【実施例1】
【0021】
以下、本発明の実施例1について
図1〜
図6に基づいて説明する。
車両用制御装置1は、運転者の筋活動に応じてアクセルペダル3の反力値を制御することにより、運転者に対して操作主体になる筋に拘らず操作リニアリティを付与可能に構成されている。
図1に示すように、制御装置1は、ECU(Electronic Control Unit)2(制御手段)を備えている。ECU2は、CPU、ROM、RAM等からなる電子制御ユニットであり、ROMに記憶されているアプリケーションプログラムをRAMにロードし、CPUで実行することにより各種演算処理を行っている。
【0022】
ECU2は、アクセルペダル3の踏込又は踏戻操作量(以下、踏込量と略す)sを検出する踏込量センサ4と、アクセルペダル3の踏込速度Vを検出する踏込速度センサ5と、車両の走行速度を検出する速度センサ6と、車両に作用するヨーレートを検出するヨーレートセンサ7と、車両の走行加速度を検出する加速度センサ8等に電気的に接続されている。
【0023】
図2に示すように、アクセルペダル3は、車体に対して回動可能に保持され、その踏込操作によって運転者によるエンジン出力の増減意図が入力される。
踏込量センサ4は、アクセルペダル3又は回転軸31に設けられ、その回動量からアクセルペダル3の踏込ストローク、所謂踏込量sを検出する。踏込量センサ4で検出されたアクセルペダル3の踏込量sは、ECU2に出力される。尚、運転者の踏込みによる踏力が作用しない場合、アクセルペダル3は、アクセルペダル3に連結されたリターンスプリング32によって踏込量sが零である初期位置に戻るように付勢されている。
踏込速度センサ5は、アクセルペダル3の回転軸31に設けられ、その回転速度からアクセルペダル3の踏込速度Vを検出する。踏込速度センサ5で検出されたアクセルペダル3の踏込速度Vは、ECU2に出力される。
【0024】
速度センサ6、ヨーレートセンサ7、加速度センサ8は、各々の検出結果をECU2に出力している。
車両走行部10は、車両の走行制御を実行するための駆動機構や操舵機構である。
この車両走行部10は、エンジン制御部、ステアリングアクチュエータ、ブレーキアクチュエータ、及びシフトアクチュエータ(何れも図示略)等によって構成されている。
車両走行部10は、ECU2からの出力信号に基づいて車両の走行制御を実行している。
【0025】
図2に示すように、反力制御機構11は、第1,第2摩擦部材41,42と、電磁式アクチュエータ43等を備えている。
第1摩擦部材41は回動軸31の一端部に固着され、第2摩擦部材42が第1摩擦部材41に臨む状態で配設されている。第2摩擦部材42は、回動軸31の軸心延長上に配設された保持軸44に対して、回転不能且つ軸心方向に相対移動可能に保持されている。
アクチュエータ43は、第1,第2摩擦部材41,42を圧接状態と離隔状態との間において相対位置関係を変更し、圧接時における圧接力を調整可能に構成されている。
【0026】
次に、ECU2について説明する。
図1に示すように、ECU2は、走行制御部21と、記憶部22と、特性補正部23と、反力設定部24等を備えている。
走行制御部21は、アクセルペダル3の踏込量sと速度センサ6によって検出された車速に基づいてエンジンの出力を制御すると共に車両走行状態とエンジンの運転状態とに基づいて変速機の変速比を選択可能に構成されている。
変速機で減速されたエンジンの出力はドライブシャフト(図示略)を介して駆動輪に伝達される。
【0027】
記憶部22は、運転者によるアクセルペダル3の踏込量sと踏込速度Vとアクセルペダル3から運転者に作用する物理的な反力値に相当している反力fとによって規定された基準制御マップF(F−S特性)を予め格納している。
図3に示すように、基準制御マップFは、アクセルペダル3の踏込量s(s1,s2)に相当するs軸(横軸)と、アクセルペダル3を介して運転者に付与される反力f(f2,f4,f5,f7)に相当するf軸(縦軸)とによって構成されている。
この基準制御マップFは、標準的な運転者を対象として形成され、この運転者による所定のアクセルペダル3の操作、所謂踏込及び踏戻動作(足関節の底屈及び背屈運動)において、二関節筋(例えば、腓腹筋等)と単関節筋(例えば、前脛骨筋やヒラメ筋等)とが所定のバランス範囲(例えば、二関節筋の寄与率が40%以上且つ60%未満)内で動作されることを前提条件として設定されている
【0028】
基準制御マップFにおいて、踏込側特性は、原点から踏込量s1(反力f5)までの初期往特性F3と踏込量s1から最大踏込量s2(反力f7)までの往特性F1とによって構成されている。往特性F1は、踏込量sに比例する1次関数で表すことができ、反力f7は、反力f5よりも大きい値に設定されている。
また、踏込操作の解除操作に相当する踏戻側特性は、最大踏込量s2(反力f4)から初期踏込量s1(反力f2)までの復特性F2と踏込量s1から原点までの終期復特性F4とによって構成されている。復特性F2は、往特性F1と略平行状に設定され、反力f4は、反力f2よりも大きい値に設定されている。
往特性F1と復特性F2との離隔距離が、基準制御マップFのヒステリシスF5に相当している。
【0029】
次に、特性補正部23について説明する。
特性補正部23は、アクセルペダル3の操作ストロークが小さい、換言すれば運転者による操作の主体筋が単関節筋(例えば、前脛骨筋、ヒラメ筋等)である緩加減速操作時、基準制御マップFのヒステリシスF5を増加補正した制御マップFAを設定している。
ここで、緩加減速操作とは、運転者の意思として略定速走行を狙いとした操作であり、車両Vの挙動としては、例えば、短時間内における30Km/hから40Km/h、或いは40Km/hから30Km/h等の微小変化を伴う一時的且つ過渡的走行である。
【0030】
図4に示すように、特性補正部23は、緩加減速操作時において、踏込速度Vが大きいとき、往特性F1を補正量U1増加した往特性F1aに補正し、復特性F2を補正量D1減少した復特性F2aに補正する。補正量U1,D1は、踏込速度Vに比例するように設定される。そして、往特性F1aの最小値と原点とを結ぶ直線を初期往特性F3a、復特性F2aの最小値と原点とを結ぶ直線を終期復特性F4a、往特性F1aの最大値と復特性F2aの最大値とを結ぶ直線をヒステリシスF5a(F5+U1+D1)に設定する。
本実施例では、アクセルペダル3の操作性を確保しつつ運転者が感じる違和感の発生を抑制するため、緩加減速操作時において踏込速度Vが同じ値のとき、補正量U1,D1を同じ値になるように設定している。
尚、各反力は、f1<f2<f3<f4<f5<f6<f7<f8の関係が成立している。
【0031】
また、特性補正部23は、アクセルペダル3の操作ストロークが大きい、換言すれば運転者による操作の主体筋が二関節筋(例えば、腓腹筋等)である急加減速操作時、基準制御マップFの往特性F1及び復特性F2を増加補正した制御マップFBを設定している。
ここで、急加減速操作とは、運転者の意思として速度増加或いは減少走行を狙いとした操作であり、車両Vの挙動としては、例えば、一定時間を要する0Km/hから30Km/h、或いは50Km/hから100Km/h等の加速又は減速を伴う長期的且つ安定的走行である。尚、緩加減速時の微調整よりも大きな操作に相当する中加減速操作については、急加減速操作に含まれるものとして扱う。
【0032】
図5に示すように、特性補正部23は、急加減速操作時において、踏込速度Vが大きいとき、往特性F1を補正量U2増加した往特性F1bに補正し、復特性F2を補正量D2増加した復特性F2bに補正する。補正量U2,D2は、踏込速度Vに比例するように設定される。そして、往特性F1bの最小値と原点とを結ぶ直線を初期往特性F3b、復特性F2bの最小値と原点とを結ぶ直線を終期復特性F4b、往特性F1bの最大値と復特性F2bの最大値とを結ぶ直線をヒステリシスF5b(F5)に設定する。
本実施例では、運転者が感じる違和感の発生を抑制するため、急加減速操作時における踏込速度Vが同じ値のとき、補正量U2,D2を同じ値になるように設定しており、操作知覚性を向上するため、踏込速度Vが同じ値のとき、U1<U2の関係が成り立ち、各反力は、f2<f9,f4<f10,f6<f11,f8<f12の関係が成立している。
【0033】
次に、反力設定部24について説明する。
反力設定部24は、F−S特性に基づく反力fに関する指令信号を出力している。
具体的には、緩加減速操作時には、制御マップFA、急加減速操作時には、制御マップFB、緩加減速操作と急加減速操作の何れにも該当しない場合、基準制御マップFを用いて、踏込量sに対応する反力fを読み出し、この読み出された反力fがアクセルペダル3の操作反力fとして出力されている。
【0034】
次に、
図6のフローチャートに基づいて、制御装置1の制御処理手順について説明する。
尚、Si(i=1,2…)は、各処理のためのステップを示す。
図6のフローチャートに示すように、まず、S1にて、イグニッション(Ig)がオン操作されたか否か判定する。
S1の判定の結果、イグニッションがオン操作された場合、各種センサ4〜8から入力された情報を読み込み(S2)、S3に移行する。
S1の判定の結果、イグニッションがオフ操作された場合、既に設定されている制御マップを基準制御マップFに初期化して(S9)、リターンする。
【0035】
S3では、アクセルペダル3の操作ストロークにより運転者が緩加減速操作を行ったか否か判定する。
S3の判定の結果、運転者が緩加減速操作を行った場合、S4に移行し、踏込速度Vに比例する補正量U1と補正量U1と同じ値の補正量D1を演算する。
次に、S5では、往特性F1から補正量U1増加した往特性F1a、復特性F2から補正量D1減少した復特性F2a、初期往特性F3a、終期復特性F4a、ヒステリシスF5aからなる制御マップFAを設定し、S6に移行する。
S6では、補正後の制御マップFAに基づいて反力制御機構11を作動させて、リターンする。
【0036】
S3の判定の結果、運転者が緩加減速操作を行っていない場合、S7に移行し、運転者が急加減速操作を行ったか否か判定する。
S7の判定の結果、運転者が急加減速操作を行った場合、S8に移行し、踏込速度Vに比例する補正量U2と補正量U2と同じ値にされた補正量D2を演算する。
次に、S9では、往特性F1から補正量U2増加した往特性F1b、復特性F2から補正量D2増加した復特性F2b、初期往特性F3b、終期復特性F4b、ヒステリシスF5bからなる制御マップFBを設定し、S6に移行し、補正後の制御マップFBに基づいて反力制御機構11を作動させる。
S7の判定の結果、運転者が急加減速操作を行っていない場合、S6に移行し、基準制御マップFに基づいて反力制御機構11を作動させる。
【0037】
次に、上記車両用制御装置1の作用、効果について説明する。
本制御装置1によれば、反力設定部24は、
運転者
によりアクセルペダル3が緩加減速操作されたとき、基準制御マップFの往特性F1と復特性F2との間のヒステリシスF5を
緩加減速操作に該当しないときよりも増加するため、運転者によるアクセルペダル3の操作負荷が大きい踏込操作から踏戻操作への操作切替時、拮抗筋に作用する反力fを低減しながら主な筋活動を主働筋から拮抗筋へ円滑に切替えることができ、アクセルペダル3の操作性を確保することができる。
【0038】
反力設定部24は、踏込速度センサ5によって検出された運転者の踏込速度が大きいとき、基準制御マップFの往特性F1を増加補正すると共に復特性F2を減少補正するため、踏込操作時、運動性能に優れた主働筋に作用する反力fを高めて運転者の操作知覚性を向上し、踏戻操作時、拮抗筋に作用する反力fを低減して運転者の操作容易性を向上している。
【0039】
基準制御マップFの往特性F1の増加補正量U1と復特性F2の減少補正量D1が等しく設定されたため、踏込操作から踏戻操作への操作切替時、アクセルペダル3の操作性を確保しつつ運転者が感じる違和感の発生を抑制することができる。
【0040】
【0041】
次に、前記実施形態を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施形態においては、アクセルペダル3に対する運転者の踏込量sが小さいにも拘らず踏込速度Vが大きいときの操作性改善を狙いとして、アクセルペダル3の踏込速度Vを検出した例を説明したが、アクセルペダル3に対する足の接触面積をパラメータとして検出しても良い。
図7に示すように、アクセルペダル3Aに複数の圧電素子12が埋設されている。
これら複数の圧電素子12は、上下に亙って均等間隔に配置されているため、圧電素子12の検出個数により運転者の足の接触面積を求めることができる。
図8に示すように、アクセルペダル3Bに3つの歪ゲージ13が配設されている。
これら歪ゲージ13は、上端部と左右両端部とに配置されているため、運転者の足による歪を介して運転者の足の接触面積を求めることができる。
これにより、運転者の足の動作量を高精度に検出することができる。
【0042】
2〕前記実施形態においては、緩加減速操作時、基準制御マップFの往特性F1の補正量U1と復特性F2の補正量D1が等しく設定された例を説明したが、増加補正量U1と復特性F2の減少補正量D1とを異なる値(U1<D1又はD1<U1)に設定しても良い。
また、急加減速操作時、基準制御マップFの往特性F1の補正量U2と復特性F2の補正量D2が等しく設定された例を説明したが、増加補正量U2と復特性F2の増加補正量D2とを異なる値(U2<D2又はD2<U2)に設定しても良い。
【0043】
3〕前記実施形態においては、制御マップの往特性と復特性を踏込量に比例する1次関数で形成された例を説明したが、必ずしも線形性を備える必要はなく、上に凸状又は下に凸状の湾曲形状に形成しても良い。
【0044】
4〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施形態に種々の変更を付加した形態や各実施形態を組み合わせた形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。