特許第6823285号(P6823285)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6823285
(24)【登録日】2021年1月13日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】内燃機関の燃料噴射装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/22 20060101AFI20210121BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20210121BHJP
   F02D 41/32 20060101ALI20210121BHJP
   F02D 41/34 20060101ALI20210121BHJP
   F02M 63/00 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
   F02D41/22
   F02D45/00
   F02D41/32
   F02D41/34 100
   F02M63/00 C
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-17730(P2017-17730)
(22)【出願日】2017年2月2日
(65)【公開番号】特開2018-123789(P2018-123789A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2020年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174366
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 史郎
(72)【発明者】
【氏名】植松 亨介
(72)【発明者】
【氏名】古田 賢寛
(72)【発明者】
【氏名】松永 英雄
(72)【発明者】
【氏名】粟田 純平
【審査官】 沼生 泰伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−070151(JP,A)
【文献】 特開2016−037923(JP,A)
【文献】 特開2016−205157(JP,A)
【文献】 特開2016−065480(JP,A)
【文献】 特開2001−173507(JP,A)
【文献】 特開2015−124742(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0269791(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/22
F02D 41/32
F02D 41/34
F02D 45/00
F02M 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクに貯留した燃料を加圧する高圧燃料供給装置と、
前記高圧燃料供給装置により加圧された燃料を供給されて内燃機関の燃焼室に噴射する筒内燃料噴射弁と、
前記高圧燃料供給装置から前記筒内燃料噴射弁に供給された燃料の圧力を検出する圧力検出器と、
前記内燃機関が始動した際の前記圧力検出器による圧力検出値に基づいて当該圧力検出器の故障判定をする故障判定部と、
を備えた内燃機関の燃料噴射装置であって、
前記故障判定部は、前記筒内燃料噴射弁に供給された燃料の圧力を上昇させる燃圧上昇制御を実行して前記圧力検出値が第1の所定値以上変化したか否かによって前記圧力検出器の故障判定をする第1の故障判定と、前記筒内燃料噴射弁に供給された燃料の圧力を低下させる燃圧下降制御を実行して前記圧力検出値が第2の所定値以上変化したか否かによって前記圧力検出器の故障判定をする第2の故障判定と、を前記内燃機関が始動した際の前記圧力検出値に基づいて選択して実行し、
前記第1の所定値と前記第2の所定値とは異なる値であることを特徴とする内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項2】
前記故障判定部は、前記燃圧上昇制御または前記燃圧下降制御を開始してから所定期間経過するまでの前記圧力検出値の変化量に基づいて前記圧力検出器の故障判定をし、
前記所定期間は、前記第1の故障判定と前記第2の故障判定とで異なる値であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項3】
前記圧力検出器により検出した圧力検出値に基づいて前記高圧燃料供給装置を作動制御して、前記圧力検出値を所定の目標燃圧にする燃圧制御部を備え、
前記燃圧上昇制御は、前記目標燃圧を前記圧力検出値より第3の所定値高い値に設定することで、前記燃料の圧力を上昇させ、前記第3の所定値は前記第1の所定値より高いことを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項4】
前記故障判定部は、前記内燃機関が始動した際の前記圧力検出値が、前記高圧燃料供給装置から供給される燃料の圧力の上限値から前記第3の所定値を減算した値より高い場合には、燃圧下降制御を選択することを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項5】
前記第3の所定値は、前記目標燃圧が前記上限値を超えないように前記圧力検出値が高くなるに伴って小さく設定されることを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項6】
前記第1の所定値は、前記内燃機関が始動した際の圧力検出値に基づいて設定されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項7】
前記燃圧下降制御は、前記高圧燃料供給装置からの燃料の供給を抑制した上で前記筒内燃料噴射弁により燃料を噴射することで、前記燃料の圧力を低下させることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の内燃機関の燃料噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の筒内燃料噴射弁に燃料を供給する高圧燃料供給装置の故障診断技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃焼室内に燃料を噴射する筒内燃料噴射弁を備えた内燃機関が知られている。筒内燃料噴射弁には、燃料タンクから高圧燃料供給装置によって高圧化した燃料が供給されることで、高圧となる燃焼室内に燃料を噴射可能としている。高圧燃料供給装置は、例えば内燃機関によって駆動する高圧燃料ポンプ(プランジャポンプ)と流量制御弁(スピル弁)を備えており、高圧燃料ポンプからの吐出圧、すなわち筒内燃料噴射弁に供給する燃料の圧力(デリバリ燃圧)を燃圧センサによって検出し、当該デリバリ燃圧が目標燃圧になるように、流量制御弁を駆動制御する。
【0003】
更に、特許文献1では、内燃機関の始動時において、高圧燃料ポンプを作動させて吐出圧を上昇させ、燃圧センサの検出値の上昇度合に基づいて、燃圧センサ、高圧燃料ポンプ、流量制御弁のいずれかが異常であると判定する故障診断装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4355346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のような高圧燃料供給装置においては、例えば流量制御弁等の故障時において吐出圧が過剰に上昇しないようにリリーフ弁を備えていることが多い。したがって、例えば内燃機関の停止後すぐに再始動した場合のように、デリバリ燃圧が高圧を維持している場合では、故障診断をするために吐出圧を上昇させるよう目標燃圧を設定することができずに、機関始動時に故障診断が不能となる可能性がある。
【0006】
また、高圧燃料供給装置に用いられるリリーフ弁は、デリバリ燃圧が過剰に上昇した非常時にのみ開弁するものであるため、許容作動回数を抑えたものが使用される場合が多い。したがって、故障診断をする度に目標燃圧をリリーフ弁のリリーフ圧より上昇させることは、リリーフ弁の耐久寿命の観点から好ましいものではない。
本発明は、上述した課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、機関始動時において、筒内燃料噴射弁に供給する燃料の圧力を適切な範囲内に維持しながら故障診断の機会を増加させることが可能な内燃機関の燃料噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するべく、本発明の内燃機関の燃料噴射装置は、燃料タンクに貯留した燃料を加圧する高圧燃料供給装置と、前記高圧燃料供給装置により加圧された燃料を供給されて内燃機関の燃焼室に噴射する筒内燃料噴射弁と、前記高圧燃料供給装置から前記筒内燃料噴射弁に供給された燃料の圧力を検出する圧力検出器と、前記内燃機関が始動した際の前記圧力検出器による圧力検出値に基づいて当該圧力検出器の故障判定をする故障判定部と、を備えた内燃機関の燃料噴射装置であって、前記故障判定部は、前記筒内燃料噴射弁に供給された燃料の圧力を上昇させる燃圧上昇制御を実行して前記圧力検出値が第1の所定値以上変化したか否かによって前記圧力検出器の故障判定をする第1の故障判定と、前記筒内燃料噴射弁に供給された燃料の圧力を低下させる燃圧下降制御を実行して前記圧力検出値が第2の所定値以上変化したか否かによって前記圧力検出器の故障判定をする第2の故障判定と、を前記内燃機関が始動した際の前記圧力検出値に基づいて選択して実行し、前記第1の所定値と前記第2の所定値とは異なる値であることを特徴とする。
【0008】
また、好ましくは、前記故障判定部は、前記燃圧上昇制御または前記燃圧下降制御を開始してから所定期間経過するまでの前記圧力検出値の変化量に基づいて前記圧力検出器の故障判定をし、前記所定期間は、前記第1の故障判定と前記第2の故障判定とで異なる値であるとよい。
また、好ましくは、前記圧力検出器により検出した圧力検出値に基づいて前記高圧燃料供給装置を作動制御して、前記圧力検出値を所定の目標燃圧にする燃圧制御部を備え、
前記燃圧上昇制御は、前記目標燃圧を前記圧力検出値より第3の所定値高い値に設定することで、前記燃料の圧力を上昇させ、前記第3の所定値は前記第1の所定値より高いとよい。
【0009】
また、好ましくは、前記故障判定部は、前記内燃機関が始動した際の前記圧力検出値が、前記高圧燃料供給装置から供給される燃料の圧力の上限値から前記第3の所定値を減算した値より高い場合には、燃圧下降制御を選択するとよい。
また、好ましくは、前記第3の所定値は、前記目標燃圧が前記上限値を超えないように前記圧力検出値が高くなるに伴って小さく設定されるとよい。
【0010】
また、好ましくは、前記第1の所定値は、前記内燃機関が始動した際の圧力検出値に基づいて設定されるとよい。
また、好ましくは、前記燃圧下降制御は、前記高圧燃料供給装置からの燃料の供給を抑制した上で前記筒内燃料噴射弁により燃料を噴射することで、前記燃料の圧力を低下させるとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の内燃機関の燃料噴射装置によれば、燃圧上昇制御を実行して圧力検出値が第1の所定値以上変化したか否かによって圧力検出器の故障判定をする第1の故障判定と、燃圧下降制御を実行して圧力検出値が第2の所定値以上変化したか否かによって圧力検出器の故障判定をする第2の故障判定と、を内燃機関が始動した際の圧力検出値に基づいて選択して実行するので、圧力検出器の故障判定の際に燃料の圧力が許容範囲内を維持しつつ故障判定が可能となる。更に、第1の故障判定において故障判定するための圧力検出値の変化量の閾値である第1の所定値と、第2の故障判定において故障判定するための圧力検出値の変化量の閾値である第2の所定値とが異なる値であるので、第1の故障判定及び第2の故障判定で夫々燃料の圧力の変化量を適切に設定することができ、故障判定の際に燃料の圧力を適切な範囲内に維持しながら故障診断の機会を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態の内燃機関の燃料噴射装置の概略構成図である。
図2】本実施形態のエンジン始動時におけるデリバリ燃圧、各種モード、各種判定の推移を示すタイムチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態の内燃機関の燃料噴射装置の概略構成図である。
本発明の一実施形態に係る燃料噴射装置を備えたエンジン(内燃機関)は、例えば自動車の走行駆動用エンジンであり、4気筒のガソリンエンジンである。エンジンには、吸気通路に燃料を噴射する吸気通路燃料噴射弁10(10a〜10d)と、燃焼室内に燃料を噴射する筒内燃料噴射弁11(11a〜11d)と、が各気筒に1つずつ備えられている。
【0014】
吸気通路燃料噴射弁10は、内燃機関の吸気ポートに噴射口が配置されている。図1に示すように、吸気通路燃料噴射弁10は、燃料タンク12からフィードポンプ13によって燃料が供給され、吸気ポート内に低圧の燃料を噴射する。フィードポンプ13の吐出圧は、レギュレータ14によって調圧される。なお、この吸気通路燃料噴射弁10による燃料噴射を吸気通路燃料噴射(MPI)という。
【0015】
筒内燃料噴射弁11は、エンジンの燃焼室に噴射口が配置されている。筒内燃料噴射弁11は、高圧燃料供給装置20から供給された高圧の燃料を燃焼室内に噴射する。高圧燃料供給装置20は、フィードポンプ13により燃料タンク12から供給された低圧の燃料を加圧して筒内燃料噴射弁11に供給する。なお、この筒内燃料噴射弁11による燃料噴射を筒内燃料噴射(DI)という。
【0016】
フィードポンプ13と吸気通路燃料噴射弁10との間の燃料供給路にはオリフィス21a、21bが設けられ、高圧燃料供給装置20と筒内燃料噴射弁11との間の燃料供給路にはオリフィス22が設けられており、夫々燃料の流量を調整する。
また、高圧燃料供給装置20から各筒内燃料噴射弁11a〜11dへの燃料供給路であるデリバリパイプ23には、高圧燃料供給装置20からの燃料の吐出圧であるデリバリ燃圧Pd(圧力検出値)を検出する燃圧センサ24(圧力検出器)が設けられている。
【0017】
高圧燃料供給装置20は、フィルタ30、パルセーションダンパ室31、スピル弁32、プランジャポンプ33、吐出弁34、リリーフ弁35、を備えて構成されている。
プランジャポンプ33は、筒状のシリンダ36内をプランジャ37が往復動可能に設けられている。プランジャ37は、図示しないエンジンのドライブシャフトに設けられたカムによって移動される。ドライブシャフトは、例えばエンジンの排気カムシャフトに連結しており、よって、エンジンの駆動によりプランジャ37がシリンダ36内を往復動し、シリンダ36内の加圧室38の容積を増減させる。
【0018】
高圧燃料供給装置20には、フィードポンプ13から加圧室38に燃料を供給する供給路39と、加圧室38から燃料を吐出する吐出路40が設けられている。
供給路39には、上流側から順番に、フィルタ30、パルセーションダンパ室31、スピル弁32が配置されている。
フィルタ30は、フィードポンプ13により燃料タンク12から供給された燃料を濾過する機能を有する。パルセーションダンパ室31は、供給路39の燃料の圧力変動を抑制する機能を有する。
【0019】
スピル弁32は、スプリング41により開弁するように付勢されるとともに、ソレノイド42に通電させることで閉弁するように構成されている。ソレノイド42は、コントロールユニット50(燃圧制御部)からスピル弁駆動信号として電力を供給されることで、スピル弁32を閉作動させる。
吐出路40には、吐出弁34が配置されている。吐出弁34は、スプリングによって閉弁するように付勢されており、前後の差圧が所定値以上、即ち加圧室38内の圧力が筒内燃料噴射弁11への設定供給圧力以上に上昇した場合に開弁するように設定されている。
【0020】
また、リリーフ弁35は吐出弁34と並列に配置されている。リリーフ弁35は、吐出弁34の下流側の圧力がリリーフ圧Pr以上で開弁するように設定されている。
高圧燃料供給装置20は、プランジャ37の下方への移動時、即ち加圧室38の容積の拡大時には、スピル弁32が開弁し、供給路39から燃料が加圧室38内に供給される。プランジャ37の上方への移動時、即ち加圧室38の容積の縮小時には、ソレノイド42にスピル弁駆動信号を一時的に供給してスピル弁32を閉作動させることで、その後のプランジャ37の上方への移動時にスピル弁32の閉弁状態が維持されて、加圧室38内の燃料が加圧される。
【0021】
したがって、高圧燃料供給装置20では、プランジャ37の下死点から上方への移動開始時毎にスピル弁32を閉作動させるスピル弁駆動信号をソレノイド42に入力することで、プランジャ37の上下動に応じてスピル弁32が開閉作動を繰り返し、燃料を繰り返して加圧し、高圧の燃料を吐出することが可能となっている。
なお、本実施形態の高圧燃料供給装置20では、シリンダ36内におけるプランジャ37に対して加圧室38とは反対側の副室に、パルセーションダンパ室31から燃料を供給して貯留しておくように構成されている。
【0022】
コントロールユニット50は、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)及び中央演算処理装置(CPU)等を含んで構成されている。コントロールユニット50は、アクセル操作やエンジン回転速度等に基づいて、吸気通路燃料噴射弁10及び筒内燃料噴射弁11を制御して、燃料噴射量の制御を行なうとともに、図示しない点火プラグ等の作動制御を行なって、エンジンの運転制御を行なう。
【0023】
また、コントロールユニット50は、エンジンの回転速度及び負荷に基づいて、燃料噴射モードを判定する。燃料噴射モードは、燃料噴射モードマップを用いて判定される。例えば、低負荷低回転時にはMPIモード、中、高負荷運転時にはDI+MPIモードに判定される。なお、MPIモードは、筒内燃料噴射弁11による燃料噴射を行なわず、吸気通路燃料噴射弁10のみで燃料噴射を行なうモードであり、DI+MPIモードでは、筒内燃料噴射弁11及び吸気通路燃料噴射弁10の両方から燃料を噴射する。
【0024】
また、コントロールユニット50は、燃圧センサ24からデリバリ燃圧Pdを入力し、エンジンの運転時にデリバリ燃圧Pdが所定の目標燃圧Pdtになるように、高圧燃料供給装置20をフィードバック制御する機能を有している。目標燃圧Pdtは、エンジン運転時に燃料噴射モード、即ちエンジンの回転速度及び負荷に基づいて設定される基本目標燃圧Pdtaに設定される。なお、この高圧燃料供給装置20をフィードバック制御するコントロールユニット50の機能が本発明の燃圧制御部に該当する。また、コントロールユニット50は、デリバリ燃圧Pdが目標燃圧Pdtより高い場合には、筒内燃料噴射弁11から燃料を噴射してデリバリ燃圧Pdを目標燃圧Pdtに低減させる機能も有している。
【0025】
更に、本実施形態のコントロールユニット50は、高圧燃料供給装置20の故障診断、詳しくは燃圧センサ24の固着を判定する故障判定部51を備えている。以下に、図2を用いて、エンジン始動時における故障判定部51による燃圧センサ24の故障診断について説明する。
図2は、故障判定部51により、エンジン始動時において高圧燃料供給装置20の故障診断を実施した際の、デリバリ燃圧、各種モード、各種判定の推移の一例を示すタイムチャートである。
【0026】
エンジンが停止したエンストモードが成立している状態(図2中のaまで)から、例えばエンジン始動操作により始動モードが成立して、エンジンを始動させる(図2中のa→b)。
エンジンが始動完了し、燃圧センサ固着診断共通実施条件が成立したときに、コントロールユニット50は、燃圧センサ24からデリバリ燃圧Pdを入力し、当該デリバリ燃圧Pdに基づいて、燃圧上昇側判定(第1の故障判定)及び燃圧下降側判定(第2の故障判定)のいずれかを選択する(図2中のb)。燃圧センサ固着診断共通実施条件は、例えば車両電源ONであること、エンストモードまたは始動モードでないこと、エンジン始動から燃圧センサ24の正常または故障判定が済んでいないこと、燃圧センサ24が天絡、地絡、断線故障ではないこと等の条件である。燃圧センサ24が、天絡、地絡、断線故障ではないか否かは、燃圧センサ24の出力が所定値以上または0でないことによって判定できる。
【0027】
デリバリ燃圧Pdが最大燃圧値Pdmax−第3の所定値α以下の場合には燃圧上昇側判定を選択し、デリバリ燃圧Pdが最大燃圧値Pdmax−第3の所定値αより高い場合には、燃圧下降側判定を選択する。最大燃圧値Pdmaxは、通常のエンジン運転時に設定される目標燃圧Pdtである基本目標燃圧Pdtaより高く、かつリリーフ弁35のリリーフ圧Prより低い値であり、本発明の上限値に該当する。第3の所定値αは、後述する第1の所定値(燃圧上昇側判定値)γより大きい値に設定する。
【0028】
燃圧上昇側判定は、図2の燃圧上昇側判定のグラフにおける短い破線で示すように、目標燃圧Pdtを現状のデリバリ燃圧Pdに第3の所定値αを加算した値(Pd+α)にする燃圧上昇制御を行なうとともに、燃圧上昇側判定カウンタを初期値Xu(例えば30回点火)から減少するように計測する(図2中の燃圧上昇側判定におけるb)。なお、燃圧上昇側判定カウンタ及び後述する燃圧下降側判定カウンタは、点火回数を計測するカウンタであるが、点火回数の代わりに時間を計測するものでもよい。図2の(A)正常時に示すように、燃圧上昇側判定カウンタが0に到達する前に、デリバリ燃圧Pdが燃圧上昇側判定開始後、第1の所定値(燃圧上昇側正常判定値)γ以上変化した場合には、燃圧センサ固着正常判定が成立し、燃圧センサ24が正常であると判定する(図2中のc)。なお、この第1の所定値γは、デリバリ燃圧を上昇させる上記の燃圧上昇制御を行い燃圧センサ24の検出値(デリバリ燃圧Pd)の変化に基づいて正常か否かを判別するのに必要な値に設定すればよい。
【0029】
図2の(B)故障時に示すように、燃圧上昇側判定カウンタが0に到達しても、デリバリ燃圧Pdが燃圧上昇側判定開始後、第1の所定値(燃圧上昇側正常判定値)γ以上変化しない場合には、燃圧センサ固着故障判定が成立し、燃圧センサ24が固着していると判定する(図2中のd)。
一方、燃圧下降側判定では、図2の燃圧下降側判定のグラフにおける破線で示すように、目標燃圧Pdtは基本目標燃圧Pdtaと同一とする。デリバリ燃圧Pdが最大燃圧値Pdmax−αより高いと判定して所定時間ta経過した後に燃料噴射モードをMPIモードからMPI+DIモードに切り変える(図2中e)。ここで基本目標燃圧Pdtaは、MPI+DIモードを行うためにMPIモードよりも高く設定されるが、最大燃圧値Pdmax−αよりも低い値である。したがって、MPI+DIモードの実行により、筒内燃料噴射弁11から燃料を噴射する燃圧下降制御を行ない、デリバリ燃圧Pdが低下する。燃圧下降制御中、デリバリ燃圧Pdが、目標燃圧Pdt+第4の所定値βより大きい場合に燃圧下降側判定を行い、燃圧下降側判定カウンタを初期値Xd(例えば100回点火)から減少するように計測する。なお、燃圧上昇側判定カウンタの初期値Xu、燃圧下降側判定カウンタの初期値Xdは、本発明の所定の所定期間に該当する。
【0030】
図2(C)正常時に示すように、燃圧下降側判定カウンタが0に到達する前に、デリバリ燃圧Pdが第2の所定値(燃圧下降側正常判定値)δ以上下降した場合には、燃圧センサ固着正常判定が成立し、燃圧センサ24が正常であると判定する(図2中f)。
なお、第2の所定値δは、燃圧下降制御を行い燃圧センサ24の検出値(デリバリ燃圧Pd)の変化に基づいて正常か否かを判別するのに必要な値に設定すればよい。第4の所定値βは燃圧下降側判定実施条件として第2の所定値δより大きい値に設定される。これにより、デリバリ燃圧Pdが目標燃圧Pdt+第4の所定値βより大きい場合に燃圧下降制御を実行すれば、確実に第2の所定値δ以上変化して燃圧下降側判定が可能となる。
【0031】
図2の(D)故障時に示すように、燃圧下降側判定カウンタが0に到達しても、デリバリ燃圧Pdが第2の所定値δ以上下降しない場合には、燃圧センサ固着故障判定が成立し、燃圧センサ24が固着していると判定する(図2中g)。
なお、第1の所定値(燃圧上昇側判定値)γを第3の所定値αより小さく設定すること、及び第2の所定値(燃圧下降側判定値)δを第4の所定値βより小さく設定することは、いずれも燃圧のフィードバック制御において目標燃圧Pdt付近に設定されている不感帯を避けて燃圧上昇側判定及び燃圧下降側判定を行うためである。
【0032】
以上のように、本実施形態では、エンジン始動後にデリバリ燃圧を変化させる制御を行ない、燃圧センサ24の検出値であるデリバリ燃圧Pdの変化に基づいて、燃圧センサ24が故障しているか否かの故障診断を行う。特に、本実施形態では、エンジン始動後のデリバリ燃圧Pdに基づいて燃圧上昇側判定と燃圧下昇側判定を選択し、目標燃圧Pdtを現状のデリバリ燃圧Pdより第3の所定値α上昇させる燃圧上昇制御を行なうか、または目標燃圧PdtをMPI+DIモードにおける基本目標燃圧Pdta、即ち現状より低い値に抑えた上で筒内燃料噴射弁11から燃料噴射をする燃圧下降制御を行なうことで、デリバリ燃圧を低下させて燃圧センサ24の検出値(デリバリ燃圧Pd)の変化を監視する。
【0033】
このように、エンジン始動直後のモニタ開始時におけるデリバリ燃圧Pdに基づいて、燃圧上昇側判定及び燃圧下昇側判定のいずれかを選択し、目標燃圧Pdtを互いに異なる値に設定するので、いずれの判定においても目標燃圧Pdtを適切な値に設定することができる。詳しくは、デリバリ燃圧Pdが最大燃圧値Pdmax−α以下の場合には、目標燃圧Pdtをデリバリ燃圧Pd+αとして燃圧上昇側判定を行なっても、デリバリ燃圧Pdが最大燃圧値Pdmaxを超えることを防止できる。一方、デリバリ燃圧Pdが最大燃圧値Pdmax−αを超えている場合には、燃圧上昇側判定を行わず、目標燃圧Pdtを基本目標燃圧Pdtaとし筒内燃料噴射を行って燃圧下降側判定を実行することで、デリバリ燃圧Pdが最大燃圧値Pdmaxを超えないようにすることができる。
【0034】
これにより、燃圧センサ24の故障診断においてデリバリ燃圧Pdがリリーフ弁35のリリーフ圧Prを超えることを防止することができ、リリーフ弁35の耐久寿命を長くすることができる。
また、デリバリ燃圧Pdが最大燃圧値Pdmax−α以下では、燃圧上昇側判定が行われるので、エンジン始動直後に燃圧上昇側判定を極力実施させることができる。これにより、例えば燃圧センサ24が固着していて、実際のデリバリ燃圧Pdが低いにもかかわらず高い値を出力している場合に燃圧上昇側判定を行なうことで、燃圧下降側判定の機会を減少させ、燃圧下降側判定による燃圧低下によってエンジン停止してしまう虞を回避することができる。
【0035】
以上のように、エンジン始動直後に、燃圧上昇側判定と燃圧下降側判定とを選択して行うことによって、エンジン始動時での故障診断機会を増加させ、始動時を除くエンジン運転中における故障診断を抑制し、エンジン出力への影響を抑制することができる。
また、燃圧上昇側判定においては開始時のデリバリ燃圧Pdから第1の所定値(燃圧上昇側正常判定値)γ増加したか否かによって故障判定し、燃圧下降側判定においては開始時のデリバリ燃圧Pdから第2の所定値(燃圧下降側正常判定値)δ低下したか否かによって故障判定をしており、デリバリ燃圧Pdの変化量の判定値である第1の所定値γと第2の所定値δとが異なるように設定するとよい。これにより、燃圧上昇側判定及び燃圧下降側判定の夫々で正確かつ迅速に判定が行われるように目標燃圧Pdtを適切な値に設定することができ、デリバリ燃圧Pdを適切な範囲内に維持しながら故障診断の機会をより増加させることができる。
【0036】
なお、上記実施形態では、燃圧上昇側判定における目標燃圧Pdtの加算値である第3の所定値αを一定の値としているが、燃圧上昇制御開始時におけるデリバリ燃圧Pdに基づいて変化させてもよい。例えば、低燃圧領域では、最大燃圧値Pdmaxまで余裕があるので、第3の所定値αを大きく設定するとよい。このように、第3の所定値αを大きく設定することで、デリバリ燃圧Pdを目標燃圧Pdtに制御する際のフィードバック補正量が大きくなり、デリバリ燃圧Pdの立ち上がりが大きくなるので、燃圧上昇側判定カウンタの初期値Xuを短く設定して早期に燃圧上昇側判定を完了させることができる。一方、高燃圧領域であって最大燃圧値Pdmaxまで余裕が少ない場合には、第3の所定値αを小さく設定するとよい。これにより、デリバリ燃圧Pdの立ち上がりが小さくなり燃圧上昇側判定カウンタの初期値Xuを長く設定しなければならず判定時間が長くなるが、急激なデリバリ燃圧Pdの上昇を抑えて、デリバリ燃圧Pdが最大燃圧値Pdmaxを超え難くしてリリーフ弁35等の保護を図ることができる。
【0037】
また、上記実施形態では、例えばエンジン始動操作によりエンジン始動した際に故障判定部51による燃圧センサ24の故障診断を行うが、エンジン始動操作時だけでなく、エンジン自動停止始動装置によるエンジン再始動時、ハイブリッド車において走行モードをEVモードからシリーズモードまたはパラレルモードに移行した際でのエンジン始動時等に実行してよい。
【0038】
本願発明は、筒内燃料噴射弁に高圧の燃料を供給する高圧燃料供給装置を備え、筒内燃料噴射弁に供給する燃料の圧力を検出して高圧燃料供給装置を制御する内燃機関において、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 エンジン
11 筒内燃料噴射弁
20 高圧燃料供給装置
24 燃圧センサ(圧力検出器)
50 コントロールユニット(燃圧制御部)
51 故障判定部
図1
図2