特許第6823453号(P6823453)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6823453洗浄機用塗膜の製造方法及びそれに使用される塗料組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6823453
(24)【登録日】2021年1月13日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】洗浄機用塗膜の製造方法及びそれに使用される塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   B05D 5/00 20060101AFI20210121BHJP
   C09D 183/10 20060101ALI20210121BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20210121BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20210121BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20210121BHJP
   D06F 39/12 20060101ALN20210121BHJP
   D06F 39/08 20060101ALN20210121BHJP
【FI】
   B05D5/00 H
   C09D183/10
   C09D7/20
   B05D7/24 302Y
   B05D7/24 302P
   B05D7/24 303B
   B05D7/24 303E
   B05D7/00 K
   !D06F39/12 C
   !D06F39/12 Z
   !D06F39/08 311C
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-256455(P2016-256455)
(22)【出願日】2016年12月28日
(65)【公開番号】特開2018-108542(P2018-108542A)
(43)【公開日】2018年7月12日
【審査請求日】2019年8月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛資
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 洋
(72)【発明者】
【氏名】川崎 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】藤田 登
(72)【発明者】
【氏名】塩家 洋一
(72)【発明者】
【氏名】惣田 誠
(72)【発明者】
【氏名】友部 克史
(72)【発明者】
【氏名】三上 佳朗
(72)【発明者】
【氏名】上野 真司
(72)【発明者】
【氏名】小池 敏文
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−227834(JP,A)
【文献】 特開2002−143765(JP,A)
【文献】 特開平03−157414(JP,A)
【文献】 特開平07−118103(JP,A)
【文献】 特開平10−265737(JP,A)
【文献】 大野康晴,無機/有機ハイブリッド防カビ剤「カビノン」,東亞合成研究年報,日本,2002年,TREND2002 第5号,第48頁〜第52頁
【文献】 イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤「キュアゾール」,製品情報,日本,四国化成工業株式会社
【文献】 フッ素系界面活性剤(サーフロン),製品紹介,日本,AGCセイミケミカル株式会社
【文献】 アクリル系グラフトポリマー サイマック・レゼタ シリーズ,製品紹介,日本,東亞合成株式会社,2013年 4月30日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00−7/26
C09D 1/00−10/00,101/00−201/10
D06F 39/00−39/10,39/12−39/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂、硬化剤、レベリング剤、無機酸化物及び触媒からなる5つの成分を固形分として含む塗料組成物であって、
水酸基及びカルボキシル基のうちの少なくとも一種の置換基を二つ以上有するポリジメチルシロキサン鎖が結合し、前記固形分に対して83質量%以上92質量%以下の割合のうち前記固形分が前記5つの成分を含むような割合で含まれるアクリル樹脂と、
グリシジル基を二つ以上有し、前記固形分に対して4質量%以上7質量%以下の割合のうち前記固形分が前記5つの成分を含むような割合で含まれる硬化剤と、
パーフルオロ基を有し、前記固形分に対して0.5質量%以上2質量%以下の割合のうち前記固形分が前記5つの成分を含むような割合で含まれるレベリング剤と、
2−オクチルイミダゾリンを担持した層状ケイ酸塩を含み、前記固形分に対して1質量%以上8質量%以下の割合のうち前記固形分が前記5つの成分を含むような割合で含まれる無機酸化物と、
前記アクリル樹脂に含まれる前記置換基と前記硬化剤に含まれるグリシジル基との反応を進行させ、前記固形分の残部として含まれる触媒と、を含む前記塗料組成物を基材に塗布後、熱硬化する工程を含むことを特徴とする、洗浄機用塗膜の製造方法。
【請求項2】
前記熱硬化は、60℃以上90℃以下の温度で、15分以上90分以下の時間加熱することで行われることを特徴とする、請求項1に記載の洗浄機用塗膜の製造方法。
【請求項3】
前記基材は、洗濯機の内槽、洗濯機の外槽、及び、洗濯機からの排水が接触する表面のうちの少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の洗浄機用塗膜の製造方法。
【請求項4】
アクリル樹脂、硬化剤、レベリング剤、無機酸化物及び触媒からなる5つの成分を固形分として含む塗料組成物であって、
水酸基及びカルボキシル基のうちの少なくとも一種の置換基を二つ以上有するポリジメチルシロキサン鎖が結合し、前記固形分に対して83質量%以上92質量%以下の割合のうち前記固形分が前記5つの成分を含むような割合で含まれるアクリル樹脂と、
グリシジル基を二つ以上有し、前記固形分に対して4質量%以上7質量%以下の割合のうち前記固形分が前記5つの成分を含むような割合で含まれる硬化剤と、
パーフルオロ基を有し、前記固形分に対して0.5質量%以上2質量%以下の割合のうち前記固形分が前記5つの成分を含むような割合で含まれるレベリング剤と、
2−オクチルイミダゾリンを担持した層状ケイ酸塩を含み、前記固形分に対して1質量%以上8質量%以下の割合のうち前記固形分が前記5つの成分を含むような割合で含まれる無機酸化物と、
前記アクリル樹脂に含まれる前記置換基と前記硬化剤に含まれるグリシジル基との反応を進行させ、前記固形分の残部として含まれる触媒と、を含ことを特徴とする、洗浄機塗膜製造用の塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄機用塗膜の製造方法及びそれに使用される塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
洗濯機や食器洗い機等の洗浄機が幅広く利用されている。洗浄機において、例えば洗濯槽や食器載置室、排水管等の洗浄水が接触する部分には、洗浄時に洗浄対象物から脱離する人間の皮脂や食品のくず、洗浄剤等の有機物が付着しやすい。特に、このような部分は、暗く、かつ、湿度が高いため、有機物を栄養分とした細菌やかび(真菌)等が繁殖し易い部分である。そこで、洗浄機には、抗菌性等の機能性が求められる。
【0003】
洗浄機に対して機能性を与える技術として、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、洗浄機槽において、非粘着性に優れた機能層を表面に形成し、表面は水が接触することで初期には撥水、その後、水が濡れ広がる性質を持っており、非粘着性により洗剤カスなどの付着力を低減させ、水が濡れ広がった後には、付着力が弱まった洗剤カスなどを容易に洗い流すことができることが記載されている。また、初期の撥水性により水は重力により落下し、水が濡れ広がった後は表面を伝い槽の底面に流されることが記載されている。さらに、濡れ広がった水は乾燥が速く、洗浄機の槽内を乾燥させやすく微生物の繁殖しにくい空間を提供できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−90813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、高濃度の次亜塩素酸水を流すことで、細菌やかび等の殺菌が行われている。しかし、この洗浄機では、洗浄(洗濯)のたびに高濃度の次亜塩素酸水が流される。そして、次亜塩素酸は漂白剤等として一般的に使用されている薬剤ではあるが、洗濯のたびに排水として流されることは、地球環境の観点からは好ましいことではない。
【0006】
また、洗浄機では洗浄剤(洗剤等)が使用され、洗浄のたびに洗浄剤が排水ホース等に付着することになる。従って、排水ホース等には、耐薬品性が要求される。しかし、特許文献1に記載の技術では、そのような耐薬品性については考慮されておらず、耐薬品性が劣る結果、洗浄機の耐久性に課題がある。
【0007】
さらには、特許文献1に記載の技術では、次亜塩素酸を発生させる電解槽への給水や塩タンクへの給水の開始と停止とを切替える電磁弁が備えられている。また、このような電磁弁のほか、電極や塩タンク等の部材も備えられている。従って、特許文献1に記載の技術では、通常の洗浄機には備えられない部材が備えられていることになる。そのため、洗浄機の構成部品、特には駆動部品が多くなり、故障の発生原因が増える。即ち、この観点でも、特許文献1に記載の技術には、耐久性に課題がある。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、地球環境に大きな負荷をかけることなく、耐薬品性を向上させて耐久性を向上させた洗浄機用塗膜の製造方法及びそれに使用される塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、以下の知見を見出して本発明を完成させた。即ち、アクリル樹脂、硬化剤、レベリング剤、無機酸化物及び触媒からなる5つの成分を固形分として含む塗料組成物であって、水酸基及びカルボキシル基のうちの少なくとも一種の置換基を二つ以上有するポリジメチルシロキサン鎖が結合し、前記固形分に対して83質量%以上92質量%以下の割合のうち前記固形分が前記5つの成分を含むような割合で含まれるアクリル樹脂と、グリシジル基を二つ以上有し、前記固形分に対して4質量%以上7質量%以下の割合のうち前記固形分が前記5つの成分を含むような割合で含まれる硬化剤と、パーフルオロ基を有し、前記固形分に対して0.5質量%以上2質量%以下の割合のうち前記固形分が前記5つの成分を含むような割合で含まれるレベリング剤と、2−オクチルイミダゾリンを担持した層状ケイ酸塩を含み、前記固形分に対して1質量%以上8質量%以下の割合のうち前記固形分が前記5つの成分を含むような割合で含まれる無機酸化物と、前記アクリル樹脂に含まれる前記置換基と前記硬化剤に含まれるグリシジル基との反応を進行させ、前記固形分の残部として含まれる触媒と、を含む前記塗料組成物を基材に塗布後、熱硬化する工程を含むことを特徴とする、洗浄機用塗膜の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、地球環境に大きな負荷をかけることなく、耐薬品性を向上させて耐久性を向上させた洗浄機用塗膜の製造方法及びそれに使用される塗料組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の洗濯機の構造説明図である。
図2】本実施形態の洗濯機に備えられる排水管の表面に形成された保護膜の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明を実施するための形態(本実施形態)を説明する。なお、参照する各図は模式的なものであり、実際のものとは異なる可能性がある。はじめに、洗浄機の一例として洗濯機の構造を説明し、次いで、その洗濯機に形成された保護膜の物性及びその形成方法(製造方法)について説明する。
【0013】
図1は、本実施形態の洗濯機Lの構造説明図である。洗濯機Lは、筐体1の内部に、洗濯槽としての外槽2と内槽3とを備え、洗濯槽の上部に内蓋4が設けられている。また、筐体1には、内蓋4の上方に外蓋5が設けられている。内槽3内の底部には、衣料品を洗濯水とともに撹拌する攪拌翼6が設けられている。攪拌翼6は、モータ7によって回転駆動される。内槽3への水の供給は給水管8を通じて図示しない蛇口から行われる。洗濯後の洗濯水の排水及び脱水時の排水は、外槽2から排水管9を介して図示しない下水口に導かれる。
【0014】
このような洗濯機Lにおいて、外槽2の内側や内槽3の外側には洗濯水が残りやすい。また、排水管9の内面にも洗濯水が残りやすい。そして、洗濯水には、前記のように洗濯物から脱離した人間の皮脂や食べ溢し、洗剤等の有機物が含まれる。そのため、これらの洗濯水が触れる部分には、細菌やかび等が繁殖しやすい。そこで、本実施形態の洗濯機Lにおいては、このような細菌やかび等が繁殖しやすい箇所に、抗菌性を示す保護膜が形成されている。具体的には、洗濯機Lでは、図1においてドット柄で示すように、外槽2の内側面や内槽3の外側面、配水管9の内側面(洗濯機Lからの排水が接触する表面)に、保護膜10が形成されている。
【0015】
図2は、本実施形態の洗濯機Lに備えられる排水管9の表面に形成された保護膜10の様子を示す図である。なお、保護膜10は、前記のように洗濯機Lの他の部分にも形成されているが、ここでは一例として配水管9の内表面を図示している。図2に示すように、保護膜10は、配水管9の表面に形成されている。配水管9は、本実施形態の洗濯機Lではポリプロピレン等の樹脂製であるが、金属製であってもよい。詳細は後記するが、保護膜10は、乾燥させることで保護膜10となる塗料組成物を排水管9の内表面に塗布した後に固化させることで、形成される。なお、ここでいう「塗布」とは、例えば刷毛等を使用して塗料組成物を塗布する場合に限られず、排水管9の内表面に塗料組成物に接触させる(例えば排水管9の内部に塗料組成物を通流させる)場合等も含まれるものとする。
【0016】
図2に示す保護膜10(以下、単に「保護膜」ということがある)は、本実施形態の塗料組成物を排水管9(以下、基材という)に塗布し、熱硬化させることで、形成(製造)することができる。本実施形態の塗料組成物は、アクリル樹脂と、硬化剤と、レベリング剤と、無機酸化物と、触媒と、を含むものである。ただし、本実施形態の塗料組成物では、通常は、これらのほかにも溶媒が含まれる。また、本実施形態の塗料組成物では、無機酸化物の含有量は、全固形分に対して8質量%以下である。
【0017】
本実施形態の塗料組成物に含まれるアクリル樹脂(以下、アクリル樹脂Aという)は、水酸基及びカルボキシル基のうちの少なくとも一種の置換基を二つ以上有するポリジメチルシロキサン鎖が結合したものである。アクリル樹脂Aが含まれることにより、形成される保護膜の撥水性が向上し、後記する無機酸化物Dが保護膜に保持される。また、アクリル樹脂Aを使用することで、漂白剤等に対して耐性が強く、溶媒に可溶で他成分と容易に混合可能という利点がある。
【0018】
アクリル樹脂Aとしては、例えば、ポリシロキサン基含有ビニルモノマーとアクリル酸エステルモノマーとの共重合体や、アクリル樹脂とシリコーンとを共重合させて得られるアクリルシリコーン樹脂(シリコーン系グラフトポリマー等)のほか、例えばアルキル基、ヒドロキシ基、グリシジル基、カルボキシ基、アミド基又はオキサゾリン基を含有するアクリレート又はメタクリレートと、ブタジエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、プロピレン、エチレン、塩化ビニリデン、メタクリロニトリル、アクリロニトリル等とを共重合することで得られた共重合体等であって、かつ、それぞれの共重合体や樹脂において、水酸基及びカルボキシル基のうちの少なくとも一種の置換基を二つ以上有するポリジメチルシロキサン鎖が結合したアクリル樹脂が挙げられる。これらは一種が単独で使用されてもよく、二種以上が任意の比率及び組み合わせで使用されてもよい。
【0019】
また、アクリル樹脂Aの数平均分子量としては、例えば1万以上、好ましくは5万以上、また、その上限として、例えば20万以下、好ましくは10万以下である。アクリル樹脂Aの数平均分子量がこの範囲にあることで、保護膜の耐薬品性が高くなり、また、アクリル樹脂Aが溶媒に溶け易くなる。
【0020】
本実施形態の塗料組成物におけるアクリル樹脂Aの含有量は、塗料組成物での全固形分における濃度として、例えば80質量%以上、好ましくは85質量%以上、より好ましくは88質量%以上、また、その上限としては、例えば95質量%以下、好ましくは90質量%以下である。アクリル樹脂Aが80質量%以上の割合で含まれていることで、保護膜の基材への結着性が高められ、排水による保護膜の剥離が十分に防止される。
【0021】
本実施形態の塗料組成物に含まれる硬化剤(以下、硬化剤Bという)は、グリシジル基を二つ以上有するものである。硬化剤Bが含まれることにより、前記のアクリル樹脂Aに含まれる置換基(水酸基及びカルボキシル基のうちの少なくとも一種)と、硬化剤Bに含まれるグリシジル基との架橋が進行し、アクリル樹脂Aよりも高分子の樹脂を含む保護膜が得られる。これにより、保護膜の防汚性及び抗菌性が向上する。また、このような高分子の樹脂が保護膜に含まれることで、保護膜の強度が向上する。
【0022】
硬化剤Bとしては、例えば、フェノール、クレゾール、キレノール、カテコール、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール類、ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物を酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂をグリシジル化したフェノールノボラック型グリシジル樹脂、オルソクレゾールノボラック型グリシジル樹脂、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、アルキル置換又は非置換のビフェノール、スチルベン系フェノール類等をグリシジル化したビスフェノール型グリシジル樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテル等)、ビフェニル型グリシジル樹脂、スチルベン型グリシジル樹脂、フェノール類、ナフトール類とジメトキシパラキシレンやビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂等をグリシジル化したフェノールアラルキル型グリシジル樹脂、ナフトールアラルキル型グリシジル樹脂、ビフェニルアラルキル型グリシジル樹脂、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類のグリシジルエーテル型グリシジル樹脂、カルボン酸類のグリシジルエステル型グリシジル樹脂、イソシアヌル酸等の窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換したグリシジル型又はメチルグリシジル型グリシジル樹脂、分子内のオレフィン結合をグリシジル化して得られるビニルシクロヘキセンジグリシジルド、3,4−グリシジルシクロヘキシルメチル−3,4−グリシジルシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−グリシジル)シクロヘキシル−5,5−スピロ(3,4−グリシジル)シクロヘキサン−m−ジオキサン等の脂環型グリシジル樹脂、メタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル、テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル、フェノール類またはナフトール類とジシクロペンタジエンから合成されるジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂のグリシジルエーテル、シクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル、多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル、ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテル、ハロゲン化フェノールノボラック型グリシジル樹脂、ハイドロキノン型グリシジル樹脂、トリメチロールプロパン型グリシジル樹脂、オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族グリシジル樹脂、ジフェニルメタン型グリシジル樹脂、硫黄原子含有グリシジル樹脂等が挙げられる。これらは一種が単独で使用されてもよく、二種以上が任意の比率及び組み合わせで使用されてもよい。
【0023】
硬化剤Bの含有量は、塗料組成物での全固形分における濃度として、例えば3質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは6質量%以上、また、その上限として、例えば10質量%以下、好ましくは8質量%以下である。硬化剤Bの含有量を3質量%以上とすることで、アクリル樹脂Aとの架橋が促進される。一方で、硬化剤Bの含有量を8質量%以下とすることで、硬化剤Bと架橋されるアクリル樹脂Aの相対量を十分に保つことができ、高分子の樹脂を含む保護膜が得られ、保護膜の耐久性が向上する。
【0024】
本実施形態の塗料組成物に含まれるレベリング剤(以下、レベリング剤Cという)は、パーフルオロ基を有するものであり、表面調整剤ともいわれるものである。パーフルオロ基は、他の官能基と比べて表面エネルギが低く、保護膜における空気との界面に配向し易くなる。このため、パーフルオロ基を有するレベリング剤Cを使用することで、保護膜の表面においてレベリング剤10が配向し易くなる。これにより、パーフルオロ基を有さないレベリング剤を使用しない場合と比べ、保護膜の表面に窪みが生じることが防止され、平滑性が向上する。そして、保護膜の平滑性が向上することで、皮脂等に含まれる有機物との付着が物理的に抑制される。
【0025】
レベリング剤Cとしては、例えば、アルキル基の水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたフッ素化アルキル基を有する化合物(フッ素原子で水素原子の一部が置換された長鎖アルキル基とカルボキシル基とを有する含フッ素界面活性剤等。カチオン系、アニオン系、ノニオン系のいずれでもよい)であり、具体的には、例えばパーフルオロ基を有するポリエーテル、ポリエステル等が挙げられる。なお、これらは一種が単独で使用されてもよく、二種以上が任意の比率及び組み合わせで使用されてもよい。
【0026】
レベリング剤Cの含有量は、塗料組成物での全固形分における濃度として、例えば0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上とすることが好ましく、また、その上限は、例えば2質量%以下、好ましくは1質量%以下である。レベリング剤Cの含有量を0.01質量%以上にすることで、保護膜の表面粗さの増大が抑制される。また、レベリング剤Cの含有量を2質量%以下にすることで、保護膜の劣化が十分に抑制される。
【0027】
本実施形態の塗料組成物に含まれる無機酸化物(以下、無機酸化物Dという)は、窒素原子を含む複素環化合物を担持したものである。ここでいう「担持」とは、例えば粒状の無機酸化物の表面に、前記の複素環化合物(有機物)が付着しているような状態をいう。また、例えば、塊状(粒の集合体)の内部に前記の複素環化合物が浸透しているような状態であってもよい。
【0028】
窒素原子を含む複素環化合物は、様々な微生物(細菌、かび等)に対して広い抗菌スペクトルを有している。また、洗浄機は、暗く、かつ、湿度が高いことが多いため、多種多少の微生物が繁殖し易い環境になっている。そのため、このような窒素原子を含む複素環化合物を使用することで、あらゆる微生物に対する抗菌性が奏され、洗浄機での抗菌性が高められる。さらに、窒素原子を含む複素環化合物が担持される無機酸化物では、有機物や、他の無機物(即ち無機酸化物以外の無機物)と比較して、細孔が多く、表面積が広い。そのため、無機酸化物の表面に多くの複素環化合物(窒素原子を含む複素環化合物)を担持させることができ、洗浄機での抗菌性がさらに高められる。
【0029】
また、無機酸化物Dに複素環化合物(窒素原子を含む複素環化合物)が担持されることで、そのまま塗料組成物に当該複素環化合物を含有させた場合と比べて、放出速度が低下する。即ち、無機酸化物に対し、窒素原子を含む複素環化合物を担持させ、その無機酸化物(無機酸化物D)を塗料組成物に含有させることで、保護膜からの、窒素原子を含む複素環化合物の放出速度が低下する。これにより、抗菌性が長期間維持される。
【0030】
無機酸化物Dに担持される窒素原子を含む複素環化合物としては、例えば以下の式(1)〜(6)で表される複素環化合物が挙げられる。なお、これらは一種が単独で使用されてもよく、二種以上が任意の比率及び組み合わせで使用されてもよい。
【0031】
【化1】
【0032】
前記の式(1)〜(6)において、R〜R19は、それぞれ独立して、水素原子、直鎖又は分岐構造鎖のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキニル基、チアゾール環、ピロール環、イミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環のいずれかである。
【0033】
アルキル基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、オクタン基、デカン基、メチレンオキシメチレン基、エチレンオキシメチレン基、プロピレンオキシメチレン基、ブチレンオキシメチレン基、プロピレンオキシエチレン基、プロピレンオキシプロピレン基等の鎖が挙げられる。
シクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロウンデシル基、シクロドデシル基、シクロテトラデシル基、シクロヘキサデシル基、シクロオクタデシル基等の炭素数3〜18のものが挙げられる。
アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アズレニル基、ビフェニル基等の炭素数6〜18のアリール基が挙げられる。
【0034】
アラルキル基としては、例えばベンジル基、1−フェネチル基、2−フェネチル基、1−フェニルプロピル基、2−フェニルプロピル基、3−フェニルプロピル基、ジフェニルメチル基、o−メチルベンジル基、m−メチルベンジル基、p−メチルベンジル基、o−エチルベンジル基、m−エチルベンジル基、p−エチルベンジル基、o−イソプロピルベンジル基、m−イソプロピルベンジル基、p−イソプロピルベンジル基、o−(t−ブチル)ベンジル基、m−(t−ブチル)ベンジル基、p−(t−ブチル)ベンジル基、2,3−ジメチルベンジル基、2,4−ジメチルベンジル基、2,5−ジメチルベンジル基、2,6−ジメチルベンジル基、3,4−ジメチルベンジル基、3,5−ジメチルベンジル基、2,3,4−トリメチルベンジル基、2,3,4−トリメチルベンジル基、3,4,5−トリメチルベンジル基、2,4,6−トリメチルベンジル基、5−イソプロピル−2−メチルベンジル基、2−イソプロピル−5−メチルベンジル基、2−メチル−5−(t−ブチル)ベンジル基、2,4−ジイソプロピルベンジル基、2,5−ジイソプロピルベンジル基、3,5−ジイソプロピルベンジル基、3,5−ジ(t−ブチル)ベンジル基、1−(2−メチルフェニル)エチル基、1−(3−イソプロピルフェニル)エチル基、1−(4−イソプロピルフェニル)エチル基、1−(2−(t−ブチル)ベンジルエチル基、1−(4−(t−ブチル)ベンジルエチル基、1−(2−イソプロピル−4−メチルフェニル)エチル基、1−(4−イソプロピル−2−メチルフェニル)エチル基、1−(2,4−ジメチルフェニル)エチル基、1−(2,5−ジメチルフェニル)エチル基、3,5−ジメチルフェニル)エチル基、1−(3,5−ジ−(t−ブチル)フェニル)エチル基等が挙げられる。
【0035】
アルキニル基としては、例えばエチニル基、2−プロピニル基、ブチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、オクチニル基、デシニル基、ウンデシニル基、ドデシニル基、トリデシニル基、テトラデシニル基、ペンタデシニル基、ヘキサデシニル基、ヘプタデシニル基、オクタデシニル基等の炭素数2〜18のアルキニル基が挙げられる。
【0036】
これらのうち、無機酸化物Dに担持される窒素原子を含む複素環化合物としては、式(6)で表される複素環化合物であって、当該式(6)において、R17及びR18が水素原子、R19がオクタン基である2−オクチルイミダゾリンが好ましい。
【0037】
また、前記の複素環化合物を担持させる無機酸化物としては、例えば、ゼオライト、シリカ、ガラス、リン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、ケイ酸塩(層状ケイ酸塩等)、チタン酸カリウム、酸化マグネシウムが挙げられる。これらは一種が単独で使用されてもよく、二種以上が任意の比率及び組み合わせで使用されてもよい。
【0038】
なお、無機酸化物Dは、前記の複素環化合物を、例えばアセトンやトルエン等の有機溶媒に溶解後、前記の無機酸化物を添加及び混合し、乾燥することにより、調製することができる。また、無機酸化物Dとしては、市販のものを用いることもでき、具体的には例えば、カビノン740HV、カビノン800、カビノン900、カビノン930V、カビノン940(いずれも東亞合成社製、「カビノン」は登録商標)等を使用することができる。
【0039】
無機酸化物Dの含有量は、塗料組成物での全固形分における濃度として、例えば0.5質量%以上、好ましくは2質量%以上、また、その上限としては、8質量%以下、好ましくは4質量%以下である。無機酸化物Dの含有量が0.5質量%以上であることで、保護膜の抗菌性がより長期的に発揮される。また、無機酸化物Dの含有量が8質量%以下であることで、保護膜の表面粗さの増加がより抑制され、汚れが付着しにくくなる。
【0040】
本実施形態の塗料組成物に含まれる触媒(以下、触媒Eという)は、アクリル樹脂Aに含まれる前記置換基と、硬化剤Bに含まれるグリシジル基との反応を進行させるものである。従って、触媒Eが含まれることで、アクリル樹脂Aと硬化剤Bとの架橋が進行し、アクリル樹脂Aよりも高分子の樹脂を含む保護膜が得られる。そして、これにより、保護膜の強度が向上し、耐薬品性が向上する。
【0041】
触媒Eとしては、例えば、トリメチルスズラウレート、ジブチルスズジラウレート等のスズ系触媒や、オクチル酸鉛等の鉛系触媒、ビスマス系触媒、亜鉛系触媒、アルミニウム系触媒、トリエチルアミン、N−エチルモルホリン、トリエチレンジアミン、ジアザビシクロウンデセン等のアミン系触媒、イミダゾール触媒等が挙げられる。これらのうち、反応性の観点から、ビスマス系触媒、アミン系触媒、イミダゾール系触媒が好ましい。なお、これらは一種が単独で使用されてもよく、二種以上が任意の比率及び組み合わせで使用されてもよい。
【0042】
触媒Eの含有量としては、塗料組成物の全固形分に対して、例えば0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、また、その上限は、例えば10質量%以下、好ましくは3質量%以下である。触媒Eの使用量を0.01質量%以上とすることで、反応促進効果を大きくして加熱硬化時間を短縮でき、作業性を向上させることができる。また、10質量%以下とすることで、ポットライフ(可使時間)を長くでき、作業性を向上させることができる。さらには、10質量%以下とすることで、塗料組成物を硬化して得られる保護膜に残存する触媒Eの量が少なくなる。これにより、残存する触媒による表面エネルギの低下及び膜強度の低下が十分に防止され、保護膜の撥水性(防汚性)及び耐薬品性が十分に高いまま維持される。
【0043】
さらに、本実施形態の塗料組成物には、塗布のし易さの観点から、溶媒が含まれていてもよい。使用可能な溶媒としては、例えば有機溶媒であり、具体的には例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジイソブチルケトン、酢酸メトキシブチル、ジメチルホルムアミド、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。これらは一種が単独で使用されてもよく、二種以上が任意の比率及び組み合わせで使用されてもよい。
【0044】
使用可能な溶媒の量としては、塗料組成物における全固形分濃度が、例えば20質量%以上、好ましくは30質量%以上、また、その上限として、例えば50質量%以下、好ましくは40質量%以下となる量であることが望ましい。
【0045】
また、本実施形態の塗料組成物には、前記のものの他にも、例えば体質顔料、着色顔料、染料、分散安定剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、消泡剤、造膜助剤、風合い剤等の添加剤が含まれていてもよい。これらは一種が単独で使用されてもよく、二種以上が任意の比率及び組み合わせで使用されてもよい。
【0046】
本実施形態の塗料組成物には、前記のように、アクリル樹脂Aと、硬化剤Bと、レベリング剤Cと、無機酸化物Dと、触媒Eと、を含む。そして、これらの含有量は、前記の各成分の含有量として例示した範囲で適宜決定すればよいが、例えばアクリル樹脂Aの含有量を95質量%、かつ、硬化剤Bの含有量を5質量%とした場合、レベリング剤C、無機酸化物D及び触媒Eは含まれ得ないことになる。そこで、このような事態を避けるため、アクリル樹脂Aと、硬化剤Bと、レベリング剤Cと、無機酸化物Dと、触媒Eとの全てが含まれるように、アクリル樹脂Aと、硬化剤Bと、レベリング剤Cと、無機酸化物Dと、触媒Eとのそれぞれの含有量を適宜調整することが好ましい。
【0047】
この観点からは、アクリル樹脂Aの100質量部に対して、硬化剤Bは例えば3質量部以上、好ましくは6質量部以上、また、その上限として、例えば12質量部以下、好ましくは9質量部以下である。さらに、レベリング剤Cは、アクリル樹脂Aの100質量部に対して、例えば0.01質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、また、その上限として、例えば3質量部以下、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1質量部以下である。また、無機酸化物Dは、アクリル樹脂Aの100質量部に対して、例えば0.5質量部以上、好ましくは2質量部以上、また、その上限として、例えば10質量部以下、好ましくは5質量部以下である。そして、触媒Eは、アクリル樹脂Aの100質量部に対して、例えば0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、また、その上限として、例えば11質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
【0048】
本実施形態の塗料組成物は、例えば、混合機を用いて前記の各成分を十分に混合することで、混合液又は混合スラリーとして得られる。このとき、各成分の量は、基材の種類や大きさ、形状等に応じて、適宜変更することができる。そして、本実施形態の塗料組成物は、基材の種類や大きさ、形状等に応じて、例えばスピンコート、ディップコート、スプレーコート等の塗布方法を適宜選択して、基材の表面に塗布することができる。そして、これらの塗布方法のそれぞれにおいては、例えばスピンコートでは回転速度や回転時間等、ディップコートでは引き上げ速度等によって、溶媒の濃度や各成分の含有割合を適宜調整すればよい。そのため、塗料組成物の組成は、使用する塗布方法の条件を考慮したうえで決定されることが好ましい。
【0049】
また、基材の表面には、予め、酸素プラズマ処理やオゾン処理等の表面処理を行っておくことが好ましい。これにより、基材の表面の濡れ性を高めることができ、保護膜の密着性や平坦性を高めることができる。また、表面処理により、基材の表面に付着し得る汚れを除去することもできる。なお、基材の表面は平滑であってもよし、予め、しぼ加工等が施されたものであってもよい。
【0050】
さらに、基材の表面には、保護膜の接着性を高めるために、任意の接着層が形成されていてもよい。即ち、基材と保護膜とは、接着層を介して配置されていてもよい。特に、基材がポリプロピレンの場合には、接着層が形成されることが好ましい。これにより、保護膜の剥離が確実に防止され、洗浄機の耐久性がさらに高められる。形成可能な接着層としては、例えばアクリル変性塩素化ポリオレフィンが挙げられる。
【0051】
保護膜を形成可能な基材としては、前記のように排水管9の表面(内側面)のほか、外槽2の内側面や内槽3の外側面等、様々な物に対して適用できる。即ち、保護膜は、排水管9や内槽3を構成するポリプロピレンやABS樹脂等の樹脂材料のほか、外槽2を構成するステンレス等の金属材料に対しても、好ましく形成することができる。これらのような、細菌やかび等が繁殖し易い環境に晒される部分に保護膜10が形成されることで、より効果的に細菌やかび等の繁殖が抑制される。
【0052】
また、保護膜を形成可能な洗浄機としては、図1に示す洗濯機Lに限られず、例えば食器洗い機等、任意の物を洗浄する装置であれば、どのようなものであってもよい。
【0053】
そして、本実施形態の塗料組成物を基材に塗布した後、加熱することで硬化(即ち熱硬化)させることで、保護膜が得られる。加熱することで、アクリル樹脂Aと硬化剤Bとの架橋反応を促進しつつ、塗料組成物に溶媒が含まれる場合には溶媒を揮発させて除去することができる。加熱条件としては、例えば60℃以上、好ましくは70℃以上、また、その上限として、例えば90℃以下、好ましくは80℃以下の温度で、例えば15分以上、好ましくは30分以上、また、その上限として、例えば90分以下、好ましくは60分以下の時間とすることができる。
【0054】
このようにして形成(製造)された保護膜には、アクリル樹脂Aと硬化剤Bとが架橋することで生成した高分子の樹脂のほか、レベリング剤C、無機酸化物D及び触媒Eが含まれる。そして、この保護膜に含まれる樹脂は、アクリル樹脂Aよりも高分子であるため膜強度が高められ、これにより、耐薬品性が高められる。
【0055】
また、この保護膜では、表面エネルギが低いアクリル樹脂Aに含まれるジメチルシロキサン基と、レベリング剤Cのパーフルオロ基とが、保護膜の表面である空気との界面に局在化している。このような作用により、保護膜の表面における撥水撥油性や平滑性を向上させることができる。そして、これにより、人間の皮脂や食べ溢し等を含んだ洗濯水の保護膜への付着が抑制され、防汚性を向上させることができる。
【0056】
また、無機酸化物Dは、アクリル樹脂Aに担持されており、無機酸化物Dは保護膜の内部に分散している。これにより、抗菌効果を示す窒素原子を含む複素環化合物が、保護膜内部の無機酸化物から保護膜の表面に徐々に放出される(所謂徐放効果)。そのため、長期的に抗菌性を持続することができる。
【0057】
保護膜の乾燥膜厚は、例えば0.5μm以上、好ましくは1μm以上、その上限として、例えば100μm以下、好ましくは30μm以下である。乾燥膜厚が例えば0.5μm以上100μm以下であることで、排水による保護膜の劣化が十分に抑制され、防汚性や抗菌性をより長期的に持続することができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0059】
<実施例1>
はじめに、保護膜が形成される被膜対象物として、洗濯機に使用される部品を想定し、ポリプロピレン製の基材(ポリプロピレン製の矩形状樹脂片(縦40mm×横40mm×厚さ5mm))を用意した。そして、この基材に対して、以下の手順で接着層を形成した。なお、この接着層は、基材と、熱硬化後に形成される保護膜とを接着するものである。
【0060】
まず、アクリル変性塩素化ポリオレフィン(日本製紙社製 スーパークロン(登録商標)223M)をトルエンにて希釈し、固形分濃度として10質量%の溶液を得た。ここで使用したアクリル変性塩素化ポリオレフィンは、塩素化ポリオレフィン(塩素化比率25%)であって、アクリル樹脂比が20/80(固形分比)、重量平均分子量が100000のものである。そして、得られた溶液を、前記の樹脂片の表面に、ディップコート法(引き上げ速度1.3mm/s)によって塗布した。次いで、80℃30分間乾燥させ、表面に接着層を形成した基材を得た。
【0061】
次いで、当該基材に塗布される塗料組成物(熱硬化させることで保護膜になる)を、以下の手順で調製した。
【0062】
まず、塗料組成物に含有される成分として、以下の材料を用意した。アクリル樹脂Aとして、東亞合成社製 サイマック(登録商標) US−270(シリコーン系グラフトポリマー、水酸基含有アクリルシリコーン樹脂(水酸基価26))を用意した。この「サイマック(登録商標) US−270」の固形分濃度は29質量%であるが、塗料組成物に使用する際には、サイマック(登録商標) US−270に含まれる溶剤を完全に揮発させたものを使用した。また、さらに、硬化剤Bとして、Sigma-Aldrich社製 ビスフェノールAジグリシジルエーテルを用意した。
【0063】
また、レベリング剤Cとして、AGCセイミケミカル社製 サーフロン(登録商標) S−651(ノニオン系含フッ素界面活性剤)を用意した。さらに、無機酸化物Dとして、東亜合成社製 カビノン(登録商標)740HV(層状ケイ酸塩及び2−オクチルイミダゾリンを含む)を用意した。また、触媒Eとして、四国化成社製 キュアゾール(登録商標) 1B2MZ(イミダゾール系触媒)を用意した。
【0064】
用意したアクリル樹脂A、硬化剤B、レベリング剤C、無機酸化物D及び触媒Eのそれぞれを、質量比で88:7:2:2:1となるように混合した。そして、これら(固形分)について、固形分濃度30質量%となるようにトルエン(溶媒)で希釈した。これにより、実施例1の塗料組成物を得た。
【0065】
そして、得られた塗料組成物を、前記基材の接着層上に、ディップコート法(引き上げ速度1.3mm/s)にて塗布した。塗布後、80℃で、防爆式乾燥炉中にて30分の熱処理を施すことで、ポリプロピレンの表面に保護膜を形成した試験片を得た。なお、この保護膜の厚さは13μmであった。
【0066】
また、同じ手順で試験片をさらに五つ作製し、全部で六つの試験片を作製した。得られた六つの試験片のうち三つの試験片のそれぞれを用いて、以下の手順で撥水性試験、平滑性試験及び抗菌性試験の三つの試験を行った。また、残りの三つの試験片については、耐薬品性試験に使用した。
【0067】
(撥水性試験)
作製した試験片のうちの一つの試験片に形成された保護膜の上に、1μLの水をマイクロシリンジにて滴下し、滴下後10秒間待機した。そして、接触角計(協和界面科学製 CA-S150)を用いて水の接触角を測定した。測定の結果、接触角が100°よりも大きければ、撥水性に優れ、皮脂等を含んだ洗濯水が保護膜の表面に付着しにくいと考えて「◎」、接触角が100°以下であれば、撥水性が良くなく、洗濯水が付着しやすいと考えて「×」と評価した。
【0068】
(平滑性試験)
作製した試験片のうちの一つの試験片を用い、触針式表面形状測定器(Dektak8,ecco製)を使用し、測定箇所を変えながら保護膜の算術平均粗さ(Ra)を10回測定し、その平均を表面粗さとした。測定の結果、表面粗さ(10回の平均値)が0.1μmよりも小さければ、皮脂等を含んだ洗濯水が保護膜の表面に極めて付着しにくいと考えて「◎」、表面粗さが0.1μm以上0.25μm以下であれば、洗濯水が付着しにくいと考えて「○」、表面粗さが0.25μmよりも大きく0.5μm以下であれば、洗濯水がやや付着しやすいと考えて「△」、表面粗さが0.5μmよりも大きければ、洗濯水が極めて付着しやすいと考えて「×」と評価した。
【0069】
(抗菌性試験)
作製した試験片のうちの一つの試験片を用い、保護膜が露出するようにして、洗濯機の洗濯槽の外槽(図1に示す外槽2に相当)の内表面に、金属製のネジで固定した。そして、この洗濯機を使用して、洗濯時の洗濯槽に入る最大水量で、洗濯物の洗濯を行った。この洗濯の最中、試験片表面の保護膜には、皮脂等を含んだ洗濯水が接触することになる。洗濯終了後、洗濯機を30℃、90%RHの高湿恒温槽内に1週間放置した。1週間放置後、洗濯槽内槽を外し、洗濯槽外槽内面を目視で観察し、保護膜にカビが生えていないものを「◎」、生えているものを「×」と評価した。
【0070】
(耐薬品性試験)
作製した試験片のうちの残りの三つの試験片を、60℃に保温した液体アタック(登録商標、花王社製、洗濯用合成洗剤)の原液に600時間浸漬した。600時間経過後、洗剤の原液から取り出し、試験片を水道水で十分に洗浄し乾燥させた。そして、乾燥後の三つの試験片について、前記の撥水性試験、平滑性試験及び抗菌性試験と同様の試験を行った。
【0071】
浸漬前のそれぞれの評価結果(即ち、前記の撥水性試験、平滑性試験及び抗菌性試験の結果)と、600時間の浸漬後のそれぞれの評価結果とを比較した。そして、撥水性試験、平滑性試験及び抗菌性試験の全てで、評価結果に違いがないものを、耐薬品性に優れていると考えて「◎」、撥水性試験、平滑性試験及び抗菌性試験のいずれか一つのみの評価結果が変化したものを「○」、撥水性試験、平滑性試験及び抗菌性試験の全ての評価結果が変化したものを「×」と評価した。
【0072】
これらの評価結果は、後記する実施例2〜8及び比較例1〜5の評価結果とともに、後記する表1に示す。
【0073】
<実施例2>
アクリル樹脂A、硬化剤B、レベリング剤C、無機酸化物D及び触媒Eのそれぞれを、質量比で89:7:1:2:1となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。そして、作製した試験片を用いて、実施例1と同様にして、撥水性試験、平滑性試験、抗菌性試験及び耐薬品性試験の四つの試験を行った。その試験結果は後記する表1に示す。
【0074】
<実施例3>
アクリル樹脂A、硬化剤B、レベリング剤C、無機酸化物D及び触媒Eのそれぞれを、質量比で89.5:7:0.5:2:1となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。そして、作製した試験片を用いて、実施例1と同様にして、撥水性試験、平滑性試験、抗菌性試験及び耐薬品性試験の四つの試験を行った。その試験結果は後記する表1に示す。
【0075】
<実施例4>
アクリル樹脂A、硬化剤B、レベリング剤C、無機酸化物D及び触媒Eのそれぞれを、質量比で90:7:1:1:1となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。そして、作製した試験片を用いて、実施例1と同様にして、撥水性試験、平滑性試験、抗菌性試験及び耐薬品性試験の四つの試験を行った。その試験結果は後記する表1に示す。
【0076】
<実施例5>
アクリル樹脂A、硬化剤B、レベリング剤C、無機酸化物D及び触媒Eのそれぞれを、質量比で87:7:1:4:1となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。そして、作製した試験片を用いて、実施例1と同様にして、撥水性試験、平滑性試験、抗菌性試験及び耐薬品性試験の四つの試験を行った。その試験結果は後記する表1に示す。
【0077】
<実施例6>
アクリル樹脂A、硬化剤B、レベリング剤C、無機酸化物D及び触媒Eのそれぞれを、質量比で85:7:1:6:1となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。そして、作製した試験片を用いて、実施例1と同様にして、撥水性試験、平滑性試験、抗菌性試験及び耐薬品性試験の四つの試験を行った。その試験結果は後記する表1に示す。
【0078】
<実施例7>
アクリル樹脂A、硬化剤B、レベリング剤C、無機酸化物D及び触媒Eのそれぞれを、質量比で83:7:1:8:1となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。そして、作製した試験片を用いて、実施例1と同様にして、撥水性試験、平滑性試験、抗菌性試験及び耐薬品性試験の四つの試験を行った。その試験結果は後記する表1に示す。
【0079】
<実施例8>
アクリル樹脂A、硬化剤B、レベリング剤C、無機酸化物D及び触媒Eのそれぞれを、質量比で92:4:1:2:1となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。そして、作製した試験片を用いて、実施例1と同様にして、撥水性試験、平滑性試験、抗菌性試験及び耐薬品性試験の四つの試験を行った。その試験結果は後記する表1に示す。
【0080】
<比較例1>
アクリル樹脂A、硬化剤B、レベリング剤C、無機酸化物D及び触媒Eのそれぞれを、質量比で90:7:1:2:0(即ち、触媒Eを使用しない)となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。そして、作製した試験片を用いて、実施例1と同様にして、撥水性試験、平滑性試験、抗菌性試験及び耐薬品性試験の四つの試験を行った。その試験結果は後記する表1に示す。
【0081】
<比較例2>
アクリル樹脂A、硬化剤B、レベリング剤C、無機酸化物D及び触媒Eのそれぞれを、質量比で90:7:0:2:1(即ち、レベリング剤Cを使用しない)となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。そして、作製した試験片を用いて、実施例1と同様にして、撥水性試験、平滑性試験、抗菌性試験及び耐薬品性試験の四つの試験を行った。その試験結果は後記する表1に示す。
【0082】
<比較例3>
アクリル樹脂A、硬化剤B、レベリング剤C、無機酸化物D及び触媒Eのそれぞれを、質量比で91:7:1:0:1(即ち、無機酸化物Dを使用しない)となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。そして、作製した試験片を用いて、実施例1と同様にして、撥水性試験、平滑性試験、抗菌性試験及び耐薬品性試験の四つの試験を行った。その試験結果は後記する表1に示す。
【0083】
<比較例4>
アクリル樹脂A、硬化剤B、レベリング剤C、無機酸化物D及び触媒Eのそれぞれを、質量比で82:6:1:10:1となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。そして、作製した試験片を用いて、実施例1と同様にして、撥水性試験、平滑性試験、抗菌性試験及び耐薬品性試験の四つの試験を行った。その試験結果は後記する表1に示す。
【0084】
<比較例5>
アクリル樹脂A、硬化剤B、レベリング剤C、無機酸化物D及び触媒Eのそれぞれを、質量比で96:0:1:2:1(即ち、硬化剤Bを使用しない)となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。そして、作製した試験片を用いて、実施例1と同様にして、撥水性試験、平滑性試験、抗菌性試験及び耐薬品性試験の四つの試験を行った。その試験結果は後記する表1に示す。
【0085】
<評価結果>
実施例1〜8及び比較例1〜5の評価結果を、以下の表1に示す。なお、表1において、◎、○、△、×のそれぞれを4点、3点、3点、1点に換算して合計して得られた点数を、総合スコアとして併記した。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示すように、撥水性については、実施例1〜8及び比較例1〜5の全ての試験片で良好であった。即ち、全て◎であり、×は無かった。この理由は、アクリル樹脂Aと硬化剤Bとが硬化して得られた樹脂(実施例1〜8及び比較例1〜4)、及び、アクリル樹脂A(比較例5)のそれぞれに含まれるシリコーン基(ジメチルシロキサン)が保護膜の表面に配向し、撥水性が高くなったためと考えられる。
【0088】
また、平滑性については、実施例2及び4と、実施例5〜8とを比較すると、レベリング剤Cの含有量が同じ1%であっても、違いが生じた。この理由は、無機酸化物Dの含有量の増加により平滑性が低下したためと考えられる。ただし、実施例8では、無機酸化物Dの量は実施例2及び4と同じであるが、評価が実施例2及び4とは異なっていた。これは、実施例8で使用した硬化剤Bの量が、実施例2及び4で使用した量よりも少なく、アクリル樹脂Aと硬化剤Bとの架橋が不十分であったためと考えられる。また、同じ含有量である実施例5及び8と、実施例6及び7とを比較しても、平滑性に違いが生じた。その理由も、同様に無機酸化物Dの含有量の増加により平滑性が低下したためと考えられる。
【0089】
また、レベリング剤Cが含まれていない比較例2では、平滑性は良くなかった。ただ、レベリング剤Cが実施例1等と同程度含まれている比較例4でも、平滑性は良くなかった。その理由は、レベリング剤Cにより平滑性が向上するが、比較例4では過剰に無機酸化物Dが含有されており、平滑性が低下したためと考えられる。
【0090】
さらに、抗菌性については、実施例1〜8並びに比較例1、2、4及び5の試験片で、良好であった。しかし、無機酸化物Dを含まない塗料組成物を使用した比較例3では、抗菌性が劣っていた。この理由は、抗菌作用を示す窒素原子を含む複素環化合物が含まれないため、菌やかびが繁殖し易くなったためと考えられる。
【0091】
また、耐薬品性については、実施例1〜8のいずれも良好であった。しかし、比較例2〜4ではある程度良好な結果が得られたものの、比較例1及び5では、耐薬品性が劣っていた。この理由は、比較例1では触媒Eが、また、比較例5では硬化剤Bが含まれていないため、架橋が進行せず、高強度の高分子樹脂が得られずに耐薬品性が低下したと考えられる。
【0092】
以上のように、本実施形態の塗料組成物を使用した実施例1〜8では、試験結果はいずれも良好であり、その総合スコアとしていずれも14点〜16点以上であった。一方で、本実施形態の塗料組成物ではない塗料組成物を使用した比較例1〜5では、試験結果に少なくとも一つの×が含まれ、かつ、その総合スコアはいずれも13点以下であった。従って、本実施形態の塗料組成物を使用して保護膜を形成することで、特に耐薬品性に優れるほか、撥水性や平滑性、抗菌性についても優れる保護膜が形成されることがわかった。また、この保護膜は基材に固定されるため、次亜塩素酸等が排水として排出されることがなく、地球環境に負荷をかけることがない。従って、本実施形態の塗料組成物によれば、地球環境に大きな負荷をかけることなく、耐薬品性を向上させて耐久性を向上させた保護膜を形成することができる。
【符号の説明】
【0093】
2 洗濯槽の外槽(基材)
3 洗濯槽の内槽(基材)
9 排水管(基材)
10 保護膜(塗膜)
図1
図2