(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
薄層クロマトグラフは、薄層状に形成させた担体にサンプルをアプライし、有機溶媒や水が毛管現象により移動する際、化合物ごとに移動速度が異なることを利用した分析方法である。このような分析方法は、簡便であること、分析に使用するサンプル量が微量でよいこと等の利点があり、合成化学分野において一般的に使用されている分析方法である。しかし、主に分析において使用されることはあっても、分取のために使用されることはほとんどない。
【0003】
このような薄層クロマトグラフによって分離された成分を分取することは容易ではない。これは、分離された成分がシリカゲル等の担体に存在しており、担体から目的成分のみを得ることが困難であるからである。従来は、担体の目的成分が吸着した部分のみをこそげ落として、これを溶媒と混合し濾過することで目的成分を分取すること等も行われていた。
【0004】
しかしながら、このような方法は手間がかかるし、目的物が極微量分取されるのみであることから、労力に見合っただけの成果が得られないことも多い。よって、薄層クロマトグラフの結果を参照しつつ、分取用のクロマトグラフを実施して、分取・分析を行うことが一般的な方法であった。
【0005】
その一方では、薄層クロマトグラフによって分離された成分を簡便に分取したり分析したりできれば、合成や分取における労力が低減され、研究開発の合理化にも寄与するものである。更に、分取したスポットを直接他の分析手段(例えば、質量分析等)に供することができれば、薄層クロマトグラフによってスポットに対応した物質を知ることができるという利点もある。
【0006】
特許文献1においては、薄層クロマトグラフ上のスポットを取得するための装置が開示されている。しかし、このような方法によって分取を行う場合、薄層クロマトグラフ上の担体上に溶媒が拡散してしまい、目的とするスポットの成分のみを選択的に収率よく取得することは困難である。よって、上述した目的を充分に達成することはできない。
【0007】
特許文献2においては、薄層クロマトグラフ板上に熱風を当てて測定試料を脱離させて、これをイオン化することで質量分析に供することが開示されている。しかし、これは揮発性の高い化合物に対してしか適用できない手法であり、化合物によっては加熱によって分解するおそれもある。更に、分取を行うことができないため、質量分析以外の分析方法に供することができない、という問題もある。
【0008】
特許文献3においては、薄層クロマトグラフ基板からPVDF膜へ転写を行い、転写されたPVDF膜を利用して二次元範囲をイメージング質量分析装置により測定し、多数の測定点毎のマススペクトルを取得する方法が開示されている。しかし、このような方法は簡便な分析方法と言えるものではなく、通常の合成実験における反応結果の確認等の方法において使用できるようなものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記に鑑み、簡便な方法によってスポット中の成分の分解を生じるおそれもなく、目的とするスポットを効率よく取得することができるような薄層クロマトグラフ上のスポット成分の分取方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
薄層クロマトグラフ板からスポットを分取するための分取方法であって、
分取するスポット周縁部の担体を除去して溝を形成する工程1、
工程1で形成された溝にパッキング部を先端に有するノズルを挿入する工程2
ノズルより溶媒を流出する工程3及び
スポット成分が溶解した溶媒を吸引する工程4
を有することを特徴とする薄層クロマトグラフ分取方法である。
上記工程1の溝の形成は、溝形成手段を担体上に押し当てて回転させることによって行うものであることが好ましい。
【0012】
本発明は、上述した薄層クロマトグラフ分取方法を実施するための分取装置であって、
スポット周縁部の担体を除去して溝を形成するための溝形成手段(F−1)、及び、
先端に前記溝形成手段によって形成された溝に挿入可能なパッキング部を有するノズル(F−2)
を備えることを特徴とする薄層クロマトグラフ用分取装置でもある。
【0013】
本発明は、上述した薄層クロマトグラフ分取方法を実施するための分取装置であって、
薄層クロマトグラフ板載置手段(A)、
スポット検出光照射手段(B)、
薄層クロマトグラフ板撮影手段(C)、
前記薄層クロマトグラフ板撮影手段(C)によって撮影された画像を表示するための画像表示手段(D)、
画像表示手段(D)に表示された画像中で作業者がスポット位置を指定するスポット指定手段(E)、及び、
前記スポット指定手段(E)によって作業者が指定した位置のスポットを採取するための採取手段であって、スポット周縁部の担体を除去して溝を形成するための溝形成手段(F−1)、及び、
先端に前記溝形成手段によって形成された溝に挿入可能なパッキング部を有するノズル(F−2)
を備える採取手段(F)
を備えることを特徴とする薄層クロマトグラフ用分取装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の薄層クロマトグラフ分取方法によって、簡便な操作で容易にかつ短時間で薄層クロマトグラフによって分離されたスポットを取得することができる。そして、分離されたスポットの再混合を生じることもなく、抽出溶媒がまわりに浸透、拡散することがなく収率よくスポットを取得することができる。更に、加熱等の工程を経ることもないことから、スポット成分の変質を生じることもない。更に、スポット成分を溶液の状態で取得できることから、任意の化学分析に供することができる。
更に、本発明の薄層クロマトグラフ用分取装置を利用すると、このような薄層クロマトグラフ分取方法を簡便に効率よく行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を詳細に説明する。
第1の本発明は薄層クロマトグラフ用分取方法である。すなわち、薄層クロマトグラフによって分離されたスポットを構成する成分を取得するための分取方法である。
【0017】
本発明の分取方法を
図1において、模式図として示した。以下、この
図1に基づいて説明する。
図1の(A)は、サンプルの展開を終えた薄層クロマトグラフ板を示す。上図は薄層クロマトグラフ板を上から見た模式図であり、下図はスポット位置の断面図を示す模式図である。薄層クロマトグラフ板は支持板2上に担体1が形成された構成を有しており、薄層クロマトグラフを行った後のスポット3は、分離された化合物をそのスポット中に含むものである。本発明において取得するサンプルは、担体1中に存在する。
【0018】
本発明の工程1は、
図1(B)に示したように、サンプル取得しようとするスポットの周縁部の担体を除去して溝4を形成する。担体は、シリカなどの微細な粉体によって形成された層であるから、ブレード、針などによって表面を削ることによって容易に除去することができる。このような担体の除去は、支持板2が表面に露出するまで行うことが好ましい。除去を行っても、削除部において担体1が残存していると、その残存部を通じて溶媒が外に漏れてしまい、本発明の目的を十分に達成することができないおそれがあるためである。
【0019】
本発明の工程2は、
図1(C)に示したように、工程2によって形成された溝4にパッキング部6を先端に有するノズル5を挿入する工程である。
ここで使用するノズルは、中空部を液体が通過することができるチューブ形状を有するものであり、その先端に、パッキング部6を有するものである。パッキング部は、ゴム等弾性体等のように密着性が高い素材からなるものである。上記工程1によって形成された溝にパッキング部を挿入することによって、サンプルが含まれる担体のスポット部3と、それ以外の担体の部位とが遮断された状態となり、液体が相互に行き来することができなくなる。
【0020】
このような状態で工程3によってノズルから溶媒を流出させると、流出した溶媒はスポット部3にしか供与されず、担体のそれ以外の部位に拡散することがない。このため、標的スポット3以外の成分が混入することもないし、次いで行う工程4においても、効率よく液体を吸引することができ、収率よく目的とするサンプルを回収することができる。
【0021】
以下に、より具体的に各工程を説明する。
(工程1)
工程1は、分取するスポット周縁部の担体を除去して溝4を形成する工程である。このような工程を行う方法は特に限定されるものではなく、スポット形状をしたブレードを押し付ける方法、針や刃などの鋭利な削出材によって表面をなぞることによって担体を削る方法等を挙げることができる。
【0022】
上記溝の形成は、ブレードや針等の溝形成手段を担体上に押し当てて回転させることによって行うことが好ましい。このような方法で行うことで、均一な溝を安定して形成させることができるため、以下の工程においてトラブルを生じることなくサンプルの取得を行うことができる。
【0023】
形成させる溝の形状や大きさも特に限定されるものではなく、目的に応じて任意の大きさや形状とすることができる。ただし、以降で行う工程において、形成された溝のパッキング部を挿入することとなるから、大きさや形状を使用するノズルのパッキング部の形状と略同一のものとする必要がある。
【0024】
また、削り取られた担体1の粉体が生じるが、吸引等の方法によってこれを除去してから次の工程に進めてもよい。
【0025】
(工程2)
工程2は、上述した工程1によって形成された溝にパッキング部を先端に有するノズルを挿入する工程である。この工程2において、パッキング部を工程1によって形成された溝に挿入し密着させる。
【0026】
ここで使用するノズル5は、スポットを構成する化合物を溶出する際に溶媒を供給したり、サンプルが溶解した溶液を吸引したりするための経路としての機能を有するものである。このようなノズルとしては、公知の任意の素材のチューブとすることができ、その先端部にパッキング部を有することが必要である。
【0027】
パッキング部は、弾性を有することによって、上記工程1によって形成された溝及び基材層に隙間なく密着し、これによって液体がノズルの内部から外部へと流出することを防止できる素材からなることが好ましい。具体的には各種のゴム素材からなるものを使用することができる。なお、先端のみを弾性体とする場合のみではなく、ノズル全体がパッキング部として作用するような弾性素材からなるノズルを使用してもよい。
【0028】
更に、上記ノズル5は、溶媒の供与、吸引を行う経路としても機能するものであることから、これらの目的のためのポンプや吸引手段等と連結されていることが望ましい。このような溶媒の供与、吸引の手段としては特に限定されず、公知の任意のものを使用することができる。
【0029】
(工程3)
工程3は、工程2によってクロマトグラフ板状の溝に挿入したノズルより溶媒を流出する工程である。すなわち、担体のスポットを形成した部位に溶媒を供給する工程である。これによって、スポット位置のみに選択的に溶媒が供給され、不純物の混入を生じることなく、取得すべき物質のみが溶媒に溶解するようにすることができる。
【0030】
使用する溶媒は、取得しようとするサンプルを溶解できるものであれば特に限定されず、目的に応じて選択することができる。また、供与する溶媒量は1〜30μl程度の量で充分である。
【0031】
(工程4)
工程4は、最後に、上述した工程3によってサンプルが溶解した溶液を吸引することによって、目的とするサンプルを取得する工程である。これによって、薄層クロマトグラフによって分離されたサンプルを回収し、利用することができる。吸引する方法は特に限定されず、ポンプによって減圧することで吸引する方法等を挙げることができる。
【0032】
このようにして分離されたサンプルは、そのまま分析ユニットに供与するものであってもよい。すなわち、このようにして得られたサンプルを分析することで、化合物の構造が明らかになれば、微量のサンプルを用いた薄層クロマトグラフによって、存在する化合物が明らかとなり、さらにそれをスポット位置と関連付けることができる。すると、その後の分離作業において必要とされるサンプルの留出位置が明らかになることから、以後の作業を効率よく行うことができる。
【0033】
上記分析ユニットとしては特に限定されず、例えば、質量分析、NMR,示差屈折(RI)、蒸発型光散乱検出器(ELSD)、紫外線吸光分析、可視光吸光分析など、溶液状態で測定できる測定方法であれば限定されない。また、直接分析ユニットに導入するのではなく、一旦、単離したのち、必要な操作を加えて分析手段に供給するものであってもよい。
【0034】
第2の本発明は、上述した本発明の薄層クロマトグラフ用分取方法に使用するための分取装置である。
すなわち、上述したような薄層クロマトグラフ用分取方法をすべて手作業で行うことは困難である。このため、本発明者はこれらの作業を補助するための分取装置を提供するものである。以下、これについて
図2を参照しつつ、詳細に説明する。
【0035】
本発明の薄層クロマトグラフ用分取装置は、上述した薄層クロマトグラフ用分取方法における工程1を行うための溝形成手段(F−1)、工程2〜4を行うための先端部にパッキング部6を有するノズル(F−2)を備えた装置である。
【0036】
このような装置の一例の模式図を
図2に示した。なお、本発明の薄層クロマトグラフ用分取装置は、
図2に示した構成を有するものに限定されるものではない。
図2は、それぞれ上下に移動する溝形成手段(F−1)とノズル(F−2)とを備え、これらの溝形成手段(F−1)とノズル(F−2)をサンプル載置台上に設置した薄層クロマトグラフ板11上に降下させて、所定の作業を行うものである。
【0037】
図2に示した態様は、溝形成手段(F−1)とノズル(F−2)とがそれぞれ別のユニットとして設けられ、各ステップの実施に際して、これらがそれぞれ上下することによって目的を達成するものであるが、単一のユニット中にこれらの両方を設け、溝形成手段(F−1)によって溝を形成した後、溝形成手段がユニット中に格納され、その後、ノズル(F−2)を表出させて、パッキング部6を溝4に密着させるものであってもよい。また、
図2は溝形成手段(F−1)とノズル(F−2)を上下させるものとして記載したが、薄層クロマトグラフ板11を上下させることによって同一の目的を達成してもよい。
【0038】
上記溝形成手段(F−1)は、ブレードや針として、これらを担体に押し付けて、担体をこそげ取ることができるものを使用することができる。その形状も、形成しようとする溝の形状と同一形状のものであってもよいし、小さなブレードや針である溝形成手段を担体上に押し当てて回転させることによって、溝を形成するものであってもよい。溝形成手段を担体上に押し当てて回転させる方法による溝形成は、失敗が少なく、ノズル(F−2)のパッキング部6が容易に挿入できるような均一性の高い溝を形成することができる点で好ましい。
【0039】
更に、上記ノズル(F−2)は、パッキング部6に加えて、溶媒供給手段8及びポンプ等の吸引手段9を有するものである。溶媒供給手段8は、溶媒タンクから所定量の溶媒を計測して、ノズル(F−2)に供給することができるものであれば特に限定されず、公知の任意のものを使用することができる。更に、溶媒吸引手段9は、微量のサンプルを効率よく吸引することができるような公知の任意の手段を使用することができる。
【0040】
また、本発明の薄層クロマトグラフ用分取装置は、溝形成手段5及びノズル7として複数のものを準備し、目的とするスポットのサイズに応じて、これらを交換して作業を行うものであってもよい。さらに、薄層クロマトグラフの2以上のスポットに対して、分取を行う場合、同一のノズル(F−2)を繰り返し使用すると、最初に分取を行ったサンプルが残存して、2つめの分取サンプル中に混入してしまうおそれがある。この場合、サンプルごとにノズル(F−2)を交換することで上述した分取を問題なく行うことができる。
【0041】
更に、上記ノズル(F−2)は、洗浄手段を備えたものであってもよい。すなわち、一度、ノズル(F−2)を使用した後、そのまま次の分取を行う場合、最初の分取を行った後に、ノズル(F−2)を洗浄すれば、続けて二度目以降の分取を行える点で好ましい。
【0042】
本発明の分取装置は、ノズル(F−2)に連結して分析ユニットを備えた装置であってもよい。これによって、分取されたサンプルが自動的に分析され、スポットを構成する化合物を同定することができる。これらを自動的に行えると、薄層クロマトグラフのスポット選択を行うのみで、自動的に当該化合物についての分析結果を得ることができる装置となる。更に分取によるサンプルの損失を生じることなく、分析を行うことができる。
【0043】
第3の本発明の分取装置は、上述した第2の本発明の要件に加え、薄層クロマトグラフ板のスポット位置を画像表示し、このような表示された画像に基づいてスポットを作業者が指定し、作業者が指定したスポットに対して、上述したようなスポット成分の取得を行うことができるような装置である。
このような分取装置とすることで、分取するサンプルの指定を画像上で行えば、その後の操作をほぼすべて自動で行うことができるため、極めて簡便に上述した本発明の目的を達成することができる。
【0044】
このような好適な態様は、より具体的には、
薄層クロマトグラフ板載置手段(A)、
スポット検出光照射手段(B)、
薄層クロマトグラフ板撮影手段(C)、
前記薄層クロマトグラフ板撮影手段(C)によって撮影された画像を表示するための画像表示手段(D)、及び、
画像表示手段(D)に表示された画像中で作業者がスポット位置を指定するスポット指定手段(E)、
スポット指定手段(E)によって作業者が指定した位置のスポットを採取するための採取手段(F)
を備えるものである。そして、この採取手段(F)として、上述した第2の本発明を採用するものである。
以下このような(A)〜(F)についてそれぞれ
図3〜6を参照しつつ詳述する。
【0045】
上記好適な態様における薄層クロマトグラフ板載置手段(A)は、薄層クロマトグラフ板を装置中に載置するための台である。本発明においては、薄層クロマトグラフを行った後の薄層板よりスポットを構成する成分を取得するものであることから、このような処理を行うために薄層クロマトグラフ板を装置内の所定の位置に載置することが必要となる。薄層クロマトグラフ板載置手段(A)は、このための載置手段である。本発明においては、特定位置に載置された薄層クロマトグラフ板に対して、以下に示す各要素によって、分取のための作業を行うものである。
【0046】
本発明の薄層クロマトグラフ用分取装置は、このように載置された薄層クロマトグラフ板に対し、スポット検出光照射手段(B)によって検出光を照射し、薄層クロマトグラフ板撮影手段(C)による薄層クロマトグラフ板の撮影を行うものである。
【0047】
上記スポット検出光照射手段(B)は、薄層クロマトグラフ板に対して、検出光を照射しスポットを可視化するための手段である。薄層クロマトグラフ板状のスポットは、無色であることが多いため、そのままの状態では視覚的に認識することができない。また、着色のスポットにおいても、以下で詳述する画像表示手段(D)上に鮮明に表示するには、検出光を照射する必要がある。このため、紫外線、可視光等の検出光を照射してスポットを可視化するためのものである。2種以上の検出光を照射する手段として、必要に応じてこれらを切り替えて使用するものであってもよい。
【0048】
上記薄層クロマトグラフ板撮影手段(C)は、スポット検出光照射手段(B)によってスポットが可視化された薄層クロマトグラフ板を画像化するための撮影手段である。上述したように、本発明においては、作業者が直接スポット検出光に曝されないことが好ましい。本発明においては、薄層クロマトグラフ板撮影手段(C)によって薄層クロマトグラフ板を撮影し、これを以下に示す画像表示手段(D)に表示することによって、観察するものである。これによって、作業者は照射された検出光に曝されることなく、薄層クロマトグラフ板を観察することができる。
【0049】
当該薄層クロマトグラフ板撮影手段(C)は、動画を撮影するためのビデオカメラ、静止画像を撮影するためのカメラ等とすることができるが、ビデオカメラとすることがより好ましい。ここで使用するビデオカメラ、カメラ類は特に限定されず、通常のものを使用することができる。
【0050】
上記画像表示手段(D)は、上記薄層クロマトグラフ板撮影手段(C)によって撮影された画像を表示するための手段である。上記薄層クロマトグラフ板撮影手段(C)によって撮影された動画、静止画像を上記画像表示手段(D)に表示し、表示された画面上で、取得するスポットを指定するものである。これによって、簡便な手法によってスポットを指定でき、作業者の負担を低減することができる。
上記画像表示手段(D)は、液晶ディスプレイ等の公知の任意の画像表示手段とすることができる。
【0051】
上記スポット指定手段(E)は、上記画像表示手段(D)に表示された薄層クロマトグラフ板上のスポットのうち、採取するべきスポットを指定するための手段である。すなわち、画像表示手段(D)のうち、どの部分に対して、採取手段(F)を作用させるかを指定するための手段である。
【0052】
上記スポット指定手段(E)は、特に限定されず、例えば、テンキー、マウス等の手段でカーソルを移動させて位置を指定する方法、画像表示手段(D)をタッチパネルとして、画像表示手段(D)上に触れて直接指定する方法等を挙げることができる。
【0053】
上記採取手段(F)は、上述したスポット指定手段(E)によって作業者が指定したスポット位置中のスポット成分を採取するための手段である。この採取手段(F)が、上述した溝形成手段(F−1)及びノズル(F−2)からなる第2の本発明を使用するものであり、これによって、効率よくスポットを構成する成分を取得することができる。更に、採取手段(F)は、薄層クロマトグラフ板載置手段(A)上に載置された薄層クロマトグラフ板上の任意の位置へと移動可能なものである。
【0054】
本発明の薄層クロマトグラフ用分取装置は、更に、分取されたスポットの成分を分析するための分析手段(G)を備えるものであってもよい。薄層クロマトグラフ板に基づいて定性分析を行うことができれば、その後で分取用のクロマトグラフを実施する際、事前にどのスポットが分取対象物として重要であるかが明らかになる。このため、目的とするスポットを高精度かつ効率的に得るためのクロマトグラフ条件(例えば、使用する溶媒種、グラジュエントの手法等)を、分取用クロマトグラフの実施前に予測することができる。このため、分取クロマトグラフ自体の効率化にも役立つ。
【0055】
更に、分析手段(G)による分析の実施によって、1スポット中に複数種の化合物が混在していることが明らかになる場合もある。薄層クロマトグラフを行った時点で、このような事実が明らかになれば、分取方法の再検討(例えば、クロマトグラフの条件の変更等)を行うことによって、以後の実験を更に効率的に行うことができる、という利点もある。
【0056】
上記分析手段(G)としては特に限定されず、例えば、質量分析、NMR,示差屈折(RI)、蒸発型光散乱検出器(ELSD)、紫外線吸光分析、可視光吸光分析等を挙げることができる。また、これらの複数種の分析手段を備えるものとして、分析対象化合物の種類に応じて好ましい分析手段を選択して使用するものであってもよい。なかでも、質量分析によって行うことが特に好ましい。
【0057】
以下、図面を参照しつつ、上述した態様による薄層クロマトグラフ用分取装置について更に詳細に説明する。
図3〜6は態様の一例を示すものであり、本発明は
図3〜6に記載したものに限定されない。
【0058】
図3は、本発明の薄層クロマトグラフ用分取装置のうち、スポット検出光照射手段(B)、薄層クロマトグラフ板撮影手段(C)、採取手段(F)の構成の一例を示した図である。
【0059】
図3において、薄層クロマトグラフ板1は、展開を終えたものであり、第1スポット3−1及び第2スポット3−2が存在している。このような薄層クロマト板1は、装置中の薄層クロマトグラフ板載置手段(A)(図示せず)上に載置されている。
【0060】
このような薄層クロマト板11にスポット検出光照射手段(B)によって光が照射され、スポット3−1、スポット3−2が視覚的に認識できる状態のものとなる。薄層クロマトグラフ板撮影手段(C)は、このような薄層クロマト板1を撮影する手段である。
【0061】
本発明の薄層クロマトグラフ用分取装置は、更に、採取手段(F)を備えるものである。これによって、指定したスポット2−1中のスポット成分を採取するものである。
図3においては採取手段(F)として、ノズル(F−2)を示した。もちろん、本発明においては、採取手段(F)として、上記溝形成手段(F−1)をも備えるものである。そして、この溝形成手段(F−1)及びノズル(F−2)は、それぞれ移動可能なものであり、指示に従って薄層クロマトグラフ板の指定した位置へと移動することができる。
【0062】
更に、
図5においては、画像表示手段(D)及びスポット指定手段(E)の態様の一例を示した。
画像表示手段(D)においては、薄層クロマトグラフ板撮影手段(C)によって撮影された薄層クロマトグラフ板1の画像が表示される。これによって作業者は、薄層クロマトグラフ板1上のスポット位置を目視で確認することができる。
【0063】
図5に示した態様において、スポット指定手段(E)は、ノズル(F−2)位置を表示するカーソル(E−2)及びカーソル位置移動手段(E−1)を備えている。
そして、カーソル位置移動手段(E−1)によってカーソル(E−2)のX軸−Y軸方向での位置を指定し、これによって、採取手段(F)によって取得すべき位置を決定する。そして、位置を決定すると、採取手段(F)が稼働して、上述した構成によって薄層クロマトグラフ板11上のスポットを構成するスポット成分が取得される。
【0064】
このような操作を薄層クロマトグラフ板11上の複数のスポットに対して繰り返して行うことで、複数のスポットについてのスポットを取得することもできる。
【0065】
図6には、本発明の薄層クロマトグラフ用分取装置の全体構成の一例を示した。作業者は、展開済みの薄層クロマトグラフ板1を、本発明の薄層クロマトグラフ用分取装置10中の所定の位置に設置する。そして、上述したような手法によって所定のスポット成分を取得し、得られたスポット成分を分析手段(G)及び/又は分取手段(H)に送る。