(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に従って、歪点が高くなるように組成を調整すると、失透及び難熔解という問題が生じやすいため、歪点を高くするには限界がある。また、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を作製するとき、成形工程後に行う冷却工程においてシートガラスの冷却速度を小さくすると、徐冷経路が長くなり、徐冷装置のコストが増大するという問題があった。
【0007】
また、特許文献2に従って、第1の冷却工程における平均冷却速度を、第3の冷却工程における平均冷却速度より速くし、第3の冷却工程における平均冷却速度を、第2の冷却工程における平均冷却速度より速くしても、熱収縮率の低減に限界があり、十分ではないという問題があった。
【0008】
携帯電話等のモバイル機器に搭載されるディスプレイには、益々高精細化及び低消費電力化が求められている。そのため、近年、ディスプレイの製造工程における熱処理時に生じるガラス基板の熱収縮率をさらに小さくすることが益々求められている。
【0009】
そこで、本発明は、成形後に行う冷却工程において、ガラス基板の熱収縮率を従来に比べて低減することができるディスプレイ用ガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、ディスプレイ用ガラス基板の製造方法である。当該製造方法は、
熔融ガラスをダウンドロー法によってシートガラスに成形する成形工程と、
成形された前記シートガラスを流すときに、前記シートガラスの流れ方向と直交する幅方向の中心部の温度が300℃になるまで冷却する冷却工程と、を備える。
前記冷却工程において、前記シートガラスの幅方向の両端部よりも前記シートガラスの前記幅方向の内側にあり、前記中心部を含む領域である中央領域の
うち、前記中心部の温度が450℃未満300℃以上の温度領域における平均冷却速度
は、前記中央領域の前記温度領域以外の領域
における平均冷却速度に比べて小さい。
【0011】
前記冷却工程は、
前記シートガラスに成形された後、前記シートガラスの前記幅方向の中心部の温度が徐冷点以上であるとき、前記シートガラスの幅方向の両端部よりも前記シートガラスの幅方向内側にあり、前記中心部を含む領域である中央領域を第1平均冷却速度で冷却する第1冷却工程と、
前記中心部の温度が前記徐冷点未満450℃以上であるとき、前記中央領域を第2平均冷却速度で冷却する第2冷却工程と、
前記中心部の温度が450℃未満300℃以上であるとき、前記中央領域を第3平均冷却速度で冷却する第3冷却工程と、を含み、
前記第3平均冷却速度は、前記第1平均冷却速度及び前記第2平均冷却速度より小さい、ことが好ましい。
【0012】
前記冷却工程は、さらに、前記中心部の温度が300℃未満100℃以上であるとき、前記中央領域を第4平均冷却速度で冷却する第4冷却工程を含み、
前記第4平均冷却速度は、前記第3平均冷却速度よりも大きい、ことが好ましい。
【0013】
また、本発明の第2の態様は、所定の処理温度で熱処理を施して表面に薄膜を形成するためのディスプレイ用ガラス基板の製造方法である。当該製造方法は、
熔融ガラスをダウンドロー法によってシートガラスに成形する成形工程と、
成形された前記シートガラスを流すときに、前記シートガラスの流れ方向と直交する幅方向の中心部の温度が、前記処理温度よりも250℃低い温度、すなわち(前記処理温度-250℃)になるまで冷却する冷却工程と、を備える。
前記冷却工程において、前記シートガラスの幅方向の両端部よりも前記シートガラスの前記幅方向の内側にあり、前記中心部を含む領域である中央領域の
うち、前記中心部の温度が、前記処理温度よりも100℃低い温度未満、すなわち(前記処理温度−100℃)未満、
かつ前記処理温度よりも250℃低い温度以上、すなわち(前記処理温度−250℃)以上の温度領域における平均冷却速度
は、前記中央領域の前記温度領域以外の領域における平均冷却速度に比べて小さい。
【0014】
前記冷却工程は、
前記シートガラスに成形された後、前記シートガラスの幅方向の中心部の温度が徐冷点以上であるとき、前記シートガラスの幅方向の両端部よりも前記シートガラスの幅方向内側にあり、前記中心部を含む領域である中央領域を第1平均冷却速度で冷却する第1冷却工程と、
前記中心部の温度が、前記徐冷点未満、前記処理温度よりも100℃低い温度以上、すなわち(前記処理温度−100℃)以上であるとき、前記中央領域を第2平均冷却速度で冷却する第2冷却工程と、
前記中心部の温度が、前記処理温度よりも100℃低い温度未満、すなわち(前記処理温度-100℃)未満、前記処理温度よりも250℃低い温度以上、すなわち(前記処理温度-250℃)以上であるとき、前記中央領域を第3平均冷却速度で冷却する第3冷却工程と、を含み、
前記第3平均冷却速度は、前記第1平均冷却速度及び前記第2平均冷却速度より小さい、ことが好ましい。
【0015】
前記冷却工程は、さらに、前記中心部の温度が、前記処理温度よりも250℃低い温度未満、すなわち前記処理温度(℃)−250℃未満、前記処理温度よりも450℃低い温度以上、すなわち前記処理温度(℃)−450℃以上であるとき、前記中央領域を第4平均冷却速度で冷却する第4冷却工程を含み、
前記第4平均冷却速度は、前記第3平均冷却速度よりも大きい、ことが好ましい。
【0016】
前記第1の態様及び第2の態様のいずれにおいても、前記第1平均冷却速度は、前記第2平均冷却速度より大きい、ことが好ましい。
【0017】
前記第1の態様及び第2の態様のいずれにおいても、前記第3平均冷却速度は、5.0℃/秒以下である、ことが好ましい。
【0018】
前記第1の態様及び第2の態様のいずれにおいても、前記ガラス基板の熱収縮率は15ppm以下である、ことが好ましい。
ただし、前記熱収縮率とは、500℃で30分保持の熱処理が施された後のガラス基板の収縮量を用いて、以下の式にて求められる値である。
熱収縮率(ppm)
={熱処理後のガラス基板の収縮量/熱処理前のガラス基板の長さ}×10
6【0019】
前記第1の態様及び第2の態様のいずれにおいても、前記ガラス基板の歪点は、680℃以上である、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
上述のディスプレイ用ガラス基板の製造方法によれば、従来に比べて熱収縮率を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本実施形態のディスプレイ用ガラス基板の製造方法について説明する。本実施形態のディスプレイ用ガラス基板の製造方法では、オーバーフローダウンドロー法を用いてガラス基板が製造される。なお、本明細書では、(処理温度-X℃)は、処理温度(℃)よりX℃低い温度を表す(Xは正数)。
【0023】
(1)ガラス基板の製造方法の概要
まず、
図1および
図2を参照して、ディスプレイ用ガラス基板製造方法に含まれる複数の工程および複数の工程に用いられるガラス基板製造装置100を説明する。
図1は、本実施形態のディスプレイ用ガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図であり、
図2は、本実施形態のディスプレイ用ガラス基板の製造方法に用いるガラス基板製造装置の一例の模式図である。
ガラス基板製造方法は、
図1に示すように、主として、熔融工程S1と、清澄工程S2と、成形工程S3と、冷却工程S4とを含む。
【0024】
熔融工程S1は、ガラスの原料が熔融される工程である。ガラスの原料は、所望の組成になるように調合された後、熔融装置11に投入される。ガラスの原料は、熔融装置11で熔融されて、熔融ガラスFGになる。熔融温度は、ガラスの種類に応じて調整される。本実施形態では、熔融工程S1における熔融ガラスFGの最高温度が1500℃〜1650℃となるように加熱される。熔融ガラスFGは、上流パイプ23を通って清澄装置12に送られる。
【0025】
清澄工程S2は、熔融ガラスFG中の気泡の除去を行う工程である。清澄装置12内で気泡が除去された熔融ガラスFGは、その後、下流パイプ24を通って、成形装置40へと送られる。
【0026】
成形工程S3は、熔融ガラスFGをシート状のガラスであるシートガラスSGに成形する工程である。具体的に、熔融ガラスFGは、成形装置40に含まれる成形体41(
図3参照)に連続的に供給された後、成形体41からオーバーフローする。オーバーフローした熔融ガラスFGは、成形体41の表面に沿って流下する。熔融ガラスFGは、その後、成形体41の下端部で合流してシートガラスSGへと成形される。
【0027】
冷却工程S4は、シートガラスSGを冷却する工程である。ガラスシートは、冷却工程S4を経て室温に近い温度へと冷却される。なお、冷却工程S4における、冷却の状態に応じて、ガラス基板の厚み(板厚)、ガラス基板の反り量、およびガラス基板の平面歪の値が決まる。
【0028】
なお、冷却工程S4の後に、切断工程を設けてもよい。例えば、切断工程は、室温に近い温度になったシートガラスSGを、切断装置90において所定の大きさに切断する工程である。
【0029】
なお、切断工程で所定の大きさに切断されたシートガラスSGは、その後、端面加工等の工程を経て、ガラス基板となる。ガラス基板は、梱包された後、パネルメーカー等に出荷される。パネルメーカーは、ガラス基板の表面に素子を形成して、ディスプレイを製造する。
【0030】
なお、冷却工程S4の後に、切断工程を設けなくてもよい。すなわち、冷却工程S4で冷却されたシートガラスSGは、そのまま梱包された後、パネルメーカー等に出荷されてもよい。この場合、パネルメーカーは、シートガラスSGの表面に素子を形成した後に、シートガラスSGを所定の大きさに切断して端面加工することで、ディスプレイを製造する。
【0031】
以下、
図3〜
図5を参照して、ガラス基板製造装置100に含まれる成形装置40の構成を説明する。なお、本実施形態において、シートガラスSGの幅方向とは、シートガラスSGの表面の面内方向のうち、シートガラスSGが流下する方向(流れ方向)に交差する方向、すなわち、水平方向を意味する。
【0032】
(2)成形装置の構成
まず、
図3および
図4に、成形装置40の概略構成を示す。
図3は、成形装置40の断面図である。
図4は、成形装置40の側面図である。
【0033】
成形装置40は、シートガラスSGが通過する経路と、経路を取り囲む空間とを有する。通路を取り囲む空間は、例えば、成形体室20、第1冷却室30、および第2冷却室80で構成されている。
本実施形態では、成形体41の下端部41aで熔融ガラスFGが合流してシートガラスSGが形成された位置から、シートガラスSGが下方に流れるときに、シートガラスSGの流れ方向に沿った温度領域のうち、シートガラスSGの中心部C(
図4参照)の温度が450℃未満300℃以上の温度領域における平均冷却速度が、後述するように、冷却工程S4の中の、中心部Cの温度が450℃未満300℃以上である温度領域以外の温度領域における平均冷却速度に比べて小さい。この点は後述する。なお、中心部Cの温度が450℃未満300℃以上である温度領域の平均冷却速度と平均冷却速度が比較される温度領域は、例えば上流側と下流側の温度差が少なくとも10℃以上である温度領域である。
なお、シートガラスSGの幅方向の両端部とは、シートガラスSGの両側の端からシートガラスSGの幅方向の内側に向かって200mm進んだ位置までの幅方向の範囲内の領域をいい、両端部の幅方向の内側の領域をシートガラスSGの中央領域CA(
図4参照)という。シートガラスSGの両端部R,Lは、製造後に切断除去される対象の部分を含む領域であるのに対し、シートガラスSGの中央領域CAは、板厚を均一にする対象の部分を含む領域である。シートガラスSGの中央領域CAは、シートガラスSGの幅方向の幅のうちシートガラスSGの幅方向の中心から幅の半分の例えば85%以内の範囲である。中心部Cとは、シートガラスSGの幅方向の中心位置をいう。平均冷却速度とは、中心部Cを含んだ中央領域CAの平均冷却速度であり、定められる温度領域における同じ幅方向の位置での流れ方向の温度差を、シートガラスSGがこの温度領域を通過する通過時間で割った値である。450℃未満300℃以上の温度領域のように、X1℃未満X2℃以上と表される温度領域では、中心部Cの温度差はX1−X2(℃)と扱われて、中心部Cにおける平均冷却速度が算出される。中央領域CAの中心部C以外の部分の平均冷却速度も、その温度領域における温度差を通過時間で割った値である。
【0034】
成形体室20は、前述の清澄装置12から送られる熔融ガラスFGがシートガラスSGに成形される空間である。
【0035】
第1冷却室30は、成形体室20の下方に配置され、シートガラスSGの厚みおよび反り量を調整するための空間である。第1冷却室30では、シートガラスSGの中心部Cの温度が徐冷点より高い状態のシートガラスSGが冷却される。シートガラスSGの中心部Cは、シートガラスSGの幅方向の中心である。
【0036】
第2冷却室80は、成形体室20及び第1冷却室30の下方に配置され、シートガラスSGの反り、熱収縮率、および歪値を調整するための空間である。第2冷却室80では、第1冷却室30内を通過したシートガラスSGが、徐冷点、歪点を経て、少なくとも、歪点より100℃低い温度まで冷却される。しかし、第2冷却室80では、シートガラスSGが、室温付近の温度まで冷却されてもよい。なお、第2冷却室80の内部は、断熱部材80bによって、複数の空間に区分けされていてもよい。複数の断熱部材80bは、複数の引下げローラ81a〜81gのそれぞれの間で、シートガラスSGの厚み方向の両側に配置される。これにより、シートガラスSGの温度管理を、より精度よく行うことができる。
【0037】
また、成形装置40は、例えば、成形体41と、仕切り部材50と、冷却ローラ51と、温度調整ユニット60と、引下げローラ81a〜81gと、ヒータ82a〜82gと、を備える。さらに、成形装置40は、制御装置91を備える(
図5参照)。制御装置91は、成形装置40に含まれる各構成の駆動部を制御する。
【0038】
以下、成形装置40に含まれる各構成について詳細に説明する。
【0039】
(2−1)成形体
成形体41は、成形体室20内に設けられる。成形体41は、熔融ガラスFGをオーバーフローさせることによって、熔融ガラスFGをシート状のガラスであるシートガラスSGへと成形する。
図3に示すように、成形体41は、断面形状に関して略五角形の形状(楔形に類似する形状)を有する。略五角形の先端は、成形体41の下端部41aに相当する。
【0040】
また、成形体41は、第1端部に流入口42を有する(
図4参照)。成形体41の上面には、溝43が形成されている。流入口42は、上述の下流パイプ24と接続されており、清澄装置12から流れ出た熔融ガラスFGは、流入口42から溝43に流し込まれる。成形体41の溝43に流し込まれた熔融ガラスFGは、成形体41の一対の頂部41b,41bからオーバーフローし、成形体41の一対の側面(表面)41c,41cを沿いながら流下する。その後、熔融ガラスFGは、成形体41の下端部41aで合流してシートガラスSGになる。
【0041】
(2−2)仕切り部材
仕切り部材50は、成形体室20から第1冷却室30への熱の移動を遮断する部材である。仕切り部材50は、熔融ガラスFGの合流ポイントの近傍に配置されている。また、
図3に示すように、仕切り部材50は、合流ポイントで合流した熔融ガラスFG(シートガラスSG)の厚み方向両側に配置される。仕切り部材50は、例えば、断熱材である。仕切り部材50は、熔融ガラスFGの合流ポイントの上側雰囲気および下側雰囲気を仕切ることにより、仕切り部材50の上側と下側との間の熱の移動を遮断する。
【0042】
(2−3)冷却ローラ
冷却ローラ51は、第1冷却室30内に設けられる。より具体的に、冷却ローラ51は、仕切り部材50の直下に配置されている。また、冷却ローラ51は、シートガラスSGの厚み方向両側で、且つ、シートガラスSGの幅方向の両端部R,Lの位置に配置される。シートガラスSGの厚み方向両側に配置された冷却ローラ51は対で動作する。すなわち、シートガラスSGの幅方向両端部は、二対の冷却ローラ51によって挟み込まれる。
【0043】
例えば、冷却ローラ51は、内部に通された空冷管や水冷管により冷却されている。冷却ローラ51は、シートガラスSGの両端部R,Lに接触し、熱伝導によりシートガラスSGの両端部R,Lを急冷する。冷却ローラ51に接触したシートガラスSGの両端部R,Lの粘度は、例えば、10
9.0poise以上である。
【0044】
冷却ローラ51は、冷却ローラ駆動モータ390(
図5を参照)により回転駆動される。冷却ローラ51は、シートガラスSGの両端部R,Lを冷却すると共に、シートガラスSGを下方に引き下げる機能も有する。なお、冷却ローラ51によるシートガラスSGの両端部R,Lの冷却は、シートガラスSGの幅およびシートガラスSGの厚みの均一化に影響を与える。
【0045】
(2−4)温度調整ユニット
温度調整ユニット60は、第1冷却室30内に設けられ、シートガラスSGを徐冷点近傍まで冷却するユニットである。温度調整ユニット60は、仕切り部材50の下方であって、第2冷却室80の天板80aの上方に配置される。
【0046】
温度調整ユニット60は、シートガラスSGの中心部Cの温度が徐冷点近傍になるまで、シートガラスSGを冷却する。シートガラスSGの中心部Cは、その後、第2冷却室80内で、徐冷点、歪点を経て、室温近傍の温度まで冷却される。
【0047】
温度調整ユニット60は、冷却ユニット61を有してもよい。冷却ユニット61は、シートガラスSGの幅方向に複数(ここでは、3つ)及びその流れ方向に複数配置される。具体的には、冷却ユニット61は、シートガラスSGの両端部R,Lの各表面に対向するように、1つずつ配置され、且つ、後述する中央領域CA(
図4を参照)の各表面に対向するように1つ配置されている。
【0048】
(2−5)引下げローラ
引下げローラ81a〜81gは、第2冷却室80内に設けられ、第1冷却室30内を通過したシートガラスSGを、シートガラスSGの流れ方向へ引き下げる。引下げローラ81a〜81gは、第2冷却室80の内部で、流れ方向に沿って所定の間隔を空けて配置される。引下げローラ81a〜81gは、シートガラスSGの厚み方向両側(
図3参照)、および、シートガラスSGの幅方向の両端部R,Lの位置に(
図4参照)に複数配置される。すなわち、引下げローラ81a〜81gは、シートガラスSGの幅方向の両端部R,Lの位置で、かつ、シートガラスSGの厚み方向の両側に接触しながらシートガラスSGを下方に引き下げる。
【0049】
引下げローラ81a〜81gは、引下げローラ駆動モータ391(
図5参照)によって駆動される。引下げローラ81a〜81gの周速度は、引下げローラ81a〜81gが下流側に設置されている程、大きくすることが好ましい。すなわち、複数の引下げローラ81a〜81gのうち、引下げローラ81aの周速度が最も小さく、引下げローラ81gの周速度が最も大きい。シートガラスSGの厚み方向両側に配置された引下げローラ81a〜81gは、対で動作し、対の引下げローラ81a,81a,・・・が、シートガラスSGを下方向に引き下げる。
【0050】
(2−6)ヒータ
ヒータ82a〜82gは、第2冷却室80の内部に設けられ、第2冷却室80の内部空間の温度を調整する。具体的に、ヒータ82a〜82gは、シートガラスSGの流れ方向およびシートガラスSGの幅方向に複数配置される。例えば、シートガラスSGの流れ方向には、7つのヒータが配置され、シートガラスの幅方向には3つのヒータが配置される。幅方向に配置される3つのヒータは、シートガラスSGの中央領域CAと、シートガラスSGの両端部R,Lとをそれぞれ温度制御する。ヒータ82a〜82gの出力は、後述する制御装置91によって制御される。これにより、第2冷却室80内部を通過するシートガラスSGの近傍の雰囲気温度が制御される。ヒータ82a〜82gによって第2冷却室80内の雰囲気温度が制御されることによって、シートガラスSGの温度制御が行われる。また、温度制御により、シートガラスSGは、粘性域から粘弾性域を経て弾性域へと推移する。このように、ヒータ82a〜82gの制御により、第2冷却室80では、シートガラスSGの温度が、徐冷点近傍の温度から室温付近の温度まで冷却される。
【0051】
なお、シートガラスSGの近傍には、雰囲気温度を検出する雰囲気温度検出手段(本実施形態では、熱電対)380(
図5参照)が設けられていてもよい。例えば、複数の熱電対380が、シートガラスSGの流れ方向およびシートガラスSGの幅方向に配置される。熱電対380は、シートガラスSGの表面の温度を検出することができる。例えば、熱電対380は、シートガラスSGの中心部Cの温度と、シートガラスSGの両端部R,Lの温度とをそれぞれ検出する。ヒータ82a〜82gの出力は、熱電対380によって検出される雰囲気温度に基づいて制御される。
【0052】
(2−7)切断装置
切断装置90は、第2冷却室80内で室温付近の温度まで冷却されたシートガラスSGを、所定のサイズに切断する。これにより、シートガラスSGは、複数のガラス板になる。切断装置90は、切断装置駆動モータ392(
図5を参照)によって駆動される。なお、切断装置90は、必ずしも第2冷却室80の直下に設けられていなくてもよい。また、シートガラスSGは切断装置90で切断されなくてもよく、シートガラスSGをロール状に巻き回してロール状のシートガラスを作製してもよい。
【0053】
(2−8)制御装置
図5は、制御装置91の構成の一例を示す図である。
制御装置91は、CPU、RAM、ROM、およびハードディスク等から構成されており、ガラス基板製造装置100に含まれる種々の機器の制御を行う。具体的には、
図5に示すように、制御装置91は、ガラス基板製造装置100に含まれる各種のセンサ(例えば、熱電対380)やスイッチ(例えば、主電源スイッチ381)等による信号を受けて、温度調整ユニット60、ヒータ82a〜82g、冷却ローラ駆動モータ390、引下げローラ駆動モータ391、切断装置駆動モータ392等の制御を行う。
【0054】
(3)温度管理
本実施形態に係るガラス基板の製造方法の冷却工程S4では、中央領域CAの冷却速度であって、中心部Cの温度が450℃未満300℃以上の温度領域における平均冷却速度が、冷却工程S4の中の、中心部Cの温度が450℃未満300℃以上である上記温度領域以外の温度領域における中央領域CAの平均冷却速度に比べて小さい。すなわち、冷却工程S4において、中心部Cの温度が450℃未満300℃以上である温度領域において、中央領域CAにおける平均冷却速度は最も小さい。このように平均冷却速度を調整することにより、ガラス基板の製造ライン上で、極めて低い熱収縮率を達成することができる。この場合、平均冷却速度の調整は、上述した、冷却ローラ51、温度調整ユニット60、およびヒータ82a〜82gを用いて行われる。勿論、このとき、
図6に示すようなシートガラスSGの幅方向の温度プロファイルTP1〜TP10を流れ方向の各温度領域における目標温度プロファイルとして、第1冷却室30及び第2冷却室80の温度を制御することにより、シートガラスSGの厚み、反り量、及び歪を調整することができる。
【0055】
図6は、冷却工程における目標温度プロファイルの一例である温度プロファイルTP1〜TP10を説明する図である。温度プロファイルTP1では、シートガラスSGの中央領域CAの温度が均一であり、シートガラスSGの両端部R,Lは、中央領域CAの温度よりも低い。シートガラスSGが、この温度プロファイルTP1になるように、成形後の冷却ローラ51を用いてシートガラスSGの両端部R,Lの冷却が行なわれる。温度プロファイルTP2〜TP5では、シートガラスSG全体の温度を下げながら、中央領域CAの温度分布を矩形形状から上に凸の略放物線形状にし、略放物線形状の凸の程度を徐々に小さくする。温度プロファイルTP6において両端部R,L及び中央領域CAにおける温度を一定にする。この後、温度プロファイルTP7〜TP10では、下に凸の略放物線形状の温度分布にし、シートガラスSG全体の温度を下げながら、中央領域CAの温度分布を下に凸の程度を大きくする。シートガラスSGの温度が、このような温度プロファイルになるように、冷却ユニット61及びヒータ82a〜82gを用いて第1冷却室30及び第2冷却室80の温度調整を行なう。
なお、第1冷却室30及び第2冷却室80の温度調整を行なう場合、シートガラスSGの温度は、シートガラスSGの温度の実測値を用いてもよく、また、ヒータ82a〜82gによって制御されるシートガラスSGの雰囲気温度に基づいてシミュレーションにより算出された値を用いてもよい。
【0056】
図7は、本実施形態における中心部CのシートガラスSGの流れ方向に沿った温度履歴(温度の時間変化)の一例を示す図である。
図7において、時点Aで、成形体41の下端部41aにおいてシートガラスSGが形成される。このときのシートガラスSGの温度は、例えば1200℃である。時点Bでは、シートガラスSGの温度は徐冷点(ガラスの粘度が10
13poiseのときの温度、例えば775℃)になり、時点Cでは、シートガラスSGの温度は450℃になる。時点Dでは、シートガラスSGの温度は300℃になり、時点Eでは、シートガラスSGの温度は200℃以下になり切断装置90で切断される。このとき、時点Aから時点BまでのシートガラスSGの温度領域(シートガラスSGの形成後徐冷点以上の温度領域)を第1温度領域R1とし、時点B経過後時点CまでのシートガラスSGの温度領域(徐冷点未満450℃以上の温度領域)を第2温度領域R2とし、時点C経過後時点DまでのシートガラスSGの温度領域(450℃未満300℃以上の温度領域)を第3温度領域R3とし、時点D経過後時点EまでのシートガラスSGの温度領域(300℃未満100℃以上の温度領域)を第4温度領域R4としている。このとき、第1〜4温度領域R1〜R4において、第3温度領域R3における第3平均冷却速度が、他の第1,2,4温度領域R1、R2,R4の第1,2,4平均冷却速度に比べて小さい。第1温度領域R1におけるシートガラスSGの冷却工程は、第1冷却工程であり、第2〜4温度領域R2〜R4におけるシートガラスSGの冷却工程は、それぞれ第2〜4冷却工程である。
本実施形態では、温度領域R3における第3平均冷却速度は、温度領域R3以外の範囲を任意に区切って温度領域(10℃以上の温度差を有する温度領域)を定めた場合であっても、最も小さい。
【0057】
なお、第1温度領域R1における第1平均冷却速度は、第2温度領域における第2平均冷却速度より大きいことが、効率的に熱収縮率を低減させることができる点で好ましい。具体的には、第1温度領域R1におけるガラスの緩和は素早く進行するため、第1温度領域R1よりも第2〜4温度領域R2〜R4の冷却速度を遅くした方が熱収縮率を効率的に低減させるという観点から好ましい。
また、第4冷却工程の第4温度領域R4における第4平均冷却速度は、第3温度領域における第3平均冷却速度よりも大きいことが、冷却工程S4のシートガラスSGの経路の長さを変更しないで済む点及びガラス基板の生産効率の低下を抑える点で好ましい。
また、第3温度領域R3における第3平均冷却速度は、5℃/秒以下であることが、熱収縮率を低減させることができる点から好ましい。また、第3平均冷却速度の下限は特に制限されないが、シートガラスSGの経路の長さを変更しない点から、あるいはガラス基板の生産効率の低下を抑えることができる点から、例えば0.5℃/秒以上であることが好ましい。さらに、生産性を保ちつつ熱収縮率を低減させるという観点からは、第3平均冷却速度は、1℃/秒〜4.5℃/秒であることが好ましい。
また、第1温度領域R1における第1平均冷却速度は、例えば、5℃/秒〜50℃/秒であることが好ましく、より好ましくは15℃/秒〜35℃/秒である。第2温度領域R2における第2平均冷却速度は、例えば5℃/秒以下であり、1℃/秒〜5℃/秒であることが好ましく、2℃/秒〜5℃/秒であることがより好ましい。
また、本実施形態のように、中心部Cの温度が300℃未満100℃以上である第4温度領域R4における第4平均冷却速度は、第3温度領域R3における第3平均冷却速度よりも大きいことが、シートガラスSGの経路を長くせず、熱収縮率を低くする点で、好ましい。
【0058】
図7に示す温度履歴は、中心部Cにおける温度履歴であるが、中心部Cから外れた中央領域CAの他の部分の幅方向の同じ位置における温度の時間履歴も同様に、第3温度領域R3における平均冷却速度が最も小さい。
第1温度領域R1〜第4温度領域R4における第1〜4平均冷却速度は、第1冷却室30及び第2冷却室80の雰囲気温度を調整することに得られるものであり、常温における自然放冷に比べて小さい速度である。
【0059】
一般的に、ガラスは非晶質であり、高温のガラスは、熱によって分子構造が最適な構造に向かって変化し、すなわち熱緩和して収縮しようとする。このため、熱収縮率の小さいガラス基板を作製するには、シートガラスSGの熱緩和が十分に進行するように、ゆっくり冷却することが好ましい。シートガラスSGの冷却速度が速く、熱緩和が十分になされずにシートガラスSGが冷却されると、熱緩和の途中でガラス内の分子構造の変化は高い粘性によって抑制あるいは阻止される。このため、このようなシートガラスSGから得られるガラス基板を熱処理のために再加熱すると、熱緩和の抑制あるいは阻止が解除されて熱緩和の途中から再開し始める。
【0060】
ところで、ガラスは速度の異なる複数の緩和を有しており、ガラスの緩和は異なる緩和速度をもつ緩和の重ね合わせで表すことができる(以下、緩和速度の異なる緩和を、緩和の「成分」と呼ぶ)。上述したようにガラスの緩和成分として、すばやく熱緩和して収縮する成分、緩やかに熱緩和して収縮する成分、さらに、中間の速さで熱緩和して収縮する成分等が多数存在する。このため、冷却工程では、これらの成分全てにおいて熱緩和が十分に進行するような温度履歴を設定することが好ましい。しかし、冷却工程S4におけるシートガラスSGの経路は、
図4に示すように、成形装置40の鉛直上方から下方に向かう経路であり、建物等の構造物内に設けられているので、経路を延長することは建物等の構造物を改修、増築等をする必要があるため、経路を延長することは難しい。このため、既存の搬送経路において、シートガラスSGの温度履歴を適切に行なって冷却工程S4におけるガラス基板の熱収縮率を効率よく小さくすることが好ましい。本実施形態では、第3温度領域R3における平均冷却速度を、冷却工程S4の中の、第3温度領域R3以外の温度領域における平均冷却速度に比べて小さくすることにより、ガラス基板の熱収縮率を効率よく小さくすることができる。この理由は、以下のように想定される。
【0061】
図8は、横軸に時間、縦軸に温度を表した冷却工程S4におけるシートガラスSGの冷却工程における温度履歴T1〜T3(実線)の模式図である。図中の時点A,Eは、
図7における時点A,Eに対応する。ここで、温度履歴T1は、本実施形態の温度履歴の一例であり、温度履歴T2は、高温状態で温度履歴T1に対して冷却速度を小さくし、その後、冷却速度を温度履歴T1に対して大きくし、その後、冷却速度を温度履歴T1と同等の冷却速度にする形態であり、温度履歴T3は、高温状態で、温度履歴T1と同等の冷却速度にし、その後、温度履歴T1に対して冷却速度を小さくし、その後、温度履歴T1に対して冷却速度を大きくする形態である。
【0062】
温度履歴T1、T3では、上述した緩やかに熱緩和して収縮する成分(この成分を成分Xという)は、高温状態における冷却速度に追従できなくなり、点P1において、成分Xに関する分子構造の変化は粘性によって抑制あるいは阻止される。温度履歴T2では、高温状態の冷却速度は小さいため、点P2において、成分Xに関する分子構造の変化は粘性によって抑制あるいは阻止される。
一方、温度履歴T1では、すばやく熱緩和して収縮する成分(この成分を成分Yという)は、点P3において冷却速度に追従できなくなり、点P3で、成分Yに関する分子構造の変化(熱緩和)は粘性によって抑制あるいは阻止される。温度履歴T2では、成分Yは、点P4において冷却速度に追従できなくなり、点P4で成分Yに関する分子構造の変化(熱緩和)は粘性によって抑制あるいは阻止される。温度履歴T3では、成分Yは、点P5において冷却速度に追従できなくなり、点P5で成分Yに関する分子構造の変化(熱緩和)は粘性によって抑制あるいは阻止される。
【0063】
このような温度履歴T1〜T3において、点P1,P2の、分子構造の変化(熱緩和)が抑制あるいは阻止されるときの温度は、点P1,P2間であまり異ならないが、成分Yに関する分子構造の変化が抑制される点P3〜P5における温度は大きく異なる。具体的には、点P3における温度が最も低い。したがって、温度履歴T1〜T3において、熱緩和が抑制あるいは阻止される温度が低いほど、熱緩和が進んでいることから、成分Yに関する分子構造の変化が抑制あるいは阻止される時点の温度が低い程、熱収縮率を小さくすることができる。したがって、温度履歴T1〜T3のうち、最も低い温度で成分Yに関する分子構造の変化を抑制あるいは阻止する温度履歴T1が、シートガラスSGの切断前に、熱緩和を十分に行わせることができ、これによって、効率よく熱収縮率を低減したシートガラスSGを提供することができる。
【0064】
なお、シートガラスSGの熱収縮率が所定の目標値を達成するように第1〜4温度領域における第1〜4平均冷却速度を設定することができる。例えば、シートガラスSGの熱収縮率を複数種種の冷却条件の下で実際に測定し、得られた測定値に基づいて検量線を作成する。さらに、シートガラスSGの熱収縮率が所定の目標値を達成するように、作成した検量線を用いて、設定されているシートガラスSGの幅方向の目標となる温度プロファイルTP1〜TP10の流れ方向に沿った温度分布を調整することで、第1〜4温度領域における第1〜4平均冷却速度を設定することができる。
【0065】
本実施形態では、第3温度領域R3の温度範囲を450℃未満300℃以上としているが、所定の処理温度で熱処理を施して表面に薄膜を形成するためのディスプレイ用ガラス基板に適用する場合、第3温度領域R3を(処理温度-100℃)未満(前記処理温度-250℃)以上の温度領域とすることもできる。この場合、処理温度は、300℃以上、さらには400℃以上であることが好ましい。
例えば、ガラス基板の表面に、低温ポリシリコンTFT(Thin Film Transistor)等のTFT、あるいはIGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素)等の酸化物半導体に代表される薄膜が形成される。この半導体等の薄膜の形成時に、ガラス基板は、例えば、300℃以上、あるいは400℃以上の処理温度で熱処理される。したがって、ガラス基板は、この熱処理の処理温度に応じて、第3温度領域R3の温度範囲を定めるとよい。なお、薄膜の形成時の熱処理の処理温度は、例えば、300℃〜700℃であり、あるいは、400℃〜650℃である。
この場合、シートガラスSGの形成後、中心部Cの温度が徐冷点以上の温度領域を第1温度領域R1とし、中心部Cの温度が徐冷点未満(処理温度(℃)−100℃)以上の温度領域を第2温度領域R2としたとき、第3温度領域R3における第3平均冷却速度は、第1温度領域R1における第1平均冷却速度及び第2温度領域R2における第2平均冷却速度より小さいことが好ましい。
また、中心部Cの温度が(処理温度(℃)−250℃)未満(処理温度(℃)−450℃以上である温度領域を第4温度領域R4とし、第4温度領域R4における第4平均冷却速度は、第3温度領域R3における第3平均冷却速度よりも大きいことが、搬送経路を長くせず、熱収縮率を低くする点で好ましい。
【0066】
本実施形態では、このような温度履歴を冷却工程S4で定めることにより、ガラス基板の熱収縮率を15ppm以下にすることが、ディスプレイ用ガラス基板に適したガラス基板を提供できる点から好ましい。ガラス基板の熱収縮率を10ppm以下にすることがより好ましい。
また、ガラス基板の歪点(ガラスの粘度が10
14.5poiseのときの温度)は、ガラス基板の熱収縮率を小さくするという観点から680℃以上であることが好ましく、700℃以上であることがより好ましく、720℃以上であることがさらに好ましい。ただし、歪点が高くなるようにガラス組成を調整すると、失透温度が高くなる傾向にあるため、ガラス基板の歪点の上限は780℃以下であることが好ましく、760℃以下であることがより好ましい。
なお、失透温度は、1280℃以下であることが好ましく、熱収縮率の低減と耐失透性を両立するという観点からは、1100℃〜1270℃であることが好ましく、1150℃〜1240℃であることがより好まししい。
【0067】
(ガラス組成)
本実施形態で製造されるガラス基板のガラス組成として、例えば以下のガラス組成がモル%表示で例示される。
SiO
255〜80%、
B
2O
3 0〜18%、
Al
2O
3 3〜20%、
MgO 0〜20%、
CaO 0〜20%、
SrO 0〜20%、
BaO 0〜20%、
RO 5〜25%
(ただしRはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種である)、
R’
2O 0%〜2.0%
(ただしR’はLi、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種である)
を含む。
熔融ガラス中で価数変動する金属の酸化物の合計含有率は特に制限されないが、例えば、0.05〜1.5%含んでもよい。また、As
2O
3、Sb
2O
3およびPbOを実質的に含まないことが好ましい。
【0068】
(ガラス基板の適用例)
本実施形態のガラス基板の製造方法によって製造されるガラス基板は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等のディスプレイ用ガラス基板やディスプレイを保護するカバーガラスとして、特に適している。ディスプレイ用ガラス基板を用いるディスプレイには、ディスプレイ表面がフラットなフラットパネルディスプレイの他、有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイであって、ディスプレイ表面が湾曲した曲面ディスプレイが含まれる。ガラス基板は、高精細ディプレイ用ガラス基板として、例えば液晶ディスプレイ用ガラス基板、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ用ガラス基板、LTPS(Low Temperature Poly-silicon)薄膜半導体、あるいはIGZO(Indium,Gallium,Zinc,Oxide)等の酸化物半導体を用いたディプレイ用ガラス基板として用いることが好ましい。
ディスプレイ用ガラス基板としては、無アルカリガラス、または、アルカリ微量含有ガラスが用いられる。ディスプレイ用ガラス基板は、高温時における粘性が高い。例えば、10
2.5ポアズの粘性を有する熔融ガラスの温度は、1500℃以上である。なお、無アルカリガラスは、アルカリ金属酸化物(R’
2O)を実質的に含まない組成のガラスである。アルカリ金属酸化物を実施的に含まないとは、原料等から混入する不純物を除き、ガラス原料としてアルカリ金属酸化物を添加しない組成のガラスであり、例えば、アルカリ金属酸化物の含有量は0.1質量%未満である。
【0069】
(熱収縮率)
本実施形態における熱収縮率は、熱処理を行って測定される。
ガラス基板を所定のサイズの長方形に切りだし、長辺両端部にケガキ線を入れ、短辺中央部で半分に切断し、2つのガラスサンプルを得る。このうちの一方のガラスサンプルを、熱処理(500℃で30分)する。熱処理をしない他方のガラスサンプルの長さを計測する。さらに、熱処理したガラスサンプルと未処理のガラスサンプルとをつき合わせてケガキ線のずれ量を、レーザ顕微鏡等で測定して、ガラスサンプルの長さの差分を求めることでサンプルの熱収縮量を求めることができる。この熱収縮量である差分と、熱処理前のガラスサンプルの長さを用いて、以下の式により熱収縮率が求められる。このガラスサンプルの熱収縮率をガラス基板の熱収縮率とする。
熱収縮率(ppm)=(差分)/(熱処理前のガラスサンプルの長さ)×10
6
【0070】
(実験例)
上記ガラス基板製造装置100およびガラス基板の製造方法を用いて、以下の条件で実施例1〜3ならびに比較例のガラス基板を製造した。ガラスの組成(モル%)は、SiO
2 70.5%,B
2O
3 7.2%,Al
2O
3 11.0%,K
2O 0.2%,CaO 11.0%,SnO
2 0.09%,Fe
2O
30.01%であった。ガラスの失透温度は、1206℃であり、液相粘度は、1.9×10
5dPa・sであった。ガラスの徐冷点は758℃であり、歪点は699℃であった。また、シートガラスSGの幅は1600mm、厚みは、0.7mm(実施例1、比較例1)、0.5mm(実施例2、比較例2)、0.4mm(実施例3、比較例3)とした。また、ガラス基板に薄膜を形成するための熱処理温度は550℃であった。
【0071】
シートガラスSGの幅方向の中心部Cの温度が徐冷点以上であるときの平均冷却速度を第1平均冷却速度とし、中心部Cの温度が徐冷点未満450℃以上であるときの平均冷却速度を第2平均冷却速度とし、中心部Cの温度が450℃未満300℃以上であるときの平均冷却速度を第3平均冷却速度とした。実施例1〜3では、第3平均冷却速度は、第1平均冷却速度及び第2平均冷却速度よりも遅かった。一方、比較例1〜3では、第2平均冷却速度を実施例1〜3の第2平均冷却速度より遅くし、第3平均冷却速度を実施例1〜3の第3平均冷却速度より速くしたため、比較例1〜3の第2平均冷却速度は、比較例1〜3の第3平均冷却速度より遅かった。その結果、実施例1〜3の熱収縮率は15ppm以下であったが、比較例1〜3の熱収縮率は15ppmを超えた。
これより、本実施形態の効果は明らかである。
【0072】
以上、本発明のガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。