特許第6822995号(P6822995)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6822995低誘電率樹脂組成物及びこれを応用したフィルム及び回路基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6822995
(24)【登録日】2021年1月12日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】低誘電率樹脂組成物及びこれを応用したフィルム及び回路基板
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/12 20060101AFI20210114BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20210114BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20210114BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20210114BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20210114BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20210114BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20210114BHJP
   C08L 71/12 20060101ALI20210114BHJP
   C08G 59/20 20060101ALI20210114BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20210114BHJP
   C08G 59/68 20060101ALI20210114BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   C08L101/12
   C08L63/00 A
   C08L23/26
   C08L15/00
   C08L53/02
   C08L45/00
   C08L79/08 Z
   C08L71/12
   C08G59/20
   C08G59/40
   C08G59/68
   H05K1/03 610L
【請求項の数】7
【外国語出願】
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-45308(P2018-45308)
(22)【出願日】2018年3月13日
(65)【公開番号】特開2018-154823(P2018-154823A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2018年4月23日
(31)【優先権主張番号】106108432
(32)【優先日】2017年3月15日
(33)【優先権主張国】TW
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512298856
【氏名又は名称】臻鼎科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】蘇 賜祥
(72)【発明者】
【氏名】向 首睿
(72)【発明者】
【氏名】徐 茂峰
(72)【発明者】
【氏名】何 明展
【審査官】 尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−538363(JP,A)
【文献】 特開2013−170214(JP,A)
【文献】 特開2016−089090(JP,A)
【文献】 特表2010−500750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸無水物を含む樹脂と、エポキシ樹脂と、末端がビニル基と活性エステルを含むポリフェニレンエーテル樹脂である第1の架橋剤と、無水マレイン酸液状ポリブタジエンである第2の架橋剤及び促進剤を含む低誘電率樹脂組成物であって、前記酸無水物を含む樹脂は、無水マレイン酸グラフト変性樹脂から選択され、前記無水マレイン酸グラフト変性樹脂は、無水マレイン酸グラフト(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン)ブロックコポリマー、無水マレイン酸グラフト環状オレフィンコポリマー(COC−g−MA)、無水マレイン酸変性グラフトエチレンプロピレンジエンゴム中の一種又は多種を含み、
前記低誘電率樹脂組成物において、酸無水物を含む低誘電率樹脂の含有量は100重量部であり、前記エポキシ樹脂の含有量の範囲は5〜30重量部であり、第1の架橋剤の含有量は5〜50重量部であり、第2の架橋剤の含有量は5〜50重量部であり、前記促進剤の含有量の範囲は0.1〜5重量部であることを特徴とする低誘電率樹脂組成物。
【請求項2】
前記低誘電率樹脂組成物の比誘電率は2.4より小さく、誘電損失は0.004より小さいことを特徴とする請求項1に記載の低誘電率樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂は1,3−ビス(オキシラニルメチル)−5−(2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1−(オキシラニルメチル)−3,5−ジ−2−プロペニル−1,3,5−トリアジン2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリグリシジルイソシアヌレート、N,N,N’,N’−テトラキス(オキシラニルメチル)−1,3−キシリレンジアミン及び2,2’,2’’,2’’’−[1,2−エタンジイリデンテトラキス(4,1−フェニレンオキシメチレン)]テトラキスオキシラン中の一種又は多種を含むことを特徴とする請求項1に記載の低誘電率樹脂組成物。
【請求項4】
前記促進剤は、第3級アミン促進剤及び有機リン誘導体中の一種又は二種を含み、前記第3級アミン促進剤は、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジメチルアニリン及びトリエチルアミンの一種又は多種を含み、前記有機リン誘導体は、アリルトリ−n−ブチルホスホニウム ブロミド(C1532P.Br)、ドデシルトリフェニルホスホニウム ブロミド(C2452BrP)、エチルトリオクチルホスホニウム ブロミド(C2656BrP)、トリブチルヘキサデシルホスホニウム ブロミド(C2860BrP)、メチルトリブチルホスホニウム ヨージド(C1330IP)、テトラエチルホスホニウムブロミド(C20BrP)、テトラエチルホスホニウムヒドロキシド(C21OP)、テトラブチルホスホニウムブロミド(C1636BrP)、テトラ−n−ブチルホスホニウムクロリド(C1636ClP)、テトラ−n−ブチルホスホニウムO,O−ジエチルホスホロジチオエート(C2046)、テトラ−n−ブチルホスホニウムベンゾトリアゾレート(C2240P)、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(C16ClOP)中の一種又は多種を含むことを特徴とする請求項1に記載の低誘電率樹脂組成物である。
【請求項5】
前記低誘電率樹脂組成物はさらに熱開始剤を含み、前記低誘電率樹脂組成物において、前記熱開始剤の含有量の範囲は0.1〜5重量部であることを特徴とする請求項1に記載の低誘電率樹脂組成物。
【請求項6】
樹脂層及び前記樹脂層の少なくとも一つの表面に結合される離型膜を含むフィルムであって、前記樹脂層の材料は、請求項1〜の何れか一項に記載の前記低誘電率樹脂組成物であることを特徴とするフィルム。
【請求項7】
回路基板及び前記回路基板の少なくとも一つの表面に結合された接着層を含む回路基板であって、前記接着層は請求項1〜の何れか一項に記載の前記低誘電率樹脂組成物を焼いた後に製造されることを特徴とする回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電率樹脂組成物及び当該低誘電率樹脂組成物を応用したフィルム及び回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビッグデータの時代において、電子製品の情報処理は絶えず高周波の信号伝送及び高速デジタル化へと発展している。電子製品において、高周波信号を伝送する条件下で信号伝送の品質を保証する場合、信号の反射、散乱、減衰及び遅延等の現象を防止するために、回路基板の導電銅箔中の伝送線路とこの伝送線路に接続された電子素子との間はインピーダンス整合状態でなければならないが、回路基板において、導電線と接触する接着層の材料の比誘電率は、高周波伝送のインピーダンス整合に影響を与える要因の一つである。高周波信号伝送のインピーダンス整合を実現するために、接着層は通常比誘電率が比較的低い材料を選択する必要がある。
【0003】
従来の回路基板に使用される接着層中の樹脂組成物は極性官能基を含むため、比誘電率及び誘電損失は大きくなる。例えば、エポキシ樹脂中のエポキシ基は開環後にヒドロキシ基を形成するため、比誘電率は3.4以上、誘電損失は0.02以上まで達する。また、ポリイミドはポリイミド基を含むため、比誘電率は3.2以上、誘電損失は0.007以上まで達する。液晶高分子の比誘電率は3.0より小さく、誘電損失も0.002より小さい。しかし、液晶高分子により製造されたフィルムは、回路基板の製造過程において高温プレスの要求を満たすことができない。また、液晶高分子の価格は高い。前記従来の材料の比誘電率及び誘電損失を改善するために、低極性の樹脂材料を選択しなければならない。しかしながら、一般の低極性材料は極性分子と混合することができず、フィルムを製造するのに用いられる樹脂組成物を製造する過程において、低極性樹脂を極性溶媒又は極性添加剤等に混合しなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上の問題点に鑑みて、本発明は、新たな低誘電率樹脂組成物を提供し、上記の問題を解決することを目的とする。
【0005】
また、前記低誘電率樹脂組成物を応用したフィルムを提供する。
【0006】
また、前記低誘電率樹脂組成物を応用して製造された回路基板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の低誘電率樹脂組成物は、酸無水物を含む低誘電率樹脂と、エポキシ樹脂と、硬質の架橋剤と、軟質の架橋剤及び促進剤を含み、前記酸無水物を含む低誘電率樹脂は、無水マレイン酸グラフト変性樹脂及び酸無水物を含むポリイミド樹脂中の一種又は二種から選択され、前記酸無水物を含むポリイミド樹脂の比誘電率は3より小さい。
【0008】
低誘電率樹脂組成物を応用したフィルムであり、このフィルムは、樹脂層及びこの樹脂層の少なくとも一つの表面に結合された離型膜を含み、樹脂層の材質は低誘電率樹脂組成物である。
【0009】
低誘電率樹脂組成物を応用して製造された回路基板は、本体及びこの本体の少なくとも一つの表面に結合された接着層を含み、この接着層は、低誘電率樹脂組成物が焼かれた後に製造される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の低誘電率樹脂組成物は酸無水物を含む低誘電率樹脂を採用し、この酸無水物を含む低誘電率樹脂は、酸無水物を含まない低誘電率樹脂と比較して有機溶剤中に良好に溶解でき、且つ酸無水物を含む低誘電率樹脂は、酸無水物を含まない低誘電率樹脂と比較してその他の有機成分との相溶性に優れ、比誘電率が低く、性能に優れた低誘電率樹脂組成物を取得するのを助ける。したがって、低誘電率樹脂組成物から製造された回路基板の接着層は、比較的低い比電誘率を有し、ひいては、当該回路基板に高周波及び高速デジタル化された信号伝送をもたせる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係るフィルムの断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る回路基板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明の具体的な実施方法を図面と合わせて説明する。
【0013】
本発明の実施形態において低誘電率樹脂組成物を提供する。当該低誘電率樹脂組成物は主に回路基板の基材、接着層又はカバーフィルム中に用いられる。低誘電率樹脂組成物は酸無水物を含む低誘電率樹脂、エポキシ樹脂、硬質の架橋剤、軟質の架橋剤及び促進剤を含む。
【0014】
低誘電率樹脂組成物において、酸無水物を含む低誘電率樹脂の含有量の範囲は100重量部であり、このエポキシ樹脂の含有量の範囲は5〜50重量部である。軟質の架橋剤の含有量は5〜50重量部であり、促進剤の含有量の範囲は0.1〜5重量部である。
【0015】
低誘電率樹脂組成物の比誘電率Dは2.4より小さい。また、誘電損失Dは0.004より小さい。
【0016】
酸無水物を含む低誘電率樹脂は、無水マレイン酸グラフト変性樹脂(maleic anhydride graft modified resin)及び酸無水物を含むポリイミド樹脂中の一種又は二種を含むがこれに限定されない。その中で、この無水マレイン酸グラフト変性樹脂は、無水マレイン酸グラフト(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン)ブロックコポリマー(SEBS−g−MA)、無水マレイン酸グラフト環状オレフィンコポリマー(COC−g−MA)、無水マレイン酸変性グラフトエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM−g−MA)中の一種又は多種を含むがこれに限定されない。酸無水物を含むポリイミド樹脂の比誘電率Dは3より小さい。酸無水物を含む低誘電率樹脂は、酸無水物を含まない低誘電率樹脂と比較して有機溶剤の中に溶けやすい。また、酸無水物を含む低誘電率樹脂は酸無水物を含まない低誘電率樹脂と比較して、その他の有機成分との相性がさらによく、比誘電率が低く、機能に優れた低誘電率樹脂組成物を得るのを助ける。
【0017】
無水マレイン酸グラフト(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン)ブロックコポリマー(SEBS−g−MA)の構造は以下の通りである。
【0018】
【0019】
この中で、w、x、y、zは何れも0より大きい自然数である。
【0020】
無水マレイン酸グラフト環状オレフィンコポリマー(COC−g−MA)の構造は以下の通りである。
【0021】
【0022】
その中で、X、Yは何れも0より大きい自然数である。
【0023】
無水マレイン酸変性グラフトエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM−g−MA)の構造は以下の通りである。
【0024】
【0025】
その中で、p、qは何れも0より大きい自然数である。
【0026】
前記エポキシ樹脂は特殊エポキシ樹脂であり、この特殊エポキシ樹脂は二つ以上のエポキシ基を含むエポキシ樹脂又はビニル基を含むエポキシ樹脂である。当該エポキシ樹脂は1,3−ビス(オキシラニルメチル)−5−(2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1−(オキシラニルメチル)−3,5−ジ−2−プロペニル−1,3,5−トリアジン2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリグリシジルイソシアヌレート、N,N,N’,N’−テトラキス(オキシラニルメチル)−1,3−キシリレンジアミン及び2,2’,2’’,2’’’−[1,2−エタンジイリデンテトラキス(4,1−フェニレンオキシメチレン)]テトラキスオキシランの一種又は多種を含むがこれらに限定されない。
【0027】
この中で、1,3−ビス(オキシラニルメチル)−5−(2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンの構造は以下の通りである。
【0028】
【0029】
1−(オキシラニルメチル)−3,5−ジ−2−プロペニル−1,3,5−トリアジン2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンの構造は以下の通りである。
【0030】
【0031】
1,3,5−トリグリシジルイソシアヌレートの構造は以下の通りである。
【0032】
【0033】
N,N,N’,N’−テトラキス(オキシラニルメチル)−1,3−キシリレンジアミンの構造は以下の通りである。
【0034】
【0035】
2,2’,2’’,2’’’−[1,2−エタンジイリデンテトラキス(4,1−フェニレンオキシメチレン)]テトラキスオキシランの構造は以下の通りである。
【0036】
【0037】
前記硬質の架橋剤は、末端がビニル基と活性エステルを含むポリフェニレンエーテル樹脂である。この末端のビニル基と活性エステルを含むポリフェニレンエーテル樹脂の分子量の範囲は1500〜2500g/molである。当該硬質の架橋剤は、前記低誘電率樹脂組成物が形成した接着層の硬度を調整することができる。
【0038】
前記軟質の架橋剤は、無水マレイン酸液状ポリブタジエン(maleic acid liquid polybutadiene)であってもよい。この無水マレイン酸液状ポリブタジエンの分子量の範囲は、2000〜8000g/molであり、その構造は以下の通りである。
【0039】
【0040】
この中で、x、y、zは何れも0の自然数より大きい。前記軟質の架橋剤は、低誘電率樹脂組成物が形成する接着層の柔軟度を調整することができる。
【0041】
前記エポキシ樹脂中のエポキシ基は、酸無水物を含む低誘電率樹脂中の酸無水物と、硬質の架橋剤中の活性エステル基と、軟質の架橋剤中の酸無水物と架橋結合できるため、酸無水物を含む低誘電率樹脂、硬質の架橋剤及び軟質の架橋剤は結合されて、耐熱性が比較的高く、且つ結合密度も比較的高い低誘電率樹脂組成物を得ることができる。
【0042】
前記促進剤は、エポキシと酸無水物を反応させる促進剤である。このエポキシと酸無水物を反応させる促進剤は、第3級アミン促進剤及び有機リン誘導体中の一種又は二種を含むがこれらに限定されない。
【0043】
前記第3級アミン促進剤は、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジメチルアニリン及びトリエチルアミンの一種又は多種を含むがこれらに限定されない。
【0044】
前記有機リン誘導体は、アリルトリ−n−ブチルホスホニウム ブロミド(C1532P.Br)、ドデシルトリブチルホスホニウム ブロミド(C2452BrP)、エチルトリオクチルホスホニウム ブロミド(C2656BrP)、トリブチルヘキサデシルホスホニウムブロミド(C2860BrP)、メチルトリブチルホスホニウムヨージド(C1330IP)、テトラエチルホスホニウムブロミド(C20BrP)、テトラエチルホスホニウムヒドロキシド(C21OP)、テトラブチルホスホニウムブロミド(C1636BrP)、テトラ−n−ブチルホスホニウムクロリド(C1636ClP)、テトラ−n−ブチルホスホニウムO,O−ジエチルホスホロジチオエート(C2046)、テトラ−n−ブチルホスホニウムベンゾトリアゾレート(C2240P)、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(C16ClOP)を含むがこれらに限定されない。
【0045】
前記低誘電率樹脂組成物はさらに熱開始剤を含む。この低誘電率樹脂組成物において、当該熱開始剤の含有量の範囲は0.1〜5重量部である。
【0046】
前記熱開始剤は示差走査熱量計DSCを利用して測定した発熱ピークが100〜200度範囲内の有機過酸化物である。この有機過酸化物は、ジアシルペルオキシド、ペルオキシケタール、過酸化カーボネート、ペルオキシエステル、ケトンペルオキシド、ジアルキルペルオキシド及びヒドロペルオキシド中の一種又は多種から選択される。この中で、ジアシルペルオキシドは、イソノナン酸ペルオキシド、カプリルパーオキサイド、ラウロイルペルオキシド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド及び3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド中の一種又は多種を含むがこれに限定されない。前記ペルオキシケタールは、2,2−ビス(4,4−ジ−tert−ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパンを含むがこれに限定されない。前記過酸化カーボネートは、ビス(3−メトキシブチル)エステル及びジシクロヘキシルペルオキシジカルボナート中の一種又は二種を含むがこれらに限定されない。前記ペルオキシエステルは、tert−ブチル ペルオキシ安息香酸、アセチルtert−ブチルヒドロペルオキシド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサン酸銀、tert−ブチルパーオキシイソブチレート、tert−ブチルペルオキシペンタン酸、tert−ブチルジペルオキシアジペート、クミルパーオキシネオデカノエート、tert−ブチルペルオキシ安息香酸、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサン酸銀及び2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサンの内の一種又は多種を含むがこれらに限定されない。前記ケトンペルオキシドは、メチルエチルケトンペルオキシド及びシクロヘキシルヒドロペルオキシドの内の一種又は二種を含むがこれらに限定されない。前記ジアルキルペルオキシドは、ジ−t−ブチルペルオキシド、ビス(1−メチル−1−フェネチル)ペルオキシド、ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ジ−(tert−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジ−tertヘキシルペルオキシド、ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン中の一種又は多種を含むがこれらに限定されない。前記ヒドロペルオキシドは、クメンヒドロペルオキシド、tert−ブチルヒドロペルオキシド、過酸化水素p−メンタン(hydrogen peroxide p−menthane)の内の一種又は多種を含むがこれらに限定されない。加熱する際、前記熱開始剤は分解して遊離基を生成し、この遊離基はビニル基と作用して開始反応を行う。
【0047】
好ましくは、前記有機過酸化物は、ペルオキシエステル及びジアルキルペルオキシド中の一種又は二種から選択される。さらに好ましくは、この有機過酸化物は、tert−ブチルパーベンゾエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルエステル及びビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン中の一種又は多種から選択される。
【0048】
これからわかるように、前記低誘電率樹脂組成物はさらに、低誘電率樹脂組成物に通常使用する潤滑剤、フィラー、難燃剤及びイオン捕捉剤等を含むことができる。
【0049】
前記低誘電率樹脂組成物はさらに溶剤を含む。この低誘電率樹脂組成物中において、当該溶剤を加える量は、前記酸無水物を含む低誘電率樹脂、エポキシ樹脂、硬質の架橋剤、軟質の架橋剤、促進剤及び熱開始剤等を完全に溶かすことができれば、必要に応じて変更できる。当該溶剤は、通常樹脂組成物に使用されるベンゼン等であってもよい。
【0050】
前記低誘電率樹脂組成物の製造方法は、酸無水物を含む低誘電率樹脂組、エポキシ樹脂、硬質の架橋剤、軟質の架橋剤、促進剤及び熱開始剤等を所定の比率に基づいて反応瓶の中に加え、反応瓶の中に適量の溶剤を加えて混合攪拌し、酸無水物を含む低誘電率樹脂、エポキシ樹脂、硬質の架橋剤、軟質の架橋剤、促進剤及び熱開始剤を溶剤中に溶かす。即ち、低誘電率樹脂組成物が生成される。
【0051】
図1を参照すると、本発明はさらに前記低誘電率樹脂組成物により製造されたフィルム100を提供する。このフィルム100は、樹脂層20及びこの樹脂層20の少なくとも一つの表面に結合された離型膜10を含む。当該樹脂層20は前記低誘電率樹脂組成物が離型膜10の表面に塗布された後に形成される。
【0052】
図2を参照すると、本発明はさらにフィルム100により製造された回路基板200を提供する。この回路基板200は、本体201及びこの本体201の少なくとも一つの表面に結合された接着層202を含む。この接着層202は、フィルム100の樹脂層20を本体201の表面に貼り合わせることにより、離型膜10を除去し、再度焼くことで得られる。前記低誘電率樹脂組成物は、比較的低い比誘電率、誘電損失、比較的高い結合密度及び比較的高い耐熱性を有するため、製造された回路基板200の接着層202も比較的低い比誘電率、誘電損失、比較的高い結合密度及び比較的高い耐熱性を有する。したがって、後続の通常の回路基板の半田の過程において、接着層202中の化学架橋のネットワーク構造による効果は維持されることができるので、回路基板の耐熱性に対する要求に適応できる。
【0053】
以下、実施例により本発明に対して具体的に説明する。
【0054】
<実施例1>
1000mlの反応瓶中に100gのCOC−g−MA、20gの末端がビニル基と活性エステルを含むポリフェニレンエーテル樹脂(SABIC、型番SA9000)、15gの無水マレイン酸液状ポリブタジエン(Cray vally Ricon、型番130MA13)、5gの1,3−ビス(オキシラニルメチル)−5−(2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1gのtert−ブチルイソプロピルフェニルペルオキシド、1gのテトラ−n−ブチルホスホニウムO,O−ジエチルホスホロジチオエート、568gのベンゼンを順に加え、攪拌により溶解して低誘電率樹脂組成物を得る。
【0055】
<実施例2>
1000mlの反応瓶中に100gのEPDM−g−MA、20gの末端がビニル基と活性エステルを含むポリフェニレンエーテル樹脂(SABIC、型番SA9000)、15gの無水マレイン酸液状ポリブタジエン(Cray vally Ricon、型番130MA13)、5gの1,3−ビス(オキシラニルメチル)−5−(2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1gのtert−ブチルイソプロピルフェニルペルオキシド、1gのテトラ−n−ブチルホスホニウムO,O−ジエチルホスホロジチオエート、568gのベンゼンを順に加え、攪拌により溶解して低誘電率樹脂組成物を得る。
【0056】
<実施例3>
1000mlの反応瓶中に100gの酸無水物を含むポリイミド樹脂、20gの末端がビニル基と活性エステルを含むポリフェニレンエーテル樹脂(SABIC、型番SA9000)、15gの無水マレイン酸液状ポリブタジエン(Cray vally Ricon、型番130MA13)、5gの1,3−ビス(オキシラニルメチル)−5−(2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1gのtert−ブチルイソプロピルフェニルペルオキシド、1gのテトラ−n−ブチルホスホニウムO,O−ジエチルホスホロジチオエート、568gのベンゼンを順に加え、攪拌により溶解して低誘電率樹脂組成物を得る。
【0057】
<実施例4>
1000mlの反応瓶中に100gのSEBS−g−MA、20gの末端がビニル基と活性エステルを含むポリフェニレンエーテル樹脂(SABIC、型番SA9000)、15gの無水マレイン酸液状ポリブタジエン(Cray vally Ricon、型番130MA13)、5gの1,3−ビス(オキシラニルメチル)−5−(2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1gのtert−ブチルイソプロピルフェニルペルオキシド、1gのテトラ−n−ブチルホスホニウムO,O−ジエチルホスホロジチオエート、568gのベンゼンを順に加え、攪拌により溶解して低誘電率樹脂組成物を得る。
【0058】
<実施例5>
1000mlの反応瓶中に100gのSEBS−g−MA、30gの末端がビニル基と活性エステルを含むポリフェニレンエーテル樹脂(SABIC、型番SA9000)、15gの無水マレイン酸液状ポリブタジエン(Cray vally Ricon、型番130MA13)、5gの1,3−ビス(オキシラニルメチル)−5−(2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1gのtert−ブチルイソプロピルフェニルペルオキシド、1gのテトラ−n−ブチルホスホニウムO,O−ジエチルホスホロジチオエート、608gのベンゼンを順に加え、攪拌により溶解して低誘電率樹脂組成物を得る。
【0059】
<実施例6>
1000mlの反応瓶中に100gのSEBS−g−MA、20gの末端がビニル基と活性エステルを含むポリフェニレンエーテル樹脂(SABIC、型番SA9000)、30gの無水マレイン酸液状ポリブタジエン(Cray vally Ricon、型番130MA13)、5gの1,3−bis(オキシラニルメチル)−5−(2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1gのtert−ブチルイソプロピルフェニルペルオキシド、1gのテトラ−n−ブチルホスホニウムO,O−ジエチルホスホロジチオエート、628gのベンゼンを順に加え、攪拌により溶解して低誘電率樹脂組成物を得る。
【0060】
<比較例1>
1000mlの反応瓶中に100gのCOC−g−MA、400gのベンゼンを順に加えて、攪拌により溶解して樹脂組成物を得る。
【0061】
<比較例2>
1000mlの反応瓶中に100gのEPDMA−g−MA、400gのベンゼンを順に加えて、攪拌により溶解して樹脂組成物を得る。
【0062】
<比較例3>
1000mlの反応瓶中に100gの酸無水物を含むポリイミド樹脂、400gのベンゼンを順に加えて、攪拌により溶解して樹脂組成物を得る。
【0063】
<比較例4>
1000mlの反応瓶中に100gのSEBS−g−MA、400gのベンゼンを順に加えて、攪拌により溶解して樹脂組成物を得る。
【0064】
<比較例5>
1000mlの反応瓶中に100gのエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、20gの末端がビニル基と活性エステルを含むポリフェニレンエーテル樹脂(SABIC、型番SA9000)、15gの無水マレイン酸液状ポリブタジエン(Cray vally Ricon、型番130MA13)、5gの1,3−ビス(オキシラニルメチル)−5−(2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1gのtert−ブチルイソプロピルフェニルペルオキシド、1gのテトラ−n−ブチルホスホニウムO,O−ジエチルホスホロジチオエート、568gのベンゼンを順に加え、攪拌により溶解して樹脂組成物を得る。
【0065】
<比較例6>
1000mlの反応瓶中に100gのSEBS−g−MA、60gの末端がビニル基と活性エステルを含むポリフェニレンエーテル樹脂(SABIC、型番SA9000)、15gの無水マレイン酸液状ポリブタジエン(Cray vally Ricon、型番130MA13)、5gの1,3−ビス(オキシラニルメチル)−5−(2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1gのtert−ブチルイソプロピルフェニルペルオキシド、1gのテトラ−n−ブチルホスホニウムO,O−ジエチルホスホロジチオエート、728gのベンゼンを順に加え、攪拌により溶解して樹脂組成物を得る。
【0066】
<比較例7>
1000mlの反応瓶中に100gのSEBS−g−MA、20gの末端がビニル基と活性エステルを含むポリフェニレンエーテル樹脂(SABIC、型番SA9000)、60gの無水マレイン酸液状ポリブタジエン(Cray vally Ricon、型番130MA13)、5gの1,3−bis(オキシラニルメチル)−5−(2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1gのtert−ブチルイソプロピルフェニルペルオキシド、1gのテトラ−n−ブチルホスホニウムO,O−ジエチルホスホロジチオエート、748gのベンゼンを順に加え、攪拌により溶解して樹脂組成物を得る。
【0067】
実施例1〜6で製造された低誘電率樹脂組成物及び比較例1〜7で製造された樹脂組成物の比誘電率Dと誘電損失Dに対してそれぞれテストを行った。次いで、銅箔とポリイミド(PI)薄膜を使用して、銅箔とカバー層を備えた回路基板を製造する。実施例1〜6で製造された低誘電率樹脂組成物及び比較例1〜7で製造された樹脂組成物を使用して、それぞれフィルムを製造し、このフィルムを利用して回路基板の本体の表面に結合される接着層を製造する。次いで、当該接着層を備える回路基板に対して銅剥離強度テスト、PI剥離強度テスト、半田フロート耐熱性テスト及び弾性率テストを行った。その結果は表一の性能検出データを参照されたい。この中で、半田フロート耐熱性テストの条件が260度/10秒以上の場合、錫は剥がれ落ちない。即ち、半田フロート耐熱性テストの結果は“通過”であり、回路基板は耐熱性の要求に達していることを表している。
【0068】
<表一>
表一は、接着層の材質が実施例1〜6で製造された低誘電率樹脂組成物及び比較例1〜7で製造された樹脂組成物である回路基板の性能検出データである。
【0069】
【0070】
表一からわかるように、本発明の実施例1〜6中の低誘電率樹脂組成物の比誘電率D及び比較的低い誘電損失Dは、比較例1〜4中の樹脂組成物の比誘電率D及び比較的低い誘電損失Dと略同じである。本願の実施例1、4の低誘電率樹脂組成物から製造された回路基板の銅剥離強度及びPI剥離強度は、何れも比較例1〜4中の樹脂組成物から製造された回路基板の銅剥離強度及びPI剥離強度より強い。実施例2、5の低誘電率樹脂組成物から製造された回路基板の銅剥離強度は、比較例1〜4中の樹脂組成物から製造された回路基板の銅剥離強度より強く、且つ実施例2、5の低誘電率樹脂組成物から製造された回路基板のPI剥離強度と、比較例1〜4中の樹組成物から製造された回路基板のPI剥離強度は近い。実施例3、6の低誘電率樹脂組成物から製造された回路基板のPI剥離強度は、比較例1〜4中の樹脂組成物から製造された回路基板のPI剥離強度より強く、且つ実施例3、6の低誘電率樹脂組成物から製造された回路基板の銅剥離強度と比較例1〜4中の樹脂組成物から製造された回路基板の銅剥離強度は近い。実施例1〜6の低誘電率樹脂組成物から製造された回路基板の半田フロート耐熱性は明らかに比較例1〜4の樹脂組成物から製造された回路基板の半田フロート耐熱性より高い。比較例5の樹脂組成物は、EPDMがその他の材料と互換できないため、液体樹脂組成物の溶液が層状化するのを引き起こし、関連機能を測定できない。比較例6の樹脂組成物から製造された接着層は破壊され、関連機能を測定できない。比較例7の樹脂組成物から製造された接着層の表面自身は粘着性を有し、関連機能を測定できない。以上からわかるように、本発明の低誘電率樹脂組成物は、比較的低い比誘電率及び誘電損失を有すると同時に、さらに、比較的高い銅剥離強度、PI剥離強度及び半田フロート耐熱性を有する。
【0071】
この他にも、実施例4と実施例5との比較からわかるように、低誘電率樹脂組成物中に硬質の架橋剤が多く含まれている場合、当該低誘電率樹脂組成物から製造された回路基板の弾性率は比較的大きい。即ち、回路基板の硬度は大きい。実施例4と実施例6との比較からわかるように、低誘電率樹脂組成物中に軟質の架橋剤が多く含まれている時、当該低誘電率樹脂組成物から製造された回路基板の弾性率は比較的小さい。即ち、回路基板の硬度は小さい。したがって、低誘電率樹脂組成物中に添加されている硬質の架橋剤と軟質の架橋剤の含有量を調整することによって、この低誘電率樹脂組成物から製造された回路基板の柔らかさ、硬さを調整できる。
【0072】
本発明の低誘電率樹脂組成物の比誘電率Dは2.4より低い。また、誘電損失Dは0.004より低いため、この低誘電率樹脂組成物から製造された回路基板の接着層は、比較的低い比誘電率を有し、ひいては、当該回路基板に高周波及び高速デジタル化された信号伝送をもたせる。また、前記低誘電率樹脂組成物は酸無水物を含む低誘電率樹脂を採用し、この酸無水物を含む低誘電率樹脂は、酸無水物を含まない低誘電率樹脂と比較して有機溶剤中によく溶解し、且つ酸無水物を含む低誘電率樹脂は、酸無水物を含まない低誘電率樹脂と比較して、その他の有機成分との相溶性に優れ、比誘電率が低く、性能に優れた低誘電率樹脂組成物を取得するのを助ける。また、エポキシ樹脂中のエポキシ基は、酸無水物を含む低誘電率樹脂中の酸無水物と、硬質の架橋剤中の活性エステル基と、軟質の架橋剤中の酸無水物と架橋結合できる。したがって、酸無水物を含む低誘電率樹脂、硬質の架橋剤及び軟質の架橋剤は結合されて、耐熱性が比較的高く、且つ結合密度も比較的高い低誘電率樹脂組成物を得ることができる。また、低誘電率樹脂組成物から製造された回路基板の接着層は良好な耐熱性を有し、回路基板の耐熱性に対する要求を満たすことができる。
【0073】
また、当業者にとって、本発明の技術構想に基づいて、その他各種の対応する変更及び変形を構想でき、これら全ての変更及び変形は、本発明の特許の請求項が保護する範囲に属する。
【符号の説明】
【0074】
10 離型膜
20 樹脂層
100 フィルム
200 回路基板
201 本体
202 接着層
図1
図2