【文献】
IMBER, R., et al.,DISSOCIATION OF PHAGE-LAMBDA AND PHAGE-LAMBDA POLYHEADS WITH CITRACONIC ANHYDRIDE.,EXPERIENTIA,1977年,Vol.33, No.6,pp.821
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
核酸増幅からの検出結果を確認するための内部対照試薬としての、(i)対照核酸配列と;(ii)アミド結合と末端カルボキシレートに修飾された少なくとも1つの第一級アミン基を有するタンパク質性外表面を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法により得ることが可能な不活性化されたウイルスの使用。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、シトラコン酸無水物で不活性化したバクテリオファージからの核酸増幅の結果を示している。
【0010】
【
図2】
図2は、シトラコン酸無水物で不活性化し、DNアーゼで処理した後のバクテリオファージをからの核酸増幅の結果を示している。
【0011】
【
図3】
図3は、シトラコン酸無水物で不活性化し、DNアーゼで処理した後のバクテリオファージからの核酸増幅の結果を示している。
【0012】
【
図4】
図4は、シトラコン酸無水物で不活性化し、DNアーゼで処理して1週間保管した後のバクテリオファージからの核酸増幅の結果を示している。
【0013】
【
図5】
図5は、シトラコン酸無水物で不活性化し、DNアーゼで処理して1ヶ月保管した後のバクテリオファージからの核酸増幅の結果を示している。
【0014】
【
図6】
図6A〜
図6Bは、第一級アミン基からアミド結合と末端カルボキシレートへの変化を示している。
図6Aは、異なるpHでのシトラコン酸無水物と第一級アミン基の反応を示している。
図6Bは、所定のpHでのシトラコン酸無水物と第一級アミン基の反応によりアミド結合(点線楕円)と末端カルボキシレート(実線楕円)が形成されることを示している。
【0015】
定義
特に断わらない限り、本明細書で用いるあらゆる科学技術用語は、本開示が関係する分野の当業者が一般に理解するのと同じ意味を持つ。本明細書に記載したのと同様のほぼすべての方法と材料を、本開示内容の実施または試験に用いることができるが、代表的な方法と材料だけを記載してある。本開示の目的では、以下に示す用語は以下のように定義される。
【0016】
「1つの」、「その」という用語には、文脈から明らかにそうでないことがわかる場合を除き、複数形が含まれる。
【0017】
「約」という用語には、示してある値からの±15%、または±10%、または±5%、または±3%、または±2%、または±1%の変動と、示してある値そのものが含まれる。
【0018】
「微生物」という用語は、宿主(細菌宿主が含まれるが、それに限定されない)に感染する能力を持つ感染性媒体を意味する。本明細書で対象とする微生物は、宿主への感染を容易にする役割を果たすタンパク質性外表面を有する。微生物の一例はウイルスであり、その中にはRNAウイルスとDNAウイルスが含まれるが、それらに限定されない。微生物にはバクテリオファージも含まれる。
【0019】
「ウイルス」、「ビリオン」、「ウイルス粒子」という用語は、本明細書では入れ替えて使用することができる。ウイルスは、宿主細胞の外では増殖したり複製したりすることのできない極めて小さな感染性媒体である。各ウイルスは、遺伝材料、DNA、RNAのいずれかからなり、それが、キャプシドと呼ばれる保護用タンパク質被膜の中に収容されている。キャプシドの形は、単純な螺旋や二十面体(多面体またはほぼ球)の形から、尾部またはエンベロープを有するより複雑な構造まで、さまざまである。ウイルスは、感染する宿主のタイプに応じてさまざまな細胞生命形態(その中には細菌が含まれるが、それに限定されない)に感染する。本開示はさまざまなウイルスに適用され、その中には、バクテリオファージ、野生型ウイルス、減弱したウイルス、空ウイルス粒子のほか、遺伝子操作したウイルスベクター(複製可能でも複製不能でもよい)が含まれるが、これらに限定されない。
【0020】
「バクテリオファージ」という用語は、本明細書では、細菌に感染するウイルスである。一実施態様では、細菌は、感染性疾患を起こすタイプのものである。バクテリオファージは、(i)一本鎖または二本鎖のDNAウイルスまたはRNAウイルスを構成することができる;および/または(ii)エンベロープを持つ、またはエンベロープを持たないことができる。当業者であれば、分類学上の任意の科、亜科、属、種から適切なバクテリオファージを選択できることがわかるであろう。
【0021】
「宿主細胞」という用語は、単細胞の原核生物および真核生物(例えば細菌、酵母、放線菌)と、細胞培地の中で増殖しているときの、より高等な植物や動物からの単細胞の両方を意味する。本開示の文脈では、宿主細胞に微生物(例えばウイルスまたはバクテリオファージ)を感染させる、および/または宿主細胞が微生物を含んでいる。
【0022】
「核酸」または「ポリヌクレオチド」という用語は、リボ核酸(RNA)ポリマーまたはデオキシリボ核酸(DNA)ポリマーに対応させることのできるポリマー、またはその類似体を意味する。その中には、ヌクレオチドのポリマー、例えばRNA、DNAのほか、その合成形態、修飾された形態(例えば化学的または生化学的に修飾された形態)と、混合されたポリマー(例えばRNAサブユニットとDNAサブユニットの両方を含む)が含まれる。修飾の例には、メチル化すること、1個以上の天然のヌクレオチドを類似体で置換すること、ヌクレオチド間の修飾(例えば帯電していない結合(例えばホスホン酸メチル、ホスホトリエステル、ホスホアミデート、カルバメートなど))、突起部分(例えばポリペプチド)、インターカレータ(例えばアクリジン、ソラレンなど)、キレータ、アルキレータ、修飾された結合(例えばαアノマー核酸など)が含まれる。修飾の例には、指定された配列に水素結合やそれ以外の化学的相互作用によって結合するポリヌクレオチドの能力を模倣した合成分子も含まれる。典型的には、ヌクレオチドモノマーは、ホスホジエステル結合によって結合されるが、合成形態の核酸は他の結合も含んでいる可能性がある(例えばNielsenらが記載しているペプチド核酸(Science、第254巻:1497〜1500ページ、1991年))。核酸として、例えば、染色体または染色体の区画、ベクター(例えば発現ベクター)、発現カセット、裸のDNAポリマー、裸のRNAポリマー、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の産物、オリゴヌクレオチド、プローブ、プライマーが可能である。あるいは核酸は、これらを含むことができる。核酸は、例えば一本鎖、二本鎖、三本鎖であることが可能であり、特定の長さに限定されない。特に断わらない限り、個々の核酸配列は、場合によっては、明示的に示されているあらゆる配列に加え、相補的配列を含む、または相補的配列をコードしている。
【0023】
「ペプチド」、「ポリペプチド」、「タンパク質」という用語は、入れ換えて使用することができる。「核酸」と「ポリヌクレオチド」という用語は、入れ換えて使用することができる。アミノ酸配列は、特に断わらない限り、アミノ末端からカルボキシ末端へと記載する。一本鎖核酸配列は、特に断わらない限り、5'から3'へと記載する。特に断わらない限り、二本鎖核酸の上側の鎖は5'から3'へと記載し、下側の鎖は3'から5'へと記載する。
【0024】
「アーマード」粒子という用語は、ウイルス被膜タンパク質からなる構造の中に、実質的に、または部分的に、または完全に封止された核酸粒子を意味する。アメリカ合衆国特許第5,677,124号、第5,939,262号に記載されているように、アーマード粒子は、異種組織に作製させることができる。例えばRNAをインビボで細菌宿主に転写し、少なくとも一部をバクテリオファージタンパク質によって封止すると、そのRNAはヌクレアーゼまたはリボヌクレアーゼによる分解に対して抵抗性になる。
【0025】
本開示の文脈における「外因的」は、不活性化を生じさせることを可能にする適切な緩衝液の中で、微生物を不活性化する薬剤を単離された微生物と接触させることを意味する。細胞宿主の存在は、この方法/技術では必要ない。
【0026】
「タンパク質性外表面」という用語は、自然界で合成されるタンパク質に含まれる20種類の共通アミノ酸のうちの少なくとも1つを含むアミノ分子配列を有する微生物の外表面を意味する。例えば本開示による不活性化の後、タンパク質性外表面は、
図6A〜
図6Bに示してあるように、少なくとも1つの修飾されたアミノ酸、例えば修飾された第一級アミンを有するアミノ酸を含んでいる。
【0027】
「Cp値」または「交点」値という用語は、入力した標的核酸の定量を可能にする値を意味する。Cp値は、2次微分最大法(Van Luu-The他、「2次微分の計算と二重相関を利用した高スループット測定のための改良されたリアルタイムRT-PCR法」、BioTechniques、第38巻、第2号、2005年2月、287〜293ページ)に従って求めることができる。この2次微分法では、Cpは、2次微分曲線の第1のピークに対応する。このピークは、対数直線相の開始部に対応する。2次微分法では、リアルタイム蛍光強度曲線の2次微分値を計算し、1つの値だけを得る。原初のCp法は、強度値を、例えば多項式により、局所的に定義した微分可能な近似にすること基づいている。次に、3次微分を計算する。Cp値は、その3次微分の最小の根である。Cpは、フィット点法を用いて求めることもできる。その場合、Cpは、対数直線相における閾値線に平行な線との交点によって求まる(Van Luu-The他、BioTechniques、第38巻、第2号、2005年2月、287〜293ページ)。Roche社から提供されたLightCycler装置によって与えられるCp値は、2次微分最大法に従って計算した。
【0028】
「PCR効率」という用語は、あるサイクルから次のサイクルへの増幅効率の指標である。PCR効率は、それぞれの条件について式:%PCR効率=(10
(-勾配)-1)×100を用いて計算される。ただし勾配は、対数でコピー数をy軸にプロットし、Cpをx軸にプロットして線形回帰によって計算した。PCR効率は、完全に一致したプライマー鋳型、またはミスマッチのあるプライマー鋳型を用いて測定することができる。
【0029】
「核酸伸長速度」という用語は、生物触媒(例えばポリメラーゼ、リガーゼなどの酵素)が、鋳型に依存して、または鋳型とは独立に、1個以上のヌクレアーゼを(例えば共有結合で)核酸に付着させることによってその核酸(例えばプライマーやその他のオリゴヌクレオチド)を伸長させる速度を意味する。
【0030】
「5'-ヌクレアーゼプローブ」という用語は、少なくとも1つの発光標識部分を含んでいて、標的核酸を検出するための5'-ヌクレアーゼ反応で用いられるオリゴヌクレオチドを意味する。いくつかの実施態様では、5'-ヌクレアーゼプローブは、例えば単一の発光標識部分(例えば蛍光染料など)しか含んでいない。いくつかの実施態様では、5'-ヌクレアーゼプローブは、自己相補性領域を含んでいるため、プローブは選択された条件下でヘアピン構造を形成することができる。さらに説明すると、いくつかの実施態様では、5'-ヌクレアーゼプローブは、少なくとも2つの標識部分を含んでいて、その2つの標識のうちの1つが開裂するか別のやり方でオリゴヌクレオチドから分離された後に、増大する強度の放射を発生させる。いくつかの実施態様では、5'-ヌクレアーゼは、2つの異なる蛍光染料(例えば5'末端レポータ染料と3'末端消光染料または消光部分)で標識される。いくつかの実施態様では、5'-ヌクレアーゼプローブは、末端位置以外の、または末端位置に加えて、1つ以上の位置が標識される。プローブが完全な状態であるとき、エネルギー移動は典型的には2つの蛍光体の間で起こるため、レポータ染料からの蛍光発光が少なくとも部分的に消える。ポリメラーゼ連鎖反応の伸長工程の間、例えば鋳型核酸に結合した5'-ヌクレアーゼプローブは、5'→3'ヌクレアーゼ活性を有する例えばTaqポリメラーゼまたは別のポリメラーゼのこの活性によって開裂するため、レポータ染料の蛍光発光はもはや消えない。5'-ヌクレアーゼプローブの例は、例えばアメリカ合衆国特許第5,210,015号、第5,994,056号、第6,171,785号にも記載されている。別の実施態様では、5'-ヌクレアーゼプローブは、2つ以上の異なるレポータ染料と、1つの3'末端消光染料または消光部分で標識することができる。
【0031】
「FRET」または「蛍光共鳴エネルギー移動」または「フェルスター共鳴エネルギー移動」という用語は、少なくとも2つの発色団の間、すなわちドナー発色団とアクセプタ発色団(消光剤と呼ばれる)の間のエネルギー移動を意味する。ドナーは、適切な波長の光によって励起されたとき、典型的にはエネルギーをアクセプタに移動させる。アクセプタは、典型的には、移動したエネルギーを異なる波長の光の形で再放射する。アクセプタは、「暗い」消光剤であるとき、移動したエネルギーを光以外の形で散逸させる。個々の蛍光体がドナーとして機能するかアクセプタとして機能するかは、FRETペアの他方のメンバーの特性に依存する。一般に用いられるドナー-アクセプタのペアにはFAM-TAMRAが含まれる。一般に用いられる消光剤は、DABCYLとTAMRAである。一般に用いられる暗い消光剤には、BlackHole Quenchers(登録商標)(BHQ)(Biosearch Technologies社、ノヴァト、カリフォルニア州)、Iowa Black(登録商標)(Integrated DNA Tech.社、コラルヴィル、アイオワ州)、BlackBerry(登録商標)クエンチャ650(BBQ-650)(Berry & Assoc.社、デクスター、ミシガン州)が含まれる。
【0032】
発明の詳細な説明
本発明により、不活性化された微生物と、それを調製して用いる方法のほか、それを含む組成物とキットが提供される。不活性化された微生物は、組み換え核酸技術で用いるための内部対照試薬の調製、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による核酸増幅で特に用いるための内部対照試薬の調製に有用である。特に、本発明により、核酸増幅からの検出結果を確認するため内部対照として使用できる標的核酸配列を含む不活性化された微生物または非感染性の微生物が提供される。
【0033】
不活性化された微生物
【0034】
微生物は、典型的には、特にRNAゲノムまたはDNAゲノムを保護する役割を果たすタンパク質性外表面を特徴とする。例えばバクテリオファージは、ゲノムを封止するだけでなく、ファージが宿主細胞に感染して複製されるための機構も提供する外表面を有する。ウイルスの外表面は、典型的には、宿主細胞の表面への付着を容易にしてその後遺伝材料を注入するのを助ける糖タンパク質を含んでいる。
【0035】
本開示によれば、不活性化された微生物は、少なくとも1つの第一級アミン基を含む修飾されたタンパク質性外表面を有する。一実施態様では、少なくとも1つの第一級アミン基は、リシン第一級アミン基である。別の一実施態様では、第一級アミン基は、修飾された第一級アミン基である。別の一実施態様では、修飾された第一級アミン基は、アミド結合と末端カルボキシレートに修飾されている。追加の一実施態様では、不活性化された微生物は、修飾されてアミド結合と末端カルボキシレートになった少なくとも1つの第一級アミン基を含むタンパク質性外表面を有する誘導体化された微生物である。いくつかの実施態様では、誘導体化された微生物はウイルスであり、その中にはバクテリオファージが含まれるが、それに限定されない。別の実施態様では、誘導体化された微生物は、RNAウイルスまたはDNAウイルスである。別の一実施態様では、誘導体化された微生物はアーマード核酸であり、その中にはアーマードRNAまたはアーマードDNAが含まれるが、それらに限定されない。
【0036】
本明細書により、「変化した」、「修飾された」、「不活性化された」、「誘導体化された」微生物が提供される。本明細書の文脈におけるこれらの用語は入れ換えて使用することができ、タンパク質性外表面を有する微生物を意味する。その外表面の組成には、修飾されてアミド結合と末端カルボキシレートになった少なくとも1つの第一級アミン基が含まれる。
図6Aと
図6Bは、第一級アミン基からアミド結合と末端カルボキシレートへの変化を示している。
図6Aと
図6Bは、ヒドロキシル基を有するカルボン酸の形態の末端カルボキシレートを示している。しかし本開示による末端カルボキシレートは、カルボン酸が解離してカルボキシレートアニオンと正に帯電した水素イオンになった結果であることが当業者にはわかるであろう。下に示したように、脱プロトン化された後のカルボキシレートイオンの負電荷は、安定な共鳴構造になった負に帯電した2つの酸素原子の間に非局在化している。
【0037】
【化1】
【0038】
一実施態様では、微生物は、ウイルス粒子が、対応するそれぞれの宿主細胞から放出された後に、好ましくは自然環境または技術的作製プロセスからの完全なウイルス粒子が単離されて濃縮された後に、本開示の方法で修飾されたウイルスである。ウイルスタンパク質の組成変更を利用して、ウイルス粒子の化学的および/または生物学的性質を改変することができる。例えばウイルスが宿主細胞に付着してその遺伝材料を注入する能力を調節することができ、そのことによってビリオンの感染性を変化させることができる。
【0039】
別の側面では、本開示の方法で不活性化された微生物は、本明細書に記載した方法によりシトラコン酸無水物で処理した後は不活性な状態のままに留まる。不活性化状態は、当業者に知られている方法で確認すること、または調べることができる。一実施態様では、不活性化状態は、不活性化された微生物が自身を増殖する能力を調べることによって確認される。不活性化されたウイルスの場合には、不活性化状態は、そのウイルスが宿主細胞単層の中にプラークを形成する能力を測定することによって調べられる。プラーク形成単位(PFU)は、プラークを形成することのできる粒子(例えばウイルス粒子)の単位体積当たりの数の指標である。pfu/mlという指標は、ウイルス粒子が宿主細胞に感染する能力に関してよく受け入れられている機能的指標である。欠陥のあるウイルス粒子、または標的宿主細胞に感染できないウイルス粒子、すなわち不活性化されたウイルス粒子はプラークを作らないため、カウントされないであろう。一実施態様では、本開示の不活性化された微生物は、本開示の方法によって不活性化された後の少なくとも1ヶ月間は不活性な状態に留まる。特別な一実施態様では、不活性化された微生物は、不活性化されたウイルスである。
【0040】
1つの側面では、本開示の不活性化された微生物は、対照標的核酸配列を含んでいる。対照標的核酸は、生物的供給源または合成供給源に由来するものが可能である。標的として、例えばDNAまたはRNAが可能である。一般に、アンプリコンが生成する場合、そのアンプリコンはDNAで構成されることになるが、リボヌクレオチドまたは合成ヌクレオチドもアンプリコンに組み込むことができる。RNAウイルスを検出する必要があるとき、増幅プロセスは、典型的には逆転写(例えば逆転写PCR(RT-PCR))の利用を含むことになる。
【0041】
本開示により、内部対照核酸がDNAである実施態様、内部対照核酸がRNAである実施態様、さらには内部対照核酸がアーマード核酸である実施態様が提供される。アルカリ性pH、リボヌクレアーゼなどの影響でRNAはDNAよりも分解しやすいため、RNAからなる内部対照核酸は、アーマード粒子として提供するとよい。アーマード粒子、特にアーマードRNAは、例えばアメリカ合衆国特許第6,214,982号に記載されている。要するに、化学的に作製される、または例えば大腸菌などの細菌によって異種産生されるRNAは、少なくとも一部がウイルス被膜タンパク質の中に封止されている。ウイルス被膜タンパク質は、RNAに、外部の影響に対する抵抗力、特にリボヌクレアーゼに対する抵抗力を与える。内部対照DNAはアーマード粒子としても提供できることを理解せねばならない。アーマードRNAとアーマードDNAの両方が、本開示の文脈で内部対照核酸として有用である。一実施態様では、RNA対照核酸は、大腸菌の中でMS2被膜タンパク質によって外装状態にされる。別の一実施態様では、DNA対照核酸は、λファージGT11を用いて外装状態にされる。
【0042】
さらに、本開示により、内部対照核酸の配列が、1つ以上のサンプルに存在する他の核酸の配列とは異なる実施態様が提供される。その場合、内部対照核酸の配列は天然のゲノムに由来するものであり、寄せ集めであって、約50℃〜約90℃の融点を持つ。内部対照核酸は、適切な任意の長さにできる。
【0043】
内部対照核酸の配列は、標的とは異なるプライマー結合部位を持っていて異なるプライマーに結合することが好ましい。そのような戦略の利点として、特に、反応混合物中でさまざまな核酸の単一回の増幅イベントが、いかなる競合効果もなしに互いに独立に起こることができるという事実が挙げられる。そのような設定にするため、内部対照核酸は、プライマーおよび/またはプローブを求める競合が起こらないよう、どの標的配列とも異なる配列を持つ。例えば内部対照核酸の配列は、体液サンプル中の他の核酸配列とは異なっているようにすることができる。一例として、体液サンプルがヒト由来である場合、内部対照核酸は、ヒトの体内でも内在的に生じる配列を持っていなくてもよい。したがって配列の違いは、少なくとも、プライマーおよび/またはプローブが厳しい条件下でそれぞれの内在性核酸に結合することができず、したがって競合する設定にならないのに十分である必要がある。このような干渉を回避するため、本開示で用いる内部対照核酸の配列は、体液サンプルの出所とは異なる供給源に由来するものにできる。例えばそれは、天然のゲノム、例えば植物ゲノムまたはブドウのゲノムに由来するものである。一実施態様では、天然のゲノムに由来する核酸は寄せ集めである。本分野で知られているように、「寄せ集めにする」は、配列の中に塩基の突然変異をある程度導入することを意味する。例えば本開示で用いる内部対照核酸の配列は、供給源となった天然の遺伝子と比べて実質的に変化している。
【0044】
別の側面では、本開示により、不活性化反応混合物と不活性化反応容器が提供される。この混合物または容器は、微生物、すなわち不活性化されていない微生物を含んでいる。一実施態様では、本開示により、微生物と、緩衝液と、シトラコン酸無水物を含む不活性化反応混合物が提供される。別の一実施態様では、シトラコン酸無水物は、有効量のシトラコン酸無水物である。別の一実施態様では、本開示により、微生物と、緩衝液と、シトラコン酸無水物を含む、微生物不活性化のための不活性化反応容器が提供される。いくつかの実施態様では、不活性化反応混合物または不活性化反応容器で用いる緩衝液は、本明細書の実施例に記載したSM緩衝液(0.1M NaCl、10 mM MgSO
4、50 mMトリス pH 7.5、0.01%ゼラチン)である。別の一実施態様では、不活性化反応容器は、微生物とシトラコン酸無水物の間の不活性化反応が起こる容器である。追加の一実施態様では、不活性化反応混合物は、微生物とシトラコン酸無水物の間の不活性化反応が起こることを可能にする混合物である。
【0045】
本明細書に記載したように、本開示の不活性化された微生物は、核酸増幅のための内部対照試薬の作製に有用である。追加の1つの側面では、本開示により、本明細書に記載した不活性化された微生物を含むアッセイ反応混合物とアッセイ反応容器が提供される。そのような混合物と容器は、核酸の転写と増幅の前の工程において使用することができる。サンプル調製は転写と増幅の前に実施されるため、アッセイ反応混合物はサンプル調製混合物と呼ぶことができ、アッセイ反応容器はサンプル調製容器と呼ぶことができる。1つの側面では、本開示において、さまざまなアッセイ試薬を考える。その中にはサンプル調製に関与するアッセイ試薬が含まれるが、それに限定されない。アッセイ試薬は、「サンプル調製試薬」と呼ぶこともできる。例えば微生物の中身を放出させるため、その微生物を酵素または化学物質で処理して微生物のタンパク質性外表面を溶解、または分解、または変性させることができる。このプロセスは一般に溶解と呼ばれている。その結果得られてそのように溶解した材料を含む溶液は、ライセートと呼ばれる。一実施態様では、本開示により、修飾されてアミド結合と末端カルボキシレートになった少なくとも1つのアミン基を含むタンパク質性外表面を有する誘導体化された微生物と、アッセイ試薬とを含むアッセイ反応混合物が提供される。
【0046】
一実施態様では、本開示により、修飾されてアミド結合と末端カルボキシレートになった少なくとも1つのアミン基を含むタンパク質性外表面を有する誘導体化された微生物と、アッセイ試薬(またはサンプル調製試薬)とを含む反応混合物が提供される。別の一実施態様では、アッセイ試薬は、核酸の転写工程と増幅工程の前の工程で使用される。一実施態様では、反応混合物はさらに、標的核酸配列を含むことが疑われる生物サンプル、例えば患者サンプルを含んでいる。そのような場合、不活性化された微生物は、核酸検出結果を確認するための内部陽性対照として機能するであろう。一実施態様では、アッセイ試薬は、プロテアーゼ、固体支持材料、溶解緩衝液からなる群から選択される。
【0047】
追加の一実施態様では、アッセイ試薬は溶解緩衝液である。適切な溶解緩衝液は、カオトロピック剤、緩衝物質、アルコール、還元剤からなる群から選択された1つ以上の成分を含んでいる。カオトロピック剤は、一般に、溶液中の水分子の秩序構造と、分子内と分子間の非共有結合力を乱すため、そのようなカオトロピック剤は、サンプル調製の手続きにいくらか寄与することができる。特に、カオトロピック剤は、ヌクレアーゼの三次構造を乱すことによるRNアーゼ阻害剤として使用できるが、使用法はそれに限定されない。通常は、溶解緩衝液にRNアーゼ阻害剤をより多く用いる必要はない。また、カオトロピック剤は、核酸がガラスなどの表面に接着性結合するときに重要な役割を果たすことができる。本開示の文脈におけるカオトロピック剤の例は、グアニジニウム塩(例えばチオシアン酸グアニジニウム、グアニジニウムヒドロクロリド、塩化グアニジニウム、イソチオシアン酸グアニジニウム)、尿素、過塩素酸塩(例えば過塩素酸カリウム)、他のチオシアン酸塩、ヨウ化カリウムである。しかし他のカオトロピック剤も用いることができる。緩衝物質は一般に溶液中で所定のpH値またはpH範囲を維持するのに重要である。これはたいていの生物系にとって前提条件であり、たいていはインビトロ反応でも望ましい。本開示の不活性化された微生物とともに用いることも有利である可能性がある。本開示の文脈における緩衝液の例は、クエン酸塩緩衝液(例えばクエン酸ナトリウム)のほか、トリス(トリス-(ヒドロキシメチル)-アミノメタン)緩衝液(例えばトリスHCl)、リン酸塩、N-(2-ヒドロキシエチル)-ピペラジン-N'-(2-エタンスルホン酸)(HEPES)、酢酸塩緩衝液だが、本開示の文脈では他の緩衝液も用いることができる。当業者に知られているように、核酸調製のために溶解緩衝液でアルコールを用いることも有利である可能性がある。本開示の文脈における一例はポリドカノールの使用だが、他のアルコールも上記の溶解緩衝液で用いることができる。核酸調製のためにポリドカノールを使用することは、例えば欧州特許第1 932 913号に記載されている。還元剤も、上述のRNアーゼAなどの望ましくない成分の変性に寄与することができる。特に、還元剤は、本分野で広く知られているように、多くのタンパク質の三次構造にとって特に重要な分子間と分子内のジスルフィド結合を開裂させる。本開示の文脈における一例は、ジチオトレイトール(DTT)などの還元剤である。本分野で知られている他の還元剤(例えば2-メルカプトエタノール)も本開示の文脈で使用すると有利である可能性がある。
【0048】
代わりのいくつかの実施態様では、本開示のアッセイ反応混合物および/またはアッセイ反応容器は、還元剤を明示的に除外するか、欠いている。そのようなアッセイ反応混合物および/またはアッセイ反応容器は、還元剤なしで提供される、および/または還元剤がないことを特徴とする。
【0049】
上記のことを考慮すると、本開示の1つの側面は、上記の方法において、溶解緩衝液が、チオシアン酸グアニジニウムと、クエン酸ナトリウムと、ポリドカノールと、DTTを含んでいる方法である。本明細書の一実施態様では、溶解緩衝液の上記諸成分の濃度は以下の通りである。すなわち、チオシアン酸グアニジニウム:4 M、クエン酸ナトリウム:50 mM、ポリドカノール:5%w/v、DTT:2%w/v(アメリカ合衆国特許出願公開第2012-0045751号参照)。上記の溶解緩衝液のpHは特定のpH値に限定されない。しかし一実施態様では、溶解緩衝液は、酸性pH、または5.5〜6.5のpH、または約5.8のpHを持つ。
【0050】
別の一実施態様では、アッセイ試薬はプロテアーゼである。前に説明した酵素または望ましくないタンパク質を迅速に分解させるプロテアーゼを用いることが望ましい。しかしそうすると別の問題が発生する可能性がある。なぜならその物質または酵素がその後の工程で試薬または成分と干渉する可能性があるからである。そのような溶解または上記のサンプル調製プロセスで使用できる酵素は、タンパク質物質の中のアミド結合を開裂させる酵素であり、プロテアーゼまたは(それと同じことだが)ペプチダーゼに分類される(Walsh、1979年、『酵素反応のメカニズム』、W.H. Freeman and Company社、サンフランシスコ、第3章を参照のこと)。適切なプロテアーゼには、アルカリ性プロテアーゼ(WO 98/04730)または酸性プロテアーゼ(アメリカ合衆国特許第5,386,024号)が含まれるが、それに限定されない。先行技術で核酸の単離においてサンプル調製に広く使用されてきたプロテアーゼは、トリチラキウム・アルブム(Tritirachium album)に由来するプロテアーゼKである(例えばSambrook他、『分子クローニング:実験室マニュアル』(Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク、ニューヨーク州、1989年を参照のこと)。これは中性pHの近傍で活性であり、当業者にサブチリシンとして知られるプロテアーゼのファミリーに属する。溶解または上記のサンプル調製プロセスでの使用の一例は酵素エスペラーゼであり、これは、高アルカリ性と高温の両方で活性を保持しているロバストなプロテアーゼである(欧州特許第1 201 753号)。
【0051】
別の一実施態様では、アッセイ試薬は固体支持材料である。本開示では、固体支持材料は、不活性化された微生物と組み合わされる(例えば溶解の前または後に)。「固体支持材料」という用語には、核酸の固定化に関連して上に述べた任意の固体材料が含まれ、例えば磁性ガラス粒子、グラスファイバー、グラスファイバーフィルタ、フィルタ紙などがあるが、固体支持材料がこれらの材料に限定されることはない。一実施態様では、固体支持材料は、溶解後、ある時間にわたり、固体支持材料に固定化する不活性化された微生物から核酸を放出させるのに十分な条件下で組み合わされる。好ましい一実施態様では、核酸は対照核酸配列を含んでいる。次に固体支持材料を存在している他の材料から単離し、残部を固体支持材料から分離してその固体支持材料を洗浄緩衝液で1回以上洗浄することにより核酸を精製する。本開示の意味では、核酸の「精製」、「単離」、「抽出」は、以下のことに関係している。核酸は、例えば増幅によって診断アッセイで分析できるようになる前に、典型的には内部対照試薬(と、さまざまな成分の複合混合物を含んでいる可能性のある対応する生物サンプル)から精製し、単離し、抽出する必要がある。最初のこれら工程のため、核酸をリッチにすることのできる方法を利用することができる。
【0052】
本開示の1つの側面は、上記の方法において、固体支持材料が、核酸結合粒子を含むか、シリカ、金属、金属酸化物、プラスチック、ポリマー、核酸から選択した1つ以上の材料を含んでいる方法である。本開示の一実施態様では、固体支持材料は磁性ガラス粒子である。
【0053】
本開示の文脈における「固定化する」は、核酸などの物体を可逆的または不可逆的に捕獲することを意味する。特に、「固体支持材料に固定化された」は、あらゆる周囲媒体から分離する目的で物体を固体支持材料と連結させることを意味し、例えば後の時点で固体支持材料から分離することによって元に戻すことができる。この文脈では、「固定化」は、例えばガラス、または上記の固体材料の他の適切な表面への核酸の吸着を含むことができる。さらに、核酸は、特に捕獲プローブに結合させることによって「固定化」することができる。そのとき核酸は、主に、塩基対形成により、固体支持体に付着した相補的な核酸に結合する。後者の場合、そのような特殊な固定化によって標的核酸が優勢に結合する。
【0054】
本開示のさらに別の側面では、シトラコン酸無水物を用いた微生物の外因的な不活性化が開示されている。そうすることで、対照核酸配列の完全性を保持しつつ、微生物が不活性化される。本明細書では、有効量のシトラコン酸無水物を微生物に適用する。いくつかの実施態様では、微生物は、有効量のシトラコン酸無水物に接触させる前に、少なくとも1つの第一級アミン基を含むタンパク質性外表面を有する。いくつかの実施態様では、不活性化の後、微生物は、修飾されてアミド結合と末端カルボキシレートになった少なくとも1つの第一級アミン基を含むタンパク質性外表面を有する。「有効量の」シトラコン酸無水物は、微生物を不活性化するのに十分な量を意味する。例えば微生物の十分な不活性化は、本明細書に記載したプロトコルに従って、または本分野で説明されている別のやり方で確認することができる。一実施態様では、有効量のシトラコン酸無水物の濃度は、約5 mM〜約25 mM、約1 mM〜約7 mM、約5 mM〜約15 mM、約11 mM〜約22 mMである。別の実施態様では、有効量は、約1 mM、約2 mM、約3 mM、約4 mM、約4.5 mM、約5 mM、約5.5 mM、約6 mM、約6.5 mM、約7 mM、約7.5 mM、約8 mM、約8.5 mM、約9 mM、約9.5 mM、約10 mM、約10.5 mM、約11 mM、約11.5 mM、約12 mM、約12.5 mM、約13 mM、約13.5 mM、約14 mM、約15 mM、約16 mM、約17 mM、約18 mM、約19 mM、約19.5 mM、約20 mM、約20.5 mM、約21 mM、約21.5 mM、約22 mM、約22.5 mM、約23 mM、約24mM、約25 mMである。いくつかの実施態様では、シトラコン酸無水物の有効量は、(i)約5 mM〜約25 mMの濃度;または(ii)約5.5 mM〜約22 mMの濃度;または(iii)約5.5 mM、約11 mM、約22 mMからなる群から選択した濃度である。いくつかの実施態様では、微生物を周囲温度で、および/または約1時間、シトラコン酸無水物と接触させる。いくつかの実施態様では、微生物は、ウイルス、より具体的にはRNAウイルスまたはDNAウイルスである。いくつかの実施態様では、微生物は、アーマード核酸、より具体的にはアーマードRNAまたはアーマードDNAである。
【0055】
微生物を不活性化する方法
【0056】
1つの側面では、本開示により、微生物を不活性化する方法が提供される。一実施態様では、この方法は、液体マトリックスの中に、対照核酸配列を含む感染性微生物を供給する工程を含んでいる。別の一実施態様では、この方法は、微生物を有効量のシトラコン酸無水物と接触させる工程も含んでいる。別の一実施態様では、この方法により、対照核酸配列の完全性を保持しつつ、微生物が不活性化される。本開示では、対照核酸配列の完全性を保持するとは、シトラコン酸無水物で処理することによって配列が損傷したり傷ついたりして核酸増幅反応で内部対照試薬として使用できない状態にはなっていないことを意味する。配列の完全性は、当業者に知られている標準的な技術によって確認することができる。
【0057】
別の1つの側面では、本開示の微生物不活性化法は、微生物を外因的に変化させる方法である。例えば適切な緩衝液の中でシトラコン酸無水物を単離された微生物と外因的に接触させることで、変化(と不活性化)が起こることが可能になる。一実施態様では、適切な緩衝液は、液体(または水性の)マトリックスまたは懸濁媒体(緩衝化生理食塩水または生理食塩水)である。別の一実施態様では、懸濁流体は、トリス緩衝化生理食塩水、またはトリシンを含む緩衝液である。好ましい一実施態様では、微生物はウイルスである。一実施態様では、この方法は、シトラコン酸無水物で処理する前または処理した後に、懸濁流体から単離されたウイルス粒子を濃縮する工程を含んでいる。別の一実施態様では、この方法は、濃縮されたウイルス粒子をシトラコン酸無水物と接触させて、またはシトラコン酸無水物とともにインキュベートして、ウイルス粒子を変化させる工程も含んでいる。追加の一実施態様では、この方法は、変化したウイルス粒子を過剰なシトラコン酸無水物から分離する工程を含んでいる。別の実施態様では、単離されたウイルス粒子の濃縮および/または変化したウイルス粒子の分離は、超遠心分離、または限外濾過、またはクロマトグラフィ、またはアフィニティクロマトグラフィによって実現できる。さらに別の一実施態様では、この方法は、変化したウイルス粒子を検出する工程を含んでいる。別の実施態様では、この方法は、変化したウイルス粒子の不活性化状態を例えばpfu/mlを測定することによって確認する工程を含んでいる。
【0058】
別の1つの側面では、本発明により、有効量のシトラコン酸無水物を用いて微生物を不活性化する方法が提供される。「有効量の」シトラコン酸無水物は、微生物を不活性化するのに十分な量を意味する。例えば微生物の十分な不活性化は、本明細書に記載したプロトコルに従って、または本分野で説明されている別のやり方で確認することができる。一実施態様では、有効量のシトラコン酸無水物の濃度は、約5 mM〜約25 mM、約1 mM〜約7 mM、約5 mM〜約15 mM、約11 mM〜約22 mMである。別の実施態様では、有効量は、約1 mM、約2 mM、約3 mM、約4 mM、約4.5 mM、約5 mM、約5.5 mM、約6 mM、約6.5 mM、約7 mM、約7.5 mM、約8 mM、約8.5 mM、約9 mM、約9.5 mM、約10 mM、約10.5 mM、約11 mM、約11.5 mM、約12 mM、約12.5 mM、約13 mM、約13.5 mM、約14 mM、約15 mM、約16 mM、約17 mM、約18 mM、約19 mM、約19.5 mM、約20 mM、約20.5 mM、約21 mM、約21.5 mM、約22 mM、約22.5 mM、約23 mM、約24mM、約25 mMである。別の実施態様では、有効量は25 mM超である。好ましい一実施態様では、有効量のシトラコン酸無水物は、約5 mM以上のトリス緩衝化生理食塩水の中に供給される。
【0059】
追加の1つの側面では、本開示により、本明細書に記載した適切な緩衝液の中でゆっくりと撹拌することによって実現される接触工程またはインキュベーション工程を含む方法が提供される。一実施態様では、接触またはインキュベーションは、約20℃〜約40℃の温度で実施される。別の一実施態様では、温度が約25℃〜約35℃であること、および/またはインキュベーション時間が約1時間〜約3時間であることが好ましい。別の実施態様では、接触工程またはインキュベーション工程は、約30分間〜約90分間の期間実施される。別の一実施態様では、接触工程またはインキュベーション工程は、約30分間、または約35分間、または約40分間、または約45分間、または約50分間、または約55分間、または約60分間、または約65分間、または約70分間、または約75分間、または約80分間、または約85分間、または約90分間実施される。好ましい一実施態様では、接触工程またはインキュベーション工程は、室温または周囲温度で実施される。一般に、室温または周囲温度は、温度制御された環境の温度である。室温または周囲温度は、約18℃〜約30℃の範囲である。一実施態様では、室温または周囲温度は、約18℃、約19℃、約20℃、約21℃、約22℃、約23℃、約24℃、約25℃、約26℃、約27℃、約28℃、約29℃、約30℃のいずれかである。別の一実施態様では、室温または周囲温度は約25℃である。別の実施態様では、接触工程またはインキュベーション工程は、約4℃で実施することができる。
【0060】
別の好ましい一実施態様では、接触工程またはインキュベーション工程は、室温または周囲温度で約60分間実施される。好ましい一実施態様では、室温または周囲温度は約25℃である。
【0061】
検出結果を確認する方法
【0062】
本開示の不活性化された微生物とそれを作製して用いる方法は、そのような不活性化された微生物が必要とされたり望まれたりしているあらゆる目的で用いることができる。1つの側面では、本開示により、ポリヌクレオチド伸長法(例えばPCR)において、または核酸増幅アッセイで陽性内部対照として用いるのに適した不活性化された微生物が提供される。例えば陽性内部対照は、サンプル調製(核酸抽出)工程、(必要な場合には)RNAの逆転写によりcDNAを得る工程、DNAの増幅工程、増幅されたDNAの検出工程を通じ、サンプルとともに処理される(アメリカ合衆国特許第8,609,340号を参照のこと)。一実施態様では、不活性化された微生物は、不活性化されたウイルスである。好ましい一実施態様では、不活性化された微生物はバクテリオファージである。
【0063】
一般に、本開示の不活性化された微生物は、あらゆる核酸増幅・検出法で用いるのに適している。本開示の文脈で用いられる他の核酸増幅法に含まれるのは、リガーゼ連鎖反応(LCR)(Wu D.Y.とWallace R.B.、Genomics 第4巻(1989年)560〜569ページ;Barany F.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA第88巻(1991年)189〜193ページ);ポリメラーゼリガーゼ連鎖反応(Barany F.、PCR Methods and Applic. 第1巻(1991年)5〜16ページ);Gap-LCR(WO 90/01069);修復連鎖反応(EP 0439182 A2;アメリカ合衆国特許第4,851,331号);リコンビナーゼポリメラーゼ増幅(RPA)法(例えばアメリカ合衆国特許第7,485,428号を参照のこと);ローリングサークル増幅(RCA)(例えばFireとXu, Proc. Natl. Acad Sci. USA 第92巻:4641〜4645ページ(1995年);Lui他、J. Am. Chem. Soc. 第118巻:1587〜1594ページ(1996年);Lizardi他、Nature Genetics 第19巻:225〜232ページ(1998年);アメリカ合衆国特許第5,714,320号と第6,235,502号を参照のこと);ヘリカーゼ依存増幅(HDA)(例えばVincent他、EMBO Reports 第5巻(8):795〜800ページ(2004年);アメリカ合衆国特許第7,282,328号を参照のこと);多置換増幅(MDA)(例えばDean他、Proc. Natl. Acad Sci. USA第99巻:5261〜5266ページ(2002年)を参照のこと);自己支持配列複製(3SR)(Kwoh D.Y.他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 第86巻(1989年)1173〜1177ページ;Guatelli J.C.他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 第87巻(1990年)1874〜1878ページ;WO 92/08808)、ループを媒介とした等温増幅(LAMP)(アメリカ合衆国特許第6,410,278号;Notomi他、Nucleic Acids Res. 2000年6月15日;第28巻(12):e63ページ)、核酸配列に基づく増幅(NASBA)(アメリカ合衆国特許第5,130.238号)である。さらに、鎖置換増幅(SDA)(アメリカ合衆国特許第5,445,166号と第5,470,723号)、転写を媒介とした増幅(TMA)(例えばGuatelli他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA第87巻:1874〜1878ページ(1990年)を参照のこと)、Qb-増幅(概説に関しては例えばWhelen A.C.とPersing D.H.、Annu. Rev. Microbiol. 第50巻(1996年)349〜373ページ;Abramson R.D.とMyers T.W.、Curr Opin Biotechnol第4巻(1993年)41〜47ページを参照のこと)がある。
【0064】
したがって本開示の別の側面では、不活性化された微生物を用いたポリヌクレオチド伸長法(例えばPCR)が提供される。ポリヌクレオチド伸長に適した条件は公知である。(例えばSambrook他、『分子クローニング:実験室マニュアル』(Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク、ニューヨーク州、第3版、2001年);Ausubel他、『分子生物学における短いプロトコル』(第4版、John Wiley & Sons社、1999年)を参照のこと)。一般に、プライマーは(サンプルおよび/または対照の中で)標的核酸にアニールして、すなわちハイブリダイズしてプライマー-鋳型複合体を形成する。プライマー-鋳型複合体は、適切な環境の中でDNAポリメラーゼおよびヌクレオシド三リン酸と接触すると、プライマーの3'末端に1つ以上のヌクレオシドを付加することが可能になる。これにより、標的核酸に相補的な伸長したプライマーが生じる。プライマーは、例えば1つ以上のヌクレオチド類似体を含むことができる。それに加え、ヌクレオシド三リン酸として、従来のヌクレオチド、従来とは異なるヌクレオチド(例えばリボヌクレオチドまたは標識されたヌクレオチド)、またはこれらの混合物が可能である。いくつかのバリエーションでは、ポリヌクレオチド伸長反応は、標的核酸の増幅を含んでいる。DNAポリメラーゼとプライマー対を用いて核酸を増幅させるのに適した条件も、本分野で公知である(例えばPCR増幅法)。(例えばSambrook他、上記文献;Ausubel他、上記文献;PCRの応用:『機能的ゲノミクスのためのプロトコル』、Innis他編、Academic Press社、1999年を参照のこと)。別の互いに排他的ではない実施態様では、ポリヌクレオチド伸長反応は、RNA鋳型の逆転写を含んでいる(例えばRT-PCR)。
【0065】
いくつかの実施態様では、本開示の不活性化された微生物は、逆転写反応で用いられる。いくつかの実施態様では、逆転写反応は、本開示の不活性化された微生物と、RNA鋳型と、1つ以上のプライマーと、熱安定DNAポリメラーゼを含む混合物の中で実施される。反応混合物は、典型的には、4種類の標準的なデオキシリボヌクレオシド(dNTP)のすべてを含むとともに、2価カチオンと1価カチオンを含有する緩衝液を含んでいる。カチオンの例には例えばMg
2+が含まれるが、他のカチオン、例えばMn
2+、Co
2+は、DNAポリメラーゼを活性化させることができる。別の実施態様では、逆転写反応は、適切な熱活性DNAポリメラーゼを用いて実施される。
【0066】
別の側面では、本開示により、核酸増幅アッセイにおける試験サンプルの検出結果を確認する方法が提供される。一実施態様では、この方法は、試験サンプルと誘導体化された微生物(例えば修飾された微生物または変化した微生物)を含む混合物についてサンプル調製を実施する工程を含んでいる。別の一実施態様では、誘導体化された微生物は、(i)対照核酸配列と、(ii)修飾されてアミド結合と末端カルボキシレートになった少なくとも1つの第一級アミン基を含むタンパク質性外表面を有する。別の一実施態様では、サンプル調製により、試験サンプルと誘導体化された微生物の両方から核酸が放出される。別の一実施態様では、サンプル調製により、試験サンプルと誘導体化された微生物の両方から核酸が放出(または抽出)される。別の実施態様では、試験サンプルからの核酸は、(DNAの場合には)増幅される核酸を、(RNAの場合には)逆転写される標的核酸を含んでいる。RNA抽出の場合、この方法はさらに、その後の核酸増幅のためにcDNAを得る逆転写工程を含んでいる。別の一実施態様では、この方法は、試験サンプルと誘導体化された微生物から放出された核酸について核酸増幅を実施する工程を含んでいる。一実施態様では、この方法は、その標的核酸(存在しているのであれば)と対照核酸標的を検出し、そのことによって検出結果を確認する工程を含んでいる。別の一実施態様では、検出工程は、増幅された核酸を、検出可能に標識された核酸プローブとハイブリダイズさせ、増幅されたそのハイブリダイズされた標的核酸を検出することを含んでいる。この方法の上記の工程は当業者には周知である。ハイブリダイゼーションと検出は、例えば5'-ヌクレアーゼプローブを用いて実施することができ、アンプリコンの検出は、FRET法を利用して実施することができる。特に好ましい一実施態様では、この方法はさらに、生物サンプルに含まれる標的核酸の定量を含むことができる。
【0067】
試験サンプルの検出結果を確認するための本明細書に記載の方法を利用して伸長産物または増幅産物を検出するための他の方法には、蛍光二本鎖ヌクレオチド結合染料または蛍光二本鎖ヌクレオチドインターカレーティング染料の利用が含まれる。蛍光二本鎖DNA結合染料の例にはSYBR-グリーン(Molecular Probes社)が含まれる。二本鎖DNA結合染料を融解曲線分析と組み合わせて使用し、プライマー伸長産物および/または増幅産物を測定することができる。融解曲線分析は、リアルタイムPCR装置、例えばABI 5700/7000(96ウエル形式)装置またはABI 7900(384ウエル形式)装置で、搭載されているソフトバンク(SDS 2.1)を用いて実施することができる。あるいは融解曲線分析は終点分析として実施することができる。融点分析の方法の例は、アメリカ合衆国特許出願公開第2006/0172324号に記載されている。
【0068】
別の実施態様では、この方法は、病原体の存在を調べるための生物サンプルを、本明細書に記載した不活性化された微生物を含む組成物に添加することによって調べるためのサンプルを調製する工程を含んでいる。一実施態様では、この調製工程は、サンプル調製工程の前に実施される。
【0069】
1つの側面では、不活性化された微生物は、定性的または定量的な検出結果を確認する方法に適している。生物サンプル中の核酸の定性的検出は、例えば個人の感染を認識する上で極めて重要である。そのため微生物感染を検出するためのアッセイにとっての1つの重要な条件は、偽陰性または偽陽性の結果を回避することである。なぜならそのような結果が出ると、個々の患者の治療に関して不可避的に深刻な帰結につながると考えられるからである。したがって特にPCRに基づく方法では、定性的内部対照核酸を検出混合物に添加する。その対照は、試験結果の有効性を確認する上で特に重要である。少なくとも個々の標的核酸に関して陰性結果であった場合には、所与の設定の中で反応する定性的内部対照反応を実施すべきである。すなわち試験そのものが機能しないと考えられるのでなければ、定性的内部対照を検出すべきである。そのため本開示の1つの側面は、上記の方法において、1つ以上の標的核酸に関する増幅産物が不在の場合でさえ、内部対照核酸の増幅産物の存在が、反応混合物の中で増幅が起こったことを示している方法である(アメリカ合衆国特許第8,877,464号)。
【0070】
サンプル中の核酸の存在または不在の定性的検出に加え、その核酸の量を求めることがしばしば重要である。一例として、ウイルス性疾患の段階と重篤度は、ウイルス負荷に基づいて評価することができる。さらに、どの治療法のモニタリングでも、その治療法の成功を評価するには、個人の体内に存在している病原体の量に関する情報が必要とされる。定量アッセイでは、標的核酸の絶対量を求めるための基準となる定量的標準核酸を導入する必要がある。定量は、外部較正を参照することによって、または内部定量基準を実現することによって可能になる。試験反応そのものに内部対照核酸を添加して利用することは、いくらかの利点を有する。その内部対照核酸は、定量的基準として機能するとき、定量試験において少なくとも以下の2つの機能を有する。i)反応の有効性をモニタする。ii)力価の計算で基準として機能し、そのために抑制の効果が補償され、調製プロセスと増幅プロセスが制御されてより正確な定量が可能になる(アメリカ合衆国特許第8,877,464号)。
【0071】
キット
【0072】
別の側面では、本開示により、生物サンプルを分析して標的核酸(例えば病原体の核酸)の存在を明らかにするためのキットが提供される。一実施態様では、このキットは、本開示による不活性化された微生物を含む陽性内部対照組成物を含んでいる。別の一実施態様では、このキットは、液体マトリックス中の不活性化された微生物を含んでいる。液体マトリックスは、生物サンプルを分析するときの出所となる流体に対応する安定な生物流体を含んでいる。そのような流体には、血清、血漿、脱フィブリン化された血漿、安定化された血漿プール、脳脊髄液(CSF)、尿、唾液、精液、痰が含まれるが、これらに限定されない。あるいは液体マトリックスは、そのような生物流体を刺激するようにされた合成マトリックスを含むことができる。合成生物流体を調製する方法は、本分野では周知である。さらに、液体マトリックスは、抗酸化剤、緩衝塩、保存剤、抗生物質、マトリックス安定化充填材(例えば糖(単糖と多糖)、タンパク質(アルブミン、オボアルブミン、γグロブリン、赤血球細胞ライセート、カゼイン、乾燥粉末乳や、それ以外の血清タンパク質が含まれる)、合成安定剤(ポリ-ビニルピロリジン、ポリ-1-リシン、メチル化されたウシ血清アルブミン(BSA)など))などの添加剤を含むことができる。液体マトリックスは、長期保管と安定化のための凍結乾燥を目的として、例えばスクロースやマンノースを添加して変化させることもできる。
【0073】
本開示を実施するにあたり、キットは、当業者に知られている核酸増幅技術を実施するのに必要な追加材料を含むことができる。さらに、本開示は、本開示の不活性化された微生物を核酸増幅技術のための適切なキットに添加することも包含することが想定されている。
【0074】
本開示の別の1つの側面では、本明細書に記載したプライマー伸長法または核酸増幅アッセイで用いるためのキットが提供される。いくつかの実施態様では、キットは、使いやすいよう区画化されていて、本開示による不活性化された微生物を供給する少なくとも1つの容器を含んでいる。追加の試薬を供給する1つ以上の追加の容器も含めることができる。いくつかの実施態様では、キットは、ヘパリンまたはその塩を含んでいるか、ヘパリンを溶液中に放出する血液回収用の試験管、容器、ユニットのいずれかを含むこともできる。血液回収ユニットとして、ヘパリン処理した試験管が可能である。これらの追加の容器は、上記の方法によるプライマー伸長手続きで使用されると当業者によって認識されている任意の試薬やそれ以外の要素を含むことができ、その中には、例えば核酸増幅手続き(例えばPCR、RT-PCR)で使用される試薬が含まれる。例えばいくつかの実施態様では、キットはさらに、プライマー伸長条件下で所定のポリヌクレオチド鋳型にハイブリダイズすることのできる5'センスプライマー、または5'センスプライマーとそれに対応する3'アンチセンスプライマーを含むプライマー対を供給する容器を含んでいる。別の互いに排他的ではないバリエーションでは、キットは、(従来の、および/または従来とは異なる)ヌクレオシド三リン酸を供給する1つ以上の容器を含んでいる。特別な実施態様では、キットは、α-ホスホロチオエートであるdNTP、および/またはdUTP、および/またはdITP、および/または標識されたdNTP(例えばフルオレセイン染料またはシアニン染料ファミリーのdNTP)を含んでいる。さらに別の互いに排他的ではない実施態様では、キットは、プライマー伸長反応に適した緩衝液を供給する1つ以上の容器を含んでいる。
【0075】
明確さと理解を目的として本発明をこれまでいくらか詳細に記述してきたが、本開示を読んだ当業者には、本発明の真の範囲を逸脱することなく、形と細部をさまざまに変更できることが明らかであろう。例えば上に記載したすべての組成物と方法は、さまざまな組み合わせで用いることができる。
【0076】
以下の実施例は、現在実施することが好ましい本発明の実施態様を説明するために提示されている。実施例は例示であり、添付の請求項に示されている場合を除き、本発明がそれら実施例に限定されるとは見なされないことが理解されよう。
【実施例】
【0077】
実施例1:シトラコン酸無水物を用いたバクテリオファージの不活性化
【0078】
シトラコン酸無水物(「Cit」または「cit」とも表記する)を用いたλバクテリオファージGT11の不活性化を分析するため、滴定を実施した。下記の表1.1に、シトラコン酸無水物11Mの希釈度を示す。
【0079】
【表1】
【0080】
DMF中のシトラコン酸無水物の作業溶液10μlをSM緩衝液中のλバクテリオファージ1 mlに添加した。SM緩衝液は、0.1M NaCl、10 mM MgSO
4、50 mMトリス pH 7.5、0.01%ゼラチン(SambrookとRussell、上記文献、A2.8ページ)であり、ファージは1×10
7 pfu/mlで供給した。反応を室温で1時間実施した後、4℃で7日間〜1ヶ月間保管した。ファージ溶液を滴定してシトラコン酸無水物がファージに及ぼす効果を調べた。
【0081】
バクテリオファージの滴定を以下のようにして実施した:宿主細菌である大腸菌Y1088を、0.1%接種原を用い、10 mM MgSO
4と0.2%マルトース(w/v)を補足した15 mlのルリアブロスに接種した後、37℃でインキュベートしてODを1以下にした。細胞を遠心分離(500×gで10分間)によって濃縮し、細胞ペレットを1/2体積の無菌10 mM MgSO
4に再懸濁した。10 mM MgSO
4を用い、OD600が0.5になるまで大腸菌細胞を希釈した。バクテリオファージをSM緩衝液の中で以下のように段階希釈した。10μlのファージをピペットで採取して10
-2と標識した試験管に入れる。ボルテックスにより再懸濁させる。新しい先端部を用いて10
-2希釈液を10μl採取し、10
-4と標識した試験管に入れる。ボルテックスにより再懸濁させる。100倍段階希釈を繰り返して10
-8の試験管にする。10
-8の試験管から10倍希釈を実施して10
-9の試験管と10
-10の試験管にする。10
-8の試験管からのファージ100μlを10
-9の試験管に添加し、ボルテックスし、10
-9の試験管からのファージ100μlを10
-10の試験管に添加する。10
-10の試験管をボルテックスする。各サンプルを滴定するため、大腸菌300μlを5本の無菌17×100 mmファルコンポリプロピレン製丸底試験管(#352057)のそれぞれに添加する。希釈された100μlのλDNAを試験管に添加する(希釈度10
-4、10
-6、10
-8、10
-9、10
-10)。室温で10分間静置する。37℃で10分間インキュベートする。その間に、NZCYMプレートにファージサンプルと希釈度の標識をする。まだ37℃の加熱ブロックの中にある第1の試験管に(50℃の浴の中にある上層寒天の瓶からの)上層寒天を3 ml添加し、その試験管をボルテックスし、素早くNZCYMプレートの上に注ぐ。プレートを素早くかき回し、上層寒天がプレート全体を覆うようにする。上層寒天を放置してベンチ上で固化させる。翌日、プラークをカウントし、プラークの数を最も数えやすかった希釈度を用いて力価を計算する。
【0082】
以下の表1.2に、1日目と8日目の結果を示す。11 mMの濃度が完全な不活性化をもたらすことが見いだされ、それは7日後まで継続した。
【0083】
【表2】
【0084】
実施例2:シトラコン酸無水物で不活性化したバクテリオファージからの増幅
【0085】
この実験では、λバクテリオファージのシトラコン酸無水物(Cit)処理がDNA増幅に及ぼす効果を調べた。処理を異なる3通りの濃度で実施した後、滴定し、力価を求めた。以下の表2.1に、実験で用いた処理条件を示す(0A〜0C:対照DMFだけ;1A〜1C:最大Cit濃度;2A〜2C:中間Cit濃度;3A〜3C:最低Cit濃度)。
【0086】
【表3】
【0087】
希釈されたファージ20μlを希釈された全血400μlに添加し、Magnapureコンパクト(Roche社)とMagNA純コンパクト核酸単離キットI - 大体積(カタログ番号03 730 972 001)を用いて核酸を精製した。100μlの溶離液を、増幅するときまで4℃で保管した。5μlのサンプルを、プライマーを含む15μlのLVCMマスターミックスと混合し、LC480サーモサイクラー(Roche社)上で増幅した。そのプロファイルは、95℃で30秒間の後、95℃で5秒間を55サイクル、60℃で30秒間である。
【0088】
図1は、実験の結果を示している。以下の表2.2に示したように、濃度11 mMのCitで処理したファージは、処理していない(活性な)ファージと同じCtを持っていた。
【0089】
【表4】
【0090】
実施例3:シトラコン酸無水物で不活性化したバクテリオファージの安定性
【0091】
この実験では、シトラコン酸無水物(Cit)で処理したλバクテリオファージの安定性を調べた。異なる濃度のCitを用いてファージを不活性化した後、4℃で1ヶ月間保管した。表3.1に示してあるように、11 mM以上の濃度で不活性化したファージは1ヶ月間にわたって不活性なままに留まることが見いだされた。
【0092】
【表5】
【0093】
実施例4:DNアーゼ感受性
【0094】
この実験では、シトラコン酸無水物(Cit)で処理したλバクテリオファージのDNアーゼ感受性を調べた。0.5単位または0.05単位のDNアーゼ(RPC希釈液+0.095%ナトリウムアジド)を用いてさまざまな標的を調べた。40μlのファージを4μlの10×反応緩衝液(400 mMトリス-HCl、pH 7.9、100 mM NaCl、60 mM MgCl
2、10 mM CaCl
2)および希釈された1μlのDNアーゼIと混合した後、37℃で20分間インキュベートした。0.2 M EDTAを2μl添加して反応を終了させた。DNアーゼ処理の後、ファージを全血サンプルに添加し、上に概略を示したようにMagNA純コンパクトを用いて処理した。
【0095】
表4.1に、0.5単位のDNアーゼを用いて調べた標的に関する情報を示す。表4.2に、0.05単位のDNアーゼを用いて調べた標的に関する情報を示す。
【0096】
【表6】
【0097】
【表7】
【0098】
40μlのファージを4μlの10×反応緩衝液(400 mMトリス-HCl、pH 7.9、100 mM NaCl、60 mM MgCl
2、10 mM CaCl
2)および希釈された1μl のDNアーゼIと混合した後、37℃で20分間インキュベートした。0.2 M EDTAを2μl添加して反応を終了させた。DNアーゼ処理の後、ファージを全血サンプルに添加し、上に概略を示したようにMagNA純コンパクトを用いて処理した。
【0099】
反応ごとに0.5単位または0.05単位のDNアーゼを用いてサンプルを処置した。DNアーゼの熱による不活性化は実施せず、サンプルを希釈された血液に添加した。サンプルの調製をMagNA純コンパクト装置上でただちに実施してすべてのDNアーゼを除去した。qPCRにより増幅と検出を実施した(実施例2に示したプロトコル参照)。DNアーゼ処理なしの対照も37℃で反応緩衝液に曝露した後、サンプル調製も実施した。
【0100】
図2は、0.5単位のDNアーゼで処理した結果を示している。
図3は、0.05単位のDNアーゼで処理した結果を示している。表4.3に、処理した標的と処理していない標的の間のCpの変化(ΔCp)を示す。ファージを最初に濃度1×10
7コピー/mlで処理した後、RPC希釈液+0.95%ナトリウムアジドの中で30倍に希釈することで、Cpが、約29サイクルでの対照ファージのより低い濃度と似た値になるようにした。
【0101】
【表8】
【0102】
0.05単位のDNアーゼで処理した標的も、1週間保管した後と1ヶ月間保管した後に再度調べた。標的に対する追加のDNアーゼ活性が生じるのであれば、酵素は保護されていない標的を除去していたことが予想され、qPCRによって増幅するとCpのシフトが起こるであろう。(実施例1のように)標的をSM緩衝液の中に保管する並列実験を実施した。
【0103】
図4は、(実施例1のように)DNアーゼで処理し、RPC希釈液+0.095%ナトリウムアジドの中、またはSM緩衝液の中に1週間保管した後の(実施例2のプロトコルによる)DNA増幅の結果を示している。Cpの変化(ΔCp)をグラフの上部に示すとともに、以下の表4.4にまとめてある。左側の棒は-DNアーゼであり、右側の棒は+DNアーゼである。
【0104】
【表9】
【0105】
図5は、(実施例1のように)DNアーゼで処理し、RPC希釈液+0.095% ナトリウムアジドの中、またはSM緩衝液の中で1週間保管した後の(実施例2のプロトコルによる)DNA増幅の結果を示している。Cpの変化(ΔCp)をグラフの上部に示すとともに、以下の表4.5にまとめてある。
【0106】
【表10】
【0107】
実施例5:不活性化標的の保管
【0108】
さまざまな濃度のCitで処理したバクテリオファージ標的を異なる緩衝液の中に保管した後、その不活性化状態を評価した。標的は、10 mMトリス pH 8.3の中、または10 mMトリシン pH 8.3の中で保管した。表5.1に結果をまとめてある。この表から、濃度11 mM以上のCitで処理すると、どちらの緩衝液の中に保管しても1ヶ月間は不活性であることがわかる。
【0109】
【表11】