でコントロールバルブ70を開いた状態にし、コントロールバルブ70の応答性及び/又は制御性を向上させてもよい。窒素ガスの流量(kg/H)は、ライン59の流量の1%以下(例えば、0.0001〜1%)、好ましくは0.1%以下(例えば、0.001〜0.05%)であってもよい。
【0074】
なお、第2の蒸留工程(アルデヒド分離工程)(6)は複数の蒸留塔を備えている必要はなく、単一の蒸留塔を備えていてもよい。第2の蒸留工程(アルデヒド分離工程)(6)では、前記混合物(3A)、例えば、凝縮液、又は分液工程(5)で生成した上相及び/又は下相を蒸留すればよい。例えば、下相に比べて上相には多くのアセトアルデヒドが含まれている。そのため、下相に代えて、分液工程(5)で生成した上相を蒸留してもよく、少なくとも一部の上相を(例えば、少なくとも一部の上相と少なくとも一部の下相とを)蒸留してもよい。分液工程(5)で生成した下相はヨウ化メチルに富み、ジメチルエーテル、酢酸メチル、メタノール、水なども含んでいる。そのため、少なくとも下相を第2の蒸留工程(アルデヒド分離工程)(6)で蒸留すると、塔内の圧力が上昇する場合があるが、本発明では、前記のように、塔内の圧力上昇を有効に抑制できる。そのため、本発明では、下相(有機相)の少なくとも一部(一部又は全部)を第2の蒸留工程(アルデヒド分離工程)(6)で蒸留してもよい。
【0075】
第2の蒸留工程(6)が、単一の蒸留塔で形成されている場合には、蒸留塔の圧力を制御しつつ第1のオーバーヘッドを蒸留すればよく、複数の蒸留工程(複数の蒸留塔で連続的に蒸留するための工程)を含んでいる場合、少なくとも1つの蒸留塔(上流、中間及び/又は下流の蒸留塔)で圧力を制御しつつ第1のオーバーヘッド又は混合物(3A)を蒸留してもよい。好ましい態様では、蒸気圧の高い低沸点成分が濃縮しやすい蒸留塔、例えば、少なくとも下流側(最下流側)の蒸留工程で蒸留塔の圧力を制御しつつ第1のオーバーヘッドを蒸留してもよい。
【0076】
蒸留塔の圧力制御には、工業的に使用可能な種々の方法が採用でき、前記のように、非凝縮ガス(オーバーヘッド)の流出量を調整して圧力制御してもよく、複数の蒸留塔を利用するプロセスでは、非凝縮ガス(オフガス)の量は、凝縮器C6の下流に配設されたホールドタンク65の気相部に通じる抜取り口を形成し、この抜取り口の圧力及び/又は流量を検出して圧力制御してもよい。また、蒸留塔の塔頂に圧力センサを取り付け、圧力制御してもよい。さらに、この例の場合の凝縮器C6の冷却水の温度及び/又は流量を調整し、プロセスの温度を調整することにより、その温度では凝縮できない成分を含む非凝縮ガスと生成する凝縮液量との割合をコントロールし、ライン71から排出されるガス量を調整して圧力制御してもよい。
【0077】
なお、第2の蒸留工程又は第2の蒸留塔(6)からの第2のオーバーヘッドを凝縮して、凝縮液とオフガスとに分離する工程を含むプロセスにおいて、アセトアルデヒドADの濃度は、凝縮液に比べてオフガス中の方が低い。そのため、このプロセスにおいて、オフガスを系外に排出しても、アセトアルデヒド除去効率(脱AD効率)は殆ど低下させることがない。しかも圧力制御ユニットにより、プロセス流の流量及び/又は圧力変動を抑制できるため、アセトアルデヒドを安定して除去でき、アセトアルデヒドの除去効率を向上できる。
【0078】
特に、凝縮液を抽出工程(7)に供し、(10)オフガスから、ヨウ化メチル、酢酸メチル、ジメチルエーテル、水及び一酸化炭素から選択された少なくとも一種の成分を回収して直接的又は間接的に反応工程(1)及び/又は蒸留工程(第1の蒸留工程(3)及び/又は第2の蒸留工程(6))にリサイクルすると、オフガスの有用成分を排出することなく、反応に有効に利用できるとともに、アセトアルデヒドなどのPRC類の分離効率を向上できる。
【0079】
第2の蒸留工程(6)の蒸留塔としては、棚段塔、充填塔などが利用できる。第2の蒸留工程(6)の蒸留塔の塔内温度は、圧力に依存し、常圧(1気圧=約0.1MPa)において、塔頂温度は、例えば、20〜100℃、好ましくは40〜70℃程度であってもよく、塔底温度は、例えば、40〜120℃、好ましくは60〜90℃程度であってもよい。第2の蒸留工程で蒸留塔内の圧力(ゲージ圧)は、例えば、約0.01〜0.6MPa、好ましくは0.13〜0.4MPa、さらに好ましくは0.15〜0.35MPa程度であってもよい。圧力は、分離効率、エネルギー使用量、設備費などを考慮し、コスト上、有利な条件を選定すればよく、その選定した圧力の値を一定とするように運転すればよい。運転圧力が変動すると、蒸留分離する成分の沸点が変わるため、所望する蒸留分離に不都合が生じる。なお、当然のことではあるが、設備の耐圧条件を超えた圧力で運転することは安全上できない。
【0080】
蒸留塔の理論段は、例えば、10〜150段、好ましくは20〜90段程度であってもよい。蒸留塔での還流比は、全還流、もしくは、例えば、1〜1000、好ましくは50〜400程度であってもよい。
【0081】
なお、前記ライン72からは、窒素ガスに限らず、前述のスクラバーユニットからのオフガス(一酸化炭素、二酸化炭素、窒素ガスなどを含むオフガス)、不活性ガス(例えば、アルゴンなど)を導入してもよい。
【0082】
(7)抽出工程
抽出工程(7)では、水抽出ユニット(水抽出器)でライン67からの凝縮液を水抽出して分液し、ヨウ化メチルに富む有機相(ラフィネート)とアセトアルデヒドに富む水相(抽出液)とに分離している。なお、この例では、抽出工程(7)は2つの水抽出ユニット(水抽出器)を備えている。すなわち、第1の水抽出ユニット(水抽出器)(8)において、所定のライン(図示せず)からの水(例えば、冷却した水)で、ライン67からの凝縮液(冷却しておいてもよい)を抽出(冷却した水と凝縮液とを混合)して分液し、第1のラフィネート(7B)と第1の抽出液(7A)とに分離し、第2の水抽出ユニット(水抽出器)(9)では前記第1のラフィネート(7B)を水で抽出して分液し、第2のラフィネート(8B)と第2の抽出液(8A)とに分離している。そのため、第2のラフィネート(8B)のアセトアルデヒド濃度は極めて低減しており、第2のラフィネート(8B)の一部を、ライン91,92,100を通じて反応器(1)へリサイクルし、第2のラフィネート(8B)の一部を、ライン93を通じて、第2の蒸留工程(6)にリサイクルしている。この例では、第2の蒸留工程(アルデヒド分離工程)(6)の下流側の蒸留塔(6b)に第2のラフィネート(8B)の一部を供給している。
【0083】
一方、アセトアルデヒドに富む第1及び第2の抽出液(7A)(8A)は、後続の第4の蒸留工程(8)の蒸留塔(図示せず)で蒸留して水を回収してもよいし、蒸留することなく、第1及び第2の抽出液を排水又は廃液してもよい。
【0084】
なお、ラフィネートの少なくとも一部は、反応工程(1)及び/又は蒸留工程(第1の蒸留工程(3)及び/又は第2の蒸留工程(6))にリサイクルしてもよい。代表的には、ラフィネートの少なくとも一部は反応工程(1)及び/又は蒸留工程(6)にリサイクルすることができ、ラフィネートの少なくとも一部は、少なくとも反応器にリサイクルしてもよく、ラフィネートの一部を第2の蒸留工程(6)の蒸留塔にリサイクルしてもよい。特に、ラフィネートの少なくとも一部を第2の蒸留工程(6)の蒸留塔にリサイクルし、リサイクルされたラフィネートを前記混合物(3A)と共に蒸留してもよい。なお、ラフィネートの全部を前記混合物(3A)と共に第2の蒸留工程(6)の蒸留塔で蒸留しても、前記圧力制御ユニットにより塔内の圧力が変動するのを抑制でき、安定かつ安全に操業できる。また、第2の蒸留工程(アルデヒド分離工程)(6)が複数の蒸留塔を備えているプロセスにおいて、第2のラフィネート(8B)の一部は、任意の蒸留塔、例えば、第2の蒸留塔(6a)及び/又は第3の蒸留塔(6b)に供給してもよい。好ましい態様では、蒸留塔の圧力上昇が懸念される場合、圧力制御ユニットを備えた蒸留塔、例えば、下流側の蒸留塔に第2のラフィネート(8B)の一部を供給してもよい。
【0085】
抽出工程(7)では、第2のオーバーヘッド(5A)(6A)を間欠的(段階的)又は連続的に水抽出してもよい。水抽出は単一又は複数の抽出器で行ってもよい。抽出器としては、例えば、ミキサーとセトラーの組み合わせ、スタティックミキサーとデカンタの組み合わせ、RDC(rotated disk contactor)、Karr塔、スプレー塔、充填塔、多孔板塔、邪魔板塔、脈動塔などを用いることができる。抽出器(抽出塔)は、水と混合して抽出でき分液可能な単回(シングルステージ)抽出装置であってもよく、このシングルステージ抽出装置をカスケード式に配置してもよい。また、複数の理論段で水抽出してもよい。例えば、複数の抽出器(理論段1の各抽出器)を用いて順次に抽出する多段(マルチステージ)抽出装置であってもよい。また、複数の抽出器を1つの装置内に配置したマルチステージ抽出装置であってもよく、例えば、多段(マルチステージ)抽出装置と等価な理論段(多段抽出に対応する理論段)を有する単一の抽出装置であってもよい。また、抽出は回分式、連続式のいずれの方式で行ってもよく、並流抽出、向流抽出のいずれであってもよい。なお、水抽出の理論段数は、1段に限らず0.5段〜5段程度であってもよい。水抽出には、プロセス外からの水を利用してもよく、プロセス内の水を水抽出に再利用してもよい。
【0086】
水抽出において、凝縮液と水との流量(m/hr)の割合は、前者/後者=0.1/0.9〜0.9/0.1、好ましくは0.3/0.7〜0.8/0.2程度であってもよい。
【0087】
水抽出温度は、−10〜70℃、好ましくは5〜60℃、さらに好ましくは10〜50℃程度であってもよい。水抽出は、常圧又は加圧下で行ってもよく、ゲージ圧力で、例えば、約0.1〜0.5MPa、好ましくは0.15〜0.4MPa程度で行ってもよい。
【0088】
抽出工程(7)では、水抽出ユニット(水抽出器)に代えて、水抽出蒸留塔を利用してもよい。この水抽出蒸留では、凝縮液を水抽出蒸留塔に供給するとともに、蒸留塔の上部からの抽剤(水)を供給し、塔頂又は上部からのヨウ化メチルに富むラフィネートと、缶出からの水抽出液(アセトアルデヒドを抽出した抽出液)とに分離できる。
【0089】
水抽出蒸留塔としては、棚段塔、充填塔などが利用できる。抽剤(水)と凝縮液(液体流換算)との流量の重量割合は、前者/後者=0.1/100〜10000/100程度の範囲から選択してもよく、通常、25/100〜2500/100、好ましくは70/100〜1500/100程度であってもよい。
【0090】
水抽出蒸留において、抽剤(水)の温度は、例えば、0〜60℃、好ましくは10〜50℃、さらに好ましくは20〜40℃程度であってもよく、常温(例えば、15〜25℃程度)であってもよい。抽剤(水)は、加温又は加熱して、若しくは蒸気の形態で添加してもよい。
【0091】
なお、水抽出蒸留塔の塔内温度は、圧力に依存し、常圧において、塔頂温度は、例えば、10〜120℃、好ましくは20〜90℃程度であってもよく、塔底温度は、例えば、15〜150℃、好ましくは25〜120℃程度であってもよく、塔頂圧力は、絶対圧力で、例えば、約0.1〜0.5MPa、好ましくは0.2〜0.4MPa程度であってもよい。
【0092】
蒸留塔の理論段は、例えば、0.5〜30段、好ましくは2〜20段程度であってもよい。蒸留塔での還流比は、例えば、0.01〜500、好ましくは0.5〜50、さらに好ましくは2〜20程度であってもよい。
【0093】
このように、抽出工程(7)では、水抽出蒸留及び/又は水抽出器で、第2のオーバーヘッドの凝縮液を水抽出する工程と、抽出液を第4の蒸留工程(8)に供給する工程と、ラフィネートを反応工程(1)及び蒸留工程(6)にリサイクルする工程とを含んでいる。
【0094】
なお、抽出工程(7)から生成する非凝縮ガス(オフガス)、例えば、水抽出ユニット(水抽出器)(8)(9)からの気相ガス、水抽出蒸留により生成する非凝縮ガスも、前記と同様に、スクラバーユニット及び/又は膜分離ユニットに代えて、又はスクラバーユニット及び/又は膜分離ユニットとともに、複数のコンデンサを利用して、有用成分を回収し、反応工程及び/又は蒸留工程(第1の蒸留工程(3)及び/又は第2の蒸留工程(6))にリサイクルし、反応などに有効に利用してもよい。
【0095】
(8)第4の蒸留工程(アルデヒド分離工程)
第4の蒸留工程(8)の蒸留塔(図示せず)では、抽出工程(7)で生成した抽出液(前記の例では、第1及び第2の抽出液(7A)(8A))を蒸留し、アセトアルデヒドに富む第4のオーバーヘッドと、水に富む底部流(缶出流)とに分離し、底部流(水性流)は、前記抽出工程(7)での抽出水(抽剤)として再利用している。一方、第4のオーバーヘッドは、1又は複数のコンデンサで冷却して凝縮され、水、ヨウ化メチル、アセトアルデヒドなどを含む凝縮液と、アセトアルデヒドを含む非凝縮ガスとに分離している。非凝縮ガスは、吸収処理ユニットを有するスクラバーユニット(図示せず)に供給してもよく、スクラバーユニット及び/又は膜分離ユニットに代えて、又はスクラバーユニット及び/又は膜分離ユニットとともに、前記のように、順次冷却した複数のコンデンサC4を設け、非凝縮ガスをそのまま上流側又は複数のコンデンサの間に導入して、有用成分を回収し、反応などに有効に利用してもよい。
【0096】
第4の蒸留工程(8)の蒸留塔としては、棚段塔、充填塔などが利用できる。第4の蒸留工程(8)の蒸留塔の塔内温度は、圧力に依存し、常圧(1気圧=約0.1MPa)において、塔頂温度は、例えば、20〜150℃、好ましくは50〜120℃程度であってもよく、塔底温度は、例えば、40〜180℃、好ましくは80〜160℃程度であってもよく、圧力(ゲージ圧)は、例えば、約0.0〜0.5MPa、好ましくは0.1〜0.3MPa、さらに好ましくは0.12〜0.25MPa程度であってもよい。
【0097】
蒸留塔の理論段は、例えば、1〜30段、好ましくは2〜10段程度であってもよい。蒸留塔での還流比は、全還流、もしくは、例えば、0.1〜100、好ましくは2〜20程度であってもよい。
【0098】
(10)オフガス処理工程
前記プロセスから発生する非凝縮ガス(オフガス)は系外に排出してもよいが、非凝縮ガス(オフガス)にも、ヨウ化メチル、酢酸メチル、ジメチルエーテル、水及び一酸化炭素などの有用な成分が含まれている。そのため、オフガス処理工程(10)で、非凝縮ガス(オフガス)を処理し、有用成分を分離又は回収して直接的又は間接的に反応工程(1)及び/又は蒸留工程(第1の蒸留工程(3)及び/又は第2の蒸留工程(6))にリサイクルし、有効に利用するのが好ましい。例えば、非凝縮ガス(オフガス)は、少なくとも1つのコンデンサ、特に、下流方向にいくにつれて順次に凝縮温度が低下した複数のコンデンサ(例えば、前記第1のオーバーヘッド(3A)のライン33に設けた複数のコンデンサC4)の上流又は複数のコンデンサの間に供給し、冷却して凝縮し、凝縮成分(凝縮液)を反応工程(1)及び/又は蒸留工程(第1の蒸留工程(3)及び/又は第2の蒸留塔(6))にリサイクルしてもよい。すなわち、非凝縮ガスは、少なくとも1つのコンデンサを経由して反応工程(1)及び/又は蒸留工程(第1の蒸留工程(3)及び/又は第2の蒸留塔(6))にリサイクルしてもよい。非凝縮ガス(オフガス)は、前記プロセスから生成する非凝縮ガス、例えば、前記反応器(1)からの非凝縮ガス(一酸化炭素及びヨウ化メチルに富むオフガス)14、フラッシャ(2)からの非凝縮ガス(酢酸、ヨウ化メチル及び酢酸メチルに富むオフガス)27、第1の蒸留工程(3)のコンデンサC4で凝縮しなかった非凝縮ガス35(及びデカンタ(5)内の非液化成分)、第2の蒸留工程(6)からの非凝縮ガス(オフガス)60,71(必要であれば、抽出工程(7)からのオフガス)であってもよい。非凝縮ガスは、少なくとも第2の蒸留工程(6)からの非凝縮ガス(オフガス)60,71を含んでいる場合が多い。
【0099】
非凝縮ガスは、少なくとも1つのコンデンサ(1又は複数のコンデンサ)C4を経由して、直接的に第1の蒸留工程(3)及び第2の蒸留工程(6)のうち少なくとも1つの蒸留工程にリサイクルしてもよく、間接的に第1の蒸留工程(3)及び第2の蒸留工程(6)のうち少なくとも1つの蒸留工程にリサイクルしてもよい(例えば、デカンタ(5)を経て間接的に第1の蒸留工程(3)及び/又は第2の蒸留塔(6a))にリサイクルしてもよい)。第2の蒸留工程(6)では、第2の蒸留塔(6a)及び/又は第3の蒸留塔(6b)にリサイクルしてもよい。
【0100】
また、非凝縮ガス(オフガス)は吸収処理ユニットを有するスクラバーユニット(又はスクラビング設備)で処理してもよい。より具体的には、非凝縮ガス(オフガス)を加圧下で吸収塔の吸収溶媒に吸収させ、ヨウ化メチル、酢酸メチル、ジメチルエーテル、水及び一酸化炭素から選択された少なくとも一種の成分を吸収溶媒から放散して反応工程(1)及び/又は蒸留工程(第1の蒸留工程(3)及び/又は第2の蒸留工程(6))にリサイクルしてもよい。
【0101】
非凝縮ガス(オフガス)からの有価物(DMEなどの有用成分)を、反応系にリサイクルすることにより、有用成分を反応系で有効に利用でき(例えば、DMEなどの成分は、酢酸原料として活用でき)、有用成分のロスを低減でき;第2の蒸留工程(6)にリサイクルすることにより、アセトアルデヒドなどの不純物の分離効率を向上できるとともに蒸留塔(6)での圧力をコントロールできる。また、非凝縮ガス(オフガス)からの有用成分を第1の蒸留工程(3)、例えば、第1の蒸留塔(3)又は少なくとも1つのコンデンサC4の上流部にリサイクルすることにより、デカンタ(5)での分液性を改善できる。
【0102】
スクラバーユニットを利用したオフガス処理工程(10)においても、前記と同様のプロセスから生成する非凝縮ガス14、27、35(及びデカンタ(5)内の非液化成分)、60、71(必要であれば、抽出工程(7)からのオフガス)は、吸収塔で吸収溶媒(例えば、酢酸など)と接触してスクラビングし、一酸化炭素、水素、二酸化炭素及び窒素に富む第1の塔頂ストリームと、酢酸、ヨウ化メチル、酢酸メチル、メタノールに富む底部酢酸ストリームとに分離できる。一酸化炭素に富む第1の塔頂ストリームは反応器(1)及び/又はフラッシャ(2)へリサイクルしてもよい。
【0103】
底部酢酸ストリームは放散塔(ストリッピング塔)で蒸留してストリッピングし、ヨウ化メチル及び酢酸に富む第2の塔頂ストリーム(ジメチルエーテル、メタノール、酢酸メチル、アセトアルデヒドなども含む)と、酢酸、酢酸メチル及び水に富む底部酢酸ストリームとに分離できる。第2の塔頂ストリームは、コンデンサで冷却して凝縮され、非凝縮ガス(ヨウ化メチル及び一酸化炭素に富み、ジメチルエーテル、酢酸メチルなども含むストリーム)は、直接的又は間接的に反応工程(1)及び/又は蒸留工程(第1の蒸留工程(3)及び/又は第2の蒸留工程(6))にリサイクルしてもよく、凝縮液(ヨウ化メチル、酢酸及び酢酸メチルに富み、ジメチルエーテル、水なども含むストリーム)は、直接的又はホールドタンク25、コンデンサC4、デカンタ(5)などを介して間接的に反応工程(1)及び/又は蒸留工程(第1の蒸留工程(3)及び/又は第2の蒸留工程(6))にリサイクルしてもよい。このような反応工程(1)へのリサイクルにより、ヨウ化メチル、ジメチルエーテル、酢酸メチルなどの有用な成分を反応に有効に利用できる。また、蒸留工程へリサイクルしても、圧力制御ユニット68により、第2の蒸留工程(6)の蒸留塔内の圧力上昇を抑制できる。
【0104】
このように、オフガスは、吸収溶媒で吸収処理して、一酸化炭素に富むストリームと、酢酸、ヨウ化メチル、酢酸メチルに富むストリームとに分離できる。
【0105】
なお、反応器(1)からの非凝縮ガス14は、高圧吸収塔で吸収溶媒とスクラビングしてもよく、フラッシャ(2)からの非凝縮ガス27と、第1の蒸留工程(3)のコンデンサC4で凝縮しなかった非凝縮ガス35(及びデカンタ(5)内の非液化成分)、第2の蒸留工程(6)からの非凝縮ガス60,71(必要であれば、水抽出器8,9からのオフガス)は、低圧吸収塔で吸収溶媒とスクラビングしてもよい。
【0106】
高圧吸収塔において、吸収溶媒に対する非凝縮ガスの流量は、重量基準で、例えば、1/100〜1000/1、好ましくは1/10〜100/1、さらに好ましくは1/1〜50/1程度、5/1〜30/1程度であってもよい。吸収溶媒の温度は、例えば、10〜70℃、好ましくは20〜60℃、さらに好ましくは30〜55℃程度であってもよい。高圧吸収塔の塔内温度は、特に制限されず、塔頂温度は、例えば、10〜75℃、好ましくは20〜60℃、さらに好ましくは30〜55℃程度であってもよく、塔底温度は、例えば、10〜80℃、好ましくは20〜70℃、さらに好ましくは30〜60℃(例えば、40〜55℃)程度であってもよい。高圧吸収塔の圧力(ゲージ圧)は、例えば、0.5〜5MPa、好ましくは1〜4MPa、さらに好ましくは2〜3.5MPa(例えば、2.5〜3MPa)程度であってもよい。
【0107】
低圧吸収塔において、吸収溶媒に対する非凝縮ガスの流量は、重量基準で、例えば、1/100〜1000/1、好ましくは1/10〜100/1、さらに好ましくは1/4〜30/1、2/1〜10/1程度であってもよい。吸収溶媒の温度は、例えば、0〜60℃、好ましくは10〜50℃、さらに好ましくは20〜40℃程度であってもよい。低圧吸収塔の塔内温度は、特に制限されず、塔頂温度は、例えば、10〜50℃、好ましくは15〜40℃、さらに好ましくは20〜30℃程度であってもよく、塔底温度は、例えば、15〜60℃、好ましくは20〜50℃、さらに好ましくは30〜40℃程度であってもよい。低圧吸収塔の圧力(ゲージ圧)は、例えば、約0.0〜0.3MPa(例えば、0.0〜0.25MPa)、好ましくは0.1〜0.2MPa程度であってもよい。
【0108】
放散塔(ストリッピング塔)の塔内温度は、特に制限されず、塔頂温度は、例えば、50〜150℃、好ましくは70〜130℃、さらに好ましくは90〜120℃程度であってもよく、塔底温度は、例えば、75〜200℃、好ましくは100〜180℃、さらに好ましくは120〜160℃程度であってもよい。放散塔(ストリッピング塔)の圧力(ゲージ圧)は、例えば、約0.0〜0.3MPa(例えば、0.0〜0.25MPa)、好ましくは0.0〜0.2MPa程度であってもよい。なお、吸収溶媒として、酢酸に代えて、又は酢酸とともにメタノールを用いてもよい。
【0109】
プロセス流のリサイクル
なお、本発明において、前記分離工程で生成し、アセトアルデヒドの濃度が低減したプロセス流(揮発相及び/又は後続するプロセス流からアセトアルデヒドを除去したプロセス流)を反応器にリサイクルしてもよい。このようなリサイクル工程により、反応器内の反応媒体中のアセトアルデヒド濃度を400重量ppm以下(例えば、0又は検出限界〜300重量ppm)、好ましくは10〜250重量ppm(例えば、20〜200重量ppm)程度に維持できる。
【0110】
また、アセトアルデヒドを除去したプロセス流の反応器へのリサイクルにより、プロピオン酸の副生量も低減でき、粗酢酸流(3B)を簡単に精製することにより、精製酢酸中のプロピオン酸濃度を200重量ppm以下(例えば、検出限界値〜150重量ppm以下、好ましくは5〜100重量ppm以下、さらに好ましくは10〜75重量ppm以下程度)に維持することもできる。例えば、粗酢酸流(3B)は、低沸点不純物を除去するための低沸蒸留塔、高沸点不純物を除去するための高沸蒸留塔、さらに必要であれば、イオン交換処理を経て精製酢酸が製造される。本発明では、粗酢酸流(3B)を低沸蒸留塔(脱水塔)で蒸留して低沸成分(主に水)を除去するだけで、精製酢酸中のプロピオン酸濃度を製品規格内に納めることができ、後続する高沸蒸留塔で高沸成分(プロピオン酸など)を分離する必要がなくなる。そのため、精製酢酸中の過マンガン酸カリウム試験値を120分以上(例えば、150〜500分、好ましくは200〜450分、さらに好ましくは240分〜400分程度)に維持でき、精製酢酸中のヨウ化物濃度を100ppb以下(例えば、検出限界値〜75ppb、好ましくは1〜50ppb、さらに好ましくは5〜30ppb程度)に維持することもできる。
【0111】
さらに、上記精製酢酸流をイオン交換処理、例えば、銀、水銀及び/又は銅でイオン交換樹脂の活性部位の一部あるいは全部を交換したイオン交換樹脂を用いて、段階的に昇温しつつ酢酸を通液すると、銀などの流出ロスを抑制しながら、酢酸中のヨウ化ヘキシルなどのヨウ化C1−15アルキルを検出限界以下まで除去できる。
【0112】
なお、前記のように、図1において、第1の蒸留塔からのオーバーヘッド(又は留出液)は均一液であってもよく、二相に分液していてもよい。また、第2の蒸留工程でも、蒸留塔からのオーバーヘッド(又は留出液)は均一液あってもよく、二相に分液していてもよい。
【実施例】
【0113】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0114】
比較例1
図1に示すフローにおいて、第3の蒸留塔(6b)に圧力制御ユニットを配置することなく、反応液量10Lの反応器を用いて、反応圧力2.76MPaG、反応温度186.8℃にて、連続的に酢酸を製造した。反応液(液相)は、水濃度2.7重量%、酢酸メチル濃度1.6重量%、ヨウ化メチル濃度8.2重量%、ヨウ化リチウム濃度12.3重量%、ロジウム濃度910ppmを含んでおり、反応器の気相部の水素H分圧は0.07MPaであった。
【0115】
しかし、第3の蒸留塔の塔頂圧力(ゲージ圧)を0.18MPaGで運転しようとしたが、塔頂圧力が0.2MPaG以上に上昇し、装置の耐圧上の問題から運転を続行できなかった。
【0116】
実施例1
図1に示すフローにおいて、第3の蒸留塔(6b)に圧力制御ユニット68を配置し、第3の蒸留塔(6b)の塔頂圧力(ゲージ圧)を0.18MPaGに制御し、比較例1と同様に、酢酸を連続的に製造したところ、安定して連続的に酢酸を製造できた。以下に、第3の蒸留塔(6b)への仕込液45、留出液(オーバーヘッド(6A)の凝縮液)67、窒素ガス(N)72、及びオフガス71の組成を示す。
【0117】
【表1】
【0118】
実施例2
図1に示すフローにおいて、第3の蒸留塔(6b)に圧力制御ユニット68を配置し、第3の蒸留塔(6)の塔頂圧力(ゲージ圧)を0.18MPaGに制御し、比較例1と同様に、酢酸を連続的に製造したところ、安定して連続的に酢酸を製造できた。以下に、第3の蒸留塔(6b)への仕込液45、留出液(オーバーヘッド(6A)の凝縮液)67、窒素ガス(N)72、及びオフガス71の組成を示す。
【0119】
なお、実施例2では、実施例1に比べて、コンデンサC6の冷却水の温度を下げて、ライン64,69およびホールドタンク65の温度を24℃から15℃に低下させている。その結果、実施例2では、オフガスへのヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒド、ジメチルエーテルなどの含有量が低減している。
【0120】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、蒸留塔の圧力を制御しつつ安定して酢酸を製造できる。そのため、高純度の酢酸を工業的に有利に製造できる。
【符号の説明】
【0122】
1…反応器
2…フラッシュ蒸発槽
3…第1の蒸留塔(スプリッターカラム)
5…デカンタ
6(6a,6b)…第2及び第3の蒸留塔
8,9…抽出器
図1