【実施例】
【0014】
図1は、施肥マップ作成システムの構成を示す。この施肥マップ作成システム10は、トラクタ20に搭載された生育センサ21及びGPS装置22と、コンピュータであるパーソナルコンピュータ(パソコン)30と、表示装置(表示部)40とを備えている。
【0015】
生育センサ21は、
図2に示すように、レーザ測距装置23を備えており、このレーザ測距装置23によって草Qまでの距離Lを求め、この距離Lから草Qの草丈H2を求める。この草丈H2を生育状態として求めるものである。
【0016】
草丈H2は、下記の式により求める。
【0017】
H2=H1−L×sinθ
ただし、Lはレーザ測距装置23が求めた草Qまでの距離、H1は地上Sからレーザ測距装置23までの高さである。
【0018】
この実施例では、生育センサ21にはレーザ測距装置23を用いているが、これに限らず、例えば、特開2012-247235号公報に記載の植物用センサを使用してもよい。
【0019】
トラクタ20には、散布量が調整できる肥料散布装置27と、後述する施肥マップを表示する表示部24とが搭載され、表示部24に表示される施肥マップに基づいて肥料を散布することができるようになっている。25は肥料散布装置27の制御や送受信部26の制御等を行う制御部である。生育センサ21が検出した生育状態である生育データやGPS装置22が検出した位置データは送受信部26により無線でパソコン30へ送信されるようになっている。
【0020】
パソコン30は、送受信部26から送信されてくる生育データ及び位置データを受信する送受信部36と、送受信部36が受信した生育データ及び位置データを記憶(蓄積)していく生育情報蓄積部(記憶部)31と、
図3に示す圃場Eの地形や位置を記憶した地形メモリ32と、仕分け処理部33と、演算処理部34と、マップ作成部(マップ作成手段)35等とを有している。
【0021】
生育情報蓄積部31や地形メモリ32は、説明の便宜上パソコン30内に設けているが、実際にはインターネットを介して行うクラウドのデータベース等を利用する。
【0022】
仕分け処理部33は、地形メモリ32に記憶された地形データを
図6に示すように複数のエリアに分割するとともに、生育情報蓄積部31に蓄積された位置データ及び生育情報をその位置データに対応したエリアに且つ過去別に仕分けて、それぞれのエリア別に生育データをメモリ33Mに記憶させていく。すなわち、生育データをエリア別に且つ過去別にメモリ33Mに記憶させていく。
【0023】
演算処理部34は、エリア内の生育データの平均値をエリア毎に過去別に求めていき、各エリアの平均値を過去別に標準化していく。つまり、過去別に各エリアの生育状態を求めていく。さらに、この過去別に標準化した値の平均値(生育状態)をエリア毎に求めていくとともに、このエリア毎に求めた平均値である生育状態に基づいて各エリアに基肥する肥料の量、すなわち、基肥する施肥量をエリアごとに求めていく。
【0024】
そして、演算処理部34は、各エリアの生育状態を求める生育状態演算部(生育状態演算手段)と、生育状態に基づいて各エリアの施肥量を求める施肥量演算部(施肥量演算手段)としての機能を有している。
【0025】
マップ作成部35は、演算処理部34が求めた各エリアの施肥量を示す分布図である施肥マップを作成する。
【0026】
この作成された施肥マップは、表示装置40に表示されるとともに、送受信部36によって施肥マップのデータがトラクタ20へ送信されるようになっている。
【0027】
そして、生育情報蓄積部31と仕分け処理部33と演算処理部34とマップ作成部35とで施肥マップを作成する施肥マップ作成装置が構成される。
【0028】
トラクタ20の図示しないメモリには施肥マップのデータが記憶され、トラクタ20の表示部24に施肥マップが表示される。この表示部24には、GPS装置が検出した位置データに基づいて、施肥マップ上にトラクタ20の位置が表示されるようになっている。
[動 作]
次に、上記のように構成される施肥マップ作成システム10の動作を
図4に示すフロー図に基づいて説明する。なお、フロー図は、施肥マップを作成するマップ作成プログラムの処理動作を示すものである。
【0029】
ステップ1では、圃場E内をトラクタ20で移動させながら生育センサ21及びGPS装置22によって検出された生育データ及び位置データを収集していく。この収集したデータはパソコン30の生育情報蓄積部31へ取り込む。なお、生育センサ21が検出した生育状態と、この検出時のGPS装置22が検出する位置データとを1組のデータとして生育情報蓄積部31が記憶していく。
【0030】
ここで、
図2に示すように、トラクタ20の位置と、生育センサ21が検出する草丈H2の草Qの位置とにズレがあるが、レーザ測距装置23の取付位置からトラクタ20の位置D(GPS装置22の水平方向に対する取付位置)までの距離J2が既知であり、トラクタ20の位置から草Qの位置までの距離J1を正確に求めることができる。ここでは、説明の便宜上、草Qの位置をトラクタ20の位置Dとして説明する。
【0031】
収集するデータは、例えば、圃場Eで1回目(例えば春)に栽培される作物U1の生育データ及び位置データと、圃場Eで2回目(例えば秋)に栽培される作物U2の生育データ及び位置データと、圃場Eで3回目(例えば翌年の春)に栽培される作物U3の生育データ及び位置データである。なお、作物U1〜U3はそれぞれ互いに異なる作物である。
【0032】
ステップ2では、生育情報蓄積部31に記憶された位置データを基にして、圃場Eの各エリア別に生育データを仕分けていく。例えば、
図5の表1に示すように、1回目に栽培された作物U1では、エリアAn1,An2,An3…内で検出した生育データの全てを各エリアAn1,An2,An3…別の欄に記録していく。同様にして、2回目及び3回目で栽培された作物U2,U3についてもエリアAn1,An2,An3…内で検出した生育データの全てを各エリアAn1,An2,An3…別の欄に記録していく。すなわち、過去別に且つエリア別に生育データを仕分けて記録していく。
【0033】
エリアは、例えば
図6に示すように、圃場Eに緯度方向と経度方向に沿って複数のグリッド線Gx,Gyを等間隔に引いて、グリッド線Gx,Gyで囲まれる複数のエリアA1,A2,A3…An1,An2,An3,An4…を設定したものである。各エリアA1,A2,A3…An1,An2,An3,An4…の縦及び横の大きさは例えば5mに設定してある。
【0034】
ステップ3では、各エリアの生育の平均値を過去別にそれぞれ求めていく。
図5の表1にその一例を示す。
図5の表1では、1回目〜3回目の作物U1〜U3のエリアAn1,An2,An3,An4…の平均値を求めたものを示す。1回目のエリアAn1,An2,An3,An4…の平均値は100cm,73cm,107cm,90cm…、2回目のエリアAn1,An2,An3,An4の平均値は50cm,42cm,32cm,45cm、3回目のエリアAn1,An2,An3,An4の平均値は70cm,60cm,72cm,65cmである。
【0035】
ステップ4では、各エリアの平均値を過去別に標準化する。例えば、1回目の各エリアの平均値から圃場Eの全体の平均値を求める。すなわち、各エリアの平均値の総計を圃場Eのエリア数で割った値を求める。この1回目の圃場Eの全体の平均値を例えば100cmであるとすると、エリアAn1の標準化した値は100/100=1であり、エリアAn2,An3,An4の標準化した値は73/100=0.73、107/100=1.07、90/100=0.9となり、
図7の表2に示すようになる。
【0036】
同様にして、2回目及び3回目の標準化した値を求めていく。ここでは、例えば、2回目の圃場Eの全体の平均値が50cm、3回目の圃場Eの全体の平均値が70cmとした場合、
図7の表2に示すように、標準化した2回目の各エリアAn1,An2,An3,An4の値は「1」,「0.84」,「0.64」,「0.9」となり、3回目の標準化した各エリアAn1,An2,An3,An4の値は「1」,「0.86」,「1.03」,「0.93」となる。
【0037】
すなわち、ステップ4では過去別に且つエリア別に生育状態を求めるものである。
【0038】
ステップ5では、1回目と2回目、2回目と3回目または1回目と3回目との間で、標準化した値の差が極端に大きいエリアがあるか否かが判断される。すなわち、その差が所定値以上大きいエリアがあるか否かが判断される。ここでは、
図7の表2では、エリアAn3において1回目と2回目の差が0.43であり、例えば所定値が「0.4」であれば、イエスと判断されてステップ6へ進む。
【0039】
ステップ6では、標準化した値の差が所定値以上大きいエリア、例えばエリアAn3などを抽出する。季節や年ごとによって変動が大きいエリアAn3は、例えば、石ころだらけであったり、水はけが極端に悪い土地だったりする。このエリアの抽出は演算処理部34が行うものであり、演算処理部34が過去別に比較した生育状態の差が極端に大きいエリアを抽出する第1抽出手段としての機能を有している。
【0040】
ステップ7では、ステップ6で抽出したエリアは、土地の状態が非常に悪いので、この状態に応じた特別な施肥計画を作成する。この施肥計画は農家の人が行う。また、土地の状態が非常に悪い領域を示すために、抽出したエリアを例えば赤色で表示する施肥計画マップを作成する。
【0041】
ステップ8では、変動が少ない各エリアの3回分の平均値を求める。
図5に示す表1においては、変動の大きいエリアAn3を除いたエリアAn1,An2,An4別の3回分の平均値を求める。ステップ5でノーと判断されてステップ8へ進んだ場合は、全てのエリア別の平均値を求めることになる。
【0042】
図7の表2の平均値には、各エリアAn1,An2,An4の3回分の平均値を示す。
【0043】
ステップ9では、ステップ8で求めた平均値から生育の極端に悪いエリアがあるか否かが判断される。すなわち、3回とも生育が極端に悪いエリアがあるか否かが判断され、イエスであればステップ10へ進む。ここでは、標準化した値の平均値が「1」より例えば「0.15」以上小さい値のエリアを生育が極端に悪いエリアであると判断する。つまり、
図7に示す表2では、エリアAn2が生育の極端に悪いエリアであると判断されることになる。
【0044】
ステップ10では、生育が極端に悪いエリアが抽出される。このエリアは、例えば水はけや日当たりが悪く、このため生育が極端に悪くなったりするエリアである。このエリアの抽出は演算処理部34が行うものであり、演算処理部34が生育状態が極端に悪いエリアを抽出する第2抽出手段としての機能を有している。
【0045】
ステップ11では、ステップ10で抽出したエリアは土地の状態が非常に悪いので、その土地に応じた特別な施肥計画を作成する。この施肥計画は農家の人が行う。また、土地の状態が非常に悪い領域を示すために、抽出したエリアを例えば黄色で表示する施肥計画マップを作成する。
【0046】
ステップ12では、通常の生育状態が期待できるエリアにおいて、つまり、
図7に示す表2のエリアAn1,An4と、これと同様な生育状態のエリアにおいて、各エリア別に各エリアの生育に応じた施肥マップである施肥計画マップを作成する。
【0047】
施肥計画マップは、施肥量を示す予め設定された指標と、標準化した生育データの平均値とを比較して作成する。例えば、0.89〜0.94、0.95〜1.05、1.06〜1.11等の指標値が予め設けられており、それぞれの指標値0.89〜0.94、0.95〜1.05、1.06〜1.11、1.12〜1.17に対応して施肥量V1,V2,V3,V4が設定されている。ただし、V1>V2>V3>V4である。
【0048】
エリアAn1の標準化した生育データの平均値は、
図7の表2に示すように、「1」であるので、指標値0.95〜1.05の範囲内に入り、エリアAn1の施肥量はV2に設定される。同様に、エリアAn4の標準化した生育データの平均値は、「0.91」であるので、指標値0.89〜0.94の範囲内に入り、施肥量はV1に設定される。
【0049】
そして、これら施肥量V1〜V4に応じた色で、例えば、施肥量V1は濃い緑色、施肥量V2は緑色、施肥量V3は薄い緑色、施肥量V4はさらに薄い緑色(極薄緑色)で表示した施肥マップである施肥計画マップが作成される。
【0050】
ステップ13では、ステップ7,11,12で作成した施肥計画マップを合成して施肥マップである基肥施肥計画マップを作成する。例えば、
図6に示すように基肥施肥計画マップMPを作成する。
【0051】
上述のように、基肥施肥計画マップMPは、生育の変動が大きいエリアを赤で表示し、生育の悪いエリアを黄色で表示し、通常の生育のエリアを緑色に表示する。そして、通常の生育範囲内であって、少し生育の悪いエリアは濃い緑色で表示し、生育のよいエリアは薄い緑色で表示し、さらに生育のよいエリアは極薄い緑色で表示するものであり、色の濃い緑色ほど施肥量が多いことを示す。なお、白い部分は圃場E以外のエリアを示し、紫色のエリアK1は例えば試験区域を示すもので、予め設定されている区域である。
【0052】
ステップ14では、
図6に示す基肥施肥計画マップMPを表示部40に表示するとともに図示しないメモリに記憶させる。
【0053】
基肥施肥計画マップMPを表示装置40に表示させることにより、種を播く前であっても圃場Eのどのエリアが生育がよいか悪いかが分かるとともに、年や季節によって生育の変動が極端に大きくなるエリアや生育が極端に悪いエリアが分かることになる。また、エリア毎に施肥する肥料の量が分かることになる。
【0054】
メモリに記憶された基肥施肥計画マップMPのデータを送受信部36によってトラクタ20へ送信する。この送信は、無線等で行うが信号線を接続して行ってもよい。
【0055】
トラクタ20の送受信部26が基肥施肥計画マップMPのデータを受信すると、制御部25は基肥施肥計画マップMPのデータをメモリ(図示せず)に記憶させる。
【0056】
このメモリに記憶された基肥施肥計画マップMPのデータにより、表示部24に基肥施肥計画マップMPが表示される。さらに、GPS装置22で得られる位置情報に基づいてトラクタ20の位置が表示部24の基肥施肥計画マップMP上に表示される。作業者は、その表示部24に表示されている基肥施肥計画マップMPのトラクタ20の位置を見ることにより、その位置におけるエリアに種を播く前に基肥する肥料の量が分かるので、必要なだけそのエリアに施肥していくことができる。
【0057】
すなわち、種を播く前の圃場Eであっても、圃場Eのどの場所(エリア)が生育がよいか悪いかが正確に分かり、年や季節によって生育の変動が極端に大きくなる場所や生育が極端に悪い場所が明確に分かることになる。しかも、圃場Eの各場所の適正な施肥量が分かるので、肥料を余分に施肥してしまうことを防止することができ、この結果、肥料を節約することができることになる。
【0058】
また、基肥施肥計画マップMPに基づいて制御部25が肥料散布装置27を制御するようにすれば、圃場Eの各エリアに適正な量の肥料を自動的に施肥することができ、その作業効率を飛躍的に向上させることができる。
【0059】
上記実施例では、生育センサ21が検出した生育状態と、この検出時のGPS装置22が検出する位置データとを1組のデータとして生育情報蓄積部31が記憶していくが、このとき、位置データに基づいてエリアごとに分けて生育状態を記憶させてもよい。この場合、仕分け処理部33は不要となる。
【0060】
また、上記実施例では、トラクタ20には生育センサ21とGPS装置22を搭載しているが、生育情報蓄積部31と仕分け処理部33と演算処理部34とマップ作成部35とから構成される施肥マップ作成装置を搭載してもよい。
【0061】
この発明は、上記実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加などは許容される。