(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
〜概要〜
まず、本実施形態にかかる気体回収システムの構成の一例について説明する。次いで、本実施形態にかかる気体回収システムを、メタンガス回収に適用した場合の動作および制御について説明する。また、備考として本願発明に至った経緯について説明する。
【0019】
なお、マイクロバブル水には、気体が水に溶解した状態と微細気泡(マイクロバブル)状態とが混在する。また、微細気泡は自己圧潰により更に微細になり、溶解する。
【0020】
〜システム構成〜
図1は、本実施形態に係る気体回収システムの全体構成図である。
図2は、ボーリング孔下端における詳細構成図である。
【0021】
気体回収システム1はボーリング孔2に設けられる。ボーリング孔2は、地表より不透水層3を貫通し、不透水層3より下層にある帯水層4まで削孔されている。
【0022】
不透水層とは、地下水が浸透しない、あるいは浸透しにくい地層であり、シルトや粘土などからなる。帯水層とは、地下水によって飽和している地層である。
【0023】
ボーリング孔2の帯水層4に接する側面はストレーナとなっており、ボーリング孔2と帯水層4は連通している。
【0024】
気体回収システム1は、ポンプ6と、コンプレッサ7と、コンプレッサ8と、遮蔽栓11と、水供給ライン12と、気体供給ライン13と、マイクロバブル水発生部15と、排気ライン16と、排気回収タンク17と、弁18とを備えている。
【0025】
遮蔽栓11は、ボーリング孔2下部に設けられる。遮蔽栓11は、例えばゴムパッカーであり、パッカー拡張ライン31を介して地表から供給される空気により膨らみ、空気圧によりボーリング孔内を遮蔽する。ボーリング孔2が深い場合は、SUSワイヤ32により所定の深度まで降ろし、液圧で膨らませた遮蔽栓11を吊支持する。
【0026】
遮蔽栓11により、ボーリング孔2下部では帯水層4に連続する空間が形成される。
【0027】
水供給ライン12および気体供給ライン13は、地表より遮蔽栓11を貫通して、ボーリング孔2下部に至る。水供給ライン12は、ポンプ6を介して地表から水をボーリング孔2下部に供給する。気体供給ライン13は、コンプレッサ7を介して地表から気体をボーリング孔2下部に供給する。
【0028】
水供給ライン12および気体供給ライン13は末端においてマイクロバブル水発生部15と接続している。ポンプ6は水を圧縮して高圧とする。コンプレッサ7は気体を圧縮して高圧とする。
【0029】
マイクロバブル水発生部15は、水供給ライン12を介して供給される水と気体供給ライン13を介して供給される気体とを撹拌混合し、気体をマイクロバブルとし、マイクロバブル水をノズルより噴射する。
【0030】
なお、本実施形態では、地中深部の高圧を利用したほうがマイクロバブル水を発生させるのに有利なため、水供給ライン12および気体供給ライン13とを用いて、地中深部にマイクロバブル水を発生させているが、地表にマイクロバブル水発生プラントを設置し、マイクロバブル水を地表から供給してもよい。地表にてマイクロバブル水を発生させる場合は、耐圧タンクが必要になる。
【0031】
排気ライン16は、ボーリング孔2下部より遮蔽栓11を貫通して、地表に設置された排気回収タンク17に至る。
【0032】
なお、排気ライン16下端は、遮蔽栓11の直近下部かつ、水供給ライン12および気体供給ライン13下端(またはマイクロバブル水発生部15)より、上方になくてはならない。
【0033】
排気ライン16には、弁18が設けられている。また、排気ライン16の弁18より排気上流側(排気ライン16下側)にはコンプレッサ8が設けられている。弁18を閉じコンプレッサ8により排気ライン16を高圧とすることができる。
【0034】
気体回収システム1は、センサ21〜28を有する。
【0035】
圧力センサ21はポンプ6の出力側に設けられ、水供給圧P1を検知する。圧力センサ22はコンプレッサ7の出力側に設けられ、気体供給圧P1を検知する。
【0036】
圧力センサ23は排気ライン16の弁18より排気上流側に設けられ、排気圧P2を検知する。
【0037】
圧力センサ24は、遮蔽栓11から吊支持され、ボーリング孔2下部での間隙水圧Pwを検知する。
【0038】
流量センサ25はポンプ6の出力側に設けられ、水供給量を検知する。流量センサ26はコンプレッサ7の出力側に設けられ、気体供給量を検知する。流量センサ27は排気ライン16に設けられ、排気量を検知する。
【0039】
気体・水感知センサ28は、排気ライン16下端相当位置に設けられ、当該位置が気体状態か液体状態かを感知する。なお、センサ28は、後述する圧力制御に不具合がないかの確認に用いる。
【0040】
センサ21〜28の検出信号は、制御装置30に入力される。制御装置30は、これらの入力信号に基づき、ポンプ6、コンプレッサ7、コンプレッサ8、弁18を制御する(制御詳細後述)。
【0041】
〜メタン回収〜
気体回収システムをメタン回収に適用した場合の動作および制御について説明する。
【0042】
下水処理場からはバイオガスの一つである消化ガスが発生する。消化ガスは約60%のメタンガス(CH4)と約40%の二酸化炭素(CO2)とその他微量な成分とから構成される。
【0043】
ポンプ6により供給水を地下水圧Pwより若干高い圧力に調整する。コンプレッサ7により供給気体を地下水圧より若干高い圧力に調整する。供給水圧と供給気圧はほぼ同じP1となる。したがって、マイクロバブル水の供給圧はポンプ圧とほぼ同じになる。なお、供給気圧を若干大きくして、バブルサイズをやや大きくしてもよい(後述)。
【0044】
地表から、高圧の水と高圧の混合ガス(消化ガス)をボーリング孔2下部に供給し、マイクロバブル水発生部15によりマイクロバブル水を発生させ、マイクロバブル水を帯水層に注入する。
【0045】
二酸化炭素の水への溶解度は高く、メタンガスの水への溶解度は低い。マイクロバブル化することにより、二酸化炭素の溶解度が更に向上するのに対し、メタンの溶解度はあまり変わらないものと推測される(詳細後述)。その結果、二酸化炭素とメタンとの溶解度の差はより大きくなり、分離効果が向上する。
【0046】
帯水層は水平方向に広がっており、これに沿って注入水は拡散する。二酸化炭素は安定的に効率よく地中貯留される。
【0047】
なお、帯水層4が炭酸塩を含む岩石であれば、弱酸性の注入水は自然に中和される。
【0048】
一方、メタンガスは、ほとんど溶解せず気体に戻る。メタンガスは、排気ライン16を上昇して排気回収タンク17に回収される。排気回収タンク17内のメタンガスは、燃料として再利用される。
【0049】
これにより、消化ガスから高濃度のメタンガスを回収できる。
【0050】
〜圧力制御〜
メタンガスを回収する際に、地下水の圧力Pwが高いと、地下水が排気ライン16を上昇して、メタンガスを回収することが困難となる。
【0051】
そこで、本実施形態では、帯水層に注入されず回収されるメタンガスの圧力P2が、帯水層に注入される圧力P1より低く、帯水層の間隙水圧Pwより高くなるように制御する。
【0052】
図3は、制御装置30の機能ブロック図である。以下、圧力制御について説明する。
【0053】
まず、P1の制御について説明する。P1の圧力をPwより高くする(P1>Pw)ことにより、マイクロバブル水(二酸化炭素)が帯水層に注入される。ポンプ6およびコンプレッサ7の出力を増加すると注入圧力P1が増圧される。
【0054】
なお、P1の圧力をPwより高くする程、後述するP2制御の調整幅が広くなり、P2制御が容易になる。
【0055】
次に、P2の制御について説明する。排気(メタンガス)の圧力P2が間隙水圧Pwより低い場合(P2<Pw)は、P2の制御をおこなう。
【0056】
弁18を閉じると、排気ライン16内にメタンガスが蓄積され、これに伴い排気ライン16の圧力P2も増加する。その結果、排気の圧力P2は間隙水圧Pwより高くなる。
【0057】
弁18を閉じただけでは充分なP2増加が期待できない場合は、さらに、コンプレッサ8により増圧する。これに伴い排気の圧力P2も増加する。その結果、排気の圧力P2は間隙水圧Pwより高くなる。これにより、地下水の上昇を防止できる。
【0058】
このとき、コンプレッサ8の圧力を調整し、排気の圧力P2が、注入圧力P1より低い状態(P1>P2)を維持する。
【0059】
マイクロバブル水発生装置15位置と排気管16下端の水頭差を確保すると、P1>P2を維持しやすい。
【0060】
さらに、気体回収時の制御について説明する。気体回収時には弁18を開く。このとき、排気の圧力P2が間隙水圧Pwより高い状態(P2>Pw)を維持する様にモニタリングをおこなう。排気の圧力P2が間隙水圧Pwより低くなる場合(P2<Pw)は、再び弁18を閉じ必要に応じてコンプレッサ8を介してP2を制御する。
【0061】
気体・水感知センサ28からの信号は圧力制御に不具合がないかの確認に用いる。制御装置30は、気体・水感知センサ28からの水感知信号に基づいて圧力制御に不具合があると判断し、警報を出力する。
【0063】
ポンプ6およびコンプレッサ7の出力を制御することで、マイクロバブルのサイズを制御できる。たとえば、供給気圧を若干大きくすることで、バブルサイズをやや大きくできる。
【0064】
ところで、二酸化炭素とメタンとの溶解度に差があることにより、二酸化炭素のバブルは自己収縮作用があるのに対し、メタンのバブルでは自己収縮作用はないものと思われる。バブルサイズが小さくなると、バブル上昇速度は低下する。つまり、二酸化炭素のバブルは小さくなるに伴い、上昇速度も緩やかになる。上昇しているうちに溶解されやすくなる。これに対し、メタンのバブルはサイズを維持するため、溶解されずに上昇し、さらに、バブル同士の合体により状速度が増すものと思われる。
【0065】
たとえば、二酸化炭素の発生バブルサイズをやや大きめとし、上昇にともなってマイクロバブルサイズとなるように調整することで、溶解度の差は顕著になる。その結果、分離効果が向上する。
【0066】
〜他の混合ガスへの適用例〜
以上、気体回収システムを用いて、消化ガスにおけるメタンガスを分離して回収する場合について述べたが、適用場面はこれに限定されない。
【0067】
例えば、石炭火力発電所では、N2約82%、CO2約13%、酸素約5%、SOxやNOxが微量含まれる混合ガスが発生する。
【0068】
ここで、一般に、N2やO2は溶解度が低く、CO2の溶解度は高い。本システムを用いることにより、溶解度の差は拡大するものと推測される。
【0069】
混合ガスから予めSOxやNOxを除去して、気体回収システムに供給する。気体回収システムの分離効果により、CO2は地中に貯留されるとともに、N2やO2は回収され、大気に放出される。
【0070】
同様に、N2とCO2とを含む混合ガスを排出する鉄鋼炉やセメント製造工場においても、気体回収システムの適用が可能である。
【0071】
〜備考1〜
本願発明者は、二酸化炭素のマイクロバブル化効果の確認試験をおこなった。
図4は、確認試験の結果についての説明図である。
【0072】
図示上側は、マイクロバブル化していない二酸化炭素の溶解状況を示す。図示下側は、マイクロバブル化された二酸化炭素の溶解状況を示す。
【0073】
気体回収システム1の試験機を作成し、常温(約20℃)、深度2.5mの水圧の状況で、二酸化炭素を所定速度・所定時間、水に注入し、注気量と排気量を観測した。
【0074】
図示上側では、約2/3の二酸化炭素が排気されており、溶解された二酸化炭素は約1/3であった。これに対し、図示下側では、ほぼすべての二酸化炭素が溶解されており、マイクロバブル化により溶解度が飛躍的に向上することを確認した。
【0075】
〜備考2〜
従来から、下水処理場で発生するバイオガス(消化ガス)において、気体毎の溶解度の差を利用して二酸化炭素を分離してメタンガスを回収する方法が行われている。
【0076】
発明者は、消化ガスをマイクロバブル化することにより、分離効果が飛躍的に向上するのではと考えて、実証実験をおこなった。
【0077】
ただし、メタンガスは取り扱いが難しいため、比較的溶解度が近似する窒素ガス(N2)を用いた。
【0078】
図5は、理科年表記載のヘンリー定数一覧である。ヘンリ―定数は、溶解度の指標であり、値が小さい程、溶解度が高い。例えば、常温(約20℃)では、CO2が0.142×10
−4に対し、CH4は3.76×10
−4であり、N2は8.04×10
−4である。
【0079】
図6は、実証試験の結果についての説明図である。気体回収システム1の試験機を用いて、常温(約20℃)、深度2.5mの水圧の状況で、気体を所定速度・所定時間、水に注入し、注気量と排気量を観測した。
【0080】
図示上側は、マイクロバブル化された二酸化炭素の溶解状況であり、図示下側は、マイクロバブル化された窒素の溶解状況を示す。
【0081】
図示上側では、ほぼすべての二酸化炭素が溶解されており、マイクロバブル化により溶解度が飛躍的に向上する。これに対し、ほぼ全ての窒素が排気されており、窒素はマイクロバブル化しても溶解度が向上しないことを確認した。
【0082】
発明者は、上記溶解度の顕著な相違について、自己収縮作用の相違に着目し、実証実験をおこなった。
図7は、実証試験の結果についての説明図である。
【0083】
バブル発生位置と65cm上昇位置において、バブル径の分布を比較し、バブルの挙動を確認した。さらに、二酸化炭素バブルの挙動と窒素バブルとの挙動を比較した。横軸はバブル径であり、縦軸は発生頻度である。発生頻度は、拡大写真におけるバブルの個数を数えた。
【0084】
二酸化炭素バブル発生位置において、バブル径は約1mmを中心に0.5〜3mm程度で分布していた。発生位置より65cm上昇位置では、バブル径0.6mmと0.8mmに集中していた。これは、二酸化炭素バブルの自己収縮作用である、すなわち、大きなバブルが上昇するうちに、自己収縮作用により小さくなったとものと思われる。
【0085】
窒素バブル発生位置において、バブル径は約1mmを中心に0.5〜3mm程度で分布していた。発生位置より65cm上昇位置においても同様な頻度分布をしていた。これは、窒素バブルに自己収縮作用がなく、上昇に伴うバブルサイズ変化がないものと思われる。
【0086】
二酸化炭素バブルの挙動と窒素バブルとの挙動を比較すると、二酸化炭素バブルには自己収縮作用があるのに対し、窒素バブルには自己収縮作用がないものと推測できる。
【0087】
バブルサイズが小さくなると、バブル上昇速度は低下し、溶解されやすくなる。二酸化炭素バブルには自己収縮作用あり、上昇に伴い溶解されやすくなる。窒素バブルには自己収縮作用がなく、サイズと上昇速度を維持しながら上昇する。その結果、溶解度の相違は顕著になる。
【0088】
発明者は、二酸化炭素バブルと窒素バブルの顕著の溶解度の相違に関して、上記のように考察した。
【0089】
ところで、マイクロバブルのサイズについて、厳格な定義はないが、一般に径サイズ50μm以下になると、マイクロバブルに係る顕著な効果が得られるとされている。
【0090】
本願では、上記のようにバブル径が約1mmから約0.6mmに収縮する作用が観察されているため、上昇によりバブル径1mm未満となるようなものも広義のマイクロバブルと考える。
【0091】
〜備考3〜
発明者は、本願とは別に、二酸化炭素をマイクロバブル化して地中貯留する技術について実証実験を行った。その際、地中貯留されない余剰ガスの存在に着目し、その原因について検討した。
【0092】
マイクロバブル化する際に、気泡のサイズを均一に制御するのは困難であり、一定の割合で、比較的サイズの大きい気泡が発生する。サイズの大きな気泡は水中を上昇し気体に戻る。これにより余剰ガスが発生するのではないかと発明者は推測した。
【0093】
更に、バブルサイズとバブル上昇に注目し、この現象を他に利用できないか検討した。
【0094】
発明者は、上記備考1〜3および対応する実証実験結果に基づいて、本願発明を着想した。