(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6823405
(24)【登録日】2021年1月13日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】裾調節具を有する衣服
(51)【国際特許分類】
A41D 1/06 20060101AFI20210121BHJP
A41D 1/14 20060101ALI20210121BHJP
A44B 17/00 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
A41D1/06 M
A41D1/06 502K
A41D1/14 F
A41D1/14 501J
A44B17/00
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-167680(P2016-167680)
(22)【出願日】2016年8月30日
(65)【公開番号】特開2018-35457(P2018-35457A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年4月10日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年3月25日モリト株式会社が裾調節用テープを東洋紡テクノユニ株式会社に納品、平成28年5月20日東洋紡テクノユニ株式会社が裾調節用テープ付ズボンを「天丼てんや」に販売
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114606
【氏名又は名称】モリト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087815
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 昭二
(72)【発明者】
【氏名】酒田 明
(72)【発明者】
【氏名】辻野 隆
【審査官】
塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−291384(JP,A)
【文献】
特開2010−068928(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3191743(JP,U)
【文献】
特開2002−115112(JP,A)
【文献】
米国特許第05097570(US,A)
【文献】
特開平9−316709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 1/06
A41D 1/14
A44B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の裾調節具(2)を取り付けた衣服であって、
前記各裾調節具(2)は、テープ生地(22)と、このテープ生地(22)よりも下方及び上方のいずれかに設けられた単片生地(21)からなり、
前記単片生地(21)は単一のファスナ片(23)を有し、
前記テープ生地(22)は複数のファスナ片(24)を有しており、
前記各ファスナ片(23,24)は、前記単片生地(21)及び前記テープ生地(22)の表面側に合成樹脂製の円柱状突起(25)を有し、
前記単片生地(21)及び前記テープ生地(22)は裏面側に少なくとも1枚の合成樹脂製の薄板(26)を有し、前記円柱状突起(25)と前記薄板(26)は、前記生地(21,22)の織目又は編目を通して一体化されており、
前記ファスナ片(23,24)における前記円柱状突起(25)の配列は、1ブロック当たり、n個、n−1個、n個、n−1個、...の繰り返しからなる複数列であり、
前記薄板(26)は、前記円柱状突起(25)のn−1個の列が一端に位置し、n個の列が他端に位置するように配置した長方形から2カ所の角部を落としたような形状にして方向性を持たせており、
前記単片生地(21)側の前記ファスナ片(23)は、裾を折り返した状態では、前記テープ生地(22)側の前記ファスナ片(24)に対して、前記薄板(26)の前記方向性が逆になるように配置される、
ことを特徴とする衣服(1)。
【請求項2】
前記衣服がズボン、スカート、キュロット、着物の内のいずれかである請求項1記載の衣服(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は裾調節具を有する衣
服に関する。衣服としては、例えば、ズボン、スカート、キュロット、着物、等に使用可能である。以下では、ズボンを例にして説明する。
【背景技術】
【0002】
ズボンの裾の長さ調節は、一般に、裾の長さを適正位置に調整した後、糸を使用して裾部分を縫い込むことにより行っている。しかし、成長期の子供が着用するズボンや貸衣装など複数の人が使用するズボンなどの場合、頻繁に裾の長さ調節が必要となるが、そのたびに裾の長さを調整して糸で縫うのは面倒である。また、そのようにして裾の長さ調整を繰り返し行なうと次第に布地を傷めてしまう。
【0003】
この問題を解決するため、複数のファスナ片をズボンの裾周辺の内側に取り付けるという考案が公知である。付着したファスナ片同士を外して裾の長さを調整し、その後、再び付着させることにより、簡便に裾の調節をすることができる。ファスナ片としてはフックとループからなる面ファスナ(例えば、特開平9-316709号)、糸付ボタン(例えば、意匠登録第1457830号)、スナップファスナ(例えば、特開2002―115112)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-316709号
【特許文献2】意匠登録第1457830号
【特許文献3】特開2002―115112
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ズボンの裾周辺は埃などがたまりやすいので、フックとループからなる面ファスナは埃などの付着により付着力を失いやすい。糸付ボタンは比較的に大きな突起物(ボタン)が突出するので、身体に接触すると異物感をもたらしやすい。スナップファスナは雌雄部材を合体させるので、2種類の部材を用意しなければならない。
【0006】
本発明は、これらの問題を解決するために行われたもので、付着力を失いにくく、突出部分が小さく、さらに1種類の部材を用意すれば足りるような裾調節具を取り付けたズボンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明は、複数の裾調節具2を取り付けた衣服であって、前記各裾調節具2は、テープ生地22と、このテープ生地22よりも下方及び上方のいずれかに設けられた単片生地21からなり、前記単片生地21は単一のファスナ片23を有し、前記テープ生地22は複数のファスナ片24を有しており、前記各ファスナ片23,24は、前記単片生地21及び前記テープ生地22の表面側に合成樹脂製の円柱状突起25を有し、前記単片生地21及び前記テープ生地22は裏面側に少なくとも1枚の合成樹脂製の薄板26を有し、前記円柱状突起25と前記薄板26は、前記生地21,22の織目又は編目を通して一体化されており、前記ファスナ片23,24における
前記円柱状突起25の配列は、1ブロック当たり、n個、n−1個、n個、n−1個、...の繰り返しからなる複数列であり、前記薄板26は、前記
円柱状突起25のn−1個の列が一端に位置し、n個の列が他端に位置
するように配置した長方形から2カ所の角部を落としたような形状にして方向性を持たせており、前記単片生地21側の
前記ファスナ片23
は、裾を折り返した状態では、前記テープ生地22側の
前記ファスナ片24
に対して、前記薄板26の前
記方向性が逆に
なるように配置される、ことを特徴とする。単片生地21とテープ生地22は分離している方が使いやすいが、一体化して1本のテープ状態となっていてもよい。
【0008】
好ましくは、前記単片生地21及びテープ生地22は裏面側に少なくとも1枚の合成樹脂製の薄板26を有し、前記円柱状突起25と前記薄板26は、前記生地21,22の織目又は編目を通して一体化されている。
【0009】
好ましくは、前記ファスナ片23,24における小突起25の配列は、1ブロック当たり、縦方向(又は横方向)に(n個、n−1個、n個、n−1個、...)の繰り返しからなる複数列である。
【0010】
好ましくは、前記単片生地21側のファスナ片23と前記テープ生地22側のファスナ片24が、方向性を有するものである。
【0011】
衣服がズボンであるとき、好ましくは、その方向性を有する前記裾調節具2が、ズボン筒部1本あたり2個所に設けられており、一方の裾調節具は裾から股下へ向かい、他方の裾調節具は股下から裾へ向かうように設定されている。
【0012】
本発明は、複数の裾調節具2を取り付けた衣服1における、前記裾調節具2の使用法を含む。この方法においては、前記各裾調節具2は、テープ生地22と、このテープ生地22よりも下方及び上方のいずれかに設けられた単片生地21からなり、前記単片生地21は単一のファスナ片23を有し、前記テープ生地22は複数のファスナ片24を有しており、前記各ファスナ片23,24は、前記単片生地21及びテープ生地22の表面側に合成樹脂製の円柱状突起25を有するものを用意する工程と、前記小突起25の列を上下にずらしてから前記ファスナ片同士23、24を重ねることにより、裾の長さを微調節する工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
以下、添付の図面に基づき、より詳しく本発明の実施例を説明する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、裾調節具のファスナ片として、雌雄同体の合成樹脂製の円柱状突起を有するものを使用する。その結果、フックとループからなる面ファスナと異なり、埃が付着しても付着力を失いにくい。また、円柱状突起は小さく、その頂上部は全体として平面的であり、身体に接触しても異物感を与えにくい。さらに雌雄同種類のファスナなので1種類の部材を用意すれば足りる。
【0015】
本発明の使用法によれば、小突起の列を上下にずらしてからファスナ片同士を重ねることにより、裾の長さをミリ単位で正確に微調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の1実施例に係る裾調節具を取り付けたズボンを裏返してみた状態の斜視図である。
【
図2】
図1の裾調節具の(a)正面図、(b)背面図、(c)側面図である。
【
図3】(a)
図2のA−A線拡大図、(b)
図2のB−B線拡大図、(c)
図2のC−C線拡大図、(d)
図3のD−D断面図である。
【
図4】裾調節具の(a)付着前の断面図、(b)付着後の断面図である。
【
図6】(a)〜(d)は裾調節具の別の使用法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示すように、裾調節具2はズボン1の左右筒部11,11の裾部12に取り付けられる。一般には、内側の脇縫い部13に1つずつ合計4つ取り付けられることが多いが、その数や取付位置は必要に応じて変更することができる。
【0018】
各裾調節具2は2つの部品からなる。1つは裾の最下端に設けられた単片生地21であり、もう1つは裾の周辺部に設けられたテープ生地22である。単片生地21には1個のファスナ片23が設定され、テープ生地22には複数個(図面では4個)のファスナ片24が設定される。単片生地21とテープ生地22は分離している方が使いやすいが、一体化して1本のテープ状態となっていてもよい。
【0019】
各ファスナ片23、24は、例えば正方形、長方形、円形、楕円形、五角形・六角形等の多角形、その他不定形とすることができるが、図示の実施例では長方形から2か所の角部を落としたものである、方向性を有している。
【0020】
方向性を持たせたとき、それを目印にして裾調節具2に特定方向の配列をさせることができる。例えば、1本のズボン筒部の2個所の脇縫い部13において、一方は裾から股下へ向かい、他方は股下から裾へ向かうように設定することができる。
【0021】
各ファスナ片23,24は、
図2に示すようなブロック状の合成樹脂製面ファスナである。
図5にその斜視図を示す。このテープ状面ファスナは同一種類のものが雄部材としても雌部材としても使用される。輪郭形状も雌雄同一であることが成形上好ましい。使用する合成樹脂としては、熱可塑性樹脂、例えばポリエーテルエステルエラストマー(「ハイトレル」(商標)など)やポリアセタール樹脂が挙げられる。
【0022】
ファスナ片23,24は、生地表面22からブロック単位に起立する複数の円柱状小突起25を有する。各小突起25は、
図3(c)(d)に示すように、先端の最も太い部分251は首部252に比べてやや直径が大きい。最先端は先細りになって係合しやすくしている。生地22に接する位置には小さなベースが設けられている。ある実施例では、1ブロックの大きさは、縦10.6mm、横12.6mmであった。1小突起の高さは2mm、直径は先端膨出部で2.0mm、首部で1.98mmであった。
【0023】
図3の実施例では、1つのファスナ片当たり、縦方向に3個ずつ5列の小突起25を有し、横方向に、2個、3個、2個、3個からなる6列の小突起を有するので、全体としては15個の小突起が形成されている。
【0024】
各ブロック状ファスナ片における小突起25の配列は、1ブロック当たり、縦方向(又は横方向)に(n個、n−1個、n個、n−1個、...)の繰り返しからなる複数列とすることが好ましい(添付の
図2、
図3参照)。
【0025】
このようにすることにより、小突起25同士は、縦横方向の間隔L1の方が45°斜め方向の間隔L2よりも広くなる。
図4に示すように、相手側のファスナ片と係合したとき、相手側の小突起25は縦横方向の間隔L1に入り込み、斜め方向の間隔L2には入り込むことがない。そのため、ブロック同士がずれずに完全に重なる(添付の
図4(b)参照)。
【0026】
このようなファスナ片を有する生地テープ同士を付着させると、両者の小突起25同士がスライドしながらはまりあい、摩擦係合する(
図4(b))。しかし、生地テープ22を手で持ってある程度以上の力を入れて引き剥がすと、分離可能である。
【0027】
単片生地21及びテープ生地22としては、溶融されることなく溶融樹脂が透過する生地であることが必要で、織物でも編物でもよく、例えば木綿生地、混紡生地等を採用することができる。合成樹脂はテープ生地の織目や編目を透過して裏面にも露出し、1ブロック当たり少なくとも1枚の薄板26を形成する。
【0028】
この薄板26に柔軟性を持たせるため、表面側に小突起25がない部分において複数のテープ露出部27を設けることが好ましい。この実施例では13個所でテープ生地が露出している。テープ露出部の面積を多くして、極端な場合、表面側に小突起がある部分に対応する数の薄板を設けることも可能である。
【0029】
このようなファスナ片を使用して、
図1に示すように、裾先端の単片生地21には1個のファスナ片23を設け、テープ22には複数個(図面では4個)のファスナ片24を設けることができる。
【0030】
裾の長さを調節するには、裾先端のファスナ片23を持ち上げてテープ側のファスナ片24のうちの1つを選択して付着させればよい。裾の長さを変更するには、今まで付着していたファスナ片同士23,24を外して、裾の長さを調節した後で、裾先端のファスナ片23を新たなテープ22側のファスナ片24と付着させる。
【0031】
このとき、方向性のあるホームベース状のファスナ片を使用すると、
図5のように上下逆向きに配置されるので、ぴったり重なって無駄がない。
【0032】
この裾調節具の別の使用法として、裾先端のファスナ片23と、テープ側のファスナ片24をぴったり重ねるのではなく、小突起25の列をずらして重ねることもできる。
図6において、(a)がぴったりと重ねたときであり、(b)はファスナ片23を上方に1列ずらした時、(c)はファスナ片23を2列上方にずらしたときを示している。(d)はファスナ片23を逆に2列下方にずらしたときを示す。このように小突起25の列を上下にずらしてからファスナ片同士23、24を重ねることにより、あたかも目盛が付いているかのように、裾の長さをミリ単位で正確に微調節することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 衣服(ズボン)
11 ズボンの左右筒部
12 ズボンの裾部
13 ズボンの脇縫い部
2 裾調節具
21 単片生地
22 生地テープ
22 テープ
23,24 ファスナ片
25 円柱状小突起
251 部分
252 首部
26 薄板
27 テープ露出部
L1 間隔
L2 間隔