(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明するが、以下の説明は、本発明を特定の実施形態に制限する趣旨ではない。
【0012】
以降の説明において、用語「撥水基」は、水素原子の少なくとも一部がフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜30の鎖状又は環状のアルキル基を意味する。用語「金属酸化物成分」は、互いに結合した金属原子及び酸素原子のみからなる成分と共に、金属原子と酸素原子とが直接結合した部分を包含する趣旨である。したがって、例えば、式R−M−O(R:撥水基、M:金属原子)により示される成分におけるMOで示される部分は、金属酸化物成分を構成する。また、用語「金属酸化物成分」、「金属原子」、「金属化合物」等における「金属」は、慣用に従い、ホウ素(B)及びシリコン(Si)を含む意味で使用する。
【0013】
<第一の実施形態−撥水基−>
本実施形態による防曇膜つき透明物品は、透明物品と、その表面上に形成された単層の防曇膜とを備えている。防曇膜は撥水基を含有する。
【0014】
[透明物品]
透明物品は、その形状を問わないが、樹脂板、ガラス板に代表される透明基板が適している。透明基板としては、高い表面硬度を有するガラス板が好適である。
【0015】
(ガラス板)
ガラス板は、例えば、車両用、建築用及び産業用の各分野で最も一般に用いられているフロート板ガラスであってよい。ガラス板は、着色されている必要はないが、グリーン、ブロンズ等に着色されていてもよい。また、強化ガラス、合わせガラス、複層ガラス等へと処理又は加工されていてもよい。主面の形状も、平面、曲面のいずれであってもよい。板厚は、例えば1〜12mmであり、建築用としては3〜10mmが、車両用としては1〜5mmがそれぞれ好適である。
【0016】
ガラス板が車両用窓ガラスに用いられる場合、車両の意匠性の向上のために、車両用窓ガラスの周縁部にはセラミック遮蔽層が形成されることがある。セラミック遮蔽層は、窓ガラスを車両本体に接合する接着剤、発泡材等の樹脂材料の紫外線による劣化を防止する役割も担っている。セラミック遮蔽層は、セラミックペーストを塗布し、焼成することにより形成される。本発明の物品は、このようなセラミック遮蔽層つきガラス板であってもよい。
【0017】
(樹脂板)
樹脂板としては、ポリカーボネート板、ポリメチルメタクリレート板に代表されるアクリル樹脂板が適している。樹脂板の板厚は、2〜8mmが適切であり、3〜6mmが好適である。樹脂板の表面には、防曇膜との密着性を向上させるための表面処理を施してもよい。樹脂板の表面処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等の酸化処理、及びサンドブラスト法、溶剤処理法等の凹凸化処理を挙げることができる。これらの処理の中では、効果及び操作性の観点からコロナ放電処理が好ましい。
【0018】
(鏡)
透明物品は、その一方の主面上に反射膜を設けた鏡であってもよい。鏡を構成する透明基板としても、上述したガラス板及び樹脂板を使用できる。この場合、防曇膜は、反射膜を設けた透明基板の主面と反対側の主面に形成されることが好ましい。防曇膜つき鏡は、いわゆる防曇鏡として使用できる。
【0019】
[防曇膜]
第一の実施形態において、防曇膜は、透明物品の表面に形成された単層膜である。単層膜である防曇膜は、少なくとも吸水性樹脂と撥水基と金属酸化物成分とを含んでいる。防曇膜は、必要に応じ、その他の機能成分をさらに含んでいてもよい。吸水性樹脂は、水を吸収して保持できる樹脂であればその種類を問わない。撥水基は、撥水基を有する金属化合物(撥水基含有金属化合物)から防曇膜に供給することができる。金属酸化物成分は、撥水基含有金属化合物その他の金属化合物、金属酸化物微粒子等から防曇膜に供給することができる。以下、各成分について説明する。
【0020】
(吸水性樹脂)
吸水性樹脂は、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタール、ポリ酢酸ビニルを例示できる。吸水性樹脂は、ポリビニルアセタールを含むことが好ましい。
【0021】
ポリビニルアセタールは、ポリビニルアルコールにアルデヒドを縮合反応させてアセタール化することにより得ることができる。ポリビニルアルコールのアセタール化は、酸触媒の存在下で水媒体を用いる沈澱法、アルコール等の溶媒を用いる溶解法等公知の方法を用いて実施すればよい。アセタール化は、ポリ酢酸ビニルのケン化と並行して実施することもできる。アセタール化度は、2〜40モル%、さらには3〜30モル%、特に5〜20モル%、場合によっては5〜15モル%が好ましい。アセタール化度は、例えば
13C核磁気共鳴スペクトル法に基づいて測定することができる。アセタール化度が上記範囲にあるポリビニルアセタールは、吸水性及び耐水性が良好である防曇膜の形成に適している。
【0022】
ポリビニルアルコールの平均重合度は、200〜4500、さらに500〜4500が好ましい。高い平均重合度は、吸水性及び耐水性が良好である防曇膜の形成に有利であるが、平均重合度が高すぎると溶液の粘度が高くなり過ぎて膜の形成に支障をきたすことがある。ポリビニルアルコールのケン化度は、75〜99.8モル%が好適である。
【0023】
ポリビニルアルコールに縮合反応させるアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、ヘキシルカルバルデヒド、オクチルカルバルデヒド、デシルカルバルデヒド等の脂肪族アルデヒドを挙げることができる。また、ベンズアルデヒド;2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、その他のアルキル基置換ベンズアルデヒド;クロロベンズアルデヒド、その他のハロゲン原子置換ベンズアルデヒド;ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基等のアルキル基を除く官能基により水素原子が置換された置換ベンズアルデヒド;ナフトアルデヒド、アントラアルデヒド等の縮合芳香環アルデヒド等の芳香族アルデヒドを挙げることができる。疎水性が強い芳香族アルデヒドは、低アセタール化度で耐水性に優れた防曇膜を形成する上で有利である。芳香族アルデヒドの使用は、水酸基を多く残存させながら吸水性が高い膜を形成する上でも有利である。ポリビニルアセタールは、芳香族アルデヒド、特にベンズアルデヒドに由来するアセタール構造を含むことが好ましい。
【0024】
防曇膜における吸水性樹脂の含有量は、膜硬度、吸水性及び防曇性の観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、特に好ましくは65質量%以上であり、95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、特に好ましくは85質量%以下である。
【0025】
(撥水基)
撥水基による上述の効果を十分に得るためには、撥水性が高い撥水基を用いることが好ましい。好ましい撥水基は、(1)炭素数3〜30の鎖状又は環状のアルキル基、及び(2)水素原子の少なくとも一部をフッ素原子により置換した炭素数1〜30の鎖状又は環状のアルキル基(以下、「フッ素置換アルキル基」ということがある)から選ばれる少なくとも1種である。
【0026】
(1)及び(2)に関し、鎖状又は環状のアルキル基は、鎖状アルキル基であることが好ましい。鎖状アルキル基は、分岐を有するアルキル基であってもよいが、直鎖アルキル基が好ましい。炭素数が30を超えるアルキル基は、防曇膜を白濁させることがある。膜の防曇性、強度及び外観のバランスの観点から、アルキル基の炭素数は、20以下が好ましく、6〜14がより好ましい。特に好ましいアルキル基は、炭素数6〜14、特に炭素数8〜12の直鎖アルキル基、例えばn−デシル基(炭素数10)、n−ドデシル基(炭素数12)である。(2)に関し、フッ素置換アルキル基は、鎖状又は環状のアルキル基の水素原子の一部のみをフッ素原子により置換した基であってもよく、鎖状又は環状のアルキル基の水素原子のすべてをフッ素原子により置換した基、例えば直鎖状のパーフルオロアルキル基、であってもよい。フッ素置換アルキル基は撥水性が高いため、少ない量の添加によって十分な効果を得ることができる。ただし、フッ素置換アルキル基は、その含有量が多くなり過ぎると、膜を形成するための塗工液中でその他の成分から分離することがある。
【0027】
(撥水基を有する加水分解性金属化合物)
撥水基を防曇膜に配合するためには、撥水基を有する金属化合物(撥水基含有金属化合物)、特に撥水基と加水分解可能な官能基又はハロゲン原子とを有する金属化合物(撥水基含有加水分解性金属化合物)又はその加水分解物を、膜を形成するための塗工液に添加するとよい。言い換えると、撥水基は、撥水基含有加水分解性金属化合物に由来するものであってもよい。撥水基含有加水分解性金属化合物としては、以下の式(I)に示す撥水基含有加水分解性シリコン化合物が好適である。
R
mSiY
4-m (I)
ここで、Rは、撥水基、すなわち水素原子の少なくとも一部がフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜30の鎖状又は環状のアルキル基であり、Yは加水分解可能な官能基又はハロゲン原子であり、mは1〜3の整数である。加水分解可能な官能基は、例えば、アルコキシル基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基及びアミノ基から選ばれる少なくとも1種であり、好ましくはアルコキシ基、特に炭素数1〜4のアルコキシ基である。アルケニルオキシ基は、例えばイソプロペノキシ基である。ハロゲン原子は、好ましくは塩素である。なお、ここに例示した官能基は、以降に述べる「加水分解可能な官能基」としても使用することができる。mは好ましくは1〜2である。
【0028】
式(I)により示される化合物は、加水分解及び重縮合が完全に進行すると、以下の式(II)により表示される成分を供給する。
R
mSiO
(4-m)/2 (II)
ここで、R及びmは、上述したとおりである。加水分解及び重縮合の後、式(II)により示される化合物は、実際には、防曇膜中において、シリコン原子が酸素原子を介して互いに結合したネットワーク構造を形成する。
【0029】
このように、式(I)により示される化合物は、加水分解又は部分加水分解し、さらには少なくとも一部が重縮合して、シリコン原子と酸素原子とが交互に接続し、かつ三次元的に広がるシロキサン結合(Si−O−Si)のネットワーク構造を形成する。このネットワーク構造に含まれるシリコン原子には撥水基Rが接続している。言い換えると、撥水基Rは、結合R−Siを介してシロキサン結合のネットワーク構造に固定される。この構造は、撥水基Rを膜に均一に分散させる上で有利である。ネットワーク構造は、式(I)により示される撥水基含有加水分解性シリコン化合物以外のシリコン化合物(例えば、テトラアルコキシシラン、シランカップリング剤)から供給されるシリカ成分を含んでいてもよい。撥水基を有さず加水分解可能な官能基又はハロゲン原子を有するシリコン化合物(撥水基非含有加水分解性シリコン化合物)を撥水基含有加水分解性シリコン化合物と共に防曇膜を形成するための塗工液に配合すると、撥水基と結合したシリコン原子と撥水基と結合していないシリコン原子とを含むシロキサン結合のネットワーク構造を形成できる。このような構造とすれば、防曇膜中における撥水基の含有率と金属酸化物成分の含有率とを互いに独立して調整することが容易になる。
【0030】
撥水基は、吸水性樹脂を含む防曇膜表面における水蒸気の透過性を向上させることにより防曇性能を向上させる効果がある。吸水と撥水という2つの機能は互いに相反するため、吸水性材料と撥水性材料とは、従来、別の層に振り分けて付与されてきたが、撥水基は、防曇層の表面近傍における水の偏在を解消して結露までの時間を引き延ばし、単層構造を有する防曇膜の防曇性を向上させる。以下ではその効果を説明する。
【0031】
吸水性樹脂を含む防曇膜へと侵入した水蒸気は、吸水性樹脂等の水酸基と水素結合し、結合水の形態で保持される。量が増加するにつれ、水蒸気は、結合水の形態から半結合水の形態を経て、ついには防曇膜中の空隙に保持される自由水の形態で保持されるようになる。防曇膜において、撥水基は、水素結合の形成を妨げ、かつ形成した水素結合の解離を容易にする。吸水性樹脂の含有率が同じであれば、膜中における水素結合可能な水酸基の数には差がないが、撥水基は水素結合の形成速度を低下させる。したがって、撥水基を含有する防曇膜において、水分は、最終的には上記のいずれかの形態で膜に保持されることになるが、保持されるまでには膜の底部まで水蒸気のまま拡散することができる。また、一旦保持された水も、比較的容易に解離し、水蒸気の状態で膜の底部まで移動しやすい。結果的に、膜の厚さ方向についての水分の保持量の分布は、表面近傍から膜の底部まで比較的均一になる。つまり、防曇膜の厚さ方向の全てを有効に活用し、膜表面に供給された水を吸収することができるため、表面に水滴が凝結しにくく、防曇性が高くなる。
【0032】
一方、撥水基を含まない従来の防曇膜においては、膜中に侵入した水蒸気は極めて容易に結合水、半結合水又は自由水の形態で保持される。したがって、侵入した水蒸気は、膜の表面近傍で保持される傾向にある。結果的に、膜中の水分は、表面近傍が極端に多く、膜の底部へ進むにつれて急速に減少する。つまり、膜の底部では未だ水を吸収できるにも拘わらず、膜の表面近傍では水分により飽和して水滴として凝結するため、防曇性が限られたものとなる。
【0033】
撥水基含有加水分解性シリコン化合物(式(I)参照)を用いて撥水基を防曇膜に導入すると、強固なシロキサン結合(Si−O−Si)のネットワーク構造が形成される。このネットワーク構造の形成は、耐摩耗性のみならず、硬度、耐水性等を向上させる観点からも有利である。
【0034】
撥水基は、防曇膜の表面における水の接触角が70度以上、好ましくは80度以上、より好ましくは90度以上になる程度に添加するとよい。水の接触角は、4mgの水滴を膜の表面に滴下して測定した値を採用することとする。特に撥水性がやや弱いメチル基又はエチル基を撥水基として用いる場合は、水の接触角が上記の範囲となる量の撥水基を防曇膜に配合することが好ましい。この水滴の接触角は、その上限が特に制限されるわけではないが、例えば150度以下、また例えば120度以下、さらには100度以下である。撥水基は、防曇膜の表面のすべての領域において上記水滴の接触角が上記の範囲となるように、防曇膜に均一に含有させることが好ましい。
【0035】
防曇膜は、吸水性樹脂100質量部に対し、0.05質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上の範囲内となるように、また、10質量部以下、好ましくは5質量部以下、の範囲内となるように、撥水基を含むことが好ましい。
【0036】
(金属酸化物成分)
防曇膜は、金属酸化物成分を含んでいる。金属酸化物成分は、例えば、Si、Ti、Zr、Ta、Nb、Nd、La、Ce及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物成分であり、好ましくはSiの酸化物成分(シリカ成分)である。防曇膜は、吸水性樹脂100質量部に対し、0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上、特に好ましくは5質量部以上、場合によっては10質量部以上、必要であれば20質量部以上、また、60質量部以下、特に50質量部以下、好ましくは45質量部以下、より好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは35質量部以下、特に好ましくは33質量部以下、場合によっては30質量部以下となるように、金属酸化物成分を含むことが好ましい。金属酸化物成分は、膜の強度、特に耐擦傷性を確保するために必要な成分であるが、その含有量が過多となると膜の防曇性が低下する。
【0037】
金属酸化物成分の少なくとも一部は、防曇膜を形成するための塗工液に添加された、加水分解性金属化合物又その加水分解物に由来する金属酸化物成分であってもよい。ここで、加水分解性金属化合物は、a)撥水基と加水分解可能な官能基又はハロゲン原子とを有する金属化合物(撥水基含有加水分解性金属化合物)及びb)撥水基を有さず加水分解可能な官能基又はハロゲン原子を有する金属化合物(撥水基非含有加水分解性金属化合物)から選ばれる少なくとも1つである。a)及び/又はb)に由来する金属酸化物成分は、加水分解性金属化合物を構成する金属原子の酸化物である。金属酸化物成分は、防曇膜を形成するための塗工液に添加された金属酸化物微粒子に由来する金属酸化物成分と、その塗工液に添加された、加水分解性金属化合物又その加水分解物に由来する金属酸化物成分とを含んでいてもよい。ここでも、加水分解性金属化合物は、上記a)及びb)から選ばれる少なくとも1つである。上記b)、すなわち撥水基を有しない加水分解性金属化合物は、テトラアルコキシシラン及びシランカップリング剤から選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。以下、既に説明した上記a)を除き、金属酸化物微粒子と上記b)とについて説明する。
【0038】
(金属酸化物微粒子)
防曇膜は、金属酸化物成分の少なくとも一部として金属酸化物微粒子をさらに含んでいてもよい。金属酸化物微粒子を構成する金属酸化物は、例えば、Si、Ti、Zr、Ta、Nb、Nd、La、Ce及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であり、好ましくはシリカ微粒子である。シリカ微粒子は、例えば、コロイダルシリカを添加することにより膜に導入できる。金属酸化物微粒子は、防曇膜に加えられた応力を膜を支持する透明物品に伝達する作用に優れ、硬度も高い。したがって、金属酸化物微粒子の添加は、防曇膜の耐摩耗性及び耐擦傷性を向上させる観点から有利である。また、防曇膜に金属酸化物微粒子を添加すると、微粒子が接触又は近接している部位に微細な空隙が形成され、この空隙から膜中に水蒸気が取り込まれやすくなる。このため、金属酸化物微粒子の添加は、防曇性の向上に有利に作用することもある。金属酸化物微粒子は、防曇膜を形成するための塗工液に予め形成した金属酸化物微粒子を添加することにより、防曇膜に供給することができる。
【0039】
金属酸化物微粒子の平均粒径は、大きすぎると膜が白濁することがあり、小さすぎると凝集して均一に分散させることが困難となる。この観点から、金属酸化物微粒子の好ましい平均粒径は、1〜20nm、特に5〜20nmである。なお、ここでは、金属酸化物微粒子の平均粒径を、一次粒子の状態で記述している。また、金属酸化物微粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡を用いた観察により任意に選択した50個の微粒子の粒径を測定し、その平均値を採用して定めることとする。金属酸化物微粒子は、その含有量が過大となると、膜全体の吸水量が低下し、膜が白濁するおそれがある。金属酸化物微粒子は、吸水性樹脂100質量部に対し、0〜50質量部、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは2〜30質量部、特に好ましくは5〜25質量部、場合によっては10〜20質量部となるように添加するとよい。
【0040】
(撥水基を有しない加水分解性金属化合物)
防曇膜は、撥水基を有しない加水分解性金属化合物(撥水基非含有加水分解性化合物)に由来する金属酸化物成分を含んでいてもよい。好ましい撥水基非含有加水分解性金属化合物は、撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物である。撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物は、例えば、シリコンアルコキシド、クロロシラン、アセトキシシラン、アルケニルオキシシラン及びアミノシランから選ばれる少なくとも1種のシリコン化合物(ただし、撥水基を有しない)であり、撥水基を有しないシリコンアルコキシドが好ましい。なお、アルケニルオキシシランとしては、イソプロペノキシシランを例示できる。
【0041】
撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物は、以下の式(III)に示す化合物であってもよい。
SiY
4 (III)
上述したとおり、Yは、加水分解可能な官能基であって、好ましくはアルコキシル基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基及びハロゲン原子から選ばれる少なくとも1つである。
【0042】
撥水基非含有加水分解性金属化合物は、加水分解又は部分加水分解し、さらに、少なくともその一部が重縮合して、金属原子と酸素原子とが結合した金属酸化物成分を供給する。この成分は、金属酸化物微粒子と吸水性樹脂とを強固に接合し、防曇膜の耐摩耗性、硬度、耐水性等の向上に寄与しうる。撥水基を有しない加水分解性金属化合物に由来する金属酸化物成分は、吸水性樹脂100質量部に対し、0〜40質量部、好ましくは0.1〜30質量部、より好ましくは1〜20質量部、特に好ましくは3〜10質量部、場合によっては4〜12質量部の範囲とするとよい。
【0043】
撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物の好ましい一例は、テトラアルコキシシラン、より具体的には炭素数が1〜4のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシランである。テトラアルコキシシランは、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン及びテトラ−tert−ブトキシシランから選ばれる少なくとも1種である。
【0044】
テトラアルコキシシランに由来する金属酸化物(シリカ)成分の含有量が過大となると、防曇膜の防曇性が低下することがある。防曇膜の柔軟性が低下し、水分の吸収及び放出に伴う膜の膨潤及び収縮が制限されることが一因である。テトラアルコキシシランに由来する金属酸化物成分は、吸水性樹脂100質量部に対し、0〜30質量部、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは3〜10質量部の範囲で添加するとよい。
【0045】
撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物の好ましい別の一例は、シランカップリング剤である。シランカップリング剤は、互いに異なる反応性官能基を有するシリコン化合物である。反応性官能基は、その一部が加水分解可能な官能基であることが好ましい。シランカップリング剤は、例えば、エポキシ基及び/又はアミノ基と加水分解可能な官能基とを有するシリコン化合物である。好ましいシランカップリング剤としては、グリシジルオキシアルキルトリアルコキシシラン及びアミノアルキルトリアルコキシシランを例示できる。これらのシランカップリング剤において、シリコン原子に直接結合しているアルキレン基の炭素数は1〜3であることが好ましい。グリシジルオキシアルキル基及びアミノアルキル基は、親水性を示す官能基(エポキシ基、アミノ基)を含むため、アルキレン基を含むものの、全体として撥水性ではない。
【0046】
シランカップリング剤は、有機成分である吸水性樹脂と無機成分である金属酸化物微粒子等とを強固に結合し、防曇膜の耐摩耗性、硬度、耐水性等の向上に寄与しうる。しかし、シランカップリング剤に由来する金属酸化物(シリカ)成分の含有量が過大となると、防曇膜の防曇性が低下し、場合によっては防曇膜が白濁する。シランカップリング剤に由来する金属酸化物成分は、吸水性樹脂100質量部に対し、0〜10質量部、好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜2質量部の範囲で添加するとよい。
【0047】
(架橋構造)
防曇膜は、架橋剤、好ましくは有機ホウ素化合物、有機チタン化合物及び有機ジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の架橋剤、に由来する架橋構造を含んでいてもよい。架橋構造の導入は、防曇膜の耐摩耗性、耐擦傷性、耐水性を向上させる。別の観点から述べると、架橋構造の導入は、防曇膜の防曇性能を低下させることなくその耐久性を改善することを容易にする。
【0048】
金属酸化物成分がシリカ成分である防曇膜に架橋剤に由来する架橋構造を導入した場合、その防曇膜は、金属原子としてシリコンと共にシリコン以外の金属原子、好ましくはホウ素、チタン又はジルコニウム、を含有することがある。
【0049】
架橋剤は、用いる吸水性樹脂を架橋できるものであれば、その種類は特に限定されない。ここでは、有機チタン化合物についてのみ例を挙げる。有機チタン化合物は、例えば、チタンアルコキシド、チタンキレート系化合物及びチタンアシレートから選ばれる少なくとも1つである。チタンアルコキシドは、例えば、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ−n−ブトキシド、チタンテトラオクトキシドである。チタンキレ−ト系化合物は、例えば、チタンアセチルアセトナート、チタンアセト酢酸エチル、チタンオクチレングリコール、チタントリエタノールアミン、チタンラクテートである。チタンラクテートは、アンモニウム塩(チタンラクテートアンモニウム)であってもよい。チタンアシレートは、例えばチタンステアレートである。好ましい有機チタン化合物は、チタンキレート系化合物、特にチタンラクテートである。
【0050】
吸水性樹脂がポリビニルアセタールである場合の好ましい架橋剤は、有機チタン化合物、特にチタンラクテートである。
【0051】
(その他の任意成分)
防曇膜にはその他の添加剤を配合してもよい。添加剤としては、防曇性を改善する機能を有するグリセリン、エチレングリコール等のグリコール類が挙げられる。添加剤は、界面活性剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、着色剤、消泡剤、防腐剤等であってもよい。
【0052】
[膜厚]
防曇膜の膜厚は、要求される防曇特性その他に応じて適宜調整すればよい。防曇膜の好ましい膜厚は、1〜20μm、好ましくは2〜15μm、特に3〜10μmである。
【0053】
[防曇膜の成膜]
防曇膜は、防曇膜を形成するための塗工液を透明基板等の透明物品上に塗布し、塗布した塗工液を乾燥させ、必要に応じてさらに高温高湿処理等を実施することにより、成膜することができる。塗工液の調製に用いる溶媒、塗工液の塗布方法は、従来から公知の材料及び方法を用いればよい。
【0054】
塗工液の塗布工程では、雰囲気の相対湿度を40%未満、さらには30%以下に保持することが好ましい。相対湿度を低く保持すると、膜が雰囲気から水分を過剰に吸収することを防止できる。雰囲気から水分が多量に吸収されると、膜のマトリックス内に入り込んで残存した水が膜の強度を低下させるおそれがある。
【0055】
塗工液の乾燥工程は、風乾工程と、加熱を伴う加熱乾燥工程とを含むことが好ましい。風乾工程は、相対湿度を40%未満、さらには30%以下に保持した雰囲気に塗工液を曝すことにより、実施するとよい。風乾工程は、非加熱工程として、言い換えると室温で実施できる。塗工液に加水分解性シリコン化合物が含まれている場合、加熱乾燥工程では、シリコン化合物の加水分解物等に含まれるシラノール基及び透明物品上に存在する水酸基が関与する脱水反応が進行し、シリコン原子と酸素原子とからなるマトリックス構造(Si−O結合のネットワーク)が発達する。
【0056】
吸水性樹脂等の有機物の分解を避けるべく、加熱乾燥工程において適用する温度は過度に高くしないほうがよい。この場合の適切な加熱温度は、300℃以下、例えば100〜200℃であり、加熱時間は、1分〜1時間である。
【0057】
防曇膜の成膜に際しては、適宜、高温高湿処理工程を実施してもよい。高温高湿処理工程の実施により、防曇性と膜の強度との両立がより容易になりうる。高温高湿処理工程は、例えば50〜100℃、相対湿度60〜95%の雰囲気に5分〜1時間保持することにより、実施することができる。高温高湿処理工程は、塗布工程及び乾燥工程の後に実施してもよく、塗布工程及び風乾工程の後であって加熱乾燥工程の前に実施してもよい。特に前者の場合には、高温高湿処理工程の後に、さらに熱処理工程を実施してもよい。この追加の熱処理工程は、例えば、80〜180℃の雰囲気に5分〜1時間保持することにより、実施することができる。
【0058】
また、塗工液から形成した防曇膜は、必要に応じ、洗浄及び/又は湿布拭きを行ってもよい。具体的には、防曇膜の表面を、水流に曝したり、水を含ませた布で拭いたりすることにより実施できる。これらで用いる水は純水が適している。洗浄のために洗剤を含む溶液を用いることは避けたほうがよい。この工程により、防曇膜の表面に付着した埃、汚れ等を除去して、清浄な塗膜面を得ることができる。
【0059】
<第二の実施形態−シリコン以外の金属原子−>
本実施形態による防曇膜つき透明物品は、透明物品と、その表面上に形成された防曇膜とを備えている。防曇膜は、シリコン以外の金属原子を含み、好ましくは単層膜である。
【0060】
[透明物品]
透明物品については、第一の実施形態で述べたとおりである。
【0061】
[防曇膜]
第二の実施形態において、防曇膜は、少なくとも、ポリビニルアセタールと、加水分解性シリコン化合物又はその加水分解物に由来するシリカ成分と、有機金属化合物に由来するシリコン以外の金属原子とを含んでいる。防曇膜は、必要に応じ、金属酸化物微粒子その他の機能成分をさらに含んでいてもよい。ポリビニルアセタールは、水を吸収して保持する吸水性樹脂である。防曇膜は、シリコン以外の金属原子を含む架橋構造を含んでいてもよく、この場合は、架橋構造が防曇膜の耐擦傷性をさらに向上させる。以下、各成分について説明する。
【0062】
(ポリビニルアセタール)
ポリビニルアセタールについては、第一の実施形態で述べたとおりである。
【0063】
本実施形態の防曇膜におけるポリビニルアセタールの含有量は、膜硬度、吸水性及び防曇性の観点から、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、特に好ましくは75質量%以上、であり、また、99.5質量%以下、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。
【0064】
(シリカ成分)
防曇膜は、膜を形成するための塗工液に添加された、加水分解性シリコン化合物又はその加水分解物に由来するシリカ成分を含んでいる。加水分解性シリコン化合物は、加水分解又は部分加水分解し、さらに少なくともその一部が重縮合して、シリコン原子と酸素原子とが結合したシリカ成分を供給する。このシリカ成分は、防曇膜の耐摩耗性、硬度、耐水性等の向上に寄与しうる。加水分解性シリコン化合物は、加水分解可能な官能基又はハロゲン原子を有するシリコン化合物である。加水分解可能な官能基は、例えば、アルコキシル基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基及びアミノ基から選ばれる少なくとも1つであり、好ましくはアルコキシ基、特に炭素数1〜4のアルコキシ基である。アルケニルオキシ基は、例えばイソプロペノキシ基である。ハロゲン原子は、好ましくは塩素である。
【0065】
シリカ成分は、ポリビニルアセタール100質量部に対し、0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、さらに好ましくは0.5質量部以上、場合によっては1質量部以上、必要に応じて3質量部以上、の範囲で防曇膜に含まれているとよく、60質量部以下、特に50質量部以下、好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下、場合によっては15質量部以下、必要に応じて10質量部以下、の範囲で防曇膜に含まれているとよい。
【0066】
加水分解性シリコン化合物は、上述の式(III)により示される化合物(SiY
4)を含むことが好ましい。
【0067】
式(III)により示される化合物は、加水分解及びその後の重縮合により、SiO
2により示されるシリカ成分を供給する。このシリカ成分は、実際には、防曇膜中において、シリコン原子が酸素原子を介して互いに結合したネットワーク構造を形成する。
【0068】
式(III)により示される化合物は、好ましくはテトラアルコキシシランである。テトラアルコキシシランについては第一の実施形態で述べたとおりである。
【0069】
加水分解性シリコン化合物は、式(III)により示される化合物と共に式(IV)により示される化合物を含むことが好ましい。
L
mSiY
4-m (IV)
ここで、Lは、水素原子の少なくとも一部が置換されていてもよい鎖状又は環状の炭化水素基である。Y及びmは、上述のとおりである。
【0070】
Lは、水素原子の少なくとも一部が置換されていてもよい、炭素数が1〜30、より好ましくは3〜20の炭化水素基、例えば鎖状炭化水素基、特に直鎖炭化水素基であってもよい。鎖状炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基を例示できる。好ましい鎖状炭化水素基は、直鎖アルキル基である。Lは、水素原子の少なくとも一部が置換されていてもよい、炭素数が3〜20の環状炭化水素基、例えばシクロアルキル基又はフェニル基であってもよい。水素原子を置換する官能基としては、エポキシ基、アミノ基、(メタ)アクリロキシ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基を例示できる。水素原子は、塩素、フッ素等のハロゲン原子により置換されていてもよい。Lは、第一の実施形態で説明した撥水基Rであっても構わない。
【0071】
式(IV)により示される化合物は、加水分解及びその後の重縮合により、SiO
(4-m)/2により示されるシリカ成分を供給する。このシリカ成分は、式(III)により示される化合物から供給されるSiO
2と共に、防曇膜中において、シリコン原子が酸素原子を介して互いに結合したネットワーク構造を形成する。
【0072】
式(IV)により示される化合物は、典型的には、シランカップリング剤として知られている化合物であってもよい。シランカップリング剤は、互いに異なる反応性官能基を有するシリコン化合物であり、例えば、エポキシ基及び/又はアミノ基と加水分解可能な官能基とを有する。好ましいシランカップリング剤としては、グリシジルオキシアルキルトリアルコキシシラン及びアミノアルキルトリアルコキシシランを例示できる。これらのアルキルシランにおいて、シリコン原子に直接結合しているアルキル基の炭素数は1〜3であることが好ましい。シランカップリング剤は、ポリビニルアセタールとシリカ成分との親和性を向上させる。
【0073】
式(III)に示すシリコン化合物は、4つの加水分解可能な官能基を有するため、3つの加水分解可能な官能基を有する式(IV)に示すシリコン化合物よりも、強固なネットワーク構造の形成に適している。これを考慮し、式(IV)に示すシリコン化合物を用いる場合であっても、シリコン原子の数により比較した場合に、式(III)に示すシリコン化合物を相対的により多く配合することが望ましい。具体的には、式(III)に示す化合物に含まれるシリコン原子の数N
Si(III)と式(IV)に示す化合物に含まれるシリコン原子の数N
Si(IV)との合計N
Si(T)に対する、式(IV)に示す化合物に含まれるシリコン原子の数N
Si(IV)の比N
Si(IV)/N
Si(T)は、0.01〜0.4、さらには0.1〜0.35の範囲内にあることが好ましい。
【0074】
(シリコン以外の金属原子)
防曇膜は、シリコン以外の金属原子を含む。防曇膜には、この金属原子を含む架橋構造が導入されていることが好ましい。架橋構造は、防曇膜の耐摩耗性、耐擦傷性、耐水性の向上に寄与しうる。シリコン以外の金属原子は、例えば、ホウ素、チタン及びジルコニウムから選ばれる少なくとも1つ、特にチタン及びジルコニウムから選ばれる少なくとも1つである。
【0075】
架橋構造は、防曇膜を形成するための塗工液に架橋剤を添加することにより、防曇膜に導入できる。好ましい架橋剤は、有機ホウ素化合物、有機チタン化合物及び有機ジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも1つ、特に有機チタン化合物である。有機チタン化合物は、例えば、チタンアルコキシド、チタンキレート系化合物及びチタンアシレートから選ばれる少なくとも1つである。チタンアルコキシドは、例えば、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ−n−ブトキシド、チタンテトラオクトキシドである。チタンキレ−ト系化合物は、例えば、チタンアセチルアセトナート、チタンアセト酢酸エチル、チタンオクチレングリコール、チタントリエタノールアミン、チタンラクテートである。チタンラクテートは、アンモニウム塩(チタンラクテートアンモニウム)であってもよい。チタンアシレートは、例えばチタンステアレートである。好ましい有機チタン化合物は、チタンキレート系化合物、特にチタンラクテートである。
【0076】
従来の防曇膜では、防曇膜の強度、特に耐擦傷性の向上は、シリカ成分を膜に配合することにより実施されていた。加水分解性シリコン化合物に由来するシリカ成分は、堅固なネットワーク構造を形成することが知られている。このシリカ成分の導入は、防曇膜の耐擦傷性を向上させるが、一方では膜を硬化させ、その結果、吸水に伴うポリマー鎖の移動が制限される。このため、シリカ成分のみの配合によって膜の強度を向上させると、防曇性が大幅に低下する。シリカ成分と共に金属酸化物微粒子を添加しても、膜の防曇性と強度とを共に良好に保つことは難しい。これに対し、シリコン以外の金属原子を含む架橋構造の導入は、ポリマー鎖の移動の制限をもたらす膜の硬化を避けながら膜の強度を向上させることに適している。シリカ成分と架橋構造とを共に導入することにより、膜の強度と防曇性との両側面において優れた防曇膜を得ることが可能となる。
【0077】
架橋構造に含まれるシリコン以外の金属原子は、ポリビニルアセタール100質量部に対し、0.01質量部以上、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上の範囲で防曇膜に含まれているとよく、50質量部以下、好ましくは40質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下、場合によっては5質量部以下の範囲で防曇膜に含まれているとよい。
【0078】
(金属酸化物微粒子)
防曇膜は、金属酸化物微粒子をさらに含んでいてもよい。金属酸化物微粒子を構成する金属酸化物の種類、その作用、膜への供給方法、好ましい平均粒径及び適切な含有量については、第一の実施形態で述べたとおりである。
【0079】
(その他の任意成分、膜厚、及び成膜)
防曇膜が含みうるその他の任意成分、防曇膜の膜厚、防曇膜の成膜方法についても、第一の実施形態で述べたとおりである。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により制限を受けるものではない。まず、特性を評価した方法を説明する。
【0081】
(1)外観
防曇膜つき物品(防曇性物品)の透明性及びクラックの有無を目視で観察し、下記の基準で評価した。
○:良好
△:僅かに白濁が認められる。
×:膜中にムラ、白濁、クラック等が認められ、実用上問題がある。
【0082】
(2)膜厚
防曇性物品を、室温20℃、相対湿度50%の環境下に1時間放置した後、KLA Tencor社製の表面形状測定器α-Step500を用いて防曇膜の膜厚を測定した。
【0083】
(3)接触角
防曇性物品を、室温20℃、相対湿度50%の環境下に1時間放置した後、協和界面科学社製の接触角計(CA-A)を用いて約4μL(=4mg)の水滴を防曇膜の表面に滴下し、防曇膜の表面におけるその水滴の接触角を測定した。
【0084】
(4)防曇性
防曇性物品を、室温20℃、相対湿度30%の環境下に1時間放置した。一方で、恒温水槽に水温を40℃に保持した温水を収容し、その温水の上方に防曇性物品を防曇膜が水蒸気に晒されるように配置し、防曇膜に曇りが認められるまでの時間を測定した。なお、防曇膜を設けていないガラス板(ソーダライムガラス板)では、10秒以下で曇りが確認された。曇りが形成されるまでの時間を下記の基準で評価した。
◎:85秒超で曇りが確認された。
○:60秒超85秒以下で曇りが確認された。
△:30秒超60秒以下で曇りが確認された。
×:30秒以下で曇りが確認された。
【0085】
(5)繰り返し防曇性
防曇性物品を、0℃の低温恒温層内に20分間放置した後、室温20℃、相対湿度50%の環境下に取り出し、防曇膜の表面に現れた結露が消失するまで同環境下で放置した。このサイクルを10回繰り返した後、(4)と同様にして防曇性を評価した。
【0086】
(6)耐乾布拭き性
往復摩耗試験機(新東科学社製「HEIDON−18」)にネル布(300番)を取り付け、防曇性物品の防曇膜の表面上を0.25kg/cm
2の荷重を加えながらネル布を1000回往復させた後、膜表面の外観を目視で観察し、下記の基準で評価した。
◎:外観に変化なし
○:不明瞭な極浅い傷がわずかに確認できる。
△:明瞭な傷が目視で確認できる。
×:防曇膜の剥離が観察される。
【0087】
(7)耐湿布拭き性
往復摩耗試験機(新東科学社製「HEIDON−18」)にネル布(300番)を取り付け、このネル布に2cm
3の蒸留水を染み込ませた。防曇性物品の防曇膜の表面上を0.25kg/cm
2の荷重を加えながらネル布を1000回往復させた後、膜表面の外観を目視で観察し、下記の基準で評価した。
○:外観に大きな変化が見られない。
△:白濁、又は試験部分の1/3未満において防曇膜が剥離している。
×:試験部分の1/3以上で防曇膜が剥離している。
【0088】
(8)耐摩耗性
TABER INDUSTRIES社製テーバー摩耗試験機「5130」を用いて、250g荷重、500回転の条件で摩耗試験を実施し、試験前後における曇価の変化量ΔHz(%)を測定した。曇価はヘーズメーター(スガ試験機社製「HZ−1S」)を用いて測定した。耐摩耗性を下記の基準で評価した。
(実施例及び比較例のシリーズAにおける基準)
○:ΔHzが7%以下であった。
×:ΔHzが7%超及び膜の剥離の少なくとも一方が生じた。
(実施例、比較例及び参照例のシリーズBにおける基準)
◎:ΔHzが6%以下であった。
○:ΔHzが6%超10%以下であった。
×:ΔHzが10%超及び膜の剥離の少なくとも一方が生じた。
【0089】
<シリーズA:シリコン以外の金属原子の導入>
(実施例A1)
ポリビニルアセタール樹脂含有溶液(積水化学工業社製「エスレックKX−5」、固形分8質量%、アセタール化度9モル%、ベンズアルデヒドに由来するアセタール構造を含む)62.5質量%、テトラエトキシシラン(TEOS、信越化学工業社製「KBE−04」)1.04質量%、チタンラクテート(マツモトファインケミカル社製「オルガチックスTC−310」;Ti(OH)
2[OCH(CH
3)COOH]
2を44質量%含み、2−プロパノールと水とを混合溶媒とする溶液)1.21質量%、アルコール溶媒(日本アルコール工業製「ソルミックスAP−7」)17.79質量%、精製水17.44質量%、酸触媒として硝酸0.01質量%、レベリング剤(信越化学工業社製「KP−341」)0.01質量%をガラス製容器に入れ、室温(25℃)で3時間撹拌することにより、防曇膜形成用塗工液を調製した。
【0090】
次いで、洗浄したフロート板ガラス(ソーダライムシリケートガラス、厚さ3.1mm、サイズ100×100mm)上に、室温20℃、相対湿度30%の環境下で、塗工液をフローコート法により塗布した。同環境下で10分間乾燥させた後、120℃の(予備)加熱処理を実施した。その後、上述の雰囲気及び時間を適用して高温高湿処理を実施し、さらに、同じく上述の雰囲気及び時間を適用して追加の熱処理を実施して、防曇性物品を作製した。
【0091】
(実施例A2)
シリカ微粒子分散液(日産化学工業社製「スノーテックスOS」、固形分20質量%、平均粒径(一次粒径)10nm)3.75質量%をさらに添加し、アルコール溶媒の添加量を17.04質量%、精製水の添加量を14.44質量%としたことを除いては、実施例A1と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0092】
(実施例A3)
酸化ニオブ微粒子分散液(多木化学社製「バイラールNb−X10」、固形分10質量%)5.00質量%をさらに添加し、アルコール溶媒の添加量を16.94質量%、精製水の添加量を13.29質量%としたことを除いては、実施例A1と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0093】
(実施例A4)
酸化ジルコニウム微粒子分散液(多木化学社製「バイラールZr−C20」、固形分20質量%)2.50質量%をさらに添加し、アルコール溶媒の添加量を17.29質量%、精製水の添加量を15.44質量%としたことを除いては、実施例A1と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0094】
(実施例A5)
酸化スズ微粒子分散液(日産化学工業社製「セルナックスCX−S301H」、固形分30質量%)0.17質量%をさらに添加し、アルコール溶媒の添加量を17.73質量%、精製水の添加量を17.33質量%としたことを除いては、実施例A1と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0095】
(実施例A6)
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS、信越化学工業社製「KBM−403」)0.14質量%をさらに添加し、アルコール溶媒の添加量を16.90質量%、精製水の添加量を14.44質量%としたことを除いては、実施例A2と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0096】
(実施例A7)
ポリビニルアセタール樹脂含有溶液の添加量を50.0質量%とし、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS、信越化学工業社製「KBM−403」)0.35質量%とシリカ微粒子分散液7.50質量%とをさらに添加し、テトラエトキシシランの添加量を2.60質量%とし、チタンラクテートの添加量を1.20質量%とし、アルコール溶媒の添加量を20.01質量%とし、精製水の添加量を18.32質量%とし、硝酸0.01質量%に代えて酢酸0.01質量%を用いたことを除いては、実施例A1と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0097】
(実施例A8)
ポリビニルアセタール樹脂含有溶液の添加量を50.0質量%とし、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS、信越化学工業社製「KBM−403」)0.35質量%と3−トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物(信越化学工業社製「X−12−967C」)1.00質量%とシリカ微粒子分散液7.50質量%とをさらに添加し、テトラエトキシシランの添加量を2.60質量%とし、チタンラクテートの添加量を1.20質量%とし、アルコール溶媒の添加量を19.01質量%とし、精製水の添加量を18.32質量%とし、硝酸0.01質量%に代えて酢酸0.01質量%を用いたことを除いては、実施例A1と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0098】
(比較例A1)
テトラエトキシシランを未添加とし、チタンラクテートの添加量を3.62質量%、アルコール溶媒の添加量を16.78質量%、精製水の添加量を17.08質量%としたことを除いては、実施例A1と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0099】
(比較例A2)
チタンラクテートを未添加とし、アルコール溶媒の添加量を18.81質量%、精製水の添加量を17.63質量%としたことを除いては、実施例A1と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0100】
(比較例A3)
チタンラクテートを未添加とし、テトラエトキシシランの添加量を3.47質量%、アルコール溶媒の添加量を16.38質量%、精製水の添加量を17.63質量%としたことを除いては、実施例A1と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0101】
(比較例A4)
テトラエトキシシランを未添加とし、チタンラクテートの添加量を2.41質量%、アルコール溶媒の添加量を17.05質量%、精製水の添加量を14.27質量%としたことを除いては、実施例A2と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0102】
(比較例A5)
チタンラクテートを未添加とし、アルコール溶媒の添加量を18.06質量%、精製水の添加量を14.63質量%としたことを除いては、実施例A2と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0103】
(比較例A6)
ポリビニルアセタール樹脂含有溶液(積水化学工業社製「エスレックKX−5」、固形分8質量%、アセタール化度9モル%、ベンズアルデヒドに由来するアセタール構造を含む)43.75質量%、テトラエトキシシラン(TEOS、信越化学工業社製「KBE−04」)3.47質量%、シリカ微粒子分散液(日産化学工業社製「スノーテックスOS」、固形分20質量%、平均粒径(一次粒径)10μm)11.65質量%、アルコール溶媒(日本アルコール工業製「ソルミックスAP−7」)26.25質量%、精製水14.86質量%、酸触媒として硝酸0.01質量%、レベリング剤(信越化学工業社製「KP−341」)0.01質量%をガラス製容器に入れ、室温(25℃)で3時間撹拌することにより、防曇膜形成用塗工液を調製した。この塗工液を用い、実施例A1と同様にして防曇性物品を作製した。
【0104】
(比較例A7)
ポリビニルアセタール樹脂含有溶液(積水化学工業社製「エスレックKX−5」、固形分8質量%、アセタール化度9モル%、ベンズアルデヒドに由来するアセタール構造を含む)43.75質量%、テトラエトキシシラン(TEOS、信越化学工業社製「KBE−04」)5.65質量%、シリカ微粒子分散液(日産化学工業社製「スノーテックスOS」、固形分20質量%、平均粒径(一次粒径)10μm)11.65質量%、アルコール溶媒(日本アルコール工業製「ソルミックスAP−7」)24.07質量%、精製水14.86質量%、酸触媒として硝酸0.01質量%、レベリング剤(信越化学工業社製「KP−341」)0.01質量%をガラス製容器に入れ、室温(25℃)で3時間撹拌することにより、防曇膜形成用塗工液を調製した。この塗工液を用い、実施例A1と同様にして防曇膜を形成した。その後、防曇膜の表面に、10質量%に希釈した界面活性剤(日本油脂社製「ラピゾールA−30」、1,4−ビス(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム)含有水溶液を塗布し、120℃、10分間の加熱乾燥処理を実施し、防曇性物品を得た。
【0105】
以上の実施例及び比較例について、ポリビニルアセタール100質量部に対する塗工液の各成分の割合を表1に、防曇性物品の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
<シリーズB:撥水基の導入>
(実施例B1)
ポリビニルアセタール樹脂含有溶液(積水化学工業社製「エスレックKX−5」、固形分8質量%、アセタール化度9モル%、ベンズアルデヒドに由来するアセタール構造を含む)62.5質量%、メチルトリメトキシシラン(MTMS、信越化学工業社製「KBM−13」)1.02質量%、シリカ微粒子分散液(日産化学工業社製「スノーテックスOS」、分散媒を水として固形分20質量%、平均粒径(一次粒径)10nm)3.75質量%、テトラエトキシシラン(TEOS、信越化学工業社製「KBE−04」)1.04質量%、チタンラクテート(マツモトファインケミカル社製「オルガチックスTC−310」、Ti(OH)
2[OCH(CH
3)COOH]
2を44質量%含み、2−プロパノールと水とを混合溶媒とする溶液)1.21質量%、アルコール溶媒(日本アルコール工業製「ソルミックスAP−7」)16.02質量%、精製水14.44質量%、酸触媒として硝酸0.01質量%、レベリング剤(信越化学工業社製「KP−341」)0.01質量%をガラス製容器に入れ、室温(25℃)で3時間撹拌することにより、防曇膜形成用塗工液を調製した。
【0109】
次いで、洗浄したフロート板ガラス(ソーダライムシリケートガラス、厚さ3.1mm、サイズ100×100mm)上に、室温20℃、相対湿度30%の環境下で、塗工液をフローコート法により塗布した。同環境下で10分間乾燥させた後、120℃の(予備)加熱処理を実施した。その後、上述の雰囲気及び時間を適用して高温高湿処理を実施し、さらに、同じく上述の雰囲気及び時間を適用して追加の熱処理を実施した。
【0110】
(実施例B2)
メチルトリメトキシシラン1.02質量%に代えてジメチルジエトキシシラン(DMDES、信越化学工業社製「KBE−22」)0.2質量%を用い、アルコール溶媒の添加量を16.84質量%としたことを除いては、実施例B1と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0111】
(実施例B3)
メチルトリメトキシシラン1.02質量%に代えてn−ヘキシルトリメトキシシラン(HTMS、信越化学工業社製「KBM−3063」)0.15質量%を用い、アルコール溶媒の添加量を16.89質量%としたことを除いては、実施例B1と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0112】
(実施例B4)
メチルトリメトキシシラン1.02質量%に代えてn−デシルトリメトキシシラン(DTMS、信越化学工業社製「KBM−3103」)0.07質量%を用い、アルコール溶媒の添加量を16.97質量%としたことを除いては、実施例B1と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0113】
(実施例B5)
メチルトリメトキシシラン1.02質量%に代えてn−ドデシルトリメトキシシラン(DDTMS、東京化成工業社製)0.07質量%を用い、アルコール溶媒の添加量を16.97質量%としたことを除いては、実施例B1と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0114】
(実施例B6)
メチルトリメトキシシラン1.02質量%に代えてフルオロアルキルシラン(F8263、エボニック・デグサ・ジャパン社製「Dynasylan F8263」;炭素数30以下のフルオロアルキル基を含有)0.5質量%を用い、アルコール溶媒の添加量を16.54質量%としたことを除いては、実施例B1と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0115】
(実施例B7)
シリカ微粒子及びテトラエトキシシランを添加せず、アルコール溶媒の添加量を18.76質量%、精製水の添加量を17.44質量%としたことを除いては、実施例B4と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0116】
(実施例B8)
塗工液をバーコーターにより塗工したことを除いては、実施例B4と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0117】
(実施例B9)
メチルトリメトキシシラン1.02質量%に代えてメチルトリエトキシシラン(MTES、信越化学工業社製「KBE−13」)0.27質量%を用い、シリカ微粒子分散液を添加せず、テトラエトキシシランの添加量を0.69質量%とし、チタンラクテートを添加せず、アルコール溶媒の添加量を18.85質量%とし、精製水の添加量を17.63質量%とし、硝酸0.05質量%を用いたことを除いては、実施例B1と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0118】
(実施例B10)
メチルトリメトキシシラン1.02質量%に代えてメチルトリエトキシシラン(MTES、信越化学工業社製「KBE−13」)0.27質量%を用い、シリカ微粒子分散液を添加せず、テトラエトキシシランの添加量を0.69質量%とし、チタンラクテートを添加せず、アルコール溶媒の添加量を20.88質量%とし、精製水の添加量を15.63質量%とし、表面調整剤「BYK−307」[ビックケミー・ジャパン(株)製]0.01質量%を添加したことを除いては、実施例B1と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0119】
(実施例B11)
シリカ微粒子及びチタンラクテートを添加せず、メチルトリメトキシシラン1.02質量%に代えてn−ヘキシルトリメトキシシラン(HTMS、信越化学工業社製「KBM−3063」)0.37質量%を、硝酸0.01質量%に代えて塩酸0.01質量%をそれぞれ用い、アルコール溶媒の添加量を20.44質量%とし、精製水の添加量を15.63質量%としたことを除いては、実施例B1と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0120】
(比較例B1)
塗工液を塗布することなく、実施例B1で用いたフロート板ガラスをそのまま評価した。
【0121】
(参照例B1)
メチルトリメトキシシラン1.02質量%に代えてテトラエトキシシラン(TEOS、信越化学工業社製「KBE−04」)0.18質量%を用い、アルコール溶媒の添加量を16.86質量%としたことを除いては、実施例B1と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0122】
(参照例B2)
メチルトリメトキシシラン1.02質量%に代えて3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS、信越化学工業社製「KBM−403」)0.07質量%を用い、アルコール溶媒の添加量を16.97質量%としたことを除いては、実施例B1と同様にして、塗工液を調製し、防曇性物品を作製した。
【0123】
ここで、テトラエトキシシラン由来のシリカ成分の質量部とは、テトラエトキシシランをSiO
2に換算した質量部であり、GPTMS由来のシリカ成分の質量部とは、GPTMSをSiO
1.5に換算した質量部であり、撥水基含有化合物由来のシリカ成分の質量部とは、その撥水基含有加水分解性シリコン化合物を、加水分解性官能基の数に応じて、SiO
1.5又はSiOに換算した質量部である。
【0124】
以上の実施例、比較例及び参照例について、ポリビニルアセタール100質量部に対する塗工液の各成分の量等を表3に、防曇性物品の評価結果を表4にそれぞれ示す。
【0125】
【表3】
【0126】
【表4】
【0127】
なお、参照例B1、B2についての耐湿布拭き性の評価結果は、共に「○」であった。