(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態に係る電線の配索構造およびワイヤハーネスにつき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0014】
[実施形態]
図1から
図8を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、電線の配索構造およびワイヤハーネスに関する。
図1は、実施形態に係るワイヤハーネスによりモータとインバータとを接続する構成を示す模式図、
図2は、実施形態に係るワイヤハーネスの斜視図である。
【0015】
図1に示すインバータ50およびモータ60は、ハイブリッド自動車や電気自動車等の車両に搭載される。インバータ50は、車両に搭載された電源(図示せず)からの直流出力を三相交流出力に変換する変換装置である。インバータ50は、PWM波形を出力するものでもよいが、正弦波形を出力するものであってもよい。モータ60は、インバータ50から出力された三相交流によって駆動される装置であり、例えば、Y字結線の三相モータである。
【0016】
実施形態に係るワイヤハーネス1は、上記の三相交流型のインバータ50とモータ60とを接続する電力供給線として用いられる。ワイヤハーネス1は、例えば、車体を構成するフロアパネルの下側に、車両前後方向に延在するように配線される。ワイヤハーネス1は、
図2に示すように、三相交流電力を3本の電線21,22,23を用いて供給する三相3線方式の電線群からなる三相電線である。
【0017】
図2に示すように、実施形態のワイヤハーネス1は、電線部2、コルゲートチューブ7、インバータ側コネクタ8、モータ側コネクタ9、および筐体10を有する。電線部2は、同一方向に纏められた3相の電線21,22,23を含む。インバータ側コネクタ8およびモータ側コネクタ9は、電線21,22,23の端末に設けられる接続部の一例である。インバータ側コネクタ8は、電線部2の一端に接続されており、電線部2をインバータ50に連結する。モータ側コネクタ9は、電線部2の他端に接続されており、電線部2をモータ60に連結する。
図3に示すように、電線部2の外周側は、筒状の編組線6(シールド部材)およびコルゲートチューブ7(保護部材)によって被覆されている。
【0018】
図3に示すように、電線部2の3相の電線21,22,23は、所定の中心軸線X1に沿って延在し、かつ、中心軸線X1周りの周方向に沿って等間隔に配置されている。3相の電線21,22,23のそれぞれは、ノンシールドタイプの電線であり、断面円形状の導体部4と、導体部4の外周を被覆する絶縁部5とを有する。
図3に示すように、中心軸線X1と直交する断面における電線21,22,23の断面形状は略円形である。電線21,22,23の導体部4は、例えば、金属製(アルミニウム合金や銅合金など)の複数の素線をらせん状により合わせた撚り線、または棒状の単芯線などからなる。電線21,22,23の絶縁部5は、例えば、合成樹脂により形成される。
【0019】
電線部2の各電線21,22,23は、
図3に示す横断面において、それぞれの中心軸(重心点)が略正三角形をなす配置、所謂、俵積み状の配置となっている。また、3相の電線21,22,23は、中心軸線X1周りの周方向に隣接する2本の電線同士が接触可能に配置されている。電線部2は、各電線21,22,23の導体部4および絶縁部5が共に可塑性を有しているので、曲げ変形可能となっている。
【0020】
編組線6は、金属製(例えば、銅合金製)の素線(金属細線)を網目状に編み込んで形成され、全体として筒状をなしている。編組線6は、電線部2の外周側を一括して包囲することでノイズを抑制するシールド部材として機能する。編組線6は、素線の有する可塑性等により、電線部2の曲げ変形に追従して自在に伸縮および変形が可能である。
【0021】
コルゲートチューブ7は、合成樹脂製のチューブであって、例えば、蛇腹状に形成されている。コルゲートチューブ7は、自在に弾性変形可能であると共に、弾性復元力によって円筒形状を良好に保持可能である。コルゲートチューブ7は、電線部2および編組線6を円筒形状の内部に収容し、電線部2の外周側を被覆して保護する。
【0022】
筐体10は、電線部2の配索方向におけるインバータ側コネクタ8とモータ側コネクタ9との間に配置される。電線部2の配索方向は、電線部2の延在する方向であり、本実施形態に係るワイヤハーネス1ではインバータ側コネクタ8とモータ側コネクタ9とを結ぶ中心軸線X1の方向である。本実施形態の筐体10は、
図2に示すように、インバータ側コネクタ8とモータ側コネクタ9との中間部に配置される。筐体10の形状は、中空の直方体の形状である。筐体10の長手方向の一端はインバータ側コネクタ8側のコルゲートチューブ7と連通し、他端はモータ側コネクタ9側のコルゲートチューブ7と連通している。
【0023】
図4に示す本実施形態の電線の配索構造20は、電線21,22,23と、環形状の磁性体コア30を有する。磁性体コア30は、磁性体(例えば、フェライト等の強磁性体)で形成されている。磁性体コア30は、
図5および
図6に示すように、第一構成部31および第二構成部32を有する。磁性体コア30の平面形状は、矩形の長手方向の両端部を半円形に丸めた形状である。第一構成部31と第二構成部32は、磁性体コア30の長手方向の中心線C1に関して略対称である。第一構成部31は、四角柱状の柱状部31aと、柱状部31aの両端に設けられた湾曲部31b,31cとを有する。湾曲部31bおよび湾曲部31cは、円弧状に湾曲しており、かつ柱状部31aから同じ方向に向けて曲がっている。湾曲部31b,31cの端面は、磁性体コア30の幅方向と直交する。第二構成部32は、第一構成部31と同様に、四角柱状の柱状部32aと、円弧状に湾曲した湾曲部32b,32cを有する。湾曲部32b,32cの端面は、磁性体コア30の幅方向と直交する。
【0024】
第二構成部32は、係合突起32d,32eを有する。係合突起32d,32eは、第二構成部32の表面および裏面にそれぞれ設けられている。第一の係合突起32dは、湾曲部32bに配置されており、第二の係合突起32eは、湾曲部32cに配置されている。
【0025】
図4に示すように、電線21,22,23が巻き付けられた磁性体コア30は、筐体10の内部に収納される。磁性体コア30は、長手方向が配索方向と平行となるように筐体10内に収納される。電線21,22,23は、何れも第一構成部31に巻き付けられる。より具体的には、本実施形態の電線の配索構造20では、第一構成部31の一端側(例えば、モータ側)に第一相の電線21が巻き付けられ、中央部に第二相の電線22が巻き付けられ、他端側(例えば、インバータ側)に第三相の電線23が巻き付けられる。各相の電線21,22,23は、それぞれ第一構成部31に対して螺旋状に複数回巻き付けられている。
【0026】
磁性体コア30に対する電線21,22,23の巻き付けおよび組み立ての手順について説明する。磁性体コア30に対する電線21,22,23の巻き付けは、第一構成部31と第二構成部32とが分離した状態でなされる。
図7に示すように、第二構成部32と連結される前の第一構成部31に対して電線21,22,23が巻き付けられる。巻き付けの順序は任意であるが、例えば、第一構成部31の柱状部31aに対して、第一相の電線21、第二相の電線22、第三相の電線23の順番で巻き付けられる。なお、ワイヤハーネス1のケーブルインピーダンスを大きな値としてモータ60、ワイヤハーネス1、インバータ50間のインピーダンスの整合を図る観点からは、異なる相の電線21,22,23間の静電容量Cを小さくすることが望ましい。このため、柱状部31aに対する巻き付けに際して、第一相の電線21と第二相の電線22との間、および第二相の電線22と第三相の電線23との間にそれぞれ隙間を設けることが好ましい。
【0027】
第一構成部31に対する電線21,22,23の巻き付けが完了すると、
図8に示すように、第一構成部31と第二構成部32とが組み合わされる。第一構成部31の湾曲部31b,31cの端面に対して、第二構成部32の湾曲部32b,32cの端面が当接することで、2つの構成部31,32により環形状が形成される。第一構成部31と第二構成部32とは、
図4に示す連結部材33によって連結される。連結部材33は、磁性体コア30の長手方向の両端部において、第一構成部31と第二構成部32とを連結する。連結部材33は、第一構成部31の端部を保持する保持部33aと、第二構成部32の係合突起32d,32eと係合する係合部33bと、を有する。保持部33aの平面形状は、第一構成部31の湾曲部31b,31cの形状に応じた湾曲形状である。係合部33bは、保持部33aから突出した板状部であり、第二構成部32を表面側および裏面側から挟み込む。係合部33bには、係合孔33cが設けられている。係合孔33cは、第二構成部32の係合突起32d,32eと係合し、第一構成部31と第二構成部32とを当接させる。言い換えると、保持部33aが第一構成部31を保持した状態で係合孔33cが係合突起32d,32eと係合することで、第一構成部31と第二構成部32とが接触して環形状の磁性体となる。
【0028】
連結部材33によって連結された第一構成部31および第二構成部32は、電線21,22,23と共に筐体10内に収容される。筐体10は、磁性体コア30の表面側を覆う表面側筐体11と、磁性体コア30の裏面側を覆う裏面側筐体12とが連結される分割式である。筐体10のモータ側端部およびインバータ側端部には、筒状の開口部10aが設けられている。開口部10aは、表面側筐体11に設けられた半円筒部と、裏面側筐体12に設けられた半円筒部とが組み合わされて形成される。電線21,22,23は、この開口部10aに通される。コルゲートチューブ7は、開口部10aと嵌合し、結束バンド等の固定部材34によって開口部10aと固定されている。
【0029】
以上説明したように、本実施形態の電線の配索構造20は、複数相の電線21,22,23と、電線21,22,23が巻き付けられる環形状の磁性体コア30と、を備える。電線21,22,23は、磁性体コア30に対して相ごとの異なる位置に巻き付けられる。磁性体コア30の特性(透磁率、断面積、磁路長)および磁性体コア30に対する電線21,22,23の巻き付け数によって、電線部2のインダクタンスLが所望の値に制御される。インダクタンスLの目標値は、例えば、回路全体(インバータ50、ワイヤハーネス1、モータ60)のインピーダンスの整合度合いを最適にするように定められる。回路全体のインピーダンスの整合を図ることで、インバータ50、ワイヤハーネス1、モータ60間のサージ電圧の反射を抑制し、サージを好適に抑制することが可能となる。
【0030】
磁性体コア30は、環形状の一部をなす第一構成部31と、環形状の残りをなす第二構成部32とが連結される分割式である。磁性体コア30が分割式であることから、以下に説明するように、磁性体コア30の小型化が可能となる。分割不能な環形状の磁性体コアに対して複数相の電線21,22,23を巻き付ける場合、磁性体コアの内径側(中空部)に、電線21,22,23を通す際の作業隙間が必要になる。
【0031】
これに対して、本実施形態の電線の配索構造20では、磁性体コア30が分割式である。このため、分割した状態で一方の構成部(例えば、第一構成部31)に対して電線21,22,23を巻き付け、その後に2つの構成部31,32を連結することが可能である。従って、磁性体コア30の内径側には、巻き付けられた電線21,22,23が収まるだけの領域が確保されていればよく、電線21,22,23を通す際の作業隙間が不要となる。よって、本実施形態の電線の配索構造20では、磁性体コア30の小型化が可能である。また、磁性体コア30の小径化により、高占積率化を図ることが可能である。磁性体コア30の小型化により、配索スペースの小型化が実現される。
【0032】
本実施形態のように全ての相の電線21,22,23が、第一構成部31に巻き付けられることで、高占積率化を図ることが可能である。例えば、隣接する2つの相の電線21,22,23同士を接触させて第一構成部31に巻き付けることで、無駄な隙間の発生を抑制し、占積率の最大化を図ることが可能である。
【0033】
[実施形態の第1変形例]
図9乃至
図11を参照して、実施形態の第1変形例について説明する。
図9は、実施形態の第1変形例に係る電線の配索構造の要部平面図、
図10は、実施形態の第1変形例に係る電線の配索構造の要部斜視図、
図11は、比較例におけるノイズの伝搬を示す平面図である。第1変形例において、上記実施形態と異なる点は、電線部2の配索方向と直交する方向に柱状部31aが延在している点である。
【0034】
図9に示すように、第1変形例では、磁性体コア30は、柱状部31aの延在する方向が配索方向と直交するように配置される。磁性体コア30は、例えば、上記実施形態と略同様の筐体10の内部に、柱状部31aが配索方向と直交するように配置される。上記実施形態と同様に、まず、単体の第一構成部31に対して各相の電線21,22,23が巻き付けられ、その後に
図10に示すように第一構成部31と第二構成部32とが組み合わされる。なお、
図9および
図11では図示が省略されているが、第一構成部31と第二構成部32とは連結部材33等によって連結される。全ての相の電線21,22,23は、第一構成部31の柱状部31aに巻き付けられている。言い換えると、全ての相の電線21,22,23が、第一構成部31において電線部2の配索方向と直交する方向に延在する部分に巻き付けられている。
【0035】
これにより、異なる相の電線21,22,23間でのノイズの伝播が抑制される。比較の一例として、
図11に示すように、磁性体コア30に対して第一相の電線21および第二相の電線22が巻き付けられ、第三相の電線23は巻き付けられていないとする。磁性体コア30に巻き付けられていない第三相の電線23内では、矢印Y1で示すようにノイズが低減されないままで柱状部31aの近傍を通過していく。これにより、ノイズの進行方向における柱状部31aよりも下流側の領域において、矢印Y2,Y3で示すように、第三相の電線23から第一相の電線21および第二相の電線22にノイズが伝播してしまう。
【0036】
これに対して、第1変形例の電線の配索構造20では、全ての相の電線21,22,23が、1つの磁性体コア30に巻き付けられており、かつ電線部2の配索方向と直交する方向に延在する部分に巻き付けられている。第1変形例の具体的な構成で説明すると、全ての相の電線21,22,23が第一構成部31の柱状部31aに巻き付けられている。柱状部31aを挟んで配索方向の一方側にインバータ50と連結された(電源側の)電線21,22,23が位置し、反対側にモータ60と連結された(負荷側の)電線21,22,23が位置している。このように、電線21,22,23における磁性体コア30への巻き付け部よりも電源側の部分と、電線21,22,23における巻き付け部よりも負荷側の部分とが隣接しない配索構造となっている。
【0037】
まず、全ての相の電線21,22,23が磁性体コア30に巻き付けられていることから、何れの相の電線21,22,23にノイズが発生した場合も、そのノイズが磁性体コア30に巻き付けられた部分を通過する間に除去される。磁性体コア30よりも電源側において、1つの相の電線21,22,23から他の相の電線21,22,23にノイズが伝播したとしても、そのノイズは磁性体コア30に到達したときに除去される。また、電線21,22,23における磁性体コア30よりも電源側の部分と、負荷側の部分とが隣接していない。これにより、電線21,22,23の電源側で発生したノイズが磁性体コア30を通過するまでの間に、他の電線21,22,23の負荷側に伝播してしまうことが抑制される。よって、第1変形例の電線の配索構造20およびワイヤハーネス1は、磁性体コア30よりも電源側から負荷側へのノイズの伝播を効果的に抑制することができる。同様にして、磁性体コア30よりも負荷側から電源側へのノイズの伝播も効果的に抑制される。
【0038】
[実施形態の第2変形例]
図12を参照して、実施形態の第2変形例について説明する。
図12は、実施形態の第2変形例に係る電線の配索構造の要部平面図である。第2変形例の磁性体コア40は、上記実施形態の磁性体コア30と平面形状が異なる。第2変形例の磁性体コア40は、上記実施形態の磁性体コア30と同様に、環形状の一部をなす第一構成部41と、環形状の残りをなす第二構成部42とが連結される分割式である。
【0039】
磁性体コア40の平面形状は、略矩形であり、四隅がわずかに丸められている。第一構成部41は、第一柱状部41aと、第二柱状部41b,41cとを有する。第一柱状部41aおよび第二柱状部41b,41cは、それぞれ四角柱状である。第二柱状部41b,41cは、第一柱状部41aと直交している。第二柱状部41b,41cは、第一柱状部41aに対して同じ方向に向けて屈曲している。第二構成部42は、第一構成部41と略同様であり、第一柱状部42aと、第二柱状部42b,42cとを有する。電線21,22,23は、第一柱状部41aに巻き付けられる。
【0040】
上記実施形態の磁性体コア30および第2変形例の磁性体コア40は、それぞれ磁性体コアの具体的な態様の一例を示すものである。磁性体コア30,40の形状や分割態様は、適宜変更されてもよい。例えば、磁性体コア30,40の断面形状は円形あるいはその他の形状等であってもよい。第一構成部31,41の形状と第二構成部32,42の形状とは非対称であってもよい。第一構成部31,41と第二構成部32,42との連結は、連結部材33等の他部材によるものでなくてもよい。例えば、第一構成部31,41と第二構成部32,42とが、一方に設けられた凹部に対して他方に設けられた凸部が嵌合することにより連結されてもよい。
【0041】
磁性体コア30,40に対する電線21,22,23の巻き付け方は、例示したものには限定されない。例えば、同一の相の電線21,22,23が磁性体コア30,40に対して複数層をなすように重ねて巻き付けられてもよい。
【0042】
上記の実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。